JP7015056B2 - 展伸性フィルムによるキノコ栽培方法 - Google Patents
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瓶栽培にあっては、栽培室の棚に瓶を重ねて積むか又は棚の高さを短寸とすることができる等して、室内に密度を高めて効率良く収納することができるが、他方では、硬質のキャップで閉められるので、培地の隆起が押しつぶされてキノコの原基形成が阻害され、又、キャップを外す際にキャップ素材とキノコとが癒着し、キノコを損傷させてしまう等の発生上の欠点を有している。
一方、袋栽培にあっては、上部に原基形成及び子実体の成長を促す空間を設けることができ、良好な発生条件を備えるが、他方では、その袋の上部に配する発生用の空間が室内への収納を邪魔してしまい、収納密度に欠ける等の欠点を有している。
又、フィルムBは、同時に菌体を通さない細孔を備えたものでもあるので、雑菌等の菌体が侵入しようとしてもこれを許さず、雑菌防御の作用を果たすものとなる。
同時に、同様にその透光性を備えた組合せフィルム体Cにより、培地に対し原基の形成時期に充分な光が投与され、適正な原基形成が促され、栽培期間を短縮させることができる。
従って、高い収納密度と良好なキノコの発生条件の確保という双方の要求を両立させることができるものとなる。
培地3には、広葉樹のオガコ、コーンコブ、綿実カス、針葉樹等が適用できる。
保形性とは、変形の虞ある袋体を除く意であり、図6に示す如く、脚2aをつけた場合に積み重ね可能な硬質さを備えた素材を指し、例えば、ポリプロピレン等のプラスチックが挙げられる。
この容器は、栽培容器として機能するもので、上記一定容量の培地を充填可能とすると共に、後述する接種、菌糸の蔓延、原基形成等に必要なよう上部に開口部を設けたものとする。
ここで、展伸性とは、後述する菌糸塊の発生による培地の隆起に対して追随して延伸し得る性能をいう。
酸素透過性とは、菌糸の蔓延及び原基の形成に必要とされる酸素を通過させ得る性能をいう。
透光性とは、上記と同様菌糸の蔓延及び原基の形成に必要な光を、自然光又は照明具5等から採光可能とする性能をいう。
そして、貼着とは、フィルムAとフィルムBとを互いに接合させて気体の通過を許さない密着状態にすることをいい、その手段は、粘着、接着、溶着等を問わない。
これに該当するフィルムには、例えばポリ塩化ビニール製のフィルム、ポリエチレン製のフィルムを挙げることができる。具体的には日立ラップ(日立化成(株)・商標名)が適合し、厚み8μmで、透明度98%以上、MD約200%、TD約300%の物性値を示す。
この機能を満たすフィルムには、例えばTRUSCOの通気性粘着テープTBAT-252(トラスコ中山(株)・商標名)を挙げることができ、厚み0.15mmで、通気性170cc/cm2・secの値を示す。
いずれにあっても、上記組合せフィルム体Cに後述する菌糸塊による隆起作用が加わったとき、該組合せフィルム体Cが容器本体2から外れることなく、その密着性を保つ固着性があれば良い。
又は、培地3を容器本体2に充填し、一旦縁部にフィルム体Cを装着した後に、殺菌処理する方法がある。具体的には、培地3を充填した容器本体2の縁部を組合せフィルム体Cで覆い、120℃60分間の蒸気殺菌をする。
いずれが良いかは個別に判断するが、比較的規模が大きな場合には、前者が好適であり、規模の小さな場合には後者が適したものとなる。
その理由は、後工程で培地に組合せフィルム体Cを被せたとき、該組合せフィルム体Cと培地が密着状態となり、隙間空間を極少とすることができるからである。もし、大きな隙間空間が存在すると、発生した炭酸ガスがその比重の重さから空間に滞留して、キノコ菌の呼吸の妨げとなり、又、培地表面からの水分蒸散のできる空間が大きくなり培地表面の水分が減少してしまうからである。
上記と同様、溜まり空間を一定限度に抑えることで、キノコ菌への呼吸の妨げ及び表面の水分減少を最小限に抑えることができるからである。
上記充填工程で、組合せフィルム体Cを被せた場合には、該組合せフィルム体Cを外して接種する。
接種は、通常の種菌の接種と同様で、微粒子の種菌を水との懸濁液とし、噴霧状に降りかける等して行う(図5(b)参照)。
そして、容器本体2を組合せフィルム体Cで被覆して固着手段4で密着固定する(図5(c)参照)。
固着手段4は、上記の如く、容器本体2の上外縁部を平滑面に形成するか、ゴム紐又はテープ、糸紐等で縛着する等して、組合せフィルム体Cに後述する菌糸塊による隆起作用が加わったとき、該組合せフィルム体Cが容器本体から外れることなく、その密着性を保つものとする。
該組合せフィルム体Cの固着は、雑菌侵入によるコンタミネーションを防止し、正常な菌糸成長を図る為のものである。
該培地への菌糸の蔓延及び後述する原基の形成には、本来酸素の供給が必要となる。
しかし、図7に示す如く、従来酸素の取り入れには、瓶体と蓋体との間に隙間を形成する等しているが発生面に対する酸素供給量が不均一となり、キノコの発生部位に偏りを生む一因となっている。
これに対し、本発明の組合せフィルム体Cは、フィルムAに穿設した通気孔aに酸素は通すが菌体を通さない細孔を備えたフィルムBを貼着させてなるので、その通気孔aとそこに貼着されたフィルムBとから充分な酸素供給がなされる。
即ち、先ず、酸素透過性を要することのないフィルムAでは必要な酸素の供給が満たされない虞があるので、そこに通気孔aを穿設し、その開いた孔部に酸素を通す細孔を備えたフィルムBを貼着させる。
この通気孔aの形態は、例えば図2(a)に示す如く、10cm×10cmのフィルム体に対し、直径5~10mm程度の比較的大きな孔を数個穿設する場合と、図2(b)に示す如く、直径0.5~2mm程度の比較的小さな孔をフィルム体に分散させる場合とがある。
いずれを選択するかは、キノコの種類等により適切なものを選ぶ。
その形状は、丸形を標準とするが、角形、菱形等を問わない。
一方、フィルムBは同時に菌体を通さない細孔を備えたものでもあるので、雑菌等の菌体が侵入しようとしてもこれを許すことがなく、雑菌防御の作用を果たすことができる。
貼着状態は図3の断面図に示す如くで、フィルムAに穿設した通気孔aをフィルムBで塞いで密閉状態とする。この意味で、貼着の手段は接着、粘着、融着等を問わず、密閉状態を保つものであれば良い。
このフィルムBには、例えばTRUSCOの通気性粘着テープTBAT-252を採用することができ、170cc/cm2・secの優れた通気性を備え且つ雑菌侵入を防御できるものとなる。
この原基形成にあっては、上記酸素供給に加えて、光の照射が必要となる。
その理由は、原基形成にあっては、キノコの成長が栄養成長から生殖成長へと切り替わる時期であり、この光の存在によって、刺激が与えられ、成長段階の切り替えの契機となるからである。
しかし、従来、一般的に半透明の素材を用いているため、素材通過後の照度は83%程度に減少し、原基形成の遅れを招き、培養期間短縮の妨げとなっていた。
これに対し、本発明組合せフィルム体Cの構成要素としてのフィルムAは、展伸性と同時に透光性を備えるので、優れた透光性を発揮し、上記光照射の要求に応え得るものとなる。
自然光を利用する場合には、容器本体2の上部に自然光が射し込み可能な空間を確保し、人工照明の場合には、上部にLED等の照明具5を配設する。
その理由は、以下の如くに、推察される。
培地全体に菌糸が蔓延すると、菌糸は原基形成のための被膜を形成すると共に、培地内部の菌糸体量を増加させ、養分蓄積を充実させるため菌床の上部の方から菌糸塊をつくることがある。つまり、原基を形成する菌糸体量を確保するのに必要な空間が培地内だけでは確保できず、形成された菌糸塊が培地を膨張させ、培地3表面を隆起させるものと考えられる。
従って、この菌糸塊の形成を抑制してしまうことは、菌糸体量の増加を阻害することになり、適正な原基形成を妨害する結果を招くことになる。
これに対し、本発明フィルム体Cには上記の如く、優れた伸び率を示すフィルムAが組み合わされるので、良好な展伸性を発揮することができる。
従って、菌糸塊の形成により培地3が隆起3aする場合に、展伸性を備えたフィルムAを有する組合せフィルム体Cがその隆起に追随し、菌糸体量の増加を妨害することなく適正な原基形成を促すものとなる。
原基形成が終期に近づくと、培地表面の略全体が褐色化する変化が見られ、これは原基形成が略完了した証左でもある。又、原基形成がほぼ終了し、子実体の発生初期に幼子実体が見られる時期となる。
そこで、この原基形成が終了し、又は、幼子実体の発生の見られる附近の時期を原基形成の完了時と捉え、この時期に、固着手段4を解いて組合せフィルム体Cを容器本体2から外し、子実体の生育を促すべく15℃程度の発生室へと移動させる。
ここで組合せフィルム体Cを容器本体2から外すとは、フィルム体が容器を密閉する状態を脱することをいい、フィルム体を切って培地が露出する状態とすることも含む意である。
組合せフィルム体Cを外すとき、フィルム体とキノコが癒着すると、キノコ発生を損傷させるものとなるが、本発明組合せフィルム体Cの表面を平坦状とすれば、キノコとの癒着性のないものとなる。
この工程は、基本的に通常の子実体の生育と変わらぬ環境であるが、上記菌糸体量の増加が妨害されず充分な原基形成が促された後での子実体の生育となり、適正で多くの子実体の生育が確認されている。
同時に、上記の如く、培地が隆起する場合に、培地の隆起に追随して展伸性に富んだフィルムAを有する組合せフィルム体Cを伸長させることができ、菌糸塊を抑制してしまい菌糸体量の増加を阻害するという発生上の欠点を克服することができる。
従って、高い収納密度と良好なキノコの発生条件の確保という双方の要求を両立させることができるものとなる。
対象をシイタケとし、これに適した培地として、広葉樹オガコに栄養体としてフスマを培地重量の10wt%を添加・混合し、加水して62wt%の水分量に調整した。
150×100×35mm(内寸146×102×32mm)の箱型のポリプロピレン製の容器本体に、上記培地を上面摺り切りの平坦面状に充填し、そこを組合せフィルム体Cで覆い、ゴム紐で縛着した。これを120℃で60分間の蒸気殺菌を施した。
組合せフィルム体Cは、フィルムAを日立ラップとし、フィルムBをTRUSCOの通気性粘着テープTBAT-252で構成した。
冷却後、フィルム体を一旦外し、シイタケ種菌を接種し、再びフィルム体を縛着した。
これを20℃、RH60~80%に管理した部屋で、60日間培養した。照明は、作業中に室内照明灯を点灯し、培地表面付近で200~300lux、1日に0.5~4時間の照射とした。
培養完了した菌床を15℃、RH80~90%に管理した発生室に移し、フィルム体を除去し24時間浸水した。その後10日目にキノコ(シイタケ)を得た(図7)。
一般に用いられている3Kg菌床の場合は、100日の培養期間と120日の発生期間を合わせた220日の栽培期間に収穫できるキノコ生重が700~1000gであり、培地重量の23%~30%である。
今回のラップ利用栽培と既存の3kg袋栽培を比較すると、単位培地重量あたりで比較した場合は同等の生重のキノコを、ラップ利用栽培においては既存袋栽培と比較して30%以下の栽培期間で得られたことになる。
2・・ 容器本体
2a・・脚
3・・ 培地
3a 隆起
4・・ 固着手段
5・・ 照明具
A 展伸性フィルム
a・・ 通気孔
B 酸素透過性フィルム
C 組合せフィルム体
Claims (4)
- 保形性を備え上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な容器本体と、酸素透過性を要することなく展伸性・透光性を備えたフィルムAに通気孔aを穿設すると共に該通気孔aに酸素は通すが菌体を通さない細孔を備えたフィルムBを貼着させてなる組合せフィルム体Cと、該フィルム体を容器本体に固定する固着手段とを備えた栽培容器を用い、
a)殺菌処理した培地を容器本体に充填するか、又は、培地を充填した後に容器本体を殺菌処理する培地の殺菌・充填工程と、
b)該培地表面に種菌を散布すると共に、容器本体の上面を上記組合せフィルム体Cで被覆して固着手段で密着固定させる種菌接種工程と、
c)酸素透過性、透光性の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、
d)菌糸蔓延によって原基形成が開始され、且つ、菌糸塊の形成により培地が隆起する場合に、その隆起に展伸性を備えた組合せフィルム体Cが追随し、菌糸体量の増加を妨害することなく原基形成を促す菌糸培養後期工程と、
e)原基形成が完了したら、容器本体からフィルム体を外した状態で子実体の成長を促す子実体生育工程と、
f)成熟した子実体を採取する採取工程と、
から成ることを特徴とする展伸性フィルムによるキノコの栽培方法。 - 前記培地の殺菌・充填工程において、培地を容器上面に摺り切りの平坦状とするか、或いは少なくとも容器天端から20mm以内の高さに充填したことを特徴とする請求項1に記載の展伸性フィルムによるキノコの栽培方法。
- 前記組合せフィルム体が、キノコとの癒着性のない平滑面を備えたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の展伸性フィルムによるキノコの栽培方法。
- 前記容器本体の上部に照明具を配したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の展伸性フィルムによるキノコの栽培方法。
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