伝統的な椎茸の人工栽培は、原木に種菌を植え込んで栽培する原木栽培が主流であったが、この原木栽培はその時々の気象条件並びに病害虫及び有害菌などの影響を受け易いために、安定した収穫が確保し難いことから、近年は、屋内において茸栽培に適合した環境を調えて、この環境下で栽培する菌床栽培へと移行して来ている。
この菌床栽培は、おがこなどの基材に米ぬかなどの栄養体を加えた培地を栽培袋に詰める工程、この袋詰めした培地(以下、「菌床」ともいう)を殺菌又は滅菌釜に入れて殺菌又は滅菌する工程、次いで、この培地に雑菌が入らないように冷却した後に種菌を接種する工程、続いて、温度、湿度などを調節しながら数週間掛けて培養する工程、その後、菌床を栽培袋から取出して、さらに温度、湿度などを調節して菌床を培養しながら茸を発生させる工程及び発生した茸を収穫する工程などを経て栽培するようになっている。この菌床栽培は、原木栽培に比べて、室内において温度、湿度などの条件を任意にコントロールでき、しかも病害虫或いは有害菌の影響を受け難くできるので、安定した収穫及び品質の高い茸を栽培できる利点がある。
この菌床栽培は、所定形状の栽培袋を使用して菌床を作るので、菌床は栽培袋と略同じ形状となる。例えば、栽培袋に有底で角型の袋体を使用すると角柱状の菌床或いは有底で円筒型の袋体を使用すると円柱状の菌床ができる。このような形状の菌床から茸が発生するが、その箇所は菌床の外表面、すなわち側面、肩部或いは上面から、多数本の茸が同時或いは日をおいて、大小さまざまなサイズのものが所を選ばずランダムに発生する。このために、発生した茸同士が互いにぶつかり合って変形し、或いはその大きさも大小混じった不揃いなものとなってしまい、収穫される茸は商品価値が劣ったものとなる。また、複数個の菌床を密着して配置すると、隣接した菌床から発生した茸がぶつかり合って変形するので、複数個の菌床は比較的広い間隔をあけて配置しなければならない。そのために、広大なスペース或いは棚などが必要になり、また、菌床の水及び温度などの管理も面倒になり、生産性及び作業効率が悪くなるなどの問題がある。
そこで、このような問題を解決するための栽培容器(栽培袋)及びこの栽培容器を使用した栽培方法が提案されている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
例えば、下記特許文献1には、培地の上面から椎茸を発生させる栽培方法が開示されている。この椎茸栽培は、以下のイ〜ハを含んだ工程で栽培されている。
イ.直径8〜20cm、高さ10〜30cmの合成樹脂フィルム製縦長袋に椎茸用人工培地を収容する工程、
ロ.培地上部中央に、深さ2〜8cm程度の呼吸穴を形成する工程、
ハ.次いで、培地の上面部を完熟させ椎茸を発生させる時点で、長袋の上部を切取り開放
状態とする工程。
この椎茸栽培方法は、上記ロ工程において、培地上部中央に所定大きさの呼吸穴が形成されるので、この呼吸穴から培地の上部表面部分へ空気が供給される。その結果、培地の表面部分が集中的に早く完熟されて、この表面部分の椎茸の発生が早くなる。したがって、この栽培方法によると、培地の上面部から茸が発生するので、栽培、収穫が容易になる。勿論、側面から発生しないので、隣接する菌床の隙間を狭くすることも可能になる。
また、下記特許文献2には、同様の培地上面から椎茸を発生させる栽培方法が開示されている。この椎茸栽培方法は、椎茸菌床栽培の培養完了後の発生工程において、栽培容器(栽培袋)の上部を取除いて、菌床上面のみを露出させ、その他の部分は菌床側面及び底面部分との間に若干の隙間を保持させて栽培容器として残して、その隙間に注水することで菌床側面及び底面からの茸の発生を抑制し、菌床上面からのみ発生させる方法となっている。
さらに、下記特許文献3には、同様の培地上面から椎茸を発生させる栽培方法が開示されている。この椎茸栽培方法は、培養中又は培養完了後の工程において、栽培容器を取除いた露出状態の菌床を別の容器内に上面のみを開放した状態にして単独で収容し、菌床と容器間の隙間に水或いは水溶液を満たすことにより、菌床側面及び底面からのキノコの発生を抑制するようにした栽培方法である。具体的には、所定の縦、横及び高さを有するアクリル製の本体容器を用いて、この本体容器は、その上部四隅に弾力性のある菌床固定用支持体が斜め45度の角度で取付けられ、さらに底部に所定高さの菌床設置台が所定間隔で2本取付けられている。この支持体は、本体に挿入される菌床が吸水により、浮上しないように抑制する機能を果すものとなっている。そして、この本体容器を用い、培養した菌床が袋から取出されて露出状態にして容器に収容され支持体で固定される。散水又は給水により水が供給されて、菌床と本体との隙間に満たされる。容器に菌床が配置された後は、毎日散水が行われ、培養完了後の温度管理は、朝晩は13℃、日中は20℃に室温が調整される。その結果、菌床の上面からのみキノコが発生されるようになっている。
さらにまた、下記特許文献4に開示された栽培容器は、上方が開口し有底の栽培ビンと、このビンのビン口部を閉塞するキャップとを備え、栽培ビンは50%以下の遮光率に形成され、且つキャップを98%以上の遮光率に形成されたものである。この栽培容器を使用すると、キャップは遮光率が98%以上となっているので、このキャップの内面や通気孔に子実体原基の付着が抑制されてキャップの清掃が容易になる。一方でまた、栽培ビンは遮光率が50%以下となっているので、子実体原基の形成が活発になる。
上記特許文献1〜4の栽培容器を用いた茸栽培方法によれば、菌床(培地)の上面に茸を集中的に発生させることが可能になる。しかしながら、これらの栽培方法では、菌床の上面に茸を集中的に発生させることができるが、この上面においても発生の部位を特定させることができない。そのため、菌床(培地)上面において茸は所かまわずランダムに発生し、この上面において従来技術が抱える問題が発生する。
また、上記特許文献、特に文献1〜3の栽培容器を用いた茸栽培方法は、管理及び作業が面倒になるなど課題が潜在している。上記特許文献1の栽培方法では穴あけ作業、上記特許文献2の栽培方法では回数の多い注水作業、さらに上記特許文献3では菌床の移し替え用容器の設置及び移し替え作業などの各種作業が必要になる。このような作業は、その殆どが手作業となるので自動化が難しく、しかも菌床数が多くなると、それに比例して人件費も増大し、茸のコストが高くなる。茸の人工栽培では、通常、人件費が他の費用、例えば、菌床製造費などと比べて高額になり、全体の略半分に近い割合を占めている。そのために、人件費の軽減が課題の一つとなっている。また、上記特許文献2の栽培方法では、注水により菌床を入れた袋上部が広がりすぎることがあるので、この部分にバンドなどの取付けが必要となり、この作業も手作業となる。したがって、これらの栽培容器では、人手を省いて機械を使用した自動化ができない。また、栽培容器のうちフィルム状の袋体で形成されているものは、再利用ができず、資源が無駄になる恐れがある。また、上記特許文献4の栽培ビンは、遮光率が50%以下となっているので、例えば椎茸栽培の場合、ビン内壁面に茸原基が堅固に付着してしまう。このため、ビンから使用済み培地を掻き出そうとすると、ビン内壁面に茸原基が網目状に貼り付いた状態になって堅固に付着し、剥離しょうとしてもできず、刃物などを用いて剥離しようとすると内壁面に亀裂或いは損傷させてしまい容器の再利用ができなくなる。
菌床栽培は、茸の発生、成長に好適な環境を如何にして作りだすかが重要になる。この栽培環境は、原木栽培時に最も効率よく発生、成長する自然環境に似た環境を人工的に作りだすことにある。上記特許文献の栽培容器を用いた栽培方法では、空気或いは水によって上面栽培を可能としている。しかしながら、これらの栽培方法では、上面栽培は可能となっても菌床上面において茸の発生部位を特定できない。
そこで、本考案者は、栽培環境は、上記特許文献にみられるように空気及び水だけでなく光も重要な要素になることに着目して検討した。すなわち、光のうち紫外線は、原基の形成、すなわち菌糸体の成長に有害であることから、この成長過程では不要となるが、茸の発生と成長には必要となることから、茸栽培容器を工夫しこの容器に所定のタイミングで光を照射すれば原基の形成、すなわち茸の発生部位を特定することができることを見出して、本考案を完成させるに至ったものである。
そこで、本考案の目的は、容器内部に茸原基などが付着するのを抑制して再利用を容易にした上面栽培ができる茸栽培容器を提供することにある。
本考案の他の目的は、菌床上面で茸の発生部位を特定できて再利用が可能な茸栽培容器を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の茸栽培容器は、上方が開口し有底の本体容器と、前記開口に着脱自在に装着されて該開口を閉塞する蓋体とを有する茸栽培容器において、前記蓋体は、光透過性材料で形成され、前記本体容器は、光不透過性材料で形成され、該本体容器内に培地が詰められたときに、該培地の表面が1個乃至複数個の開孔を設けた光不透過又は光透過率の低い材料からなる前記培地カバーで覆われ、前記開口が前記蓋体に微細な隙間をあけて閉塞されていることを特徴とする。
請求項2の考案は、請求項1に記載の茸栽培容器において、前記本体容器は、所定の面積を有する略円形状の底部と、前記底部の外周囲から上方へ所定の高さ立設された胴部と、前記胴部上端の肩部と、前記肩部から上方へ延設された首部と、前記首部上方端に前記開口とを有し、前記首部の直径が前記胴部の直径より小径に形成されていることを特徴とする。
請求項3の考案は、請求項1に記載の茸栽培容器において、前記本体容器は、底部の底面積より上方の開口面積が拡大された有底の筒状体で形成されていることを特徴とする。
請求項4の考案は、請求項1〜3のいずれかに記載の茸栽培容器において、前記本体容器は、合成樹脂材又はガラスで形成されていることを特徴とする。
請求項5の考案は、請求項1に記載の茸栽培容器において、前記蓋体は、所定大きさの開孔が形成されて、該開孔は雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔を有する多孔性シートからなるフィルターで覆われていることを特徴とする。
請求項6の考案は、請求項1に記載の茸栽培容器において、前記培地カバーの開孔は、茸の種類に対応して大きさが変更されて、所定の規則性を持って配列されていることを特徴とする。
請求項7の考案は、請求項1又は6に記載の茸栽培容器において、前記培地カバーは、薄肉のフィルム状シート又は所定の肉厚を有する板状体で形成されていることを特徴とする。
請求項8の考案は、請求項7に記載の茸栽培容器において、前記培地カバーは、樹脂フィルム、生分解性フィルム、不織布、紙材、木材のいずれかで形成されていることを特徴とする。
本考案は上記構成を備えることにより以下に示すような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1の考案によれば、従来技術のような多くの手作業をかけないで、茸、例えば椎茸の上面栽培が簡単にできる。また、本体容器は、光不透過性材料で形成されて遮光されるので、例えば、椎茸栽培のときに容器内壁面での原基形成が抑制されて、この容器内壁面に付着することなく、使用済みの培地の掻き出しが容易になる。その結果、掻き出しなどの作業が軽減されて茸栽培容器の再利用が簡単になる。
また、茸栽培容器は、培地カバーで培地上面を覆うことによって、培地上面で茸発生部位を特定させて茸を育成させることができる。例えば、椎茸を栽培する際に、培地を開口まで詰めてその上面を培地カバーで覆うと、茸原基の形成に必要な光は、蓋体を通して培地カバーに照射される。その結果、培地カバーを通して光が当った箇所で原基の形成が促進されてこの箇所から発生部位を特定させて茸を発生・育成できる。また、培地上面は、培地カバーで覆われるので、培地表面が乾燥し難くなり、培地は湿度を充分に保持した環境で熟成されて良好な菌床が作成されて高品質の茸を生産できる。
請求項2の考案によれば、本体容器は、胴部が同じ直径を有する筒状体となっている。この形状にすることにより、茸栽培の際にこの本体容器を接触させた状態で隣接して配列できるので、配置スペースの省スペース化が可能になる。また、首部の直径が胴部の直径より小径になっているので、隣接する本体容器間にあって、各蓋体間に隙間が形成されるので、蓋体の装着が容易になり、蓋体の装着及び取外しの自動化が可能になる。
請求項3の考案によれば、上方の開口面積が拡大されているので、茸の発生個数を多くすることができる。また、使用済みの培地は、本体容器を逆さまにすることによって簡単に掻き出すことが可能になる。
請求項4の考案によれば、このような材料で形成することにより、これまでの栽培袋のように使い捨てすることなく再利用が可能になる。
請求項5の考案によれば、容器本体の開口と蓋体とが閉塞された状態で雑菌の侵入を阻止しながら、内部からのガスを放出させると共に空気を内部へ取り込むことができる。
請求項6の考案によれば、開孔は、茸の種類に対応して大きさが変更されるので、茸の種類に応じて、効率のよい栽培が可能になる。例えば、椎茸栽培の場合、円形開孔の直径を1.0〜5.0mmの範囲にするのが好ましい。5.0mm以上にすると、1つの開孔から複数個の椎茸が発生し、そのまま生育すると品質が低下し、一方で一部を残して除去しようとするとその作業が必要になる。また、他の茸、例えば、舞茸、ナメコ茸などの場合は、比較的大きくするのが好ましい。開孔を所定の規則性、例えば発生する茸が互いに衝突しない距離離した配列にすることにより、品質の高い茸をバランスよく生産できる。
請求項7の考案によれば、培地カバーは、薄肉のフィルム状シート又は所定の肉厚を有する板状体で形成されているので、特に、板状体にすることにより、耐久性が増し、再利用が可能となる。
請求項8の考案によれば、樹脂フィルム、生分解性フィルム、不織布、紙材及び木材などは入手が簡単なので、培地カバーを低価格で簡単に作成できる。さらに、生分解性フィルムで形成すると、使用済みのカバーは、そのまま放置或いは土へ埋設して処分することが可能になる。
以下、図面を参照して本考案の最良の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本考案の技術思想を具体化するための茸栽培容器を例示するものであって、本考案をこれらに特定することを意図するものではなく、実用新案登録請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
[参考例]
図1を参照して、本考案の参考例に係る茸栽培容器を説明する。なお、図1は本考案の参考例に係る茸栽培容器の斜視図、図2は図1の茸栽培容器の分解斜視図である。
茸栽培容器1は、図1、図2に示すように、上方が開口し有底の本体容器2と、この本体容器2の開口に着脱自在に装着される蓋体3とを有している。本体容器2は、光不透過性材料で形成され、蓋体3は、光透過性材料で形成されている。
本体容器2は、図1、図2に示すように、所定の面積を有する略円形状の底部2aと、この底部2aの外周囲から上方へ所定の高さ立設された胴部2bと、この胴部上端の肩部2cと、この肩部から上方へ延設された首部2dと、首部上方端の開口2eとを有し、首部2dの直径が胴部2bの直径より小径にして、光不透過性材料で形成されている。この本体容器2は、光不透過性材料で形成して、遮光率は略100%或いはそれに近い値となっている。この本体容器2は、合成樹脂材、例えばポリプロピレン、アクリル、或いはガラスなどの耐久性のある材料で形成されている。このような材料で形成することにより、これまでの栽培袋のように使い捨てすることなく再利用が可能になる。この本体容器2には、おがくず、米糠、ふすまを主成分とする培地、栄養剤及び水が所定の比率で混合された混合材が充填される。
この本体容器2は、図1に示す全体の高さH1、胴部の高さH2、肩部の高さH3、首部の高さH4及び底部の直径W1、開口の直径W2は、例えば、H1は130mm、H2は100mm、H3は15mm、H4は15mm、W1は100mm、W2は80mmである。
この本体容器2は、胴部2bが同じ直径を有する筒状体となっている。この形状にすることにより、茸栽培の際にこの本体容器2を接触させた状態で隣接して配列できるので、配置スペースの省スペース化が可能になる。また、首部2dの直径が胴部2bの直径より小径になっているので、隣接する本体容器間にあって、各蓋体間に隙間が形成されるので、蓋体の装着が容易になり、蓋体の装着及び取外しの自動化が可能になる。なお、本体容器2は、任意の形状、例えば、箱型にしてもよい。
この本体容器2は、光不透過性材料で形成され、略遮光率が100%又はそれに近い値となっているので、外部からの光が遮光されて、例えば椎茸栽培においては、内壁面部分の培地の原基形成が抑制される。このため、菌糸培養中に本体容器2の内壁面への原基の付着が抑制されるので、使用済みの培地の掻き出しが容易になる。それと共に、容器内の洗浄なども簡単になるので再利用が容易になる。
蓋体3は、図2に示すように、本体容器の開口2eを覆う天井壁3aと、この天井壁の周囲から所定長さ垂下して本体容器2の首部2dを覆う側壁部3bとを有し、天井壁3aの略中央に所定大きさの開孔31が穿設されて、光透過性材料で形成されている。この蓋体3は、光透過性材料で形成されているので、この蓋体3から本体容器2の開口2e部分へ光が照射される。開孔31には、雑菌の侵入を阻止し且つ通気性のある複数個の微細孔を有する多孔性シートからなるフィルター4が固定されている。このフィルター4は、茸栽培容器1内へ酸素を供給するとともに、内部からのガスを外部へ逃がす働きをする。なお、側壁部3bの内壁面に隙間32を形成して、この機能も持たせてもよい。
次に、図3を参照して、この茸栽培容器を使用した椎茸栽培方法を説明する。なお、図3は椎茸栽培の工程図である。
まず、所定量のおがこに、栄養体として米ぬかを混合して、所定量の水を加えて培地調整を行う(工程I)。調整された培地を本体容器2の略開口付近まで充填して蓋体3で閉塞する(工程II)。次いで、培地が詰まった茸栽培容器1を高圧釜に入れて殺菌又は滅菌する(工程III)。殺菌をした後に冷却する(工程IV)。その後、クリーンルームへ搬送して、このクリーンルーム内で本体容器2から蓋体3を外して上から椎茸の種菌を接種する(工程V)。この接種により、椎茸の種菌は、培地の中へ接種される。接種した後は、本体容器2の開口2eを蓋体3で覆う。
次いで、所定の培養室へ搬送し、この培養室で初期培養を行う(工程VI)。この初期培養では、光を照射することなく略暗黒の状態で菌糸培養に適した環境、例えば、室温18〜20℃及び湿度60%に保持して種菌を生育・増殖させる。この期間は略30日程度である。その後、熟成培養を行う(工程VII)。この熟成培養では、熟成培養に適した環境、特に所定の光を蓋体3を通して照射して、略60日〜70日掛けて培地に栄養蓄積を行う。この熟成工程では、培地内に菌糸が繁殖し始める。その結果、培地上面は原基の形成が促進されて、その表面が褐色化する。
この熟成培養が終了した後に、蓋体3を取外して茸の発生をさせる(工程VIII)。この発生工程では、原基形成が促進された上面から発生して、茸が発生し育成される。
栽培を終了した茸栽培容器1は再利用する。この再利用の際に、本体容器2は、光不透過性材料で形成されて遮光されるので、容器内壁での原基形成が抑制されて、この原基の付着が軽減されて、使用済みの培地の掻き出しが容易になる。その結果、掻き出しなどの作業が軽減されて茸栽培容器の再利用が簡単になる。
この茸栽培容器1を使用した椎茸栽培方法によれば、従来技術のような多くの手作業をかけないで、簡単に発生・育成することができる。
この参考例の茸栽培容器1では、椎茸栽培に適用した例を説明したが、この容器は、椎茸栽培に限定されるものでなく、他の茸、例えば舞茸、なめこ茸などにも適用できるものである。
図4〜6を参照して、本考案の実施例に係る茸栽培容器を説明する。なお、図4は本考案の実施例に係る茸栽培容器の斜視図、図5は図4の茸栽培容器の分解斜視図、図6は図4の茸栽培容器の上面図である。
茸栽培容器1Aは、参考例に係る茸栽培容器1と培地カバー5とを組み合わせた構成となっている。そこで、茸栽培容器1の説明は省略して、培地カバー5を詳述する。
培地カバー5は、本体容器2の開口2eから挿入されて、培地上面を覆う大きさの円形状をなし、光不透過又は光透過率の低い材料で形成されている(図4〜図6参照)。この培地カバー5には、1個乃至複数個の開孔51が所定の規則性をもって形成されている。この規則性は、開孔51が形成された箇所が茸の発生部位となるので、少なくとも発生した茸が成長した状態で互いにぶつかり合わない間隔、或いは茸を大きく成長させることなどを考慮して配列される。この開孔51は、所定の直径を有する略円形状をなしている。この開孔51の大きさは、茸の種類によって決定される。例えば、椎茸の場合は、円形開孔の直径が1.0mm〜5.0mm程度が好ましい。5.0mmを超えると、開孔から複数本の椎茸が発生する率が高くなる。また、その他の茸、舞茸、ナメコ茸などは開孔が大きく形成される。
この培地カバー5は、光不透過又は光透過率が低い薄肉のフィルム状シートで形成されている。光透過率を低下させるのには、透明なポリエチレンなどの合成樹脂製フィルム材に黒の顔料を5%以上混入したものが好ましい。これ以下、例えば1%程度にすると、部位特定の効果が少なくなる。この程度の顔料の混入により、培地カバー5を製造できるので材料費を低下させることができる。また、この培地カバー5は、生分解性フィルム材で形成してもよい。この材料で形成すると、使用済みのカバーは、そのまま放置或いは土へ埋設して処分することが可能になる。更に、不織布、紙材でもよい。更にまた、この培地カバー5は、肉薄のシートだけでなく、所定の肉厚、例えば肉厚が1.00〜5.00mmの板状体で形成してもよい。板状材は木材でもよい。板状材で形成すると耐久性が増し再利用が可能になる。
次に、図7を参照して、この茸栽培容器を使用した椎茸栽培方法を説明する。なお、図7は椎茸栽培の工程図である。
まず、所定量のおがこに、栄養体として米ぬかを混合して、所定量の水を加えて培地調整を行う(工程I)。調整された培地を本体容器2の略開口付近まで充填して、その培地上面を培地カバー5で覆い蓋体3で閉塞する(工程II)。次いで、培地が詰まった茸栽培容器1Aを高圧釜に入れて殺菌又は滅菌する(工程III)。殺菌をした後に冷却する(工程IV)。その後、クリーンルームへ搬送して、このクリーンルーム内で茸栽培容器1Aの蓋体3を開いて培地カバー5の上から椎茸の種菌を接種する(工程V)。この接種により、椎茸の種菌は、種菌は培地カバーの開孔51を通って培地の中へ接種される。なお、この工程では培地カバー5を工程IIで培地上面を覆ったが、この工程で覆わないで、工程Vの前後で覆ってもよい。この場合は、培地カバー5は、予め殺菌して置く必要がある。
次いで、所定の培養室へ搬送し、この培養室で初期培養を行う(工程VI)。この初期培養では、光を照射することなく略暗黒の状態で菌糸培養に適した環境、例えば、室温18〜20℃及び湿度60%に保持して種菌を生育・増殖させる。この期間は略30日程度である。その後、熟成培養を行う(工程VII)。この熟成培養では、熟成培養に適した環境、特に所定の光を蓋体3を通して培地カバー5へ照射して、略60日〜70日掛けて培地に栄養蓄積を行う。この熟成工程では、培地内に菌糸が繁殖し始めるが、茸栽培容器1Aは茸原基の形成に必要な光は、培地カバー5の開孔51に当たり、他の箇所へは当らない。その結果、光が当らない箇所では原基の形成が抑制され、光が当った開孔51から露出した培地は原基の形成が促進されて、その表面が褐色化する。
この熟成培養が終了した後に、蓋体3及び培地カバー5を取外して茸の発生をさせる(工程VIII)。この発生工程では、原基形成が促進された上面から発生部位が特定されて発生して、茸が発生し育成される。
栽培を終了した茸栽培容器1Aは再利用する。この再利用の際に、本体容器2は、光不透過性材料で形成されて遮光されるので、容器内壁での原基形成が抑制されてこの原基の付着が軽減されて、使用済みの培地の掻き出しが容易になる。その結果、掻き出しなどの作業が軽減されて茸栽培容器の再利用が簡単になる。
この茸栽培容器1Aを使用した椎茸栽培方法は、培地カバー5で開孔51が発生する茸が互いに衝突しない距離離して配列して置くことにより、品質の高い椎茸をバランスよく生産できる。すなわち、従来技術のような多くの手作業をかけないで、簡単に発生・育成することができる。
この実施例の茸栽培容器1Aでは、椎茸栽培に適用した例を説明したが、この容器は、椎茸栽培に限定されるものでなく、他の茸、例えば舞茸、なめこ茸などにも適用できるものである。
この茸栽培容器1Aを使用すると、本体容器2からの蓋体3の取外し及び装着が簡単にできる。そこで、蓋体の取外し・装着を伴う工程を自動化し、一部又は全体の自動化が可能になる。この自動化は、例えば工程IIにおいて、複数個の茸栽培容器1Aを蓋3を取外した状態で所定のトレーに配設して置き、それぞれの本体容器2の開口から所定量の培地を充填する。この充填は、例えばホッパーに培地を詰めて置き、このホッパーに連結されたノズルを本体容器2の開口2eへ移動させることによって行われる。培地カバー5は、板状体からなるカバーを開口2e内へ押込む。工程III、IVはトレーの移動により、また、工程VIIIでも、蓋体及び培地カバーの装着と逆の作動で自動化を図る。
図8を参照して、茸栽培容器の変形例を説明する。なお、図8は、図4の茸栽培容器の変形例を示した分解斜視図である。
この茸栽培容器1Bは、上方が開口し有底の本体容器2Bと、この本体容器2B内に挿入される培地カバー5Bと、本体の開口に着脱自在に装着される蓋体3Bとを有しており、本体容器2Bは、底部から上方開口に向かうに従って図8の水平方向の断面積が大きくなっている構成が本体容器2と異なっている。この本体容器2Bの構成の違いにより、培地カバー5B及び蓋体3Bはサイズが異なるのみで、機能などは同じになっている。なお、本体容器2Bは、光不透過性材料で形成され、蓋体3Bは、光透過性材料で形成されている。培地カバー5Bは、1個乃至複数個の開孔を設けた光不透過又は光透過率の低い材料で形成されている。この茸栽培容器1Bによれば、上方の開口面積が拡大されているので、茸の発生個数を多くすることができる。また、使用済みの培地は、本体容器2Bを逆さまにすることによって簡単に掻き出すことが可能になる。