JP6991508B2 - 製パン用酵母及び製パン用酵母の作出方法 - Google Patents

製パン用酵母及び製パン用酵母の作出方法 Download PDF

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NPMD NITE P-02545 NPMD NITE P-02509 NPMD NITE P-02508
特許法第30条第2項適用 発行者名:日本食品科学工学会第64回大会事務局 刊行物名:日本食品科学工学会第64回大会講演集 発行年月日:平成29年 8月28日
特許法第30条第2項適用 集会名:日本食品科学工学会第64回大会 開催日:平成29年8月30日 講演番号3La9「低温パン生地発酵力と冷凍耐性を兼ね備えた酵母菌株の作出」、講演番号3L10「Saccharomyces bayanus菌株の交雑によるパン生地発酵力の改良」
特許法第30条第2項適用 公開者:公益財団法人北海道科学技術総合振興センター 掲載日:平成29年7月26日 ウェブサイトのアドレス<https://www.noastec.jp/web/news/files/c0950692f1de61aeb120db6185cbf5be39699f1c.pdf>,<https://www.noastec.jp/web/archive/adoption/files/H29-start.pdf>
本発明は、製パン用酵母等に関するものである。詳細には、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルムに属する菌株とサッカロマイセス・セレビシエに属する菌株の交雑により作出した、より良好な風香味及び形状のパン類が製造可能な製パン用酵母、当該酵母を使用したパン類の製造方法等に関するものである。
製パン工程において製パン用酵母は、パン生地に含まれる糖をエタノールへと変換する際に発生する炭酸ガスで生地を膨張させるとともに、副生成するアルコール、有機酸、エステル等によってパンに特有の風香味を与えている。このような製パン用として入手可能な酵母製品は、20~30℃でのパン生地発酵力という形質で選抜されてきたため、ほとんどすべての菌株はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に分類されている。
エタノール発酵力が強いサッカロマイセス・セレビシエは多くの産業に幅広く利用されているが、特に20~30℃で発酵が行われる製パンに使用されるのは、上記の通り、この温度域での活性が高いサッカロマイセス・セレビシエに限られている。しかしながら、このような選択基準などから、それらの形質は比較的均一であり、これまでにない特徴を有する製パン用酵母を求めるのには限界がある。
これまでの製パン用酵母にない性質のひとつとして挙げられるのが、より良好な風香味や形状のパンになるような形質である。例えば、これまでにパンの風香味を改善する方法としては、製造工程の改変(特許文献1)、副原料の種類及び配合の工夫(特許文献2)、発酵風味液の添加(特許文献3)、自然界から分離した新規な酵母菌株の使用(特許文献4)、薬剤耐性を付与した酵母変異株の適用(特許文献5)などがあり、これらは一定の効果はあるとされているが、現状これで十分とは言えない。
このような技術背景において、より良好な風香味や形状等のパン類の製造が可能な、これまでにない性質・特徴を有する製パン用酵母等の開発が当業界において求められていた。
一方で、醸造産業においては、サッカロマイセス・セレビシエに属する酵母以外に、8~10℃での増殖、発酵が良好なサッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)に属する酵母がビールやワイン等の醸造に使用されることがある。また、市販のワイン醸造用乾燥酵母には、サッカロマイセス・セレビシエとサッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum;サッカロマイセス・ウバルムとも呼ばれる)との交雑株が使用されている製品もあり(非特許文献1)、さらに、サッカロマイセス・バヤヌスとサッカロマイセス・セレビシエの交雑による作出株をワイン醸造に使用すると風味が改善されたという報告もなされている(非特許文献2)。しかしながら、サッカロマイセス・バヤヌスに属する酵母は低温発酵性であるため、中温域の発酵能が必要とされる製パンに使用することは無理という考えが一般的で、これを親株とした交雑株なども含めてこれまでほとんど製パンに試されたことはなかった。
特開2015-165779号公報 特開2015-037393号公報 特開2015-173633号公報 特開2012-191851号公報 特開2002-253211号公報
International Journal of Food Microbiology,204,101-110,2015 Applied Microbiology and Biotechnology,99,8597-8609,2015
本発明は、より良好な風香味や形状等のパン類が製造可能な実用的な製パン用酵母、当該酵母を用いたパン類の製造方法等を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum) B35L1株と、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) H24U1M株とを胞子対細胞接合により交雑することで、より良好な風香味及び形状のパン類を製造できる実用的な製パン用酵母を取得することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)製パン用酵母サッカロマイセスsp. DHB19株(NITE P-02545)。
(2)(1)に記載の製パン用酵母を含有するパン生地。
(3)(2)に記載のパン生地を発酵させ(例えば20~30℃、好ましくは27~30℃の温度帯で発酵させ)、その後(発酵終了後)焼成することを特徴とする、パン類の製造方法。
(4)サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム B35L1株(NITE P-02509)と、サッカロマイセス・セレビシエ H24U1M株(NITE P-02508)とを胞子対細胞接合により交雑することを特徴とする、サッカロマイセス属に属するより良好な風香味及び形状のパン類が製造可能な製パン用酵母の作出方法。
本発明によれば、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム B35L1株と、サッカロマイセス・セレビシエ H24U1M株とを胞子対細胞接合により交雑することで、より良好な風香味及び形状で総合評価も極めて高いパン類が製造可能であり且つ実際の製パンに十分使用できる発酵力を有する製パン用酵母菌株を作出でき、当該酵母菌株をパン類製造に用いることで、パン類の高品質化を図ることができる。
実施例1で行った交雑株取得の工程概略を示す図である。 実施例2で行った、DHB19株(黒丸印)、NBRC10970株(三角印)、H24株(菱形印)、HP467株(四角印)の各菌株を使用して作成した中種パン生地からの炭酸ガス発生量(ml/5分/20g生地)を示すグラフである。なお、横軸は発酵時間(hr)を表す。
本発明においては、まずワイン醸造用酵母として知られているサッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム NBRC10970株のリジン要求性変異株であるB35L1株と、製パン用酵母として知られているサッカロマイセス・セレビシエ H24株のウラシル要求性変異株であるH24U1M株とを交雑する。
このリジン要求性変異株B35L1株やウラシル要求性変異株H24U1M株の取得は定法により行えば良く、特段の限定はないが、例えば、UVや化学物質(エチルメタンスルホン酸(EMS)、N-メチル-N-ニトロソグアニジン(NTG)、亜硝酸等)などでNBRC10970株、H24株を変異処理した後に所定の選択培地(リジン要求性変異株の場合はα-アミノアジピン酸含有培地など、ウラシル要求性変異株の場合は5-フルオロオロチン酸含有培地など)で選択する方法などが例示される。
そして、これら変異株を胞子対細胞接合(spore to cell mating)により交雑する。なお、胞子対細胞接合とは、酵母の胞子(一倍体)と酵母の一倍体栄養細胞との間の異性間の接合により生じた二倍体交雑株を選択する方法を意味し、本発明においては、この胞子対細胞接合以外の接合法を用いることは好ましくない。また、本発明では、B35L1株の胞子とH24U1M株の一倍体栄養細胞を交雑するのが特に好適である。
このようなB35L1株とH24U1M株の胞子対細胞接合による交雑によって、DHB19株などの、より良好な風香味及び形状で総合評価も極めて高いパン類を製造できる製パン用酵母交雑株が容易に取得できる。そして、このDHB19株は、この交雑により取得できた交雑株の中で極めて有用な製パン用酵母であり、以下に示すような菌学的性質を有する。
(A)形態学的性質
YPD液体培地(乾燥酵母エキス1.0%、ハイポリペプトン2.0%、グルコース2.0%)で30℃、1日間培養したときの細胞は球形又は楕円形で、大きさは5~9μm×4~7μmで、多極出芽する。また、YPD寒天平板培地で30℃、1日間培養したときのコロニーは淡褐色で、光沢がある。また、SPO寒天培地(酢酸カリウム1.0%、酵母エキス0.1%、グルコース0.05%、寒天2.0%)上で25℃、14日培養すると胞子形成が認められる。
(B)生理的性質
温度20~37℃で生育する。
(C)糖の発酵性
グルコース:+
ガラクトース:+
スクロース:+
マルトース:+
ラクトース:-
ラフィノース:+
トレハロース:-
メリビオース:+
(D)炭素源の資化性
グルコース:++
ガラクトース:++
L-ソルボース:-
スクロース:++
マルトース:++
セロビオース:-
トレハロース:++
ラクトース:-
メリビオース:-
ラフィノース:++
メレジトース:+
イヌリン:-
可溶性デンプン:-
D-キシロース:-
L-アラビノース:-
D-アラビノース:-
D-リボース:-
L-ラムノース:-
リビトール:-
D-マンニトール:-
グリセロール:-
エタノール:++
α-メチルグルコシド:++
サリシン:-
コハク酸:-
クエン酸:-
ミオイノシトール:-
D-グルコサミン:-
また、交雑親株であるB35L1株及びH24U1M株は、以下に示すような菌学的性質を有する。
<B35L1株>
(A)形態学的性質
YPD液体培地(乾燥酵母エキス1.0%、ハイポリペプトン2.0%、グルコース2.0%)で30℃、1日間培養したときの細胞は球形又は楕円形で、大きさは5~9μm×4~8μmで、多極出芽する。また、YPD寒天平板培地で30℃、1日間培養したときのコロニーは淡褐色で、光沢がある。また、SPO寒天培地(酢酸カリウム1.0%、酵母エキス0.1%、グルコース0.05%、寒天2.0%)上で25℃、7日培養すると3~4個の球形の胞子を形成する。
(B)生理的性質
温度20~33℃で生育する。
(C)糖の発酵性
グルコース:+
ガラクトース:+
スクロース:+
マルトース:+
ラクトース:-
ラフィノース:+
トレハロース:-
メリビオース:+
(D)炭素源の資化性
グルコース:++
ガラクトース:++
L-ソルボース:-
スクロース:++
マルトース:++
セロビオース:-
トレハロース:+
ラクトース:-
メリビオース:-
ラフィノース:++
メレジトース:-
イヌリン:-
可溶性デンプン:-
D-キシロース:-
L-アラビノース:-
D-アラビノース:-
D-リボース:-
L-ラムノース:-
リビトール:-
D-マンニトール:+
グリセロール:++
エタノール:++
α-メチルグルコシド:+
サリシン:-
コハク酸:-
クエン酸:-
ミオイノシトール:-
D-グルコサミン:-
<H24U1M株>
(A)形態学的性質
YPD液体培地(乾燥酵母エキス1.0%、ハイポリペプトン2.0%、グルコース2.0%)で30℃、1日間培養したときの細胞は球形又は楕円形で、大きさは4~6μm×3~5μmで、多極出芽する。また、YPD寒天平板培地で30℃、1日間培養したときのコロニーは淡褐色で、光沢がある。また、SPO寒天培地(酢酸カリウム1.0%、酵母エキス0.1%、グルコース0.05%、寒天2.0%)上で25℃、7日培養しても胞子の形成は認められない。
(B)生理的性質
温度20~35℃で生育する。
(C)糖の発酵性
グルコース:+
ガラクトース:+
スクロース:+
マルトース:+
ラクトース:-
ラフィノース:+
トレハロース:-
メリビオース:-
(D)炭素源の資化性
グルコース:++
ガラクトース:++
L-ソルボース:-
スクロース:++
マルトース:++
セロビオース:-
トレハロース:+
ラクトース:-
メリビオース:-
ラフィノース:+
メレジトース:+
イヌリン:-
可溶性デンプン:-
D-キシロース:-
L-アラビノース:-
D-アラビノース:-
D-リボース:-
L-ラムノース:-
リビトール:-
D-マンニトール:-
グリセロール:-
エタノール:++
α-メチルグルコシド:-
サリシン:-
コハク酸:-
クエン酸:-
ミオイノシトール:-
D-グルコサミン:-
これらDHB19株、B35L1株及びH24U1M株は、いずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構・特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、DHB19株は2017年(平成29年)9月21日付け、B35L1株及びH24U1M株は2017年(平成29年)7月14日付けで寄託されており、その受託番号は、それぞれNITE P-02545、NITE P-02509及びNITE P-02508である。
そして、このDHB19株などの製パン用酵母交雑株を用いて、小麦粉、水、砂糖、食塩、油脂、酵母等を混捏したパン生地を発酵後、焼成する工程を一気に行うスクラッチ方式などによりパン類製造を行うことができるが、製パン法はこれに限定されるものではない。なお、本発明の製パン用酵母、例えばDHB19株は、常温パン生地発酵力(27~30℃程度の温度帯でのパン生地発酵力)が特に優れていることが特徴である。
このようにして、優れた低温増殖能を備えるワイン醸造用酵母であるサッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルムに属する菌株のリジン要求性変異株であるB35L1株と、高いパン生地発酵力等を兼ね備える製パン用酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ H24株のウラシル要求性変異株であるH24U1M株との胞子対細胞接合による交雑によって、より良好な風香味及び形状で総合評価も極めて高いパン類が製造可能である実用的な製パン用酵母菌株を作出でき、当該酵母菌株をパン類製造に用いることで、パン類の高品質化を図ることができる。
なお、本発明においてより良好な風香味及び形状のパン類とは、焼成後のパン類の形状(内部形状を含む)、香り、味、焼色、色相の少なくとも1以上が市販パン酵母で作製した同種パン類と同等以上であることを意味し、特に、焼成後のパン類の内部形状、香り、味、色相の少なくとも1以上が市販パン酵母で作製した同種パン類よりも優れていることを意味する。また、総合評価が極めて高いパン類とは、焼成後のパン類の形状(内部形状を含む)、香り、味、焼色、色相の各項目を総合的に評価したものが市販パン酵母で作製した同種パン類よりも極めて優れていることを意味する。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
(交雑株の取得)
本発明の交雑株は、次のような方法で取得した。
独立行政法人製品評価技術基盤機構の微生物コレクションから入手したサッカロマイセス・バヤヌス NBRC10970株から北本の方法(日本醸造協会誌,84[1],34-37,1989)によってリジン要求性変異株B35L1株を分離した。一方、冷凍生地用パン酵母菌株サッカロマイセス・セレビシエに由来して接合型aを示す一倍体菌株H24株から、北本の方法(日本醸造協会誌,84[12],849-853,1989)によってウラシル要求性変異株H24U1M株を分離した。
次に、このB35L1株とH24U1M株を用いて、胞子対細胞接合により交雑を行った。具体的には、まずB35L1株をSPO寒天培地(酢酸カリウム:1.0%、乾燥酵母エキス:0.1%、グルコース:0.05%、寒天:2.0%)に接種し、30℃で3~5日間培養して胞子化させた。胞子を含んだ子嚢は細胞壁溶解酵素ザイモリエイス(ナカライテスク株式会社製品、登録商標)で処理後、YPD寒天培地の片側に塗り付け、同寒天培地のもう片一方にはH24U1M株を塗り付けた。B35L1株の胞子(α型)を顕微鏡下でマイクロマニュピレーターを使用して取り出して、YPD寒天培地の中央でこの一個のB35L1株α型胞子と一個のH24U1M株一倍体栄養細胞(a型)を隣合わせにして30℃、2日間培養することにより、接合させた。そして、出現増殖したコロニーをMM寒天平板培地上で画線接種することにより交雑二倍体DHB19株を純粋分離した。この交雑株取得の工程概略を図1に示した。
(パン生地発酵力確認試験)
実施例1で得られたDHB19株の30℃におけるパン生地発酵力を、NBRC10970株、H24株、及び、市販パン酵母分離株であるサッカロマイセス・セレビシエ HP467株と比較確認するため、以下の試験を実施した。
DHB19株、NBRC10970株、H24株、HP467株の各菌株を、50ml三角フラスコ中のYPD培地(乾燥酵母エキス:1.0%、ハイポリペプトン:2.0%、グルコース:2.0%)10mlで30℃、24時間往復振盪培養(150rpm)し、そのうちの0.6mlを300mlバッフル付き三角フラスコ中のYPS培地(バクト酵母エキス:2.0%、バクトペプトン:4.0%、KHPO:0.2%、MgSO・7HO:0.1%、NaCl:2.0%、アデカノールLG-294:0.05%、スクロース:2.0%)60mlに接種して24時間、30℃で旋回振盪培養(150rpm)した。培養後の各菌体は遠心分離で回収し、蒸留水で2回洗浄してから乾燥させた吸収板の上に数分間置いて培養湿菌体を得た。培養菌体の固形分は約30%になるが、一部を乾燥させて正確な数値を算出し、以下の実験では固形分33%に換算した重量として培養菌体を生地調製に使用した。
各酵母について、小麦粉(強力)10g、スクロース0.5g及びNaCl0.2gを含む蒸留水5.5mlと、酵母菌体0.2gを含む懸濁液1.0mlを1分間混捏した。調製した低糖パン生地(小麦粉重量に対して5%スクロース及び2%NaClを含む)は2.4cm×20cmの試験管に入れ、発生する炭酸ガス量を飽和食塩水中のメスシリンダーに導いて、30℃で2時間当たりに発生する炭酸ガス発生量をパン生地発酵力として測定した。なお、これらの操作はすべて30℃で行った。
この結果を下記表1に示す。DHB19株は、30℃での低糖パン生地発酵力が51.5ml/2h/10g小麦粉であり、市販パン酵母であるHP467株よりも高かった。つまり、交雑株DHB19株は、ワイン醸造用酵母であり通常のパン生地発酵温度では発酵力が低いNBRC10970株のリジン要求性変異株を親株のひとつとしながら、市販パン酵母以上の低糖パン生地発酵力を有する株であることが明らかとなった。
Figure 0006991508000001
さらには、DHB19株、NBRC10970株、H24株、HP467株の各菌株を使用し、糖を添加しない中種パン生地からの炭酸ガス発酵の経時変化を確認した。まず、各酵母について、小麦粉(日清製粉カメリヤ)100g、酵母菌体2.0g及び蒸留水61.4mlをピンミキサーで3分間混捏し、捏ね上げたときの温度が24.0±1.0℃になるように生地を調製した。そして、パン生地20gを分割し、5分当たりに発生する炭酸ガス量の変化をファーモグラフ(アトー株式会社製品)にて測定した。
この結果を図2に示した。なお、測定開始後1時間以降における炭酸ガス発生は、酵母細胞が小麦粉中のデンプンからアミラーゼ類の作用で生成するマルトースを発酵することによるものであるが、それを消費し尽くすと低下する。上記表1の結果と同様に、交雑株DHB19株は、中種生地発酵力が低いNBRC10970株のリジン要求性変異株を親株のひとつとしながら、市販パン酵母HP467株よりも格段に高い中種パン生地発酵力を有する株であることが明らかとなった。
また、これら各菌株及び、DHB19株と同じ親株であるB35L1株とH24U1M株の希少接合による交雑により取得された交雑三倍体HB35株(特願2017-157280)について、常温(30℃)での中種パン生地発酵力の比較確認を行った。まず、小麦粉(日清製粉カメリヤ)10g、各酵母菌体0.2g及び蒸留水6.5mlをピンミキサーで3分間混捏し、捏ね上げたときの温度が24.0±1.0℃になるように生地を調製した。調製したパン生地を2.4cm×20cmの試験管に入れ、発生する炭酸ガス量を飽和食塩水中のメスシリンダーに導いて、30℃で2時間当たりに発生する炭酸ガス発生量を測定した。なお、これらの操作はすべて30℃で行った。
この結果を下記表2に示す。DHB19株は、30℃での中種パン生地発酵力が45.4ml/2h/10g小麦粉であり、H24株の中種パン生地発酵力よりは低いものの、NBRC10970株、HP467株、HB35株の中種パン生地発酵力よりかなり高い値であった。したがって、交雑二倍体DHB19株は、市販パン酵母HP467株だけでなく、同じ親株の希少接合による交雑で得られた交雑三倍体HB35株よりも高い中種パン生地発酵力を備えていることが明らかとなった。
Figure 0006991508000002
(パン品質確認試験)
実施例1で得られたDHB19株、あるいは市販パン酵母サッカロマイセス・セレビシエ HP467株を使用して中種法で作製した食パンの品質を比較確認するため、以下の試験を実施した。
小麦粉(カメリヤ)210g、各酵母培養菌体6.0g(いずれも固形分33%)、アスコルビン酸溶液0.15ml(20mg/ml)及び蒸留水126mlをピンミキサーで3分間混捏し、捏ね上げたときの温度が24.0±1.0℃になるように中種生地を調製した。これを30℃、4.5時間発酵させた後、小麦粉90g、砂糖15.0g、食塩6.0g、ショートニング15.0g及び蒸留水75mlを加えて、約4分間混捏し、捏ね上げたときの温度が30.0±0.5℃になるように本捏生地を調製した。さらに、30℃、20分のフロアタイム後、生地を100gずつ手で分割して丸めて30℃、15分のベンチタイムをとった。これをモルダーで成型し、38℃、湿度85%の最終発酵を55分行ってから180℃、25分焼成した。これを室温で放冷後、重量と容積を測定して比容積を算出した。
この結果を下記表3に示す。DHB19株を使用して作製した食パンの比容積は、HP467株を使用して作製した食パンの比容積よりは若干低いものの、5.0以上で十分に評価できる値であった。
Figure 0006991508000003
次に作製した各食パン及び実施例2で示したHB35株を用いて同様に作製した食パンについて、訓練された8人のパネリストでボリューム、形状、焼色、内部形状、やわらかさ、色相、香り、味及び総合評価について官能評価を行った。評価基準は、HP467株を使用して作製した食パンを50点として設定し、DHB19株を使用して作製した食パン及びHB35株を使用して作製した食パンを0点(不良)~100点(良好)で比較・評価した点数から平均値を算出した。
これらの結果を下記表4に示す。DHB19株を使用して作製した食パンは、ボリュームを除く評価項目においてHP467株を使用して作製した食パンと同等以上であり、特に、総合評価においては、HP467株を使用して作製した食パンを大きく上回るきわめて良好な評価であった。これに対して、HB35株を使用して作製した食パンは、HP467株を使用して作製した食パンを上回る評価項目はひとつもなかった。
Figure 0006991508000004
以上より、サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム B35L1株と、サッカロマイセス・セレビシエ H24U1M株とを胞子対細胞接合により交雑することで、より良好な風香味及び形状のパン類が製造可能な実用的な製パン用酵母菌株を作出でき、当該菌株を適用することにより風香味及び形状がより好適なパン類等を効果的に製造できるようになることが示された。
また、希少接合による交雑で得られた交雑三倍体HB35株は冷凍耐性及び低温パン生地発酵力が優れているという特性を有しているが、同じ親株の胞子対細胞接合による交雑で得られた交雑二倍体DHB19株は、冷凍耐性や低温パン生地発酵力はHB35株より劣るものの、常温パン生地発酵力(特に中種パン生地発酵力)や得られるパン類の風香味・形状等はHB35株よりも優れており、より良好な風香味や形状等のパン類が製造可能な実用的な製パン用酵母取得という課題解決における胞子対細胞接合による交雑法の優位性も立証された。
本発明を要約すれば、以下の通りである。
本発明は、より良好な風香味や形状等のパン類が製造可能な実用的な製パン用酵母、当該酵母を用いたパン類の製造方法等を提供することを目的とする。
そして、サッカロマイセス・バヤヌス B35L1株と、サッカロマイセス・セレビシエ H24U1M株とを胞子対細胞接合により交雑することで、より良好な風香味及び形状のパン類を製造できる実用的な製パン用酵母の取得ができ、当該酵母をパン類製造に用いることで風香味及び形状がより好適なパン類を製造できる。
本発明において寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)サッカロマイセス(Saccharomyces)sp. DHB19株(NITE P-02545)。
(2)サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum) B35L1株(NITE P-02509)。
(3)サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) H24U1M株(NITE P-02508)。

Claims (4)

  1. サッカロマイセス・バヤヌス・バー・ウバルム(Saccharomyces bayanus var. uvarum) B35L1株(NITE P-02509)と、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) H24U1M株(NITE P-02508)とを胞子対細胞接合により交雑することを特徴とする、サッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する製パン用酵母の作出方法。
  2. 製パン用酵母サッカロマイセス(Saccharomyces)sp.DHB19株(NITE P-02545)。
  3. 請求項2に記載の製パン用酵母を含有するパン生地。
  4. 請求項3に記載のパン生地を発酵させ、その後焼成することを特徴とする、パン類の製造方法。
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