JP5218904B2 - パン類の製造方法と本法によって得られるパン類 - Google Patents

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本発明は、高品質で消費者の多様なニーズに応える特徴的なパン類の製造方法とそれによって得られるパン類に関するものである。
パンは、通常、小麦粉に水、砂糖、食塩、油脂および酵母(イースト)を加えて混捏して作った生地を発酵させ、これを焼成することによって出来上がる。このとき酵母はエムデン・マイヤーホフ経路で糖を代謝し、生地を膨張させるための炭酸ガスを発生させると同時に、発酵させたパン特有の好ましい風味を与えている。
パンには多くの種類があり、食パン、菓子パンやその他のパンを含めてパン類と総称されている。これらの製法も多様であるが、消費量のもっとも多い食パンはストレート法または中種法で製造される。ストレート法は、その名前の通り原料を一度に混捏した生地を発酵後、焼成する方法である。一方、中種法では、まず小麦粉、水、酵母で練り上げた中種生地を室温で4時間程度発酵させ、これに残りの小麦粉、水、砂糖、食塩、油脂などと混捏した生地をさらに発酵後、焼成する。ストレート法と比較して、中種法は工程が煩雑であるが、出来上がったパンは風味に優れて硬くなりにくく、工場生産で安定的に品質の良いパンができるという利点があるため、多くの製パンメーカーが採用している。この方法では、中種生地を十分に膨張させることが高品質のパンを作るのにもっとも重要な点である。中種生地は原料として砂糖を添加しないため、酵母は生地中にわずかに存在する単糖類を発酵して1時間以内に消費し、その後の2〜3時間は小麦粉に含まれるβ-アミラーゼなどの作用によってデンプンから生成するマルトースを発酵する。このようなことから、市販のパン酵母には小麦粉にあらかじめ存在する単糖からマルトースへの変化に迅速に適応可能なマルトース発酵性を備えた菌株が使用されている。
しかし、自然界から分離されるSaccharomyces属酵母はブドウ果汁の主成分であるグルコースは発酵しても、マルトースを迅速に発酵せず、発酵したとしても微弱であることが多い。
自然界から分離した酵母を利用した特許に関しては、海水(特許文献1)、温帯落葉広葉樹林帯内の腐葉土(特許文献2)、干しブドウ(特許文献3)から分離した酵母によるパンの製造法、海藻(特許文献4)、海水(特許文献5)、桜の花(特許文献6)から分離した酵母による清酒製造法がある。しかし、(エゾヤマザクラの)サクランボから分離され、中種法に適用したときに高い品質のパンをつくる酵母に関する従来技術はない。
特開H06−000052 特開2001−178449 特開2006−325562 特開H11−056337 特開H11−169168 特開2003−116523 化学と生物VOL.36 No.1 1998 P7,8
本発明の北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体によって、味と香りが飛躍的に向上し、消費者の多様なニーズに応える特徴的な高品質のパン類を製造することができるようになる。
上記の目的を達成するためには、北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体を利用すれば良い。本発明者は鋭意研究した結果、強いマルトース発酵性を有するこの培養菌体によって高品質かつ特徴的で良好な風味を備えているパン類を製造できることを発見し、本発明を完成させた。
(1)本発明は、北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体でパン生地を膨張させることを特徴とするパン類の製造方法を提供する。
(2)本発明は、パン類の製造方法が中種法であることを特徴とする上記(1)のパン類の製造方法を提供する。
(3)本発明は、北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体でパン生地を膨張させることを特徴とするパン類の製造方法によって製造されたパン類を提供する。
(4)本発明は、パン類の製造方法が中種法であることを特徴とする上記(3)のパン類を提供する。
(5)本発明は、北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487を提供する。
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態>>
Saccharomyces cerevisiae NITE P-487は、独立行政法人製品評価技術基盤機構に受託番号NITE P-487として寄託されている。寄託日は平成20年2月14日である。
<Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の分離>
本発明の酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487は、次のような方法で分離した。北海道十勝支庁管内に自生するエゾヤマザクラのサクランボを磨り潰して常温に数日間発酵させた。この発酵サクランボ5gを、小麦粉50g及び水25mlと混捏してパン生地を調製した。これを室温で数日間放置してパン生地が膨張した後、そのうちの一部(約0.1g)を集積用培地(表1)に入れて30℃、4日間静置培養した。滅菌したパスツールピペットで培地の底部の沈殿を抜き取り、別の新しい集積培地に接種してさらに30℃で静置培養した。4日目に104希釈して固体化した集積用培地(2%寒天を添加して固化したもの)上に塗布した。出現したコロニーのひとつを分離し、NITE P-487とした。
[表1]
Figure 0005218904
<Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の同定>
分離した本菌株の酵母NITE P-487は次のような性質を示したことから、Saccharomyces cerevisiaeと同定した。
(1)形態学的性質
YM寒天培地で25℃、3日間培養したときの細胞は球形または楕円形で、大きさは3〜6 μm × 4〜7μmで、多極出芽する。コロニーは淡褐色で、光沢がある。
SPO培地(酢酸カリウム1.0%、酵母エキス0.1%、グルコース0.05%、寒天2.0%)上で25℃で3〜5日培養すると1〜4個の球形の胞子を形成する。
(2)生理的性質
温度22〜37℃で生育する。
(3)糖の発酵性
Figure 0005218904
(4)炭素源の資化性
Figure 0005218904
(5)その他の資化性および生育の特徴
Figure 0005218904
(6)リボソームRNAスペーサー領域の塩基配列(配列番号5)
培養菌体から常法によりDNAを抽出し、pITS1プライマー(配列番号1)とpITS4プライマー(配列番号4)によって約760塩基対のリボソームRNAスペーサー領域を増幅させる。この領域はリボソームRNA内部の塩基配列よりも塩基置換頻度が高いために、近縁種の解析に効果的とされている(非特許文献1)。増幅断片はpITS1プライマー(配列番号1), pITS2プライマー(配列番号2), pITS3プライマー(配列番号3)およびpITS4プライマー(配列番号4)の各プライマーでサイクルシーケンシングを行い、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (アプライドバイオシステムズ ジャパン株式会社)にて塩基配列を決定した(配列番号5)。この配列情報をインターネット上のBLASTプログラムに入力してホモロジー検索を行うと、S. cerevisiae NBRC 2106の配列(日本DNAデータバンク アクセッション番号AY130343)と完全に一致する。
S. cerevisiae NITE P-487、市販パン酵母から分離したS. cerevisiae HP467および自然界から分離したマルトースを発酵しないS. cerevisiae HP530の中種生地における発酵力を比較した。
各菌株を試験管中のYPD培地(バクト酵母エキス1.0%、バクトペプトン2.0%、グルコース2.0%)3mlで30℃、24時間往復振盪培養(120rpm)し、そのうちの0.6mlを300mlバッフル付き三角フラスコ中のYPS培地(バクト酵母エキス2.0%、バクトペプトン4.0%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.1%、NaCl 3.0%、アデカノールLG-294 0.05%、スクロース 2.0%)60mlに接種して30℃、24時間旋回振盪培養(150rpm)した。YPS培地は、後述する酵母菌体のパン生地発酵力を高めるための培地であり、スクロースおよびその他の成分は別々に滅菌しておき、使用直前に混合した。培養後の菌体は遠心分離で回収し、蒸留水で2回洗浄してから乾燥させた吸収版の上に数分間置いて培養湿菌体を得た。培養菌体の固形分は約30%になるが、一部を乾燥させて正確な数値を算出し、以下の実験では固形分33%に換算した重量とした。
小麦粉(強力粉)140g、酵母培養菌体4.4g、アスコルビン酸溶液1.0ml(6mg/ml)および蒸留水133mlをピンミキサーで約3分間混捏し、捏ね上げたときの温度が30℃になるように中種生地を調製した。パン生地20gを分割し、10分当たりに発生する炭酸ガス量の変化をファーモグラフII(アトー株式会社)にて測定した。その結果を図1に示す。NITE P-487およびHP467では、測定開始後60分以降に小麦粉中のデンプンからアミラーゼ類の作用で生成するマルトースを発酵するため、炭酸ガス発生量は大幅に増加した。一方、HP530では小麦粉中の単糖の発酵による少量の炭酸ガスしか認められなかった。
S. cerevisiae NITE P-487、S. cerevisiae HP467およびS. cerevisiae HP530を使用して中種法で食パンをつくり、それらの品質について比較した。実施例1と同様に調製した中種生地を30℃、4時間させた後、これに小麦粉60g、ショ糖10.0g、食塩4.0g、ショートニング10.0gおよび蒸留水50mlを加えて混捏した。30℃、20分のフロアタイム後、生地を100gづつ手で分割して丸めて30℃、15分のベンチタイムをとった。これをモルダーとシーターで成型し、38℃、湿度85%のホイロ発酵を55分行ってから200℃、25分焼成した。これを室温で放冷後、重量と容積を測定して比容積を算出した。さらに、これらのパンはポリ袋に入れて室温で一日保存し、5名のパネラーによって色、香り、味、質感を4段階(非常に良好、良好、やや劣る、劣る)で評価した。その結果を図2に示す。マルトースを発酵しないHP530でつくったパンは、比容積が極端に小さく、パンの官能評価の結果も非常に低い評価であった。これに対し、NITE P-487でつくったパンは、比容積が非常に大きく、立派なパンであり、パンの官能評価結果も非常に良好で、対照のHP467でつくったパン以上の評価であった。特に、パンの香りと味が良好な評価であり、市販イーストのパンにない好ましい品質を示した。
これらの結果から、NITE P-487は、非常に優れた製パン性を示すとともに、得られたパンも非常に優れた特徴(好ましいフルーティーな香りと味)を持っており、従来のパンに比べ品質が格段に向上することがわかる。
中種生地発酵による炭酸ガス発生量の変化を示すグラフ 製パンの官能評価結果を示す表

Claims (5)

  1. 北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体でパン生地を膨張させることを特徴とするパン類の製造方法。
  2. パン類の製造方法が中種法である請求項1記載のパン類の製造方法。
  3. 北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487の培養菌体でパン生地を膨張させることを特徴とするパン類の製造方法によって製造されたパン類。
  4. パン類の製造方法が中種法である請求項3記載のパン類。
  5. 北海道十勝地方に自生するエゾヤマザクラのサクランボから分離した酵母Saccharomyces cerevisiae NITE P-487。
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