JP6948132B2 - クラスト改質材 - Google Patents
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とりわけ、損壊し易い層状構造を有するデニッシュやクロワッサンのようなペストリーや、硬質な外皮をもつフランスパンのようなリーンな組成のベーカリー製品では、クラストの亀裂や剥がれといった損壊が起こりやすく、これらが商品価値の低下につながりやすいため、ベーカリー製品の皮剥れや亀裂といった損壊を防止する手法が従来から検討されてきた。
特許文献4には、アルギン酸エステル、粉末卵黄及び加工澱粉を有効成分とするパン品質改良剤が開示されており、特許文献5には、グリシン及び糖を有効成分とする品質改良剤が開示されている。これらはそれぞれ、ベーカリー生地を調製する際に品質改良剤を生地中に練り込む手法である。
特許文献6には、パイ生地の表面を水溶性多糖類の水溶液で被覆する手法が開示されており、特許文献7には、アルカリ水溶液をペストリー生地に塗布しペストリー食品の製品強度を強化する手法が開示されている。
特許文献1〜3に記載されているクラスト部分の水分含量を高める手法では、クラストの亀裂や皮剥れを抑制することができるものの、得られるベーカリー製品のクラストが分厚くなりやすく、歯触りや食感が硬くなりやすかった。
また、特許文献4に記載の手法及び特許文献5に記載の手法では、クラストの亀裂や皮剥れ等への抑制効果を示す品質改良剤を、ベーカリー生地中に練り込んでしまうため、クラスト部分に有効成分が乏しくなりやすく、クラストの亀裂や皮剥れが十分に抑制されない場合があった。
また、特許文献6に記載の手法では、十分に損壊が防止できるだけの濃度の水溶性多糖類溶液を使用すると、食感がねちゃついたりヒキのある食感になるという問題があった。また、特許文献7に記載の手法では、ペストリー生地の表面の澱粉質をアルカリ水溶液で強制的にα化させるため、強固な表面を得られるが脆くなりやすく、カット等の二次加工を行う場合においてクラストの亀裂や皮剥れが生じることが多かった。
また、本発明は、含有される蛋白質と油脂の質量比が1:2.0〜7.5であり、含有される油脂の20℃でのSFCが25未満であるO/W乳化油脂組成物を、ベーカリー生地の表面に塗布する、クラスト損壊抑制方法を提供するものである。
本発明のクラスト改質材は、含有される蛋白質と油脂の質量比(前者:後者)が1:2.0〜7.5であり、含有される油脂の20℃でのSFCが25未満であるO/W乳化油脂組成物からなり、ベーカリー生地表面に塗布して用いることを特徴とする。
本発明に用いることのできる蛋白質としては、特に限定されないが、例えば、α−ラクトアルブミンやβ−ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイ蛋白質、カゼイン、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦蛋白質、大豆蛋白質や、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて、一種の蛋白質単独で又は二種以上の蛋白質の混合物として、或いは一種ないし二種以上の蛋白質を含有する食品素材の形で用いることができる。
分離大豆蛋白質を用いた場合に特に高い効果が奏される具体的な機序については不明だが、分離大豆蛋白質を用いたO/W乳化油脂組成物からなるクラスト改質材が、ベーカリー生地の加熱処理時に生地表面で解乳化し、それに伴って分離大豆蛋白質を主とするゲル形成が生じ、これにより得られるベーカリー製品のクラスト部に強固な蛋白質の膜が形成されるものと推測される。
O/W乳化油脂組成物基準で、蛋白質含量が2質量%未満の場合、クラスト改質効果が十分に得られにくく、クラスト改質効果を得るためには本発明のクラスト改質材を多く使用する必要が生じる場合がある。また、蛋白質含量が10質量%超の場合、クラスト改質材の粘度が高くなり、クラスト表面に均一な厚さでクラスト改質材を広げにくいためハンドリング性が低下しやすい上、得られるベーカリー製品の歯触りが悪化しやすい。
油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
20℃でのSFCが25以上の油脂をクラスト改質材に用いて、ベーカリー生地表面に塗布した場合、加熱して得られるベーカリー製品のクラスト部分のベタつきや油性感が増してしまう場合があり、また、油脂結晶が析出しベーカリー製品の外観を損ねてしまう場合がある。
油脂分が5質量%未満の場合、蛋白質をO/W乳化油脂組成物中に十分な量で含有させにくい上、O/W乳化油脂組成物の製造時に蛋白質のダマが生じやすくなる。また、油脂分が30質量%超の場合、本発明のクラスト改質材を使用して得られるベーカリー製品のクラスト部分のベタつきや油性感が増してしまいやすい。
尚、この油脂分には下述するその他の成分中の油脂分も含めることとする。
含有される蛋白質と油脂の質量比が1:2.0〜7.5の範囲外である場合、クラスト部での蛋白膜が形成されにくいため、クラスト改質効果を十分に得ることができない。
水分が60質量%未満の場合、クラスト改質材の固形分含量が高くなり、粘度が高くなり易く、ベーカリー生地表面に塗布する際に均一に広げにくい。水分が95質量%超の場合、使用量によってはクラスト部分の火通りが悪化してしまいやすい他、クラストが分厚くなり食感が重くなりやすい。
尚、この水分には下述するその他の成分中の水分も含める。
選択されるpH調整剤としては、本発明のクラスト改質材のpHが塩基性となるものであれば特に限定されず、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、リン酸類のカリウム塩及びナトリウム塩、並びにこれらの無水塩等が挙げられる。
本発明のクラスト改質材のpHは7.5〜10.0であることが好ましく、8.0〜10.0であることがより好ましく、8.5〜9.5であることが最も好ましい。
本発明のクラスト改質材は上述の条件を満たすO/W乳化油脂組成物からなり、このO/W乳化油脂組成物は上記油脂、蛋白質、水、及び必要に応じその他の成分を混合乳化し、水中油型に乳化することにより得られる。
好ましくは、先ず溶解した油脂に蛋白質を加えて撹拌し均一に分散させ、油相を調製した後、この油相に水相を加えて水中油型に乳化させる。水相に蛋白質を加えることもできるが、加える蛋白質が粉体の場合、特にダマになりやすく、O/W乳化油脂組成物中に十分に分散させることが難しい。
また、必要により、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌又は加熱殺菌処理を施すことができ、或いは直火等の加熱調理により加熱することもできる。
また、加熱後に必要に応じて再度均質化することもできる。また、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施すこともできる。
本発明のクラスト改質材は、ベーカリー製品の製造時に用いられるものであり、加熱処理前のベーカリー生地の表面に本発明のクラスト改質材が塗布される。本発明のクラスト改質材を塗布する手法としては、特に限定されず、ベーカリー生地に刷毛等で塗布したり、スプレー等で噴霧塗布する手法のほか、ベーカリー生地をクラスト改質材にくぐらせたり浸漬する等の手法も挙げられる。
尚、ホイロをとるベーカリー生地の場合は、ホイロの後に本発明のクラスト改質材を塗布することが好ましい。
(ペストリー生地の配合例)
小麦粉 100質量部
イースト 5〜10質量部
砂糖 1〜30質量部
食塩 1〜2質量部
脱脂粉乳 0〜10質量部
練り込み用油脂 1〜30質量部
卵 0〜40質量部
牛乳 0〜40質量部
水 0〜50質量部
ロールイン用油脂 0〜65質量部
ペストリー生地は、例えば以下の手順で製造することができる。
まず、ロールイン用油脂以外の原材料を全てボールに入れ、ミキシングし、ドウ生地を得る。このドウ生地を生地温度が10℃程度になるまでリタードした後、圧延してドウ生地をシート状に成形し、ロールイン用油脂を積載して任意の折数まで折り込むことで、ペストリー生地が得られる。
(リーンな組成のベーカリー生地の配合例)
小麦粉 100質量部
イースト 5〜10質量部
砂糖 0〜10質量部
食塩 1〜5質量部
脱脂粉乳 0〜10質量部
練り込み用油脂 0〜10質量部
卵液 0〜10質量部
牛乳 0〜5質量部
水 0〜70質量部
本発明のクラスト損壊抑制方法は、上記のようにして得られた本発明のクラスト改質材をベーカリー製品に使用することを特徴とするものである。
好ましく適用されるベーカリー製品の種類、使用方法、使用量等、ここで特に説明しない点については、上述の本発明のクラスト改質材についての説明を適宜適用することができる。
表1に示す配合に従い、以下の手順で実施例1〜3、比較例1及び比較例2のクラスト改質材をそれぞれ作成した。
先ず、加温し十分に溶融させた液状油に分離大豆蛋白質を加え、スリーワンモーターを使用して撹拌して分離大豆蛋白質を十分に液状油中に分散させ、油相を調製した。尚、使用した分離大豆蛋白質100質量部中、無脂固形分の含量は94.3質量部であり、蛋白質含量は85.8質量部であった。次に、事前に無水炭酸ナトリウムを溶解させておいた水を水相として油相に加え、十分に撹拌し、予備乳化を行い予備乳化液を得た。次に、予備乳化液をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)で143℃にて5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却して、クラスト改質材を得た。
尚、得られた実施例1〜3、比較例1及び比較例2のクラスト改質材のpHは全てpH8.5〜9.5の範囲内であった。
上記で調製した実施例1〜3、比較例1及び比較例2のクラスト改質材のクラスト改質効果を、下記の配合・製法で調製したハードロール生地を用いて試験した。具体的な試験方法は以下の通りである。
下記の配合・製法で調製したハードロール生地を、50gに分割・丸目を行ない、フロアタイム、ベンチタイムをとって、成形を行い、更にホイロをとった。ホイロ後の生地表面に、実施例1〜3、比較例1及び2のクラスト改質材のいずれかを10g刷毛で塗布し、生地上部に十字にクープを入れた後、220℃で20分間焼成してハードロールを得た。尚、クラスト改質材を塗布しないものをコントロールとした。
焼成から1日後に、半分にカットしたハードロールの外観を目視で確認し、皮剥れ・亀裂の程度を評価した。同時に食感についても評価を行った。尚、この際の評価は、下記評価基準に則って行った。
結果を表1に示す。
強力粉100質量部、上白糖3質量部、生イースト5質量部、食塩2質量部、イーストフード0.1質量部及び水60質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分混合し、ショートニング((株)ADEKA製プレミアムショートCF)5質量部を投入し、低速で3分、中速で8分ミキシングを行ない、ハードロール生地を得た。得られたハードロール生地の捏ね上げ温度は26℃であった。
・外観
◎ : クラストの皮剥れや亀裂等の損傷はなかった。
○ : カットによりクラストに亀裂が生じるも、皮剥れは生じなかった。
× : カットと共にクラストに亀裂が生じ、多量に剥がれ落ちた。
・食感
◎ : 軽い歯触りの食感が得られた。
○ : やや重い食感であるが、歯触りのよい食感が得られた。
× : 噛みだしが重く、食感が重たくなっていた。
また、比較例2のように蛋白質含量が乏しい場合、クラスト改質材の水分含量が高まるため、ハードロール生地の表皮部の水分が多くなり、結果として得られるハードロールのクラストが分厚くなってしまうことから、食感を損ねる傾向にあった。
液状油に代えて、パーム油(20℃でのSFCが20.3)を使用(実施例4)、パーム中部油(20℃でのSFCが79.5)を使用(比較例3)、又はパーム核硬部油(20℃でのSFCが73.9)を使用(比較例4)したこと以外は実施例2と同条件で、実施例4、比較例3及び比較例4のクラスト改質材をそれぞれ調製した(表2参照)。
上記で調製した実施例4、比較例3及び比較例4のクラスト改質材のクラスト改質効果を、上述の試験例1と同じ試験方法により試験した。結果を表2に示す。尚、表2には、参考のため、上述の実施例2及びコントロールについても併記する。
また、これらの油脂を用いた場合においては、焼成後、放置して冷却されたハードロールの表面に、油脂の結晶が白い斑点として析出してしまう場合があり、この点においても外観を損ねるものとなっていた。
ハードロールと同様に、デニッシュについても本発明のクラスト改質材の効果を試験した。
デニッシュ生地は、下記の配合・製法に従って調製した。ホイロを終了した後のデニッシュ生地50gに対して、上記実施例1〜3、比較例1及び比較例2のクラスト改質材のいずれかを10g刷毛で塗布して210℃で12分間焼成してデニッシュを得た。
ハードロールと同様に、焼成から1日後に、対角線をとるように半分にカットしたデニッシュの外観を目視で確認し、皮剥れ・亀裂の程度を評価した。同時に食感についても評価を行った。尚、この際の評価は、試験例1と同じ上記評価基準に則って行った。その結果を表3に示す。
強力粉100質量部、食塩1.3質量部、上白糖15質量部、脱脂粉乳3質量部、イースト8質量部、イーストフード0.2質量部、水50質量部、バター5質量部をタテ型ミキサーにて低速2分及び中速6分ミキシングし、ドウ生地を得た。このドウ生地を冷蔵庫内で1晩リタードした後、厚さ10mmに圧延してシート状とし、シート状ロールイン油脂組成物を85質量部積載し、常法によって折り込み(3つ折り3回)、これを成型し(縦10センチ×横10センチ×厚さ4mm)、展板に載せ、32℃、相対湿度85%、60分のホイロを取り、焼成前のデニッシュ生地を得た。
また、クラスト改質材中の蛋白質含量を過度に増加するとクラスト部の損壊、特に亀裂を伴い外観を損ねる結果となる点については、ハードロールと同様であった。また、蛋白質含量が高い比較例1と蛋白質含量が低い比較例2の双方で良好な食感が得られなかったことから、クラスト改質材として歯触りや食感を損ねずにクラスト改質効果を得るためには、蛋白質含量を特定範囲とする必要があることが分かった。
Claims (2)
- 含有される蛋白質と油脂の質量比が1:2.0〜7.5であり、含有される油脂の20℃でのSFCが25未満であり、分離大豆蛋白質含量が2〜10質量%、油脂含量が5〜30質量%であるO/W乳化油脂組成物からなり、ベーカリー生地表面に塗布するためのクラスト損壊抑制材。
- 含有される蛋白質と油脂の質量比が1:2.0〜7.5であり、含有される油脂の20℃でのSFCが25未満であり、分離大豆蛋白質含量が2〜10質量%、油脂含量が5〜30質量%であるO/W乳化油脂組成物を、ベーカリー生地の表面に塗布する、クラスト損壊抑制方法。
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