JP6933834B1 - 新型コロナウイルス感染者の重症化リスクの検査方法、その検査キット、コンパニオン診断薬及びその重症化リスクマーカー - Google Patents
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Abstract
Description
L−FABPは微小血行動態と相関する生理学的特徴を有し、従来、尿中L−FABPは、急性腎疾患(AKI)等の腎尿細管障害の指標として知られている(例えば、非特許文献2〜5)。
本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
前記定量の結果に基づき、SARS−CoV−2感染症(COVID−19)の重症化リスクを検査する方法。
<2>前記定量は、所定日数間隔で少なくとも2回行われる、<1>に記載の方法。
<3>肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質を含む、<1>又は<2>に記載の方法に用いるCOVID−19重症化リスク検査キット。
<4>前記肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質は抗L−FABP抗体である<3>に記載のCOVID−19重症化リスク検査キット。
<5>肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質を含み、<1>又は<2>に記載の方法を用いてCOVID−19に対する治療薬又は予防薬を選定するためのコンパニオン診断薬。
<6>肝型脂肪酸結合タンパク質からなり、<1>又は<2>に記載の方法における定量対象として用いられるCOVID−19重症化リスクマーカー。
また、例えば、SARS−CoV−2陽性患者を待機的に観察する場合など、重症化リスクを早期にトリアージ(リスク分類)できる。
また、本発明によれば、重症化リスクの高い患者のみを鑑別する精度に優れたL−FABPのポイントオブケア(POC)キットとすることができ、陽性待機患者の急変に対応した適切なタイミングでの集中治療室(ICU)転送準備という医療資源の最適化に貢献できる。
また、本発明によれば、退院待ち患者(近隣施設で2週間程度待機後帰宅する症例含む。)の帰宅後に再発するリスクを評価することができる。
L−FABPのアミノ酸配列や遺伝子配列は既に報告されている(Veerkamp and Maatman, Prog. Lipid Res.,34:17−52,1995)。配列番号1は、野生型ヒトL−FABPのアミノ酸配列を表す。
配列表の配列番号1に記載した野生型ヒト肝型脂肪酸結合タンパク質のアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失等による変異タンパク質であっても、その変異が野生型ヒト肝型脂肪酸結合タンパク質の3次元構造において保存性が高い変異であれば、これらは全て肝型脂肪酸結合タンパク質の範囲内に属し得る。
タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものである。実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)又はAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等が挙げられる。
本発明の第1の態様は、被験者(例えば、患者)から採取した尿中のL−FABPを定量する工程を含み、上記定量の結果に基づき、将来的なCOVID−19の重症化リスクを検査する方法である。
後述の実施例に示すように、尿中L−FABP濃度は、腎障害による尿マーカー増加とは無関係に若しくは腎障害による尿マーカー増加量を著しく超える程度に、将来的な重症化リスクが高いほどに高値となり得る。
上記被験者は、SARS−CoV−2の感染又はCOVID−19の罹患が確認済みであってよい。また、上記被験者は、COVID−19の重症化前の被験者(つまり、軽症(無症状を含む。)又は中等症者であり、好ましくは軽症者)であることが好ましい。
上記定量される被験者は、発症から20日以内であることが好ましく、発症から14日以内であることがより好ましく、発症から12日以内であることが更に好ましく、発症から10日以内であることが特に好ましい。
発症からの日数の下限としては特に制限はなく、発症当日でもよく、発症から1日以降でもよく、発症から2日以降でもよい。また、発症前であってもなくてもよい。
ここで、発症とは、病状が現れることをいい、下記(1)〜(8)の8段階の基準に準じて分類される軽症、中等症、重症等の病状が現れることが挙げられる。
本明細書及び本特許請求の範囲において、軽症、中等症、重症等の重症度は、Cao B,Wang Y,Wen D,et al.A Trial of Lopinavir−Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid−19.N Engl J Med.2020.に記載の下記(1)〜(8)の8段階の基準に準じて分類される。
(1)通常の活動の再開により入院していない。
(2)入院していないが、通常の活動を再開できていない。
(3)入院しており、酸素補給を必要としない。
(4)入院しており、酸素補給を必要とする。
(5)入院しており、高流量鼻カニュラ酸素療法、非侵襲的人工呼吸器、又はその両方を必要とする。
(6)侵襲的な人工呼吸器を必要とする。
(7)人工呼吸器及び体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とする。及び
(8)死亡。
すなわち、本明細書及び本特許請求の範囲において、軽症は上記(1)〜(3)の段階をいい、中等症は上記(4)及び(5)の段階をいい、重症は上記(6)〜(8)の段階をいう。
本発明によれば、尿中クレアチニン濃度で補正しない場合、尿中L−FABP濃度のみに基づき、簡便にCOVID−19の重症化リスクを検査することができ、POCキット等簡便なツールにより検査し得る。
尿の濃淡により尿中成分濃度が大きく変動し得る。
本発明において、尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)を使用することにより、尿の濃淡の影響を排除してCOVID−19の重症化リスクを、更に精度よく検査することができる。
検査精度の観点から、軽症者又は中等症者が将来的に重症に重症化するリスクが存在する若しくは高いと鑑別する上記カットオフ値(病態識別値)としては、35ng/ml〜40ng/mlの範囲にあることが好ましく、36ng/ml〜39ng/mlの範囲にあることがより好ましく、37ng/ml〜38ng/mlの範囲にあることが更に好ましい。
また、尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)の場合の上記カットオフ値としては、18μg/gCre〜25μg/gCreの範囲にあることが好ましく、20μg/gCre〜24μg/gCreの範囲にあることがより好ましく、21μg/gCre〜23μg/gCreの範囲にあることが更に好ましい。
上記カットオフ値が上記下限値より低いと、偽陽性が増加し、上記上限値より高いと重症に重症化するリスクのある患者を取りこぼすリスクがある。
軽症者が軽症にとどまり将来的な重症化リスクが存在しない若しくは低いと鑑別する上記カットオフ値としては、例えば、35ng/ml〜30ng/mlの範囲にあることが挙げられ、34ng/ml〜31ng/mlの範囲にあることが好ましく、33ng/ml〜32ng/mlの範囲にあることがより好ましい。
また、尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)の場合の上記カットオフ値としては、12μg/gCre〜7μg/gCreの範囲にあることが挙げられ、11μg/gCre〜8μg/gCreの範囲にあることが好ましく、10μg/gCre〜9μg/gCreの範囲にあることがより好ましい。
上記カットオフ値が上記上限値より高いと重症化する患者をとりこぼすおそれが増し、上記下限値より低いと重症化しない患者を取りこぼすおそれが増す。
また、尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)の場合の上記カットオフ値としては、9μg/gCre〜14μg/gCreの範囲にあることが好ましく、10μg/gCre〜13μg/gCreの範囲にあることがより好ましく、11μg/gCre〜12μg/gCreの範囲にあることが更に好ましい。
上記カットオフ値が上記下限値より低いと、偽陽性が増加し、上記上限値より高いと中等症又は重症に重症化するリスクのある患者を取りこぼすリスクがある。
また、尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)の場合の上記カットオフ値としては、14μg/gCre〜9μg/gCreの範囲にあることが挙げられ、12μg/gCre〜10μg/gCreの範囲にあることが好ましく、11.5μg/gCre〜10.5μg/gCreの範囲にあることがより好ましい。
上記カットオフ値が上記上限値より高いと偽陰性が増加し、上記下限値より低いと重症化しない患者を取りこぼすリスクがある。
上記予測の程度の上限としては特に制限はないが、例えば、30日以下、20日以下、15日以下である。
上記定量は、病態進展、経過監視ないし重症化進行のモニタリングの観点から、所定日数間隔で複数回(好ましくは少なくとも2回、より好ましくは3回以上、更に好ましくは、4回以上)行われることが好ましい。上記定量の回数の上限としては特に制限はないが、例えば、15回以下又は10回以下が挙げられる。
上記定量を複数回行う場合の日数間隔としては、特に制限はないが、3日以上(に1回定量)が挙げられ、4日以上が好ましく、5日以上が更に好ましく、7日以上が特に好ましい。
上記定量を複数行う場合の日数間隔の上限値としては特に制限はないが、例えば、3週間に1回、2週間に1回等が挙げられる。
第1の態様に係る検査方法において、L−FABPの検出ないし定量等の測定方法としては、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光測免疫測定法(ECLIA)、蛍光抗体法(FA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット法(WB)、イムノブロット法などを採用したアッセイ法が挙げられる。L−FABPの検出ないし定量等の測定方法としては、抗L−FABP抗体を用いた測定であることが好ましい。
上記界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が好ましい。
上記変性処理としては、室温(例えば、25℃)もしくは加温条件下(例えば、37℃)にて適切な濃度(例えば、0.2質量/体積%(w/v%)〜10質量/体積%、好ましくは0.4質量/体積%(w/v%)以上、0.5質量/体積%(w/v%)以上、又は0.7質量/体積%(w/v%)以上であってよい。)の界面活性剤により適切な時間(例えば、5〜60分間)処理する方法が挙げられる。
典型的には、1w/v%のSDSにて25℃10分間変性処理することが挙げられる。
認識部位が異なる2種類の抗体としては、一方を、マイクロプレートのウェル中の表面に結合させた固相化抗体として用い、他方を、検出ないし定量のための標識抗体として用いることが好ましい。上記標識抗体における標識としては特に制限はなく、例えば、パーオキシダーゼ標識等の酵素標識、蛍光標識、紫外線標識、放射線標識等が挙げられる。
サンドイッチELISA法を利用したL−FABP測定キットの市販品としては、「レナプロ L−FABP テストTMB」(シミックホールディングス社製)、「レナプロ L−FABP テストHS(高感度)」(シミックホールディングス社製)等が挙げられる。
また、本発明は、第1の態様に係るCOVID−19の重症化リスクの検査方法と、
当該方法で決定した重症化リスク(好ましくは、所定日数以降の重症化リスク)に応じた処置を被験者に施す工程、及び
当該方法で決定した重症化リスク(好ましくは、所定日数以降の重症化リスク)に応じたCOVID−19に対する治療薬又は予防薬を被験者に投与する工程よりなる群から選択される少なくとも1つの工程と
を含むCOVID−19の治療又は予防方法に関するものであっても、上記に関するものでなくてもよい。
本発明の第2の態様は、L−FABPを定量し得る物質を含むCOVID−19重症化リスク検査キットであり、第1の態様に係る検査方法に用いる検査キットであることが好ましく、POCキットであることがより好ましい。
本発明の第3の態様は、肝型脂肪酸結合タンパク質の量を定量し得る物質を含むコンパニオン診断薬であり、第1の態様に係る検査方法で決定した重症化リスク(好ましくは、所定日数以降の重症化リスク)に応じた処置を選定するため、及び/又は上記重症化リスクに応じたCOVID−19に対する治療薬又は予防薬を選定するためのコンパニオン診断薬であることが好ましい。
本発明の第4の態様は、肝型脂肪酸結合タンパク質からなり、第1の態様に係る方法における定量対象として用いられるCOVID−19重症化リスクマーカーである。
本明細書及び特許請求の範囲において、「コンパニオン診断薬」は、上記決定した重症化リスクに応じた個々のCOVID−19患者に対して、行う処置の効果ないしリスク、投与する医薬品(治療薬、予防薬等)の効果、副作用のリスク、適切な投薬量を予測するために、実際に処置、投薬等を開始する前に行う検査で使用される診断薬をいう。
COVID−19治療薬又は予防薬としては上述の通りである。
第3の態様に係るコンパニオン診断薬において、COVID−19重症化リスクの予測、COVID−19発症リスクの予測及びCOVID−19重症化進行のモニタリングよりなる群から選択される少なくとも1種のコンパニオン診断薬がより好ましい。
第2の態様に係る検査キット及び第3の態様に係るコンパニオン診断薬において、L−FABPを定量し得る物質としては、酵素免疫測定法(EIA,ELISA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光測免疫測定法(ECLIA)、ラテックス免疫比濁法(latex−enhanced immunoturbidimetric assay;LTIA)、イムノクロマト法、蛍光抗体法(FA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウェスタンブロット法(WB)、イムノブロット法などに基づいてL−FABP又は酸化型L−FABPを定量する物質が挙げられ、具体的には、抗L−FABP抗体が好ましい。
認識部位が異なる2種類の抗体については≪COVID−19の重症化リスクを検査する方法≫において上述した通りである。
上記定量手段における吸着防止剤の含有量としては本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限はないが、0.05〜10質量%であることが好ましい。
第2の態様に係る検査キットは、上記尿中のL−FABPを界面活性剤により変性処理する手段、及び
上記変性処理後のL−FABPを定量する手段を更に備えていてもいなくてもよい。
上記界面活性剤としては、上述の通りである。
上記変性手段としては、室温(例えば、25℃)もしくは加温条件下(例えば、37℃)にて任意の濃度(例えば、0.2質量/体積%〜10質量/体積%)の界面活性剤により処理する手段(例えば、上記界面活性剤、任意の緩衝液等を含む変性処理液)が挙げられる。
(1)L−FABP抗体固相化マイクロプレート……抗ヒトL−FABPマウスモノクローナル抗体結合ウェル例えば、クローンL産生細胞株由来)
(2)変性処理液(例えば、任意の界面活性剤)
(3)反応緩衝液
(4)酵素標識抗体……パーオキシダーゼ標識抗ヒトL−FABPマウスモノクローナル抗体(例えば、クローン2産生細胞株由来)
(5)酵素基質液
(6)洗浄剤(任意の緩衝液、界面活性剤等)
(7)反応停止液(1N硫酸等)
(8)標準緩衝液(任意の緩衝液等)
(9)肝型脂肪酸結合タンパク質標品
(10)肝型脂肪酸結合タンパク質標品の濃度としては特に制限はなく、例えば、10〜10000ng/mLが挙げられ、50〜5000ng/mLが好ましく、100〜1000ng/mLがより好ましく、200〜800ng/mLが更に好ましく、300〜600ng/mLが特に好ましい。
(タンパク質保存緩衝液)
10mMリン酸バッファー(pH7.2)、150mM NaCl、1.0%BSA、0.1%NaN3
58例のSARS−CoV−2陽性患者のうち軽症者21例、中等症者(酸素吸入)25例、重症者(人工呼吸器装着)12例を対象に、入院時に尿中L−FABP濃度(ng/ml)及び血清クレアチニン濃度(mg/dL)を測定し、入院から1週間後の重症度の鑑別性についてROC解析を行なった。
血清クレアチニン濃度は常法に従って測定した。血清クレアチニン濃度は一般的に腎組織の傷害の指標とされ、糸球体の濾過機能が低下すると血清クレアチニン濃度が増加する。
尿中L−FABP濃度(ng/ml)は以下のようにして測定した。
各々の患者の尿検体を用いて、1w/v%のSDSにて25℃10分間変性処理した後、「レナプロ L−FABP テスト HS(高感度)」(シミックホールディングス株式会社製)の抗体を使用してELISA測定を実施し、標識抗体の発色強度(OD450nm)を測定した。上記検査用キットの使用方法は通常添付されている添付文書に従った測定方法に準じて行った。尿中L−FABP濃度(ng/ml)を測定した。
結果を図1(a)〜(d)に示す。
図1(a)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に重症である患者」の入院時血清クレアチニン濃度のカットオフポイント値(病態識別値)0.92(mg/dL)が得られ、そのときの特異度は69.2%、感度は55.6%であり、また、AUCは60.5%であった。
図1(b)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に軽症である患者」の入院時血清クレアチニン濃度のカットオフポイント値0.8(mg/dL)が得られ、そのときの特異度は50%、感度は87.5%であり、また、AUCは62.1%であった。
図1(c)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に重症である患者」の入院時尿中L−FABP濃度(ng/ml)のカットオフポイント値38(ng/ml)が得られ、そのときの特異度は76.9%、感度は88.9%であり、また、AUCは87%であった。
図1(d)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に軽症である患者」の入院時尿中L−FABP濃度(ng/ml)のカットオフポイント値33(ng/ml)が得られ、そのときの特異度は87.5%、感度は87.5%であり、また、AUCは87.4%であった。
また、尿中L−FABP濃度は、腎障害による尿マーカー増加とは無関係に若しくは腎障害による尿マーカー増加量を著しく超える程度に、将来的な重症化リスクが高いほどに高値となるということができ、腎障害による尿マーカー増加による影響を排除して将来的な重症化リスクを検査することができるといえる。このことは、ウイルス感染症の重症化と腎障害との関係性が既知であることを踏まえると、予想外であった。
重症化する患者のみを鑑別する精度は特に有用であり、入院(つまり、L−FABP測定時)経過10日間のAKI発症2例を除いても、L−FABP濃度の持続的高値がAKIに関連しないCovid−19重症化の新たな指標として有用であることが分かる。
また、図1(e)中、同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットのいずれに対しても、入院時から1週間後の重症度のプロット形(重症:〇、中等症:□、軽症:▽)を付している。
また、図1(e)中、入院時(左)及び入院から1週間後(右)の各時点における重症度をハッチング(模様)で区別している。同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットの同一濃度のプロットにおけるハッチング(模様)を比較することにより入院時から1週間後の重症度の変化が分かる。
また、図1(e)中、カットオフポイント値(重症ケース)は、図1(a)から得られた0.92(mg/dL)であり、カットオフポイント値(軽症ケース)は、図1(b)から得られた0.8(mg/dL)である。
図1(e)に示した結果から明らかなように、入院時の血清クレアチニン濃度と、SARS−CoV−2の重症化に相関があるとはいえないことが分かる。
また、図1(f)中、同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットのいずれに対しても、入院時から1週間後の重症度のプロット形(重症:〇、中等症:□、軽症:▽)を付している。
また、図1(f)中、入院時(左)及び入院から1週間後(右)の各時点における重症度をハッチング(模様)で区別している。同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットの同一濃度のプロットにおけるハッチング(模様)を比較することにより入院から1週間後の重症度の変化が分かる。
また、図1(f)中、カットオフポイント値(重症ケース)は、図1(c)から得られた38(ng/ml)であり、カットオフポイント値(軽症ケース)は、図1(d)から得られた33(ng/ml)である。
図1(f)に示した結果から明らかなように、入院時の尿中L−FABP濃度が、カットオフポイント値38ng/ml以上のプロット(患者)は、1週間後に、軽症から中等症又は重症への重症化する傾向、中等症から重症への重症化する傾向が著しく強いことが分かる。
一方、カットオフポイント値33ng/ml以下のプロット(患者)は、一部の例外を除き、入院時も軽症であり、かつ1週間後も軽症にとどまり、重症化しない又は重症化リスクが低いといえる。
一方、カットオフポイント値0.92mg/dL以上であろうとなかろうと、入院時の血清クレアチニン濃度と重症化との相関は見られないことが分かる。
尿の濃淡の影響を排除すべく、上記実施例1で得られた58例のSARS−CoV−2陽性患者の尿中L−FABP濃度のROC解析結果及び入院時の尿中L−FABP濃度を尿中クレアチニン濃度で補正した。尿中クレアチニン濃度は常法に従って測定した。
結果を図3(c)、(d)及び(f)に示す。
比較参考として、血清クレアチニン濃度(mg/dL)のROC解析結果を示す図1(a)及び(b)を図3(a)及び(b)として、入院時の血清クレアチニン濃度(mg/dL)及び重症度の進行を示す図1(e)を図3(e)としてそれぞれ転記する。
すなわち、図1(a)、(b)及び(e)と、図3(a)、(b)及び(e)とはそれぞれ同一である。
図3(c)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に重症である患者」の尿中クレアチニン濃度で補正した入院時尿中L−FABP濃度(μg/gCre)のカットオフポイント値22(μg/gCre)が得られ、そのときの特異度は84.6%、感度は88.9%であり、また、AUCは92.6%であった。
図3(d)に示したROC解析結果から明らかなように、「入院から1週間後に軽症である患者」の尿中クレアチニン濃度で補正した入院時尿中L−FABP濃度(μg/gCre)のカットオフポイント値9(μg/gCre)が得られ、そのときの特異度は84.4%、感度は93.8%であり、また、AUCは88.3%であった。
すなわち、尿中クレアチニン濃度で濃度補正してもしなくても(すなわち、尿の濃淡の影響を排除してもしなくても)、尿中L−FABP濃度により、精度高く、感度及び特異度も高く、COVID−19の重症化リスクを検査することができるといえる。
また、図3(f)中、同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットのいずれに対しても、入院時から1週間後の重症度の形(重症:〇、中等症:□、軽症:▽)を付している。
また、図3(f)中、入院時(左)及び入院から1週間後(右)の各時点における重症度をハッチング(模様)で区別している。同一の陽性患者に係る左(入院時)のプロット及び右(1週間後)のプロットの同一濃度のプロットにおけるハッチング(模様)を比較することにより入院時から1週間後の重症度の変化が分かる。
また、図3(f)中、カットオフポイント値(重症ケース)は、図3(c)から得られた22(μg/gCre)であり、カットオフポイント値(軽症ケース)は、図3(d)から得られた9(μg/gCre)である。
図3(f)に示した結果から明らかなように、尿中クレアチニン濃度で補正した入院時の尿中L−FABP濃度がカットオフポイント値22μg/gCre以上のプロット(患者)は、1週間後に、軽症から中等症又は重症への重症化する傾向、中等症から重症への重症化する傾向が著しく強いことが分かる。
一方、カットオフポイント値9μg/gCre以下のプロット(患者)は、一部の例外を除き、入院時も軽症であり、かつ1週間後も軽症にとどまり、重症化しない又は重症化リスクが低いといえる。
すなわち、図1(f)に示した尿中クレアチニン濃度で補正しない尿中L−FABP濃度の結果と同様の結果が得られ、尿中クレアチニン濃度で濃度補正してもしなくても、尿中L−FABP濃度により、COVID−19の重症化リスクを検査することができるといえる。
一方、カットオフポイント値0.92mg/dL以上であろうとなかろうと、入院時の血清クレアチニン濃度と重症化との相関は見られないことが分かる。
上記58例のSARS−CoV−2陽性患者について、発症してから入院するまで(濃度測定するまで)の日数(日)に対して、入院時の血清クレアチニン濃度(mg/dL)、尿中NAG(N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ)濃度(U/L)及び尿中クレアチニン濃度で補正した尿中L−FABP濃度(μg/gCre)を、それぞれ、プロットした。
NAGは腎組織細胞中に存在するマーカー酵素であり、尿中NAG濃度(mg/dL)は一般的に腎組織の傷害の指標とされる。尿中のNAG濃度は、文献(日本臨床、第43巻、秋季臨時増刊号、第234-236頁、1985年)記載の方法に準じて測定した。
結果を図5(a)〜(c)に示す。
図中、各プロット(各患者)について入院から1週間後における重症度の形(重症:〇、中等症:□、軽症:▽)及びハッチングを付している。
同様に、図5(b)に示した結果から明らかなように、入院時の尿中NAG濃度と、重症化との相関はみられないことがわかる。
一方、図5(c)に示した結果から明らかなように、発症してから2〜10日以内においては尿中L−FABP濃度を測定するタイミングに依存せず、測定1週間後の重症化リスクを検査し得ることがわかる。
SARS−CoV−2陽性軽症者41名を対象に、入院時に、尿中L−FABPクレアチニン補正値(μg/gCre)、尿中L−FABP濃度(ng/ml)及び血清クレアチニン濃度(mg/dL)を上記と同様に測定した。また、上記軽症者41名の入院から1週間後の重症度(軽症、中等症、及び重症)を鑑別した。
結果を図6(a)〜(c)に示す。
図6中、入院時軽症者41名のうち1週間後も軽症である患者を「mild−mild」と付す。
また、入院時軽症者41名のうち1週間後には中等症になった患者を「mild−moderate」と付す。
また、入院時軽症者41名のうち1週間後には重症になった患者を「mild−severe」と付す。
また、入院時軽症者41名のうち1週間後には中等症になった患者(mild−moderate)は7名であった。
また、入院時軽症者41名のうち1週間後には重症になった患者(mild−severe)は2名であった。
図6(a)に示した結果から明らかなように、上記「mild−mild」の患者の尿中L−FABPクレアチニン補正値の平均値は12.8μg/gCreであるのに対し、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」の患者の尿中L−FABPクレアチニン補正値の平均値は50.9μg/gCreであった。
この結果から、1週間後に中等症又は重症に転じる入院時軽症者の尿中L−FABPクレアチニン補正値は、1週間後も軽症にとどまる入院時軽症者の尿中L−FABPクレアチニン補正値に対して、p値<0.01で有意に高いことが分かる。
図6(b)に示した結果から明らかなように、上記「mild−mild」の患者の尿中L−FABP濃度の平均値は37.9ng/mlであるのに対し、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」の患者の尿中L−FABP濃度の平均値は149.7ng/mlであった。
この結果から、1週間後に中等症又は重症に転じる入院時軽症者の尿中L−FABP濃度は、1週間後も軽症にとどまる入院時軽症者の尿中L−FABP濃度に対して、p値<0.01で有意に高いことが分かる。
図6(c)に示した結果から明らかなように、上記「mild−mild」の患者の血清クレアチニン濃度の平均値は0.84mg/dLであるのに対し、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」の患者の血清クレアチニン濃度の平均値は0.91mg/dLであった。
この結果から、1週間後に中等症又は重症に転じる入院時軽症者の血清クレアチニン濃度と、1週間後も軽症にとどまる入院時軽症者の血清クレアチニン濃度との間に有意差はないことが分かる。
上記「mild−mild」(32名;対照群)に対して、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」(9名;被判別群)の鑑別性に関し、入院時尿中L−FABPクレアチニン補正値(及び比較としての血清クレアチニン濃度)についてROC解析を行なった。結果を図7(a)及び(b)に示す。
図7(a)及び(b)に示したROC解析結果から明らかなように、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」の入院時尿中L−FABPクレアチニン補正値のカットオフ値(感度=特異度となる値)11.228(μg/gCre)が得られ、また、AUCは0.82986(82.986%)と大きいことが分かる。
一方、血清クレアチニンでは、AUCは0.63889(63.889%)にとどまった。
すなわち、入院時に軽症であっても、1週間後には中等症又は重症に重症化するリスクを有する患者を、入院時に尿中L−FABPクレアチニン補正値を測定することにより精度高く、鑑別し得るといえる。
上記「mild−mild」(32名;対照群)に対して、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」(9名;被判別群)の鑑別性に関し、入院時尿中L−FABP濃度(及び比較としての血清クレアチニン濃度)についてROC解析を行なった。結果を図8(a)及び(b)に示す。
図8(a)及び(b)に示したROC解析結果から明らかなように、上記「mild−moderate」及び「mild−severe」の入院時尿中L−FABP濃度のカットオフ値(感度=特異度となる値)32.50ng/mlが得られ、また、AUCは0.84896(84.896%)と大きいことが分かる。
一方、血清クレアチニンでは、AUCは0.63889(63.889%)にとどまった。
すなわち、入院時に軽症であっても、1週間後には中等症又は重症に重症化するリスクを有する軽症患者を、入院時に尿中L−FABP濃度を測定することにより精度高く、鑑別し得るといえる。
Claims (6)
- 被験者から採取した尿中の肝型脂肪酸結合タンパク質を定量する工程を含み、
前記定量の結果が、SARS−CoV−2感染症(COVID−19)の重症化リスクの検査のために用いられるものである、COVID−19重症化リスク検査方法。 - 前記定量は、所定日数間隔で少なくとも2回行われる、請求項1に記載の方法。
- 肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質を含む、請求項1又は2に記載の方法に用いるCOVID−19重症化リスク検査キット。
- 前記肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質は抗L−FABP抗体である請求項3に記載のCOVID−19重症化リスク検査キット。
- 肝型脂肪酸結合タンパク質を定量し得る物質を含み、請求項1又は2に記載の方法を用いてCOVID−19に対する治療薬又は予防薬を選定するためのコンパニオン診断薬。
- 肝型脂肪酸結合タンパク質からなり、請求項1又は2に記載の方法における定量対象として用いられるCOVID−19重症化リスクマーカー。
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