以下、本発明について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。また、以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向、Y方向とする。また、X方向、Y方向、及びZ方向のそれぞれについて、適宜、矢印の先の側を+側(例、+X側)と称し、その反対側を−側(例、−X側)と称す。
[第1実施形態]
第1実施形態に係る単結晶の切断方法について説明する。図1は、本実施形態に係る単結晶の切断方法を示すフローチャートである。本実施形態の単結晶の切断方法は、図1に示すように、単結晶を、ワイヤソー装置を用いて切断することにより、複数の板状の基板に加工する方法である。
まず、一般的なマルチワイヤ切断方法の一実施形態について、図2から図4を用いて概要を説明する。図2から図4は、一般的なアップカット方式のマルチワイヤ切断方法を説明する図である。図2は、単結晶インゴット切断前の構成を説明する図である。図3は、単結晶インゴット切断中の構成を説明する図である。図4は、単結晶インゴット切断後の構成を説明する図である。図2から図4の各図において、(A)は−Y方向から見た概略断面図であり、(B)は+X方向から見た概略側面図である。
一般的なアップカット方式のマルチワイヤ切断方法では、まず、円柱状の単結晶インゴット1(単結晶)を、台座2の下面台座2aおよび側面台座2bにインゴット固定剤4を用いて接着して固定する。次いで、単結晶インゴット1を固定した台座2を、マルチワイヤソー装置MAの内部へ設置する。マルチワイヤソー装置MAの内部には、等間隔に配置された複数のワイヤ5(ワイヤ線)が単結晶インゴット1の上部に配置される(図2参照)。なお、台座2(下面台座2a、側面台座2b)は、切断加工中において、単結晶インゴット1に対しての相対位置が移動しない。
次いで、図3に示すように、砥粒を水と分散剤に配合したスラリー6を連続的に供給する複数のワイヤ5を走行方向(Y方向)に駆動させ、走行方向に駆動している複数のワイヤ5に対して単結晶インゴット1を移動させ徐々に押し当てていく(押し当て)ことで、図3に示すように板状の部分7(以下、「板状部」と称す)が形成される。
次いで、図3に示す押し当てを継続していくことで、最終的に単結晶インゴット1は切断分離され、図4に示すとおり同時一括的に複数の板状の単結晶基板8が形成される。
しかしながら、このような一般的なマルチワイヤ切断方法では、図3の板状部7は、単結晶インゴット1の未切断の部分から厚みが薄い板状の形状で自立した状態となっているため、装置振動などにより板状部7が撓んでしまい、単結晶インゴット1と板状部7の接合部付近に応力が集中し、切断途中においても基板が割れてしまうことがあった。また、図4の単結晶基板8は、インゴット固定剤4により下面台座2aと固定されているだけの状態であり、装置振動あるいは取り出し時の作業振動などにより基板が撓んでしまい、単結晶基板8とインゴット固定剤4の接合部付近には、図2よりも強い応力が集中することにより、高確率で基板が割れてしまうことがあった。
そこで、本発明者は、上記問題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、単結晶の切断の途中で、板状部7を固定することにより、上記した撓みに起因する基板の割れを防止できることを見出した。本実施形態の単結晶の切断方法は、上記知見に基づいて、上記した撓みに起因する基板の割れを防止している。
以下、図1に示す本実施形態の単結晶の切断方法について説明する。なお、以下に説明する本実施形態の単結晶の切断方法は、一例であり、本実施形態の単結晶の切断方法を限定しない。また、図1に示す本実施形態の単結晶の製造方法を説明する際、適宜、図2から図6を参照して説明する。図5及び図6は、本実施形態に係る単結晶の切断方法を説明する図である。図5は、単結晶インゴット切断中の構成を説明する図である。図6は、単結晶インゴット切断後の構成を説明する図である。図5及び図6において、(A)は−Y方向から見た概略断面図であり、(B)は+X方向から見た概略側面図である。
本実施形態の単結晶の切断方法は、図1に示すように、単結晶を、ワイヤソー装置を用いて切断することにより、複数の板状の基板に加工する単結晶の切断方法であって、単結晶の一部を台座に固定することと、台座に固定された単結晶を、ワイヤソー装置により切断することと、切断の途中で、切断により形成された複数の板状の部分を、切断中において台座に固定された単結晶に対して相対位置が移動しない部位に固定することと、を含む。
本実施形態の単結晶の切断方法が適用可能な単結晶インゴット1は、特に限定されない。本実施形態の単結晶の切断方法は、任意の組成、大きさ、形状の単結晶インゴット1に適用できる。
本実施形態の単結晶の切断方法では、まず、図1のステップS1において、単結晶インゴット1を台座2に固定する。ステップS1は、上記した図2の一般的なアップカット方式の場合と同様に実施することができる。以下、本実施形態では、ステップS1の実施形態を、図2に示した台座2を用いる例を説明する。
図2の台座2について、さらに説明する。図2の台座2は、下面台座2aと、側面台座2bと、を備えている。下面台座2aは板状の形状である。下面台座2aは、一方の面において、インゴット固定剤4を介して、円柱状の単結晶インゴット1の円周面の一部を固定(支持)する。下面台座2aにおける円柱状の単結晶インゴット1を固定する側(+Z側)の面には、一対の側面台座2bが設けられている。この一対の側面台座2bは、台座2に固定される単結晶インゴット1の両端面(+X側及び−X側の端面)の近傍に配置されるように設けられている。各側面台座2b(+X側及び−X側の側面台座2b)は、板状の形状である。各側面台座2bは、インゴット固定剤4を介して、円柱状の単結晶インゴット1の両端面の一部を固定することにより支持する。これにより、単結晶インゴット1を確実に台座2に固定することができる。各側面台座2bの上端部(+Z側端部、台座2と反対側の端部)は、台座2に固定される単結晶インゴット1とほぼ同様の高さに設定され、これらは、後に説明するステップS4において不動部位10として用いられる。
本実施形態のステップS1では、図2の台座2を用いて、円柱状の単結晶インゴット1の円周面の一部、及び両端面(+X側及び−X側の端面)を、それぞれ、下面台座2a、側面台座2bに、インゴット固定剤4を用いて固定する。インゴット固定剤4は、単結晶インゴット1の切断中に溶解しない接着剤である。インゴット固定剤4は、例えば、エポキシ系の接着剤である。
なお、ステップS1で用いることが可能な台座2は、上記の例に限定されず、任意である。例えば、ステップS1において、側面台座2bを備えず、下面台座2aのみを備える構成の台座2を用いてもよい。なお、この構成の台座2の場合、単結晶インゴット1は、両端面(+X側及び−X側の端面)を、台座2に固定しなくてもよい。
次に、図1のステップS2において、単結晶インゴット1を固定した台座2を、ワイヤソー装置Mに設置する。本実施形態では、ワイヤソー装置Mが、図2に示したアップカット方式のマルチワイヤソー装置MAである例を説明するが、本実施形態の単結晶の切断方法に用いることができるワイヤソー装置Mは、特に限定されず、任意の構成(方式)のワイヤソー装置を用いることができる。例えば、ワイヤソー装置Mは、上記したアップカット方式の装置でもよいし、ダウンカット方式の装置でもよい。また、ワイヤソー装置Mは、単結晶インゴット1(単結晶)に対してワイヤ5を移動させる方式の装置でもよいし、ワイヤソー装置Mは、ワイヤ5に対して単結晶インゴット1を移動させる方式の装置でもよい。また、ワイヤソー装置Mは、図2のような単結晶インゴット1とワイヤ5との間に砥粒を含む加工液(スラリー6)を供給することによって研磨切断する方式の装置でもよいし、ダイヤモンド等を電着もしくは接着剤等によって固定したワイヤ5により単結晶インゴット1を研磨切断する方式の装置でもよい。
次に、図1のステップS3において、台座2に固定された単結晶インゴット1をマルチワイヤソー装置MAにより切断する。ステップS3は、上記した図3の一般的なアップカット方式の場合と同様に実施することができる。ステップS3では、砥粒を水と分散剤に配合したスラリー6が連続的に供給されるワイヤ5を走行方向(Y方向)に駆動させ、これに単結晶インゴット1における下面台座2に固定した側(−Z側)と反対側(+Z側)の部分を徐々に押し当てることにより、単結晶インゴット1を下面台座2の反対側(+Z側)から鉛直方向(−Z方向)に向けて切断する。ステップS3では、上記のように単結晶インゴット1を切断することにより、複数の板状の部分(板状部7)が形成されていき、最終的に、図6に示すように、単結晶インゴット1は切断分離されて、同時一括的に複数の板状の単結晶基板8が形成される。
次に、図1のステップS4において、図5に示すように、上記ステップS3の切断の途中で、切断により形成された複数の板状の部分(板状部7)を、切断中において台座2に固定された単結晶インゴット1に対して相対位置が移動しない部位10(以下、「不動部位」と称す)に、固定する。なお、ステップS4における「切断の途中」とは、ワイヤソー装置Mによる単結晶インゴット1の切断開始から切断完了までの間を意味し、また、「切断中」とは、ステップS4の完了以降における、ワイヤソー装置Mによる単結晶インゴット1の切断が進行している状態を意味する。
ステップS4の固定は、複数の板状部7を、不動部位10に固定することが可能であれば、特に限定されず、任意の方法(手段)により実施することができる。本実施形態では、ステップS4の固定を、接着剤12を用いて実施する例を説明する。なお、接着剤12を用いる以外のステップS4の例については、後の実施形態で説明する。
接着剤12は、図5に示すように、複数の板状部7のそれぞれの一部同士を接着して固定し、固定した複数の板状部7を不動部位10に連結している。接着剤12は、複数の板状部7のそれぞれの一部に接触して保持する保持部14a(保持部14)と、保持部14aを不動部位10に連結する連結部15a(連結部15)と、を有する。保持部14aは、複数の板状部7のそれぞれの一部同士を、接着により固定する。接着剤12の場合、保持部14aと連結部15aとが一体である。
保持部14aは、接着剤12であるので、図5に示すように、板状部7と板状部7との間に浸透し、板状部7と板状部7とを接着して固定することができる。これにより、複数の板状部7同士を強固に固定することができる。したがって、接着剤12を用いてステップS4を実施する場合、複数の板状部7同士を強固に固定することができる。
保持部14aの位置(接着剤12で複数の板状部7を固定する位置)は、例えば、複数の板状部7のそれぞれの上端部(複数の板状部7における下面台座2a側(−Z側)と反対側(+Z側)の端部)である。複数の板状部7を上記位置で固定する場合、最終的に形成される複数の単結晶基板8を、保持部14aと下面台座2aとにより、単結晶インゴット1の中心軸AX(図5(A)参照)に対して対称な位置から挟み込むので、複数の単結晶基板8を効果的に固定することができる。
なお、接着剤12(保持部14a)で複数の板状部7を固定する位置は、上記の例に限定されず、任意である。例えば、接着剤12(保持部14a)で複数の板状部7を固定する位置は、複数の板状部7におけるワイヤ5の上方(切断の進行方向(−Z方向)と反対側(+Z側))の任意の位置とすることができる。例えば、接着剤12(保持部14a)で複数の板状部7を固定する位置は、ワイヤ5の上方(切断の進行方向と反対の方向)であって、単結晶インゴット1(複数の板状部7)の円周面(側面)を、切断方向(Z方向)及び単結晶インゴット1の中心軸AX(X方向と平行な方向)に対して直交する方向(Y方向)から挟む位置(例、図5(B)における位置P1及び位置P2)でもよい。このように、複数の板状部7のそれぞれを固定する位置(保持部14a(保持部14))は、複数(2以上)であってもよい。
不動部位10は、切断中において台座2に固定された単結晶インゴット1に対して相対位置が移動しない部位である。本実施形態では、不動部位10が、台座2の一部(+X側及び−X側の各側面台座2bの上端)である例を説明する。なお、不動部位10は、台座2の一部に限定されず、任意の部位に設定可能である。不動部位10の他の例については、後に説明する。
本実施形態のように、不動部位10を台座2の一部に設定する場合、ステップS4の固定は、ステップS3の切断後において、切断により形成される複数の単結晶基板8(図6参照)を、複数の単結晶基板8が固定された状態で、マルチワイヤソー装置MAから取り外し可能な構成とすることができる。このように、複数の単結晶基板8を固定した状態でマルチワイヤソー装置MAから取り外し可能となるようにステップS4の固定を実施する場合、切断後に形成される複数の単結晶基板8をマルチワイヤソー装置MAから取り外す際に生じる振動による単結晶基板8の割れを抑制することができる。また、上記構成の場合、後に本実施形態の切断後に形成される複数の単結晶基板8を固定した状態で、次の加工工程等の場所への移動あるいは次の加工工程等の実施等を行うことも可能である。すなわち、上記構成の場合、切断後の作業振動等による基板の割れを抑制することができる。
なお、上記したステップS3の切断後において、切断により形成される複数の単結晶基板8(図6参照)を、複数の単結晶基板8が固定された状態で、マルチワイヤソー装置MAから取り外し可能とすることが可能な構成は、本実施形態の例以外の構成でも実施可能である。
本実施形態では、接着剤12で(連結部15aにより)保持部14aを不動部位10に連結する位置(部位)は、図5に示すように、不動部位10である+X側及び−X側の各側面台座2bの上端部としている。本実施形態では、上記したように、各側面台座2bの上端部が、複数の板状部7の上端と同様の高さに設定されるので、接着剤12の概形を平板状とすることができる。この場合、複数の板状部7の不動部位10への固定を、簡単かつ効果的に実施することができる。なお、接着剤12で(連結部15aにより)保持部14aを不動部位10に連結する位置は、任意である。
接着剤12は、切断中に溶解しない接着剤を用いることができる。中でも、接着剤12は、インゴット固定剤4と同じ成分の接着剤であるのが好ましい。このような接着剤12としては、エポキシ系の接着剤が挙げられる。ステップS1で単結晶インゴット1を台座2に固定する際に用いる接着剤(インゴット固定剤4)と板状部7を固定する接着剤12とが同じ成分である場合、切断後に実施される複数の単結晶基板8(図6(A)参照)からインゴット固定剤4及び接着剤12を除去する処理(図8参照)を、同じ条件で行うことができるので、この除去処理を簡単に実施することができる。なお、接着剤12は、上記の例は、一例であって、その構成(例、形状、大きさ、成分)は任意である。
本実施形態のステップS4は、接着剤12を所定部分に塗布し、硬化するまでに必要な時間だけ放置することで実施する。このように、ステップS4を接着剤12を用いて実施する場合、複数の板状部7の不動部位10への固定を簡単に実施することができる。
なお、ステップS4の固定は、ステップS3の切断進行中に実施してもよいし、ステップS3の切断を一時的に停止して実施してもよい。本実施形態では、ステップS4は、ステップS5に示すように、ステップS3の切断を一時的に停止して行い、複数の板状部7を固定した後、ステップS3の切断を再開する。ステップS4の作業をステップS3の切断進行中に実施する場合、ステップS4の作業は、冷却液や砥粒スラリー(スラリー6)を流動させながらの作業となり、作業性が悪い。このため、ステップS4の作業は、基板の品質に悪影響を与えない範囲においては、本実施形態のステップS5のように、ステップS3の切断を一時停止した上で実施することが好ましい。
ステップS5においてステップS3の切断を一時的に停止する際、ワイヤ5及び単結晶インゴット1を相対的に移動させ、図5(A)に点線で示すように、ワイヤ5を単結晶インゴット1に対して離間させる。本実施形態では、単結晶インゴット1を切断方向(−Z方向)に移動させて、ワイヤ5を単結晶インゴット1に対して離間させる。そして、ステップS5において、ステップS3の切断を再開する際、ワイヤ5が単結晶インゴット1と離間した状態で、ワイヤ5を走行方向(Y方向)に駆動させ且つスラリー6の供給を行ってから、単結晶インゴット1をワイヤ5に押し当てる。これにより、ステップS5における切断の再開を効果的に行うことができる。なお、ステップS5における切断の再開を、上記のように実施するか否かは任意である。
ステップS4の固定は、所定のタイミングで行うのが好ましい。ここで、単結晶インゴット1を切断した部分(板状部7)の切断方向(Z方向)における最大長を切断長L(図3(A)参照)とし、単結晶インゴット1を完全に切断したときの切断方向(Z方向)における最大長を切断全長Lmax(図4(A)参照)と定義する。ステップS4は、切断長Lが、切断全長Lmaxの90%以下を満たすタイミングで行うことが好ましい。ステップS4を実施する際、切断長Lが切断全長Lmaxの90%を超えた段階では、複数の板状部7は、面積が大きいため撓み易い状態となり、割れが発生してしまう場合がある。ステップS4を、上記の条件を満たすタイミングで実施することにより、複数の板状部7の割れを抑制することができる。
なお、本実施形態のステップS4(ステップS5)は、接着剤12がワイヤ5と干渉しないように行う。接着剤12が、板状部7と板状部7との間を流れてワイヤ5と干渉した場合、切断再開時にワイヤ5が切れたり、板状部7が割れたりしてしまうおそれがある。
例えば、上記切断長Lが所定量を超えたタイミングで、ステップS4を実施することにより、接着剤12とワイヤ5との干渉を防止することができる。例えば、ステップS4を切断長Lが、切断全長Lmaxの10%以上を満たすタイミングで実施する場合、接着剤12とワイヤ5との間隔(マージン)を広くとることができるので、接着剤12とワイヤ5の干渉を確実に防止することができ、また、ステップS4をより簡単に実施することができる。
ステップS4(ステップS5)の後、図6に示すように、ステップS3の切断が引き続き実施され、ステップS3の切断が完了する。これにより、単結晶インゴット1は、切断分離され、単結晶基板8が得られる。この切断では、複数の板状部7がステップS4の固定により固定されているので、切断中の機械振動による基板の撓みが低減され、単結晶基板8の割れが防止される。
本実施形態の単結晶の切断方法では、板状部7は未切断の単結晶インゴット1から自立し且つ上記のように固定されるので、装置振動などによる基板の撓みはほとんど発生せず、上記切断中において基板(板状部7)が割れてしまうことはない。また、単結晶インゴット1を切断分離して得られる単結晶基板8は、インゴット固定剤4により下面台座2aに固定されていることに加え、接着剤12により不動部位10である側面台座2bに連結された状態となっていることから、装置振動あるいは取り出し時の作業振動などによる基板の撓みはほとんど発生せず、単結晶基板8が割れてしまうことはない。
以上のように、本実施形態の単結晶の切断方法は、切断中の機械振動による基板(板状部7)の撓みを低減し、単結晶基板8(板状部7)の割れを防止することができる。
また、本実施形態の単結晶の切断方法は、単結晶インゴット1が、タンタル酸リチウム(LiTaO3(LT))、ニオブ酸リチウム(LiNbO3(LN))等の脆性材料である場合、単結晶基板8の割れを抑制する効果が、従来技術に対して、より顕著である。したがって、本実施形態の単結晶の切断方法は、タンタル酸リチウム(LiTaO3(LT))、ニオブ酸リチウム(LiNbO3(LN))等の脆性材料の単結晶インゴット1の切断に、好適に用いることができる。
次に、第1実施形態の単結晶基板の製造方法について説明する。図7は、本実施形態の単結晶基板の製造方法のフローチャートである。図8は、単結晶基板を台座から剥離する処理を説明する図である。
本実施形態の単結晶基板の製造方法は、図7に示すように、本実施形態の単結晶の切断方法を行うことを含む。本実施形態の単結晶基板の製造方法は、本実施形態の単結晶の切断方法を行うことを含むので、切断中の機械振動による基板(板状部7)の撓みを低減し、単結晶基板8の割れを防止することができる。以下、本実施形態の単結晶基板の製造方法の一例を説明する。
本実施形態の単結晶基板の製造方法は、上記した本実施形態の単結晶の切断方法(例、ステップS1からステップS5等)を行った後に、ステップS6において、複数の単結晶基板8を不動部位10に固定した状態で、マルチワイヤソー装置MA(ワイヤソー装置M)から取り外す。例えば、ステップS6では、まず、図6に示す単結晶インゴット1の切断後に形成された複数の単結晶基板8からワイヤ5を引き抜いて外した後、台座2及びステップS4において固定された複数の単結晶基板8を、マルチワイヤソー装置MAから取り外す。この際、単結晶基板8は、台座2及びステップS4において固定されている状態なので、マルチワイヤソー装置MAから取り外す際に生じる振動等による単結晶基板8の割れを抑制することができる。
続いて、図7のステップS7において、複数の単結晶基板8を、台座2及びステップS4において固定した状態で、移動する。この際、単結晶基板8は、台座2及びステップS4において固定されている状態なので、移動の際に生じる振動等による単結晶基板8の割れを抑制することができる。なお、移動先は、任意である。移動先は、例えば、次工程(例、処理、保管)を実施する場所である。本実施形態では、移動先が、次工程である剥離処理を実施する場所であるとして説明する。
続いて、図7のステップS8において、複数の単結晶基板8を、台座2から剥離する(以下、「剥離処理」と称すことがある。)。本実施形態の剥離処理では、複数の単結晶基板8をステップS4で用いた接着剤12から剥離する処理も行う。
例えば、インゴット固定剤4及び接着剤12の剥離は、その種類(成分)にもよるが、例えば、エポキシ系接着剤の場合は、60℃〜100℃の温度にすることで、上記の剥離を実施できる。エポキシ系接着剤の場合は、図8に示すように、剥離槽T中の高温の剥離液LQの中に、複数の単結晶基板8を、台座2及びステップS4において固定した状態で、浸漬することで行われる。上記複数の単結晶基板8を、所定時間上記浸漬することで、インゴット固定剤4及び接着剤12の接着力を低下させて、単結晶基板8を個々に回収することにより、単結晶基板8を得ることができる。この際、単結晶基板8は、台座2及びステップS4において固定されている状態なので、剥離処理の際に生じる振動等による単結晶基板8の割れを抑制することができる。本実施形態では、インゴット固定剤4及び接着剤12の成分が同じであるので、同じ条件で行うことができ、剥離処理を簡単に実施することができる。
以上のように、本実施形態の単結晶基板の製造方法は、切断中の機械振動による単結晶基板8の割れを防止する。また、本実施形態の単結晶基板の製造方法は、切断後のワイヤソー装置Mからの取り外し、切断後の移動あるいは処理等により生じる振動等による単結晶基板8の割れを防止することができる。
なお、ステップS8で得られた単結晶基板8は、例えば、引き続き、その表面のエッチング加工、鏡面加工が施されてもよい。これにより、鏡面加工が施された単結晶基板8を得ることができる。エッチング加工は、例えば、公知の酸などによる化学的エッチング、あるいはシリカなどによる物理的エッチングにより実施される。また、鏡面加工は、例えば、公知のコロイダルシリカなどを用いた機械的研磨法、化学的研磨法、化学物理的研磨法により行われる。
[第2実施形態]
第2実施形態の単結晶の切断方法、単結晶基板の製造方法、及び固定冶具について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。第2実施形態を説明する際、適宜、図1から図10を参照する。図9は、第2実施形態に係る単結晶の切断方法における単結晶インゴット切断中の構成を説明する図である。図10は、第2実施形態に係る単結晶の切断方法における単結晶インゴット切断後の構成を説明する図である。図9及び図10において、(A)は−Y方向から見た概略断面図であり、(B)は+X方向から見た概略側面図である。
本実施形態の単結晶の切断方法は、上記した第1実施形態の単結晶の切断方法におけるステップS4の固定(図1参照)を、接着剤12に代えて、本実施形態の固定冶具Z(図9参照)を用いて行う点が異なっている。
本実施形態の単結晶の切断方法は、図1のステップS1からステップS3を第1実施形態と同様に行う。
本実施形態の単結晶の切断方法では、図1のステップS4は、図9に示すように、複数の板状部7のそれぞれの一部に接触して保持する保持部14b(保持部14)と、保持部14を不動部位10に連結する連結部15b(連結部15)とを備え、保持部14bを不動部位10に連結することにより、複数の板状部7を不動部位10に固定する固定冶具Zを用いて行う。なお、本実施形態では、不動部位10は、第1実施形態と同様に、+X側及び−X側の側面台座2bの上端部に設定されている。
本実施形態の保持部14bは、複数の板状部7のそれぞれの上端部(複数の板状部7における下面台座2a側(−Z側)と反対側(+Z側)の端部)に接触して、複数の板状部7を保持する。保持部14bは、保持部14bが不動部位10に連結されたときに、複数の板状部7のそれぞれの一部を押すことにより、複数の板状部7を保持する。保持部14bが、複数の板状部7を上記位置で保持(固定)する場合、第1実施形態の保持部14aと同様に、複数の板状部7を効果的に固定することができる。保持部14bは、本体部17及び接触部18を備える。本体部17は、X方向(単結晶インゴット1の中心軸AX方向)に延びる板状に形成される。本体部17は、その+X側及び−X側の両端部が、それぞれ、不動部位10である+X側及び−X側の側面台座2bの上端部に連結される。本体部17と不動部位10の連結については、後に連結部15bの部分において説明する。
本体部17における単結晶インゴット1側(図9では−Z側)には、接触部18が設けられる。接触部18は、複数の板状部7と接触する部分である。接触部18は、本体部17と同様の板状に形成される。接触部18は、例えば、樹脂材料で形成される。この樹脂材料は、例えば、弾力性を有するウレタンゴム等の弾性材料である。上記のように、接触部18が樹脂材料(弾性材料)で形成される場合、複数の板状部7を固定する際に生じるおそれがある破損を抑制し、複数の板状部7を固定することができる。
本実施形態の連結部15b(連結部15)は、保持部14b(保持部14)の+X側及び−X側の両端部を、不動部位10である+X側及び−X側の側面台座2bの上端部に連結して固定する。本実施形態の連結部15bは、保持部14bの両端部、締結部材20、貫通孔21、+X側及び−X側の側面台座2bの上端部、及び、ねじ孔22により構成されている。保持部14bの+X側及び−X側の両端部には、それぞれ、締結部材20を挿入可能な貫通孔21が設けられる。また、+X側及び−X側の側面台座2bの上端部には、締結部材20が嵌め合わされて固定されるねじ孔22が設けられる。連結部15bは、貫通孔21に締結部材20を挿入し、締結部材20をねじ孔22に固定することにより、保持部14bを不動部位10に固定する。また、連結部15は、締結部材20をねじ孔22から外すことにより、保持部14bと不動部位10の固定を解除することができる。なお、連結部15bの構成は、上記の例に限定されず、保持部14bを不動部位10に固定することが可能な構成であれば、任意の構成とすることができる。
また、本実施形態のステップS4の固定(固定冶具Z)は、第1実施形態と同様に、ステップS3の切断後において、切断により形成される複数の単結晶基板8(図6参照)を、複数の単結晶基板8が固定された状態で、マルチワイヤソー装置MAから取り外し可能な構成となっている。これにより、本実施形態の単結晶の切断方法は、第1実施形態と同様に、マルチワイヤソー装置MAから取り外す際に生じる振動による単結晶基板8の割れを抑制することができ、また、後に本実施形態の切断後に形成される複数の単結晶基板8を固定した状態で、次の加工工程の場所への移動あるいは次の加工工程の実施等を行うことができ、切断後の作業振動による基板の割れを抑制することができる。
本実施形態のステップS4の固定は、上記した固定冶具Zを設置するだけで実施できるので、簡単且つ迅速に実施することができる。また、ステップS4の固定を上記した固定冶具Zを用いて行う場合、複数の単結晶基板8から固定冶具Zを簡単に外すことができる。また、ステップS4の固定を上記した固定冶具Zを用いて行う場合、後に図11で説明する台座2から複数の単結晶基板8を剥離する処理を、複数の単結晶基板8を固定冶具Zにより固定した状態で実施することができる。
なお、固定冶具Zは、複数の板状部7のそれぞれの一部に接触して保持する保持部14bと、保持部14bを不動部位10に連結する連結部15bとを備え、保持部14bを不動部位10に連結することにより、複数の板状部7を不動部位10に固定することが可能な構成であれば、任意の構成とすることができる。例えば、保持部14bは、複数の板状部7のそれぞれの一部に接触して保持する構成であれば、任意の構成とすることができる。例えば、保持部14bで複数の板状部7を保持(固定)する位置等は、第1実施形態の保持部14aと同様に、複数の板状部7におけるワイヤ5の上方(切断の進行方向(−Z方向)と反対側(+Z側))の任意の位置とすることができる。例えば、連結部15bは、保持部14bを不動部位10に連結する構成であれば、任意の構成とすることができる。なお、固定冶具Zの他の例については、後述する。また、本実施形態における不動部位10は、第1実施形態で説明したように、任意に設定可能である。
なお、本実施形態のステップS4の固定は、第1実施形態と同様に、ステップS3の切断進行中に実施してもよいし、ステップS3の切断を一時的に停止して実施してもよいが、ステップS5に示すように、ステップS3の切断を一時的に停止して実施するのが好ましい。また、本実施形態のステップS4の固定を行うタイミングも、第1実施形態と同様に、切断長Lが切断全長Lmaxの90%以下を満たすタイミングで行うことが好ましい。
上記ステップS4(ステップS5)の後、図10に示すように、ステップS3の切断が引き続き実施され、ステップS3の切断が完了する。これにより、単結晶インゴット1は、切断分離され、単結晶基板8が得られる。この切断では、複数の板状部7がステップS4の固定(固定冶具Z)により固定されているので、切断中の機械振動による基板の撓みが低減され、単結晶基板8の割れが防止される。
本実施形態の単結晶の切断方法では、板状部7は未切断の単結晶インゴット1から自立し且つ上記のように固定冶具Zにより固定されるので、装置振動などによる基板の撓みはほとんど発生せず、上記切断中において基板(板状部7)が割れてしまうことはない。また、単結晶インゴット1を切断分離して得られる単結晶基板8は、インゴット固定剤4により下面台座2aに固定されていることに加え、固定冶具Zにより保持され不動部位10である側面台座2bに連結された状態となっていることから、装置振動あるいは取り出し時の作業振動などによる基板の撓みはほとんど発生せず、単結晶基板8が割れてしまうことはない。このように、本実施形態の固定冶具Zは、本実施形態の単結晶の切断方法に好適に用いることができる。
以上のように、本実施形態の単結晶の切断方法は、切断中の機械振動による基板(板状部7)の撓みを低減し、単結晶基板8の割れを防止することができる。また、本実施形態の固定冶具Zは、本実施形態の単結晶の切断方法に好適に用いることができる。
次に、第2実施形態の単結晶基板の製造方法について説明する。図11は、第2実施形態の単結晶基板の製造方法における単結晶基板を台座から剥離する処理を説明する図である。
本実施形態の単結晶基板の製造方法は、上記した第2実施形態の単結晶の切断方法を行うことを含む。本実施形態の単結晶基板の製造方法は、第2実施形態の単結晶の切断方法を行うことを含むので、切断中の機械振動による基板(板状部7)の撓みを低減し、単結晶基板8の割れを防止することができる。以下、本実施形態の単結晶基板の製造方法の一例を説明する。
本実施形態の単結晶基板の製造方法は、まず、上記した第2実施形態の単結晶の切断方法(例、図1のステップS1からステップS5等)を行う。続いて、図7のステップS6において、第1実施形態と同様に、複数の単結晶基板8を固定冶具Zにより不動部位10に固定した状態で、マルチワイヤソー装置MA(ワイヤソー装置M)から取り外す。この際、単結晶基板8は、ステップS4において固定されている状態なので、マルチワイヤソー装置MAから取り外す際に生じる振動等による複数の単結晶基板8の割れを抑制することができる。
続いて、図7のステップS7において、第1実施形態と同様に、複数の単結晶基板8を、ステップS4により固定した状態で移動する。この際、複数の単結晶基板8は、ステップS4により固定されている状態なので、移動の際に生じる振動等による複数の単結晶基板8の割れを抑制することができる。本実施形態では、移動先が、第1実施形態と同様に、剥離処理を実施する場所であるとして説明する。
続いて、図7のステップS8において、複数の単結晶基板8を、台座2から剥離する(剥離処理)。本実施形態の剥離処理は、第1実施形態と同様に、図11に示すように、剥離槽T中の高温の剥離液LQの中に、複数の単結晶基板8を、台座2及びステップS4において固定冶具Zにより固定した状態で、浸漬することで行われる。上記複数の単結晶基板8を、所定時間上記浸漬することで、ステップS4において固定冶具Zにより固定した状態で、インゴット固定剤4の接着力を低下させて、単結晶基板8を個々に回収することにより、単結晶基板8を得ることができる。この際、ステップS4において固定冶具Zにより固定した状態で、単結晶基板8を個々に回収するので、剥離処理に際に生じる単結晶基板8の割れを抑制することができる。このように、本実施形態の固定冶具Zは、本実施形態の単結晶基板の製造方法に好適に用いることができる。
以上のように、本実施形態の単結晶基板の製造方法は、切断中の機械振動による単結晶基板8の割れを防止することができる。また、本実施形態の単結晶基板の製造方法は、切断後のワイヤソー装置Mからの取り外し、切断後の移動あるいは処理等により生じる振動等による単結晶基板8の割れを防止することができる。また、本実施形態の固定冶具Zは、本実施形態の単結晶基板の製造方法に好適に用いることができる。
[第3実施形態]
第3実施形態について説明する。本実施形態において、上述の実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略あるいは簡略化する。図12及び図13は、第3実施形態に係る固定冶具を示す図である。図12は斜視図である。図13は、+X方向から見た概略側面図である。
上記したように、ステップS4の固定に用いる固定冶具Zは、任意の構成とすることができる。例えば、ステップS4の固定には、図12に示す第3実施形態に係る固定冶具ZAを用いてもよい。この固定冶具ZAは、特願2017−100254号に記載される「押さえ冶具」の複数の例のうちの一例である。なお、上記したステップS4の固定には、上記特願2017−100254号に記載されるすべての「押さえ冶具」の例を用いることができる。
なお、図12及び図13に示す固定冶具ZAは、上記したダウンカット方式のマルチワイヤソー装置MAに用いる例を示すが、この固定冶具ZAはアップカット方式のマルチワイヤソー装置MAにも用いることができる。
以下、本実施形態の固定冶具ZAについて簡単に説明する。固定冶具ZAは、図12に示すように、取り付け部30、端面保持部31、保持部14c(保持部14)、及び保持部15c(連結部15)を備える。
取り付け部30は、単結晶インゴット1を切断するマルチワイヤソー装置MAのスライス台32に取り付け可能に形成されている。本実施形態においては、台座2はスライス台32を介して、マルチワイヤソー装置MAに取り付けられる。
本実施形態において、スライス台32は、不動部位10である。また、本実施形態において、台座2は、上記した下面台座2aに相当し、側面台座2bは備えない。
取り付け部30は、単結晶インゴット1の外側(+X側及び−X側)に配置されるように設けられる。各取り付け部30は、図12に示すように、スライス台32を挟み込むクランプ部30aを備える。クランプ部30aは、ネジ等の締結部材により、スライス台32をY方向から挟み込んで固定することができる。固定冶具ZAは、各取り付け部30のクランプ部30aでスライス台32の下部をY方向から挟みこむことで、マルチワイヤソー装置MAのスライス台32に取り付けられ固定される。これにより、端面保持部31、及び保持部14cがマルチワイヤソー装置MAに対して固定される。
端面保持部31は、単結晶インゴット1の+X側及び−X側(両端側)に設けられ、単結晶インゴット1の両端の端面に接触して支持する。端面保持部31には、単結晶インゴット1に接触する部分(接触部18)に樹脂材料(弾性部材)が設けられる。
各端面保持部31は、接続部34a及び接続部34bにより取り付け部30に接続される。接続部34aは、台座2の対向方向(Z方向)に延びる形状であり、一方の端部(+Z側の端部)が取り付け部30に固定される。接続部34bは、単結晶インゴット1の中心軸AX方向(X方向)に延びる形状であり、一方の端部が接続部34aに接続され、他方の端部が取り付け部30に固定される。接続部34bは、接続部34aに対して、台座2に近接する方向及び台座2から離間する方向(Z方向)に移動可能であり、所定位置に固定可能である。また、接続部34bは、端面保持部31を、接続部34a(取り付け部30)に対して、単結晶インゴット1に対して近接する方向及び単結晶インゴット1に対して離間する方向(X方向)に移動可能に接続し、所定位置に固定する。上記の構成により、各端面保持部31は、単結晶インゴット1に接触する部分の位置、接触させる強さを調整することができる。
本実施形態では、上記した端面保持部31、接続部34a、接続部34b、及び取り付け部30(クランプ部30a)は、次に説明する保持部14c(保持部14)を、不動部位10に連結する連結部15c(連結部15)である。
保持部14c(保持部14)は、第1保持部14c1、及び第2保持部14c2を備える。第1保持部14c1は、自身(第1保持部14c1)と台座2とで複数の板状部7の円周面の一部を挟み込んで押すことにより、複数の板状部7を保持する。第1保持部14c1は、L字状の部材である。第1保持部14c1は、板状部7の円周面と接触する部分が、台座2と対向する側に配置され、単結晶インゴット1の中心軸AX方向(X方向)に延びる形状であり、円周面を台座2と対向する側(−Z側)から挟み込んで、複数の板状部7の円周面の一部を単結晶インゴット1の中心軸方向に押す。
第2保持部14c2は、単結晶インゴット1(板状部7)の中心軸方向(X方向)及び台座2の対向方向(以下「第1方向」と称す。Z方向)に直交する方向(以下「第2方向」と称す。+Y方向、−Y方向)から複数の板状部7の円周面を挟みこんで円周面の一部を押す。第2保持部14c2は、一対で構成されるL字状の部材である。一対の第2保持部14c2は、それぞれ、円周面と接触する部分が、単結晶インゴット1の中心軸方向(X方向)に延びる形状であり、単結晶インゴット1の+Y側及び−Y側に配置される。一対の第2保持部14c2は、単結晶インゴット1(板状部7)の円周面をY方向から挟み込んで、複数の板状部7の円周面の一部を単結晶インゴット1の中心軸方向に押すことにより、複数の板状部7を保持する。
固定冶具ZAの各部は、ネジなどの締結部材により固定することにより組み立てられる。また、固定冶具ZAの各部は、締結部材の固定を解除することにより、各部を個々に分解することが可能である。
本実施形態の固定冶具ZAは、第2実施形態の固定冶具Zに代えて、上記した単結晶の切断方法及び単結晶基板の製造方法に好適に用いることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において各部材の改良、構造の変更を行なってもよい。
以下、本発明の具体的な実施方法を示すため、実施例1〜4、および比較例1を示すが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
[実施例1]
直径150mm、長さ80mmのLT単結晶インゴット1を、図2に示すように、SUS製の下面台座2aおよび側面台座2bに、インゴット固定剤4としてエポキシ系接着剤を用いて接着し、これらをマルチワイヤソー装置MAの内部へ設置した。
マルチワイヤソー装置MA内部には、線径0.18mmφの複数のワイヤ5を0.5mm間隔で等しく配置し、これらのワイヤ5を、図2に示すように、LT単結晶インゴット1の上部に配置した。また、所望の切断面に対しワイヤ5が平行となるよう、LT単結晶インゴット1を配置した。
次に、ワイヤ5にSiC砥粒を分散液へ配合したスラリー6を連続的に供給しながらワイヤ5を走行方向へ駆動させ、これにLT単結晶インゴット1を徐々に押し当てることで切断を開始した。
切断が進行し、板状部7の長さ(切断長L)が、切断全長Lmax(切断長さ)である直径150mmの15mm(10%)まで現出した段階で、マルチワイヤソー装置MAのワイヤ5の駆動、スラリー6の供給およびLT単結晶インゴット1の押し当てを一時的に停止した。このとき板状部7の基板に撓みによる割れは発生していなかった。
次に、図5に示すように、全ての板状部7の端部と両端の側面台座2bの上面とが連結するように、幅10mmで新たにエポキシ系の接着剤12を塗布した。このままの状態で、接着剤12が硬化するまで約7時間放置した。
その後、マルチワイヤソー装置MAのワイヤ5の駆動、スラリー6の供給およびLT単結晶インゴット1の押し当てを再開し、最終的にLT単結晶インゴット1が切断分離されるまで加工を行うことで、厚み0.3mmのLT単結晶基板8を得た。
LT単結晶基板8を下面台座2aおよび側面台座2bとともにマルチワイヤソー装置MAより取り外したところ、LT単結晶基板8には撓みによる割れは発生していなかった。
なお、ワイヤ5による切断を一時停止した箇所の基板面形状を観察したところ、段差は1μm未満であり、LT単結晶基板8の形状品質への影響はなかった。実施例1の条件及び結果を表1に示す。
[実施例2]
LT単結晶インゴット1の押し当てを一時的に停止するタイミングを、板状部7の長さ(切断長L)が、切断全長Lmax(切断長さ)である直径150mmの75mm(50%)まで現出した段階とした以外は、実施例1と同様にして、LT単結晶インゴット1の切断を行い、LT単結晶基板8を得た。
得られたLT単結晶基板8を下面台座2aおよび側面台座2bとともにマルチワイヤソー装置MAより取り外したところ、LT単結晶基板8には撓みによる割れは発生していなかった。また、ワイヤ5による切断を一時停止した箇所の基板面形状を観察したところ、段差は1μm未満であり、LT単結晶基板8の形状品質への影響はなかった。実施例2の条件及び結果を表1に示す。
[実施例3]
LT単結晶インゴット1の押し当てを一時的に停止するタイミングを、板状部7の長さ(切断長L)が、切断全長Lmax(切断長さ)である直径150mmの135mm(90%)まで現出した段階とした以外は、実施例1と同様にして、LT単結晶インゴット1の切断を行い、LT単結晶基板8を得た。
得られたLT単結晶基板8を下面台座2aおよび側面台座2bとともにマルチワイヤソー装置MAより取り外したところ、LT単結晶基板8には撓みによる割れは発生していなかった。また、ワイヤ5による切断を一時停止した箇所の基板面形状を観察したところ、段差は1μm未満であり、LT単結晶基板8の形状品質への影響はなかった。実施例3の条件及び結果を表1に示す。
[実施例4]
LT単結晶インゴット1の押し当てを一時的に停止するタイミングを、板状部7の長さ(切断長L)が、切断全長Lmax(切断長さ)である直径150mmの142.5mm(95%)まで現出した段階とし、また、接着状態が異なる点以外は、実施例1と同様にして、LT単結晶インゴット1の切断を行い、LT単結晶基板8を得た。
切断を一時停止したとき板状部7には撓みによる割れが5%発生しており、特にインゴット中央付近に当たる箇所で割れ率が高かった。また、複数の板状部7は、ほぼ全てが傾倒しており、複数の板状部7は、切断初期に板状となった部分(端部)同士が接触する状態となっていた。このため、板状部7の端部同士が接触したまま、全ての板状部7の端部と両端の側面台座2bの上面が連結するように、幅10mmで新たにエポキシ系の接着剤を塗布した。このままの状態で、接着剤が硬化するまで約7時間放置した。その後、装置のワイヤ線の駆動、スラリーの供給およびLT単結晶インゴットの押し当てを再開した。
得られたLT単結晶基板8を下面台座2aおよび側面台座2bとともにマルチワイヤソー装置MAより取り外したところ、LT単結晶基板8には、切断を一時停止した際に確認された割れ以外は発生していなかった。また、ワイヤ5による切断を一時停止した箇所の基板面形状を観察したところ、段差は1μm未満であり、LT単結晶基板8の形状品質への影響はなかった。実施例4の条件及び結果を表1に示す。
[比較例1]
LT単結晶インゴットを徐々に押し当てることで切断を開始するまでは、実施例1と同様に実施した。切断が進行しても、ワイヤ線による加工を停止することなく、最終的にLT単結晶インゴットが切断分離されるまで加工を継続することで、厚み0.3mmのLT単結晶基板を得た。このときLT単結晶基板は下面台座とインゴット固定剤であるエポキシ系接着剤で固定されているだけで自立しており、特にインゴット中央付近に当たる箇所の単結晶基板は側面台座方向へ大きく傾倒していた。LT単結晶基板を下面台座および側面台座とともに装置より取り外したところ、LT単結晶基板には撓みによる割れが約30%発生しており、特に基板傾倒の大きかったインゴット中央付近で割れ率が高かった。一方、LT単結晶基板の形状品質への影響はなかった。比較例1の条件及び結果を表1に示す。
以上の実施例及び比較例の結果から、本実施形態の単結晶の切断方法は、切断中の機械振動による基板(板状部7)の撓みを低減し、単結晶基板8の割れを防止できることが確認された。
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
例えば、上記した不動部位10は、台座2(例、下面台座2a、側面台座2b)の部位(一部)でもよいし、マルチワイヤソー装置MA(例、台座2を設置(装着)する部分(部位)等)でもよい。また、不動部位10は、上記以外に、台座2、単結晶インゴット1、あるいはワイヤソー装置Mに接続される任意の部材(例、スライス台32)の部位でもよい。
また、例えば、側面台座2bを備えない台座2の場合、側面台座2bと同様の構造を下面台座2aに取り付け可能な構成とすることで、この構成を、(保持部14(14a〜14c)を不動部位10に連結する)連結部15(15a、15b)として機能させることができ、これにより、上記実施形態の単結晶の切断方法等を実施することができる。また、上記構成の場合、側面台座2bと同様の構造を備える連結部15(15a、15b)を有する固定冶具Zとすることができ、また、第1実施形態の接着剤12によるステップS4の固定を実施することもできる。言い換えれば、本実施形態の単結晶の切断方法は、接着剤12を用いてステップS4の固定を実施する際、上記した側面台座2bと同様の構造等の接着剤12以外の部材を用いてもよい。