JP6887891B2 - 筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具 - Google Patents
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一方、着色剤として染料を用いたインキは発色性に優れるため、良好な色調のインキが得られるものの、顔料に比べて筆跡の耐光性が劣り、退色が顕著であった。これは、光の照射によって、染料が化学反応を起こし、分解されるためである。
また、従来の紫外線吸収剤として、無機系紫外線吸収剤として、酸化チタン、酸化亜鉛などがあるが、これらは、ある程度、筆跡の耐光性に優れるが、紫外線の吸収バンドが狭いため、適応吸収波長の範囲が狭く、十分ではない。さらに、無機系紫外線吸収剤自体が、着色しているため、インキの色調に影響してしまい、比重も大きいため、インキ中での分散安定性を考慮する必要があった。
「1.着色剤、有機溶剤、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記ヒドロキシフェニルトリアジン化合物が、一般式(化1)または(化2)であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
3.前記ヒドロキシフェニルトリアジン化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1〜15.0質量%であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記筆記具用油性インキ組成物に、さらに酸化防止剤を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.前記有機溶剤がアルコ−ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.前記筆記具用油性インキ組成物に、さらにポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
7.第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。」とする。
本発明で用いるヒドロキシフェニルトリアジン化合物については、ヒドロキシフェニルを有するトリアジン骨格の化合物であり、400nm未満の波長の紫外線を吸収し、熱に変換するなどして、紫外線を吸収することで、筆跡の耐光性を向上し、インキ中でも安定して存在することが可能である。さらに、芳香環を有することで、筆記先端部での潤滑効果が得られるため、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性に有利に働き、さらに筆跡カスレも抑制し、筆記性を向上しやすく、特にボールペンとした場合は効果的である。
本発明では、筆跡の耐光性をより向上することを考慮すれば、酸化防止剤を用いることが好ましい。これは、紫外線によって光励起された化学種が開裂することによって酸素などのラジカルが生じ、これが色素を劣化させる原因の一つとなるが、酸化防止剤を含有することで、酸素ラジカルなどを効果的に捕獲し、活性酸素を失活させることができるためである。本発明では、これら一連の反応を引き起こす原因をカットできるヒドロキシフェニルトリアジン化合物と、酸化防止剤とを併用することによって、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物で紫外線を吸収しきれなかったとしても、酸化防止剤により、上記のような化学的な効果によって、筆跡の耐光性をより向上させることが可能である。
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。本発明は、着色剤として、染料を用いる場合は、筆跡の耐光性が劣りやすいので、効果的である。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類の造塩染料が挙げられる。また、耐光性を考慮すれば、染料濃度が高い方が、耐光性が良くなる傾向があり、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料は、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料を比べると、染料濃度が低くなるため、本発明のように、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物を用いることが効果的である。
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、インキ中での安定性を考慮して、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。さらに、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいが、これはは、筆跡において、形成された樹脂膜によって、紫外線を遮りやすく、より筆跡の耐光性を向上しやすいためと推測する。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
本発明においては、潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤を用いると、形成される被膜を柔らかくする傾向があり、書き出し性能を改良でき、さらに潤滑性も向上することで、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性を有利に働きやすい。界面活性剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、脂肪酸、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤が好ましい。
尚、HLBは、一般式として、HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)から求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、造塩染料、有機溶剤、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物、酸化防止剤、有機アミン、ポリビニルブチラール、界面活性剤、曳糸性付与樹脂としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP−52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec−1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度20000mPa・sであった。
着色剤(酸性染料と塩基性染料との造塩染料) 10.0質量%
着色剤(塩基性染料と有機酸との造塩染料) 2.0質量%
ヒドロキシフェニルトリアジン化合物(化1) 5.0質量%
酸化防止剤(化4) 5.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 40.5質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)15.0質量%
界面活性剤 1.0質量%
有機アミン 1.0質量%
ポリビニルブチラール 20.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2〜12の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
実施例1〜12および比較例1〜4で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ0.7mm)を回転自在に抱時したボールペンチップを装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の筆記具用油性インキ組成物(0.2g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ(登録商標))に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
退色しない若しくは若干退色する ・・・◎
退色するが、実用上問題ないレベルのもの ・・・○
退色が目立ち、実用上問題になるレベルのもの ・・・×
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
比較例3〜4では、テトラゾール化合物(5員環の複素環式化合物で、環は炭素1個と窒素4個から成る化合物)を用いたため、筆跡の耐光性試験において、退色してしまった。
Claims (6)
- 着色剤、有機溶剤、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物を含んでなり、前記ヒドロキシフェニルトリアジン化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1〜15.0質量%であることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
- 前記筆記具用油性インキ組成物に、さらに酸化防止剤を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 前記有機溶剤がアルコ−ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 前記筆記具用油性インキ組成物に、さらにポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
- 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
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