以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、吊荷であるエレベーター部品として巻上機を述べるが、これは説明のための例示であって、巻上機以外のエレベーター部品でもよい。例えば、制御盤等であってもよい。以下では、吊荷の揚重作業は、既にエレベーターが設置されている建物において、モダニゼーションあるいはリニューアルと呼ばれる改良工事等において行われるものを述べるが、これは説明のための例示であって、エレベーター新設工事に際する揚重作業であってもよい。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、建物8を上下方向に貫通するエレベーターの昇降路12を用い、昇降路12の上部に設けられる機械室14の天井から吊荷16を吊上げて揚重する揚重作業を支援するエレベーターの昇降路内揚重支援装置30を示す図である。なお、昇降路12を利用するために、エレベーターの乗りかごは、揚重作業中の間、一時的に撤去されており、図1には図示されない。また、機械室14の床には吊荷16を通す開口部15が設けられるが、これは揚重作業のために一時的に開けられたもので、揚重作業完了後は元の状態に復元される。以下では特に断らない限り、エレベーターの昇降路内揚重支援装置30を、揚重支援装置30と呼ぶ。
建物8の各階には、エレベーターのための乗場10が設けられる。乗場10には乗降口11が設けられる。昇降路12は、建物8の1階よりもさらに下に延びるピット13を有する。昇降路12には、ピット13の床面から機械室14の床の真下まで延伸する1対のガイドレール18,19が配置される。ガイドレール18,19は、エレベーターの乗りかごの昇降路12内における昇降を案内する案内レールである。
図1において、直交する上下方向と奥行方向と幅方向とを示す。上下方向は、昇降路12が延びる方向であり、ガイドレール18,19の延伸する方向である。建物8の上層階に向かう方向が上方側で、ピット13に向かう方向が下方側である。奥行方向は、建物8の乗場10と昇降路12を結ぶ方向に平行な方向である。幅方向は、乗場10における乗降口11の幅方向に対応する方向で、乗降口11に向かって右方向が右側で、左方向が左側である。以下の図においても同様である。
図1は、(a)において建物8を上下方向と幅方向とを含む平面で昇降路12の断面を示し、(b)において建物8を上下方向と奥行方向とを含む平面で1階の乗場10とその乗降口11を示す。(a)と(b)とは建物8の上下方向に対し互いに直交する平面を示す図である。(a)においては、一対のガイドレール18,19が互いに向かい合うことが示されるが、各乗場10の乗降口11は、紙面の手前側にあって図示されない。
揚重作業には、乗場10から吊荷16を昇降路12内に搬入して機械室14に運び込む作業と、機械室14から吊荷16を昇降路12に降ろして乗場10から運び出す作業の2種類がある。図1では、前者の作業について、(b)に示す乗場10において保守作業員4が吊荷16の昇降路12内への搬入する作業と、(a)に示す昇降路12内で保守作業員4’が吊荷16に揚重支援装置30を取付ける作業、及び、機械室14において保守作業員4’’が吊荷16を運び込む作業が示される。図1で示される作業を含め、揚重作業の具体的な内容については後述する。
揚重作業には、ピット13に設置される作業台20、機械室14の天井に取付けられるチェーンブロック等の揚重機24、揚重機24の操作子25、揚重機24と吊荷16との間に張られる揚重ワイヤ26、吊荷16を運搬する運搬車28が用いられる。これらは、従来技術において一般的に用いられる装置と器具等であるが、これに加えて、吊荷16が昇降路12内で機械室14側から吊上げるときの振れを抑制する装置が用いられる。これらの全体が広義の揚重支援装置であるが、以下では、従来技術において一般的に用いられる装置と器具等を除いて、吊荷16の昇降路12内の振れを抑制する装置を、揚重支援装置30とする。
図2、図3は、揚重支援装置30の構成を示す図である。図2は、昇降路12内で上方側から見た揚重支援装置30の平面図であり、図3は、昇降路12内で奥行方向の乗場10側から見た揚重支援装置30の側面図である。これらの図に、吊荷16である巻上機と、ガイドレール18,19を示す。
吊荷16は、機械室14に設置される巻上機で、その平面形状は、奥行方向に沿った長辺と幅方向に沿った短辺とを有する矩形である。これは説明のための例示であって、吊荷16は、巻上機以外のエレベーター部品であってもよく、また吊荷16の平面形状は矩形以外であってもよい。吊荷16の上面に設けられる取付部17は、揚重ワイヤ26の他端が取り付けられる吊輪状のワイヤ取付部である。揚重ワイヤ26の一端は、機械室14の天井に取付けられる揚重機24のワイヤ懸部に懸けられる。ここで、揚重機24は、これに懸けられる揚重ワイヤ26が昇降路12の上下方向に垂直な平面内のほぼ中心位置を通るように、機械室14の天井における配置位置が設定される。
ガイドレール18,19は、昇降路12の幅方向における左右内壁面側にそれぞれ配置されて、昇降路12内を上下方向に沿って延伸する案内レールであるが、昇降路内揚重作業においては、揚重支援装置30の昇降路12内の上下方向の移動の案内に用いられる。ガイドレール18,19は、上下方向に垂直な断面形状がT字形状を有する部材で、T字の頂部は昇降路12の奥行方向に沿って延び、T字の脚部は昇降路12の幅方向に延びる。昇降路12内において、ガイドレール18,19は、それぞれのT字の脚部が向かい合わされて配置される。上記において、ガイドレール18,19が昇降路12の幅方向に沿って対向するものとしたが、これは説明のための例示であって、昇降路12の仕様によっては、乗降口11を避けて奥行方向に沿って対向する位置にガイドレール18,19を配置するものとしてよい。
揚重支援装置30は、上下方向、奥行方向、幅方向のいずれについても対称形である。図2、図3では、揚重支援装置30の中心位置Oを通り互いに直交する3つの軸を、A軸,B軸,C軸と示す。A軸は、中心位置Oを通り上下方向に平行な軸であり、B軸は中心位置Oを通り幅方向に平行な軸であり、C軸は中心位置Oを通り奥行方向に平行な軸である。揚重支援装置30の形状及び各要素の配置位置は、A軸,B軸,C軸のいずれに対しても軸対称である。揚重支援装置30のB軸は、ガイドレール18,19において互いに向かい合って配置されるそれぞれの脚部の延びる方向を結ぶ方向に揃えて配置される。
揚重支援装置30は、環状枠体部40と吊荷振れ止め部60とを含む。環状枠体部40は、吊荷16の揚重方向に垂直な水平面内で吊荷16の周囲を囲んで吊荷16に着脱可能に取付けられる吊荷支持部材である。吊荷振れ止め部60は、環状枠体部40に接続されると共に、ガイドレール18,19に案内される部材で、環状枠体部40を介して吊荷16の昇降路12内の振れを抑制する。
環状枠体部40は、吊荷16の形状に従った環状穴を有する枠体本体42と、枠体本体42から幅方向に沿って右側及び左側に張り出した張出受部44,45とを含む。吊荷16の平面形状は矩形であるので、枠体本体42は、吊荷16の平面形状に対し、適当な隙間を有する大きさの矩形環状穴を有する矩形枠体である。枠体本体42の矩形枠体には、複数のめねじ穴56が設けられる。複数の固定用ボルト58は、複数のめねじ穴56にそれぞれ噛み合わされ、枠体本体42と吊荷16との間をしっかり固定して枠体本体42と吊荷16とを一体化する。図2の例では、枠体本体42の矩形枠体の2つの長辺部にそれぞれ2つずつ、合計で4つのめねじ穴56が設けられ、環状枠体部40は、4つの固定用ボルト58によって吊荷16と一体化される。枠体本体42の上面のC軸上の2箇所に設けられる取付部41a,41bは、安全確保のために環状枠体部40の取付部17との間に懸けられる落下防止用ワイヤ82(図6参照)を通すワイヤ懸部である。
環状枠体部40の張出受部44,45は、枠体本体42の矩形枠体の長辺のほぼ中央の位置において、C軸に対し対称に張り出した部分である。張出受部44は、C軸に対し右側に張り出した部分であり、張出受部45はC軸に対し左側に張り出した部分である。枠体本体42と張出受部44,45とは一体化して環状枠体部40を形成する。
環状枠体部40には、吊荷振れ止め部60に関連する要素を含むが、これらの関連要素を説明する前に、吊荷振れ止め部60の構成を述べる。
吊荷振れ止め部60は、一対の可動アーム部62,63と、一対の移動棒64,65と、一対の連結板66,67とを有する。各一対は、C軸に対し対称に配置されるので、C軸に対し右側に配置される各要素に偶数番号の符号を付し、左側に配置される要素の符号は、右側に配置される要素の符号に(+1)した奇数番号を付した。以下においても同様である。これらの各一対は、同じ形状と同じ機能を有するので、以下では、特に断らない限り、C軸に対し右側に配置される要素についてその内容を述べる。
可動アーム部62は、回転支持部46に一端が回転自在に支持され、案内部70を他端に有する板状部材である。案内部70は、図2に示すように、ガイドレール18のT字形断面の脚部を両側から挟む溝形状を有する部分である。
移動棒64は、環状枠体部40に対し、揚重方向である上下方向に沿って移動操作可能な棒部材である。移動棒64は、環状枠体部40に設けられる摺動支持穴48によって摺動可能に支持される。
連結板66は、移動棒64と可動アーム部62とを接続する棹状部材である。連結板66の一端と移動棒64とは、支持軸72によって回転自在に支持され、連結板66の他端と可動アーム部62とは、支持軸74によって回転自在に支持される。同様に、連結板67の一端と移動棒65とは、支持軸73によって回転自在に支持され、連結板67の他端と可動アーム部63とは、支持軸75によって回転自在に支持される。
移動棒64と連結板66とは、可動アーム部62を回転支持部46周りに回転させる可動アーム部62の操作部の働きをする。可動アーム部62の操作部は、移動棒64を環状枠体部40に対し上下方向に移動することで、連結板66を介して移動棒64に接続された可動アーム部62を回転支持部46周りに正方向または逆方向に回転させる操作を行う。同様に、移動棒65と連結板67とは、可動アーム部63を回転支持部47周りに回転させる可動アーム部63の操作部の働きをする。可動アーム部63の操作部は、移動棒65を環状枠体部40に対し上下方向に移動することで、連結板67を介して移動棒65に接続された可動アーム部63を回転支持部47周りに正方向または逆方向に回転させる操作を行う。
図3では、可動アーム部62の操作部は、移動棒64を上方側に移動させた状態とし、可動アーム部63の操作部は、移動棒65を下方側に移動させた状態として示す。この例では、可動アーム部62は、移動棒64の上方側への移動操作により、案内部70がガイドレール18に案内される二点鎖線の姿勢状態から回転支持部46周りに実線矢印で示す方向に回転角度θU=90度で回転し、上下方向に平行な実線の姿勢状態にされる。これに対し、可動アーム部63は、移動棒65の下方側への移動操作により、上下方向に平行な二点鎖線の姿勢状態から回転支持部47周りに二点鎖線矢印で示す方向に回転角度θD=90度で回転し、案内部71がガイドレール19に案内される実線の姿勢状態にされる。
可動アーム部63の実線で示す姿勢状態は、揚重支援装置30の幅方向の寸法を延ばして拡げ、案内部71がガイドレール19に案内される状態であるので、これを「広がり姿勢」と呼ぶ。これに対し、可動アーム部62の実線で示す姿勢状態は、可動アーム部62を折り畳むようにして、揚重支援装置30の幅方向の長さを短くする状態であるので、これを「折畳姿勢」と呼ぶ。このように、可動アーム部62の操作部と、可動アーム部63の操作部とは、可動アーム部62と可動アーム部63について、それぞれ、「広がり姿勢」と「折畳姿勢」との間を切換える操作を行う。
環状枠体部40には、吊荷振れ止め部60に関連する要素として、可動アーム部62,63を回転自在に支持する回転支持部46,47と、移動棒64,65を摺動可能に支持する摺動支持穴48,49とを含む。さらに、可動アーム部62,63の案内部70,71の下面を受ける案内部受面50,51を含む。また、可動アーム部62,63を上方側に引き上げる操作を行ったときに、可動アーム部62,63が自重によって下方側に落下することを防止するストッパ部52,53を含む。
回転支持部46,47は、昇降路12の奥行方向に平行な軸で、可動アーム部62,63の回転穴に通される。可動アーム部62,63はそれぞれ、回転支持部46,47の軸周りに図3において実線矢印または二点鎖線矢印で示す方向に回転角度=90度で回転できる。
摺動支持穴48,49は、移動棒64,65の外径より大きめの内径を有し、上下方向に沿った穴で、移動棒64,65は、それぞれ摺動支持穴48,49に沿って上下方向に移動可能である。
案内部受面50,51は、環状枠体部40における上面で、上下方向であるガイドレール18,19の延伸方向に垂直な平面である。この上面は平坦面に加工され、可動アーム部62,63が回転してガイドレール18,19に垂直な広がり姿勢となったときに、可動アーム部62,63の先端の案内部70,71の下面を受ける。回転支持部46,47は、この案内部受面50,51から突き出して設けることができる。
ストッパ部52,53は、移動棒64,65が上方側に引き上げられたときに、移動棒64,65の摺動支持穴48,49に対する位置を固定し、必要に応じてその固定を解除する機構である。可動アーム部62,63を広がり姿勢から折畳姿勢に移すために移動棒64,65を上方側に引き上げても、そのままでは自重によって移動棒64,65が下方に落下する。これを避けるための1つの方法は、移動棒64,65の移動を操作する保守作業員4’,4’’が移動棒64,65を手で保持し続けることであるが、ストッパ部52,53を用いることで、保守作業員4’,4’’の上記の負荷をなくすことができる。かかるストッパ部52,53としては、電気駆動によって移動棒64,65の位置を固定する状態と移動可能な状態との間で切換える電気駆動式の小型モータ、またはプランジャ型のアクチュエータ等が用いられる。あるいは、係合やラッチ及びその解除による機械的機構を用いることができる。機械的機構を用いるストッパ部の例については後述する。
ここで、図1で述べた乗場10における保守作業員4の作業、昇降路12内における保守作業員4’の作業、機械室14における保守作業員4’’の作業を含め、揚重支援装置30を用いる揚重作業の手順を述べる。図4は、昇降路12の下層階側から吊荷16を機械室14内に運び込む揚重作業の手順を示すフローチャートである。
まず、吊荷16が昇降路12内に搬入される(S10)。この作業は、図1では、保守作業員4が吊荷16を運搬車28に乗せて、建物8の1階の乗場10の乗降口11に向かう状態で示される。
昇降路12内では、すでに乗りかごが撤去され、機械室14の床には開口部15が開けられ、ピット13には作業台20が設置される。作業台20は、吊荷16と揚重支援装置30と保守作業員4’が載せられても十分な広さと支持強度を有し、床面が建物8の1階の乗場10の床面の高さに揃えられる。そこへ、1階の乗場10の乗降口11から、吊荷16を載せた運搬車28が運び込まれる。
次に、吊荷16に、揚重支援装置30が被せられる(S12)。図5にその内容を示す。作業台20には、可動アーム部62,63が折畳姿勢とされた揚重支援装置30が予め搬入される。可動アーム部62,63が折畳姿勢を維持するように、ストッパ部52,53は、移動棒64,65の位置を固定状態にする。図5では、ストッパ部52,53の固定用可動子54,55が移動棒64,65側に設けられた係合穴等の係合部に係合して移動棒64,65の移動が固定され、これによって可動アーム部62,63が折畳姿勢を維持する。
揚重支援装置30の2つの取付部41a,41bには、それぞれ取付ワイヤ80a,80bが懸けられ、一本化されて揚重ワイヤ26に接続され、機械室14の揚重機24によって作業台20の上方側の適当な高さに吊り上げられる。運び込まれた吊荷16は、揚重ワイヤ26に吊上げられている揚重支援装置30の真下で、環状枠体部40の矩形環状穴のほぼ中央の位置に配置される。環状枠体部40の矩形環状穴の中央の位置は、2本の取付ワイヤ80a,80bが一本化されて接続される揚重ワイヤ26が機械室14から垂れ下がっている位置である。その状態で、機械室14の揚重機24を操作して揚重支援装置30を吊荷16に被せるように降下させ、吊荷16を環状枠体部40の矩形環状穴の中に通す。
図4に戻り、吊荷16が環状枠体部40の矩形環状穴の中に配置されると、吊荷16と環状枠体部40とを互いに固定する(S14)。固定には、環状枠体部40に設けた4つのめねじ穴56と、これらに対応する4つの固定用ボルト58を用いる。吊荷16は、環状枠体部40の矩形環状穴のほぼ中央の位置に配置されているが、これをさらにできるだけ正確に中央の位置とする位置決めをしながら、4本の固定用ボルト58のそれぞれの締付量を調整して、吊荷16の4つの側面をしっかり保持して固定する。
吊荷16と揚重支援装置30との間の位置決め及び固定が済むと、揚重ワイヤ懸けが行われる(S16)。まず、揚重支援装置30の取付部41a,41bに懸けられていた取付ワイヤ80a,80bを揚重ワイヤ26から外す。そして、吊荷16の上面に設けられる取付部17に揚重ワイヤ26を掛け直す。揚重支援装置30の取付部41a,41bと吊荷16の上面に設けられる取付部17との間には、適当な落下防止用ワイヤ82が懸けられる。取付ワイヤ80a,80bを落下防止用ワイヤ82に利用してもよい。揚重ワイヤ26と落下防止用ワイヤ82が懸けられた状態を図6に示す。
図4に戻り、揚重ワイヤ26が吊荷16に懸けられると、可動アーム部62,63を広がり姿勢にする(S18)。この処理は、ストッパ部52,53の操作端末を用いて、ストッパ部52,53の固定用可動子54,55が移動棒64,65の係合部に係合している状態を外す。これによって移動棒64,65が自重によって下方に移動し、連結板66,67を介して可動アーム部62,63が回転支持部46,47周りに回転する。回転は、可動アーム部62,63の先端の案内部70,71の下面がそれぞれ案内部受面50,51に当接して止まる。このとき、案内部70,71は、それぞれの溝形状がガイドレール18,19のT字形断面の脚部を両側から挟むように配置される。これによって、揚重支援装置30は、ガイドレール18,19に案内される状態になる。案内部70,71の溝形状と、ガイドレール18,19のT字形断面の脚部との間の配置関係が適切でない場合は、固定用ボルト58を緩めて、S14の処理をやり直す。可動アーム部62,63が広がり姿勢となり、それぞれの案内部70,71がガイドレール18,19によって案内される状態を図7に示す。
なお、図1は、保守作業員4’が作業台20の上でS18の作業中の状態を示し、可動アーム部63を広がり姿勢としたが、可動アーム部62はまだ折畳姿勢である。また、図3も、可動アーム部63が広がり姿勢、可動アーム部62が折畳姿勢の状態を示している。
図4に戻り、作業台20の上で揚重支援装置30の可動アーム部62,63が広がり姿勢となると、吊荷16の吊り上げが行われる(S20)。具体的には、機械室14の保守作業員4’’が揚重機24の操作子25を操作して、揚重ワイヤ26を上方側に引き上げる。図1には、ピット13の作業台20と、機械室14の床の開口部15との中間時点において、吊荷16が揚重支援装置30に固定されてガイドレール18,19に案内されながら昇降路12内を上方側に移動する状態を示す。この状態は、可動アーム部62,63が広がり姿勢であり、図7に示す状態であり、吊荷16はガイドレール18,19に案内されて昇降路12内を移動する。したがって、吊荷16の昇降路12内での振れが抑制され、昇降路12内壁面、及び昇降路12に設けられる各種配線、各種設備機器等を損傷することがない。
吊荷16が昇降路12内で上昇を続けて、機械室14の床に開けられた開口部15の手前まで来ると、可動アーム部62,63を広がり姿勢から折畳姿勢に変更する(S22)。昇降路12の幅方向に沿った揚重支援装置30の寸法は、広がり姿勢よりも折畳姿勢の方が小さい。したがって、折畳姿勢に変更することで、開口部15の寸法がガイドレール18,19の向かい合う距離よりも小さくても、揚重支援装置30に固定された吊荷16は開口部15を通り抜けて機械室14に運び込むことができる。
S22の作業は、機械室14において保守作業員4’’が開口部15から昇降路12内を見て、広がり姿勢の揚重支援装置30に固定された吊荷16が上昇し移動棒64,65が開口部15から把持できる状態となった時点で、揚重機24の動作を止める。そして、保守作業員4’’は、移動棒64,65を手で把持し、上方側に移動させる。移動棒64,65の上方側への移動により、連結板66,67を介して可動アーム部62,63が回転支持部46,47周りに回転し、折畳状態になる。折畳状態になれば、ストッパ部52,53を操作して、移動棒64,65の位置を固定する。ストッパ部52,53の操作後は、保守作業員4’’による移動棒64,65の把持がなくても、移動棒64,65は自重で下方側に落下することがなく、可動アーム部62,63は折畳姿勢を維持する。その後、保守作業員4’’は揚重機24の操作子25を操作して、揚重ワイヤ26を上方側に引き上げ、揚重支援装置30に固定された吊荷16を機械室内に搬入する(S24)。この状態は、可動アーム部62,63が折畳姿勢で、図6で述べた状態である。
これで、吊荷16は昇降路12内を利用して機械室14内に運び込まれたので、揚重支援装置30を吊荷16から外し(S26)、吊荷16である巻上機を機械室14内に設置する(S28)。S28には機械室14の床に開けられた開口部15の復元が含まれる。S26とS28の処理順序は逆にしてもよく、同時並行的に進めてもよい。
図4では、乗場10から吊荷16を昇降路12内に搬入して機械室14に運び込む作業の手順について述べた。図8は、機械室14から吊荷16を昇降路12に降ろして乗場10から搬出する作業の手順を示すフローチャートである。多くの手順は、図4で述べた内容と同様であるので、以下では、図4と異なる手順の内容を主に述べる。
まず、機械室14において、運び出すエレベーター部品を特定し、吊荷16に設定する(S30)。ここでは、図4と同様に、巻上機を吊荷16に設定する。機械室14には、可動アーム部62,63が折畳姿勢とされた揚重支援装置30が予め搬入される。搬入された揚重支援装置30は、可動アーム部62,63が折畳姿勢を維持するように、ストッパ部52,53によって移動棒64,65の位置が固定状態にされる。なお、昇降路12内では、すでに乗りかごが撤去され、機械室14の床には開口部15が開けられ、ピット13には作業台20が設置され、その上に運搬車28が配置される。
次に、吊荷16に、揚重支援装置30が被せられる(S32)。この内容は、図4のS12、図5で述べた内容と同じであるので、詳細な説明を省略する。そして、吊荷16に環状枠体部40を固定する(S34)。この内容は、図4のS14で述べた内容と同じであるので、詳細な説明を省略する。次に、揚重ワイヤ懸けが行われる(S36)。この内容は、図4のS16で述べた内容であるので、詳細な説明を省略する。S36の処理手順が終了した状態は、図6と同様であるので、詳細な説明を省略する。
そして、吊荷16の降下が行われる(S38)。具体的には、機械室14の保守作業員4’’が揚重機24の操作子25を操作して、揚重ワイヤ26を下方側に繰り出す。このときの状態は、可動アーム部62,63が折畳姿勢で、図6で述べた状態である。したがって、開口部15の寸法がガイドレール18,19の向かい合う距離よりも小さくても、揚重支援装置30に固定された吊荷16は開口部15を潜り抜けて昇降路12に入ることができる。
機械室14の床に開けた開口部15を通した後、可動アーム部62,63を広がり状態に変更する(S40)。この手順は、広がり姿勢に変更する時点が異なるが、それ以外は図4のS18の内容と同様である。すなわち、保守作業員4’’がストッパ部52,53の操作端末を用いて、ストッパ部52,53の固定用可動子54,55が移動棒64,65の係合穴に係合している状態を外す。これによって移動棒64,65が自重によって下方に移動し、連結板66,67を介して可動アーム部62,63が回転支持部46,47周りに回転する。回転は、可動アーム部62,63の先端の案内部70,71の下面がそれぞれ案内部受面50,51に当接して止まる。このとき、案内部70,71は、それぞれの溝形状がガイドレール18,19のT字形断面の脚部を両側から挟むように配置される。これによって、揚重支援装置30は、ガイドレール18,19に案内される状態になる。
そして、吊荷16の降下を継続する(S42)。この状態は、可動アーム部62,63が広がり姿勢であり、図7で述べた状態であり、吊荷16はガイドレール18,19に案内されて昇降路12内を移動する。したがって、吊荷16の昇降路12内での振れが抑制され、昇降路12及び昇降路12に設けられる各種配線、各種設備機器等を損傷することがない。
吊荷16が昇降路12内を降下して、1階の付近まで来ると、ピット13内に設置された作業台20の上に運搬車28が配置されているので、運搬車28に吊荷16が着荷する(S44)。
これで、吊荷16は昇降路12内を利用して機械室14内から運搬車28の上に運び出されたので、保守作業員4’は揚重支援装置30を吊荷16から外し(S46)、運搬車28に吊荷16を載せて、1階の乗降口11から1階の乗場10に搬出する(S48)。その後、機械室14の床に開けられた開口部15の復元が行われる。
上記のように、揚重支援装置30を用いることで、建物8を上下方向に貫通する昇降路12を用いて吊荷16を揚重するときに、吊荷16の振れを抑制できるので、昇降路12の内壁面、昇降路12内に設けられる各種配線や、各種設備機器の損傷を防止できる。
上記では、ストッパ部52,53として、電気駆動によって移動棒64,65の位置を固定する状態と移動棒64,65が移動可能な状態との間で切換える電気駆動式を述べた。図9は、保守作業員4’’の作業のみで移動棒64,65の位置を固定する状態と移動棒64,65が移動可能な状態との間で切換える機械的機構を用いたストッパ部90を示す図である。
図9は、ストッパ部90によって移動棒64が位置固定されている状態を示す図である。ストッパ部90においては、移動棒64に切欠き部92が設けられる。切欠き部92は、位置固定用の段差部94と、移動棒64の側面に沿って段差部94から下方側に傾斜する傾斜部96を有する。張出受部44には、予め定めた位置に回転中心98が設けられ、回転中心98周りに回転可能な係合部100が設けられる。係合部100は、切欠き部92に係合可能な爪部102を先端に有する。さらに、回転中心98に対し爪部102と反対側の係合部100の端部に接続される時間遅れ復元部104を備える。時間遅れ復元部104は、弾性ばねと異なり、爪部102が移動棒64の側面から受ける外力に対する係合部100の回転に時間遅れを与える素子である。一般的には、ダンパを用いることができる。ダンパに代えて粘弾性材料で構成された素子を用いることができる。ここでは、外力を受けると縮小するが、外力を外しても元の形状にすぐに戻らず、時間をかけてゆっくりと戻るポリウレタン樹脂で構成される素子を時間遅れ復元部104に用いる。
図10は、ストッパ部90の作動図である。図10(a)は、移動棒64を上方側に引き上げた状態を示す図である。切欠き部92には傾斜部96があるので、係合部100の爪部102はこの傾斜部96に沿って段差部94から外れ、移動棒64において切欠き部92よりも下方側の側面上に乗り上げる状態となる。このとき、時間遅れ復元部104は、白抜矢印で示す外力をうけて、縮小した形態の時間遅れ復元部105となる。図10(b)は、(a)の後で移動棒64を下方側に押し下げた状態を示す図である。このとき、係合部100の爪部102は、移動棒64の切欠き部92を通過することになるが、その通過時間を短時間で済ますように移動棒64を素早く下方側に押し下げる。通過時間が時間遅れ復元部104の復元時間よりも十分短ければ、係合部100の爪部102は切欠き部92に引っかからずに通過し、移動棒64において切欠き部92よりも上方側の側面上に乗り上げる。これにより、ストッパ部90は、移動棒64を固定状態から移って移動可能状態となる。
ストッパ部90を用いることで、保守作業員4’’の移動棒64の引き上げとその後の素早い押し下げの操作によって、移動棒64を、位置固定の状態から、移動可能な状態とすることができる。
図11は、別のストッパ部110を示す図である。図11は、ストッパ部110によって移動棒64が位置固定されている状態を示す図である。図11(a)は全体図で、(b),(c)は、(a)でBと示す部分の拡大図である。ストッパ部110においては、移動棒64に突起部112が設けられ、張出受部44には、予め定めた位置関係で、回転中心114と搖動中心116が設けられる。
回転中心114には、第1ギヤ120と第2ギヤ140とが同軸上で軸方向に所定の間隔を置いて配置される。また、第1ギヤ120と第2ギヤ140の回転方向を一方向とするラッチ部124が配置される。第1ギヤ120と第2ギヤ140は一体となって回転中心114周りに、図11(a)に回転矢印で示す一方向に回転する。第2ギヤ140は、第1ギヤ120に比べ歯数が少なく、歯先を結ぶ歯先円の直径が大きい大径歯部142を有する。第1ギヤ120は、第2ギヤ120に比べて歯先円の直径が小さい小径歯部122を有する。図11(a)では、大径歯部142の歯数=3として、3つの大径歯部142a,142b,142cを示し、小径歯部122の歯数=6として、6つの小径歯部122a,122b,122c,122d,122e,122fを示す。回転中心114の位置は、移動棒64が上下方向に移動したとき、第2ギヤ140の大径歯部142が移動棒64の突起部112に懸るが、第1ギヤ120の小径歯部122は移動棒64の突起部112に懸らない位置に設けられる。
搖動中心116には、第1ギヤ駆動片130が設けられる。第1ギヤ駆動片130は、移動棒64に向かい合う一端部132と、第1ギヤ120に向かい合う他端部134とを有する。搖動中心116から一端部132の延伸する方向と、他端部134が延伸する方向とは、ほぼ直交する。一端部132の先端部133は、移動棒64が上下方向に移動するとき突起部112に接触する。他端部134の先端部135は、他端部134の延伸する方向が移動棒64の上下方向の移動方向に平行のときに、第1ギヤ120の隣接する小径歯部122の間に配置される。図11(a)では、第1ギヤ120の隣接する小径歯部122b,122cの間に他端部134の先端部135が配置される。
第1ギヤ駆動片130の一端部132と他端部134は、図11(b),(c)に示すように、蝶番状の板ばね136と、復元ばね138とで接続される。この構造は、他端部134が一方向にのみ回転する第1ギヤ120の小径歯部122によって搖動中心116周りの搖動が制限されたときでも、移動棒64の突起部112の移動によって一端部132は搖動中心116周りに搖動できるようにするためである。図11(b)は、一端部132と他端部134とが一体となって搖動中心周りに搖動する状態を示す。(b)は、他端部134の搖動が制限されるが一端部132は突起部112の移動に従って搖動するときに、蝶番状の板ばね136と復元ばね138の作用により、一端部132と他端部134とが互いに角度θの傾きを有する状態を示す。
図12から図14は、ストッパ部110が移動棒64の位置を固定する図11の状態から移動棒64が上下方向に移動可能な状態にするときの作動図である。図12は、図11の状態から移動棒64を上方側に引き上げた状態を示す図である。このとき、移動棒64の突起部112は、第1ギヤ駆動片130の一端部132の先端部133を上方側に移動させる。これにより、他端部134の先端部135は、第1ギヤ120の小径歯部122bを図12に示す回転矢印の方向に回転させようとする。しかし、第1ギヤ120はラッチ部124の作用によって一方向にのみ回転可能で、図12の回転矢印の方向には回転できない。そこで、図11(c)に示す状態となり、他端部134は搖動中心116周りには搖動しないが、一端部132は搖動中心116周りに搖動する。これにより、移動棒64の突起部112は、第1ギヤ駆動片130によって動きが妨げられずに、第1ギヤ駆動片130の一端部132の先端部133よりさらに上方側に移動できる。このとき、第1ギヤ120、第2ギヤ140は、回転しない。
図13は、図12によって移動棒64の突起部112が第1ギヤ駆動片130の一端部132の先端部133よりさらに上方側に移動した後、移動棒64が下方側に押し下げられた状態を示す図である。このとき、移動棒64の突起部112は、第1ギヤ駆動片130の一端部132の先端部133を下方側に移動させる。これにより、他端部134の先端部135は、第1ギヤ120の小径歯部122cを図13に示す回転矢印の方向に回転させる。このとき、この回転方向は、ラッチ部124によって妨げられない方向であるので、第1ギヤ120は、小径歯部122の1ピッチ分、一方向に回転して止まる。第2ギヤ140は、第1ギヤ120の半分の歯数であるので、大径歯部142の半ピッチ分一方向に回転して止まる。
図14は、図12の移動棒64の上方引き上げ、図13の移動棒64の下方押し下げを行った後の状態を示す図である。図14に示すように、第2ギヤ140の大径歯部142は、移動棒64の突起部112の移動に干渉しない。したがって、移動棒64は、位置が固定された図11の状態から、移動可能な状態となる。図11から図14の例では、移動棒64の1回の引き上げと1回の押し下げで、移動棒64が位置固定の状態から、移動可能な状態となった。第1ギヤ120の小径歯部122、第2ギヤ140の大径歯部142の設定によっては、1回の引き上げと1回の押し下げではまだ第2ギヤ140の大径歯部142が移動棒64の突起部112の移動に干渉していることが生じ得る。そのときは、複数回の引き上げと同数の押し下げを行うことで、第2ギヤ140の大径歯部142と移動棒64の突起部112の移動との間の干渉を解消できる。このように、ストッパ部110を用いることで、保守作業員4’’の移動棒64の引き上げと押し下げの操作によって、移動棒64を、位置固定の状態から、移動可能な状態とすることができる。