以下、添付図面を参照しつつ、本発明における炊飯器の好ましい実施例を説明する。
炊飯器全体の構成を図1に基づいて説明すると、1は有底状の本体、2は本体1の上面開口を開閉自在に覆う蓋で、これらの本体1と蓋2により炊飯器の外郭が形成される。蓋2の後部には本体1との連結部となるヒンジ3が設けられており、蓋2の前部上面に設けたフックボタン4を押動操作することで、蓋2と本体1との係合が解除され、蓋2がヒンジ3を回転中心として自動的に開く構成となっている。
本体1には、有底筒状で非磁性材料などからなる鍋収容体5が形成され、この鍋収容体5には、米や麦などの穀物や水を含んだ被炊飯物を収容する有底筒状の内釜となる鍋6が着脱自在に設けられる。鍋6は、その側面がR状に湾曲し、且つ上端開口よりも中央胴部が広い面積を有するいわゆる丸釜形状となっており、鍋6の上端周囲には、外周側に延出する円環状のフランジ部7が形成される。フランジ部7は、鍋収容体5に鍋6を収容したときに鍋収容体5の上面に載置され、鍋収容体5と鍋6との間に隙間を形成した状態で、鍋6が鍋収容体5に吊設されるようになっている。ここでの鍋6は、熱伝導性の良いアルミニウムを主材料とした母材8の外面に、フェライト系ステンレスなどの磁性金属材料からなる発熱体9を接合して構成される。
11は、鍋6の発熱体9を電磁誘導加熱する加熱コイルである。加熱コイル11は、鍋6の発熱体9に対向して、導体であるリッツ線を螺旋状に巻回して構成される。これにより、加熱コイル11に高周波電流を供給すると、加熱コイル11から発生する交番磁界によって鍋6の発熱体9が発熱し、炊飯時や保温時に鍋6ひいては鍋6内の被炊飯物が加熱される。
鍋収容体5の底部中央に設けた開口部には、鍋6の外面底部と弾発的に接触するように、内釜温度検知手段としての鍋温度センサ12が配置される。鍋温度センサ12は、鍋6の温度を検知するもので、加熱コイル11による鍋6の底部の加熱温度を主に温度管理する構成となっている。
蓋2の上面には、蓋開操作体としてのフックボタン4の他に、表示部15や操作部16を含むパネルとしての操作パネル17や、被調理物への加熱に伴い鍋6内部で発生した蒸気を、炊飯器の外部に放出するための蒸気口19などがそれぞれ配設される。また、蓋2の下側には、蓋2の下部部材としての内蓋組立体21が配設される。内蓋組立体21は、内鍋6の上方開口部とほぼ同径の円盤状を有する金属材料からなる内蓋22と、鍋6と内蓋22との間をシールするために、当該内蓋22の外側全周に設けられる弾性部材としての蓋パッキン23と、鍋6の内圧力を調整する調圧部24とを備えている。環状に形成された蓋パッキン23は、蓋体2を閉じた蓋閉時に、鍋6のフランジ部7上面に当接して、この鍋6と内蓋22との間の隙間を塞ぎ、鍋6から発生する蒸気を密閉する。また、蒸気口19と調圧部24は蓋体2の内部で連通しており、これらの蒸気口19や調圧部24により、鍋6内で発生した蒸気を蒸気口19から外部へ放出する蒸気排出機構が形成される。
調圧部24には、鍋6の内部と蒸気口19との間の蒸気通路25を開閉するための調圧弁26が設けられる。この調圧弁26はボール状で、蓋2の内部に設けたソレノイド27と連動して、内蓋22の略中央部に装着された弁座28上に載置される。調圧部24の弁座28には、蒸気通路25の途中で調圧弁26により開閉される連通孔29が設けられ、ソレノイド27の非通電状態では、その先端部を進出位置に保持し、調圧弁26を弁座28の連通孔29から退避させることで、鍋6の内外で同じ圧力となるように蒸気通路25を開放する一方で、ソレノイド27の通電状態では、その先端部を退避させ、調圧弁26を弁座28の連通孔29に自重で転動させることで、連通孔29を塞いで鍋6の内部に圧力を投入する。この状態で調圧弁26は、鍋6の内部が大気圧よりも高い所定の圧力(例えば1.2気圧:1気圧=101.325kPa)に達すると、その自重に抗して連通孔29を開放し、鍋6の内部にそれ以上の圧力が加わらないように調整する。つまり、ここでの調圧部24は、ソレノイド27の通電状態で、鍋6内部の被調理物を大気圧よりも高い状態に加圧する加圧手段としての機能を有している。
31は、蓋2を本体1に閉じた状態で、鍋6の内部を通常の大気圧よりも低くするために設けた減圧手段である。この減圧手段31は、蓋2の後部に設けた減圧駆動源としての真空ポンプ32の他に、蓋2の内部において、真空ポンプ32と鍋6の内部との間を連通する管状の経路(図示せず)と、その経路を開閉する電磁弁33(図3を参照)とにより構成される。なお図1には、蓋2の内部に1個の真空ポンプ32が示されているが、真空ポンプ32を本体1の内部に設けてもよく、またその個数も1個に限定されない。例として、1個の真空ポンプ32を動作させると、密閉した鍋6の内部は0.6気圧に減圧され、直列に接続した2個の真空ポンプ32を動作させると、密閉した鍋6の内部は0.4気圧に減圧される。
そして本実施例では、鍋6を鍋収容体5に収容し、蓋2を閉じた後にソレノイド27を通電して、調圧弁26が連通孔29を塞いだ状態から真空ポンプ32を起動させると、電磁弁33により経路を開放して、鍋6内部の空気が経路および真空ポンプ32を通って本体1の外部に排出され、密閉した鍋6内部の圧力が低下する。また、鍋6内部の圧力が大気圧よりも一定値下がった場合に、真空ポンプ32の動作を停止し、且つ電磁弁33により経路を閉塞すると、スローリークにより鍋6内の圧力は徐々に上昇するものの、鍋6内部を減圧状態に保つことができる。さらに、鍋6内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す場合には、真空ポンプ32の動作を停止し、電磁弁33により経路を開放すると共に、ソレノイド27の通電を停止して、調圧弁26を弁座28の連通孔29から退避させる。つまり、本実施例における調圧部24と減圧手段31は、鍋6内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す圧力戻し手段としての構成を兼用している。
鍋6への加熱を行なうために、前述した鍋6の主に側面下部から底部を加熱する加熱コイル11の他に、鍋6の側面上部を主に加熱する側部ヒータ35が、鍋収容体5の外面上側部に配置される。また、蓋2の内部には、内蓋22を加熱する蓋加熱手段としての蓋ヒータ36と、蓋ヒータ36による内蓋22の温度管理を行なうためのサーミスタ式の蓋温度センサ37がそれぞれ設けられる。
蓋2を開けるのに操作されるフックボタン4は、蓋開検知手段としての蓋開検知センサ38(図3を参照)によりその変位が検知される。蓋開検知センサ38は、フックボタン4を押動操作した時の動作を検知して、検知信号を出力するものである。
41は、本体1の内部後方に設けられ、マイクロコンピュータ(マイコン)などを基板に搭載して構成される制御手段である。制御手段41は、加熱コイル11を駆動させるための発熱素子42などを備えている。
図2は、上記真空ポンプ32の内部構成を示したものである、同図において、本実施例の真空ポンプ32は、モータ45の回転力によりダイヤフラム46を往復運動させる電動のダイヤフラムポンプであり、これらのモータ45やダイヤフラム46の他に、ダイヤフラム46によって形成され膨張・収縮するポンプ室47と、このポンプ室47に空気や液体などの流体を吸入するための吸入通路48と、ポンプ室47内の流体を外部へ排出するための排出通路49と、ポンプ室47から吸入通路48への流体の逆流を規制する吸入弁50と、排出通路49からポンプ室47への流体の逆流を規制する吐出弁51と、を備えている。
また、真空ポンプ32は略有底筒状に形成されたケース52を備え、このケース52の底部53にはモータ45が取り付けられており、このモータ45の出力軸55が、底部53に設けた孔56からケース52内に臨んでいる。57はクランク台であり、モータ45の出力軸55に回転自在に軸着されており、出力軸55が挿入された中心部から偏心した位置には、駆動軸58が鉛直方向に対して傾斜した状態で保持されている。
59は駆動体であり、互いに反対方向に一体に突設された一対の駆動子60を備えて構成されており、駆動体59の中央部の軸穴59Aには駆動軸58が軸装されている。一対の駆動子60のそれぞれの先端部には、前記ダイヤフラム46が取り付けられている。
前記ダイヤフラム46は、柔軟性を有する弾性材料により薄板状に形成されたダイヤフラム本体46Aと、ダイヤフラム本体46Aの下面から下方に延設させて一体に形成された釣鐘形状を有する一対のダイヤフラム部46Bとを有している。ダイヤフラム本体46Aの上面および下面は、それぞれダイヤフラムホルダー62およびバルブホルダー63によって挟持された状態で固定され、各ダイヤフラム部46Bの先細形状に形成された下端46Cは、駆動子60にそれぞれ固定される。
前記ポンプ室47は、ダイヤフラム部46Bの上面とバルブホルダー63の底面によって画設されて形成したものである。また吐出弁51は、ダイヤフラム本体46Aとダイヤフラム部46Bとの境界部分であるダイヤフラム部46Bの上部開口部分周縁を、上方へ薄板状に延設して設けたものである。
前記ダイヤフラムホルダー62は、ダイヤフラム本体46Aを当接支持可能に形成された平坦な上面部62Aと、各ダイヤフラム部46Bの下端46Cを保持する保持用貫通部62Bと、出力軸55と同軸上に配置され、駆動体59の上部中央に形成した半円弧状の凹部59Bを上方から回転自在に軸支可能とする軸部62Cを備えている。またバルブホルダー63は、上部を開口した有底筒状の保持枠63Aを一体に備えている。
吐出弁51と保持枠63Aの外側面は、互いに面接触可能に設けられており、吐出弁51と保持枠63Aの外側面が面接触した状態を、吐出弁51が閉じた状態とする。また、吐出弁51が開いたときに形成される排出通路49は、吐出弁51と保持枠63Aの外面との隙間として設けられる。
64はケース52の上方を覆う蓋体であり、この蓋体64は何れも筒状の吸入口65と排出口66をそれぞれ備えている。また67は、蓋体64とバルブホルダー63との間を気密または液密にシールするパッキンである。パッキン67を介してケース52の上部に蓋体64を取付けた状態では、吸入口65と吸入通路48との間を連通する吸入空間68と、排出通路49と排出口66との間を連通する排出空間69が、真空ポンプ32の内部に各々区画形成される。本実施例では、吸入口65が前述の経路を介して鍋6の内部に連通する一方で、排出口66が炊飯器の周囲空間に連通する構成となっている。
そして、上記構成の真空ポンプ32は、モータ45への通電により出力軸55が一方向に回転し、クランプ台57が出力軸55と一体的に回転すると、駆動軸58は出力軸55を中心としてその傾斜方向を変えるようにして偏心回転する。この駆動軸58の偏心回転に伴って、駆動体59の一対の駆動子60は出力軸55の軸方向と平行となるように交互に上下方向に揺動し、各駆動子60に固定されたダイヤフラム46のダイヤフラム部46Bも、各駆動子60の揺動動作に追従して交互に上下方向に揺動する。これにより、ダイヤフラム部46Bの下端46Cが下方に移動して、ポンプ室47の容積が増加すると、保持枠63Aの外側面に吐出弁51が密着して、当該吐出弁51が閉じた状態となり、反対に吸入弁50がポンプ室47へと吸引されて下方に移動し、閉鎖されていた吸入通路48が開放されて、流体が吸入口65から吸入空間68と吸入通路48を順に通過して、ポンプ室47の内部に吸入される。
その後、モータ45の出力軸55がさらに回転し、ダイヤフラム部46Bの下端46Cが上方に移動して、ポンプ室47の容積が増加すると、流体により吸入弁50は押し上げられて吸入通路48の下端に密着し、当該吸入弁50が閉じた状態になり、反対に吐出弁51が開いて、ポンプ室47の流体は排出通路49を通って、排出空間69から排出口66へと吐出される。このようにポンプ室47の膨張・収縮動作は、各ポンプ室47においてダイヤフラム部46Bの往復動に応じて交互に連続して行われ、各排出通路49から排出された流体は、排出空間69で合流して排出口66から連続して吐出される。
こうして真空ポンプ32は、モータ45への通電中にダイヤフラム部46Bを往復動させることで、電磁弁33が経路を開放しているときに、鍋6内の空気を炊飯器の外部に排出する真空引きを行ない、鍋6内部を大気圧よりも低い状態に減圧することができる。
次に、制御手段41の制御系統について、図3を参照しながら説明する。同図において、制御手段41は、鍋温度センサ12や蓋温度センサ37からの各温度検知信号と、蓋開検知センサ38からの検知信号と、操作部16からの操作信号を受けて、炊飯時および保温時に鍋6を加熱する加熱コイル11や側面ヒータ35と、蓋2を加熱する蓋ヒータ36を各々制御すると共に、前述した調圧弁26を動かすソレノイド27や、減圧手段31を構成する真空ポンプ32および電磁弁33の動作を各々制御し、さらには表示部15の表示を制御するものである。特に本実施例の制御手段41は、鍋温度センサ12の検知温度に基いて主に加熱コイル11を制御して鍋6の底部を温度管理し、蓋温度センサ37の検知温度に基いて主に蓋ヒータ36を制御して、内蓋22を温度管理する。これらの加熱コイル11や蓋ヒータ36と、前述した側部ヒータ35は、鍋6に入れた被炊飯物を加熱する加熱手段71に相当する。
また本実施例では、制御手段41からの制御信号により、真空ポンプ32に組み込まれたモータ45への印加電圧を可変して、モータ45の回転数を制御するために、制御手段41と真空ポンプ32との間にインバータユニット72が接続される。インバータユニット72は、制御手段41からの制御信号に応じた印加電圧の駆動信号を、真空ポンプ32のモータ45に供給するもので、ここでは真空ポンプ32への印加電圧を12〜25V若しくは10〜32Vに可変することで、モータ45の回転数を1400rpm〜3500rpm若しくは1100rpm〜4700rpmに変化させることができる。また変形例として、インバータユニット72から印加電圧および/または周波数を可変した駆動信号を真空ポンプ32に供給して、モータ45の回転数を任意に変化させてもよい。
制御手段41は、記憶手段73に記憶されたプログラムの制御シーケンス上の機能として、操作部16の炊飯開始指示手段となる例えば炊飯キー16aを操作すると、炊飯開始から鍋6に投入した米の吸水を促進させるひたしと、被炊飯物の温度を短時間に沸騰まで上昇させる加熱と、被炊飯物の沸騰状態を継続させドライアップ状態のご飯に炊き上げる沸騰継続と、炊き上がったご飯を焦がさない程度の高温に維持するむらしの順に炊飯工程を実行して、鍋6内部の被炊飯物に対して所望の圧力で炊飯加熱する炊飯制御手段75と、炊飯工程に引き続いて、鍋6内部のご飯を所望の圧力で所定の保温温度に保つように保温する保温制御手段76と、をそれぞれ備えている。
特に本実施例では、基準となるモータ45の回転数の設定値(以下、「基準設定値」という)が、予め記憶手段73に記憶保持されており、上述した炊飯工程開始直後のひたしの期間中に、モータ45が基準設定値よりも高い第1回転数となる印加電圧で、好ましくは通断電を繰り返して、鍋6の内部に対して2回以上の真空引きを行なうように、また保温工程では、モータ45が基準設定値よりも低い第2回転数となる印加電圧で、蓋2が開けられるのを蓋開検知センサ38が検知するまで連続的に通電して、鍋6の内部を所望の減圧状態に維持するように、制御手段41がインバータユニット72を介して真空ポンプ32を制御する構成となっている。
さらに本実施例では、米の種類(「白米」、「無洗米」、「玄米」、「麦ご飯」、「雑穀米」など)や炊き方(「そくうま」、「炊込み」、「おこげ」、「ecoモード」、「おかゆ」、「かまど名人」)などに対応して、それぞれが異なる複数の炊飯コースの加熱パターンが予め記憶手段73に記憶保持されており、操作部16のコース選択手段となる例えばコース選択キー16bを操作すると、その中から一つの米の種類と炊き方が特定され、それに対応する一つの炊飯コースの加熱パターンが選択される。これを受けて炊飯制御手段75は、コース選択キー16bで選択した炊飯コースの加熱パターンに基づき、加熱手段71や減圧手段31をそれぞれ制御し、上述した一連の手順で、鍋6に入れた被炊飯物への炊飯動作を行なう構成となっている。
次に、上記構成の炊飯器について、その作用を図4〜図9に基づき説明する。
先ず、炊飯工程の動作を説明すると、鍋6内に被炊飯物として米および水を入れ、これを本体1の鍋収容体5にセットした後に蓋2を閉じる。続いてコース選択キー16bを操作して、所望する炊飯コースの加熱パターンを選択し、操作体16の炊飯キー16aを操作すると、制御手段41に組み込まれた炊飯制御手段75による炊飯工程が開始する。ここで炊飯制御手段75は、鍋6内の米に対する吸水を促進させるために、鍋温度センサ12による鍋6の底部の温度検知に基づき、加熱コイル11と側部ヒータ35を通断電制御して、鍋6の底部と側面部をそれぞれ加熱し、鍋6内の水温を約45〜60℃に所定時間保持するひたしを行なう。ひたしの時間は、例えば短時間にご飯を炊き上げる「そくうま」の炊飯コースを選択した場合に3分となる。
ひたし中は、鍋6内の圧力が大気圧よりも低い減圧状態となるように、炊飯制御手段51がソレノイド27や真空ポンプ32や電磁弁33の動作を各々制御する。具体的には、ひたしを開始すると、炊飯制御手段51はソレノイド27を非通電状態から通電状態に切替えて、調圧弁26で蒸気通路25の連通孔29を閉塞する。そしてこの状態で、密閉した鍋6の内部から減圧手段31を通して空気を素早く排出するために、ひたしの期間中(「そくうま」では3分間)に、モータ45が基準設定値よりも高い第1設定値の回転数となる印加電圧で、最初に1分間の通電を行ない、次に2分間の通電を行なうと共に、モータ45の通電に合せて、鍋6内部から真空ポンプ32に至る経路を開放するように、電磁弁33の動作を制御することで、鍋6内部の空気を真空ポンプ32で抜き取る真空引きを2回行なう。なお、真空ポンプ32の動作中に、その旨を表示部15に表示させてもよく、これによりユーザーは鍋6の内部が減圧中であることを知ることができる。
こうして、ひたしの期間中は、炊飯制御手段75によりモータ45の回転数を基準設定値よりも増やして、単位時間当たりの鍋6内の真空度を上げることにより、鍋6の内部を所望の圧力にまで一気に減圧させる。これにより、炊飯時間が優先される炊飯コースが選択された場合でも、短い時間に米に対する吸水を十分に促進させて、炊飯時間の短縮を図ることが可能となる。また、ひたしの期間中にモータ45を複数回動作させ、それにより真空引きの回数を増やすことで、米の芯まで繰り返し水を浸透させて、食味の向上を図ることが可能になる。
その後、所定時間のひたしが終了し、次の加熱に移行すると、被炊飯物の沸騰検知を行なうまでの加熱で、炊飯制御手段51は加熱コイル11や側部ヒータ35を連続通電することにより、ひたしよりも鍋6内部の被炊飯物を強く加熱し、被炊飯物の温度を短時間に沸騰まで上昇させる。ここで炊飯制御手段75は、鍋6内部から真空ポンプ32に至る経路を閉じ、真空ポンプ32を動作させないまま、ソレノイド27を一時的に非通電状態にして、調圧弁26を連通孔29から退避させる。これにより、蒸気通路25は密閉せずに鍋6の内外を連通させた開放状態となり、鍋6の内部は大気圧(常圧)に戻る。その後、ソレノイド27を通電状態に切替え、鍋6の内部を再び密閉した状態にすると、鍋6への強い加熱により、鍋6の内部の被炊飯物が大気圧以上の例えば1.2気圧に加圧され、その加圧状態で被炊飯物を沸騰させることができる。
その後で炊飯制御手段75は、鍋温度センサ12の検知温度が所定温度となる例えば90℃以上になり、それに加えて蓋温度センサ37の検知温度も所定温度となる例えば90℃以上になると、被調理物の加圧状態での沸騰を検知する沸騰検知を開始する。この沸騰検知では、引き続き加熱コイル11や側部ヒータ35を連続通電して、鍋6内部の被炊飯物を強く加熱する一方で、蓋温度センサ37の検知温度の傾き(所定の時間に検知温度がどの程度上昇するのか)を算出する。そして、この蓋温度センサ37の検知温度の傾きが一定値以下になって安定したら、鍋6内の被炊飯物が加圧状態で沸騰したと判断して、加熱から次の沸騰継続に移行する。
沸騰継続に移行すると、炊飯制御手段75は蓋ヒータ36による蓋加熱を開始させる。ここでの蓋加熱は、内蓋22の温度が所定の例えば100℃になるように、蓋温度センサ37の検知温度により、蓋ヒータ36からの加熱量が管理される。また沸騰継続に移行したら、炊飯制御手段75は鍋6内を常圧と大気圧よりも高い圧力との間に繰り返し変化させるために、ソレノイド27を周期的に通断電させて、調圧弁26で蒸気通路25を周期的に開閉する。
そして炊飯制御手段75は、沸騰継続で鍋6内部の水が無くなり、鍋温度センサ12による鍋6の底部の検知温度が所定の温度上昇を生じたら、鍋温度センサ12の検知温度に基づき被炊飯物の炊き上げを検知する。ここでは、鍋温度センサ12の検知温度が所定のドライアップ温度に達すると、鍋6内部の被炊飯物の炊き上がりを検知して、沸騰継続から次のむらしに移行する。
むらし中は、蓋温度センサ37の検知温度による温度管理によって蓋ヒータ36を通断電し、内蓋22への露付きを防止すると共に、鍋6内部のご飯が焦げない程度に高温(98〜100℃)が保持されるように、加熱コイル11や側部ヒータ35を通断電して鍋6の底部の温度を管理する。むらしは所定時間(例えば12分)続けられ、むらしが終了したら鍋6内で炊き上がったご飯を所定温度に維持するために、保温制御手段76による保温工程に移行する。
図4は、「そくうま」の炊飯コースを選択した場合の実験例として、炊飯工程におけるモータ45の回転数と、工程内の時間配分と、真空ポンプ32の動作状態とを、「従来品」と「試作品1」と「試作品2」で比較して表に示したものである。
同図において、「従来品」の炊飯器では、「そくうま」の炊飯コースでの炊飯時間が、ひたし5分、加熱5分、沸騰継続11分、むらし5分の合計で26分であった。また、ひたし時には、真空引きが5分の時間で1回だけ行われた。このときのモータ45の回転数は、基準設定値となる2700rpmであった。
「試作品1」の炊飯器では、「そくうま」の炊飯コースでの炊飯時間が、ひたし3分、加熱7分、沸騰継続8分、むらし12分の合計で30分であった。また、ひたし時には、真空引きが1分と2分の時間で2回行われた。このときのモータ45の回転数は、基準設定値となる2700rpmであった。
「試作品2」の炊飯器では、「試作品1」の炊飯器と比較して、モータ45の回転数を、基準設定値よりも高い3500rpmに上昇させ、その他は「試作品1」の炊飯器と動作を一致させた。
「試作品2」の炊飯器について、食味モニターを実施したところ、6名中5名が食味向上と判定したアンケート結果が得られた。併せて、「30分で炊いたとは思えないくらい美味しい」、「硬めの炊きあがりだが、芯もなく炊けていて良い」との所見が得られた。
図5および図6は何れも、真空ポンプ32におけるモータ45の回転数と、鍋6の内部が所定の圧力に到達するまでの真空到達時間を比較したものである。図5は、モータ45への印加電圧が12V(回転数は約1400rpm)、15V(回転数は約1900rpm)、20V(基準設定値:回転数は約2700rpm)、25V(回転数は約3500rpm)の場合の真空到達時間を示し、図6は、モータ45への印加電圧が10V(回転数は約1100rpm)、15V(回転数は約1900rpm)、20V(基準設定値:回転数は約2700rpm)、32V(回転数は約4700rpm)の場合の真空到達時間を示している。
これらの各図によれば、モータ45への印加電圧を高くして、モータ45の回転数を上げるほど、モータ45の運転時間が同じ場合には、鍋6内部の真空度をアップさせ、また鍋6内部の真空度が同じ場合に、所定の圧力に早く到達することが可能になる。例として、図5に示すモータ45の回転数が基準設定値である約2700rpmの場合と、基準設定値よりも高い約3500rpmの場合とを比較すると、モータ45を3分間運転させ続けると、鍋6内部の真空度(到達圧力)は、前者が約-30kPaであるのに対し、後者は約-40kPaにアップする。また、鍋6内部の真空度が約-30kPaに到達するまでの時間は、前者が約3分であるのに対し、後者は約2分に短縮される。
このように、真空引きの回数を増やし、さらに真空ポンプ32のモータ45の回転数を上げるほど、炊き上がったご飯の食味が向上し、炊飯時間を優先した「そくうま」の炊飯メニューを、今までよりももっとおいしく、そして時間を短縮してご飯に炊き上げることが可能になる。
次に、保温工程に移行してからの動作を、図7に示す保温工程での鍋6の温度(図中、「鍋温度」)と、鍋6内部の圧力(図中、「鍋内圧力」)と、真空ポンプ32への印加電圧(図中、「ポンプ動作」)とのタイミングチャートに基づき説明する。
保温工程では、加熱コイル11で鍋6の底部と側面下部を加熱すると共に、鍋6内に収容するご飯の温度よりも僅かに高く、蓋ヒータ36により内蓋22の下面を加熱し、さらに鍋6の側面を側部ヒータ35でご飯が乾燥せず、かつ露が多量に付着しないように温度管理する。これにより、鍋6内のご飯の温度は、炊飯工程完了直後の約100℃から徐々に降下して、保温工程を開始してから1〜2時間後には70〜76℃に温度保持される。
保温制御手段76は、保温工程を開始してからの保温経過時間が予め設定した時間に達するか、或いは鍋温度センサ12で検知される鍋6の温度が保温の設定温度(70〜76℃)に降下したら、保温が安定した状態と判断して、それまで動作していなかった真空ポンプ32の動作を開始させる(図中、「ポンプ動作開始」のタイミング)。
ここで従来は、モータ45への印加電圧が、モータ45の基準設定値の回転数(2700rpm)に対応した20Vに固定されており、3時間毎に所定の3分間だけモータ45を通電し、真空ポンプ32を動作させていた。この場合、真空ポンプ32の動作停止直後は、鍋6内の真空度が所望の約-30kPaに達するが、その後はご飯からの蒸発蒸気で、スローリークによる圧力上昇が起こり、次の真空ポンプ32の動作時に所望の真空度を維持することができなかった。また、真空ポンプ32の動作に伴う耳障りな騒音が3時間毎に発生する問題もあった(図中、「従来ポンプ」)。
そこで、本実施例の保温制御手段75は、保温が安定した状態と判断したら、蓋2が開けられるのを蓋開検知センサ38が検知するまでは、モータ45への印加電圧を、モータ45の基準設定値よりも低い第2回転数(1400rpm)に対応した12Vに可変し、且つモータ45を連続的に通電して、真空ポンプ32を動作停止させないような制御信号を、インバータユニット72に送出する。こうすることで、鍋6内の真空度が所望の約-30kPaに達するまでの時間は延びるものの(図5のグラフによれば、約7分)、そこから後も真空ポンプ32が動作し続けることで、鍋6内部の圧力上昇を招くご飯からの蒸発蒸気を、頻繁な真空ポンプ32の動作で効果的に取り除いて、従来よりも鍋6内の真空度を所望の-30kPaに長時間維持することが可能になる。
図8および図9は、真空ポンプ32の吸引側圧力と騒音値との関係をグラフで示したものである。図8は、モータ45への印加電圧が12V(回転数は約1400rpm)、15V(回転数は約1900rpm)、20V(基準設定値:回転数は約2700rpm)、25V(回転数は約3500rpm)の場合に、真空ポンプ32の吸引側圧力と騒音値との関係を示し、図9は、モータ45への印加電圧が12V(回転数は約1400rpm)、15V(回転数は約1900rpm)、20V(基準設定値:回転数は約2700rpm)、32V(回転数は約4700rpm)の場合に、真空ポンプ32の吸引側圧力と騒音値との関係を示している。
これらの各図によれば、モータ45への印加電圧を下げて、モータ45の回転数を下げるほど、同じ真空ポンプ32の吸引側圧力で、製品となる炊飯器から発生する騒音値を低減することが可能になる。例として、図8に示すモータ45の回転数が基準設定値である約2700rpmの場合と、基準設定値よりも低い約1400rpmの場合とを比較すると、真空ポンプ32の吸引側圧力が-30kPaの近辺で、製品からの騒音値は、前者が33dBAであるのに対し、後者は25dBAに低下する。
このように保温工程中は、真空ポンプ32のモータ45の回転数を基準設定値より下げて連続運転することで、真空ポンプ32の動作中に発生する耳障りな騒音を低減することが可能となる。
こうして、炊飯完了後の保温が安定する状態になると、鍋6内は長時間にわたり所望の減圧状態が維持される。また、この減圧時には調圧弁26が連通孔29を塞いで、鍋6内の密閉を確保するので、鍋6内の保温温度を下げることなく、また鍋6内に蒸気を投入することなく、保温工程時に密閉状態で鍋6内を減圧すれば、鍋6内の酸素濃度が下がると共に、被炊飯物の水分蒸発を防ぐことができ、メイラード反応や酸化を十分に抑制できる。よって、長期にわたってより白く、新鮮な食味のよいご飯を得ることができる。
以上のように本実施例は、被炊飯物が内部に入れられる鍋6と、当該鍋6の内部を大気圧よりも低い減圧状態にする減圧手段31と、を備え、鍋6の内部の空気を吸引排出するために、減圧手段31の駆動源として電動のポンプとなる真空ポンプ32を備えた炊飯器において、真空ポンプ32に組み込まれたモータ45の回転数を制御するインバータ制御部として、モータ45への印加電圧を可変可能にする制御信号を、モータ45に接続したインバータとしてのインバータユニット72に供給する制御手段41を具備している。
この場合、従来は一定であった真空ポンプ32のモータ45の回転数を、制御手段41からの制御信号で適切に可変することで、炊飯や保温などの工程に応じて、減圧手段31による最適な減圧動作を実現した炊飯器を提供できる。
また、本実施例の制御手段41は、真空ポンプ32を所定時間である例えば3分間運転させ続けると、鍋6の内部が所定の圧力である例えば-30kPaに到達する真空ポンプ32の回転数を基準値としたときに、鍋6の内部の被炊飯物をご飯に炊き上げる炊飯工程で、真空ポンプ32のモータ45の回転数を、基準値となる基準設定値よりも高くなるように制御する構成を有している。
この場合、炊飯工程の例えばひたし時には、真空ポンプ32のモータ45の回転数を基準設定値よりも上げて、鍋6の内部を所望の圧力にまで一気に減圧させることで、短い時間であっても吸水を十分に促進させて炊飯を行なうことが可能となり、短時間の炊飯と食味の向上を両立させることができる。
また、本実施例の制御手段41は、鍋6の内部の炊き上がったご飯を所定温度に維持する保温工程で、真空ポンプ32のモータ45の回転数を、基準値となる基準設定値よりも低くなるように制御する構成を有している。
この場合、保温工程では真空ポンプ32のモータ45の回転数を、基準設定値よりも下げることで、真空ポンプ32の動作中に発生する騒音を低下させて、炊飯器として静音化を図ることが可能になる。
また、本実施例の制御手段41は、保温工程中に蓋2が開けられるのを蓋開検知センサ38が検知するまで、真空ポンプ32を動作させ続けるように制御する構成を有している。
この場合、保温工程時に真空ポンプ32のモータ45の回転数を基準設定値よりも下げて、減圧手段31としての静音化を図ることで、従来は騒音が大きく実現できなかった、保温工程時に真空ポンプ32を動作させ続けることが可能になり、鍋6の内部を所望の減圧状態(例えば、-30kPa)に維持する時間が長くなることで、メイラード反応と酸化を従来よりも抑制させることが可能になる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。実施例では炊飯工程のひたし時にモータ45の回転数を基準値よりも高くする構成としたが、ひたし以外の炊飯工程中でも、同様にモータ45の回転数を基準値よりも高く制御してよい。また、実施例中に示した温度や時間や圧力や回転数の各数値はあくまでも一例であり、炊飯器の仕様に合せて適宜変更してよい。