実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る加熱調理器について説明する。図1は、本実施の形態1に係る加熱調理器100の構成の一例を示す模式断面図である。加熱調理器100は、本体1と、本体1に開閉自在に係止された外蓋2とを備えている。
[加熱調理器100の構成]
本体1の内側には、容器収納部3が内装固着されている。容器収納部3には、有底筒状で上面が開口した鍋状の容器4が着脱自在に収納されている。容器4内には、被加熱物である食材等の内容物が収容される。容器収納部3の外壁には、加熱装置5が設けられている。加熱装置5は、例えば、容器収納部3にスパイラル状に旋回された電磁誘導加熱用の加熱コイル5aであり、高周波電流が供給されることにより発生する磁界で容器4を誘導加熱する。加熱装置5の加熱動作は、後述する制御装置50によって制御される。なお、加熱装置5として、この例に限られず、電流が供給されることによって熱を発生するヒータ等が用いられてもよい。
容器収納部3の底面の中央部には貫通孔が形成され、貫通孔内に温度センサ6が配置されている。温度センサ6は、圧縮ばね7によって下方から支持され、容器4の底部に接触するように配置される。温度センサ6は、容器4の温度を計測する。
容器4には取っ手部8が設けられている。取っ手部8は、容器収納部3に設けられた図示しない保持部上に係止される。これにより、容器4が本体1内に保持される。容器4の上面開口の周囲には、外方に延出するフランジ部4aが形成されている。
外蓋2には、容器4の上面開口を覆う蓋体である内蓋9が連結されている。内蓋9の周縁には、シール材である蓋パッキン10が設けられている。蓋パッキン10は、外蓋2を閉じた際に、容器4のフランジ部4aおよび内壁と内蓋9との密閉性が得られるようになっている。
内蓋9には蒸気孔11が形成されている。蒸気孔11には蒸気排出弁12が配置されている。蒸気排出弁12は、制御装置50による制御に基づき開閉し、容器4内を密閉または非密閉とする。
蒸気排出弁12の下流には、カートリッジ13が配置されている。カートリッジ13は、蒸気排出口14を備え、蒸気排出弁12を介して容器4内の蒸気を蒸気排出口14から排出する。カートリッジ13には、蒸気の排出経路を密閉するためのカートリッジパッキン15が設けられている。
外蓋2には、外面に開口する第1の外蓋通気孔16および第2の外蓋通気孔17が設けられている。第1の外蓋通気孔16には、中空状に形成された第1の連通管18の一端が接続されている。第2の外蓋通気孔17には、中空状に形成された第2の連通管19の一端が接続されている。また、内蓋9には、貫通する内蓋通気孔20が設けられ、内蓋通気孔20には、中空状に形成された第3の連通管21の一端が接続されている。第3の連通管21の内蓋通気孔20との接続部分には、内蓋通気孔20と密閉接続するための経路パッキン22が配置されている。第1の連通管18、第2の連通管19および第3の連通管21のそれぞれの他端は、三方弁である三方電磁弁23に接続されている。
三方電磁弁23は、第1の連通管18と、第2の連通管19または第3の連通管21とが接続されるように、制御装置50によって制御される。第1の連通管18と第2の連通管19とが接続されることにより、容器4の外部同士が連通する。また、第1の連通管18と第3の連通管21とが接続されることにより、容器4の内外が連通する。三方電磁弁23の開閉動作は、制御装置50によって制御される。
内蓋9には、減圧装置である減圧ポンプ24が配置されている。減圧ポンプ24の排出側には、第1の連通管18の他端が接続されている。減圧ポンプ24の吸引側には、三方電磁弁23によって第2の連通管19または第3の連通管21が接続されている。減圧ポンプ24の駆動は、制御装置50によって制御される。
減圧ポンプ24は、第1の連通管18と第3の連通管21とが接続された場合に、内蓋通気孔20を介して容器4内の空気を吸引し、吸引した空気を第3の連通管21、三方電磁弁23、第1の連通管18および第1の外蓋通気孔16を介して外部に排出する。これにより、容器4内の空気が吸引されるため、容器4内が減圧する。以下では、このような容器4内の空気が減圧ポンプ24によって吸引され、外部に排出される連通流路を「流路A」と適宜称して説明する。
また、減圧ポンプ24は、第1の連通管18と第2の連通管19とが接続された場合に、第2の外蓋通気孔17を介して外部の空気を吸引し、吸引した空気を第2の連通管19、三方電磁弁23、第1の連通管18および第1の外蓋通気孔16を介して外部に排出する。これにより、第2の外蓋通気孔17から外部の空気が吸引されるため、減圧ポンプ24によって吸引された水分の排出および乾燥が行われる。以下では、このような外部の空気が減圧ポンプ24によって吸引され、外部に再度排出する連通流路を「流路B」と適宜称して説明する。
なお、第1の外蓋通気孔16および第2の外蓋通気孔17は、外蓋2の側面または底面に配置されると好ましい。これは、減圧ポンプ24への水分および異物の侵入を防ぎ、故障を抑制するためである。また、第1の外蓋通気孔16および第2の外蓋通気孔17は、容器4内の空気を外部に排気するための排気孔として配置されているが、このような排気孔は、これに限られず、例えば本体1の側面または底部等に配置してもよい。
内蓋9には、貫通するセンサ孔25が設けられている。外蓋2には、温度センサである蓋センサ26と蓋センサパッキン27とが配置されている。蓋センサ26は、センサ孔25を介して容器4内の上部空間温度を計測する。上部空間温度は、容器4内の内容物以外の空間のうち、内蓋9近傍の空間の温度である。蓋センサパッキン27は、センサ孔25と外蓋2とを密閉するために設けられている。
また、本体1の容器収納部3の近傍には、側面加熱ヒータ28が設けられている。側面加熱ヒータ28は、容器収納部3に収納された容器4の側面を加熱する。側面加熱ヒータ28は、制御装置50によって制御される。
さらに、本体1には、操作表示装置29が設置されている。操作表示装置29は、ユーザによる操作指示等の入力および動作状態等の表示を行う。なお、操作表示装置29は、本体1に設置される場合に限られず、例えば外蓋2に設置されてもよい。また、操作表示装置29に対する操作および表示等の各種機能は、スマートフォン等の外部の機器によって実現されてもよい。
(制御装置50)
さらに、加熱調理器100は、制御装置50を備えている。制御装置50は、加熱調理器100全体を制御する。特に、本実施の形態1において、制御装置50は、温度センサ6および蓋センサ26の計測結果に基づき、加熱装置5の加熱動作、蒸気排出弁12の開閉動作、減圧ポンプ24の駆動および三方電磁弁23の動作を制御する。
図2は、図1の加熱調理器100の構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置50には、蒸気排出弁12、三方電磁弁23、減圧ポンプ24、温度センサ6、蓋センサ26および操作表示装置29、ならびに、加熱コイル5aに高周波電流を供給するインバータ部30が電気的に接続されている。
図3は、図1の制御装置50の構成の一例を示す機能ブロック図である。図3に示すように、制御装置50は、温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、加熱制御部55、圧力制御部56および記憶部57を備えている。制御装置50は、マイクロコンピュータなどの演算装置上でソフトウェアを実行することにより各種機能が実現され、もしくは各種機能を実現する回路デバイスなどのハードウェア等で構成されている。なお、制御装置50は、本体1に設けられてもよいし、外蓋2に設けられてもよい。
温度設定部51は、操作表示装置29に対する操作によって入力されたメニューと、記憶部57に記憶された調理シーケンスとに基づき、設定温度Tを設定する。圧力設定部54は、操作表示装置29に対する操作によって入力されたメニューと、記憶部57に記憶された調理シーケンスとに基づき、設定圧力Pを設定する。
温度判定部52は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物の温度を判定する。また、温度判定部52は、蓋センサ26による計測結果に基づき、容器4内の上部空間温度を判定する。沸騰検知部53は、蓋センサ26および温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物が沸騰したか否かを判定する。加熱制御部55は、温度設定部51によって設定された設定温度Tに基づき、加熱装置5を制御する。
圧力制御部56は、圧力設定部54によって設定された設定圧力Pに基づき、減圧ポンプ24、三方電磁弁23および蒸気排出弁12を制御する。また、圧力制御部56は、沸騰検知部53による検知結果に基づき、減圧ポンプ24、三方電磁弁23および蒸気排出弁12を制御する。さらに、圧力制御部56は、温度判定部52による判定結果に基づき、減圧ポンプ24、三方電磁弁23および蒸気排出弁12を制御する。
記憶部57は、メニュー毎の調理シーケンスを含むテーブルを予め記憶する。記憶部57は、温度設定部51および圧力設定部54からの要求に応じて、記憶されたテーブルから必要な調理シーケンスを読み出し、それぞれに供給する。
調理シーケンスは、メニューに応じて設定温度T[℃]、設定圧力P[atm]、減圧ポンプ24の駆動パターン、および設定温度Tを維持する温調時間等を含む情報である。設定温度Tは、主に容器4の温調制御温度として使用され、後述する温調工程において内容物が目標温度になるよう調整される一定の温度である。目標温度は、内容物に応じた所望の調理温度であり、温調工程中一定時間維持される温度である。容器4を設定温度Tで維持することで、内容物の温度が徐々に設定温度T、延いては目標温度に近づく。目標温度および設定温度Tは、100℃以下の温度とする。加熱調理器100は、目標温度が100℃未満の場合にも、容器4内を減圧することによって沸騰状態を維持する動作が求められる。設定圧力Pは、温調工程において調整される一定の圧力である。設定圧力Pは、設定温度Tに基づいて設定される。設定圧力Pは、大気圧1.0atm以下の圧力とする。なお、設定温度Tが100℃の場合には、温調せずに連続的に加熱が行われてもよい。この場合、容器4の温度が100℃を超える場合もある。
このような調理シーケンスは、例えばメニュー毎に設定されテーブル化されて記憶部57に予め記憶されている。なお、設定温度T、設定圧力Pおよび温調時間等は、調理シーケンスによって設定される場合に限られず、例えば、ユーザによってそれぞれが直接設定されてもよい。さらに、設定温度Tと飽和水蒸気圧の関係をテーブルとして記憶部57に予め記憶させておき、ユーザによって設定された設定温度Tで沸騰する設定圧力Pが自動的に設定されるようにしてもよい。
図4は、図3の制御装置50の構成の一例を示すハードウェア構成図である。制御装置50の各種機能がハードウェアで実行される場合、図3の制御装置50は、図4に示すように、処理回路31および入出力装置32で構成される。図3の温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、加熱制御部55、圧力制御部56および記憶部57の各機能は、処理回路31により実現される。また、操作表示装置29は、図4の入出力装置32である。
各機能がハードウェアで実行される場合、処理回路31は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、加熱制御部55、圧力制御部56および記憶部57の各部の機能それぞれを処理回路31で実現してもよいし、各部の機能を1つの処理回路31で実現してもよい。
図5は、図3の制御装置50の構成の他の例を示すハードウェア構成図である。制御装置50の各種機能がソフトウェアで実行される場合、図3の制御装置50は、図5に示すように、プロセッサ41、メモリ42および入出力装置43で構成される。温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、加熱制御部55、圧力制御部56および記憶部57の各機能は、プロセッサ41およびメモリ42により実現される。また、図3の操作表示装置29は、図5の入出力装置43である。
各機能がソフトウェアで実行される場合、温度設定部51、温度判定部52、沸騰検知部53、圧力設定部54、加熱制御部55および圧力制御部56の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ42に格納される。プロセッサ41は、メモリ42に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
メモリ42として、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable and Programmable ROM)およびEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等の不揮発性または揮発性の半導体メモリ等が用いられる。また、メモリ42として、例えば、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、CD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)およびDVD(Digital Versatile Disc)等の着脱可能な記録媒体が用いられてもよい。
[加熱調理器100の動作]
次に、上記構成を有する加熱調理器100の動作について説明する。まず、加熱調理器100の動作について説明する前に、調理における温度と圧力との関係について説明する。
例えば、一般に、米の糊化は60℃~65℃程度で開始される。しかし、100℃未満の温度で調理を行っても沸騰しないため、昇温の過程で加熱面に近い底面付近と加熱面から遠い水面付近とでは、温度差が生じやすく、仕上がりにムラが生じる。これに対して、容器内の内容物を沸騰させて対流を促進させることで、仕上がりのムラを軽減することができるため、炊飯後の仕上がりを均一にし、食味を向上することができる。
また、容器内の内容物を沸騰させることで、炊飯以外の調理においても加熱ムラを軽減し、仕上がりを均一にすることができる。例えば、一般に、野菜は50℃~70℃程度で硬化し、70℃以上で軟化する。肉は65℃程度からコラーゲンの収縮によって急激に硬化し、70℃程度からコラーゲンの分解が始まり軟化する。このように、具材に影響を与える化学反応は、100℃未満で起こり始めるため、昇温の過程においても加熱ムラが生じるのを防ぐことが望ましい。
ところで、例えば煮物調理を行う場合、一般に具材全体が浸かるほどの煮汁を入れることは少なく、加熱によって野菜から脱水される水分も考慮して、具材から煮汁が出ている状態、あるいは煮汁がほとんどない状態で調理を開始することがある。この場合、米を調理する場合と同様に100℃未満では沸騰が起きないため、昇温の過程で煮汁に浸かっている具材と浸かっていない具材とでは温度差が生じやすく、仕上がりにムラが生じる。これに対して、低温で沸騰させることによって昇温中から水蒸気を発生させ、煮汁に浸かっていない具材に対しても水蒸気で蒸すようにして加熱することにより、最終的には全体的に均一な仕上がりを得ることができ、食味を向上させることができる。
そこで、本実施の形態1に係る加熱調理器100は、容器4内を減圧するとともに加熱し、大気圧未満の圧力で100℃未満の温度帯から沸騰が継続される状態(以下、減圧沸騰状態という)を維持する。このように、減圧沸騰状態を維持することにより、容器4内の煮汁の対流が促進されるため、沸騰していない場合と比較して、容器4内の内容物の加熱ムラが軽減される。そして、加熱ムラが軽減されることにより、容器4内の内容物が均一に加熱され、食材の仕上がりが安定するため、おいしさを向上させることができる。
図6は、内容物の温度と飽和蒸気圧との関係を示すグラフである。図6のグラフは、内容物の温度に対する飽和蒸気圧、すなわち、内容物が沸騰する際の圧力と沸点との関係を示す。図6に示すように、容器4内の内容物の沸点は、容器4内の圧力によって変動する。例えば、容器4内の内容物である水を60℃で沸騰させるためには、容器4内を0.2気圧程度まで減圧すればよい。
水を60℃で沸騰させるためには、容器4内の圧力が0.2気圧まで減圧された時点で、内容物が60℃となっている必要がある。したがって、例えば、容器4内の内容物が常温の状態で容器4内が0.2気圧まで減圧されてから、駆動時間を抑えるために減圧ポンプ24が停止され、容器4が密閉される。これにより、減圧ポンプ24の駆動時間を抑制することができる。しかしながら、その後、加熱装置5を駆動して加熱を開始した場合、容器4が60℃まで加熱されても、十分な沸騰が起きない。
これは、加熱による内容物の熱膨張によって容器4内の圧力が上昇し、内容物が60℃に到達した際には、容器4内の圧力が例えば0.3気圧など、60℃における飽和水蒸気圧である0.2気圧よりも高い圧力になっているためである。図6に示すように、飽和水蒸気圧が0.3気圧である場合の沸点は70℃程度であるため、内容物の温度が60℃の場合、内容物は沸騰しない。同様に、容器4に対する加熱および減圧が同時に開始され、内容物の温度が目標温度に到達する前に、容器4内が目標温度における飽和水蒸気圧まで減圧され、容器4内の減圧が停止されると、十分な沸騰が得られない。
すなわち、100℃未満の目標温度で確実に沸騰させる第1の方法として、内容物を目標温度まで加熱した後、目標温度に対する飽和水蒸気圧まで減圧を行うことが考えられる。また、目標温度で確実に沸騰させる第2の方法として、減圧ポンプ24を駆動し、目標温度に対する飽和水蒸気圧まで減圧した後も減圧ポンプ24の駆動を継続し、内容物を目標温度に加熱することが考えられる。したがって、目標温度で確実に沸騰させるためには、第1または第2の方法のいずれかを用いるにしても、減圧ポンプ24の駆動と加熱装置5の駆動とがほぼ同時に行われる昇温工程が含まれる。
一方、内容物の全体が目標温度に到達していない場合でも、加熱面である容器4の底面が目標温度よりも高い温度まで加熱されることにより、容器4内には水蒸気である気泡が発生する。大気圧において、沸点よりも低い90℃~95℃程度で気泡がまだらに発生するのはこのためである。
したがって、容器4内が減圧される場合も同様に、例えば容器4内が目標圧力に到達した際に減圧ポンプ24を停止して容器4を密閉した後、内容物が熱膨張する前に、強火で加熱面を急速に加熱する。これにより、目標温度付近で十分な沸騰が起こる。なお、強火で加熱しない場合、熱が内容物に奪われるため、加熱面が目標温度を超えるまでに時間がかかる。そのため、結果として熱膨張が発生し、十分な沸騰を得ることができない。炊飯の場合、通常沸騰工程前の昇温工程ではまだ水が十分にあるが、先に述べたように、その他の調理においては煮汁が少ない場合も多い。また、煮汁の粘度が高い場合もあり、強火で加熱することによって底面付近で具材の焦げ付きや過加熱が生じる可能性がある。
また、昇温工程後においては、100℃未満の一定の温度を維持するように、加熱を制御して温度調整(以下、「温調」と適宜称する)を行う場合は、目標温度付近で容器4の加熱を抑制しなければならない。この場合は、目標温度付近昇温が緩やかになり、目標温度に到達するまでに時間がかかるため、結果として内容物の熱膨張が発生し、気泡がまだらに発生する程度の沸騰しか得ることができない。したがって、容器4内での十分な対流は期待できない。
また、強火で加熱を行うことにより、容器4の加熱面が目標温度よりも比較的高い温度まで昇温される。そのため、容器4の温度を目標温度に戻したとしても、内容物の温度が目標温度を超えてしまう可能性がある。さらに、加熱を緩めた時点で、容器4内での沸騰も弱くなるため、十分な沸騰を得るために減圧ポンプ24を再度駆動させる必要が生じる。したがって、十分な沸騰を維持した状態で昇温するために、十分な沸騰が生じる前に減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を停止することは好ましくない。
以上から、目標温度で容器4内の内容物の沸騰を維持しながら昇温させるためには、目標温度付近で沸騰が開始されるように、加熱装置5および減圧ポンプ24を制御し、沸騰後に容器4を密閉して昇温する必要がある。
また、減圧ポンプ24の能力が十分に高い場合には、容器4内の沸騰を維持しながら昇温している状態であっても、容器4内をさらに減圧することができる。これにより、煮汁から熱が急激に奪われ、内容物の温度が低下するが、非常に強い沸騰を得ることができる。
また、例えば、初期にあまり水を入れず、食材からの脱水を利用して調理するような、煮汁に対して具材が十分に多い調理を行う場合には、減圧沸騰によって生じた水蒸気が食材に熱を奪われて上部に到達する前にほとんど凝縮してしまうことがある。大きめの食材を蒸し調理する場合も同様に、減圧沸騰によって生じた水蒸気は、上部に到達する前にほとんど凝縮してしまうことがある。そのため、このような場合には、発生した水蒸気が減圧ポンプ24によってほとんど吸引されることなく、容器4内を減圧することができる。
一方、中間層以下の食材が十分に昇温している場合には、その食材の温度における飽和水蒸気圧よりも低い圧力まで容器4内が減圧されることにより、食材の中の水分を蒸発させることができる。このようにして蒸発した水分は、上部の食材に熱を奪われて凝縮するため、結果として通常の調理よりも早く脱水を引き起こして煮汁を増加させることができる。そのため、内容物の仕上がりを均一化するとともに、調理時間を短縮することができる。
そこで、本実施の形態1に係る加熱調理器100は、容器4内が減圧された状態で容器4内の沸騰を維持しながら昇温している場合に、容器4内をさらに減圧し、100℃未満の低温度帯から強い沸騰を確実に起こすようにする。
(基本動作)
本実施の形態1に係る加熱調理器100の基本動作について、図1および図2を参照しながら説明する。ここでは、加熱装置5として加熱コイル5aが用いられる場合を例にとって説明する。
まず、ユーザによって、任意のメニューを調理するのに必要な米、肉、魚、野菜、水および調味料等の材料が容器4内に投入される。その後、ユーザが取っ手部8を把持することにより、容器4が容器収納部3に載置され、外蓋2が閉じられる。これにより、内蓋9の蓋パッキン10が容器4のフランジ部4aに圧接され、容器4内が密閉される。
次に、ユーザによる操作表示装置29に対する操作によってメニューが選択され、図示しないスイッチがオンとされると、制御装置50に調理開始指示が与えられ、調理が開始される。このとき、制御装置50には、選択されたメニューに応じた調理シーケンスが、指示として与えられる。
調理シーケンスが制御装置50に与えられると、加熱コイル5aには、インバータ部30から高周波電流が供給され、高周波磁界が発生する。容器4の加熱コイル対向面は、発生した高周波磁界によって加熱コイル5aと磁気結合して励磁され、容器4の底面に渦電流が誘起される。そして、誘起された渦電流と容器4の抵抗とによりジュール熱が生じ、容器4の底面が発熱して容器4の内容物に対する加熱が行われる。
一方、三方電磁弁23は、調理開始前には第1の連通管18と第2の連通管19とが接続される状態となっており、連通流路として流路Bが形成される状態となっている。調理が開始されると、三方電磁弁23は、第1の連通管18と第3の連通管21とが接続される状態となり、連通流路が流路Bから流路Aに切り替わる。また、このとき減圧ポンプ24が駆動され、容器4内の空気が内蓋通気孔20、第3の連通管21および第1の連通管18を介して第1の外蓋通気孔16から外部へ排出される。これにより、容器4内の圧力が徐々に低下する。
そして、容器4の温度が、容器4内の圧力P1で沸騰する温度T1となると、容器4内に収容された内容物が沸騰し、減圧低温沸騰が開始される。なお、圧力P1は大気圧1.0atmよりも低い圧力である。減圧低温沸騰後、減圧ポンプ24の駆動が停止されるとともに、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23が制御され、加熱のみが継続される。この場合、沸騰時に発生する蒸気によって容器4内の圧力が徐々に上昇し、内容物が沸騰を維持したまま昇温する。
容器4の温度が設定温度Tに到達した後、インバータ部30が制御され、温調が設定温度Tで開始される。なお、設定温度Tが100[℃]の場合には、温調せずに連続的に加熱が行われてもよい。このとき、減圧ポンプ24および三方電磁弁23が制御されることにより、設定圧力Pが強制減圧圧力を超えないように間欠的に減圧が行われ、設定圧力Pが維持される。なお、設定温度Tが100[℃]の場合、蒸気排出弁12は開状態とされ、減圧ポンプ24は駆動しない。
指示された温調時間が経過すると、調理が終了し、インバータ部30および減圧ポンプ24の駆動が停止され、加熱および減圧が停止する。また、三方電磁弁23は、連通流路が流路Bとなるように制御される。
このように、本実施の形態1に係る加熱調理器100では、減圧低温沸騰をさせた後、昇温工程中は圧力制御を行わず、容器4を密閉状態とする。このとき、内容物が沸騰しているため、容器内で蒸気が発生し、発生した蒸気によって容器4内の圧力が上昇し、その結果、沸点も上昇する。また、容器4は、加熱装置5によって加熱が継続されているため、沸点が上昇すると、容器4内の温度はその沸点まで上昇し、再度容器4内の圧力が上昇して沸点が上昇する。以降、昇温を続ける限り、容器4内の圧力が大気圧に到達するまでこれを繰り返す形となる。これにより、容器4内の圧力は、昇温中もその時点における温度の飽和蒸気圧で変化するため、沸騰を維持しながら昇温をすることができる。
なお、沸騰が起こらない状態で減圧ポンプ24が停止され、三方電磁弁23によって連通流路が流路Bに切り替えられた状態で昇温が行われると、加熱による膨張によっても圧力が上昇するため、沸騰が起こらないまま昇温することになる。また、沸騰後、減圧ポンプ24が停止され、連通流路が流路Bに切り替えられて、徐々にリークをして昇温すれば、容器4内の圧力が必要以上に上昇して沸騰が起こらなくなる可能性がある。そのため、沸騰状態を維持し続けるためには、沸騰後に減圧ポンプ24を停止させ、連通流路を流路Bに切り替え、昇温中は三方電磁弁23を動作させないことが好ましい。
図7は、本実施の形態1に係る加熱調理器100の調理制御について説明するための概略図である。図7は、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ24、三方電磁弁23および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの一例を示す。図7に示すように、加熱調理器100には、調理の際の工程として、昇温工程、第1減圧工程、第2減圧工程および温調工程が設定されている。この例では、調理の際に、容器4内の圧力を圧力P1まで減圧して内容物を沸騰させ、その後、沸騰を維持しながら容器4を設定温度Tまで昇温させる場合について説明する。
(昇温工程)
昇温工程は、容器4内の温度が設定温度Tに達するまで昇温する工程である。昇温工程において、調理開始後、加熱制御部55は、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度T[℃]となるように加熱装置5を駆動し、容器4の加熱を開始する。また、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように、三方電磁弁23を切り替える。さらに、圧力制御部56は、蒸気排出弁12を閉にして減圧ポンプ24を駆動し、容器4内の減圧を開始する。これにより、第1減圧工程が開始される。
(第1減圧工程)
第1減圧工程は、容器4内の圧力を圧力P1まで減圧する工程である。第1減圧工程は、昇温工程中に行われる。第1減圧工程において、圧力制御部56は、予め設定された第1時間の中で、容器4内の内容物の沸騰が検知されるまで減圧を続ける。第1時間は、減圧ポンプ24による容器4内の減圧を行う時間であり、第1減圧工程が行われる時間である。容器4内の内容物の沸騰が起こらない状態で昇温した場合、十分な沸騰が得られないことがあるため、第1時間は、例えば5分程度の容器4内が十分に減圧される時間に設定される。
このとき、容器4内の圧力が沸騰前に減圧ポンプ24の性能上の最低圧力に到達した場合でも、内容物が沸騰するまで減圧が継続される。なお、本実施の形態1では、昇温工程による加熱と第1減圧工程による減圧とを同時に開始しているが、これに限られず、減圧の開始後に加熱が開始されてもよいし、設定温度Tよりも低い温度まで加熱してから減圧が開始されてもよい。
また、到達可能な最低圧力および最低圧力に到達するまでの時間は、搭載する減圧ポンプ24の性能によって異なる。そのため、減圧ポンプ24による容器4内の減圧時間ができるだけ短くなるように、圧力制御部56は、第1減圧工程による減圧を開始すると好ましい。これにより、減圧ポンプ24への負荷が軽減されるため、減圧ポンプ24の長寿命化を図ることができる。
時点t1において、容器4内の圧力が圧力P1まで減圧された状態で、当該圧力P1に対応する沸点である温度T1まで容器4内の内容物の温度が昇温すると、内容物の沸騰が開始される。内容物が沸騰した状態で、減圧ポンプ24が駆動して容器4内の圧力P1が維持された場合、容器4内の内容物の温度は上昇しない、もしくは非常に緩やかに上昇する。
時点t2において、沸騰検知部53が沸騰を検知すると、第1減圧工程が終了する。第1減圧工程終了後、圧力制御部56は、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替え、容器4を密閉状態にする。なお、内容物の沸騰検知として、従来から用いられている各種公知の方法が用いられる。具体的には、例えば、蓋センサ26で検知された容器4内の上部空間温度と、温度センサ6で計測された容器4の温度との温度差が設定値以下になった場合に、沸騰検知部53は、沸騰を検知することができる。
このとき、圧力制御部56は、三方電磁弁23を切り替えた後、減圧ポンプ24を停止させるが、これに限られず、減圧ポンプ24をそのまま駆動してもよい。これにより、外気が第2の外蓋通気孔17から吸引され、流路Bを介して第1の外蓋通気孔16に排気されるため、沸騰時に減圧ポンプ24が吸引した水分が排出され、減圧ポンプ24の内部を含む流路Bを乾燥させることができるからである。なお、減圧ポンプ24は一般に駆動音が大きいため、圧力制御部56は、一定の時間で減圧ポンプ24を停止してもよい。
ところで、減圧沸騰による調理では、内容物が沸騰していても例外的に沸騰が検知されない場合がある。例えば、煮汁に対して具材が十分に多い調理では、減圧沸騰によって生じた水蒸気を含め、熱が具材に奪われてしまい、沸騰をしても容器4内の上部空間温度が上昇しにくい。そのため、本実施の形態1では、沸騰検知部53が沸騰を検知せずに第1時間に到達した場合においても、圧力制御部56は、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替える。
連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23が切り替えられて容器4が密閉されると、内容物の沸騰によって発生する蒸気により、容器4内の圧力が徐々に上昇する。また、容器4内の圧力上昇に伴って内容物の沸点が上昇するため、加熱制御部55は、加熱装置5による容器4の加熱を継続する。これにより、容器4の内容物は沸騰を維持しながら昇温する。
このとき、加熱制御部55は、加熱装置5への入力電流を高くしてもよい。入力電流を第1減圧工程から維持した場合でも、容器4内は沸騰を維持しながら徐々に昇温するが、沸騰が起きた場合、沸騰によって蒸発潜熱が奪われる。そのため、同じ入力で沸騰しない場合と比較して、昇温速度が低下する。したがって、調理のメニューをユーザが操作表示装置29で選択する場合には、炊飯のように水(煮汁)が十分に多く、焦げ付きの心配がないメニューでは強火に制御し、初期の煮汁が少ない調理またはとろみのある煮汁のメニューなどでは弱火に制御するとよい。
第1減圧工程終了後の昇温時には、容器4が密閉されているため、沸騰を維持した状態である。しかし、蓋パッキン10、経路パッキン22、あるいは蓋センサパッキン27と内蓋9との間に異物が混入するなどして、容器4が完全に密閉されていない場合には、スローリークが発生し、容器4内の沸騰が弱くなる場合がある。そこで、本実施の形態1では、容器4内の沸騰が弱くなった場合に確実に強い沸騰を維持するため、容器4内を再度減圧する第2減圧工程が行われる。
(第2減圧工程)
第1減圧工程が終了してから予め設定された第2時間が経過した時点t3において、第2減圧工程が開始される。第2減圧工程は、容器4内の内容物の確実かつ強力な沸騰を維持するために減圧する工程である。第2減圧工程は、昇温工程中に行われる。
圧力制御部56は、連通流路が流路Bから流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動する。また、圧力制御部56は、蒸気排出弁12の閉状態を維持する。これにより、容器4内の減圧が開始され、予め設定された第3時間だけ容器4内が減圧される。
なお、第1減圧工程終了後の昇温時に、沸騰が維持されている場合には、第2減圧工程によって容器4内をさらに減圧することで、より強い沸騰を起こし、煮汁の対流を促進することができる。特に、煮汁に対して具材が十分に多い調理の場合には、減圧沸騰によって生じた水蒸気が具材に熱を奪われて上部に到達する前にほとんど凝縮してしまう。そのため、発生した水蒸気を減圧ポンプ24がそれほど吸引することがなくなり、減圧開始時の煮汁の温度における飽和水蒸気圧よりも比較的低い圧力まで減圧することができる。
このとき、食材の温度における飽和水蒸気圧よりも低い圧力まで容器4内を減圧すると、食材内部の水分が蒸発する。蒸発した水蒸気は、具材に熱を奪われて凝縮し、結果として強制的に脱水が促される。これにより、容器4内の煮汁を増やすことができる。本実施の形態1では、予め低温で沸騰を引き起こしてから昇温しているため、沸騰によって発生した水蒸気によって、煮汁に浸かっていない食材も水蒸気で加温されている。これにより、多くの食材の水分を蒸発させることができる。また、より効率的に食材からの脱水を促進するため、容器4の側面を加熱する側面加熱ヒータ28によって容器4を加熱し、少なくとも第1減圧工程が開始されるまでの間は、側面加熱ヒータ28の出力をONとするようにしてもよい。
圧力の低下に伴って煮汁は激しく沸騰し、加熱をしていても急激に温度が低下するため、長時間減圧をすると煮汁の温度が下がりすぎてしまい、調理時間が延長する可能性がある。また、炊飯時のように水が多い場合には、水蒸気を積極的に吸引してしまうため、減圧ポンプ24への負荷が大きくなる。したがって、第2減圧工程では、第1減圧工程と比較して減圧時間を短く設定する。すなわち、第3時間は、第1時間よりも短い時間に設定される。具体的には、例えば第3時間は、数十秒程度とすると好ましい。
時点t4において、時点t3から第3時間が経過すると、第2減圧工程が終了する。第2減圧工程終了後、圧力制御部56は、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替え、容器4を密閉状態にする。これにより、容器4内では、沸騰状態を保ったまま煮汁が昇温する。なお、圧力制御部56は、蒸気排出弁12の閉状態を維持しつつ、減圧ポンプ24を停止させる。このとき、第1減圧工程と同様に、圧力制御部56は、減圧ポンプ24の駆動を継続させてもよい。これにより、減圧ポンプ24が吸引した水分が排出されるとともに、減圧ポンプ24を含む流路Bが乾燥される。
ここで、第2減圧工程の開始は、第1減圧工程の終了から第2時間経過後であるように説明したが、これに限られず、例えば蓋センサ26で計測した容器4内の上部空間温度が予め設定された減圧開始温度に達した場合としてもよい。ただし、上述したように、具材が煮汁に対して少ない場合には、具材に熱を奪われ、上部空間温度が上昇しにくい場合があるため、考慮する必要がある。また、第2減圧工程の終了は、当該工程の開始から第3時間経過後であるように説明したが、これに限られず、例えば第2減圧工程の開始時と同様に、蓋センサ26の計測結果を利用してもよい。ただし、第2減圧工程の開始時と同様に、上部空間温度が上昇しにくい場合があることを考慮する必要がある。
第2減圧工程が終了する時点t4から第2時間が経過した時点t5において、第2減圧工程が再度開始される。圧力制御部56は、連通流路が流路Bから流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動する。また、圧力制御部56は、蒸気排出弁12の閉状態を維持する。これにより、容器4内の減圧が開始され、第3時間だけ容器4内が減圧される。
2度目の第2減圧工程は、最初の第2減圧工程と同様に、容器4内の沸騰の強さを維持したり、より強い沸騰を起こしたりするために実施される。このときの第3時間は、最初の第3時間と同一の長さであり、第1時間よりも短い時間に設定される。
時点t6において、時点t5から第3時間が経過すると、2度目の第2減圧工程が終了する。第2減圧工程終了後、圧力制御部56は、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替え、容器4を密閉状態にする。これにより、容器4内では、沸騰状態を保ったまま煮汁が昇温する。なお、圧力制御部56は、蒸気排出弁12の閉状態を維持しつつ、減圧ポンプ24を停止させる。このとき、第2減圧工程と同様に、圧力制御部56は、減圧ポンプ24の駆動を継続させてもよい。これにより、減圧ポンプ24が吸引した水分が排出されるとともに、減圧ポンプ24を含む流路Bが乾燥される。
なお、複数回目の第2減圧工程は、上述したように、容器4内の沸騰の強さを維持するために行われる。そのため、複数回目の第2減圧工程を開始する時点において、容器4内の沸騰の強さが維持されている場合には、複数回目の第2減圧工程を省略してもよい。
通常、沸騰が強くなると、具材が非常に多い場合などの例外を除いて、容器4内の上部空間温度が上昇する。そのため、このように沸騰が強い場合には、容器4内の上部空間と内容物との温度差が小さくなる。したがって、温度判定部52は、第2減圧工程が終了してから第2時間が経過した際に、蓋センサ26で計測された容器4内の上部空間温度と、温度センサ6で計測された容器4の温度すなわち内容物の温度との差が予め設定された温度差閾値以上であるか否かを判定する。そして、温度判定部52は、温度差が温度差閾値未満である場合には、容器4内の沸騰が十分な強さであると判定し、複数回目の第2減圧工程を省略する。一方、温度差が温度差閾値以上である場合、温度判定部52は、容器4内の沸騰が十分な強さではないと判定し、複数回目の第2減圧工程を実施する。
また、複数回目の第2減圧工程が終了してからさらに所定時間経過した後、温度判定部52は、同様にして上部空間温度と内容物の温度との温度差と温度差閾値とを比較し、温度差が温度差閾値以上である場合に、同様の制御によって次の第2減圧工程を実施してもよい。
このように、第2減圧工程を繰り返し実施して、容器4内の昇温と減圧とを繰り返すことにより、煮汁に対して具材が非常に多い場合であっても、具材からの脱水が促進される。そのため、脱水により煮汁を早期に増加させ、容器4内の上部空間温度を上昇させることができる。
なお、上記の例では、第2減圧工程を複数回繰り返す場合に、それぞれの工程における減圧時間は同一の第3時間であるように説明したが、これはこの例に限られない。例えば、第2減圧工程における減圧時間は、直前の第2減圧工程の減圧時間より短くしてもよい。これは、昇温工程が進むに従って、容器4内の温度が上昇しており、内容物に対する加熱がある程度行われているため、強い沸騰をそれほど維持しなくてもよいからである。
(温調工程)
時点t7において、蓋センサ26によって計測された容器4内の上部空間温度と、温度センサ6で計測された容器4の温度とがそれぞれ設定温度Tに到達すると、工程が温調工程に移行する。温調工程は、容器4の温度が設定温度Tを維持するように、温度を調整する工程である。
温調工程において、加熱制御部55は、容器4の温度が設定温度Tを維持するように加熱装置5を制御する。すなわち、加熱制御部55は、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まるように加熱装置5を制御する。なお、ここでは、「設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まる」ことが「設定温度Tを維持する」ことを意味するものとする。
ここで、設定温度Tが100℃の場合、圧力制御部56は蒸気排出弁12を開にして、蒸気を逃がすようにする。また、設定温度Tが100℃未満の場合、内容物が沸騰することによって容器4内では蒸気が発生している。そのため、容器4内の圧力が上昇するものの、容器4の温度が一定の温度に温調され、上昇した圧力に対応する沸点まで温度が上昇しないことから、次第に沸騰が起こらなくなる。
そこで、設定温度Tが100℃未満の場合、圧力制御部56は、温調工程に移行した後に、容器4内の圧力が設定圧力Pを維持するよう、減圧ポンプ24を間欠的に駆動し、減圧を繰り返す。具体的には、温度判定部52は、予め設定された時間間隔毎に、蓋センサ26で計測された容器4内の上部空間温度が予め設定された空間温度閾値以下であるか否かを判定する。
上部空間温度が空間温度閾値以下である場合、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替え、減圧ポンプ24と容器4内とを連通させる。そして、圧力制御部56は、減圧ポンプ24を例えば10秒といった規定時間だけ駆動し、再度、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるという動作を繰り返す。
すなわち、圧力制御部56は、容器4内の上部空間温度が設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まるように、減圧ポンプ24および三方電磁弁23を制御する。なお、ここでは、「設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まる」ことが「設定温度Tを維持する」ことを意味するものとする。
このように、温調工程では、当該工程に対して予め設定された温調時間が終了するまで、温度および圧力の調整が繰り返される。そして、温調時間が終了すると、調理制御が終了する。なお、図7の温調工程における実線は、設定温度Tを100℃とした場合の動作状態を示し、点線は、設定温度Tを100℃未満とした場合の動作状態を示す。
なお、この例では、温調工程において、蓋センサ26の計測結果に基づいて容器4内が間欠的に減圧されるように説明したが、これはこの例に限られない。例えば、沸騰中に容器4内を減圧した場合でも、短時間であれば沸騰が強くなるだけであるため、一定時間間隔で容器4内が減圧されるようにしてもよい。
また、温調工程において減圧ポンプ24が駆動されている間、圧力制御部56は、昇温工程時と同様に、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替え、減圧ポンプ24の駆動を継続させてもよい。これにより、減圧ポンプ24が吸引した水分が排出されるとともに、減圧ポンプ24を含む流路Bが乾燥される。
図8および図9は、図3の制御装置50による処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図8および図9において、記号XおよびYは、それぞれ対応する記号へと処理が移行することを示す。
ステップS1において、制御装置50にメニューに応じた調理シーケンスが与えられると、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、蒸気排出弁12を「閉」とする。ステップS2において、加熱制御部55は、加熱装置5を制御して加熱処理を開始する。ステップS3において、圧力制御部56は、減圧ポンプ24を駆動し、減圧処理を開始する。
ステップS4において、沸騰検知部53は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物が沸騰したか否かを検知する。容器4の内容物が沸騰したことが検知された場合(ステップS4;Yes)には、処理がステップS6に移行する。また、容器4の内容物が沸騰していないことが検知された場合(ステップS4;No)には、処理がステップS5に移行する。
ステップS5において、第1減圧工程が開始されてから第1時間が経過したか否かが判定される。第1時間が経過したと判定された場合(ステップS5;Yes)には、処理がステップS6に移行する。一方、第1時間が経過していないと判定された場合(ステップS5;No)には、処理がステップS4に戻る。
ステップS6において、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を終了し、容器4を密閉する。これにより、第1減圧工程が終了する。
次に、ステップS7において、第1減圧工程が終了してから第2時間が経過したか否かが判定される。第2時間が経過したと判断された場合(ステップS7;Yes)には、処理がステップS8に移行する。一方、第2時間が経過していないと判断された場合(ステップS7;No)には、処理がステップS7に戻り、第2時間が経過するまで、ステップS7の処理が繰り返される。
ステップS8において、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動し、容器4内を減圧する。これにより、第2減圧工程が開始される。
ステップS9において、第2減圧工程が開始されてから第3時間が経過したか否かが判定される。第3時間が経過したと判定された場合(ステップS9;Yes)には、処理がステップS10に移行する。一方、第3時間が経過していないと判定された場合(ステップS9;No)には、処理がステップS9に戻る。
ステップS10において、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を終了し、容器4を密閉する。これにより、第2減圧工程が終了する。
次に、ステップS11において、第2減圧工程が終了してから第2時間が経過したか否かが判定される。第2時間が経過したと判断された場合(ステップS11;Yes)には、処理がステップS12に移行する。一方、第2時間が経過していないと判断された場合(ステップS11;No)には、処理がステップS11に戻り、第2時間が経過するまで、ステップS11の処理が繰り返される。
ステップS12において、温度判定部52は、蓋センサ26で計測された容器4内の上部空間温度と、温度センサ6で計測された容器4内の内容物の温度との差が温度差閾値以上であるか否かを判定する。温度差が所定温度未満であると判定された場合(ステップS12;No)には、処理がステップS14に移行する。また、温度差が所定温度以上であると判定された場合(ステップS12;Yes)には、処理がステップS13に移行する。
ステップS13において、温度判定部52は、温度センサ6の計測結果と温度設定部51により設定された設定温度Tとに基づき、容器4内の内容物が設定温度Tに到達したか否かを判定する。内容物が設定温度Tに到達したと判定された場合(ステップS13;Yes)には、処理がステップS14に移行する。一方、内容物が設定温度Tに到達していないと判定された場合(ステップS13;No)には、処理がステップS8に戻り、第2減圧工程が再度開始される。
ステップS14において、温度設定部51は、設定温度Tが100[℃]であるか否かを判定する。設定温度Tが100[℃]である場合(ステップS14;Yes)、圧力制御部56は、ステップS15において、蒸気排出弁12を「開」とする。そして、ステップS16において温調工程が開始される。
一方、設定温度Tが100[℃]でない場合(ステップS14;No)には、ステップS17において、温調工程が開始される。ステップS18において、温度判定部52は、蓋センサ26で計測された容器4内の上部空間温度が空間温度閾値以下であるか否かを判定する。上部空間温度が空間温度閾値を超えている場合(ステップS18;No)には、処理がステップS21に移行する。
また、上部空間温度が空間温度閾値以下である場合(ステップS18;Yes)には、処理がステップS19に移行する。ステップS19において、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動し、容器4内を減圧する。ステップS20において、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を終了し、容器4を密閉する。
次に、ステップS21において、温調時間が経過したか否かが判定される。温調時間が経過した場合(ステップS21;Yes)には、一連の処理が終了する。一方、温調時間が経過していない場合(ステップS21;No)には、処理がステップS18に戻り、温調工程が継続される。
以上のように、本実施の形態1に係る加熱調理器100では、内容物を設定温度まで昇温させる昇温工程中に、容器4内を大気圧未満に減圧する減圧工程が複数回行われる。これにより、昇温工程中に確実に十分な強さの沸騰を維持することができる。また、十分な強さの沸騰を確実に維持できることにより、内容物の食味を向上したり、調理時間を短縮したりすることができる。
複数回行われる減圧制御は、容器4内を第1時間だけ減圧する第1減圧工程と、第1減圧工程が終了してから第2時間が経過した後に、容器4内を第1時間よりも短い第3時間だけ減圧する第2減圧制御とからなる。第1減圧工程によって容器4内が大気圧未満の圧力に減圧されることにより、内容物を低温で沸騰させることができる。そして、その後の圧力上昇に伴って沸騰が弱くなった場合に、第2減圧工程によって容器4内の沸騰を維持するとともに、さらに強い沸騰を引き起こすことができる。
また、制御装置50は、第2の減圧制御が終了してから第2時間が経過した後に、第2減圧制御をさらに行う。これにより、十分な強さの沸騰を維持した状態で、容器4内の温度を設定温度Tまで昇温させることができる。
このとき、制御装置50は、第2減圧制御が終了してから第2時間が経過した後に、容器4内の上部空間温度と内容物の温度との温度差が温度差閾値以上である場合に、第2減圧制御をさらに行うようにしてもよい。第2の減圧工程を複数回行う場合、制御装置50は、第2の減圧工程の第3時間を同一としてもよいし、減圧時間を徐々に短くしてもよい。
制御装置50は、第1減圧工程が開始されるまで、側面加熱ヒータ28によって容器4を加熱する。これにより、容器4内の内容物を確実に昇温させることができる。
制御装置50は、第1および第2減圧工程の際に、内蓋通気孔20と第1の連通管18とが連通するように三方電磁弁23を制御する。これにより、減圧工程の際に容器4内を減圧させることができる。また、制御装置50は、第1および第2減圧工程が行われていない場合に、第1の連通管18と第2の連通管19とが連通するように三方電磁弁23を制御する。これにより、減圧工程が行われていない場合に、容器4内の水蒸気を吸引した減圧ポンプ24を乾燥させることができる。
実施の形態2.
次に、本実施の形態2について説明する。通常、加熱調理器100において加熱動作が行われた場合には、温度センサ6で計測される容器4の温度が容器4内の内容物の温度よりも早く設定温度Tに達する。これは、内容物の種類にもよるが、概して容器4の熱伝導率が内容物の熱伝導率よりも十分に高いためである。この場合、容器4の温度が設定温度Tに達した後で容器4内が急激に減圧されると、容器4の表面付近で激しい沸騰が起こるため、容器4内を攪拌することができる。
そこで、本実施の形態2では、容器4内の内容物が昇温中であり、かつ、容器4の温度が設定温度Tに達して容器4の昇温工程が終了した場合に、第1減圧工程を開始する。なお、本実施の形態2に係る加熱調理器100の構成および基本的な動作については、実施の形態1と同様であるため、以下では、本実施の形態2における特徴的な制御を中心に説明する。
図10は、本実施の形態2に係る加熱調理器100の調理制御について説明するための概略図である。図10は、容器4の温度[℃]および容器4内の圧力[atm]と、加熱装置5、減圧ポンプ24、三方電磁弁23および蒸気排出弁12それぞれの動作タイミングとの関係を示すグラフの一例を示す。図10に示すように、加熱調理器100には、実施の形態1と同様に、調理の際の工程として、昇温工程、第1減圧工程、第2減圧工程および温調工程が設定されている。本実施の形態2の特徴は、容器4内を減圧する第1減圧工程が温調工程移行後に行われることである。なお、第1減圧工程は、内容物の温度が設定温度Tに到達する前に行われる。この例では、調理の際に、容器4の温度を設定温度Tまで昇温させ、内容物の温度が設定温度Tに到達する前に、容器4内の圧力を圧力P1まで減圧して内容物を沸騰させる場合について説明する。
(昇温工程)
昇温工程は、容器4内の温度が設定温度Tに達するまで昇温する工程である。昇温工程において、調理開始後、加熱制御部55は、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度T[℃]となるように加熱装置5を駆動し、容器4の加熱を開始する。このとき、通常は、容器4内の内容物よりも容器4の熱伝導率が高いため、内容物の温度が十分に上昇する前に、容器4の温度が設定温度Tに到達する。
一方、三方電磁弁23は、調理開始前には第1の連通管18と第2の連通管19とが接続される状態となっており、連通流路として流路Bが形成される状態となっている。ここで、実施の形態1では、調理が開始されると、圧力制御部56は、第1の連通管18と第3の連通管21とが接続され、連通流路が流路Bから流路Aに切り替わるように、三方電磁弁23を制御する。これに対して、本実施の形態2では、調理が開始されても、圧力制御部56は、第1の連通管18と第2の連通管19とが接続される状態、すなわち流路Bを維持するように、三方電磁弁23を制御する。また、このとき、圧力制御部56は、蒸気排出弁12を開とし、減圧ポンプ24を駆動させない。
(温調工程)
時点t11において、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度Tに到達すると、工程が温調工程に移行する。温調工程は、容器4の温度が設定温度Tを維持するように、温度を調整する工程である。
温調工程において、加熱制御部55は、容器4の温度が設定温度Tを維持するように加熱装置5を制御する。すなわち、加熱制御部55は、温度センサ6で計測された容器4の温度が設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まるように加熱装置5を制御する。実施の形態1と同様に、「設定温度Tを含む一定の温度範囲内に収まる」ことは、「設定温度Tを維持する」ことを意味する。
ここで、本実施の形態2では、時点t11において、蓋センサ26によって計測された容器4内の上部空間温度は、設定温度Tよりも低い温度である場合が多い。これは、容器4の熱伝導率が内容物の熱伝導率よりも十分に高いためである。なお、温調工程において、圧力制御部56は、蒸気排出弁12を閉とするが、蓋センサ26によって計測された温度が、例えば97℃以上である場合、圧力制御部56は、蒸気排出弁12を開にして、蒸気を外部に逃がす。これは、容器4内の内容物が沸騰し、容器4内の圧力が大気圧(1.0atm)以上となって加圧されるのを抑制するためである。なお、容器4内の圧力が大気圧以上となって加圧されることは、温調工程に限られず、調理工程全体で起こり得る。そのため、圧力制御部56は、蓋センサ26によって計測された容器4内の上部空間温度の監視を調理工程全体で行ってもよい。
(第1減圧工程)
温調工程に移行後、予め設定された待機時間が経過した時点t12において、圧力制御部56は、第1の連通管18と第3の連通管21とが接続されて連通流路が流路Aとなるように、三方電磁弁23を切り替える。また、圧力制御部56は、蒸気排出弁12を閉にして減圧ポンプ24を駆動し、容器4内の減圧を開始する。これにより、第1減圧工程が開始される。第1減圧工程は、容器4内の圧力を圧力P1まで減圧する工程であり、温調工程中に行われる。なお、第1減圧工程は、容器4内の内容物の温度が設定温度Tに到達する前に開始される。
ここで、第1減圧工程は、温調工程に移行した直後に実行されてもよいが、例えば1分程度の待機時間だけ時間が経過してから実行されると好ましい。これは、温度センサ6が容器4の全体の温度を検知することができず、温調工程移行直後では、容器4の全体の温度が均一の温度となっていないためである。温調工程に移行してから待機時間が経過すると、容器4全体の温度が一定の温度となっているため、待機時間が経過してから容器4内の減圧が開始された場合には、容器4の底全体で安定して沸騰が起こるようになる。
第1減圧工程において、圧力制御部56は、予め設定された第1時間の中で、容器4内の内容物の沸騰が検知されるまで減圧を続ける。第1時間は、減圧ポンプ24による容器4内の減圧を行う時間であり、第1減圧工程が行われる時間である。なお、容器4内の圧力が沸騰前に減圧ポンプ24の性能上の最低圧力に到達した場合でも、内容物の沸騰が検知されるまで、減圧が継続される。容器4内の内容物の沸騰が起こらない状態で昇温した場合、十分な沸騰が得られないことがあるが、温調工程に移行してから容器4内が減圧されることにより、確実に沸騰させることができるとともに、非常に激しい沸騰を発生させることができる。
第1減圧工程における減圧によって内容物が沸騰すると、蒸発潜熱が奪われるため、温度センサ6で計測される容器4の温度は、多少なりとも低下する。一方、容器4の底付近に溜まっていた熱は、容器4全体に行き届くため、加熱ムラが抑制される。特に、煮汁に対して具材が十分に多い調理では、煮汁の熱容量が少ないため、容器4の温度が著しく低下する。すなわち、容器4を一定の温度で温調しているにも関わらず温度が低下するということは、それだけ内部で激しい沸騰が起きているということを意味する。
なお、本実施の形態2において、制御装置50は、昇温工程および温調工程における容器4の温度が設定温度Tとなるように加熱装置5を制御しているが、減圧による容器4の温度低下を考慮して、容器4の温度が一時的に設定温度Tより高い初期目標温度となるように加熱装置5を制御してもよい。例えば、設定温度Tが100℃である場合、初期目標温度は、5℃~30℃程度高い105℃~130℃とする。初期目標温度を設定温度Tよりも高くすることにより、一時的に容器4の温度が目標温度である設定温度Tよりも高くなることがあるが、容器4内の内容物全体の温度が設定温度Tよりも高くなることはなく、内容物の大部分には影響を与えることがない。すなわち、初期目標温度が設定温度Tより高い温度に設定されることにより、容器4の温度が早く上昇するため、容器4の温度低下によって調理時間が長くなるのを抑制し、調理時間を短縮することができる。
なお、この場合、制御装置50は、第1減圧工程開始後に、容器4の温度が元の設定温度Tとなるように加熱装置5を制御するよう切り替える。また、制御装置50は、第1減圧工程終了後に、容器4の温度が設定温度Tに到達した時点で、容器4の温度が元の設定温度Tとなるように加熱装置5を制御するよう切り替えてもよい。
時点t13において、沸騰検知部53が沸騰を検知すると、第1減圧工程が終了する。第1減圧工程終了後、圧力制御部56は、連通流路が流路Aから流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替え、容器4を密閉状態にする。なお、内容物の沸騰検知として、実施の形態1と同様に、従来から用いられている各種公知の方法が用いられる。
このとき、圧力制御部56は、三方電磁弁23を切り替えた後、減圧ポンプ24を停止させるが、これに限られず、減圧ポンプ24をそのまま駆動してもよい。これにより、外気が第2の外蓋通気孔17から吸引され、流路Bを介して第1の外蓋通気孔16に排気されるため、沸騰時に減圧ポンプ24が吸引した水分が排出され、減圧ポンプ24の内部を含む流路Bを乾燥させることができるからである。なお、減圧ポンプ24は一般に駆動音が大きいため、圧力制御部56は、一定の時間で減圧ポンプ24を停止してもよい。
連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23が切り替えられて容器4が密閉されると、実施の形態1と同様に、内容物の沸騰によって発生する蒸気により、容器4内の圧力が徐々に上昇する。また、容器4内の圧力上昇に伴って内容物の沸点が上昇するため、加熱制御部55は、加熱装置5による容器4の加熱を継続する。これにより、容器4の内容物は沸騰を維持しながら昇温する。
時点t13以降の動作については、実施の形態1における時点t2以降と同様である。すなわち、第1減圧工程が終了した時点t13から第2時間が経過した時点t14において、容器4内の内容物の確実かつ強力な沸騰を維持するために減圧する第2減圧工程が開始され、第2減圧工程が第3時間だけ継続される。時点t14から第3時間が経過した時点t15において、第2減圧工程が終了すると、減圧ポンプ24の停止とともに連通流路が流路Aから流路Bに切り替えられ、容器4が密閉状態とされる。
以降、容器4内の沸騰の強さを維持するために、第2減圧工程が複数回繰り返される。なお、複数回目の第2減圧工程を開始する時点において、容器4内の沸騰の強さが維持されている場合には、実施の形態1と同様に、複数回目の第2減圧工程が省略されてもよい。
図11~図13は、本実施の形態2に係る加熱調理器による処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図11~図13において、記号UおよびVは、それぞれ対応する記号へと処理が移行することを示す。また、図11~図13において、図8および図9に示す実施の形態1に係る処理と共通する箇所には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
ステップS31において、制御装置50にメニューに応じた調理シーケンスが与えられると、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、蒸気排出弁12を「閉」とする。ステップS32において、加熱制御部55は、加熱装置5を制御して加熱処理を開始する。
ステップS33において、温度判定部52は、温度センサ6の計測結果と温度設定部51により設定された設定温度Tとに基づき、容器4の温度が設定温度Tに到達したか否かを判定する。容器4の温度が設定温度Tに到達したと判定された場合(ステップS33;Yes)には、ステップS34において、温調工程が開始される。一方、容器4の温度が設定温度Tに到達していないと判定された場合(ステップS33;No)には、処理がステップS33に戻り、容器4の温度が設定温度Tに到達するまで、ステップS33の処理が繰り返される。
温調工程が開始された後、ステップS35において、温度判定部52は、蓋センサ26による容器4内の上部空間温度が97℃以上であるか否かを判定する。蓋センサ26によって計測された温度が97℃以上である場合(ステップS35;Yes)、圧力制御部56は、ステップS36において、蒸気排出弁12を「開」とする。そして、処理がステップS37に移行する。一方、蓋センサ26によって計測された温度が97℃未満である場合(ステップS35;No)には、処理がステップS37に移行する。
ステップS37において、温調工程が開始されてから待機時間が経過したか否かが判定される。待機時間が経過したと判定された場合(ステップS37;Yes)には、処理がステップS38に移行する。一方、待機時間が経過していないと判定された場合(ステップS37;No)には、処理がステップS37に戻り、待機時間が経過するまで、ステップS37の処理が繰り返される。
待機時間が経過すると、ステップS38において、圧力制御部56は、減圧ポンプ24を駆動して減圧処理を開始する。このとき、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、蒸気排出弁12を「閉」とする。
ステップS39において、沸騰検知部53は、温度センサ6による計測結果に基づき、容器4の内容物が沸騰したか否かを検知する。容器4の内容物が沸騰したことが検知された場合(ステップS39;Yes)には、処理がステップS41に移行する。また、容器4の内容物が沸騰していないことが検知された場合(ステップS39;No)には、処理がステップS40に移行する。
ステップS40において、第1減圧工程が開始されてから第1時間が経過したか否かが判定される。第1時間が経過したと判定された場合(ステップS40;Yes)には、処理がステップS41に移行する。一方、第1時間が経過していないと判定された場合(ステップS40;No)には、処理がステップS39に戻る。
ステップS41において、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を終了し、容器4を密閉する。これにより、第1減圧工程が終了する。
次に、ステップS42において、温度判定部52は、温度センサ6の計測結果と温度設定部51により設定された設定温度Tとに基づき、容器4の温度が設定温度T未満であるか否かを判定する。容器4の温度が設定温度T未満である場合(ステップS42;Yes)には、処理がステップS43に移行する。一方、容器4の温度が設定温度T以上である場合(ステップS42;No)、すなわち容器4の温度が設定温度Tに到達した場合には、処理がステップS14に移行する。
ステップS43において、第1減圧工程が終了してから第2時間が経過したか否かが判定される。第2時間が経過したと判定された場合(ステップS43;Yes)には、処理がステップS8に移行する。一方、第2時間が経過していないと判定された場合(ステップS43;No)には、処理がステップS43に戻り、第2時間が経過するまで、ステップS43の処理が繰り返される。
ステップS8において、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動し、容器4内を減圧する。これにより、第2減圧工程が開始される。以下、実施の形態1と同様に、容器4の温度と容器4内の内容物の温度とが設定温度Tに到達するように、ステップS8~ステップS14の処理が行われる。
そして、ステップS14において、温度設定部51は、設定温度Tが100[℃]であるか否かを判定する。設定温度Tが100[℃]である場合(ステップS14;Yes)、圧力制御部56は、ステップS15において、蒸気排出弁12を「開」とする。そして、処理がステップS21に移行する。一方、設定温度Tが100[℃]でない場合(ステップS14;No)には、処理がステップS18に移行する。
ステップS18において、温度判定部52は、蓋センサ26で計測された容器4内の上部空間温度が空間温度閾値以下であるか否かを判定する。上部空間温度が空間温度閾値を超えている場合(ステップS18;No)には、処理がステップS21に移行する。一方、上部空間温度が空間温度閾値以下である場合(ステップS18;Yes)には、処理がステップS19に移行する。
ステップS19において、圧力制御部56は、連通流路が流路Aとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を駆動し、容器4内を減圧する。ステップS44において、容器4内が減圧されてから第2時間が経過したか否かが判定される。第2時間が経過したと判定された場合(ステップS44;Yes)には、処理がステップS20に移行する。一方、第2時間が経過していないと判定された場合(ステップS44;No)には、処理がステップS44に戻り、第2時間が経過するまで、ステップS44の処理が繰り返される。ステップS20において、圧力制御部56は、連通流路が流路Bとなるように三方電磁弁23を切り替えるとともに、減圧ポンプ24を停止させて容器4内の減圧を終了し、容器4を密閉する。
次に、ステップS21において、温調時間が経過したか否かが判定される。温調時間が経過した場合(ステップS21;Yes)には、一連の処理が終了する。一方、温調時間が経過していない場合(ステップS21;No)には、処理がステップS18に戻り、温調工程が継続される。
以上のように、本実施の形態2に係る加熱調理器100において、制御装置50は、容器4の温度が設定温度Tに到達した段階で、容器4の温度を設定温度Tで温調する温調工程を行う。また、制御装置50は、温調工程中であり、かつ、容器4内の内容物の温度が設定温度Tに到達する前に、第1減圧工程を行う。このように、容器4の温度が設定温度Tに到達した後に、容器4内が減圧されることで、容器4の表面付近で激しい沸騰が起きる。そのため、容器4内の内容物を攪拌することができる。
本実施の形態2に係る加熱調理器100において、制御装置50は、温調工程を行う際の容器4の初期目標温度を設定温度Tよりも高い温度に設定して温調工程を行い、第1減圧工程開始後に、容器4の温度を設定温度Tで温調する。これにより、減圧による容器4の温度低下によって調理時間が長くなるのを抑制し、調理時間を短縮することができる。
本実施の形態2に係る加熱調理器100において、制御装置50は、温調工程を行う際の容器4の初期目標温度を設定温度Tよりも高い温度に設定して温調工程を行い、第1減圧工程終了後に容器4の温度が設定温度Tに到達した場合に、容器4の温度を設定温度Tで温調する。これにより、減圧による容器4の温度低下によって調理時間が長くなるのを抑制し、調理時間を短縮することができる。
本実施の形態2に係る加熱調理器100において、制御装置50は、容器4内の内容物の量が少ないほど第2時間が短くなるように、減圧ポンプ24を制御する。これにより、容器4内の内容物を適切に昇温させることができる。
以上、本発明の実施の形態1および2について説明したが、本発明は、上述した本発明の実施の形態1および2に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、この例では、蓋センサ26が温度センサであるように説明したが、これに限られず、蓋センサ26が容器4内の圧力を計測する圧力センサであってもよい。このように蓋センサ26を圧力センサとした場合、制御装置50は、蓋センサ26で計測した圧力を、当該圧力における沸点に換算することにより、上述した各種の制御を行うことができる。
また、実施の形態1では、容器4内を昇温させながら第1減圧工程が行われるが、これはこの例に限られない。例えば、設定温度Tよりも低い任意の温度から確実に沸騰させて、設定温度Tまで昇温させる場合、制御装置50は、容器4内の温度を予め任意の温度まで温調してから第1減圧工程を行って容器4内の内容物を沸騰させる。そして、制御装置50は、その後、容器4内の温度が設定温度Tとなるように加熱装置5を制御し、第2減圧工程を行ってもよい。
さらに、例えば、第3の連通管21に冷却器が設けられるとともに、外蓋2に露受けが設けられてもよい。このように冷却器および露受けが設けられることにより、減圧ポンプ24によって容器4内の水蒸気が吸引された場合に、吸引された水蒸気が第3の連通管21において冷却される。そして、冷却された水蒸気による露が露受けに貯留される。これにより、減圧ポンプ24が水蒸気を吸引することなく、容器4内の沸騰を維持することができる。
さらにまた、内蓋9を冷却する冷却器を外蓋2に設けてもよい。内蓋9が冷却されることにより、容器4内の空間が冷却されるため、容器4内の水蒸気が凝縮し、減圧ポンプ24によって水蒸気が吸引されるのを抑制することができる。
実施の形態1および実施の形態2では、第1減圧工程が終了してから第2減圧工程が開始されるまでの第2時間は、予め設定されるように説明したが、これはこの例に限られない。例えば、第2時間は、容器4内の内容物の量に応じて決定されるようにしてもよい。一般に、加熱調理が行われる場合には、容器4内の内容物の量が少ないほど、内容物の昇温時間が短くなるので、第2時間は、内容物の量が少ないほど短くなるようにすると好ましい。また、第2減圧工程の実施時間である第3時間についても、容器4内の内容物の量に応じて決定されるようにしてもよい。
容器4内の内容物の量は、例えば昇温工程前に、操作表示装置29を介してユーザが入力することによって判断することができる。また、従来から用いられている各種公知の方法により、制御装置50が容器4内の内容物の量を判断してもよい。具体的には、例えば、制御装置50は、内容物の量を、昇温工程の初期段階または昇温工程の前の段階における容器4の昇温速度から推定することができる。