以下、添付する図面を参照しつつ、好適な実施形態について詳細な説明をする。
《時計用部品》
まず、本発明の時計用部品について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の時計用部品の第1実施形態を模式的に示す断面図である。以下、図1中の上側が観察者の視点側である場合について、中心的に説明する(後述する図2〜図5についても同様)。
時計用部品10は、基材1と、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成された第1の被膜2とを備えている。
そして、第1の被膜2の表面22(基材1に対向する第1の面21とは反対側の第2の面22)は、原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が0%以上1.2%以下である。
このような構成により、審美性に優れ(特に、光沢性が高く高級感のある外観を呈し)、耐食性に優れるとともに、耐擦性、耐摩耗性にも優れる時計用部品10を提供することができる。特に、貴金属を主材料として使用しなくても、光沢性が高く、高級感のある外観が得られる。また、基材1として、種々の材料で構成されたものを用いた場合でも、時計用部品10全体としての審美性等を優れたものすることができ、基材1の選択の幅が広い。また、上記のような第1の被膜2の構成材料は、アレルギーの問題を生じにくい材料である。また、第1の被膜2の厚さが比較的薄い場合であっても、光沢性が高く、優れた審美性が得られるため、時計用部品10の製造コストを抑制することができ、時計用部品10の生産性を優れたものとすることができる。
特に、第1の被膜2の表面(第2の面)22の表面積増加率が前記範囲内の値であることにより、明度が高く、明るい外観を呈するものとなり、時計用部品10の審美性は特に優れたものとなる。また、時計用部品10の表面(第1の被膜2の表面(第2の面)22)に汚れが強固に付着しにくくなり、時計用部品10の防汚性が優れたものとなる。
これに対し、上記のような条件を満足しない場合には、上記のような優れた効果が得られない。
例えば、第1の被膜2中におけるCrの含有率が前記下限値未満であると、耐食性、耐擦性、耐磨耗性が不十分となる。
また、第1の被膜2中におけるCrの含有率が前記上限値を超えると、審美性が低下し、高級感のある光沢感が得られない。
また、第1の被膜2中におけるMoの含有率が前記下限値未満であると、耐擦性、耐磨耗性が不十分となる。
また、第1の被膜2中におけるMoの含有率が前記上限値を超えると、審美性が低下し、高級感のある光沢感が得られない。
また、第1の被膜2として、Co、CrおよびMoを含む合金で構成された被膜の代わりに、Pt等の貴金属材料で構成されたものを用いると、耐擦性、耐磨耗性が著しく低いものとなる。
また、表面積増加率が大きすぎると、時計用部品10の審美性が劣ったものになるわけではないが、十分な明度が得られず、例えば、後述するような十分に大きいL*の値が得られず、暗い外観となり、目的とする十分な光沢感が得られなくなってしまう。また、時計用部品10の防汚性が低下する。
第1の被膜2の表面22についての表面積増加率は、凹凸が全く無いと仮定した場合の表面(平坦面)の面積(投影面積)を基準にして、原子間力顕微鏡を用いた測定により求められたサンプルの実表面積(極微小なナノメーターオーダーの凹凸が形成された表面の面積)との比(比表面積)を求め、その増加分を百分率で表したものである。言い換えると、実表面積をA[μm2]とし、サンプル表面が完全に平坦とした時の測定対象投影面積をB[μm2]としたとき、表面積増加率C[%]は以下のように定義される。
C=[(A/B)−1]×100
原子間力顕微鏡を用いた測定は、例えば、サンプル表面の5μm角の領域について行うことができる。
また、測定視野を変えて複数箇所(例えば、5箇所)について測定を行い、その平均値に基づいて、表面積増加率を求めてもよい。
原子間力顕微鏡としては、例えば、ディジタル・インストルメント(Digital Instruments)社製の「ナノスコープIIIa」等が挙げられる。
例えば、時計用部品10の種々の製造条件を調整することにより、上記のような表面積増加率の条件を満足するようにすることができる。より具体的には、例えば、第1の被膜2の成膜条件や、第1の被膜2の形成後の表面加工(例えば、研磨加工や粗面化加工等)、第1の被膜2の成膜前における母材(基材1等)の表面状態の調整等により、上記表面積増加率の条件を調整することができる。
≪基材≫
基材1は、第1の被膜2等を支持する支持体としての機能を有するものである。
基材1は、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、基材1の構成材料としては、例えば、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Bi、Mgや、これらのうち少なくとも1種を含む合金等の金属材料;アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物系セラミックス、ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系セラミックス、窒化ケイ素等の窒化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス、蛍石等のハロゲン化物系セラミックス、炭酸塩系セラミックス、リン酸塩系セラミックス等の各種セラミックス材料;サファイアガラス、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料;各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等のプラスチック材料等が挙げられる。
これらの中でも、基材1は、金属材料であるのがよく、特に、ステンレス鋼、Tiの少なくとも一方を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。
これにより、高強度、高耐食性を有する基材1が得られるとともに、第1の被膜2等との密着性をより優れたものとすることができ、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。また、第1の被膜2の厚さが比較的薄い場合等において、時計用部品10全体としての外観に好適な影響を与えることができ、時計用部品10全体としての審美性をより確実に優れたものとすることができる。また、第1の被膜2の厚さを比較的薄くした場合でも十分に優れた審美性が得られるため、時計用部品10の生産コストの抑制等の観点からも有利である。
Tiとしては、純Ti、Ti合金(α合金、α−β合金、β合金)のいずれでもよい。
ステンレス鋼としては、フェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系、オーステナイト・フェライト系等のいずれをも用いることができる。
ここで、フェライト系ステンレス鋼の中でも、後述する実施形態で用いたSUS444は、極低C、極低N、18Cr−2Moの高純度フェライト系ステンレス鋼であり、特に、耐孔食性、耐隙間腐食性、耐応力腐食割れ性に優れているため、好適に用いることができる。
基材1中におけるステンレス鋼およびTiの含有率は、95質量%以上であるのが好ましく、99質量%以上であるのがより好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
基材1は、貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率が十分に低いものであるのが好ましく、基材1中における貴金属元素の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観が得られるという効果がより顕著に発揮される。
基材1は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、基材1は、基部と、当該基部を被覆し当該基部とは異なる組成を有する少なくとも1層の膜を有するものや、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。
基材1の形状、大きさは、特に限定されず、通常、時計用部品10の形状、大きさに基づいて決定される。
基材1は、例えば、表面に、鏡面加工(研磨加工)、スジ目加工、梨地加工等の表面加工が施されたものであってもよい。また、基材1には、文字、数字、記号、模様等の凹凸パターンが設けられていてもよい。
これにより、例えば、時計用部品10の表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、時計用部品10の審美性をさらに向上させることができる。特に、鏡面加工(研磨加工)を施すことにより、基材1の表面状態をより平滑なものとすることができ、これにより、時計用部品10の表面(第1の被膜2の表面22)の状態をより平滑なものとすることができる。その結果、第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に容易に調整することができる。また、後に詳述する各種の膜(例えば、第1の被膜2)は、一般に比較的薄いものであるため、当該膜に鏡面加工(研磨加工)を施す場合に比べて、基材1に鏡面加工(研磨加工)を施した場合、加工が容易で、不良品の発生率を低下させることができる。
鏡面加工は、例えば、周知の研磨方法を用いて行うことができ、例えば、バフ(羽布)研磨、バレル研磨、その他の機械研磨等を採用することができる。
≪第1の被膜≫
第1の被膜2は、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成されたものである。
このような材料で構成された第1の被膜2は、貴金属を含んでいなくても優れた光沢感を呈し、審美性に優れている。また、耐食性、耐擦性、耐摩耗性等にも優れている。
第1の被膜2は、Coを主成分とするものであるが、第1の被膜2中におけるCoの含有率は、55質量%以上69質量%以下であるのが好ましく、62質量%以上68質量%以下であるのがより好ましく、63質量%以上67質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、審美性、および、耐擦性・耐摩耗性をより高いレベルで両立することができる。
第1の被膜2中におけるCrの含有率は、26質量%以上30質量%以下であればよいが、26.2質量%以上29.8質量%以下であるのが好ましく、26.4質量%以上29.6質量%以下であるのがより好ましく、26.6質量%以上29.4質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、審美性をより優れたものとしつつ、耐食性、耐擦性、耐摩耗性を特に優れたものとすることができる。
第1の被膜2中におけるMoの含有率は、5質量%以上7質量%以下であればよいが、5.2質量%以上6.8質量%以下であるのが好ましく、5.3質量%以上6.7質量%以下であるのがより好ましく、5.4質量%以上6.6質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、審美性、および、耐擦性・耐摩耗性をより高いレベルで両立することができる。
第1の被膜2は、上記以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、Si、Mn、N、Fe、C、Ni、Ti、Al、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir等が挙げられる。
ただし、第1の被膜2中におけるCo、CrおよびMo以外の成分の含有率(複数種の成分を含む場合にはこれらの含有率の和)は、3.0質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
特に、第1の被膜2中における貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観が得られるという効果がより顕著に発揮される。
第1の被膜2は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、第1の被膜2は、複数の層が積層された積層体や、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。これにより、例えば、上記のような第1の被膜2を設けることによる効果を得つつ、第1の被膜2と基材1等との密着性をより優れたものとすることができ、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。
第1の被膜2の表面22は、該表面22に対し原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が、0%以上1.2%以下であればよいが、0%以上1.1%以下であるのが好ましく、0%以上1.0%以下であるのがより好ましく、0%超0.9%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の明度がより高くなり、時計用部品10は、より明るい外観を呈するものとなり、時計用部品10の審美性はより優れたものとなる。
第1の被膜2の厚さは、0.02μm以上2.0μm以下であるのが好ましく、0.04μm以上1.8μm以下であるのがより好ましく、0.07μm以上1.6μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の生産コストを抑制しつつ、時計用部品10全体としての光沢感、審美性や、耐擦性、耐摩耗性等をより優れたものとすることができる。また、第1の被膜2の不本意な剥離等をより効果的に防止し、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。
第1の被膜2の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
第1の被膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材1等との密着性が特に優れた第1の被膜2を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美性、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、第1の被膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき第1の被膜2が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
第1の被膜2をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるArガス流量は、50ccm以上150ccm以下であるのが好ましく、80ccm以上120ccm以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第1の被膜2をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における雰囲気圧力は、0.1Pa以上2.5Pa以下であるのが好ましく、0.2Pa以上1.0Pa以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第1の被膜2をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるスパッタリング装置のパワーは、2kW以上15kW以下であるのが好ましく、6kW以上12kW以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第1の被膜2をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるバイアス電圧は、−180V以上−70V以下であるのが好ましく、−150V以上−90V以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第1の被膜2をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における基材1の温度は、150℃以上250℃以下であるのが好ましく、180℃以上220℃以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第1の被膜2は、例えば、表面に、鏡面加工(研磨加工)等の表面加工が施されたものであってもよい。
これにより、第1の被膜2の表面22(時計用部品10の表面)の状態をより平滑なものとすることができ、より確実に第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に調整することができる。
第1の被膜2の表面22(第1の被膜2が視認される側の面(時計用部品10の使用時において観察者の視点側の面))についてのJIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図におけるL*は、78.5以上89.0以下であるのが好ましく、80.0以上88.5以下であるのがより好ましく、82.0以上88.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の明度がより高くなり、時計用部品10は、より明るい外観を呈するものとなり、時計用部品10の審美性はより優れたものとなる。
なお、L*の測定においては、光源として、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用いることができる。また、L*の測定時における視野角は2°とすることができる。
また、第1の被膜2の表面22(第1の被膜2が視認される側の面(時計用部品10の使用時において観察者の視点側の面))についてのJIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図におけるa*は、−2.0以上3.0以下であるのが好ましく、−1.5以上2.5以下であるのがより好ましく、−1.0以上2.0以下であるのがさらに好ましい。
また、第1の被膜2の表面22(第1の被膜2が視認される側の面(時計用部品10の使用時において観察者の視点側の面))についてのJIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図におけるb*は、−1.0以上10.0以下であるのが好ましく、0.0以上9.0以下であるのがより好ましく、1.0以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
このような条件を満足することにより、時計用部品10の審美性は、特に優れたものとなる。
なお、a*、b*の測定においては、光源として、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用いることができる。また、a*、b*の測定時における視野角は2°とすることができる。
時計用部品10は、時計を構成する部品であればいかなるものであってもよいが、時計の使用時において外部から視認しうる部品であるのが好ましく、具体的には、風防ガラス、ケース、ベゼル、裏蓋、バンド(バンドの駒、バンド中留、尾錠、バックル、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字板、時計用針、ローター、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン、ダイヤルリング、見切板等が挙げられ、中でも、ケースまたはバンドであるのが好ましい。
これらの部品(時計用部品)は、時計全体の外観に大きな影響を与えるものであるため、これらの部品に本発明が適用されることにより、時計全体としての審美性をより優れたものとすることができる。また、これらの部品は、時計の使用時等において、通常、外部に露出する部品であり、また、皮膚に接触しやすいものであり、各種部品の中でも、特に優れた耐擦性、耐摩耗性、耐アレルギー性(アレルギー反応の起こしにくさ)等に優れることが特に強く求められる。したがって、これらの部品に本発明が適用されることにより、前述したような本発明による効果がより顕著に発揮される。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の時計用部品について説明する。
図2は、本発明の時計用部品の第2実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10では、基材1の表面に、Tiを含む材料で構成された下地層(第1の下地層)3、および、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成された第1の被膜2がこの順に積層されている。言い換えると、本実施形態の時計用部品10では、基材1と第1の被膜2との間に、Tiを含む材料で構成された下地層3が設けられている。
これにより、基材1と第1の被膜2との密着性をより優れたものとすることができるとともに、時計用部品10に加わる衝撃を緩和することができ、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。また、基材1の表面を平滑化することができ、また、時計用部品10全体としての微妙な色味の調整を行うことができ、時計用部品10の審美性をより確実に優れたものとすることができる。
下地層3は、Ti以外の成分を含むものであってもよい。
ただし、下地層3中におけるTi以外の成分の含有率は、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
特に、下地層3中における貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
下地層3の厚さは、0.01μm以上1.0μm以下であるのが好ましく、0.02μm以上0.5μm以下であるのがより好ましく、0.03μm以上0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、基材1と第1の被膜2との密着性や衝撃緩和の機能をさらに優れたものとすることができ、時計用部品10の耐久性をさらに優れたものとすることができるとともに、時計用部品10の生産性をより優れたものとし、時計用部品10の生産コストをより効果的に抑制することができる。また、基材1の表面を好適に平滑化させることができ、第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に容易に調整することができる。
下地層3の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
下地層3の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材1等との密着性が特に優れた下地層3を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美性、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、下地層3の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき下地層3が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
下地層3をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるArガス流量は、50ccm以上150ccm以下であるのが好ましく、80ccm以上120ccm以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における雰囲気圧力は、0.1Pa以上2.5Pa以下であるのが好ましく、0.2Pa以上1.0Pa以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるスパッタリング装置のパワーは、2kW以上15kW以下であるのが好ましく、6kW以上12kW以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるバイアス電圧は、−180V以上−70V以下であるのが好ましく、−150V以上−90V以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における基材1の温度は、150℃以上250℃以下であるのが好ましく、180℃以上220℃以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3は、例えば、表面に、鏡面加工(研磨加工)等の表面加工が施されたものであってもよい。
これにより、下地層3の表面状態をより平滑なものとすることができ、時計用部品10の表面(第1の被膜2の表面22)の状態をより平滑なものとすることができる。その結果、より確実に第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に調整することができる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の時計用部品について説明する。
図3は、本発明の時計用部品の第3実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10では、基材1の表面に、Tiを含む材料で構成された下地層(第1の下地層)3、TiC、TiCNの少なくとも一方を含む材料で構成された第2の被膜4、および、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成された第1の被膜2がこの順に積層されている。言い換えると、基材1と第1の被膜2との間に、TiC、TiCNの少なくとも一方を含む材料で構成された第2の被膜4が設けられている以外は、前述した第2実施形態と同様である。
これにより、時計用部品10の硬度をより高いものとすることができ、時計用部品10の耐打痕性(打痕の付き難さ)等をより優れたものとすることができるとともに、応力をより効果的に緩和することができ、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。また、色味の調整(特に、光沢度の調整)を好適に行うことができる。
第2の被膜4は、TiC、TiCN以外の成分を含むものであってもよい。
ただし、第2の被膜4中におけるTiC、TiCN以外の成分の含有率は、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
特に、第2の被膜4中における貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
第2の被膜4は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、第2の被膜4は、複数の層が積層された積層体等であってもよい。
特に、第2の被膜4は、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する部位を有するものであるのが好ましい。
これにより、例えば、時計用部品10の耐打痕性、耐擦性、耐磨耗性等の向上や、色味の調整(特に、光沢度の調整)等といった第2の被膜4を設けることによる効果を得つつ、第2の被膜4と当該第2の被膜4に隣接する部位(図示の構成では下地層3および第1の被膜2)との密着性をより優れたものとすることができ、また、第2の被膜4の破壊(層内剥離等)をより効果的に防止することができ、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができる。
第2の被膜4は、当該第2の被膜4の表面42側に向かってCおよびNの含有率の和が低下する領域を有するものであるのが好ましい。
これにより、例えば、時計用部品10の耐打痕性、耐擦性、耐磨耗性等の向上や、色味の調整(特に、光沢度の調整)等といった第2の被膜4を設けることによる効果を得つつ、第2の被膜4と当該第2の被膜4に隣接する部位(図示の構成では下地層3および第1の被膜2)との密着性をさらに優れたものとすることができ、また、第2の被膜4の破壊(層内剥離等)をさらに効果的に防止することができ、時計用部品10の耐久性をさらに優れたものとすることができる。
第2の被膜4は、当該第2の被膜4の厚さ方向の中央部から一方の表面側に向かって、CおよびNの含有率の和が低下する領域を有するものであってもよいが、当該第2の被膜4の厚さ方向の中央部から両面側にそれぞれ、CおよびNの含有率の和が低下する領域を有するものであるのが好ましい。
これにより、第2の被膜4と第2の被膜4の両面側に設けられた部位(図示の構成では、下地層3および第1の被膜2)との密着性を特に優れたものとすることができ、時計用部品10の耐久性を特に優れたものとすることができる。
第2の被膜4中においてCおよびNの含有率の和が最大となる部位(例えば、第2の被膜4の厚さ方向の中央部付近)でのCおよびNの含有率をX1[質量%]、第2の被膜4中においてCおよびNの含有率の和が最小となる部位(例えば、表面42またはこれと反対側の表面)でのCおよびNの含有率をX2[質量%]としたとき、1≦X1−X2≦20の関係を満足するのが好ましく、2≦X1−X2≦15の関係を満足するのがより好ましく、3≦X1−X2≦12の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
第2の被膜4の厚さは、0.05μm以上4.0μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上2.0μm以下であるのがより好ましく、0.2μm以上1.5μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の硬度をさらに高いものとすることができ、時計用部品10の耐打痕性(打痕の付き難さ)等をより優れたものとし、時計用部品10の耐久性をさらに優れたものとすることができるとともに、時計用部品10の生産性をより優れたものとし、時計用部品10の生産コストをより効果的に抑制することができる。また、時計用部品10全体としての微妙な色味の調整をより好適に行うことができる。
また、下地層3が設けられているため、基材1と第2の被膜4との密着性がより優れたものとなっており、時計用部品10の耐久性が特に優れたものとなっている。
第2の被膜4の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
第2の被膜4の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、下地層3等との密着性が特に優れた第2の被膜4を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美性、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、第2の被膜4の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき第2の被膜4が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるArガス流量は、50ccm以上150ccm以下であるのが好ましく、80ccm以上120ccm以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるC2H2ガス流量は、10ccm以上50ccm以下であるのが好ましく、15ccm以上30ccm以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における雰囲気圧力は、0.1Pa以上2.5Pa以下であるのが好ましく、0.2Pa以上1.0Pa以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるスパッタリング装置のパワーは、6kW以上15kW以下であるのが好ましく、7kW以上12kW以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるバイアス電圧は、−150V以上−30V以下であるのが好ましく、−120V以上−50V以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における基材1の温度は、150℃以上250℃以下であるのが好ましく、180℃以上220℃以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
第2の被膜4は、例えば、表面に、鏡面加工(研磨加工)等の表面加工が施されたものであってもよい。
これにより、第2の被膜4の表面状態をより平滑なものとすることができ、時計用部品10の表面(第1の被膜2の表面22)の状態をより平滑なものとすることができる。その結果、第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に容易に調整することができる。
以上のような第2の被膜4は、前記第1実施形態に適用することもでき、同様の効果を発揮する。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の時計用部品について説明する。
図4は、本発明の時計用部品の第4実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10では、基材1の表面に、Tiを含む材料で構成された下地層(第1の下地層)3、TiC、TiCNの少なくとも一方を含む材料で構成された第2の被膜4、Tiを含む材料で構成された下地層(第2の下地層)5、および、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成された第1の被膜2がこの順に積層されている。言い換えると、本実施形態では、基材1と第1の被膜2との間に、TiC、TiCNの少なくとも一方を含む材料で構成された第2の被膜4が設けられ、当該第2の被膜4の両面側にそれぞれ下地層3および5が設けられている。
これにより、基材1と第2の被膜4との密着性だけでなく、第2の被膜4と第1の被膜2との密着性も優れたものとすることができ、また、時計用部品10に加わる衝撃をより効果的に緩和することができ、時計用部品10の耐久性をさらに優れたものとすることができる。また、第2の被膜4の表面を平滑化することができ、また、時計用部品10全体としての微妙な色味の調整を行うことができ、時計用部品10の審美性をより確実に優れたものとすることができる。
下地層5は、Ti以外の成分を含むものであってもよい。
ただし、下地層5中におけるTi以外の成分の含有率は、2.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
特に、下地層5中における貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
下地層5の厚さは、0.01μm以上1.0μm以下であるのが好ましく、0.02μm以上0.5μm以下であるのがより好ましく、0.03μm以上0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、第2の被膜4と第1の被膜2との密着性や、衝撃緩和の機能をさらに優れたものとすることができ、時計用部品10の耐久性をさらに優れたものとすることができるとともに、時計用部品10の生産性をより優れたものとし、時計用部品10の生産コストをより効果的に抑制することができる。また、第2の被膜4の表面の平滑化や、時計用部品10全体としての微妙な色味の調整をより好適に行うことができる。
下地層5の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
下地層5の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第2の被膜4等との密着性が特に優れた下地層5を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美性、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、下地層5の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき下地層5が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
下地層5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるArガス流量は、50ccm以上150ccm以下であるのが好ましく、80ccm以上120ccm以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における雰囲気圧力は、0.1Pa以上2.5Pa以下であるのが好ましく、0.2Pa以上1.0Pa以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるスパッタリング装置のパワーは、2kW以上15kW以下であるのが好ましく、6kW以上12kW以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時におけるバイアス電圧は、−180V以上−70V以下であるのが好ましく、−150V以上−90V以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層5をスパッタリングにより形成する場合、スパッタリング時における基材1の温度は、150℃以上250℃以下であるのが好ましく、180℃以上220℃以下であるのがより好ましい。
これにより、研磨処理等の後処理を省略または簡略化した場合でも、前述したような表面積増加率の条件を満足する第1の被膜2をより好適に形成することができる。
下地層3は、例えば、表面に、鏡面加工(研磨加工)等の表面加工が施されたものであってもよい。
これにより、下地層3の表面状態をより平滑なものとすることができ、時計用部品10の表面(第1の被膜2の表面22)の状態をより平滑なものとすることができる。その結果、より確実に第1の被膜2の表面22の表面積増加率を前記範囲内の値に調整することができる。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態の時計用部品について説明する。
図5は、本発明の時計用部品の第5実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10では、基材1の表面に、Tiを含む材料で構成された下地層(第1の下地層)3、TiC、TiCNの少なくとも一方を含む材料で構成された第2の被膜4、Tiを含む材料で構成された下地層(第2の下地層)5、Coを主成分とし、Crを26質量%以上30質量%以下の含有率、Moを5質量%以上7質量%以下の含有率で含む材料で構成された第1の被膜2、および、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む材料で構成されたコート層6がこの順に積層されている。言い換えると、第1の被膜2の外表面側に、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む材料で構成されたコート層6が設けられている以外は、前述した第4実施形態と同様である。
これにより、汚れの付着による審美性の低下をより効果的に防止することができる。また、汚れが付着した場合であっても、より容易に当該汚れを除去することができる。したがって、長期間にわたって、様々な環境下において、優れた審美性をさらに好適に保持することができる。また、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む材料で構成されたコート層6を有することにより、防汚性だけでなく、手触り感、防水性等も向上する。また、フッ素含有有機ケイ素化合物は、時計用部品10全体としての外観に与える影響が小さいため、より確実に時計用部品10の審美性を優れたものとすることができる。
フッ素含有有機ケイ素化合物の具体例としては、CF3(CF2)2C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)4C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)6C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)8C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)10C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)12C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)14C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)16C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)18C2H4Si(OCH3)3、CF3(CF2)6C2H4Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8C2H4Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6C2H4SiCl3、CF3(CF2)8C2H4SiCl3、CF3(CF2)6C3H6Si(OCH3)3、CF3(CF2)8C3H6Si(OCH3)3、CF3(CF2)6C3H6Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8C3H6Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6C3H6SiCl3、CF3(CF2)8C3H6SiCl3、CF3(CF2)6C4H8Si(OCH3)3、CF3(CF2)8C4H8Si(OCH3)3、CF3(CF2)6C4H8Si(OC2H5)3、CF3(CF2)8C4H8Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6C2H4Si(CH3)(OCH3)2、CF3(CF2)8C2H4Si(CH3)(OCH3)2、CF3(CF2)6C2H4Si(CH3)Cl2、CF3(CF2)8C2H4Si(CH3)Cl2、CF3(CF2)6C2H4Si(C2H5)(OC2H5)2、CF3(CF2)8C2H4Si(C2H5)(OC2H5)2等が挙げられる。
また、フッ素含有有機ケイ素化合物としては、アミノ基を含有する化合物も好適に用いることができる。
アミノ基を含有するフッ素含有有機ケイ素化合物としては、例えば、C9F19CONH(CH2)3Si(OC2H5)3、C9F19CONH(CH2)3SiCl3、C9F19CONH(CH2)3Si(CH3)Cl2、C9F19CONH(CH2)NH(CH2)Si(OC2H5)3、C9F19CONH(CH2)5CONH(CH2)Si(OC2H5)3、C8F17SO2NH(CH2)5CONH(CH2)Si(OC2H5)3、C3F7O(CF(CF3)CF2O)2−CF(CF3)−CONH(CH2)Si(OC2H5)3、C3F7O(CF(CF3)CF2O)m’−CF(CF3)−CONH(CH2)Si(OCH3)3[ここで、m’は1以上の整数]等が挙げられる。
また、フッ素含有有機ケイ素化合物としては、例えば、Rf’(CH2)2SiCl3、Rf’(CH2)2Si(CH3)Cl2、(Rf’CH2CH2)2SiCl2、Rf’(CH2)2Si(OCH3)3、Rf’CONH(CH2)3Si(OC2H5)3、Rf’CONH(CH2)2NH(CH2)3Si(OC2H5)3、Rf’SO2N(CH3)(CH2)2CONH(CH2)3Si(OC2H5)3、Rf’(CH2)2OCO(CH2)2S(CH2)3Si(OCH3)3、Rf’(CH2)2OCONH(CH2)2Si(OC2H5)3、Rf’COO−Cy(OH)−(CH2)2Si(OCH3)3、Rf’(CH2)2NH(CH2)2Si(OCH3)3、およびRf’(CH2)2NH(CH2)2NH(CH2)2Si(OCH2CH2OCH3)3等を用いてもよい。上記の各式において、Cyはシクロヘキサン残基であり、Rf’は、炭素数4以上16以下のポリフルオロアルキル基である。
コート層6を構成するフッ素含有有機ケイ素化合物としては、特に、下記式(1)または下記式(2)で示される化合物が好ましい。
式(1)中、Rf 1はパーフルオロアルキル基を示す。Xは臭素、ヨウ素または水素を示す。Yは水素または低級アルキル基を示し、Zはフッ素またはトリフルオロメチル基を示す。R1は加水分解可能な基を示し、R2は水素または不活性な1価の炭化水素基を示す。a、b、c、d、eは0または1以上の整数で、かつa+b+c+d+eは少なくとも1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中において限定されない。fは0、1または2である。gは1、2または3である。hは1以上の整数である。
式(2)中、Rf 2は式:「−(CkF2k)O−」で示される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を示す。なお、式:「−(CkF2k)O−」におけるkは1以上6以下の整数である。R3は炭素原子数1以上8以下の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を示す。pは0、1または2であり、nは1以上5以下の整数である。mおよびrは、2または3である。
コート層6の厚さは、0.01μm以上1.0μm以下であるのが好ましく、0.02μm以上0.5μm以下であるのがより好ましく、0.03μm以上0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
以上のようなコート層6は、前記第1〜第4実施形態のいずれにも適用することができ、同様の効果を発揮する。
《時計》
次に、本発明の時計について説明する。
図6は、本発明の時計(腕時計)の好適な実施形態を模式的に示す部分断面図である。
本実施形態の腕時計(時計)W10は、胴(ケース)W22と、裏蓋W23と、ベゼル(縁)W24と、ガラス板(風防ガラス)W25とを備えている。また、ケースW22内には、図示しないムーブメント(例えば、文字板、針付きのもの)が収納されている。
胴W22には巻真パイプW26が嵌入・固定され、この巻真パイプW26内にはりゅうずW27の軸部W271が回転可能に挿入されている。
胴W22とベゼルW24とは、プラスチックパッキンW28により固定され、ベゼルW24とガラス板W25とはプラスチックパッキンW29により固定されている。
また、胴W22に対し裏蓋W23が嵌合(または螺合)されており、これらの接合部(シール部)W50には、リング状のゴムパッキン(裏蓋パッキン)W40が圧縮状態で介挿されている。この構成によりシール部W50が液密に封止され、防水機能が得られる。
りゅうずW27の軸部W271の途中の外周には溝W272が形成され、この溝W272内にはリング状のゴムパッキン(りゅうずパッキン)W30が嵌合されている。ゴムパッキンW30は巻真パイプW26の内周面に密着し、該内周面と溝W272の内面との間で圧縮される。この構成により、りゅうずW27と巻真パイプW26との間が液密に封止され防水機能が得られる。なお、りゅうずW27を回転操作したとき、ゴムパッキンW30は軸部W271と共に回転し、巻真パイプW26の内周面に密着しながら周方向に摺動する。
本発明の時計としての腕時計W10は、その構成部品のうち少なくとも1つが前述したような本発明の時計用部品で構成されたものである。言い換えると、本発明の時計は、本発明の時計用部品を備えたものである。
これにより、審美性に優れ(特に、明度が高く、明るい外観を呈し)、耐食性に優れるとともに、耐擦性、耐摩耗性にも優れる時計用部品を備えた時計W10を提供することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の時計用部品および時計では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
例えば、時計用部品は、Ti以外の材料で構成された下地層を備えるものや、フッ素含有有機ケイ素化合物以外の材料で構成されたコート層を備えるもの等であってもよい。
また、前述した実施形態では、下地層を有する時計用部品の形態としては、1層または2層の下地層を有する構成について説明したが、時計用部品は、3層以上の下地層を備えるものであってもよい。また、前述した実施形態では、第2の被膜を有する時計用部品の形態としては、1層の第2の被膜を有する構成について説明したが、時計用部品は、2層以上の第2の被膜を備えるものであってもよい。
また、時計用部品は、下地層と第2の被膜とのセットを複数備えるものであってもよい。
また、前記実施形態では、時計用部品の使用時等における観察者の視点が、時計用部品の第1の被膜が設けられた面側である場合について中心的に説明したが、基材が透明性を有する材料で構成されたものである場合等には、観察者の視点が反対の面側であってもよい。言い換えると、基材を介して、第1の被膜が視認されるものであってもよい。このような場合、第1の被膜の観察者側の表面である基材と対向する側の表面が、前述したような表面積増加率の条件を満足していればよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。なお、以下の説明でのスパッタリングは、マグネトロンスパッタ装置(ProChina社製、AS14G)を用いて行った。
[1]時計用部品の製造
(実施例1)
まず、腕時計用ケースに対応する形状の純Ti製の基材を用意した。
次に、基材の表面(第1の被膜が形成される側の表面)にバフ研磨を施し、当該表面について原子間力顕微鏡による測定を行ったところ、平坦面を基準としたときの表面積増加率は0.7%であった。
次に、この研磨処理が施された基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、スパッタリングを行うことにより、基材の表面に、CoCrMo合金で構成された厚さ0.5μmの第1の被膜を形成し、時計用部品としての腕時計用ケースを得た。第1の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−120V、基材温度は200℃に設定した。
第1の被膜の表面(第2の面)は、原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が0.7%であった。
なお、原子間力顕微鏡を用いた測定は、サンプル表面の測定視野を変えた5箇所の5μm角の領域について行い、それぞれの領域について表面積増加率を求め、これらの平均値として表面積増加率を当該表面の表面積増加率とした。原子間力顕微鏡としては、ディジタル・インストルメント(Digital Instruments)社製の「ナノスコープIIIa」を用いた。以下の各実施例および各比較例についても同様である。
(実施例2)
基材として、研磨処理を施していないフェライト系ステンレス鋼であるSUS444製のもの(第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第1の被膜の表面にバフ研磨を施した以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(実施例3)
まず、腕時計用ケースに対応する形状の純Ti製の基材を用意した。
次に、基材の表面(下地層、第1の被膜が形成される側の表面)にバフ研磨を施し、当該表面について原子間力顕微鏡による測定を行ったところ、平坦面を基準としたときの表面積増加率は0.7%であった
次に、この研磨処理が施された基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、スパッタリングを行うことにより、基材の表面に、Tiで構成された厚さ0.1μmの下地層(第1の下地層)を形成した。下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、下地層の表面にCoCrMo合金で構成された厚さ0.5μmの第1の被膜を形成し、時計用部品としての腕時計用ケースを得た。第1の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−120V、基材温度は200℃に設定した。
(実施例4)
基材として研磨処理を施していないSUS444製のもの(下地層、第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第1の被膜の形成時にターゲットとして用いたCoCrMo合金の組成を変更し、第1の被膜の形成後に当該第1の被膜の表面にバフ研磨を施した以外は、前記実施例3と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(実施例5)
まず、腕時計用ケースに対応する形状の純Ti製の基材を用意した。
次に、基材の表面(下地層、第2の被膜、第1の被膜が形成される側の表面)にバフ研磨を施し、当該表面について原子間力顕微鏡による測定を行ったところ、平坦面を基準としたときの表面積増加率は0.7%であった。
次に、この研磨処理が施された基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、スパッタリングを行うことにより、基材の表面に、Tiで構成された厚さ0.1μmの下地層を形成した。下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、下地層の表面にTiCで構成された厚さ0.35μmの第2の被膜を形成した。第2の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、C2H2ガス流量は22ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、下地層の表面にCoCrMo合金で構成された厚さ0.5μmの第1の被膜を形成し、時計用部品としての腕時計用ケースを得た。第1の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−120V、基材温度は200℃に設定した。
(実施例6)
基材として研磨処理を施していないSUS444製のもの(下地層、第2の被膜、第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第1の被膜の形成時にターゲットとして用いたCoCrMo合金の組成を変更し、第1の被膜の形成後に当該第1の被膜の表面にバフ研磨を施した以外は、前記実施例5と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(実施例7)
まず、腕時計用ケースに対応する形状の純Ti製の基材を用意した。
次に、基材の表面(第1の下地層、第2の被膜、第2の下地層、第1の被膜が形成される側の表面)にバフ研磨を施し、当該表面について原子間力顕微鏡による測定を行ったところ、平坦面を基準としたときの表面積増加率は0.7%であった。
次に、この研磨処理が施された基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、スパッタリングを行うことにより、基材の表面に、Tiで構成された厚さ0.1μmの第1の下地層を形成した。第1の下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、第1の下地層の表面にTiCで構成された厚さ0.50μmの第2の被膜を形成した。第2の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。また、このとき、C2H2ガスの流量を10ccmから20ccmまで上昇させ、その後、C2H2ガスの流量を20ccmから10ccmまで低下させることにより、第2の被膜を、厚さの中心部付近でCおよびNの含有率の和が大きく、両表面に向かってCおよびNの含有率の和の値が漸減する傾斜材料で構成されたものとして形成した。
引き続き、スパッタリングにより、第2の被膜の表面にTiで構成された厚さ0.05μmの第2の下地層を形成した。第2の下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、第2の下地層の表面にCoCrMo合金で構成された厚さ0.5μmの第1の被膜を形成し、時計用部品としての腕時計用ケースを得た。なお、第1の被膜の形成時において、Arガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、基材温度は200℃に設定し、パワーを1kWから9kWへと経時的に変化させ、また、バイアス電圧を−80Vから−120Vへと経時的に変化させることにより、第1の被膜を、厚さ方向で組成、膜質が傾斜的に変化する傾斜材料として形成した。
(実施例8)
基材として研磨処理を施していないSUS444製のもの(第1の下地層、第2の被膜、第2の下地層、第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用いるとともに、各膜(各層)の成膜時間を変更し、さらに、第1の被膜の形成後に当該第1の被膜の表面にバフ研磨を施すことにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例7と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(実施例9)
まず、腕時計用ケースに対応する形状の純Ti製の基材を用意した。
次に、基材の表面(第1の下地層、第2の被膜、第2の下地層、第1の被膜、コート層が形成される側の表面)にバフ研磨を施し、当該表面について原子間力顕微鏡による測定を行ったところ、平坦面を基準としたときの表面積増加率は0.7%であった。
次に、この研磨処理が施された基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、スパッタリングを行うことにより、基材の表面に、Tiで構成された厚さ0.1μmの第1の下地層を形成した。第1の下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、第1の下地層の表面にTiCで構成された厚さ0.35μmの第2の被膜を形成した。第2の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、C2H2ガス流量は22ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、第2の被膜の表面にTiで構成された厚さ0.05μmの第2の下地層を形成した。第2の下地層の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−80V、基材温度は200℃に設定した。
引き続き、スパッタリングにより、第2の下地層の表面にCoCrMo合金で構成された厚さ0.5μmの第1の被膜を形成した。第1の被膜の形成時におけるArガス流量は100ccm、雰囲気圧力は0.3Pa、パワーは9kW、バイアス電圧は−120V、基材温度は200℃に設定した。
次に、以下のようにして、第1の被膜の表面に、フッ素含有有機ケイ素化合物で構成された厚さ0.03μmのコート層を形成し、時計用部品としての腕時計用ケースを得た。
すなわち、まず、フッ素含有有機ケイ素化合物(信越化学工業社製、KY−130(3))をフッ素系溶剤(信越化学工業社製、FRシンナー)で希釈して固形分3質量%となるように調製したものを、スチールウール(日本スチールウール社製、#0、線径0.025mm)0.5gが前もって充填された容器(上方が解放された円筒形の銅製容器、内径16mm×内高さ6mm)に、1.0g充填して、120℃で1時間乾燥した。次に、この銅製容器を、第1の下地層、第2の被膜、第2の下地層および第1の被膜が形成された基材とともに、真空蒸発装置内に載置し、装置内を0.01Paの圧力とした後、0.6Å/sの膜形成速度(蒸着速度)となるように銅製容器からフッ素含有有機ケイ素化合物を蒸発させた。加熱源としてはモリブデン製抵抗加熱ボートを用いた。
(実施例10)
基材として研磨処理を施していないSUS444製のもの(第1の下地層、第2の被膜、第2の下地層、第1の被膜、コート層が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第1の被膜の形成後に当該第1の被膜の表面にバフ研磨を施した以外は、前記実施例9と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(比較例1)
CoCrMo合金で構成された第1の被膜の代わりに、Ptからなる膜を形成した以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(比較例2〜5)
第1の被膜の形成時にターゲットとして用いたCoCrMo合金の組成を変更した以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(比較例6)
基材として、研磨処理を施していない純Ti製のもの(第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第1の被膜の形成条件(設定条件)を、Arガス流量:100ccm、雰囲気圧力:3Pa、パワー:1kW、バイアス電圧:−60V、基材温度:120℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
(比較例7)
基材として研磨処理を施していない純Ti製のもの(下地層、第2の被膜、第1の被膜が形成される側の表面の原子間力顕微鏡による測定を行った場合の、平坦面を基準としたときの表面積増加率が2.5%のもの)を用い、第2の被膜の形成条件(設定条件)を、Arガス流量:100ccm、C2H2ガス流量:22ccm、雰囲気圧力:3Pa、パワー:5kW、バイアス電圧:−80V、基材温度:120℃に変更し、第1の被膜の形成条件を、Arガス流量:100ccm、雰囲気圧力:3Pa、パワー:1kW、バイアス電圧:−60V、基材温度:120℃に変更した以外は、前記実施例5と同様にして時計用部品(腕時計用ケース)を製造した。
各実施例および各比較例の時計用部品の構成を表1にまとめて示す。なお、比較例1については、Ptからなる膜の条件を第1の被膜の欄に示した。また、第1の被膜中における表1に示した以外の成分の含有率(複数の成分の含有率の和)は、各実施例および各比較例のいずれについても、1.5質量%以下であった。また、時計用部品を構成する各部位について、表中に示す成分の含有率は、いずれも、99.9質量%以上であった。
[2]評価
[2−1]目視による外観評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用部品について、目視による観察を行い、以下の基準に従い評価した。
A:高級感に溢れ、高い光沢感を有する極めて優れた外観を呈する。
B:高級感に溢れ、高い光沢感を有する非常に優れた外観を呈する。
C:高級感があり、高い光沢感を有する優れた外観を呈する。
D:光沢感が不十分でやや劣った外観を呈する。
E:光沢感が低く劣った外観を呈する。
[2−2]分光測色計による外観評価
[2−2−1]L*についての評価
前記各実施例および各比較例で製造した時計用部品について、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−5)を用いた測定を行い、以下の基準に従い評価した。
A:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、L*が82.0以上88.0以下の範囲内である。
B:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、L*が80.0以上88.5以下の範囲内である(ただし、Aの範囲を除く)。
C:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、L*が78.5以上89.0以下の範囲内である(ただし、AおよびBの範囲を除く)。
D:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、L*が74.0以上78.5未満の範囲内である。
E:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、L*が89.0超または74.0未満の値である。
なお、分光測色計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
[2−2−2]a*およびb*についての評価
前記各実施例および各比較例で製造した時計用部品について、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−5)を用いた測定を行い、以下の基準に従い評価した。
A:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−1.0以上2.0以下でありかつb*が1.0以上8.0以下の範囲内である。
B:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−1.5以上2.5以下でありかつb*が0.0以上9.0以下の範囲内である(ただし、Aの範囲を除く)。
C:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−2.0以上3.0以下でありかつb*が−1.0以上10.0以下の範囲内である(ただし、AおよびBの範囲を除く)。
D:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−3.0以上4.0以下でありかつb*が−2.0以上11.0以下の範囲内である(ただし、A、BおよびCの範囲を除く)。
E:JIS Z 8729で規定されるL*a*b*表示の色度図において、a*が−3.0以上4.0以下でありかつb*が−2.0以上11.0以下の範囲外である。
なお、分光測色計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
[2−3]耐食性評価
デシケーター内に人工汗を入れ、45℃で12時間放置した。その後、デシケーター内に、各時計用部品を入れ、さらに45℃で放置した。このとき、各時計用部品は、人工汗中に浸漬しないように配置した。120時間後、各時計用部品をデシケーター内から取り出し、時計用部品の色調を分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−5)を用いて測定し、前記曝気試験を行う前後での色差を求め、以下の基準に従い評価した。
A:色差ΔEが3未満である。
B:色差ΔEが3以上4未満である。
C:色差ΔEが4以上5未満である。
D:色差ΔEが5以上6未満である。
E:色差ΔEが6以上である。
なお、分光測色計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
[2−4]耐擦傷性・耐磨耗性評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用部品について、以下に示すような試験を行い、耐擦傷性・耐磨耗性を評価した。
スガ磨耗試験機(スガ試験機社製、NUS−ISO−1)を用いて、荷重:200gfという条件で、各時計用部品の表面を、合計300DS(ダブルストローク)磨耗した後の各時計用部品の外観を目視により観察し、これらの外観を以下の基準に従い評価した。なお、上記試験は、住友スリーエム社製、ラッピングフィルム(酸化アルミニウム、粒度:30μm)を用いて行った。
A:表面に傷の発生が全く認められない。
B:表面に傷の発生がほとんど認められない。
C:表面に傷の発生がわずかに認められる。
D:表面に傷の発生が顕著に認められる。または、被膜(第1の被膜、コート層等)の剥離が認められる。
[2−5]耐打痕性評価
前記各実施例および各比較例で製造した各時計用部品について、以下に示すような試験を行うことにより、耐打痕性を評価した。
各時計用部品の特定の部位に向けて、ステンレス鋼製の球(径1cm)を高さ100cmの位置から落下させて、時計用部品表面の凹みの大きさ(凹み痕の直径)の測定を行い、以下の基準に従い評価した。
A:凹み痕の直径が0.5mm未満、または、凹み痕が求められない。
B:凹み痕の直径が0.5mm以上1.0mm未満。
C:凹み痕の直径が1.0mm以上1.5mm未満。
D:凹み痕の直径が1.5mm以上。
これらの結果を、表2にまとめて示す。
表2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。また、国際皮膚学会によるICDRGの基準に基づくパッチテストを行ったところ、本発明の時計用部品では、アレルギー反応は確認されなかった。また、JCWA−T003、EN1811に基づく人口汗による溶出テストを行ったところ、アレルギー反応が問題となる成分の溶出は確認されなかった。これに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。また、フッ素含有有機ケイ素化合物を含む材料で構成されたコート層を有する実施例9、10の時計用部品では、防汚性、手触り感等が特に優れていた。
基材の形状をバンドに変更した以外は、前記各実施例および各比較例と同様にして時計用部品(バンド)を製造して、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
また、第2の被膜をTiCの代わりにTiCNで構成されたものとして形成した以外は、前記実施例5〜10と同様にして時計用部品を製造して、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
また、前記各実施例および各比較例で製造した時計用部品を用いて、図6に示すような腕時計を組み立てた。これらの腕時計にて、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。