以下、添付する図面を参照しつつ、好適な実施形態について詳細な説明をする。
《時計用部品》
まず、本発明の時計用部品について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の時計用部品の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
時計用部品10は、Tiの窒化物もしくは炭化物、Crの窒化物もしくは炭化物、または、金属材料を含む第1の材料で構成された第1の領域11と、Tiの窒化物もしくは炭化物、Crの窒化物もしくは炭化物、または、金属材料を含む第2の材料で構成された膜状の第2の領域12と、第1の領域11と第2の領域12との間に設けられ光透過性を有する材料で構成された膜状の第3の領域13とを有し、金属光沢を呈する金属光沢部1を備えるとともに、金属光沢部1の第2の領域12側に設けられ、金属酸化物の多層膜で構成され、色調を調整する機能を有する調色膜2を備えている。
なお、本発明において、「窒化物」は、窒素(N)を含む金属化合物のことを指し、炭窒化物等を含む。また、本発明において、「炭化物」は、炭素(C)を含む金属化合物のことを指し、炭窒化物等を含む。
金属光沢部1は、全体として金属光沢感を呈する部位である。
調色膜2は、金属光沢部1の金属光沢感を生かしつつ、時計用部品10全体としての色調を調整する機能を有するものである。
そして、観察者の視点は、図1中の上側(時計用部品10の調色膜2が設けられた面側(時計用部品10の金属光沢部1よりも調色膜2に近い側))である(後述する図2、図3についても同様)。
このような構成により、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観(金属光沢を呈する外観)、特に高級感を有する時計用部品10を提供することができる。また、貴金属を使用する場合であっても、その使用量を抑制することができる。より具体的には、例えば、貴金属を実質的に含まなくても貴金属材料が呈するような高級感のある外観を得ることができる。また、貴金属は、一般に、傷等が付きやすいという特徴があるが、上記のような構成とすることにより、時計用部品10全体として耐擦傷性等を優れたものとすることができる。特に、時計用部品10では、優れた外観と、優れた耐擦傷性とを両立することができる。また、金属材料だけでは、表現することが困難な青みがかった光沢感のある金属感や、赤みがかった光沢感のある金属感等、様々な色調を表現することができ、単に金属材料(特に、貴金属材料)のみを用いた場合には得ることのできない色調の外観を得ることができる。すなわち、表現することができる色範囲(色再現域)をより広いものとすることができる。また、金属光沢部1が金属材料(例えば、化学的安定性が比較的低く、酸化等の反応が進行しやすい金属材料等)で構成されたものであっても、化学的安定性に優れた酸化物で構成された調色膜2で被覆することにより、時計用部品10全体としての外観の安定性、耐久性が向上する。
また、金属光沢部1において、第1の領域11と第2の領域12との間に、光透過性を有する材料で構成された第3の領域13が設けられていることにより、金属光沢を呈する第1の領域11と第2の領域12との間に所定の間隔を設けることができ、これらの各領域との光干渉を利用して、時計用部品10の外観の角度依存性を低くし、幅広い視野角で、安定的に優れた審美性が得られる。また、金属光沢を呈する材料で構成された複数の領域として第1の領域11および第2の領域12を設けることにより、調色膜2を有することによる効果と相まって、時計用部品10全体として表現することができる色範囲(色再現域)をさらに広いものとすることができる。
特に、本実施形態の時計用部品10では、金属光沢部1の第1の領域11は、第1の材料で構成された基材5である。
これにより、時計用部品10の構造をより単純なものとすることができ、時計用部品10の生産性をより優れたものとすることができる。
≪基材(第1の領域)≫
本実施形態において、基材5(第1の領域11)は、Tiの窒化物もしくは炭化物、Crの窒化物もしくは炭化物、または、金属材料を含む第1の材料で構成されたものである。第1の材料は、金属光沢を呈するものである。
第1の領域11を構成する金属材料としては、貴金属より卑な金属であるのが好ましく、例えば、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、Bi、Mgや、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。なお、少量の貴金属を含むことを妨げるものではない。
第1の領域11が、Ti、CrまたはAlを含む材料で構成されたものであると、時計用部品10全体として、青みがかった高級感のある金属光沢を好適に得ることができる。
また、第1の領域11が、Tiの窒化物で構成されたものであると、時計用部品10全体としての光沢感をより優れたものとすることができる。
また、第1の領域11が、Tiの炭化物で構成されたものであると、時計用部品10全体として、高級感のある黒味を帯びた色の外観を好適に得ることができる。特に、時計用部品10全体として、従来では、表現が特に困難であった黒味がかった赤色や黒味がかった青色等の外観を得ることができる。
第1の領域11がTiの炭窒化物を含む材料で構成されている場合、例えば、ピンクゴールドに類似の色調を好適に表現することができる。
第1の領域11は、貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率が十分に低いものであるのが好ましく、第1の領域11中における貴金属元素の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観が得られるという本発明による効果がより顕著に発揮される。
なお、第1の領域11は、金属光沢感を有するものであれば、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料以外の成分を含むものであってもよい。ただし、第1の領域11中における前記の材料(Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料)以外の成分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
第1の領域11は、10nm以上の厚さを有するものであるのが好ましく、20nm以上の厚さを有するものであるのがより好ましく、30nm以上の厚さを有するものであるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10全体としての光沢感、審美性をより優れたものとすることができる。
基材5は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、基材5は、基部と、当該基部を被覆し当該基部とは異なる組成を有する少なくとも1層の膜を有するものや、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。
基材5の形状、大きさは、特に限定されず、通常、時計用部品10の形状、大きさに基づいて決定される。また、基材5には、文字、数字、記号、模様等の凹凸パターンが設けられていてもよい。
基材5は、例えば、表面に、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工が施されたものであってもよい。
これにより、時計用部品10の表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、時計用部品10の審美性をさらに向上させることができる。鏡面加工は、例えば、周知の研磨方法を用いて行うことができ、例えば、バフ(羽布)研磨、バレル研磨、その他の機械研磨等を採用することができる。
また、このような表面加工を施した基材5を用いて製造される時計用部品10は、後に詳述する各種の膜に対して表面加工を直接施すことにより得られるものに比べて、ギラツキ等が抑制されたものとなり、特に審美性に優れたものとなる。また、後に詳述する各種の膜は通常比較的薄いものであり、当該膜に対して表面加工を直接施す場合には、当該表面加工を施す際に当該膜にカケ、剥離等の欠陥を生じ易く、時計用部品10の製造の歩留りが著しく低下する場合があるが、基材5に対して表面加工を行うことにより、このような問題の発生も効果的に防止することができ、かつ比較的膜厚が薄い為表面加工の審美性を損なうこともない。また、基材5に対する表面加工は、後に詳述する各種の膜に対する表面加工に比べて、温和な条件で容易に行うことができる。
≪第2の領域≫
第2の領域12は、Tiの窒化物もしくは炭化物、Crの窒化物もしくは炭化物、または、金属材料を含む第2の材料で構成された膜状の領域である。第2の材料は、金属光沢を呈するものである。
第2の領域12を構成する金属材料としては、例えば、第1の領域11の構成材料として挙げたものが挙げられる。
第2の領域12が、Ti、CrまたはAlを含む材料で構成されたものであると、時計用部品10全体として、青みがかった高級感のある金属光沢を好適に得ることができる。
特に、第1の領域11とともに第2の領域12がTi、CrまたはAlを含む材料で構成されたものであると、上記のような効果がより顕著に発揮され、時計用部品10全体としての審美性をより優れたものとすることができ、より高級感のある青みがかった金属光沢を得ることができる。
また、第2の領域12が、TiまたはCrの窒化物で構成されたものであると、時計用部品10全体として、高級感のある金色の外観(単体としてのAuに類似した外観)を好適に得ることができる。特に、第1の領域11とともに第2の領域12がTiまたはCrの窒化物で構成されたものであると、時計用部品10全体として、高級感をより優れたものとすることができる。
また、第2の領域12が、Tiの炭化物で構成されたものであると、時計用部品10全体として、高級感のある黒色味を帯びた外観を好適に得ることができる。特に、時計用部品10全体として、従来では、表現が特に困難であった黒味がかった赤色や黒味がかった青色等の外観を得ることができる。
第2の領域12がTiの炭窒化物を含む材料で構成されている場合、例えば、ピンクゴールドに類似の色調を好適に表現することができる。
第2の領域12は、貴金属元素(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)の含有率が十分に低いものであるのが好ましく、第2の領域12中における貴金属元素の含有率(複数種の貴金属元素を含む場合はこれらの含有率の総和)は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観が得られるという本発明による効果がより顕著に発揮される。
なお、第2の領域12は、金属光沢感を有するものであれば、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料以外の成分を含むものであってもよい。ただし、第2の領域12中における前記の材料(Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料)以外の成分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
第2の領域12は、200nm以下の厚さを有するものであるのが好ましく、180nm以下の厚さを有するものであるのがより好ましく、1nm以上160nm以下の厚さを有するものであるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10全体としての光沢感、審美性をより優れたものとすることができる。また、時計用部品10の外観の角度依存性をより低いものとし、より幅広い視野角で、安定的に優れた審美性が得られる。
第2の領域12は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、第2の領域12は、複数の層が積層された積層体や、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。
第2の領域12の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
第2の領域12の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第3の領域13等との密着性が特に優れた第2の領域12を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美的外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、第2の領域12の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき第2の領域12が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
上記のような乾式めっき法(気相成膜法)の中でも、イオンプレーティングが特に好ましい。
第2の領域12の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、上記のような効果はより顕著なものとなる。すなわち、第2の領域12の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第3の領域13等との密着性が特に優れた第2の領域12をより確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる時計用部品10の審美的外観、耐久性をさらに優れたものとすることができる。
また、第2の領域12の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、形成すべき第2の領域12が比較的薄いものであっても、膜厚の不本意なばらつきを特に小さいものとすることができる。
≪第3の領域≫
第3の領域13は、第1の領域11と第2の領域12との間に設けられ光透過性を有する材料で構成された膜状の領域である。
第3の領域13は、光透過性を有する材料で構成されたものであればよいが、第3の領域13についての可視光の透過率(例えば、波長550nmの光の透過率)は、80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の外観において、第1の領域11および第2の領域12の表面での光の反射をより効果的に利用することができ、時計用部品10の外観の角度依存性をより低いものとし、より幅広い視野角で、安定的に優れた審美性が得られる。
第3の領域13の構成材料としては、例えば、サファイアガラス、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等のプラスチック材料、金属酸化物、DLC等が挙げられるが、金属酸化物が好ましい。
これにより、時計用部品10の耐久性、審美性をより高いレベルで両立しつつ、時計用部品10の外観の角度依存性をより低いものとすることができる。
第3の領域13を構成する金属酸化物としては、各種の金属の酸化物を用いることができるが、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5およびHfO2よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。
これにより、第3の領域13の透明性をより高いもの(第3の領域13の着色の程度をより低いもの)とし、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができるとともに、時計用部品10の外観の角度依存性をより低いものとすることができる。また、これらの化合物は、各種の金属酸化物の中でも化学的安定性が特に高い材料であり、時計用部品10全体としての外観の安定性、耐久性をより優れたものとすることができる。
中でも、Al2O3およびHfO2は、硬度が特に高い材料であり、化学的な耐久性だけでなく、機械的な力に対しても優れた耐久性を有する。
なお、第3の領域13が金属酸化物を含む材料で構成されたものである場合、第3の領域13は金属酸化物以外の成分を含むものであってもよい。ただし、第3の領域13中における金属酸化物以外の成分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
第3の領域13は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、第3の領域13は、複数の層が積層された積層体や、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。
第3の領域13の厚さは、10nm以上であるのが好ましく、15nm以上であるのがより好ましく、20nm以上5000nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、第1の領域11と第2の領域12との間隔をより好適なものとすることができ、時計用部品10の外観の角度依存性をより低いものとすることができる。また、時計用部品10の耐久性、不本意な厚型化等をより効果的に防止することができる。
なお、第3の領域13は、各部位で均一な厚さを有するものであってもよいし、厚さが異なる領域を有するものであってもよい。
これにより、時計用部品10の外観の角度依存性を各部位で異なるものとすることができ、外光の入射方向に対する角度(傾き)を変化させた場合における時計用部品10の外観に多様性を持たせることができる。
第3の領域13の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
第3の領域13の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第1の領域11等との密着性が特に優れた第3の領域13を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美的外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、第3の領域13の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき第3の領域13が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
また、第3の領域13の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、例えば、第3の領域13中の各部位における酸素の含有率等をより確実に制御することができる。
上記のような乾式めっき法(気相成膜法)の中でも、イオンプレーティングが特に好ましい。
第3の領域13の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、上記のような効果はより顕著なものとなる。すなわち、第3の領域13の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第1の領域11等との密着性が特に優れた第3の領域13をより確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる時計用部品10の審美的外観、耐久性をさらに優れたものとすることができる。
また、第3の領域13の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、形成すべき第3の領域13が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを特に小さいものとすることができる。
また、第3の領域13の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、例えば、第3の領域13中の各部位における酸素の含有率等をより確実に制御することができる。
また、第3の領域13を乾式めっき法により形成する場合、例えば、ターゲットを変更することにより、基材5を装置内から取り出すことなく、同一装置内で、第2の領域12および第3の領域13を引き続いて形成することができる。
これにより、第2の領域12と第3の領域13との密着性が特に優れたものとなるとともに、時計用部品10の生産性も向上する。
≪調色膜≫
調色膜2は、金属酸化物の多層膜で構成されたものである。言い換えると、調色膜2は、複数の金属酸化物層21を備える積層体である。
調色膜2(金属酸化物層21)は、金属材料の酸化物で構成されたものであればよいが、調色膜2は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5およびHfO2よりなる群から選択される少なくとも1種を含む材料で構成された層(金属酸化物層21)を有するものであるのが好ましく、複数の金属酸化物層21として、前記群から選択される互いに異なる材料で構成された層を有するものであるのがより好ましい。
これにより、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができるとともに、時計用部品10全体として表現することのできる色調の範囲をより広いものとすることができる。また、これらの化合物は、各種の金属酸化物の中でも化学的安定性が特に高い材料であり、時計用部品10全体としての外観の安定性、耐久性をより優れたものとすることができる。
中でも、Al2O3およびHfO2は、硬度が特に高い材料であり、化学的な耐久性だけでなく、機械的な力に対しても優れた耐久性を有する。
なお、調色膜2(金属酸化物層21)は、主として金属酸化物で構成されたものであればよく、金属酸化物以外の成分を含むものであってもよい。ただし、調色膜2(金属酸化物層21)中における金属酸化物以外の成分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
また、調色膜2は、金属酸化物層21以外の図示しない層を、例えば金属酸化物層21間に設けられた中間層として有していてもよい。
調色膜2の厚さは、100nm以上2000nm以下であるのが好ましく、150nm以上1000nm以下であるのがより好ましく、200nm以上800nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができ、色再現域をより広いものとすることができるとともに、調色膜2の不本意な剥離等をより効果的に防止することができ、時計用部品10の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができ、また、時計用部品10の生産性をより優れたものとすることができる。
なお、調色膜2は、各部位で均一な厚さを有するものであってもよいし、厚さが異なる領域を有するものであってもよい。
これにより、時計用部品10の外観の角度依存性を各部位で異なるものとすることができ、外光の入射方向に対する角度(傾き)を変化させた場合における時計用部品10の外観に多様性を持たせることができる。
調色膜2を構成する各層(各金属酸化物層21)の厚さは、それぞれ、10nm以上300nm以下であるのが好ましく、15nm以上200nm以下であるのがより好ましく、25nm以上150nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができ、色再現域をより広いものとすることができるとともに、調色膜2の不本意な剥離等をより効果的に防止することができ、時計用部品10の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
調色膜2を構成する金属酸化物層21の数は、2以上であるのが好ましく、3以上であるのがより好ましい。
これにより、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができ、色再現域をより広いものとすることができるとともに、調色膜2の不本意な剥離等をより効果的に防止することができ、時計用部品10の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
調色膜2の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
調色膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第2の領域12等との密着性が特に優れた調色膜2を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美的外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、調色膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき調色膜2を構成する各金属酸化物層21が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
また、調色膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、調色膜2中の各部位(各金属酸化物層21)における酸素の含有率をより確実に制御することができる。
上記のような乾式めっき法(気相成膜法)の中でも、イオンプレーティングが特に好ましい。
調色膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、上記のような効果はより顕著なものとなる。すなわち、調色膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、第2の領域12等との密着性が特に優れた調色膜2をより確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる時計用部品10の審美的外観、耐久性をさらに優れたものとすることができる。
また、調色膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、形成すべき調色膜2を構成する各金属酸化物層21が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを特に小さいものとすることができる。
また、調色膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、調色膜2中の各部位(各金属酸化物層21)における酸素の含有率をより確実に制御することができる。
また、調色膜2を乾式めっき法により形成する場合、例えば、ターゲットを複数セットすることにより、基材5を装置内から取り出すことなく、同一装置内で、調色膜2を構成する各金属酸化物層21を引き続いて形成することができる。
これにより、調色膜2を構成する各層間での密着性が特に優れたものとなるとともに、時計用部品10の生産性も向上する。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の時計用部品について説明する。
図2は、本発明の時計用部品の第2実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10は、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料のいずれをも実質的に含まない材料で構成された基材5と、金属光沢を呈する金属光沢部1と、金属酸化物の多層膜で構成され、色調を調整する機能を有する調色膜2とが、この順に積層された構造を有しており、金属光沢部1は、第1の材料で構成された被膜6としての第1の領域11と、第2の材料で構成された膜状の第2の領域12と、第1の領域11と第2の領域12との間に設けられ光透過性を有する材料で構成された膜状の第3の領域13とが、基材5側からこの順に積層された構造を有している。言い換えると、本実施形態の時計用部品10では、金属光沢部1を構成する第1の領域11は、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料のいずれをも実質的に含まない材料で構成された基材5上に設けられた被膜6である。
このように、基材5とは異なる部位として、第1の領域11としての被膜6を設けることにより、基材5の構成材料等の選択の幅が広がる。例えば、ガラス、セラミックス、プラスチック材料等も基材5の構成材料として好適に用いることができ、時計用部品10の成形方法の選択の幅、時計における時計用部品10の配置部位の選択の幅等をより広いものとすることができる。また、時計用部品10全体としての、金属材料の使用量をより少ないものとすることができる。これにより、例えば、時計用部品10の軽量化に寄与することができる。また、時計用部品10の電波透過性を優れたものとすることができ、例えば、時計用部品10を電波時計等に好適に適用することができる。また、基材5として光透過性を有する材料で構成されたものを用い、被膜6の厚さを比較的薄いものとすることにより、時計用部品10全体として、優れた光沢感、審美性を発揮しつつ、十分な光透過性を確保することができる。その結果、時計用部品10を、例えば、風防ガラスやスケルトンタイプの裏蓋のように光透過性が求められる部品に好適に適用することができる。
≪基材≫
本実施形態において、基材5の構成材料としては、例えば、サファイアガラス、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、アルミナ、チタニア等のセラミックス材料、各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂等のプラスチック材料等が挙げられる。
なお、本実施形態において、基材5は、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料のいずれをも実質的に含まないものであればよく、少量であれば、例えば、フィラーや不可避成分等として、Tiの窒化物もしくは炭化物、Crの窒化物もしくは炭化物、または、金属材料を含んでいてもよい。例えば、基材5は、Tiの窒化物および炭化物、Crの窒化物および炭化物、ならびに、金属材料を、これらの含有率の和が5質量%以下の含有率で含んでいてもよい。このような場合、前述したような効果が十分に得られる。
≪被膜(第1の領域)≫
本実施形態においては、被膜6が第1の領域11として機能する。
被膜6の構成材料としては、前述した実施形態での基材5(第1の領域11)で挙げたものと同様である。すなわち、本実施形態において、被膜6は、第1の材料で構成されている。
被膜6の厚さは、10nm以上5000nm以下であるのが好ましく、20nm以上3000nm以下であるのがより好ましく、30nm以上500nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、時計用部品10全体としての光沢感、審美性をより優れたものとすることができるとともに、被膜6の不本意な剥離等をより効果的に防止し、時計用部品10の耐久性をより優れたものとすることができるとともに、時計用部品10の生産性をより優れたものとすることができる。
被膜6は、各部位で均一な組成を有するものであってもよいし、組成の異なる部位を有するものであってもよい。例えば、被膜6は、複数の層が積層された積層体や、組成が傾斜的に変化する傾斜材料(例えば、厚さ方向に組成が傾斜的に変化する傾斜材料等)で構成されたもの等であってもよい。
被膜6の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、レーザーアブレーション等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
被膜6の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材5等との密着性が特に優れた被膜6を確実に形成することができる。その結果、時計用部品10の審美的外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。
また、被膜6の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき被膜6が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、時計用部品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
上記のような乾式めっき法(気相成膜法)の中でも、イオンプレーティングが特に好ましい。
被膜6の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、上記のような効果はより顕著なものとなる。すなわち、被膜6の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材5等との密着性が特に優れた被膜6をより確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる時計用部品10の審美的外観、耐久性をさらに優れたものとすることができる。
また、被膜6の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、形成すべき被膜6が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを特に小さいものとすることができる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の時計用部品について説明する。
図3は、本発明の時計用部品の第3実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態の時計用部品10では、基材5が光透過性を有するものであり、基材5と、調色膜2と、金属光沢部1とがこの順で積層されており、金属光沢部1においては、第2の領域12と、第3の領域13と、第1の領域11(被膜6)とが、調色膜2側からこの順で積層されている。
このように、時計用部品10を構成する各部材の配置は、前述したものと異なるものであってもよい。
また、本実施形態のように、基材5と、調色膜2と、金属光沢部1とがこの順で積層されていることにより、観察者に、所定の厚みを有し、光透過性を有する基材5を介して、調色膜2、金属光沢部1を視認させることができるため、時計用部品10の外観に奥行き感を持たせることができる。
基材5は、光透過性を有するものであればよいが、基材5についての可視光の透過率(例えば、波長550nmの光の透過率)は、80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、上記のような配置にすることによる効果がより顕著に発揮され、時計用部品10の審美性をより優れたものとすることができる。
時計用部品10は、時計を構成する部品であればいかなるものであってもよいが、時計の使用時において外部から視認しうる部品であるのが好ましく、具体的には、風防ガラス、ケース、ベゼル、裏蓋、バンド(バンドの駒、バンド中留、尾錠、バックル、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字板、時計用針、ローター、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン、ダイヤルリング、見切板等が挙げられ、中でも、風防ガラス、文字板、ケースまたはバンドであるのが好ましい。
これらの部品(時計用部品)は、時計全体の外観に大きな影響を与えるものであるため、これらの部品に本発明が適用されることにより、時計全体としての審美性をより優れたものとすることができる。
《時計》
次に、本発明の時計について説明する。
図4は、本発明の時計(腕時計)の好適な実施形態を模式的に示す部分断面図である。
本実施形態の腕時計(時計)W10は、胴(ケース)W22と、裏蓋W23と、ベゼル(縁)W24と、ガラス板(風防ガラス)W25とを備えている。また、ケースW22内には、図示しないムーブメント(例えば、文字板、針付きのもの)が収納されている。
胴W22には巻真パイプW26が嵌入・固定され、この巻真パイプW26内にはりゅうずW27の軸部W271が回転可能に挿入されている。
胴W22とベゼルW24とは、プラスチックパッキンW28により固定され、ベゼルW24とガラス板W25とはプラスチックパッキンW29により固定されている。
また、胴W22に対し裏蓋W23が嵌合(または螺合)されており、これらの接合部(シール部)W50には、リング状のゴムパッキン(裏蓋パッキン)W40が圧縮状態で介挿されている。この構成によりシール部W50が液密に封止され、防水機能が得られる。
りゅうずW27の軸部W271の途中の外周には溝W272が形成され、この溝W272内にはリング状のゴムパッキン(りゅうずパッキン)W30が嵌合されている。ゴムパッキンW30は巻真パイプW26の内周面に密着し、該内周面と溝W272の内面との間で圧縮される。この構成により、りゅうずW27と巻真パイプW26との間が液密に封止され防水機能が得られる。なお、りゅうずW27を回転操作したとき、ゴムパッキンW30は軸部W271と共に回転し、巻真パイプW26の内周面に密着しながら周方向に摺動する。
本発明の時計としての腕時計W10は、その構成部品のうち少なくとも1つが前述したような本発明の時計用部品で構成されたものである。言い換えると、本発明の時計は、本発明の時計用部品を備えたものである。
これにより、貴金属を主材料として使用しなくても、優れた外観(金属光沢を呈する外観)、特に高級感を有する時計W10を提供することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の時計用部品、時計では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
例えば、金属光沢部と調色膜との間には、少なくとも1層の中間層を有していてもよい。
また、金属光沢部は、第1の領域、第2の領域および第3の領域に加えて、これら以外の領域を有するものであってもよい。例えば、第1の領域と第3の領域との間や、第3の領域と第2の領域との間に、任意の層(膜)があってもよい。
また、前述した実施形態では、金属光沢部の一方の面側に調色膜が設けられた構成について代表的に説明したが、金属光沢部の両側の面にそれぞれ調色膜が設けられていてもよい。
また、時計用部品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上するコート層(保護層)等が形成されていてもよい。このようなコート層は、時計用部品の使用時等において除去されるものであってもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]時計用部品の製造
(実施例1)
まず、アルミニウム板を打ち抜き成形し、文字板の形状を有する基材(第1の領域)を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基材は、略円盤状をなし、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmであった。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、SiO2で構成された厚さ131nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、Alで構成された厚さ6nmの第2の領域を形成した。これにより、第1の領域、第2の領域および第3の領域からなる金属光沢部を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成し、時計用部品としての文字板を得た。
調色膜は、第3の領域側から、TiO2層(厚さ22nm)、SiO2層(厚さ113nm)、TiO2層(厚さ40nm)、SiO2層(厚さ50nm)およびTiO2層(厚さ27nm)がこの順に積層されたものとして形成した。
(実施例2)
まず、ポリカーボネートを用いて、圧縮成形により、文字板の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基材は、略円盤状をなし、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmであった。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行い、その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、TiNで構成された厚さ100nmの被膜(第1の領域)を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、被膜の表面に、SiO2で構成された厚さ124nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、TiNで構成された厚さ80nmの第2の領域を形成した。これにより、第1の領域、第2の領域および第3の領域からなる金属光沢部を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、被膜(金属光沢部)の表面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成し、時計用部品としての文字板を得た。
調色膜は、被膜(金属光沢部)側から、SiO2層(厚さ66nm)、Ta2O5層(厚さ68nm)、SiO2層(厚さ135nm)およびTa2O5層(厚さ84nm)がこの順に積層されたものとして形成した。
(実施例3)
被膜(金属光沢部)形成時における成膜条件、調色膜形成時における成膜条件を調整することにより、被膜(金属光沢部)および調色膜の構成を表1に示すようにした以外は、前記実施例2と同様にして時計用部品(文字板)を製造した。
(実施例4)
まず、風防ガラス形状を有する無機ガラス製の基材を用意した。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行い、その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成した。
調色膜は、基材側から、TiO2層(厚さ36nm)、SiO2層(厚さ50nm)、TiO2層(厚さ45nm)、SiO2層(厚さ78nm)およびTiO2層(厚さ70nm)がこの順に積層されたものとして形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、調色膜の表面に、Tiで構成された厚さ19nmの被膜(第2の領域)を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第2の領域の表面に、SiO2で構成された厚さ135nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、Tiで構成された厚さ32nmの被膜(第1の領域)を形成し、時計用部品としての風防ガラスを得た。
(実施例5)
まず、アルミニウム板を打ち抜き成形し、文字板の形状を有する基材(第1の領域)を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基材は、略円盤状をなし、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmであった。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、SiO2で構成された厚さ130nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、Alで構成された厚さ6nmの第2の領域を形成した。これにより、第1の領域、第2の領域および第3の領域からなる金属光沢部を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成し、時計用部品としての文字板を得た。
調色膜は、第3の領域側から、Nb2O5層(厚さ22nm)、SiO2層(厚さ114nm)、Nb2O5層(厚さ38nm)、SiO2層(厚さ53nm)およびNb2O5層(厚さ25nm)がこの順に積層されたものとして形成した。
(実施例6)
まず、アルミニウム板を打ち抜き成形し、文字板の形状を有する基材(第1の領域)を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基材は、略円盤状をなし、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmであった。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、SiO2で構成された厚さ138nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、Alで構成された厚さ6nmの第2の領域を形成した。これにより、第1の領域、第2の領域および第3の領域からなる金属光沢部を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成し、時計用部品としての文字板を得た。
調色膜は、第3の領域側から、ZrO2層(厚さ23nm)、SiO2層(厚さ125nm)、ZrO2層(厚さ37nm)、SiO2層(厚さ56nm)およびZrO2層(厚さ30m)がこの順に積層されたものとして形成した。
(実施例7)
まず、ステンレス鋼製の板材を打ち抜き成形し、文字板の形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。得られた基材は、略円盤状をなし、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmであった。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
次に、イオンプレーティングにより、基材の一方の面に、TiCNで構成された厚さ150nmの被膜(第1の領域)を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、被膜の表面に、SiO2で構成された厚さ205nmの第3の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、TiCNで構成された厚さ80nmの第2の領域を形成した。
引き続き、イオンプレーティングにより、第3の領域の表面に、金属酸化物の多層膜で構成された調色膜を形成し、時計用部品としての文字板を得た。
調色膜は、被膜(金属光沢部)側から、ZrO2層(厚さ120nm)およびSiO2層(厚さ77nm)がこの順に積層されたものとして形成した。
(実施例8〜10)
被膜(第1の領域、第3の領域、第2の領域)形成時における成膜条件、調色膜形成時における成膜条件を調整することにより、表1に示すような構成にした以外は、前記実施例7と同様にして時計用部品(文字板)を製造した。
(実施例11、12)
被膜(金属光沢部)形成時における成膜条件、調色膜形成時における成膜条件を調整することにより、被膜(金属光沢部)および調色膜の構成を表1に示すようにした以外は、前記実施例2と同様にして時計用部品(文字板)を製造した。
(比較例1)
調色膜を形成しなかった以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(文字板)を製造した。
(比較例2)
基材としてステンレス鋼で構成されたものを用い、第2の領域および第3の領域を形成しなかった以外は、前記実施例1と同様にして時計用部品(文字板)を製造した。
(比較例3)
鋳造により、Au製の円盤状の部材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨し、直径:約27mm×厚さ:約0.5mmの寸法の文字板(時計用部品)を得た。すなわち、本比較例の時計用部品は、金無垢の材料で構成されたものである。
各実施例および比較例の時計用部品の構成を表1にまとめて示す。なお、基材を除く各部位の厚さは、括弧書きで示した。また、表中、ポリカーボネートをPC、無機ガラスをG、ステンレス鋼をSUSで示した。また、時計用部品を構成する各部位について、表中に示す成分の含有率は、いずれも、99.9質量%以上であった。
また、前記各実施例のうちTiCで構成された層を有するものについては、いずれも、当該層におけるC(炭素)の含有率は、50質量%以上60質量%以下の範囲内の値であった。
また、前記各実施例のうちTiNで構成された層を有するものについては、いずれも、当該層におけるN(窒素)の含有率は、50質量%以上60質量%以下の範囲内の値であった。
また、前記各実施例のうちTiCNで構成された層を有するものについては、いずれも、当該層におけるC(炭素)の含有率は、5質量%以上15質量%以下の範囲内の値であり、かつ、当該層におけるN(窒素)の含有率は、1質量%以上5質量%以下の範囲内の値であった。
[2]評価
上記各実施例および比較例で製造した各時計用部品について、目視による観察を行った。
その結果、前記各実施例の時計用部品は、いずれも、高級感にあふれる優れた外観を呈していた。特に、実施例2、9、11、12の時計用部品は、比較例2と同様に、高級感のある金色を呈しており、実施例1、3、4、5、6では、高級感のある青みがかった光沢を呈する優れた外観が得られた。また、第1の領域および第2の領域が、Tiの炭窒化物、Crの炭窒化物で構成されている実施例7、8の時計用部品では、ピンクゴールドに類似の高級感のある外観が得られた。また、実施例10の時計用部品では、青みのある黒色の外観が得られた。また、前記各実施例の時計用部品では、時計用部品の外観の角度依存性が低く、幅広い視野角で、安定的に優れた審美性が得られた。また、標準光源D50を用いたときの、実施例1についてのL*は53.0、a*は16.9、b*は−68.7であり、実施例2についてのL*は85.1、a*は9.7、b*は40.8であり、実施例3についてのL*は34.3、a*は42.1、b*は−95.7であり、実施例4についてのL*は30.4、a*は55.4、b*は−103.3であり、実施例5についてのL*は52.7、a*は18.0、b*は−69.0であり、実施例6についてのL*は53.7、a*は17.7、b*は−68.2であり、実施例7についてのL*は84.9、a*は11.6、b*は22.6であり、実施例8についてのL*は85.0、a*は11.9、b*は24.8であり、実施例9についてのL*は88.2、a*は10.4、b*は36.8であり、実施例10についてのL*は25.0、a*は−4.3、b*は−43.6であり、実施例11についてのL*は88.2、a*は10.4、b*は36.8であり、実施例12についてのL*は87.7、a*は8.5、b*は38.1であった。
これに対し、比較例1では、高級感に劣った外観しか得られなかった。比較例2では、比較例1に比べて審美性の向上は認められたものの、時計用部品の外観の角度依存性を大きく、観察方向が狭い角度の範囲から外れると審美性が低下し、安定的に優れた審美性が得られなかった。また、比較例3については、優れた外観を呈していたものの、時計用部品の製造に多量の貴金属を必要とした。
なお、実施例1〜3、5〜12については、基材とは反対側の面から観察を行い、実施例4については、基材側の面から観察を行った。
基材の形状をケース、バンドに変更した以外は、前記各実施例および比較例と同様にして時計用部品(ケース、バンド)を製造して、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
また、第1の領域および第2の領域の材料として、Alの代わりに、Crを用いた以外は、前記実施例1、5、6と同様にして時計用部品を製造して、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
また、前記各実施例および比較例で製造した時計用部品を用いて、図4に示すような腕時計を組み立てた。これらの腕時計にて、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。