以下、添付する図面を参照しつつ、好適な実施形態について詳細な説明をする。
《装飾品》
まず、本発明の装飾品について説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の装飾品の第1実施形態を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の装飾品に大きな外力が加わった直後の状態を模式的に示す断面図であり、図3は、本発明の装飾品に大きな外力が加わった後、所定時間経過した状態を模式的に示す断面図であり、図4は、図1に示す装飾品の被膜の厚さ方向の各部位におけるCの含有率の分布を示す図、図15は、弾性変形仕事量の求め方を説明するための図である。
本実施形態の装飾品10は、基材1と、前記基材上に設けられ、主としてTiCで構成された被膜2とを有している。
≪基材≫
基材1は、少なくとも表面の一部が、主としてTiまたはステンレス鋼で構成されたものである。
主としてTiで構成される材料としては、例えば、Ti(単体としてのTi)、Ti系合金等が挙げられる。
また、ステンレス鋼としては、例えば、Fe−Cr系合金、Fe−Cr−Ni系合金等が挙げられ、より具体的には、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F等、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L等が挙げられる。
なお、主としてTiで構成された材料、主としてステンレス鋼で構成された材料以外の材料を用いた場合には、最終的に得られる装飾品の硬度を十分に高めることが困難である。また、主としてTiで構成された材料、主としてステンレス鋼で構成された材料を用いなかった場合、最終的に得られる装飾品において、十分長期間にわたって優れた美的外観(特に、時計用外装部品等の装飾品において求められる美的外観)を保持するのが困難となる。
なお、本発明において、「主として」とは、該当する部位の50質量%以上が当該成分で構成されていることを言い、特に、該当する部位の70質量%以上が当該成分で構成されているのが好ましく、該当する部位の80質量%以上が当該成分で構成されているのがより好ましい。
また、基材1は、各部位でその組成が実質的に均一な組成を有するものであってもよいし、部位によって組成の異なるものであってもよい。例えば、基材1は、基部と、該基部上に設けられた表面層を有するものであってもよい。
基材1がこのような構成のものであると、基部の構成材料の選択により、例えば、基材1の成形の自由度を増すことができ、より複雑な形状の装飾品10であっても、比較的容易に製造することができる。
基材1が基部と表面層とを有するものである場合、表面層の厚さ(平均値)は、特に限定されないが、0.1μm以上50μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上10μm以下であるのがより好ましい。
基材1が基部と表面層とを有するものである場合、表面層の構成材料としては、例えば、前述したような材料を好適に用いることができる。また、基部の構成材料としては、例えば、金属材料、非金属材料等を用いることができる。
基部が金属材料で構成される場合、特に優れた強度特性を有する装飾品10を提供することができる。
また、基部が金属材料で構成される場合、基部の表面粗さが比較的大きい場合であっても、表面層や、後述する被膜2等を形成する際のレベリング効果により、得られる装飾品10の表面粗さを小さくすることができる。例えば、基部の表面に対する切削加工、研磨加工などによる機械加工を省略しても、鏡面仕上げを行うことが可能となったり、基部がMIM法により成形されたもので、その表面が梨地面である場合でも、容易に鏡面にすることができる。これにより、光沢に優れた装飾品を得ることができる。
基部が非金属材料で構成される場合、比較的軽量で携帯し易く、かつ、重厚な外観を有する装飾品10を提供することができる。
また、基部が非金属材料で構成される場合、比較的容易に、所望の形状に成形することができる。
また、基部が非金属材料で構成される場合、電磁ノイズを遮蔽する効果も得られる。
基部を構成する金属材料としては、例えば、Fe、Cu、Zn、Ni、Ti、Mg、Cr、Mn、Mo、Nb、Al、V、Zr、Sn、Au、Pd、Pt、Ag等の各種金属や、これらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。この中でも特に、Cu、Zn、Ni、Ti、Alまたはこれらのうち少なくとも1種を含む合金が好ましい。
基部が前述したような材料で構成されることにより、基部と、表面層との密着性を特に優れたものとすることができるとともに、基部の加工性が向上し、基材1全体としての成形の自由度がさらに増す。
また、基部を構成する非金属材料としては、例えば、セラミックス、プラスチック(特に耐熱性プラスチック)、石材、木材等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、Al2O3、SiO2、TiO2、Ti2O3、ZrO2、Y2O3、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の酸化物系セラミックス、AlN、Si3N4、SiN、TiN、BN、ZrN、HfN、VN、TaN、NbN、CrN、Cr2N等の窒化物系セラミックス、グラファイト、SiC、ZrC、Al4C3、CaC2、WC、TiC、HfC、VC、TaC、NbC等の炭化物系のセラミックス、ZrB2、MoB等のホウ化物系のセラミックス、あるいは、これらのうちの2以上を任意に組み合わせた複合セラミックスが挙げられる。
基部が前記のようなセラミックスで構成される場合、特に優れた強度、硬度を有する装飾品10を得ることができる。
また、基部を構成するプラスチック材料としては、各種熱可塑性樹脂、各種熱硬化性樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリパラキシリレン(poly-para-xylylene)、ポリモノクロロパラキシリレン(poly-monochloro-para-xylylene)、ポリジクロロパラキシリレン(poly-dichloro-para-xylylene)、ポリモノフルオロパラキシリレン(poly-monofluoro-para-xylylene)、ポリモノエチルパラキシリレン(poly-monoethyl-para-xylylene)等のポリパラキシリレン樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば、ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等として)用いることができる。
また、基材1の形状、大きさは、特に限定されず、通常、装飾品10の形状、大きさに基づいて決定される。
≪被膜≫
基材1の表面には、主としてTiCで構成された被膜2が設けられている。
TiCは、硬質な材料であるため、このような材料で構成された被膜2を有することにより、装飾品10は、傷や打痕等の凹みが付き難いものとなる。
被膜2は、その厚さ方向に複数の領域を有する。すなわち、被膜2は、第1の領域21と、第1の領域21よりも基材1に近い側に設けられた第2の領域22とを有するものである。
そして、第2の領域22の弾性率が、第1の領域21の弾性率よりも大きい。
これにより、被膜2の外表面側における硬度をより大きいものとしつつ、被膜2に比較的大きな凹みを生じた場合に、形状を修復しようとする自己修復力が働く。
したがって、比較的小さな外力が作用した場合に、表面に傷や打痕等の凹みが付き難いだけでなく、比較的大きな外力が作用し、深い凹みを生じた場合であっても(図2参照)、自己修復力により、凹みが小さいものとなり(図3参照)、その凹みは目立ちにくいものとなる。特に、第2の領域22の形状が修復されるだけでなく、第2の領域22の形状の修復の影響を受けて第1の領域21等に生じた孔の大きさも小さいものとなり、その凹みは目立ちにくいものとなる。その結果、装飾品10は、長期間にわたって優れた美的外観を保持することができる。
各領域の弾性率としては、例えば、ナノインデンテーション法により求められる弾性変形仕事量を採用することができる。
なお、一般に、弾性率と弾性変形仕事量とは、異なる単位の数値であるが、弾性率と弾性変形仕事量との間には、相関関係が認められ、弾性率が小さくなると弾性変形仕事量も小さくなり、弾性率が大きくなると弾性変形仕事量も大きくなるという関係が成り立つ。
次に、ナノインデンテーション法での測定から弾性変形仕事量を求める方法について、図15を参照しつつ説明する。
まず、ナノインデンターを用い、被検体の目的の部位(領域)に向けて圧子(測定圧子)を接近させ、接触させる(図15中の点a参照)。
そして、圧子に加わる荷重を所定の速度で高めていく(図15中の曲線ab参照)。
圧子に加わる荷重があらかじめ設定した最大荷重(図15中の点b参照)に達したら、圧子に加わる荷重を所定の速度で低下させる(図15中の曲線bc参照)。
圧子に加わる荷重が0となった時点で測定を終了する(図15中の点c参照)。
上記のような測定を行った場合の、圧子にかけた荷重をy、圧子の押し込み深さをxとしたときのチャートは、図15に示すようになる。
点dは、x軸と点bを通りy軸に平行な直線との交点である。
このチャートにおける点aの座標を(0,0)、点bの座標を(xb,yb)、点cの座標を(xc,0)、点dの座標を(xd,0)とすることができる。
そして、線分bc、線分cd、線分dbで囲まれた領域(図15中、斜線部で示す領域)の面積が、被検体の測定部位(測定領域)についての弾性変形仕事量である。
弾性変形仕事量は、例えば、被膜2の測定対象となる領域と同一の条件で同一の組成を有する膜(単一の領域のみを有し、積層体ではない膜)を形成した試験片を製造し、当該試験片の前記膜についてナノインデンテーション法での測定を行うことにより、求めることができる。
また、装飾品10を被膜2の厚さ方向で切断し、当該切断面について、ナノインデンテーション法での測定を行うことにより、弾性変形仕事量を求めてもよい。
装飾品10の切断面について測定を行う場合、装飾品10の切断は、例えば、自動精密切断機として、IsoMet5000(BUEHLER社製)を用いて行うことができる。このとき、切断砥石としては、例えば、平和テクニカ社製:A100Nを用いることができる。また、砥石回転速度は、4000rpmとすることができる。
また、装飾品10の切断面について測定を行う場合、当該切断面の空隙に樹脂を埋め込んだ状態で測定を行ってもよい。
これにより、測定時における測定対象の領域の不本意な変形(測定対象の領域の一部の剥離等)をより確実に防止することができ、ナノインデンテーション法での測定をより好適に行うことができる。なお、ナノインデンテーション法での測定は、圧子が測定対象である領域の構成材料と接触し、埋め込み樹脂と接触しないようにすれば、埋め込み樹脂が測定に悪影響を与えることはない。
樹脂の埋め込みは、例えば、樹脂埋め込み装置として、SimpliMet3000(BUEHLER社製)を用いて行うことができる。
装飾品10の切断面に埋め込む樹脂としては、硬化性樹脂が好ましく用いられる。
これにより、測定時における測定対象の領域の不本意な変形(測定対象の領域の一部の剥離等)をさらに確実に防止することができ、ナノインデンテーション法での測定をさらに好適に行うことができる。また、後述するような研磨も好適に行うことができる。
また、切断面については、研磨を行った後に測定を行ってもよい。
これにより、切断面における不本意な凹凸を解消することができ、ナノインデンテーション法での測定をより好適に行うことができる。
切断面の研磨は、樹脂の埋め込み後に行うのが好ましく、特に、埋め込み樹脂として硬化性樹脂を用いる場合には、硬化性樹脂の硬化後に行うのが好ましい。
これにより、測定時に圧子が埋め込み樹脂と不本意に接触することをより効果的に防止することができ、ナノインデンテーション法での測定をより好適に行うことができる。
切断面の研磨は、例えば、研磨機として、Ecomet300(BUEHLER社製)を用いて行うことができる。
また、切断面の研磨は、例えば、2段階以上に分けて行ってもよい。より具体的には、研磨布紙粒度P400で粗研磨後に、研磨布紙粒度P1500で仕上げ研磨をおこなってもよい。
弾性変形仕事量は、各種ナノインデンターを用いた測定により求めることができる。具体的には、例えば、ENT−2100(Elionix社製)等を用いた測定により、弾性変形仕事量を求めることができる。また、測定圧子としては、例えば、ベルコビッチ圧子No.5964等を用いることができる。
ナノインデンテーション法での測定条件は、特に限定されないが、例えば、測定温度:25℃、最大荷重:1mN、負荷速度:2mN/分、除荷速度:2mN/分、最大荷重保持時間:0秒という条件とすることができる。
(第1の領域)
第1の領域21は、被膜2の外表面側に設けられており、後に詳述する第2の領域22よりも硬度が高いものである。
これにより、被膜2の外表面の硬度を高いものとし、被膜2は、比較的小さな外力による凹みが付き難いものとなる。
第1の領域21は、後に詳述する第2の領域22よりもC(炭素)の含有率が高いものであるのが好ましい。
第1の領域21中におけるCの含有率は、45質量%以上60質量%以下であるのが好ましく、47質量%以上55質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2の外表面の硬度をより高いものとし、比較的小さな外力による凹みがより付き難いものとなるとともに、被膜2はクラック等の欠陥をより生じにくいものとなる。
第1の領域21の平均厚さは、0.05μm以上0.28μm以下であるのが好ましく、0.06μm以上0.23μm以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2の外表面の硬度をより高いものとし、比較的小さな外力による凹みがより付き難いものとなるとともに、被膜2はクラック等の欠陥をより生じにくいものとなる。
第1の領域21の弾性変形仕事量(ナノインデンテーション法での測定で求められる弾性変形仕事量)は、特に限定されないが、60pJ以上120pJ以下であるのが好ましく、70pJ以上110pJ以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2の外表面側における硬度をより大きいものとしつつ、被膜2に比較的大きな凹みを生じた場合における自己修復力をより大きいものとすることができる。
(第2の領域)
第2の領域22は、第1の領域21よりも基材1側に設けられた領域であり、第1の領域21よりも弾性率(弾性変形仕事量)が高いものである。
これにより、被膜2に比較的大きな凹み(第2の領域22に到達する凹み)を生じた場合に、形状を修復しようとする自己修復力が働き、一端大きな凹みを生じた場合でも、自己修復作用により凹みが小さいものとなり、その凹みは目立ちにくいものとなる。
第2の領域22は、第1の領域21よりもC(炭素)の含有率が低いものであるのが好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度を十分に高いものとしつつ、第2の領域22の弾性率(弾性変形仕事量)が第1の領域21の弾性率(弾性変形仕事量)よりも高いものとなるように、好適に調整することができる。
第2の領域22中におけるCの含有率は、35質量%以上55質量%以下であるのが好ましく、38質量%以上50質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度をより高いものとしつつ、第2の領域22による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
第1の領域21中におけるCの含有率をX1[質量%]、第2の領域22中におけるCの含有率をX2[質量%]としたとき、5≦X1−X2≦25の関係を満足するのが好ましく、8≦X1−X2≦22の関係を満足するのがより好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度をより高いものとしつつ、第2の領域22による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
第2の領域22の平均厚さは、0.30μm以上0.95μm以下であるのが好ましく、0.33μm以上0.90μm以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体としての硬度が低下してしまうのを防止しつつ、第2の領域22による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
また、第1の領域21中におけるCの含有率をX1[質量%]、第2の領域22中におけるCの含有率をX2[質量%]、被膜2の厚さ方向における第1の領域21と第2の領域22との距離(第1の領域21の厚さ方向の中心部と第2の領域22の厚さ方向の中心部との距離)をT[μm]としたとき、1≦(X1−X2)/T≦17の関係を満足するのが好ましく、1.2≦(X1−X2)/T≦12.5の関係を満足するのがより好ましく、1.25≦(X1−X2)/T≦10の関係を満足するのがさらに好ましい。
このような関係を満足することにより、傷や打痕等の凹みをより付き難くすることができるとともに、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みを、より目立ちにくくすることができる。
第2の領域22の弾性変形仕事量(ナノインデンテーション法での測定で求められる弾性変形仕事量)は、特に限定されないが、120pJ以上180pJ以下であるのが好ましく、130pJ以上170pJ以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体としての硬度をより高いものとしつつ、被膜2に比較的大きな凹みを生じた場合における自己修復力をより大きいものとすることができる。
(第3の領域)
本実施形態では、被膜2は、前述した第1の領域21、第2の領域22に加え、第2の領域22よりも基材1に近い側(図示の構成では、基材1に接触する部位)に、第2の領域22よりも弾性率(弾性変形仕事量)が大きい第3の領域23をさらに有している。
これにより、第2の領域22による自己修復機能が発揮されるとともに、第3の領域23による自己修復機能も発揮され、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みをより目立ちにくいものとすることができる。特に、外力により生じた凹みが第3の領域23にまで達するものである場合、第3の領域23の形状の修復の影響を受けて第2の領域22、第1の領域21等に生じた孔の大きさも小さいものとなり、その凹みは目立ちにくいものとなる。また、基材1に対する被膜2の密着性をより優れたものとすることができ、基材1からの被膜2の剥離等をより効果的に防止することができる。
第3の領域23は、第2の領域22よりもC(炭素)の含有率が低いものであるのが好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度を十分に高いものとしつつ、第3の領域23の弾性率(弾性変形仕事量)が第2の領域22の弾性率(弾性変形仕事量)よりも高いものとなるように、好適に調整することができる。
第3の領域23中におけるCの含有率は、15質量%以上35質量%以下であるのが好ましく、18質量%以上30質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度をより高いものとしつつ、第3の領域23による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
第2の領域22中におけるCの含有率をX2[質量%]、第3の領域23中におけるCの含有率をX3[質量%]としたとき、5≦X2−X3≦40の関係を満足するのが好ましく、10≦X2−X3≦35の関係を満足するのがより好ましく、15≦X2−X3≦30の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、被膜2全体として硬度をより高いものとしつつ、第3の領域23による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
第3の領域23の平均厚さは、0.20μm以上0.55μm以下であるのが好ましく、0.22μm以上0.50μm以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体としての硬度が低下してしまうのを防止しつつ、第3の領域23による自己修復機能をより顕著なものとすることができる。
第3の領域23の弾性変形仕事量(ナノインデンテーション法での測定で求められる弾性変形仕事量)は、特に限定されないが、180pJ以上260pJ以下であるのが好ましく、190pJ以上250pJ以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2全体としての硬度をより高いものとしつつ、被膜2に比較的大きな凹みを生じた場合における自己修復力をより大きいものとすることができる。
以上のような第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23のそれぞれの弾性率K1、K2およびK3は、K1<K2<K3の関係を示す。
また、第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23のそれぞれの弾性変形仕事量W1、W2およびW3は、W1<W2<W3の関係を示す。
特に、第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23のそれぞれの弾性変形仕事量W1、W2およびW3は、W1≦0.9W2≦0.8W3の関係を示すのが好ましく、W1≦0.8W2≦0.65W3の関係を示すのよりが好ましい。
これにより、第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23の弾性率(弾性変形仕事量)の差がより明確となり、前述した効果がより顕著に発揮される。
また、本実施形態では、被膜2は、その厚さ方向に沿って、Cの含有率が傾斜的に変化する領域を有するものである。より具体的には、第1の領域21と第2の領域22との間に、Cの含有率が傾斜的に変化し、第1の領域21側から第2の領域22側に向かってCの含有率が低くなる領域としての第4の領域24が設けられており、また、第2の領域22と第3の領域23との間に、Cの含有率が傾斜的に変化し、第2の領域22側から第3の領域23側に向かってCの含有率が低くなる領域としての第5の領域25が設けられている(図4参照)。
このように、Cの含有率が傾斜的に変化する領域を有することにより、被膜2の厚さ方向に沿って、被膜2の弾性率(弾性変形仕事量)を好適に変化させることができる。その結果、被膜2全体としての自己修復機能をより優れたものとすることができる。また、被膜2内において、組成の急激な変化があると、その部位から欠陥(層内剥離)を生じ易くなるが、Cの含有率が傾斜的に変化する領域を有することにより、このような問題の発生をより効果的に防止することができる。
被膜2の平均厚さは、1.1μm以上1.9μm以下であるのが好ましく、1.2μm以上1.7μm以下であるのがより好ましい。
これにより、被膜2の内部応力が大きくなるのを十分に防止しつつ、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みをより目立ちにくいものとすることができる。したがって、装飾品10の耐久性をより優れたものとすることができる。
装飾品10は、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよく、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計用外装部品、メガネ、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、自動車のホイール、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等が挙げられるが、装飾品10は、時計用外装部品であるのが好ましい。
時計用外装部品は、装飾品として外観の美しさが要求されるとともに、実用品として耐久性も要求されるが、本発明によればこれらの要求を満足することができる。したがって、装飾品10が時計用外装部品である場合に、本発明の効果がより顕著に発揮される。
装飾品10が時計用外装部品である場合、当該時計用外装部品としては、例えば、ケース、ベゼル、裏蓋、バンド(バンドの駒、バンド中留、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字板、時計用針、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン、ダイヤルリング、見切板等が挙げられるが、ケース、ベゼルおよびバンドよりなる群から選択されるものであるのが好ましい。
これらの部材は、時計全体の外観に大きな影響を与えるとともに、時計の正常な使用時において、外部からの比較的大きな衝撃により損傷(例えば、擦り傷や打痕等)を受けやすい部材であり、優れた美的外観とともに、特に優れた耐久性が求められる部材であるが、本発明によれば、これらの要求を満足することができる。すなわち、本発明が前述したような時計用外装部品に適用される場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
なお、本発明において、時計用外装部品とは、時計の使用時において、外部から視認しうる部材であればよく、時計の外部に露出しているものに限定されない。
[第2実施形態]
図5は、本発明の装飾品の第2実施形態を模式的に示す断面図である。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
図示のように、本実施形態の装飾品10は、基材1と、それぞれ層状に形成された第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23からなる被膜2とを有している。すなわち、本実施形態の装飾品10は、被膜2の構成が異なる以外は、前述した実施形態と同様である。したがって、以下、本実施形態の装飾品10を構成する被膜2について説明する。
≪被膜≫
上述したように、本実施形態において、被膜2は、層状に形成された第1の領域21、層状に形成された第2の領域22および層状に形成された第3の領域23からなるもの、すなわち、第1の領域21と第2の領域22と第3の領域23とからなる積層体であり、第1の領域21と第2の領域22との間、第2の領域22と第3の領域23との間に、Cの含有率が傾斜的に変化する領域を有していない。
また、本実施形態では、第1の領域21、第2の領域22および第3の領域23は、いずれも、実質的に均一な組成を有し、かつ、層状に形成されたものであり、第1の領域21と第2の領域22との間、第2の領域22と第3の領域23との間には、明確な境界がある。
《装飾品の製造方法》
次に、本発明の装飾品を好適に製造することができる装飾品の製造方法について説明する。
[第1実施形態]
図6、図7は、装飾品の製造方法の第1実施形態の工程を模式的に示す断面図である。また、図8は、装飾品の製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
本実施形態では、前述した第1実施形態の装飾品10を好適に製造することができる方法について詳細に説明する。
本実施形態の装飾品10の製造方法は、少なくとも表面の一部が主としてTiまたはステンレス鋼で構成された基材1を用意する基材用意工程と、主としてTiCで構成された被膜2を形成する被膜形成工程とを有している。
≪基材用意工程≫
基材用意工程では、前述したような基材1を用意する。
基材1は、いかなる方法で成形されたものであってもよいが、基材1の成形方法としては、例えば、プレス加工、切削加工、鍛造加工、鋳造加工、粉末冶金焼結、金属粉末射出成形(MIM)、ロストワックス法等が挙げられる。
また、基材1が前述したような基部と表面層とを有するものである場合、基材1は、以下のようにして製造することができる。すなわち、前述したような方法や射出成形、押出成形等の方法により製造した基部上に、表面層を形成することにより基材1を得ることができる。表面層の形成方法としては、例えば、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき法、溶射等が挙げられる。
また、後述する工程に先立ち、基材1の表面に対しては、例えば、鏡面加工、スジ目加工、梨地加工等の表面加工を施してもよい。
これにより、得られる装飾品10の表面の光沢具合にバリエーションを持たせることが可能となり、得られる装飾品10の装飾性をさらに向上させることができる。鏡面加工は、例えば、周知の研磨方法を用いて行うことができ、例えば、バフ(羽布)研磨、バレル研磨、その他の機械研磨等を採用することができる。
また、このような表面加工を施した基材1を用いて製造される装飾品10は、被膜2に対して表面加工を直接施すことにより得られるものに比べて、被膜2のギラツキ等が抑制されたものとなり、特に美的外観に優れたものとなる。また、被膜2の厚さが前述したように比較的薄いものである場合、被膜2に対して表面加工を直接施す場合には、当該表面加工を施す際に被膜2にカケ、剥離等の欠陥を生じ易く、装飾品10の製造の歩留りが著しく低下する場合があるが、基材1に対して表面加工を行うことにより、このような問題の発生も効果的に防止することができる。また、基材1に対する表面加工は、被膜2に対する表面加工に比べて、温和な条件で容易に行うことができる。
また、被膜形成工程に先立ち、基材1に対して、例えば、ブラスト処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、水洗、有機溶剤洗浄、ボンバード処理等の清浄化処理を施してもよい。
これにより、基材1と被膜2の密着性を特に優れたものとすることができる。
≪被膜形成工程≫
被膜形成工程では、基材1の表面に被膜2を形成する。
被膜2の形成方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディッピング、刷毛塗り、噴霧塗装、静電塗装、電着塗装等の塗装、電解めっき、浸漬めっき、無電解めっき等の湿式めっき法や、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき法(気相成膜法)、溶射等が挙げられるが、乾式めっき法(気相成膜法)が好ましい。
被膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材1との密着性が特に優れた被膜2を確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる装飾品10の審美的外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。また、前述した各領域を連続的に形成することができ、装飾品10の生産性を優れたものとすることができる。
また、被膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、形成すべき被膜2を構成する各領域が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを十分に小さいものとすることができる。このため、装飾品10の信頼性を向上させる上でも有利である。
また、被膜2の形成方法として乾式めっき法(気相成膜法)を適用することにより、被膜2中の各領域におけるCの含有率をより確実に制御することができる。
上記のような乾式めっき法(気相成膜法)の中でも、イオンプレーティングが特に好ましい。
被膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、上記のような効果はより顕著なものとなる。すなわち、被膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、均一な膜厚を有し、均質で、かつ、基材1との密着性が特に優れた被膜2をより確実に形成することができる。その結果、最終的に得られる装飾品10の審美的外観、耐久性をさらに優れたものとすることができる。
また、被膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、形成すべき被膜2を構成する各領域が比較的薄いものであっても、膜厚のばらつきを特に小さいものとすることができる。
また、被膜2の形成方法としてイオンプレーティングを適用することにより、被膜2中の各領域におけるCの含有率をより確実に制御することができる。
なお、上記のような乾式めっき法を適用する場合、例えば、Tiをターゲットとして用い、C(炭素)を含む雰囲気中で処理を行うことにより、被膜2を容易かつ確実に形成することができる。このような雰囲気ガスとしては、例えば、アセチレン等の炭化水素ガスを用いることができる。そして、ガスの供給量等を適宜調整することにより、形成される被膜2の組成(Cの含有率)等を調節することができる。
なお、雰囲気ガス中には、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスが含まれていてもよい。
これにより、被膜2中におけるCの含有率を、容易かつ確実に比較的低く制御することができる。
また、被膜形成工程を乾式めっき法により行う場合、例えば、気相成膜装置内(チャンバー内)の雰囲気ガスの組成(例えば、炭化水素ガスと不活性ガスとの配合比)、ガスの圧力(分圧)を変更することにより、同一装置内で、被膜2を構成する各領域の形成を、基材1を装置内から取り出すことなく引き続いて行うことができる。
これにより、被膜2を構成する各領域間での密着性が特に優れたものとなるとともに、装飾品10の生産性も向上する。
上記のような方法により、傷や打痕等の凹みが付き難く、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みが目立ちにくい装飾品10を効率よく製造することができる。
前述したような装飾品10の製造方法をフローチャートにまとめると、図8のようになる。
[第2実施形態]
図9〜図12は、装飾品の製造方法の第2実施形態の工程を模式的に示す断面図である。また、図13は、装飾品の製造方法の第2実施形態を示すフローチャートである。以下の説明では、前述した実施形態との相違点について中心的に説明し、同様の事項についての説明は省略する。
本実施形態では、前述した第2実施形態の装飾品10を好適に製造することができる方法について詳細に説明する。
本実施形態の装飾品10の製造方法は、基材用意工程と、被膜形成工程とを有している点では前述した実施形態と同様であるが、本実施形態では、被膜形成工程が、基材1の表面に第3の領域23(第3の層)を形成する第3の領域形成工程と、第3の領域23の表面に第2の領域22(第2の層)を形成する第2の領域形成工程と、第2の領域22の表面に第1の領域21(第1の層)を形成する第1の領域形成工程とを有しており、第3の領域23、第2の領域22および第1の領域21を、それぞれ、層状に形成し、隣り合う領域間に、明確な境界があるものとして形成する。言い換えると、第3の領域23、第2の領域22および第1の領域21の各領域内においては、実質的に均一な組成を有するものであり、隣り合う領域の境界(第3の領域23と第2の領域22との境界、第2の領域22と第1の領域21との境界)においては、Cの含有率の値が非連続的に変化するように、被膜2を形成する。
このような被膜2は、例えば、所定の成膜条件を設定した状態で第3の領域23(第3の層)を基材1上に形成した後、一旦、成膜(基材1上へのTiCの堆積)を中断し、成膜条件(例えば、気相成膜法により被膜を形成する場合は、雰囲気ガスの組成等)を変更した後、成膜を再開し、第2の領域22(第2の層)を形成し、さらに、その後成膜を中断し、成膜条件を変更した後、成膜を再開し、第1の領域21(第1の層)を形成することにより得ることができる。
前述したような装飾品10の製造方法をフローチャートにまとめると、図13のようになる。
《時計》
次に、本発明の時計について説明する。
図14は、本発明の時計(携帯時計)の好適な実施形態を模式的に示す部分断面図である。
本実施形態の腕時計(携帯時計)W10は、胴(ケース)W22と、裏蓋W23と、ベゼル(縁)W24と、ガラス板W25とを備えている。また、ケースW22内には、図示しないムーブメント(例えば文字盤、針付きのもの)が収納されている。
胴W22には巻真パイプW26が嵌入・固定され、この巻真パイプW26内にはりゅうずW27の軸部W271が回転可能に挿入されている。
胴W22とベゼルW24とは、プラスチックパッキンW28により固定され、ベゼルW24とガラス板W25とはプラスチックパッキンW29により固定されている。
また、胴W22に対し裏蓋W23が嵌合(または螺合)されており、これらの接合部(シール部)W50には、リング状のゴムパッキン(裏蓋パッキン)W40が圧縮状態で介挿されている。この構成によりシール部W50が液密に封止され、防水機能が得られる。
りゅうずW27の軸部W271の途中の外周には溝W272が形成され、この溝W272内にはリング状のゴムパッキン(りゅうずパッキン)W30が嵌合されている。ゴムパッキンW30は巻真パイプW26の内周面に密着し、該内周面と溝W272の内面との間で圧縮される。この構成により、りゅうずW27と巻真パイプW26との間が液密に封止され防水機能が得られる。なお、りゅうずW27を回転操作したとき、ゴムパッキンW30は軸部W271と共に回転し、巻真パイプW26の内周面に密着しながら周方向に摺動する。
本発明の時計としての腕時計W10は、ベゼルW24、胴W22、りゅうずW27、裏蓋W23、時計バンド等の装飾品(特に、時計用外装部品)のうち少なくとも1つが前述したような本発明の装飾品で構成されたものである。言い換えると、本発明の時計は、本発明の装飾品を備えたものである。
これにより、傷や打痕等の凹みが付き難く、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みが目立ちにくい装飾品を備えた時計を提供することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の装飾品、時計では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
例えば、基材と被膜との間には、少なくとも1層の中間層を有していてもよい。
これにより、例えば、基材と被膜との密着性(中間層を介した密着性)をより優れたものとすることができる。
また、本発明においては、基材上に、前述したような被膜(少なくとも第1の領域と第2の領域とを有する被膜)を複数備え、例えば、これらの複数の被膜が積層された構造を有するものであってもよい。
また、装飾品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上するコート層(保護層)等が形成されていてもよい。このようなコート層は、装飾品の使用時等において除去されるものであってもよい。
また、前述した実施形態では、被膜を構成する第1の領域、第2の領域および第3の領域が、各領域内で、一定の組成を有するものである場合について中心的に説明したが、被膜を構成する第1の領域、第2の領域、第3の領域は、これらの領域内に組成が異なる部位を有するもの(例えば、厚さ方向にCの含有率が傾斜的に変化するもの等)であってもよい。
また、本発明において、装飾品を構成する被膜は、少なくとも第1の領域と第2の領域とを有するものであればよく、その他の領域を有していなくてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]装飾品の製造
(実施例1)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース)を製造した。
まず、ステンレス鋼(SUS444)を用いて、鋳造により、腕時計ケースの形状を有する基材を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
上記のようにして洗浄を行った基材に対して、イオンプレーティング装置を用いて、以下のようにして、TiCで構成される被膜(平均厚さ:1.50μm)を形成した。
まず、イオンプレーティング装置の処理室内を予熱しながら、処理室内を3×10−3Paまで排気(減圧)した。
次に、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して、5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
次に、処理室内を2×10−3Paまで排気(減圧)した後、アセチレンガスを45ml/分の流量で導入し、処理室内における雰囲気圧(全圧)を4.0×10−3Paとした。このような状態(アセチレンガスを導入し続けた状態)で、ターゲットとしてTiを用い、所定時間気相成膜を行った。その後、処理室内に導入されるアセチレンガスの量(単位時間当たりの導入量)が、経時的に増加するように、アセチレンガスの流量を調節した。アセチレンガスの流量が、60ml/分となった時点で、ガス流量が一定となるようにし、さらに、この状態で所定時間気相成膜を行った。その後、処理室内に導入されるアセチレンガスの量(単位時間当たりの導入量)が、経時的に増加するように、アセチレンガスの流量を調節した。アセチレンガスの流量が、70ml/分となった時点で、ガス流量が一定となるようにし、さらに、この状態で所定時間気相成膜を行った。
その結果、TiCで構成され、平均厚さが1.5μmの被膜が形成された。形成された被膜は、基材側から順に、ほぼ一定の組成を有する第3の領域、Cの含有率が外表面側に向かって傾斜的に増加する第5の領域、ほぼ一定の組成を有する第2の領域、Cの含有率が外表面側に向かって傾斜的に増加する第4の領域、ほぼ一定の組成を有する第1の領域を有するものであった。
被膜の第1の領域、すなわち、被膜の外表面を含む領域でのCの含有率は、50.0質量%であった。また、被膜の第2の領域でのCの含有率は、45.0質量%であった。また、被膜の第3の領域、すなわち、基材と接触する面を含む領域でのCの含有率は、25.0質量%であった。なお、被膜等の厚さは、JIS H 5821で規定される顕微鏡断面試験方法に従い測定した。
第1の領域の弾性率K1、第2の領域の弾性率K2、第3の領域の弾性率K3は、K1<K2<K3の関係を満たしていた。
被膜を構成する第1の領域、第2の領域および第3の領域の形成条件と同一の条件で、それぞれ、SUS304製の鏡面仕上げが施された基材の表面に、単層膜を形成した。
これらの単層膜について、ナノインデンテーション法での測定を行うことにより、各領域の弾性変形仕事量を求めた。
測定には、ENT−2100(Elionix社製)を用い、測定圧子としては、ベルコビッチ圧子No.5964を用いた。
また、ナノインデンテーション法での測定条件は、測定温度:25℃、最大荷重:1mN、負荷速度:2mN/分、除荷速度:2mN/分、最大荷重保持時間:0秒とした。
その結果、第1の領域の弾性変形仕事量は90pJ、第2の領域の弾性変形仕事量は150pJ、第3の領域の弾性変形仕事量は220pJであった。
また、前記のようにして製造した装飾品を、被膜の厚さ方向で切断し、当該切断面についても、ナノインデンテーション法での測定を行い、被膜を構成する第1の領域、第2の領域および第3の領域についての弾性変形仕事量を求めた。
切断面についての測定は、装飾品の切断後、切断面に硬化性樹脂を埋め込み、当該硬化性樹脂を硬化させ、さらに、硬化性樹脂が埋め込まれた切断面の研磨処理を行った後に行った。
装飾品の切断は、自動精密切断機として、IsoMet5000(BUEHLER社製)を用いて行った。このとき、切断砥石としては、平和テクニカ社製:A100Nを用いた。また、装飾品の切断時における砥石回転速度は、4000rpmとした。
また、切断面への樹脂の埋め込みは、SimpliMet3000(BUEHLER社製)を用いて成形時間:4分で行った。
また、埋め込み樹脂としては、BUEHLER社製 エポメット(TiO2配合熱硬化性エポキシ樹脂)を用い、紫外線照射により、完全硬化させた。
切断面の研磨は、Ecomet300(BUEHLER社製)を用いて、研磨布紙粒度P400による粗研磨と、その後の研磨布紙粒度P1500による仕上げ研磨を行った。
ナノインデンテーション法での測定には、ENT−2100(Elionix社製)を用い、測定圧子としては、ベルコビッチ圧子No.5964を用いた。
また、ナノインデンテーション法での測定条件は、測定温度:25℃、最大荷重:1mN、負荷速度:2mN/分、除荷速度:2mN/分、最大荷重保持時間:0秒とした。
その結果、前記単層膜についての測定と同様に、第1の領域の弾性変形仕事量は90pJ、第2の領域の弾性変形仕事量は150pJ、第3の領域の弾性変形仕事量は220pJであった。
(実施例2〜5)
被膜を構成する各領域の形成条件を変更することにより、被膜の構成を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース)を製造した。
(実施例6)
基材として、Tiで構成されたものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース)を製造した。
基材としては、以下に述べるような金属粉末射出成形(MIM)により作製したものを用いた。
まず、ガスアトマイズ法により製造された平均粒径52μmのTi粉末を用意した。
このTi粉末:75体積%と、ポリエチレン:8体積%と、ポリプロピレン:7体積%と、パラフィンワックス:10体積%とからなる材料を混練した。前記材料の混練には、ニーダーを用いた。また、混練時における材料温度は60℃であった。
次に、得られた混練物を粉砕、分級して平均粒径3mmのペレットとした。このペレットを用いて、射出形成機にて金属粉末射出成形(MIM)し、腕時計ケースの形状を有する成形体を製造した。このとき成形体は、脱バインダー処理、焼結時での収縮を考慮して成形した。射出成形時における成形条件は、金型温度40℃、射出圧力80kgf/cm2、射出時間20秒、冷却時間40秒であった。
次に、前記成形体に対して、脱脂炉を用いた脱バインダー処理を施し、脱脂体を得た。この脱バインダー処理は、1.0×10−1Paのアルゴンガス雰囲気中、80℃で1時間、次いで、10℃/時間の速度で400℃まで昇温した。熱処理時におけるサンプルの重さを測定し、重量低下がなくなった時点を脱バインダー終了時点とした。
次に、このようにして得られた脱脂体に対し、焼結炉を用いて焼結を行い、基材を得た。この焼結は、1.3×10−3〜1.3×10−4Paのアルゴンガス雰囲気中で、900〜1100℃×6時間の熱処理を施すことにより行った。
以上のようにして得られた基材について、その必要箇所を切削、研磨した後、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
(実施例7〜10)
被膜を構成する各領域の形成条件を変更することにより、被膜の構成を表1に示すようにした以外は、前記実施例6と同様にして装飾品(腕時計ケース)を製造した。
(比較例1)
以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース)を製造した。
まず、前記実施例6と同様にしてTi製の基材を作製した。
次に、この基材を洗浄した。基材の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
上記のようにして洗浄を行った基材に対して、浸炭処理を施すことにより、装飾品(腕時計ケース)を得た。
浸炭処理は、以下に説明するようなプラズマ浸炭処理により行った。
すなわち、加熱炉内にグラファイトファイバー等の断熱材で囲まれた処理室を有し、この処理室内をロッドグラファイトからなる発熱体で加熱すると共に、処理室内の上部に直流グロー放電の正極を接続し、かつ処理品の載置台に陰極を接続し、また処理室内の要所にガスマニホールドを設置して炭化水素、窒素、アルゴン、水素などのプロセスガス(浸炭用ガスおよび希釈用ガス)を適宜導入するようにした浸炭処理装置を用意した。
そして、まず、浸炭処理装置の処理室内に基材を設置し、処理室内を1.3Paまで減圧した。このように、処理室内が減圧された状態で、ヒータにより、基材を約300℃に加熱した。
その後、クリーニング用アルゴンガスを処理室内に導入して5分間のクリーニング処理を行った。クリーニング処理は、350Vの直流電圧を印加することにより行った。
その後、処理室内にプロパンガスを導入することにより、処理室内のガス組成をほぼ100%プロパンガスとし、ガス圧力を53Paとし、400Vの直流電圧を印加して120分保持することにより、プラズマ浸炭処理を行った。その後、アルゴンガスおよび窒素ガスを処理室内に圧入して基材を常温にまで冷却した。このような浸炭処理により、約15μmの厚さの浸炭層が形成された。
(比較例2)
被膜形成時の条件を変更することにより、被膜が、各部位で均一な組成を有し、Cの含有率が50.0質量%のTiCで構成されたものとした以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース)を製造した。
(比較例3)
被膜形成時の条件を変更することにより、被膜が、各部位で均一な組成を有し、Cの含有率が45.0質量%のTiCで構成されたものとした以外は、前記実施例1と同様にして装飾品(腕時計ケース)を製造した。
各実施例および比較例の装飾品の構成を表1にまとめて示す。なお、装飾品を構成する各部位について、表中に示す成分の含有率は、いずれも、99.9質量%以上であった。また、前記各実施例および比較例について、前述したのと同一の条件で、単層膜、および、装飾品の切断面について、ナノインデンテーション法での測定を行った。その結果、前記各実施例では、単層膜、および、装飾品の切断面のいずれにおいても、第1の領域の弾性変形仕事量は70pJ以上110pJ以下、第2の領域の弾性変形仕事量は130pJ以上170pJ以下、第3の領域の弾性変形仕事量は190pJ以上250pJ以下の範囲内の値であった。一方、比較例1では、浸炭層の弾性変形仕事量は75pJであった。
[2]装飾品の外観評価
上記各実施例および比較例で製造した各装飾品について、目視および顕微鏡による観察を行い、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:外観優良。
B:外観良。
C:外観やや不良。
D:外観不良。
[3]被膜の密着性評価
上記各実施例および比較例で製造した各装飾品について、以下に示すような試験を行い、被膜の密着性を評価した。
各装飾品を、以下のような熱サイクル試験に供した。
まず、装飾品を、20℃の環境下に1.5時間、次いで、60℃の環境下に2時間、次いで、20℃の環境下に1.5時間、次いで、−20℃の環境下に3時間静置した。その後、再び、環境温度を20℃に戻し、これを1サイクル(8時間)とし、このサイクルを合計3回繰り返した(合計24時間)。
その後、装飾品の外観を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:被膜の浮き、剥がれ等が全く認められない。
B:被膜の浮きがほとんど認められない。
C:被膜の浮きがはっきりと認められる。
D:被膜のひび割れ、剥離がはっきりと認められる。
[4]耐擦傷性評価
上記各実施例および比較例で製造した各装飾品について、以下に示すような試験を行い、耐擦傷性を評価した。
ステンレス鋼製のブラシを、各装飾品の被膜が設けられた側の表面上に押し付け、50往復摺動させた。このときの押し付け荷重は、0.2kgfであった。
その後、装飾品表面を目視により観察し、これらの外観を以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:被膜の表面に、傷の発生が全く認められない。
B:被膜の表面に、傷の発生がほとんど認められない。
C:被膜の表面に、傷の発生がわずかに認められる。
D:被膜の表面に、傷の発生が顕著に認められる。
[5]耐打痕性(打痕の付き難さ)評価
上記各実施例および比較例で製造した各装飾品について、以下に示すような試験を行うことにより、耐打痕性を評価した。
ステンレス鋼製の球(径1cm)を、各装飾品の上方で高さ50cmの位置から落下させて、装飾品表面の凹み大きさ(凹み痕の直径)の測定を行い、以下の4段階の基準に従い、評価した。
A:凹み痕の直径が1mm未満、または、凹み痕が認められない。
B:凹み痕の直径が1mm以上2mm未満。
C:凹み痕の直径が2mm以上3mm未満。
D:凹み痕の直径が3mm以上。
これらの結果を表2に示す。
表2から明らかなように、TiCで構成され、かつ、第1の領域と、当該第1の領域よりも弾性率(弾性変形仕事量)の大きい第2の領域とを備える被膜を有する本発明の装飾品は、いずれも、傷や打痕等の凹みが付き難く、比較的大きな外力が加わり凹みを生じた場合でも、当該凹みが目立ちにくいものであった。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
また、前記各実施例および比較例で製造した装飾品を用いて、図14に示すような腕時計を組み立てた。これらの腕時計について、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様な結果が得られた。