JP2004137541A - Dlc傾斜構造硬質被膜及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】DLC膜の基材への密着性が優れたDLC傾斜構造硬質被膜及びその製法の提供。
【解決手段】基材表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有し、第1層と最表層との間が、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっている。この構造は、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティング法により得られる。基材表面側のTi−TiC−C混合領域側から表面DLC側までの間の、連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有する。
【選択図】 図2
【解決手段】基材表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有し、第1層と最表層との間が、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっている。この構造は、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティング法により得られる。基材表面側のTi−TiC−C混合領域側から表面DLC側までの間の、連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、DLC(ダイヤモンド・ライクカーボン、以下、「DLC」とも称す。)傾斜構造硬質被膜及びその製造方法に関し、特に、摺動、疲労、磨耗等に対する耐性が要求される部品(例えば、無潤滑、高加重の精密機械部品、金型部品、及び高級装飾品表面)等の保護膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンド・ライクカーボン(DLC)膜は、硬く、摩擦係数が小さく、耐食性があることから、各種技術分野での応用が期待されている。
従来の被処理基材へのDLC膜の直接的な被膜形成技術では、DLC膜の被処理基材表面への密着強度が劣ることから、密着性を向上させるための方法として、基材とDLC膜との間に中間層を設ける様々な方式が提案されている(例えば、特許文献1、2、3、4及び5参照)。
【0003】
特許文献1には、金型の表面との密着力を高める中間層を介してダイヤモンド状カーボン膜を形成することが提案されており、この中間層は、クロム又はチタンを主体とする下層と、シリコン又はゲルマニウムを主体とする上層とからなる2層構造であることが開示されている。
特許文献2には、金属またはセラミックスからなる基材の表面に、カーボンターゲットを用いてカソード放電型アークイオンプレーティング法により非晶質炭素膜を形成すると共に、該炭素被膜と基材との界面に、これら基材構成元素と被膜構成元素とからなる厚さ10〜500Åの混合層を形成する高密着性非晶質炭素被膜形成材の製法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、金属基材の表面にコバルト、ニッケル、またはそれらの合金の層を形成後、高周波プラズマCVD法により硬質ダイヤモンド状カーボン膜を形成することが開示されている。
特許文献4には、周期律表第4A、5A、6A族金属の炭化物、窒化物及びこれらの相互固溶体からなる硬質膜を含む層の存在が全層厚の55〜90%であることが示されている。
特許文献5には、基材とDLC膜との界面にイオン注入法により窒素イオンを注入し、DLCの構成元素である炭素原子と注入原子との混合層を設けることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特許第3057077号公報
【特許文献2】
特開2000−87218号公報
【特許文献3】
特許第2628595号公報
【特許文献4】
特開平07−62541号公報
【特許文献5】
特開平07−90553号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、従来から、基材に対するDLC膜の密着性向上のために、基材表面への第1被膜の形成や中間層の導入などの方法が提案されている。しかし、これらの方法で得られた膜の場合、基材と第1被膜との界面や、中間層同士の界面や、中間層とDLC膜との界面で境界剥離が起こったり、また、第1被膜や中間層内でクラック等の発生が起こる。そのため、このような境界剥離やクラック発生を抑え、更に強度の高いDLC被膜を開発することが望まれている。
【0007】
特許文献1(特許第3057077号公報)に開示された方法によれば、異種材料との界面が増え、成膜プロセスの増加によりプロセスが煩雑になり、また、必要な素材原料も増加するという不都合が生じる。
特許文献2(特開2000−87218号公報)に開示された方法では、基板材料の種類に応じて中間混合層のための供給材料を用意しなければならず、少量、多品種素材に対する硬質被膜作製に対しては十分ではないという問題がある。
【0008】
特許文献3(特許第2628595号公報)に開示された技術では、金属基材表面とコバルト、ニッケルまたは合金層との界面での密着強度は改善されるが、コバルト、ニッケルまたは合金層とダイヤモンド状カーボン膜との界面での密着強度は充分ではない。
特許文献4(特開平07−62541号公報)及び特許文献5(特開平07−90553号公報)に開示されたいずれの技術も、基材表面への第1被膜の元素としては、DLCの構成元素である炭素、あるいは炭素との固溶・混合について示しているだけであり、多様な基材に対する確実な密着性と最表面DLCを得る方法については示唆すらしていない。
【0009】
上記の中間層を形成する方法としては、従来から、スパッター法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等が用いられている。これらの技術でも、DLC膜と被処理面との密着強度は、従来の硬質膜(TiN膜、TiCN膜)の場合に比較し、30%〜60%程度は向上するが、特に1μm以上の被膜を形成することが要求される場合には、さらなる密着性の向上が望まれている。
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、DLC膜の被処理基材への密着性が優れたDLC(ダイヤモンド・ライクカーボン)傾斜構造硬質被膜及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点は、ホローカソードデイスチャージ法(HCD法)の蒸発方法によるイオンプレーティング成膜によって、基材表面へTiまたはTi化合物を含む第1被膜形成を行い、その後、Ti供給量を漸次減少しつつ、平行してイオンビーム法を重畳し、最表面でDLC膜を得ることにより解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のDLC傾斜構造硬質被膜は、基材(例えば、金属、セラミックス、ガラス等からなる基材)表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有するDLC傾斜構造硬質被膜であって、第1層と最表層との間が、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とする。
このチタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造は、イオンプレーティング法の原料蒸発方法であるHCD法によりチタンを蒸発させる方法と、イオンビームアシストデポジション法(IBAD法)により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより得られる。
【0012】
このHCD法は、中空陰極放電法と呼ばれ、中空円筒状の高融点活性金属を電極とし、アルゴンガス等の不活性ガスを流し、電極自体からの熱電子と、イオン化された当該ガスイオンのエネルギーによる原料加熱方法であり、低電圧、大電流の特徴を有するイオン化率の高い方法である。本原料蒸発方法でのイオンプレーティングによる成膜法によれば、密着性の良い被膜が得られるとともに、滑らかな被膜表面が得られることから、表面精度が非常によく制御できる。例えば、精密な制御が必要な、樹脂成形用の可動側ブッシュ、スプルーカットパンチ、スプルーブッシュ等の表面処理に応用されている。
【0013】
また、IBAD法は、冷陰極電子衝撃型イオン発生法と呼ばれ、導入された反応ガス(アセチレンガス等の炭化水素ガス)をイオン化し、ガスイオン(炭素イオン)として供給し、基材上に析出させる方法である。イオン化されたガスイオンを供給することで、結晶性が改善され、安定した品質の膜が得られる。非晶質DLC被膜には、硬く、強度が高く、摩擦係数が小さいという特性が要求され、可能な限り結晶化された被膜が好ましい。
【0014】
本発明によれば、上記チタンを含む第1層上に形成されたチタン−炭化チタン−炭素混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有する。0.04μm未満の厚さでは組成上の段差となり応力緩和効果が少なく、また、0.11μmを超える厚さでは、DLC表面硬度が低下する。
【0015】
また、本発明のDLC傾斜構造硬質被膜は、基材(例えば、金属、セラミックス又はガラス等からなる基材)表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有するDLC傾斜構造被膜であって、第1層と最表層との間が、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とする。
上記第1層から最表層までの全厚みが、6.0μm以下である。6.0μmを超えると、内部応力が高くなり基材表面から剥離しやすくなるからである。
【0016】
本発明のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法は、イオンプレーティングにより基材表面上にチタンを含む第1層を形成し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより、第1層と最表層との間に、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とする。
【0017】
上記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用して、チタン−炭化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン/DLC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することが好ましい。
【0018】
また、本発明のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法は、イオンプレーティング法により基材表面にチタンを含む第1層を被覆し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させ、イオンプレーティングにより、第1層と最表層との間に、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とする。
【0019】
上記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させて、チタン−炭化チタン−炭化窒化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン(炭化窒化チタン)/LDC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することが好ましい。
【0020】
基材表面に形成された混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種、又はチタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有することが好ましい。
上記したように、本発明の方法によれば、基材表面に形成された第1被膜からチタンに対する炭素の比が増加した境界のない連続的な傾斜組成を持った、最表面がDLCである被膜が得られる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、上記したように、蒸発原料としてチタン(Ti)を用いたHCD法でのイオンプレーティング被膜形成法をDLC成膜初期工程で実施することにより、金属やセラミックスやガラス等からなる基材の表面を密着性が高いTiからなる第1被膜で被覆し、さらに、平行して、冷陰極電子衝撃型イオンソースに電圧を印加してイオンビームを発生させ、これにより、導入された炭化水素等の反応ガスをイオン化し、このイオン化されたガスイオン(炭素イオン(Cイオン))を真空チャンバー内に供給する。このような雰囲気で、炭素イオンアシストを利用したイオンプレーティングによりTi、炭化チタン(TiC)、炭素(C)、炭化窒化チタン(TiCN)を含む混合層領域を形成する。TiCNは、ガスイオン供給時に窒素ガスを混入することで容易に得られる。このイオンプレーティングのバイアス電圧は維持しつつ、HCD法による電子ビーム量を徐々に低くして所定の時間の間Ti供給量を漸次減少し、混合層領域を形成した後にTi供給を停止し、CイオンソースのみのIBAD法による被膜形成でDLC膜を最表面に得る。
【0022】
この方法により、基材表面に形成された第1被膜からTiに対するCの比が増加した境界のない連続的な傾斜組成を持った、最表面がDLCである被膜が得られる。
上記したように、本発明では、イオンプレーティングによる硬質被膜形成方法としてのHCD法により、Ti原料を蒸発・供給し、イオンプレーティング法により密着性の良いTiの第1被膜を形成後、並行して反応ガスを導入し、イオンビーム法により、Cイオン、あるいはCとNとのイオンを供給する。この第1被膜の形成は、HCD法によりTi原料を蒸発してイオン化されたTi蒸気とし、被処理面である基材にバイアス電圧(DC10〜1000V)を印加し、該基材にTi蒸気を供給してTiの被膜を形成することにより行われる。
【0023】
本発明によれば、イオンプレーティング法により基材表面にTi−TiC(TiCN)−Cの混合層を形成する。一定時間維持後、被膜の組成傾斜領域を作製するために、HCD法でのTi供給を徐々に減少させ(NがあるときはNイオンも減少させておく)、Tiの供給を微量供給とし、この状態に所要時間維持した後、イオンプレーティング法を停止する。停止と同時にイオンビーム法によるCイオンを増加せしめ、CのみをIBAD法により基材に供給し、DLC被膜を最表面として形成する。
【0024】
本発明者らは、特に、イオンプレーティング法により基材表面にTi−TiC(TiCN)−Cの混合層を形成した後にDLC膜を形成すること、HCD法でのTi供給量を漸次減少すること、また、TiCとDLCの組成傾斜領域の厚みが重要であることを見い出したのである。組成傾斜領域が0.11μmを超える厚みがある場合はDLC表面硬度が低下し、0.04μm未満の厚さでは組成上の段差となり応力緩和効果が少ない。基材表面上に形成されるDLC表面層を含む全被膜層の厚さは、基材材質(主に強度)や、傾斜領域直下のTi−TiC(TiCN)−C混合層の厚みや、傾斜領域直上のDLC表面層の厚み等にもよるが、6.0μm以下が望ましく、また、TiCとDLCとの組成傾斜領域は、0.11μm以下、0.04μm以上が望ましい。
【0025】
イオンソースにより炭化水素ガスを導入し、様々なCxHyイオンとして装置内に導入し、イオンプレーティング法により基材上にCがDLCとして堆積される。HCD法によるTi蒸気の供給量を徐々に滅らすことで、堆積膜中にTi/及び/又はTiCとDLCとの濃度勾配を作ることが出来、その後にTi蒸気の供給を完全に止めることで、イオンソースのみによるCの堆積になり、DLCの領域(膜)が得られる。また、イオンソースで炭化水素ガスを導入する際、窒素ガスを同時に供給することで、基材上でNが得られTiCN、CNの組成傾斜構造の被膜も製作できる。
【0026】
本発明において使用する成膜装置について図1を参照して説明する。図1に示す成膜装置は、真空チャンバー1からなり、この真空チャンバー1には排気系2が接続されており、真空チャンバー内を10−4Pa程度までの高真空に引くことができるように構成されている。真空ャンバー1内には、被処理基材としての基材3が載置され、この基材にはバイアス4が印加され、カソード(ホローカソード)5からハース6へ照射される電子ビームによりTi原料が蒸発されるように構成されている。同時に、炭素イオンソース7で供給される炭化水素ガス8をイオン化し、得られるCxHyイオンをIBAD法のイオンソース供給源として使用し、基材3に炭素が供給される。
【0027】
IBAD法では、炭素イオンソース7として、炭化水素ガスのうち通常アセチレンガスを使用するが、生成されるCxHyイオン種の原料としては特に制限はなく、炭素イオンを発生し得るものであれば良く、例えば、ブタン、ベンゼン等の炭化水素を用いることも出来る。また、これらの炭化水素の一種と窒素、アルゴン、水素等とを併用することも出来、これにより、膜組成・組織等の膜質を変えることが出来る。更に、基材に印加するバイアス4を変化させたり、真空チャンバー1の圧力、温度等の条件を変化させることも可能であり、膜質の制御の自由度は高い。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図1に示す真空チャンバー1の回転治具に表面を研磨したステンレス材SUS304基材(形状:15×20×1mm)3を載置し、基材を250℃に加熱すると共に真空チャンバー内を10−1Paの真空雰囲気にした。HCD法の電子ビームを点火し、この真空雰囲気中でイオンボンバードにより、基材表面に主にアルゴンイオンを衝突させ、表面のクリーニングを行った。
【0029】
次いで、基材3に−400Vのバイアスを印加し、Tiのイオンプレーティングを1分間行って、基材表面上に第1被膜のTi膜を得た後、基材へのバイアスを−100Vに変更維持した。イオンプレーティング開始1分後より平行して同時に、IBAD法イオンソースに1500Vを印加し、イオンビームを発生させて、炭化水素(アセチレン(C2H2))ガスを導入し、炭素イオンアシストを利用したイオンプレーティングにより基材上に組成Ti−TiC−Cの混合層を成膜した。次に、上記イオンプレーティング開始5分後より、HCD法の電子ビーム量を徐々に低くし、イオンプレーティング開始9分後には当初の電流値の1/2の100Aまで下げた。この期間がTiC/DLCの組成の傾斜領域となる。この状態を1分間保持し、イオンプレーティング開始10分後に電子ビームを止めて、Tiの供給を零にした。その後、バイアス電圧を1000Vに設定し、IBAD法によるアセチレンガス供給のみとし、基材加熱温度を150℃にし、約30分間DLC膜を生成した。このプロセスによりTiC/DLC傾斜構造を持つ膜の全膜厚が2.5μのDLC硬質被膜が得られた。
【0030】
上記成膜パターンを、「TDC01」と称し、この傾斜TiC/DLC膜の成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。
上記成膜パターンにより得られたサンプルの表面硬度と90度曲げによる剥離テストを行った結果、3000(Hv)マイクロビッカース硬度と高い値が得られ、曲げによる剥離も見られなかった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は0.10μmと観察された(図3)。
【0031】
図3のグラフは、本実施例のサンプル(傾斜TiC/DLC膜)の断面において、表面からのGDS分析による深さ方向の元素分布を示す。この分析手法は、グロー放電を利用するため、DLC領域(絶縁体領域)でのCは検出されにくい。この図から明らかなに、TiC+C領域からDLC領域への移行部分でCの量が減少している。これは、絶縁体であるDLCが増加していることを示している。なお、Ti、TiC、Cは導体である。各元素の強度比が異なるため、図中、縦軸は任意スケールとし、また、横軸はDLC表面からの深さを示す(左軸が表面で零基準)。
上記曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(a)に示す。この図から明らかなように、表面状態は良好である。
以下の実施例及び比較例における成膜条件は、特に断らない限り実施例1に準じて行った。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、Ti供給量の漸次減少時間を2分間とした他は実施例1と同じ条件で成膜し(この場合の成膜パターンを、「TDC02」と称す)、全膜厚2.5μmのDLC硬質被膜を得た。
【0033】
実施例1と同様に硬度と曲げテストとを行った結果、硬度は2000Hvと高く、曲げにより最外層のDLCにやや剥がれが見られた(表1)。また、実施例1と同様にして行った断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は、0.05μmほどと観察された。
上記成膜パターン「TDC02」について、成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。また、曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(b)に示す。この図から明らかなように、DLC膜の一部分にやや剥離が見られたが、実用的には問題なかった。
【0034】
(比較例1)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、Ti供給量の漸次減少時間を1分間とした他は実施例1と同じ条件で成膜し(この場合の成膜パターンを、「TDC03」と称す)、全膜厚2.5μmのDLC硬質被膜を得た。
【0035】
実施例1と同様に硬度と曲げテストを行った結果、硬度は1500Hvと低く、また、曲げにより最外層のDLCには、部分的に存在する下部TiCとの界面から大きな剥がれが多く見られた(表1)。また、TiCとDLCとの組成傾斜部分は境界があまり明瞭ではないものの、0.02μmほどであった。
上記成膜パターン「TDC03」について、成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。また、曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(c)に示す。この図から明らかなように、DLC膜の大部分に剥離が見られ、表面状態は良好でない。
【0036】
(比較例2)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、実施例1と同様な条件で、平行してIBAD法によりアセチレンガスを導入し、Ti供給量を減少させずに維持し、SUS基材上にTi層とTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、イオンプレーティング開始9分後に電子ビームを止め、Ti原料供給を停止した。その後1分間保持した後、IBAD法によるアセチレンガス供給のみとし、基材加熱温度を150℃にして、約30分間DLC膜を形成した。このプロセスによりTi−TiC−CとDLCとの2層構造の膜が製作された。
装置より取り出し、硬度測定、曲げテストを行なう前の顕微鏡での表面観察時に、表面のDLC膜剥離が観察された(表1)。曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(d)に示す。この図から明らかなように、表面状態は良好でない。
【0037】
(実施例3)
SUS304より強度が有り、硬度も高い特殊ステンレス金型用材料(商品名:HPM38)基材(形状:φ30×10mm)に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を4分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは「TDC01」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を生成した。
このプロセスにより、全膜厚が1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、3500Hvと高かった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は0.10μmと観察された。
【0038】
(実施例4)
特殊ステンレス金型用材料(HPM38)からなる基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を2分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは、「TDC02」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を形成した。
このプロセスにより、全膜厚が約1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、2700Hvと高かった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は、0.05μmと観察された。
【0039】
(比較例3)
HPM38基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を1分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは、「TDC03」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を形成した。
このプロセスにより、全膜厚が1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、1700Hvと低かった(表1)。また、TiCとDLCとの組成傾斜部分は境界があまり明瞭ではないものの、0.03μmほどと観察された。
【0040】
(比較例4)
HPM38基材に対して、比較例2と同一の条件で成膜したところ、同一の現象が生じ、装置より取り出し、硬度測定を行なう前の顕微鏡での表面観察時に表面のDLC膜剥離が観察された(表1)。
【0041】
(表1:実施例1〜4及び比較例1〜4の試験結果)
【0042】
(実施例5)
表面を研磨したダイス鋼SKD51基材のAl板成形用金型を2セット用意し、実施例1と同一条件での成膜を行った(この場合の成膜パターンは、TDC01である)。ただし、最表面層のDLCの成膜条件については、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜時間を約120分間とした。1セットを膜の評価用とし観察したところ、このプロセスによりTiCとDLCの組成傾斜領域が約0.1μmで、該組成傾斜領域を含む全膜厚が約6μmのDLC硬質被膜で被覆された金型が得られた。得られた金型をAl板成形装置に組み込み、繰り返してAl板を成形した結果、180日以上問題なく連続使用可能であった。
【0043】
(比較例5)
表面を研磨したダイス鋼SKD51基材のAl板成形用金型を2セット用意し、該金型表面基材にイオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を1分間として成膜した。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約120分間行い、DLC膜を生成した(この場合の成膜パターンは、「TDC03」である)。1セットを膜の評価用として観察したところ、このプロセスによりTiCとDLCとの組成傾斜領域が約0.03μmで、該組成傾斜領域を含む全膜厚が約6μmのDLC硬質被膜で被覆された金型が得られた。得られた金型をAl板成形装置に組み込み、繰り返してAl板を成形した結果、50日間使用後の金型のDLC表面の一部にAlが凝着し製品に転写される不具合が発生した。
【0044】
上記実施例では、HCD法によるイオンプレーティングで第1被膜としてTiを成膜する基材を金属としたが、金属以外にセラミックスや、金属とセラミックスとの複合材や、ガラス等からなる基材を用いても良い。
また、上記実施例では、本発明のDLC組成の傾斜構造を持つ成膜は、IBAD法を用いて行ったが、IBAD法以外にも、反応ガスの炭化水素ガスを雰囲気に導入したうえで、基材に高電圧パルスを付加して、Cを供給するような方法でも可能である。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、金属、セラミックス、ガラス等からなる基材表面のDLC硬質被膜の膜構造は第1被膜から最表面に向けてDLCが連続的に増加し、中間組成との界面のない構造となり、基材との密着性は2〜4倍と大幅に上昇し、強度が高く、硬度も高いDLC傾斜構造硬質被膜が提供できる。
また、本発明によれば、HCD法で形成された非常に平滑な被膜を介して連続的にDLC膜を形成することできることから、表面平滑度の非常に良いDLC膜を最表層に形成することが可能である。
本発明におけるTiC膜、TiCN膜等のような高い膜硬度と強い密着強度の存在は、同様の磨耗条件ではDLC膜の有効厚さを減少させても同じような効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のDLC傾斜構造硬質被膜を作製するための成膜装置の構造を模式的に示す断面図。
【図2】傾斜TiC/DLC膜の成膜条件を示すための堆積時間に対する操作パラメータの関係を示す図。
【図3】傾斜TiC/DLC膜の断面の元素分布を示す図。
【図4】曲げテスト後のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
1 真空チャンバー 2 排気系
3 基材 4 バイアス
5 ホローカソード 6 ハース
7 炭素イオンソース 8 炭化水素ガス
【発明の属する技術分野】
本発明は、DLC(ダイヤモンド・ライクカーボン、以下、「DLC」とも称す。)傾斜構造硬質被膜及びその製造方法に関し、特に、摺動、疲労、磨耗等に対する耐性が要求される部品(例えば、無潤滑、高加重の精密機械部品、金型部品、及び高級装飾品表面)等の保護膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンド・ライクカーボン(DLC)膜は、硬く、摩擦係数が小さく、耐食性があることから、各種技術分野での応用が期待されている。
従来の被処理基材へのDLC膜の直接的な被膜形成技術では、DLC膜の被処理基材表面への密着強度が劣ることから、密着性を向上させるための方法として、基材とDLC膜との間に中間層を設ける様々な方式が提案されている(例えば、特許文献1、2、3、4及び5参照)。
【0003】
特許文献1には、金型の表面との密着力を高める中間層を介してダイヤモンド状カーボン膜を形成することが提案されており、この中間層は、クロム又はチタンを主体とする下層と、シリコン又はゲルマニウムを主体とする上層とからなる2層構造であることが開示されている。
特許文献2には、金属またはセラミックスからなる基材の表面に、カーボンターゲットを用いてカソード放電型アークイオンプレーティング法により非晶質炭素膜を形成すると共に、該炭素被膜と基材との界面に、これら基材構成元素と被膜構成元素とからなる厚さ10〜500Åの混合層を形成する高密着性非晶質炭素被膜形成材の製法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、金属基材の表面にコバルト、ニッケル、またはそれらの合金の層を形成後、高周波プラズマCVD法により硬質ダイヤモンド状カーボン膜を形成することが開示されている。
特許文献4には、周期律表第4A、5A、6A族金属の炭化物、窒化物及びこれらの相互固溶体からなる硬質膜を含む層の存在が全層厚の55〜90%であることが示されている。
特許文献5には、基材とDLC膜との界面にイオン注入法により窒素イオンを注入し、DLCの構成元素である炭素原子と注入原子との混合層を設けることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特許第3057077号公報
【特許文献2】
特開2000−87218号公報
【特許文献3】
特許第2628595号公報
【特許文献4】
特開平07−62541号公報
【特許文献5】
特開平07−90553号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、従来から、基材に対するDLC膜の密着性向上のために、基材表面への第1被膜の形成や中間層の導入などの方法が提案されている。しかし、これらの方法で得られた膜の場合、基材と第1被膜との界面や、中間層同士の界面や、中間層とDLC膜との界面で境界剥離が起こったり、また、第1被膜や中間層内でクラック等の発生が起こる。そのため、このような境界剥離やクラック発生を抑え、更に強度の高いDLC被膜を開発することが望まれている。
【0007】
特許文献1(特許第3057077号公報)に開示された方法によれば、異種材料との界面が増え、成膜プロセスの増加によりプロセスが煩雑になり、また、必要な素材原料も増加するという不都合が生じる。
特許文献2(特開2000−87218号公報)に開示された方法では、基板材料の種類に応じて中間混合層のための供給材料を用意しなければならず、少量、多品種素材に対する硬質被膜作製に対しては十分ではないという問題がある。
【0008】
特許文献3(特許第2628595号公報)に開示された技術では、金属基材表面とコバルト、ニッケルまたは合金層との界面での密着強度は改善されるが、コバルト、ニッケルまたは合金層とダイヤモンド状カーボン膜との界面での密着強度は充分ではない。
特許文献4(特開平07−62541号公報)及び特許文献5(特開平07−90553号公報)に開示されたいずれの技術も、基材表面への第1被膜の元素としては、DLCの構成元素である炭素、あるいは炭素との固溶・混合について示しているだけであり、多様な基材に対する確実な密着性と最表面DLCを得る方法については示唆すらしていない。
【0009】
上記の中間層を形成する方法としては、従来から、スパッター法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等が用いられている。これらの技術でも、DLC膜と被処理面との密着強度は、従来の硬質膜(TiN膜、TiCN膜)の場合に比較し、30%〜60%程度は向上するが、特に1μm以上の被膜を形成することが要求される場合には、さらなる密着性の向上が望まれている。
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、DLC膜の被処理基材への密着性が優れたDLC(ダイヤモンド・ライクカーボン)傾斜構造硬質被膜及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点は、ホローカソードデイスチャージ法(HCD法)の蒸発方法によるイオンプレーティング成膜によって、基材表面へTiまたはTi化合物を含む第1被膜形成を行い、その後、Ti供給量を漸次減少しつつ、平行してイオンビーム法を重畳し、最表面でDLC膜を得ることにより解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のDLC傾斜構造硬質被膜は、基材(例えば、金属、セラミックス、ガラス等からなる基材)表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有するDLC傾斜構造硬質被膜であって、第1層と最表層との間が、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とする。
このチタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造は、イオンプレーティング法の原料蒸発方法であるHCD法によりチタンを蒸発させる方法と、イオンビームアシストデポジション法(IBAD法)により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより得られる。
【0012】
このHCD法は、中空陰極放電法と呼ばれ、中空円筒状の高融点活性金属を電極とし、アルゴンガス等の不活性ガスを流し、電極自体からの熱電子と、イオン化された当該ガスイオンのエネルギーによる原料加熱方法であり、低電圧、大電流の特徴を有するイオン化率の高い方法である。本原料蒸発方法でのイオンプレーティングによる成膜法によれば、密着性の良い被膜が得られるとともに、滑らかな被膜表面が得られることから、表面精度が非常によく制御できる。例えば、精密な制御が必要な、樹脂成形用の可動側ブッシュ、スプルーカットパンチ、スプルーブッシュ等の表面処理に応用されている。
【0013】
また、IBAD法は、冷陰極電子衝撃型イオン発生法と呼ばれ、導入された反応ガス(アセチレンガス等の炭化水素ガス)をイオン化し、ガスイオン(炭素イオン)として供給し、基材上に析出させる方法である。イオン化されたガスイオンを供給することで、結晶性が改善され、安定した品質の膜が得られる。非晶質DLC被膜には、硬く、強度が高く、摩擦係数が小さいという特性が要求され、可能な限り結晶化された被膜が好ましい。
【0014】
本発明によれば、上記チタンを含む第1層上に形成されたチタン−炭化チタン−炭素混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有する。0.04μm未満の厚さでは組成上の段差となり応力緩和効果が少なく、また、0.11μmを超える厚さでは、DLC表面硬度が低下する。
【0015】
また、本発明のDLC傾斜構造硬質被膜は、基材(例えば、金属、セラミックス又はガラス等からなる基材)表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有するDLC傾斜構造被膜であって、第1層と最表層との間が、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とする。
上記第1層から最表層までの全厚みが、6.0μm以下である。6.0μmを超えると、内部応力が高くなり基材表面から剥離しやすくなるからである。
【0016】
本発明のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法は、イオンプレーティングにより基材表面上にチタンを含む第1層を形成し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより、第1層と最表層との間に、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とする。
【0017】
上記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用して、チタン−炭化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン/DLC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することが好ましい。
【0018】
また、本発明のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法は、イオンプレーティング法により基材表面にチタンを含む第1層を被覆し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させ、イオンプレーティングにより、第1層と最表層との間に、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とする。
【0019】
上記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させて、チタン−炭化チタン−炭化窒化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン(炭化窒化チタン)/LDC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することが好ましい。
【0020】
基材表面に形成された混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種、又はチタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有することが好ましい。
上記したように、本発明の方法によれば、基材表面に形成された第1被膜からチタンに対する炭素の比が増加した境界のない連続的な傾斜組成を持った、最表面がDLCである被膜が得られる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、上記したように、蒸発原料としてチタン(Ti)を用いたHCD法でのイオンプレーティング被膜形成法をDLC成膜初期工程で実施することにより、金属やセラミックスやガラス等からなる基材の表面を密着性が高いTiからなる第1被膜で被覆し、さらに、平行して、冷陰極電子衝撃型イオンソースに電圧を印加してイオンビームを発生させ、これにより、導入された炭化水素等の反応ガスをイオン化し、このイオン化されたガスイオン(炭素イオン(Cイオン))を真空チャンバー内に供給する。このような雰囲気で、炭素イオンアシストを利用したイオンプレーティングによりTi、炭化チタン(TiC)、炭素(C)、炭化窒化チタン(TiCN)を含む混合層領域を形成する。TiCNは、ガスイオン供給時に窒素ガスを混入することで容易に得られる。このイオンプレーティングのバイアス電圧は維持しつつ、HCD法による電子ビーム量を徐々に低くして所定の時間の間Ti供給量を漸次減少し、混合層領域を形成した後にTi供給を停止し、CイオンソースのみのIBAD法による被膜形成でDLC膜を最表面に得る。
【0022】
この方法により、基材表面に形成された第1被膜からTiに対するCの比が増加した境界のない連続的な傾斜組成を持った、最表面がDLCである被膜が得られる。
上記したように、本発明では、イオンプレーティングによる硬質被膜形成方法としてのHCD法により、Ti原料を蒸発・供給し、イオンプレーティング法により密着性の良いTiの第1被膜を形成後、並行して反応ガスを導入し、イオンビーム法により、Cイオン、あるいはCとNとのイオンを供給する。この第1被膜の形成は、HCD法によりTi原料を蒸発してイオン化されたTi蒸気とし、被処理面である基材にバイアス電圧(DC10〜1000V)を印加し、該基材にTi蒸気を供給してTiの被膜を形成することにより行われる。
【0023】
本発明によれば、イオンプレーティング法により基材表面にTi−TiC(TiCN)−Cの混合層を形成する。一定時間維持後、被膜の組成傾斜領域を作製するために、HCD法でのTi供給を徐々に減少させ(NがあるときはNイオンも減少させておく)、Tiの供給を微量供給とし、この状態に所要時間維持した後、イオンプレーティング法を停止する。停止と同時にイオンビーム法によるCイオンを増加せしめ、CのみをIBAD法により基材に供給し、DLC被膜を最表面として形成する。
【0024】
本発明者らは、特に、イオンプレーティング法により基材表面にTi−TiC(TiCN)−Cの混合層を形成した後にDLC膜を形成すること、HCD法でのTi供給量を漸次減少すること、また、TiCとDLCの組成傾斜領域の厚みが重要であることを見い出したのである。組成傾斜領域が0.11μmを超える厚みがある場合はDLC表面硬度が低下し、0.04μm未満の厚さでは組成上の段差となり応力緩和効果が少ない。基材表面上に形成されるDLC表面層を含む全被膜層の厚さは、基材材質(主に強度)や、傾斜領域直下のTi−TiC(TiCN)−C混合層の厚みや、傾斜領域直上のDLC表面層の厚み等にもよるが、6.0μm以下が望ましく、また、TiCとDLCとの組成傾斜領域は、0.11μm以下、0.04μm以上が望ましい。
【0025】
イオンソースにより炭化水素ガスを導入し、様々なCxHyイオンとして装置内に導入し、イオンプレーティング法により基材上にCがDLCとして堆積される。HCD法によるTi蒸気の供給量を徐々に滅らすことで、堆積膜中にTi/及び/又はTiCとDLCとの濃度勾配を作ることが出来、その後にTi蒸気の供給を完全に止めることで、イオンソースのみによるCの堆積になり、DLCの領域(膜)が得られる。また、イオンソースで炭化水素ガスを導入する際、窒素ガスを同時に供給することで、基材上でNが得られTiCN、CNの組成傾斜構造の被膜も製作できる。
【0026】
本発明において使用する成膜装置について図1を参照して説明する。図1に示す成膜装置は、真空チャンバー1からなり、この真空チャンバー1には排気系2が接続されており、真空チャンバー内を10−4Pa程度までの高真空に引くことができるように構成されている。真空ャンバー1内には、被処理基材としての基材3が載置され、この基材にはバイアス4が印加され、カソード(ホローカソード)5からハース6へ照射される電子ビームによりTi原料が蒸発されるように構成されている。同時に、炭素イオンソース7で供給される炭化水素ガス8をイオン化し、得られるCxHyイオンをIBAD法のイオンソース供給源として使用し、基材3に炭素が供給される。
【0027】
IBAD法では、炭素イオンソース7として、炭化水素ガスのうち通常アセチレンガスを使用するが、生成されるCxHyイオン種の原料としては特に制限はなく、炭素イオンを発生し得るものであれば良く、例えば、ブタン、ベンゼン等の炭化水素を用いることも出来る。また、これらの炭化水素の一種と窒素、アルゴン、水素等とを併用することも出来、これにより、膜組成・組織等の膜質を変えることが出来る。更に、基材に印加するバイアス4を変化させたり、真空チャンバー1の圧力、温度等の条件を変化させることも可能であり、膜質の制御の自由度は高い。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図1に示す真空チャンバー1の回転治具に表面を研磨したステンレス材SUS304基材(形状:15×20×1mm)3を載置し、基材を250℃に加熱すると共に真空チャンバー内を10−1Paの真空雰囲気にした。HCD法の電子ビームを点火し、この真空雰囲気中でイオンボンバードにより、基材表面に主にアルゴンイオンを衝突させ、表面のクリーニングを行った。
【0029】
次いで、基材3に−400Vのバイアスを印加し、Tiのイオンプレーティングを1分間行って、基材表面上に第1被膜のTi膜を得た後、基材へのバイアスを−100Vに変更維持した。イオンプレーティング開始1分後より平行して同時に、IBAD法イオンソースに1500Vを印加し、イオンビームを発生させて、炭化水素(アセチレン(C2H2))ガスを導入し、炭素イオンアシストを利用したイオンプレーティングにより基材上に組成Ti−TiC−Cの混合層を成膜した。次に、上記イオンプレーティング開始5分後より、HCD法の電子ビーム量を徐々に低くし、イオンプレーティング開始9分後には当初の電流値の1/2の100Aまで下げた。この期間がTiC/DLCの組成の傾斜領域となる。この状態を1分間保持し、イオンプレーティング開始10分後に電子ビームを止めて、Tiの供給を零にした。その後、バイアス電圧を1000Vに設定し、IBAD法によるアセチレンガス供給のみとし、基材加熱温度を150℃にし、約30分間DLC膜を生成した。このプロセスによりTiC/DLC傾斜構造を持つ膜の全膜厚が2.5μのDLC硬質被膜が得られた。
【0030】
上記成膜パターンを、「TDC01」と称し、この傾斜TiC/DLC膜の成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。
上記成膜パターンにより得られたサンプルの表面硬度と90度曲げによる剥離テストを行った結果、3000(Hv)マイクロビッカース硬度と高い値が得られ、曲げによる剥離も見られなかった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は0.10μmと観察された(図3)。
【0031】
図3のグラフは、本実施例のサンプル(傾斜TiC/DLC膜)の断面において、表面からのGDS分析による深さ方向の元素分布を示す。この分析手法は、グロー放電を利用するため、DLC領域(絶縁体領域)でのCは検出されにくい。この図から明らかなに、TiC+C領域からDLC領域への移行部分でCの量が減少している。これは、絶縁体であるDLCが増加していることを示している。なお、Ti、TiC、Cは導体である。各元素の強度比が異なるため、図中、縦軸は任意スケールとし、また、横軸はDLC表面からの深さを示す(左軸が表面で零基準)。
上記曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(a)に示す。この図から明らかなように、表面状態は良好である。
以下の実施例及び比較例における成膜条件は、特に断らない限り実施例1に準じて行った。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、Ti供給量の漸次減少時間を2分間とした他は実施例1と同じ条件で成膜し(この場合の成膜パターンを、「TDC02」と称す)、全膜厚2.5μmのDLC硬質被膜を得た。
【0033】
実施例1と同様に硬度と曲げテストとを行った結果、硬度は2000Hvと高く、曲げにより最外層のDLCにやや剥がれが見られた(表1)。また、実施例1と同様にして行った断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は、0.05μmほどと観察された。
上記成膜パターン「TDC02」について、成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。また、曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(b)に示す。この図から明らかなように、DLC膜の一部分にやや剥離が見られたが、実用的には問題なかった。
【0034】
(比較例1)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、Ti供給量の漸次減少時間を1分間とした他は実施例1と同じ条件で成膜し(この場合の成膜パターンを、「TDC03」と称す)、全膜厚2.5μmのDLC硬質被膜を得た。
【0035】
実施例1と同様に硬度と曲げテストを行った結果、硬度は1500Hvと低く、また、曲げにより最外層のDLCには、部分的に存在する下部TiCとの界面から大きな剥がれが多く見られた(表1)。また、TiCとDLCとの組成傾斜部分は境界があまり明瞭ではないものの、0.02μmほどであった。
上記成膜パターン「TDC03」について、成膜条件を示すための堆積時間(min)に対する操作パラメータの関係を図2に示す。また、曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(c)に示す。この図から明らかなように、DLC膜の大部分に剥離が見られ、表面状態は良好でない。
【0036】
(比較例2)
実施例1と同様にクリーニングしたSUS304基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、実施例1と同様な条件で、平行してIBAD法によりアセチレンガスを導入し、Ti供給量を減少させずに維持し、SUS基材上にTi層とTi−TiC−Cの組成混合層を作製した。次いで、イオンプレーティング開始9分後に電子ビームを止め、Ti原料供給を停止した。その後1分間保持した後、IBAD法によるアセチレンガス供給のみとし、基材加熱温度を150℃にして、約30分間DLC膜を形成した。このプロセスによりTi−TiC−CとDLCとの2層構造の膜が製作された。
装置より取り出し、硬度測定、曲げテストを行なう前の顕微鏡での表面観察時に、表面のDLC膜剥離が観察された(表1)。曲げテスト後の基材上のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真を図4(d)に示す。この図から明らかなように、表面状態は良好でない。
【0037】
(実施例3)
SUS304より強度が有り、硬度も高い特殊ステンレス金型用材料(商品名:HPM38)基材(形状:φ30×10mm)に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を4分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは「TDC01」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を生成した。
このプロセスにより、全膜厚が1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、3500Hvと高かった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は0.10μmと観察された。
【0038】
(実施例4)
特殊ステンレス金型用材料(HPM38)からなる基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を2分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは、「TDC02」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を形成した。
このプロセスにより、全膜厚が約1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、2700Hvと高かった(表1)。また、断面の組成分析の結果、TiCとDLCとの組成傾斜部分は、0.05μmと観察された。
【0039】
(比較例3)
HPM38基材に対して、イオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を1分間とし、実施例1の操作にしたがって成膜した(この場合の成膜パターンは、「TDC03」である)。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約15分間行い、DLC膜を形成した。
このプロセスにより、全膜厚が1.0μmのDLC硬質被膜が得られ、硬度測定の結果は、1700Hvと低かった(表1)。また、TiCとDLCとの組成傾斜部分は境界があまり明瞭ではないものの、0.03μmほどと観察された。
【0040】
(比較例4)
HPM38基材に対して、比較例2と同一の条件で成膜したところ、同一の現象が生じ、装置より取り出し、硬度測定を行なう前の顕微鏡での表面観察時に表面のDLC膜剥離が観察された(表1)。
【0041】
(表1:実施例1〜4及び比較例1〜4の試験結果)
【0042】
(実施例5)
表面を研磨したダイス鋼SKD51基材のAl板成形用金型を2セット用意し、実施例1と同一条件での成膜を行った(この場合の成膜パターンは、TDC01である)。ただし、最表面層のDLCの成膜条件については、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜時間を約120分間とした。1セットを膜の評価用とし観察したところ、このプロセスによりTiCとDLCの組成傾斜領域が約0.1μmで、該組成傾斜領域を含む全膜厚が約6μmのDLC硬質被膜で被覆された金型が得られた。得られた金型をAl板成形装置に組み込み、繰り返してAl板を成形した結果、180日以上問題なく連続使用可能であった。
【0043】
(比較例5)
表面を研磨したダイス鋼SKD51基材のAl板成形用金型を2セット用意し、該金型表面基材にイオンプレーティングを1分間行い、第1被膜のTi膜を得た後、基材上にTi−TiC−Cの組成混合層を作製し、Ti供給量の漸次減少時間を1分間として成膜した。次いで、1分間保持した後、アセチレンガスを用いたIBAD法によるCの成膜を約120分間行い、DLC膜を生成した(この場合の成膜パターンは、「TDC03」である)。1セットを膜の評価用として観察したところ、このプロセスによりTiCとDLCとの組成傾斜領域が約0.03μmで、該組成傾斜領域を含む全膜厚が約6μmのDLC硬質被膜で被覆された金型が得られた。得られた金型をAl板成形装置に組み込み、繰り返してAl板を成形した結果、50日間使用後の金型のDLC表面の一部にAlが凝着し製品に転写される不具合が発生した。
【0044】
上記実施例では、HCD法によるイオンプレーティングで第1被膜としてTiを成膜する基材を金属としたが、金属以外にセラミックスや、金属とセラミックスとの複合材や、ガラス等からなる基材を用いても良い。
また、上記実施例では、本発明のDLC組成の傾斜構造を持つ成膜は、IBAD法を用いて行ったが、IBAD法以外にも、反応ガスの炭化水素ガスを雰囲気に導入したうえで、基材に高電圧パルスを付加して、Cを供給するような方法でも可能である。
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、金属、セラミックス、ガラス等からなる基材表面のDLC硬質被膜の膜構造は第1被膜から最表面に向けてDLCが連続的に増加し、中間組成との界面のない構造となり、基材との密着性は2〜4倍と大幅に上昇し、強度が高く、硬度も高いDLC傾斜構造硬質被膜が提供できる。
また、本発明によれば、HCD法で形成された非常に平滑な被膜を介して連続的にDLC膜を形成することできることから、表面平滑度の非常に良いDLC膜を最表層に形成することが可能である。
本発明におけるTiC膜、TiCN膜等のような高い膜硬度と強い密着強度の存在は、同様の磨耗条件ではDLC膜の有効厚さを減少させても同じような効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のDLC傾斜構造硬質被膜を作製するための成膜装置の構造を模式的に示す断面図。
【図2】傾斜TiC/DLC膜の成膜条件を示すための堆積時間に対する操作パラメータの関係を示す図。
【図3】傾斜TiC/DLC膜の断面の元素分布を示す図。
【図4】曲げテスト後のDLC膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
1 真空チャンバー 2 排気系
3 基材 4 バイアス
5 ホローカソード 6 ハース
7 炭素イオンソース 8 炭化水素ガス
Claims (10)
- 基材表面に被覆されたチタンを含む第1層とダイヤモンド・ライクカーボン(DLC)膜の最表層とを有するDLC傾斜構造硬質被膜であって、該第1層と該最表層との間が、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種と該DLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とするDLC傾斜構造硬質被膜。
- 前記チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造が、ホローカソードディスチャージ(HCD)法によりチタンを蒸発させる方法とイオンビームアシストデポジション(IBAD)法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより得られることを特徴とする請求項1記載のDLC傾斜構造硬質被膜。
- 前記チタンを含む第1層上に形成されたチタン−炭化チタン−炭素混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有することを特徴とする請求項1又は2記載のDLC傾斜構造硬質被膜。
- 基材表面に被覆されたチタンを含む第1層とDLC膜の最表層とを有するDLC傾斜構造被膜であって、該第1層と該最表層との間が、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種と該DLCとの比率が連続的に変化している構造になっていることを特徴とするDLC傾斜構造硬質被膜。
- 前記該第1層から最表層までの全厚みが、6.0μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のDLC傾斜構造硬質被膜。
- イオンプレーティングにより基材表面上にチタンを含む第1層を形成し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、イオンプレーティングにより、該第1層と最表層との間に、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種と該DLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とするDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法。
- 前記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に前記傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用して、チタン−炭化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン/DLC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することを特徴とする請求項6記載のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法。
- イオンプレーティング法により基材表面にチタンを含む第1層を被覆し、次いで、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させ、イオンプレーティングにより、該第1層と最表層との間に、チタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種と該DLCとの比率が連続的に変化している構造を有する傾斜膜を製造することを特徴とするDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法。
- 前記第1層をHCD法によりチタンを蒸発させる方法によりイオンプレーティングで形成した後に前記傾斜膜を製造する際に、HCD法によりチタンを蒸発させる方法とIBAD法により炭素イオンを発生させる方法とを併用し、また、炭素イオンと同時に窒素イオンを発生させて、チタン−炭化チタン−炭化窒化チタン−炭素の混合領域を形成し、次いで、HCD法による蒸発チタンの供給量を徐々に低くしながら、炭化チタン(炭化窒化チタン)/DLC組成の傾斜領域を所定の時間の間形成した後、チタンの供給量を零にし、IBAD法のみを行って最表層のDLC膜を形成することを特徴とする請求項8記載のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法。
- 基材表面に形成された前記混合領域側から表面DLC側までの間の、チタン及び炭化チタンの少なくとも一種、又はチタン、炭化チタン及び炭化窒化チタンの少なくとも一種とDLCとの比率が連続的に変化している構造を有する範囲が0.04〜0.11μmの厚さを有することを特徴とする請求項7又は9記載のDLC傾斜構造硬質被膜の製造方法。
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