以下、本発明の実施の形態について、実施例及び図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさ、または大きさの比は、必ずしも厳密ではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する場合がある。また、以下において、各スイッチは、オフ(すなわち非導通状態)の場合に容量成分がない状態(すなわちインピーダンスが無限大)となり、オン(すなわち導通状態)の場合に抵抗成分がゼロ(すなわちインピーダンスがゼロ)となる理想的なスイッチとして扱う。
(実施の形態1)
[1.回路構成]
図1Aは、実施の形態1に係るフィルタ10の回路構成図である。
フィルタ10は、例えば、マルチモード/マルチバンド対応の携帯電話のフロントエンド部に配置される、高周波フィルタ回路である。フィルタ10は、例えば3GPP(Third Generation Partnership Project)等の通信規格に準拠したマルチバンド対応の携帯電話に内蔵され、所定の帯域(Band)の高周波信号を選択的に通過させるバンドパスフィルタである。このフィルタ10は、弾性波を用いて高周波信号を選択的に通過させる弾性波フィルタ装置である。
同図に示すように、フィルタ10は、直列腕共振子s1と、並列腕共振子p1と、櫛歯容量C1及びスイッチSWと、を備える。
直列腕共振子s1は、入出力端子11m(第1入出力端子)と入出力端子11n(第2入出力端子)との間に接続されている。つまり、直列腕共振子s1は、入出力端子11mと入出力端子11nとを結ぶ経路上に設けられた共振回路(第2共振回路)である。なお、当該経路には、直列腕共振子s1に限らず、1以上の弾性波共振子からなる直列腕共振回路が設けられていればよい。本実施の形態では、当該直列腕共振回路は、1つの弾性波共振子によって構成されているが、複数の弾性波共振子によって構成されていてもかまわない。複数の弾性波共振子によって構成される直列腕共振回路には、例えば、複数の弾性波共振子からなる縦結合共振子、あるいは、1つの弾性波共振子が直列分割等された複数の分割共振子が含まれる。例えば、直列腕共振回路として縦結合共振子を用いることにより、減衰強化等の要求されるフィルタ特性に適応することが可能となる。
並列腕共振子p1は、入出力端子11mと入出力端子11nとを結ぶ経路上のノード(図1Aではノードx1)とグランド(基準端子)との間に接続されている第1並列腕共振子である。つまり、並列腕共振子p1は、上記経路上のノードx1とグランドとを結ぶ経路上に設けられた共振子である。
この並列腕共振子p1は、フィルタ10の通過帯域より低域側に共振周波数を有し、通過帯域内に反共振周波数を有する。本実施の形態では、並列腕共振子p1における共振周波数は、直列腕共振子s1における共振周波数よりも低く、並列腕共振子p1における反共振周波数は、直列腕共振子s1における反共振周波数よりも低い。
ここで、共振子における共振周波数とは、当該共振子のインピーダンスが極小となる特異点(理想的にはインピーダンスが0となる点)である「共振点」の周波数である。また、共振子における反共振周波数とは、当該共振子のインピーダンスが極大となる特異点(理想的には無限大となる点)である「反共振点」の周波数である。なお、以下では、共振子単体に限らず複数の共振子もしくはインピーダンス素子とで構成される回路についても、便宜上、インピーダンスが極小となる特異点(理想的にはインピーダンスが0となる点)を「共振点」と称し、その周波数を「共振周波数」と称する。また、インピーダンスが極大となる特異点(理想的にはインピーダンスが無限大となる点)を「反共振点」と称し、その周波数を「反共振周波数」と称する。
また、本実施の形態では、並列腕共振子p1は、1つの弾性波共振子によって構成されている。しかし、並列腕共振子p1は、1つの弾性波共振子が直列分割または並列分割された複数の分割共振子によって構成されていてもかまわない。
櫛歯容量C1は、入出力端子11mと入出力端子11nとを結ぶ経路上のノード(図1Aではノードx1)とグランド(基準端子)との間に接続されており、後述する櫛歯電極によって構成される。この櫛歯容量C1は、後述する櫛歯電極によって構成されており、フィルタ10の通過帯域より高域側にインピーダンスが局所的に増加する(すなわち、容量値が局所的に低下する)自己共振点を有する。この自己共振点の周波数を「自己共振周波数」と称し、当該周波数は櫛歯電極の構造等に依存するが、このことについては後述する。
本実施の形態では、並列腕共振子p1及び櫛歯容量C1は直列接続されて、ノードx1とグランドとの間に接続されている。本実施の形態では、並列腕共振子p1は、一方の端子がノードx1に接続され、他方の端子が櫛歯容量C1の一方の端子に接続されている。櫛歯容量C1は、一方の端子が並列腕共振子p1の上記他方の端子に接続され、他方の端子がグランドに接続されている。なお、並列腕共振子p1及び櫛歯容量C1の接続順序はこれに限らず、上記接続順序と逆であってもかまわない。
スイッチSWは、本実施の形態では、櫛歯容量C1と並列接続され、当該櫛歯容量C1とともに周波数可変回路11を構成するスイッチ素子であり、RF信号処理回路(RFIC:Radio Frequency Integrated Circuit)等の制御部からの制御信号にしたがってオン(導通)及びオフ(非導通)が切り替えられる。このような周波数可変回路11は、当該周波数可変回路11が接続される第1弾性波共振子の周波数(本実施の形態では並列腕共振子p1の共振周波数)を可変させる。
例えば、スイッチSWは、小型化を図るために、GaAsもしくはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)からなるFET(Field Effect Transistor)スイッチ、または、ダイオードスイッチにより構成される。
すなわち、本実施の形態では、周波数可変回路11は、ノードx1とグランドとの間で第1弾性波共振子(本実施の形態では並列腕共振子p1)と直列接続されている。このような周波数可変回路11が設けられていることにより、フィルタ10は、スイッチSWのオン及びオフの切り替えに応じて通過帯域を切り替えることができるチューナブルフィルタを実現できる。
また、これら並列腕共振子p1及び櫛歯容量C1(本実施の形態ではさらにスイッチSW)は、入出力端子11mと入出力端子11nとを結ぶ第1経路上(直列腕上)のノードx1とグランドとを結ぶ第2経路(並列腕)に設けられた並列腕共振回路21(第1共振回路)を構成する。すなわち、当該並列腕共振回路21は、直列腕とグランドとを結ぶ1つの並列腕に設けられている。よって、フィルタ10は、直列腕共振子s1(第2共振回路)と並列腕共振回路(第1共振回路)とで構成された1段のラダー型フィルタ構造を有する。
つまり、第2経路に設けられた並列腕共振回路21(第1共振回路)は、第1経路に設けられた直列腕共振子s1(第2共振回路)とともにフィルタ10の通過帯域を形成する。
[2.フィルタ特性]
次に、本実施の形態に係るフィルタ10のフィルタ特性について、説明する。
図1Bは、実施の形態1に係るフィルタ10のフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフであり、スイッチSWがオンの場合におけるフィルタ特性が破線で表され、スイッチSWがオフの場合におけるフィルタ特性が実線で表されている。なお、このことは、以降の本実施の形態におけるフィルタ特性を表すグラフについても、同様である。
フィルタ10では、並列腕共振回路21の反共振周波数と直列腕共振回路(本実施の形態では直列腕共振子s1)の共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本実施の形態では、スイッチSWがオフの場合のみ、並列腕共振子p1に対して櫛歯容量C1が付加される。このため、並列腕共振回路21の共振周波数は、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。ここで、フィルタ10の通過帯域低域側の減衰極は、並列腕共振回路21の共振周波数によって規定される。よって、同図に示すように、フィルタ10は、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、通過帯域低域側の減衰極の周波数を高域側にシフトさせることができる。つまり、フィルタ10は、スイッチSWのオン及びオフの切り替えに応じて通過帯域を切り替えることができる。
これに関し、フィルタ10の通過帯域の周波数可変幅は、櫛歯容量C1の定数に依存し、例えば櫛歯容量C1の定数が小さいほど周波数可変幅が広くなる。このため、櫛歯容量C1の定数(容量値)は、フィルタ10に要求される周波数仕様に応じて、適宜決定され得る。
[3.構造]
次に、フィルタ10の構造について、説明する。
[3−1.全体構造]
図2は、実施の形態1に係るフィルタ10の電極構造を模式的に表す図である。具体的には、同図の(a)は平面図であり、同図の(b)は同図の(a)のA−A’線における断面図であり、同図の(c)は同図の(a)のB−B’線における断面図である。なお、図2に示された電極構造は、フィルタ10を構成する各共振子及び櫛歯容量C1の典型的な構造を説明するためのものである。このため、フィルタ10の各共振子のIDT電極及び櫛歯容量C1を構成する電極指の本数や長さなどは、同図に示す電極指の本数や長さに限定されない。また、同図には、スイッチSWについても模式的に図示しているが、スイッチSWの配置及び構造については特に限定されず、例えば、スイッチSWは各共振子及び櫛歯容量C1とは別のチップに構成されていてもかまわない。
まず、各共振子の構造について、説明する。
同図に示すように、フィルタ10を構成する各共振子は、弾性波を用いた弾性波共振子である。これにより、フィルタ10を、圧電基板上に形成されたIDT電極により構成できるので、急峻性の向上された通過特性を有する小型かつ低背のフィルタ回路を実現できる。
直列腕共振子s1及び並列腕共振子p1は、圧電性を有する基板(本実施の形態では圧電基板)と、IDT電極を備える。IDT電極は弾性波を励振する。当該IDT電極を弾性波の伝搬方向の両側から挟み込むように配置された1組の反射器を有していてもよい。ここで、IDT電極は、弾性波の伝搬方向に並んで配置された複数の電極指からなる。具体的には、直列腕共振子s1は、IDT電極111、及び、1組の反射器112によって構成されている。並列腕共振子p1は、複数の電極指121aからなるIDT電極121、及び、1組の反射器122によって構成されている。なお、圧電性を有する基板は、少なくとも表面に圧電性を有する基板である。当該基板は、例えば、表面に圧電薄膜を備え、当該圧電薄膜と音速の異なる膜、及び、支持基板などの積層体で構成されていてもよい。また、当該基板は、例えば、高音速支持基板と、高音速支持基板上に形成された圧電薄膜とを含む積層体、高音速支持基板と、高音速支持基板上に形成された低音速膜と、低音速膜上に形成された圧電薄膜とを含む積層体、または、支持基板と、支持基板上に形成された高音速膜と、高音速膜上に形成された低音速膜と、低音速膜上に形成された圧電薄膜とを含む積層体であってもよい。なお、当該基板は、基板全体に圧電性を有していてもよい。
以下、フィルタ10を構成する各共振子の構造について、並列腕共振子p1を用いて、より詳細に説明する。なお、他の共振子については並列腕共振子p1と概ね同じ構造を有するため、詳細な説明を省略する。
同図の(a)及び(b)に示すように、並列腕共振子p1のIDT電極121は、電極膜101によって構成され、当該電極膜101は圧電基板102上に形成されている。なお、電極膜101及び圧電基板102等の具体的な構造については、後述する。
IDT電極121は、複数の電極指121aと、当該複数の電極指121aを挟んで対向して配置された1組のバスバー電極とを有し、複数の電極指121aが1組のバスバー電極の一方と他方に対して交互に接続されることにより構成されている。ここで、複数の電極指121aは、弾性波の伝搬方向と直交する方向に沿って形成され、当該伝搬方向に沿って周期的に形成されている。
このように構成された並列腕共振子p1では、IDT電極121の設計パラメータ等によって、励振される弾性波の波長が規定される。以下、IDT電極121の設計パラメータについて説明する。
上記弾性波の波長は、図2に示すIDT電極121を構成する複数の電極指121aのうち1つのバスバー電極に接続された電極指121aの繰り返し周期λp1で規定される。また、電極指ピッチ(複数の電極指121aのピッチ、すなわち電極指周期)Pp1とは、当該繰り返し周期λp1の1/2であり、電極指121aのライン幅をWp1とし、隣り合う電極指121aの間のスペース幅をSp1とした場合、Pp1=(Wp1+Sp1)で定義される。また、IDT電極121の交叉幅Lp1とは、1組のバスバー電極の一方に接続された電極指121aと他方に接続された電極指121aとを弾性波の伝搬方向から見た場合の重複する電極指長さである。また、電極デューティ(デューティ比)とは、複数の電極指121aのライン幅占有率であり、複数の電極指121aのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合、つまりWp1/(Wp1+Sp1)で定義される。すなわち、電極デューティは、電極指ピッチ(複数の電極指121aのピッチ)に対する複数の電極指121aの幅の比、つまりWp1/Pp1で定義される。また、対数とは、対をなす電極指121aの数であり、電極指121aの総数の概ね半数である。例えば、対数をNp1とし、電極指121aの総数をMp1とすると、Mp1=2Np1+1を満たす。また、電極指121aの膜厚とは、電極指121aを形成する電極膜101の厚みTp1である。
次いで、櫛歯容量C1の構造について、説明する。
櫛歯容量C1は、複数の電極指131aからなる櫛歯電極131によって構成されている。
同図の(a)及び(c)に示すように、櫛歯電極131は、IDT電極121と同様に電極膜101によって構成されている。つまり、櫛歯容量C1を構成する櫛歯電極131は、並列腕共振子p1を構成するIDT電極121と同一の圧電基板102上に形成されている。なお、櫛歯電極131とIDT電極121とは、互いに異なる圧電基板上に形成されていてもかまわない。
櫛歯電極131は、複数の電極指131aと、当該複数の電極指131aを挟んで対向して配置された1組のバスバー電極とを有し、複数の電極指131aが1組のバスバー電極の一方と他方に対して交互に接続されることにより構成されている。ここで、複数の電極指131aは、弾性波の伝搬方向に沿って形成され、当該伝搬方向と直交する方向に沿って周期的に形成されている。
このように構成された櫛歯容量C1では、櫛歯電極131の設計パラメータ等によって、容量値及びQ値等の特性が規定される。以下、櫛歯電極131の設計パラメータについて説明する。
電極指ピッチ(電極指のピッチ、すなわち電極指周期)Pc1とは、電極指131aのライン幅をWc1とし、隣り合う電極指131aの間のスペース幅をSc1とした場合、Pc1=(Wc1+Sc1)で定義される。また、櫛歯電極131の交叉幅Lc1とは、1組のバスバー電極の一方に接続された電極指131aと他方に接続された電極指131aとを弾性波の伝搬方向から見た場合の重複する電極指長さである。また、電極デューティ(デューティ比)とは、複数の電極指131aのライン幅占有率であり、複数の電極指131aのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合、つまりWc1/(Wc1+Sc1)で定義される。すなわち、電極デューティは、複数の電極指131aのピッチに対する複数の電極指131aの幅の比、つまりWc1/Pc1で定義される。また、対数とは、対をなす電極指131aの数であり、電極指131aの総数の概ね半数である。例えば、対数をNc1とし、電極指131aの総数をMc1とすると、Mc1=2Nc1+1を満たす。また、電極指131aの膜厚とは、電極指131aを形成する電極膜101の厚みTc1である。
次いで、櫛歯容量C1を構成する櫛歯電極131と、当該櫛歯容量C1と接続される第1弾性波共振子のIDT電極(本実施の形態では並列腕共振子p1を構成するIDT電極121)の設計パラメータについて、比較して説明する。
櫛歯容量C1の電極指ピッチは、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)の電極指ピッチより狭い。つまり、Pc1<Pp1を満たす。ここで、櫛歯容量C1における複数の電極指131aのピッチは、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)における複数の電極指121aのピッチの80%以下(すなわちPc1≦0.8×Pp1=0.4×λp1)であることが好ましい。
また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚は、並列腕共振子p1における複数の電極指121aの膜厚より薄い。つまり、Tc1<Tp1を満たす。ここで、製造上の理由から、櫛歯容量C1において、電極指131aの膜厚Tc1は電極指ピッチPc1に対して40%以下(すなわちTc1≦0.40×Pc1)であることが好ましい。また、同様の理由から、並列腕共振子p1において、電極指121aの膜厚Tp1は電極指ピッチPp1に対して40%以下(すなわちTp1≦0.40×Pp1)であることが好ましい。また、電極指131aの膜厚Tc1の下限については特に限定されないが、例えば、電極指ピッチPc1の15%以上(すなわち0.15×Pc1≦Tc1)である。同様に、電極指121aの膜厚Tp1の下限についても特に限定されないが、例えば、電極指ピッチPp1の15%以上(すなわち0.15×Pp1≦Tp1)である。
また、櫛歯容量C1の電極デューティは、並列腕共振子p1の電極デューティより大きいことが好ましい。つまり、櫛歯容量C1及び並列腕共振子p1は、Wc1/Pc1>Wp1/Pp1を満たすことが好ましい。このような構成にすることにより、櫛歯容量C1の単位面積当たりの容量値を大きくすることができるので、小型化及び省スペース化が図られる。
なお、各素子(直列腕共振子s1、並列腕共振子p1、櫛歯容量C1等)において、電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティ等は、均一とは限らず、製造プロセス等によるばらつきによって不均一となっている、あるいは、特性等の調整のために不均一となっている場合がある。このため、櫛歯容量C1と並列腕共振子p1とは、これらを構成する櫛歯電極131及びIDT電極121の一部が上述した電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティ等の関係を満たさない場合もある。つまり、櫛歯容量C1と並列腕共振子p1との間の上述した電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティの関係は、概ね成立していればよく、例えば、櫛歯容量C1の平均値と並列腕共振子p1の平均値との間で成立していればよい。
[3−2.電極指の詳細構造]
次に、IDT電極121の電極指121a及び櫛歯電極131の電極指131aの構造について、当該電極指121a及び当該電極指131aが形成される圧電基板102、及び、保護層(後述する)の構成も含めて説明する。なお、本実施の形態では、IDT電極の電極指121aと櫛歯電極131の電極指131aとは、膜厚が異なる点を除いて共通の電極膜101によって構成されているが、これらは構造または組成等が互いに異なる電極膜によって構成されていてもかまわない。
図3Aは、本実施の形態における、IDT電極121の電極指121a及び櫛歯電極131の電極指131aを構成する電極膜101及びその周囲の構造の断面図である。
同図に示すように、本実施の形態では、電極膜101は、圧電基板102側から順に、NiCrからなる金属膜211、Ptからなる金属膜212、Tiからなる金属膜213、AlCuからなる金属膜214、及び、Tiからなる金属膜215が積層されることによって形成されている。
このとき、圧電基板102は、LiNbO3圧電単結晶からなる。
また、電極膜101は、当該電極膜101を外部環境から保護するとともに、周波数温度特性を調整する、及び、耐湿性を高めるなどを目的とする保護層によって覆われている。当該保護層は、本実施の形態では、圧電基板102側から順に、SiO2からなる保護層103、及び、SiNからなる保護層104が積層されることにより形成されている。
表1に、このときの膜厚の詳細を示す。
なお、電極膜101と圧電基板102の間には、図3Bに示すように電気機械結合係数の調整膜103aが設けられていてもかまわない。電気機械結合係数の調整膜103aは、SiO2からなる。ただし、櫛歯容量C1では、電極膜101と圧電基板102の間に電気機械結合係数の調整膜103aが設けられると、櫛歯容量C1の櫛歯電極131の下における圧電基板102の誘電率が低下し、単位面積当たりの容量値が低下する。このことは、櫛歯容量C1の大型化を招くため、小型化の観点から、櫛歯容量C1においては、電気機械結合係数の調整膜103aが設けられていないことが望ましい。
また、電極膜101の構造は、図3A及び図3Bの構造に限定されず、図3Cの構造であってもかまわない。同図に示す電極膜101は、上述した金属膜213及び金属膜214によって形成されている。
このとき、圧電基板102は、LiTaO3圧電単結晶からなる。また、上述した保護層103よりも膜厚の薄い保護層103bが設けられている。
なお、これらの構成は一例であり、IDT電極121の電極指121a及び櫛歯電極131の電極指131aを形成する電極膜101の構成は、これらに限らない。例えば、電極膜101は、金属膜の積層構造でなく、金属膜の単層であってもよい。また、各金属膜及び各保護層を構成する材料は、上述した材料に限定されない。また、電極膜101は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、積層体で構成された電極膜101における金属または合金の積層順は、特に限定されず、例えば上述した積層順と異なっていてもよい。また、圧電基板102は、例えば、KNbO3圧電単結晶、水晶、または圧電セラミックスからなってもかまわない。また、保護層及び電気機械結合係数の調整膜の構成は、上述の構成に限らず、例えば、SiO2、SiN、AlN、ポリイミド、もしくはこれらの積層体などの誘電体もしくは絶縁体で構成されてもかまわない。また、保護層103及び104は、形成されていなくてもよい。
ただし、櫛歯容量C1の電極指131aは、Au、Pt、Ta、Mo、Wなどの高密度金属を含まないことが望ましく、Al、Cu、NiCr、Tiなどの低密度金属から構成されていることが望ましい。具体的には、高密度金属はコンダクタンスが小さいため、櫛歯容量C1の電極指131aに高密度金属を用いた場合、櫛歯容量C1の等価直列抵抗が大きくなり、Q値の悪化を招く。また、この場合、櫛歯容量C1の自己共振周波数が低周波数側にシフトするため、後述するように櫛歯容量C1の電極指ピッチを狭くしても、当該自己共振周波数をフィルタ特性に影響がない範囲までシフトすることが困難となる。これらのことから、櫛歯容量C1の電極指131aは、高密度金属を含まないことが望ましい。
[4.櫛歯容量の特性]
本実施の形態に係るフィルタ10は、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)及び櫛歯容量C1の電極指ピッチ及び膜厚が上述の関係を満たすことにより、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)のQ値及び櫛歯容量C1のQ値の双方を確保するという効果を奏することができる。
これは、櫛歯容量C1の特性が設計パラメータに依存することによる。そこで、以下、上記効果が奏される理由について、典型例の櫛歯容量を用いて説明する。なお、典型例の櫛歯容量の構成は、設計パラメータの数値範囲が櫛歯容量C1の数値範囲に限定されない点を除いて、櫛歯容量C1と同様である。
[4−1.電極指ピッチとの関連]
まず、典型例の櫛歯容量について、電極指ピッチと特性との関連について説明する。なお、このとき、電極指ピッチ以外の設計パラメータは一定であり、電極デューティは0.60(すなわち、Wc1/Pc1=0.60)であり、電極指ピッチに対する膜厚の比率は0.20(すなわち、Tc1=0.20×Pc1)である。
図4Aは、典型例において、櫛歯容量の電極指ピッチPc1と容量値との関連を表すグラフである。図4Bは、典型例において、櫛歯容量の電極指ピッチPc1とQ値(容量Q)との関連を表すグラフである。具体的には、これらの図には、電極指ピッチPc1を、0.75、1.75、2.50、4.00(いずれも単位はμm)とした場合の周波数特性が表されている。
図4Aに示すように、電極指ピッチPc1を変えても容量値はほとんど変わらない。なお、ここで言う容量値とは、櫛歯容量の自己共振による影響をほぼ無視できる低域の周波数領域における容量値(静電容量値)であり、以下の式1で示される。
なお、ε0は真空中の誘電率、εrは圧電基板102の誘電率である。
一方、図4Aに示すように、櫛歯容量は、電極指ピッチPc1が狭いほど、自己共振周波数が高域側にシフトする。このとき、図4Bに示すように、櫛歯容量のQ値(容量Q)は、概ね周波数が高くなるにつれて低下するものの、自己共振周波数では局所的に低下する。このため、電極指ピッチPc1を狭くして櫛歯容量の自己共振周波数をフィルタ10の通過帯域より高域側に追いやることにより、当該通過帯域における櫛歯容量のQ値を高めることができる。
言い換えると、電極指ピッチPc1が広いほど、櫛歯容量の自己共振周波数は低域側にシフトする。このため、当該自己共振周波数が、他の弾性波共振子を介することなく当該櫛歯容量と接続される第1弾性波共振子(本実施の形態では並列腕共振子p1)の共振周波数または反共振周波数と一致する場合がある。つまり、当該第1弾性波共振子の共振周波数または反共振周波数と容量Qが局所的に低下する周波数とが一致する場合がある。この場合、当該第1弾性波共振子と櫛歯容量の合成特性で得られる共振周波数または反共振周波数では、当該櫛歯容量のQ値の低下によってQ値が低下してしまうため、要求されるQ値の確保が困難となる。このため、電極指ピッチPc1を狭くして櫛歯容量の自己共振周波数を第1弾性波共振子の共振周波数及び反共振周波数より高域側に追いやることにより、当該第1弾性波共振子と櫛歯容量の合成特性のQ値の低下を抑制して要求されるQ値を確保することができる。
例えば、実施の形態1のフィルタ10(800MHz−900MHz帯のフィルタ)の場合、櫛歯容量C1と接続される並列腕共振子p1の電極指ピッチPp1は2.2μmである。このため、実施の形態1では、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1を2.2μm未満とすることにより、櫛歯容量C1の自己共振周波数を800MHz帯から十分に高域側に追いやることができる。したがって、並列腕共振子p1のQ値及び櫛歯容量C1のQ値の双方を確保することができる。
また、当然のことながら、電極指ピッチPc1が狭いほど容量値を維持したまま櫛歯容量のサイズを小型化できるため、当該櫛歯容量を備えるフィルタ等の小型化及び省スペース化が図られる。
[4−2.電極指の膜厚との関連]
次に、典型例の櫛歯容量について、電極指の膜厚と特性との関連について説明する。なお、このとき、電極指の膜厚以外の設計パラメータは一定であり、電極デューティは0.60(すなわち、Wc1/Pc1=0.60)であり、電極指ピッチPc1は2.50μmである。
図5Aは、典型例において、櫛歯容量の電極指の膜厚Tc1と容量値との関連を表すグラフである。図5Bは、典型例において、櫛歯容量の電極指の膜厚Tc1と容量Qとの関連を表すグラフである。具体的には、これらの図には、電極指ピッチPc1に対する膜厚Tc1の比率を、0.15、0.20、0.25、0.30とした場合の周波数特性が表されている。
これらの図に示すように、電極指の膜厚Tc1を変えても容量値及び容量Qのいずれについても、目立った変化はない。よって、電極指の膜厚Tc1は、製造上の観点から適宜決定されればよい。
これに関して、電極指の膜厚Tc1は、製造上の理由から、電極指ピッチPc1によって上限が制限され、具体的には電極指ピッチPc1の40%以下で設計される必要がある。ただし、膜厚Tc1を厚くし過ぎると電極指のライン幅Wc1のばらつきが大きくなり、膜厚Tc1を薄くし過ぎると電極指の抵抗が大きくなるため、膜厚Tc1は電極指ピッチPc1の20%前後であることが好ましい。ここで、20%前後には、20%に限らず、数%程度の誤差範囲も含まれる。
[4−3.電極デューティとの関連]
次に、典型例の櫛歯容量について、電極デューティ(デューティ比)と特性との関連について説明する。なお、このとき、電極デューティ以外の設計パラメータは一定であり、電極指ピッチPc1は2.50μmであり、電極指ピッチに対する膜厚の比率は0.20(すなわち、Tc1=0.20×Pc1)である。
図6Aは、典型例において、櫛歯容量の電極指の膜厚Tc1と容量値との関連を表すグラフである。図6Bは、典型例において、櫛歯容量の電極デューティと容量Qとの関連を表すグラフである。具体的には、これらの図には、電極デューティを、0.40、0.50、0.60、0.70とした場合の周波数特性が表されている。
図6Aに示すように、電極デューティが大きいほど容量値は大きくなる。一方、図6Bに示すように、電極デューティを変えても容量Qには、目立った変化はない。
よって、櫛歯容量は、電極デューティを大きくすることにより単位面積当たりの容量値を大きくすることができるため、小型化及び省スペース化が図られる。
[5.まとめ]
以上のように、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの電極指ピッチPc1は並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)における複数の電極指121aの電極指ピッチPp1より狭い。また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚Tc1は並列腕共振子p1における複数の電極指121aの膜厚Tp1より薄い。
ここで、櫛歯容量C1は、電極指ピッチPc1が狭いほど、当該櫛歯容量C1のQ値(容量Q)が局所的に低下する自己共振周波数が高域側にシフトする。このため、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1を並列腕共振子p1の電極指ピッチPp1より狭くして櫛歯容量C1の自己共振周波数をフィルタ10の通過帯域より高域側に追いやることにより、当該通過帯域における櫛歯容量C1のQ値を高めることができる。また、櫛歯容量C1の自己共振周波数が並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)の共振周波数または反共振周波数と一致した場合、当該並列腕共振子p1は、自身に接続される櫛歯容量C1の容量Qの低下によって、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1の合成特性で得られる共振周波数または反共振周波数でのQ値が低下してしまう。このため、電極指ピッチPc1を狭くして櫛歯容量の自己共振周波数を並列腕共振子p1の共振周波数及び反共振周波数より高域側に追いやることにより、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1の合成特性のQ値の低下を抑制して要求されるQ値を確保することができる。ただし、製造上の理由から、電極指ピッチは当該電極指の膜厚によって制限される。このため、櫛歯容量C1における電極指131aの膜厚Tc1を並列腕共振子p1における電極指121aの膜厚Tp1より薄くすることによって、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1をより狭くできるので、並列腕共振子p1のQ値及び櫛歯容量C1のQ値の双方を確保しやすくなる。したがって、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、並列腕共振子p1のQ値及び櫛歯容量C1のQ値の双方を確保できることにより通過帯域内のロスを抑制し、かつ、減衰スロープの急峻性を向上することができる。
また、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、櫛歯容量C1は、他の弾性波共振子を介することなく、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)に接続される。このような並列腕共振子p1は、櫛歯容量C1との合成特性において、当該櫛歯容量C1のQ値の影響を特に受けやすい。よって、並列腕共振子p1及び櫛歯容量C1の電極指ピッチ及び膜厚を上述の関係(Pc1<Pp1かつTc1<Tp1)とすることは、通過帯域内のロスを抑制し、かつ、減衰スロープの急峻性を向上するために、特に有用である。
また、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、櫛歯容量C1の電極指131aの膜厚Tc1は、当該櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1(電極指131aのピッチ)の40%以下である。ここで、電極指131aの膜厚Tc1は、製造上の理由から、電極指ピッチPc1によって上限が制限される。このため、櫛歯容量C1の電極指131aの膜厚Tc1を適正範囲に収めることで、Q値を確保できる櫛歯容量C1を作製することができる。
また、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1は、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)の電極指ピッチPp1の80%以下である。ここで、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1が大きくなって並列腕共振子p1の電極指ピッチPp1に近づくと、次のような問題が生じ得る。すなわち、櫛歯容量C1の自己共振周波数が並列腕共振子p1の反共振周波数に近づくことにより、当該自己共振周波数における容量Qの低下によって並列腕共振子p1と櫛歯容量C1の合成特性で得られる反共振周波数のQ値が低下し得る。よって、櫛歯容量C1の電極指ピッチPc1を適正範囲に収めることで、並列腕共振子p1と櫛歯容量の合成特性で得られるQ値をより確実に確保することができる。
また、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)及び櫛歯容量C1は、入出力端子11m(第1入出力端子)と入出力端子11n(第2入出力端子)とを結ぶ第1経路、及び、当該第1経路上のノードx1とグランドとを結ぶ第2経路の一方(本実施の形態では第2経路)に設けられた並列腕共振回路21(第1共振回路)を構成する。また、当該第1経路及び当該第2経路の他方(本実施の形態では第1経路)に設けられ、並列腕共振回路21とともに通過帯域を形成する、1以上の第2弾性波共振子からなる第2共振回路(本実施の形態では1つの直列腕共振子s1からなる直列腕共振回路)を備える。
これにより、並列腕共振子p1のQ値及び櫛歯容量C1のQ値の双方が確保された並列腕共振回路21を用いてバンドパスフィルタが形成されるため、フィルタ特性に優れたバンドパスフィルタを実現できる。また、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1の合成特性では、並列腕共振子p1のみで構成する特性に対し、共振周波数と反共振周波数の差を小さくできるため、急峻な(高選択度の)減衰特性を得ることができる。
また、本実施の形態に係るフィルタ10によれば、並列腕共振回路21(第1共振回路)は、入出力端子11m(第1入出力端子)と入出力端子11n(第2入出力端子)とを結ぶ第1経路上のノードx1とグランドとを結ぶ第2経路に設けられている。また、フィルタ10は、櫛歯容量C1とともに周波数可変回路11を構成するスイッチSW(スイッチ素子)を有し、周波数可変回路11が並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)と直列接続されている。
これにより、スイッチSWのオン及びオフに応じて通過帯域の低域側及び高域側の少なくとも一方の減衰極の周波数をシフトすることができるため、通過帯域を切り替えるチューナブルフィルタを実現できる。具体的には、本実施の形態では、並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)は、通過帯域より低域側に共振周波数を有し、通過帯域内に反共振周波数を有する。このため、スイッチSWのオン及びオフに応じて通過帯域の低域側の減衰極の周波数をシフトすることができる。
なお、本実施の形態に係るフィルタ10の構成は、他のチューナブルフィルタの構成に適用することができる。そこで、以下、本実施の形態の変形例として、他のチューナブルフィルタの構成及びフィルタ特性について説明する。
(実施の形態1の変形例1)
上記実施の形態1では、周波数可変回路11としてスイッチSWと櫛歯容量C1との並列回路を例に説明した。しかし、周波数可変回路は、このような構成に限らない。
図7Aは、実施の形態1の変形例1に係るフィルタ10Aの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Aは、図1Aに示すフィルタ10に比べて、さらに、スイッチSWに直列接続されたインダクタLを有する。つまり、本変形例では、スイッチSWとインダクタLとが直列接続された回路が櫛歯容量C1に並列接続されることにより、周波数可変回路11Aが構成されている。また、当該周波数可変回路11Aが並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)に接続されることにより、並列腕共振回路21A(第1共振回路)が構成されている。
なお、スイッチSWとインダクタLとの接続順序は特に限定されず、図7Aの接続順序と逆であってもかまわない。
図7Bは、実施の形態1の変形例1に係るフィルタ10Aのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
フィルタ10Aでは、並列腕共振回路21Aの反共振周波数と直列腕共振回路(本変形例では直列腕共振子s1)の共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本変形例では、並列腕共振子p1に対して、スイッチSWがオンの場合にはインダクタLが付加され、スイッチSWがオフの場合には櫛歯容量C1が付加される。このため、並列腕共振回路21Aの共振周波数は、スイッチSWがオンの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも低域側にシフトし、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。よって、同図に示すように、本変形例に係るフィルタ10Aは、実施の形態1に係るフィルタ10に比べて、通過帯域の周波数可変幅を広げることができる。
これに関し、フィルタ10Aの通過帯域の周波数可変幅は、櫛歯容量C1及びインダクタLの定数に依存し、例えばインダクタの定数が大きいほど周波数可変幅が広くなる。このため、インダクタLの定数は、フィルタ10Aに要求される周波数仕様に応じて、適宜決定され得る。また、インダクタは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いた可変インダクタであってもかまわない。これにより、周波数可変幅を細かく調整することが可能となる。
なお、このような櫛歯容量C1とインダクタLとは逆に設けられていてもかまわない。すなわち、スイッチSWと櫛歯容量C1とが直列接続された回路がインダクタLに並列接続されていてもかまわない。このような構成によれば、変形例1に係るフィルタ10Aに比べて、スイッチSWのオン及びオフを切り替えたときの減衰極のシフト方向が反対となる。
(実施の形態1の変形例2)
上記実施の形態1及びその変形例1では、ノードx1とグランドとの間には、1つの並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)が設けられていた。しかし、ノードx1とグランドとの間には、並列腕共振子p1と異なる並列腕共振子(第3弾性波共振子)が設けられていてもかまわない。
図8Aは、実施の形態1の変形例2に係るフィルタ10Bの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Bは、図1Aに示すフィルタ10が備える並列腕共振回路21(第1共振回路)に代わり、並列腕共振回路21B(第1共振回路)を備える。この並列腕共振回路21Bは、並列腕共振回路21に比べて、さらに、ノードx1とグランドとの間で並列腕共振子p1(第1弾性波共振子)と並列接続され、当該並列腕共振子p1とは共振周波数及び反共振周波数が異なる並列腕共振子p2(第3弾性波共振子)を有する。つまり、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とは、入出力端子11mと入出力端子11nとを結ぶ直列腕上の1つのノードx1に接続されている。言い換えると、並列腕共振子p2は、並列腕共振子p1と周波数可変回路11とが直列接続された回路に並列接続されている。これにより、フィルタ10Bは、通過帯域低域側の減衰極及び通過帯域高域側の減衰極の少なくとも一方の周波数をシフトすることができる。ここで、「1つのノード」とは、伝送線路上の1点だけでなく、共振子またはインピーダンス素子を介さずに1つの伝送線路上に位置する異なる2点も含まれる。
具体的には、並列腕共振子p2は、並列腕共振子p1よりも共振周波数及び反共振周波数が高く、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p1のみに直列接続されている。つまり、並列腕共振子p2は、並列腕共振子p1と周波数可変回路11とが直列接続された回路に対して並列接続されている。
このように構成された並列腕共振回路21Bは、並列腕共振子p1及びp2それぞれの共振周波数において、インピーダンスが極小となる。つまり、並列腕共振回路21Bは、2つの共振周波数を有する。また、並列腕共振回路21Bは、当該2つの共振周波数の間の周波数帯域、及び、当該2つの共振周波数よりも高域側の周波数帯域において、インピーダンスが極大となる。つまり、並列腕共振回路21Bは、2つの反共振周波数を有する。
図8Bは、実施の形態1の変形例2に係るフィルタ10Bのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
フィルタ10Bでは、並列腕共振回路21Bの2つの反共振周波数のうち低域側の反共振周波数と直列腕共振回路(本変形例では直列腕共振子s1)の共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本変形例では、並列腕共振子p1に対して、スイッチSWがオフの場合のみ、櫛歯容量C1が付加される。このため、並列腕共振回路21Bの2つの共振周波数のうち低域側の共振周波数は、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。また、並列腕共振回路21Bの低域側の反共振周波数は、スイッチSWがオフの場合にはスイッチSWがオンの場合よりも高域側にシフトすることになる。ここで、フィルタ10Bの通過帯域低域側の減衰極は、並列腕共振回路21Bの低域側の反共振周波数によって規定される。また、当該通過帯域低域側の減衰スロープの急峻性は、並列腕共振回路21Bの低域側の共振周波数と低域側の反共振周波数との差分周波数によって規定される。よって、同図に示すように、フィルタ10Bは、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、通過帯域低域側の減衰極の周波数を高域側にシフトさせつつ、通過帯域低域端における挿入損失の増大を抑制しながら通過帯域を高域側にシフトさせることができる。
(実施の形態1の変形例3)
上記実施の形態1の変形例2では、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p1のみに直列接続されていた。しかし、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p2のみに直列接続されていてもかまわない。
つまり、上記実施の形態1ならびに変形例1及び2では、他の弾性波共振子を介することなく櫛歯容量C1と接続される第1弾性波共振子として、フィルタの通過帯域より低域側に共振周波数を有する並列腕共振子p1を例に説明した。これに対し、本変形例では、第1弾性波共振子として、フィルタの通過帯域より高域側に共振周波数を有する並列腕共振子p2を例に説明する。
すなわち、本変形例では、櫛歯容量C1の電極指ピッチは、並列腕共振子p2(第1弾性波共振子)の電極指ピッチより狭い。また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚は、並列腕共振子p2における複数の電極指の膜厚より薄い。
図9Aは、実施の形態1の変形例3に係るフィルタ10Cの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Cは、図8Aに示すフィルタ10Bの並列腕共振回路21B(第1共振回路)に代わり、周波数可変回路11が並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p2のみに直列接続されている並列腕共振回路21C(第1共振回路)を備える。
つまり、本変形例では、並列腕共振子p2(第1弾性波共振子)よりも共振周波数及び反共振周波数が低い並列腕共振子p1が、並列腕共振子p2と並列接続され、当該並列腕共振子p2とは共振周波数及び反共振周波数が異なる第3弾性波共振子に相当する。
図9Bは、実施の形態1の変形例3に係るフィルタ10Cのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
フィルタ10Cでは、フィルタ10Bと同様に、並列腕共振回路21Cの2つの反共振周波数のうち低域側の反共振周波数と直列腕共振回路(本変形例では直列腕共振子s1)の共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本変形例では、並列腕共振子p2に対して、スイッチSWがオフの場合のみ、櫛歯容量C1が付加される。このため、並列腕共振回路21Cの2つの共振周波数のうち高域側の共振周波数は、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p2単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。また、並列腕共振回路21Cの低域側の反共振周波数は、スイッチSWがオフの場合にはスイッチSWがオンの場合よりも高域側にシフトすることになる。ここで、フィルタ10Cの通過帯域高域側の減衰極は、並列腕共振回路21Cの高域側の反共振周波数によって規定される。また、当該通過帯域高域側の減衰スロープの急峻性は、並列腕共振回路21Cの高域側の共振周波数と低域側の反共振周波数との差分周波数によって規定される。よって、同図に示すように、フィルタ10Cは、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、通過帯域高域側の減衰極の周波数を高域側にシフトさせつつ、通過帯域低域端における挿入損失の増大を抑制しながら通過帯域を高域側にシフトさせることができる。
(実施の形態1の変形例4)
上記実施の形態1の変形例2では、フィルタ10Bは、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p1のみに直列接続された周波数可変回路11を備えた。また、上記実施の形態1の変形例3では、フィルタ10Cは、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p2のみに直列接続された周波数可変回路11を備えた。しかし、フィルタは、このような周波数可変回路11の双方を備えてもかまわない。
図10Aは、実施の形態1の変形例4に係るフィルタ10Dの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Dは、図8Aに示すフィルタ10Bが備える周波数可変回路11に相当する周波数可変回路11a、及び、図9Aに示すフィルタ10Cが備える周波数可変回路11に相当する周波数可変回路11b、の双方を備える。つまり、本変形例における並列腕共振回路21D(第1共振回路)は、並列腕共振子p1及びp2(第1弾性波共振子及び第3弾性波共振子)のうち一方のみに直列接続された周波数可変回路11aと、並列腕共振子p1及びp2(第1弾性波共振子及び第3弾性波共振子)のうち他方のみに直列接続された周波数可変回路11bと、を備える。言い換えると、本変形例における並列腕共振回路21Dは、上記の変形例2における並列腕共振回路21Bに相当する構成に加えて、さらに、並列腕共振子p2に直列接続された他の周波数可変回路11bを有する。ここで、並列腕共振子p2と周波数可変回路11bとが直列接続された回路は、並列腕共振子p1と周波数可変回路11aとが直列接続された回路に並列接続されている。
図10Bは、実施の形態1の変形例4に係るフィルタ10Dのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSW1及びSW2が共にオンの場合及び共にオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
本変形例では、並列腕共振子p1に対して、スイッチSW1がオフの場合のみ、櫛歯容量C1が付加される。また、並列腕共振子p2に対して、スイッチSW2がオフの場合のみ、櫛歯容量C2が付加される。このため、並列腕共振回路21Dの2つの共振周波数のうち低域側の共振周波数は、スイッチSW1がオフの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。また、並列腕共振回路21Dの2つの共振周波数のうち高域側の共振周波数は、スイッチSW2がオフの場合に並列腕共振子p2単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。また、並列腕共振回路21Dの低域側の反共振周波数は、スイッチSW1及びSW2の少なくとも一方がオフの場合にスイッチSW1及びSW2が共にオンの場合よりも高域側にシフトすることになる。
よって、同図に示すように、フィルタ10Dは、スイッチSW1及びSW2が共にオンからオフに切り替わることにより、通過帯域高域側及び通過帯域低域側の減衰極の周波数を高域側にシフトさせつつ、通過帯域高域側及び通過帯域低域端における挿入損失の増大を抑制しながら通過帯域を高域側にシフトさせることができる。このため、フィルタ10Dは、例えば、帯域幅を維持しつつ、中心周波数をシフトすることができる。
なお、フィルタ特性の観点からは、周波数可変回路11a及び11bが櫛歯容量C1及びC2を有することが好ましい。ただし、フィルタ10Dに要求されるフィルタ特性及びサイズ等を勘案して、周波数可変回路11a及び11bの一方は、櫛歯容量に代わり、例えば圧電基板102上に積層されて構成された容量、あるいは、バリギャップ及びDTC(Digital Tunable Capacitor)等の可変キャパシタを有してもかまわない。
また、フィルタ10Dにおいて、スイッチSW1及びSW2のオン及びオフは、共に切り替えられなくてもよく、個別に切り替えられてもかまわない。ただし、スイッチSW1及びSW2のオン及びオフが共に切り替えられる場合、スイッチSW1及びSW2を制御する制御線の本数を削減できるため、フィルタ10Dの構成の簡素化が図られる。
一方、スイッチSW1及びSW2のオン及びオフが個別に切り替えられる場合、フィルタ10Dによって切り替え可能な通過帯域のバリエーションを増やすことができる。
具体的には、並列腕共振子p2に直列接続されたスイッチSW2のオン及びオフに応じて、通過帯域の高域端を可変することができる。また、並列腕共振子p1に直列接続されたスイッチSW1のオン及びオフに応じて、通過帯域の低域端を可変することができる。
したがって、スイッチSW1及びSW2を共にオンまたは共にオフすることにより、通過帯域の低域端の周波数及び高域端の周波数を共に低域側または高域側にシフトすることができる。すなわち、通過帯域の中心周波数を低域側または高域側にシフトすることができる。また、スイッチSW1及びSW2の一方をオンからオフにするとともに他方をオフからオンにすることにより、通過帯域の低域端の周波数及び高域端の周波数の双方をこれらの周波数差が広がるまたは狭まるようにシフトすることができる。すなわち、通過帯域の中心周波数を略一定にしつつ、通過帯域幅を可変することができる。また、スイッチSW1及びSW2の一方をオンまたはオフとした状態で他方をオン及びオフすることにより、通過帯域の低域端の周波数及び高域端の周波数の一方を固定した状態で他方を低域側または高域側にシフトすることができる。すなわち、通過帯域の低域端または高域端を可変することができる。
このように、フィルタ10Dは、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p1のみに直列接続された周波数可変回路11aと、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p2のみに直列接続された周波数可変回路11bと、を備えることにより、通過帯域を可変する自由度を高めることができる。
(実施の形態1の変形例5)
上記実施の形態1の変形例2では、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p1のみに直列接続された。また、上記実施の形態1の変形例3では、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1及び並列腕共振子p2のうち並列腕共振子p2のみに直列接続された。しかし、周波数可変回路11は、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列接続された回路に対して直列接続されてもかまわない。
図11Aは、実施の形態1の変形例5に係るフィルタ10Eの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Eは、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列接続された回路に対して直列接続されている周波数可変回路11を有する並列腕共振回路21E(第1共振回路)を備える。
本変形例では、櫛歯容量C1の電極指ピッチは、並列腕共振子p1の電極指ピッチより狭く、かつ、並列腕共振子p2の電極指ピッチより狭い。また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚は、並列腕共振子p1における複数の電極指121aの膜厚より薄く、かつ、並列腕共振子p2における複数の電極指の膜厚より薄い。これにより、並列腕共振子p1及びp2のいずれについても、Q値を確保することができる。
なお、櫛歯容量C1の電極指ピッチは、並列腕共振子p1及びp2の一方の並列腕共振子の電極指ピッチより小さく、他方の並列腕共振子の電極指ピッチより大きくてもかまわない。また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚は、当該一方の並列腕共振子における複数の膜厚より薄く、他方の並列腕共振子における複数の電極指の膜厚より厚くてもかまわない。
図11Bは、実施の形態1の変形例5に係るフィルタ10Eのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
フィルタ10Eでは、フィルタ10Bと同様に、並列腕共振回路21Eの2つの反共振周波数のうち低域側の反共振周波数と直列腕共振回路(本変形例では直列腕共振子s1)の共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本変形例では、並列腕共振子p1及びp2の双方に対して、スイッチSWがオフの場合のみ、櫛歯容量C1が付加される。このため、並列腕共振回路21Eの2つの共振周波数のうち低域側の共振周波数は、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p1単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。また、並列腕共振回路21Eの2つの共振周波数のうち高域側の共振周波数は、スイッチSWがオフの場合に並列腕共振子p2単体の共振周波数よりも高域側にシフトすることになる。ただし、並列腕共振回路21Eの低域側の反共振周波数は、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列接続された回路に対して周波数可変回路11が直列接続されていることにより、スイッチSWがオフの場合にはシフトしない。よって、同図に示すように、フィルタ10Eは、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、通過帯域両側の減衰極の周波数を共に高域側にシフトさせることができる。
(実施の形態1の変形例6)
ここまで、周波数可変回路が並列腕共振回路に設けられているフィルタ(チューナブルフィルタ)の構成について説明した。つまり、ここまで、他の弾性波共振子を介することなく櫛歯容量C1と接続される第1弾性波共振子として、並列腕共振子を例に説明した。また、第1弾性波共振子及び櫛歯容量C1で構成される第1共振回路として並列腕共振回路を例に説明した。また、当該第1共振回路とともに通過帯域を形成する、1以上の第2弾性波共振子からなる第2共振回路として、直列腕共振回路を例に説明した。
しかし、周波数可変回路は直列腕共振回路に設けられていてもかまわない。そこで、本変形例では、第1弾性波共振子として直列腕共振子s1を例に説明し、第1共振回路として直列腕共振回路を例に説明し、第2共振回路として並列腕共振回路(本変形例では並列腕共振子p1)を例に説明する。
すなわち、本変形例では、櫛歯容量C1の電極指ピッチは、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)の電極指ピッチより狭い。また、櫛歯容量C1における複数の電極指131aの膜厚は、直列腕共振子s1における複数の電極指の膜厚より薄い。
図12Aは、実施の形態1の変形例6に係るフィルタ10Fの回路構成図である。
同図に示すフィルタ10Fでは、スイッチSWは、櫛歯容量C1と直列接続され、当該櫛歯容量C1とともに周波数可変回路11Fを構成する。また、この周波数可変回路11Fは、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)に対して並列接続されている。つまり、フィルタ10Fは、図1Aに示したフィルタ10に比べ、櫛歯容量C1とスイッチSWとが直列接続されることで構成された周波数可変回路11Fが、直列腕共振子s1に対して並列接続されている。
図12Bは、実施の形態1の変形例6に係るフィルタ10Fのフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSWがオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。
フィルタ10Fでは、フィルタ10と同様に、並列腕共振回路(本変形例では並列腕共振子p1)の反共振周波数と直列腕共振回路21Fの共振周波数とを近接させて、通過帯域を形成する。
このとき、本変形例では、直列腕共振子s1に対して、スイッチSWがオンの場合のみ、櫛歯容量C1が付加される。このため、直列腕共振回路21Fの反共振周波数は、スイッチSWがオンの場合に直列腕共振子s1の反共振周波数よりも低域側にシフトすることになる。よって、同図に示すように、フィルタ10Fは、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、通過帯域高域側の減衰極の周波数を高域側にシフトさせることができる。
(実施の形態1及びその変形例に関する共振解析)
ここで、上述のような共振周波数及び反共振周波数が得られる原理について、共振子の等価回路モデルを用いたインピーダンス特性(共振特性)の解析(共振解析)により説明しておく。
まず、共振子単体の共振特性について説明する。
図13Aは、1つの共振子の等価回路モデル及びその共振特性を表す図である。同図に示すように、共振子は、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路と、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路に対してキャパシタC0が並列に接続した回路で表すことができる。
上記等価回路において、共振子の共振周波数frは、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路で規定され、上記等価回路のインピーダンスが0となる周波数であることから、式2を解くことにより、式3で示される。
また、共振子の反共振周波数faは、上記等価回路のアドミッタンスYが0となる周波数であることから、式4を解くことにより、式5で示される。
上記式3及び式5より、図13Aの右側グラフに示すように、反共振周波数faは、共振周波数frよりも高周波数側(高域側)に出現する。
つまり、共振子は、1つの共振周波数と、当該共振周波数よりも高周波数側に位置する1つの反共振周波数と、を持つ。
[共振子にインピーダンス素子を直列接続]
次に、共振子にインピーダンス素子が直列接続された場合の共振特性について、等価回路モデルを用いて説明しておく。
図13Bは、共振子にインピーダンス素子X1が直列接続された場合の等価回路モデル及びその共振特性を表す図である。同図に示すように、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路と、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路に対してキャパシタC0を並列に接続した回路で表される共振子に対して、インピーダンス素子X1とスイッチSWとの並列回路が接続されている。
まず、スイッチSWがオンの場合について、上記等価回路の共振特性を説明する。スイッチSWがオンの場合、インピーダンス素子X1は短絡となるため、共振周波数fr_on及び反共振周波数fa_onは、それぞれ、図13Aにおける共振周波数fr及び反共振周波数faと同じとなり、式6及び式7で表される。
次に、スイッチSWがオフの場合については、(1)インピーダンス素子X1がキャパシタCtである場合、及び、(2)インピーダンス素子X1がインダクタLtである場合、に分けて説明する。
(1)インピーダンス素子X1がキャパシタCtである場合
スイッチSWがオフの場合の共振周波数fr_off1は、上記等価回路のインピーダンスZが0となる周波数であることから、式8を解くことにより、式9で示される。
一方、スイッチSWがオフの場合の反共振周波数fa_off1は、スイッチSWがオンの場合の反共振周波数fa_onと同じであり、式10で表される。
式6、式7、式9、及び式10より、インピーダンス素子X1がキャパシタCtである場合、図13Bの右側グラフに示すように、スイッチSWのオン及びオフの切り替えによらず、反共振周波数fa_on及びfa_off1は一致している。一方、共振周波数については、スイッチSWがオンの場合(fr_on)に比べて、スイッチSWがオフの場合(fr_off1)には、高周波数側へシフトすることが解る。
(2)インピーダンス素子X1がインダクタLtである場合
スイッチSWがオフの場合の共振周波数fr_off2は、上記等価回路のインピーダンスZが0となる周波数であることから、式11を解くことにより、式12で示される。
式12において、fr_off2LはスイッチSWがオフの場合の低周波数側(低域側)の共振周波数であり、fr_off2HはスイッチSWがオフの場合の高周波数側の共振周波数である。
一方、スイッチSWがオフの場合の反共振周波数fa_off2は、スイッチSWがオンの場合の反共振周波数fa_onと同じであり、式13で表される。
式6、式7、式12、及び式13より、インピーダンス素子X1がインダクタLtである場合、図13Bの右側グラフに示すように、スイッチSWのオン及びオフの切り替えによらず、反共振周波数fa_on及びfa_off2は一致している。一方、共振周波数については、スイッチSWがオンの場合(fr_on)に比べて、スイッチSWがオフの場合(fr_off2L)には、低周波数側へシフトするとともに、共振周波数fr_off2Hが追加されることが解る。
[共振子にインピーダンス素子を並列接続]
次に、共振子にインピーダンス素子が並列接続された場合の共振特性について、説明しておく。なお、ここでは、インピーダンス素子がキャパシタCtである場合について説明し、インピーダンス素子がインダクタである場合については、説明を省略する。また、この場合の等価回路モデルは、図13Aに示した共振子の等価回路モデルに対してキャパシタCtを並列接続するに過ぎないため、簡略化して説明する。
インピーダンス素子X1がキャパシタCtである場合には、図13Aに示した等価回路モデルにおいてキャパシタC0にキャパシタCtが並列接続される構成となる。したがってこの場合の共振周波数は、共振子単体の共振周波数と一致することが解る。また、式7から、この場合の反共振周波数は、共振子単体の反共振周波数に比べ、低周波数側へシフトすることが解る。
[2つの共振子が並列接続]
次に、2つの共振子が並列接続された場合の特性について、等価回路モデルを用いて説明しておく。
図13Cは、並列接続された2つの共振子の等価回路モデル及びその共振特性を表す図である。同図には、共振子res1及びres2が並列に接続されたモデルが示されている。共振子res1は、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路と、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路に対してキャパシタC01を並列に接続した回路で表わされ、共振子res2は、キャパシタC2とインダクタL2とを直列に接続した回路と、キャパシタC2とインダクタL2とを直列に接続した回路に対してキャパシタC02を並列に接続した回路で表すことができる。ここで、キャパシタC01及びC02は、それぞれ、共振子res1及びres2の静電容量である。これらの共振子res1と共振子res2とを並列に接続した回路は、図13C左下に示された等価回路で表される。つまり、上記共振子res1とres2とを並列に接続した回路は、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路と、キャパシタC2とインダクタL2とを直列に接続した回路と、キャパシタC0(=C01+C02)とを並列に接続した回路で表わされる。
上記等価回路において、共振子の共振周波数frは、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路で規定され、式3で示される。
上記等価回路において、2つの共振周波数が規定され、共振周波数fr1、fr2は、それぞれ、キャパシタC1とインダクタL1とを直列に接続した回路、及び、キャパシタC2とインダクタL2とを直列に接続した回路で規定され、式14で示される。
つまり、上記等価回路で表される2つの共振周波数fr1、fr2は、それぞれ、共振子res1の共振周波数fr_res1及び共振子res2の共振周波数fr_res2と等しい。
また、上記等価回路の反共振周波数は、上記等価回路のアドミッタンスYが0となる周波数であることから、式15を解くことにより、式16のように2つの反共振周波数(fa1、fa2)を有することが解る。
上記式15により得られる反共振周波数fa1、fa2は、式4により得られる共振子単体の反共振周波数(図13Cのグラフではfa_res1、fa_res2として表示)と異なることが解る。具体的には、式15から導出される反共振周波数fa1は、共振子res1単体の反共振周波数fa_res1よりも低く、反共振周波数fa2は、共振子res2単体の反共振周波数fa_res2よりも低くなる。
さらに、共振子res1及びres2にキャパシタが直列接続されたモデルについて解析する。
まず、共振子res2にキャパシタCxが直列接続された構成、つまり、共振子res1と共振子res2及びキャパシタCxの直列回路とが並列接続された回路(回路A)を想定する。
(i)共振子res1の共振周波数frres1<共振子res2の共振周波数frres2の場合、回路Aの2つの共振周波数FrL(低周波数側)及びFrH(高周波数側)は、回路Aのインピーダンスが0となる周波数であることから、式17及び式18を解くことにより、式19及び式20で示される。
(ii)共振周波数frres1>共振周波数frres2の場合、回路Aの2つの共振周波数FrL(低周波数側)及びFrH(高周波数側)は、回路Aのインピーダンスが0となる周波数であることから、式21及び式22を解くことにより、式23及び式24で示される。
(iii)また、回路Aの2つの反共振周波数FaL(低周波数側)及びFaH(高周波数側)は、回路AのアドミッタンスYaが0となる周波数であることから、式25を解くことにより、式26で示される。
次に、共振子res2にキャパシタCxが直列接続され、共振子res1にキャパシタCyが直列接続された構成、つまり、共振子res1及びキャパシタCyの直列回路と、共振子res2及びキャパシタCxの直列回路とが並列接続された回路(回路B)を想定する。
(iv)共振周波数frres1<共振周波数frres2の場合、回路Bの2つの共振周波数FrL(低周波数側)及びFrH(高周波数側)は、回路Bのインピーダンスが0となる周波数であることから、式27及び式28を解くことにより、式29及び式30で示される。
(v)共振周波数frres1>共振周波数frres2の場合、回路Bの2つの共振周波数FrL(低周波数側)及びFrH(高周波数側)は、回路Bのインピーダンスが0となる周波数であることから、式31及び式32を解くことにより、式33及び式34で示される。
(vi)また、回路Bの2つの反共振周波数FaL(低周波数側)及びFaH(高周波数側)は、回路BのアドミッタンスYaが0となる周波数であることから、式35を解くことにより、式36で示される。
このような共振解析に基づき、実施の形態1及びその変形例に係る高周波フィルタにおいて、スイッチSWのオン及びオフの切り替えに応じて直列腕共振回路または並列腕共振回路の共振周波数または反共振周波数がシフトすることが説明される。
すなわち、例えば、実施の形態1において、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、並列腕共振回路21は、並列腕共振子p1のみで構成される回路から、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1とが直列に接続された回路に切り替わる。このため、このとき、並列腕共振回路21の共振周波数は、上記の式3で表される周波数から上記の式9で表される周波数へとシフトする。よって、このとき、通過帯域低域側の減衰極が高域側にシフトする。
また、例えば、実施の形態1の変形例1において、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、並列腕共振回路21Aは、並列腕共振子p1に対して櫛歯容量C1とインダクタLとが並列に接続された回路から、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1とが直列に接続された回路に切り替わる。このため、このとき、並列腕共振回路21Aの共振周波数は、後述する式38で表される周波数から上記の式9で表される周波数へとシフトする。よって、このとき、通過帯域低域側の減衰極の周波数が高域側に大きくシフトする。
ここで、スイッチSWがオンの場合の並列腕共振回路21Aの共振特性について、等価回路モデルを用いて説明する。
共振子に対してキャパシタCtとインダクタLtとが並列に接続された回路が直列に接続された場合の等価回路モデルは、図13Aに示した共振子の等価回路モデルに対してキャパシタCtとインダクタLtとが並列に接続された回路となる。
この等価回路の共振周波数frmL(低周波数側)及びfrmH(高周波数側)は、当該等価回路のインピーダンスZrmが0となる周波数であることから、式37を解くことにより、式38で示される。
また、この等価回路の低周波数側の反共振周波数famLは、当該等価回路の低周波数側のアドミッタンスYamLが0となる周波数であることから、式39を解くことにより、式40で示される。また、この等価回路の高周波数側の反共振周波数famHは、当該等価回路の高周波数側のアドミッタンスYamHが0となる周波数であることから、式41を解くことにより、式42で示される。
また、例えば、実施の形態1の変形例2及び変形例3において、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、並列腕共振回路は、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列に接続された回路から、一方の並列腕共振子(例えば、実施の形態1の変形例2では並列腕共振子p1)と櫛歯容量C1とが直列接続された回路に他方の並列腕共振子(例えば、実施の形態1の変形例2では並列腕共振子p2)が並列に接続された回路に切り替わる。このため、このとき、並列腕共振回路の共振周波数及び反共振周波数は、上記の式14及び式16で表される周波数から上記の式23、式24及び式26で表される周波数へとシフトする。よって、このとき、減衰極の周波数及び通過帯域が高域側にシフトする。
また、例えば、実施の形態1の変形例4において、スイッチSW1及びSW2が共にオンからオフに切り替わることにより、並列腕共振回路21Dは、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列に接続された回路から、並列腕共振子p1と櫛歯容量C1とが直列接続された回路に並列腕共振子p2と櫛歯容量C2とが直列接続された回路が並列に接続された回路に切り替わる。このため、このとき、並列腕共振回路21Dの共振周波数及び反共振周波数は、上記の式14及び式16で表される周波数から上記の式29、式30(あるいは式33、式34)及び式36で表される周波数へとシフトする。よって、このとき、通過帯域両側の減衰極の周波数及び通過帯域が高域側にシフトする。
また、例えば、実施の形態1の変形例5において、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、並列腕共振回路21Eは、並列腕共振子p1と並列腕共振子p2とが並列に接続された回路から、当該回路に対して1つのキャパシタが直列に接続されたに切り替わる。このため、このとき、並列腕共振回路21Eの共振周波数は、上記の式14で表される周波数からシフトするので、通過帯域両側の減衰極の周波数が共に高域側にシフトする。
これに関し、スイッチSWがオフの場合の並列腕共振回路21Eの共振周波数及び反共振周波数について、共振解析による導出は示していないが、スイッチSWがオフの場合の並列腕共振回路21Eの等価回路モデルを用いて導出することができる。具体的には、当該共振周波数及び当該反共振周波数は、2つの共振子を並列に接続した回路に対して1つのキャパシタが直列に接続された等価回路モデルを用いて説明され、当該等価回路モデル(等価回路)のインピーダンスが0となる各周波数が共振周波数となり、アドミッタンスが0となる各周波数が反共振周波数となる。
また、例えば、実施の形態1の変形例6において、スイッチSWがオンからオフに切り替わることにより、直列腕共振回路21Fは、直列腕共振子s1のみで構成される回路から、直列腕共振子s1と櫛歯容量C1とが並列に接続された回路に切り替わる。このため、このとき、直列腕共振回路21Fの反共振周波数は、上記の式5で表される周波数から、上記式7においてC0を櫛歯容量C1との合成容量に置換することで表される周波数へとシフトする。よって、このとき、通過帯域高域側の減衰極の周波数が高域側にシフトする。
(実施の形態2)
以上説明した櫛歯容量を有するフィルタの構成は、1段のラダー型フィルタ構造に限らず、複数段のラダー型フィルタ構造に適用することもできる。そこで、本実施の形態では、このような複数段のラダー型フィルタ構造を有するフィルタについて、チューナブルフィルタを例に説明する。
図14Aは、実施の形態2に係るフィルタ20の回路構成図である。
同図に示すフィルタ20は、例えば、アンテナ素子2(図27参照)からANT端子(第1入出力端子)に入力された高周波信号を、所定の通過帯域で選択的に通過させて、ローノイズアンプ(図27参照)に接続されるLNA端子(第2入出力端子)から出力する。このとき、フィルタ20は、所定の通過帯域を、RFIC3(図27参照)等の制御部から制御端子CTL1〜CTL5に入力される制御信号に応じて切り替える。
具体的には、フィルタ20は、直列腕共振子s22〜s25と、並列腕共振子p21a〜p25aと、並列腕共振子p22b〜p24bと、を備えるラダー型フィルタ構造からなる弾性波フィルタ装置である。また、フィルタ20は、さらに、並列腕共振子p22a〜p24aにそれぞれ個別に直列接続された櫛歯容量C22a〜C24aと、並列腕共振子p22b〜p24bにそれぞれ個別に直列接続された櫛歯容量C22b〜C24bと、を備える。また、フィルタ20は、さらに、櫛歯容量C22a〜C24aとそれぞれ個別に並列接続され、当該櫛歯容量C22a〜C24aとともに周波数可変回路を構成するスイッチSW1〜SW3と、櫛歯容量C22b〜C24bとそれぞれ個別に並列接続され、当該櫛歯容量C22b〜C24bとともに周波数可変回路を構成するスイッチSW4〜SW6と、を備える。また、フィルタ20は、さらに、LNA端子とグランドとを接続する、インダクタL25とスイッチSW7とが直列接続された回路を備える。
ここで、スイッチSW1は、制御端子CTL1に入力される制御信号によってオン及びオフが切り替えられる。また、スイッチSW2及びSW3は、制御端子CTL2に入力される制御信号によってオン及びオフが切り替えられる。また、スイッチSW4は、制御端子CTL3に入力される制御信号によってオン及びオフが切り替えられる。また、スイッチSW5及びSW6は、制御端子CTL4に入力される制御信号によってオン及びオフが切り替えられる。また、スイッチSW7は、制御端子CTL5に入力される制御信号によってオン及びオフが切り替えられる。
表2に、本実施の形態に係るフィルタ20を構成する各共振子の設計パラメータ(弾性波の波長、電極指ピッチ、対数、交叉幅)の詳細を示す。なお、共振子における電極指の構造及び膜厚については、図3Aを用いて実施の形態1で説明したとおりである(表1参照)。また、共振子における電極指ピッチに対する膜厚の比率は13.2%以上15.2%以下である。また、共振子の電極デューティは、0.50である。
表3に、本実施の形態に係るフィルタ20を構成する櫛歯容量の設計パラメータ(電極指ピッチ、対数、交叉幅)の詳細を示す。なお、当該櫛歯容量における電極指の構造及び膜厚については、図3Aを用いて実施の形態1で説明したとおりである(表1参照)。また、当該櫛歯容量における電極指ピッチに対する膜厚の比率は16.9%である。また、当該櫛歯容量の電極デューティは、0.55である。
表2及び表3に示すように、櫛歯容量C22a〜C24a及びC22b〜C24bそれぞれに電極指ピッチは、当該櫛歯容量C22a〜C24a及びC22b〜C24bと他の弾性波共振子を介することなく接続される並列腕共振子p22a〜p24a及びp22b〜p24b(第1弾性波共振子)の電極指ピッチより狭い。また、櫛歯容量C22a〜C24a及びC22b〜C24bそれぞれにおける電極指の膜厚は、並列腕共振子p22a〜p24a及びp22b〜p24bにおける電極指の膜厚より薄い(表1参照)。
よって、フィルタ20によれば、並列腕共振子p22a〜p24a及びp22b〜p24b(第1弾性波共振子)のQ値、及び、櫛歯容量C22a〜C24a及びC22b〜C24bのQ値のいずれも確保することができる。つまり、フィルタ20は、複数段のラダー型フィルタ構造のうち2段以上(本実施の形態では3段)において、弾性波共振子のQ値及び櫛歯容量のQ値の双方を確保することができるので、減衰帯域における減衰量を大きくしつつ通過帯域内のロスを抑制することができる。
図14Bは、実施の形態2に係るフィルタ20のフィルタ特性(通過特性)を表すグラフである。具体的には、同図は、スイッチSW1〜SW7がオンの場合及びオフの場合におけるフィルタ特性を比較して表すグラフである。なお、同図には、フィルタ特性を表すグラフの上側に、各フィルタ特性に対応する通過帯域、及び、このときのスイッチSW1〜SW7の状態が示されている。
同図に示すように、フィルタ20は、制御端子CTL1〜CTL5に入力される制御信号にしたがってスイッチSW1〜SW7のオン及びオフが切り替えられることにより、通過帯域を、以下の(i)〜(iv)に示すBandに割り当てられた周波数帯域のうち任意の1つに切り替えることができる。
なお、以下の各Bandに割り当てられた周波数帯域は3GPPによって定められており、詳細な説明については省略する。また、以下の(i)〜(iv)には、複数のBandを同時に送信または受信するCA(キャリアアグリゲーション)時における当該複数のBandの組み合わせも含まれる。このときのフィルタ20の通過帯域は、CAの対象となる複数のBandに割り当てられた複数の周波数帯域を包含する周波数帯域である。
(i)Band68(あるいは、Band68とBand28aとのCA)
(ii)Band28a
(iii)Band28b(あるいは、Band28bとBand19とのCA)
(iv)Band28aとBand20とのCA(あるいは、Band20)
このように、本実施の形態に係るフィルタ20によれば、複数段のラダー型フィルタ構造のうち2段以上(本実施の形態では3段)に周波数可変回路が設けられていることにより、フィルタ20全体の通過特性をより細かく調整することが可能となる。このため、スイッチSW1〜SW7のオン及びオフが適宜切り替えられることにより、適切な帯域に切り替えることができる。また、複数段のフィルタ構造を有することにより、減衰帯域における減衰量を大きくすることができる。
(実施の形態3)
ここまで、共振子に接続された櫛歯容量を備えるフィルタとして、当該櫛歯容量とともに周波数可変回路を構成するスイッチ素子を備える周波数可変型のフィルタ(チューナブルフィルタ)を例に説明した。しかし、共振子に接続された櫛歯容量を備えるフィルタは、このようなスイッチ素子を備えなくてもかまわない。そこで、本実施の形態では、このように構成されたフィルタ(弾性波フィルタ装置)について説明する。
図15Aは、実施の形態3に係るフィルタ30の回路構成図である。
同図に示すように、フィルタ30は、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)及び櫛歯容量C31で構成される直列腕共振回路31(第1共振回路)と、並列腕共振子p1(第2弾性波共振子)で構成される並列腕共振回路32(第2共振回路)と、を備える。本実施の形態において、直列腕共振子s1と櫛歯容量C31とは、並列接続されている。つまり、本実施の形態に係るフィルタ30は、実施の形態1の変形例6に係るフィルタ10FからスイッチSWを取り除いた構成に相当する。
櫛歯容量C31は、実施の形態1の変形例6における櫛歯容量C1に相当する。このため、以下では、櫛歯容量C31について、櫛歯容量C1と同様の点については説明を省略し、異なる点について詳細に説明する。
図15Bは、実施の形態3に係るフィルタ30の電極構造を模式的に表す図である。具体的には、同図の(a)は平面図であり、同図の(b)は同図の(a)のC−C’線における断面図であり、同図の(c)は同図の(a)のD−D’線における断面図である。なお、図15Bに示された電極構造は、図2に示された電極構造と同様に、典型的な構造を説明するためのものである。
以下、櫛歯容量C31を構成する櫛歯電極131Aと、当該櫛歯容量C31と接続される第1弾性波共振子のIDT電極(本実施の形態では直列腕共振子s1を構成するIDT電極111)の設計パラメータについて、比較して説明する。
図15Bに示すように、本実施の形態において、櫛歯容量C31の電極指ピッチは、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)の電極指ピッチより狭い。つまり、Pc31<Ps1を満たす。ここで、櫛歯容量C31における複数の電極指131Aaのピッチは、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)における複数の電極指111aのピッチの80%以下(すなわちPc31≦0.8×Ps1=0.4×λs1)であることが好ましい。
また、櫛歯容量C31における複数の電極指131Aaの膜厚は、直列腕共振子s1における複数の電極指111aの膜厚より薄い。つまり、Tc31<Ts1を満たす。ここで、製造上の理由から、櫛歯容量C31において、電極指131Aaの膜厚Tc31は電極指ピッチPc31に対して40%以下(すなわちTc31≦0.40×Pc31)であることが好ましい。また、同様の理由から、直列腕共振子s1において、電極指111aの膜厚Ts1は電極指ピッチPs1に対して40%以下(すなわちTs1≦0.40×Ps1)であることが好ましい。また、電極指131Aaの膜厚Tc31の下限については特に限定されないが、例えば、電極指ピッチPc31の15%以上(すなわち0.15×Pc31≦Tc31)である。同様に、電極指111aの膜厚Ts1の下限についても特に限定されないが、例えば、電極指ピッチPs1の15%以上(すなわち0.15×Ps1≦Ts1)である。
また、櫛歯容量C31の電極デューティは、直列腕共振子s1の電極デューティより大きいことが好ましい。つまり、櫛歯容量C31及び直列腕共振子s1は、Wc31/Pc31>Ws1/Ps1を満たすことが好ましい。このような構成にすることにより、櫛歯容量C31の単位面積当たりの容量値を大きくすることができるので、小型化及び省スペース化が図られる。
なお、上述したように、各素子(直列腕共振子s1、櫛歯容量C31等)において、電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティ等は、均一とは限らず、製造プロセス等によるばらつきによって不均一となっている、あるいは、特性等の調整のために不均一となっている場合がある。このため、櫛歯容量C31と直列腕共振子s1とは、これらを構成する櫛歯電極131A及びIDT電極111の一部が上述した電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティ等の関係を満たさない場合もある。つまり、櫛歯容量C31と直列腕共振子s1との間の上述した電極指ピッチ、膜厚及び電極デューティの関係は、概ね成立していればよく、例えば、櫛歯容量C31の平均値と直列腕共振子s1の平均値との間で成立していればよい。
次に、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31を並列接続したことによる特性への影響について説明する。
図16は、櫛歯容量C31の容量値とフィルタ30の各種特性との関係を示すグラフである。具体的には、同図には、直列腕共振子s1及び並列腕共振子p1の回路定数を一定とし、櫛歯容量C31がない場合、及び、櫛歯容量C31の容量値を0.5〜8.0pFで変化させた場合の各種特性が示されており、上段には直列腕共振回路31(図中では「直列腕回路」)のインピーダンス特性が示され、中段にはフィルタ特性が示され、下段には中段の一部拡大図が示されている。なお、櫛歯容量C31の容量値を0.0とは、櫛歯容量C31が無い(非接続である)ことに相当する。図17Aは、櫛歯容量C31の容量値と直列腕共振回路31の共振周波数(fr)、反共振周波数(fa)、及び、比帯域幅(BWR)との関係を示すグラフである。図17Bは、櫛歯容量C31の容量値と直列腕共振回路31の共振周波数のQ値(Qr)及び反共振周波数のQ値(Qa)との関係を示すグラフである。
ここで、比帯域幅とは、共振回路または共振子の反共振周波数faと共振周波数frとの周波数差(fa−fr)を共振周波数frで除した値((fa−fr)/fr)(またはその百分率)として定義される。
このときのフィルタ30の設計パラメータを表4及び表5に示す。また、このとき、直列腕共振子s1は、共振周波数(fr)が750MHzであり、静電容量が3.0pFである。また、並列腕共振子p1は、共振周波数(fr)が670MHzであり、静電容量が3.0pFである。なお、保護層104及び103の膜厚についての記載は省略するが、これらはフィルタ30において一律である。
図16の上段に示すように、直列腕共振子s1に並列接続された櫛歯容量C31の容量値が大きくなると、直列腕共振回路31において、共振周波数(fr)は変化せず、反共振周波数(fa)が低域側にシフトする。つまり、図17Aに示すように、当該容量値が大きくなると、直列腕共振回路31の比帯域幅が小さくなる。
これにより、図16の中段に示すように、当該容量値が大きくなると、直列腕共振回路31の反共振周波数で形成される通過帯域高域側の減衰極の周波数が低域側にシフトする。このため、通過帯域高域側の急峻性(キレ)が向上する。
このとき、図17Bに示すように、直列腕共振回路31は、当該容量値が大きくなると、反共振周波数のQ値(Qa)は大幅に悪化するものの、共振周波数のQ値(Qr)は変化しない。直列腕共振回路31は、共振周波数が通過帯域を構成し、反共振周波数が通過帯域高域側の減衰極を構成するため、反共振周波数のQ値の悪化は通過帯域内のロスにはほぼ影響しない。このため、図16の下段に示すように、櫛歯容量C31の容量値が大きくなっても通過帯域内のロスは悪化しにくい。
ここまで、1つの直列腕共振子と1つの並列腕共振子とで構成されるラダー型の回路構成を用いて、直列腕共振子に櫛歯容量が並列接続されることによる効果について説明した。しかし、上述した効果は、この構成に限らず、複数の直列腕共振子を有するラダー型の構成についても奏される。そこで、以下、一例として、2つの直列腕共振子を有するラダー型の回路構成において、1つの直列腕共振子に櫛歯容量が並列接続された回路構成及びその効果について、実施例とその比較例1及び比較例2を用いて説明する。
図18は、本実施の形態の実施例及びその比較例(ここでは比較例1)について説明する図である。具体的には、同図には、実施例及び比較例1の回路構成と、これらのインピーダンス特性(上段のインピーダンス特性が実施例、下段のインピーダンス特性が比較例1)及びフィルタ特性と、が示されている。
同図に示すように、実施例及び比較例1のフィルタは、共振周波数及び反共振周波数が等しい2つの直列腕共振子s1,s2を有し、これらの接続ノード及びグランドに並列腕共振子p1が接続されている。ここで、実施例のフィルタでは、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31が並列接続されており、直列腕共振子s2には櫛歯容量が接続されていない。また、比較例1では、直列腕共振子s1,s2のいずれについても櫛歯容量が接続されていない。
このように、実施例では、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31が並列接続されていることにより、比較例1に比べて、通過帯域内のロスを抑制しつつ、通過帯域高域側の急峻性(キレ)を向上することができる。
また、実施例では、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31が並列接続されていることにより、直列腕共振子s1と櫛歯容量C31との合成特性(図中の「s1+C31」)における比帯域幅(すなわち直列腕共振子s1及び櫛歯容量C31で構成される直列腕共振回路の比帯域幅)が、直列腕共振子s1の比帯域幅よりも小さくなる。このため、当該直列腕共振回路の共振周波数と直列腕共振子s2の共振周波数とが異なるため、通過帯域高域側の減衰極を構成する共振周波数が2つ出現する。したがって、実施例では、比較例1に比べて、通過帯域高域側の減衰帯域を広帯域化することができる。例えば、同図では、780MHz〜820MHz程度まで減衰帯域を広帯域化することができ、通過帯域高域側の減衰量の改善が図られている。
また、通常、直列腕共振子に容量を付加する手法として、IDT電極の電極指を間引く手法がある。以下、このような手法で構成された比較例2について説明しつつ、本実施例の効果について引き続き説明する。
なお、以下では、直列腕共振子s1及び並列腕共振子p1の共振周波数及び反共振周波数等の設計パラメータが図16〜図18を用いて説明した設計パラメータと異なるため、フィルタ特性等は図16〜図18を用いて説明したフィルタ特性等と一致しない。しかし、実施例と比較例との間の設計パラメータの相対関係は図16〜図18を用いて説明した設計パラメータの相対関係と同様であるため、フィルタ特性等の相対関係も同様となり、これにより奏される効果も同様である。
図19Aは、本実施の形態の実施例とその比較例(ここでは比較例1,2)の構成を示す図である。具体的には、同図には、上から順に、実施例、比較例1及び比較例2の構成が示されており、その各々について、左に回路構成が示され、右に一部の電極構造を模式的に表す平面図が示されている。図19Bは、本実施の形態の実施例とその比較例(ここでは比較例1,2)のフィルタ特性を示すグラフである。
図19Aの下段に示すように、比較例2は、直列腕共振子s1のIDT電極を構成する一部の電極指を間引いた(すなわち重み付けした図中のx部分)直列腕共振子s92を用いることにより、直列腕共振子s1に容量C91が並列接続された回路構成と等価の構成を有する。
図19Bから明らかなように、IDT電極の電極指を間引くことにより直列腕共振子s1に容量C91が並列接続された構成には、次のような問題がある。
具体的には、このように電極指を間引くことにより構成された容量C91は、大きな容量値を設計することが難しいため、直列腕共振子s1と容量C91の合成特性の比帯域幅を小さくするには限界がある。このため、通過帯域高域側の減衰帯域が広がりにくく、減衰量の向上が難しい。
これに対して、実施例によれば、櫛歯容量C31について、対数及び交叉幅等の設計パラメータを適宜調整することにより、大きな容量値を設計することができる。このため、図19Bから明らかなように、実施例によれば、比較例1だけでなく比較例2に比べても、通過帯域内のロスを抑制しつつ、通過帯域高域側の急峻性(キレ)を向上することができる。
以上のように、本実施の形態に係るフィルタ30によれば、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31が並列接続されている。この櫛歯容量C31における複数の電極指131Aaの電極指ピッチPc31は、直列腕共振子s1(第1弾性波共振子)における複数の電極指111aの電極指ピッチPs1より狭い。また、櫛歯容量C31における複数の電極指131Aaの膜厚は、直列腕共振子s1における複数の電極指111aの膜厚Ts1より薄い。また、櫛歯容量C31の自己共振周波数は、フィルタ30(弾性波フィルタ装置)の通過帯域より高域側に形成されている。
これにより、本実施の形態に係るフィルタ30は、直列腕共振子s1のQ値ならびに櫛歯容量C31のQ値の双方を確保することができるため、通過帯域内のロスを抑制しつつ、通過帯域高域側の急峻性(キレ)を向上することができる。
これは、櫛歯容量C31の特性が設計パラメータに依存することによる。そこで、以下、上記効果が奏される理由について、詳細に説明する。
まず、櫛歯容量C31について、電極指ピッチと特性との関連について説明する。
図20Aは、櫛歯容量C31の電極指ピッチと、容量値、容量Q値、直列腕共振回路31(図中では「直列腕回路」)のインピーダンス、及びフィルタ特性との関係を表すグラフである。具体的には、電極指ピッチPc31を、0.75、1.75、2.50、4.00(いずれも単位はμm)とした場合の周波数特性が表されている。なお、このとき、電極指ピッチ以外の設計パラメータは一定であり、電極指ピッチに対する膜厚の比率は0.20(すなわち、Tc31=0.20×Pc31)である。また、直列腕共振子s1の電極指ピッチは、2.12μmである。
図20Aの(a)に示すように、電極指ピッチPc31を変えても容量値はほとんど変わらない。なお、ここで言う容量値とは、櫛歯容量の自己共振による影響をほぼ無視できる低域の周波数領域における容量値(静電容量値)である。また、櫛歯容量C31は、電極指ピッチPc31が狭いほど、自己共振周波数が高周波数側にシフトする。
一方、図20Aの(b)に示すように、櫛歯容量C31のQ値(容量Q)は、概ね周波数が高くなるにつれて低下するものの、自己共振周波数では局所的に低下する。このため、電極指ピッチPc31を狭くして櫛歯容量の自己共振周波数をフィルタ30の通過帯域より高周波数側に追いやることにより、当該通過帯域における櫛歯容量のQ値を高めることができる。
言い換えると、電極指ピッチPc31が広いほど、櫛歯容量C31の自己共振周波数は低域側にシフトする。このため、当該自己共振周波数が、他の弾性波共振子を介することなく櫛歯容量C31と接続される直列腕共振子s1の共振周波数または反共振周波数と一致する場合がある。つまり、直列腕共振子s1の共振周波数または反共振周波数と容量Qが局所的に低下する周波数とが一致する場合がある。この場合、直列腕共振子s1と櫛歯容量C31との合成特性で得られる共振周波数または反共振周波数のQ値は、櫛歯容量C31のQ値の低下によって低下してしまうため、要求されるQ値の確保が困難となる。このため、電極指ピッチPc31を狭くして櫛歯容量C31の自己共振周波数を直列腕共振子s1の共振周波数及び反共振周波数より高周波数側に追いやることにより、直列腕共振子s1と櫛歯容量C31との合成特性のQ値の低下を抑制して要求されるQ値を確保することができる。
また、当然のことながら、電極指ピッチPc31が狭いほど容量値を維持したまま櫛歯容量のサイズを小型化できるため、櫛歯容量C31を備える高周波フィルタ等の小型化及び省スペース化が図られる。
図20Bは、図20Aの(c)中の波線枠内付近を拡大して示すグラフであり、具体的には、直列腕共振回路31の反共振周波数付近のインピーダンス特性が示されている。
図20Aで示したように、櫛歯容量C31の電極指ピッチが大きくなるほど、自己共振周波数が低域側にシフトし、容量Q値を悪化させる。表6に、このときの櫛歯容量C31の電極指ピッチPc31と、直列腕共振回路31の反共振周波数のQ値(Qa)との関係を示す。
この表と図20Aから明らかなように、櫛歯容量C31の電極指ピッチが直列腕共振子s1の電極指ピッチに近づくと、容量Q値の悪化によって直列腕共振回路31の反共振周波数のQ値が悪化しやすいため、通過帯域高域端のロス及び減衰特性の悪化を招く(図20Aの(c)及び(d)参照)。したがって、櫛歯容量C31の電極指ピッチは直列腕共振子s1の電極指ピッチより狭く、櫛歯容量C31の膜厚は直列腕共振子s1の膜厚より薄く設定する必要がある。
このように、櫛歯容量C31は、電極指のピッチが狭いほど、自己共振周波数が高周波数側にシフトする。このため、本実施の形態では、櫛歯容量C31について、電極指のピッチを直列腕共振子s1の電極指111aのピッチより狭くして自己共振周波数をフィルタ30の通過帯域より高周波数側に追いやることにより、通過帯域内及び通過帯域高域側近傍において櫛歯容量C31のQ値を高めることができる。これにより、通過帯域内のロスの抑制及び通過帯域高域側の減衰スロープの急峻性を向上することができる。
また、製造上の理由から、電極指のピッチは電極指の膜厚によって制限される。このため、櫛歯容量C31における電極指の膜厚を直列腕共振子s1における電極指の膜厚より薄くすることによって、櫛歯容量C31における電極指のピッチをより狭くできるので、直列腕共振子s1のQ値及びキャパシタのQ値の双方を確保しやすくなる。
よって、直列腕共振子s1のQ値及び櫛歯容量C31のQ値の双方を確保することにより、通過帯域内のロスのさらなる抑制及び通過帯域高域側の減衰スロープの急峻性を向上することができる。
(実施の形態3の変形例1)
ここで、直列腕共振子s1に櫛歯容量C31を並列接続したことによる反射特性への影響について説明する。
図21は、櫛歯容量C31の容量値と直列腕共振回路31(図中では「直列腕回路」)の反射特性との関係を示すグラフである。具体的には、同図には、直列腕共振子s1及び並列腕共振子p1の回路定数を一定とし、櫛歯容量C31がない場合、及び、櫛歯容量C31の容量値を0.5〜8.0pFで変化させた場合の反射特性が示されている。
同図に示すように、櫛歯容量C31の容量値を大きくするにつれ、通過帯域より高周波数側(図21では850MHz以上)の周波数帯域では、直列腕共振回路31の反射損失が小さくなる。すなわち、弾性波共振子は、反共振周波数の高周波数側でバルク波損失を有し、このバルク波損失によって該周波数帯での容量成分のQ値を悪化させる性質がある。そこで、直列腕共振回路31では、反共振周波数よりも高域側においてバルク波損失のない櫛歯容量C31を直列腕共振子s1に並列接続している。これにより、直列腕共振回路31では入力高周波信号が直列腕共振子s1と櫛歯容量C31とで電力分配されるため、直列腕共振回路31全体として見たときのバルク波損失が低減されることによる。
よって、複数のフィルタの一方の入出力端子が共通接続されたマルチプレクサにおいて、他の少なくとも1つのフィルタよりも通過帯域の中心周波数が低いフィルタについて、このような直列腕共振回路31を適用することにより、当該他の少なくとも1つのフィルタの通過帯域内のロスを抑制することができる。
これに関し、中心周波数の低いフィルタのバルク波損失による中心周波数の高いフィルタの通過帯域内のロスの悪化は、中心周波数の低いフィルタにおいて共通端子に最も近く接続された直列腕共振回路のバルク波損失による影響が支配的である。よって、中心周波数の低いフィルタにおいて、直列腕共振回路31を共通端子に最も近く接続することにより、中心周波数の高いフィルタの通過帯域内のロスの悪化を効果的に抑制することができる。
そこで、本変形例では、このように構成されたマルチプレクサについて説明する。
[実施の形態3の変形例1に係るマルチプレクサの回路構成]
図22Aは、実施の形態3の変形例1に係るマルチプレクサ300の回路構成図である。図22Aに示されたマルチプレクサ300は、LTE規格のBand28Rx及びBand8Rxに対応する受信用のマルチプレクサであり、フィルタ50(第1フィルタ)及びフィルタ60(第2フィルタ)と、整合用インダクタ70とを備える。
なお、マルチプレクサ300は、受信用に限らず送信用であってもかまわないし、受信用のフィルタと送信用のフィルタとを備えるデュプレクサ等であってもかまわない。また、整合用インダクタ70は設けられていなくてもかまわない。また、本変形例では、フィルタ50とフィルタ60とは、共通端子300cと直接接続されている。つまり、本変形例では、フィルタ50の共通端子300c側の入出力端子(本変形例では入力端子)及びフィルタ60の共通端子300c側の入出力端子(本変形例では入力端子)は、共通端子300cと直接接続されている。しかし、これらの入出力端子は、例えば、移相器、フィルタ50及びフィルタ60の少なくとも一方を選択するスイッチ、または、サーキュレータ等を介して、共通端子300cと接続されていてもかまわない。つまり、フィルタ50及びフィルタ60の各々は、一方の入出力端子が共通端子300cと直接もしくは間接的に接続されていればよい。
フィルタ50は、Band28Rx用の受信フィルタであり、入出力端子501(第1入出力端子)がマルチプレクサ300の共通端子300cに接続され、入出力端子502(第2入出力端子)がマルチプレクサ300の入出力端子301に接続されている。このフィルタ50は、直列腕上に設けられた複数の直列腕共振回路(本変形例では直列腕共振回路310sならびに3つの直列腕共振子s42〜s44の各々のみで構成された回路)、及び、1以上の並列腕共振回路(本実施の形態では3つの並列腕共振子p41、p42、p43の各々のみで構成された回路)によって構成されたラダー型のフィルタ回路である。なお、直列腕共振回路及び並列腕共振回路の数は、上記の数に限定されない。
ここで、直列腕共振回路310sは、実施の形態3に係るフィルタ30の直列腕共振回路31に相当し、直列腕共振回路31の直列腕共振子s1に相当する直列腕共振子s41と、直列腕共振回路31の櫛歯容量C31に相当する櫛歯容量C41と、を有する。この直列腕共振回路310sは、フィルタ50において他の共振回路を介することなく入出力端子501に接続されている。つまり、直列腕共振回路310sは、フィルタ50の複数の直列腕共振回路(本変形例では4つの直列腕共振回路)のうち最も共通端子300cに近く接続されている。
フィルタ60は、Band8Rx用の受信フィルタであり、一方の入出力端子がマルチプレクサ300の共通端子300cに接続され、他方の入出力端子がマルチプレクサ300の入出力端子302に接続されている。つまり、フィルタ60(第2フィルタ)の通過帯域の中心周波数(本変形例ではBand8Rxの中心周波数)は、フィルタ50(第1フィルタ)の通過帯域の中心周波数(本変形例ではBand28Rxの中心周波数)よりも高い。
以下、このように構成されたマルチプレクサ300によって奏される効果について、本変形例の比較例を用いて説明する。
[比較例に係るマルチプレクサの回路構成]
図22Bは、本変形例の比較例に係るマルチプレクサ900の回路構成図である。同図に示すように、比較例に係るマルチプレクサ900は、マルチプレクサ300におけるフィルタ50に代わり、櫛歯容量C41を有さないフィルタ950を備える点のみ異なる。
[マルチプレクサの特性比較]
以下、実施の形態3の変形例1に係るマルチプレクサ300に関する特性と比較例に係るマルチプレクサ900に関する特性を比較するために、マルチプレクサ300の構成を有する実施例(以下、「実施例に係るマルチプレクサ」)を用いて説明する。
実施例に係るマルチプレクサの設計パラメータ及び回路定数を、表7及び表8に示す。具体的には、表7には、直列腕共振子s41及び櫛歯容量C41の設計パラメータ及び回路定数が示され、表8には、直列腕共振子s41以外の共振子の設計パラメータ及び回路定数が示されている。なお、直列腕共振子s41以外の共振子において、電極指の構造及び膜厚は、直列腕共振子s41と同様である。また、整合用インダクタ70のインダクタンス値は、12nHである。
また、以下で説明する比較例に係るマルチプレクサ900の設計パラメータ及び回路定数を、表9に示す。なお、各共振子において電極指の構造及び膜厚は、フィルタ50の各共振子と同様である。また、整合用インダクタ70のインダクタンス値は、11.5nHである。
図23は、実施例に係るフィルタ50単体、及び、その比較例に係るフィルタ950単体の通過特性及び反射特性を比較したグラフである。具体的には、同図上段にはこれら2つのフィルタの通過特性が示され、同図中段には同図上段に示す通過特性の通過帯域及びその近傍を拡大した通過特性が示され、同図下段にはこれら2つのフィルタ単体の共通端子300cにおける反射特性が示されている。
なお、これらフィルタ単体の特性は、マルチプレクサの構成において当該フィルタ以外のフィルタと共通端子300cとを非接続とし(すなわち、当該フィルタ以外のフィルタを削除し)、非接続としたことによるインピーダンス整合のずれが解消されるようにインピーダンス整合をとることで得られた特性である。
同図上段及び中段に示すように、実施例に係るフィルタ50は、比較例に係るフィルタ950に比べて、通過帯域(B28Rx)内のロスを抑制しつつ、通過帯域高域側の急峻性(キレ)を向上することができる。このことは、上記実施の形態3で説明したように、直列腕共振子(ここでは直列腕共振子s41)に櫛歯容量(ここでは櫛歯容量C41)が並列接続されていることによる。
また、同図下段に示すように、実施例に係るフィルタ50は、比較例に係るフィルタ950に比べて、通過帯域(B28Rx)よりも高域側の周波数帯域において、反射損失が低減されている。つまり、フィルタ50とともに共通端子300cに接続されたフィルタ60の通過帯域(B8Rx)内において、反射損失が低減されている。このことは、図21を用いて説明したように、直列腕共振子(ここでは直列腕共振子s41)に櫛歯容量(ここでは櫛歯容量C41)が並列接続されていることにより、共通端子300cからフィルタ50を見たときのバルク波損失が低減されることによる。特に、当該直列腕共振子と当該櫛歯容量とで構成される直列腕共振回路(ここでは直列腕共振回路310s)がフィルタ50内において最も共通端子300cに近く接続されていることによる。
図24は、実施例に係るマルチプレクサ300、及び、その比較例に係るマルチプレクサ900の通過特性及び反射特性を比較したグラフである。具体的には、同図の(a)上段には、B28Rx用のフィルタ(実施例ではフィルタ50、比較例ではフィルタ950)が設けられた経路の挿入損失(すなわち、共通端子300c及び入出力端子301間の挿入損失)が示されている。また、同図の(a)下段には当該上段に示す通過特性の通過帯域及びその近傍を拡大した通過特性が示されている。同図の(b)上段には、B8Rx用のフィルタ60が設けられた経路の挿入損失(すなわち、共通端子300c及び入出力端子302間の挿入損失)が示されている。また、同図の(b)中段には当該上段に示す通過特性の通過帯域及びその近傍を拡大した通過特性が示されている。また、同図の(b)下段には当該中段に示す通過特性の通過帯域内を拡大した通過特性が示されている。同図の(c)には共通端子300cにおける反射特性が示されている。
同図の(a)に示すように、実施例に係るマルチプレクサ300は、上述のフィルタ50を備えることにより、比較例に係るマルチプレクサ900に比べて、フィルタ50の通過帯域(B28Rx)内のロスを抑制しつつ、フィルタ50の通過帯域高域側の急峻性(キレ)を向上することができる。
また、同図の(b)に示すように、実施例に係るマルチプレクサ300は、上述のフィルタ50を備えることにより、比較例に係るマルチプレクサ900に比べて、フィルタ60の通過帯域(B8Rx)内のロスが改善(抑制)されている。
これに関し、同図の(c)に示すように、共通端子300cにおける反射損失は、フィルタ60の通過帯域内において同等である。このことから、フィルタ50によるバルク波損失が低減されたことにより、フィルタ60の通過帯域内のロスが改善されていることがわかる。
(実施の形態3の変形例2)
なお、フィルタ30の構成に代わり、実施の形態1の変形例6に係るフィルタ10Fの構成をマルチプレクサに適用してもかまわない。
図25Aは、実施の形態3の変形例2に係るマルチプレクサ300Aの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係るマルチプレクサ300Aは、実施の形態3の変形例1に係るマルチプレクサ300におけるフィルタ50に代わり、直列腕共振回路310sが直列腕共振回路310Asに置き換えられたフィルタ50Aを備える点のみ異なる。
直列腕共振回路310Asは、実施の形態1の変形例6における直列腕共振回路21Fに相当する。
つまり、本変形例に係るフィルタ50Aは、実施の形態3の変形例1に係るフィルタ50において、櫛歯容量C41とスイッチSWの直列回路が直列腕共振子s41に並列に接続されている構成に相当する。
図25Bは、実施の形態3の変形例2に係るマルチプレクサ300Aの通過特性を示すグラフである。具体的には、同図には、B28Rx用のフィルタ(ここではフィルタ50A)が設けられた経路の挿入損失(すなわち、共通端子300c及び入出力端子301間の挿入損失)が示されている。なお、このときの回路定数は、マルチプレクサ300と同様である。
同図に示すように、本変形例に係るマルチプレクサ300Aによれば、スイッチSWのオン及びオフの切り替えに応じて、フィルタ50Aの通過帯域高域側の減衰極の周波数を可変することが可能となる。
また、このように構成されたマルチプレクサ300Aであっても、スイッチSWがオンとなることにより上記のマルチプレクサ300と同一の回路構成となる。よって、マルチプレクサ300Aは、スイッチSWがオンの場合には、上記のマルチプレクサ300と同様の効果を奏することができる。
(実施の形態3の変形例3)
図26Aは、実施の形態3の変形例3に係るマルチプレクサ300Bの回路構成図である。同図に示されたマルチプレクサ300Bは、実施の形態3の変形例2に係るマルチプレクサ300Aに比べて、さらに、フィルタ50Aまたはフィルタ60を選択するスイッチ回路80を備える点が異なる。また、この点に関連して、マルチプレクサ300Bでは、マルチプレクサ300Aにおいて個別に設けられていた入出力端子301及び入出力端子302が共通化された入出力端子303を備える点が異なる。
スイッチ回路80は、共通端子80c(スイッチ共通端子)、選択端子80a(第1選択端子)及び選択端子80b(第2選択端子)を有し、共通端子80cと選択端子80a及び80bとの接続を切り替えるSPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチ回路である。ここで、選択端子80aがフィルタ50Aの入出力端子502(第2入出力端子)に接続され、選択端子80bがフィルタ60の入出力端子(フィルタ60の2つの入出力端子のうち、共通端子300cに接続されていない入出力端子)に接続され、共通端子80cは、本実施の形態では入出力端子303に接続されている。
上記構成において、共通端子80c(スイッチ共通端子)と選択端子80a(第1選択端子)とが接続されていない(フィルタ50Aが選択されていない)場合、スイッチSWはオンとなっている。言い換えると、図26Aに示すように、共通端子80cと選択端子80b(第2選択端子)とが接続されている(フィルタ60が選択されている)場合、スイッチSWはオンとなっている。
図26Bは、実施の形態3の変形例3に係るマルチプレクサ300Bの通過特性を示すグラフである。具体的には、同図の上段には、共通端子80cと選択端子80bとが接続されているときのB8Rx用のフィルタ(ここではフィルタ60)が設けられた経路の挿入損失が示されている。なお、このときの回路定数は、マルチプレクサ300及び300Aと同様である。
同図に示すように、フィルタ60が選択されているとき、フィルタ50AのスイッチSWがオンとされていることにより、スイッチSWがオフの場合に比べてフィルタ60の通過帯域内のロスが改善される。
上記構成によれば、スイッチ回路80において共通端子80cが選択端子80bと接続されている場合にスイッチSWがオンとなっていることにより、フィルタ60の選択時においてフィルタ50Aによるバルク波損失を低減することができる。これにより、フィルタ60の選択時におけるフィルタ60の通過帯域内のロスを改善することができる。
(実施の形態4)
以上の実施の形態1〜3ならびにその変形例で説明したフィルタ(弾性波フィルタ装置)は、高周波フロントエンド回路等に適用することができる。そこで、本実施の形態では、このような高周波フロントエンド回路について、上記の実施の形態2に係るフィルタ20を備える構成について説明する。
図27は、実施の形態4に係る高周波フロントエンド回路1及びその周辺回路の構成図である。同図には、高周波フロントエンド回路1と、アンテナ素子2と、RF信号処理回路(RFIC)3とが示されている。高周波フロントエンド回路1及びRFIC3は、通信装置4を構成している。アンテナ素子2、高周波フロントエンド回路1、及びRFIC3は、例えば、マルチモード/マルチバンド対応の携帯電話のフロントエンド部に配置される。
アンテナ素子2は、高周波信号を送受信する、例えばLTE等の通信規格に準拠したマルチバンド対応のアンテナである。なお、アンテナ素子2は、例えば通信装置4の全バンドに対応しなくてもよく、低周波数帯域群または高周波数帯域群のバンドのみに対応していてもかまわない。また、アンテナ素子2は、通信装置4に内蔵されていてもかまわない。
RFIC3は、アンテナ素子2で送受信される高周波信号を処理するRF信号処理回路である。具体的には、RFIC3は、アンテナ素子2から高周波フロントエンド回路1の受信側信号経路を介して入力された高周波受信信号を、ダウンコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された受信信号をベースバンド信号処理回路(図示せず)へ出力する。また、RFIC3は、ベースバンド信号処理回路から入力された送信信号をアップコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された高周波送信信号を高周波フロントエンド回路1の送信側信号経路(図示せず)に出力する。
高周波フロントエンド回路1は、アンテナ素子2とRFIC3との間で高周波信号を伝達する回路である。具体的には、高周波フロントエンド回路1は、RFIC3から出力された高周波送信信号を、送信側信号経路(図示せず)を介してアンテナ素子2に伝達する。また、高周波フロントエンド回路1は、アンテナ素子2で受信された高周波受信信号を、受信側信号経路を介してRFIC3に伝達する。
高周波フロントエンド回路1は、アンテナ素子2側から順に、可変インピーダンス整合回路100と、スイッチ群110と、フィルタ群120と、スイッチ群150A及び150Bと、受信増幅回路群160とを備える。
スイッチ群110は、制御部(図示せず)からの制御信号にしたがって、アンテナ素子2と所定のバンドに対応するフィルタとを接続する1以上のスイッチ(本実施の形態では複数のスイッチ)によって構成される。なお、アンテナ素子2と接続されるフィルタは1つに限らず、複数であってもかまわない。
フィルタ群120は、1以上のフィルタによって構成され、本実施の形態では、例えば次の第1〜第6フィルタによって構成される。具体的には、第1フィルタは、Band29、ならびに、Band12、67、13のCAに対応可能なチューナブルフィルタである。第2フィルタは、Band68及び28aのCA、Band28a及び28bのCA、ならびに、Band28a及び20のCAに対応可能なチューナブルフィルタであり、上記実施の形態2に係るフィルタ20を用いることができる。第3〜第6フィルタは、いずれも通過帯域が固定のフィルタであり、第3フィルタはBand20に対応し、第4フィルタはBand27に対応し、第5フィルタはBand26に対応し、第6フィルタはBand8に対応する。
スイッチ群150A及び150Bは、制御部(図示せず)からの制御信号にしたがって、所定のバンドに対応するフィルタと、受信増幅回路群160のうち当該所定のバンドに対応する受信増幅回路とを接続する1以上のスイッチ(本実施の形態では複数のスイッチ)によって構成される。なお、受信増幅回路と接続されるフィルタは1つに限らず、複数であってもかまわない。
受信増幅回路群160は、スイッチ群150A及び150Bから入力された高周波受信信号を電力増幅する1以上のローノイズアンプ(本実施の形態では複数のローノイズアンプ)によって構成される。
このように構成された高周波フロントエンド回路1は、アンテナ素子2から入力された高周波受信信号を、所定のフィルタで選択的に通過させ、かつ、所定のローノイズアンプで増幅して、RFIC3に出力する。なお、ローバンドに対応するRFICとハイバンドに対応するRFICとは、個別に設けられていてもかまわない。
ここで、高周波フロントエンド回路1は、第2フィルタ(チューナブルフィルタ)として、上記の実施の形態2に係るフィルタ20を備える。実施の形態2で説明したように、フィルタ20は、第1弾性波共振子(フィルタ20では、並列腕共振子p22a〜p24aとp22b〜p24b)のQ値、及び、櫛歯容量(フィルタ20では、櫛歯容量C22a〜C24aとC22b〜C24b)のQ値の双方が確保されている。よって、フィルタ20は、通過帯域内のロスが抑制され、かつ、減衰スロープの急峻性が向上されている。このため、このようなフィルタ20を備える高周波フロントエンド回路1は、低ロス化と高選択度化を図ることができる。
また、高周波フロントエンド回路1は、上記の実施の形態2に係るフィルタ20(チューナブルフィルタ)を備えることにより、通過帯域が固定のフィルタを設ける場合に比べてフィルタの個数を削減できるため、小型化することができる。
なお、高周波フロントエンド回路1は、第1フィルタ(チューナブルフィルタ)として、上記の実施の形態1及びその変形例のいずれかに相当するフィルタを備えてもかまわない。
なお、本実施の形態では、高周波フロントエンド回路1として、受信側信号経路に複数のフィルタ(受信フィルタ)が設けられた受信ダイバーシチ用の構成について説明した。しかし、高周波フロントエンド回路の構成はこれに限らず、送信側信号経路に複数のフィルタ(送信フィルタ)が設けられた送信ダイバーシチ用の構成であってもかまわない。また、高周波フロントエンド回路は、複数の受信フィルタあるいは複数の送信フィルタを備えるダイバーシチ用の構成に限らず、1つの受信フィルタのみあるいは1つの送信フィルタのみを備える構成であってもかまわないし、少なくとも1つの送信フィルタと少なくとも1つの受信フィルタとを備える送受信用の構成であってもかまわない。
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態に係る弾性波フィルタ装置、マルチプレクサ及び高周波フロントエンド回路について、実施の形態1〜4を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、本発明に係る弾性波フィルタ装置、マルチプレクサ及び高周波フロントエンド回路を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
例えば、上述した高周波フロントエンド回路とRFIC3(RF信号処理回路)とを備える通信装置4も本発明に含まれる。このような通信装置4によれば、低ロス化と高選択度化を図ることができる。
また、上述したフィルタを備えるデュプレクサ等のマルチプレクサも本発明に含まれる。つまり、複数のフィルタが共通接続されたマルチプレクサにおいて、少なくとも1つのフィルタは上述したいずれかのフィルタであってもかまわない。
また、フィルタを構成する弾性波共振子のうち、櫛歯容量と他の弾性波共振子を介することなく接続される弾性波共振子(第1弾性波共振子)を除く1以上の弾性波共振子の少なくとも1つは、バルク波または弾性境界波を用いた弾性波共振子によって構成されていてもかまわない。
また、上記説明では、櫛歯容量と第1弾性波共振子とは、他の弾性波共振子を介することなく接続されるとしたが、これに限らず、他の弾性波共振子を介して接続されていてもかまわない。このような構成であっても、上記説明した構成と同様の効果を奏することができる。
また、例えば、マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路または通信装置において、各構成要素の間に、インダクタやキャパシタが接続されていてもかまわない。なお、当該インダクタには、各構成要素間を繋ぐ配線による配線インダクタが含まれてもよい。