JP6672549B2 - 連続鋳造用タンディッシュ、及びそのタンディッシュを用いた連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
連続鋳造を効率よく操業を行うためには、タンディッシュ内において、注入室からストランド室へ溶鋼をスムーズに流通させる際に、スラグの逆流を抑制し、且つ各ストランド間における溶鋼温度を均一化させることが必要となる。
特許文献1は、コンパクトでありながら多ストランドに適用でき、且つ、鋳片への品質を維持しつつストランド間での溶鋼温度のバラツキを十分に小さくすることができるタンディッシュを提供することを目的としている。
具体的には、連続鋳造用のタンディッシュ1に堰4を配設して注入槽2と分配槽3に区分し、タンディッシュ底壁に接する堰4の下部に注入槽2から分配槽3に溶鋼を噴流する1個または2個の堰穴5を開口し、分配槽3において堰穴5から噴流する溶鋼の噴流域7と浸漬ノズル流出域8が互いに交差することのない位置関係を保って堰穴5と浸漬ノズルの排出口6が配設されているものである。
具体的には、プラズマ加熱装置を備えた3ストランドを有するタンディッシュにおいて、溶鋼流路に設けた堰の開口面積とプラズマ加熱装置の設置位置とを制御して各ストランドからの出鋼温度を均一化することとしている。
具体的には、受湯室1と出湯室3と誘導加熱部2とを直列状に配置し、誘導加熱部2に受湯室1と出湯室3とを接続するスリーブ状の溶湯通路2bを設け、更に、出湯室1に設けた複数の出湯孔3a,3b,3cを溶湯通路の延長線上から直交した位置に設けているものである。
特許文献6は、介在物を浮上させることが容易であるT型タンディッシュを用いた上で、溶鋼スループットを考慮することで確実に介在物を浮上させることを目的としている。
具体的には、内部に堰で区切られた湯落ち部とノズル部とを有するタンディッシュであって、湯落ち部とノズル部とが、それぞれの鉄皮に設けた係止手段を介して分離可能に結合され、かつ、湯落ち部内に、溶湯を蛇行させてノズル部側に導く手段を設けているものである。
特許文献8は、介在物の浮上分離を目的としている。具体的には、注入室とストランド室が堰で仕切られ、堰孔が底部で繋がり且つ、ストランド室側の孔が低くなっているものである。また、堰孔内で介在物を浮上分離させるためにArガスを吹き込むこととしている。
なお、本願発明は、プラズマ加熱処理なしでも適用可能な技術である。つまり、本願発明は、プラズマ加熱装置の有無は問わない。
なお、本願発明は、特許文献4のように、平面視で、溶湯通路が前方へ真っ直ぐ向いていてもよいが、斜め方向を向いていてもよい。また、溶鋼加熱処理なしでも適用可能な技術である。
なお、本願発明は、溶鋼加熱処理なしでも適用可能な技術であるので、特許文献5のような、出湯室間の堰および貫通孔は不要となる。
特許文献6では、同文献の図2に示すように、平面視で、2つの湯道が水平方向内側を向いているため、各湯道からの吐出流がストランド室で衝突するので、その衝突後の流れの向きが不安定となる可能性がある。この技術を、注入口が複数配置されたタンディッシュに適用した場合、吐出流を均一な流れとすることが難しいと考えられる。そもそも、この技術は、2つの注入口を備えたタンディッシュを対象としたものと考えられるので、注入口を3個以上備えたタンディッシュの場合の作用効果は不明である。
特許文献8は、同文献の図1に示すように、溶鋼流路が直線で無いため、タンディッシュ整備時において、溶鋼流路内を酸素洗浄する時に、周囲の堰耐火物を溶損させる虞がある。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、T型多ストランドタンディッシュにおいて、異鋼種連々時にストランド室内のスラグが注入室に逆流することを抑制し且つ、後チャージの取鍋開口時に逆流スラグを巻き込むことを抑制するとともに、各ストランド間の温度バラツキを抑制することができる連続鋳造用タンディッシュ、及びそのタンディッシュを用いた連続鋳造方法を提供することを目的とする。
本発明にかかる連続鋳造用タンディッシュは、取鍋からの溶鋼が注入される注入室と、前記注入室の前方であって、当該注入室より左右方向に長尺とされ、且つ底部に前記溶鋼を鋳型に装入する鋳型注入孔が左右方向に3以上6以下、列設されているストランド室と、前記注入室と前記ストランド室とを仕切る仕切堰と、前記仕切堰の下部に設けられ且つ前記注入室から前記ストランド室へ直線状に貫通する湯道と、を備えたタンディッシュにおいて、前記湯道は、平面視で、当該湯道の中心軸が前記タンディッシュの幅方向中央で前後を向く線を基準として水平方向外側に向くように2本設けられていて、前記湯道の中心軸上における当該湯道の出口から、対向する前記ストランド室内の側壁までの距離LPPが式(1)を満たし、平面視で、前記湯道の出口における左右方向一端から、対向する前記ストランド室内の側壁まで延長した直線を一の仮想線とし、前記湯道の出口における左右方向他端から、対向する前記ストランド室内の側壁まで延長した直線を他の仮想線とした場合、前記一対の仮想線に囲まれる領域の左右方向外側に、前記鋳型注入孔が設けられており、前記領域の外側であって且つ、隣り合う2つの前記鋳型注入孔の重心を結ぶ線分の中点が、前記領域内に重複し、前記湯道の出口と繋がる前記ストランド室の底部は、当該湯道の出口の下端以下に位置し、且つ、式(2)〜式(8)を満たしていることを特徴とする。
0.08≦D (円相当径) [m] ・・・(2)
d1≦0.3 [m] ・・・(3)
0.115≦(x1 2+y1 2)0.5≦1 [m] ・・・(4)
0.05≦y1/x1≦1 [-] ・・・(5)
0≦y3/x3≦0.36 [-] ・・・(6)
x3≧0.5 [m] ・・・(7)
B≦-0.7tanh(3.5A-2.3)+1.1 ・・・(8)
ただし、D:湯道の円相当径
A=(x1 2/(x1 2+y1 2))2・(x3 2/(x3 2+y3 2))3・(x2/x3)0.4
B=y2/x1
d1:湯道の縦径
x1:湯道の水平方向の長さ
x2:注入室底部の水平方向の長さ
x3:注入室底部に設けられた傾斜部の水平方向の長さ
y1:湯道の上下方向の傾斜高さ
y2:湯道のストランド室側の上端と、注入室の底部前端の上下方向の距離
y3:注入室底部に設けられた傾斜部の上下方向の高さ
上記のタンディッシュを用いた連続鋳造方法は、上記の連続鋳造用のタンディッシュを用いて連続鋳造を行うに際し、前記ストランド室側の溶鋼の湯面が前記湯道の上端より上方に位置しているときに、前チャージの溶鋼を注入室に注入することを終了し、式(9)を満たしながら、前記前チャージにおける溶鋼の湯面を、前記湯道の傾斜高さy1以下に低下させた後、後チャージの溶鋼における前記注入室への注入を開始することを特徴とする。
ただし、
S(US)=124.5d2b(t/T)0.7(x1 2/(x1 2+y1 2))2(x3 2/(x3 2+y3 2))3(x2/x3)0.4(1-Fr)3
T=98901(d2b)4/3
Fr=UL/(9.8d1)0.5
t=y2/US
S(US):湯道内をスラグが逆流する距離
d1: 湯道の縦径
d2:湯道の横径
U S :湯面降下速度
U L :湯道内の平均溶鋼速度
b:スラグの厚み
Fr:フルード数
t:湯面が湯道のストランド室側の上端に達してから、湯道の注入室側の下端に達するまでの時間
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
図1、図34に示すように、連続鋳造用タンディッシュ1は、溶鋼14を鋳型17に装入する鋳型注入孔6(ストランド)が設けられた底部2a,2bと、その底部2a,2bの周縁から立ち上がる周壁3とを備えている。なお以降、単にタンディッシュ1と呼ぶこともある。
また、連続鋳造装置15で鋳造される鋳片19の形状は、限定されず、スラブ、ブルーム、ビレット等であってもよい。
一方、ストランド室5は、ストランド6が複数設けられた底部2bと、底部2bの周縁それぞれから上方に向かって立設された周壁3と、当該ストランド室5と注入室4とを仕切る仕切堰8とで囲まれた部分で構成されている。
次いで、図1、図3A、図3Bを参照しながら、本発明のタンディッシュ1に備えられている湯道9(堰孔)の概要について、説明する。
図3A、図3Bは、注入室4及びストランド室5の断面図(図1のA−A断面)である。なお、図3Cも注入室4及びストランド室5の断面図であり、図1のA−A断面に相当するものである。
タンディッシュ1の仕切堰8には、注入室4とストランド室5とを連通させる複数の湯道9が形成されている。本発明は、湯道9が2孔以上のものを対象としている。つまり、湯道9が1孔のものは本発明の対象としていない。
ところで、タンディッシュ1の整備を行う際には、タンディッシュ1を略90度傾動させた後、酸素パイプ20から酸素等を吹き込むことにより、酸素の燃焼熱によって、湯道9(底部孔)に付着した地金等を溶融して地金を除去する。
ところが、図2Bに示すように、注入室4とストランド室5とを繋ぐ湯道9が途中で屈曲した貫通形状である場合、整備状況によっては、仕切堰8を溶損させてしまう虞がある。
さて、湯道9は、平面視で、注入室4からストランド室5に向かうにしたがって、水平方向斜め左側に移行し、且つ側面視で注入室4の底部2a側、仕切堰8の内壁面下端(仕切堰8の後壁面下端)からストランド室5の上部側、仕切堰8の内壁面(仕切堰8の前壁面)に向けて、直線状に貫通する湯道9(第1湯道9a)と、平面視で、注入室4からストランド室5に向かうにしたがって、水平方向斜め右側に移行し、且つ側面視で注入室4の底部2a側、仕切堰8の内壁面下端からストランド室5の上部側、仕切堰8の内壁面に向けて、直線状に貫通する湯道9(第2湯道9b)と、を有している。
すなわち、本発明においては、各湯道9a,9bの出口10a,10bと繋がるストランド室5の底部2bは、各湯道9a,9bの出口10a,10bの最下端部と同じ高さ(図3A参照)、或いは、各湯道9a,9bの出口10a,10bの最下端部よりも低い位置である(図3B参照)。
一方、図3Cは、仕切堰8に湯道9を形成した場合であって、湯道9の出口と繋がる底部2bを見たとき、当該底部2bが湯道9の出口の下端よりも上方に位置する場合のタンディッシュを示している。
以下、さらに、タンディッシュ1の構成について詳しく説明する。
湯道9の形状については、右側の湯道9(第2湯道9b)に着目して、説明する。以降の説明において、第2湯道9bを、単に湯道9と呼ぶこともある。
本発明においては、湯道9の中心軸上における当該湯道9の出口10から、対向するストランド室5内の側壁7(前側壁面)までの距離LPPが式(1)を満たすこととしている。
ただし、Dは、湯道9の内径であり、円相当径である。
すなわち、距離LPPは、図4中の一点鎖線で示す距離(A点〜B点)のことであり、この距離が(10×D)未満となるようにしている。
本発明においては、参考文献「”噴流工学 -基礎と応用-”森北出版,2004年,1-1-1章」より、距離LPPの閾値を求めた。
そのため、吐出流が周辺の流体を巻き込みながら拡散して流れの向きが不安定になる領域(下記に示す参考文献における噴流の発達領域)に達するまでに、吐出流を、ストランド室5内であって、湯道9に対向する前側壁面7(正面壁)に衝突させる必要がある。
上記の式(1)は、吐出流にコア領域を存在させるための条件である。本発明においては、上記の参考文献より、吐出流が周辺の流体を巻き込まずに且つ、直進する初期領域は湯道9の円相当径の10倍であり、この結果より、距離LPPの閾値(10×D)を設定した。
また、領域外の左外側及び右外側に設けられている、2つのストランド6の重心を結ぶ線分の中点が、その領域内に重複することとしている。なお、一対の仮想線に囲まれる領域は、湯道9からの吐出流が流れる範囲ともいえる。
以上より、領域の外側であって、隣接する2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点を、領域の内側に存在させることとしている。
0.08≦D (円相当径) [m] ・・・(2)
湯道9の内径が0.08m未満とした場合は、鋳造中に湯道9内に介在物等が詰まってしまい鋳造できなくなる可能性がある。
さて、図5は、仕切堰8を幅方向で且つ垂直に断面した場合(図1のB−B断面)の断面図である。図5に示すように、仕切堰8に形成する湯道9の断面視の形状は、円形であっても、楕円形であっても、四角形であっても、扁平した円であってもよい。
本発明においては、湯道9の縦径d1は、式(3)に示すように、0.3m以下である。
d1≦0.3 [m] ・・・(3)
湯道9の縦径d1が0.3mを超えている場合、取鍋16のノズルの開口時に当該ノズルから落下した砂等の大部分が湯道9を通ってストランド室5に流入し易くなる。取鍋16の開口時における多量の砂がストランド室5に入ってしまうと、介在物の欠陥になり易い。
さて、本発明においては、図6Aに示すように、注入室4側の湯道9の入口12と、ストランド室5側の湯道9の出口10との水平距離(湯道9の水平方向の長さ)を「x1」とし、湯道9の出口10と湯道9の入口12との高低差(湯道の上下方向の高さ)を「y1」とした場合、湯道9の長さである「(x1 2+y1 2)0.5」は、式(4)を満たすこととしている。
湯道9の長さ((x1 2+y1 2)0.5)が式(4)の下限値を下回る場合、仕切堰8の前後方向の厚みが薄くなりすぎてしまい、当該仕切堰8が割れてしまう虞がある。
一方、湯道9の長さ((x1 2+y1 2)0.5)が式(4)の上限値を上回る場合、湯道9が長くなりすぎてしまうために、鋳造中等に湯道9が詰まる虞がある。特に、湯道9の内径(円相当径)Dが小さい場合には、詰まりが顕著になる。
なお、図6B、図6Cは、注入室4の底部2aに設けられた傾斜部11の上下方向の高さである「y3」の違いを示した図である。
また、本発明においては、湯道9の傾きを表す「y1/x1」は、式(5)を満たすこととしている。
湯道9の傾き(y1/x1)が式(5)の下限値を下回る場合、湯道9が緩やか過ぎて、鋳造終了時に、注入室4や湯道9内の溶鋼14がストランド室5に排出され難い。また、溶鋼14が注入室4や湯道9に残留してしまうと、歩留が低下する上に、タンディッシュ1を整備する際に、溶解するための酸素洗浄の負荷が大きくなる。なお、式(5)の下限値を、湯道9の角度に変換すると、3degである。
以上より、本発明においては、式(5)の範囲となるようにしている。
また、図6Cに示すように、注入室4の底部2aを側方から見たとき、当該底部2aは、湯道9の入口12に繋がり且つ、水平である平坦部2a1と、平坦部2a1に繋がっていて傾斜する傾斜部11とを有していたとする。
0≦y3/x3≦0.36 [-] ・・・(6)
なお、図6Bにおいては、「y3」は、湯道9の入口12までの底部2a(傾斜部11)の高低差である。また、「x3」は、湯道9の入口12までの底部2a(傾斜部11)の水平長さであり、x2=x3である。また、図6Aにおいては、y3=0、すなわち底部2aは平坦部2a1のみであり、x2=x3である。 「x2」は、注入室4底部2aの水平方向の長さである。
一方、傾斜部11の傾き(y3/x3)が式(6)の上限値を上回る場合、傾斜部11の傾斜が大き過ぎてしまうこととなる。そのため、取鍋16から溶鋼14を注入した場合、溶鋼14の仕切堰8に向かう流れが強すぎてしまい、湯道9の入口12側の仕切堰8の前側壁面7に沿って、溶鋼14の湯面が一気に上昇することとなり、タンディッシュ1の上方の開口を閉鎖する蓋にまで達してしまう虞がある。
以上より、本発明においては、式(6)の範囲となるようにしている。
また、本発明においては、注入室4の傾斜部11の傾斜長さx3は、式(7)に示すように、0.5m以上である。
注入室4の傾斜部11の傾斜長さx3が下限値を下回る場合、取鍋16のノズルから注入した溶鋼14が平坦部2a1と傾斜部11との境界に直接当たり易くなり、境界部分が溶損する虞があると共に、溶鋼14の流れが不安定になり易い。
また、取鍋16のノズルは、溶鋼14の注入量を調整するために、100mm程度芯がズレる可能性があるため、傾斜部11に直接、溶鋼14を安定して当てるためにも、注入室4の傾斜部11の傾斜長さx3は0.5m以上あることが望ましい。
以下の説明では、図6A〜Cに示したタンディッシュ1の全てに適用するとして説明を続ける。図6Aのタンディッシュ1の場合は、y3=0、x2=x3を満たし、図6Bのタンディッシュ1の場合は、y3≧0,x2=x3を満たし、図6Cのタンディッシュ1の場合は、y3≧0, x2≧x3を満たすものとする。
B≦-0.7tanh(3.5A-2.3)+1.1 ・・・(8)
A=(x1 2/(x1 2+y1 2))2・(x3 2/(x3 2+y3 2))3・(x2/x3)0.4
B=y2/x1,y2=d1(1+y1 2/x1 2)0.5-y1
次に、式(8)で示されたパラメータ、指数A、指数Bについて説明する。
指数Aは、「湯道9と注入室4の底部2aの形状の指数」である。即ち、指数Aにおいて、(x1 2/(x1 2+y1 2))2は、湯道9の形状であって傾斜の指数であり、x3 2/(x3 2+y3 2)は、傾斜部11の傾斜の指数であり、(x2/x3)0.4は、平坦部2a1の長さ及び傾斜部11の長さの指数である。指数Aの数値が小さいほど、湯道9と注入室4の底部2aの形状が急になり、スラグの逆流抑制を図ることができる。
また、指数Bの「x1」は、湯道9の水平方向の長さであるが、湯面が湯道9に到達した場合の状況を考えると、この「x1」は湯道9内をスラグが注入室4へ向けて流れる距離(スラグ逆流可能距離)と見ることができる。
なお、上記の式(8)の範囲は、図8に示す範囲となる。式(8)を満たす場合、スラグが注入室4に入り難く、鋳造停止後、溶鋼14の湯面を下降させた場合に、ストランド室5のスラグが注入室4に逆流することを防止することができる。なお、y3=0のとき、x2=x3であり、B<0も含むものとする。
さて、上述した構造を有するタンディッシュ1を異鋼種連々鋳造に用いることによって、前チャージと後チャージの切替時におけるスラグの逆流を十分に防止することができるが、さらに、下記に示す方法に従って連続鋳造を行うことで、よりスラグの逆流を防止することができる。
即ち、式(9)を満たしながら、前チャージにおける溶鋼14の湯面を、湯道9の傾斜高さy1以下に低下させる。
S(US)≦x1 ・・・(9)
ただし、S(US)=124.5d2b(t/T)0.7(x1 2/(x1 2+y1 2))2(x3 2/(x3 2+y3 2))3(x2/x3)0.4(1-Fr)3 …(a)
T=98901(d2b)4/3,Fr=UL/(9.8d1)0.5,t=y2/USである。
そして、図10のS3に示すように、湯面を湯道9の傾斜高さy1以下まで低下させた後は、後チャージの溶鋼14を注入室4に注入する。即ち、後チャージの注入を開始する。
なお、ストランド室5内のスラグは、溶鋼14の酸化防止のために残留させている。
[実験例]
さて、上述したスラグの逆流距離S(US)の式(a)は、水モデルの実験で求めたものである。
タンディッシュ1について、水モデル実験では、実機を相似的に1/3にした、1/3モデルのもので実験を行った。また、図11に示すように、水モデル実験用のタンディッシュ1は、T型タンディッシュとした。ストランド数は5ストランドとした。
また、水モデル実験用のタンディッシュ1において、仕切堰8に設けた湯道9は、ストランド室5から注入室4へ向けて延びる直線状とした。湯道9の出口10と繋がるストランド室5の底部2bは、湯道9の出口10下端以下に位置させた。
ただし、M=5d2b/4(2(σL-σU-σUL)/ρU(1-ρU/ρL)g)0.5
T=(8.3ρU(1-ρU/ρL)g(d2b)2(ρLμL)0.5/16(σL-σU-σUL)2)2/3
g:重力加速度
t:湯面が湯道の出口(ストランド室側)上端に達してから、入口(注入室側)の下端に達するまでの降下時間
なお、ρLは下層(数値計算:溶鋼、水モデル実験:水)の密度であり、ρUは上層(数値計算:スラグ、水モデル実験:オイル)の密度である。μLは下層(数値計算:溶鋼、水モデル実験:水)の粘度であり、μUは上層(数値計算:スラグ、水モデル実験:オイル)の粘度である。σUは下層(数値計算:溶鋼、水モデル実験:水)の表面張力であり、σLは上層(数値計算:スラグ、水モデル実験:オイル)の表面張力である。σULは上層と下層の界面張力である。
S(US)=0.2M(1.25+μL/μU)0.5(t/T)0.7(x1 2/(x1 2+y1 2))2(x3 2/(x3 2+y3 2))3(x2/x3)0.4(1-Fr)3 ・・・(c)
ただし、Fr=UL/(9.8d1)0.5
t=y2/US
d1: 湯道の縦径
d2:湯道の横径
Us:湯道内の平均溶鋼速度(水の平均速度)
UL:湯面(水面)の降下速度
b:オイル厚(スラグ厚)
そして、式(b)の液体の物性値に実機の値を代入して整理すると、上述した式(a)になる。
ただし、T=98901(d2b)4/3
Fr=UL/(9.8d1)0.5
t=y2/US
スラグ(オイル)の逆流距離S(US)の実測値と計算値とをまとめると、図13に示すようになった。
ところで、鋳型17へ注入される溶鋼14の温度が高すぎると、鋳型17下方で凝固シェルが破断して、未凝固溶鋼が下方に漏れてしまうブレークアウトが発生する虞がある。
一方で、多ストランドタンディッシュを用いた連続鋳造では、各ストランド6から各鋳型17へ注入される溶鋼14の温度に偏差が発生する。それ故、ブレークアウトを防止するために、溶鋼14の温度偏差の高温側を基準にして、タンディッシュ1内の溶鋼温度を制御している。
このように、ノズル詰りが発生したストランド6においては、連続鋳造を停止しなければならず、鋳片19の生産に大きな影響を及ぼす。
図14は、タンディッシュ1内における溶鋼温度の測定位置を示す図である。図14に示すように、本実施形態においては、ストランド6のほぼ真上であって、溶鋼14の湯面から0.3mの深さにおける溶鋼温度の測定を行った。
さて、図15に示すように、前チャージの鋳造終了後、湯面を降下させた場合にストランド室5のスラグが湯道9を通って注入室4に逆流することがある。この場合には、注入室4に逆流したスラグと後チャージの溶鋼14とが混ざってしまう。即ち、スラグ叩き込みが発生する。
例えば、図16に示すように、従来の手法では、稀釈連続鋳造であっても、シーケンスブロックを挿入して連続鋳造する場合であっても、前チャージと後チャージとを繋ぐ鋳片19では、スラグ系介在物により増加した長いクロップが発生する。このように、スラグが注入室4まで逆流してしまった場合は、図示したように、長いクロップが発生するため、スラグ逆流抑制の評価は不良となる。
つまり、本発明によれば、後チャージ側の製品歩留まりを向上させることができる。
次いで、数値計算(数値シミュレーション)について説明する。
数値計算の条件は実機条件に相当するものであり、その計算条件として、熱流体解析ソフト:ANSYS,Fluent16、計算モデル:Realized,K-ε,単相流乱流、定常伝熱,(Bousineq)モデル、介在物はEuler移流モデルで行った。
この数値計算では、実機とほぼ同じ1/1モデルで行った。数値計算で用いたタンディッシュ1は、図19に示すT型タンディッシュとした。また、ストランド数は5ストランドとし、図19の左側からNo.1ストランド〜No.5ストランドとした。湯道9は2つとし、図19の左側から第1湯道9a、第2湯道9bとした。また、物性値及び境界条件は、表5に示す通りである。
平均滞留時間は、(タンディッシュ容量:m3)/(取鍋から溶鋼流入量m3/s)から導出することとした。なお、タンディッシュ1内の流れは、平均滞留時間で規格化して評価することとした。
図20に、湯道9に関する座標の位置を示す。
以上の第1湯道9aに関する座標は、第1湯道9aの他方端部(J1側)PoJ(1)を、原点(0,0)とした場合の相対座標である。
第2湯道9b(K=2)の場合、ストランド6室側での円相当直径を、D(2)とする(図20中の(1))。第2湯道9bから流れ出す吐出流を、挟み込むストランド6の番号を、I2、J2とする(図20中の(2))。平面視において、2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点座標を、PcLS(I2,J2)とする(図20中の(3))。
以上の第2湯道9bに関する座標は、第2湯道9bの他方端部(ストランドJ2側)PoJ(2)を、原点(0,0)とした場合の相対座標である。また、第2湯道9bに関する座標は、第1湯道9aに関する座標を、左右方向に反転させたものであるので、各座標位置は一致する。
なお、数値計算の結果、つまり温度偏差の評価するにあたっては、上述の数値計算により導出された、各ストランド6における溶鋼14の流出温度の最大値Tomaxと、最小値Tominの差(Tomax-Tomin)を、各鋳型17への注入温度の偏差量として定義した。図22に、その各ストランド6と、鋳型17への注入温度との関係を示す。
以下に、溶鋼14の温度偏差に関する数値計算の結果を示す。
図23Aに示すタンディッシュ1は、本発明の形状・構成を有するものであり、注入室4とストランド室5を明確に仕切る仕切堰8が設けられ、その仕切堰8に湯道9(第1湯道9a及び第2湯道9b)が2つ設けられている。また、各湯道9a,9bの向きは、2つのストランド6間となっている。また、ストランド数は5ストランドである。
図23Cに示すタンディッシュ1は、本発明の形状・構成を有するものであり、注入室4とストランド室5を明確に仕切る仕切堰8が設けられ、その仕切堰8に湯道9(第1湯道9a及び第2湯道9b)が2つ設けられている。また、各湯道9a,9bの向きは、2つのストランド6間となっている。また、ストランド数は3ストランドである。
表6、表7に、本発明のタンディッシュ1を用いた場合における、溶鋼14の温度偏差に関する数値計算の結果を示す(本実施例)。なお、表6、表7は、一続きのものであり、説明しやすくするため、2分割としている。
第1湯道9aの中心軸上における当該第1湯道9aの出口10aから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPP(1)が1256.1mmであり、且つ10×D(1)が2500mmであるので、式(1)、LPP(1)<10×D(1)を満たす。
さらに、2つのストランド6は領域外に存在しているとともに、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在している(図24参照)。
表6、表7の実験番号2について、ストランド6は5個であり、3個以上6個以下を満たす。また、湯道9は2つであり、各湯道9a,9bからの吐出流線は交差しない。つまり、図23Aに示す形状Aの構造を有するタンディッシュ1である。
また、第2湯道9bの中心軸上における当該第2湯道9bの出口10bから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPPが1122.2mmであり、且つ10×D(2)が2500mmであるので、式(1)、LPP(2)<10×D(2)を満たす。
以上より、各ストランド6間の温度偏差[Δ℃]が5.2℃であり、7℃以下に収まり、良好な結果となった。
第1湯道9aの中心軸上における当該第1湯道9aの出口10aから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPPが1418.1mmであり、且つ10×D(1)が2500mmであるので、式(1)、LPP(1)<10×D(1)を満たす。
さらに、2つのストランド6は領域外に存在しているとともに、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在している(図26参照)。
表6、表7の実験番号4について、ストランド6は4個であり、3個以上6個以下を満たす。また、湯道9は2つであり、各湯道9a,9bからの吐出流線は交差しない。つまり、図23Bに示す形状Bの構造を有するタンディッシュ1である。
また、第2湯道9bの中心軸上における当該第2湯道9bの出口10bから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPPが1051.44mmであり、且つ10×D(2)が2500mmであるので、式(1)、LPP(2)<10×D(2)を満たす。
以上より、各ストランド6間の温度偏差[Δ℃]が4.9℃であり、7℃以下に収まり、良好な結果となった。
第1湯道9aの中心軸上における当該第1湯道9aの出口10aから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPPが1256.1mmであり、且つ10×D(1)が2500mmであるので、式(1)、LPP(1)<10×D(1)を満たす。
さらに、2つのストランド6は領域外に存在しているとともに、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在している(図28参照)。
次に、本発明と比較するために行った、数値計算による溶鋼温度の偏差の結果について述べる。
表8、表9に、数値計算による溶鋼温度の偏差の結果を示す(比較例)。なお、表8、表9は、一続きのものであり、説明しやすくするため、2分割としている。
しかし、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在していない(図30参照)。各ストランド6間の温度偏差[Δ℃]が7.1℃であり、7℃以上となり、不良な結果となった。
しかし、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在していない(図31参照)。各ストランド6間の温度偏差[Δ℃]が7.6℃であり、7℃以上となり、不良な結果となった。
しかし、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点が、図20における直線LPoIと直線LPoJに囲まれる領域に存在していない(図32参照)。各ストランド6間の温度偏差[Δ℃]が8.2℃であり、7℃以上となり、不良な結果となった。
しかし、領域外の2つのストランド6の重心を結んだ直線の中点は満たされているが、式(1)LPP(K)<10×D(K)を満たしていない(図33参照)。
また、第2湯道9bの中心軸上における当該第2湯道9bの出口10bから、対向するストランド室5内の前側壁面7までの距離LPPが979.93mmであり、且つ10×D(2)が900mmであるので、式(1)、LPP(2)<10×D(2)を満たさない。
続いて、数値計算によるスラグ逆流の抑制について説明する。
この数値計算を行う際の実施の条件については、上述した温度偏差における計算条件の通りである。つまり、実機条件に相当するもので行った。
なお、操作性の不良とは、湯道9の詰まり等が発生する虞があり、耐火物の耐久性が低下すること、取鍋16の砂がストランド室5へ流出することなどを示している。
表12、表13に、スラグ逆流の抑制に関する数値計算の結果を示す(比較例)。なお、表12、表13は、一続きのものであり、説明しやすくするため、2分割としている。
表12、表13の実験番号7について、このタンディッシュは湯道が円形状であり、2個備えている。しかし、式(4)及び式(7)を満たしていないため、操作性が不良である。
表12、表13の実験番号11について、このタンディッシュは湯道が円形状であり、2個備えている。しかし、湯道の水平方向の長さx1は、200mmであり且つ、湯道内をスラグが逆流する距離S(US)が0.266mであり、式(9)、S(US)≦x1を満たしていない。その結果、スラグ逆流抑制が不良であった。
以上述べた、本発明の連続鋳造用タンディッシュ1は、図34に示されるような連続鋳造装置15を用いた連続鋳造方法に適用可能である。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
2a 底部(注入室)
2a1 平坦部
2b 底部(ストランド室)
3 周壁
4 注入室
5 ストランド室
6 鋳型注入孔(ストランド)
7 側壁(前側壁面、正面壁)
8 仕切堰
9 湯道(堰孔、底部孔)
9a 第1湯道
9b 第2湯道
10 湯道の出口
10a 第1湯道の出口
10b 第2湯道の出口
11 傾斜部
12 湯道の入口
13 浸漬ノズル
14 溶鋼
15 連続鋳造装置
16 取鍋
17 鋳型
18 サポートロール
19 鋳片
20 酸素パイプ
Claims (2)
- 取鍋からの溶鋼が注入される注入室と、前記注入室の前方であって、当該注入室より左右方向に長尺とされ、且つ底部に前記溶鋼を鋳型に装入する鋳型注入孔が左右方向に3以上6以下、列設されているストランド室と、前記注入室と前記ストランド室とを仕切る仕切堰と、前記仕切堰の下部に設けられ且つ前記注入室から前記ストランド室へ直線状に貫通する湯道と、を備えたタンディッシュにおいて、
前記湯道は、平面視で、当該湯道の中心軸が前記タンディッシュの幅方向中央で前後を向く線を基準として水平方向外側に向くように2本設けられていて、
前記湯道の中心軸上における当該湯道の出口から、対向する前記ストランド室内の側壁までの距離LPPが式(1)を満たし、
平面視で、前記湯道の出口における左右方向一端から、対向する前記ストランド室内の側壁まで延長した直線を一の仮想線とし、前記湯道の出口における左右方向他端から、対向する前記ストランド室内の側壁まで延長した直線を他の仮想線とした場合、
前記一対の仮想線に囲まれる領域の左右方向外側に、前記鋳型注入孔が設けられており、
前記領域の外側であって且つ、隣り合う2つの前記鋳型注入孔の重心を結ぶ線分の中点が、前記領域内に重複し、
前記湯道の出口と繋がる前記ストランド室の底部は、当該湯道の出口の下端以下に位置し、且つ、式(2)〜式(8)を満たしていることを特徴とする連続鋳造用のタンディッシュ。
LPP<10×D ・・・(1)
0.08≦D (円相当径) [m] ・・・(2)
d1≦0.3 [m] ・・・(3)
0.115≦(x1 2+y1 2)0.5≦1 [m] ・・・(4)
0.05≦y1/x1≦1 [-] ・・・(5)
0≦y3/x3≦0.36 [-] ・・・(6)
x3≧0.5 [m] ・・・(7)
B≦-0.7tanh(3.5A-2.3)+1.1 ・・・(8)
ただし、D:湯道の円相当径
A=(x1 2/(x1 2+y1 2))2・(x3 2/(x3 2+y3 2))3・(x2/x3)0.4
B=y2/x1
d1:湯道の縦径
x1:湯道の水平方向の長さ
x2:注入室底部の水平方向の長さ
x3:注入室底部に設けられた傾斜部の水平方向の長さ
y1:湯道の上下方向の傾斜高さ
y2:湯道のストランド室側の上端と、注入室の底部前端の上下方向の距離
y3:注入室底部に設けられた傾斜部の上下方向の高さ - 請求項1に記載された連続鋳造用のタンディッシュを用いて連続鋳造を行うに際し、
前記ストランド室側の溶鋼の湯面が前記湯道の上端より上方に位置しているときに、前チャージの溶鋼を注入室に注入することを終了し、
式(9)を満たしながら、前記前チャージにおける溶鋼の湯面を、前記湯道の傾斜高さy1以下に低下させた後、後チャージの溶鋼における前記注入室への注入を開始することを特徴とする連続鋳造方法。
S(US)≦x1 ・・・(9)
ただし、
S(US)=124.5d2b(t/T)0.7(x1 2/(x1 2+y1 2))2(x3 2/(x3 2+y3 2))3(x2/x3)0.4(1-Fr)3
T=98901(d2b)4/3
Fr=UL/(9.8d1)0.5
t=y2/US
S(US):湯道内をスラグが逆流する距離
d1: 湯道の縦径
d2:湯道の横径
U S :湯面降下速度
U L :湯道内の平均溶鋼速度
b:スラグの厚み
Fr:フルード数
t:湯面が湯道のストランド室側の上端に達してから、湯道の注入室側の下端に達するまでの時間
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