JP6661408B2 - ポリオキシメチレン樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリオキシメチレン樹脂組成物に関する。
ポリオキシメチレン樹脂は、機械的強度、耐薬品性、摺動性、耐摩耗性のバランスに優れ、かつその加工性が容易である。そのため、ポリオキシメチレン樹脂は代表的なエンジニアリングプラスチックスとして、電気機器の機構部品、自動車部品及びその他の機構部品に広範囲に亘って用いられている。
上記のような各種用途にポリオキシメチレン樹脂を用いる場合、特に、ポリオキシメチレン樹脂の摺動性の良さが重要視される。例えばコンパクトディスクドライブのギアや、計測機器のオートサンプラー部においては、比較的高い負荷(例えば概ね、1〜2N程度の荷重)の条件下で、他の部品(自材、他の材質)との擦れ(摩擦)が起きる。そのため、その際に摩耗しない高い摺動性が要求される。
上記のような、比較的高い負荷に対する耐摩耗性を向上させることを目的として、例えば、特許文献1には、摺動剤としてエチレンとα−オレフィンとの共重合体若しくはその変性型のポリエチレンワックスを添加する技術が開示されており、特許文献2には摺動剤として酸化ポリエチレンワックスを添加する技術が提案されている。
さらに、摺動性には言及していないが、特許文献3には、収縮異方性の抑制のために、変性型ポリオレフィンワックスを使用する技術が記載されている。
上述した従来の技術は、収縮異方性や高荷重摺動時の耐摩耗性の改善には効果が認められるが、非常に低い荷重(0.05N以下の荷重)下での耐摩耗性への効果は不明であるという問題点を有している。
また、摺動時の摩擦係数への影響を少なくするため、成形体の表面平滑性や表層の剥離性の向上が求められている。
一方、例えば、特許文献4に記載されているように、ハードディスクドライブ中にあるランプと呼ばれる部品には、最近、ポリオキシメチレン樹脂が用いられている。
このランプと呼ばれる部品は、ハードディスクへの読込/書込が非稼働である際に、読込/書込部分であるスライダーヘッドがハードディスク上から退避する為の部品である。具体的には、スライダーヘッドがランプに出入りする際に、ヘッドの先端にあるタブがランプの傾斜部を擦過する。この擦過時の荷重は非常に低く(概ね、0.05N以下の荷重)、上述した比較的高い荷重(1〜2N程度の荷重)下で高摺動性を有する材料を、そのまま非常に低い荷重(0.05N以下の荷重)下の材料には適用できないことが多い。同様に、非常に低い荷重(0.05N以下の荷重)下で用いられる材料は、上述の高い荷重(1〜2N程度の荷重)下で高摺動性を有する材料として適用できないことが多い。
例えば、上述の比較的高い荷重(1〜2N程度の荷重)下で駆動するギアのような摺動性に優れた材料をランプ部品などの非常に低い荷重(0.05N以下の荷重)下に適用した場合、良好な性能を有する部品を与えるとは限らない。このような観点より、これまでの高い荷重下で用いられる摺動剤とは全く別に、非常に低い荷重(0.05N以下の荷重)下のハードディスクランプ部品等向けの材料が要求されている。
最近のハードディスクの主要な用途は、これまでのパーソナルコンピューターへの搭載から、クラウドコンピューティング対応の大容量サーバーへの搭載や、モバイルタイプのハードディスクドライブ(HDD)カセット(iVDR)等へ移り変わりつつある。
そのため、データ保管量の増大、ハードディスクへのアクセス回数の増加、及び振動や衝撃、極低温環境(例えば、−30℃等)による誤動作の防止といった高い信頼性の確保という観点での新たな特性が要求されてきている。
具体的には、ランプ部品を構成する樹脂に対して、耐摩耗性を従来技術の2倍以上に向上させるという、更なる耐摩耗性、例えば100万回を超える擦過に耐えうる摺動性が要求されてきている。
かかる要求に鑑み、特許文献4には、ポリオキシメチレン共重合体と無機充填剤と潤滑剤などを含むポリオキシメチレン組成物が開示されている。
また、潤滑剤として、無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどの変性ポリオレフィンが開示されている。
この特許文献4には、非常に低い荷重下での耐摩耗性の効果も示されている。
特開平6−49320号公報 特許第4906984号公報 特開2000−7884号公報 特開2011−208114号公報
しかしながら、上述した従来の技術においては、耐摩耗性に関して改善の余地があり、さらなる摩耗性の低減化が望まれている。また、成形工程前には樹脂ペレットを乾燥(エージング)させた後の変色の低減の要求も高まっており、さらには、摺動時の摩擦係数への影響があるため、成形体の表面平滑性や表層の剥離性の向上も併せて求められている。
そこで本発明においては、成形後の表面平滑性や剥離性に優れ、乾燥時の変色性を抑制でき、かつ、従来技術より長期間の微小荷重摺動時の摩耗量を飛躍的に低減し、さらには極低温環境下での摺動特性の向上を示すポリオキシメチレン樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリオキシメチレン樹脂に、特定の酸価と粘度をもつ酸変性ポリオレフィンを特定量含むポリオキシメチレン樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
〔1〕
(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部と、
(B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・
s以下の酸変性ポリオレフィンを0.1〜5質量部と、
を、含有する、
ポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔2〕
(C)着色剤を0.01〜3質量部、さらに含有する、前記〔1〕に記載のポリオキシ
メチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔3〕
前記(B)酸変性ポリオレフィンが、
酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含有する変性ワックスである、
前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔4〕
前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が20000以下である、前記〔1
〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔5〕
前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が500〜18000である、前記
〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔6〕
前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が1000〜15000である、前
記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔7〕
前記(B)酸変性ポリオレフィンの140℃の溶融粘度が2000mPa・s以下であ
る、前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔8〕
前記(C)着色剤が、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、ジンク
ホワイト、チタニウムホワイト、アルミナホワイト、タルク、ホワイトカーボン、シルバ
ーホワイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラ
ック、炭酸カルシウムからなる群より選ばれる無機系顔料、及び有機系染顔料からなる群
より選ばれる、少なくとも一つ以上を含む着色剤である、前記〔2〕乃至〔7〕のいずれ
か一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔9〕
(A)ポリオキシメチレン樹脂がブロックコポリマーを含む、前記〔1〕乃至〔8〕の
いずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔10〕
前記ブロックコポリマーが、ABA型ブロックコポリマーである、前記〔9〕に記載の
ポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
〔11〕
前記〔1〕乃至〔10〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体であって、
当該ハードディスク用ランプ成形体の表面における炭素と酸素との相対元素濃度比[C/O](atomic%)が1.01〜2.50である、ハードディスク用ランプ成形体。
〔12〕
前記〔1〕乃至〔10〕のいずれか一に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体ある、ハードディスク用ランプ成形体であって、
当該ハードディスク用ランプ成形体の表面が、赤外分光法により得られるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(C−O/C=O)が10〜200である、ハードディスク用ランプ成形体。
本発明によれば、長期間の微小荷重摺動時の摩耗量の低減したきわめて高い摺動特性を有し、特に、極低温環境下(例えば、−30℃等)で優れた摺動特性の向上を示し、また、成形後の表面平滑性や剥離性に優れ、さらには乾燥時の変色性が抑制されたポリオキシメチレン樹脂組成物を提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
〔ポリオキシメチレン樹脂組成物〕
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、
(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部と、
(B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィンを0.1〜5質量部と、
を、含有する。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、非常に低い荷重(例えば、0.05N以下の荷重)下において摩耗量が少ないという、きわめて高い摺動特性を有する。
上述したように、高い荷重(例えば、1〜2N程度の荷重)下での摺動性と、非常に低い荷重(例えば、0.05以下の荷重)下での摺動性との両立が困難であるのは、摺動により与えられる荷重の違い、摺動速度の違いが要因と考えられる。
非常に低い荷重下での摺動では、比較的速い摺動速度で行われることが多く、ポリオキシメチレン樹脂組成物よりなる成形体のごく表層(例えば数μmの深さ程度)までしか、摩耗破損が起こらない。これは従来の高い荷重下での摺動とは全く異なる摩耗である。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、従来公知の樹脂組成物とは異なり、非常に低い荷重下において、極表層の耐摩耗性改良に特異的に効果を発現する。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、上述のような極表層のみの摩耗破損を抑制する効果を奏し、当該効果を100万回擦過後まで維持させることも可能となる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を構成する各成分について詳述する。
((A)ポリオキシメチレン樹脂)
ここで、本実施形態の樹脂成形体において使用することができる(A)ポリオキシメチレン樹脂(本明細書において、(A)成分、(A)と記載する場合がある。)について、詳細に説明する。
本実施形態において使用可能な(A)ポリオキシメチレン樹脂としては、ポリオキシメチレンホモポリマー及びポリオキシメチレンコポリマーが挙げられる。
具体的には、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる実質上オキシメチレン単位のみから成るポリオキシメチレンホモポリマーや、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソランや1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコールやジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル若しくは環状ホルマールを、共重合させて得られるポリオキシメチレンコポリマーが挙げられる。
また、ポリオキシメチレンコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを、共重合させて得られる分岐を有するポリオキシメチレンコポリマー、並びに、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリオキシメチレンコポリマーを用いることもできる。
さらには、(A)ポリオキシメチレン樹脂は、ポリオキシメチレンの繰り返し構造単位とは異なる異種のブロックを有するブロックコポリマーを含んでいてもよい。
(A)ポリオキシメチレン樹脂がブロックコポリマーを含む場合には、その異種ブロック部分に、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を構成する、(B)酸変性ポリオレフィンを選択的及び安定的に存在させることができる。これにより、100万回を超える摺動において一層安定した耐摩耗性を発現させることが可能となる。
ここでいうブロックコポリマーとしては、下記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)のいずれかで表されるブロック部分を少なくとも一種を有するアセタールホモポリマー、もしくはアセタールコポリマー(両者をあわせて以下「ブロックコポリマー」とも記す。)が好ましい。
Figure 0006661408
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Figure 0006661408
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上記一般式(1)、(2)及び(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種の化学種を示し、R1及びR2が複数である場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
またR3は、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種の化学種を示す。
mは2〜6の整数を示し、2〜4の整数が好ましい。
nは1〜1000の整数を示し、10〜250の整数が好ましい。
上記一般式(1)で表される基は、アルコールの(ポリ)アルキレンオキシド付加物から水素原子を脱離した残基であり、上記一般式(2)で表される基は、カルボン酸の(ポリ)アルキレンオキシド付加物から水素原子を脱離した残基であり、上記一般式(3)で表される基は、(ポリ)アルキレンオキシドから水素原子を脱離した残基である。
前記ブロック成分を有するポリオキシメチレンポリマーは、例えば、特開昭57−31918号公報や特開昭60−170652号公報などに記載の方法を参考に調製できる。
上記一般式(4)中、R4は、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種の化学種を示し、R4が複数である場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
また、pは2〜6の整数を示し、2つのpは各々同一であっても異なっていてもよい。
q、rはそれぞれ正の数を示し、qとrとの合計100モル%に対してqは2〜100モル%、rは0〜98モル%であり、−(CH(CH2CH3)CH2)−単位及び−(CH2CH2CH2CH2)−単位はそれぞれランダム又はブロックで存在する。
これら式(1)〜(4)で表されるブロックコポリマーのブロック部分は、両末端もしくは片末端に水酸基などの官能基を有するブロックを構成する化合物を、ポリオキシメチレン樹脂の重合過程で末端部分と反応させることにより得られる。
ブロックコポリマー中における前記式(1)、(2)、(3)又は(4)で表されるブロック成分の挿入量は特に限定されないが、ブロックコポリマーを100質量%としたとき、0.001質量%〜30質量%であることが好ましい。
当該ブロック成分の挿入量のより好ましい上限は15質量%であり、さらに好ましくは10質量%であり、さらにより好ましくは8質量%である。
また、当該ブロック成分の挿入量のより好ましい下限は、0.01質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%であり、さらにより好ましくは1質量%である。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体の剛性を低下させない観点から、当該ブロック成分の挿入量の上限を30質量%以下とすることが好ましく、安定した摺動性を維持し続ける観点から、当該ブロック成分の挿入量は0.001質量%以上であることが好ましい。
また、ブロックコポリマー中のブロック成分の分子量は、10000以下であることが、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体の剛性を低下させない観点から好ましく、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは5000以下である。
当該ブロック成分の分子量の下限は特にないが、100以上であることが、安定した摺動性を維持し続ける観点から好ましい。
ブロックコポリマー中のブロック成分を形成する化合物としては、特に限定されないが、例えば、C1837O(CH2CH2O)401837、C1123CO2(CH2CH2O)30H、C1837O(CH2CH2O)70H、C1837O(CH2CH2O)40Hや、両末端がヒドロキシル基であるポリエチレングリコール、両末端がヒドロキシル基であるポリプロピレングリコール、両末端がヒドロキシル基である水素添加ポリブタジエン、両末端ヒドロキシアルキル化ポリエチレングリコール、両末端ヒドロキシアルキル化ポリプロピレングリコール、両末端ヒドロキシアルキル化水素添加ポリブタジエンなどが挙げられる。
前記ブロックコポリマーは、その結合形式として、ABA型ブロックコポリマーであることが好ましい。
ここで、ABA型ブロックコポリマーとは、例えば、ポリオキシメチレンセグメントAと、両末端に水酸基(ヒドロキシル基)などの官能基を有するブロックを構成する化合物(セグメントB(以下「B」とも記す))を、ポリオキシメチレン樹脂の重合過程で末端部分と反応させることにより得られる。
両末端に水酸基(ヒドロキシル基)などの官能基を有するブロックを構成する化合物として、例えば、両末端がヒドロキシル基であるポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキシド、両末端ヒドロキシ基である水素添加ポリブタジエンを用いることで、Bとして前記式(3)や(4)で表されるブロックを有するABA型ブロックコポリマーが得られる。
上述の式(1)、式(2)、式(3)又は式(4)で表されるブロック成分は、ヨウ素価20g−I2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。
不飽和結合としては、特に限定されないが、例えば炭素−炭素二重結合が挙げられる。
前記ブロック成分を有するポリオキシメチレンコポリマーとしては、例えば、特開昭60−170652号公報や国際公開第01/09213号に開示されたポリオキシメチレンブロックコポリマーが挙げられ、その公報に記載の方法を参考に調製できる。
ブロックコポリマーとしてABA型ブロックコポリマーを用いることで、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体において、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を構成する摺動剤として機能するポリマーをより一層安定的に微分散させることが可能となる傾向にあり、表層付近に多くの摺動剤として機能するポリマーを含む分散相を存在させることができる傾向にあり、100万回を超える摺動において最後まで安定した耐摩耗性をより一層発現させることが可能となる傾向にある。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体を構成する(A)ポリオキシメチレン樹脂としては、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー、架橋構造を有するポリオキシメチレンコポリマー、ブロック部分を有するホモポリマーベースのブロックコポリマー、及びブロック成分を有するコポリマーベースのブロックコポリマーのいずれも用いることができ、これらを併用することもできる。
また、(A)ポリオキシメチレン樹脂として、例えば分子量の異なる組み合わせや、コモノマー量の異なるポリオキシメチレンコポリマーの組み合わせ等も適宜使用可能である。
これらの中でも、本実施形態においては、(A)ポリオキシメチレン樹脂として、ブロックコポリマーを含むことが好ましい形態として挙げられる。
(A)ポリオキシメチレン樹脂としてブロックコポリマーを含むことにより、樹脂成形体としての剛性と、100万回を超える摺動での安定した耐摩耗性を両立させることがより一層可能となる傾向にある。
(A)ポリオキシメチレン樹脂中のブロックコポリマーの比率は、(A)ポリオキシメチレン樹脂全体を100質量%としたとき、5質量%〜95質量%であることが好ましい。
当該ブロックコポリマーの比率のより好ましい上限は、90質量%であり、さらに好ましくは75質量%であり、さらにより好ましくは65質量%であり、よりさらに好ましくは60質量%である。
また、当該ブロックコポリマーの比率のより好ましい下限は10質量%であり、さらに好ましくは25質量%であり、さらにより好ましくは35質量%であり、よりさらに好ましくは40質量%である。
なお、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体における、当該ブロックコポリマーの比率は、1H−NMRや13C−NMR等により測定することができる。
((B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃の溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィン)
次に本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物が含有する、(B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィン(本明細書において、(B)成分、(B)と記載する場合がある。)について詳細に説明する。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に用いる(B)成分は、特に限定されないが、ポリオレフィンワックスの酸化反応により酸性基を導入したり、ポリオレフィンを酸化分解したり、ポリオレフィンワックスに無機酸、有機酸あるいは不飽和カルボン酸などを反応させてカルボキシル基やスルホン酸基などの極性基を導入したり、ポリオレフィンワックス重合時に酸性基を持つモノマーを導入する方法により得られる。
これらは、酸化変性型或いは酸変性型ポリオレフィンワックスなどの名称で市販されており、容易に入手することができる。
ポリオレフィンワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、特殊モノマー変性型などが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン−ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等などが挙げられる。
上記(B)成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B)成分としては摺動性改良効果の観点からパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの酸変性物、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体の酸変性物が好ましい。
(B)成分は、特に、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含む変性ワックスであることが好ましい。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に用いる(B)成分は、酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィンである。
(B)成分の酸価を上述の範囲とすることで、乾燥時の変色性を抑制し、微小荷重の高温摺動時の耐摩耗性が良好となる傾向にある。
酸価の好ましい下限量は、2.5mg−KOH/gであり、より好ましくは3mg−KOH/gであり、さらに好ましくは4mg−KOH/gである。
また酸価の好ましい上限量は、24mg−KOH/gであり、より好ましくは23mg−KOH/gであり、さらに好ましくは20mg−KOH/gであり、さらにより好ましくは18mg−KOH/gである。
(B)成分の酸価はJIS K0070に準拠した方法により測定できる。
(B)成分の酸価は、上述した酸性基の導入量、極性基の導入量を調整することにより、制御することができる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に用いる(B)成分は、酸価が2〜25mg−KOH/gであり、さらに140℃溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィンである。
(B)成分の140℃溶融粘度の下限は特に限定されるものではないが、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の溶融混練時の加工性の観点から、1mPa・sが好ましく、20mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは25mPa・sであり、さらにより好ましくは30mPa・sであり、よりさらに好ましくは50mPa・sである。
また(B)成分の140℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sである。
上記範囲内とすることで、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の溶融混練時に、ポリオキシメチレン樹脂ペレットが完全溶融となり、混練が十分に行われる傾向にある。
(B)成分の140℃の溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定できる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物においては、(B)成分は、(A)成分100質量部に対して0.1〜5質量部含まれる。
(B)成分の量を(A)成分100質量部に対して0.1質量部以上とすることで、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の摺動性が向上する傾向にある。
また5質量部以下とすることで、ポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体における表面平滑性が良好となる傾向にある。
(B)成分の含有量の好ましい下限量は、(A)成分100質量部に対して、0.2質量部であり、より好ましくは0.3質量部であり、さらに好ましくは0.8質量部である。
また、(B)成分の含有量の好ましい上限量は、(A)成分100質量部に対して、4.5質量部であり、より好ましくは4質量部であり、さらに好ましくは3.5質量部である。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に用いる(B)成分は、重量平均分子量が10万以下であることが好ましい。
本実施形態においては、表層近傍における酸変性ポリオレフィンの存在状態が摺動特性に大きな影響を与えるため、(B)成分の重量平均分子量は重要である。すなわち、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(B)成分として重量平均分子量10万以下の酸変性ポリオレフィンを用いることで、100万回を超える摺動回数における耐摩耗性の維持を達成可能となる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に用いる(B)成分の重量平均分子量の下限は特にないが、取扱いの容易さから、100以上であることが好ましい。より好ましくは200であり、さらに好ましくは500であり、さらにより好ましくは800であり、よりさらに好ましくは1000であり、最も好ましくは2000である。
上記範囲とすることで(B)成分の分子間の凝集を抑え、良分散が可能となる。
このことにより、成形体の剥離性が良好となる傾向にある。
また(B)成分の重量平均分子量の好ましい上限は、90000であり、より好ましくは20000であり、さらに好ましくは18000であり、さらにより好ましくは15000であり、よりさらに好ましくは13000である。
本実施形態に用いる(B)成分の分子量分布の下限は特にないが、摺動時の摩擦係数の安定性の観点から、1.0が目安である。
また(B)成分の分子量分布の好ましい上限は9.0であり、より好ましくは8.5であり、さらに好ましくは8.0であり、さらにより好ましくは7.5である。
なお、本実施形態に用いる(B)成分の重量平均分子量及び分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン換算で算出される。
本実施形態に用いる(B)成分の融点の下限は特にないが、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の溶融混練時の取扱いの容易さから、80℃が好ましい。
また(B)成分の融点の好ましい上限は、145℃であり、より好ましくは140℃であり、さらに好ましくは135℃であり、さらにより好ましくは130℃である。
なお、(B)成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定できる。
((C)着色剤)
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、付加的成分(任意成分)として、(C)着色剤を含有してもよい。
(C)着色剤について詳細に説明する。
(C)着色剤とは、可視光の吸収、散乱、反射等の作用により外観に変化をもたらす物質をいう。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(C)着色剤(本明細書において、(C)成分、(C)と記載する場合がある。)を(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、0.01〜3質量部、含有することが好ましい。
本実施形態においては、ポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体中に存在する(C)着色剤は、本来の目的の着色以外に、(B)成分と組み合わせることによって、耐摩耗性のさらなる改善という重要な役割を有する。
優れた耐摩耗性を得る観点から、上述の範囲内の量で、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物中に着色剤を含有させることが重要である。
(C)着色剤の存在による耐摩耗性の改善の理由は明らかではないが、(C)着色剤により成形体の表面硬度を向上させて耐摩耗性を向上させていること、(C)着色剤が(B)所定の酸変性ポリオレフィンを保持し、表層付近に偏在させていることなどが考えられる。
(C)着色剤は以下に限定されるものではないが、無機系顔料と有機系染顔料等が挙げられる。
無機系顔料としては、樹脂の着色用として一般的に使用されている無機系顔料が挙げられる。
無機系顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、鉄、亜鉛及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、鉄、亜鉛及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の炭酸塩、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミ酸コバルト、バライト粉、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、フェロシアン化鉄カリ、カオリン、チタンイエロー、コバルトブルー、ウルトラマリン青、カドミウム、ニッケルチタン、リトポン、ストロンチウム、アンバー、シェンナ、アズライト、マラカイト、アズロマラカイト、オーピメント、リアルガー、辰砂、トルコ石、菱マンガン鉱、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、サンゴ粉、白色雲母、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレッド、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、プルシアンブルー、オーレオリン、タルク、ウォラストナイト、雲母チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、植物性黒、骨炭、炭酸カルシウム、紺青等が挙げられる。
なお、前記「金属の酸化物」は、鉄、亜鉛若しくはチタンから選ばれる2種以上の金属からなる「複合金属酸化物」も包含する。
(C)着色剤としては、鉄、亜鉛及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物、鉄、亜鉛及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の炭酸塩、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、アルミナホワイト、タルク、ホワイトカーボン、シルバーホワイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、炭酸カルシウムが、好ましいものとして挙げられる。
これらの中でも、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の耐摩耗性の観点から、モース硬度が8以下である着色剤が好ましい。より好ましくはモース硬度が7以下であり、さらに好ましくはモース硬度が6以下である。
なお、(C)着色剤のモース硬度は、モース硬度計により測定することができる。
有機系染顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、縮合アゾ系、キノン系、フタロシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系等の有機系染顔料が挙げられる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の熱安定性の観点から、有機系染顔料としては、縮合アゾ系、キノン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、又はフタロシアニン系の有機系染顔料が好ましい。より好ましくは、縮合アゾ系、キノン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、ベリレン系、又はフタロシアニン系の有機系染顔料である。さらに好ましくは、キノン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、複素環系、キナクリドン系、ベリレン系、又はフタロシアニン系の有機系染顔料である。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物に含有されている(C)着色剤のより好ましい上限量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、2.5質量部であり、さらに好ましくは2.0質量部であり、さらにより好ましくは1.5質量部であり、よりさらに好ましくは1.0質量部であり、特に好ましくは0.8質量部である。
また、(C)着色剤のより好ましい下限量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して0.03質量部であり、さらに好ましくは0.05質量部であり、さらにより好ましくは0.1質量部である。
上記のように、(C)着色剤の含有量を3質量部以下とすることにより、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、微小荷重摺動時の摩耗特性を改善効果が十分に得られる。
一方、(C)着色剤の含有量を0.01質量部以上とすることにより、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、十分な着色性を維持することができる。
(その他の添加剤)
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、従来公知の、ポリオキシメチレン樹脂組成物に使用されている各種安定剤を含有することができる。
安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記の酸化防止剤、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤が挙げられる。
これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記酸化防止剤としては、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものが、適宜使用可能である。
ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤としては、以下に限定されるものではなく、例えば、メラミンやポリアミド系樹脂といったホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩が挙げられる。具体例としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)が挙げられる。前記脂肪酸は、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。
上述したそれぞれの安定剤の添加量は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1〜2質量部、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤、例えばホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体が0.1〜3質量部、アルカリ土類金属の脂肪酸塩が0.1〜1質量部の範囲であると好ましい。
〔本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、例えば、(A)ポリオキシメチレン樹脂と(B)酸変性ポリオレフィン、必要に応じて(C)着色剤、その他の添加剤を、溶融混練することにより得ることができる。
ここで、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部に対して、(B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・s以下の酸変性ポリオレフィンを0.1〜5質量部含む。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を得る方法としては公知の方法が用いられる。
例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等が挙げられるが、中でも、減圧装置やサイドフィーダー設備等を装備した2軸押出機が特に好ましく使用できる。
原料成分を混合及び溶融混練する方法としては、特に限定されず、当業者が周知の方法を利用可能である。
例えば、(A)成分、(B)成分を、すべて、予めスーパーミキサー、タンブラー、V字型ブレンダーなどで混合し、二軸押出機で一括溶融混練する方法、(A)成分を二軸押出機等に供給し、溶融混練しつつ、押出機途中から(B)成分を溶融し液体状態で添加する方法等が挙げられるが、これらはいずれも問題なく利用可能である。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、上記押出機により製造した場合、ペレット形状として得られる。
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む。
成形体を得るための方法については特に制限されるものではなく、公知の成形方法を適用できる。
例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれも適用することができる。
成形体の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、ギヤ、カム、ローラー、ハードディスク内部部品(ランプ、ラッチ材)やシート、具体的には押出シート等が挙げられる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体は、上述したごく表層のみの摩耗破損を抑制する効果を奏し、当該効果を100万回擦過後まで維持させることも可能となる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体は、特殊な表層を有することにより、このような効果を奏すると考えられる。
本実施形態でいう特殊な表層とは、成形体の表面における炭素と酸素との相対元素濃度比[C/O](atomic%)(以下、「C/O比」と略する事がある)が1.01〜2.50である表層である。
該相対元素濃度比[C/O]は、後述の方法で測定することができる。
一般的にポリアセタール樹脂単独であれば、C/O比は、構成元素比率より、1.00である。これに種々の摺動剤を加えると、表層のC/O比は変化する。一般的に用いられる摺動剤としては、比較的低分子量のエステル系化合物やアミド系化合物または、ポリオレフィン等の高分子摺動剤である。このような摺動剤を通常の方法で配合しただけでは、C/O比を1.01〜2.50の範囲に制御することはできない。
具体的には、摺動剤として比較的低分子量のエステル系化合物やアミド化合物を、ポリアセタール樹脂に特段の工夫なく、単純に配合すると、これらエステル系化合物やアミド系化合物が、成形体表層に多量にブリードアウトし、表層のC/O比は2.5を大きく超える。この場合、得られる成形体の非常に小さい荷重下での耐摩耗性(以下、「微小荷重摩耗」と略することがある。)は、初期はブリードアウトした摺動剤により良好となるが、摺動によりブリードアウト物が除去されると急激に悪化する傾向となる。
また、例えば、摺動剤として、低分子量のエステル系化合物やアミド化合物ではなく、ポリオレフィン等の高分子摺動剤を単独で用いた場合には、表層のC/O比はポリアセタール樹脂と同じ1.00となる。これは、高分子摺動剤が表層から数μm〜10μmの深さにしか存在しないためと考えられる。これは表面に高分子摺動剤が露出していないことを表している。この場合は、微小荷重摩耗は摺動初期から悪化していき、100万回を超える耐擦過性という新たな要求には応えることができない。
本実施形態でいうC/O比の値を測定するための方法について、以下に例示する。
成形体表面におけるC/O比は、樹脂組成物の成形体の表面を、高性能X線光電子分光装置(一般的にはXPSと称されている)を用いて測定することで容易に得ることができる。これら解析機器は一般的であり、例えば、フィッシャーサイエンティフィック株式会社製のESCALAB250等が挙げられる。
測定時の励起源としては、monoAlKα等を用いることが好ましい。
また成形体表面に付着した付着汚染成分の影響を除くため、成形体表面を、洗浄剤(例えば、VALTRON DP97031の水溶液)で超音波洗浄し、純水で洗浄し、オーブン等で乾燥する。
XPS測定でのC濃度は、ピークトップが284eVから288eVの範囲のピーク面積、O濃度はピークトップが530eVから536eVの範囲のピーク面積とし、各ピーク面積の比から相対元素濃度を算出できる。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体の表面におけるC/O比とは、後述するポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体を構成する、摺動剤として機能する(B)酸変性ポリオレフィンのブリードアウトの量の指標である。本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体の表面におけるC/O比は、上限が2.50であり、下限が1.01であることが好ましい。
例えば、ランプ成形体表面に(B)酸変性ポリオレフィンが多量にブリードアウトすると、表面を摺動するタブにブリードアウト物が付着、蓄積及び脱落し、ハードディスクの読み取り障害を生む原因となるため好ましくない。樹脂成形体の表面におけるC/O比の上限を2.50とすることにより、前記のような不具合を抑制した、良好な樹脂成形体を得ることができる。
より好ましい樹脂成形体表面におけるC/O比の上限は2.30であり、さらに好ましくは2.00であり、さらにより好ましくは1.90であり、よりさらに好ましくは1.80である。
樹脂成形体表面におけるC/O比の下限は、ブリードアウトが極めて少量である状態、すなわちポリアセタールそのものの表層に非常に近いことを示す1.01であることが好ましい。より好ましいC/O比の下限は1.03であり、さらに好ましくは1.05、さらにより好ましくは1.08であり、よりさらに好ましくは、1.10である。
本実施形態でいう特殊な表層を有する成形体とするためのより好ましい表層として、例えば、赤外分光法により得られる、成形体表面におけるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(C−O/C=O)が10〜200であることが挙げられる。
本実施形態でいう赤外分光法により得られる、成形体表面におけるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(以下、単にピーク強度比(C−O/C=O)と略することがある)の値を得るための方法について述べる。
樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)は、樹脂成形体の表面を赤外分光光度計の全反射法(ATR法)を用いて測定及び解析することで容易に得ることができる。これら測定機器は、例えば、一般的に市販されているPerkin−Elmer社製のSpectrum One等を用いることができる。
ATR法は、樹脂成形体に接触させた結晶内に入射した赤外光が、結晶内を複数回反射しながら樹脂成形体表面に吸収されていくことを利用した、表面状態の情報を得るための測定方法である。この時、成形体表面には、エバネッセント波と呼ばれる、成形体に赤外線が滲み込む現象が起きる。その深さは、波長や、結晶の種類により若干異なるが、概ね約数μmである。すなわち、赤外分光光度計の全反射法(ATR法)を用いて測定及び解析された樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)は、成形体の表層から数μmの深さの情報である。本実施形態においてATR法で用いる結晶は、滲み込み深さという観点からダイヤモンド/ZnSeを用いるのが好ましい。
得られたスペクトルは、吸光度比として解析される。具体的には、C−O(ポリアセタールの繰り返し構造由来)の信号として、1040cm-1から1160cm-1の間にあるピーク強度(ピーク高さ)を、C=Oの信号としては、1600cm-1から1750cm-1の間にあるピーク強度をそれぞれ算出し、そのピーク強度比(C−O/C=O)を樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)とする。この際、誤差をなくすため、ピーク強度を求める際の、ベースラインを、それぞれ1040cm-1から1160cm-1、1590cm-1から1760cm-1に直線に引き、該ベースラインからの高さをピーク強度として読み取る。
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体の表面のピーク強度比(C−O/C=O)とは、後述する本実施形態の樹脂成形体を構成する(B)酸変性ポリオレフィンの、表層近傍(深さ数μm以内)に存在する量の指標である。
当該ピーク強度比(C−O/C=O)は、10〜200であることが好ましい。この値が200を超えるということは、表層近傍には、後述する本実施形態の樹脂成形体を構成する(B)酸変性ポリオレフィンがほとんど存在していないことを示しており、10を下回るということは、極めて多量の(B)酸変性ポリオレフィンが表層付近に偏在していることを示す。100万回を超える擦過回数での高い摺動性を維持し、かつ表層での表層剥離による摩耗性悪化を抑制する観点から、樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)を10〜200の間にすることが好ましい。
本実施形態おけるより好ましい樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)の上限は180であり、さらに好ましくは150であり、さらにより好ましくは140である。またより好ましい樹脂成形体表面のピーク強度比(C−O/C=O)の下限は、15であり、さらに好ましくは20であり、さらにより好ましくは25である。
〔用途〕
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物及び当該樹脂組成物を含む成形体は、微小荷重下での繰り返し摺動が要求される用途に好適に使用可能である。
具体的には、ハードディスク内部部品(ハードディスク用ランプ、ラッチ材)、時計内部部品(ギヤ、テンプ、アンクル、ガンギ車等)等が挙げられる。
これら以外に、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物を含む成形体が高い摺動性を有することから、ポリオキシメチレンとして公知の用途に適用可能である。
以下に限定されるものではないが、例えば、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイド等に代表される機構部品;アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター、及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品;デジタルビデオカメラ、及びデジタルカメラ等の映像機器用部品;CD、DVD、Blu−ray(登録商標)Disc、その他光デイスクのドライブ;ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品;電気機器用部品;電子機器用部品等が挙げられる。
また、自動車部品としては、例えば、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品;ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品;シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品;コンビスイッチ部品、スイッチ類、クリップ類等の部品に適用可能である。
さらには、その他用品として、筆記具のペン先、芯を出し入れする機構部品;洗面台、排水口、及び排水栓開閉機構部品;衣料用のコードストッパー、アジャスター、ボタン;散水用のノズル、散水ホース接続ジョイント;階段手すり部、及び床材の支持具である建築用品;玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機(開閉部ロック機構、商品排出機構部品)、家具、楽器、住宅設備機器部品としても好適に使用できる。
以下、本実施形態について具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例のポリオキシメチレン樹脂組成物及びその成形体に対する製造条件、及び特性評価項目を以下に示す。
〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕
(1)ポリオキシメチレン樹脂組成物の押出加工
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM−26SS押出機(L(スクリュー有効長さ)/D(スクリュー直径)=48、ベント付き)を用いて、シリンダー温度をすべて200℃に設定し、後述する(A)成分、(B)成分、必要に応じて(C)成分を一括混合し、押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数150rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断し、ペレット形状のポリオキシメチレン樹脂組成物を得た。
(2)成形加工(射出成形機による多目的試験片形状成形体の製造)
射出成形機(EC−75NII、東芝機械(株)製)を用いて、シリンダー温度を205℃に設定し、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、ISO294−1に準拠した多目的試験片形状の成形体を得た。
この際の金型温度は、80℃とした。
(3)成形体の洗浄
前記(2)で得られた成形体の表層の付着物を除去する為、市販の精密機器用洗浄剤(VALTRON DP97031(登録商標))の1.5%水溶液を用いて、50℃の条件で3分間超音波洗浄を行い表面の有機物を除去したのち、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水を用いて、室温条件下で15分超音波処理を行い、洗浄を実施した。
次いで洗浄後の試料を、乾燥オーブンで80℃、1時間乾燥処理を行い、測定用のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体(多目的試験片形状成形体)を得た。
〔特性評価〕
(1)微小荷重時の摺動試験(耐摩耗特性)
ボールオンディスク型摩擦摩耗試験機(Nano tribometer2(登録商標)、TTX−NTR2型、CSM Instruments(株)製)を用いて、荷重0.1N、摺動速度200mm/sec、往復距離10000μm、往復回数120万回の条件で、上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕の(3)で得た多目的試験片形状成形体の摺動試験を実施した。
ボール材料としてはSUJ2ボール(直径1.5mmの球)を用いた。
試験環境は23℃、湿度50%(摺動試験−1)と、−30℃、湿度10%(摺動試験−2)の環境下で、それぞれ実施した。
(2)耐摩耗特性の評価方法
上記〔特性評価〕の、「(1)の摺動試験」の後の成形体の摩耗量(摩耗断面積)を、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。
摩耗断面積はn=4で測定した数値の平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。
測定箇所は摩耗痕の端より2000μmの等しい間隔をあけて実施した。
また摩耗断面積は数値が低い方が摩耗特性に優れると評価した。
(3)表面平滑性
上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(2)成形加工(射出成形機による多目的試験片形状成形体の製造)を実施して得られた成形体3本を、5人が目視で確認し判定した。
判定値は5人の平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。
判定基準は以下のとおりである。
数字が小さい方がより表面平滑性に優れると判断した。
1:凹凸を確認できない。
2:凹凸を少し確認できる。
3:凹凸を確認できる。
4:凹凸を強く確認できる。
5:凹凸をかなり強く確認できる。
(4)エージング前後の色差
上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(1)ポリオキシメチレン樹脂組成物の押出加工を実施して得られたペレット形状のポリオキシメチレン樹脂組成物を、145℃に設定したオーブンに入れ、48時間のエージング処理を行った。
得られたペレットの色調を乾燥前のペレットの色調と比較して色差を判定した。
判定は5人が目視で判定を行った。
エージング処理前後の色の違いにより、変色の有無を確認するとともに、変色のあるペレットについては、変色度合いを以下の基準で評価した。
数字が小さい方がよりエージング前後の色差に優れると判断した。
1:変色は認められなかった。
2:わずかに黄色に変色した。
3:濃い黄色がかった変色をした。
4:明らかな茶変色をした。
5:濃い茶色へ変色した。
(5)剥離性
射出成形機(EC−75NII、東芝機械(株)製)を用いて、シリンダー温度設定を205℃に設定し、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、φ60歯車上のギヤ成形体を得た。
この際の金型温度は、80℃とした。このギヤ成形体3個のゲート部とウェルド部をカッターを用いて碁盤の目(1mm間隔)状に切削し、セロハンテープを用いた剥離試験を行った。
判定値はn=3平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。
判定基準は以下のとおりである。
数字が小さい方がより剥離性に優れると判断した。
1:剥離が認められなかった。
2:全体の約10%以下のわずかな剥離が認められた。
3:全体の40%以下が剥離した。
4:全体の70%以上が剥離した。
5:全体の90%以上が剥離した。
(6)相対元素濃度比[C/O]
上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(2)成形加工(射出成形機による多目的試験片形状成形体の製造)、上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(3)成形体の洗浄で得られた多目的試験片の表面における炭素と酸素の相対元素濃度比[C/O](atomic%)を、以下のとおり測定した。
測定機器はフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のESCALAB250を用い、励起源としてmonoAlKα(15kV×10mA)を用いた。測定時の試料は、サイズを約1mm(形状は楕円)に切り出した後、成形体の表層の付着物を除去する為、市販の精密機器用洗浄剤(VALTRON DP97031)の1.5%水溶液を用いて、50℃の条件で3分間超音波洗浄を行い表面の有機物を除去したのち、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水で室温条件下で15分超音波処理を行い、洗浄を実施した。次いで洗浄後の試料を、乾燥オーブンで80℃、1時間乾燥処理を行い、測定に供した。当該測定において、光電子取込み角は0°(分光器の軸と試料面が垂直)とし、取込領域はSurvey scanが0〜1100eV、Narrow scanがC 1s、O 1s、N 1sの領域とした。また、Pass EnergyはSurvey scanが100eV、Narrow scanが20eVで実施した。このときのC濃度は、各ピークトップが284eVから288eVの範囲のピーク面積比とした。またO濃度は各ピークトップが530eVから536eVの範囲のピーク面積比とした。各ピークの面積比から相対元素濃度を算出し、四捨五入して1atomic%以上のものは有効数字2桁で、1atomic%未満のものは有効数字1桁で算出した。これらの各元素濃度の比を「表面における炭素と酸素との相対元素濃度比」とした。
(7)ピーク強度比(C−O/C=O)
上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(2)成形加工(射出成形機による多目的試験片形状成形体の製造)、上記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕中の(3)成形体の洗浄で得られた多目的試験片形状の成形体表面におけるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(C−O/C=O)は、以下のとおり赤外分光法で解析することにより得た。
測定機器はPerkin−Elmer社製のSpectrum Oneを用い、ATR法(結晶:ダイヤモンド/ZnSe)により行った。測定範囲を500cm-1から4000cm-1、波数分解能を4cm-1とし、積算回数を16回とした。測定時のC−O(ポリアセタールの繰り返し構造由来)の信号として1090cm-1のピーク強度(ピーク高さ)、C=Oの信号として1600cm-1から1750cm-1のピーク強度をそれぞれ算出し、「成形体表面におけるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(C−O/C=O)」を求めた。なお、ピーク強度を求める際に、直線のベースラインを、それぞれ1040cm-1から1160cm-1、1590cm-1から1760cm-1に引いた上で、ベースラインより正の高さをピーク強度として読み取った。
〔ポリオキシメチレン樹脂組成物の原料成分〕
後述する実施例及び比較例に用いたポリオキシメチレン樹脂組成物の原料成分を以下に説明する。
((A)ポリオキシメチレン樹脂の製造例)
<(A1)ポリオキシメチレンコポリマー>
熱媒を通すことができるジャッケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8(L:重合機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:重合機の内径(m))を80℃に調整した。
前記重合機に、トリオキサンを4kg/時間、コモノマーとして1,3−ジオキソランを128.3g/時間、連鎖移動剤としてメチラールをトリオキサン1モルに対して0.25×10-3モルを連続的に添加した。
さらに前記重合機に、重合触媒として三フッ化硼素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対して1.5×10-5モルで連続的に添加し重合を行った。
重合機より排出されたポリオキシメチレンコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。
失活されたポリオキシメチレンコポリマーを遠心分離機でろ過した後、ポリオキシメチレンコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合し、ベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリオキシメチレンコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分で、ポリオキシメチレンコポリマーの不安定末端部分の分解除去を行った。
この時、第4級アンモニウム化合物の添加量は、窒素量に換算して20質量ppmとした。
不安定末端部分の分解されたポリオキシメチレンコポリマーに、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.3質量部を添加し、ベント付き押出機で真空度20Torrの条件下で脱揮しながら、押出機ダイス部よりストランドとして押出し、ペレタイズした。
このようにして得られたポリオキシメチレンコポリマーを、ポリオキシメチレン樹脂(A1)とした。
ポリオキシメチレン樹脂(A1)のメルトフローレートは9g/10分(ISO−1133条件D)であった。
<(A2)ポリオキシメチレンブロックコポリマー>
熱媒を通すことのできるジャケット付きの2軸パドル型連続重合機を80℃に調整した。
トリオキサンを40モル/時間、環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを2モル/時間、重合触媒としてシクロヘキサンに溶解させた三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対し5×10-5モルとなる量、連鎖移動剤として下記式(5)で表される両末端ヒドロキシル基水素添加ポリブタジエン(数平均分子量Mn=2330)をトリオキサン1モルに対し1×10-3モルになる量で、前記重合機に連続的に供給し重合を行った。
Figure 0006661408
次に、前記重合機から排出されたポリマーを、トリエチルアミン1%水溶液中に投入し、重合触媒の失活を完全に行った後、そのポリマーを濾過、洗浄して、粗ポリオキシメチレンブロックコポリマーを得た。
粗ポリオキシメチレンブロックコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合し、ベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリオキシメチレンブロックコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分で、ポリオキシメチレンブロックコポリマーの不安定末端部分の分解除去を行った。
この時、第4級アンモニウム化合物の添加量は、窒素量に換算して20質量ppmとした。
不安定末端部分の分解されたポリオキシメチレンブロックコポリマーに、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.3質量部を添加し、ベント付き押出機で真空度20Torrの条件下で脱揮しながら、押出機ダイス部よりストランドとして押出し、ペレタイズした。
このようにして得られたポリオキシメチレンブロックコポリマーを、(A2)ポリオキシメチレンブロックコポリマーとした。
このブロックコポリマーは、ABA型ブロックコポリマーであり、メルトフローレートが10.0g/10分(ISO−1133 条件D)であった。
((B)成分 酸変性ポリオレフィン)
下記〔表1〕のB1〜B6、B9、B10の酸変性ポリオレフィンは特開2004−75749号公報に記載の「実施例1又は2」に記載の方法により得た。
下記〔表1〕のB7は、市販の高密度ポリエチレンを酸素雰囲気下で熱分解を行い得た。
下記〔表1〕のB11は、 特開昭62−167308号公報に記載の「実施例1」に記載の方法で得た。
下記〔表1〕のB8、B12は市販のものを購入し用いた。
Figure 0006661408
なお、(B)成分の重量平均分子量及び分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン換算で算出した。
また、(B)成分の酸価は、JIS K0070に準拠した方法により測定した。
また、(B)成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定した。
さらに(B)成分の140℃溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定した。
((C)成分 着色剤)
<(C1)>
亜鉛/鉄複合酸化物:モース硬度5
<(C2)>
酸化亜鉛:モース硬度5
<(C3)>
酸化鉄:モース硬度6
<(C4)>
酸化チタン:モース硬度7
なお、本実施形態において、モース硬度は、モース硬度計により測定した。
〔実施例1〜7、比較例1〜4〕
各成分を下記〔表2〕に記載の割合で混合し、前記〔ポリオキシメチレン樹脂組成物、及び成形体の製造〕の「(1)ポリオキシメチレン樹脂組成物の押出加工」に記載の要領で溶融混練し、「(2)成形加工(射出成形機による多目的試験片形状成形体の製造)」の要領で成形体を製造し、各種性能の評価を実施した。
摺動試験においては、さらに「(3)成形体の洗浄」を行い、各種性能の評価を実施した。
Figure 0006661408
〔実施例1〜7、比較例1〜4〕の対比は酸変性ポリオレフィンの分子構造を変化させた比較である。
これらの結果から、酸価が所定の数値範囲内であり、140℃溶融粘度が所定の数値範囲内の酸変性ポリオレフィンのポリオキシメチレン樹脂組成物は、摺動試験−1及び摺動試験−2による耐摩耗特性、さらには表面平滑性、エージング前後の色差、剥離性のいずれにも優れていることが分かった。
〔実施例8〜12、比較例5〕
各成分を下記〔表3〕の割合で混合した以外は、前記〔実施例1〕と同様にポリオキシメチレン樹脂組成物成形体を製造し、各種性能の評価を実施した。
Figure 0006661408
〔実施例8〜12、比較例5〕は、〔実施例6〕の酸変性ポリオレフィンのポリオキシメチレン樹脂の添加量を変えたものである。
上記のように、ポリオキシメチレン樹脂に特定の酸変性ポリオレフィンを5質量部(phr)以下に添加した組成のポリオキシメチレン樹脂組成物は、摺動試験−1、2による耐摩耗特性、表面平滑性、エージング前後の色差、さらには剥離性に優れることが分かった。
〔実施例13〜16、比較例6、7〕
各成分を下記〔表4〕の割合で混合した以外は、前記〔実施例1〕と同様にポリオキシメチレン樹脂組成物及び成形体を製造し、各種性能の評価を実施した。
Figure 0006661408
〔実施例13〜16〕は、前記〔実施例2〕のポリオキシメチレン樹脂と異なるポリオキシメチレン樹脂をさらに用いたポリオキシメチレン樹脂組成物の対比である。
これらの結果から、(A)ポリオキシメチレン樹脂を変えても、各評価項目において良好な結果が得られることが分かった。
一方、〔比較例6、7〕の結果から、特定の酸変性ポリオレフィンを用いることが、耐摩耗特性、表面平滑性、エージング前後の色差、剥離性などに有効であることが分かった。
〔実施例17〜24〕
各成分を下記〔表5〕の割合で混合した以外は、前記〔実施例1〕と同様にポリオキシメチレン樹脂組成物及び成形体を製造し、各種性能の評価を実施した。
Figure 0006661408
〔実施例17〜24〕は、〔実施例6〕と比較し、(C)顔料を添加した比較である。
これらの結果から、顔料を追加した場合においても、摺動試験−1、2による耐摩耗特性、表面平滑性、エージング前後の色差、剥離性のいずれにおいても優れていることが分かった。
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、非常に小さい荷重での耐摩耗性を必要とするハードディスクランプ部品や、腕時計等の内部部品等はもとより、これまでポリオキシメチレンが好適に使用されてきた種々の部品用途へ適用可能であり、高い産業上の利用可能性を有している。

Claims (12)

  1. (A)ポリオキシメチレン樹脂100質量部と、
    (B)酸価が2〜25mg−KOH/gであり、140℃溶融粘度が2900mPa・
    s以下の酸変性ポリオレフィンを0.1〜5質量部と、
    を、含有する、
    ポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  2. (C)着色剤を0.01〜3質量部、さらに含有する、請求項1に記載のポリオキシメ
    チレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  3. 前記(B)酸変性ポリオレフィンが、
    酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含有する変性ワックスである、
    請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  4. 前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が20000以下である、請求項1
    乃至3のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  5. 前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が500〜18000である、請求
    項1乃至4のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  6. 前記(B)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が1000〜15000である、請
    求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  7. 前記(B)酸変性ポリオレフィンの140℃の溶融粘度が2000mPa・s以下であ
    る、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  8. 前記(C)着色剤が、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、ジンク
    ホワイト、チタニウムホワイト、アルミナホワイト、タルク、ホワイトカーボン、シルバ
    ーホワイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラ
    ック、炭酸カルシウムからなる群より選ばれる無機系顔料、及び有機系染顔料からなる群
    より選ばれる、少なくとも一つ以上を含む着色剤である、請求項2乃至7のいずれか一項
    に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  9. (A)ポリオキシメチレン樹脂がブロックコポリマーを含む、請求項1乃至8のいずれ
    か一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  10. 前記ブロックコポリマーが、ABA型ブロックコポリマーである、請求項9に記載のポ
    リオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体
  11. 請求項1乃至10のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体であって、
    当該ハードディスク用ランプ成形体の表面における炭素と酸素との相対元素濃度比[C/O](atomic%)が1.01〜2.50である、ハードディスク用ランプ成形体。
  12. 請求項1乃至10のいずれか一項に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物の成形体である、ハードディスク用ランプ成形体であって、
    当該ハードディスク用ランプ成形体の表面が、赤外分光法により得られるC−O伸縮振動ピークとC=O伸縮振動ピークとのピーク強度比(C−O/C=O)が10〜200である、ハードディスク用ランプ成形体。
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