JP6650444B2 - 全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステム - Google Patents

全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステム Download PDF

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Description

関連出願の相互表示
本願は、2014年10月6日に出願された米国仮出願第62/060,438号の優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、レドックスフローバッテリーシステムにて用いられる、塩化物イオン及びリン酸イオンを含有する全バナジウム硫酸酸性電解液の実施形態に関する。
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、米国エネルギー省によって付与されたDE-AC0576RL01830の下で連邦政府の支援を受けてなされたものである。連邦政府は本発明の一定の権利を有する。
レドックスフローバッテリー(RFB:redox flow battery)は、二種の別個の電解液中に溶解した還元種および酸化種に電気エネルギーを蓄積する。陽極液および陰極液は、膜またはセパレータで隔てられたセル電極を循環する。レドックスフローバッテリーは、電源変動、最大レートの反復充電/放電サイクル、過充電および過放電に耐えることができるとともに、任意の充電状態からサイクルを開始することができるので、エネルギー蓄積に有利である。
しかしながら、レドックスフローバッテリーの基礎を成す多くの酸化還元対にはいくつかの欠点が存在する。例えば、不安定な酸化還元種を利用する多くの系は、高酸化性であり、還元または酸化が困難であり、溶液から沈殿物が析出したり、および/または揮発性ガスが発生する。RFBシステムに直面する主な課題の一つが、リチウムイオン電池といった他の可逆性のエネルギー貯蔵システムに比べて本質的にエネルギー密度が低いことである。水性システムの電圧を制限することにより、この問題は、典型的には電解液中の活性種の濃度を増加させることによって取り組まれている。しかしながら、活性種の濃度は、電界溶液中の活性酸化還元イオンの可溶性および安定性によって制限される。それ故、より高いエネルギー密度を有するRFBシステムが要求されている。
全バナジウム硫酸酸性フローバッテリーシステムの実施形態を開示する。該システムは、支持水溶液中にV2+及びV3+を含有する陽極液と、支持水溶液中にV4+及びV5+を含有する陰極液とを含む。該陽極液および該陰極液のそれぞれに用いる支持水溶液は、硫酸イオン、プロトン、塩化物イオン、及びリン酸イオンを含む。塩化物イオンは、無機塩化物塩によって供給され得る。リン酸イオンは、無機リン酸塩によって供給され得る。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、支持水溶液は、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、又は、マグネシウムイオンおよびアンモニウムイオンをさらに含むことができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、陽極液中で[V]≧1.0Mとすることができ、陰極液中で[V]≧1.0Mとすることができる。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、支持水溶液は、0.05〜0.5Mの塩化物イオンを含有することができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記塩化物イオンはMgClによって供給することができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記支持水溶液は、0.05〜0.5Mのリン酸イオンを含有することができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記リン酸イオンは、リン酸アンモニウムによって供給することができる。いくつかの実施形態では、上記リン酸イオンは、(NHHPOによって供給することができる。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記バッテリーシステムは、1:100〜1:1の範囲内のMg:Vのモル比、1:50〜1:2の範囲内のCl:Vのモル比、1:50〜1:2の範囲内のリン酸塩:Vのモル比、1:50〜1:3のNH :Vのモル比、10:1〜1:10の範囲内のCl:リン酸塩のモル比、60:1〜1:5の範囲内のNH :Mgのモル比、又はこれらの任意の組合せを有する。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、硫酸塩の濃度は、4.5〜6Mとすることができる。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記支持水溶液は、HO,HSO,MgCl、及びリン酸アンモニウムを含むことができる。いくつかの実施形態では、上記支持水溶液は、0.025〜0.25MのMgClおよび0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含有する。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、上記陽極液は、1.0〜2.5MのバナジウムをV2+およびV3+として、0.025〜0.5Mのマグネシウムイオン、0.05〜0.5Mの塩化物イオン、0.05〜1.5Mのアンモニウムイオン、及び0.05〜0.5Mのリン酸イオンを含有することができ、上記陰極液は、1.0〜2.5MのバナジウムをV4+およびV5+として、0.025〜0.25Mのマグネシウムイオン、0.05〜0.5Mの塩化物イオン、0.05〜0.15Mのアンモニウムイオン、及び0.05〜0.5Mのリン酸イオンを含有することができる。いくつかの実施形態では、上記陽極液および上記陰極液は、独立して、0.5〜0.1MのMgClおよび0.1〜0.2Mの(NHHPOを含有する。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、陽極液および陰極液は、1.0M〜2.5MのVOSO−3.5MのHSO、0.025〜0.25MのMgCl、および0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを供給するために、HO、VOSO−HSO、MgCl、及びリン酸アンモニウムを組み合わせることによって調製された溶液から本質的になるか、該溶液からなる。いくつかの実施形態では、リン酸アンモニウムは(NHHPOである。
上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、システムは、−5℃〜50℃の範囲内の動作セル温度を有することができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、システムは、アノード、カソード、並びに、陽極液および陰極液を分離するセパレータまたは膜をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、アノードおよびカソードはグラファイトまたは炭素系の電極である。
全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステムで使用するための陽極液および陰極液システムの実施形態は、V2+、V3+、硫酸塩、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、塩化物イオン、及びリン酸イオンを含有する水性陽極液と、V4+、V5+、硫酸塩、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、塩化物イオン、及びリン酸イオンを含有する水性陰極液と、を備える。いくつかの実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、0.025〜0.25MのMgClを含有する。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、陽極液および陰極液は、独立して、0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含有することができる。上記実施形態のいずれか、又は全てにおいて、陽極液および陰極液システムは、Cl:Vのモル比を1:50〜1:2の範囲内とし、リン酸塩:Vのモル比を1:50〜1:2の範囲内とすることができる。
本発明の前述および他の目的、特徴、および利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明にて明らかになる。
添加成分を含む場合と含まない場合の2MのVOSO−3.5MのHSOを含有する電解液の炭素電極上のサイクリックボルタモグラムである。走査は室温で50mV/sの走査速度で行った。 0.15Mの(NHHPOと0.05MのMgClを含む全バナジウム硫酸酸性電解液の一実施形態の充電容量、放電容量、充電エネルギーおよび放電エネルギーを−5℃でのサイクル数の関数として示すグラフである。 0.15Mの(NHHPOおよび0.05MのMgClを有する全バナジウム硫酸酸性電解液の一実施形態のクーロン効率(CE)、エネルギー効率(EE)および電圧効率(VE)を−5℃でのサイクル数の関数として示すグラフである。 0.15Mの(NHHPOと0.05MのMgClを含む全バナジウム硫酸酸性電解液の一実施形態の充電容量、放電容量、充電エネルギーおよび放電エネルギーを、50℃でのサイクル数の関数として示すグラフである。 0.15Mの(NHHPOおよび0.05MのMgClを有する全バナジウム硫酸酸性電解液の一実施形態のクーロン効率(CE)、エネルギー効率(EE)および電圧効率(VE)を50℃でのサイクル数の関数として示すグラフである。 [V(HO)4+(図6A)および[VOMg(HO)3+(図6B)の溶媒和物の最適化されたDFT(密度汎関数理論)の構成を示す分子モデルである。HOおよびH溶媒和分子はスティック像で示される。 添加成分を含む場合と含まない場合のバナジン酸塩系電解液の51V NMRスペクトルを示す図である。スペクトルは11テスラの下、250Kで測定した。
全バナジウム硫酸酸性バッテリーシステムの実施形態が開示される。本システムは、V2+およびV3+を含有する液相の陽極液およびV4+およびV5+を含有する液相の陰極液を備える。陽極液および陰極液は、塩化物イオン及びリン酸イオンを含有するバナジウム種の溶解度および/または安定性を増加させるために、硫酸酸性(sulfuric acid)および二成分系を含有する。「リン酸イオン」という用語には、PO 3−、HPO 2−、及びHPO4−イオン、並びにそれらのすべての組み合わせが含まれる。
このシステムの実施形態は、塩化物イオン及びリン酸イオンが存在しない場合の硫酸バナジウムシステムと比較して、より高濃度のバナジウムを含み、および/または、動作温度範囲がより増加する。
I 定義および略語
以下の用語および略語の説明は、本開示をより良く説明し、本開示の実施において当業者の手引きとなる。本明細書で使用される場合、「含有する(comprising)」は「含む(including)」を意味し、単数形の「a」、「an」または「the」は、明示しない限り複数を指すこともある。用語「又は」は、明示しない限り記載された代替要素の単一の要素、又は2つ以上の要素の組み合わせを指す。
他に説明しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または等価な方法および材料を本開示の実施または試験に使用することができるが、以下では適切な方法および材料を記載する。材料、方法、及び実施例は、例示的なものに過ぎず、限定することを意図したものではない。本開示の他の特徴は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
特に明記しない限り、明細書または特許請求の範囲で用いられる成分の量、パーセント、温度、時間などを表す全ての数字は、「約」という用語によって修飾されると理解されたい。 従って、特に明記しない限り、説明する数値パラメータは、当業者に知られている標準的な試験条件/方法の下で、所望の特性および/または検出限界に依存し得る近似値である。実施形態を説明する先行技術と直接的かつ明示的に区別するとき、実施形態の数値は、「約」という語を列挙していない限り近似ではない。
本開示の様々な実施形態の説明を容易にするために、以下にて特定の用語を説明する。
容量(キャパシティ):バッテリーの容量は、バッテリーが供給することができる充電量である。容量は、通常、mAhまたはAhの単位で表され、バッテリーが1時間の間に生成することができる最大充電量を示す。比容量は、活性物質の体積または重量のいずれかに関して測定され、それぞれ比容積容量および比重容量の概念につながる。
電池(セル):本明細書で使用される場合、電池(セル)とは、化学反応から電圧または電流を生成するために用いられる電気化学デバイス、または、その逆、つまり化学反応が電流によって誘導されるものを指す。例としては、とりわけ、ボルタ電池、電解槽、レドックスフロー電池、および燃料電池が挙げられる。複数の単一のセル(電池)は、しばしばスタックと呼ばれる電池アセンブリを形成することができる。バッテリーは、1つ以上のセル、又は1つ以上のスタックを含む。「セル」および「バッテリー」という用語は、1つのセルのみを含むバッテリーを指す場合に互換的に使用される。
クーロン効率(CE):電気化学反応を促進するシステムにおいて電荷が移動する効率を指す。CEは、放電サイクル中にバッテリーから出る電荷量を充電サイクル中にバッテリーに入る電荷量で割ったものとして定義することができる。
電気化学的に活性な元素:異なる酸化数と還元数との間で酸化還元対を形成することができる元素、すなわち異なる酸化数を有するイオン種である。フローバッテリーにおいて、電気化学的に活性な元素とは、最終的にバッテリーがエネルギーを送達/貯蔵することを可能にするエネルギー変換に寄与する充電および放電プロセス中に酸化還元反応に著しく関与する化学種を指す。 本明細書で使用される「電気化学的に活性な元素」という用語は、初期充電後のバッテリーサイクル中に酸化還元反応に関与する酸化還元活性材料の少なくとも5%を構成する元素を指す。
電解液:イオン伝導性媒質として作用する遊離イオンを含む物質である。レドックスフローバッテリーでは、遊離イオンのいくつかは電気化学的に活性な元素である。アノードまたは負の半電池と接触する電解液は陽極液と呼ばれ、カソードまたは正の半電池と接触する電解液は陰極液と呼ばれる。バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステムに関して、慣習的に、電解液は硫酸水溶液中のバナジウム種を指す。本明細書で使用される「陽極液」および「陰極液」という用語は、水性の「支持溶液」中のバナジウム種を指す。支持溶液または支持電解液は、硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、プロトン、及び酸化還元活性でない添加成分によって導入される他の対イオンを含有する水溶液である。陽極液および陰極液は、しばしば陰性電解液および陽性電解液と呼ばれ、これらの用語は互換的に使用することができる。
エネルギー効率(EE):クーロン効率と電圧効率との積、すなわちEE=CE×VEである。
半電池:電気化学セルは2つの半電池を含む。各半電池は電極および電解液を備える。レドックスフローバッテリーは、充電中に、イオンが酸化された正の半電池とイオンが還元された負の半電池とを有する。放電中には逆反応が生じる。すべてのバナジウムレドックスフローバッテリーでは、充電中に、正の半電池のVO2+イオンがVO イオンに酸化され(V4+が酸化されてV5+になる)、負の半電池のV3+イオンがV2+イオンに還元される。
プロトン:水素イオン(H)および水溶媒和された水素イオン、例えばH、[H、[Hを指す。
電圧効率:放電中にバッテリーによって生成された電圧を充電電圧で割った値である。
II 全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステム
レドックスフローバッテリー(RFB)は、化学エネルギーから連続的に変換された電気エネルギーを供給することができ、再生可能エネルギー(例えば、太陽および/または風力エネルギー)を電力供給網に統合するための有望なエネルギー貯蔵システムである。RFBシステムは、正の半電池と負の半電池とを備える。半電池は、イオン導電性の膜またはセパレータ等の膜またはセパレータによって分離される。正の半電池は陰極液を備え、負の半電池は陽極液を備える。陽極液および陰極液は、異なる酸化数にある電気化学的に活性な元素を含有する溶液である。陰極液および陽極液中の電気化学的に活性な元素は、酸化還元対として結合する。使用中、陰極液および陽極液はそれぞれ、アノード及びカソードによって連続的に循環し、酸化還元反応が進行して化学的エネルギーと電気的エネルギーとの間の変換が行われるか、又はその逆が行われる。使用中に回路を完成させるために、RFBの正および負の電極は、電流コレクターによって外部負荷に電気的に接続される。
様々なRFBの中で、全バナジウムレドックスフローバッテリー(VRFB)は、現在、グリッドスケールのエネルギー貯蔵に最も有望な候補の1つと考えられている。当業者であれば理解するように、「全バナジウム」という用語は、初期充電後のバッテリーサイクル(充電/放電)中の酸化還元反応に関与する主要な酸化還元活性材(すなわち、酸化還元活性材の少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%)が、バナジウムイオン酸化還元対、すなわち、V2+、V3+、V4+(VO2+)、V5+(VO )のバナジウムイオン酸化還元対であることを意味する。他の酸化還元対は、レドックスフローバッテリーの初期充電中に関与することができる。
VRFBは、高エネルギー効率、迅速な応答時間、長寿命、低自己放電、クロスオーバーの問題が存在しない、及び低メンテナンスコスト等のいくつかの利点を有する。しかしながら、フローバッテリーの電解液の低いエネルギー密度と低い安定性や溶解性といった欠点がその用途を制限する。
本開示の全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステムの実施形態は、水性支持溶液中にV2+およびV3+を含有する陽極液と、水性支持溶液中にV4+およびV5+を含有する陰極液とを有し、水性支持溶液は、バナジウム種の溶解性を安定化かつ増加させるために、硫酸イオンと、プロトンと、塩化物イオン及びリン酸イオンを含有する二成分系と、を含有する。特定の理論に縛られないが、硫酸イオン、プロトン、塩化物イオン、及びリン酸イオンの組み合わせは、相乗的に作用して、バナジウム種の溶解性を安定化かつ増加させるようである。好適な電極には、グラファイト電極、及び/又はグラファイトフェルト、グラフェン、カーボンフェルト、炭素フォーム電極などの炭素系電極が含まれる。いくつかの実施形態では、カソード及びアノードはグラファイト電極である。本システムはさらに、陽極液と陰極液を分離するイオン導電性のセパレータまたは膜といったセパレータまたは膜を含む。バナジウムは、例えば、硫酸バナジウム(IV)水和物(VOSO・xHO)を硫酸に溶解することによって供給することができる。本システムは、外部熱管理装置なしで、−5℃〜50℃の動作温度範囲で、バナジウム濃度が2.5Mとなる範囲まで、例えば1.0〜2Mの範囲で使用することができる。フローバッテリーシステムは閉じた系として作動することができ、V2+およびV3+の空気による急速な酸化を防止し、電解液損失を最小限に抑える。
典型的な硫酸バナジウムRFBシステムは、塩化物が存在しない場合、10℃〜35℃の動作温度範囲にわたって、例えば1.5MのVOSO−3.5MのHSOのように最大濃度が1.5Mのバナジウムに制限されていた。より高い濃度では、V5+種は高温(例えば、50℃)で沈殿し、V4+種は低温(例えば、0℃未満)で沈殿する。例えば、1.7M超えの濃度では、V5+は40℃以上の温度で熱安定性が悪い。V2+およびV3+イオンもまたより低い温度で沈殿し得る。
本開示の支持溶液は、電解液の安定性を維持するために二成分系を含み、それによってバナジウム濃度の増加、ひいてはシステムのエネルギー密度の増加を可能にする。特に、支持溶液は、バナジウム(IV)及びバナジウム(V)種の溶解性および安定性を増加させる二成分系を含有する。有効成分は酸化還元種と逆反応せず、例えば、V5+とV4+との間の酸化還元反応ポテンシャルを変えず、硫酸塩と反応しない。有効成分はまた、フローバッテリー動作電圧ウィンドウに対して電気化学的に安定である。望ましくは、添加成分は、バナジウム種および硫酸に対して低濃度で有効であり、高添加成分濃度は、バナジウム種の沈殿、特にV3+を悪化させ、および/または硫酸塩の沈殿物を形成する可能性がある。
本開示の支持溶液の実施形態は、硫酸イオン(例えば、硫酸によって供給される)と、プロトンと、塩化物イオン及びリン酸イオンを含有する二成分系と、を含有する。一実施形態では、プロトンは水素イオン(H)である。別の実施形態において、プロトンは、溶媒和された水素イオン、例えば、H、[H、[H、及びそれらの組み合わせである。独立した実施形態において、プロトンは、H、H、[H及び/又は[Hの組み合わせである。プロトンは硫酸によって供給してもよい。塩化物イオンは、無機塩化物塩によって供給することができる。本明細書で使用される「無機塩化物塩」という用語は、金属またはアンモニウムカチオンおよび塩化物アニオンからなる塩を指す。リン酸イオンは、無機リン酸塩によって供給してもよい。「無機リン酸塩」という用語は、金属またはアンモニウムカチオンおよびリン酸イオン(HPO 、HPO 2−、PO 3−、及びそれらの組み合わせ)からなる塩を指す。塩化物イオン及びリン酸イオンは、陽極液および陰極液中のバナジウム種の安定性および/または溶解度を増加させる。
全バナジウムレドックスバッテリーシステムの開発に続く数年の間、当業者は、HClが全バナジウムレドックスバッテリーシステム用の支持溶液中、特に陰極液用の支持溶液中に存在することができないという従来の見識が当業者によって確立されていた。例えば、当業者はV5+がHCl溶液中で不安定であると考えていた。さらに、HClは腐食性であり、特に高温で過充電すると危険なHCl蒸気およびCl蒸気を生成する可能性がある。しかしながら、本発明者らは、例えば0.1〜0.2Mといった非常に低い濃度の塩化物イオンが電解液を安定させるのに有利であることがあることを予期せぬことに発見した。本発明者らはまた、非常に低い濃度の塩化物イオンがより高い温度、例えば35℃以上で陽極液および陰極液を安定化させることを予期せぬことに発見した。本発明の好ましい実施形態では、本開示の支持溶液中の塩化物イオンは無機塩化物塩によって供給される。無機塩化物塩を用いることによって、HSOに加えてHClを含む支持溶液よりも腐食性を低くすることができ、システムの腐食およびシステム内のHCl蒸気を有利に減少させることもできる。無機塩化物塩は、有機塩化物塩より好ましく、V5+をV4+に還元することができる。
塩化マグネシウムMgClは、驚くべきことに特に有効な無機塩化物塩であることが判明した。特定の理論に縛られないが、Mg2+イオンはバナジウム種の安定性をさらに増強することができる。塩化カルシウムは、バナジウムに対してより有効な凍結防止剤であり得るが、カルシウムは硫酸塩と反応して、硫酸カルシウムの沈殿物を形成し得る。いくつかの実施形態では、支持溶液は0.05〜0.1MのMgClを含み、それによって0.1〜0.2Mの塩化物イオンを供給する。
無機塩化物塩は、レドックスフローバッテリーの動作温度の範囲内のより高温で有効であるが、無機塩化物塩は、より低温、例えば10℃未満でバナジウム種を十分に安定化させないことがある。従って、低温で陽極液および陰極液を安定化させる第二の添加成分を含むことが有益である。リン酸イオンは、低温で電解液を安定化させ、バナジウム(IV)種の溶解度を増加させることが判明した。いくつかの実施形態では、支持溶液は、0.1〜0.2Mのリン酸イオンを含有する。リン酸イオンは無機リン酸塩によって供給され得る。いくつかの実施形態では、リン酸イオンはリン酸アンモニウムによって供給される。本明細書で使用される「リン酸アンモニウム」という用語は、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、及びそれらの組み合わせを指す。特定の実施例では、リン酸イオンはリン酸水素アンモニウム(リン酸二アンモニウム)(NHHPOによって供給された。
サイクリックボルタンメトリーは、MgCl及び(NHHPOがバナジウム種と反応しないことを示した(例えば、図1を参照)。MgClは走査に顕著な影響を与えなかった。しかしながら、(NHHPOは、V4+からV5+へ、及びV5+からV4+への正の走査で電解液のより高いピーク電流を供給する触媒効果を有することが判明した。さらに、V4+からV5+へのピーク電圧は75mVシフトし、これは(NHHPOが酸化を促進することを示す。負の側では、(NHHPOが存在することで、ピーク電圧を100mVシフトさせ、より広範かつ高いピーク電流を発生させ、(NHHPOが陽極液中の酸化還元活性を増加させることを示した。
陽極液および陰極液が塩化物イオン及びリン酸イオンを含有する二成分系を含む場合、陽極液および陰極液は、独立して、1.0Mを超える合計バナジウム濃度(すなわち、V2+/V3+、V4+/V5+)、例えば1.0〜2.5M、1.5〜2.5M、または1.5〜2.0Mの範囲の濃度である。バナジウム濃度が増加すると、それに対応してシステムのエネルギー容量が増加する。いくつかの例では、陽極液および陰極液のそれぞれにおける合計バナジウム濃度は2Mであり、塩化物イオン及びリン酸イオンを含有する本開示の二成分系を有しないバナジウム−硫酸システムと比較して33%増加しており、それ故、エネルギー容量は33%増加する。本開示の二成分系を有さず、かつ合計バナジウム濃度が1.5Mであるバナジウム−硫酸塩レドックスフローバッテリーシステムは、理論電圧および80%の充電状態(SOC:state of charge)に基づいて、20.1Wh/Lのエネルギー密度を有する。これに対して、本開示の二成分系を有し、かつ合計バナジウム濃度が2Mであるバナジウム−硫酸塩レドックスフローバッテリーシステムは、理論電圧および80%のSOCに基づいて、26.8Wh/Lのエネルギー密度を有する。
標準的な硫酸バナジウムレドックスフローバッテリー及び本開示のレドックスフローバッテリーに対して、初期充電後のバッテリーの充電/放電サイクル中のセル反応を以下に示す。
硫酸バナジウムRFBの負極では、

が成立する。
硫酸バナジウムRFBの正極では、

が成立する。
本開示の全バナジウム硫酸レドックスフローバッテリーシステムの実施形態は、硫酸塩、塩化物イオン、及びリン酸イオンを含有する陽極液支持溶液および陰極液支持溶液を含む。陽極液支持溶液および陰極液支持溶液は、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、又は、マグネシウムイオン及びアンモニウムイオンをさらに含有することができる。陽極液はバッテリーの充電/放電条件下でV2+およびV3+をさらに含有する。陰極液はバッテリーの放電/放電条件下でV4+およびV5+をさらに含有する。
いくつかの実施形態では、陽極液支持溶液および陰極液支持溶液は、独立して、0.05〜0.5M、例えば0.1〜0.2Mの無機塩化物塩によって供給される塩化物イオンを含む。無機塩化物塩はMgClであってもよい。いくつかの実施形態では、陽極液支持溶液および陰極液支持溶液は、独立して、0.05〜0.5M、例えば0.1〜0.2Mのリン酸イオンを含有する。リン酸イオンは無機リン酸塩によって供給され得る。いくつかの実施形態では、リン酸塩はリン酸アンモニウム、例えばリン酸二アンモニウムである。
いくつかの実施形態では、陽極液および陰極液の支持溶液は、独立して、HO、HSO、マグネシウムイオン、塩化物イオン、アンモニウムイオン、およびリン酸イオンを含有するか、又はそれらから本質的になる。独立した実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、HO、VOSO、HSO、MgCl、およびリン酸アンモニウムを含有するか、又はこれらから本質的になる。本明細書で使用する「本質的に〜からなる」とは、電解液がバッテリー性能に実質的な影響を及ぼす他の成分を含まないことを意味する。電解液は、例えば、アルカリ金属カチオンのような非電気化学的活性種のように、充放電中にバッテリー性能に実質的な影響を与えない成分を含むことができる。陽極液および陰極液は、独立して、HO、VOSO、HSO、0.025〜0.25MのMgCl、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含むか、又はそれから本質的になることができる。いくつかの実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、HO、VOSO、HSO、0.05〜0.1MのMgCl、および0.1〜0.2Mのリン酸アンモニウムを含有するか、またはこれらから本質的になることができる。独立した実施形態では、陽極液および陰極液は、HO、VOSO、HSO、MgClおよびリン酸アンモニウムからなる。陽極液および陰極液は、独立して、HO、VOSO、HSO、0.025〜0.25MのMgCl、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムからなることができる。いくつかの実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、HO、VOSO、HSO、0.05〜0.1MのMgCl、及び0.1〜0.2Mのリン酸アンモニウムからなる。リン酸アンモニウムは(NHHPOとすることができる。
いくつかの実施形態では、バッテリーの充電/放電中、陽極液は、V濃度([V])がV2+及びV3+として合計[V]≧1.0Mであり、陰極液は、V濃度([V])がV4+(例えばVO2+)及びV5+(例えばVO2+)として合計[V]≧1.0Mである。陽極液および陰極液は、独立して、例えば2Mのバナジウム濃度といったように、1.0〜2.5Mまたは1.5〜2.5Mのバナジウムの合計濃度を有することができる。
一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:25〜1:4、又は1:20〜1:10といったように、1:50〜1:2の範囲内のCl:Vのモル比を有する。いくつかの実施例では、Cl:Vのモル比は1:20であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:25〜1:4、又は1:20〜1:10といったように、1:50〜1:2の範囲内のリン酸塩:Vのモル比を有する。いくつかの実施例では、リン酸塩:Vのモル比は1:13であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:50〜1:8、又は1:40〜1:20といったように、1:100〜1:1の範囲内のMg:Vのモル比を有する。いくつかの実施例では、Mg:Vのモル比は1:40であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:25〜1:1.3、又は1:10〜1:5といったように、1:50〜1:3の範囲内のNH :Vのモル比を有する。いくつかの実施例では、NH :Vのモル比は1:6.7であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:60〜1:25、又は1:55〜1:35といったように、1:120〜1:9の範囲内のCl:SOのモル比を有する。いくつかの実施例では、Cl:SOのモル比は1:55であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば1:60〜1:25、又は1:50〜1:25といったように、1:120〜1:9の範囲内のリン酸塩:SOのモル比を有する。いくつかの実施例では、リン酸塩:SOのモル比は1:37又は1:27であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば5:1〜1:5、2:1〜1:2、又は1:1〜1:2といったように、10:1〜1:10の範囲内のCl:リン酸塩のモル比を有する。いくつかの実施例では、Cl:リン酸塩のモル比は1:1.5であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば12:1〜1:1、又は8:1〜4:1といったように、60:1〜1:5の範囲内のNH :Mgのモル比を有する。いくつかの実施例では、NH :Mgのモル比は6:1又は8:1であった。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、1:2のMg:Clのモル比を有する。
独立した一実施形態では、陽極液および陰極液は、独立して、例えば2.5:1〜1.5:1といったように、3:1〜1:1の範囲内のNH :リン酸塩のモル比を有する。いくつかの実施例では、NH :リン酸塩のモル比は2:1であった。
独立した実施形態では、陽極液および陰極液は、1.0〜2.5Mのバナジウム、4.5〜6MのSO 2−、0.025〜0.25MのMg2+、0.05〜0.5MのCl、0.05〜1.5MのNH4+、及び0.05〜0.5Mのリン酸塩を供給するために、独立して、HO、VOSO−HSO、マグネシウムイオン源、塩化物イオン源、アンモニウムイオン源、及びリン酸イオン源を組み合わせることで調製される溶液を含有するか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。陽極液および陰極液は、1.0〜2.5Mのバナジウム、4.5〜6MのSO 2−、0.05〜0.1MのMg2+、0.1〜0.2MのCl、0.1〜0.6MのNH4+、及び0.1〜0.2Mのリン酸塩を供給するために、独立して、HO、VOSO−HSO、マグネシウムイオン源、塩化物イオン源、アンモニウムイオン源、及びリン酸イオン源を組み合わせることで調製される溶液を含有するか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。適切なイオン源としては、MgCl、(NHHPO、(NH)HPO、(NHPO、Mg(OH)、HCl、NHOH、HPO、NHCl、MgHPO、Mg(HPO、Mg(PO、及びNHMgPOを含むが、これらに限定されない。
独立した実施形態では、陽極液および陰極液は、1.0〜2.5Mのバナジウム、4.5〜6MのSO 2−、0.025〜0.25MのMgCl、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを供給するために、独立して、HO、VOSO−HSO、MgCl、及びリン酸アンモニウムを組み合わせて調製された溶液を含有するか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。陽極液および陰極液は、1.0〜2.5Mのバナジウム、4.5〜6MのSO 2−、0.05〜0.1MのMgCl、及び0.1〜0.2Mまたは0.15〜2Mのリン酸アンモニウムを供給するために、独立して、HO、VOSO−HSO、MgCl、及びリン酸アンモニウムを組み合わせて調製された溶液を含有するか、本質的にそれからなるか、あるいはそれからなる。リン酸アンモニウムは(NHHPOであってもよい。いくつかの例では、陽極液および陰極液は、2Mのバナジウム、5.5MのSO 2−、0.05MのMgCl、及び0.15Mの(NHHPOを含有する。
本開示の全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステムの実施形態は、−5℃〜50℃の温度範囲、および1mA/cm〜1000mA/cmの電流密度範囲にわたって動作可能である。 いくつかの実施形態では、本開示のシステムは、10mA/cm〜320mA/cmの電流密度にて、95%超え、又は97%超えなど、90%超えのクーロン効率で−5℃〜50℃の温度範囲にわたって動作可能である。本開示のシステムは、10mA/cm〜320mA/cmの電流密度にて、動作温度範囲にわたって、75%超え、80%超え、又は85%超えのエネルギー効率および電圧効率を有する。クーロン、エネルギー、及び/又は電圧の効率は、流れ場、ポンプ速度などの他のパラメータに少なくとも部分的に依存し得る。
−5℃において、無機塩化物塩によって供給される2MのVOSO−3.5MのHSO、0.1〜0.2MのCl、及び0.1〜0.2Mのリン酸イオンを含有する本開示の全バナジウム硫酸レドックスフローバッテリーシステムの実施形態は、少なくとも75サイクルにわたって1.2Ahより大きな充電容量および放電容量、2Whより大きな充電エネルギー、並びに、1.6Whより大きな放電エネルギーを有する。そのような実施形態では、電圧効率およびエネルギー効率は80%より大きく、クーロン効率は95%より大きい。50℃において、同じシステムは、少なくとも25サイクルにわたって、1.8〜2.2Ahの充電容量および放電容量、2.9〜3.2Whの充電エネルギー、並びに、2.7〜3Whの放電エネルギーを有する。電圧およびエネルギー効率は85%より大きく、クーロン効率は95%より大きい。−5℃〜50℃の動作温度範囲および1mA/cm〜1000mA/cmの電流密度範囲にわたって、本開示のシステムのクーロン、エネルギー、及び電圧効率は、少なくとも25サイクル、少なくとも50サイクル、少なくとも70サイクル、又は少なくとも80サイクル(例えば、図3,5を参照)にわたって、実質的に一定のままである(すなわち、5%未満でしか変化しない)。充電および放電容量も実質的に一定のままである(例えば、図2,4を参照)。
電解液が2Mのバナジウム、5.5Mの硫酸塩、0.05MのMgCl、及び0.15Mの(NHHPOを含むいくつかの例では、50mA/cmの電流密度にて、−5℃〜50℃の温度範囲にわたって、クーロン効率は97〜99%であり、エネルギー効率は80〜89%であった。充電および放電容量は1.3〜2.2Ah、充電エネルギーは2〜3.2Wh、放電エネルギーは1.7〜2.7Whであった。
〔材料および方法〕
硫酸バナジウムはNoah Technologyから購入した。 全ての他の化学物質はSigma−Aldrichから購入した。
〔溶液調製および安定性試験〕
VOSO・xHOを硫酸水溶液に溶解することによりV4+電解液を調製した。V2+、V3+およびV5+カチオンを含有する電解液は、V4+溶液をフローセルに充填することによって電気化学的に調製した。安定性の評価は、恒温槽中で−5〜50℃の温度範囲で実施した。添加成分の効果を試験するために、安定性の評価を開始する前に、各添加成分(すなわち、塩化物、リン酸塩)の既知量を電解液に添加した。すべての安定性の試験は、撹拌または振盪を行わずに静的に実施した。評価中、沈殿および溶液の色の変化について、各サンプルを1日1回走査した。電解液の濃度は、適切に希釈した後、誘導結合プラズマ/原子発光分光法(ICP/AES,Optima 7300DV,Perkin Elmer)によって分析した。スペクトル干渉のクロスチェックとして、3つの発光ラインを要素ごとに選択した。較正標準は水中におけるマトリックスマッチング法により行った。
〔(NHHPOとMgClとの混合物を添加した2Mのバナジウム硫酸酸性電解液のフローセル試験〕
アノードおよびカソード集電体としてのグラファイトプレートを有する単一のフローセルにおいて、50℃、25℃および−5℃でそれぞれフローセル試験を実施した。幾何学的面積が10cmであるグラファイトフェルト(「GFD5」,SGL Carbon group,Germany)を正および負の電極の両方として用いて、400℃の空気中で6時間熱処理した。フローセル内のセパレータとして、脱イオン水に浸したNafion(登録商標)115膜(酸性型のペルフルオロスルホン酸/PTFE共重合体)を使用した。5.5MのHSO中に0.15Mの(NHHPO及び0.05MのMgClとともに2MのV4+イオンを含有する電解液を使用し、流速を20mL/分に固定した。充電は、50mA/cmで1.6ボルト(80% SOC)まで行い、同じ電流密度で0.8ボルトまで放電した。電荷平衡を正側と負側で保つために、最初の充電プロセス後の正側のV5+溶液(約100% SOC)を同じ容量の元のV4+溶液で置き換えた。2MのVOSO−3.5MのHSO−0.15Mの(NHHPOおよび0.05MのMgClの電解液の容量劣化および耐久性を調べるためにサイクル試験を行った。フローセルと電解液リザーバはともに、試験中−5℃に維持された環境チャンバー(Thermal Product Solution,White Deer,PA)内にある。
(実施例1)
〔添加成分を含まない全バナジウム硫酸酸性電解液の安定性〕
表1に示すように、全バナジウム硫酸酸性電解液の最高濃度は、−5〜50℃の動作温度範囲にわたって1.5Mであった。表1に示すように、V4+及びV5+の種は、電解液から容易に析出した。
(実施例2)
〔添加成分を含む全バナジウム硫酸酸性電解液の安定性〕
有機塩は、V5+種と反応し、V5+種をV4+に還元する可能性が有り、これは全バナジウムフローバッテリーシステムには適さないので、無機塩の凍結防止成分を選択した。 特に、V4+及びV5+種の安定性を改善するために、全バナジウム硫酸酸性フローバッテリーシステムのための最良の添加成分を決定するために、いくつかの無機塩を表2に示すように評価した。
−5〜50℃の温度範囲で添加塩を評価した。最良の塩は、リン酸二アンモニウムと塩化マグネシウムとの混合物であり、これは、硫酸酸性系において、V3+、V4+及びV5+の全てのバナジウム種を安定化させることができた。 塩化カルシウムはより効果的な凍結防止剤であるが、カルシウムイオンは硫酸酸性と反応して未溶解の硫酸カルシウムを形成する可能性がある。他の凍結防止剤または塩は、−5〜50℃の温度範囲でV3+、V4+、及び/又はV5+を安定させるほど十分に強くないか、あるいは硫酸酸性と反応して未溶解の塩を形成する可能性がある。リン酸二アンモニウムおよび塩化マグネシウムは、個々に、4つのバナジウム種のすべてを安定化させるほど十分に強くなかった。
表1に示すように、V3+は−5〜50℃の温度範囲で安定である。しかしながら、添加塩は高濃度電解液中で沈殿を引き起こす可能性がある。従って、V3+の沈殿を避けるために、最小濃度の添加塩を含有することが好ましい。塩化物系の塩については、塩化物イオンが電解液中のV5+種を安定化させることができることが示されている(Li et al、Advanced Energy Materials 2011、1:394〜400)。しかしながら、安定性の研究は、塩化物イオンがV4+種の溶解性を改善しないことを示した。また、リン酸二アンモニウムはV5+電解液の溶解性および安定性を改善しなかったが、V4+種を安定化させるための良好な塩であることも実証された。異なる塩を有する全バナジウム硫酸酸性電解液の試験結果を表3に示す。
結果は、(NHHPOとMgClとの混合物が2Mの全バナジウム硫酸電解液を安定化させることができることを示す。0.15または0.2Mの(NHHPOと0.05MのMgClとの混合物は、−5〜50℃の温度範囲で20日超えの間、2Mの全バナジウム硫酸電解液を安定化させることができた。
(実施例3)
〔(NHHPOおよびMgClを有する全バナジウム硫酸酸性電解液の特性と性能〕
サイクリックボルタンメトリー(CV)法を用いて、塩を添加した場合と添加しなかった場合の全バナジウム混合酸性電解液の電気化学的性質を調べた。0.15Mの(NHHPO、0.05MのMgClを含む及び含まない、2.0MのVOSO−3.5MのHSOの電解液のCVスキャンを図1に示す。
図1に示すように、リン酸二アンモニウムおよび塩化マグネシウムは共にバナジウム種と反応しなかった。0.05MのMgClを含む及び含まない2MのVOSO−3.5MのHSO電解液のCV走査はほぼ同一であり、塩化マグネシウムがバナジウム種と全く反応しないことを示している。しかしながら、図示するように、リン酸二アンモニウムは、正および負の電解液の両方に触媒効果を有していた。V4+からV5+へ、及びV5+からV4+への正の走査では、リン酸二アンモニウムを有する電解液のピーク電流は、リン酸二アンモニウムを含まない電解液のピーク電流よりも高かった。また、V4+からV5+への走査時にピーク電圧が1.15Vから1.075Vに75mVシフトし、これは、リン酸二アンモニウムがV4+からV5+への変換を助長することを示した。負側の電解液では、ピーク電圧は−0.835Vから−0.735Vに約100mVシフトし、ピーク電流はリン酸二アンモニウム電解液を含まない場合よりもはるかに広くかつ高かった。その結果、リン酸二アンモニウムは、電解液の安定性と溶解性を向上させるだけでなく、電解液の酸化還元反応の活性度を増加させることができることが示された。
全バナジウム硫酸酸性電解液のセル性能を単一のRFBセルで評価した。図2,4に示すように、充電容量、放電容量、充電エネルギー、及び放電エネルギーは、−5℃で少なくとも80サイクル、50℃で少なくとも25サイクルの間、実質的に一定のままであった。
図3,5に示すように、クーロン効率は、それぞれ−5℃で99%、50℃で97%であった。エネルギー効率は、−5℃で80%、50℃で89%であり、電圧効率は約80%であった。電圧効率はエネルギー効率に類似していた。
(実施例4)
〔バナジン酸溶媒和構造〕
バナジン酸溶媒和構造を理解することは、レドックスフローバッテリーの電解液を合理的に設計することを容易にする。バナジン酸溶媒和構造は、NWchem 6.1パッケージ(ワシントン州リッチランドのパシフィック・ノースウェスト・ナショナル・ラボラトリーの環境分子科学研究所のValievらによって開発・維持される,Comput. Phys. Commun.,2010,181:1477)を用いた計算に基づく密度汎関数理論(DFT)を用いて分析した。全ての計算は、幾何学的な制約のない6−31G**(分極関数を有する全電子価電子ダブルゼータ)ガウス型の基底セットを用いた分散補正(D3)とともにB3LYP理論レベルで行った。溶媒アンサンブル効果を捉えるために、29.8の誘電率(ε)のCOSMO(陰溶媒モデル)を用いて、5Mの硫酸酸性溶液を表わした。最初に、水分子のみを含むV5+系の溶媒和物をCOSMOモデルで分析した。大域的なエネルギーの最小構造については、陽溶媒分子(HOおよびHの両方)をV5+系の溶媒和の上に均一に広げ、続いてCOSMO系の溶媒和モデルで処理した(図6A)。陽溶媒および陰溶媒の分子の層を用いた、このクラスターモデルアプローチは、電解液系内の高度な酸性環境を表す。
バナジン酸塩溶媒和構造(図6A)は、金属カチオン、すなわち[V(HO)4+と結合した水分子が、強酸性条件(Hイオンで表される)下でも金属中心との静電相互作用に起因してプロトンを失う傾向があることを明らかにした。バナジン酸カチオンの比較的高い電気陰性度により、電子密度が水分子の分子軌道から金属カチオンの空軌道へ移動する。この電荷移動は、配位した水分子中のO−H結合を弱め、それをより酸性にし、プロトン損失を引き起こし、その後、V沈殿をもたらす加水分解系の重合を起こす傾向のあるヒドロキソ種をもたらす。プロトン損失は、溶媒系の温度およびpHによって制御することができるが、より高い電荷カチオン(Z≧4+)は依然としてプロトン損失の影響を受けやすい可能性がある。従って、バナジン酸溶媒和構造と直接配位することにより加水分解に基づく重合を妨げ得る適切な添加成分の加えることにより初期のプロトン損失に対抗することが有利である。
Mg2+系の添加成分の低い電気陰性度によって、配位した水分子からのプロトン損失を抑制することができ、また、Mg2+系の添加成分は、架橋酸素配置を介してバナジン酸分子と直接配位することができるので、Mg2+系の添加成分を選択した。DFT解析は、Mg2+に配位したバナジン酸溶媒和構造(図6B)について低い形成エネルギー(〜0.30eV)を明らかにし、これによりMg2+系の添加成分の利点を確証した。この計算解析に基づいて、高濃度(2M以上)のバナジン酸および低濃度(0.1M)のMgClを添加成分系として電解液を調製した。元の及び添加成分のバナジン酸系電解液の51V NMR分析を図7に示す。添加した成分系の電解液は、元のバナジウム酸電解液(ピークA〜−577ppm)に対して、低磁場共鳴(ピークB〜−592ppm)によって示される新しい種の形成を明らかにし、DFTに基づく 予測を確証した。
添加された成分条件下で、この新種の同一性をさらに検証するために、[V(HO)4+および[VOMg(HO)3+溶媒和物について、それぞれ−562ppm及び−584ppmで、51V NMR化学シフトを計算した。DFTによって導いた化学シフトは、ピークA及びピークBにて観察された化学シフトと良く一致し、Mg2+配位のバナジン酸塩溶媒和物構造の形成を確証する。そのようなMg2+配位は、連続するバナジン酸塩分子間の加水分解系のネットワークの形成を効果的に妨げ、それによってVの沈殿を抑制することができる。
本開示の発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態の観点から、例示の実施形態は本発明の好ましい例であり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではないことを認識されたい。 むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって定義される。従って、これらの特許請求の範囲および精神の範囲内のすべてを本発明として特許請求する。

Claims (17)

  1. 全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステムであって、
    陽極液が支持水溶液中のV2+およびV3+ として1.0〜2.5Mのバナジウムを含有し、
    陰極液が支持水溶液中のV4+およびV5+ として1.0〜2.5Mのバナジウムを含有し、
    前記陽極液および前記陰極液のそれぞれに用いる前記支持水溶液は、
    4.5〜6Mの硫酸イオン、
    プロトン、
    0.025〜0.25Mのマグネシウムイオン、
    0.05〜0.5Mの塩化物イオン、
    0.05〜1.5Mのアンモニウムイオン、及び
    0.05〜0.5Mのリン酸イオン
    を含有し、
    −5℃〜50℃の範囲の動作セル温度を有することを特徴とするバッテリーシステム。
  2. 前記マグネシウムイオンおよび前記塩化物イオンはMgClによって供給される、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  3. Cl:Vのモル比が1:50〜1:2の範囲内である、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  4. 前記アンモニウムイオンおよび前記リン酸イオンはリン酸アンモニウムによって供給される、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  5. リン酸塩:Vのモル比が1:50〜1:2の範囲内である、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  6. 前記支持水溶液は、HO、HSO、MgCl、及びリン酸アンモニウムを含有する、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  7. 前記支持水溶液は、0.025〜0.25MのMgCl、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含有する、請求項に記載のバッテリーシステム。
  8. 前記陽極液は、
    2+及びV3+として1.5〜2.5Mのバナジウム、
    0.050.1Mのマグネシウムイオン、
    0.10.2Mの塩化物イオン、
    0.10.6Mのアンモニウムイオン、及び
    0.10.2Mのリン酸イオンを含有し、
    前記陰極液は、
    4+及びV5+として1.5〜2.5Mのバナジウム、
    0.050.1Mのマグネシウムイオン、
    0.10.2Mの塩化物イオン、
    0.10.6Mのアンモニウムイオン、及び
    0.10.2Mのリン酸イオンを含有する、
    請求項1に記載のバッテリーシステム。
  9. 前記陽極液および前記陰極液は、独立して、0.05〜0.1MのMgCl及び0.1〜0.2Mの(NHHPOを含有する、請求項に記載のバッテリーシステム。
  10. 前記陽極液および前記陰極液は、独立して、
    1.0〜2.5MのVOSO−3.5MのHSO
    0.025〜0.25MのMgCl、及び
    0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウム
    を供給するために、HO、VOSO−HSO、MgCl、及びリン酸アンモニウムの組合せによって調製される溶液を含有する、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  11. 前記陽極液および前記陰極液は、独立して、
    1.0〜2.5MのVOSO−3.5MのHSO
    0.025〜0.25MのMgCl、及び
    0.05〜0.5Mの(NHHPO
    を供給するために、水、VOSO−HSO、MgCl、及び(NHHPOの組合せによって調製される溶液からなる、請求項1に記載のバッテリーシステム。
  12. 前記陽極液および前記陰極液のそれぞれに対する前記支持水溶液は、0.05MのMgClを含有する、請求項に記載のバッテリーシステム。
  13. 前記陽極液および前記陰極液のそれぞれに対する前記支持水溶液は、0.15Mの(NHHPOを含有する、請求項に記載のバッテリーシステム。
  14. アノード、
    カソード、及び
    前記陽極液と前記陰極液とを分離するセパレータまたは膜、
    をさらに備える、請求項1〜13のいずれか一項に記載のバッテリーシステム。
  15. 前記アノードおよび前記カソードは、グラファイト又は炭素系電極である、請求項14に記載のバッテリーシステム。
  16. 全バナジウム硫酸酸性レドックスフローバッテリーシステム用の陽極液および陰極液システムであって、
    2+、V3+、硫酸塩、0.025〜0.25MのMgCl 、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含有する水性陽極液と、
    4+、V5+、硫酸塩、0.025〜0.25MのMgCl 、及び0.05〜0.5Mのリン酸アンモニウムを含有する水性陰極液と、
    を備えるシステム。
  17. Cl:Vのモル比が1:50〜1:2の範囲内であり、リン酸塩:Vのモル比が1:50〜1:2の範囲内である、請求項16に記載の陽極液および陰極液システム。
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