本発明の接着性組成物は、(A)重合性単量体及び(B)複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通する軸分子と、当該軸分子に配置され前記複数の環状分子の脱離を防止する封鎖基と、を有するポリロタキサンを含む接着性組成物であって、前記軸分子には、分解誘起因子を作用させることにより分解して前記軸分子の切断を生じさせ得る分解性基として、光開裂性基、シッフ塩基結合、カーバメート結合、ペプチド結合、アセタール結合、ヘミアセタール結合、ジスルフィド結合及びアシルヒドラジン結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の基又は結合が導入されていることを特徴とする、接着性組成物である。
本発明の接着性組成物においては、対象物を目的物に接着する際や、目的物に接着性組成物を適用し重合硬化して接着層を形成する際には、(A)重合性単量体を重合硬化させて接着層を形成させるため、その接着層の機械的強度を高くすることができ、高い接着性が得られる。この際に、(B)環状分子と、この環状分子を貫通する軸分子と、この軸分子に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、環状分子または軸分子の少なくとも一方に分解性基が導入されており、かつ該分解性基は分解を行うことにより環状分子の開環または軸分子の切断を生じることを特徴とするポリロタキサンは、その分解性基は実質的に未分解の状態で(通常70%以上、好ましくは80%以上の分解性基が未分解の状態で)接着層中に存在している。該(B)ポリロタキサン自体もまた、超高分子化合物として接着層の強度維持、向上に寄与している。これは、(B)ポリロタキサンは比較的剛直な分子であるために機械的強度向上に寄与すること、(B)ポリロタキサンの分子間相互作用や、(B)ポリロタキサンと本発明の接着性組成物に含まれる他成分との相互作用、或いは本発明の接着性組成物が接着する目的物や対象物の接着界面と(B)ポリロタキサンとの相互作用等により、接着界面での接着性が向上すること、または接着性組成物を硬化させた後に得られる接着層(硬化層)の機械的強度が向上することによる。尚、上記の各相互作用は、なじみ性、濡れ性、ファンデルワールス力、水素結合、イオン結合、共有結合等の物理的な、または化学的な相互作用や結合を生じることによる。
本発明における接着性組成物は、接着する目的物や対象物の表面に適用された後に、含まれる(A)重合性単量体を重合硬化させて使用するため、重合硬化後には目的物や対象物の表面に固体状の接着層(硬化層)を生じ、目的物や対象物に対し接着する。本発明の接着性組成物は、1つの目的物の表面に接着層(硬化層)を形成する接着性組成物、またそれを使用した接着材として使用してもよい。または、本発明の接着性組成物は、各々少なくとも1つ以上の目的物と対象物の相互の接着のために、該各々少なくとも1つの目的物と対象物間に適用されて重合硬化され、該各々少なくとも1つの目的物と対象物を接着するものであってもよい。後者の場合、本発明の接着性組成物は、該各々少なくとも1つの目的物と対象物のそれぞれに対して接着性を有すこととなる。
本発明の接着性組成物が接着性を有す目的物や対象物としては、従来公知の材質からなる従来公知の加工品や天然物を使用できる。このような材質としては、各種金属、金属合金、セラミクス、木材、陶材、ガラス、プラスチック、有機無機複合材料、歯や爪や骨等の生体硬組織、皮等のタンパク質、多糖、岩塩等の無機塩、砂糖等の糖質、貝殻等の各種天然無機物、宝飾品等の金属酸化物等の無機物、シリコーンゴムや天然ゴム等のゴム類等が例示できる。
ここで、本発明の接着性組成物は、吸着、粘着、合着(主として物理的勘合による)、化学的接着(主として化学結合により結合する)、またはこれらの組合せによる物理的・化学的相互作用により目的物や対象物に接着性を有す。特に、以下に定義される接着性を有すことが好適である。即ち、本発明においては、(A)重合性単量体を重合硬化させて接着層(硬化層)を形成せしめるものであるから、その目的と効果を考慮すると、容易に除去が可能である粘着性よりも高い接着性(合着性)が求められる。即ち、本発明の接着性組成物が有す接着性としては、本発明の接着性組成物を接着させる目的物や対象物と同じ材質の平板(目的物の形状や大きさによっては適宜に切断、研磨、或いは樹脂包埋したもの)を準備し、その目的物や対象物の表面をP600の耐水研磨紙を用いて平面状に研磨し研磨面を調製し、必要に応じてその研磨面を前処理剤で処理し、その上に直径2〜5mm、高さ2〜5mmの円柱状のモールドを置き、そのモールド内に本発明の接着性組成物を気泡を含まないように充填し、その後重合硬化させて接着試験片を得る。その後、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を使用してせん断接着試験を行う。その際に、0.5MPa以上、好ましくは2MPa以上、特に好ましくは5MPa以上の初期せん断接着試験力が得られる場合に、本発明の接着性組成物が目的物や対象物に好適な接着性を有すと定義する。尚、粘着性しか有さない組成物の場合は、通常0.5MPa未満の初期せん断接着試験力を示す(例えば市販の両面テープで直径3mm、高さ3mmのプラスチック製ロッドを粘着した場合のせん断接着試験力は0.5MPa未満である)。尚、耐水研磨紙での研磨ができない材質の目的物や対象物においては、別の研磨手段を使用してP600と同等の表面粗さになるよう研磨する。また、実使用下においてP600よりも大きな表面粗さで使用される目的物や対象物については、実使用下の表面粗さにて初期せん断接着試験を行っても良い。また、例えば目的物や対象物が不織布のような繊維状である等のように、研磨が困難な目的物や対象物については、実使用下の状態にて初期せん断接着試験を行っても良い。
ここでひとたび目的物からの接着層の除去や目的物からの対象物の脱離の必要を生じた場合には、分解性基の分解を生じたらしめる目的で接着層に熱エネルギー、光エネルギー、pH調整剤や酸化剤や還元剤等の各種薬剤といった物理的・化学的な分解誘起因子を、或いはタンパク質分解酵素や糖鎖分解酵素等の生化学的な分解誘起因子を作用させることで、該(B)ポリロタキサンの分解性基を分解する。(B)ポリロタキサンにおいて分解性基は、軸分子に導入されており、分解性基を分解せしめた際には軸分子の切断を生じる。分解性基は、環状分子に導入されても良く、分解性基の分解により環状分子の開環を生じた場合には、環状分子が直鎖状の分子や低分子量化合物となるために、該環状分子は軸分子による串刺し状の包接状態(貫通状態)から解放され離脱して、ポリロタキサン構造が崩壊する。同様に軸分子の切断を生じた場合には、該切断部位には環状分子の脱離を防止する封鎖性基が存在しないため、軸分子により串刺し状に包接されていた環状分子は軸分子から脱離可能となり、脱離が進行することでポリロタキサン構造が崩壊する。
上記の様に分解性基の分解によりポリロタキサン構造が崩壊した場合には、比較して低分子量の環状分子(または環状分子が開環した結果生じる直鎖状の分子や低分子量化合物)と軸分子が切断されて生じた分子(または軸分子)がそれぞれ独立して(包接状態ではなく)存在する状態となる。この場合には、前述した(B)ポリロタキサンが比較的剛直な分子であるために得られていた機械強度向上効果や、(B)ポリロタキサンの分子間相互作用や(B)ポリロタキサンと本発明の接着性組成物に含まれる他成分との相互作用、或いは本発明の接着性組成物を使用して接着させる目的物や対象物と(B)ポリロタキサンとの相互作用による接着界面での接着性向上効果や、接着性組成物を硬化させた後に得られる接着層の機械的強度向上効果が失われ、或いは(B)ポリロタキサンが溶媒に対し不溶性である場合であって、分解性基の分解後の軸分子が切断されて生じた分子(または軸分子)または環状分子(または環状分子が開環した結果生じる直鎖状の分子や低分子量化合物)のいずれか少なくとも一方が溶媒に対する溶解性を示す場合には、接着層中のこれら分子のいずれか少なくとも一方が溶解して接着層から流出する等して、接着界面における接着性の低下や接着性組成物を硬化させて得られる接着層の機械強度が低下する。その結果、接着性を低下せしめることが達成され、接着性組成物を重合硬化し得られた接着層を目的物から容易に除去することができる、または、対象物を目的物から容易に脱離することが可能となる。
尚ここで、容易に除去や脱離できるようになるとは、以下のように調べることができる。即ち、上述した初期せん断接着試験力の測定と同じ方法で調製した接着試験片に、分解性基の分解を生じたらしめる目的で接着層に熱エネルギー、光エネルギー、pH調整剤や酸化剤や還元剤等の各種薬剤といった物理化学的な分解誘起因子、或いはタンパク質分解酵素や糖鎖分解酵素等の生化学的な分解誘起因子を所定時間、所定の方法や条件で作用させる。その後に、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を使用してせん断接着試験を行い、分解誘起後せん断接着試験力を調べる。その際に、分解誘起後せん断接着試験力を初期せん断接着試験力で除した値(せん断接着試験力低減効果)が0.9以下、好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.6以下になる場合に、容易に除去や脱離できると判定する。
以下、本発明の接着性組成物を構成する、これら各成分について、順に説明する。
(A)重合性単量体
本発明の接着性組成物は、(A)重合性単量体を含む。(A)重合性単量体は、付加重合、重付加、重縮合、付加縮合等の重合反応機構により重合体(通常、接着性組成物中の他成分を含んだ重合体)を形成し、硬化後の重合体は接着層を形成する。この重合反応は、連鎖重合、逐次重合、リビング重合等の従来公知の重合反応を利用できる(高分子合成、古川淳二著、化学同人、1986年参照)。(A)重合性単量体は、重合性不飽和基、開環重合性基、重縮合性基等の従来公知の重合性基を分子中に少なくとも一つ有するものであり、従来公知の接着性組成物において使用されている従来公知の(A)重合性単量体が制限なく使用できる。これら(A)重合性単量体は、熱、重合開始剤、ガンマ線、電解、プラズマ等の作用により重合開始反応を生じる。
付加重合としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、開環重合等を使用できる。この時使用できる(A)重合性単量体としては、従来公知のビニルモノマー(CH2=CHXまたはCH2=C(−R)Xの構造を有し、XはNO2、CN、COOR’、−C(=O)R’、−SO3R’、F、Cl、Br、OCH3、OC(=O)R’、NR’R’’等から選択され、ここでR、R’、R’’は任意の置換基)またはビニリデンモノマー(CH2=C(−X)Yの構造を有し、XとYは同じであっても異なっても良く、NO2、CN、COOR’、−C(=O)R’、−SO3R’、F、Cl、Br、OCH3、OC(=O)R’、NR’R’’等から選択され、ここでR、R’、R’’は任意の置換基)、環状エーテル、ビニルエーテル等が使用できる。具体例を挙げると、イソブチルビニルエーテル、メチルビニルスルフィド、N−ビニルカルバゾール、イソプレン、プロピレン、酢酸ビニル、エチレン、ニトロエチレン、メチレンマロン酸メチル、α−シアノアクリル酸エチル、α−シアノソルビン酸エチル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸メチル、メチルビニルケトン、アクリロニトリル、アクリルアミド、無水マレイン酸、ビニリデンシアニド、スチレン、ジオレフィン、アルキレンオキシド、ラクタム、ビニルエーテル、環状エーテル、2,3−ジクロロブタジエン、イソブチルビニルエーテル、m−ジビニルベンゼン、エチルビニルサルファイド、フェニルビニルサルファイド、N−ビニルカルバゾール、ラクトン、α−メチルスチレン、イソプレン、エチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、1−ビニルナフタレン、t−ブチルビニルサルファイド、ブタジエン、p−メチルスチレン、イソブテン、フッ化ビニル、フマル酸ビニル、p−ビニルフェノール、5−エチル−ビニルピリジン、オキサゾリン、アルデヒド、エチレンオキシド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、トリオキサン、ノルボルネン、シロキサン、ホスファゼン等である。
本発明の接着性組成物を重合硬化させる方法としては、重付加反応も使用できる。アルコール類(R−OH、Rは任意の置換基)、アミン類(H−N(−R)(R’’)、RおよびR’’は任意の置換基)、メルカプタン(H−S−R、Rは任意の置換基)などの活性水素化合物が二重結合や三重結合に付加する反応、エポキシ、アジリジン、ラクトン、ラクタム等の開環重合性単量体の開環重合する官能基にアルコール、アミン、メルカプタンが開環付加する反応、シクロ付加(共役二重結合へのジエンを利用したシクロ付加を利用する方法等が挙げられる。このような重付加反応を生じる化合物も、(A)重合性単量体として使用できる。例えば、ポリウレタン類の合成に使用されるトリレンジイソシアナートやトリジンジイソシアナート等のジイソシアナート類、アダクトポリイソシアナート類、イソシアナート2量体、イソシアナート3量体基等のイソシアナート多量体類と、グリセリンやトリメチロールプロパンやペンタエリスリトールやショ糖等の多価アルコール類や多価カルボン酸類が(A)重合性単量体として使用できる。また、ポリ尿素の合成に使用されるジイソシアナート類とジアザビジクロウンンデセンやトリエチレンジアミン等のジアミン類もまた(A)重合性単量体として使用できる。ビスケテン、ビスカルボジイミド、ビスマレイミド、ジチオール、メルカプタン類(HS(CH2)nSH)、ビスアクリルアミド、ビスアクリルエステル、エピクロロヒドリン、ビスフェノールA等も(A)重合性単量体として使用できる。
本発明の接着性組成物を重合硬化させる方法としては、重縮合反応も使用できる。例えばポリエステルの合成に使用するジメチルテレフタラート等のジカルボン酸類とエチレングリコール等のジオール類、ポリカーボネートの合成に使用されるビスフェノールAとホスゲン、ポリスルホンやポリベンジルの合成原料、フェノール樹脂やアミノ樹脂やキシレン樹脂の合成原料であるフェノール、尿素、メラミン、キシレン、ホルムアルデヒド等が(A)重合性単量体として使用できる。
また、各種カップリング剤や無機ポリマーの合成原料である各種シラン化合物も(A)重合性単量体として使用できる。
これらの(A)重合性単量体は単独または二種類以上を混合して用いることができる。本発明の接着性組成物が骨用、爪用、歯科用等の生体硬組織用途である場合は、(A)重合性単量体自体や、該単量体を重合反応させる場合に必要に応じ併用する重合開始剤の生体為害性を考慮し、また比較的穏やかな条件で重合硬化させることができることも考慮すると、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基等を重合性基として有する単量体を使用することが好適である。このような、本発明の接着性組成物が生体硬組織用途である場合、特には口腔内で使用することを考慮して歯科用である場合に好適に使用できる(A)重合性単量体を例示すると、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、2−メタクリロキシエチルアセトアセテート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の単官能性のもの、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の重合性不飽和基を2つ以上有する脂肪族系のもの;2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等の重合性不飽和基を2つ以上有する芳香族系のもの;メチルα−シアノアクリレート、エチルα−シアノアクリレート、プロピルα−シアノアクリレート、ブチルα−シアノアクリレート、シクロヘキシルα−シアノアクリレート等のアルキルおよびシクロアルキルα−シアノアクリレート系のもの;アリルα−シアノアクリレート、メタリルα−シアノアクリレート、シクロヘキセニルα−シアノアクリレート等のアルケニルおよびシクロアルケニルα−シアノアクリレート系のもの;プロパンギルα−シアノアクリレート等のアルキニルα−シアノアクリレート系のもの;フェニルα−シアノアクリレート、トルイルα−シアノアクリレート等のアリールα−シアノアクリレート;メトキシエチルα−シアノアクリレート、エトキシエチルα−シアノアクリレート等のアルコキシα−シアノアクリレート;フルフリルα−シアノアクリレート等の複素環基を有するα−シアノアクリレート;トリメチルシリルメチルα−シアノアクリレート、トリメチルシリルエチルα−シアノアクリレート、トリメチルシリルプロピルα−シアノアクリレート、ジメチルビニルシリルメチルα−シアノアクリレート等のシリル基を有するα−シアノアクリレート系のもの;11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2−メタクリイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基含有(メタ)アクリレート;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性基含有(メタ)アクリレート系単量体;ω−メタクリロイルオキシヘキシル2−チオウラシル−5−カルボキシレート等のイオウ原子含有(メタ)アクリレート、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング性基含有(メタ)アクリレート;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド基を含有しているもの;スチレン、α−メチルスチレン誘導体類;トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等のオキセタン環を有するもの;ジグリセロールポリジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等のエポキシ化合物;アジリジン化合物、アゼチジン化合物、エピスルフィド化合物、環状アセタール、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、環状カーボネート、スピロオルトカーボネート、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
これらの生体硬組織用に好適な、特には歯科用に好適な(A)重合性単量体は、単独または二種類以上を混合して用いることができる。
ここで、生体硬組織用途として重合性をさらに高める目的から、重合性基を2つ以上有するものを添加することが好ましい。重合性が高く生体為害性が低いことから、特に(メタ)アクリレート系の重合性単量体を使用することが生体硬組織用として好ましい。また、生体硬組織、中でも特に歯(エナメル質および象牙質)、更には生体硬組織の治療時に近接または接着して存在するセラミクスや金属(特には非貴金属)への接着性が高いことから酸性基含有メタアクリレートが、また、生体硬組織の治療時に近接または接着して存在する貴金属への接着性が高いことからイオウ原子含有メタアクリレートが、また、生体硬組織の治療時に近接または接着して存在するセラミクスや有機無機複合材料への接着性が高いことからカップリング性基含有メタアクリレートが特に生体硬組織用、中でも特に歯科用として好適に使用される。
本発明の(A)重合性単量体は、熱、重合開始剤、ガンマ線、電解、プラズマ等の作用により重合させる。このような重合開始反応を開始させる方法としては特に限定されず、従来公知の重合開始方法が採用される。熱重合、ガンマ線重合、電解重合、プラズマ重合においては、実用上十分な重合度が得られるまで、好適には初期せん断接着試験力が0.5MPa以上の必要な値になるまで、適宜に設定した条件(温度、照射強度、通電量や電圧、時間)の加熱、ガンマ線照射、通電、プラズマ照射を行う。
重合開始剤を使用することもでき、従来公知のラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、重付加反応、重縮合反応、カップリング反応、無機合成ポリマー合成等に使用される従来公知の重合開始剤が使用できる(高分子合成、古川淳二著、化学同人、1986年参照)。このような重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を例示すると、クメンぺルオキシド、第三ブチルぺルオキシド、ジクミルぺルオキシド、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物、Fenton試薬(過酸化水素/Fe2+)、過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン、ヒドロペルオキシド/メルカプタン等のレドックス開始剤、アルキルホウ素、ハロゲン化アルキル/金属(Fe、Co、Ni、Cu)、Mnアセチルアセトナート、ヨードニウム塩やスルホニウム塩等の光重合開始剤が挙げられる。アニオン重合開始剤としては、K、Na、Li等の金属、SrR2、CaR2、KR、NaR、LiRとのアルキル金属類、ROK、RONa、ROLi等のアルコラート類、強アルカリ、ピリジン等のアミン類、水等が挙げられる。カチオン重合ではBF3、SnCl4、EtAlCl2、ZnCl2、Et2Zn等のルイス酸、また、特開2005−187545公報に開示されたカチオン重合開始剤が使用できる。チーグラー法やチーグラーナッタ法に使用される開始剤(TiCl4とEt3Al等)も使用できる。
本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合は、生体に対する為害性が低い、または重合反応条件が穏やかであることから、以下のラジカル重合開始剤またはアニオン重合開始剤が好適に使用される。
即ち、光重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα−ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類等を使用することができる。
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
化学重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤として、有機過酸化物/アミン類、有機過酸化物/アミン類/有機スルフィン酸類、有機過酸化物/アミン類/アリールボレート類、アリールボレート類/酸性化合物、アリールボレート類/酸性化合物/有機過酸化物、アリールボレート類/酸性化合物/遷移金属化合物およびバルビツール酸誘導体/銅化合物/ハロゲン化合物等の各種組み合わせからなるものが挙げられる。アニオン重合開始剤としては、ピリジン等のアミン類、水等が挙げられる。
これら生体硬組織用に好適な重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は、有効量であれば特に制限は無いが、(A)重合性単量体100質量部に対して0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜20質量部であるのがより好ましい。光重合開始剤と化学重合開始剤とを組み合わせて、デュアルキュア型とすることもできる。
(B)ポリロタキサン
本発明で使用する(B)ポリロタキサンは、複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通する軸分子と、当該軸分子の上に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有する。そして、軸分子には分解性基が導入されており、かつ該分解性基は分解を行うことにより軸分子の切断を生じることを特徴とする。
(B)ポリロタキサンの環状分子は、軸分子により貫通され、貫通された状態のまま当該軸分子を軸として回転、移動可能な状態で、且つ、軸分子に配置された封鎖基により軸分子から脱離しない状態で存在する。なお、本明細書において、「環状分子」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味し、環状分子は完全に閉環でなくてもよく、実質的に軸分子から遊離せずに串刺し状を保っていれば、例えば螺旋構造等であってもよい。また、本発明の(B)ポリロタキサンは、比較的大きな分子量を有する環状分子を構成部分とする多量体であり、1つのポリロタキサン分子に包接状態で存在する環状分子の包接数(繰り返し数)が少なくても自身の分子量が巨大となる。本発明の(B)ポリロタキサンとは、このために行った便宜上の名称であって、2〜10量体程度のオリゴマー領域の繰り返し数のものも含むものである。
環状分子としては、従来公知の環状分子を使用することができる。このような環状分子を例示すると、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、あるいは、環状ポリエーテル、環状ポリエステル、環状ポリエーテルアミン、環状ポリアミン、シクロファン等が挙げられる。(B)ポリロタキサンの1分子中にこれらの環状分子は、1種類だけが包接状態にあってもよいし、2種以上混在していてもよい。
環状分子としては、比較的大きな環径を有していて軸分子が串刺し状に貫通し易いことからα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリン類、およびクラウンエーテルが好ましく、溶媒中で容易に軸分子により包接されることからα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンが特に好ましい。
(B)ポリロタキサン1分子における環状分子の個数(包接量:軸分子が貫通している環状分子の個数)は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、平均5個〜200個が好ましい。また、環状分子の最大包接量を1とすると、0.05〜0.95が好ましく、0.1〜0.9がさらに好ましく、0.2〜0.8が特に好ましい。
なお、環状分子の最大包接量は、軸分子の長さと環状分子との厚さにより、決定することができる。例えば、軸分子がポリエチレングリコールであり、且つ環状分子がα−シクロデキストリン分子の場合、最大包接量は、実験的に求められている(Macromolecules 1993,26,5698−5703を参照のこと)。
環状分子の包接量が少ないと比較的剛直な構造が形成されないために機械的強度向上効果が不十分となる、または、(B)ポリロタキサン分子同士や(B)ポリロタキサン分子と他の物質との相互作用形成による機械強度向上効果や接着性向上効果が得られ難くなる。また、包接量が多すぎる場合には、(B)ポリロタキサンの分子構造が剛直になりすぎ、環状分子が軸分子に包接された状態で軸分子を軸に移動可能である所謂「滑車効果」が発現し難くなり、(B)ポリロタキサン分子同士や(B)ポリロタキサン分子と他の物質との相互作用形成が立体障害により形成され難くなり、機械強度向上効果や接着性向上効果が不十分となる場合がある。
本発明において、軸分子とは、その分子内に、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有す分子のことをいう。即ち、その分子内に、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有しており、該鎖状部分に環状分子が包接されており、またその鎖状部分(環状分子の鎖状部分を軸とした軸方向の移動を許容する部分)の両末端において環状分子が鎖状部分から離脱しないように封鎖基で封鎖されている限りにおいては、軸分子構造の該鎖状部分以外の部分には、適宜に分岐点を1つ以上有していてもよい。即ち、該軸分子は、主鎖に分岐点を持たない軸分子でもよく、環状分子を2個以上包接可能な鎖状部分を有しているならば、グラフトポリマー、デンドリマーやスターポリマー等の分岐点を1つ以上有するような分岐型分子でもよい。
軸分子としては、公知のポリロタキサンの構成を適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリメチルビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリペルフルオロオキシプロピレン、オリゴテトラフルオロエチレン、ポリカプロラクタム等がその構造が単純であり(B)ポリロタキサンの調製が容易であることから好ましい。これらの軸分子は、本発明の接着性組成物中で2種以上混在していてもよい。
勿論、これら軸分子同士を使用し擬ポリロタキサン(鎖状部分の両末端に封鎖基は導入していないが環状分子を軸分子が貫通しているもの)やポリロタキサンを作製した後に、擬ポリロタキサンまたはポリロタキサン分子同士を架橋して得られる架橋ポリロタキサンも、本発明のポリロタキサンとして使用できる。このような架橋構造は、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子同士を介して架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの環状分子と軸分子とを架橋して形成してもよいし、2つ以上の擬ポリロタキサンやロタキサンの軸分子同士を架橋して形成してもよい。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、本発明の軸分子として使用することができ、このような鎖状部分を1つ以上有する架橋分子を使用して擬ポリロタキサンを調製し、次いで開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製しても良い。また、複数の環状分子同士を予め共有結合やイオン結合等で連結しておき、それを軸分子で串刺し状に包接して擬ポリロタキサンを調製し、次いで軸分子の開放末端部分を封鎖基により封鎖することで架橋ポリロタキサンを調製しても良い。
尚、得られた架橋ポリロタキサンにおいては、環状分子を貫通している軸分子が架橋された構造もまた、本発明の軸分子と捉えることができる。また、少なくとも1つ以上の開放末端部分とそれに連結する鎖状部分を有していて、該開放末端部分は環状分子を串刺しすることができ、該鎖状部分に環状分子を串刺し状に包接可能な構造を有している架橋分子もまた、本発明の軸分子として使用することができる。
架橋ポリロタキサンにおいて、架橋結合は、環状分子または軸分子の水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基または光架橋基、およびこれらの任意の組み合わせに係る基による化学結合でも、架橋剤による化学結合であってもよい。
軸分子の重量平均分子量は、500〜1000,000であることが好ましく、特に1000〜100,000であることが好ましく、さらには2000〜50,000であることが好ましい。重量平均分子量が500未満であると、環状分子の軸分子による包接反応と脱包接反応の速度が拮抗し、包接状態のまま封鎖基を導入することが難しく、合成が困難である。また、重量平均分子量が1000,000を超えると、ポリロタキサンの溶媒への溶解性が悪く、同じく合成が困難となるおそれがある。また、重量平均分子量が小さすぎる場合は機械的強度や接着性の向上効果が得られ難くなる場合があり、大きすぎる場合は(A)重合性単量体と(B)ポリロタキサンのなじみや溶解性、相溶性が低下し高い接着性が得られ難くなる場合がある。
尚ここで、重量平均分子量はゲルパーミテーションクロマトグラフィー(以下で「GPC」と略記することがある)を使用して求める。軸分子が水またはアルコール類に溶解性である場合はポリエチレングリコール換算の重量平均分子量として、軸分子が非水溶性である場合はTHF等の溶媒を使用してポリスチレン換算の重量平均分子量として求めればよい。
封鎖基は、上述したように、軸分子の鎖状部分の両末端に配置されて、環状分子が軸分子によって串刺し状に貫通された包接状態を保持できる基であれば(鎖状部分の開放末端から環状分子が抜け落ちない基であれば)、いかなる基であってもよい。
かかる基としては、「嵩高さ」を有する基または「イオン性」を有する基などを挙げることができる。またここで「基」とは、分子基および高分子基を含む種々の基を意味する。
「嵩高さ」を有する基としては、球形の基や側壁状の基を例示できる。このような「嵩高さ」を有する基は、環状分子の環の大きさよりも実質的に大きく、該環状分子の鎖状部分からの移動や脱離を妨げる。また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発しあうことにより、環状分子が軸分子に串刺しにされた状態を保持することができる。更には、軸分子の鎖状部分の少なくとも一方が架橋点である場合であって、該架橋点が環状分子の鎖状部分からの脱離を妨げている場合には、該架橋構造もまた本発明の封鎖基として解釈できる。
このような封鎖基の具体例としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、およびステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、封鎖性能が高いことからジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、およびピレン類からなる群から選ばれるのが好ましい。
本発明の(B)ポリロタキサンにおいては、環状分子または軸分子の少なくとも一方に、分解性基が導入される。該分解性基は分解を行うことにより環状分子の開環または軸分子の切断を生じる。前述したように、分解誘起因子を作用させ分解性基を分解することによりポリロタキサン構造が崩壊し、接着層の機械強度の低下や接着界面での接着性の低下を生じ、接着層が容易に脱離可能となる。即ち、本発明により接着層を脱離させたい時に、自在に脱離が可能な接着性組成物が提供される。
分解性基は、軸分子に導入される。勿論、環状分子および軸分子の両方に導入しても良い。分解性基を環状分子に導入した場合に、分解誘起因子を作用させて環状分子の開環を生じた場合には、環状分子が鎖状の分子となるために該環状分子は軸分子による串刺し状の包接状態から解放され離脱してポリロタキサン構造が崩壊する。同様に分解性基を軸分子の鎖状部分に1つ以上導入した場合に、分解誘起因子を作用させて軸分子の鎖状部分の切断を生じた場合には、該切断部位には環状分子の脱離を防止する封鎖性基が存在しないため、軸分子により串刺し状に包接されていた環状分子は軸分子から脱離可能となり、脱離が進行することでポリロタキサン構造が崩壊する。環状分子に分解性基を導入する場合は、環状分子の分子鎖中に少なくとも1つの分解性基を、該分解性基を介して環状分子が閉環構造となるように導入する。軸分子に分解性基を導入する場合は、軸分子の分子鎖中に少なくとも1つの分解性基を、該分解性基が分解し軸分子の分子鎖の切断を生じた際に鎖状部分の開放末端を生じ、予め包接された環状分子が該開放末端から抜けることが可能となるように導入する。即ち、軸分子において分解性基は、該軸分子の鎖状部分(封鎖性基で両末端を封鎖されている)に少なくとも1つ導入される。この時、接着材の用途にもよるが、環状分子が軸分子から脱離してポリロタキサン構造の崩壊を生じる速さや程度を制御することで、前述した本発明の接着性組成物のせん断接着試験力低減効果や接着試験力低減速度を制御することができる。接着性組成物の目的や用途に応じて、分解性基を導入する部位や数を適宜に設計すればよい。
せん断接着試験力低減効果や接着試験力低減速度を高めたい場合は、分解性基の分解により複数の開放末端を生じるようにすることが好ましい。このような方法としては、軸分子の鎖状部分の両末端の封鎖性基に対して鎖状部分側に分解性基を導入し、該分解性基の分解後には鎖状部分の両末端(分解性基の構造にもよるが、もともとの鎖状部分の両末端とは構造や位置が異なる場合もある)に2つの開放末端が生じるように設計しても良い。または、鎖状部分の例えば中央に分解性基を導入しておき、該分解性基の分解後には鎖状部分が切断され2本の軸分子を生成すると共にその分解切断点として2つの開放末端(切断されて生じた2本の軸分子のそれぞれに1つずつの開放末端)が生じるように設計しても良い。また、これらの方法を適宜組み合わせて3つ以上の開放末端を生じるように設計しても良い。
環状分子に分解性基を導入する方法は、各々の環状分子が鎖状となることで包接が解除されやすい(軸分子に分解性基を導入した場合は、軸分子の開放末端を通過して脱離するまでに時間を要す場合がある)ので好ましい。また、軸分子の鎖状部分の例えば真中あたりに分解性基を導入する方法のように、該分解性基の分解により軸分子の鎖状部分が短くなるような位置に分解性基を導入する方法は、環状分子の軸分子からの脱離が早くなり好適である。
このような分解性基としては、刺激(上述した分解誘起因子)に応答して結合が解離するものであれば、従来公知のものが使用できる。接着性組成物の目的や用途に応じて、その耐候性や刺激応答性(分解の早さや程度、刺激の到達しやすさ)等を考慮して、分解性基の種類を適宜に設計すればよい。
このような分解性基の具体例としては、p−メトキシフェナシル基、2−ニトロベンジル基、2−ニトロベンジルオキシカルボニル基、2−ニトロフェニルエチレングリコール基、ベンジルオキシカルボニル基、3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル基、3−ニトロフェニル基、3−ニトロフェノキシ基、3,5−ジニトロフェノキシ基、3−ニトロフェノキシカルボニル基、フェナシル基、4−メトキシフェナシル基、α−メチルフェナシル基、3,5−ジメトキシベンゾイニル基、2,4−ジニトロベンゼンスルフェニル基、(クマリンー4−イル)メチル基、7−ニトロインドリニル基、アリールアゾ燐酸エステルユニット等の光開裂性基;エステル結合、シッフ塩基結合、カーバメート結合、ペプチド結合、エーテル結合、アセタール結合、ヘミアセタール結合等の種々の加水分解性の結合;ジスルフィド結合等の還元剤によって分解可能な結合;有機過酸化物などの熱分解性基、アシルヒドラジン結合等が挙げられる。
本発明の接着性組成物では、分解性基として、光開裂性基、シッフ塩基結合、カーバメート結合、ペプチド結合、アセタール結合、ヘミアセタール結合、ジスルフィド結合及びアシルヒドラジン結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の基又は結合を軸分子に導入する。
本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合は、分解誘起因子の生体為害性を考慮すると強アルカリや高温での分解は適用困難である場合があることから、光開裂性基、ジスルフィド結合、ペプチド結合等が好ましい。
本発明の接着性組成物を重合硬化して得られる接着層が比較的厚みを有す、或いは複数の目的物や対象物に挟まれた状態で存在する場合には、還元剤等の化学試薬を接着層の十分な広範囲に作用させるために長時間を要する場合がある。これに対し、分解性基が光開裂性基である場合は、所望の波長の光を照射するという簡単な操作により、比較して短時間に接着層に該光開裂性基を開裂させるに足る十分な光照射エネルギーを付与することができる。そのため、光照射処理により光開裂性基を開裂させる方法は、対象物を短い処理時間により脱離できるため特に好適である。即ち、本発明の(B)ポリロタキサンの分解性基が光開裂性基である態様は特に好適である。
尚ここで、光開裂性基は、波長100nm〜2000nm、好ましくは波長200nm〜1000nm、光照射強度1mW/cm2〜100W/cm2、好ましくは10mW/cm2〜1W/cm2にて0.1秒〜1時間、好ましくは1秒〜30分間光照射した場合に光開裂を生じることが好ましい。
本発明の(B)ポリロタキサンの一般的な製造方法について以下で説明する。
軸分子、環状分子、封鎖基から構成されるポリロタキサンは、公知の方法によって合成される。例えば、公知の製法(特開2011−46917号公報、特開2012−25923号公報)に従って合成できる。本発明は、軸分子あるいは環状分子に分解性基が導入されているポリロタキサンに関するが、例えば、分解性基を導入した軸分子、又は環状分子を用い、上記公知の方法によって、合成可能である。本発明の(B)ポリロタキサンの製造方法について以下記載する。
まず、軸分子と環状分子を合成、入手する。該軸分子または環状分子には、いずれか少なくとも一方に分解性基が予め導入されていてもよいし、後述する擬ポリロタキサンやロタキサンの合成後に分解性基を導入することもできるが、予め分解性基を導入したものを使用するほうが製造が容易となる。次いで、一般的には軸分子と環状分子をそれらが共通に溶解する溶媒中で溶解状態で混合する。分子間力や親水疎水性等の相互作用により、溶液中で環状分子は軸分子により包接され、擬ポリロタキサンを生成する。この際の反応時間や濃度を適宜に設定することで、擬ポリロタキサンの1分子における環状分子の個数(包接量)を変えることができる。例えば分子量数千から数万のポリエチレングリコールとα−シクロデキストリンを蒸留水中に溶解し数分〜数時間撹拌すると、ポリエチレングリコールがα−シクロデキストリンを包接した擬ポリロタキサンが析出する。
擬ポリロタキサンが溶媒に不溶化する場合は該擬ポリロタキサンをろ過や遠心分離により洗浄、回収する。また、擬ポリロタキサンが溶媒に可溶であれば、透析や限外濾過により洗浄、回収する。得られた擬ポリロタキサンを必要に応じて溶媒に再溶解する等した後、擬ポリロタキサンの軸分子の鎖状部分の開放末端に封鎖性基を導入し、必要に応じて未反応試薬等を透析や限外濾過により精製、除去してポリロタキサンが得られる。このポリロタキサンに、更に必要に応じて後述するような各種官能基を導入したり、架橋反応させる等して、(B)ポリロタキサンを得る。
本発明の(B)ポリロタキサンの環状分子または軸分子のいずれかまたは両方には、(A)重合性単量体との馴染みや相溶性をよくするために、種々の官能基または高分子鎖を導入してもよい。
かかる官能基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、アルキル基、トリチル基、トシル基、トリメチルシラン基、フェニル基等が挙げられる。一方、高分子鎖としては、特に限定されるものではないが、例えばオキシエチレン鎖、アルキル鎖、アクリル酸エステル鎖等が挙げられる。また、主鎖または側鎖に水酸基、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、または光架橋基、およびこれらの任意の組み合わせに係る基を有していてもよい。これらの高分子鎖は、ホモポリマーでもコポリマーでもよく、コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマーまたはグラフトコポリマーのいずれであってもよい。例えば、上記環状分子がシクロデキストリンである場合には、シクロデキストリンの水酸基に、種々の官能基または高分子鎖を導入することができる。
本発明の接着性組成物において、(B)ポリロタキサンの環状分子または軸分子の少なくとも一方に重合性基が導入されている場合には、本発明の接着性組成物は(A)重合性単量体を含むので、重合性基を導入した該(B)ポリロタキサンは、本発明の接着性組成物を重合硬化させた場合には、該(A)重合性単量体と共重合することができる。勿論、(B)ポリロタキサン分子間の重合も生じる。特に、該(B)ポリロタキサンに複数の重合性基が導入されている場合には、接着性組成物の硬化体中で該(B)ポリロタキサンが架橋点となり、接着性組成物の硬化体の機械的強度を更に高める、または接着性組成物の硬化体の機械的強度の一部または全部を(B)ポリロタキサンの架橋構造に担わせることができる場合がある。または、例えば本発明の接着性組成物が被着対象物に対する接着性を有す(A)重合性単量体(例えば酸性基含有メタアクリレート、イオウ原子含有メタアクリレートまたはカップリング性基含有メタアクリレート等)を含む場合等では、本発明の接着性組成物を重合硬化後に、接着界面近傍では、被着対象物と、被着対象物に対する接着性を有す(A)重合性単量体と、(B)ポリロタキサンと、必要に応じその他の(A)重合性単量体が化学結合により一体化し、(B)ポリロタキサンもまた本発明の接着性組成物の接着性発現に寄与する。特にこのように本発明の接着性組成物の機械的強度向上効果または接着性発現効果の一部または全部に(B)ポリロタキサンが直接関与する場合には、分解性基の分解後にはポリロタキサンの構造が崩壊するため、上記の機械的強度向上効果または接着性発現効果が大きく、直接的に失われることから、接着性の低減効果が大きく得られて好適である。
このような重合性基としては、従来公知の重合性基を使用することができる。特に、本発明の接着性組成物が生体硬組織用である場合は、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基などの(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基;アリール基;スチリル基や、(メタ)アクリルアミド基などがその生体為害性が少ないことから好適に使用できる。(B)ポリロタキサンは複数種類の重合性基を含んでいても良い。
前記ポリロタキサンの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、2万〜10万程度とすることが好ましい。
接着性組成物に含まれる(B)ポリロタキサンの配合量は、特に限定されないが、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜1000質量部であることが好ましく、1質量部〜800質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部〜500質量部の範囲内であることが最も好ましい。ポリロタキサンの配合量が少なすぎる場合は、分解性基の分解による接着性の低減効果が発現し難くなる。ポリロタキサンの配合量が1000質量部以上となると、(A)重合性単量体との馴染みが極端に低下し、接着材料として扱い難くなるおそれがある。
本発明のポリロタキサンの好ましい構造は、下記式(1)に示す通り、軸分子の両末端に封鎖基が導入され、軸分子が環状分子を貫通した構造である。
Yi−Pi−Yi (1)
Yiは同種または異種の封鎖基であり、Piは軸分子である。軸分子の少なくとも一部には分解性基Xiが導入されている。分解性基は軸分子中に以下の形態で存在し得る。
i)軸分子の少なくとも一方の末端部位に分解性基Xiが存在(すなわち、封鎖基に隣接する形態で存在)。
ii)軸分子の末端部位以外の部分に1又は2以上の分解性基Xiが存在。
iii)軸分子の少なくとも一方の末端部位に分解性基Xiが存在し、かつ軸分子の末端部位以外の部分に1又は2以上の分解性基Xiが存在。
なお、2以上の分解性基Xiが存在する場合は、それぞれ同種であっても異種であってもよい。合成上の容易さを考慮すれば、上記i)の態様が好ましい。
また、好ましい環状分子はシクロデキストリン類であり、特にα−シクロデキストリンが好ましい。
(その他の任意配合成分)
さらに、本発明の接着性組成物には、必要に応じてその他の任意配合成分を含有させることができる。たとえば、接着材の色調を調製するために、顔料、蛍光顔料、染料等の色材、アミン等のpH調整剤等の安定化剤、石英、沈降シリカ、沈降ジルコニア、沈降チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物類等の無機粒子またはポリアルキルメタクリレート等の有機粒子等の強度調節剤、本発明の接着性組成物に溶解するポリマーやフュームドシリカ等の粘度調節剤、各種塩類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等の有機溶剤や水等の溶媒、各種香料、各種抗菌剤、各種薬効成分、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール等の紫外線吸収剤、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の各種重合禁止剤、各種酸化防止剤等が挙げられる。特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリーブチルフェノール等の重合禁止剤を少量加えるのが好ましい。
本実施形態の接着性組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の接着性組成物の製造方法を利用できる。一般的には、重合開始剤が光重合開始剤の場合には遮光下にて、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混練することで、本実施形態の接着性組成物を得ることができる。
本発明の接着性組成物は、一般工業界、医療、土木、日常生活等の様々な用途に使用される。接着性組成物の態様としては、液状のもの、ゲル状のもの、ワックス状のもの、固形状で溶解して使用するもの等の種々の性状のものを、1組成からなる態様または複数組成からなる態様にて接着材とすることができる。本発明の接着性組成物が1つの組成からなる場合は、本発明の接着性組成物((A)重合性単量体と(B)ポリロタキサンを含む)を目的物に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去し、(A)重合性単量体を重合固化させて接着層を形成する。或いは、本発明の接着性組成物を複数の目的物に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去し、複数の目的物を圧着し、(A)重合性単量体を重合固化させて接着層を形成することで、該複数の目的物同士を接着する。本発明の接着性組成物が複数の組成からなる場合としては以下のような例が挙げられる。例えば、本発明の接着性組成物が前処理剤(プライマー)と接着剤とからなり、該前処理剤と接着剤のいずれか少なくとも1方には(A)重合性単量体と(B)ポリロタキサンが分包または共存しており、まず前処理剤で目的物の表面を処理し、前処理材に(A)重合性単量体を含む場合は必要に応じて該(A)重合性単量体を重合硬化させ、次いで接着剤を適用して必要に応じて他の目的物を圧着し、該接着材に(A)重合性単量体を含む場合は該(A)重合性単量体を必要に応じて重合硬化させる。また例えば、本発明の接着性組成物が複数の接着剤からなり、該複数の接着剤のいずれか少なくとも1方には(A)重合性単量体と(B)ポリロタキサンが分包または共存しており、複数の接着剤を順次目的物に塗布する(この時に順次塗布した複数の接着剤層を別々に順次硬化させても良い)または複数の接着剤を予め混合してから目的物に塗布し、必要に応じて他の目的物を圧着し、必要に応じて(A)重合性単量体を重合硬化させ接着層を形成する。勿論、1種以上の前処理剤と1種以上の接着剤からなる接着性組成物としてもよい。
本発明の接着性組成物を重合硬化させて得られた接着層は、それ自体が目的物に対する接着性を有することから、本発明の接着性組成物は、従来公知の接着性組成物の用途に、即ち言いかえれば‘接着材’として使用できる。これら用途、即ち言いかえれば‘接着材’としては、例えば、複数の目的物同士の接着剤、目的物のコート材、シール材、絶縁層や断熱層等の層形成材、前処理剤等の接着層形成材(この接着層に更に別の目的物や別の接着層を本発明の接着性組成物や従来公知の接着剤を用いて接着、形成する)、凹部の充填修復材や穴埋め材(例えばクラック、傷、穴等を本発明の接着性組成物で充填修復、穴埋めする)、凸部形成材や盛り付け材(本発明の接着性組成物を目的物の表面に塗布、盛り付けて重合硬化させ、本発明の接着性組成物の硬化体からなる構造物を形成する)として使用できる。
本発明の接着性組成物を使用した接着材の例としては、(A)重合性単量体としてα−シアノアクリレートと(B)ポリロタキサンを含む液状またはゲル状の接着材が例示でき、このような接着材は大気中の水分やOH基またはアミノ基等を含有する化合物等の重合開始剤と接触混合することで重合硬化し、比較的短時間に(数秒〜数分後に)接着性を発現する。
本発明の接着性組成物は、(A)重合性単量体を含みその接着性が高いことと、また(B)ポリロタキサンの分解性基の分解により接着性を低減することができるので、被着対象物からの接着層の除去や接着した被着対象物の撤去が容易に行えることから目的物へのダメージを低減できる。そのため、骨用、爪用、歯科用等の生体硬組織用の接着性組成物として好適である。特には、二次う蝕等で惰弱化した歯からの接着層の除去や被着対象物の撤去が容易に行えて歯質へのダメージが低減できることから歯科用の接着性組成物であることが特に好ましい。更には、特に歯列矯正時には清掃が困難となり歯列矯正用ブラケットの周辺に二次う蝕を生じやすく、歯列矯正用ブラケットの撤去時に歯牙を痛めるリスクを低減できることから、特に歯列矯正用ブラケットの接着用の接着性組成物として特に好適に使用できる。歯列矯正用ブラケットの接着においては、矯正治療の経過に応じてデボンド(ブラケットの撤去)とリボンド(ブラケットの再装着)を繰り返す場合もあり、その観点からも特に好適な態様となる。また、本発明の接着性組成物をインプラント上部構造体の仮着用接着材として使用した場合は、インプラント周辺の清掃目的で該上部構造体を撤去する必要がある場合に、該上部構造体を破壊することなくまた額骨に過剰な力を加えることなく撤去が可能となる。そのため特に、インプラント上部構造体等の仮着用の接着性組成物材としても特に好適に使用できる。
以下、本実施形態の接着性組成物の好適な利用形態である生体硬組織用の接着性組成物について説明する。生体硬組織としては骨、爪、歯(エナメル質や象牙質)等が接着の対象となるが、これらの組成はハイドロキシアパタイト等の無機成分とコラーゲン等のタンパク質を主成分としており、以下で説明する生体硬組織用の接着性組成物は骨、爪、歯等に共通して使用することができる。
このような接着材としては、例えば、生体硬組織と他の被着対象物(それぞれ金属(金銀パラジウム合金、銀合金、チタン合金等)、プラスチック(ポリアルキルメタクリレート製やポリエステル製やポリアミド製の固形状物)、有機無機複合材料、セラミクス(陶材、アルミナやジルコニア等の金属酸化物系セラミクス)やハイドロキシアパタイト等の無機材料、別の生体硬組織)等を材質とする、修復物、治具、矯正用具、器具、詰め物、保定具、ワイヤー、ネジ、固定具等の物品)との接着剤、生体硬組織や上記他の物品のコート材、生体硬組織や上記他の物品のシール材、生体硬組織や上記他の物品の絶縁層や断熱層等の層形成材、生体硬組織や上記他の物品の前処理剤等の接着層形成材(この接着層に更に別の目的物や別の接着層を本発明の接着性組成物や従来公知の接着剤を用いて接着、形成する)、生体硬組織や上記他の物品の凹部の充填修復材や穴埋め材(例えば生体硬組織や上記他の被着対象物のクラック、傷、穴等を本発明の接着性組成物で充填修復、穴埋めする)、生体硬組織や上記他の物品の凸部形成材や盛り付け材(本発明の接着性組成物を生体硬組織や上記他の物品の表面に塗布、盛り付けて重合硬化させ、本発明の接着性組成物の硬化体からなる構造物を形成する)として使用できる。
骨、爪、歯等の生体硬組織と金属、プラスチック、有機無機複合材料、セラミクスやハイドロキシアパタイト等の無機材料等の材質からなる物品を接着させる場合には、本発明の接着性組成物がこれら材質への接着性を有すことが好ましい。この目的においては、(A)重合性単量体としてSH基等のイオウ原子含有重合性単量体等を使用すれば貴金属への接着性が、酸性基含有重合性単量体を使用すれば非貴金属やセラミクスや有機無機複合材料への接着性が、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング性基含有重合性単量体を使用すれば有機無機複合材料やセラミクスへの接着性が、有機溶媒を含み表面を膨潤させて(A)重合性単量体のプラスチックへの接着性が得られる。重合性基を(B)ポリロタキサンに導入して接着性を高める方法は好適である。
特には、歯の再生が現在の技術力では困難であることを鑑み、一度ダメージを受けた歯を元の状態に戻すことができないことを考慮すると、安全なデボンドができるという観点から歯科用の接着性組成物として使用することが好適であり、特には前述したように歯列矯正用ブラケットの接着用またはインプラント仮着用である接着材とする態様が特に好ましい。
―生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)―
本実施形態の生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)は、骨、爪、歯等の生体硬組織に対する接着性を有しており、重合硬化して生体硬組織の被着面上に接着層を形成する用途に使用される。
生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)においては、一般的には、該接着層自体がコート層またはシール層として機能するので、例えば、該接着層を形成させた歯牙を外部刺激から保護する(知覚過敏抑制)目的や、爪の審美性向上や傷をつきにくくするといった目的等に使用する。本実施形態の生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)は、(A)重合性単量体と、(B)ポリロタキサンとを含有しており、(A)重合性単量体を配合しそれを重合硬化することによって接着層を形成し接着力を高める一方で、分解誘起因子(刺激)に応答して(B)ポリロタキサン構造を分解することで、接着層を脆弱化させることができる。その結果、一度硬化させて強固に接着させた後でも、接着層に分解誘起因子(刺激)を与えることで接着層中の(B)ポリロタキサンの構造を分解し、接着強さを低下させて容易に剥がすことができる。
生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)に含まれる(B)ポリロタキサンは、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部〜500質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜250質量部の範囲内であることがより好ましく、3質量部〜200質量部の範囲内であることが最も好ましい。(B)ポリロタキサンの配合量を0.5質量部以下とすると、(B)ポリロタキサン構造の分解後の接着層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、(B)ポリロタキサンの配合量を500質量部以上となると、粘度が高くなりすぎる等して生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)の操作性に影響が出る可能性がある。
また、生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)に重合開始剤を含有させると比較的穏和な条件下で早い重合硬化反応が得られるため好適であり、該重合開始剤の添加量は(A)重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜10質量部の範囲内であることが最も好ましい。重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化性を高めることが可能となる。また、重合開始剤の配合量を20質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
なお、本実施形態の生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)に含まれる(A)重合性単量体、重合開始剤および(B)ポリロタキサンについては、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の生体硬組織用コート材または生体硬組織用シール材(特には歯科用コート材または歯科用シール材)には、重合性単量体、重合開始剤およびポリロタキサン以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。たとえば、水((A)重合性単量体100質量部に対して通常1〜200質量部)、有機溶剤((A)重合性単量体100質量部に対して通常5〜800質量部)、重合禁止剤またはシリカやフュームドシリカ等の無機粒子または有機粒子等の強度調節剤((A)重合性単量体100質量部に対して通常1〜50質量部)などを必要に応じて配合してもよい。
―生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)―
本実施形態の生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材((特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)(歯科用接着層形成材は歯科用ボンディング材として使用される場合がある))は、骨、爪、歯等の生体硬組織に対する接着性を有しており、重合硬化して生体硬組織の被着面上に接着層を形成する用途に使用される。生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)においては、一般的には、該接着層上には更に別の硬化性材料が接着される。例えば、該接着層には表面未重合層を有しているため、この未重合層を利用して別の重合硬化性材料を重合硬化させると、該接着層に該重合硬化性材料が一体として硬化し接着する。または他の接着性発現機構により、他の硬化性材料が適用され、硬化させられる等してもよい。生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)は(A)重合性単量体と、(B)ポリロタキサンとを含有しており、(A)重合性単量体を配合しそれを重合硬化することによって接着層を形成し接着力を高める一方で、分解誘起因子(刺激)に応答して構造を分解することで、接着層を脆弱化させることができる。その結果、一度硬化させて強固に接着させた後でも、接着層に分解誘起因子(刺激)を与えることで接着層中の(B)ポリロタキサンの構造を分解し、接着強さを低下させて容易に剥がすことができる。
生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)に含まれる(B)ポリロタキサンは、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部〜500質量部の範囲内であることが好ましく、1質量部〜250質量部の範囲内であることがより好ましく、3質量部〜200質量部の範囲内であることが最も好ましい。(B)ポリロタキサンの配合量を0.5質量部以下とすると、(B)ポリロタキサン構造の分解後の接着層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、(B)ポリロタキサンの配合量を500質量部以上となると、粘度が高くなりすぎる等して生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)の操作性に影響が出る可能性がある。
また、生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)に重合開始剤を含有させると比較的穏和な条件下で早い重合硬化反応が得られるため好適であり、該重合開始剤の添加量は(A)重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜10質量部の範囲内であることが最も好ましい。重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化性を高めることが可能となる。また、重合開始剤の配合量を20質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
なお、本実施形態の生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)に含まれる(A)重合性単量体、重合開始剤および(B)ポリロタキサンについては、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の生体硬組織用層形成材または生体硬組織用接着層形成材(特には、歯科用層形成材または歯科用接着層形成材)には、重合性単量体、重合開始剤およびポリロタキサン以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。たとえば、水((A)重合性単量体100質量部に対して通常1〜200質量部)、有機溶剤((A)重合性単量体100質量部に対して通常5〜800質量部)、重合禁止剤またはシリカやフュームドシリカ等の無機粒子または有機粒子等の強度調節剤((A)重合性単量体100質量部に対して通常1〜50質量部)などを必要に応じて配合してもよい。
―歯科用接着性レジンセメント―
本実施形態の歯科用接着性レジンセメント(自己接着性レジンセメントであっても、後述する歯科用接着性プライマーと組み合わせた歯科用接着性レジンセメントキットであってもよい。歯科用接着性プライマーと組み合わせた歯科用接着性レジンセメントキットである場合は、該プライマーと該レジンセメントの両方またはいずれか一方が(A)重合性単量体を含んでいれば良く、同様に(B)ポリロタキサンも該プライマーと該レジンセメントの両方またはいずれか一方が含めば良い)は、(A)重合性単量体と、(B)ポリロタキサンとを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性セメントは、分解性基を有するポリロタキサンを配合することによって接着力を高める一方で、一定の刺激に応答して構造を分解することで、接着材層を脆弱化させることができる。その結果、一度硬化させて強固に接着させた後でも、接着材層に刺激を与えることで組成中のポリロタキサンの構造を分解し、接着強さを低下させて容易に剥がすことができる。
歯科用接着性レジンセメントに含まれる(B)ポリロタキサンは、(A)重合性単量体100質量部に対して、1質量部〜250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部〜150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部〜100質量部の範囲内であることが最も好ましい。(B)ポリロタキサンの配合量を1質量部以下とすると、ポリロタキサン構造分解後の接着材層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、重合性単量体の配合量を100質量部以上となると、セメントの操作性に影響が出る可能性がある。
また、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントにおいて重合開始剤は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜10質量部の範囲内であることが最も好ましい。重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化を確保することが容易となる。また、重合開始剤の配合量を20質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。なお、歯科用接着性レジンセメントをデュアルキュア型とするために化学重合開始剤と光重合開始剤を併用してもよい。
本実施形態の歯科用接着性レジンセメントに含まれる重合性単量体、重合開始剤およびポリロタキサンについては、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の歯科用接着性レジンセメントには、重合性単量体、重合開始剤およびポリロタキサン以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。
たとえば、前述した有機粒子および無機粒子等の充填剤、水、重合禁止剤、紫外線吸収剤または含硫黄化合物などを必要に応じて配合してもよい。特に、有機粒子および無機粒子等の充填剤を配合することによって、歯科用接着性レジンセメントの硬化物の機械的強度を確保し、さらには操作性を高くすることができる。また、充填材の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、1質量部〜250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部〜150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部〜100質量部の範囲内であることが最も好ましい。また、水を配合することによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。水の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜15質量部の範囲内であることが好ましく、0.5質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましく、1質量部〜7質量部の範囲内であることが最も好ましい。
また、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントは、通常、保管時には第一成分と第二成分とから構成され、使用時には第一成分と第二成分とを混合して使用する。ここで、第一成分および第二成分の形態は、液体状あるいはペースト状のいずれであってもよいが、通常は双方共にペースト状であることが特に好ましい。
上述した本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを構成する各構成材料は、全種類の構成材料が、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において含まれていればよい。すなわち、第一成分中には、歯科用接着性レジンセメントを構成する全種類の構成材料のうち、一部の種類の構成材料が含まれていてもよく、全種類の構成材料が含まれていてもよい。なお、この点は第二成分についても同様である。さらに、上述した本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを構成する各構成材料の配合量についても、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において満たされていればよい。なお、この場合の各構成成分の配合量とは、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを使用する場合において、予め定められている第一成分と第二成分との混合比(使用上の混合比)に従って混合した場合の配合量を意味する。ここで、「使用上の混合比」とは、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントが市販されている市販製品である場合において、当該製品の使用説明書や製品説明書等に示される混合比(製造元や販売元が推奨する混合比)を意味する。なお、使用上の混合比に関する情報は、製品に添付された使用説明書や製品説明書等に記載されたもの以外にも、郵送されるものや、電子メールで配信されるもの、製造元や販売元のwebページ上で提供されるものなどでもよい。
―歯科用接着性プライマー―
本実施形態の歯科用接着性プライマー(セルフエッチングプライマー)は、(A)重合性単量体と、(B)ポリロタキサンとを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性プライマーは、分解性基を有するポリロタキサンを配合することによって接着力を高める一方で、一定の刺激に応答して構造を分解することで、プライマー層を脆弱化させることができる。その結果、一度硬化させて強固に接着させた後でも、プライマー層に刺激を与えることで組成中のポリロタキサンの構造を分解し、接着強さを低下させて容易に剥がすことができる。
歯科用接着性プライマーに含まれる(B)ポリロタキサンは、(A)重合性単量体100質量部に対して、1質量部〜250質量部の範囲内であることが好ましく、3質量部〜150質量部の範囲内であることがより好ましく、5質量部〜100質量部の範囲内であることが最も好ましい。(B)ポリロタキサンの配合量を1質量部以下とすると、ポリロタキサン構造分解後の接着材層の脆弱化が不十分となる可能性がある。また、重合性単量体の配合量を100質量部以上となると、プライマーの操作性に影響が出る可能性がある。
なお、本実施形態の歯科用接着性プライマーに含まれる(A)重合性単量体および(B)ポリロタキサンについては、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。
たとえば、前述した有機粒子および無機粒子等の充填剤、水、重合禁止剤、紫外線吸収剤または含硫黄化合物などを必要に応じて配合してもよい。特に、水を配合することによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。水の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、1質量部〜200質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜180質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜150質量部の範囲内であることが最も好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔合成例1〕
<分解性基を有するポリロタキサンAの合成>
(1)ポリエチレングリコール末端のカルボジイミダゾールによる活性化(PEG−CDIの調製)
1,1−カルボニルジイミダゾール(CDI)10gに、ジクロロメタン25mLにポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量:10,000)10gを溶解させた溶液を、窒素雰囲気下、室温にてゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温、窒素雰囲気下にて一晩撹拌した。反応溶液に蒸留水25mLを加えて分液し、ジクロロメタン25mLを用いて抽出を繰り返し有機層を回収した。得られた有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、十分に乾燥させた後、濾過にて乾燥剤を取り除いた。ジクロロメタン溶液を濃縮し、濃縮溶液をジエチルエーテル中に滴下して、析出物を回収し、乾燥した(回収量8.6g)。回収物(PEG−CDIと呼ぶ)の構造を1H−NMRにて確認したところ、PEGの末端CDI化率は95%以上であった。
(2)ポリエチレングリコール末端への分解性(S−S結合)の導入(PEG−SS−BAの調製)
シスタミン5gに、ジクロロメタン20mLに(1)で得られたPEG−CDIを5g溶解させた溶液を、窒素雰囲気下、室温にてゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温下、窒素雰囲気下にて一晩撹拌した。反応溶液に蒸留水70mLを加えて分液し、ジクロロメタンを用いて抽出を繰り返し有機層を回収した。得られた有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、十分に乾燥させた後、濾過にて乾燥剤を取り除いた。ジクロロメタン溶液を濃縮し、濃縮溶液をジエチルエーテル中に滴下して、物を回収し、乾燥した(回収量4.3g)。回収物(PEG−SS−BAと呼ぶ)の構造を1H−NMRにて確認したところ、PEG−SS−BAのSS−BA化率は95%以上であった。PEG−SS−BAの1H−NMR測定結果を図1に示す。各ピークの帰属から、PEG末端部分に、分解性基であるS−S結合が導入され、所定の構造であることを確認した。
(3)PEG−SS−BAとα−シクロデキストリンを用いた包接錯体の調製および包接錯体の封鎖(分解性基を有するポリロタキサンAの調製)
α−シクロデキストリン(α−CD)5gを蒸留水35mLに溶解させ、そこに上記(2)で得られたPEG−SS−BAを1g加えて激しく撹拌した。2時間反応させ白濁析出した包接錯体を凍結乾燥して、回収した。
N−カルボベンゾキシ−L−チロシン(Z−Tyr)1.26gと4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド n水和物(DMT−MM)1.11gをメタノール48mLに溶解させた溶液と回収した包接錯体を混合し、室温にて3日間反応させた。
反応溶液にDMSOを20mL加え、それをメタノールに滴下してポリロタキサンを析出させ、遠心分離によりポリロタキサンを回収した。回収したポリロタキサンをDMSOに加え溶解し、メタノールにて析出させる操作を数回繰り返し、遠心分離で回収後、凍結乾燥することで精製したポリロタキサン(分解性基を有するポリロタキサンA)(回収量4.7g)を得た。
得られたポリロタキサン(分解性基を有するポリロタキサンA)は、1H−NMRおよびGPCで同定し、未包接のCDが含まれないことを確認した。また、PEGに対するα−CDの割合で包接率を計算したところ、α−CDの包接率は0.5であった。
ポリロタキサンAの構造を模式的に図2に示す。ポリロタキサンAの1H−NMR測定結果を図3に示す。α−CD由来のピーク、封鎖基芳香環由来のピークを確認し、PEG−SS−BAに対しα−シクロデキストリンが包接し、末端が封鎖基で封鎖された所定のポリロタキサンAであることを確認した。
ポリロタキサンAを水または0.1Mジチオスレイトール水溶液に懸濁し室温下放置した所、水懸濁物は24時間後も懸濁状態のまま外観変化は無かったのに対し、0.1Mジチオスレイトール水溶液に懸濁したものは30分後には完全に溶解した。ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)により、低分子量化したことが確認された。分解性基であるS−S結合がジチオスレイトールにより切断され末端部の封鎖基が脱離したことにより、一部または全部のα−CDが包接状態から非包接状態に遊離した、即ち、ポリロタキサンAの超分子構造はジチオスレイトールを作用させることで分解・崩壊することが確認された。
〔比較合成例1〕
<分解性基を有さないポリロタキサンXの合成>
(4)PEG末端へのアミノ基の導入(PEG−BAの調製)
脱水ジクロロメタン20mLに、PEG(分子量;10,000)10g、ジメチルアミノピリジン0.366g、脱水トリエチルアミン0.304gを溶解させ、氷浴にて30分間冷却した。脱水ジクロロメタン5mLとp−トルエンスルホニルクロリド(p−TsCl)0.57gの混合溶液を滴下し、その後、反応溶液をゆっくりと室温に戻した。室温にて一晩反応させた後、反応溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄、分液し、さらに飽和食塩水で洗浄、分液して有機層を回収した。回収した有機層を濃縮し、濃縮溶液をジエチルエーテル中に滴下して析出物を回収し、乾燥した。回収物(PEG−OTsと呼ぶ)の構造を1H−NMRにて確認したところ、PEGの末端OTs化率は95%以上であった。
脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50mL、上記で得られたPEG−OTs7.5gおよびフタルイミドカリウム(KPI)1.52gを100度にて一晩反応させた。反応溶液を濃縮し、ジクロロメタン50mLを加えて溶解させた後、不溶物を濾過にて除去した。溶液を濃縮後、ジクロロメタン30mLを加え、ジエチルエーテル中に滴下して、析出物を回収し、乾燥した。回収物(PEG−PIと呼ぶ)の構造を1H−NMRにて確認したところPEG−PIの末端PI化率は95%以上であった。
エタノール45mLに上記で得られたPEG−PIの6.5gを溶解させ、その後、ヒドラジン一水和物1.5gを加えて90度にて一晩反応させた。反応溶液を濃縮し、ジクロロメタン50mLを加えて溶解させた後、不溶物を濾過にて除去した。溶液を濃縮後、ジクロロメタン30mLを加え、ジエチルエーテル中に滴下して、物を回収し、乾燥した。回収物(PEG−BAと呼ぶ)の構造を1H−NMRにて確認したところPEG−BAの末端BA化率は95%以上であった。PEG−BAの1H−NMR測定結果を図4に示す。ピークの帰属から、PEG末端部分にアミノ基が導入された所定の構造であることを確認した。
(5)PEG−BAとα−シクロデキストリンを用いた包接錯体の調製および包接錯体の封鎖(分解性基を有さないポリロタキサンXの調製)
α−シクロデキストリン(α−CD)5gを蒸留水35mLに溶解させ、そこにPEG−BAを1g加えて激しく撹拌した。2時間反応させ白濁析出した包接錯体を凍結乾燥して、回収した。
N−カルボベンゾキシ−L−チロシン(Z−Tyr)1.26gと4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMT−MM)1.11gをメタノール48mLに溶解させた溶液と回収した包接錯体を混合し、室温にて3日間反応させた。
反応溶液にDMSOを20mL加え、それをメタノールに滴下してポリロタキサンを析出させ、遠心分離によりポリロタキサンを回収した。回収したポリロタキサンをDMSOを加え、メタノールにて析出させる操作を数回繰り返し、遠心分離で回収後、凍結乾燥して最終的に精製したポリロタキサン(分解性基を有さないポリロタキサンXの調製)を得た。
得られたポリロタキサン(分解性基を有さないポリロタキサンX)は、1H−NMRおよびGPCで同定し、未包接のCDが含まれないことを確認した。また、PEGに対するα−CDの割合で包接率を計算したところ、α−CDの包接率は0.5であった。
ポリロタキサンXの構造を模式的に図5に示す。ポリロタキサンXの1H−NMR測定結果を図6に示す。α−CD由来のピーク、封鎖基芳香環由来のピークを確認し、PEG−BAに対しα−シクロデキストリンが包接し、末端が封鎖基で封鎖された所定のポリロタキサンXであることを確認した。
ポリロタキサンXを水または0.1Mジチオスレイトール水溶液に懸濁し室温下放置した所、水および0.1Mジチオスレイトール水溶液のいずれの懸濁物も24時間後も懸濁状態のまま外観変化は無かった。ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)により、分子量の変化が無いことが確認された。分解性基を有さないポリロタキサンXでは、ジチオスレイトールを作用させた場合も末端部の封鎖基が脱離せず、よって全部のα−CDが包接状態を保つこと、即ち、ポリロタキサンXの超分子構造はジチオスレイトールを作用させることで分解・崩壊しないことが確認された。
〔合成例2〕
<分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCの合成>
(6)分解性基を有するポリロタキサンAの疎水化のためのアミノブチル基の導入(ssPRX−Buの調製)
上記(3)で合成した1gの「分解性基を有するポリロタキサンA」を20mLの脱水DMSOに溶解し、1.6gのCDIを加え室温下、3時間反応させた。次いで、n−ブチルアミンを加えて3日間反応させた。反応液を200mLの蒸留水に滴下し、析出物を遠心分離法にて回収した。水にて3回洗浄・遠心分離を行い、凍結乾燥して目的物を回収した(回収量1.4g)。回収したssPRX−Buの構造を1H−NMRにて確認したところssPRX−Buには包接したα−CD1分子当り7.2個のアミノブチル基が導入された。
アミノブチル基が導入されたポリシロキサンの構造を模式的に図7に示す。
(7)ssPRX−Buへのメタクリロイル基の導入(分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCの合成)
上記(6)で合成した1gのssPRX−Buを、20mLの脱水DMSOに溶解した。0.8gのCDIを加えて室温下、24時間反応させた。次いで、メタクリル酸−2−アミノエチル塩酸塩を0.4g加え、3日間反応させた。反応用液を透析膜(MWCO:3500)に移し、メタノール中で4日間透析した。透析後、透析膜内の溶液を蒸留水(反応液の7倍溶量の蒸留水)に滴下し、析出物を遠心分離後、得られた白色固体を4日間凍結乾燥することで、目的物である「分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンC」を得た(回収量0.9g)。得られたポリロタキサンは、1H−NMRおよびGPCで同定し、所定のポリロタキサンであることを確認した。なお、包接したα−CD1分子当り1.4個のメタクリロイル基が導入された。
分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCの構造を模式的に図8に示す。ポリロタキサンCの1H−NMR測定結果を図9に示す。α−CD由来のピーク、アミノブチル基由来のピーク、メタクリロイル基由来のピークを確認し、PEG−SS−BAに対しα−シクロデキストリンが包接し、アミノブチル基およびメタクリロイル基でα−CDが修飾された所定のポリロタキサンCであることを確認した。
ポリロタキサンCを0.1Mジチオスレイトールを含むジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に懸濁・溶解し室温下1時間放置し、GPC測定を行った結果、低分子量化したことが確認された。分解性基であるS−S結合がジチオスレイトールにより切断され末端部の封鎖基が脱離したことにより、一部または全部のα−CDが包接状態から非包接状態に遊離した、即ち、ポリロタキサンCの超分子構造はジチオスレイトールを作用させることで分解・崩壊することが確認された。
〔合成例3〕
<分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDの合成>
(8)ポリエチレングリコール末端への光開裂性ニトロベンジル基の導入(PEG−NBの調製)
尚、合成例3はニトロベンジル基の開裂を生じないよう遮光下で合成した。
3.0gの4−(ブロモメチル)−3−ニトロ安息香酸および4.6gの炭酸ナトリウムを、アセトンと水とを1対1の体積で混合した溶液50mLに溶解し、60℃で2時間灌流することで、4−(ヒドロキシメチル)−3−ニトロ安息香酸を合成した。精製として、塩酸を加えてpH2に調整した反応溶液と酢酸エチルで分液を行い、4−(ヒドロキシメチル)−3−ニトロ安息香酸を抽出した。硫酸マグネシウムにより乾燥した(回収量1.98g)。0.78gの4−(ヒドロキシメチル)−3−ニトロ安息香酸および1.2gの4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMT−MM)をメタノール10mLに溶解させ、上記(4)で合成したPEG−BA2gに滴下し、24時間25℃で撹拌することで4−(ヒドロキシメチル)−3−ニトロ安息香酸のカルボキシル基とPEG―BAのアミノ基を縮合した。次いで、ジエチルエーテルを用いて再沈殿を行った後、分画分子量3500の透析膜を用いて水に対して2日間透析した。最後に、凍結乾燥を行い固体として回収した(回収量1.8g)。回収したPEG−NBの構造を1H−NMRにより解析した結果、ニトロベンジル基の導入率は、76%とされた。
(9)PEG−NBとα―シクロデキストリンを用いた包接錯体の調製および包接錯体の封鎖(光開裂性ポリロタキサンの調製)
上記(8)で合成した1.8gのPEG−NBを脱水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、2.21mLのトリエチルアミンを加えて完全に混合した。次いで、2.5mLの脱水テトラヒドロフランに溶解させた1.0gのクロロぎ酸4−ニトロフェニルを、反応溶液に滴下し、24時間反応させた。その後、ジエチルエーテルを用いた再沈殿法により精製を行った。回収したクロロぎ酸4−ニトロフェニルを両末端に修飾したPEG−NBとエチレンジアミン3.4mLをメタノール1mLに溶解させ、25℃で24時間反応させることで、クロロぎ酸4−ニトロフェニルを両末端に修飾したPEG−NBの両末端に更にアミノ基を導入した(PEG−NB−A)。精製は、ジエチルエーテルを用いた再沈殿法を行い、減圧下で乾燥させた。PEG−NB−Aとα―シクロデキストリンの包接錯体を形成させるために、α−シクロデキストリン(α−CD)5gを水34mLに溶解させ、PEG−NB−Aの1.0gを加えて撹拌した。24時間の反応後、析出した包接錯体を凍結乾燥し、回収した(回収量2.7g)。この回収した包接錯体の末端アミノ基に封鎖基を付加するために、N−カルボベンゾキシ−L−チロシン(Z−Tyr―OH)1.33gと4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMT−MM)1.2gをメタノール20mLに溶解させ、回収した包接錯体の2.7gを混合し、25℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分画分子量3500の透析膜に加え、ジメチルスルホキシドおよび水に対して透析を4日間ずつ行い、凍結乾燥により精製した「光開裂性ポリロタキサン」を得た(回収量619mg)。得られた「光開裂性ポリロタキサン」は、1H−NMRおよびGPCで同定し、未包接のCDが含まれないことを確認した。また、PEGに対するα−CDの割合で包接率を計算したところ、α−CDの包接率は0.25であった。
(10)光開裂性ポリロタキサンへの重合性基導入(分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDの調製)
上記(9)で合成した光開裂性ポリロタキサン200mg、メタクリル酸2−イソシアナトエチル44μL、およびイソシアン酸ブチル276μLをジメチルスルホキシド4mLに溶解させた後、トリエチレンジアミン111mgを反応容器に加え、24時間25℃で撹拌した。反応終了後、分画分子量8000の透析膜を用いて、ジメチルスルホキシドおよび水に対して透析を2日間ずつ行い、凍結乾燥により固体としてポリロタキサンDを回収した(回収量290.4mg)。
分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDの模式図と1H−NMR測定結果を図10に示す。α−CD由来のピーク、アミノブチル基由来のピーク、メタクリロイル基由来のピークを確認した。GPCにより分子量を確認した。また、吸収スペクトルを確認した結果を図11に示したが、ポリロタキサンDがニトロベンジル基に由来する吸収を有すことを確認した。即ち、ポリロタキサンDは、分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有する所定のポリロタキサンDであることを確認した。尚、1H−NMRにより、包接したα−CD1分子当り1分子のメタクリロイル基と8分子のブチルイソシアナート基が導入された。
実施例1「分解性基を有するポリロタキサンAを添加した歯科用接着剤キットAを使用して調製した接着試験片における、分解性基を切断する試薬作用時のせん断接着力低減効果の実証」
歯質用プライマーAとして、20質量部のPM(2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物;酸性基含有重合性単量体)、10質量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(水酸基含有重合性単量体)、10質量部のUDMA(1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物;多官能性重合性単量体)、20質量部の水、50質量部のアセトン、0.3質量部のBMOV(ビス(マルトラート)オキソバナジウム(4価);重合開始助剤)、0.1質量部のジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)の均一溶液を使用した。
粉材と液材からなる粉液混合型の化学重合型歯科用MMAレジンとして、以下の粉材Aと液材Aを使用した。尚、歯科用プライマーAを歯質の被着面に塗布後、歯科矯正用金属ブラケットを粉液混合型の化学重合型歯科用MMAレジンで接着する態様の、歯科用接着剤キットAとして使用した。
粉材Aは、25質量部のポリメチルメタクリレート(重量平均分子量25万、平均粒径20マイクロメートルの球状ポリメチルメタクリレート)、25質量部のメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体(重量平均分子量25万、平均粒径75マイクロメートル、球状、共重合比メチルメタクリレート:エチルメタクリレート=1:1)、50質量部の分解性基を有するポリロタキサンA(合成例1で合成したもの)、2質量部の2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(重合開始助触媒)の混合物を使用した。液材Aとしては、80質量部のメチルメタクリレート、15質量部のUDMA、5質量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4質量部のテトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩(重合開始剤)、0.1質量部のジブチルヒドロキシトルエンの均一溶液を使用した。
エナメル質せん断接着強さの測定法は、以下に従った。
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、歯根を除去し、円筒貫通孔を有するモールド(内径25mm、高さ25mm)と常温硬化埋込樹脂であるデモテック#20(株式会社ナノファクター)を用いて包埋した。包埋した歯を注水下、#1500の耐水研磨紙で唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次に、削り出した平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この面に上記歯科用プライマーAを塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。次に、上記粉材Aと液材Aを質量比1.8:1で混合し、得られたMMAレジン泥を歯科矯正用金属ブラケット(トミー社製、マイクロアーチ フォーミュラー(ロスタイプ) 921−101R)のベース面に塗布し、上記歯科用プライマーA処理面に圧接した。37℃、湿度100%下、1時間放置後、24時間37℃にて水中保管し、接着試験片を作製した。
上記接着試験片を25℃下、エタノール水溶液(水1容積とエタノール1容積を混合、S−S結合の切断を生じないコントロール)および0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液((水1容積とエタノール1容積を混合)、ジチオスレイトールが分解性基を有するポリロタキサンAの分解性基であるS−S結合を切断することでポリロタキサンAが分解するポジティブコントロール)に10時間浸漬した後、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにてエナメル質せん断接着強さを測定した。
その結果、エタノール水溶液に浸漬した接着試験片のエナメル質せん断接着強さ(試験力)は9.7Nであり、0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液に浸漬した接着試験片のエナメル質せん断接着強さ(試験力)は2.4Nであった。ジチオスレイトールが分解性基を有するポリロタキサンAの分解性基であるS−S結合を切断することでポリロタキサンAが分解し、その結果接着層の硬化体強度が低下し、それにより0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液に浸漬した接着試験片のエナメル質せん断接着強さを大きく低減させたと考えられた。
比較例1「分解性基を有さないポリロタキサンXを添加した歯科用接着剤キットXを使用して調製した接着試験片の、せん断接着力低減効果の検討」
粉材と液材からなる粉液混合型の化学重合型歯科用MMAレジンとして、以下の粉材Xを使用した以外は、実施例1と同じの検討を行った。尚、歯科用プライマーAを歯質の被着面に塗布後、歯科矯正用金属ブラケットを粉液混合型の化学重合型歯科用MMAレジンで接着する態様の、歯科用接着剤キットXとして使用した。
粉材Xは、25質量部のポリメチルメタクリレート(重量平均分子量25万、平均粒径20マイクロメートルの球状ポリメチルメタクリレート)、25質量部のメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体(重量平均分子量25万、平均粒径75マイクロメートル、球状、共重合比メチルメタクリレート:エチルメタクリレート=1:1)、50質量部の分解性基を有さないポリロタキサンX(比較合成例1で合成したもの)、2質量部の2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(重合開始助触媒)の混合物を使用した。
得られた接着試験片を25℃下、エタノール水溶液(水1容積とエタノール1容積を混合)および0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液(水1容積とエタノール1容積を混合)、に10時間浸漬した後、万能試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにてエナメル質せん断接着強さを測定した。
その結果、エタノール水溶液に浸漬した接着試験片のエナメル質せん断接着強さ(試験力)は10.1Nであり、0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液に浸漬した接着試験片のエナメル質せん断接着強さ(試験力)は10.9Nであった。分解性基を有さないポリロタキサンXにおいては、0.1Mジチオスレイトールのエタノール水溶液に浸漬した場合も接着試験片のエナメル質せん断接着強さは変わらなかった。
実施例2「分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCを使用して調製した光重合型接着剤Cの硬化体に対する、分解性基を切断する試薬を作用させた際の表面硬度低減効果の実証」
合成例2で合成した分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCの50質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの25質量部、UDMAの25質量部、アセトンの200質量部、カンファーキノンの2質量部、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチルの2質量部、ジブチルヒドロキシトルエンの1質量部を混合、溶解し、これを溶液型の光重合型接着剤Cとして使用した。
ポリアセタール製の円形モールド(厚さ0.5mm、直径15mm)に光重合型接着剤Cを添加し、エアブロー処理によりアセトンを揮発させた。ポリプロピレン製フィルムを圧接し、歯科用可視光線照射器(700mW/cm2)で3分間光照射した。硬化体を型から外し、初期の表面硬度(ビッカース硬度)を測定した。硬化体の一つは、そのまま室温下、6日間アセトンに浸漬した。硬化体の別の一つは、0.1Mのジチオスレイトールのアセトン溶液に6日間浸漬した。それぞれ浸漬後、硬化体の表面硬度(ビッカース硬度)を測定した。尚、ビッカース硬度の測定には表面硬度計(MATSUZAWA製:MMT−X7型)を用いて、荷重5gf、荷重保持時間30秒でできたくぼみの対角線長さを測定した。下式(2)より、ビッカース硬度を求めた。
HV=F/S=2Fx(sinシータ)/2d2=1.8544F/d2 (2)
ここで、HV:ビッカース硬度、F:荷重(kgf)、S:くぼみの表面積(mm2)、d:くぼみの対角線長さ(mm)、シータ:ダイヤモンド圧子の対面角である。
ビッカース硬度の測定の結果、初期の硬化体のビッカース硬度は2.9、6日間アセトンに浸漬した硬化体のビッカース硬度は1.7、0.1Mのジチオスレイトールのアセトン溶液に6日間浸漬した硬化体のビッカース硬度は0.1であった。
アセトンに浸漬した硬化体と比較して、ジチオスレイトールのアセトン溶液に浸漬した硬化体では、ビッカース硬度が大幅に小さいことが確かめられた。ジチオスレイトールのアセトン溶液に浸漬した硬化体において、ジチオスレイトールによる分解性基(S−S結合)の切断に伴うポリロタキサンCの分解により、硬化体強度が大幅に低減したことが考えられた。即ち、分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCを使用して調製した光重合型接着剤Cにおいては、ポリロタキサンCの分解性基を切断するように作用する試薬(実施例2ではジチオスレイトール)を作用させることで、調製した硬化体の表面硬度を大幅に低減する効果が得られることを確認した。例えば光重合型接着剤Cの硬化体にポリロタキサンCの分解性基を切断するように作用する試薬を作用させることで接着性を低下できることが示唆された。また例えば、光重合型接着剤Cを表面コート剤として使用した場合に、光重合型接着剤Cの硬化体にポリロタキサンCの分解性基を切断するように作用する試薬を作用させることで、表面コート層の表面硬度が低下しその除去が容易になることが示唆された。
実施例3「分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCを使用して調製した光重合型接着剤Dの硬化体に対する、分解性基を切断する試薬を作用させた際の微小引張試験力低減効果の実証」
合成例2で合成した分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCの5質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの20質量部、UDMAの75質量部、カンファーキノンの2質量部、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチルの2質量部を混合、溶解し、これを光重合型接着剤Dとして使用した。
ポリアセタール製のモールド(厚さ1mm、長さ15mm、中心部の幅1mm、端部の幅2mmのダンベル状)に光重合型接着剤Dを添加し、ポリプロピレン製フィルムを圧接し、歯科用可視光線照射器(700mW/cm2)で3.5分間光照射した。硬化体を型から外し、接着試験片の一つは、そのまま室温下、18時間アセトンに浸漬した。硬化体の別の一つは、0.1Mのジチオスレイトールのアセトン溶液に18時間浸漬した。それぞれ浸漬後、硬化体の微小引張強度をクロスヘッドスピード1mm/minにて測定した(島津製作所製、オートグラフ EZ Test)。
その結果、アセトンに浸漬した硬化体の微小引張強さは16.1MPaであったのに対し、0.1Mのジチオスレイトールのアセトン溶液に浸漬した硬化体の微小引張強さは13.3MPaと低かった。ジチオスレイトールのアセトン溶液に浸漬した硬化体において、ジチオスレイトールによる分解性基(S−S結合)の切断に伴うポリロタキサンCの分解により、微小引張強度が大幅に低減したことが考えられた。即ち、分解性基および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンCを使用して調製した光重合型接着剤Dにおいては、ポリロタキサンCの分解性基を切断するように作用する試薬(実施例3ではジチオスレイトール)を作用させることで、調製した硬化体の微小引張強度表面硬度を大幅に低減する効果が得られることを確認した。例えば光重合型接着剤Dの硬化体にポリロタキサンCの分解性基を切断するように作用する試薬を作用させることで接着性を低下できることが示唆された。
実施例4「分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDを使用して調製した光重合型接着剤Eの硬化体に対する、光開裂性基を開裂する特定波長光を作用させた際の微小引張試験力低減効果の実証」
合成例3で合成した分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDの10質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレートの100質量部、カンファーキノンの5質量部を混合溶解し、これを光重合型接着剤Eとして使用した。
ポリアセタール製のモールド(厚さ1mm、長さ15mm、中心部の幅1mm、端部の幅2mmのダンベル状)に光重合型接着剤Eを添加し、ポリプロピレン製フィルムを圧接し、可視光線照射器(波長400〜450nm、700mW/cm2)で3.5分間光照射した。尚、波長400〜450nmにおける今回の光照射条件下ではポリロタキサンDのニトロベンジル基は開裂しないことを確認した。硬化体を型から外し試験片とした。試験片の一つはそのまま室温下、遮光下で静置した(非UV照射群、n=4)。試験片の別の一つは、UV照射(254nm、2.5mW/cm2、厚さ方向に対し両側から(表側と裏側から)各1分間、合計で2分間照射)し、その後遮光下で静置した(UV照射群、n=4)。その後、試験片(硬化体)の微小引張強度をクロスヘッドスピード1mm/minにて測定した(島津製作所製、オートグラフ EZ Test)。
その結果、非UV照射群の微小引張強さは62.6MPa(標準偏差2.8MPa)であったのに対し、UV照射群の微小引張強さは28.6MPa(標準偏差10.1MPa)と低かった。UV照射群においては、UV照射による光開裂性基(ニトロベンジル基)の開裂に伴うポリロタキサンDの分解により、微小引張強度が大幅に低減したことが考えられた。特に、比較的短時間のUV照射という簡便な処理により、大幅に微小引張強度を大幅に低減することができた。即ち、分解性基として光開裂性基であるニトロベンジル基、および重合性基としてのメタクリロイル基を有するポリロタキサンDを使用して調製した光重合型接着剤Eにおいては、ポリロタキサンDの分解性基である光開裂性基(ニトロベンジル基)を開裂するように作用する特定波長UV光(実施例4では波長254nmのUV光)を作用させることで、調製した硬化体の微小引張強度を大幅に低減する効果が得られることを確認した。例えば光重合型接着剤Eの硬化体にポリロタキサンDの分解性基を切断するように作用する光照射を行うという簡単な操作により、短時間の作用時間においても大幅に接着性を低下できることが示唆された。