以下、本発明によるブレーキ装置を備えたクレーンの一実施の形態について、図面を参照して説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、ブレーキ装置を備えたクレーンの外観側面図である。クレーン100は、走行体101と、走行体101上に旋回可能に設けられた旋回体103と、旋回体103に回動可能に軸支されたブーム104とを有する。旋回体103には巻き上げ用のウインチである巻上ウインチ105と、ブーム起伏用のウインチである起伏ウインチ106とが搭載されている。
巻上ウインチ105には巻上ロープ105aが巻回され、巻上ウインチ105の回転により巻上ロープ105aが巻き取られ、または繰り出され、フック110が昇降する。起伏ウインチ106には起伏ロープ106aが巻回され、起伏ウインチ106の回転により起伏ロープ106aが巻き取られ、または繰り出され、ブーム104が起伏する。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るブレーキ装置を有するウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。図2では、巻上ウインチ105を駆動する油圧回路について図示したものであり、起伏ウインチ106を駆動する油圧回路については、図示を省略している。クレーン100は、クレーン100の各部の動作を制御するコントローラ18と、エンジン(不図示)と、エンジン(不図示)により駆動されるメインポンプ12、冷却油ポンプ19およびパイロットポンプ9とを備えている。メインポンプ12、冷却油ポンプ19およびパイロットポンプ9は、タンク10内の作動油を圧油として吐出する。
コントローラ18は、CPUや記憶装置であるROMおよびRAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成され、クレーン100のシステム全体の制御を行っている。
ウインチ装置は、巻取ドラム3と、油圧モータ1と、メインポンプ12と、コントロールバルブ11と、遊星減速機構2と、ブレーキ装置Bと、を備える。メインポンプ12は、油圧モータ1に圧油を供給し、油圧モータ1を駆動して、巻取ドラム3を巻上げおよび巻下げ駆動する。コントロールバルブ11は、メインポンプ12から油圧モータ1への圧油の流れを制御する。遊星減速機構2は、油圧モータ1の駆動力を巻取ドラム3に伝達する。ブレーキ装置Bは、遊星減速機構2のキャリア軸4gを制動することにより巻取ドラム3の自由回転を阻止する。
ブレーキ装置Bは、巻取ドラム3内に搭載されるブレーキ4を備えている。ブレーキ4は、複数の摩擦板を有する湿式多板ブレーキであって、摩擦板同士を圧接させてブレーキ力(制動力)を発生させる第1ピストン4cおよび第2ピストン4dを有している。
以下、説明の便宜上、巻上ウインチ105の回転軸方向、すなわちキャリア軸4gの中心軸方向を単に軸方向と記す。また、油圧モータ1の出力軸が配置される側をウインチ装置の前側と記し、軸方向反対側をウインチ装置の後側として説明する。
ブレーキ装置Bは、ネガティブ型のブレーキ装置(制動装置)であって、摩擦板同士の圧接力を調整する圧接力調整装置を備えている。圧接力調整装置は、摩擦板同士の圧接力を増加させるように第1ピストン4cおよび第2ピストン4dに駆動力を作用させる第1バネ4e1および第2バネ4e2と、圧油が供給されることで、摩擦板同士の圧接力を減少させるように第1ピストン4cおよび第2ピストン4dに駆動力を作用させる第1油圧シリンダ装置4s1および第2油圧シリンダ装置4s2と、を含む。
本実施の形態では、ブレーキ装置Bは、第1ブレーキ機構B1と第2ブレーキ機構B2を備える2段式の制動装置である。ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル6aの踏み込み量が小さいときには、第1ブレーキ機構B1が単独で制動力を発生させ、ブレーキペダル6aの踏み込み量が大きいときには、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が協働して制動力を発生させる構成とされている。第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2の構造の詳細は、後述する。
ブレーキ装置Bは、油圧モータ1と巻取ドラム3との間で回転を伝達したり、遮断したりするクラッチ装置としての機能も有している。つまり、ブレーキ装置Bは、動力巻上げおよび停止時はクラッチおよびパーキングブレーキとして機能し、フリーフォール時はサービスブレーキとしての機能を有している。なお、本明細書では、ブレーキ装置Bをクラッチとして用いる場合に必要な制動力を「必要クラッチ力」と定義し、ブレーキ装置Bをサービスブレーキとして用いる場合に必要な制動力を「必要ブレーキ力」と定義する。
ウインチを駆動する油圧回路には、ウインチ操作レバー13の操作により切替制御されるモータブレーキ切替弁7と、モータブレーキシリンダ8と、ブレーキペダル6aにより操作されるブレーキ制御弁6と、コントローラ18により切替制御されるブレーキ切替弁5と、冷却回路安全弁20と、が設けられている。また、この油圧回路には、ブレーキ切替弁5を切り替えてブレーキ4の動作モードを切り替えるために、操作圧センサ15と、ブレーキ回路圧センサ16とが設けられ、それぞれコントローラ18に接続されている。さらに、コントローラ18には、ブレーキモード切替スイッチ17が接続されている。なお、ブレーキ4の動作モードは、後述する自動ブレーキモード、または、中立フリーモードに切り替えられる。
遊星減速機構2は、サンギヤ2aと、プラネタリギヤ2bと、リングギヤ2cとを含んで構成される。油圧モータ1の出力軸は遊星減速機構2のサンギヤ2aに連結されている。サンギヤ2aにはプラネタリギヤ2bが噛合され、プラネタリギヤ2bには巻取ドラム3の内周側に設けられたリングギヤ2cが噛合されている。プラネタリギヤ2bは、プラネタリキャリア2dにより支持されている。プラネタリキャリア2dが固着されるキャリア軸4gは、ブレーキ4のケーシング4fの側壁を貫通してブレーキ4内に達している。キャリア軸4gは軸受により支持されている。キャリア軸4gの外周面とキャリア軸4gが挿通される貫通孔との間は、オイルシール4hにより封止されている。
ケーシング4fは、複数の摩擦板やピストン、バネ等を収容する円筒状の収容部材である。ケーシング4fは、内側に複数の摩擦板が配置される第1筒部4f1と、内側に第1ピストン4cが配置される第2筒部4f2と、内側に第2ピストン4dが配置される第3筒部4f3と、第1筒部4f1の開口端を塞ぐ第1エンドプレート4f4と、第3筒部4f3の開口端を塞ぐ第2エンドプレート4f5と、を有している。第1筒部4f1、第2筒部4f2および第3筒部4f3は結合されて一体となっており、ケーシング4fの内側にはブレーキ4の各構成部材を収容する収容空間が形成されている。
図3はブレーキ4の構成を示す図である。図3では摩擦板同士が圧接されてブレーキ力が発生している状態を模式的に示している。ケーシング4fの収容空間には、第1収容室140aと、第2収容室140bと、キャリア軸室141と、ディスク室142と、外周流路143と、が形成されている。
第1収容室140aは、第1ピストン4cおよび複数の第1バネ4e1が収容される空間である。第2収容室140bは、第2ピストン4dおよび複数の第2バネ4e2が収容される空間である。キャリア軸室141は、ディスク室142の内周側の空間であって、キャリア軸4gの端部が収容される空間である。ディスク室142は、円環状の複数の摩擦板(回転摩擦板4aおよび固定摩擦板(相手板)4b)が収容される空間である。外周流路143は、ディスク室142の外周側に配置される空間である。
キャリア軸室141はディスク室142を介して外周流路143に連通され、外周流路143は第3筒部4f3に設けられた入口ポート4jに連通されている。なお、第3筒部4f3に設けられた入口ポート4jは、第2筒部4f2に設けられた流路を介して、外周流路143に連通されている。入口ポート4jは、冷却油ポンプ19に接続されている(図2参照)。
キャリア軸室141は第1ピストン4cの開口部および第2ピストン4dの開口部を介して第2収容室140bにおけるバネ室に連通されている。第2収容室140bのバネ室は、第2エンドプレート4f5に設けられた出口ポート4kに連通されている。出口ポート4kは、タンク10に接続されている(図2参照)。
回転摩擦板4aおよび固定摩擦板4bは、ディスク室142において軸方向に交互に配置されている。キャリア軸4gには複数枚の回転摩擦板4aがスプライン結合により軸方向に移動可能に係合され、回転摩擦板4aはキャリア軸4gと一体に回転可能となっている。
ケーシング4fの内周面には複数枚の固定摩擦板4bがスプライン結合により軸方向に移動可能に係合されている。固定摩擦板4b同士は、バネにより連結されている。このため、ブレーキ解放状態において、固定摩擦板4b同士が離隔するように移動し、回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの間に隙間が形成される。回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの間に隙間が形成されることで、フリーフォール時の引きずりトルク(回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの間の油の粘性による回転抵抗(いわゆるドラグトルク))が低減される。なお、本明細書では、回転摩擦板4aおよび固定摩擦板4bを総称して摩擦板(ブレーキディスク)とも記す。
図4(a)は回転摩擦板4aを軸方向から見た模式図であり、図4(b)は図4(a)のE−E線断面模式図である。本実施の形態では、図4に示すように、回転摩擦板4aの両面に、外径D1、内径D2の円環状の摩擦材148が貼着されており、回転摩擦板4aの摩擦材148と固定摩擦板4bとが圧接されることで、回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの間の摩擦でブレーキ力(制動力)が発生する。摩擦材148には格子状の溝149が形成されており、回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとが圧接された状態であっても、冷却油は溝149を介して摩擦板間を流れることになる。
図3に示すように、キャリア軸4gの端部と、ケーシング4fの第2エンドプレート4f5との間には、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が配置されている。第1ブレーキ機構B1は、第1バネ4e1、第1ピストン4cおよび第2筒部4f2を有し、第2ブレーキ機構B2は、第2バネ4e2、第2ピストン4dおよび第3筒部4f3を有している。
第1ピストン4cは、複数の摩擦板同士を圧接させて制動力を発生させる押圧部材である円板状のプレッシャープレート4c1と、プレッシャープレート4c1の外周部から後方に延在するピストン部4c2と、を有している。プレッシャープレート4c1は、第1収容室140aのバネ室とディスク室142とを区分するように、第1バネ4e1と摩擦板との間に配置されている。
プレッシャープレート4c1は、後述する第2ピストン4dの当接部4d1が当接される受け部4qと、受け部4qとピストン部4c2との間の押し当て部4rと、を有している。プレッシャープレート4c1の中央部には、軸方向に貫通する円形状の開口部が設けられ、この開口部の周囲の円環状部分が、受け部4qとされている。
押し当て部4rは、固定摩擦板4bに当接される押し当て面4r1を有している。押し当て面4r1は、円環状の平面であって、内径が回転摩擦板4aの摩擦材148の内径と同じ寸法D2とされ、外径が回転摩擦板4aの摩擦材148の外径と同じ寸法D1とされている(D1>D2)。押し当て部4rにおける押し当て面4r1とは反対側の面と、ケーシング4fの第3筒部4f3に設けられた受け面との間には第1バネ4e1が配設されている。第1バネ4e1は、弾性力により、第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1を摩擦板に向けて軸方向に押圧(付勢)する弾性部材であり、線形特性を有している。
ピストン部4c2は、キャリア軸4gの同軸上に設けられた円筒状部材であって、第2ピストン4dの当接部4d1の径方向外方に所定の間隔をあけて配置されている。ピストン部4c2は、軸方向一端部(前端部)がプレッシャープレート4c1に結合され、軸方向中央部が第1摺動部4t1とされ、軸方向他端部(後端部)が第2摺動部4t2とされている。第1摺動部4t1の外径は、第2摺動部4t2の外径よりも小さい。
第2筒部4f2は、第1摺動部4t1の外周部を摺動自在に支持する第1支持部4v1と、第2摺動部4t2の外周部を摺動自在に支持する第2支持部4v2と、を備えている。第1支持部4v1と第1摺動部4t1との間にはピストンシールが配設され、後述する第1ブレーキ作動油室4m1と外周流路143とを隔絶している。第2支持部4v2と第2摺動部4t2との間にはピストンシールが配設され、第1ブレーキ作動油室4m1と第1収容室140aのバネ室とを隔絶している。
第2ピストン4dは、前端部に上述した第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1の受け部4qに当接される円板状の当接部4d1を有し、当接部4d1の外周部から後方に向かって円筒状のピストン部4d2が延在している。当接部4d1の中央部には、軸方向に貫通する開口部が設けられている。この開口部と第1収容室140aのバネ室とは、径方向に貫通する複数の貫通孔により連通されている。
第2バネ4e2は、当接部4d1におけるプレッシャープレート4c1に当接される面とは反対側の面と、第2エンドプレート4f5に設けられた受け面との間に配設されている。第2バネ4e2は、弾性力により、第2ピストン4dを摩擦板に向けて軸方向に押圧(付勢)する弾性部材であり、線形特性を有している。
ピストン部4d2は、キャリア軸4gおよびピストン部4c2と同軸上に設けられた円筒状部材である。ピストン部4d2は、軸方向一端部(前端部)が当接部4d1に結合され、軸方向中央部が第3摺動部4u3とされ、軸方向他端部(後端部)が第4摺動部4u4とされている。第3摺動部4u3の外径は、第4摺動部4u4の外径よりも小さい。
第3筒部4f3は、第3摺動部4u3の外周部を摺動自在に支持する第3支持部4w3と、第4摺動部4u4の外周部を摺動自在に支持する第4支持部4w4と、を備えている。第3支持部4w3と第3摺動部4u3との間にはピストンシールが配設され、後述する第2ブレーキ作動油室4m2と第1収容室140aのバネ室とを隔絶している。第4支持部4w4と第4摺動部4u4との間にはピストンシールが配設され、第2ブレーキ作動油室4m2と第2収容室140bのバネ室とを隔絶している。
上述したように、第1ピストン4cのピストン部4c2は、第1収容室140aに軸方向に摺動自在に配置されている。第1収容室140aには、ピストン部4c2と第2筒部4f2により第1ブレーキ作動油室4m1が画成されている。第1ブレーキ作動油室4m1は、ピストン部4c2の第1摺動部4t1の外周面と、この外周面から外方に突出する第2摺動部4t2の前端面と、第2支持部4v2の内周面と、この内周面から内方に突出する第1支持部4v1の後端面とで画成される円筒状の油室である。
第1ブレーキ作動油室4m1には、ブレーキ解除用の圧油が導入される流路4n1が連通されている。流路4n1は、第2筒部4f2および第3筒部4f3に形成され、第3筒部4f3の第1作動油導入ポート4p1に接続されている。
上述したように、第2ピストン4dのピストン部4d2は、第2収容室140bに軸方向に摺動自在に配置されている。第2収容室140bには、ピストン部4d2と第3筒部4f3により第2ブレーキ作動油室4m2が画成されている。第2ブレーキ作動油室4m2は、ピストン部4d2の第3摺動部4u3の外周面と、この外周面から外方に突出する第4摺動部4u4の前端面と、第4支持部4w4の内周面と、この内周面から内方に突出する第3支持部4w3の後端面とで画成される円筒状の油室である。
第2ブレーキ作動油室4m2には、ブレーキ解除用の圧油が導入される流路4n2が連通されている。流路4n2は、第3筒部4f3および第2エンドプレート4f5に形成され、第2エンドプレート4f5の第2作動油導入ポート4p2に接続されている。
第1作動油導入ポート4p1および第2作動油導入ポート4p2は、ブレーキ制御弁6およびブレーキ切替弁5を介してパイロットポンプ9に接続されている(図2参照)。
第1ピストン4cのピストン部4c2および第1ブレーキ作動油室4m1により第1油圧シリンダ装置4s1が構成される。第1ブレーキ作動油室4m1にパイロット圧を作用させることでピストン部4c2に駆動力を作用させることができる。
第1ブレーキ作動油室4m1の圧力が低下し、たとえばタンク圧になると、第1バネ4e1によりプレッシャープレート4c1が摩擦板に向けて押圧され、プレッシャープレート4c1により回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとが圧接される。摩擦板同士が圧接されることで、回転摩擦板4aの表面(摩擦材148の表面)に発生する摩擦力が、制動力としてキャリア軸4gに作用し、キャリア軸4gの回転が阻止される。
第1ブレーキ作動油室4m1にパイロットポンプ9からのパイロット圧油が供給され、パイロット圧がブレーキ解除圧として第1ピストン4cのピストン部4c2に作用すると、プレッシャープレート4c1が第1バネ4e1の付勢力に抗して、摩擦板から遠ざかる方向に押圧され、制動力が低下する。第1ブレーキ作動油室4m1の圧力が所定値P1以上になると、回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの間に隙間が形成され、回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとの圧接力が除去され、回転摩擦板4aおよびキャリア軸4gが制動力を受けることなく回転可能となる。
第2ピストン4dのピストン部4d2および第2ブレーキ作動油室4m2により第2油圧シリンダ装置4s2が構成される。第2ブレーキ作動油室4m2にパイロット圧を作用させることでピストン部4d2に駆動力を作用させることができる。
第2ブレーキ作動油室4m2の圧力が低下し、たとえばタンク圧になると、第2バネ4e2が当接部4d1を介してプレッシャープレート4c1を摩擦板に向けて押圧する。これにより、第2ブレーキ機構B2が第1ブレーキ機構B1と協働して回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとを圧接する。つまり、第2ブレーキ機構B2は、第1ブレーキ機構B1をアシストし、制動力をさらに増加させる構成とされている。
第2ブレーキ作動油室4m2にパイロットポンプ9からのパイロット圧油が供給され、パイロット圧がブレーキ解除圧として第2ピストン4dのピストン部4d2に作用すると、当接部4d1が第2バネ4e2の付勢力に抗して、プレッシャープレート4c1から遠ざかる方向に押圧され、制動力が低下する。第2ブレーキ作動油室4m2の圧力が所定値P2以上になると、当接部4d1とプレッシャープレート4c1との間に隙間が形成され、第2ブレーキ機構B2が制動力に寄与しなくなる。
上述の圧力の所定値P1は、第1ブレーキ機構B1のプレッシャープレート4c1を摩擦板から離隔させるのに必要な第1ブレーキ作動油室4m1の圧力であり、上述の圧力の所定値P2は、第2ブレーキ機構B2の当接部4d1をプレッシャープレート4c1から離隔させるのに必要な第2ブレーキ作動油室4m2の圧力である。所定値P1と所定値P2の大小関係は、P1>P2である。
第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が、所定値P2以上所定値P1未満の範囲では、上述した第1ブレーキ機構B1が単独で制動力を発生させる。第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が、所定値P2未満では、上述した第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が協働して制動力を発生させる。
動力巻上げ・巻下げを行うモードである自動ブレーキモードでの動作、ならびに、フリーフォールを行うモードである中立フリーモードでの動作について説明する。図2に示すように、自動ブレーキモードでは、コントローラ18によりブレーキ切替弁5が位置(D)に切り替えられ、中立フリーモードでは、コントローラ18によりブレーキ切替弁5が位置(C)に切り替えられる。
−動力巻上げ・巻下げ時の動作(自動ブレーキモード)−
図2に示すウインチ操作レバー13が巻上げ位置あるいは巻下げ位置に操作されると、パイロットポンプ9からのパイロット圧がコントロールバルブ11に作用してコントロールバルブ11のスプールが駆動され、コントロールバルブ11を介してメインポンプ12から吐出される圧油が油圧モータ1に供給される。同時にパイロットポンプ9からのパイロット圧は高圧選択弁14を介してモータブレーキ切替弁7にも作用する。これにより、モータブレーキ切替弁7が位置(A)に切り替えられて、パイロットポンプ9からのパイロット圧がモータブレーキシリンダ8をブレーキ開放側へ駆動させるので、油圧モータ1が回転駆動する。
自動ブレーキモードでは、ブレーキ切替弁5が位置(D)に切り替えられて、ブレーキ解除圧であるパイロットポンプ9からのパイロット圧がブレーキ切替弁5で遮断されている。第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2はタンク10と連通され、第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2はタンク圧となる。これにより、第1バネ4e1および第2バネ4e2の付勢力によって回転摩擦板4aと固定摩擦板4bとが互いに押し付けられてプラネタリキャリア2dに制動力が付与されるため、プラネタリキャリア2dがブレーキ4により固定される。
自動ブレーキモードにおいて、油圧モータ1の回転駆動力によって遊星減速機構2のサンギヤ2aが回動すると、プラネタリギヤ2bが自転してリングギヤ2cおよびリングギヤ2cに接続されている巻取ドラム3が回動して、動力による巻上げあるいは巻下げが行われる。
−フリーフォール時の動作(中立フリーモード)−
ウインチ操作レバー13が中立位置に操作されると、コントロールバルブ11によってメインポンプ12から油圧モータ1への圧油の流れが遮断される。高圧選択弁14を介したモータブレーキ切替弁7へのパイロット圧油も供給されなくなるので、モータブレーキ切替弁7が位置(B)に切り替えられる。モータブレーキ切替弁7により、モータブレーキシリンダ8へのパイロット圧が遮断されるので、モータブレーキがバネの付勢力により作動する。この状態で、ブレーキ4の制動力が開放されると巻取ドラム3はフック110に吊り下げられた吊り荷の自重により自由回転する。
ブレーキ装置Bは、パイロットポンプ9からのパイロット圧をブレーキペダル6aの操作量に応じて減圧し、ブレーキ解除圧として出力するブレーキ制御弁6を有し、ブレーキ解除圧を制御することで制動力を調整できる機能を有している。中立フリーモードでは、ブレーキ切替弁5が位置(C)に切り替えられて、ブレーキ制御弁6と第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2とが連通する。このため、ブレーキ制御弁6で生成されるブレーキ解除圧が第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2に作用する。オペレータは、ブレーキペダル6aの操作によってブレーキ制御弁6を介したブレーキ4へのブレーキ解除圧を調整することで、ブレーキ4によるブレーキ力(制動力)を調節して、フリーフォール速度を調整できる。
中立フリーモードへの切り替えは、操作圧センサ15と、ブレーキ回路圧センサ16と、ブレーキモード切替スイッチ17の各判定値に基づいて、コントローラ18の指令によりブレーキ切替弁5を作動させることにより行われる。たとえば、操作圧センサ15で検出された操作圧が予め定められた閾値よりも小さく(すなわちウインチ操作レバー13が中立)、かつ、ブレーキ回路圧センサ16で検出された回路圧が予め定められた閾値よりも小さい状態(すなわちブレーキペダルが踏み込まれている状態)で、ブレーキモード切替スイッチ17が中立フリーモードの操作位置に切り替えられたことが検出されたとき、コントローラ18は自動ブレーキモードから中立フリーモードへと動作モードを切り替える。
巻上ウインチ105では、フリーフォール制動時に発熱する摩擦板を冷却するために冷却油(作動油)を強制循環させている。冷却油の供給は、専用に設置された冷却油ポンプ19により行われる。
上述したように、ケーシング4fには、冷却油をブレーキ4内に導入する入口ポート4jと、冷却油をブレーキ4外に排出する出口ポート4kとが設けられている。図3に示すように、入口ポート4jから外周流路143に導入された冷却油は、ディスク室142の外周側からディスク室142に流れ込み、ディスク室142を通過して、ディスク室142の内周側のキャリア軸室141に流れ込む。キャリア軸室141に導入された冷却油は、第1ピストン4cおよび第2ピストン4dの開口部を介して第2収容室140bのバネ室に流れ込み、出口ポート4kからケーシング4f外に排出され、タンク10に戻される。
冷却油がディスク室142に配置されている複数の摩擦板間を通過することで、摩擦板で発生した熱が冷却油に吸収され、摩擦板が冷却される。なお、上述したように、回転摩擦板4aの摩擦材148に溝149が設けられているので、摩擦板同士が圧接されている状態であっても、冷却油は、溝149を介して、外周流路143からキャリア軸室141に流れる。
冷却油がディスク室142を通過するとき、通過抵抗による圧力差が発生し、各々の部屋に内圧として作用する。ケーシング4fの設計圧力は、一般にオイルシール4hの許容圧力よりも低くなるように決定される。本実施の形態では、図2に示すように、ケーシング4fの内圧がオイルシール4hの許容圧力以下となるように、冷却油ポンプ19の吐出側に冷却回路安全弁20を設けている。冷却回路安全弁20は、冷却油ポンプ19の吐出圧力が設定圧に達すると、冷却油をタンク10に排出して、油圧回路の最高圧力を規定するリリーフ弁である。
図5を参照し、本実施の形態に係るブレーキ装置の各種特性について説明する。図5(a)は、第1ピストン4cの押付力特性を示す図であり、横軸は第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力を示し、縦軸は第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。図5(b)は、第2ピストン4dの押付力特性を示す図であり、横軸は第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力を示し、縦軸は第2ピストン4dを介して第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。なお、上述したように、第2ピストン4dは、第1ピストン4cを介して、第1ピストン4cと協働して押付力を摩擦板に作用させるが、図5(b)では、第2ピストン4dが寄与する押付力のみを示している。
図2に示すように、第1ピストン4cについては、第1ブレーキ作動油室4m1の圧力を上昇させることで第1バネ4e1の付勢力に抗して第1ピストン4cを後方に移動させることができる。同様に、第2ピストン4dについては、第2ブレーキ作動油室4m2の圧力を上昇させることで第2バネ4e2の付勢力に抗して第2ピストン4dを後方に移動させることができる。
第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2のそれぞれから導かれる2本の油路はブレーキ4の外側で合流し、合流油路がブレーキ切替弁5に接続されている。つまり、第1ブレーキ作動油室4m1と第2ブレーキ作動油室4m2とは連通しているので、ブレーキ制御弁6で生成されるパイロット圧は、第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2に同じように作用する。
本実施の形態では、第2ピストン4dを第1ピストン4cから離隔させるのに必要な圧力P2が、第1ピストン4cを摩擦板から離隔させるのに必要な圧力P1の半分となるように、第1ピストン4cおよび第2ピストン4dの受圧面積が決定されている。
図5(a)および図5(b)に示す縦軸では、第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2が共にタンク圧(圧力=0%)となったときの第1ピストン4cによる押付力と第2ピストン4dによる押付力の和を100%として、それぞれの押付力を示している。図5(a)および図5(b)に示す横軸では、第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板から離れる圧力P1を100%として、それぞれの圧力を示している。
図5(a)に示すように、第1ピストン4cの押付力特性は、第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力が0%以上100%以下の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が60%から0%まで徐々に小さくなる特性である。図5(b)に示すように、第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が0%以上50%未満の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が40%から0%まで徐々に小さくなる特性である。第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が50%以上100%以下の範囲では、押付力が0%とされる。
図示するように、第2ピストン4dは、第2ブレーキ作動油室4m2の圧力が50%以上100%以下の範囲では押付力が0である。つまり、第2ピストン4dは、第2ブレーキ作動油室4m2の圧力が0%から50%未満の範囲では第1ピストン4cに当接して押付力を摩擦板に作用させているが、50%以上になると第1ピストン4cから離隔する。つまり、本実施の形態に係るブレーキ装置Bは、第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2の圧力が、0%以上50%未満の範囲では、第1ピストン4cおよび第2ピストン4dが協働して摩擦板に押付力を作用させ、50%以上100%未満の範囲では、第1ピストン4cが単独で摩擦板に押付力を作用させる構成とされている。
第1ピストン4cの押付力特性および第2ピストン4dの押付力特性は、第1バネ4e1や第2バネ4e2のバネ特性、第1ピストン4cや第2ピストン4dの受圧面積を変更することにより、調整することができる。
図5(c)は、ブレーキペダル特性およびブレーキ制御弁特性を示す図である。横軸は、ペダルストロークおよびバルブストロークを示している。ペダルストロークは、ブレーキペダルを最大に踏み込んだ状態を100%、ブレーキペダルを踏み込んでいない非操作状態を0%として、ペダルストローク(踏み込み量)の割合を示している。バルブストロークは、ポンプポートPと出口ポートAとが全閉でタンクポートTと出口ポートAとが全開の中立状態を0%、ポンプポートPと出口ポートAとが全開でタンクポートTと出口ポートAとが全閉の押込状態を100%として、ブレーキ制御弁6のバルブストローク(スプールの押し込み量)の割合を示している。
図5(c)に示すように、ブレーキペダル特性は、ペダルストロークが0%以上100以下の範囲において、ペダルストロークの増加に応じて圧力(第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2の圧力)が直線比例で徐々に減少する特性である。ブレーキ制御弁特性は、バルブストロークの減少に応じて圧力が直線比例で徐々に減少する特性である。
図5(d)は、制動力特性を示す図であり、横軸にペダルストロークを示し、縦軸に制動力を示している。図5(d)では、必要クラッチ力を100%として、制動力の割合を示している。なお、必要ブレーキ力は、一例として70%と想定する(必要ブレーキ力<必要クラッチ力)。図5(d)に示すように、本実施の形態のブレーキ装置Bの制動力特性は、第1ブレーキ機構B1の制動力特性T1と第2ブレーキ機構B2の制動力特性T2とが合成された2段折れの特性とされている。
図5(d)に示すように、ブレーキ解除状態であるペダルストローク0%(圧力100%)以上50%(圧力50%)未満の範囲では第1ブレーキ機構B1による制動力のみが作用するため、ペダルストロークの増加に応じて第1の変化率a1で制動力が増加する。ブレーキペダル6aがさらに踏み込まれると、第2ピストン4dの押付力が第1ピストン4cの押付力に加算される。このため、ペダルストローク50%以上100%(圧力0%)以下の範囲では第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2による制動力が作用し、ペダルストロークの増加に応じて第2の変化率a2(a2>a1)で制動力が増加する。
このように、ペダル踏み込み量の小さい領域において、ペダル踏み込み量に応じた制動力の変化率を小さくし、ペダル踏み込み量の大きい領域において、ペダル踏み込み量に応じた制動力の変化率を大きくすることで、良好なブレーキ操作性を得ることができる。
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施の形態に係るウインチのブレーキ装置Bは、ブレーキペダル6aの踏み込み操作に基づいて制動力を発生させるネガティブ型のブレーキ装置であり、第1ブレーキ機構B1と、第2ブレーキ機構B2を備えている。第1ブレーキ機構B1は、複数の摩擦板同士を圧接させて制動力を発生させるプレッシャープレート4c1と、プレッシャープレート4c1を摩擦板に向けて押圧する第1バネ4e1と、圧油が供給されることによりプレッシャープレート4c1を摩擦板から遠ざける方向に押圧し、制動力を低下させる第1ブレーキ作動油室4m1と、を有している。第2ブレーキ機構B2は、プレッシャープレート4c1に当接される当接部4d1と、当接部4d1を介してプレッシャープレート4c1を摩擦板に向けて押圧する第2バネ4e2と、圧油が供給されることにより当接部4d1をプレッシャープレート4c1から遠ざける方向に押圧し、制動力を低下させる第2ブレーキ作動油室4m2と、を有している。
ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル6aの踏み込み量が小さいときには、第1ブレーキ機構B1が単独で制動力を発生させ、ブレーキペダル6aの踏み込み量が大きいときには、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が協働して制動力を発生させる構成とされている。これにより、ネガティブ型のブレーキ装置において操作性の向上を図ることができる。
図13(a)は、比較例1に係るブレーキ装置の制動力特性を示す図である。必要クラッチ力と必要ブレーキ力の大小関係を比較すると、一般的に、必要クラッチ力の方が必要ブレーキ力よりも高くなる場合が多い(必要クラッチ力>必要ブレーキ力)。この理由は、必要クラッチ力は、巻取ドラム3のロープ最外層(5〜6層目)における制動力が定格ラインプル×1.5以上とクレーン構造規格等の法規により規定されており、これに対して、必要ブレーキ力は掘削作業時の許容重量(一般的には定格ラインプル以下)を作業時のロープ層(2〜3層目)にて、動的な負荷を想定して十分に制動可能な程度に設定し、この値が必要クラッチ力以下になる場合が多いためである。
このため、必要クラッチ力を満たしていれば、必要ブレーキ力も同時に満足することになる。しかしながら、図13(a)に示すように、ペダルストロークが0%以上100%以下の範囲において、ペダルストロークの増加に応じて直線比例で制動力が増加する特性では、フリーフォール時に必要以上に過大な制動力を与えてしまい、操作性が悪化するおそれがある。
ウインチ装置のブレーキ操作は、軽負荷から重負荷までの幅広い範囲で、制御性の良い操作特性が望まれる。比較例1のブレーキ装置の制動力特性は、制動力が0%から100%(必要クラッチ力)まで、ブレーキペダルの全ストロークに対して一直線(線形)に制動力が制御される特性であるため、フリーフォール時に必要以上に過大なブレーキ力が発生してしまう。特に、軽負荷領域におけるペダルストロークに対する制動力の変化率(制御の傾き)が大きいので、オペレータはON−OFF的な操作感から制御性が悪いと感じてしまう。また、重負荷領域においては重力加速度や慣性モーメントによる動的な負荷増加から、制動力の変化率(制御の傾き)が小さいと、オペレータは制動力が不足しているという錯覚を覚え、操作感に一致しないと感じる傾向にある。
図13(b)は、比較例2に係るブレーキ装置の制動力特性を示す図である。図13(b)に示すように、最大踏み込み操作時(ペダルストローク100%のとき)に必要ブレーキ力から必要クラッチ力に不連続的に増加する特性とすることで、ペダルストロークが0%以上100%未満の範囲において、図13(a)の特性に比べて、ペダルストロークに対する制動力の変化率(傾き)を小さくできる。しかしながら、軽負荷領域と重負荷領域で変化率(傾き)が同じであるので、操作性の観点から改善の余地がある。
本実施の形態では、図5(d)に示したように、軽負荷領域では、制御の傾き(変化率)を小さくして、重負荷領域では、制御の傾き(変化率)を大きくしているので、全負荷領域において良好な操作感が得られる。
(2)第1ブレーキ作動油室4m1と第2ブレーキ作動油室4m2とは連通し、第2ブレーキ機構B2の当接部4d1をプレッシャープレート4c1から離隔させるのに必要な第2ブレーキ作動油室4m2の圧力P2は、第1ブレーキ機構B1のプレッシャープレート4c1を摩擦板から離隔させるのに必要な第1ブレーキ作動油室4m1の圧力P1よりも小さい(P2<P1)。これにより、電気的な制御を必要とすることなく、図5(d)に示したような2段折れ特性を得ることができ、操作性の向上を図ることができる。
−第1の実施の形態の変形例−
上述した実施の形態では、制動力特性を図5(d)に示すような2段折れの特性とする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図6は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係るブレーキ装置の特性を示す図である。図6(a)はブレーキペダル特性およびブレーキ制御弁特性を示す図であり、図6(b)は制動力特性を示す図である。
本変形例では、図6(a)に示すように、ペダルストロークが0%以上100%未満の範囲では、ペダルストロークの上昇に応じて圧力が100%から30%まで比例して減少する。ペダルストロークが増加し、100%になると、圧力は30%から0%まで不連続的に減少する。なお、図6(a)では、説明の便宜上、圧力が30%から0%まで不連続で変化する特性で図示しているが、実際には、完全な不連続とはならない。
図6(b)に示すように、第1ブレーキ機構B1の制動力特性T1は、ペダルストロークが0%以上100%以下の範囲において、ペダルストロークの増加に応じて、制動力が0%から40%まで増加する特性である。第2ブレーキ機構B2の制動力特性T2は、ペダルストロークが50%以上100%以下の範囲において、ペダルストロークの増加に応じて、制動力が0%から30%まで増加する特性である。
ブレーキ装置Bの制動力特性は、ブレーキ解除状態であるペダルストローク0%(圧力100%)以上50%(圧力50%)未満の範囲では第1ブレーキ機構B1による制動力のみが作用し、ペダルストロークの増加に応じて第1の変化率b1で制動力が増加する。ブレーキペダル6aがさらに踏み込まれると、第2ピストン4dの押付力が第1ピストン4cの押付力に加算される。このため、ペダルストローク50%以上100%(圧力0%)以下の範囲では第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2による制動力が作用し、ペダルストロークの増加に応じて第2の変化率b2(b2>b1)で制動力が増加する。図6(a)に示すように、ペダルストロークが100%に維持されると圧力が0%まで減少するため、図6(b)に示すように、ペダルストロークが100%に維持されると制動力も70%から100%まで増加する。
このような変形例によれば、ペダルストロークに対する制動力の変化率(傾き)をさらに小さくすることができ(b1<a1,b2<a2)、ペダル踏み込み量が0%から100%までの広い範囲で、制動力0%から必要ブレーキ力までのブレーキ操作を行うことができる。また、ブレーキペダル6aを最大に踏み込むことで、必要クラッチ力を発生させることができる。この結果、操作性をさらに向上できる。
−第2の実施の形態−
図7および図8を参照して、第2の実施の形態に係るブレーキ装置について説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態に係るブレーキ装置を有するウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。
第2の実施の形態は、第1の実施の形態と同様の構成とされるが、第2ブレーキ機構B2の第2ブレーキ作動油室4m2へパイロット圧油を導入する第2作動油導入ポート4p2を、パイロットポンプ9およびタンク10と接続する電磁比例弁23が設けられている点が第1の実施の形態と異なる。
第2の実施の形態では、第1ブレーキ作動油室4m1がブレーキ切替弁5およびブレーキ制御弁6を介してパイロットポンプ9に接続されているのに対し、第2ブレーキ作動油室4m2は電磁比例弁23を介してパイロットポンプ9に接続されている。
電磁比例弁23はコントローラ18から出力される制御信号(励磁電流)によって制御される。つまり、第2の実施の形態のブレーキ装置Bでは、コントローラ18が電磁比例弁23を制御することで、電磁比例弁23で発生される第2ブレーキ作動油室4m2へのパイロット圧を調整し、第2ブレーキ機構B2による制動力を調節する。
図8(a)は、図5(a)と同様、第1ピストンの押付力特性を示す図であり、横軸は第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力を示し、縦軸は第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。図8(b)は、図5(b)と同様、第2ピストン4dの押付力特性を示す図であり、横軸は第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力を示し、縦軸は第2ピストン4dを介して第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。なお、図5(b)と同様、図8(b)では、第2ピストン4dが寄与する押付力のみを示している。
図8(a)に示すように、第1ピストン4cの押付力特性は、第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力が0%以上100%以下の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が40%から0%まで徐々に小さくなる特性である。図8(b)に示すように、第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が0%以上50%未満の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が60%から0%まで徐々に小さくなる特性である。第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が50%以上100%以下の範囲では、押付力が0%とされる。
図8(c)は、図5(c)と同様、ブレーキペダル特性およびブレーキ制御弁特性を示す図であり、第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様の特性とされている。
図8(d)は、第2ピストンの制御圧力特性を示す図であり、横軸はブレーキ制御弁圧力を示し、縦軸は第2ピストン制御圧力を示している。ブレーキ制御弁圧力とは、ブレーキ制御弁6から出力されるパイロット圧(すなわち、図8(a)の横軸の圧力に相当する)のことを指し、第2ピストン制御圧力とは、電磁比例弁23から出力されるパイロット圧(すなわち、図8(b)の横軸の圧力に相当する)のことを指している。
図8(d)に示すように、第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上80%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力が大きくなるにしたがって、第2ピストン制御圧力が0%から50%まで増加する特性である。第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上80%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じた第2ピストン制御圧力の変化率(増加率)が徐々に減少する特性である。第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が80%以上100%以下の範囲では、第2ピストン制御圧力は50%とされる。
図8(e)は、図5(d)と同様、制動力特性を示す図であり、横軸にペダルストロークを示し、縦軸に制動力を示している。図8(e)に示すように、ブレーキ解除状態であるペダルストローク0%(圧力100%)以上20%未満の範囲では第1ブレーキ機構B1による制動力のみが作用するため、ペダルストロークの増加に応じて第1の変化率c1で制動力が増加する。ブレーキペダル6aがさらに踏み込まれると、第2ピストン4dの押付力が第1ピストン4cの押付力に加算される。このため、ペダルストローク20%以上100%以下の範囲では第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2による制動力が作用し、ペダルストロークの増加に応じて変化率が徐々に増加しつつ、制動力が増加する。
コントローラ18の記憶装置には、図8(d)に示す第2ピストン制御圧力特性が予めルックアップテーブル形式で記憶されている。コントローラ18は、第2ピストン制御圧力特性のテーブルを参照し、ブレーキ回路圧センサ16で検出されたブレーキ制御弁圧力に基づいて、第2ピストン制御圧力を決定する。コントローラ18は、決定した第2ピストン制御圧力を電磁比例弁23で発生させるため、電磁比例弁23に制御信号を出力する。これにより、本実施の形態では、図8(e)に示す制動力特性でブレーキ装置を動作させることができる。
第2の実施の形態では、第2ブレーキ作動油室4m2へのパイロット圧を発生させる電磁比例弁23を設け、コントローラ18が、ブレーキ制御弁6で発生するパイロット圧に基づいて、電磁比例弁23で発生させるパイロット圧を調整する構成とした。このため、制動力特性を調整することが容易となる。
たとえば、第1の実施の形態では、制動力特性が2段折れの直線的な特性とされていたのに対し、第2の実施の形態では、制動力特性が2次曲線的に連続した特性とされている。このため、制御の傾きが変化する過渡期において、より違和感の無い操作性が得られる。
第1の実施の形態では、制動力特性が2段折れの特性とされており、軽負荷領域の傾きを寝かせ過ぎると、中負荷領域で傾きが高くなりすぎる懸念があった。これに対して、第2の実施の形態では、2次曲線的に連続した特性とすることで、第1ピストン4cによる押付力の最大値を40%、第2ピストン4dによる押付力の最大値を60%に設定し、第1の実施の形態に比べて軽負荷領域の制御の傾きをより寝かせることができ(c1<b1<a1)、軽負荷領域の操作性をより高めることができる。さらに、第2の実施の形態では、ペダルストロークの中〜後半領域で2次曲線的に傾きを立ち上げることができるので、中〜重負荷領域においても良好な制御特性を得ることができる。
−第3の実施の形態−
図9および図10を参照して、第3の実施の形態に係るブレーキ装置について説明する。なお、図中、第2の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図9は、本発明の第3の実施の形態に係るブレーキ装置を有するウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。
第3の実施の形態では、運転室内に設置された調整ダイヤル24により、オペレータの好みに合わせ、電磁比例弁23の制御特性を調整可能な構成とし点が第2の実施の形態と異なる点である。調整ダイヤル24は、レベル1からレベル5までの5段階のレベルを設定できる。調整ダイヤル24は、設定されたレベルを表す操作信号をコントローラ18に出力する。コントローラ18は、調整ダイヤル24からの操作信号に基づき、記憶装置に記憶されている第2ピストン制御圧力特性を選択する。
図10(a)は、本発明の第3の実施の形態に係るブレーキ装置の第2ピストンの制御圧力特性を示す図であり、調整ダイヤル24が「レベル3」に設定されているときの特性を太線で示し、レベル1,2およびレベル4,5に設定されているときの特性については細線で示している。記憶装置には、5種類の第2ピストン制御圧力特性がルックアップテーブル形式で記憶されている。
レベル1に設定されたときの第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上20%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が0%から50%まで直線比例で増加し、ブレーキ制御弁圧力が20%以上100%以下の範囲では、第2ピストン制御圧力が50%とされている特性である。
レベル2に設定されたときの第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上40%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が0%から50%まで直線比例で増加し、ブレーキ制御弁圧力が40%以上100%以下の範囲では、第2ピストン制御圧力が50%とされている特性である。
レベル3に設定されたときの第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上60%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が0%から50%まで直線比例で増加し、ブレーキ制御弁圧力が60%以上100%以下の範囲では第2ピストン制御圧力が50%とされている特性である。
レベル4に設定されたときの第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上80%未満の範囲では、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が0%から50%まで直線比例で増加し、ブレーキ制御弁圧力が80%以上100%以下の範囲では第2ピストン制御圧力が50%とされている特性である。
レベル5に設定されたときの第2ピストン制御圧力特性は、ブレーキ制御弁圧力が0%以上100%以下の範囲で、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が0%から50%まで直線比例で増加する特性である。
図示しないが、第1ピストンの押付力特性、第2ピストンの押付力特性、ブレーキペダル特性およびブレーキ制御弁特性は、第2の実施の形態と同様である(図8(a)〜図8(c)参照)。
このように、第2ピストン制御圧力の特性が、調整ダイヤル24の操作に応じて設定されるため、図10(b)に示すような、制動力特性が得られる。
1台のクレーン100には、通常、2個から3個のウインチ装置が搭載されている。このため、作業内容によっては各ウインチ装置の負荷形態が異なる場合がある。たとえば、クラムシェル作業では、バケットを支持し、バケットの昇降を制御するウインチ装置と、バケットの開閉を制御するウインチ装置が用いられる。
掘削時、バケットを開いた状態(解放状態)でフリーフォール操作により着土させる操作では、重負荷となるバケット支持用のウインチ装置で降下速度を調整し、軽負荷となるバケット開閉用のウインチ装置は支持用のウインチ装置の降下速度に追従させてバケットを閉じる操作となる。ここで、追従が遅れるとバケットが閉じてから着土してしまい、一方、追従が先行すると開閉用のウインチ装置のワイヤロープが緩んで乱巻となるおそれがある。このため、クラムシェル作業では、特にバケット開閉用のウインチ装置に対する高い操作性が求められる。
このように、ウインチ装置ごとに負荷が異なり、それぞれの負荷形態により特化したい場合には本実施の形態(第3の実施の形態)が有効である。制動力特性を調整することは従来方式の制動装置(バンド式ブレーキ)ではオペレータの自己判断で稀に行われていたが、そのやり方によっては制動力そのものを低下させることにより調整する場合もあり、高い制動力が必要なときに、制動力が不足するおそれがあった。
湿式ブレーキ内蔵型が主流となった現在では制動力特性を調整できるものは未だ存在せず、上記様々な状況に対応するためにユーザからの要求も強い。本実施形態によれば、運転室内で簡単に制動力特性の調整が可能で、しかもどの特性を選択しても必要クラッチ力および必要ブレーキ力を発生させることができるため、制動力が不足するおそれがない。制御には、電気回路を用いるが、油圧制御はネガティブ制御を採用しているので、配管破裂などを起因として動力が消失した場合にも、ブレーキ装置を作動させ、制動力を発生させることができる。
−第3の実施の形態の変形例−
上述した第3の実施の形態では、第2ピストン制御圧力を所定のブレーキ制御弁圧力範囲で直線比例の関係で、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて増加させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。図10(c)は、本発明の第3の実施の形態の変形例に係るブレーキ装置の第2ピストンの制御圧力特性を示す図であり、図10(d)は本発明の第3の実施の形態の変形例に係るブレーキ装置の制動力特性を示す図である。
本変形例では、図10(c)に示すように、ブレーキ制御弁圧力の増加に応じて第2ピストン制御圧力が増加する態様が直線比例ではなく、変化率が徐々に減少する2次曲線的な態様である。これにより、図10(d)に示す制動力特性を得ることができ、操作性の向上を図ることができる。
−第4の実施の形態−
図11および図12を参照して、第4の実施の形態に係るブレーキ装置について説明する。なお、図中、第2の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図11は、本発明の第4の実施の形態に係るブレーキ装置を有するウインチ装置の構成を示す油圧回路図である。
第4の実施の形態は、第2の実施の形態と同様の構成とされるが、電磁比例弁23(図7参照)に代えて、電磁切替弁423が設けられている点が第2の実施の形態と異なる。第4の実施の形態では、第2ブレーキ機構B2の第2ブレーキ作動油室4m2は、電磁切替弁423を介してパイロットポンプ9に接続されている。換言すれば、電磁切替弁423は、パイロットポンプ9と第2ブレーキ作動油室4m2との間に設けられている。
第1ブレーキ機構B1の第1ブレーキ作動油室4m1は、ブレーキ切替弁5を介してブレーキ制御弁6に接続されている。換言すれば、ブレーキ切替弁5は、ブレーキ制御弁6と第1ブレーキ作動油室4m1との間に設けられている。
電磁切替弁423は、位置(E)または位置(F)に切り替えられる。電磁切替弁423が位置(E)に切り替えられると、パイロットポンプ9と第2ブレーキ作動油室4m2とが連通される。電磁切替弁423が位置(F)に切り替えられると、パイロットポンプ9から第2ブレーキ作動油室4m2へのパイロット圧油の流れが遮断され、第2ブレーキ作動油室4m2とタンク10とが連通される。
電磁切替弁423は、コントローラ418に接続されており、コントローラ418によって制御される。コントローラ418は、電磁切替弁423とブレーキ切替弁5を同期して動作させる。コントローラ418は、モード選択部418aと、第1弁制御部418bと、第2弁制御部418cと、を機能的に備えている。
中立フリーモードが選択されると、第1弁制御部418bは、ブレーキ切替弁5にオン信号(励磁電流)を出力し、ブレーキ切替弁5を位置(C)に切り替え、ブレーキ制御弁6と第1ブレーキ作動油室4m1を連通させる。
ブレーキ切替弁5が位置(C)に切り替えられると、ブレーキ制御弁6で生成されたパイロット圧が第1ブレーキ作動油室4m1に作用する。この状態では、ブレーキペダル6aの踏み込み量に基づいて、パイロットポンプ9から第1ブレーキ作動油室4m1に供給されるパイロット圧油の圧力がブレーキ制御弁6により調整される。
中立フリーモードが選択されると、第2弁制御部418cは、電磁切替弁423にオン信号(励磁電流)を出力し、電磁切替弁423を位置(E)に切り替え、パイロットポンプ9と第2ブレーキ作動油室4m2を連通させる。
電磁切替弁423が位置(E)に切り替えられると、パイロットポンプ9から吐出される圧油が第2ブレーキ作動油室4m2に供給され、第2ピストン4dの押付力が0になる。
自動ブレーキモードが選択されると、第1弁制御部418bは、ブレーキ切替弁5にオフ信号を出力し、ブレーキ切替弁5を位置(D)に切り替え、第1ブレーキ作動油室4m1とタンク10を連通させる。
自動ブレーキモードが選択されると、第2弁制御部418cは、電磁切替弁423にオフ信号を出力し、電磁切替弁423を位置(F)に切り替え、第2ブレーキ作動油室4m2とタンク10を連通させる。
自動ブレーキモード時には、第1ブレーキ作動油室4m1および第2ブレーキ作動油室4m2の双方がタンク10と連通されるので、第1ピストン4cの押付力および第2ピストン4dの押付力が最大となる。
このように、本実施の形態に係るブレーキ装置Bは、中立フリーモード時には、第1ブレーキ機構B1が単独で制動力を発生させ、自動ブレーキモード時には、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が協働して制動力を発生させる構成とされている。
ここで、本実施の形態に係るコントローラ418による中立フリーモードと自動ブレーキモードの切り替えについて詳述する。モード選択部418aは、後述する条件に基づき、中立フリーモードと自動ブレーキモードのいずれかを選択する。
自動ブレーキモードが設定されている場合に、以下の個別条件1〜個別条件3のいずれもが満たされたとき、モード選択部418aは中立フリーモードを選択する。自動ブレーキモードが設定されている場合に、以下の個別条件1〜個別条件3のいずれかが満たされていないときには、モード選択部418aは自動ブレーキモードを維持する。
(個別条件1)ウインチ操作レバー13が中立であること
(個別条件2)ブレーキペダル6aが踏み込まれていること
(個別条件3)ブレーキモード切替スイッチ17が中立フリーモードの操作位置に操作されていること
ウインチ操作レバー13が中立であるか否かは、モード選択部418aにより以下のようにして判定される。モード選択部418aは、操作圧センサ15で検出された操作圧Ppが予め定められた閾値Pp0未満である場合、ウインチ操作レバー13が中立であると判定し、操作圧Ppが閾値Pp0以上である場合、ウインチ操作レバー13が中立でないと判定する。閾値Pp0は、ウインチ操作レバー13が中立であるか否かを判定するための閾値であり、予めコントローラ418の記憶装置に記憶されている。
ブレーキペダル6aが踏み込まれているか否かは、モード選択部418aにより以下のようにして判定される。モード選択部418aは、ブレーキ回路圧センサ16で検出された回路圧Pbが予め定められた閾値Pb0未満である場合、ブレーキペダル6aが踏み込まれていると判定し、回路圧Pbが閾値Pb0以上である場合、ブレーキペダル6aが踏み込まれていないと判定する。閾値Pb0は、ブレーキペダル6aが踏み込まれているか否かを判定するための閾値であり、予めコントローラ418の記憶装置に記憶されている。
自動ブレーキモードから中立フリーモードに切り替えられると、ブレーキ切替弁5が位置(C)に切り替えられるので、ブレーキ制御弁6の油圧力が第1ブレーキ作動油室4m1へ供給されることによりフリーフォールが可能な状態となる。
中立フリーモードが選択されている場合に、上述した個別条件1および個別条件3のいずれかが満たされなくなると、たとえばウインチ操作レバー13が巻上側に操作されると、モード選択部418aは、自動ブレーキモードを選択する。中立フリーモードが選択されている場合に、上述した個別条件1および個別条件3のいずれもが満たされているときには、モード選択部418aは中立フリーモードを維持する。
このため、中立フリーモードが設定されているときにウインチ操作レバー13が巻上側に操作されると、モードが自動ブレーキモードに切り替わる。この状態からウインチ操作レバー13が中立に戻されると中立フリーモードに復帰する。したがって、オペレータは、フリーフォール作業から動力巻上げ作業、あるいは動力巻上げ作業からフリーフォール作業への一連した動作を連続して行うことができる。
図12(a)は、図8(a)と同様、第1ピストンの押付力特性を示す図であり、横軸は第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力を示し、縦軸は第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。図12(b)は、図8(b)と同様、第2ピストン4dの押付力特性を示す図であり、横軸は第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力を示し、縦軸は第2ピストン4dを介して第1ピストン4cのプレッシャープレート4c1が摩擦板に与える押付力を示している。なお、図8(b)と同様、図12(b)では、第2ピストン4dが寄与する押付力のみを示している。
図12(a)に示すように、第1ピストン4cの押付力特性は、第1ブレーキ作動油室4m1に作用する圧力が0%以上100%以下の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が70%から0%まで徐々に小さくなる特性である。図12(b)に示すように、第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が0%以上50%未満の範囲において、圧力が大きくなるにしたがって直線比例で押付力が30%から0%まで徐々に小さくなる特性である。第2ピストン4dの押付力特性は、第2ブレーキ作動油室4m2に作用する圧力が50%以上100%以下の範囲では、押付力が0%とされる。
図12(c)は、図8(c)と同様、ブレーキペダル特性およびブレーキ制御弁特性を示す図であり、第4の実施の形態では、第2の実施の形態と同様の特性とされている。
図12(d)は、図8(e)と同様、制動力特性を示す図であり、横軸にペダルストロークを示し、縦軸に制動力を示している。図12(d)に示すように、中立フリーモードが選択されているときには、ブレーキ解除状態であるペダルストローク0%(第1ブレーキ作動油室4m1の圧力100%)以上100%(第1ブレーキ作動油室4m1の圧力0%)以下の範囲では第1ブレーキ機構B1による制動力のみが作用するため、ペダルストロークの増加に応じて直線比例で制動力が増加する。自動ブレーキモードが選択されているときには、ブレーキペダル6aの踏み込み量にかかわらず、第2ピストン4dの押付力および第1ピストン4cの押付力が最大となり、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2による制動力によって必要クラッチ力を得ることができる。
第1〜第3の実施の形態では、中立フリーモードが選択されている場合において、ペダルストロークが100%であるときに、必要クラッチ力まで制動力を上昇させることのできる構成とされていた。しかしながら、必要クラッチ力は法規で定められる値として十分に余力を持たせたものであるので、フリーフォール作業では、必要ブレーキ力まで制動力を上昇させることができれば必要十分である。
第4の実施の形態によれば、自動ブレーキモードが設定されたときには、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2が協働して必要クラッチ力を発生させ、中立フリーモードが設定されたときには、第1ブレーキ機構B1が単独で必要ブレーキ力まで制動力を線形に調整することができる。つまり、本実施の形態によれば、モードに応じて必要な制動力を適宜切り替えることができる。なお、中立フリーモード時には、比較例1(図13(a)参照)に比べて、ペダルストロークに対する制動力の変化率(傾き)を小さくできるので、比較例1に比べて操作性が向上している。
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、第1ブレーキ機構B1と第2ブレーキ機構B2の2つのブレーキ機構を備えるブレーキ装置Bを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。3つ以上のブレーキ機構を設けてもよい。たとえば、第1ブレーキ機構B1および第2ブレーキ機構B2に加え、第3ブレーキ機構を備えてもよい。この場合、第3ブレーキ機構は、第2ブレーキ機構B2の当接部4d1に接触する接触部材と、その部材を当接部4d1に向けて押圧する弾性部材と、この弾性部材の弾性力に抗して接触部材を当接部4d1から遠ざけるように押圧する油圧シリンダ装置とを備えることで実現できる。
(変形例2)
上述した実施の形態では、クレーンのウインチ装置に適用されるブレーキ装置を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。種々の作業機械に搭載されるウインチ装置に適用されるブレーキ装置に本発明を適用することができる。
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。