JP6645314B2 - 内燃機関用の点火プラグ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関用の点火プラグ及びその製造方法に関する。
従来、自動車のエンジン等の内燃機関には、火花放電を発生させて燃料ガスと空気の混合ガスに点火する点火プラグを有する点火装置が備えられている。近年、希薄燃焼により内燃機関の燃費を向上させることが行われており、希薄燃焼における着火性の向上が要求されている。例えば、特許文献1には、接地電極に針状のチップを形成して着火性向上を図った点火プラグが開示されている。この点火プラグでは、チップの母材を安価な金属で形成しつつ、チップの端面及び側面の一部を貴金属で被覆することにより、火花放電による針状チップの消耗抑制とコスト抑制を図っている。
特許第5545166号公報
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、上記チップは針状であるため、気筒内の温度変化の影響を受けやすく、チップ自体の温度変化が顕著となる。上記チップは、線膨張係数の異なる貴金属と安価な母材金属とからなるため、チップ自体の温度変化によってチップに大きな熱応力が発生する。そして、当該熱応力は、貴金属と母材金属との接合部において母材金属の端面と母材金属の側面との間の角部に集中しやすく、当該角部に接合する貴金属に亀裂を生じさせる場合がある。かかる亀裂が発生すると、気筒内の高温腐食雰囲気によって亀裂部分が高温酸化して貴金属の一部が剥離したり、貴金属が脱落したりして点火プラグの寿命が縮まる。
また、希薄燃焼エンジンでは気筒内の気流が速いため、放電ギャップに発生させた火花放電が気流に流されやすい。そして、針状チップを有する上記構成では、高速の気流によって火花放電がチップの基部側へ移動して、放電経路が過度に長くなり、放電維持電圧が高くなる場合がある。かかる場合には、火花放電の吹き消えが発生し、着火性が悪化するという問題がある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、長寿命化及び着火性向上が図られる内燃機関用の点火プラグ及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、中心電極(2)と、該中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成するように上記中心電極に対向配置された接地電極(3)と、を備え、上記接地電極の電極母材(3a)から上記放電ギャップに向かって突出する電極突出部(30)を有する、内燃機関用の点火プラグ(1)であって、
上記電極突出部は、上記電極母材と一体的に形成された基部(31)と、該基部に接合されるともに上記放電ギャップに面する被覆部(32)とを有し、
上記基部は、突出方向の端面(33)と、該端面の外縁(34)から上記電極母材に繋がる側周面(35)とを有するとともに、上記端面の外縁は曲面を形成しており、
上記被覆部は、上記基部の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなるとともに、上記側周面の少なくとも一部と上記端面とを被覆しており、
内燃機関に取り付けられて上記電極突出部が気筒内で加熱された後に冷却されたときに、上記被覆部における上記基部の側周面を被覆する部分の外表面(37)に突起部(36)が形成されるように構成されている、内燃機関用の点火プラグにある。
本発明の他の態様は、上記内燃機関用の点火プラグ(1)の製造方法であって、
上記電極母材に、該電極母材の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなる被覆部粗材(32a)を抵抗溶接により接合する接合工程(S1)と、
上記電極母材に接合された上記被覆部粗材に、凹部(50)を有する第1治具(51)を沿わせて、上記被覆部粗材と上記凹部との間に空間部(50a)を形成する準備工程(S2)と、
上記電極母材における上記被覆部粗材が接合された粗材接合部(3b)と反対側の部分(3c)に、上記凹部の開口部(50b)よりも大きい凸部(53)を有する第2治具(52)を上記凹部に向けて押し付けることにより、上記粗材接合部を上記空間部に押し出して凸状の基部(31)を形成するとともに、上記被覆部粗材が上記基部の側周面(35)の少なくとも一部と突出方向の端面(33)とを被覆する被覆部(32)を形成して、上記電極突出部を形成する押出工程(S3)と、
を含む、内燃機関用の点火プラグの製造方法にある。
上記内燃機関用の点火プラグにおいては、電極突出部は放電ギャップに面する部分に貴金属又は貴金属合金からなる被覆部を有するため、火花放電による消耗が少なく、当該点火プラグの長寿命化が図られる。さらに、電極突出部における基部の形成材料は、被覆部よりも安価な材料とすることができるため、電極突出部全体が被覆部の形成材料からなる場合に比べて、製造コストを低減することができる。
また、上記被覆部を形成する貴金属又は貴金属合金は、基部の形成材料よりも低い線膨張係数を有するため、両者の線膨張係数の差が生じる。しかしながら、基部の突出方向の端面の外縁が曲面となっているため、基部を覆う被覆部との接合部に角部が形成されにくい。そのため、上記線膨張係数の差に起因して生じる熱応力が過度に集中することが抑制される。その結果、基部を被覆する被覆部との接合部に、熱応力による亀裂の発生が抑制されるため、この観点からも当該点火プラグの長寿命化が図られる。
さらに、上記内燃機関用の点火プラグは、内燃機関に取り付けられて気筒内で加熱された後に冷却されたときに、上記被覆部には基部の側周面を覆う部分に突起部が形成される。そのため、筒内気流の速い希薄燃焼エンジンにおいて、放電ギャップに発生させた火花放電が、高速気流によってチップの基部側へ移動してしようとしても、火花放電が基部の側周面を覆う部分の突起部に集中しやすく、放電経路が過度に長くなることが防止される。これにより、火花放電の吹き消えが抑制される。その結果、着火性の向上が図られる。当該突起部は、基部と被覆部とにおける形成材料の線膨張係数の差に起因して形成されるように構成されている。
上記内燃機関用の点火プラグの製造方法によれば、接合工程において、抵抗溶接により被覆部粗材を電極母材に接合する。そのため、レーザー溶接や、電子ビーム溶接等のように、被覆部粗材と電極母材との間に両者が溶融混合してなる中間層が形成されないため、被覆部粗材と電極母材との界面が形成されている。そのため、上記内燃機関用の点火プラグは、内燃機関に取り付けられて気筒内で加熱された後に冷却されたときに、両者の形成材料に上記線膨張係数の差が存在することによって上記突起部が確実に形成されることとなる。これにより、上記内燃機関用の点火プラグを容易に製造することができる。
以上のごとく、本発明によれば、長寿命化及び着火性向上が図られる内燃機関用の点火プラグ及びその製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
上記内燃機関用の点火プラグにおいて、燃焼室へ挿入される側を先端側、その反対側を基端側とする。また、本明細書において、プラグ軸方向とは、点火プラグの軸方向を意味し、プラグ径方向とは、点火プラグの径方向を意味し、プラグ周方向とは、点火プラグの周方向を意味する。
実施形態1における、点火プラグの一部断面正面図。 実施形態1における、放電ギャップ付近の一部拡大断面図。 実施形態1における、加熱冷却後の放電ギャップ付近の一部拡大断面図。 実施形態1における、突起部の形成過程を説明する放電ギャップ付近の一部拡大断面図。 実施形態1における、突起部の形成過程を説明する図 実施形態1における、火花放電の発生状態を示す模式図。 実施形態1における、火花放電の発生状態を示す模式図。 実施形態1における、点火プラグの製造工程を示す模式図。 評価試験1の結果を表す図。 評価試験2の結果を表す図。 変形例1における、放電ギャップ付近の一部拡大断面図。
(実施形態1)
本発明の内燃機関用の点火プラグの実施形態について、図1〜図7を用いて説明する。
本実施形態の内燃機関用の点火プラグ1(以下、本明細書では「点火プラグ1」ともいう)は、図1に示すように、中心電極2及び接地電極3を備える。接地電極3は中心電極2との間に放電ギャップGを形成するように、中心電極2に対向配置されている。接地電極3は電極母材3aから放電ギャップGに向かって突出する電極突出部30を有する。
図2に示すように、電極突出部30は、基部31と被覆部32とを有する。基部31は、電極母材3aと一体的に形成されている。
被覆部32は、基部31に接合されるともに放電ギャップGに面している。
基部31は、突出方向Y2の端面33と、端面33の外縁34から電極母材3aに繋がる側周面35とを有するとともに、端面33の外縁34は曲面を形成している。
被覆部32は、基部31の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなるとともに、側周面35の少なくとも一部と端面33とを被覆している。
そして、図3に示すように、内燃機関用の点火プラグ1は、図示しない内燃機関に取り付けられて電極突出部30が気筒内で加熱された後に冷却されたときに、被覆部32における基部31の側周面35を被覆する部分の外表面37に突起部36が形成されるように構成されている。
以下、本実施形態の点火プラグ1について、詳述する。
図1に示すように、点火プラグ1は、プラグ軸方向Yに延びる筒状のハウジング4を有している。ハウジング4の外周面には内燃機関(図示せず)に螺合するための取付ネジ部41が形成されている。点火プラグ1は、取付ネジ部41を内燃機関に螺合させて、放電ギャップGが内燃機関の燃焼室(図示せず)に露出するように、内燃機関に取り付けられる。
ハウジング4の内側には、筒状の絶縁碍子5が備えられ、絶縁碍子5の内側には棒状の中心電極2が備えられている。中心電極2のプラグ軸方向Yの先端側Y1の端部である先端部2aは、絶縁碍子5からプラグ軸方向Yの先端側Y1に突出している。先端部2aには、電極チップ20が設けられている。本実施形態では、電極チップ20は、プラグ軸方向Yの先端側Y1に突出する針状を成している。
図1に示すように、接地電極3は、ハウジング40におけるプラグ軸方向Yの先端側Y1の端部である先端面42から先端側Y1に延出されて、中心電極2の先端部2aとプラグ軸方向において所定間隔をあけて放電ギャップGを形成するように屈曲されている。そして、接地電極3は、プラグ中心軸1a上に、電極母材3aから放電ギャップGに向っかて突出する電極突出部30を有する。
図2に示すように、電極突出部30は、基部31と被覆部32とを有する。基部31は、接地電極3の電極母材3aと一体的に形成されている。基部31は、略円柱状であって、放電ギャップGに向けて突出している。すなわち、基部31は、プラグ軸方向Yの基端側Y2に向けて突出している。基部31における、突出方向Y2の端面33はその外縁34を除いて平面状となっている。なお、基部31は電極母材3aと同一の形成材料からなり、電極突出部30の一部を形成するものである。
図2に示すように、端面33の外縁34は、突出方向Y2と略平行な側周面35に連続するように、曲面となっている。プラグ中心軸1aを含む断面において、外縁34の曲率半径Rは、0.1mm≦Rであることが好ましく、より好ましくは0.1mm≦R≦0.45mmである。
図2に示すように、被覆部32は基部31を覆っている。本実施形態では、被覆部32は端面33、外縁34及び側周面35を覆っている。これにより、端面33、外縁34及び側周面35が、基部31と被覆部32との界面となっている。図2では、説明の都合上、側周面35を覆う被覆部32の厚さを実際よりも大きく示している。本実施形態では、実際には、図5(b)に示すように、側周面35を覆う被覆部32は薄い状態となっている。なお、図2では説明の都合上、上述の通りとしたものではあるが、実際に図2に示すように、側周面35を覆う被覆部32を厚く形成してもよい。
被覆部32は、基部31の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなる。本実施形態では、基部31の形成材料は、例えば、線膨張係数(10−6/K)が13.3であるニッケル(Ni)や、線膨張係数(10−6/K)が16.5である銅(Cu)や、線膨張係数(10−6/K)が11.8である鉄(Fe)などの他に、線膨張係数(10−6/K)が10〜18程度であるニッケル合金、銅合金、鉄合金などを用いることができる。本実施形態では、基部31の形成材料として、線膨張係数(10−6/K)が12.8のニッケル合金であるスペシャルメタライズ社のインコネル600(「INCONEL」は登録商標)を使用している。
一方、被覆部32の形成材料は、例えば、線膨張係数(10−6/K)が8.9である白金(Pt)や、線膨張係数(10−6/K)が6.5であるイリジウム(Ir)や、線膨張係数(10−6/K)が10未満の白金合金、イリジウム合金、白金イリジウム合金などの貴金属又は貴金属合金を用いることができる。本実施形態では、被覆部32の形成材料として、Ptを使用している。被覆部32の形成材料と基部31の形成材料との線膨張係数の差αは、3.3×10−6/K≦α≦4.5×10−6/Kを満たすことが好ましく、本実施形態では、3.9×10−6/Kとなっている。
そして、図3に示すように、本実施形態の点火プラグ1を、図示しない内燃機関に取り付けて気筒内で加熱した後に冷却すると、被覆部32における基部31の側周面35を被覆する部分の外表面37に突起部36が形成される。本実施形態では突起部36は被覆部32の外表面37のプラグ周方向全域に形成されて、環状を成している。
突起部36の形成過程は、以下の通りである。まず、図4(a)及び図5(a)、図5(b)に示すように、初期状態では、被覆部32の外表面37には突起部36は形成されていない。そして、当該点火プラグ1は、図示しない内燃機関に取り付けられ、電極突出部30が気筒内において高温に曝されて加熱されることにより、基部31及び被覆部32はそれぞれ膨張する。例えば、800℃程度に加熱されることにより、当該膨張が生じる。
被覆部32は、基部31の形成材料よりも低い線膨張係数を有する材料からなるため、被覆部32は、基部31よりも加熱時の膨張量が少ない。そのため、図4(b)に示すように、被覆部32の外表面37において、基部31の端面33よりもプラグ軸方向Yの先端側Y1に位置する第1外表面371は、膨張状態の基部31の側周面351によってプラグ径方向Xの外側に押し出されて、基部31の端面33よりもプラグ軸方向Yの基端側Y2に位置する第2外表面372よりもプラグ径方向Xに拡大する。その結果、被覆部32は塑性変形して、第1外表面371と第2外表面372との間に段差部361が形成されることとなる。なお、図4(b)における破線は、加熱による膨張前の電極突出部30の形状を示している。
その後、気筒内の温度が低下することによって冷却されると、膨張していた基部31及び被覆部32はいずれも収縮して初期状態に戻ろうとする。しかし、被覆部32においては、被覆部32が塑性変形して段差部361が形成されているため、収縮しても初期状態に戻ることができずに、図4(c)及び図5(c)、図5(d)に示すように、突起部36が形成される。また、上記線膨張係数の差により、基部31における外縁34には、収縮時において突起部36の形成に伴ってプラグ径方向X外側に向かう力が発生するため、図4(c)に示すように、外縁341はプラグ径方向外側に若干膨出している。なお、本明細書において、外縁34の曲率半径Rは、図4(a)に示す初期状態におけるものをいう。
図3に示すように、本実施形態では、電極突出部30は略円柱状であって、高さT0は0.8mmであり、径D0は0.7mmとなっている。そして、基部31の高さT1は0.5mmであって、突起部36の突出方向Xの頂点位置の高さと略一致している。また、凹部38は略円筒状であって、開口部の径D1は、0.8mmとなっている。
図3に示すように、本実施形態では、突起部36の高さH(mm)、すなわち、プラグ軸方向Yに直交する方向への突出量は、外縁34の曲率半径をR(mm)としたとき、H≦−0.067R+0.227を満たすことが好ましい。本実施形態では、Hは0.2mmとなっている。
本実施形態の点火プラグ1における使用態様について図6、図7を用いて説明する。
本実施形態の点火プラグ1は、図示しない内燃機関に取り付けられる。当該内燃機関は希薄燃焼エンジンである。そして、所定のタイミングで中心電極に高電圧が印加されることにより、図6に示すように、中心電極2の電極突出部20と接地電極3の電極突出部30との間の放電ギャップGに火花放電Pが発生する。
気筒内の混合気の気流Sによって、図7に示すように、火花放電Pは気流Sの進行方向に流されるが、接地電極3の電極突出部30においては、火花放電Pが突起部36に集中することとなる。これにより、火花放電Pが接地電極3の電極母材3a側に流れることが抑制されている。
次に、本実施形態の点火プラグ1の製造方法について、図8(a)〜図8(d)を用いて説明する。
点火プラグ1の製造方法は、図8(a)〜図8(d)に示すように、接合工程S1、準備工程S2、押出工程S3を含む。
接合工程S1では、図8(a)に示すように、接地電極3の電極母材3aに、被覆部粗材32aを抵抗溶接により接合する。本実施形態では、被覆部粗材32aは、電極母材3aの形成材料であるスペシャルメタライズ社のインコネル600(「INCONEL」は登録商標)よりも低い線膨張係数を有する貴金属である白金からなる。
次に、準備工程S2では、図8(b)に示すように、電極母材3aに接合された被覆部粗材32aに、凹部50を有する第1治具51を沿わせて、被覆部粗材32aと凹部50との間に空間部50aを形成する。
そして、押出工程S3では、図8(c)、図8(d)に示すように、接地電極3において被覆部粗材32aが接合された部分3bと反対側の部分3cに、凹部50の開口部50bよりも大きい凸部53を有する第2治具52を凹部50に向けて押し付ける。これにより、粗材接合部3bを空間部50aに押し出して凸状の基部31を形成するとともに、被覆部粗材32aが基部31の側周面35の少なくとも一部と突出方向の端面33とを覆う被覆部32を形成して、電極突出部30を形成する。なお、接地電極3において電極突出部30と反対側の部分には、第2治具52の凸部53の外形に沿った凹部38が形成される。
そして、図8(c)、図8(d)に示すように、第2治具52における凸部53が第1治具51における凹部50の開口部50bよりも大きいため、凸部53によって電極母材3aが凹部50に押し込まれて基部31が形成される際に、基部31の端面33の外縁34が曲面に形成されるようになっている。本実施形態では、凹部50は円柱状であって、凸部53は略円柱状となっている。そして、図8(c)に示すように、凸部53の径w2は凹部50の開口部50bの開口径w1よりも大きくなっている。
また、本実施形態では、図8(b)に示すように、準備工程S2において、被覆部粗材32aが、第1治具51の凹部50の開口部50bを覆うように第1治具51を沿わせている。
(評価試験)
上記実施形態1の点火プラグ1について、以下の評価試験1及び評価試験2を行った。
まず、評価試験1では、上記実施形態1の点火プラグ1の構成において、外縁34の曲率半径R及び突起部36の高さHを変化させたときの、突起部36における割れ発生の有無を評価した。
評価試験1における試験例1〜3の構成は以下の通りである。すなわち、上記実施形態1の点火プラグ1の構成において、基部31と被覆部32との線膨張係数の差αが3.3×10−6/Kであるものを試験例1とし、同じくαが3.8×10−6/Kであるものを試験例2、αが4.5×10−6/Kであるものを試験例3とした。
試験条件は、試験例1〜3における点火プラグを、温度制御可能な冷熱ベンチにセットして、温度を室温から900℃に昇温させた後、冷却して再び室温にすることを1サイクルとして、これを200サイクル行った。200サイクルの実施中に、突起部36に割れが発生していないものを良好(○)、突起部36に割れが発生していたものを不良(×)とし、結果を下記の表1に示し、グラフを図9に示した。
上記評価試験1では、試験例1〜3のいずれにおいても、外縁34の曲率半径Rが0.05mmの場合は、突起部36に割れが生じており、不良(×)であった。一方、外縁34の曲率半径Rが0.1mm〜0.45mmの範囲内では、突起部36に割れが生じておらず、良好(○)であった。
図9において、膨張係数の差αが4.5×10−6/Kである試験例3における近似直線LはH=−0.067R+0.227で示される。当該評価結果1によれば、0.1≦R、且つH≦−0.067R+0.227である場合に突起部36に割れが生じておらず、良好な点火プラグ1が得られることが確認できた。
次に、評価試験2では、突起部36の高さと着火性との関係を評価した。
まず、試験例として、実施形態1の構成において、加熱冷却後の突起部36の高さHを、0.03mm、0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm及び0.5mmとしたものを用意した。また、比較例として、突起部36の高さHが0mm、すなわち突起部36を有さないものを用意した。
試験条件は、試験例及び比較例の点火プラグを、排気量1800cc、4気筒の内燃機関に取り付けて、エンジン回転数を2000rpmとし、Pmiが0.28MPaの条件下でPmi変動率が3%以上となったときのA/Fをリーン限界A/Fとした。図10に、評価試験2における突起部36の高さHとリーン限界A/Fとをプロットしたグラフを示した。
評価試験2によれば、図10に示すように、試験例である突起部36の高さHが0.03mmの場合は、比較例である突起部36の高さHが0mmの場合に比べて、リーン限界A/Fは若干の増加しか認められず、着火性は向上していなかった。一方、試験例である突起部36の高さHが0.05mm以上の場合は、比較例である突起部36の高さHが0mmの場合に比べて、リーン限界A/Fの十分な増加が認められ、着火性が向上することが確認された。
以上、評価試験1及び2によれば、被覆部32の形成材料と基部31の形成材料との線膨張係数の差αは、3.3×10−6/K≦α≦4.5×10−6/Kを満たすことにより、線膨張係数の差αが確保され、加熱冷却により突起部36が確実に形成されることが示された。
さらに、基部31における端面33の外縁34の曲率半径Rが、0.1mm≦Rを満たすことにより、着火性の向上が一層図られることが示された。さらに、外縁34の曲率半径Rが、0.1mm≦R≦0.45mmを満たすことにより、着火性が確実に向上することが示された。
さらに、突起部36の高さH及び端面33の外縁34の曲率半径Rは、0.05mm≦H≦−0.067R+0.227mmを満たすことにより、突起部36に割れが生じないとともに、着火性が向上することが示された。
次に、本実施形態の内燃機関用の点火プラグ1における作用効果について、詳述する。
本実施形態の点火プラグ1によれば、電極突出部30は放電ギャップGに面する部分に貴金属又は貴金属合金からなる被覆部32を有するため、火花放電による消耗が少なく、点火プラグ1の長寿命化が図られる。さらに、電極突出部30における基部31の形成材料は、被覆部32よりも安価な材料とすることができるため、電極突出部30全体が被覆部32の形成材料からなる場合に比べて、製造コストを低減することができる。
また、被覆部32を形成する貴金属又は貴金属合金は、基部31の形成材料よりも低い線膨張係数を有するため、両者の線膨張係数の差αが生じる。しかしながら、基部31の突出方向の端面33の外縁34が曲面となっているため、基部31の外表面を覆う被覆部32との接合部に角部が形成されにくい。そのため、線膨張係数の差αに起因して生じる熱応力が過度に集中することが抑制される。その結果、基部31と被覆部32との接合部に、熱応力による亀裂の発生が抑制されるため、この観点からも点火プラグ1の長寿命化が図られる。
さらに、点火プラグ1は、内燃機関に取り付けられて電極突出部30が気筒内で加熱された後に冷却されたときに、被覆部32には基部31の側周面35を覆う部分37に突起部36が形成される。そのため、筒内気流の速い希薄燃焼エンジンにおいて、放電ギャップGに発生させた火花放電Pが、高速気流によって基部31側へ移動してしようとしても、火花放電Pが基部31の側周面35を覆う部分37の突起部36に集中しやすく、放電経路が過度に長くなることが防止される。これにより、火花放電Pの吹き消えが抑制される。その結果、着火性の向上が図られる。なお、突起部36は、基部31と被覆部32とにおいて、両者の形成材料に線膨張係数の差αが存在することに起因して形成されるように構成されている。
また、本実施形態の点火プラグ1では、基部31の形成材料がニッケル合金であり、被覆部31の形成材料が白金である。これにより、両者の膨張係数の差αが上述の3.3×10−6/K≦α≦4.5×10−6/Kを満たすことができる。その結果、線膨張係数の差αが確保され、加熱冷却により突起部36が確実に形成されることとなる。
次に、本実施態様における製造方法における作用効果について詳述する。
また、本実施形態の内燃機関用の点火プラグ1の製造方法によれば、接合工程S1において、抵抗溶接により被覆部粗材32aを電極母材3aに接合する。そのため、レーザー溶接や、電子ビーム溶接等のように、被覆部粗材32aと電極母材3aとの間に両者が溶融混合してなる中間層が形成されないため、被覆部粗材32aと電極母材3aとの界面が形成されている。そのため、点火プラグ1は、内燃機関に取り付けられて電極突出部30が気筒内で加熱された後に冷却されたときに、両者の形成材料に線膨張係数の差αが存在することによって突起部36が確実に形成されることとなる。これにより、当該製造方法によれば、本実施形態の点火プラグ1を容易に製造することができる。
また、本実施形態では、準備工程S2において、被覆部粗材32aが、第1治具51の凹部50の開口部50bを覆うように第1治具51を沿わせる。これにより、被覆部粗材32aから形成される被覆部32が、基部31の端面33と側周面35の全域を覆うこととなる。そのため、火花放電による電極突出部30の消耗を一層抑制することができる。
なお、本実施形態では、図4(a)〜図4(c)に示すように、被覆部32が、基部31の端面33と側周面35の全域とを覆うように形成したが、これに替えて、電極突出部30の消耗を抑制する効果が得られる範囲で、図11に示す変形例1のようにしてもよい。変形例1では、図11に示すように、突起部36は被覆部32の全周方向に形成されているが、基部31の側周面35の一部が被覆部32により被覆されていない状態であってもよい。かかる場合でも本実施形態1の場合と同等の作用効果を奏する。
以上のごとく、本実施形態によれば、長寿命化及び着火性向上が図られる内燃機関用の点火プラグ1及びその製造方法を提供することができる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
1 内燃機関用の点火プラグ
2 中心電極
3 接地電極
30 電極突出部
31 基部
32 被覆部
33 端面
34 外縁
35 側周面
36 突起部
G ギャップ

Claims (8)

  1. 中心電極(2)と、該中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成するように上記中心電極に対向配置された接地電極(3)と、を備え、上記接地電極の電極母材(3a)から上記放電ギャップに向かって突出する電極突出部(30)を有する、内燃機関用の点火プラグ(1)であって、
    上記電極突出部は、上記電極母材と一体的に形成された基部(31)と、該基部に接合されるともに上記放電ギャップに面する被覆部(32)とを有し、
    上記基部は、突出方向の端面(33)と、該端面の外縁(34)から上記電極母材に繋がる側周面(35)とを有するとともに、上記端面の外縁は曲面を形成しており、
    上記被覆部は、上記基部の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなるとともに、上記側周面の少なくとも一部と上記端面とを被覆しており、
    内燃機関に取り付けられて上記電極突出部が気筒内で加熱された後に冷却されたときに、上記被覆部における上記基部の側周面を被覆する部分の外表面(37)に突起部(36)が形成されるように構成されている、内燃機関用の点火プラグ。
  2. 上記被覆部の形成材料と上記基部の形成材料とにおける線膨張係数の差をαとしたとき、3.3×10−6/K≦α≦4.5×10−6/Kを満たす、請求項1に記載の内燃機関用の点火プラグ。
  3. 上記端面の外縁の曲率半径をRとしたとき、0.1mm≦Rを満たす、請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火プラグ。
  4. 上記端面の外縁の曲率半径をRとしたとき、0.1mm≦R≦0.45mmを満たす、請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火プラグ。
  5. 上記突起部の高さをHとし、上記端面の外縁の曲率半径をRとしたとき、0.05mm≦H≦−0.067R+0.227mmを満たす、請求項1〜4のいずれ一項に記載の内燃機関用の点火プラグ。
  6. 上記基部の形成材料がニッケル又はニッケル合金であり、上記被覆部の形成材料が白金、白金合金、イリジウム、イリジウム合金又は白金イリジウム合金である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関用の点火プラグ。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関用の点火プラグ(1)の製造方法であって、
    上記電極母材に、該電極母材の形成材料よりも低い線膨張係数を有する貴金属又は貴金属合金からなる被覆部粗材(32a)を抵抗溶接により接合する接合工程(S1)と、
    上記電極母材に接合された上記被覆部粗材に、凹部(50)を有する第1治具(51)を沿わせて、上記被覆部粗材と上記凹部との間に空間部(50a)を形成する準備工程(S2)と、
    上記電極母材における上記被覆部粗材が接合された粗材接合部(3b)と反対側の部分(3c)に、上記凹部の開口部(50b)よりも大きい凸部(53)を有する第2治具(52)を上記凹部に向けて押し付けることにより、上記粗材接合部を上記空間部に押し出して凸状の基部(31)を形成するとともに、上記被覆部粗材が上記基部の側周面(35)の少なくとも一部と突出方向の端面(33)とを被覆する被覆部(32)を形成して、上記電極突出部を形成する押出工程(S3)と、
    を含む、内燃機関用の点火プラグの製造方法。
  8. 上記準備工程において、上記被覆部粗材が、上記開口部を覆うように上記第1治具を沿わせる、請求項7に記載の内燃機関用の点火プラグの製造方法。
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