JP3796845B2 - スパークプラグ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
ガスヒートポンプやコージェネレーション用エンジン等に使用される長寿命なスパークプラグに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、図5に示すように、導電材料(例えば、Ni合金材料および銅)からなる中心電極3の先端部3aに、中心電極3よりも高融点な導電材料(例えばIr合金)からなるチップ5をレーザー溶接したスパークプラグ10が、特開平5−343159号公報に提案されている。このチップ5は、中心電極3の先端部3aに設けた孔321に挿入される脚部51と、この脚部51よりも大径な大径部52とを備えている。なお、大径部52の径は1.8mmであった。
【0003】
そして、中心電極3の先端部3aとチップ5の大径部52との当接部位に、上記レーザー溶接による溶融部7が形成されている。この溶融部7のうち、チップ5の軸方向(図中上下方向)に関する上方側略半分はチップ5にかかり、溶融部7のうち、上記軸方向に関する下方側略半分は中心電極3にかかっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、このようなスパークプラグ10を、ガスヒートポンプやコージェネレーション用エンジン等に適用することが試みられている。ガスヒートポンプやコージェネレーション用エンジン等は、従来の自動車エンジン等に比べてより長期間にわたって使用されるため、これに適用するスパークプラグ10も長寿命であることが要求される。
【0005】
そして、本発明者らが、上記従来技術のスパークプラグ10について、ガスエンジンの使用環境を模擬して評価を行なった結果、ガスエンジンの寿命よりも短い期間で、チップ5が中心電極3から剥離する、という問題が発生することがわかった。また、チップ5の大径部52と、溶融部7との界面近傍に亀裂が入り、この亀裂の進行により、上記剥離が発生することがわかった。
【0006】
以下に、上記問題の発生する原因について、本発明者らが実験、検討した結果を述べる。
まず、中心電極3を構成する材料の熱膨張係数(例えばニッケル合金材料は13.3×10-6[deg- ]程度)が、チップ5を構成する材料(例えばIr合金材料は6.8×10-6[deg- ]程度)よりも非常に大きいため、スパークプラグ10の使用時における冷熱(温度差900℃程度)の繰り返しにより、溶融部7近傍に熱応力がかかる。そして、明確な理由はわからないが、溶融部7とチップ5との間の固着力が、溶融部7と中心電極3との間の固着力よりも小さいため、上記熱応力により、溶融部7とチップ5との間に亀裂が生じ、溶融部7からチップ5が剥離するのである。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、脚部および大径部を有するチップが中心電極から剥離することを抑制することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1ないし8に記載の発明では、チップ(5)の小径部である脚部(51)と、中心電極(3)の先端部(3a)との界面近傍に、チップ(5)および中心電極(3)を溶融し、チップ(5)および中心電極(3)を一体化する溶融部(7)を形成してあり、この溶融部(7)は、その先端部(71)側全周が、チップ(5)の脚部(51)の外周面よりも中心側へ食い込むように形成されていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、溶融部(7)とチップ(5)との間の固着力がたとえ弱くても、溶融部(7)がチップ(5)の抜け止め作用を発揮するため、中心電極(3)の先端部(3a)からチップ(5)が剥離することを抑制でき、スパークプラグ(10)の寿命を長くできる。このようなスパークプラグ(10)は、ガスエンジンに用いて好適である。
【0010】
そして、溶融部(7)の先端部(71)側全周が、チップ(5)の脚部(51)に、この脚部(51)の径の1割以上食い込むように、溶融部(7)を形成することにより、上記従来技術に比べて、チップ(5)の剥離を確実に抑制できることが、発明者らの実験、検討により確認されている。
また、溶融部(7)の先端部(71)側全周が、チップ(5)の脚部(51)の外周面より径方向中心側に0.2mm以上食い込むことにより、上記従来技術に比べて、チップ(5)の剥離を確実に抑制できることが、後述の実験により確認されている。
【0011】
ここで、チップ(5)は、例えばIrまたはIr合金材料からなる。
また、中心電極(3)は、例えば、銅合金材料からなる内材(31)と、ニッケル合金材料からなる外材(32)とを備えている。
そして、上記従来技術よりも大径な大径部(52)を備えた(つまり、長寿命な)チップ(5)、つまり、大径部(52)の径が2.5mm〜3.5mmであるようなチップ(5)に関しては、スパークプラグ(10)の使用時における冷熱の繰り返しによる、大径部(52)および中心電極(3)の温度差が大きくなることがわかっている。
【0012】
よって、上記熱応力がより大きくなり、本発明を適用しない場合には、溶融部(7)からチップ(5)が剥離するまでの期間がさらに短くなる。このため、大径な大径部(52)を備えたチップ(5)に関しては、本発明を適用することにより、上記剥離を効果的に抑制でき、スパークプラグ(10)の寿命を効果的に長くできる。
【0013】
ここで、スパークプラグ(10)の火花放電は、チップ(5)の大径部(52)のうち、尖った部位に発生しやすい。この尖った部位が消耗して丸みを帯びることにより、火花放電の発生しやすい場所が減少し、点火ミスが多発し、スパークプラグ(10)の寿命となる。これに対して、大径部(52)の表面に溝(53)を形成し、この溝(53)と、大径部(52)の表面との境界部位に、尖った形状のエッジ部(54)を形成することにより、火花放電の発生しやすい場所が増加し、スパークプラグ(10)の寿命を長くできる。
【0014】
そして、大径部(52)の表面に溝(53)を備えたチップ(5)に関しても、上記冷熱の繰り返しによるチップ(5)の温度変化が大きくなることがわかっている。よって、この場合も、本発明を適用することにより、上記剥離を効果的に抑制できる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図1および図2に示す実施形態について説明する。
本実施形態のスパークプラグ10は、ガスヒートポンプのような、ガス(例えばLNG、CNG等)を燃料とするガスエンジンに適用されるものである。図2に示すように、取付金具1は、円筒形状で、エンジンブロック100に固定するための取付ネジ部1aを備えている。取付金具1の内部には、アルミナセラミック(Al2 O3 )等からなる絶縁体2が固定されており、この絶縁体2の軸孔21に中心電極3が固定されている。絶縁体2の先端部2aは、取付金具1の先端部11から露出するように設けられている。
【0016】
中心電極3は、図1(a)に示すように、内材31が熱伝導性に優れた金属材料(例えば銅合金材料)、外材32が耐熱性に優れたNi合金材料(例えば、インコネル社のインコネル600)により構成された円柱体で、図2に示すように、その先端部3aが絶縁体2の先端部2aから露出するように設けられている。取付金具1の先端部11には、接地電極4が溶接により固定されている。この接地電極4は、Ni合金材料等の金属材料からなり、後述するチップ5と放電ギャップ6を隔てて対向している。
【0017】
ここで、ガスエンジンの燃焼室内は、ガソリンエンジンの燃焼室内に比べて圧力が高いため、火花放電しにくい環境である。このため、本実施形態におけるスパークプラグ10の放電ギャップ6を、ガソリンエンジンに設けるスパークプラグの放電ギャップに比べて短く、例えば0.3mm程度にしてある。
中心電極3の先端部3aには、本発明の特徴であるIr合金材料(例えば、90wt%Ir−10wt%Rh)からなるチップ5が設けられている。中心電極3の先端部3aには、円形状の孔321が形成されており、チップ5は、孔321に挿入可能な円柱形状の脚部51と、この脚部51よりも大径な円柱形状の大径部52とを備えている。
【0018】
さらに、大径部52の表面には、図1(b)に示すような十字状の溝53が形成されている。この溝53は、図1(a)に示すように断面コ字状であり、この溝53と大径部52の表面との境界部に、直角的に尖った形状のエッジ部54が形成されている。ここで、放電ギャップ6に発生する火花放電は、チップ5の大径部52のうち、尖った部位(大径部52の端面外周部や、上記エッジ部54)に発生しやすい。よって、溝53を形成しない場合に比べて、火花放電の発生しやすい場所が増加し、スパークプラグ10の寿命を長くできる。
【0019】
また、火花放電により形成される火炎は、放電ギャップ6に形成されるものであるが、溝53を設けることにより、火炎核の形成スペースを拡大でき、火炎を大きくできる。この結果、混合気の着火性を向上できる。
そして、チップ5の脚部51と中心電極3の先端部3aとの界面近傍には、チップ5の脚部51および中心電極3の溶融部7が、複数カ所(本実施形態では90°づつ隔てて4か所)形成されている。この溶融部7は、チップ5の脚部51および中心電極3の先端部3aにかけて形成されており、後述するレーザー溶接により形成されている。
【0020】
この溶融部7は、チップ5の径方向に略並行に延びるとともに、その先端部71側全周が、チップ5の脚部51の外周面より径方向中心側に食い込むように形成されている。そして、溶融部7の先端部71側全周の食い込み長さLを、例えば0.3mmとしている。なお、溶融部7の先端部71側全周の食い込み長さLとは、溶融部7の先端部71側のうち、その全周にわたってチップ5の脚部51の外周面より径方向中心側に食い込む部位の長さのことである。
【0021】
このような構成によれば、溶融部7とチップ5との間の固着力がたとえ弱くても、溶融部7がチップ5の抜け止め作用を発揮するため、中心電極321の先端部3aからチップ5が剥離することを抑制でき、スパークプラグ10の寿命を長くできる。
以下に、スパークプラグ10について、溶融部7の形態および寸法と、チップ5の剥離との関係を評価した結果について説明する。
【0022】
まず、図1(a)において、大径部52の径を2.7mm、大径部52の厚さを1.3mm、脚部51の径を1.7mm、脚部51の厚さを1.0mm、溝53の巾を0.4mm、溝53の深さを0.8mmとし、上記食い込み長さLが0.1mm、0.2mm、0.3mmとなるようにチップ5を溶接したものを6個ずつ用意した。また、図5に示す従来技術のスパークプラグ10において、貴金属チップ5および中心電極3を上述と同様の寸法としたもの(従来品)も6個用意した。
【0023】
そして、上記した寸法のそれぞれのスパークプラグ10を、大気中において、950℃の環境に6分配置させた後、25℃の環境に6分配置させる、といった冷熱サイクルを繰り返し行い、チップ5が剥離するまでの間に行なわれた冷熱サイクル数を測定した。
この結果、従来品では、冷熱サイクルが100回〜130回繰り返されることにより、チップ5が剥離することが確認された。また、上記食い込み長さLが0.1mmのものでは、冷熱サイクルが180回〜200回繰り返されることにより、チップ5が剥離することが確認された。また、上記食い込み長さLが0.2mm、0.3mmのものでは、冷熱サイクルを400回繰り返しても、チップ5が剥離しないことが確認された。
【0024】
これにより、▲1▼溶融部7の先端部71側全周を、チップ5の脚部51に食い込ませることにより、従来技術に比べて、チップ5の剥離を抑制できること、▲2▼上記食い込み長さLが0.2mm以上であれば、従来技術に比べて、チップ5の剥離を効果的に抑制できること、が確認された。
(第2の実施形態)
本実施形態では、図3に示すように、溶融部7が、中心電極3の先端部3a、チップ5の脚部51および大径部52にかかっている。そして、この溶融部7は、その先端部71側全周が、チップ5の脚部51の外周面より径方向中心側に食い込むように形成されている。そして、溶融部7の先端部71側全周の食い込み長さLを、例えば0.3mmとしている。
【0025】
本実施形態についても、上記食い込み長さLを0.1mm、0.2mm、0.3mmとしたものを6個ずつ用意し、上記評価を同様に行なったところ、上記食い込み長さLが0.1mmのものでは、冷熱サイクルが150回〜200回繰り返されることにより、チップ5が剥離することが確認された。また、上記食い込み長さLが0.2mm、0.3mmのものでは、冷熱サイクルを400回繰り返しても、チップ5が剥離しないことが確認された。
【0026】
(第3の実施形態)
本実施形態では、図4に示すように、溶融部7が、中心電極3の先端部3aおよびチップ5の脚部51の先端部511側にかかっている。そして、この溶融部7は、その先端部71側全周が、チップ5の脚部51の外周面より径方向中心側に食い込むように形成されている。そして、溶融部7の先端部71側全周の食い込み長さLを、例えば0.2mmとしている。
【0027】
本実施形態についても、上記食い込み長さLを0.1mm、0.2mm、0.3mmとしたものを6個ずつ用意し、上記評価を同様に行なったところ、上記食い込み長さLが0.1mmのものでは、冷熱サイクルが150回〜200回繰り返されることにより、チップ5が剥離することが確認された。また、上記食い込み長さLが0.2mm、0.3mmのものでは、冷熱サイクルを400回繰り返しても、チップ5が剥離しないことが確認された。
【0028】
(他の実施形態)
上記実施形態では、大径部52の表面に十字状の溝53を形成していたが、この形状に限定されることはなく、円形状であってもよいし、スポーク状であってもよい。また、溝53を廃止してもよい。
また、上記実施形態では、大径部52の径が2.7mmのチップ5を用いていたが、これより大きくても小さくてもよく、例えば、従来技術と同様のチップ5(大径部52の径が1.8mm)を用いてもよい。
【0029】
また、レーザー溶接に替えて、電子ビーム溶接により、溶融部7を形成してもよい。
また、上記実施形態では、溝53は断面コ字状であったが、断面V字状であってもよい。なお、溝53のエッジ部54は、直角より鈍角的でも鋭角的でもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係わるスパークプラグの先端側の拡大断面図、(b)はチップ5の上面図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるスパークプラグの半断面図である。
【図3】第2の実施形態に係わるスパークプラグの先端側の拡大断面図である。
【図4】第3の実施形態に係わるスパークプラグの先端側の拡大断面図である。
【図5】従来技術に係わるスパークプラグの先端側の拡大断面図である。
【符号の説明】
3…中心電極、5…チップ、51…脚部、52…大径部、
7…溶融部、71…溶融部の先端部。
Claims (8)
- 導電材料からなり、先端部(3a)に孔(321)を備えた中心電極(3)と、
前記孔(321)に挿入される脚部(51)と、前記脚部(51)よりも大径な大径部(52)とを同軸的に一体に備えたチップ(5)とを具備し、
前記チップ(5)は、前記中心電極(3)よりも融点が高く、かつ、前記中心電極(3)よりも熱膨張率が小さな導電材料からなり、
前記チップ(5)の前記脚部(51)と、前記中心電極(3)の前記先端部(3a)との界面近傍には、前記チップ(5)および前記中心電極(3)を溶融して前記チップ(5)と前記中心電極(3)とを一体に接合する溶融部(7)が形成されており、
前記溶融部(7)の先端部(71)側全周が、前記チップ(5)の前記脚部(51)の外周面より径方向中心側に食い込むように、前記溶融部(7)は形成されていることを特徴とするスパークプラグ。 - 前記溶融部(7)の先端部(71)側全周が、前記チップ(5)の前記脚部(51)の外周面より径方向中心側に、前記脚部(51)の径の1割以上食い込むように、前記溶融部(7)は形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
- 前記溶融部(7)の先端部(71)側全周が、前記チップ(5)の前記脚部(51)の外周面より径方向中心側に、0.2mm以上食い込むように、前記溶融部(7)は形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスパークプラグ。
- 前記チップ(5)は、IrまたはIr合金材料からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のスパークプラグ。
- 前記中心電極(3)は、銅合金材料からなる内材(31)と、ニッケル合金材料からなる外材(32)とを備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のスパークプラグ。
- 前記溶融部(7)は、前記中心電極(3)および前記チップ(5)の前記脚部(51)のみにかけて形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載のスパークプラグ。
- 前記大径部(52)の径は、2.5mm〜3.5mmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のスパークプラグ。
- 前記大径部(52)の表面側には溝(53)が形成されており、
この溝(53)と、前記大径部(52)の表面との境界部位には、尖った形状のエッジ部(54)が形成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のスパークプラグ。
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