JP6621550B2 - スポンジチタン及びスポンジチタンの製造方法並びにチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法 - Google Patents

スポンジチタン及びスポンジチタンの製造方法並びにチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、四塩化チタンを金属マグネシウムにより還元してスポンジチタンを製造するクロール法によるスポンジチタン及びその製造方法並びにチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法に関する。
スポンジチタンは、工業的にはクロール法により製造される。クロール法による工業的なスポンジチタンの製造における工程は、塩化蒸留工程、還元分離工程、破砕工程及び電解工程の四工程に大別される。
これらの工程の一つである還元分離工程は、還元工程と真空分離工程とからなる。還元工程では、ステンレス製又は鋼製の反応容器内の溶融状態の金属マグネシウム上に、四塩化チタンを滴下することにより還元反応が起こり、スポンジチタンと副生成物である塩化マグネシウムが生成する。次いで、真空分離工程において、還元工程で生成したスポンジチタンを、高温且つ減圧下で真空引きすることにより、残存した塩化マグネシウムや金属マグネシウムが取り除かれたスポンジチタン塊が製造される(非特許文献1)。
このようにして製造されたスポンジチタン塊は、後の破砕工程にて、段階的に、切断及び破砕され、最終的にミリメートルからセンチメートルオーダーのスポンジチタンとなる。スポンジチタンは、後の溶解工程の主原料として単独又は副原料とともに溶解され、チタンインゴット又はチタン合金インゴットとなる。ここでいう副原料とは、例えば、チタン加工品の切粉、板、ブロック等のチタンスクラップや、その他合金元素の粒、板、ブロック等の添加材のことである。
チタンの溶解方法には、消耗電極式アーク溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマ溶解法、真空誘導溶解法、不活性誘導溶解法が一般的に使用されるが、いずれの溶解法でも、スポンジチタンの塩素含有量は、溶解安定性及び生産性を左右する重要な要素であることが知られている。
例えば、電子ビーム溶解法では真空下で溶解を行なうが、塩素含有量が多いスポンジチタンでは、塩化物の揮発に伴うスプラッシュが多く発生するため、溶解歩留りが悪化する問題や(非特許文献2)、原料供給口にスプラッシュが付着又は堆積することで、原料挿入が不可能となる問題(特許文献1)が発生することがある。その他にも、揮発した塩化物によって電子ビームの発生が阻害される問題(非特許文献3)や、発生した塩化物ガスが溶解設備を腐食させる等の問題も発生する。そのため塩素含有量は、低い程、溶解安定性が増すため望ましい。プラズマ溶解法、真空誘導溶解法、不活性誘導溶解法においても、塩化物の揮発に伴う同様の諸問題が生じるため、スポンジチタンの塩素含有量は少ないほど好ましい。
ここで、一般的なスポンジチタンの塩素含有量について言及すると、塩素含有量は700ppm程度、マグネシウム含有量は250ppm程度というのが一般的な値であり、本発明者らが探索した中で、最も低いもので、塩素含有量が230ppm、マグネシウム含有量が140ppmであった(非特許文献2)。
非特許文献4では、スポンジチタンの塩素含有量と、その残留機構について詳しい記載があり、スポンジチタン塊内の分布は、塊上部では1000〜1500ppm程度、塊下部では400〜600ppm程度であること、塩素の存在形態は、Type1:チタン一次粒子内の微細孔中の塩化マグネシウム、Type2:チタン一次粒子間に残存する塩化マグネシウム、Type3:チタン一次粒子表面に付着した二塩化チタンの三つであり、Type2が主な存在形態であることが報告されている。ここでいう、チタン一次粒子とは、スポンジチタンを構成する数十μmオーダーのチタンの粒子であり、スポンジチタンは一次粒子が焼結した多孔質体である。
Type1では、チタン一次粒子の粒内にごく微細に分散して塩化マグネシウムが存在しており、Type2では、チタン一次粒子同士の隙間に塩化マグネシウムが存在しており、Type3では、チタン一次粒子の表面上に二塩化チタンが存在している。
非特許文献4では、塩素含有量を支配する重要な因子として、還元工程における四塩化チタンの供給速度、マグネシウム存在量が挙げられており、四塩化チタンの供給速度が小さく、マグネシウム存在量が多い方が、塩素含有量が低くなると報告されており、四塩化チタンの供給速度が、1.4(L/m/分)(2.4(kg/m/分))と小さく、マグネシウムが潤沢に存在している状態で生成したスポンジチタン塊の下部では、400ppm弱の塩素含有量とすることに成功している。
ところで、チタンインゴットの品質は、インゴット溶製における重要な要素であり、特に重要とされるのは、インゴットの鋳肌と成分である。
スポンジチタンの塩素含有量が多いと、溶解工程において、塩化物に起因して、電子ビームがずれる、あるいは電子銃が一時停止する等のトラブルがしばしば発生するため、設定通りに、チタン溶湯外周部への電子ビーム照射ができず、そのことが鋳肌不良の原因となる。
鋳肌については、電子ビーム溶解時のビーム出力及び引き下げ速度と、鋳肌の関係についての報告例(非特許文献2)がある。
成分については、電子ビーム溶解法で溶製したインゴットの成分分布を調査した報告例(非特許文献5)がある。成分制御で特に重要となるのは、酸素濃度と鉄濃度で、工業用純チタンでは、250ppm程度の狭い範囲内に成分を制御することが求められる。
資源と素材 Vo.1.109 P1157−1163(1993) ISIJ Vol.31 (1991) No.2 P906−914 鉄と鋼 Vol.74(1988)No.2 P215−223 資源と素材 Vo.112 P251−256(1996) 材料とプロセス Vol.1、(1988) No.5 P1335
実公平6−23918
ところが、非特許文献5のスポンジチタンにおける塩素含有量が400ppm弱というのは、溶解工程において、塩化物含有に起因する問題を解決するのに十分な塩素低減量ではないため、依然、塩化物含有に起因する問題があった。また、加えて、非特許文献5の方法では、四塩化チタンの供給速度が極端に遅いため、工業化するにはスポンジチタンの生産性も低過ぎるという問題点がある。
そのため、電子ビーム溶解法、プラズマ溶解法、真空誘導溶解法、不活性誘導溶解法等の、圧縮成型を伴わない溶解法において、塩化物含有に起因する問題が生じない、低塩素含有量のスポンジチタンが求められている。
また、非特許文献2の方法では、小規模な製造レベルでは、鋳肌の改善はできるものの、数トン以上の大型インゴットの溶製時には、ビーム出力や引下げ速度を適切に制御したとしても、鋳肌不良が生じることがしばしばあり、改善が求められている。
また、数トン以上の大型インゴットの溶製時には、成分を所定の範囲内に制御できないことがしばしばあり、改善が求められていた。
従って、本発明は、圧縮成型を伴わない溶解法による大型インゴットの溶製時に、塩化物含有に起因する問題が生じ難く、且つ、成分制御が容易な大型インゴット製造用のスポンジチタン及び工業的に効率的に、当該スポンジチタンを製造する方法を提供することを目的とする。
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、クロール法により製造されたスポンジチタンであって、塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計が350質量ppm以下であり、充填密度が1.65〜1.95g/cmであることを特徴とするスポンジチタンを提供するものである。
また、本発明(2)は、平均粒径が1.7〜19.1mmであることを特徴とする(1)のスポンジチタンを提供するものである。
また、本発明(3)は、粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の割合が0.8質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのスポンジチタンを提供するものである。
また、本発明(4)は、クロール法によるスポンジチタンの製造方法であって、
反応浴面の面積が2.5m以上であり、(i)金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間は、下記式(1):
A=1分間当たりの四塩化チタンの平均供給速度(kg/分)/反応浴面の面積(m) (1)
で算出される反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aを、2.8〜4.0kg/(分・m)とし、且つ、(ii)四塩化チタンの総供給量を、下記式(2):
B=スポンジチタン塊の質量(t)/スポンジチタン塊の下側が接する円板又は台座の面積(m) (2)
で算出されるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが3.5〜5.5t/mとなる量とする還元分離工程と、
採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40〜50%の範囲内の位置とし、該採取対象の上限位置より下のスポンジチタン塊を、採取対象として、切断、粉砕及び篩別して、スポンジチタンを得る破砕工程と、
を有すること、
を特徴とするクロール法によるスポンジチタンの製造方法を提供するものである。
また、本発明(5)は、(1)〜(3)いずれかのスポンジチタンを溶解原料とすることを特徴とするチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法を提供するものである。
また、本発明(6)は、(4)のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンを溶解原料とすることを特徴とするチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法を提供するものである。
本発明によれば、圧縮成型を伴わない溶解法による大型インゴットの溶製時に、塩化物含有に起因する問題が生じ難く、且つ、成分制御が容易な大型インゴット製造用のスポンジチタン及び工業的に効率的に、当該スポンジチタンを製造する方法を提供することができる。
スポンジチタン中の塩素の存在形態を説明するための模式図である(空隙率40%)。 スポンジチタン中の塩素の存在形態を説明するための模式図である(空隙率20%)。
本発明のスポンジチタンは、クロール法により製造されたスポンジチタンであって、塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計が350質量ppm以下であり、充填密度が1.65〜1.95g/cmであることを特徴とするスポンジチタンである。
クロール法によるスポンジチタンの工業的な製造においては、工程は、主に、塩化蒸留工程、還元分離工程、破砕工程及び電解工程からなる。そして、本発明のスポンジチタンは、クロール法により製造されたスポンジチタン、すなわち、溶融状態のマグネシウム上に四塩化チタンを滴下して、四塩化チタンを還元し、スポンジチタン塊を生成させ、次いで、真空分離により、スポンジチタン塊から、副生成物である塩化マグネシウムと残存マグネシウムを除去する還元分離工程と、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊を、切断、破砕及び篩分し、所望の粒径のスポンジチタンを得る破砕工程と、を行い得られるスポンジチタンである。なお、以下、四塩化チタンの還元を行い得られるスポンジチタン塊を、単に、スポンジチタン塊とも記載する。
本発明のスポンジチタン中の、原子換算の塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計は、350質量ppm以下、好ましくは300質量ppm以下である。スポンジチタン中の原子換算の塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計が上記範囲にあることにより、大型のチタンインゴット又は大型のチタン合金インゴットを、圧縮成型を伴わない溶解法により溶製する際に、塩化物に起因する問題が起こり難く、鋳肌不良のないインゴットを、効率良く製造することができる。以下、大型のチタンインゴット及び大型のチタン合金インゴットを総称して、大型チタンインゴットとも記載する。なお、スポンジチタン中の塩素含有量及びマグネシウム含有量は、以下のようにして求められる。先ず、測定対象のスポンジチタンを粉砕し、スポンジチタンロットとする。次いで、JIS H 1610−2008チタン及びチタン合金−サンプリング方法に従って、各スポンジチタンロットから大口試料をサンプリングした後、大口試料を縮分して、質量250gの試験試料を4個得る。次いで、該4個の試験試料の塩素含有量を、JIS H 1615−1997に記載の硝酸銀滴定法にて測定し、4個の平均値を、スポンジチタンロットの塩素含有量とする。また、該4個の試験試料のマグネシウム含有量を、JIS H 1616−1995に記載の原子吸光法にて測定し、4個の平均値を、スポンジチタンロットのマグネシウム含有量とする。
本発明のスポンジチタンの充填密度は、1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmである。スポンジチタンの充填密度が上記範囲にあることにより、大型チタンインゴットを、圧縮成型を伴わない溶解法により溶製する際に、大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化による成分規格外れを起こり難くすることができる、すなわち、成分制御を容易にすることができる。チタンインゴット及びチタン合金インゴットの成分規格では、鉄及び酸素含有量を250質量ppm以下にすることが要求されるが、数t以上の規模の大型チタンインゴットにて、全長に亘って当該規格を満たすことが必要であり、具体的には、ボトム端部からトップ端部にかけて3か所又は5か所を分析した際に、全ての箇所で、所定の成分規格を満たす必要がある。しかし、その難易度は高く、ボトム測定値一点のみが上限値を超える、あるいはトップ測定値一点のみが上限値を超える等、大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化による成分規格外れが、しばしば発生する。その局所的な成分濃化の一因となるのが、粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の存在である。スポンジチタン中に存在するスポンジチタン細粒は、スポンジチタンに比べて、鉄含有量が10倍超、酸素含有量が2倍超と高い。このようなスポンジチタン細粒は、消耗電極式アーク溶解法のように、チタン原料を圧縮成型する溶解法では問題とはならないが、電子ビーム溶解法のように原料の圧縮成型を伴わない溶解法では、原料供給設備内から原料を供給する際に、スポンジチタン細粒が偏って供給されたり、水冷銅ハース内に局所的にスポンジチタン細粒が堆積したりする現象が生じるため、スポンジチタン細粒が偏って供給された際や、スポンジチタン細粒の局所堆積物を溶かした際に、局所的に大型チタンインゴット中の鉄含有量や酸素含有量が高くなり、チタンインゴットの成分規格外れに繋がる。
従来のスポンジチタンでは、仮に0.84mm以上の篩でスポンジチタンを篩ったとしても、篩後の混合プロセスで、スポンジチタンが砕ける等する結果、1.5〜2.5質量%程度のスポンジチタン細粒がスポンジチタンに随伴する。この砕けて生じたスポンジチタン細粒は、上記と同様、スポンジチタンに比べて、鉄含有量及び酸素含有量が高い。スポンジチタンには、局所的に、鉄又は酸素含有量が高い部分が存在し、そして、鉄又は酸素含有量が高い部分が、低い部分に比べて、砕け易いため、従来のスポンジチタンでは、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒が、生じ易かった。そのため、例え、スポンジチタンを篩って、スポンジチタン細粒を除去したとしても、その後の工程で、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒が発生してしまうので、従来のスポンジチタンには、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題があった。それに対して、本発明のスポンジチタンは、充填密度が、1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmと高いので、嵩密度が高いため、例え、本発明のスポンジチタンに、局所的に鉄又は酸素含有量が高い部分が存在していたとしても、その部分が砕け難い。そのため、本発明のスポンジチタンでは、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒が生じ難いので、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題が生じ難く、大型チタンインゴットの局所的な成分外れの問題が生じ難い。
なお、スポンジチタンの充填密度は、スポンジチタンの嵩密度を表す指標となる。本発明において、充填密度とは、スポンジチタンを200Lドラム缶に充填した時の密度を指す。具体的には、スポンジチタンの充填密度は、以下にようにして求められる。JIS Z 1600−2006に記載の鋼製オープンドラム・タイプD・M級を測定容器として使用する。先ず、ドラム缶の内径D(cm)と、内高H(cm)(ドラム底板上面からドラム缶上端までの距離)を測定する。次いで、測定対象のスポンジチタンをドラム缶に100kg以上入れ、スポンジチタン上面が平らになるようにならす。次いで、ドラム缶上端からスポンジチタン上面までの距離を定規で測定する。この測定を、ドラム缶内の径方向に異なる4点(0°、90°、180°、270°)で行ない、その平均値を、ドラム上端−スポンジ間距離C(cm)とする。次いで、充填密度ρ(g/cm)を、下記式(3):
1/ρ=V/M=(π/M)・(D/2)・(H−C) (3)
にて、内径D(cm)、内高H(cm)、ドラム上端−スポンジ間距離C(cm)、スポンジチタン質量M(g)を使って、求めた。ここで、V(cm)は、スポンジチタンの充填体積である。また、スポンジチタンは、平均粒径が1.7〜19.1mmの範囲にあるものを対象とする。
本発明のスポンジチタン中、粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の割合は、0.8質量%以下、好ましくは0.7質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下である。スポンジチタン中の粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の割合が上記範囲にあることにより、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題が生じ難く、大型チタンインゴットの局所的な成分外れの問題が生じ難くなる。本発明において、粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の割合の測定方法であるが、JIS H 1610:2008に従ってサンプリングしたスポンジチタンを対象として、JIS H 2151:2015に従って、その粒度分布を測定し、粒径が0.84mm以下のスポンジチタン細粒の割合を求める。なお、本発明では、粒径が0.84mm以下のスポンジチタンを、スポンジチタン細粒と定義する。
本発明のスポンジチタンの平均粒径は、1.7〜19.1mmである。なお、本発明において、スポンジチタンの平均粒径の測定方法であるが、当該スポンジチタンが目開き19.1mm以下の篩を通過し、目開き1.7mm以上の篩を通過しなかったものであれば、その平均粒径が1.7〜19.1mmの範囲にあることは明らかであるため測定は省略できる。より正確な測定が必要な場合は、以下の通りである。JIS H 1610:2008に従ってサンプリングしたスポンジチタンを対象として、JIS H 2151:2015に従って、異なる目開きを有する複数の篩を通すことで測定する。具体的には、目開きが1.7、4.75、12.7、19.1、25.4mmの篩を使用し、各篩を通過したスポンジチタン群の質量パーセントを測定する。その後、1.7mm以下の群の粒径は0.85mm、1.7〜4.75mmの群は3.25mm、4.75〜12.7mmの群は8.73mm、12.7〜19.1mmの群の粒径は15.9mm、19.1〜25.4mmの群の粒径は22.3mmとして、その加重平均値を平均粒径とする。
本発明のスポンジチタンの粉砕前の空隙率εは、20〜50%、好ましくは20〜40%である。スポンジチタンの空隙率が上記範囲にあることにより、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題が生じ難く、大型チタンインゴットの局所的な成分外れの問題が生じ難くなる。なお、本発明において、粉砕前の空隙率εが上記範囲にあることは、以下のようにして判定する。先ず、スポンジチタン塊の採取対象の上限位置近傍であって、軸心近傍A1と、外周近傍B1と、該外周近傍B1とは軸心を中心として180度ずれた位置の外周近傍C1と、の合計3か所から、各質量が100〜300g(径は凡そ50〜150mm)のスポンジチタンサンプルを1点ずつ採取し、後述の測定方法にて各サンプルの空隙率を測定して、その平均値を上限位置近傍の空隙率とする。次いで、スポンジチタン塊の採取対象の下限位置近傍であって、軸心近傍A2と、外周近傍B2と、該外周近傍B2とは軸心を中心として180度ずれた位置の外周近傍C2と、の合計3か所から、各質量が100〜300gのスポンジチタンサンプルを1点ずつ採取し、後述の測定方法で各サンプルの空隙率を測定して、その平均値を下限位置の空隙率とする。そして、採取対象の上限位置の空隙率εと採取対象の下限位置の空隙率εの両方が、20〜50%の範囲にあれば、採取対象の粉砕前の空隙率εは、20〜50%の範囲にあると判定する。
また、本発明のスポンジチタンの粉砕後の空隙率ε´の範囲は、粉砕前の空隙率εの範囲より広くなり、5%〜50%となる。これは、粉砕の過程で、極端に圧縮されて空隙率が小さくなった粒や、圧縮されず空隙率が変化しなかった粒が同一ロット中に混在するためである。粉砕後の空隙率ε´を求める際は、平均粒径よりも大きいスポンジチタン粒を5点以上採取し、後述の測定方法にて各サンプルの空隙率を測定して、その平均値を粉砕後の空隙率ε´とする。平均粒径よりも大きいスポンジチタン粒を対象とするのは、後述の測定方法では、粒径が極端に小さいサンプルの空隙率を正確に測定することが困難なためである。
ここで空隙率の測定方法について解説する。先ずスポンジチタンサンプルの質量W(g)を測定する。次いで、パラフィン(ティシュ―・テック パラフィンワックス)を耐熱容器中で80℃〜120℃程度に加熱し溶解させる。次いで、スポンジチタンサンプルを糸状の物で吊って、パラフィン溶液中に浸漬させ、気泡が出なくなったことを確認した後、静かに引き上げて、空中に吊ったまま冷却する。次いで、水を張った容器を準備し秤量器の上に設置する。冷却したスポンジチタンサンプルを、容器に触れないよう、糸で吊ったまま静かに水中に浸漬させ、秤量器で浸漬前後での質量変化量(g)を記録する。質量変化量(g)を水の密度(g/cm)で除することで、スポンジチタンサンプルの見かけの体積V(cm)を求める。スポンジチタンサンプルの質量Wを体積Vで除することで、スポンジチタンの嵩密度ρ(g/cm)を求める(ρ=W/V)。この嵩密度ρから、下記式(4):
空隙率(%)=(1−(ρ/4.51))×100 (4)
を用いて、空隙率(%)を求める。
スポンジチタン中に不純物として存在する塩素は、以下の3つのTypeとして存在している。Type1が、チタン一次粒子内の微細孔中の塩化マグネシウムとして存在している塩素、Type2が、チタン一次粒子同士の隙間に残存する塩化マグネシウムとして存在している塩素、Type3が、チタン一次粒子表面に付着した二塩化チタンとして存在している塩素である。そのうち、Type2が主な存在形態である。図1に示すスポンジチタンサンプルの断面観察写真において、上側の点線で囲んだ部分に点在しているのが、Type1の塩化マグネシウム1である。また、図1中下側の実線で囲んだ部分が、Type2の塩化マグネシウム2であり、この塩化マグネシウムの周囲には空隙が存在している。また、図2中下側の実線で囲んだ部分が、Type2の塩化マグネシウム2であり、この塩化マグネシウムは密に焼結したチタン一次粒子に閉じ込められている。なお、図1及び図2に示すスポンジチタンサンプルの断面観察写真は、模式図である。
本発明者らは、これらのTypeの塩素の残存量と、工程の条件や操作等との関係について、鋭意検討した結果、以下のことを見出した。なお、スポンジチタン中の塩素の存在形態の分析については、測定対象のスポンジチタンサンプルを樹脂埋めし、#1000のエメリー紙にて研磨した後、断面を電子線マイクロアナライザ(SUPERPROBE JXA−8100、日本電子株式会社製)で観察することにより行った。この際、塩化物の水への溶出や吸湿を防ぐため、切断〜研磨〜観察までは水に触れさせず、手早く作業を行なった。
複数回の試験を行った結果、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊の上部のスポンジチタンで観察された塩素の存在形態は、多くがType1であり、塩化物がチタン粒子内に内包されて、広範囲かつ微細に分散しているため、真空分離にて揮発除去できなかったということを確認した。そのため、スポンジチタン塊の上部の塩素含有量が、1000〜1500質量ppmと高くなるということが分かった。
それに対して、スポンジチタン塊の下部のスポンジチタンで観察された存在形態は、多くがType2であり、チタン一次粒子同士の隙間に塩化マグネシウムが残存していた。そして、一部のType2は、チタン一次粒子の密な焼結によって、スポンジチタン内に完全に閉じ込められていた。また、Type1も少量観察された。スポンジチタン塊の下部の塩素含有量は、Type2及びType1を併せて、400〜600質量ppm程度になるということが分かった。
これらのことから、スポンジチタンの塩素含有量を低減するためには、Type1及びType2の塩素を、低減することが重要であるということが分かった。
Type1については、スポンジチタン塊の上部の観察結果からも分かるように、反応サイトにおける四塩化チタン供給速度に対し、金属マグネシウムの供給速度が不足した時に発生量が増大すると推定される。ここでいう金属マグネシウムの供給速度というのは、その比重差によって、反応浴面で副生した塩化マグネシウムが浴内へ沈降し、代わりに浴内のマグネシウムが浮上して反応浴面に供給される速度を指す。そのため、Type1の塩素を低減するためには、反応サイトへの四塩化チタンの供給速度と金属マグネシウムの供給速度の比を適切に制御することが重要であると推定した。
また、Type2については、チタン一次粒子の密な焼結によって、チタン一次粒子間に完全に閉じ込められたType2の塩化マグネシウム(以下、閉塞型Type2)に着目し、さらに検討を続けた結果、「スポンジチタンの空隙率がある程度小さくなると閉塞型Type2の発生頻度が大きくなること」、「スポンジチタン塊の下部であっても閉塞型Type2によって、塩素含有量が1000質量ppmを超える高塩素含有部位が発生することがあること」を見出した。そして、空隙率εは、還元分離工程の真空分離時におけるチタン一次粒子同士の焼結によって主に支配されていることが分かった。そのため、塩素含有量を低減させるためには、スポンジチタンの空隙率を小さくし過ぎないことで、閉塞型Type2の発生頻度を減らすことが有効であると推測した。一方で、充填密度を高くして、局所的に鉄含有量及び酸素含有量が高い部分を砕け難くして、鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題が生じ難くするためには、空隙率が小さい方が望ましいと推測した。
これらのことから、Type2の低減には、スポンジチタンの焼結条件を適切に制御することにより、スポンジチタンの空隙率を適切な範囲に調節することが重要であることが分かった。そして、本発明者らは、圧縮荷重が大きくなり過ぎると、スポンジチタンの空隙率が小さくなり過ぎて、閉塞型Type2が発生し易くなるため、圧縮荷重を適切範囲にする必要があることを見出した。
本発明者らは、これらの知見を基に、以下に示す本発明のスポンジチタンの製造方法に想到した。
本発明のスポンジチタンの製造方法は、クロール法によるスポンジチタンの製造方法であって、
反応浴面の面積が2.5m以上であり、(i)金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間は、下記式(1):
A=1分間当たりの四塩化チタンの平均供給速度(kg/分)/反応浴面の面積(m) (1)
で算出される反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aを、2.8〜4.0kg/(分・m)とし、且つ、(ii)四塩化チタンの総供給量を、下記式(2):
B=スポンジチタン塊の質量(t)/スポンジチタン塊の下側が接する円板又は台座の面積(m) (2)
で算出されるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが3.5〜5.5t/mとなる量とする還元分離工程と、
採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40〜50%の範囲内の位置とし、該採取対象の上限位置より下のスポンジチタン塊を、採取対象として、切断、粉砕及び篩別して、スポンジチタンを得る破砕工程と、
を有すること、
を特徴とするクロール法によるスポンジチタンの製造方法である。
本発明のスポンジチタンの製造方法は、クロール法によるスポンジチタンの製造方法であり溶融状態の金属マグネシウム上に四塩化チタンを滴下し、四塩化チタンを還元して、スポンジチタン塊を生成させ、次いで、真空分離により、スポンジチタン塊から、副生成物である塩化マグネシウムと残存マグネシウムを除去する還元分離工程と、スポンジチタン塊を、切断、破砕及び篩分し、所望の粒径のスポンジチタンを得る破砕工程と、を有する。
本発明のスポンジチタンの製造方法に係る還元分離工程では、先ず、反応容器内の金属マグネシウム浴上に四塩化チタンを供給して、金属マグネシウムと四塩化チタンを反応させて、四塩化チタンを還元する。この時、反応容器内の反応浴面と、その上の空間にて、主な反応が起こり、チタンの一次粒子が生成し、また、反応浴面近傍の金属マグネシウムが消費され、塩化マグネシウムが副生する。生成したチタン一次粒子は、反応容器下方へ沈降し、反応容器の底に設けられている円板又は台座上に堆積する。また、金属マグネシウムの比重は、塩化マグネシウムよりも小さいため、副生した塩化マグネシウムは容器下方へと沈降し、代りに金属マグネシウムが浮上する。還元反応を行っている間、沈降した塩化マグネシウムを、反応容器下方から適宜抜き取るが、完全に抜き取ることは不可能であり、還元反応終了後も、残留した塩化マグネシウムと未反応の金属マグネシウムが、共に、スポンジチタン塊内に残る。
還元分離工程では、次いで、真空分離により、スポンジチタン塊から、残留した塩化マグネシウムと未反応の金属マグネシウムを除去する。このとき、生成したスポンジチタン塊が入っている反応容器と空の反応容器を隣接配置し、両者の上部同士を配管により接続する。そして、前者の反応容器を外部から加熱しながら、後者の反応容器の内部を真空引きすることにより、前者の反応容器内のスポンジチタン塊に含まれる金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを、反応容器上部同士を繋いている配管を通じて、ガス状態で、空の反応容器内へ移動させる。なお、空の反応容器内へ移動された金属マグネシウムは、再び還元工程に利用される。
本発明のスポンジチタンの製造方法では、還元分離工程において、反応浴面の面積が2.5m以上であり、且つ、金属マグネシウム浴上に四塩化チタンを供給するときに、(i)金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間は、下記式(1):
A=1分間当たりの四塩化チタンの平均供給速度(kg/分)/反応浴面の面積(m) (1)
で算出される反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aを、2.8〜4.0kg/(分・m)、好ましくは2.8〜3.6kg/(分・m)にして、金属マグネシウム浴上に四塩化チタンを供給する。そして、反応浴面の面積を2.5m以上とし、且つ、金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間は、反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aを、2.8〜4.0kg/(分・m)、好ましくは2.8〜3.6kg/(分・m)にすることにより、スポンジチタンの塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計を、350質量ppm以下、好ましくは300ppm以下とすることができる。
なお、本発明のスポンジチタンの製造方法では、先ず、反応容器への四塩化チタンの供給前に、破砕工程における採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下から質量基準で何%の位置とするかを決定し、次いで、その位置までのスポンジチタンを生成するのに必要な四塩化チタンの理論量で、反応容器への四塩化チタンの供給を行っているときの、破砕工程における採取対象の上限位置までのスポンジチタンが生成される時点(質量基準)を把握する。例えば、破砕工程における採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で50%の位置とする場合は、金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間とは、溶融状態の金属マグネシウムに四塩化チタンの供給を開始してから、反応容器に供給する全四塩化チタンのうちの50質量%の四塩化チタンを供給し終えるまでの間とする。また、例えば、破砕工程における採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40%の位置とする場合は、金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間とは、溶融状態の金属マグネシウムに四塩化チタンの供給を開始してから、反応容器に供給する全四塩化チタンのうちの40質量%の四塩化チタンを供給し終えるまでの間とする。
破砕工程における採取対象の上限位置より上に相当する位置のスポンジチタンを生成させている間の反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの供給速度は、スポンジチタンの製造効率に応じて、適宜選択されるが、一般的には1.0〜5.5kg/(分・m)の範囲で選択する。反応容器内の金属マグネシウムは、反応終盤になるほど少なくなるため、四塩化チタンの供給速度は反応終盤ではより小さい値を設定することが好ましい。
反応浴面の面積とは、反応容器内で溶融状態にある金属マグネシウムの上面の面積であり、金属マグネシウムの上面の位置の反応容器の水平断面の容器内の面積に相当する。
更に、本発明のスポンジチタンの製造方法では、還元分離工程において、金属マグネシウム浴上に四塩化チタンを供給するときに、(ii)四塩化チタンの総供給量を、下記式(2):
B=スポンジチタン塊の質量(t)/スポンジチタン塊の下側が接する円板又は台座の面積(m) (2)
で算出されるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが3.5〜5.5t/m、好ましくは4.0〜5.5t/mとなる量にする。そして、四塩化チタンの総供給量を、スポンジチタン塊の底部荷重指数Bが3.5〜5.5t/m、好ましくは4.0〜5.5t/mとなる量にすることにより、スポンジチタンの空隙率εを、20〜50%、好ましくは20〜40%とすることができるので、スポンジチタンの充填密度を、1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmとすることができる。還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが、上記範囲を超えると、真空分離のときに、スポンジチタンにかかる圧縮荷重が大きくなるため、空隙率が小さくなり、嵩密度が高くなり、充填密度が高くなるものの、スポンジチタンにかかる圧縮荷重が大きき過ぎるため、スポンジチタンの空隙率が小さくなり過ぎてしまい、閉塞型Type2の塩化マグネシウムが多くなるので、スポンジチタンの塩素含有量が高くなってしまう。一方、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが、上記範囲未満だと、真空分離のときに、スポンジチタンにかかる圧縮荷重が小さ過ぎるため、空隙率が大きくなり過ぎるので、嵩密度が上記範囲未満となり、充填密度が上記範囲未満となる。
なお、スポンジチタン塊の下側が接する円板又は台座の面積とは、スポンジチタン塊の下に、台座及びその台座の上に配置されている円板が設置されている場合には、円板の上面の面積を指し、また、スポンジチタン塊の下には、円板は配置されておらず、台座のみが設置されている場合には、台座の上面の面積を指す。また、B値を計算する際の、スポンジチタン塊の質量とは、反応容器内に供給される四塩化チタンが、全て金属チタンに変換されたとして計算される理論値であり、反応容器内に供給される四塩化チタンの総モル数に、チタンの原子量を乗じて算出される値である。
還元分離工程の還元反応における上記以外の条件、例えば、還元反応中の反応容器外側の温度は、通常、クロール法によるスポンジチタンの製造において用いられる条件であればよく、還元反応容器温度は700〜950℃である。
還元分離工程の真空分離における真空加熱温度は、特に制限されないが、好ましくは900〜1080℃である。また、還元分離工程の真空分離における真空加熱時間は、特に制限されず、揮発分離が可能な塩化マグネシウム及び金属マグネシウムが除去される時間が、適宜選択される。なお、上述したように、Type1及び閉塞型Type2の塩素は、スポンジチタン内に閉じ込められるようにして存在しているため、真空加熱時間を長くしても除去されない。そのため、真空加熱時間を無駄に長くすると時間とエネルギーの無駄になるので、真空加熱時間としては、揮発分離が可能な塩化マグネシウム及び金属マグネシウムが除去される時間であればよい。そして、還元分離工程の真空分離における真空加熱時間は、真空加熱時間をp(時間)、スポンジチタン塊の下部が接する円板又は台座の半径をr(mm)(ただし、rは600mm以上である。)としたときに、「112≦0.26×r−p≦125」を満たす範囲であることが、時間と電力の無駄を伴うことなく真空分離を行うことができる点で、好ましい。なお、円板又は台座上面が、真円の場合にはその半径をrとし、楕円である場合には最大径と最小径の平均値をrとする。
本発明のスポンジチタンの製造方法に係る破砕工程では、採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40〜50%の範囲内の位置とし、採取対象の上限位置から下のスポンジチタン塊を、採取対象として、切断、粉砕及び篩別して、スポンジチタンを得る。破砕工程における採取対象の上限位置は、反応容器への四塩化チタンの供給前に、破砕工程における採取対象の上限位置と決定した位置である。なお、スポンジチタン塊の下からの質量基準でX%の位置とは、スポンジチタン塊の下から、同一高さにあるチタンを垂直方向に積算したときに、累積質量がスポンジチタン塊の全質量に対しX%となる位置である。本発明における採取対象部位は、上限位置より下の範囲内であれば、例えば5%〜30%、20〜35%のように範囲内の一部であっても構わない。
破砕工程では、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊を、公知の押抜装置により、反応容器から取り出し、公知の大型のプレス機で輪切り状に切断粗砕し、部位ごとに分ける。更に、粗砕された小塊のスポンジチタンを、公知のシャーなどにより100mm以下に粉砕し、スポンジチタンとして得る。このとき、採取対象の上限位置と決めた位置から下に存在しているスポンジチタン塊を、採取対象として、切断、粉砕及び篩別する。そして、採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40〜50%の範囲内として、その採取対象の上限位置から下に存在するスポンジチタン塊を、切断、粉砕及び篩別することにより、充填密度が、1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmのスポンジチタンを得ることができ、また、Type1の塩素の含有量が多いために塩素含有量が多くなり易いスポンジチタン塊の上側を避けて、Type1の塩素の含有量が少なく、塩素含有量が少ないスポンジチタン塊の下側を、採取対象とするので、得られるスポンジチタンの塩素含有量を低くすることができる。
なお、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊の下端近傍は、反応初期に生成したスポンジチタンであり、原料となる金属マグネシウム中の鉄や窒素、アルミニウム、ニッケルが濃化して一般的なスポンジチタンの成分規格を満たさないため、破砕工程では、還元分離工程を行い得られるスポンジチタン塊の下端近傍のスポンジチタンは、採取対象としない。破砕工程において、スポンジチタン塊の下から何%の位置を、スポンジチタンの採取対象の下限位置とするかは、スポンジチタン中の塩素含有量及びマグネシウム含有量により、適宜選択されるが、スポンジチタン塊の下からの質量基準で2〜8%の位置を、スポンジチタンの採取対象の下限位置とすることが好ましく、スポンジチタン塊の下からの質量基準で2〜5%の位置を、スポンジチタンの採取対象の下限位置とすることが特に好ましい。
本発明のスポンジチタン及び本発明のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンは、塩化物の含有量が非常に少ないので、圧縮成型を伴わない溶解方法において、塩化物の揮発に伴うスプラッシュが多く発生すること、溶解歩留りが悪化すること、原料供給口にスプラッシュが付着又は堆積することで、原料挿入が不可能となること、揮発した塩化物によって電子ビームの発生が阻害されること、発生した塩化物ガスが溶解設備を腐食させること等の塩化物の含有に起因する問題の発生を防ぐことができる。また、本発明のスポンジチタン及び本発明のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンは、塩化物の含有量が非常に少ないので、圧縮成型を伴わない溶解方法において、鋳肌不良の問題の発生を防ぐことができる。また、本発明のスポンジチタン及び本発明のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンは、充填密度が1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmなので、鉄含有量及び酸素含有量が高い部分が砕けて生じる鉄含有量及び酸素含有量が高いスポンジチタン細粒に起因する大型チタンインゴット内での局所的な成分濃化の問題を防ぐことができ、大型チタンインゴットの局所的な成分外れの問題を防ぐことができる。
本発明のスポンジチタンの製造方法は、破砕工程でのスポンジチタンの採取対象の範囲を、スポンジチタンの塊の下からの質量基準で40〜50%の位置から下側とすること、還元反応のときに、その採取対象の範囲のスポンジチタンを生成させているときの四塩化チタンの供給速度を、2.8〜4.0kg/(分・m)、好ましくは2.8〜3.6kg/(分・m)とし且つ反応浴面の面積を2.5m以上とすること、還元反応のときの四塩化チタンの総供給量を調節して、スポンジチタン塊の底部荷重指数を、3.5〜5.5t/m、好ましくは4.0〜5.5t/mとして、スポンジチタン塊の採取対象部分の空隙率を20〜50%、好ましくは20〜40%にすることにより、塩素含有量及びマグネシウム含有量の合計が350質量ppm以下、好ましくは300質量ppm以下、且つ、充填密度が1.65〜1.95g/cm、好ましくは1.70〜1.95g/cmのスポンジチタンを得ることができる。
本発明の第一の形態のチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法は、本発明のスポンジチタンを溶解原料とすることを特徴とするチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法である。また、本発明の第二の形態のチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法は、本発明のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンを溶解原料とすることを特徴とするチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法である。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
1回当たりのスポンジチタン標準生成量が8.0トンであり、反応浴面部の容器断面積が2.5(m)であり、円板の半径rが750(mm)である8トンバッチの製造装置を用いてスポンジチタンの製造を行った。
先ず、製造装置内に溶融マグネシウムを10t入れ、そこに、四塩化チタンを供給して、四塩化チタンの還元反応を行った。このとき、四塩化チタンの総供給量32(t)の前半50%の区間に当たる、0〜16(t)の四塩化チタンの供給については、反応浴面の単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aが3.3(kg/(分・m))となるように管理して供給し、続いて後半50%の区間に当たる、16〜32(t)の四塩化チタンを供給した。底部荷重指数Bは、4.5(t/m)である。
次いで、真空分離を行い、スポンジチタン塊を得た。このとき、真空加熱を、真空加熱温度が1050℃、真空加熱時間p(時間)が、0.26×r−p=122となるような条件で行った。
次いで、得られたスポンジチタン塊を下方から、順々に切断していった。先ず、品質の悪い、質量基準で8.0トンの内5%にあたる400kg分をスポンジチタン塊の下方から切除した。次いで、質量基準で8.0トンの内5〜50%の部位にあたる3.6トン分を、スポンジチタン塊の下方から他の部位と分けて採取した。このとき、質量100〜300gのスポンジチタンサンプルを、スポンジチタン塊の採取対象の上限位置近傍であって、軸心近傍A1と、外周近傍B1と、該外周近傍B1とは軸心を中心として180度ずれた位置の外周近傍C1と、から3点採取し、各スポンジチタンの空隙率を求め、それらの空隙率を平均したところ、採取対象の上限位置の粉砕前の空隙率εは47%であった。また、スポンジチタン塊の採取対象の下限位置近傍であって、軸心近傍A2と、外周近傍B2と、該外周近傍B2とは軸心を中心として180度ずれた位置の外周近傍C2と、から3点採取し、各スポンジチタンの空隙率を求め、それらの空隙率を平均したところ、採取対象の下限位置の粉砕前の空隙率εは23%であった。
次いで、空隙率を測定したサンプル以外のスポンジチタンを、シャー等で粉砕して、目開き19.1mmの篩以下、目開き0.84mmの篩以上となるように篩った後、混合機で均質化して、スポンジチタンAを得た。
次いで、スポンジチタンAの塩素含有量、マグネシウム含有量、及び充填密度を測定したところ、塩素含有量は200質量ppm、マグネシウム含有量は90質量ppm、充填密度は1.70g/cmであった。また、0.84mm以下の細粒品は0.2質量%含まれていた。加えて、スポンジチタンAから1.27mmより大きい粒を無作為に5点採取して空隙率を求め平均したところ、粉砕後の空隙率ε´は25%であった。表1にその結果を示す。
(実施例2、比較例1及び2)
単位面積当たりの四塩化チタン平均供給速度を3.3(kg/(分・m)に管理する区間及びスポンジチタンの採取対象部位を、表1に示す範囲とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
表1からわかるように、採取対象部位を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で50%の位置から下側にすることで、塩化含有量を290質量ppm以下、充填密度を1.70g/cm以上にできる。
(実施例3及び4、比較例3)
四塩化チタンの総供給量32(t)の前半50%の区間に当たる、0〜16(t)の、反応浴面の単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度を、表2に示す値とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表2に示す。
(比較例4)
1回当たりのスポンジチタン標準生成量が6.0トンであり、反応浴面部の容器断面積が2.2(m)であり、円板の半径rが700(mm)である6トンバッチの製造装置を用いてスポンジチタンの製造を行った。
先ず、製造装置内に溶融マグネシウムを7.5t入れ、そこに、四塩化チタンを供給して、四塩化チタンの還元反応を行った。このとき、四塩化チタンの総供給量24(t)の前半50%の区間に当たる、0〜12(t)の四塩化チタンの供給については、反応浴面の単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aが2.8(kg/(分・m))となるように管理して供給し、続いて後半50%の区間に当たる、12〜24(t)の四塩化チタンを供給した。底部荷重指数Bは、4.0(t/m)である。
次いで、真空分離を行い、スポンジチタン塊を得た。このとき、真空加熱を、真空加熱温度が1050℃、真空加熱時間p(時間)が、0.26×r−p=120となるような条件で行った。
以降は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表1に示す。
表2からわかるように、四塩化チタンの総供給量の前半50%の区間における、反応浴面単位面積当たりの四塩化チタン平均供給速度を4.0(kg/(分・m))以下に抑えることにより、塩素含有量を330質量ppm以下に抑えることができる。
また、表2の実施例3と比較例4の対比から分かるように、反応浴面単位面積当たりの四塩化チタン平均供給速度が同じであっても、反応浴面の面積が2.5(m)未満になると、塩素含有量が多くなる。
(実施例6及び7、比較例5及び6)
実施例6及び比較例5では、四塩化チタンの総供給量を表3に示す値として、底部荷重指数を変化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
また、実施例7及び比較例6では、1回当たりのスポンジチタン標準生成量が12.0トンであり、反応浴面部の容器断面積が3.5(m)であり、円板の半径rが800(mm)である8.0トンバッチの製造装置を用いてスポンジチタンの製造を行ったこと、及び四塩化チタンの総供給量を表3に示す値として、底部荷重指数を変化させたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
表3から分かるように、底部荷重指数を制御して、採取対象部位の空隙率を20〜50%の範囲に制御することで、塩素含有量290質量ppm以下、充填密度1.65〜1.90g/cmを達成できる。一方、空隙率が20%を下回った比較例6では、充填密度は2.00g/cmと非常に高い値を実現できるものの、塩素含有量が1400質量ppm超と極端に高くなり不適である。
(実施例8及び9、比較例7及び8)
実施例2、実施例5、比較例1及び比較例2と、それぞれと同様の手法で製造したスポンジチタンを原料として、電子ビーム溶解法にて10tのJIS1種チタンインゴットを4本製造した際の、スプラッシュ堆積量、電子銃が一時停止した回数、チタンインゴットの生産速度を調査した。スプラッシュ堆積量は、水冷銅ハースの端部に堆積したスプラッシュの厚みを溶解炉の覗き窓から観測し、実施例2のケースを1として相対比較した。チタンインゴットの生産速度は、チタン原料を溶解炉内に投入してから鋳型へのチタン溶湯の流れ込みが終わるまでの時間で、チタンインゴット質量を除することで算出し、実施例2のケースを1として相対比較した。加えて、溶製したインゴットの鋳肌と成分も評価した。鋳肌は、インゴット表面における深さ5mm以上の鋳肌不良の個数を、成分は、ボトム端からトップ端までインゴット全長を5か所に等分して成分分析した際の鉄及び酸素濃度の工程能力指数Cpkを比較した。Cpkは以下の数式(1)で算出した。ここで、USLは規格上限値、LSLは規格下限値、μは平均値、σは標準偏差である。
表4から分かるように、塩素含有量が330質量ppm以下、充填密度が1.65g/cm以上のスポンジチタンを溶解原料として使用することで、スプラッシュ堆積量、電子銃一時停止回数、インゴット生産速度といった溶製コストに関する指標だけでなく、鋳肌や鉄及び酸素のCpk等、インゴットの品質に関する指標でも改善が見られる。

Claims (2)

  1. クロール法によるスポンジチタンの製造方法であって、
    反応浴面の面積が2.5m以上であり、(i)金属マグネシウムへの四塩化チタンの供給を開始してから、破砕工程における採取対象の上限位置に相当する位置までのスポンジチタンを生成させている間は、下記式(1):
    A=1分間当たりの四塩化チタンの平均供給速度(kg/分)/反応浴面の面積(m) (1)
    で算出される反応浴面単位面積当たりの四塩化チタンの平均供給速度Aを、2.8〜4.0kg/(分・m)とし、且つ、(ii)四塩化チタンの総供給量を、下記式(2):
    B=スポンジチタン塊の質量(t)/スポンジチタン塊の下側が接する円板又は台座の面積(m) (2)
    で算出されるスポンジチタン塊の底部荷重指数Bが3.5〜5.5t/mとなる量とする還元分離工程と、
    採取対象の上限位置を、スポンジチタン塊の下からの質量基準で40〜50%の範囲内の位置とし、該採取対象の上限位置より下のスポンジチタン塊を、採取対象として、切断、粉砕及び篩別して、スポンジチタンを得る破砕工程と、
    を有すること、
    を特徴とするクロール法によるスポンジチタンの製造方法。
  2. 請求項記載のスポンジチタンの製造方法を行い得られるスポンジチタンを溶解原料とすることを特徴とするチタンインゴット又はチタン合金インゴットの製造方法。
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