JP6613674B2 - 熱線遮蔽微粒子および熱線遮蔽微粒子分散液 - Google Patents
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当該波長領域の近赤外光は人間の眼に対してほぼ不可視であり、また安価な近赤外LED等の光源により発振が可能であることから、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等に広く利用されている。ところが、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた窓材等の構造体は、当該波長領域の近赤外光も、熱線と伴に強く吸収してしまう。
この結果、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた窓材等の構造体を介しての、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等の使用は断念せざるを得なかった。
例えば、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を単に向上させるだけであれば、複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度を適宜減少させればよいとも考えられた。しかし、複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度を減少させた場合、波長1200〜1800nmの領域をボトムとする熱線吸収能力も同時に低下し、熱線遮蔽効果を低下させることになってしまう。
ここで本発明者らは研究を重ね、前記一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子において、タングステン原子の一部を、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の金属原子(本発明において「元素A」と記載する場合がある。)に置き換えることで、波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を向上した熱線遮蔽微粒子が得られるという、画期的な知見を得た。
そこで、当該観点から波長700〜1200nmの領域に近赤外光の透過率を有する熱線遮蔽微粒子をさらに検討したところ、当該熱線遮蔽微粒子は、従来の一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子と比較して、熱線遮蔽微粒子としての性能において劣るものではないことを知見した。
つまり本発明に係る熱線遮蔽微粒子を用いることで、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率が向上したとしても、波長1500〜2100nmの熱線の透過は抑制出来るので、ジリジリ感を低減する観点から見た熱線遮蔽材料としての特性は、従来の一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子と同等であることを知見し、本発明を完成したものである。
但し、元素Aは、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上であってタングステン原子の一部を置換する元素である。元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属のうちから選択される1種類以上の元素である。Wは、タングステンであり、Oは、酸素である。
さらに、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0で表記され、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であって、波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率が向上したものである。
一方、波長1200〜1800nmをボトムとするさらに大きな熱線の吸収は自由電子による局在表面プラズモン共鳴による吸収である。尚、局在表面プラズモン共鳴のエネルギーの中心は0.83eV(波長1494nm)であると考えられる。
一般式Aa Cs bWcOdで表記される複合タングステン酸化物微粒子であって、
元素AはMo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、
Csは、セシウムであり、
Wは、タングステンであり、
Oは、酸素であり、
且つ、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0である六方晶の結晶構造を持つ熱線遮蔽微粒子である。
第2の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下である、第1の発明に記載の熱線遮蔽微粒子である。
第3の発明は、
第1または第2の発明に記載の熱線遮蔽微粒子が、液状媒体中に分散して含有されている分散液であって、前記液状媒体が水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、またはこれらの混合物から選択される熱線遮蔽微粒子分散液である。
第4の発明は、
前記液状媒体中に含有されている熱線遮蔽微粒子の含有量が、0.01質量%以上50質量%以下である第3の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散液である。
第5の発明は、
前記熱線遮蔽微粒子による光吸収のみを算出したときの可視光透過率が85%のときに、波長850nmの光における透過率が23%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1800nmの範囲に存在する透過率の最小値が15%以下であることを特徴とする第3または第4の発明に記載の熱線遮蔽微粒子分散液である。
本発明に係る熱線遮蔽微粒子は、一般式AaMbWcOdで表記される複合タングステン酸化物微粒子である。但し、元素AはMo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、のうちから選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素である。そして、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0を満たす、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。
また、複合タングステン酸化物において酸素の一部が他の元素で置換されていても構わない。当該他の元素としては、例えば、窒素や硫黄、ハロゲン等が挙げられる。
本発明に係る一般式AaMbWcOdで表記される熱線遮蔽微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
本発明にかかるタングステン化合物出発原料は、タングステン、元素A、元素Mそれぞれの単体もしくは化合物を含有する混合物である。タングステン原料としてはタングステン酸粉末、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。元素Aまたは元素Mの原料としては、元素AまたはM単体、元素AまたはMの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、タングステン酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらには限定されない。
各原料が水や有機溶剤等の溶媒に可溶であれば、各原料と溶媒を十分に混合したのち溶媒を揮発させることで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。もっとも各原料に可溶な溶媒がなくとも、各原料をボールミル等の公知の手段で十分に均一に混合することで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。
必要に応じて、還元性ガス雰囲気中にて還元処理を行った後、不活性ガス雰囲気中にて熱処理を行ってもよい。この場合の不活性ガス雰囲気中での熱処理は400℃以上1200℃以下の温度で行うことが好ましい。
本発明に係る熱線遮蔽微粒子を液状の媒体中に分散させることで、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散液を製造することができる。当該熱線遮蔽微粒子分散液は、その他従来の近赤外線を強く吸収する材料、例えば特許文献4で示された複合タングステン酸化物が用いられていたさまざまな分野において、従来の複合タングステン酸化物微粒子の分散液と同様に用いることができる。
本発明に係る熱線遮蔽微粒子および所望により適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、液状の媒体へ添加し分散処理を行うことで、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散液を得ることができる。当該熱線遮蔽微粒子分散液の媒体には、熱線遮蔽微粒子の分散性を保つための機能と、熱線遮蔽微粒子分散液を塗布する際に塗布欠陥を生じさせないための機能が要求される。
均一な熱線遮蔽微粒子分散液を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
尚、当該測定において、熱線遮蔽微粒子分散液に含まれる熱線遮蔽微粒子による光吸収のみを算出したときの可視光透過率を85%に調整することは、その分散溶媒または分散溶媒と相溶性を有する適宜な溶媒で希釈することにより、容易になされる。
本発明にかかる熱線遮蔽微粒子または熱線遮蔽微粒子分散液を、固体状の媒体へ分散することで、分散粉やマスターバッチ、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽プラスチック成形体などを製造することができる。
各実施例における熱線遮蔽微粒子分散液の波長300〜2100nmの光に対する透過率は、分光光度計用セル(ジーエルサイエンス株式会社製、型番:S10−SQ−1、材質:合成石英、光路長:1mm)に分散液を保持して、日立製作所(株)製の分光光度計U−4100を用いて測定した。
当該測定の際、分散液の溶媒(メチルイソブチルケトン)を、上述のセルに満たした状態で透過率を測定し、透過率測定のベースラインを求めた。この結果、以下に説明する分光透過率、および可視光透過率は、分光光度計用セル表面の光反射や、溶媒の光吸収による寄与が除外され、熱線遮蔽微粒子による光吸収のみが算出されることとなる。
可視光透過率は、波長380〜780nmの光に対する透過率から、JIS R 3106に基づいて算出した。熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布計を用いて測定した。
タングステン酸(H2WO4)と水酸化セシウム(CsOH)、三酸化モリブデン(MoO3)の各粉末を、Mo/Cs/W(モル比)=0.015/0.33/0.985相当となる割合で秤量したのちメノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、N2ガスをキャリアーとした5%H2ガスを供給下で加熱し600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、N2ガス雰囲気下で800℃、30分間焼成して請求項1に係るMo0.015Cs0.33W0.985O3で表わされる熱線遮蔽微粒子粉末(以下、「粉末A」と略称する。)を得た。
粉末A20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と略称する。)10質量%、メチルイソブチルケトン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、熱線遮蔽微粒子分散液(以下、「分散液A」と略称する)を得た。ここで、分散液A内における熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径を測定したところ19nmであった。
実施例1の手順において、三酸化モリブデンを添加原料として加えない以外は全く同様にして、比較例1に係るCs0.33WO3で表わされる組成の粉末を得た。この粉末を分散剤と溶媒と共にペイントシェーカーを用いて分散液を作製したところ、その平均分散粒子径は20nmであった。
そして、可視光透過率が85%になるように希釈率を調整して測定した時の分光透過率を測定したところ、透過率プロファイルから、波長850nmにおける透過率は22%、透過率の最小値は波長1515nmで10%となった。
以上より、波長850nmにおける近赤外光の透過率は実施例1に比べて15%も低いことが確認された。測定結果を表1に記載した。
元素A、元素M(Cs)およびタングステンの比(モル比)であるa,b,cが、表1に示す数値となるようにタングステン化合物出発原料の配合量を調整して混合し、実施例1と同様に焼成して、実施例2〜19に係る熱線遮蔽微粒子粉末を調製した。ただし焼成時間は複合タングステン酸化物の構造中の酸素の元素Mおよびタングステンに対するモル比d/(a+c)が表1に示した値となるよう適宜調整した。その際、すべての焼成粉末についてX線回折測定と透過電子顕微鏡観察とを行ない、元素Aが六方晶のセシウムタングステンブロンズ微粒子結晶内に固溶していることを確認した。
調製した熱線遮蔽微粒子粉末と溶媒と分散剤とを、共にペイントシェーカー中で混合・分散して、実施例2〜19に係る熱線遮蔽微粒子分散液を調製した。
三酸化タングステン(WO3)粉末を、N2ガスをキャリアーとした3%H2ガス供給下で加熱し、600℃の温度で1時間の還元処理を行い、タングステン酸化物WO2.72(以下、微粒子βと略称する。)を得た。
六ホウ化ランタン(LaB6)粉末5質量%、分散剤a3質量%、メチルイソブチルケトン92質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrO2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、20時間粉砕・分散処理し、六ホウ化ランタン微粒子分散液(以下、分散液γと略称する)を得た。ここで、分散液γ含有される六ホウ化ランタン微粒子の平均分散粒子径を測定したところ34nmであった。
実施例1〜19に係る熱線遮蔽微粒子においては、従来の複合タングステン酸化物微粒子である比較例1と比較して、可視光透過率が85%のとき、波長850nmの近赤外光の透過率が高い。この結果、複合タングステン酸化物が発揮する高い遮熱特性を担保しながら、波長700〜1200nmの近赤外光では高い透過率が得られることが判明した。
これに対し、熱線遮蔽微粒子としてWO2.72や六ホウ化ランタンを用いた比較例2および3では、可視光透過率が85%のときの、波長850nmの近赤外光の透過率こそ高いものの、波長1200〜1800nmの熱線の吸収が十分ではないために、本発明に係る熱線遮蔽微粒子のような高い熱線遮蔽特性を持たなかった。
Claims (5)
- 一般式Aa Cs bWcOdで表記される複合タングステン酸化物微粒子であって、
元素AはMo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、
Csは、セシウムであり、
Wは、タングステンであり、
Oは、酸素であり、
且つ、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0である六方晶の結晶構造を持つ熱線遮蔽微粒子。 - 前記熱線遮蔽微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下である、請求項1に記載の熱線遮蔽微粒子。
- 請求項1または2に記載の熱線遮蔽微粒子が、液状媒体中に分散して含有されている分散液であって、前記液状媒体が水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、またはこれらの混合物から選択される熱線遮蔽微粒子分散液。
- 前記液状媒体中に含有されている熱線遮蔽微粒子の含有量が、0.01質量%以上50質量%以下である請求項3に記載の熱線遮蔽微粒子分散液。
- 前記熱線遮蔽微粒子による光吸収のみを算出したときの可視光透過率が85%のときに、波長850nmの光における透過率が23%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1800nmの範囲における透過率の最小値が15%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の熱線遮蔽微粒子分散液。
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