JP6613675B2 - 熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラス - Google Patents

熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラス Download PDF

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本発明は、可視光透過性が良好で、且つ優れた熱線遮蔽機能を有しながら、所定の波長を有する近赤外光を透過する熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラスに関する。
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる熱線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、導電性微粒子を用いた熱線遮蔽技術は、その他の技術と比較して熱線遮蔽特性に優れ低コストであり電波透過性があり、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
例えば特許文献1には、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明樹脂や、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明合成樹脂をシートまたはフィルムに成形したものを、透明合成樹脂基材に積層してなる赤外線吸収性合成樹脂成形品が提案されている。
特許文献2には、少なくとも2枚の対向する板ガラスの間に、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの混合物を分散させた中間層を、挟み込んだ合わせガラスが提案されている。
また、出願人は特許文献3にて、窒化チタン微粒子、ホウ化ランタン微粒子のうち少なくとも1種を分散した選択透過膜用塗布液や選択透過膜を開示している。
しかし、特許文献1〜3に開示されている赤外線吸収性合成樹脂成形品等には、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽性能が十分でない、という問題点が存在した。例えば、特許文献1〜3に開示されている熱線遮蔽体や熱線遮蔽基材の持つ熱線遮蔽性能の具体的な数値の例として、JIS R 3106に基づいて算出される可視光透過率(本発明において、単に「可視光透過率」と記載する場合がある。)が70%のとき、同じくJIS R 3106に基づいて算出される日射透過率(本発明において、単に「日射透過率」と記載する場合がある。)は、50%を超えてしまっていた。
そこで出願人は、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子であって、前記赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式M(但し、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有し、当該複合タングステン酸化物微粒子が六方晶、正方晶、または立方晶の結晶構造を有する微粒子のいずれか1種類以上を含み、前記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする熱線遮蔽微粒子の分散体を、特許文献4として開示した。
特許文献4に開示したように、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽微粒子分散体は高い熱線遮蔽性能を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は50%を下回るまでに改善された。とりわけ元素MとしてCsやRb、Tlなど特定の元素から選択される少なくとも1種類を採用し、結晶構造を六方晶とした複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽微粒子分散体は卓越した熱線遮蔽性能を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は37%を下回るまでに改善された。
特開平2−136230号公報 特開平8−259279号公報 特開平11−181336号公報 国際公開番号WO2005/037932公報
しかしながら、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子、それを用いた熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスが、市場での使用範囲を拡大した結果、新たな課題が見出された。その課題は、前記一般式Mで記載される複合タングステン酸化物微粒子を含有した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを、窓材等の構造体に適用した場合、当該窓材等を通過する光において、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率も大きく低下してしまうことである。
当該波長領域の近赤外光は人間の眼に対してほぼ不可視であり、また安価な近赤外LED等の光源により発振が可能であることから、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等に広く利用されている。ところが、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子を含有した熱線遮蔽体や熱線遮蔽基材は、当該波長領域の近赤外光も、熱線と伴に強く吸収してしまう。
この結果、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子を含有した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを介しての、近赤外光を用いた通信、撮像機器、センサー等の使用は断念せざるを得なかった。
例えば、特許文献4に記載された複合タングステン酸化物微粒子を含有した熱線遮蔽フィルムを一般住宅の窓に貼りつけた場合、室内に置かれた赤外線発振機と室外に置かれた赤外線受信機からなる侵入探知装置の間の近赤外光による通信が妨害され、装置は正常に動作しなかった。
上記課題が存在するにも関わらず、複合タングステン酸化物微粒子などを含有した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスは熱線を大きくカットする能力が高く、熱線遮蔽を望まれる市場分野においては使用が拡大した。しかし、このような熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを用いた場合は、近赤外光を用いる無線通信、撮像機器、センサー等を使用することが出来ないものであった。
本発明は、上記課題に着目してなされたものである。そしてその解決しようとする課題は、熱線遮蔽特性を発揮しつつ、当該熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスを介した近赤外光を用いる通信機器、撮像機器、センサー等の使用を可能とする、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスを提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決する為、さまざまな検討を行った。
例えば、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を単に向上させるだけであれば、熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスにおける、複合タングステン酸化物微粒子の濃度を適宜減少させればよいとも考えられた。しかし、複合タングステン酸化物微粒子の膜中濃度を減少させた場合、波長1200〜1800nmの領域をボトムとする熱線吸収能力も同時に低下し、熱線遮蔽効果を低下させることになってしまう。
ここで本発明者らは研究を重ね、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子において、タングステン原子の一部を、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の金属原子(本発明において「元素A」と記載する場合がある。)に置き換えることで、波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を向上した熱線遮蔽微粒子が得られるとの知見を得た。
しかし、波長700〜1200nmの領域に近赤外光の透過率を有する熱線遮蔽微粒子は、複合タングステン酸化物微粒子における熱線遮蔽性能の評価基準として従来用いられていた指標、例えばJIS R 3106で評価される可視光透過率に対する日射透過率を用いて評価した場合において、元素Aを含まない従来の複合タングステン酸化物と比較して、劣るのではないかとも考えられた。
そこで、当該観点から波長700〜1200nmの領域の近赤外光の透過率を有する熱線遮蔽微粒子をさらに検討したところ、当該熱線遮蔽微粒子は、従来の一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子と比較して、熱線遮蔽微粒子としての性能において劣るものではないことを知見した。
これは、人間の皮膚の持つ吸光度が、波長700〜1200nmの近赤外光では小さい一方で、波長1500〜2100nmの熱線では大きい為であると考えられる。因みに、太陽光が、皮膚にじりじりと感じる暑さ(所謂、ジリジリ感)を与えるのは波長1500〜2100nmの熱線の影響が大きいためであると考えられた(例えば、尾関義一ほか、自動車技術会学術講演会前刷集 No.33−99、13(1999)参照。)。
つまり本発明に係る熱線遮蔽微粒子を用いることで、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率が向上したとしても、波長1500〜2100nmの熱線の透過は抑制出来るので、ジリジリ感を低減する観点から見た熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスとしての特性は、従来の技術に係る一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子を用いた熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスと同等であることを知見した。
即ち、この微粒子を含有する熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスは、従来の一般式Mで表される複合タングステン酸化物の持つ高い遮熱特性を保ったまま、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率を向上した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスとなることを知見し、本発明を完成したものである。
ここで、一般式Aで表記される熱線遮蔽微粒子について説明する。
元素Aは、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上であってタングステン原子の一部を置換する元素である。元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属のうちから選択される1種類以上の元素である。Wは、タングステンであり、Oは、酸素である。
さらに、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0で表記され、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であって、波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率が向上したものである。
ここで、タングステン原子の一部を置き換える元素Aは、複合タングステン酸化物の六方晶構造中に固溶しており、単に複合タングステン酸化物と元素Aを含む化合物との物理的混合ではない。従って、元素Aまたは元素Aを含む化合物が複合タングステン酸化物の結晶粒界などに偏析した形態をとるようなものではない。但し元素Aにおいて、複合タングステン酸化物の六方晶構造中に固溶している以外の成分が、工程上不可避的に元素Aを含む化合物として、結晶中または結晶粒界中に少量偏析する場合はある。
以上説明した熱線遮蔽微粒子が、波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を向上する理由は、明確に解明されたわけではない。尤も、本発明者らは、当該理由が複合タングステン酸化物微粒子の電子構造、および、電子構造に由来する光吸収機構に起因するものと考えている。
即ち、複合タングステン酸化物微粒子が近赤外光領域に持つ幅広い吸収は、自由電子による局在表面プラズモン吸収と局在電子によるスモールポラロンの2つの吸収機構の結合からなると考えられる(例えば、J.Appl.Phys.112,074308(2012)参照。)。そして、波長700〜1200nmの波長領域の近赤外光に対する強力な吸収をもたらしているのはスモールポラロンによる吸収であると考えられる。尚、スモールポラロンの遷移エネルギーは1.5eV(波長826nm)である。
一方、波長1200〜1800nmをボトムとするさらに大きな熱線の吸収は自由電子による局在表面プラズモン共鳴による吸収である。尚、局在表面プラズモン共鳴のエネルギーの中心は0.83eV(波長1494nm)であると考えられる。
複合タングステン酸化物微粒子において、タングステン原子(W5+)を元素Aで置換することによって波長1200〜1800nmをボトムとする熱線吸収能力を担保したまま、波長700〜1200nmの領域における近赤外光の透過率を向上する理由は、元素Aが複合タングステン酸化物の結晶構造に挿入され、タングステン元素を置換することで電子構造が変化し、元素Aが結晶中で電子の吸収源となり、W5+の量を減少させることで、スモールポラロンによる吸収が弱化するためではないかと考察している。
本発明者らは、透明フィルム基材または透明ガラス基材から選択される透明基材の少なくとも片面にコーティング層を設け、当該コーティング層へ上述した熱線遮蔽微粒子を含むバインダーを含有させることで、従来の複合タングステン酸化物の持つ高い遮熱特性を保ったまま、波長700〜1200nmの近赤外光の透過率を向上した熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを製造できることに想到し、本発明を完成した。
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
透明フィルム基材または透明ガラス基材から選択される透明基材の少なくとも一方の面にコーティング層を有し、
前記コーティング層は、熱線遮蔽微粒子を含むバインダー樹脂であり、
前記熱線遮蔽微粒子は一般式A Cs で表記される複合タングステン酸化物であって、Aは、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、Csは、セシウムであり、Wは、タングステンであり、Oは、酸素であり、
且つ、0.001≦a/b≦0.1であり、0.20≦b/(a+c)≦0.61であり、2.2≦d/(a+c)≦3.0であり、
六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の直径が、1nm以上800nm以下であることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
第3の発明は、
前記バインダー樹脂が、UV硬化性樹脂バインダーであることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
第4の発明は、
前記コーティング層の厚さが10μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
第5の発明は、
前記透明フィルム基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とする熱線遮蔽フィルムである。
第6の発明は、
前記コーティング層に含まれる前記熱線遮蔽微粒子の単位投影面積あたりの含有量が、0.1g/m以上5.0g/m以下である熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
第7の発明は、
可視光透過率が70%のときに、波長850nmにおける透過率が23%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1800nmの範囲に存在する透過率の最小値が15%以下であることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスである。
本発明によれば、従来の技術に係る複合タングステン酸化物を用いた熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスと比較して、波長1200〜1800nmの熱線領域をボトムとする熱線遮蔽特性を保ったまま、波長700〜1200nmの近赤外光の領域において透過率の高い熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを得ることが出来た。その結果、熱線遮蔽特性を発揮しつつ、熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを介した近赤外光を用いる通信機器、撮像機器、センサー等の使用を可能とする熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスを提供することが出来た。
本発明に係る熱線遮蔽フィルムの波長毎の透過率プロファイルである。
以下、本発明の実施の形態について、[a]熱線遮蔽微粒子、[b]熱線遮蔽微粒子の製造方法、[c]熱線遮蔽微粒子含有分散液とその製造方法、[d]熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラスの製造方法、の順に説明する。
[a]熱線遮蔽微粒子
本発明に係る熱線遮蔽微粒子は、一般式Aで表記される複合タングステン酸化物微粒子である。但し、元素AはMo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、のうちから選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素である。そして、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61、2.2≦d/(a+c)≦3.0を満たす、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。
元素Aおよびタングステンの合計に対する元素Mのモル添加量「b/(a+c)」は、0.2以上0.61以下が好ましく、0.30以上0.45以下がより好ましい。これは、b/(a+c)の値が0.2以上あれば熱線吸収効果が十分に発現し、0.61以下であれば、Csを始めとする元素Aの化合物が析出して、熱線吸収効果が低減してしまう事態を回避出来るからである。
また元素Aの元素Mに対する添加割合「a/b」は、0.001以上0.1以下であることが好ましく、0.04以上0.1以下がより好ましい。これは、a/bの値が0.001以上あれば波長700〜1200nmの近赤外光の透過率を増加させる効果が得られ、0.1以下であれば波長1200〜1800nmの熱線吸収効果を担保出来るからである。
また酸素の、元素Aおよびタングステンに対する割合「d/(a+c)」の値は、2.2以上3.0以下であることが好ましい。これは、酸素が、元素Aおよびタングステンに対する化学量論比よりも少ないd/(a+c)<3.0においても、上述した元素Mの添加による自由電子の供給がある為である。自由電子の供給により、当該自由電子に起因する局在表面プラズモン共鳴による強力な近赤外吸収が発現するからである。尤も、光学特性の観点から、2.80≦d/(a+c)≦3.00であることがより好ましい。
また、複合タングステン酸化物において酸素の一部が他の元素で置換されていても構わない。当該他の元素としては、例えば、窒素や硫黄、ハロゲン等が挙げられる。
上述した、一般式Aで表される複合タングステン酸化物微粒子のうちでも、特に好ましい特性を持つものの例として、Mo0.02Cs0.330.98、Pb0.02Cs0.330.98、Sb0.02Cs0.330.98、Bi0.03Cs0.330.97、Sn0.02Cs0.330.98、Mo0.02Sn0.01Cs0.330.97等を挙げることができる。尤も、a、b、c、dの値が上述の範囲に収まるものであれば、上述した本発明に係る有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。
本発明にかかる熱線遮蔽微粒子の粒子径は、当該熱線遮蔽微粒子や熱線遮蔽微粒子分散液を用いて製造される熱線遮蔽膜/熱線遮蔽基材の使用目的によって適宜選定することができるが、粒子径が1nm以上800nmであることが好ましい。これは粒子径が800nm以下であれば、本発明にかかる熱線遮蔽微粒子による強力な近赤外吸収を発揮でき、また粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造が容易であるからである。
熱線遮蔽膜を透明性が求められる用途に使用する場合は、当該熱線遮蔽微粒子が40nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。当該熱線遮蔽微粒子が40nmよりも小さい分散粒子径を有していれば、微粒子のミー散乱およびレイリー散乱による光の散乱が十分に抑制され、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率よく透明性を保持することが出来るからである。自動車の風防など特に透明性が求められる用途に使用する場合は、さらに散乱を抑制するため、複合タングステン酸化物の分散粒子径を30nm以下、好ましくは25nm以下とするのが良い。
[b]熱線遮蔽微粒子の製造方法
本発明に係る一般式Aで表記される熱線遮蔽微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
まず、タングステン化合物出発原料について説明する。
本発明にかかるタングステン化合物出発原料は、タングステン、元素A、元素Mそれぞれの単体もしくは化合物を含有する混合物である。タングステン原料としてはタングステン酸粉末、三酸化タングステン粉末、二酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、六塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、または、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、または、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末、から選ばれたいずれか1種類以上であることが好ましい。元素Aまたは元素Mの原料としては、元素AまたはM単体、元素AまたはMの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、タングステン酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらには限定されない。
上述したタングステン化合物出発原料を秤量し、0.001≦a/b≦0.1、0.20≦b/(a+c)≦0.61を満たす所定量をもって配合し混合する。このとき、タングステン、元素A、元素Mに係るそれぞれの原料ができるだけ均一に、可能ならば分子レベルで均一混合していることが好ましい。したがって前述の各原料は溶液の形で混合することがもっとも好ましく、各原料が水や有機溶剤等の溶媒に溶解可能であることが好ましい。
各原料が水や有機溶剤等の溶媒に可溶であれば、各原料と溶媒を十分に混合したのち溶媒を揮発させることで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。もっとも各原料に可溶な溶媒がなくとも、各原料をボールミル等の公知の手段で十分に均一に混合することで、本発明にかかるタングステン化合物出発原料を製造することができる。
次に、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気中における熱処理について説明する。まず、不活性ガス雰囲気中における熱処理条件としては、400℃以上1000℃以下が好ましい。400℃以上で熱処理された出発原料は十分な熱線吸収力を有し、熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることがよい。
また、還元性雰囲気中における熱処理条件としては、出発原料を300℃以上900℃以下で熱処理することが好ましい。300℃以上であれば本発明にかかる六方晶構造を持つ複合タングステン酸化物の生成反応が進行し、900℃以下であれば六方晶以外の構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子や金属タングステンといった意図しない副反応物が生成し難く好ましい。
この時の還元性ガスは、特に限定されないが、Hが好ましい。そして、還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元性雰囲気の組成として、例えば、Ar、N等の不活性ガスにHを体積比で0.1%以上を混合することが好ましく、さらに好ましくは0.2%以上混合したものである。Hが体積比で0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
尚、所望により、還元性ガス雰囲気中にて還元処理を行ったのち不活性ガス雰囲気中にて熱処理を行ってもよい。この場合の不活性ガス雰囲気中での熱処理は400℃以上1200℃以下の温度で行うことが好ましい。
上述した、いずれかの雰囲気中において熱処理する場合、当該熱処理後のタングステン化合物において、2.2≦d/(a+c)≦3.0となる条件にて熱処理を行う。
本発明に係る熱線遮蔽微粒子が表面処理され、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する化合物、好ましくは酸化物で被覆されていることは、耐候性向上の観点から好ましい。当該表面処理を行うには、Si、Ti、Zr、Alから選択される1種類以上を含有する有機化合物を用いて、公知の表面処理を行えばよい。例えば、本発明に係る熱線遮蔽微粒子と有機ケイ素化合物とを混合し、加水分解処理を行えばよい。
[c]熱線遮蔽微粒子含有分散液とその製造方法
熱線遮蔽微粒子分散液は、熱線遮蔽微粒子を液状の媒体中に分散させたものである。
熱線遮蔽微粒子分散液は、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と、所望により適量の分散剤と、カップリング剤と、界面活性剤等とを、液状の媒体へ添加し分散処理を行い、当該微粒子を液状の媒体へ分散し、分散液とすることで得ることができる。
熱線遮蔽微粒子分散液の媒体には、微粒子の分散性を保つための機能と、分散液を塗布する際に塗布欠陥を生じさせないための機能が要求される。
具体的には、水、有機溶媒、液状のプラスチックモノマーやプラスチック用可塑剤あるいはこれらの混合物を選択することができる。尤も、フィルム上やガラス上にコーティングを形成するためには、媒体として低沸点の有機溶媒を選択することが好ましい。これは、媒体が低沸点の有機溶媒であると、コーティング後の乾燥工程で容易に取り除くことが出来、コーティング膜の特性、例えば硬度や透明性などを損なうことがないからである。
上記の要求を満たす有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3−メチル−メトキシ−プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などを挙げることができる。
尤も、これらの中でも極性の低い有機溶剤が好ましく、特に、イソプロピルアルコール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n−ブチルなどがより好ましい。これらの溶媒を、1種または2種以上で組み合わせて用いることができる。
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は、用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を、官能基として有しているものであることが好ましい。これらの官能基は熱線遮蔽微粒子の表面に吸着し、当該熱線遮蔽微粒子の凝集を防ぐことで、後述する透明フィルム基材または透明ガラス基材から選択される透明基材上のコーティング層中において、当該熱線遮蔽微粒子を均一に分散させる効果を発揮する。
好適に用いることのできる分散剤として、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等があるが、これらに限定されるものではない。高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などが挙げられる。
当該分散剤の添加量は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対し10重量部〜1000重量部の範囲であることが望ましく、より好ましくは20重量部〜200重量部の範囲である。分散剤添加量が上記範囲にあれば、複合タングステン酸化物が液中で凝集を起こすことがなく、分散安定性が保たれる。
分散処理の方法は当該微粒子が均一に液状媒体中へ分散する方法であれば公知の方法から任意に選択でき、たとえばビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いることができる。
均一な熱線遮蔽微粒子分散液を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
上述した有機溶媒分散液中における熱線遮蔽微粒子の含有量は、0.01質量%〜50質量%であることが好ましい。熱線遮蔽微粒子の含有量が0.01質量%以上であれば、後述する透明フィルム基材または透明ガラス基材から選択される透明基材上のコーティング層や、プラスチック成型体などの製造に好適な熱線遮蔽微粒子分散体を得ることが出来る。一方、熱線遮蔽微粒子の含有量が50質量%以下であれば、熱線遮蔽微粒子分散体の工業的な生産が容易である。当該観点から、さらに好ましい有機溶媒分散液中における熱線遮蔽微粒子の含有量は、1質量%以上35質量%以下である。
また、有機溶媒分散液中の熱線遮蔽微粒子は、平均分散粒子径が40nm以下で分散していることが好ましい。熱線遮蔽微粒子の平均分散粒子径が40nm以下であれば、本発明に係る熱線遮蔽微粒子分散体を用いて製造された熱線遮蔽膜におけるヘイズ等の光学特性が、より好ましく向上するからである。
[d]熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラスの製造方法
上述した熱線遮蔽微粒子分散液を用いて、基板フィルム上または基板ガラスから選択される透明基板上へ、熱線遮蔽微粒子を含有するコーティング層を形成することで、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスを製造することが出来る。
前述した熱線遮蔽微粒子分散液を、プラスチックまたはモノマーと混合して塗布液を作製し、公知の方法で透明基材上にコーティング膜を形成することで、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラスを作製することができる。
例えば、熱線遮蔽フィルムは以下のように作製することができる。
上述した熱線遮蔽微粒子分散液に媒体樹脂を添加し、塗布液を得る。この塗布液をフィルム基材表面にコーティングした後、溶媒を蒸発させ所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該熱線遮蔽微粒子が媒体中に分散したコーティング膜の形成が可能となる。
上記コーティング膜の媒体樹脂として、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。尤も、当該コーティング層用の媒体のなかでも、生産性や装置コストなどの観点からUV硬化性樹脂バインダーを用いることが特に好ましい。
また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜からなるコーティング層を形成することが可能である。
尚、上述したフィルム基材は、フィルム形状に限定されることはなく、例えば、ボード状でもシート状でも良い。当該フィルム基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。尤も、熱線遮蔽フィルムとしては、ポリエステルフィルムであることが好ましく、PETフィルムであることがより好ましい。
また、フィルム基板の表面は、コーティング層接着の容易さを実現するため、表面処理がなされていることが好ましい。また、ガラス基板もしくはフィルム基板とコーティング層との接着性を向上させるために、ガラス基板上もしくはフィルム基板上に中間層を形成し、中間層上にコーティング層を形成することも好ましい構成である。中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
基板フィルム上または基板ガラス上へコーティング層を設ける方法は、当該基材表面へ熱線遮蔽微粒子含有分散液が均一に塗布できる方法であれればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等を挙げることが出来る。
例えばUV硬化樹脂を用いたバーコート法によれば、適度なレベリング性を持つよう液濃度及び添加剤を適宜調整した塗布液を、コーティング膜の厚み及び前記熱線遮蔽微粒子の含有量を合目的的に満たすことのできるバー番号のワイヤーバーを用いて基板フィルムまたは基板ガラス上に塗膜を形成することができる。そして塗布液中に含まれる有機溶媒を乾燥により除去したのち紫外線を照射し硬化させることで、基板フィルムまたは基板ガラス上にコーティング層を形成することができる。このとき、塗膜の乾燥条件としては、各成分、溶媒の種類や使用割合によっても異なるが、通常では60℃〜140℃の温度で20秒〜10分間程度である。紫外線の照射には特に制限はなく、例えば超高圧水銀灯などのUV露光機を好適に用いることができる。
その他、コーティング層の形成の前後工程により、基板とコーティング層の密着性、コーティング時の塗膜の平滑性、有機溶媒の乾燥性などを操作することもできる。前記前後工程としては、例えば基板の表面処理工程、プリベーク(基板の前加熱)工程、ポストベーク(基板の後加熱)工程などが上げられ、適宜選択することができる。プリベーク工程および/あるいはポストベーク工程における加熱温度は80℃〜200℃、加熱時間は30秒〜240秒であることが好ましい。
基板フィルム上または基板ガラス上におけるコーティング層の厚みは、特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。これはコーティング層の厚みが10μm以下であれば、十分な鉛筆硬度を発揮して耐擦過性を有することに加えて、コーティング層における溶媒の揮散およびバインダーの硬化の際に、基板フィルムの反り発生等の工程異常発生を回避出来るからである。
コーティング層に含まれる前記熱線遮蔽微粒子の含有量は、特に限定されないが、フィルム/ガラス/コーティング層の投影面積あたりの含有量、0.1g/m以上5.0g/m以下であることが好ましい。これは、含有量が0.1g/m以上であれば熱線遮蔽微粒子を含有しない場合と比較して有意に熱線遮蔽特性を発揮でき、含有量が5.0g/m以下であれば熱線遮蔽フィルム/ガラス/コーティング層が可視光の透過性を十分に保つからである。
製造された熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスの光学特性は、可視光透過率が70%のときに、波長850nmにおける透過率が23%以上45%以下であり、且つ波長1200〜1800nmの範囲に存在する透過率の最小値が15%以下である。尚、可視光透過率を70%に調整することは、コーティング液中の熱線遮蔽微粒子濃度の調整、または、コーティング層の膜厚の調整により、容易になされる。
上記の透過率プロファイルの限定値は、一般に添加元素Aを除けばこれと等価な組成を有する従来の技術に係る複合タングステン酸化物微粒子を用いた場合の透過プロファイルに比べて、1200〜1800nm範囲に存在する透過率の最小値を大きく上げることなく、可視光透過バンドの幅が長波長側に広がっており、より高い700〜1200nm範囲の透過率を持つものである。上記の透過率プロファイルの限定値は、同一の組成と濃度を持つ複合タングステン酸化物微粒子を用いてもある一定の幅を持つものであり、それは微粒子のサイズや形状、凝集状態、および分散剤を含む分散溶媒の屈折率などによっても変化しうるものであることには注意を要する。
また、本発明に係る熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスへさらに紫外線遮蔽機能を付与させるため、無機系の酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの粒子、有機系のベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなどの少なくとも1種以上を添加してもよい。
また、本発明に係る熱線遮蔽フィルムや熱線遮蔽ガラスの可視光透過率を向上させるために、コーティング層へATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛、インジウム錫複合酸化物などの粒子を、さらに混合してもよい。これらの透明粒子がコーティング層へ添加されることで、波長750nm付近の透過率が増加する一方、1200nmより長波長の赤外光を遮蔽するため、近赤外光の透過率が高く、且つ熱線遮蔽特性の高い熱線遮蔽体が得られる。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
各実施例における熱線遮蔽微粒子分散液および熱線遮蔽微粒子分散体の、波長300〜2100nmの領域における光の透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4100を用いて測定した。
また各実施例における熱線遮蔽フィルムおよび熱線遮蔽ガラスの日射透過率は、上述した分光光度計で測定された波長300〜2100nmの領域の光の透過率をもとに、JIS R 3106:1998に基づいて算出した。
そして熱線遮蔽微粒子の平均粒子径は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布計を用いて測定した。
[実施例1](Mo0.015Cs0.330.985を用いた熱線遮蔽フィルム)
タングステン酸(HWO)と、水酸化セシウム(CsOH)と、三酸化モリブデン(MoO)との各粉末を、Mo/Cs/W(モル比)=0.015/0.33/0.985相当となる割合で秤量した後、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガス供給下において600℃の温度で1時間の加熱を行って還元処理を行った後、Nガス雰囲気下で800℃、30分間焼成して、複合タングステン酸化物Mo0.015Cs0.330.985(以下、粉末Aと記載する。)を得た。
粉末AをX線回折法で測定したところ、純粋な六方晶であり、三酸化モリブデンや二酸化モリブデンの回折線は観察されなかった。また、粉末Aを透過電子顕微鏡で観察したところ、六方晶セシウムタングステンブロンズの多結晶粒子が観察されたが、当該多結晶粒子の粒界にモリブデン化合物などの偏析は観察されなかった。このことから、モリブデン成分は、六方晶セシウムタングステンブロンズの結晶中に完全に固溶していると判断された。
粉末A20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、分散剤aと記載する。)10質量%、メチルイソブチルケトン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Aと記載する。)を得た。ここで、分散液A内における複合タングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を測定したところ19nmであった。
分散液A100重量部に対し、ハードコート用紫外線硬化樹脂である東亜合成製アロニックスUV−3701(以下、UV−3701と記載する。)を50重量部混合して熱線遮蔽微粒子塗布液とし、この塗布液をPETフィルム(帝人製HPE−50)上へバーコーターを用いて塗布し、塗布膜を形成した。尚、他の実施例・比較例においても同様のPETフィルムを用いた。
塗布膜を設けたPETフィルムを、80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、熱線遮蔽微粒子を含有したコーティング膜が設けられた熱線遮蔽フィルムを作製した。
上述した熱線遮蔽フィルム作製において、塗布液の熱線遮蔽微粒子濃度やコーティング膜の膜厚を調整して、可視光透過率を70%とした。
この熱線遮蔽フィルムの光学特性を測定したところ、波長850nmにおける透過率は38%、透過率の最小値は波長1610nmにおける11%であった。そして、日射透過率は38%、ヘイズは0.9%と測定された。当該結果を表1に記載し、波長毎の透過率プロファイルを図1に実線で示す。
[比較例1](Cs0.33WOを用いた熱線遮蔽フィルム)
タングステン酸(HWO)と水酸化セシウム(CsOH)37.4g(Cs/W(モル比)=0.33相当)との各粉末を、Cs/W(モル比)=0.33相当となる割合で秤量した後、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。当該混合粉末を、Nガスをキャリアーとした5%Hガス供給下において加熱し600℃の温度で1時間の還元処理を行った後、Nガス雰囲気下において800℃、30分間焼成して複合タングステン酸化物Cs0.33WO(以下、微粒子αと記載する。)を得た。
微粒子α20質量%、分散剤a10質量%、メチルイソブチルケトン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液αと記載する。)を得た。ここで、分散液α内における複合タングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を測定したところ20nmであった。
分散液α100重量部に対し、UV−3701を50重量部混合して熱線遮蔽微粒子塗布液とし、この塗布液をフィルム上にバーコーターで塗布し塗布膜を形成した。塗布膜を80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、熱線遮蔽微粒子を含有したコーティング膜が形成されたフィルムを作製した。
上述した熱線遮蔽フィルム作製において、塗布液の熱線遮蔽微粒子濃度やコーティング膜の膜厚を調整して、可視光透過率を70%とした。
この熱線遮蔽フィルムの光学特性を測定したところ、波長850nmにおける透過率は22%、波長1200〜1800nmにおける透過率の最小値は10%、日射透過率は34%、ヘイズは0.9%と測定された。当該結果を表1に記載し、波長毎の透過率プロファイルを図1に破線で示す。
[実施例2〜19](ACsをコーティングした熱線遮蔽フィルム)
添加元素A、添加元素M(Cs)、タングステンおよび酸素との比率が表1に示す数値に相当となる割合で、実施例1と同様に、秤量した後、メノウ乳鉢で十分混合して混合粉末とした。次に、実施例1と同様に熱処理して、実施例2〜19に係る複合タングステン酸化物粉末を作製した。但し、実施例17においては添加元素Aとしてビスマスとスズとの混合物(Bi:Sn(モル比)=1:1相当)を用いた。
当該実施例2〜19に係る複合タングステン酸化物粉末のすべてについて、X線回折測定と透過電子顕微鏡観察を行ない、添加元素Aが六方晶のセシウムタングステンブロンズ微粒子結晶内に固溶していることを確認した。
複合タングステン酸化物微粒子分散フィルムのコーティング膜厚を適宜調整して、分光光度計で透過率を測定し、実施例1と同様に可視光透過率を70%としたときの、波長850nmにおける透過率と、波長1200〜1800nmでの透過率の最小値、日射透過率、ヘイズ値を実施例1と同様に測定した。当該測定結果を表1に記載した。
[比較例2](WO2.72を用いた熱線遮蔽フィルム)
三酸化タングステン(WO)粉末を、Nガスをキャリアーとした3%Hガスを供給下において加熱し600℃の温度で1時間の還元処理を行い、タングステン酸化物WO2.72(以下、微粒子βと記載する。)を得た。
微粒子β20質量%、分散剤a10質量%、メチルイソブチルケトン70質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、13時間粉砕・分散処理し、タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液βと記載する。)を得た。ここで、分散液β内におけるタングステン酸化物微粒子の分散平均粒子径を測定したところ31nmであった。
分散液β100重量部に対しUV−3701を50重量部混合して熱線遮蔽微粒子塗布液とし、この塗布液をフィルム上にバーコーターで塗布し塗布膜を形成した。塗布膜を80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、熱線遮蔽微粒子を含有したコーティング膜が形成されたフィルムを作製した。
タングステン酸化物微粒子分散フィルムのコーティング膜厚を適宜調整して、分光光度計で透過率を測定し、実施例1と同様に可視光透過率を70%としたときの、波長850nmにおける透過率と、波長1200〜1800nmでの透過率の最小値、日射透過率、ヘイズ値を実施例1と同様に測定したところ、波長850nmにおける透過率は48%、波長1200〜1800nmにおける透過率の最小値は38%、日射透過率は56%、ヘイズは0.9%と測定された。当該測定結果を表1に記載した。
[比較例3](LaBを用いた熱線遮蔽フィルム)
六ホウ化ランタン(LaB)粉末5質量%、分散剤a3質量%、メチルイソブチルケトン92質量%を秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、20時間粉砕・分散処理し、六ホウ化ランタン微粒子分散液(以下、分散液γと記載する。)を得た。ここで、分散液γ内における六ホウ化ランタン微粒子の分散平均粒子径を測定したところ31nmであった。
分散液γ100重量部に対しUV−3701を50重量部混合して熱線遮蔽微粒子塗布液とし、この塗布液をフィルム上にバーコーターで塗布し塗布膜を形成した。塗布膜を80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、熱線遮蔽微粒子を含有したコーティング膜が形成されたフィルムを作製した。
六ホウ化ランタン微粒子分散フィルムのコーティング膜厚を適宜調整して、分光光度計で透過率を測定し、実施例1と同様に可視光透過率を70%としたときの、波長850nmにおける透過率と、波長1200〜1800nmでの透過率の最小値、日射透過率、ヘイズ値を実施例1と同様に測定したところ、波長850nmにおける透過率は40%であった。透過率の最小値は波長1200〜1800nmよりも短い波長領域に存在し、波長975nmにおける透過率は35%であった。また、日射透過率は49%、ヘイズは1.0%と測定された。当該測定結果を表1に記載した。
[実施例1〜19および比較例1〜3の評価]
実施例1〜19においては、可視光透過率が70%のときの波長850nmの光の透過率が高く、複合タングステン酸化物としての高い熱線遮熱特性を保持しながら、波長700〜1200nmの近赤外光には透過率を持つ熱線遮蔽フィルムが得られることが判明した。
これに対して、従来の技術に係る複合タングステン酸化物を用いた比較例1に係る熱線遮蔽フィルムでは、可視光透過率が70%のときの波長850nmの光の透過率が、実施例1〜19に較べて低いことが判明した。
さらに図1より、元素Aとしてモリブデンを含む実施例1に係る熱線遮蔽フィルムは、元素Aを含有しない比較例1に係る熱線遮蔽フィルムに較べて、可視光透過のバンドが近赤外光の領域まで、広がっていることが確認された。
さらに、熱線遮蔽微粒子としてWO2.72を用いた比較例2係る熱線遮蔽フィルムや、六ホウ化ランタンを用いた比較例3に係る熱線遮蔽フィルムにおいては、可視光透過率が70%のときの波長850nmの光の透過率は高い。しかし、可視光透過率を70%としたときの日射透過率は、それぞれ56%、49%であった。即ち、比較例2、3に係る熱線遮蔽フィルムは、本発明に係る複合タングステン酸化物を用いた熱線遮蔽フィルムのような高い熱線遮蔽特性を持たないことが判明した。
[実施例20](Mo0.015Cs0.330.985を用いた熱線遮蔽ガラス)
実施例1と同様にして粉末Aを作製し、この粉末をMIBK溶媒中に分散液化した。この分散液100重量部へ、ハードコート用紫外線硬化樹脂である東亜合成製アロニックスUV−3701(以下、UV−3701と略称する。)を50重量部混合して熱線遮蔽微粒子塗布液とし、この塗布液を10cm×10cm×2mmの無機クリアガラス上にバーコーターで塗布し塗布膜を形成した。塗布膜を80℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、熱線遮蔽微粒子を含有したコーティング膜が形成された熱線遮蔽ガラスを作製した。
上述した熱線遮蔽ガラス作製において、塗布液の熱線遮蔽微粒子濃度またはコーティング膜の膜厚を調整して、可視光透過率を70%とした。
この熱線遮蔽ガラスの光学特性を測定したところ、波長850nmにおける透過率は36%、波長1200〜1800nmにおける透過率の最小値は9%、日射透過率は36%、ヘイズは0.5%と測定された。
上述の結果より、実施例20においても実施例1と同様に、可視光透過率が70%のときの波長850nmの光の透過率が高く、複合タングステン酸化物の高い熱線遮熱特性を保持しながら、波長700〜1200nmの近赤外光には透過率を持つ熱線遮蔽ガラスが得られることが判明した。
Figure 0006613675

Claims (7)

  1. 透明フィルム基材または透明ガラス基材から選択される透明基材の少なくとも一方の面にコーティング層を有し、
    前記コーティング層は、熱線遮蔽微粒子を含むバインダー樹脂であり、
    前記熱線遮蔽微粒子は一般式A Cs で表記される複合タングステン酸化物であって、Aは、Mo,Ru,Cr,Ni,V,Co,Fe,Mn、Ti,Ge,Sn,Ga,Pb,Bi,In,Sb,Pd,Tlのうちから選択される1種類以上の元素であり、Csは、セシウムであり、Wは、タングステンであり、Oは、酸素であり、
    且つ、0.001≦a/b≦0.1であり、0.20≦b/(a+c)≦0.61であり、2.2≦d/(a+c)≦3.0であり、
    六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
  2. 前記複合タングステン酸化物微粒子の直径が、1nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
  3. 前記バインダー樹脂が、UV硬化性樹脂バインダーであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
  4. 前記コーティング層の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
  5. 前記透明フィルム基材が、ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱線遮蔽フィルム。
  6. 前記コーティング層に含まれる前記熱線遮蔽微粒子の単位投影面積あたりの含有量が、0.1g/m以上5.0g/m以下である請求項1から5のいずれかに記載の熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
  7. 可視光透過率が70%のときに、波長850nmにおける透過率が23%以上45%以下であり、且つ、波長1200〜1800nmの範囲に存在する透過率の最小値が15%以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽ガラス。
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