例えば自動車や各種産業機械の動力伝達機構に組み込まれる等速自在継手には、継手内部への塵埃などの異物侵入防止や継手内部に封入されたグリースの漏洩防止を目的として、ブーツ(等速自在継手用ブーツ)が装着される。
等速自在継手(固定式等速自在継手)は、図8に示すように、軸方向に延びる複数のトラック溝1が内径面2に形成された外側継手部材3と、軸方向に延びる複数のトラック溝4が外径面5に円周方向等間隔に形成された内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝1と内側継手部材6のトラック溝4との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外側継手部材3の内径面2と内側継手部材6の外径面5との間に介在してボール7を保持するケージ8とを備えている。
内側継手部材6の軸心孔の内周に雌スプライン9が形成され、シャフト10の端部雄スプライン11がこの内側継手部材6の軸心孔に嵌入されて、雌スプライン9と端部雄スプライン11とが嵌合する。また、シャフト10の端部雄スプライン11には、周方向溝12が形成され、この周方向溝12にストッパとしての止め輪13が装着されている。
そして、外側継手部材3の開口部はブーツ15にて密封される。ブーツ15は、大径の取付部15aと、小径の取付部15bと、大径の取付部15aと小径の取付部15bとを連結する蛇腹部15cとからなる。ブーツ15の大径の取付部15aは外側継手部材3の開口端で締結バンド16により締め付け固定され、その小径の取付部はシャフト10の所定部位で締結バンド17により締め付け固定されている。
このような締結バンドには、レバー式ブーツバンド(特許文献1)がある。すなわち、レバー式ブーツバンドは、リング部に形成されるバンド本体と、このバンド本体の接合部に付設されるレバーとを備えたものである。そして、レバーの内面がバンド本体の外径面に重ね合わさるように、レバーを折り返すものである。
また、締結バンドには、係合爪と係合孔による締付バンド(特許文献2)がある。この特許文献2に記載のものでは、外径側に膨出する耳部を形成し、この耳部を収縮させることによって、リング部を縮径させるものである。
しかしながら、このようなバンドを用いる場合、バンドを別部品として使用する必要があり、部品点数が多くなり、等速自在継手の組立てに必要な製造コストが嵩むことになっていた。しかも、バンド装着状態においては、シール性を確保するには、バンドを所定の締め代で精度よく締め付ける必要があるが、高精度な締付を個体間でのばらつきを生じさせるには困難であった。
そこで、従来には、ブーツ端部と相手部材への取付固定に、締付バンド(ブーツバンド)を用いることなく、高周波誘導を用いるもの(特許文献3)、さらには、レーザ光を用いるもの(特許文献4)が提案されている。
高周波誘導を用いるものは、相手部材の被取付面にブーツ端部を外嵌した状態で、その外周部に高周波誘導加熱コイルを配置して、この高周波誘導加熱コイルに高周波電流を通電するものである。すなわち、通電性のある相手部材の被取付面が高周波によりブーツ端部を介して加熱され、その熱でブーツ端部と相手部材の被取付面とが接合一体化される。
また、レーザ光を用いるものでは、金属材料と樹脂材料とを、樹脂材料表面側からレーザ光を照射することで生じる物理的相互作用により、接合するものである。
高周波誘導を用いるものでは、従来のバンドを用いた締付け方法と比較して、部品点数を少なくでき、等速自在継手の組立を簡素化できる利点がある。ところで、等速自在継手が作動角を取った状態で回転すれば、ブーツと外側継手部材との接合部位及びシャフトとブーツとの接合部位には比較的大きな力を受けることになる。このため、電磁誘導加熱を用いたブーツの接合方法では、それらの接合部位において、大きな接合力を得る必要がある。
しかしながら、従来においては、相手部材の外径面である被取付面が円筒面であるので、材料表面の孔や谷間に接着材が入り込んで固まるという効果(アンカー効果)が発揮されず、大きな接合力を得ることは困難であった。
レーザ光を用いるものでは、レーザ照射装置を設ける必要があり、しかも、被照射部に対してレーザ光を周方向全周及び軸方向全長にわたって照射する必要がある。このため、装置として複雑化して高コストとなる。
そこで、本発明は、安定した大きな接合力を得ることが可能なブーツ取付方法およびこの方法を用いた等速自在継手を提供する。
本発明の第1のブーツ取付方法は、金属製の相手部材にブーツ端部が取付固定される等速自在継手用ブーツの取付方法であって、前記相手部材の外径面である被取付面にスリットを形成し、相手部材の被取付面にブーツ端部を外嵌させた後、リング状をなす高周波誘導加熱コイルをブーツ端部に外嵌し、この高周波誘導加熱コイルへ高周波電流を通電して前記相手部材の被取付面の表層部分のみを高周波誘導により加熱されて、アンカー効果が発揮されるようにブーツ材料が前記スリット内へ侵入硬化し、ブーツ端部の内径面である取付面と前記相手部材の外径面である被取付面とを接合一体化するものであり、高周波誘導加熱コイルの内径面と、ブーツ端部の反取付面とは接触するとともに、この接触を締め代とするものである。
本発明のブーツ取付方法によれば、高周波誘導加熱コイルに高周波電流を流すと、電磁誘導作用によって導電体である金属製の相手部材は、鉄損(渦電流損とヒステリシス損の和)により発熱し、この熱で、相手部材に接しているブーツ端部の境界部が分解温度以上に急速に加熱して分解され、泡が発生する。これにより、前記した泡の周辺部分の高温の融液と相手部材の表面に高温・高圧の条件が発生して、ブーツ端部の取付面と相手部材の被取付面との間には、接合部が得られる。これによって、金属製の相手部材にブーツ端部が取付固定される。また、この取付方法では、高周波誘導加熱コイルと、被加熱物(相手部材)との間に、ブーツ端部が存在(介在)されることになる。ブーツ材質は樹脂であり、非導電性物質である。このため、高周波誘導加熱コイルとブーツ端部とが接触しても高周波誘導加熱コイルが破損することはない。
特に、相手部材の外径面である被取付面にスリットが形成されているので、高周波誘導加熱によって、溶解したブーツ材料がスリット内に入り込むことになる。すなわち、被取付面に有る空隙にブーツ材料が侵入硬化し、アンカー効果が発揮される。また、円筒面である被取付面にスリットを形成することによって、エッジ部が形成される。電磁誘導の近接効果により該スリットのエッジ部が温度上昇しやすく、コイル接触面(ブーツ接合面)広範囲にわたって所望の温度が得られ易くなる。
相手部材の被取付面に形成するスリットの深さを0.1mm〜1mmの範囲とすることができる。スリットの深さが1mmを越えると、深く成り過ぎて、相手部材(外側継手部材やシャフト)の強度が劣化し、さらには、電磁誘導としては、高周波・短時間で行うため、加熱されにくいおそれがある。逆に、0.1mm未満では、被取付面に有る空隙にブーツ材料が侵入硬化するというアンカー効果が発揮されにくいし、電磁誘導による近接効果も得られにくい。
高周波誘導加熱コイルの内径面と、ブーツ端部の反取付面とは接触するのが好ましい。このように、設定すれば、相手部材の被取付面と高周波誘導加熱コイルの内径面との間のギャップを周方向に沿って均一に配置することができる。
ブーツ端部の取付面(内径)直径と相手部材の被取付面(外径)直径の比を、0.995〜0.98の締め代とするのが好ましい。ブーツ端部の取付面/相手部材の被取付面の直径の比が0.995以上(締め代が小さい側)では、金属とブーツ材のミクロ的な密着が不足し、0.98未満(締め代が大きい側)では、ブーツの圧入抵抗が大きく、組立に支障がでるおそれがある。
高周波誘導加熱コイルの内径面とブーツ端部の反取付面である外径面とを締め代とするのが好ましい。これによって、ブーツ端部と相手部材との密着度を高めることができる。
ブーツ材質を熱可塑性ポリエステル系エラストマーとするのが好ましい。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、機械的強度、成形性、弾性に優れておりブーツに必要とされる屈曲耐久性等の機能を具備させる素材として好ましい。
本発明に係るブーツ取付方法を用いた第1の等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、外側継手部材の開口部がブーツにて密封され、ブーツは、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部に装着される大径の取付部と、内側継手部材に嵌入されるシャフトにおけるブーツ装着部に装着される小径の取付部と、大径の取付部と小径の取付部とを連結する屈曲部とからなる等速自在継手であって、ブーツの大径の取付部を前記ブーツ端部とするとともに、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部を前記相手部材の被取付面として、前記ブーツ取付方法を用いて、ブーツの大径の取付部と外側継手部材のブーツ装着部とを接合一体化しているものである。
本発明に係るブーツ取付方法を用いた第2の等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、外側継手部材の開口部がブーツにて密封され、ブーツは、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部に装着される大径の取付部と、内側継手部材に嵌入されるシャフトにおけるブーツ装着部に装着される小径の取付部と、大径の取付部と小径の取付部とを連結する屈曲部とからなる等速自在継手であって、ブーツの小径の取付部を前記ブーツ端部とするとともに、シャフトにおけるブーツ装着部を前記相手部材の被取付面として、前記ブーツ取付方法を用いて、ブーツの小径の取付部とシャフトのブーツ装着部とを接合一体化しているものである。
本発明では、ブーツ端部と相手部材とがアンカー効果及び電磁誘導の近接効果によって接合力が増大し、ブーツ端部と相手部材とは安定した接合力を発揮して、等速自在継手が作動角を取った状態での回転時においても、高精度のシール性能を奏することができる。また、相手部材と高周波誘導加熱コイルとの相対的な移動を必要とせず、高周波誘導加熱コイルを有する高周波誘導加熱装置のコンパクト化および軽量化を図ることができ、低コストに寄与する。
ブーツ端部の取付面と相手部材の被取付面とを締め代としたり、コイルの内径面とブーツ端部の反取付面である外径面との接触を締め代としたりすることによって、ブーツ端部と相手部材との密着度が高まり、接合の信頼性の向上を図ることができる。
ブーツ材料に熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いれば、熱変形しにくく、耐熱温度が高いため、この素材を等速自在継手の作動時など高温化に晒されるブーツに適用すると、高温によりブーツの耐久性が低下するのを防止することができる。特に、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの分解温度が400℃〜500℃程度であり、電磁誘導加熱で得られ易い温度帯であり、このブーツ取付方法に用いるブーツ材料として最適となる。
前記ブーツ取付方法を用いた等速自在継手では、ブーツを安定した接合力で接合することができ、長期にわたって優れたシール性を発揮する。
以下本発明の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。図4は本発明に係る等速自在継手(バーフィールド型の固定式等速自在継手)を示している。軸方向に延びる複数のトラック溝21が内径面22に周方向等間隔に形成された外側継手部材23と、軸方向に延びる複数のトラック溝24が外径面25に周方向等間隔に形成された内側継手部材26と、外側継手部材23のトラック溝21と内側継手部材26のトラック溝24との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボール27と、外側継手部材23の内径面22と内側継手部材26の外径面25との間に介在してボール27を保持するケージ28とを備えている。
内側継手部材26の軸心孔の内周に雌スプライン29が形成され、シャフト30の端部雄スプライン31がこの内側継手部材26の軸心孔に嵌入されて、雌スプライン29と端部雄スプライン31とが嵌合する。また、シャフト30の端部雄スプライン31には、周方向溝32が形成され、この周方向溝32にストッパとしての止め輪33が装着されている。
そして、外側継手部材23の開口部はブーツ35にて密封される。ブーツ35は、大径の取付部(ブーツ端部)35aと、小径の取付部(ブーツ端部)35bと、大径の取付部35aと小径の取付部35bとを連結する屈曲部としての蛇腹部35cとからなる。ブーツ材質としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、塩化ビニル系、シリコーン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料で形成される。本実施形態ではこの中でも、コストに対して機械的強度、耐熱性、耐油性等に優れた特性を示すポリエステル系の熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリエステルエラストマー)を主成分とする樹脂材料で形成される。
ブーツ35の大径の取付部(一方のブーツ端部)35aは外側継手部材23の開口側の外径面の被取付面(金属製の相手部材の被取付面)40に取付固定され、小径の取付部(他方のブーツ端部)35bはシャフト30の大径部の外径面(金属製の相手部材の被取付面)41に取付固定される。
これらの取付固定には、図1に示すように、リング体を成す高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)を用いる。この場合、高周波誘導加熱コイル50Aの内径面50Aaの内径寸法を、外側継手部材23の被取付面40に外嵌されるブーツ端部35aの外径寸法よりも大きく設定される。図2に示すように、ブーツ端部35aの外径面45Aには、周方向凹溝36Aが形成され、この周方向凹溝36Aの底面径寸法を、ブーツ端部35aの外径寸法としている。
また、図1に示すように、高周波誘導加熱コイル50Bの内径面50Baの内径寸法は、シャフト30の被取付面41に外嵌されるブーツ端部35bの外径寸法よりも大きく設定される。図3に示すように、ブーツ端部35bの外径面45Bには、周方向凹溝36Bが形成され、この周方向凹溝36Bの底面径寸法を、ブーツ端部35bの外径寸法としている。
このため、図1に示すように、高周波誘導加熱コイル50Aの内径面の内径寸法をDAとし、ブーツ端部35aの外径面の外径寸法をD1Aとした場合、DA>D1Aとされ、高周波誘導加熱コイル50Bの内径面の内径寸法をDBとし、ブーツ端部35bの外径面の外径寸法をD1Bとした場合、DB>D1Bとされる。(DA−D1A)としては、 1mm〜10mmとされ、(DB−D1B)としては、1mm〜10mmとされる。
すなわち、(DA−D1A)や(DB−D1B)が大き過ぎると、相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50BのギャップGA,GBが大きくなりすぎて、高周波誘導加熱による接合性が劣り、逆に小さ過ぎると、図1に示すように、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを、外側継手部材23の被取付面40(シャフト30の被取付面41)に外嵌されたブーツ端部35a、35bの外周側に配設することができないおそれがある。すなわち、高周波誘導加熱コイル50Aの内径面をブーツ35の最大外径よりも大きくするのが好ましく、また、高周波誘導加熱コイル50Aの内径面をブーツ端部35bの最大外径よりも大きくするのが好ましい。
これらの高周波誘導加熱コイル50A,50Bは導電性のある銅線等からなり、中実体であっても、中空体であってもよい。中空体であれば、内部に冷却水を通すことができる。また、中実体であれば、この高周波誘導加熱コイル50A,50Bとは別に冷却ジャケットを設けることもできる。
ところで、外側継手部材23の被取付面40(シャフト30の被取付面41)には図2及び図3に示すように、複数(図例では5個)の周方向のスリット(凹溝)38A,38Bが設けられている。この場合のスリット38A,38Bは、その断面形状を半円弧状としている。また、スリット38A,38Bの深さ寸法Aとしては、0.1mm〜1mmの範囲に設定し、幅寸法Wとしては、0.3mm〜1mmの範囲に設定し、スリット38A,38Bの配設ピッチPは、1mm〜10mmの範囲に設定している。なお、スリット38Aは、外側継手部材23を鍛造する際に被取付面40に形成してもよいし、旋削で形成してもよい。一方、スリット38Bは、シャフト30の被取付面41に旋削で形成してもよいし、転造で形成してもよい。また、A、W、P、の各値は、被取付部材に与える強度への影響、ブーツ接合部の幅、被取付部品の加工のし易さによって、随時設定できる。
次に、図1に示す高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)を用いたブーツの取付方法を説明する。まず、外側継手部材23側について説明する。この場合、図2(a)に示すように、外側継手部材23のブーツ装着部である被取付面40に、一方のブーツ端部35aを外嵌した状態とする。この状態で、ブーツ端部35aの外周側に高周波誘導加熱コイル50Aを遊嵌状に外嵌する(図1参照)。この際、高周波誘導加熱コイル50Aの内径面と、ブーツ端部35aの外径面との間のギャップGAを2mm程度とする。
また、シャフト30側においては、図3(a)に示すように、シャフト30のブーツ装着部である被取付面41に、他方のブーツ端部35bを外嵌した状態とする。この状態で、ブーツ端部35bの外周側に高周波誘導加熱コイル50Bを遊嵌状に外嵌する(図1参照)。この際、高周波誘導加熱コイル50Bの内径面と、ブーツ端部35bの外径面との間のギャップGBを2mm程度とする。
このように、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)が、それぞれ、図1に示すように、セットされた状態において、コイル50A,50Bに高周波電流を流す。この際、電磁誘導作用によって導電体である金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)は、鉄損(渦電流損とヒステリシス損の和)により発熱し、この熱で、金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)に接しているブーツ材料(一方のブーツ端部35aの取付面53A,他方のブーツ端部35bの取付面53B)の境界部が分解温度以上に急速に加熱して分解され、泡が発生する。これにより、前記した泡の周辺部分の高温の融液と金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)の表面に高温・高圧の条件が発生して、ブーツ35の一方の端部35aの取付面53Aと外側継手部材23の被取付面40との間およびブーツ35の他方の端部35bの取付面53Bとシャフト30の被取付面41との間には、接合部55、56(図4参照)が得られる。
この結果、ブーツ端部35aの取付面53Aと外側継手部材23の被取付面40およびブーツ端部35bの取付面53Bとシャフト30の被取付面41をそれぞれ接合一体化して、ブーツ端部35aを外側継手部材23へ取付固定し、ブーツ端部35bをシャフト30へ取付固定することができる。
相手部材の外径面である被取付面40、41にスリット38A,38Bが形成されているので、高周波誘導加熱によって、溶解したブーツ材料がスリット38A,38B内に入り込むことになる。すなわち、被取付面40、41に有る空隙にブーツ材料が侵入硬化し、アンカー効果が発揮される(図2(b)および図3(b)参照)。ブーツ端部35a、35bと相手部材(外側継手部材23やシャフト30)とがアンカー効果によって接合力が増大し、ブーツ端部35a、35bと相手部材(外側継手部材23やシャフト30)とは安定した接合力を発揮する。このため、等速自在継手が作動角を取った状態での回転時においても、高精度のシール性能を奏することができる。
また、円筒面である被取付面40、41にスリット38A,38Bを形成することによって、エッジ部が形成される。エッジ部は、電磁誘導の近接効果によって温度上昇しやすく、広範囲にわたって所望の温度が得られ易く、作業性の向上を図ることができる。しかも、相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50Bとの相対的な移動を必要とせず、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを有する高周波誘導加熱装置のコンパクト化および軽量化を図ることができ、低コストに寄与する。
図5は、高周波誘導加熱コイル50A,50Bが、一対の円弧状体60A,60A,60B,60Bを組み合わせてなる分割可能なリング体である。従って、この分割タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bとしては、円弧状体60A,60Aを、外側継手部材23に対して外径方向から装着(セット)することができ、円弧状体60B,60Bを、シャフト30に対して外径方向から装着(セット)することができる。この際、図6に示すように、高周波誘導加熱コイル50A,50Bの内径面50Aa、50Baと、ブーツ35の両端部のブーツ端部35a、35bの外径面である反取付面45A,45Bとは接触するものである。
この分割タイプの高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)が、それぞれ、図5に示すように、セットされた状態において、コイル50A,50Bの高周波電流を流せば、前記したように、ブーツ端部35aの取付面53A(図4参照)と外側継手部材23に被取付面40(図4参照)およびブーツ端部35bの取付面53B(図4参照)とシャフト30の被取付面41(図4参照)をそれぞれ接合一体化して、ブーツ端部35aを外側継手部材23へ取付固定し、ブーツ端部35bをシャフト30へ取付固定することができる。
この図5に示す等速自在継手においても、図4と同様に、外側継手部材23の被取付面40、及びシャフト30の被取付面41には、それぞれ、スリット38A,38Bが設けられている。このため、図5に示す分離タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bであっても、図1に示すような非分離タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bを用いた取付方法と同様の作用効果を奏することができる。
しかも、図5に示すように分離タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bを用いた場合、高周波誘導加熱コイル50A,50Bと、被加熱物(相手部材)との間に、ブーツ端部35a、35bが存在(介在)されることになる。ブーツ材質は樹脂であり、非導電性物質である。このため、高周波誘導加熱コイル50A,50Bとブーツ端部35a、35bとが接触しても高周波誘導加熱コイル50A,50Bが破損することはない。また、ブーツ端部35a、35bの肉厚としては通常は一定であるため、高周波誘導加熱コイル50A,50Bをブーツ端部35a、35bの取付面外径(反被着面)と接触させることにより、被加熱物である相手部材と高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップを(周方向に)正確に保つことができる。
すなわち、被加熱物である相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップを(周方向に)正確に保つことができるので、周方向の接着力(接合力)が均一となって、安定した接合力を発揮する。しかも、相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50Bとの相対的な移動を必要とせず、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを有する高周波誘導加熱装置のコンパクト化および軽量化を図ることができ、低コストに寄与する。
ところで、ブーツ端部35a、35bの取付面53A、53Bと相手部材(外側継手部材23やシャフト30)の被取付面40,41との直径比を0.995〜0.98の締め代とするのが好ましい。締め代が0.995以上では、金属(外側継手部材23やシャフト30)とブーツ材のミクロ的な密着が不足し、0.98より大きい締め代では、ブーツ35の圧入抵抗が大きく、組立に支障が出るおそれがある。
図5に示すように、分離タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bを用いれば、この内径面50Aa,50Baとブーツ端部35a,35bの反取付面である外径面45A,45Bとの接触を締め代とするのが好ましい(図6参照)。ブーツ35が少しでも締め代状態となると、接合部の周方向でのギャップ量が安定する。また、締め代が大きくなりすぎると高周波誘導加熱コイル50A,50Bを完全に閉じることができなくなり、その機能を果たせない(高周波誘導加熱コイル50A,50Bを構成しない)。このため、この場合、0.05mm〜0.3mmの締め代とするのが好ましい。
図7はスリット38の変形例を示し、図7(a)では、その断面形状を矩形状としている。すなわち、前記図1のもの、及び図7(a)のものでは、スリット38は、その始端と終端とが一致するものであり、周方向凹溝にて構成されている。これに対して、図7(b)に示すスリットは、始端と終端と相違する螺旋溝である。
図7(a)(b)に示すものであっても、図2及び図3に示すスリット38A,38Bを同様の作用効果を奏する。なお、図7(a)(b)は、シャフト30の被取付面41を示しているが、このような形状のスリット38を、外側継手部材23の被取付面40に形成してもよい。
ブーツ材質を熱可塑性ポリエステル系エラストマーとするのが好ましい。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、機械的強度、成形性、弾性に優れておりブーツに必要とされる屈曲耐久性等の機能を具備させる素材として好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーは熱変形しにくく、耐熱温度が高いため、この素材を等速自在継手の作動時など高温化に晒されるブーツに適用すると、高温によりブーツの耐久性が低下するのを防止することができる。特に、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの分解温度が400℃〜500℃程度であり、電磁誘導加熱で得られ易い温度帯であり、このブーツ取付方法に用いるブーツ材料として最適となる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、前記実施形態では、外側継手部材側およびシャフト側においても、ブーツバンドを使用しないで、高周波誘導加熱を用いるものであったが、いずれか一方をブーツバンドを使用した既存の方法で取付固定するものであってもよい。
また、ブーツ端部35a、35bと高周波誘導加熱コイル50A,50Bとは、接触していても接触していなくてもいずれでもよいが、被加熱物(相手部材)とコイルとのギャップは周方向全周において均一であるのが好ましいので、接触するのが好ましい。
固定式等速自在継手として、図例のものに限らず、アンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手であっても、ダブルオフセットタイプ、クロスグルーブタイプ、トリポードタイプの摺動式等速自在継手であってもよい。
被取付面に設けたスリットの始端と終端とが一致するものである場合、その数、配設ピッチとしても、例えば不等ピッチなどの任意に設定できる。また、図7(b)に示すような螺旋溝であっても、巻き数を任意に設定できる。さらには、スリットの断面形状として、半円弧状や矩形状に限るものではなく、三角形状、半多角形状、半長円形状等であってもよい。しかしながら、これらのスリットにおいても、ブーツ材料が侵入硬化し、アンカー効果が発揮され、かつ、誘導加熱の近接効果で広範囲にわたって所望の温度が得られ易くなるものである必要がある。