ステアリング装置は、図5に示すように、ステアリングホイール121の回転運動を、一または複数のステアリングシャフト122を介してステアリングギヤに伝達することにより、タイロッド部の往復運動に変換するものである。車載スペース等との兼ね合いでステアリングシャフト122を一直線に配置できない場合は、ステアリングシャフト122間に一または複数の自在継手124を配置し、ステアリングシャフト122を屈曲させた状態でもステアリングギヤに正確な回転運動を伝達できるようにしている。この自在継手124に等速自在継手を使用することができる。
ステアリング用の等速自在継手(ステアリング用等速自在継手)としては不等速のカルダン継手や、等速性を有するダブルカルダン継手が一般的である。また、特許文献1には、固定式等速自在継手を用い、さらに、回転方向のバックラッシを除去したステアリング用等速自在継手が記載されている。
回転方向のバックラッシを除去したステアリング用等速自在継手は、図3に示すように外側継手部材10と、内側継手部材20と、トルク伝達要素としてのボール30と、ボール30を保持するケージ32とを主要な構成要素としている。
外側継手部材10はマウス部11とステム部12とを備える。マウス部11はベル型で、球面状の内周面13を有し、軸方向に延びる曲線状のボール溝14が円周方向に等間隔に形成してある。
内側継手部材20は、球面状の外周面21を有し、軸方向に延びる曲線状のボール溝22が円周方向に等間隔に形成してある。外側継手部材10のボール溝14と内側継手部材20のボール溝22は対をなし、各対のボール溝14,22に1個のボール30が組み込んである。ケージ32は外側継手部材10の内周面13と内側継手部材20の外周面21との間に介在し、円周方向に所定間隔でポケット34が形成してある。ボール30はケージ32のポケット34に収容され、ケージ32によってすべてのボール30が同一平面内に保持される。
内側継手部材20はスプライン孔23を有し、このスプライン孔23にてシャフト25のスプライン軸25aとトルク伝達可能に嵌合している。シャフト25の軸端付近には止め輪溝26が形成してあり、この止め輪溝26に止め輪27を装着することにより内側継手部材20をシャフト25上で位置決めしてある。シャフト25の他方の端部にはスプライン軸25bが形成してある。
等速自在継手の内部には潤滑グリースが充填してあり、その潤滑グリースの洩れを防止するため、また、外部からの異物の侵入を防止するため、ブーツ40が装着してある。ブーツ40は大径側の取付部40aを外側継手部材10に形成した凹部15に外嵌してベルト39にて締め付け、小径側の取付部40bをシャフト25に形成した凹部25cに外嵌してベルト39にて締め付ける。
ケージ32に取り付けた受け部材38とシャフト25に取り付けた押圧部材41とで回転バックラッシを除去するための装置を構成している。押圧部材41はたとえば球状部材とコイルバネがケースに内嵌されている(図示せず)。これ等部材にて構成されアセンブリィ化された押圧部材41は、シャフト25の軸端にケースを介して内嵌される。球状部材は、ケースに内嵌されることで圧縮コイルばね(弾性部材)として機能するコイルバネによって、シャフト25の軸端から飛び出す方向に弾性的に押されている。
受け部材38はケージ32に取り付けてある。図示するように受け部材38は全体として部分球面状を呈し、受け部材38の内面すなわちシャフト25の端部と対向する面は凹球面状で、上述の押圧部材41の球状部材を受ける受け面として機能する。
上述の構成において、内側継手部材20をシャフト25に嵌合させて止め輪27で位置決めすると、押圧部材41と受け部材38とが互いに当接し、弾性部材が圧縮される。これにより内側継手部材20とケージ32との間に軸方向の弾性力が作用し、両者間に軸方向の相対移動が生じる。この相対移動により、ケージ32を介してボール30がボールトラックの縮小方向に押し込まれるため、ボール30とボール溝14,22が常に当接し、回転バックラッシが防止される。このように、回転バックラッシが防止される結果、この固定式等速等速自在継手は、回転バックラッシを嫌う自動車のステアリング用として好適に利用することができる。
ところで、カルダン継手やダブルカルダン継手に代表されるステアリング用等速自在継手は、当該等速自在継手と接続する相手部材が軸タイプの場合、その軸と嵌合する穴をもった穴タイプのヨークを溶接等の手段で等速自在継手に恒久的に結合して一体化するのが一般的である。そして、ヨークと軸を嵌合させた後、嵌合すきまによる回転がたの相殺および軸の抜け止めを兼ねて、ヨーク外径部にスプラインと直交する形で設けた貫通穴を利用してボルトで締結する。
特許文献1に記載されているステアリング用等速自在継手でも、相手部材が軸タイプである場合、溶接等の固定手段が必要となる。しかし、相手軸部材と等速自在継手を溶接によって結合した場合、両者間に回転がたが生じない反面、溶接箇所が高温にさらされるため歪みによる継手精度の低下やひび割れが生じ、歩留まりの低下が懸念される。
そこで、特許文献2に記載されるように、溶接による結合を不要としたものが提案されている。この特許文献2に記載のものは、図3に示すように、外側継手部材10のステム部12を、雄スプラインを有するスプライン軸とするとともに、このステム部12をシャフトクランプ45の孔部45aに圧入するものである。この際、スプライン軸は高周波焼入れ等の表面硬化処理を施すことにより雄スプラインの表面に焼き入れ硬化層を設けている。
また、スプライン軸が圧入されるシャフトクランプ45の孔部45aの内径面は生材のままとされ、雄スプラインの表面硬度を、シャフトクランプ45の孔部45aの内径面の硬度よりも高くしている。さらに、シャフトクランプ45の孔部45aの内径を、スプライン軸の外径よりも小さく設定している。具体的には、シャフトクランプの孔部の内径寸法を、スプライン軸の雄スプラインの凸部の頂点が描く円形の径寸法よりも小さく設定している。
そして、スプライン軸をシャフトクランプ45の孔部45aに圧入すると、塑性流動もしくは剪断または両方によってスプラインが転写され、この孔部45aの内径面に、雄スプラインとすきまなく嵌合した雌スプラインが形成される。このため、溶接を用いることなく、この等速自在継手とシャフトクランプ45との結合が可能となる。
前記図3に示すように、外側継手部材のスプライン軸をシャフトクランプ45の孔部45aに圧入するものでは、まず、シャフトクランプ45を載置面上にセットし、この状態で、シャフトクランプ45の軸心と、等速自在継手の軸心とを一致させる。次に、内側継手部材20に連結されたシャフト25の外端面(シャフト端面)28に、荷重付加装置(図示省略)等によって、荷重Fを矢印のように付与しつつ、ステム部12をシャフトクランプ45の孔部45aに押し込んでいく。
この際、シャフト端面28にかかる荷重は、スプライン軸の雄スプラインがシャフトクランプ45の孔部45aの内径面を削る抵抗力、つまり、塑性加工しながら嵌合していくために加わる荷重は過大となり、場合によっては、等速自在継手内部(例えば、内側継手部材、ボール、ケージ等)に圧痕が形成されることがある。このように、等速自在継手内部に圧痕が形成されれば、等速自在継手の回転作動性を低下させる場合がある。
図4に、シャフト25からの荷重Fと圧痕との概略の関係を示した。この図4からわかるように、圧痕発生領域を越え更に荷重を増していくと圧痕が大きくなっている。
そこで、等速自在継手内部に圧痕を形成させないため、等速自在継手を組み立てる前の単品状態で、外側継手部材10のスプライン軸をシャフトクランプ45の孔部45aに圧入することを提案できる。しかしながら、このように、先に外側継手部材10にシャフトクランプ45を連結すれば、この外側継手部材10に内側継手部材20、ボール30、及びケージ32等からなる内部部品を組み込む際に、付帯させる部材(外側継手部材)が大きく、作業性に劣り、組立てコストアップに繋がることになる。
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、外側継手部材にシャフトクランプを塑性結合により組み付ける場合、アセンブリィ状態においても等速自在継手内部に圧痕をつけることなく組み付けることが可能な等速自在継手を提供しようとするものである。
本発明の等速自在継手は、内周にボール溝をもった外側継手部材と、外周にボール溝をもった内側継手部材と、外側継手部材のボール溝と内側継手部材のボール溝との間に介在させたトルク伝達ボールと、トルク伝達ボールを保持するケージとを備え、ボールとボール溝とのすきまを詰める予圧手段を持つとともに、前記外側継手部材が、マウス部と、マウス部の底部から突設されるステム部とを有し、ステム部に形成された塑性結合用の雄スプラインがメス穴嵌合部材の孔部に圧入される等速自在継手であって、前記雄スプラインのメス穴嵌合部材への圧入力は、内側継手部材、トルク伝達ボール、ケージ、及び予圧手段を含む内部部品を介さない圧入力であって、この圧入力を付与する圧入力付与部を前記外側継手部材に設けるとともに、前記雄スプラインの圧入終端側にくびれ部を設け、雄スプラインをメス穴嵌合部材の孔部に圧入して、外側継手部材の底壁の膨出部端面とメス穴嵌合部材の開口端面とを当接させた状態で、メス穴嵌合部材のくびれ部対応部に、塑性変形によってくびれ部へ嵌入する嵌合部を、周方向全周乃至周方向に沿って所定ピッチで設け、前記圧入力付与部は、前記外側継手部材の底壁の膨出部に設けられた凹溝であって、この凹溝に塑性結合用冶具が係合するものである。
本発明の等速自在継手によれば、圧入力付与部を介して外側継手部材に圧入力を付与すれば、内部部品を介さない圧入力を付与することができる。すなわち、この圧入によっては、内側継手部材、トルク伝達ボール、ケージ等に圧痕が形成されない。
前記圧入力付与部は、前記外側継手部材の外径面に設けられた凹溝であって、この凹溝に塑性結合用冶具が係合するようにできる。このような凹溝を設ければ、塑性結合用冶具をこの凹溝に係合させることができ、この嵌合状態で外側継手部材のステム部のシャフトクランプへの圧入を可能とする。この凹溝を設ける位置としては、ステム部の雄スプラインに対応しない位置及びこの等速自在継手に付設されるブーツに覆われない位置である。
前記雄スプラインの外面に熱硬化層を形成するととともに、前記雄スプラインが圧入されるメス穴嵌合部材の孔部の内径面を非熱処理面とし、圧入前のメス穴嵌合部材の孔部の内径寸法を、前記雄スプラインの凸部の頂点が描く円形の径寸法よりも小さく設定したものが好ましい。
雄スプラインの外面に熱硬化層を形成し、メス穴嵌合部材の孔部の内径面を非熱処理面としたことによって、雄スプラインの外面の硬度をメス穴嵌合部材の孔部の内径面の硬度よりも高くすることができる。
雄スプラインの圧入終端側にくびれ部を設け、雄スプラインをメス穴嵌合部材の孔部に圧入した状態で、メス穴嵌合部材のくびれ部対応部に、塑性変形によってくびれ部へ嵌入する嵌合部を、周方向全周乃至周方向に沿って所定ピッチで設けたものとするのが好ましい。
圧入後において、塑性変形によってくびれ部へ嵌合部を嵌入することによって、メス穴嵌合部材からのステム部の抜けを規制することができる。
外側継手部材および内側継手部材のボール溝底が円弧部のみからなるものであっても、円弧部とストレート部とを備えたものであってもよい。
本発明のステアリング装置は、自在継手とステアリングシャフトとを備え、ステアリングシャフトと自在継手とをメス穴嵌合部材を介して連結されるステアリング装置であって、自在継手に前記記載の等速自在継手を用いたものである。
本発明の等速自在継手は、圧入力付与部を介して外側継手部材に圧入力を付与すれば、外側継手部材のステム部をメス穴嵌合部材に圧入でき、しかも、この圧入によって、内側継手部材、トルク伝達ボール、ケージ等に圧痕が形成されない。このため、この組立てによって、等速自在継手の作動性の低下を招かず、高品質の製品を提供できる。また、アセンブリィ状態(外側継手部材のマウス部に、内側継手部材、ボール、ケージ、予圧手段、及び内側継手部材に連結したシャフト等を組み込んだ状態)で、外側継手部材のステム部をメス穴嵌合部材に圧入することができ、組立性の向上を図ることができる。
外側継手部材に凹溝を設けたものであれば、塑性結合用冶具を凹溝に係合させることに
よって、外側継手部材のステム部のメス穴嵌合部材へ圧入でき、その作業性(圧入性)の
向上を図ることができる。
雄スプラインの外面に熱硬化層を形成したものであれば、雄スプライン側の硬度を、雌スプライン側の硬度よりも高くできる。このため、外側継手部材のステム部をメス穴嵌合部材に圧入することによって、雄スプラインにて、損傷等することなく、雌スプラインを安定して形成できる。塑性変形によってくびれ部へ嵌入する嵌合部を設けたものでは、外側継手部材のステム部のメス穴嵌合部材からの抜けを防止する機能を効果的に発揮することができる。
外側継手部材および内側継手部材のボール溝底が円弧部のみからなるものであっても、円弧部とストレート部とを備えたものであってもよく、種々の固定式等速自在継手に適用できる。
前記等速自在継手は、予圧手段を備えているので、回転方向のバックラッシュを除去でき、ステアリング用に最適となる。しかも、組立時において、内側継手部材、トルク伝達ボール、ケージ等に圧痕が形成されない。このため、この組立てによって、等速自在継手の作動性の低下を招かず、高品質の製品を提供できる。
本発明の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
前記図1に示す等速自在継手とシャフトクランプとの連結方法を示す断面図である。
従来の等速自在継手とシャフトクランプとの連結方法を示す断面図である。
圧入力と圧痕との関係を示すグラフ図である。
ステアリング装置の簡略図である。
以下本発明の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1に図5に示すようなステアリング装置に用いるステアリング用等速自在継手を示し、この等速自在継手は固定式等速自在継手である。
まず、この固定式等速自在継手の基本構成について述べる。固定式等速自在継手は、図1に示すように、外側継手部材50と、内側継手部材60およびシャフト70と、トルク伝達要素としてのボール80と、ボール80を保持するケージ82とを主要な構成要素としている。
外側継手部材50はマウス部51とステム部52とからなり、ステム部52はマウス部51と一体で、雄スプライン52aと、雄スプライン52aの反マウス部側に設けられる外径面が円筒面とされた先端部52bと、雄スプライン52aのマウス部側に設けられた周方向凹溝からなるくびれ部52cとを備える。雄スプライン52aは、表面硬化処理を施すことにより焼入れ硬化層を有している。マウス部51はベル型で、球面状の内周面54を有し、軸方向に延びる曲線状のボール溝55が円周方向に等間隔に形成してある。熱硬化処理(表面硬化処理)としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れを行う方法である。
内側継手部材60は、球面状の外周面61を有し、軸方向に延びる曲線状のボール溝62が円周方向に等間隔に形成してある。外側継手部材50のボール溝55と内側継手部材60のボール溝62は対をなし、各対のボール溝55,62に1個のボール80が組み込んである。一般に、ボール80の数は6または8の複数個となる。ただし、ボール数は6個または8個に限定するものではなく、それ以外の任意の数であってもよい。ケージ82は外側継手部材50の内周面54と内側継手部材60の外周面61との間に介在し、円周方向に所定間隔でポケット84が形成してある。ボール80はケージ82のポケット84に収容され、ケージ82によってすべてのボール80が同一平面内に保持される。
内側継手部材60はスプライン孔66を有し、このスプライン孔66にてシャフト70のスプライン軸70aとトルク伝達可能に嵌合している。シャフト70の軸端付近には止め輪溝70bが形成してあり、この止め輪溝70bに止め輪72を装着することにより内側継手部材60をシャフト70上で位置決めしてある。シャフト70の他方の端部にはスプライン軸70cが形成してある。
外側継手部材50のボール溝55の中心(外側継手部材トラックセンタ)は、外側継手部材50の内周面54の中心に対して、内側継手部材60のボール溝62の中心(内側継手部材トラックセンタ)は、内側継手部材60の外周面61の中心に対して、それぞれ軸方向に等距離だけ反対側にオフセットさせてある。ケージ82の外周面の中心と外側継手部材50の内周面54の中心は、いずれも継手中心に一致している。また、ケージ82の内周面の中心と内側継手部材60の外周面61の中心も、同様に継手中心に一致している。したがって、外側継手部材トラックセンタのオフセット量は外側継手部材トラックセンタと継手中心との間の距離となり、内側継手部材トラックセンタのオフセット量は内側継手部材トラックセンタと継手中心との間の軸方向距離となり、両者は相等しい。以上から、一対のボール溝55,62によって形成されるボールトラックは、外側継手部材50の開口側から奥部側へ向かって縮小した楔状を呈している。
外側継手部材50の軸線と内側継手部材60の軸線が角度をなした状態、すなわち等速自在継手が作動角をとった状態では、ケージ82に案内されたボール80が作動角の二等分面内に維持され、等速自在継手の等速性が確保される。等速自在継手の内部には潤滑グリースが充填してあり、その潤滑グリースの洩れを防止するため、また、外部からの異物の侵入を防止するため、ブーツ90が装着してある。ブーツ90は、大径側の取付部90aと、小径側の取付部90bと、これらの取付部90a,90bを連結する蛇腹部90cとからなる。大径側の取付部90aを外側継手部材50に形成した凹部57に外嵌してブーツバンド91を締め付けることによって取り付け、小径側の取付部90bをシャフト70に形成した凹部58に外嵌してブーツバンド91を締め付けることによって取り付けてある。
ケージ82に取り付けた受け部材88とシャフト70に取り付けた押圧部材92とで回転バックラッシを除去するための予圧手段Sを構成している。押圧部材92はたとえば球状部材とコイルバネがケースに内嵌されている(図示せず)。これ等部材にて構成されアセンブリィ化された押圧部材92は、シャフト70の軸端にケースを介して内嵌される。球状部材は、ケースに内嵌されることで圧縮コイルばね(弾性部材)として機能するコイルバネによって、シャフト70の軸端から飛び出す方向に弾性的に押されている。
受け部材88はケージ82に取り付けてある。たとえば、ケージ82の外側継手部材50の奥側の端部内周に形成した凹部に、受け部材88の周縁を係合させ、圧入、かしめ、溶接等の適宜の手段で固定する。図示するように受け部材88は全体として部分球面状を呈し、受け部材88の内面すなわちシャフト70の端部と対向する面は凹球面状で、上述の押圧部材92の球状部材を受ける受け面として機能する。
上述の構成において、内側継手部材60をシャフト70に嵌合させて止め輪72で位置決めすると、押圧部材92と受け部材88とが互いに当接し、弾性部材が圧縮される。これにより内側継手部材60とケージ82との間に軸方向の弾性力が作用し、両者間に軸方向の相対移動が生じる。この相対移動により、ケージ82を介してボール80がボールトラックの縮小方向に押し込まれるため、ボール80とボール溝55,62が常に当接し、回転バックラッシが防止される。このように、回転バックラッシが防止される結果、この固定式等速等速自在継手は、回転バックラッシを嫌う自動車のステアリング用として好適に利用することができる。
外側継手部材50のステム部52にはメス穴嵌合部材100が取り付けられる。メス穴嵌合部材100を等速自在継手に取り付ける前の状態を示す図2に従って説明すると、メス穴嵌合部材100は、軸方向の一端側に円筒形状の孔部(接続用孔)100a、他端側にスプライン孔100bが形成してある。接続用孔100aの開口部外径面には周方向切欠部101が設けられている。また、接続用孔100aの開口部の内径面には、奥側から開口側に向かって拡径するテーパ面103が設けられている。なお、このテーパ面103は、ステム部52をメス穴嵌合部材100に圧入する際のガイドとなる。
接続用孔100aに関しては、焼入れ硬化層をもたない円筒形状のままである。この円筒形状の領域の内径寸法D2は、外側継手部材50のステム部52の雄スプライン52aの外径寸法D1よりも小さく設定してある。すなわち、D1>D2である。ここで、雄スプライン52aの外径寸法D2とは、雄スプライン52aの各凸条の頂点を結ぶ円形の直径である。また、雄スプライン52aの各凹条の底を結ぶ円形の直径をD3とすると、D1>D2>D3に設定している。なお、ステム部52の先端部52bの外径寸法をD4とすれば、D2>D4としている。この場合、D3=D4であっても、D3>D4であってもよい。
外側継手部材50のマウス部51の底壁51aには、ステム側へ膨出する膨出部53が設けられ、この膨出部53に周方向に沿って凹溝56が設けられている。この場合の凹溝56は、径方向壁56aと、この径方向壁56aの内径部からコーナ壁56bを介してステム部側に向かって拡径するテーパ壁56cとを有する。
ところで、外側継手部材50のステム部52にメス穴嵌合部材100を取り付ける際には、外側継手部材50のステム部52を、メス穴嵌合部材100に圧入することになり、前記凹溝56に、図2に示すように、塑性結合用冶具105を係合させて、外側継手部材50に圧入力を付与するものである。このため、この凹溝56が、外側継手部材50に圧入力を付与する圧入力付与部Mを構成することになる。この凹溝56を設ける位置としては、ステム部52の雄スプライン52aに対応しない位置及びこの等速自在継手に付設されるブーツ90に覆われない位置である。
塑性結合用冶具105は、例えば、周方向に沿って複数個が配設されるセグメント106を備え、各セグメント106は径方向に往復動可能であるとともに、等速自在継手の軸心方向に沿った往復動も可能とされる。なお、各往復動は、シリンダ機構、ボール・ナット機構等の既存の往復動機構にて構成することができる。また、各セグメント106の内径端部には、断面三角形状の係合部107が形成されている。この係合部107の断面形状は前記凹溝56の断面形状とほぼ同一であり、図2に示すように、係合部107が凹溝56に係合する。すなわち、各セグメント106の内径端に、反シャフトクランプ側からメス穴嵌合部材100側に向かって外径側に傾斜するテーパ面108を設け、このテーパ面108の傾斜角度を、凹溝56のテーパ壁56cの傾斜角度と一致させている。なお、テーパ面108とセグメント106の反シャフトクランプ側の端面106aとの間にアール部109を設けている。このアール部109の曲率半径を、凹溝56のコーナ壁56bの曲率半径と同一としている。
ところで、前記実施形態の等速自在継手としては、外側継手部材50および内側継手部材60のボール溝底が円弧部のみからなるツェッパ型であったが、ボール溝の一部にストレート部を形成したアンダーカットフリー型(ボール溝底が円弧部とストレート部を備えたもの)などの固定式等速等速自在継手であってもよい。
次に、塑性結合用冶具105を用いた圧入方法を説明する。まず、メス穴嵌合部材100を、図示省略の固定保持手段にて、接続用孔100aの開口部が上方に向くようにセットする。そして、この状態で、図2に示すように、メス穴嵌合部材100の軸心O1と、等速自在継手の軸心Oとを一致させる。なお、この状態では、等速自在継手の外側継手部材50のステム部52と、メス穴嵌合部材100との間に所定間隔の隙間が設けられている。
次に、塑性結合用冶具105のセグメント106を、その高さ位置を外側継手部材50の凹溝56の高さ位置に合わせ、各セグメント106を内径方向に移動させて、係合部107を凹溝56に係合させる。
その後、塑性結合用冶具105を下降させて、ステム部52をメス穴嵌合部材100の接続用孔100aに圧入していく。なお、この圧入時においては、メス穴嵌合部材100が下降しないように前記保持手段にて固定保持されている。このように圧入していくと、D1>D2>D3に設定しているので、塑性流動もしくは剪断または両方によって、ステム部52の雄スプライン52aが、メス穴嵌合部材100の接続用孔100aの内径面に転写され、この内径面の雌スプライン110が形成される。これによって、ステム部52の雄スプライン52aと、メス穴嵌合部材100の雌スプライン110とが密着嵌合して、等速自在継手の外側継手部材50とメス穴嵌合部材100とが一体化される。
このように、圧入力付与部Mを介して外側継手部材50に圧入力を付与すれば、外側継手部材50のステム部52をメス穴嵌合部材100の接続用孔100aに圧入することができる。しかも、この場合の圧入力は、外側継手部材50に直接的に付与されるものであり、外側継手部材50のマウス部51に内有される内部部品N(内側継手部材60、ボール80、ケージ82、及び予圧手段S等からなる)を介さない圧入力である。
また、圧入は、図1に示すように、外側継手部材50の膨出部53の端面53aがメス穴嵌合部材100の開口端面102に当接するまで行われる。このように圧入された場合、締めしろや嵌合長さ(軸方向長さ)等によっては、軸方向抜け荷重を確保する必要が生じる。
このため、圧入後において、メス穴嵌合部材100の開口部、つまり外側継手部材50のくびれ部52cに対応する部位において、周方向数箇所に内径側へ加締る塑性変形によってくびれ部52cへ嵌入する嵌合部111を設けるようにしてもよい。
本発明の等速自在継手によれば、圧入力付与部Mを介して外側継手部材50に圧入力を付与すれば、外側継手部材50のステム部52をメス穴嵌合部材100に圧入できる。しかも、圧入力付与部Mを介して外側継手部材50に圧入力を付与すれば、内部部品Nを介さない圧入力を付与することができる。すなわち、圧入によって、内側継手部材60、トルク伝達ボール80、ケージ82等に圧痕が形成されない。このため、この組立てによって、等速自在継手の作動性の低下を招かず、高品質の製品を提供できる。また、アセンブリィ状態(外側継手部材50のマウス部51に、内側継手部材60、ボール80、ケージ82、予圧手段S、及び内側継手部材60に連結したシャフト70等を組み込んだ状態)で、外側継手部材50のステム部51をメス穴嵌合部材100に圧入することができ、組立性の向上を図ることができる。
外側継手部材50に凹溝56を設けているので、塑性結合用冶具105を凹溝に嵌合させることによって、外側継手部材50のステム部52のメス穴嵌合部材100への圧入を可能とでき、その作業性(圧入性)の向上を図ることができる。
塑性変形によってくびれ部52cへ嵌入する嵌合部111を設けたものでは、外側継手部材50のステム部52のメス穴嵌合部材100からの抜けを防止する機能を効果的に発揮することができる。なお、このような嵌合部111を設けなくても、締めしろや嵌合長さ(軸方向長さ)等によっては、軸方向抜け荷重を確保することができれば、この嵌合部111を設ける必要はない。また、くびれ部52cを設ける場合、このくびれ部52cの径寸法D5としては、嵌合部111を設けた際に、この嵌合部111の内側がくびれ部52cに食い込むものである必要がある。また、径寸法D5が小さ過ぎれば、ステム部52の付け根部(マウス部51側)の強度が小さくなる。このため、ステム部52の強度や嵌合部111の嵌入性等を考慮して、この径寸法D5を設定する必要がある。
このように、本発明の等速自在継手は予圧手段Sを備えているので、回転方向のバックラッシュを除去でき、ステアリング用に最適となる。しかも、組立時において、内側継手部材60、トルク伝達ボール80、ケージ82等に圧痕が形成されない。このため、この組立てによって、等速自在継手の作動性の低下を招かず、高品質の製品(ステアリング装置)を提供できる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、嵌合部111を設ける場合、前記実施形態では周方向に沿って数箇所であったが、メス穴嵌合部材100のくびれ部52cの全周に対応して周方向全周に設けられるものであってもよい。また、数箇所の個数として任意に設定できる。圧入力付与部Mを構成する凹溝56の断面形状として図例のような三角形状に限るものではなく、塑性結合用冶具105が嵌合するものであれば、矩形状等の他の形状であってもよい。このため、塑性結合用冶具105の形状等も外側継手部材50に設けられる凹溝56に嵌合でき、かつこの凹溝56を介して外側継手部材50に圧入力を付与できればよい。凹溝56として、周方向溝であっても、周方向に沿って所定ピッチで複数個が配設されるものであってもよい。
圧入力付与部Mを前記実施形態では、凹溝56にて構成したが、このような凹溝56にて構成することなく、突起部にて構成することも可能である。ステム部52の雄スプラインの凸部(凸条)の断面形状として、三角形状、台形形状、半円形状、半楕円形状、矩形形状等のように種々選択できる。凸部の面積(断面積)、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。