例えば自動車や各種産業機械の動力伝達機構に組み込まれる等速自在継手には、継手内部への塵埃などの異物侵入防止や継手内部に封入されたグリースの漏洩防止を目的として、ブーツ(等速自在継手用ブーツ)が装着される。
等速自在継手(固定式等速自在継手)は、図7に示すように、軸方向に延びる複数のトラック溝1が内径面2に形成された外側継手部材3と、軸方向に延びる複数のトラック溝4が外径面5に円周方向等間隔に形成された内側継手部材6と、外側継手部材3のトラック溝1と内側継手部材6のトラック溝4との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボール7と、外側継手部材3の内径面2と内側継手部材6の外径面5との間に介在してボール7を保持するケージ8とを備えている。
内側継手部材6の軸心孔の内周に雌スプライン9が形成され、シャフト10の端部雄スプライン11がこの内側継手部材6の軸心孔に嵌入されて、雌スプライン9と端部雄スプライン11とが嵌合する。また、シャフト10の端部雄スプライン11には、周方向溝12が形成され、この周方向溝12にストッパとしての止め輪13が装着されている。
そして、外側継手部材3の開口部はブーツ15にて密封される。ブーツ15は、大径の取付部15aと、小径の取付部15bと、大径の取付部15aと小径の取付部15bとを連結する蛇腹部15cとからなる。ブーツ15の大径の取付部15aは外側継手部材3の開口端で締結バンド16により締め付け固定され、その小径の取付部はシャフト10の所定部位で締結バンド17により締め付け固定されている。
このような締結バンドには、レバー式ブーツバンド(特許文献1)がある。すなわち、レバー式ブーツバンドは、リング部に形成されるバンド本体と、このバンド本体の接合部に付設されるレバーとを備えたものである。そして、レバーの内面がバンド本体の外径面に重ね合わさるように、レバーを折り返すものである。
また、締結バンドには、係合爪と係合孔による締付バンド(特許文献2)がある。この特許文献2に記載のものでは、外径側に膨出する耳部を形成し、この耳部を収縮させることによって、リング部を縮径させるものである。
しかしながら、このようなバンドを用いる場合、バンドを別部品として使用する必要があり、部品点数が多くなり、等速自在継手の組立てに必要な製造コストが嵩むことになっていた。しかも、バンド装着状態においては、シール性を確保するには、バンドを所定の締め代で精度よく締め付ける必要があるが、高精度な締付を個体間でのばらつきを生じさせるには困難であった。
そこで、従来には、ブーツ端部と相手部材への取付固定に、締付バンド(ブーツバンド)を用いることなく、高周波誘導を用いるもの(特許文献3)、さらには、レーザ光を用いるもの(特許文献4)が提案されている。
高周波誘導を用いるものは、相手部材の被取付面にブーツ端部を外嵌した状態で、その外周部に高周波誘導加熱コイルを配置して、この高周波誘導加熱コイルに高周波電流を通電するものである。すなわち、通電性のある相手部材の被取付面が高周波によりブーツ端部を介して加熱され、その熱でブーツ端部と相手部材の被取付面とが接合一体化される。
また、レーザ光を用いるものでは、金属材料と樹脂材料とを、樹脂材料表面側からレーザ光を照射することで生じる物理的相互作用により、接合するものである。
高周波誘導を用いるものでは、従来のバンドを用いた締付け方法と比較して、部品点数を少なくでき、等速自在継手の組立を簡素化できる利点がある。ところで、通常、高周波での電磁誘導加熱は金属の熱処理等に用いられる。この加熱方法は、被加熱物に発生する誘導電流を利用しての自己発熱を用いており、導電性のある材料のみを加熱することができる。
加熱時には、コイルと被加熱物にはクリアランス(スキマ)を設ける必要がある。これは電流が流れているコイルに被加熱物に接触すると、コイルが破損するためである。すなわち、高周波誘導を用いれば、急速加熱、表面加熱ができ、非導電性物質は加熱されず、加熱温度は、発振周波数と電流、コイルと被加熱物の距離(ギャップ量)により変化する。
このため、高周波誘導加熱にて、ブーツを取付固定するには、高周波誘導加熱コイルの配置を、シャフト(もしくは外側継手部材)と同心上とする必要がある。すなわち、周方向のどの位相においてもコイル−シャフト間(もしくは外側継手部材間)のギャップ量が均一でない場合、各位相における表面温度にバラツキが生じ、結果として接合力にもバラツキが生じることとなるからである。しかしながら、コイルの配置を、精度よく、シャフト(もしくは外側継手部材)と同心上とするのは困難であり、ギャップ量を均一にすることはできないおそれがある。
また、電磁誘導加熱では、被加熱物からの伝熱または輻射熱でコイル自身の温度も上昇することが多い。このため、金属の熱処理目的で使用される場合には、被加熱物とともにコイルも冷却剤等により冷却され、被加熱物からの伝熱または輻射熱によるコイルの蓄熱はキャンセルされる。
しかしながら、等速自在継手のブーツ取付においては、被加熱物(外側継手部材やシャフト)及びコイルに対しては冷却が行われない。このため、コイルとして安定した出力を得にくくなったり、コイルの寿命が短くなるおそれがあった。
レーザ光を用いるものでは、レーザ照射装置を設ける必要があり、しかも、被照射部に対してレーザ光を周方向全周及び軸方向全長にわたって照射する必要がある。このため、装置として複雑化して高コストとなる。
そこで、本発明は、周方向に接着力(接合力)が均一となって、安定した接合力を得ることが可能で、しかも用いる高周波誘導加熱コイルとして、長寿命化を図ることができ、かつ安定した出力を得るが可能なブーツ取付方法およびこの方法を用いた等速自在継手を提供する。
本発明のブーツ取付方法は、金属製の相手部材にブーツ端部が取付固定される等速自在継手用ブーツの取付方法であって、相手部材の外径面である被取付面にブーツ端部を外嵌させた後、リング状をなす高周波誘導加熱コイルを、その内周面とブーツ端部との間に断熱材を介在させた状態でこのブーツ端部に外嵌し、この高周波誘導加熱コイルへ高周波電流を通電して前記相手部材の被取付面の表層部分のみを高周波誘導により加熱し、ブーツ端部の内径面である取付面と前記相手部材の外径面である被取付面とを接合一体化するものであり、ブーツ端部の外径面である反取付面と断熱材の内径面とは接触するとともに、断熱材の外径面と高周波誘導加熱コイルの内径面とは接触している状態で、高周波誘導により加熱を行うものである。
高周波誘導加熱コイルに高周波電流を流すと、電磁誘導作用によって導電体である金属製の相手部材は、鉄損(渦電流損とヒステリシス損の和)により発熱し、この熱で、相手部材に接しているブーツ端部の境界部が分解温度以上に急速に加熱して分解され、泡が発生する。これにより、前記した泡の周辺部分の高温の融液と相手部材の表面に高温・高圧の条件が発生して、ブーツ端部の取付面と相手部材の被取付面との間には、接合部が得られる。これによって、金属製の相手部材にブーツ端部が取付固定される。
ブーツ端部の外径面である反取付面と断熱材の内径面とは接触するとともに、断熱材の外径面と高周波誘導加熱コイルの内径面とは接触している状態で、高周波誘導により加熱を行うものである。このように接触していることによって、高周波誘導加熱コイルと被相手部材との間のギャップを周方向全周において均一とすることができる。特に、ブーツ端部の取付面(内径)直径と相手部材の被取付面(外径)直径の比を、0.995〜0.98の締め代とするのが好ましい。ブーツ端部の取付面/相手部材の被取付面の直径の比が0.995以上(締め代が小さい側)では、金属とブーツ材のミクロ的な密着が不足し、0.98未満(締め代が大きい側)では、ブーツの圧入抵抗が大きく、組立に支障がでるおそれがある。
ブーツ端部の外径面である反取付面と断熱材の内径面とは接触するとともに、断熱材の外径面と高周波誘導加熱コイルの内径面とは接触している状態で、高周波誘導により加熱を行うのが好ましい。このように接触していることによって、高周波誘導加熱コイルと被相手部材との間のギャップを周方向全周において均一とすることができる。特に、ブーツ端部の取付面(内径)直径と相手部材の被取付面(外径)直径の比を、0.995〜0.98の締め代とするのが好ましい。ブーツ端部の取付面/相手部材の被取付面の直径の比が0.995以上(締め代が小さい側)では、金属とブーツ材のミクロ的な密着が不足し、0.98未満(締め代が大きい側)では、ブーツの圧入抵抗が大きく、組立に支障がでるおそれがある。
高周波誘導加熱コイルは、2つの円弧状体を組み合わせてなる分割可能なリング体であり、この内径面に付設される断熱材とブーツ端部の反取付面である外径面との接触を締め代とするのが好ましい。ブーツが少しでも締め代状態となると、接合部の周方向でのギャップ量が安定する。また、締め代が大きくなりすぎるとコイルを完全に閉じることができなくなり、その機能を果たせない(高周波誘導加熱コイルを構成しない)。このため、この場合、0.05mm〜0.3mmの締め代とするのが好ましい。
また、ブーツ取付方法として、金属製の相手部材にブーツ端部が取付固定される等速自在継手用ブーツの取付方法であって、相手部材の外径面である被取付面にブーツ端部を外嵌させた後、リング状をなす高周波誘導加熱コイルを、その内周面とブーツ端部との間に断熱材を介在させた状態でこのブーツ端部に外嵌し、この高周波誘導加熱コイルへ高周波電流を通電して前記相手部材の被取付面の表層部分のみを高周波誘導により加熱し、ブーツ端部の内径面である取付面と前記相手部材の外径面である被取付面とを接合一体化し、高周波誘導加熱コイルは、非分割性のリング体からなり、ブーツ端部の反取付面である外径面を、ブーツ内部側からブーツ外部側に向って縮径するテーパ面とするものである。このように設定することによって、高周波誘導加熱コイルを、拡径している側からブーツ端部の小径側に嵌入することができる。
前記テーパ面のテーパ角度としては、5°〜30°とすることができる。これは、ブーツの成型性に基づくものであるが、5°未満では、嵌入性に劣り、30°を越えれば、被加熱部に対するコイルのギャップが軸方向端部において大きな差が生じて、相手部材の表面温度にバラツキが生じるおそれがある。
ブーツ材質を熱可塑性ポリエステル系エラストマーとするのが好ましい。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、機械的強度、成形性、弾性に優れておりブーツに必要とされる屈曲耐久性等の機能を具備させる素材として好ましい。
前記断熱材としては、セラミックス、グラスウール、セラミックスファイバー、セメント板、シリコーンゴムなどの一般的な断熱材を使用することができるが、耐熱性の高いセラミックスやグラスウールなどの無機系材料からなるのが好ましい。
本発明に係るブーツ取付方法を用いた第1の等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、外側継手部材の開口部がブーツにて密封され、ブーツは、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部に装着される大径の取付部と、内側継手部材に嵌入されるシャフトにおけるブーツ装着部に装着される小径の取付部と、大径の取付部と小径の取付部とを連結する屈曲部とからなる等速自在継手であって、ブーツの大径の取付部を前記ブーツ端部とするとともに、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部を前記相手部材の被取付面として、前記ブーツ取付方法を用いて、ブーツの大径の取付部と外側継手部材のブーツ装着部とを接合一体化しているものである。
本発明に係るブーツ取付方法を用いた第2の等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材との間に介在されるトルク伝達部材とを備え、外側継手部材の開口部がブーツにて密封され、ブーツは、外側継手部材の開口部側の外径面に形成されたブーツ装着部に装着される大径の取付部と、内側継手部材に嵌入されるシャフトにおけるブーツ装着部に装着される小径の取付部と、大径の取付部と小径の取付部とを連結する屈曲部とからなる等速自在継手であって、ブーツの小径の取付部を前記ブーツ端部とするとともに、シャフトにおけるブーツ装着部を前記相手部材の被取付面として、前記ブーツ取付方法を用いて、ブーツの小径の取付部とシャフトのブーツ装着部とを接合一体化しているものである。
本発明では、高周波誘導加熱コイルと、被加熱物(相手部材)との間に、断熱材およびブーツ端部が存在(介在)されることになり、コイルへの伝熱を抑えることができ、連続使用時においても、安定した出力・接合力が得られるとともに、コイル寿命の長くなる利点がある。さらには、コイル温度上昇に起因するブーツ材とコイルとの溶着を防止でき、作業性に優れたものとなる。
被加熱物である相手部材と高周波誘導加熱コイルのギャップを(周方向に)正確に保つことができるので、周方向の接着力(接合力)が均一となって、安定した接合力を発揮する。しかも、相手部材と高周波誘導加熱コイルとの相対的な移動を必要とせず、高周波誘導加熱コイルを有する高周波誘導加熱装置のコンパクト化および軽量化を図ることができ、低コストに寄与する。
ブーツ端部の取付面と相手部材の被取付面とを締め代としたり、コイルの内径面とブーツ端部の反取付面である外径面との接触を締め代としたりすることによって、ブーツ端部と相手部材との密着度が高まり、接合の信頼性の向上を図ることができる。
ブーツ端部の反取付面である外径面と、高周波誘導加熱コイルの内径面に付設される断熱材の内径面とをテーパ面とすることによって、コイルの装着性の向上を図ることができ、また、コイルとブーツ端部との密着力が大となるように、コイルを押し込むことができ、より安定した接合力を得ることができる。
ブーツ材料に熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いれば、熱変形しにくく、耐熱温度が高いため、この素材を等速自在継手の作動時など高温化に晒されるブーツに適用すると、高温によりブーツの耐久性が低下するのを防止することができる。特に、熱可塑性ポリエステル系エラストマーの分解温度が400℃〜500℃程度であり、電磁誘導加熱で得られ易い温度帯であり、このブーツ取付方法に用いるブーツ材料として最適となる。
前記断熱材として無機系材料を用いれば、耐熱性に優れ、耐久性に優れることになる。
前記ブーツ取付方法を用いた等速自在継手では、ブーツを安定した接合力で接合することができ、長期にわたって優れたシール性を発揮する。
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。図3は本発明に係る等速自在継手(バーフィールド型の固定式等速自在継手)を示している。軸方向に延びる複数のトラック溝21が内径面22に周方向等間隔に形成された外側継手部材23と、軸方向に延びる複数のトラック溝24が外径面25に周方向等間隔に形成された内側継手部材26と、外側継手部材23のトラック溝21と内側継手部材26のトラック溝24との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のボール27と、外側継手部材23の内径面22と内側継手部材26の外径面25との間に介在してボール27を保持するケージ28とを備えている。
内側継手部材26の軸心孔の内周に雌スプライン29が形成され、シャフト30の端部雄スプライン31がこの内側継手部材26の軸心孔に嵌入されて、雌スプライン29と端部雄スプライン31とが嵌合する。また、シャフト30の端部雄スプライン31には、周方向溝32が形成され、この周方向溝32にストッパとしての止め輪33が装着されている。
そして、外側継手部材23の開口部はブーツ35にて密封される。ブーツ35は、大径の取付部(ブーツ端部)35aと、小径の取付部(ブーツ端部)35bと、大径の取付部35aと小径の取付部35bとを連結する屈曲部としての蛇腹部35cとからなる。ブーツ材質としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリスチレン系、塩化ビニル系、シリコーン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂材料で形成される。本実施形態ではこの中でも、コストに対して機械的強度、耐熱性、耐油性等に優れた特性を示すポリエステル系の熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリエステルエラストマー)を主成分とする樹脂材料で形成される。
ブーツ35の大径の取付部(一方のブーツ端部)35aは外側継手部材23の開口側の外径面の被取付面(金属製の相手部材の被取付面)40に取付固定され、小径の取付部(他方のブーツ端部)35bはシャフト30の大径部の外径面(金属製の相手部材の被取付面)41に取付固定される。
これらの取付固定には、図1と図2に示すように、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)を用いる。この場合、ブーツ端部35a、35bが、反取付面である外径面45A,45Bを、ブーツ内部側からブーツ外部側に向って縮径するテーパ面51A,51Bとしている。このテーパ面51A,51Bの傾斜角度θとしては、5°〜30°程度に設定される。
また、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)はリング体をなし、その内径面50Aa,50Baには、断熱材46A、46Bが付設されている。この断熱材46A、46Bは、その外径面46Aa、46Baが円筒面とされ、その内径面46Ab、46Bbが、ブーツ内部側からブーツ外部側に向って縮径するテーパ面47A,47Bとされる。このテーパ面47A,47Bの傾斜角度θ1としても、5°〜30°程度に設定される。これらの高周波誘導加熱コイル50A,50Bは導電性のある銅線等からなり、中実体であっても、中空体であってもよい。
断熱材46(46A,46B)としては、セラミックス、グラスウール、セラミックスファイバー、セメント板、シリコーンゴムなどの一般的な断熱材を使用することができる。この場合、耐熱性の高いセラミックスやグラスウールなどの無機系材料からなるのが好ましく、さらには、断熱性が高いこれらの発泡体にても構成できる。
ところで、この断熱材46(46A,46B)は、被加熱物(相手部材である外側継手部材23やシャフト30)及び高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)の冷却が行われないので、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)への伝熱を少なくするために介在させている。このため、断熱材46(46A,46B)の肉厚としては、使用する材質に応じて種々採用することができるが、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)への伝熱を少なくできる寸法とする必要がある。
次に、図1及び図2に示す高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)を用いたブーツ35の取付方法を説明する。まず、外側継手部材23側について説明する。この場合、図2(a)に示すように、外側継手部材23のブーツ装着部である被取付面40に、一方のブーツ端部35aを外嵌した状態とする。次に、高周波誘導加熱コイル50Aを、外側継手部材23の反開口部側から一方のブーツ端部35aに嵌入する。この嵌入では、コイル50Aの嵌入方向下流側の内径寸法(断熱材の内径寸法)DAが大となり、ブーツ端部35aの嵌入方向上流側の外径寸法Daが小となっている。すなわち、DA>Daであり、このように設定されることにより、滑らかに嵌入することができる。
また、シャフト30側においては、図2(b)に示すように、シャフト30のブーツ装着部である被取付面41に、他方のブーツ端部35bを外嵌した状態とする。次に、高周波誘導加熱コイル50Bを、反等速自在継手側から他方のブーツ端部35bに嵌入する。この嵌入では、コイル50Bの嵌入方向下流側の内径寸法(断熱材の内径寸法)DBが大となり、ブーツ端部35bの嵌入方向上流側の外径寸法Dbが小となっている。すなわち、DB>Dbであり、このように設定されることにより、滑らかに嵌入することができる。
このように、高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)が、それぞれ、図1に示すように、セットされた状態において、コイル50A,50Bに高周波電流を流す。この際、電磁誘導作用によって導電体である金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)は、鉄損(渦電流損とヒステリシス損の和)により発熱し、この熱で、金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)に接している樹脂(一方のブーツ端部35aの取付面53A(図2参照),他方のブーツ端部35bの取付面53B(図2参照))の境界部が分解温度以上に急速に加熱して分解され、泡が発生する。これにより、前記した泡の周辺部分の高温の融液と金属(外側継手部材23の被取付面40、シャフト30の被取付面41)の表面に高温・高圧の条件が発生して、図1に示すように、ブーツ35の一方の端部35aの取付面53A(図2参照)と外側継手部材23の被取付面40との間およびブーツ35の他方の端部35bの取付面53B(図2参照)とシャフト30の被取付面41との間には、接合部55、56(図3参照)が得られる。
この結果、ブーツ端部35aの取付面53A(図2参照)と外側継手部材23の被取付面40およびブーツ端部35bの取付面53B(図2参照)とシャフト30の被取付面41をそれぞれ接合一体化して、ブーツ端部35aを外側継手部材23へ取付固定し、ブーツ端部35bをシャフト30へ取付固定することができる。
次に、図4は、高周波誘導加熱コイル50A,50Bが、一対の円弧状体60A,60A,60B,60Bを組み合わせてなる分割可能なリング体である。このため、ブーツ端部35a、35bの外径面45A,45Bが円筒面61A、61Bに形成される(図6参照)。この場合も、高周波誘導加熱コイル50A,50Bの内径面には、図5に示すように、断熱材48A、48Bが付設されている。
断熱材48A、48Bは、それぞれ、一対の半円弧体49A,49A,49B,49Bにて構成され、各円弧状体60A,60Aに半円弧体49A,49A,49B,49Bが付設されている。また、断熱材48A、48Bは、その外径面48Aa、48Ba及び内径面48Ab、48Bbが円筒面とされる。
従って、この分割タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bとしては、図4に示すように、円弧状体60A,60Aを、外側継手部材23に対して外径方向から装着(セット)することができ、円弧状体60B,60Bを、シャフト30に対して外径方向から装着(セット)することができる。
この分割タイプの高周波誘導加熱コイル50(50A,50B)が、それぞれ、図4に示すように、セットされた状態において、コイル50A,50Bに高周波電流を流せば、前記したように、ブーツ端部35aの取付面53A(図6参照)と外側継手部材23の被取付面40(図6参照)およびブーツ端部35bの取付面53B(図6参照)とシャフト30の被取付面41(図6参照)をそれぞれ接合一体化して、図6に示すように、ブーツ端部35aを外側継手部材23へ取付固定し、ブーツ端部35bをシャフト30へ取付固定することができる。
このように、前記したブーツ取付方法では、高周波誘導加熱コイル50A,50Bと、被加熱物(相手部材)との間に、ブーツ端部35a、35bが存在(介在)されることになる。ブーツ材質は樹脂であり、非導電性物質である。このため、高周波誘導加熱コイル50A,50Bとブーツ端部35a、35bとが断熱材46A,46Bを介して接触しても高周波誘導加熱コイル50A,50Bが破損することはない。また、ブーツ端部35a、35bの肉厚としては通常は一定であるため、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを、断熱材46A,46Bを介してブーツ端部35a、35bの取付面外径(反被着面)と接触させることにより、被加熱物である相手部材と高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップを(周方向に)正確に保つことができる。
すなわち、被加熱物である相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップを(周方向に)正確に保つことができるので、周方向の接着力(接合力)が均一となって、安定した接合力を発揮する。しかも、相手部材(外側継手部材23やシャフト30)と高周波誘導加熱コイル50A,50Bとの相対的な移動を必要とせず、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを有する高周波誘導加熱装置のコンパクト化および軽量化を図ることができ、低コストに寄与する。
しかも、高周波誘導加熱コイル50A,50Bと、被加熱物(相手部材)との間に、断熱材46A,46Bおよびブーツ端部35a、35bが存在(介在)することになり、高周波誘導加熱コイル50A,50Bへの伝熱を抑えることができ、連続使用時においても、安定した出力・接合力が得られるとともに、コイル寿命が長くなる利点がある。さらには、コイル温度上昇に起因するブーツ35と高周波誘導加熱コイル50A,50Bとの溶着を防止でき、作業性に優れたものとなる。
ところで、ブーツ端部35a、35bの取付面53A、53Bと相手部材(外側継手部材23やシャフト30)の被取付面40,41との直径比を0.995〜0.98の締め代とするのが好ましい。締め代が0.995以上未満では、金属(外側継手部材23やシャフト30)とブーツ材のミクロ的な密着が不足し、0.98より大きい締め代では、ブーツ35の圧入抵抗が大きく、組立に支障が出るおそれがある。
また、図1等に示すように、断熱材46A,46Bの内径面46Ab,46Bb及びブーツ端部35a、35bの反取付面である外径面45A,45Bを、ブーツ内部側からブーツ外部側に向って縮径するテーパ面47A,47B,51A,51Bとしたものでは、高周波誘導加熱コイル50A,50Bを、拡径している側からブーツ端部35a、35bの小径側を介して嵌入することができる。このため、高周波誘導加熱コイル50A,50Bの装着性(セット性)の向上を図ることができる。また、このようにテーパ面同士を接触させる場合、この接触した状態からさらに高周波誘導加熱コイル50A,50Bを押し込むことによって、その密着力を大きくとることができる。これによって、より安定した接合力を得ることができる。
なお、テーパ面47A,47B,51A,51Bのテーパ角度を5°〜30°としたのは、ブーツ35の成型性に基づくものであるが、5°未満では、嵌入性に劣り、30°を越えれば、被加熱部に対する高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップが軸方向端部において大きな差が生じて、相手部材の表面温度にバラツキが生じるおそれがある。
図4に示すように、分離タイプの高周波誘導加熱コイル50A,50Bを用いれば、断熱材46A,46Bの内径面46Ab,46Bbとブーツ端部35a,35bの反取付面である外径面45A,45Bとの接触を締め代とするのが好ましい。ブーツ35が少しでも締め代状態となると、接合部の周方向でのギャップ量が安定する。また、締め代が大きくなりすぎると高周波誘導加熱コイル50A,50Bを完全に閉じることができなくなり、その機能を果たせない(高周波誘導加熱コイル50A,50Bを構成しない)。このため、この場合、0.05mm〜0.3mmの締め代とするのが好ましい。
なお、ブーツ端部35a、35bと断熱材46A,46Bの内径面46Ab,46Bbの内径差は、コイル50A、50Bを閉じたときにブーツ材質の弾性変形により完全に密着できる範囲内であれば問題ないが、0mm〜0.3mmの範囲であってもよい。
ブーツ材質を熱可塑性ポリエステル系エラストマーとするのが好ましい。熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、機械的強度、成形性、弾性に優れておりブーツに必要とされる屈曲耐久性等の機能を具備させる素材として好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系エラストマーは熱変形しにくく、耐熱温度が高いため、この素材を等速自在継手の作動時など高温化に晒されるブーツに適用すると、高温によりブーツの耐久性が低下するのを防止することができる。
熱可塑性ポリエステル系エラストマーの分解温度が400℃〜500℃程度であり、電磁誘導加熱で得られ易い温度帯であり、このブーツ取付方法に用いるブーツ材料として最適となる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、前記実施形態では、外側継手部材側およびシャフト側においても、ブーツバンドを使用しないで、高周波誘導加熱を用いるものであったが、いずれか一方をブーツバンドを使用した既存の方法で取付固定するものであってもよい。
断熱材38の肉厚寸法としては、任意に設定できるが、被加熱物である相手部材と高周波誘導加熱コイル50A,50Bのギャップが大きく成り過ぎて、相手部材を十分に加熱できなくなる寸法にならないように設定する必要がある。
固定式等速自在継手として、図例のものに限らず、アンダーカットフリータイプの固定式等速自在継手であっても、ダブルオフセットタイプ、クロスグルーブタイプ、トリポードタイプの摺動式等速自在継手であってもよい。