以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図1(A)を参照して、本実施形態における光学フィルタ(光学素子)の構成について説明する。図1(A)は、光学フィルタ100の構成図である。光学フィルタ100は、屈折率nsの可視透光性を有する基板101上に積層された、互いに異なる構造を有する2つの多層膜構造(第1の多層膜構造102、第2の多層膜構造103)を備えて構成される。すなわち、第1の多層膜構造102は、基板101の第1の主面上(図1(A)中の基板101の上面)に形成されており、第2の多層膜構造103は、基板101の第1の主面とは反対側の第2の主面上(図1(A)中の基板101の下面)に形成されている。
第1の多層膜構造102は、面内微細形状、かつ、互い違いの構造を有する多層膜構造である。第2の多層膜構造103は、一般的な多層膜構造である。第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103はいずれも、複数の光学層の繰り返し構造を有し、所定の帯域の光を反射する。本実施形態において、積層面内方向であって互いに直交する方向をX、Y方向とし、深さ方向(積層面に直交する方向)をZ方向とする。Z方向の符号は、表層から基板101に向かう方向(図1(A)中の下方向)を正とする。面内微細形状とは、図1(A)中のXY平面において、所定の配列方向(例えばX方向)または二次元状(例えばX方向およびY方向)に第1の単位構造膜(幅W1の積層構造)および第2の単位構造膜(幅W2の積層構造)が交互に配列されている形状を意味する。また、互い違い構造とは、Z方向(積層方向)において、第1の単位構造膜に含まれる光学層104、105の積層構造と、第2の単位構造膜に含まれる光学層104、105の積層構造とが互いに所定のずれ量(ずれ幅D)だけずれている構造を意味する。
本実施形態において、第1の多層膜構造102は、少なくとも2種類の材質による光学層(互いに異なる材質からなる第1の光学層および第2の光学層)がm回繰り返して積層されることにより構成される。リプル抑制の目的などで、第1の多層膜構造102は、3種類以上の光学層を備えて構成されていてもよい。第2の多層膜構造103は、少なくとも2種類の材質による光学層(互いに異なる材質からなる第1の光学層および第2の光学層)がk回繰り返して積層されることにより構成される。またリプル抑制の目的などで、第2の多層膜構造103は、3種類以上の光学層を備えて構成されていてもよい。
本実施形態において、第1の多層膜構造102は、繰り返し構造における(複数の光学層のうち)屈折率nH1を有するZ方向(積層方向における)平均層厚dH1(物理層厚)の光学層104(第1の光学層)を有する。また光学フィルタ100は、nH1よりも低い屈折率nL1を有するZ方向の平均層厚dL1(物理層厚)の光学層105(第2の光学層)を備えている。光学フィルタ100は複数の単位構造106を配列して構成されている。それぞれの単位構造106は、光学層104と光学層105とを交互にm回繰り返して積層して構成された幅W1の第1の単位多層膜、および、光学層104、105を交互に積層して構成された幅W2の第2の単位多層膜を有する。また、幅W1、W2の2つの単位多層膜(第1の多層膜および第2の多層膜)は、Z方向に(積層方向において)ずれ幅Dだけ互いにずれて配置された互い違い構造を有する。このような単位構造106は、例えば図1(A)に示されるように、凹凸の溝パターニングが施された基板101上に光学層104および光学層105を交互に積層することにより構成される。ただし本実施形態は、基板101に対する溝パターニングによる製法に限定されるものではない。
本実施形態において、第2の多層膜構造103は、繰り返し構造における(複数の光学層のうち)屈折率nH2を有するZ方向(積層方向における)平均層厚dH2(物理層厚)の光学層107(第3の光学層)を有する。また光学フィルタ100は、nH2よりも低い屈折率nL2を有するZ方向の平均層厚dL2(物理層厚)の光学層108(第4の光学層)を備えている。
図1(A)において、第1の多層膜構造102の形成面の裏面に第2の多層膜構造103が形成されているが、本実施形態はこのような構成に限定されるものではなく、二つの多層膜構造により構成されていればよい。例えば、第1の多層膜構造102の下に第2の多層膜構造103を形成させてもよく、第1の多層膜構造102を形成する基板101とは異なる基板上に第2の多層膜構造103を形成させてもよい。
光学フィルタ100は、第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103を備えて構成されており、第1の多層膜構造102は、複数の単位構造106を面内(XY面内)に配列することにより形成されている。本実施形態において、単位構造106は、以下の条件式(1)、(2)を満たす。これにより、反射波長または透過波長の入射角度依存性を低減可能な光学フィルタを実現することができる。
15(deg.)<φ<55(deg.) … (1)
1.5<nH1・dH1/nL1・dL1<5.0 … (2)
条件式(1)において、φは、図1(A)に示される単位構造106内で定義される構造(多層膜構造)の傾斜角である。傾斜角φは、以下の式(3a)または式(3b)により定義される。
φ=tan−1(|D|/0.5(W1+W2))
(|D|≦0.5(dL1+dH1)の場合) … (3a)
φ=tan−1(((dL1+dH1)−|D|)/0.5(W1+W2))
(|D|>0.5(dL1+dH1)の場合) … (3b)
深さz方向の多層膜周期は(dL1+dH1)であるため、D=0.5(dL1+dH1)を境界として、式(3a)、(3b)の傾斜角φの大小関係は逆転する。そこで、ずれ幅Dの値で条件分けを行い、式(3a)、(3b)により与えられる値のうち絶対値が小さい値を傾斜角φとして定義する。以下、式(3a)、(3b)を合わせて式(3)という。
図1(B)は、定義された傾斜角φと入射角度θの回転方向の正負との関係を定義する図である。図1(B)の[a]、[b]は、式(3a)、(3b)により定義された傾斜角φをそれぞれ示している。XY面内方向(水平方向)から図1(B)中の傾斜角φを開く(大きくする)回転方向を、入射角度θの正の回転方向と定義する。図1(B)の[a]に示されるように、|D|≦0.5(dL1+dH1)の場合、右回り方向が入射角度θの正の回転方向と定義する。一方、図1(B)の[b]に示されるように、|D|>0.5(dL1+dH1)の場合、左回り方向が入射角度θの正の回転方向と定義する。以下、入射角度依存性をより低減させるために必要な光学フィルタの諸条件について説明する。
まず、諸条件の説明の前に、第2の多層膜構造103に相当する単純多層膜と、第1の多層膜構造102に相当する互い違い多層膜構造のそれぞれに関して、反射中心波長の入射角度依存性について比較して説明を行う。比較の説明に際して、表1に示される構造パラメータを有する面内微細形状を有しない単純多層膜、および、互い違い多層膜の反射スペクトルの入射角度依存性を計算により求める。ここでの互い違い多層膜構造は、Y方向において一様、X方向において単位構造が一次元格子をなすように形成されたものとする。スペクトル計算は全て、Finite Difference Time Domain(FDTD)法、またはRigorous Coupled Wave Analysis(RCWA)法により行われる。FDTD法は、入力した誘電率分布構造を微小なメッシュ空間に区切り、隣接するメッシュ間に対してMaxwell方程式を解くことにより、電場・磁場の時間発展を計算する手法である。RCWA法は、入力した階段格子各層の誘電率分布をフーリエ級数展開し、Maxwell方程式により与えられる各層の境界条件から得られる反射回折成分・透過回折成分を求め、逐次計算することにより構造全体の反射・透過回折効率を求める計算手法である。
図2(A)は、比較例として表1中に構造パラメータが示される単純多層膜の分光反射率の入射角度依存性である。以下の説明において、単純多層膜における高屈折率光学層の屈折率と層厚をそれぞれnH2、dH2、低屈折率光学層の屈折率と層厚をそれぞれnL2、dL2とする。図2(A)において、横軸は波長λ(nm)、縦軸は反射率(%)をそれぞれ示している。分光反射波長シフト量の入射角度依存性の議論のため、図2(A)に示されるように、反射中心波長λrefは、反射率50%の短波長側の裾の波長と反射率50%の長波長側の裾の波長との中点(中央)の波長であると定義する。図2(A)は、入射角度θ=0、30、60deg.のそれぞれの結果を示している。ここでの入射光は、偏光光(P偏光)である。単純多層膜においては、入射角度θが増大するにつれて単調に短波長シフトする振る舞いが得られる。
続いて、第1の多層膜構造102に相当する互い違い多層膜構造の入射角度依存性について説明する。以下の説明において、互い違い多層膜における高屈折率光学層の屈折率と層厚をそれぞれnH1、dH1、低屈折率光学層の屈折率と層厚をそれぞれnL1、dL1とする。図2(B)は、本実施形態における表1中に構造パラメータが示される互い違い多層膜構造の分光反射率の入射角度依存性である。図2(B)は、入射角度θ=0、30、60deg.のそれぞれの結果を示している。ここでの入射平面は、格子に垂直なXZ平面、P偏光(TM偏光)の入射である。図2(B)において、互い違い多層膜構造の反射中心波長λrefは、入射角度が増大するにつれて単調増加する。図2(A)、(B)に示される単純多層膜および互い違い多層膜構造の入射角度依存性は、互いに逆方向の波長シフトとなる。
図3(A)は、比較例として表1で構造パラメータが示される単純多層膜の反射中心波長λrefの入射角度依存性である。図3(B)は、本実施形態における表1で構造パラメータが示される互い違い多層膜の反射中心波長λrefの入射角度依存性である。図3(A)、(B)において、横軸は入射角度θ、縦軸は反射中心波長λrefをそれぞれ示している。また図3(A)、(B)において、実線は表1の構造パラメータを有する多層膜構造に対する入射角度依存性である。図3(A)中の点線301は、スネルの法則による計算モデル結果である。
図3(A)に示されるように、比較例としての単純多層膜における反射中心波長λrefの入射角度依存性は、点線301に示される計算モデル結果に類似している。一方、本実施形態における互い違い多層膜における反射中心波長λrefの入射角度依存性は、入射角度θが増大するにつれて、反射中心波長λrefは長波長シフトするため、単純多層膜と同様のスネルの法則による計算モデルでは説明できない。これは本実施形態の構造において、面内X方向の周期は波長と略同程度であり、深さZ方向の周期に対して十分大きい異方的な構造であることに起因する。
そこで、本実施形態の多層膜を、図3(C)に示されるように傾斜多層膜としてみなし、反射中心波長λrefの近似計算を行う。近似計算は、簡単のため、媒質内での平均進行角度<θ’>を用いることにより行われる。平均進行角度<θ’>は、格子の配列方向に平行な偏光(TM偏光)の光が垂直入射したときの有効屈折率neff={2/(1/nH12+1/nL12)}1/2を用いることにより、スネルの法則から<θ’>=sin−1(sinθ/neff)と求められる。有効屈折率neffの計算において、屈折率nH1の媒質と屈折率nL1の媒質が1:1に充填された一次元格子構造を想定している。以上の<θ’>を用いると、傾斜多層膜における反射中心波長λrefの入射角度θ依存性は、λref(θ)=λref’cos(<θ’>−φ)に従う。ここで、λref’はλref’=2(nHdH+nLdL)cosφにより定まる構成膜の光路長ndにより定まる反射波長である。λref’の式中のcosφは、傾斜多層膜にみなしたことによる、実質的な光学層厚減少に起因する項である。
図3(B)中の点線302は、傾斜多層膜として近似した際の反射中心波長λrefの入射角度依存性の計算モデル結果を示している。計算モデル結果の点線302は、0deg.からsin−1(neffsinφ)なる入射角度の範囲まで、本実施形態の結果をよく再現している。ここで、角度sin−1(neffsinφ)は、媒質中の平均進行角度<θ’>がφとなる、空気中における入射角度に相当する値である。λref(θ)の関係式から、媒質中における光の平均進行角度<θ’>が傾斜角φとのずれが大きくなるにつれて実効層厚変化が大きくなり、角度変化に対して波長シフト量が大きくなることがわかる。以上から、互い違い多層膜構造の入射角度の増大に対して単調の長波長シフトの振る舞いは、単純多層膜におけるスネルの法則を用いた入射角度依存性によっては説明されず、傾斜多層膜にみなすことにより説明される。
また、図3(A)、(B)の比較から、互い違い多層膜構造の波長シフト量は、sin−1(neffsinφ)を中心とした角度範囲において、単純多層膜と比較して大きく低減されることがわかる。すなわち、sin−1(neffsinφ)を中心とした角度範囲においては、互い違い多層膜構造は、波長シフト量を低減するフィルタとして機能する。フィルタの使用時に要求される入射角度範囲が十分大きい場合、入射角度範囲の中点の角度で入射した際の<θ’>と傾斜角φとを一致させることができる。このときに、要求される入射角度範囲内において波長シフト量を大きく低減することが可能である。条件式(1)における傾斜角φの範囲を満たしていれば、sin−1(neffsinφ)を中心とした十分広い入射角度範囲において、反射波長の入射角度依存性を低減させることができる。
次に、第1の多層膜構造102単独でも、さらに入射角度依存性を低減することが好ましいため、条件式(2)を満たすことが必要であることを説明する。図4(A)は、互い違い多層膜である第1の多層膜構造102の分光反射率の入射角度依存性を示す図である。図4(A)において、|θ|min=30deg.、|θ|max=60deg.とした場合のλedgeおよびΔλedgeの定義を示している。|θ|max、|θ|minは、それぞれ、入射角度(光線入射角範囲)の絶対値の最大値(最大入射角度)と最小値(最小入射角度)である。λedgeは、400nmから700nmまでの可視域内における反射帯域の反射率50%の短波長側の波長と長波長側の波長のうち、特定の入射角度範囲におけるシフト量が大きい波長として定義される。Δλedgeは、特定の入射角度範囲における、λedgeのシフト量の大きさと定義される。各実施例の比較において、波長シフト量の入射角度依存性の評価量としてΔλedgeを採用する。
図4(A)において、光学層104の屈折率nH1は2.36、平均層厚dH1は70nmである。また、光学層105の屈折率nL1は1.47、平均層厚dL1は115nmである。また第1の多層膜構造102は、基板101の屈折率ns=1.47、幅W1=W2=135nm、D=92.5nm、繰り返し数mは8回とした互い違いの単位構造がX方向に一次元格子をなすように配列されて構成されている。入射平面はXZ平面、偏光はP偏光(TM偏光)、入射角度範囲(入射角度θの範囲)はθ=30deg.からθ=60deg.である。このような構造において、nH1・dH1/nL1・dL1は1.0となり、Δλedge=40nmという結果が得られる。
続いて、θ=45deg.における反射中心波長λrefがλ0〜540nmで一定となるように、dH、dLの比を変化させた際のΔλedgeのnH1・dH1/nL1・dL1依存性について考える。図4(B)は、ΔλedgeのnH1・dH1/nL1・dL1依存性を示す図である。λedgeは、反射率50%の長波長側の裾の波長と定義される。図4(B)において、横軸の最低値nH1・dH1/nL1・dL1=1.0におけるdH1、dL1は、それぞれ、70nm、115nm、横軸の最大値nH1・dH1/nL1・dL1=3.8におけるdH1、dL1は、それぞれ、105nm、45nmである。図4(B)に示されるように、nH1・dH1/nL1・dL1の増加に伴い、Δλedgeは低減する。図4(B)のプロットでは、nH1・dH1/nL1・dL1の上限は3.8となっている。nH1・dH1/nL1・dL1を更に増加させると、帯域幅縮小や反射率低下などの性能劣化が顕著になるため、好ましくない。以上から、入射角度依存性を効果的に低減するには、nH1・dH1/nL1・dL1を、条件式(2)を満たすように設定する必要がある。
ここまでの説明で、互い違い多層膜単独でも単純多層膜と比較して入射角度依存性を低減させる性能を有することが示された。ただし、図3(B)に示されるように、低角度入射時にはシフト量が大きいという課題がある。そこで本実施形態は、互い違い多層膜と単純多層膜を組み合わせてそれぞれの反射波長を制御することにより、互い違い多層膜の低角度入射時における波長シフトを低減する。
図5は、互い違い多層膜と、反射波長が制御された単純多層膜の反射帯域の入射角度依存性の概念図である。図5(A)は、入射角度の最小値|θ|minが入射した場合、図5(B)は入射角度の最大値|θ|maxが入射した場合における、互い違い多層膜、単純多層膜、および組み合わせ構造(全構造)の反射帯域をそれぞれ示している。前述のように、互い違い多層膜および単純多層膜に関し、入射角度θの変化に対する反射波長のシフト方向は互いに異なる。この入射角度依存性を利用し、入射角度の最小値|θ|minが入射した場合における単純多層膜の反射帯域を、互い違い多層膜の反射帯域の長波長側の裾とが重なり、かつ連続的な帯域を形成するように設計を行う。これにより、中心反射波長λrefが入射角度θに依存せず、略一定な性能を得ることができる。以上のとおり、互い違い多層膜および単純多層膜の二つの多層膜を組み合わせた本実施形態の構造は、入射角度依存性を効果的に低減可能な性能を有する。
次に、所望の波長帯域に対して光学フィルタ100が反射率を有するために、第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103の屈折率と層厚とが満たすべき関係について説明する。光学フィルタ100を使用した場合の入射角度θ(光線入射角範囲)の絶対値の最大値(最大入射角度)と最小値(最小入射角度)をそれぞれ|θ|max、|θ|minと定義する。また、θ0=(|θ|max+|θ|min)/2なる中心入射角度で入射する際の第1の多層膜構造102の反射中心波長をλref1、第2の多層膜構造103の反射中心波長をλref2と定義する。入射偏光は、第1の多層膜構造102が形成する格子の配列方向に平行方向であるとする。
また、所望の波長帯域に光学フィルタ100が反射率を有するためには、反射中心波長λref1、λref2を制御する必要がある。反射中心波長λref1、λref2は、それぞれの光学層の光学的距離により決定されるため、平均層厚dH1、dL1、屈折率nH1、nL1、および、平均層厚dH2、dL2、屈折率nH2、nL2が以下の条件式(4)、(5)を満たすことが好ましい。
0.35<(nH1・dH1(φ,<θ1>)+nL1・dL1(φ,<θ1>))/λref1<0.65 … (4)
0.35<(nH2・dH2(θH2)+nL2・dL2(θL2))/λref2<0.65 … (5)
条件式(4)、(5)は、それぞれの光学層の斜入射に伴い減少した実効的な層厚で記述されている。反射中心波長λref1、λref2は、いずれも反射帯域における反射率50%の短波長側の波長と長波長側の波長の中点によって定義される波長である。第1の多層膜構造102における平均層厚dH1の斜入射による実効膜厚dH1(φ,<θ1>)は、dH1(φ,<θ1>)=dH1・cosφ・cos(<θ1>−φ)により与えられる。第1の多層膜構造102における平均層厚dL1の斜入射による実効膜厚dL1(φ,<θ1>)は、dL1(φ,<θ1>)=dL1・cosφ・cos(<θ1>−φ)により与えられる。ここで、平均進行角度<θ1>および平均屈折率neffはそれぞれ、<θ1>=sin1−1(n0・sinθ0/neff)、neff={2/(1/nH12+1/nL12)}1/2により与えられる。ここで、n0は光学フィルタ100への入射媒質の屈折率である。
第2の多層膜構造103における斜入射による実効膜厚dH2(θH2)、dL2(θL2)はそれぞれ、dH2(θH2)=dH2・cosθH2、dH2(θL2)=dL2・cosθL2により与えられる。また、進行角度θH2、θL2はそれぞれ、スネルの法則からθH2=sin−1(n0・sinθ0/nH2)、θL2=sin−1(n0・sinθ0/nL2)により与えられる。以上から、平均層厚dH1、dL1、屈折率nH1、nL1、平均層厚dH2、dL2、屈折率nH2、nL2、および、傾斜角φは、条件式(4)、(5)を満たすことが好ましい。
次に、第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103の中心反射波長λref1、λref2の関係について説明する。波長シフトを抑制するには、2つの構造の反射波長の関係は、図5を参照して説明した関係である必要がある。すなわち、|θ|minなる角度で光線が入射する場合、第1の多層膜構造102の中心反射波長λref1は、第2の多層膜構造103の中心反射波長λref2と比較して、短波長側であることが好ましい。|θ|maxなる角度で光線が入射する場合、第1の多層膜構造102の中心反射波長λref1は、第2の多層膜構造103の中心反射波長λref2と比較して、長波長側であることが好ましい。この関係を満たさない場合、所望の入射角度範囲内で波長シフトを効果的に低減することができない可能性があるため、好ましくない。
第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103のそれぞれが形成する反射波長帯域が連続的となる必要があるため、中心入射角度における中心反射波長λref1、λref2は略同一の波長であることが好ましい。第1の多層膜構造102が形成する格子の配列方向に平行な偏光光が中心入射角度θ0で入射する場合、中心反射波長λref1、ref2は、以下の条件式(6)を満たすことが好ましい。
0.75<(λref1/λref2)<1.25 … (6)
条件式(6)を満たさない場合、特定の入射角度範囲内において連続的な反射帯域を形成しない恐れがあるため、好ましくない。
また、第2の多層膜構造103単独でも入射角度依存性が低減されており、高角度入射の際にも第1の多層膜構造102の形成する反射帯域に内包されることが好ましい。このため、屈折率nL2は以下の条件式(7)を満たすことが好ましい。
1.5<nL2<2.0 … (7)
条件式(7)を満たさない場合、第2の多層膜構造103単独での入射角度依存性を効果的に低減することができない。また、帯域幅が不要に大きくなり、光学フィルタ100の入射角度依存性に対して影響を与えるため好ましくない。
単位構造106内のずれ幅の絶対値|D|は、Z方向の半周期(dH1+dL1)/2を中心とした値を有することが好ましい。このため、以下の条件式(8)を満たすことが好ましい。
0.25(dH1+dL1)≦|D|≦0.75(dH1+dL1) … (8)
条件式(8)を満たさない場合、単純多層膜における干渉反射条件nH1dH1+nL1dL1=λ0’/2により見積もられる波長λ0’を中心とした帯域の反射が強く生じるため、好ましくない。
また、幅W1、W2は互いに同一の値である必要はなく、幅W1、W2は、以下の条件式(9)、(10)を満たせばよい。
W1≧W2 … (9)
W1/(W1+W2)≦0.8 … (10)
条件式(10)の右辺値を超えると、互い違い構造に由来する反射だけでなく、単純多層膜における干渉条件nH1dH1+nL1dL1=λ0’/2から見積もられる波長λ0’を中心とした帯域の反射が強く生じるため、好ましくない。
本実施形態において入射角度依存性を低減するには、|θ|minから|θ|maxの角度範囲で光線が入射した場合の波長λedge(反射エッジ波長)の入射角度変化によるシフト量Δλedgeが以下の条件式(11)、(12)を満たすことが好ましい。
|Δλedge|/n0≦20nm … (11)
(cos|θ|min−cos|θ|max)/n0>0.36 … (12)
条件式(11)、(12)において、n0は光学フィルタ100への入射媒質の屈折率である。λedgeは、400nmから700nmまでの可視域内における光学フィルタ100の反射帯域の反射率50%の短波長側の波長または長波長側の波長のうち、入射角度変化によるシフト量が大きい波長である。
次に、第1の多層膜構造102に由来する回折の抑制について説明する、第1の多層膜構造102への入射媒質の屈折率n0である場合、単位構造106の幅W=W1+W2は、以下の条件式(13)を満たすことが好ましい。
0<W<λref2/(n0(sin|θ|max+1)) … (13)
条件式(13)は、|θ|maxなる角度で入射した場合、中心反射波長λref2で回折が発生しないための条件である。条件式(13)を満たさない場合、|θ|maxなる角度において反射回折が生じてしまうため、好ましくない。
本実施形態において、光学フィルタ100の第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103の少なくとも一つは、リップル低減層を含んでもよい。光学フィルタ100は、リップル低減層として例えば第1の多層膜構造102または第2の多層膜構造103に含まれる光学層(第5の光学層)を設けることができる。また、リップル低減層として2つ以上の光学層を第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103の少なくとも一つに形成してもよい。なお本実施形態において、第1の多層膜構造102は一次元周期性を有する構造として説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。面内XY方向でそれぞれ格子をなすように(二次元状に)配列された二次元周期性を有する互い違い多層膜構造についても、XZ平面およびYZ平面における入射角度依存性を低減させる光学フィルタとして働くため、本実施形態が適用可能である。
図6は、第1の多層膜構造が二次元周期性を有する光学フィルタ600の構成図である。二次元周期性を有する多層膜構造をZ方向から俯瞰すると、図6(A)に示されるように、凹凸形状を有する平面図となる。図6(A)において、601は凸部領域、602は凹部領域である。二次元周期性を有する互い違い多層膜構造の単位構造は、X方向と同様にY方向も単位構造内のずれ幅Dによる互い違いの構造を有する。図6(B)、(C)に示されるように、凸部領域601および凹部領域602のX方向の幅をそれぞれWx1、Wx2、Y方向の幅をそれぞれWy1、Wy2と定義する。このときの単位構造605は、図6(D)に示されるように、4つの多層膜構造がそれぞれ幅Wx1、Wx2、Wy1、Wy2を有し、互いにZ方向にDだけずれて凹凸をなすように配置され、Z方向から俯瞰した際の平面図が長方形をなす形状となる。XZ平面、YZ平面で切り出した断面形状は、図6(B)、(C)に示される形状603、604となる。このとき、Wx1、Wx2、Wy1、Wy2を用いて、傾斜角φX、φYは、傾斜角φと同様に、以下の式(3a’)、(3b’)、(3a’’)、( 3b’’)により定義される。
φX=tan−1(|D|/(0.5(Wx1+Wx2)))
(|D|≦0.5(dL1+dH1)の場合) … (3a’)
φX=tan−1(((dL1+dH1)−|D|)/(0.5(Wx1+Wx2)))
(|D|>0.5(dL1+dH1)の場合) … (3b’)
φY=tan−1(|D|/(0.5(Wy1+Wy2)))
(|D|≦0.5(dL1+dH1)の場合) … (3a’’)
φY=tan−1(((dL1+dH1)−|D|)/(0.5(Wy1+Wy2)))
(|D|>0.5(dL1+dH1)の場合) … (3b’’)
また、入射角度依存性を低減するには、X方向およびY方向のそれぞれに対して定義される傾斜角φX、φYが、以下の条件式(1’)、(1’’)を満たすことが好ましい。
15(deg.)<φX<55(deg.) … (1’)
15(deg.)<φY<55(deg.) … (1’’)
以上の構造は、XZ平面内およびYZ平面内のそれぞれにおける入射角度依存性を低減させるために、好ましい構造である。
本実施形態の光学フィルタ100を構成する微細素子構造は、例えば微細加工を施した基板上に積層を行うことにより作製される。微細加工の方法としては、一般的なエッチング技術、ナノインプリント技術などが挙げられる。積層成膜方法としては、一般的な蒸着法やスパッタリング法が挙げられる。また断面形状は矩形とは異なるが、積層とエッチングを繰り返すことにより、ジグザグ形状回折格子を多重に積層させるオートクローニング技術を用いてもよい。また、前述の作製方法に限定されるものではなく、本実施形態に適した微細な凹凸形状加工の方法や積層成膜の方法を利用して作製すればよい。また、積層成膜方法によっては、横堆積などにより表層に近づくにつれ矩形の形状から崩れることが想定されるが、傾斜角φは、常に最下層における構造の幅W1、W2、最下層におけるZ軸方向のずれ幅Dを用いて、式(3)により定義される。
次に、本発明の実施例1における光学フィルタについて説明する。緑色帯域を反射する本実施例の光学フィルタは、入射角度範囲45±15deg.において波長シフトを低減するよう設計されており、例えば液晶プロジェクタにおける白色分光用ダイクロイックフィルタに用いられる。以降、青色帯域は主に400〜500nm、緑色帯域は500〜600nm、赤色帯域は600〜700nmを示すが、各帯域はこれらの波長帯域に明確に限定されるものではない。
本実施例における光学フィルタ100の構成は、図1(A)に示されるとおりであるため、その詳細な説明は省略する。光学フィルタ100は、屈折率ns=1.47の合成石英の基板101の両面の上にそれぞれ第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103を有する。第1の多層膜構造102は、屈折率nH1=2.36のTiO2による光学層104(第1の光学層)、屈折率nL1=1.47のSiO2による光学層105(第2の光学層)が交互に繰り返し積層された構造を有する。また、光学層104の平均層厚dH1(物理層厚)は109nm、光学層105の平均層厚dL1(物理層厚)は43nmである。光学フィルタ100は、光学層104と光学層105とが交互に8回繰り返し積層されて構成されている。また、幅W1=W2=135nmの単位多層膜構造をZ方向のずれ幅D=(dL1+dH1)/2=81nmだけずれてX方向に配置される複数の単位構造106を有する。単位構造106のY方向の形状は一様である。このように光学フィルタ100は、複数の単位構造106が基板101上にX方向に 一次元格子をなすように配列されて構成されている。第1の多層膜構造102の構造パラメータは、表2(A)にまとめられている。
第2の多層膜構造103は、リプル除去のため、2種類以上の光学層厚の異なる複数層により構成されている。繰り返し層に関する構造パラメータは、表2(B)にまとめられている。また、全体の構成については、表2(C)にまとめてられている。繰り返し層はそれぞれ屈折率nH2=2.36のTiO2による光学層107(第3の光学層)、屈折率nL2=1.62のAl2O3による光学層108(第4の光学層)である。光学層107の平均層厚dH2(物理層厚)は102nm、光学層108の平均層厚dL2(物理層厚)は28nmである。光学層107と光学層108は交互に12回繰り返し積層されて構成されている。なお、図1(A)は、矩形の一次元格子のパターニングが施された基板101上に各光学層が積層された構造を示しているが、必ずしも基板101にパターニングを施さなくてもよい。
続いて、図7を参照して、本実施例の緑色帯域反射ダイクロイックフィルタの反射率スペクトルについて説明する。図7(A)、(B)、(C)はそれぞれ、本実施例における光学フィルタ100の第1の多層膜構造102、第2の多層膜構造103、および、それらを組み合わせた構造の分光反射率の入射角度依存性である。図7において、横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)をそれぞれ示している。入射平面はXZ平面、偏光はP偏光(TM偏光)である。図7(C)に示されるように、入射角度θ=45deg.における反射中心波長は550nmであり、反射率90%以上、半値全幅が100nmの反射帯域を有する。
図8は、第1の多層膜構造102(互い違い多層膜)、第2の多層膜構造103(単純多層膜)、および、それらを組み合わせた光学フィルタ100(実施例1)の各反射波長の入射角度依存性である。図8(A)は波長λplusの入射角度依存性、図8(B)は波長λminusの入射角度依存性、図8(C)は波長λedgeの入射角度依存性をそれぞれ示す。波長λplusは反射率50%の長波長側の裾の波長、波長λminusは反射率50%の短波長側の裾の波長、波長λrefはλplusとλminusの中点と定義される。第1の多層膜構造102と第2の多層膜構造103とを組み合わせることにより、光学フィルタ100の波長λplusは、第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103のうち、より長波長側の波長λplusと略同一の波長となる。同様に、光学フィルタ100の波長λminusは、第1の多層膜構造102および第2の多層膜構造103のうち、より短波長側の波長λplusと略同一の波長となる。このように、光学フィルタ100の波長λplusと波長λminusとの関係から、光学フィルタ100の波長λrefの入射角度依存性は効果的に低減される。例えば、入射角度θ=30deg.から60deg.までの変化(入射角度変化)に伴う波長λrefは、5nmとなる。また、入射角度変化に対する波長シフト量の関係から、波長λedgeはλplusに相当し、図8(C)に示されているように、Δλedge/n0は10nmとなる。
図9は、比較例1Aとしての、第2の多層膜構造103に相当する単純多層膜により構成されたθ=45deg.入射時に緑色帯域を反射するダイクロイックフィルタの反射スペクトルの入射角度依存性を示す。図9から、Δλedgeは−50nmとなる。図10は、比較例1Bとしての、第1の多層膜構造102に相当する互い違い多層膜のみにより構成されたθ=45deg.入射時に緑色帯域を反射するダイクロイックフィルタの反射スペクトルの入射角度依存性である。比較例1Bの構造パラメータは、表3にまとめられている。図10から、Δλedgeは25nmとなる。以上のとおり、本実施例は、比較例1A、比較例1Bと比較して、反射波長のシフトが低減されている。
各条件式に対する実施例1の値(数値実施例)は、表2(D)にまとめられている。単位構造106の傾斜角φは、29.4deg.であり、条件式(1)を満たす。nH1dH1/nL1dH1は、4.06であり、条件式(2)を満たす。条件式(4)、(5)についてもそれぞれ満たされている。また、最小値|θ|minで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造102は、第2の多層膜構造103に比べて短波長側の帯域の光線を反射する。一方、最大値|θ|maxで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造102は、第2の多層膜構造103に比べて長波長側の帯域の光線を反射する。これは、図9における入射角度の最小値|θ|minおよび最大値|θ|maxにおける波長λref1、λref2の関係から満たされていることがわかる。条件式(8)、(10)、(12)、(13)の関係も満たされていることは、表2(D)に示されている。また、図7(C)の結果から、Δλedgeに関する条件式(11)も満たされる。なお本実施例は、表2に示されるパラメータ(構造パラメータ)に限定されるものではない。構造パラメータのうち、dH1、dL1、W1、W2、D、dH2、dL2を略定数倍にすることにより、緑色帯域だけでなく青色帯域や赤色帯域を反射するダイクロイックフィルタを設計することができる。
次に、本発明の実施例2における光学フィルタについて説明する。青色帯域を反射する本実施例の光学フィルタは、入射角度範囲45±15deg.において波長シフトを低減するよう設計されており、例えば3板式撮像装置における白色分光用プリズムにおけるダイクロイックフィルタに用いられる。
図11を参照して、本実施例における光学フィルタ(光学素子)の構成について説明する。図11は、光学フィルタ1100の構成図である。光学フィルタ1100は、屈折率ns=1.47の2つの合成石英の基板1101A(第1の基板)の上面に、第1の多層膜構造1102および第2の多層膜構造1103を積層した構造を有する。基板1101B(第2の基板)は、基板1101Aとの接合面とは反対側において、基板1101A上面の第1の多層膜構造1102と接合されている。このように本実施例において、第1の多層膜構造1102および第2の多層膜構造1103は、基板1101Aと基板1101Bとの間に設けられている。
第1の多層膜構造1102は、屈折率nH1=2.36のTiO2による光学層1104(第1の光学層)、屈折率nL1=1.47のSiO2による光学層1105(第2の光学層)が交互に繰り返し積層された構造を有する。光学層1104の平均層厚dH1(物理層厚)は95nm、光学層105の平均層厚dL1(物理層厚)は90nmである。光学フィルタ1100は、光学層1104と光学層1105とが交互に10回繰り返し積層されて構成されている。また、幅W1=W2=77.5nmの単位多層膜構造をZ方向のずれ幅D=(dL1+dH1)/2=92.5nmだけずれてX方向に配置される複数の単位構造1106を有する。単位構造1106のY方向の形状は一様である。このように光学フィルタ1100は、複数の単位構造1106が基板1101上にX方向に一次元格子をなすように配列されて構成されている。第1の多層膜構造1102の構造パラメータは、表4(A)にまとめられている。
第2の多層膜構造1103はリプル除去のため、2種類以上の光学層厚の異なる層により構成されている。繰り返し層に関する構造パラメータは表4(B)にまとめられており、全体の構成については表4(C)にまとめてられている。繰り返し層の光学層はそれぞれ、屈折率nH2=2.36のTiO2による光学層1107(第3の光学層)、屈折率nL2=1.62のAl2O3による光学層1108(第4の光学層)である。光学層1107の平均層厚dH2(物理層厚)は102nm、光学層108の平均層厚dL2(物理層厚)は28nmである。光学層1107と光学層1108は、交互に10回繰り返し積層されて構成されている。
続いて、図12を参照して、本実施例の緑色帯域反射ダイクロイックフィルタの反射率スペクトルについて説明する。図12(A)は、本実施例における光学フィルタ1100の第1の多層膜構造1102と第2の多層膜構造1103とを組み合わせた場合の分光反射率の入射角度依存性である。図12(A)は、P偏光入射時とS偏光入射時の平均で示している。図12(B)、(C)はそれぞれ、第1の多層膜構造1102のP偏光入射時およびS偏光入射時の分光反射率の入射角度依存性である。図12(D)、(E)はそれぞれ、第2の多層膜構造1103のP偏光入射時およびS偏光入射時の分光反射率の入射角度依存性である。入射平面は、XZ平面である。図12(A)に示されるように、中心入射角度θ0=45deg.における430nmを中心とする反射帯域を有している。θ=30deg.から60deg.までの入射角度範囲において、Δλedge/n0=20nmとなる。
図13は、比較例2としての、面内微細形状を有しない単純多層膜により構成されたθ=45deg.入射時に青色帯域を反射するダイクロイックフィルタの反射スペクトルの入射角度依存性を示す。比較例2の光学フィルタの構成は、表5にまとめられている。図14は、本実施例および比較例2のλedgeの入射角度依存性をまとめた結果を示している。本実施例は、比較例2と比較して、Δλedgeを効果的に低減することができる。
各条件式に対する実施例2の値は、表4(D)にまとめられている。単位構造1106の傾斜角φは、50.4deg.であり、条件式(1)を満たす。nH1dH1/nL1dL1は、4.06であり、条件式(2)を満たす。条件式(4)、(5)についてもそれぞれ満たされている。また、最小値|θ|minで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造1102は、第2の多層膜構造1103に比べて短波長側の帯域の光線を反射する。一方、最大値|θ|maxで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造1102は、第2の多層膜構造1103に比べて長波長側の帯域の光線を反射する。これは、図12における入射角度の最小値|θ|minおよび最大値|θ|maxにおける波長λref1、λref2の関係から満たされていることがわかる。また条件式(8)、(10)、(12)、(13)の関係も満たされていることが表4(D)に示されている。また図12の結果から、Δλedgeに関する条件式(11)も満たされる。なお本実施例は、表4に示されるパラメータ(構造パラメータ)に限定されるものではない。構造パラメータのうち、dH1、dL1、W1、W2、D、dH2、dL2を略定数倍にすることにより、青色帯域だけでなく緑色帯域や赤色帯域を反射するダイクロイックフィルタを設計することができる。
次に、本発明の実施例3における光学フィルタについて説明する。青色帯域を反射する本実施例の光学フィルタは、入射角度範囲30±15deg.において波長シフトを低減するよう設計されており、例えば3板式撮像装置における白色分光用プリズムにおけるダイクロイックフィルタに用いられる。
本実施例における光学フィルタ1100の基本構成は、図11に示されるとおりである。このため、実施例2と共通する説明は省略する。光学層1104の平均層厚dH1(物理層厚)は100nm、光学層1105の平均層厚dL1(物理層厚)は70nmである。光学フィルタ1100は、光学層1104と光学層1105とが交互に11回繰り返し積層されて構成されている。また、幅W1=W2=85nmの多層膜構造をZ方向のずれ幅D=(dL1+dH1)/2=85nmだけずれてX方向に配置される複数の単位構造1106を有する。光学層1107の平均層厚dH2(物理層厚)は55nm、光学層1108の平均層厚dL2(物理層厚)は55nmである。光学層1107および光学層1108は、交互に15回繰り返し積層されて構成されている。
続いて、図15を参照して、本実施例の青色帯域反射ダイクロイックフィルタの反射率スペクトルについて説明する。図15(A)は、本実施例における光学フィルタ1100の第1の多層膜構造1102と第2の多層膜構造1103を組み合わせた場合の分光反射率の入射角度依存性である。図15(A)は、P偏光入射時とS偏光入射時の平均で示している。図15(B)、(C)はそれぞれ、第1の多層膜構造1102のP偏光入射時およびS偏光入射時の分光反射率の入射角度依存性である。図15(D)、(E)はそれぞれ、第2の多層膜構造1103のP偏光入射時およびS偏光入射時の分光反射率の入射角度依存性である。入射平面は、XZ平面である。図15(A)に示されるように、中心入射角度θ0=30deg.における430nmを中心とする反射帯域を有する。また、θ=15deg.から45 deg.までの入射角度範囲において、Δλedge/n0=20nmとなる。
各条件式に対する本実施例の値は、表4(D)にまとめられている。単位構造1106の傾斜角φは、50.4deg.であり、条件式(1)を満たす。nH1dH1/nL1dL1は、4.06であり、条件式(2)を満たす。条件式(4)、(5)についてもそれぞれ満たされている。また、最小値|θ|minで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造1102は、第2の多層膜構造1103に比べて短波長側の帯域の光線を反射する。一方、最大値|θ|maxで表される角度で光線が入射した場合、第1の多層膜構造1102は、第2の多層膜構造1103に比べて長波長側の帯域の光線を反射する。これは、図15における入射角度の最小値|θ|minおよび最大値|θ|maxにおける波長λref1、λref2の関係から満たされていることがわかる。また、条件式(8)、(10)、(12)、(13)の関係を満たすことは、表4(D)に示されている。図15(A)の結果から、Δλedgeに関する条件式(11)も満たされる。なお本実施例は、表4に示されるパラメータ(構造パラメータ)に限定されるものではない。構造パラメータのうち、dH1、dL1、W1、W2、D、dH2、dL2を略定数倍にすることにより、青色帯域だけでなく緑色帯域や赤色帯域を反射するダイクロイックフィルタを設計することができる。
次に、図16を参照して、本発明の実施例4における画像表示装置(光学装置)について説明する。図16は、画像表示装置1600の構成図である。
画像表示装置1600は、光源1601、偏光子1603、レンズ1604、ダイクロイックフィルタ1605、偏光分離素子1607、位相補償板1608、画像表示素子1609、偏光板1611、および、色選択性位相板1612を備えている。このような構成により、画像表示装置1600は、画像光を生成することができる。また画像表示装置1600は、合成プリズム1613、ダイクロイック膜1614、および、投射光学系1615を備え、各帯域の画像光の合成および投射を行う。
光源1601から発せられた照明光束1602は、偏光子1603に入射し、P偏光の照明光束1602pとなる。次に、照明光束1602pをレンズ1604により集光した後、緑色帯域反射のダイクロイックフィルタ1605に入射させる。緑色帯域反射のダイクロイックフィルタ1605への入射光束は、集光により、角度θの半開角を持って入射する。青色帯域光束1606bp、赤色帯域光束1606rpは、ダイクロイックフィルタ1605を透過する。
緑色帯域光束1606gpは、ダイクロイックフィルタ1605により反射され、偏光分離素子1607gに入射する。偏光分離素子1607gは、偏光分離面1607g1に入射する偏光のうち、P偏光を透過しS偏光を反射させる素子であり、緑色帯域光束1606gpを透過させる。緑色帯域光束1606gpは、位相補償板1608gおよび画像表示素子1609gへの照射により画像情報を含む分布に変換される。更に緑色帯域光束1606gpは、偏光変換されてS偏光となり、緑色帯域の画像光1610gとなる。その後、画像光1610gは偏光分離素子1607gに再入射され、偏光分離面1607g1により反射される。これにより、画像光1610gは、入射光路とは異なる光路に出射され、合成プリズム1613に向かう方向に進行する。
青色帯域光束1606bp、赤色帯域光束1606rpは、偏光板1611を透過することにより偏光度が向上し、その後、色選択性位相板1612に入射する。色選択性位相板1612は、青色帯域光束のみ偏光方向を90°変換させる特性を有する。これにより、赤色帯域光束の偏光状態は維持したまま、青色帯域光束は90deg.だけその偏光方向が回転した状態で(青色帯域光束1606bsとして)偏光分離素子1607brに入射する。偏光分離素子1607brは、偏光分離面1607r1に入射する偏光のうち、P偏光を透過しS偏光を反射する素子である。このような作用を有する素子は、例えば屈折率の異なる薄膜を偏光分離面1607br1に積層したものなどがある。偏光分離素子1607brの偏光分離面1607br1により、青色帯域光束1606bsは反射し、赤色帯域光束1606rpは透過し、色分離される。
青色帯域光束1606bsおよび赤色帯域光束1606rpは、位相補償板1608b、1608rをそれぞれ透過し、各色に対応する画像表示素子1609b、1609rにそれぞれ照射され、画像情報を含む分布に変換される。これらの画像光は、再び、位相補償板1608b、1608rを透過した後、偏光分離素子1607brに再入射する。ここで、青色帯域光束の画像光1610bは、偏光分離面1607br1を透過する。赤色帯域の画像光1610rは、偏光分離面1607br1で反射される。これにより、画像光1610b、1610rは合成され、合成プリズム1613に入射する。合成プリズム1613内のダイクロイック膜1614により、緑色帯域光束の画像光1610gは反射され、青色帯域光束の画像光1610b、赤色帯域光束の画像光1610rは透過することにより、青色、緑色、赤色の帯域の光が合成されて出射される。色合成された画像光は、投射光学系1615により投影および結像される。
画像表示装置1600において、角度θの半開角を持つ白色光束が、緑色帯域反射のダイクロイックフィルタ1605やダイクロイック膜1614に入射する。例えば、緑色帯域反射のダイクロイックフィルタ1605として実施例1の光学フィルタ100、ダイクロイック膜1614として実施例2の光学フィルタ1100を用いることができる。これにより、従来の多層膜において生じる入射角度に依存した波長変化による色味の変化を低減することができる。
次に、図17を参照して、本発明の実施例5における撮像装置(光学装置)について説明する。図17は、撮像装置1700の構成図である。
撮像装置1700は、第1のプリズム1701、第2のプリズム1702、および、第3のプリズム1703を有する。それぞれのプリズムは接合されており、第1のプリズム1701と第2のプリズム1702との接合面には、緑色反射ダイクロイック膜1704が設けられている。また、第2のプリズム1702と第3のプリズム1703との接合面には、青色反射ダイクロイック膜1705が備えられている。それぞれの接合面において分光された画像光が緑色撮像素子1706、赤色撮像素子1707、および、青色撮像素子1708に入射することにより、分光撮像が可能となる。
撮像装置1700に入射した白色画像光1709は、緑色反射ダイクロイック膜1704に入射することにより、緑色画像光1710と、赤色および青色画像光1711とに分離される。緑色反射ダイクロイック膜1704で反射された緑色画像光1710は、第1のプリズム1701と空気との界面で反射し、緑色撮像素子1706に入射する。緑色反射ダイクロイック膜1704を透過した赤色および青色画像光1711は、青色反射ダイクロイック膜1705により、赤色画像光1712と青色画像光1713とに分離される。青色反射ダイクロイック膜1705を透過した赤色画像光1712は、赤色撮像素子1707に入射する。青色反射ダイクロイック膜1705で反射した青色画像光1713は、青色撮像素子1708に入射する。以上により得られた各色の撮像素子における画像光情報から、分光撮像された画像を構成することができる。
撮像装置1700において、角度θの半開角を持つ白色画像光は、青色反射ダイクロイック膜1705に入射する。青色反射ダイクロイック膜1705として、例えば実施例2または実施例3の光学フィルタ1100が用いられる。これにより、従来の多層膜において生じる入射角度に依存した波長変化による色味の変化を低減することができる。なお本実施例は、図17を参照して説明したが、各撮像素子の種類、各撮像素子の波長帯域などの特性、光線に対する各撮像素子の配置角度などはこれらに限定されるものではない。例えば、青色反射ダイクロイック膜1705は、図17においては光線入射角度に対し45deg.の角度で配置されているが、例えば30deg.であってもよい。
このように各実施例の光学フィルタは、積層方向にずれ幅を有する互い違い多層膜構造と面内微細構造を有しない単純多層膜構造とを組み合わせて構成される。このため各実施例によれば、所望の入射角度範囲において反射波長の変化を低減可能な光学フィルタおよび光学装置を提供することができる。また各実施例によれば、色味の劣化を抑制可能な光学装置を提供することができる。
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
例えば、第1の多層膜構造が、第1および第2の光学層以外の層を有していてもよい。同様に、第2の多層膜構造が、第3および第4の光学層以外の層を有していてもよい。その際に、第1の光学層と第2の光学層との間、または、第3の光学層と第4の光学層との間に他の層が配置された構成を採ってもよい。