JP4125114B2 - 光学素子、光学変調素子、画像表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、使用光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造が持つ構造性複屈折作用を利用した光学素子、およびこれを備えた光学変調素子、光学装置、画像表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、複屈折材料として知られているものとして、方解石、水晶などの結晶性材料、液晶材料、複屈折性を持つプラスチック材料、高分子材料などが挙げられる。これらの複屈折材料は、位相板(1/4波長板、1/2波長板)、ローパスフィルターなどに応用されている。最近では、液晶プロジェクタや液晶ディスプレイ、デジタルスチルカメラなどの製品において複屈折材料の重要性は高まっている。
【0003】
一方、基板材料に使用光の波長よりも微細な周期の周期構造を作製することにより材料に複屈折を持たせることが可能である。ここで、使用光とは、素子に入射する光の中で、目的の効果を得ようとする波長領域の光を指す。例えば、可視光領域(波長0.40μmから0.70μm)において使用する位相板の場合、位相板に入射させる光が白色光だとすると、位相板には波長0.40μm以下の光や波長0.70μm以上の光も入射することになる。しかし、この場合、位相板は波長0.40μmから0.70μmの光に対して所望の位相差を与えることができればよいので、このような場合、入射光と区別して、0.40μmから0.70μmの光を使用光とする。このように構造によって生じる複屈折は構造性複屈折としてよく知られている。(非特許文献1)
構造性複屈折の特徴としては、
▲1▼ 複屈折量を微細周期構造の設計により任意に制御することが可能である。
▲2▼ 従来の水晶などの複屈折と比較して大きな複屈折量を持つ、ことが挙げられる。
【0004】
ここで、構造性複屈折作用を持つ一次元格子形状の例を図39に示す。構造性複屈折を実現するためには、格子の周期方向Aに対して屈折率の異なる2つの材料31,32を用いる。図39においては、低屈折率材料32として空気を用いているが、図40のように屈折率の異なる格子材料41,42を多数貼り合わせた構造によっても実現できる。
【0005】
図40の例においては、屈折率の異なる2つの格子材料(格子材料41および格子材料42)を用いた構造性複屈折作用を有する構造を表わしている。
【0006】
以上のような構造は、例えば、エッチング、電子ビーム描画、LIGAプロセス、フォトリソグラフィー、多光束レーザー干渉法、多積層薄膜などの手法によって作製することが可能である。
【0007】
また、一次元格子形状における複屈折量は、材料の屈折率、格子周期Λ、フィリングファクターFFを変数として制御可能である。フィリングファクターFFとは、格子形状を構成する2つの材料のうち、一方の材料の幅wの(図39の場合は31,32、一方の31の幅w)、格子周期Λに対する割合でFF=w/Λで表現される。常光及び異常光に対する見かけの屈折率(これ以降、有効屈折率と呼ぶことにする)の見積もりには、有効屈折率法(Effective Medium Theory:EMT)を用いることが可能である。
【0008】
しかしながら、従来技術である特許文献1には、光の波長の1/2以下の周期構造をもつ複屈折構造についての記載があるが、そこには複屈折構造の提供についてのみ記述されているだけで、波長依存性の小さい位相板についての記述は何らなされていない。
【0009】
また、特許文献2には、多くの波長において位相差が合うような位相板についての記載があるが、位相板を構成する材料が多数の異方性結晶の結晶板を用いており、構造性複屈折を利用した位相板については記載されていない。
【0010】
また、特許文献3においては、透過型位相格子についての提案はあるが、格子構造として一次元格子しか記載されていない。
【0011】
また、特許文献4には、互いに屈折率の異なる第1の物質と第2の物質とを構造性屈折体として位相板に応用しているが、使用光束の方向と直交する面内において2つの材料を交互に配置することによって構造性複屈折を実現しており、また位相差の波長依存性の改善については何も述べられていない。
【0012】
また、最近の学術論文(非特許文献2)では、一次元格子形状を用いた位相板についての記載があるが、一次元格子形状の表面に反射防止膜を付加した構造を有することで反射防止機能を付加しており、位相差を与える部分は格子部分のみで反射防止膜自体では位相差を与えない。従って、これは二種類以上の材料を格子部分に用いることで常光と異常光の位相差を実現するものではない。
【0013】
【特許文献1】
特開平5−107412号公報
【特許文献2】
特開平5−333211号公報
【特許文献3】
特開平8−254607号公報
【特許文献4】
特開平9−145921号公報
【非特許文献1】
Born & Wolf, Principles of optics 6th edition, P.705
【非特許文献2】
H.Kikuta et al, Apply. Opt. Vol. 36, No.7, p.1566-1572, 1997
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従来の複屈折材料においては、複屈折量の波長依存性を制御することが困難であったため、常光と異常光との位相差の波長依存性を制御することが困難であった。レーザーなどの単色光源を単一波長でのみ用いる場合には設計波長における位相差の最適化が可能であるが、白色光など様々な波長領域の光を扱う光学系においては、位相板に波長依存性がある場合には大きな問題となる。例えば、可視光領域の光を利用する液晶プロジェクタなどの場合には、液晶パネルや色分離素子において光学的な損失が生じ、システム全体の光利用効率の低下や画像の劣化の原因となる。
【0015】
以上のことから、可視光領域において位相差の波長依存性が少ない位相板を用いることが、上記のような光学系において光利用効率の改善や画質の改善を図り、素子の薄型化を可能とする上で重要である。
【0016】
そこで本発明は、上記従来例を考慮した上で、使用光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する光学素子であって、より高い性能を得るための新規な構成の素子を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、使用する光の波長よりも微小な周期構造を有する構造体を様々な形態で積層させる光学素子を開示する。例えば、使用波長帯域内の少なくとも2つの波長で所望の位相差が得られる形態や、複数の構造体の周期方向を直交させた形態や、所定の偏光成分の各構造体の屈折率差を所定値以下とする形態を開示する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態の説明の前に、本発明の理解を助けるために、従来技術である水晶を用いた位相板について述べる。また、水晶の常光、異常光の屈折率に対応する値である微細周期構造の有効屈折率について述べる。
【0019】
複屈折作用を利用した水晶を用いたλ/4板を例に挙げる。波長0.5893μmにおける水晶の常光及び異常光の屈折率(no、ne)はそれぞれno=1.5443,ne=1.5534であり、屈折率差Δn=0.0091である。
【0020】
ここで、λ/4板の設計手法としては、設計波長λ0=0.55μmにおいてλ/4の位相差を与える水晶の厚さdを、次の式(1)から算出する。
【0021】
Δnd=λ0/4 (1)
その結果、水晶を用いたλ/4板は、厚さが15.3μm必要であることがわかる。このときの位相板の特性を図41に示す。横軸は波長、縦軸は常光と異常光との位相差を示している。図41からわかるように、設計波長0.55μmにおいては位相差が90°(λ/4)を満たしており、λ/4板としての性能を満たしているが、0.55μmより長波長側及び短波長側では、位相差は90°からずれている。また、設計波長λから遠ざかるにつれ、位相差の90°からのズレは大きくなっている。つまり、複屈折材料として水晶を用いたλ/4板は可視光領域において波長依存性を持つことを意味している。
【0022】
水晶の場合、複屈折量は常光及び異常光の屈折率(no、ne)を用いて屈折率差Δn=no−neに依存する。微細周期構造の場合、これに対応する値として、有効屈折率を用いる。具体的には、微細周期構造の格子の周期方向に対して垂直な偏光方向を有する偏光をTE偏光、格子の周期方向と平行な偏光方向を有する偏光をTM偏光とし、TE偏光、TM偏光の有効屈折率をn(TE),n(TM)と表す。この場合、屈折率差Δn=n(TE)−n(TM)となる。有効屈折率は、有効屈折率法(Effective Medium Theory:EMT)を用いて算出することが可能である。
【0023】
一次元の周期構造がもつ有効屈折率の算出方法は、Born & Wolf, Principles of optics 6th edition, P.706-707に記載されている。具体的には、以下の式で表される
n(TE)={ns2FF+ni2(1−FF)}1/2 (2)
n(TM)={(1/ns2)FF+(1/ni2)(1−FF)}−1/2(3)
ここで、nsは微細周期構造を構成する2つの材料のうちの一方の材料の屈折率、niは他方の材料の屈折率である。FFはフィリングファクターであり、格子周期Λに対する屈折率nsの材料の周期方向の長さwの割合(FF=w/Λ)で表される。また、屈折率差Δnは、
Δn=n(TE)−n(TM) (4)
となる。
【0024】
以上を踏まえた上で、以下に本発明の実施形態について説明する。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、使用する光の波長よりも微小な周期構造を有する構造体を様々な形態で積層させる光学素子を開示する。例えば、使用波長帯域内の少なくとも2つの波長で所望の位相差が得られる形態や、複数の構造体の周期方向を直交させた形態や、所定の偏光成分の各構造体の屈折率差を所定値以下とする形態を開示する。
【0026】
まず、使用波長帯域内の少なくとも2つの波長で所望の位相差が得られる形態を説明する。
【0027】
図41に示した水晶の位相板は、位相差が90°ちょうどとなる波長は設計波長1つである。そして、設計波長λから遠ざかるにつれ、位相差の90°からのズレは大きくなっている。それに対し、本実施形態では設計波長を2つとしている。2つの設計波長において位相差を90°(λ/4板の場合)とすることで、可視光の広い領域において位相差のズレを少なくし、位相差の波長依存性を向上させている。設計波長を2つにするためには、以下の条件を満足すればよい。
【0028】
基板上に複数層積層された使用光の波長より短い周期の周期構造体において、前記複数層の周期構造体が、k層(k:1以上の整数)の前記基板と平行な第1方向に周期を有する周期構造体と、l層(l:0以上の整数)の前記第1方向と直交する第2方向に周期を有する周期構造体のときに、可視光領域の2つの設計波長λ1、λ2に対し、以下の式(5)を満足する
【外2】
ただし、
Δni:i番目の第1方向に周期を有する周期構造体のλ1に対するTE偏光とTM偏光の屈折率の差
di:i番目の前記第1方向に周期を有する周期構造体の層の厚さ
Δnj:j番目の前記第2方向に周期を有する周期構造体のλ1に対するTE偏光とTM偏光の屈折率の差
di:j番目の前記第2方向に周期を有する周期構造体の層の厚さ
Δni’:i番目の前記第1方向に周期を有する周期構造体のλ2に対するTE偏光とTM偏光の屈折率の差
Δnj’:j番目の前記第2方向に周期を有する周期構造体のλ2に対するTE偏光とTM偏光の屈折率の差
である。
【0029】
(5)式は、以下のようにして求められる。
【0030】
まず、厚さdの格子の、λ1に対する屈折率差Δn、λ2に対する屈折率差Δn’とすると、
位相差φは、
【外3】
これより、
【外4】
ここで、λ1に対するΔnd、λ2に対するΔn’dを求める。
まず、λ1に関して、第1方向に周期を有する周期構造が複数層(k層)、あるとし、i番目の層のTE偏光とTM偏光の屈折率差をni,厚さをdiとすると、これらの周期構造の各層のΔndの和Δnd(1)は、
【外5】
同様に、上記の周期構造と直交する第2方向に周期を有する周期構造が複数層(l層)あるとし、j番目の層のTE偏光とTM偏光の屈折率差をnj,厚さをdjとすると、これらの周期構造の各層のΔndの和Δnd(2)は、
【外6】
となる。ただし、前記第2方向に周期を有する周期構造が存在しない場合(l=0)、j=0となる。
【0031】
仮に第1方向と第2方向が同一だとすると、λ1に対するΔndは(8)式+(9)式、つまりΔnd=Δnd(1)+Δnd(2)となる。しかし、第1方向と第2方向は直交している。これはどういうことかというと、ある偏向方向の光が第1方向の周期構造でTE偏光として入射して透過し、第2方向の周期構造に入射したとすると、第2方向の周期構造ではTM偏光になるということである。つまり、TE偏光とTM偏光が入れ替わることになる。
【0032】
従って、ある特定の偏向方向の光に対して、第1方向の周期構造では
Δn=n(TE)−n(TM) (10)
であったとすると、この光が第2方向の周期構造に入射すると
−n(TE)+n(TM)=−Δn (11)
となる。従って、実際には、λ1に対するΔndは(8)式−(9)式となる。従って、
【外7】
となる。
同様にして、λ2に対するΔn’dは、
【外8】
となる。
【0033】
(12)式、(13)式を(7)式に代入して、
【外9】
を得る。
【0034】
次に、本発明の様々な実施形態を、詳細な実施例に基づき説明する。
【0035】
【実施例】
[実施例1]
本実施例1の概略図を図1に示す。本実施例の光学素子は、微細周期構造を用いた位相板(λ/4板)である。図2は、図1の位相板の横方向からの断面図である。図2において、5は基板、15は微細周期構造である一次元格子を表わしている。一次元格子15は使用光の波長よりも周期の短い2つの周期構造からなる。入射側媒質16は空気である。一次元格子15には、屈折率及び分散の異なる材料からなる2つの周期構造を用いている。ここでは一例として、基板をTa2O5、基板側から第1の周期構造6(以下、第1格子6と称する)をTa2O5(屈折率n1=2.139)、第2の周期構造7(以下、第2格子7と称する)をSiO2(屈折率n2=1.8)で構成した。第1及び第2格子の周期Λは0.16μm、第1格子6の厚みd1を0.39μm、第2格子7の厚みd2を0.10μmとし、フィリングファクターFF(=w/Λ)を0.85とした。このような構造は、例えばエッチングなどの手法によって作製が可能である。ここでは、可視光領域において0次以外の高次の回折光が発生しない、すなわち格子構造が0次格子として振舞う格子周期にした。
【0036】
格子が0次格子として振舞う格子周期条件は、文献(E.B.Grannetal, J.Opt.Soc.Am. AVol. 13, No.5, p988-992, 1996)に記載されており、以下の式(15)で与えられる。
【0037】
(Λmax)=(λmin)/(ns+ni|sinθi|) (15)
ここで、Λmaxは0次格子として振舞う格子周期の最大値、λminは入射波長の最小値、nsは一方の格子材料の屈折率、niは他方の格子材料の屈折率、θiは入射角を示す。入射波長λmin=0.40μm、一方の格子材料をTa2O5(ns=2.139)、他方の格子材料を空気(ni=1.000)、入射角θi=0とした場合、Λmaxは、約0.187μmとなり、格子周期Λ1及びΛ2が0.16μmの時には0次格子として振舞うことがわかる。また、ベクトル解析である厳密波結合理論を用いた厳密な透過・反射率計算からも高次の回折光が発生しないことを確認している。
【0038】
0次以外の高次回折光が発生するような格子周期を採用した場合には、0次光の回折効率が低下し光学系の光利用効率が低下するばかりでなく、高次の回折光がゴーストやフレアとして現れ、光学性能を著しく劣化させることが予想される。このため、0次格子として振舞う格子周期が望ましい。また、位相板の設計には有効屈折率法(EMT)にて算出したn(TE)及びn(TM)を用いて屈折率差Δnを算出し、設計初期値を見積もった。ここでは2つの格子を使用しているため、第1格子6及び第2格子7に対する屈折率差をそれぞれΔn1、Δn2とし、格子厚みをそれぞれd1、d2とすると、つぎの式(16)
Δn1×d1+Δn2×d2=λ/4 (16)
を、可視光領域においてほぼ満たすような格子形状を採用した。本実施例では、Δn1=0.284、Δn2=0.147である。最終的には、ベクトル解析(厳密結合波解析)によって反射・透過率および位相差を厳密に算出した。
【0039】
本実施例のλ/4板の位相差特性を図3に示す。図3において横軸に波長、縦軸に位相差をとっている。従来の水晶を用いた波長板と比較すると位相差を表わす直線の傾きが小さく、0.50μm以下の短波長領域にて特性が平坦になっていることが特徴であり、位相差の波長依存性が改善されている。また、本実施例の位相板の透過率特性を図4に示す。横軸に波長、縦軸に透過率をとっている。水晶板を用いた位相板の可視光領域における透過率がおよそ95%であるのに対して、本実施例の位相板においては可視光領域のほぼ全域において透過率97%以上となっており優れた透過率特性を実現している。更に、格子材料の屈折率、格子周期、格子厚み、フィリングファクターを変数として位相差を制御することができるため、様々な特性の位相板を設計することが可能である。
【0040】
本実施例においては、格子の材料としてTa2O5とSiO2を用いたが、格子材料はこれに限定するものではなく、屈折率および分散の異なる2種類以上の材料を用いれば何ら問題はない。また、入射側媒質である空気に最も近い格子(実施例1においては第2格子7)の材料がそれ以外の格子(実施例1においては第1格子6)の材料に比べて低い屈折率である。また、基本的な機能及び性能を有するような条件を満たしさえすれば、格子の材料としてどのような屈折率の材料の組み合わせ(高屈折率材料と低屈折率材料の組み合わせ)を用いても構わない。ここで、大きな構造性複屈折を実現するためには屈折率差を大きくとることが必要であり、低屈折率材料として、空気を用いた場合に最も大きな構造性複屈折が得られる。
【0041】
また、実施例1における第1格子6と第2格子7のように、格子全体が複数の材料で構成されている。実施例1では2種類の材料を用いて第1格子6、第2格子7を設けたが、3種類以上の材料を用いて第1格子、第2格子、第3格子・・・・と3つ以上の格子を有する微細周期構造を形成しても構わない。
【0042】
[実施例2]
次に、実施例2について述べる。
【0043】
実施例2の概略図を図5に示し、図5のxz平面断面図を図6に、yz平面断面図を図7に示す。
【0044】
図5、図6、図7においては格子形状を横方向に拡大した模式図を表わしているため実際の形状とは異なる場合があるため注意が必要である。図5に示した本実施例2は3つの格子からなる構造の位相板(λ/4板)である。この実施例2では、第1格子6と、第2格子7及び第3格子8との格子の周期方向が直交していることが特徴である。これ以降、このような構成の位相板を積層型位相板と呼ぶ。この場合は積層型λ/4板である。本実施例では、基板5をTiO2、入射側媒質16を空気とした。最も基板側の第1格子6は材料をTiO2、格子周期Λ1を0.15μm、格子深さd1を1.85μm、フィリングファクターFF1(=w1/Λ1)を0.90とし、2段目の第2格子7は材料をTiO2、3段目の第3格子8は材料をSiO2とし、第2格子7及び第3格子8は、格子周期Λ2を0.15μm、フィリングファクターFF2(=w2/Λ2)を0.82とし、第2格子7の格子深さd2を1.75μm、第3格子8の格子深さd3を0.10μmとした。格子周期Λ1およびΛ2は、可視光領域において0次格子として振舞うような格子周期とした。
【0045】
ここで、設計手法としてEMTを用いて各格子における有効屈折率を算出した。
まず1段目の第1格子6における常光と異常光の屈折率差Δn1は、つぎの式(17)
Δn1=n1(TE)−n1(TM) (17)
によって与えられる。
【0046】
一方、第2格子7においてTiO2が与える屈折率差Δn2及び第3格子8においてSiO2が与える屈折率差Δn3は同様に、つぎの式(18)及び式(19)
Δn2=n2(TE)−n2(TM) (18)
Δn3=n3(TE)−n3(TM) (19)
によって与えられる。ただし、ここで注意するべきなのは、第1格子と、第2及び第3格子の格子構造の周期方向が直交するので、第1格子6の格子構造におけるTE偏光は第2及び第3格子の格子構造7,8ではTM偏光に、第1格子6の格子構造におけるTM偏光は第2及び第3格子の格子構造7,8ではTE偏光となる。このような屈折率の与え方の違いは、異方性結晶における正結晶と負結晶との違いに相当するものである。
よって、つぎの式(20)
Δn1×d1−Δn2×d2−Δn3×d3=1/4λ (20)
を可視光領域の2つの波長で満たすような解を式(5)より算出して採用し、最終的にはベクトル解析である厳密結合波解析によって反射・透過率及び位相差を厳密に算出した。
【0047】
図8に実施例2における積層型λ/4板の位相差特性を示す。横軸は波長を、縦軸は位相差を表わしている。従来の水晶結晶板を用いたλ/4板と比較すると、積層型λ/4板においては位相差が略90°の波長領域が広帯域化しており、波長依存性が改善されている。また、透過率特性を図9に示す。横軸は波長を、縦軸は透過率を示している。可視光領域のほぼ全域において96%以上の高い透過率で、優れた透過率特性を実現している。更に、格子材料の屈折率、格子周期、格子厚み、フィリングファクターを変数として位相差を制御することができるため、様々な特性の位相板を設計することが可能である。
【0048】
実施例2においては、格子材料として、TiO2とSiO2の2種類を用いたが、これに限定するものではなく、屈折率および分散の異なる2種類以上の格子材料を用いれば何ら問題はない。また、本実施例においては、第1格子6及び第2格子7の材料として共にTiO2を用いたが、これに限定するものではなく、第1の格子6と第2の格子7の格子材料としてTiO2以外の格子材料を用いても良いし、第1格子6と第2格子7の格子材料として屈折率の異なる材料を用いても何ら差し支えない。更に付け加えるならば、入射側媒質である空気16に最も近い格子(実施例2においては第3格子8)の格子材料は、他の格子(実施例2においては第1格子、第2格子)に比べ屈折率が低い材料を用いた。基本的な機能及び性能を有するような条件を満たしさえすれば、格子の材料としてどのような屈折率の材料の組み合わせ(高屈折率材料と低屈折率材料の組み合わせ)を用いても構わない。
【0049】
ここで、実施例2の変形例を図10に示す。図10は、基板5の上に、基板側から第1格子6、第2格子7、第3格子8、第4格子9を設けた位相板の実施例である。このように、基板の上に格子を4つ積層して位相板を構成しても良い。ここでは、基板及び第1〜3格子をTiO2、第4格子をSiO2で作成した。しかしながら、第1〜3格子は異なる材料で構成しても構わない。また、第1〜3格子は、フィリングファクターが同じであっても異なるようにしても構わない。
【0050】
[実施例3]
実施例3として、偏光変換素子において使用されているλ/2板を例に挙げる。液晶プロジェクタなどに搭載されている偏光変換素子において、光源からの無偏光の白色光は、偏光ビームスプリッタを用いて偏光方向が互いに90°異なる2つの直線変更に変換される。このとき、光利用効率を向上させるために、一方の偏光方向を90°回転させ、他方の偏光と偏光方向をそろえ、両者を同一方向に出射させている。そして、偏光方向を90°回転させる為にλ/2板が使用されている。従来のλ/2板においては屈折率差の波長依存性があった。
【0051】
本実施例におけるλ/2板を偏光変換素子に用いた例を図11に示す。偏光ビームスプリッタ12に入射した、光源からの無偏光の白色光は、偏光ビームスプリッタを透過したp偏光と、偏光ビームスプリッタで反射したs偏光とに分離する。分離した2つの偏光のうち、p偏光は、λ/2板を透過し、s偏光となる。そして、偏光ビームスプリッタを反射し、ミラー11を反射したs偏光と同一方向に射出する。従来と比較して、位相差の波長依存性が少なく、設計波長以外の波長においても光利用効率の高い光学系を実現できる。このため、明るさの向上及び画質の向上により従来以上に高性能な液晶プロジェクタの実現が可能である。また、材料としてTiO2などの誘電体材料を用いることによって、熱による体積膨張や屈折率の変化を小さく抑えることができ安定した性能を発揮できるという利点がある。また、構造性複屈折がもつ大きな複屈折量による素子の薄型化が可能である。更に、格子材料の屈折率、格子周期、格子厚み、フィリングファクターを変数として位相差を制御することができるため、様々な特性の位相板を設計することが可能で、使用用途に最適な性能を実現することができる。
【0052】
また、本実施形態における位相板の応用例は偏光変換素子に限定するわけではなく、例えば、実施例3の偏光変換素子を有する液晶プロジェクタ(画像表示装置)や、液晶プロジェクタと、それに画像情報を送信する画像送信手段(テレビやパーソナルコンピューターやデジタルカメラ等)を有する画像表示システムなどに適用しても構わない。勿論、それに限らず、λ/2板、λ/4板等を有する様々な光学機器・デバイスへの応用が可能である。
【0053】
また、本実施例においては、格子構造(微細周期構造)として、格子材料と空気が周期方向に交互に配列された構造を用いたが、本発明はこれに限らず、第1の格子材料と空気以外の第2の格子材料を周期方向に交互に配列して、格子を構成してもかまわない。
【0054】
[実施例4]
次に、実施例4について述べる。
【0055】
図12は実施例4の積層型位相板の構成を示す斜視図、図13はそのxz平面の断面図、図14はyz平面の断面図である。図中1は基板、2は基板1上に一次元に一定周期で配列された第1格子である。また、3は第1格子2の周期方向に対し直交する方向に一定周期で配列された第2格子3である。第2格子3は格子3aと格子3bの屈折率の異なる2種類の材料を積層して構成されている(本実施例では、3a、3bの二つの格子をまとめて1つの1次元格子として扱い、第2格子と呼ぶことにする)。第1及び第2格子2,3の2つの1次元格子は、各々高屈折率材料(格子部分)と低屈折率材料(空気)とが交互に配列された構造となっている。また、第1及び第2格子2,3の周期は入射波長(ここでは可視光)よりも小さくなっている。なお、入射側媒質として、ここでは空気としているが、ガラス等のカバーを用いて入射側媒質としてもよい。
【0056】
また、第1格子2の幅はW1、深さ(厚み)はd1、格子の周期はΛ1である。第2格子3の幅はW2、格子周期はΛ2である。第2格子3のうち格子3aの深さ(厚み)はd3、格子3bの深さ(厚み)はd2である。
【0057】
ここで、本実施例では、一次元格子を2段積層した構造のλ/4板を示しており、第1格子2と第2格子3の格子の周期方向が直交していることが特徴である。以下、本実施例では、この構成を二段積層型λ/4板という。この二段積層型λ/4板の一例として、第2格子3を構成する二種類の材料について、格子3aとしてSiO2、格子3bとしてTa2O5を用い、第1格子2を構成する格子材料としてTa2O5を用いている。格子周期Λ1及びΛ2は0.16μmとし、Λ1及びΛ2は、可視光領域において0次以外の高次の回折光が発生しない条件、即ち、0次格子として振舞うような格子周期としている。
【0058】
本実施例では、第1格子と、第2格子2,3の周期方向が直交するので、第1格子2における屈折率差をΔn1、第2格子3における屈折率差をΔn2とする。
【0059】
よってλ/4板の場合、次式、
Δn1×d1−Δn2×d2−Δn3×d3=λ/4 (21)
を可視光領域の2つの波長において満たすような解を採用している。ここで、式(21)を2つの波長において満たすような解は無数に存在するが、素子製造の観点から見ると、フィリングファクターFFと格子深さが適当な値をとるようにすることが望ましい。一般的に、フィリングファクターFFが極端に小さく、且つ、格子深さが深い場合、格子構造が倒れやすくなり製造が困難である。よって、FFは0.20から0.95程度の範囲内の値をとることが望ましい。
【0060】
更に、付け加えるならば、本実施形態において、第1格子2のフィリングファクターFF1がとりうる範囲は概ね0.75以上0.90以下の範囲、第2格子3のフィリングファクターFF2がとりうる範囲は概ね0.30以上0.70以下であることが望ましい。一例として具体的な値を挙げると、位相差1/4λを満たすためには、FF1=0.81、FF2=0.60の場合、格子材料の深さとしてそれぞれd1=1.07μm、d2=0.31μm、d3=0.10μm程度の厚みが必要である。但し、必ずしもこの値と一致しなければ位相差1/4λを実現できないわけではなく、基本的な性能を満たす範囲であるならば、ここに示した値よりも大きな値、あるいは小さな値をとっても良い。
【0061】
次に、式(21)に示した位相差条件を満たし、且つ、素子の反射率を低減するための例について説明する。ここで目的とすることは、位相差1/4λを満たし、且つ、使用光の各偏光方向に対して反射率が低減できる位相板を実現することである。格子構造は二段積層型λ/4板とし、格子材料はSiO2、Ta2O5を用い、格子周期Λ1=Λ2=0.16μmとし、変数としてフィリングファクターFF1,FF2、格子深さd1,d2,d3とする。
【0062】
本実施例の2段積層型λ/4板は、一方の偏光方向に対しては、入射側媒質から基板1に向かって有効屈折率が徐々に高くなっていくような屈折率分布であり、もう一方の偏光方向に対しては、2層積層された第1格子と第2格子間の屈折率差が小さくなるような屈折率を実現していることを特徴としている。
【0063】
この場合、例えば、FF1=0.81、FF2=0.60とする。フィリングファクターの組み合わせは無数に存在するが、二つの格子深さが極端に大きくならない値を選択したほうが作製しやすいので留意したほうが望ましい。格子深さは、FF1及びFF2を用いて算出される有効屈折率と、(4)から(7)式を用いて算出することができる。本実施例においては、格子深さが極端に深くならない構成として、FF1がとりうる範囲は概ね0.75以上0.90以下の範囲、FF2がとりうる範囲は0.30以上0.70以下であることが望ましい。
【0064】
この時の各偏光に対する有効屈折率を図15に示す。但し、直交する格子でTE偏光とTM偏光が入れ替わることを考慮し、混乱を避けるために、ここでは第1格子2の周期と直交する方向をA方向、第1格子2の周期と平行な方向をB方向とする。そして、各格子のA方向の偏光の有効屈折率をn(A)、B方向の偏光の有効屈折率をn(B)とする。つまり、第1格子2において、n(A)=n(TE)となるが、第2格子3においてはn(A)=n(TM)となる(図12参照)また、図15において、niは入射側媒質(ここでは空気)、n1は第1の格子2、n2は第2の格子3における格子3b、n3は第2の格子3における格子3a、nsは基板、の各屈折率を示す。
【0065】
はじめに、n(A)について考えると、EMTから算出した有効屈折率(λ0
=d線)を詳しくみると、
ni(A)=1(air)、
n3(A)=1.230、
n2(A)=1.436、
n1(A)=1.993、
ns=2.139、
となっており、入射側から基板方向に向かって屈折率が徐々に高くなる屈折率分布になっている。このような屈折率分布をとることにより、基板表面でのフレネル反射を低減し広帯域で反射防止効果が得られる。これは、例えば、傾斜膜を用いて屈折率が徐々に変化する屈折率分布を実現したときに得られる反射防止効果と同様である。
【0066】
次に、n(B)に対して考えると、EMTから算出した有効屈折率は、
ni(B)=1(air)、
n3(B)=1.313、
n2(B)=1.823、
n1(B)=1.733、
ns=2.139、
となっており、n1(B)とn2(B)の屈折率差(即ち、格子間における屈折率差)が小さい構成となっている。ここでのn1(B)とn2(B)との屈折率差は0.09という値となっており、ほぼ一致している。なお、屈折率差は完全なゼロである必要はなく、おおよその目安として望ましくは屈折率差が0.1程度、あるいは、0.2程度前後の値を満たしていることが望ましい。このように、TM偏光に関しては、複数積層された格子間の屈折率の差がTE偏光に比べて小さくなっている。また、ここで、差の小さいn1(B)とn2(B)をほぼ同じ屈折率と考えると、n1とn2との間で生じるフレネル反射を低減することができる。また、このようにni(B)<n3(B)<n2(B)≒n1(B)<ns(B)という屈折率分布をとることで反射防止効果が得られる。
【0067】
ここで、n3の光学膜厚を最適に設計するとさらに反射防止効果が得られる。具体的には、第2格子3における格子3aの厚みd3を設計波長の1/4程度の光学膜厚にすることで、TM偏光に対する反射防止効果が得られる。但し、n3の膜厚d3はTE偏光に対する反射率にも影響を与えるので、実際には、TE偏光とTM偏光に対する反射率を両立するような膜厚とすることが重要であり、設計値の目安として設計波長の1/4に近い値とすることが望ましい。
【0068】
なお、TE偏光とTM偏光の有効屈折率の関係は逆であっても成立する。つまり、TE偏光に関して格子間の有効屈折率の差が小さく、且つ、TM偏光に関しては入射側媒質から基板に向かって有効屈折率が徐々に高くなるような構成をとっても同様の効果が得られる。
【0069】
更に、有効屈折率は、格子周期Λ、格子のフィリングファクターFFによって制御することが可能であるため、格子材料の屈折率によらず、有効屈折率をある程度の範囲で制御可能である。よって、以上のような有効屈折率を実現するための格子材料の積層順番を必ずしも限定する必要はない。
【0070】
また、基板材料の屈折率nsと基板上の格子の有効屈折率n1(TE)(もしくはn1(TM))の屈折率差が大きいと境界面で生じるフレネル反射によって反射率が増加するため、nsとn1(TE)(もしくはn1(TM))の屈折率差が小さいほうが望ましい。但し、ここで注意しなければならないことは、一次元格子形状においては屈折率に異方性を持っているためn1(TE)とn1(TM)とは同じ屈折率をとることは原理的にあり得ない。よって、TE方向に対する屈折率差ns−n1(TE)とTM方向に対する屈折率差ns−n1(TM)を同時にゼロとすることはできない。そのため、TE・TM両方の偏光方向に対して反射防止効果を得るためには、TE偏光に対する屈折率差ns−n1(TE)とTM方向に対する屈折率差ns−n1(TM)の値が両方小さくなるように設定することが望ましい。
【0071】
次に、格子深さについて述べる。位相差については位相差Δndが1/4λを満たすような深さが必要であるが、それと同時に反射防止効果が得られるような格子深さとする必要がある。反射防止効果を得るためには、一般的に、膜厚ndが波長λ0に対して1/4λ0の整数倍であることで実現することが可能であるから設計の目安にすると良い。
【0072】
位相差条件から求めた設計初期値を元に上記手法を用いて求めた偏光方向に依存しない反射防止効果を得る格子形状を求めたところ、以下に示すような結果が得られた。即ち、二段積層型λ/4板の一例として、第2格子3における格子3aの材料としてSiO2、格子3bの材料としてTa2O5を用い、格子周期Λ2を0.16μm、格子深さd3を0.10μm、格子深さd2を0.24μm、フィリングファクターFF2(=w2/Λ2)を0.60とする。また、第1格子2の格子材料としてTa2O5を用い、格子周期Λ1を0.16μm、格子深さd1を0.96μm、フィリングファクターFF1(=w1/Λ1)を0.81とする。格子周期Λ1及びΛ2は、可視光領域において0次以外の高次の回折光が発生しない条件、即ち、0次格子として振舞うような格子周期とする。
【0073】
図16に実施例4における二段積層型λ/4板の位相差特性を示す。図16では水晶の位相差特性も併せて示している。横軸は波長、縦軸は位相差を表わしている。従来の水晶結晶板を用いたλ/4板と比較すると、二段積層型λ/4板においては位相差が略90°の波長領域が広帯域化している。また、誤差範囲は、90°に対して−5°から+10°程度に抑えられ、波長依存性が改善されていることが注目すべき点である。
【0074】
また、透過率特性を図17及び図18に示す。ここでは、ベクトル解析である厳密結合波解析によって反射・透過率及び位相差を厳密に算出している。図17はTE偏光及びTM偏光に対する透過率特性を示している。横軸は波長を、縦軸は透過率を示しており、TE・TM偏光の両方に対して優れた透過率特性が得られていることがわかる。また、図18は各偏光方向に対する透過率の平均値を示す。可視光領域のほぼ全域において約97%以上の高い透過率が得られ、優れた性能を実現している。
【0075】
なお、ここではλ/4板を例に挙げたが、本発明はこれに限定するものではなく、格子材料の屈折率、格子周期、格子深さ、フィリングファクターを変数として位相差を制御することが可能で、且つ、反射防止効果も得られるため、例えば、λ/2板等様々な特性の位相板に適用することが可能である。
【0076】
また、本実施例においては、第2格子3の2種類の格子材料としてTa2O5とSiO2を用いたが、これに限定するものではなく、屈折率及び分散の異なる2種類以上の格子材料を用いれば何ら問題はない。更に、本実施形態においては、第1格子2と第2格子3の格子3bの材料として共にTa2O5を用いているが、これに限定するものではなく、Ta2O5以外の材料を用いても良いし、第1格子と第2格子の格子3bの材料として屈折率の異なる材料を用いても何ら差し支えない。また、基本的な機能及び性能を有するような条件を満たしさえすれば、第1格子及び第2格子の格子3a、格子3bの材料としてどのような屈折率の材料の組み合わせを用いても構わない。また、第2格子全体が複数の材料で構成されている方が好ましく、本実施例では2種類の材料を用いて第2格子3を形成したが、3種類以上の材料を用いても構わない。
【0077】
[実施例5]
次に、実施例5について説明する。図19は実施例5の構成を示す斜視図、図20はそのxz平面の断面図、図21はそのyz平面の断面図である。図中1は基板、2は基板1上に一次元に一定周期で配列された第1格子、3は第1格子2の周期方向に対して直交する方向に一定周期で配列された第2格子である。また、第2格子3上に第2格子3の周期方向に直交する方向に第3格子4が一定周期で配列されている。第3格子4は格子4aと格子4bの、屈折率の異なる2種類の材料を積層して構成されている(本実施例では、4a、4bの二つの格子をまとめて1つの1次元格子として扱い、第3格子と呼ぶことにする)。第1〜第3格子による1次元格子構造は、それぞれの周期構造の周期方向に各々高屈折率材料(格子部分)と低屈折率材料(空気)が交互に配列された構成となっている。また、第1〜第3格子2〜4の格子周期は、実施例4と同様に入射波長(可視光)よりも小さい。入射側媒質としては、例えば、空気としているが、ガラス等のカバーを用いて入射側媒質としてもよい。
【0078】
また、第1格子2の格子の幅はW1、深さ(厚み)はd1、格子周期Λ1である。第2格子3の格子の幅はW2、深さ(厚み)はd2、格子周期はΛ2である。第3格子4の格子の幅はW3、格子周期はΛ3であり、そのうち格子4aの深さ(厚み)はd4、格子4bの深さ(厚み)はd3である。
【0079】
実施例5は、一次元格子を3段積層した構造のλ/4板であり、第1格子2と第2格子3が、そして第2格子3と第3格子4が、それぞれ周期方向が直交していることが特徴である。第1格子2の材料としてTa2O5を用い、格子周期Λ1を0.16μm、厚みd1を0.565μm、フィリングファクターFF1(=W1/Λ1)を0.81としている。第2格子3の材料としてTa2O5を用い、格子周期Λ2を0.16μm、厚みd2を0.190μm、フィリングファクターFF2(=W2/Λ2)0.6としている。第3格子4における格子4aの材料としてSiO2を、格子4bの材料としてTa2O5を用い、格子周期Λ3を0.16μm、格子4aの厚さd4を0.100μm、格子4bの厚さd3を0.250μm、フィリングファクターFF3(=W3/Λ3)を0.81としている。格子周期Λ1、Λ2及びΛ3は、可視光領域において0次以外の高次の回折光が発生しない条件、即ち、0次格子として振舞うような格子周期としている。
【0080】
第1〜第3格子の有効屈折率は実施例4と同様である。即ち、x軸方向の偏光に関して、入射側媒質側から、第3格子4の格子4a、格子4b、第2格子3、第1格子2と基板側へ向かうにつれ、有効屈折率が高くなっている。また、y軸方向の偏光に関しては複数積層された格子間、即ち、第3格子4の格子4bと第2格子3、第2格子3と第1格子2の有効屈折率の差が小さくなっている。この屈折率の差は前述のように0である必要はなく、0.1あるいは0.2程度前後であればよい。もちろん、TE偏光とTM偏光の有効屈折率の関係は第1の実施形態の場合と同様に反対の関係であってもよい。
【0081】
実施例5の三段積層型λ/4板の位相差特性を図22、透過率特性(偏光平均)を図23に示す。図22では水晶の場合の特性を併せて示している。図22から位相差の波長依存性が小さく、90°からの誤差範囲は−10°から+10°程度に抑えられていることは特筆すべきことである。また、図23から分かるように優れた透過率特性が実現でき、可視領域において概ね95%以上の透過率を実現している。三段積層型の場合は二段積層型に比べ、格子材料の厚みを更に薄くすることが可能であり、一つ一つの格子構造を作製することが容易になると期待できる。
【0082】
[実施例6]
次に、実施例6について説明する。実施例6は、実施例4の位相板を用いた光学系の実施形態である。図24は実施例6を示す図であり、実施例4の位相板をダブルパスで用いた場合の光学系を示している。図24において、19は実施例4の位相板(λ/4板)、20はミラーである。また、17は使用光、18は出射光(観測する光)である。ここでは、偏光方向の揃った使用光(直線偏光)17が積層型λ/4板19に入射し、円偏光に変換された後、ミラー20で反射され、再び積層型λ/4板19に入射し、出射した光18の偏光方向が使用光17に対して90°回転する。
【0083】
ここで、偏光方向が回転した時の光の透過率については、以下に示す式(22)で算出することができる。
【0084】
T=cos2(Γ/2−π/2) (22)
Tは偏光の回転を考慮した場合の透過率、Γは位相差である。この式について横軸を位相差Γ、縦軸を透過率Tとして表わしたグラフを図25に示す。透過率Τについて補足すると、ダブルパス光学系に入射する直線偏光17の光強度を1とした場合、ダブルパス光学系を通って出射した偏光方向が回転した光18に対して、入射する直線偏光に90°直交する偏光子を通して観測した光強度の割合を表わしている。具体的にはダブルパス光学系の使用光17と出射光18との位相差が180°である時は、観測される出射光18の偏光方向は入射する直線偏光17の偏光方向に対して丁度90°回転した偏光であるので、使用光に対して観測される光強度の割合は、1/1=1となる。
【0085】
また、ここで注意すべき点は、式(22)で算出される透過率においては位相板素子の表面反射や多重反射による反射光は考慮されていない。よって、実質的な透過率を検討するためには、位相板素子の表面反射・多重反射を考慮した透過率と式(22)から得られる、偏光の回転を考慮した透過率を同時に考える必要がある。以上のことからダブルパスを用いた光学系における実質的な透過率は、位相板がもつ透過率と式(22)から算出される偏光の回転による透過光強度損失を考慮した透過率との掛け算によって評価できる。
【0086】
実施例6のダブルパス光学系における位相差特性を図26に示す。図26では水晶の位相差特性も併せて示す。従来の水晶板と比較して、波長依存性が小さく抑えられていることがわかる。また、上記手法によって算出した実質的な透過率を図27に示す。図27には比較のために従来の水晶を用いたλ/4板における実質的な透過光強度も同時に示している。従来の水晶λ/4板におけるフレネル反射は、水晶の屈折率(n=1.55)を用いて算出される値を計算に用い、透過率95%として算出している。
【0087】
また、水晶厚みは設計波長λ0=0.55μmで位相差90°を実現できる値とし、厚みd=15.3μmとしている。従来の水晶λ/4板を用いた場合には、位相差の波長依存性の影響を大きく受け、設計波長付近での実質的な透過率は優れた特性を有しているが、短波長側及び長波長側において実質的な透過率が減少していることがわかる。これは、図26に示すように水晶においては位相差の波長依存性が大きな問題となっているためである。
【0088】
一方、実施例6の二段積層型位相板を用いたダブルパス光学系の場合には、位相差の波長依存性を大幅に改善でき、各偏光方向に対する反射率を低減した構成をとっているので、可視領域全域(概ね0.4μmから0.7μmの範囲)において、概ね96%以上の優れた透過率を実現することが可能である。
【0089】
このようなダブルパスを用いた光学系は、例えば、反射型カラー液晶表示装置等に使用が可能である。従来のλ/4板を用いた場合と比較して、本発明における積層型位相板を用いた場合は、位相板そのものの反射率を低く抑えることが可能であり、光損失が小さいばかりでなく、従来の位相板と比較して波長依存性が小さく抑えられているため色再現性が非常に優れ、画質の向上が期待できる。更に、格子材料として誘電体材料を用いることで熱による体積膨張や屈折率変化を小さく抑えることが可能となり、安定した性能を発揮することが可能である。また、構造性複屈折がもつ大きな複屈折量により素子の薄型化が期待できる。更に付け加えるならば、位相板の基板1としてAl等の金属を用いるか、あるいは誘電体多層膜を用いて作製した広帯域反射膜の上に本実施例の積層型位相板を作製することによって位相板19とミラー20を一体化して素子の一体化、薄型化も可能である。
【0090】
[実施例7]
次に、実施例7の積層型位相板について説明する。本実施例の積層型位相板は、基板と格子からなる格子型素子部を複数個、互いの格子面が向かい合うように積層したことを特徴としている。
【0091】
図28から図30は、実施例7の位相板の概略構成を示している。なお、図28(A)は上記位相板の斜視図であり、図28(B)は上記位相板の製作工程を示している。図29は上記位相板のxz平面の断面図であり、図30はyz平面の断面図である。
【0092】
この位相板は、第1の基板21と、入射する光の波長よりも微小な格子周期を有する第1格子22と、入射する光の波長よりも微小な格子周期を有し、周期方向が第1格子22の周期方向に対して略直交する第2格子24と、第2の基板23とをこの順で積層した構成を有する。
【0093】
具体的な製造方法としては、例えば、第1および第2の基板21,23上にそれぞれ高さ(深さ)d1,d2を有する格子22,24を、エッチング、電子ビーム描画、LIGAプロセス、フォトリソグラフィー、多光束レーザー干渉法、多積層薄膜などの手法によって作製する。
【0094】
そして、できあがった第1の基板21および第1格子22からなる第1の格子型素子部Aと、第2の基板23および第2格子24からなる第2の格子型素子部Bとを、図28(B)に示すように、格子22,24が向かい合い、かつ格子22,24の周期の方向が互いに略直交するように積層する。このとき、光学密着法(optical contact)などによって両格子の格子面を密着させ、積層することができる。
【0095】
このような製造方法を採用することで、格子のみを積層させる場合に比べて積層型位相板を容易に製造することができる。
【0096】
第1の基板21の材料としてはガラス(屈折率ns1=1.8)を、第1格子22の材料としてはTa2O5を、第2の基板23の材料としてはガラス(屈折率ns2=1.6)を、第2格子24の材料としてはTa2O5(屈折率n=2.139)を用いている。また、格子の周囲を満たす媒質は空気とした。
【0097】
第1格子22は格子周期Λ1=0.16μm、格子深さd1=0.90μm、フィリングファクターFF1=0.8とし、第2格子24については格子周期Λ2=0.16μm、格子深さd2=0.25μm、フィリングファクターFF2=0.6とした。格子周期Λ1およびΛ2については、可視光領域において0次回折光以外の高次の回折光が生じないような格子周期を採用した。
【0098】
ここで、図28(A)における、y軸方向をA方向、x軸方向をB方向とし、各方向の偏光に対する有効屈折率をn(A),n(B)とする。
【0099】
第1格子に対する有効屈折率n1(A),n1(B)、第2格子に対する有効屈折率n2(A),n2(B)をEMTにより見積もると次のような値になる。波長λ=0.55μmにおいて、
第1格子2のTE偏光に対する屈折率n1(A)=1.965
第1格子2のTM偏光に対する屈折率n1(B)=1.633
第2格子4のTE偏光に対する屈折率n2(A)=1.372
第2格子4のTM偏光に対する屈折率n2(B)=1.774
となる。
【0100】
上記設計値を採用した理由について述べる。まず、x方向の偏光に注目した場合、第1格子22におけるx方向の偏光に対する屈折率n1(B)と、第2格子24におけるx方向の偏光に対する屈折率n2(B)はそれぞれ、
n1(B)=1.633、n2(B)=1.774
となっており、有効屈折率が略等しい(差が0.2以下である)。これにより、x方向の偏光に対して、第1格子22と第2格子24との境界においてフレネル反射をほとんど生じさせないようにすることができる。
【0101】
次に、y方向の偏光に注目した場合、第1格子22におけるy方向の偏光に対する屈折率n1(A)と、第2格子24におけるy方向の偏光に対する屈折率n2(A)はそれぞれ、
n1(A)=1.965、n2(A)=1.372
となっており、有効屈折率に若干の違いがみられる。
【0102】
このままでは、y方向の偏光に対して第1格子2と第2格子4との間でフレネル反射が生じる。さらに、第1の基板21と第1格子22との屈折率差および第2の基板23と第2格子24との屈折率差によって生じるフレネル反射を考慮すると、透過率の減少が懸念される。
【0103】
以上のことを考慮すると、互いに隣接して積層されている第1の基板21と第1格子22において、第1の基板21の屈折率ns1は、第1格子22におけるy方向の偏光に対する有効屈折率n1(A)および第1格子22におけるx方向の偏光に対する有効屈折率n1(B)の両方に対して、屈折率差がバランスよく小さくなるように設定するとよい。
【0104】
具体的には、第1の基板21の屈折率ns1が、第1格子22におけるy方向の偏光に対する有効屈折率n1(A)および第1格子22におけるx方向の偏光に対する有効屈折率n1(B)との間の値であることが好ましい。
【0105】
なお、このことは、第2の基板23の屈折率ns2と、第2格子24におけるy方向の偏光に対する有効屈折率n2(A)および第2格子24におけるx方向の偏光に対する有効屈折率n2(B)との関係においても同様である。
【0106】
ここでは、第1の基板21の屈折率をns1=1.80とし、第2の基板23の屈折率をns2=1.60として、第1の基板21と第1格子22との境界におけるフレネル反射、ならびに第2の基板23と第2格子24との境界におけるフレネル反射の両方を同時に低減し、透過率の減少を最小限にしている。
【0107】
但し、本発明は、上記各値を示す構成に限定されるものではない。例えば、y方向の偏光およびx方向の偏光のうち一方のみを通過させるような用い方をする場合には、互いに隣接する基板と格子において、基板の屈折率を格子におけるy方向の偏光に対する有効屈折率およびx方向の偏光に対する有効屈折率のうち一方に略等しくしてもよい。これにより、通過させる偏光のフレネル反射を減少させることができる。
【0108】
また、上記2組の互いに隣接した基板および格子において、一方の組の基板および格子の屈折率の関係のみを上記のようにしてもよい。これにより、一方の組の基板と格子との境界におけるフレネル反射のみを低減した構成を採ることができる。これらは応用事例によって適宜選択すればよい。
【0109】
なお、本実施例のように設定することで、両方の基板と格子との境界におけるフレネル反射を同時に低減することによって、位相板全体として最も透過率の減少が抑えられる。
【0110】
図31は、本実施例の位相板における入射角度0°での透過率特性を示している。図31に示すように、可視光領域0.40μmから0.70μmの全域においてほぼ97%以上の透過率を実現している。
【0111】
また、位相差特性を図32に示す。従来の水晶薄板による位相板と比較すると、格段に波長依存性が改善されており、可視光領域0.40μmから0.70μmの全域においてほぼ80°から95°の範囲の位相差を実現しており、可視光波長領域の全域においてほぼλ/4板として機能することができる。
【0112】
そして、本実施形態では、積層型位相板の格子の格子面が基板21,23によって覆われるため、手油や粉塵、ほこりによる格子の乱れ、引っかきや摩擦による格子破壊などによる性能劣化が防止できるという利点がある。
【0113】
また、積層型位相板の入射面でのフレネル反射を防止するために、入射面に一般的な単層膜や多層膜などの反射防止コートを施すか、あるいは基板表面に入射波長よりも微細な凹凸構造(例えば、微細なピラミッド構造や円錐構造が規則的あるいはランダムに配列した構造)を作製する必要がある。その場合でも、反射防止コート等を微細な各格子の端面に設けるのではなく、ある程度の面積を有する基板の表面に設ければよいので、前述したように格子のみのものに比べて積層型位相板の製造がし易く、かつ反射防止効果も得易い。
【0114】
さらに、従来のフィルム型位相板はポリマーなどの材料を使用しているため、熱による性能劣化が著しかった。このため、高温環境下においては期待される十分な性能が得られなかったり、使用できないかったりし、また、使用する場合には十分な冷却システムの工夫が必要であった。本実施形態の積層型位相板は材料としてTa2O5などの誘電体材料を用いているので、熱変動による性能劣化がほとんど生じず、高温環境下においても高性能な位相板として機能することができる。例えば、常に高温環境にさらされている液晶プロジェクタなどの光学系において非常に有効である。
【0115】
[実施例8]
次に、本発明の実施例8について説明する。実施例8は、実施例7の積層型位相板を備えたダブルパス光学系である。その構成は、実施例6のダブルパス光学系において、位相板19を実施例7の積層型位相板に置き換えたものと等しい。従って、図24を流用して本実施例の光学系を説明する。つまり、図24において、19が実施例7の積層型位相板である。その他の構成は実施例6と等しい。
【0116】
当然であるが、本実施形態の積層型位相板19は、可視光領域内の広範囲でλ/4板として機能するものである。
【0117】
このダブルパス光学系の積層型位相板19の、入射角度0°における光学特性について述べる。
【0118】
まず、使用光17に対する出射光18の透過率特性を図33に示す。ここで示す透過率特性は、基板表面におけるフレネル反射の影響は無視している。図33からわかるように、可視光波長領域0.40μmから0.70μmの全域においてほぼ95%から99%程度の透過率を実現している。
【0119】
基板表面におけるフレネル反射を減少させるためには、先にも説明したが、一般的な単層膜や多層膜などの反射防止コートを基板表面に施すか、あるいは基板表面に入射波長よりも微細な凹凸構造(例えば、微細なピラミッド構造や円錐構造が規則的あるいはランダムに配列した構造)を作製することによって実現可能である。
【0120】
また、使用光17に対する出射光18の位相差特性について図34に示す。図34からわかるように、可視光波長領域0.40μmから0.70μmの全域においてほぼ160°から190°の範囲の位相差を実現しており、広い波長帯域でほぼ180°の位相差を実現している。このことは、積層型位相板14を光が2回通過したとき、可視光波長領域の全域において積層型位相板14がほぼ1/2波長板として機能するダブルパス光学系を実現できることを示している。また、従来の水晶を用いた場合の位相板と比較しても、位相差の波長依存性の少ないことがわかる。
【0121】
次に、このダブルパス光学系の積層型位相板19の、入射角度20°における光学特性について述べる。使用光17に対する出射光18の透過率特性を図35に、位相差特性を図36に示す。
【0122】
透過率特性は、可視光波長領域においてほぼ95%から99%程度の透過率を有し、入射角度に敏感でない透過率を実現している。同様に、位相差特性について見ると、やはり、可視光波長領域においてほぼ155°から185°の位相差を実現しており、幅広い波長領域においてほぼ180°の位相差を得ることが示されている。このように、本実施例では、ダブルパス光学系において、入射角度依存性が小さく、かつ可視光波長領域の全域において光が2回通過することによりほぼ1/2波長板として機能する素子を実現している。
【0123】
但し、ここで示した入射角度は、第2の基板から第2格子に入射する角度を意味している。本実施例においては、第2格子の屈折率をn2=1.60としているため、空気から第2の基板に入射する光の入射角度については約33°となる。
【0124】
すなわち、実際に積層型位相板を使用する場合には、第2の基板に入射する光線の入射角度が33°程度の光線に対しても同等な性能が得られることを示している。
【0125】
以上のように、本実施形態においては、20°程度の入射角度変動に対して透過率特性および位相差特性がほとんど変化せず、かつ可視光波長領域の全域において使用光17に対して出射光18の位相差がほぼ180°となるような位相板を実現することができる。
【0126】
従来の水晶による波長板やポリマーフィルムによる波長板では、位相差の波長依存性および入射角度依存性が顕著に現れ、これらを改善するためには、複数枚の位相板の光学軸をずらして貼り合せる等、煩雑な工程が必要であった。また、複数枚のフィルムを貼り合せるという点からも位相板素子自体の薄型化が図りにくいという欠点があった。
【0127】
これに対し、実施例8および前述した実施例7の積層型位相板においては、基板上に作製した格子を互いに周期方向が直交するように格子面を向かい合わせて貼り合せることで容易に作製が可能である。そして、位相差の波長依存性および入射角度依存性を同時に改善することができる。
【0128】
[実施例9]
次に、本発明の実施例9について説明する。実施例9は、実施例7の積層型位相板を用いた反射型ディスプレイを示している。図37に実施例9の模式断面図を示す。
【0129】
図37において、25はリフレクタ、26は液晶、27はカラーフィルター、28は実施例7の積層型位相板(λ/4板)、29は偏光板である。
【0130】
実施例7,8で説明したように、上記積層型位相板28は、位相差の波長依存性が小さく、かつ入射角依存性が小さい。このため、ディスプレイなど様々な入射角度で入射する光に対して位相板として機能しなければならない光学系では特に有用である。
【0131】
例えば、従来のフィルム位相板を用いた場合には、波長依存性によって表示される色純度が低下し、色再現性が悪くなったり、斜めからディスプレイを覗いた場合に波長シフトが生じて色が変化して見えたりするなどの問題があった。
【0132】
これに対して、本実施例の積層型位相板28を採用すれば、上記問題を大幅に改善することが期待できる。つまり、色再現性が優れ、かつ入射角度変化による色シフトの少ない、美しく表現力の高い画像を表示できる、見やすいディスプレイを実現することができる。
【0133】
例えば、携帯情報端末や携帯電話、プロジェクタ用液晶ディスプレイなどの小型の反射型液晶ディスプレイから、LCDモニタなどの大型ディスプレイに至るまで、幅広い応用が考えられる。
【0134】
本実施例では反射型ディスプレイについて述べたが、実施例7の積層型位相板は透過型ディスプレイにも適用できる。この場合、積層型位相板はλ/2板として機能するものを用いる。
【0135】
[実施例10]
次に、本発明の実施例10について説明する。実施例10は、実施例9の反射型ディスプレイを用いた液晶プロジェクタ(光学機器)を示している。図38に、その液晶プロジェクタの構成を示した。
【0136】
図38において、光源50は、ハロゲンランプやキセノンランプ等からなる点に近い白色光源である。光源50から放射された光はリフレクタ51で反射され、略平行光の光束として出射され、白色の偏光シート52aに照射される。この偏光シート52aは、リフレクタ51からの光の内、第1の偏光成分(S偏光又はP偏光)を透過し、第2の偏光成分(P偏光又はS偏光)を吸収する特性を有しており、偏光シート52aを透過した光束は、偏光ビームスプリッタ53の偏光面で反射され、色分解光学系としての合成クロスプリズム54に照射する。
【0137】
合成クロスプリズム54は、4個の直角プリズムの直角を挟む面をそれぞれ接着剤により貼り合わせ、貼り合わせ面に第1ダイクロイックミラー面54aと第2ダイクロイックミラー面54bが略十字状になるように設けられ、第1ダイクロイックミラー面54a及び第2ダイクロイックミラー面54bの法線と使用光の主光線とのなす角が略45度程度となるように構成されている。また、第1ダイクロイックミラー面54a及び第2ダイクロイックミラー面54bは、誘電体多層膜で構成され、例えばTiO2及びSiO2の薄膜を数十層交互に積層することで波長選択反射特性を得ている。
【0138】
第1ダイクロイックミラー面54aは、第1の色光である赤色光を反射しかつ第2の色光である緑色光及び第3の色光である青色光を透過する。また、第2ダイクロイックミラー面54bは、青色光を反射しかつ赤色光及び緑色光を透過するように構成されている。第1ダイクロイックミラー面54aで反射された赤色光は、実施例9の反射型ディスプレイ(液晶パネル)56aに入射する。第2ダイクロイックミラー面54bで反射された青色光は、同様に積層型位相板を備えた反射型ディスプレイ(液晶パネル)56bに入射する。また、第1ダイクロイックミラー面54a及び第2ダイクロイックミラー面54bを透過した緑色光は、同様に積層型位相板を備えた緑色光用の反射型ディスプレイ(液晶パネル)56cに入射する。
【0139】
赤色光用の反射型ディスプレイ56aにて変調された画像光は、合成クロスプリズム54に入射し、第1ダイクロイックミラー面54aで反射し、第2ダイクロイックミラー面54bを透過する。また、青色光用の反射型ディスプレイ56bにて変調された画像光は、合成クロスプリズム54に入射し、第1ダイクロイックミラー面54aを透過し、第2ダイクロイックミラー面54bで反射する。同様に、緑色光用の反射型ディスプレイ56cにて変調された画像光は、合成クロスプリズム54に入射し、緑色の画像光は第1ダイクロイックミラー面54a及び第2ダイクロイックミラー面54bを透過する。
【0140】
以上のように合成クロスプリズム54でカラー合成された画像光は、偏光ビームスプリッタ53及び偏光シート52bを透過し、投影レンズ57によってスクリーン58に拡大投影される。
【0141】
本実施例の反射型液晶ディスプレイは、積層型位相板を用いており、従来の反射型液晶ディスプレイに比べ、位相差の波長依存性や入射角度特性が改善している。なお、本実施形態では、反射型液晶ディスプレイへの応用について説明したが、本実施例の位相制御素子は、透過型液晶ディスプレイにも適用でき、この場合も位相差の波長依存性や入射角度依存性が大幅に改善される。また、本発明の積層型位相板は、これら以外も様々な光学装置の光学系に対して応用することができる。
【0142】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、使用光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する光学素子であって、従来知られたものに比べより高性能な光学素子が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1における位相板の概略図。
【図2】本発明の実施例1における位相板の断面図。
【図3】本発明の実施例1における位相板の位相差特性。
【図4】本発明の実施例1における位相板の透過率特性。
【図5】本発明の実施例2における位相板の概略図。
【図6】本発明の実施例2における位相板のxz平面断面図。
【図7】本発明の実施例2における位相板のyz平面断面図。
【図8】本発明の実施例2における位相板の位相差特性を示す図。
【図9】本発明の実施例2における位相板の透過率特性を示す図。
【図10】本発明の実施例2の変形例における位相板の概略図。
【図11】本発明の実施例3における偏光変換素子の概略図。
【図12】本発明の実施例4における位相板の斜視図である。
【図13】図12のxz平面断面図である。
【図14】図12のyz平面断面図である。
【図15】実施例4の各格子材料のTE偏光、TM偏光に対する有効屈折率を示す図である。
【図16】実施例4の位相差特性を水晶の場合と比較して示す図である。
【図17】実施例4のTE偏光、TM偏光に対する透過率特性を示す図である。
【図18】実施例4のTE偏光、TM偏光に対する透過率の平均値を示す図である。
【図19】実施例5の斜視図である。
【図20】実施例5のxz平面断面図である。
【図21】実施例5のyz平面断面図である。
【図22】実施例5の位相差特性を水晶の場合と比較して示す図である。
【図23】実施例5の透過率特性を示す図である。
【図24】実施例6の光学系を示す図である。
【図25】偏光方向が回転したときの位相変化に対する透過率特性を示す図である。
【図26】実施例6の位相差特性を水晶の場合と比較して示す図である。
【図27】実施例6の実質的な透過率特性を水晶の場合と比較して示す図である。
【図28】実施例7の積層型位相板の概略構成図(斜視図)および製造工程図。
【図29】実施例7の積層型位相板のxz平面断面図。
【図30】実施例7の積層型位相板のyz平面断面図。
【図31】実施例7の透過率特性を示すグラフ図。
【図32】実施例7の位相差特性を示すグラフ図。
【図33】実施例8の入射角度0°における積層型位相板の透過率特性を示すグラフ図。
【図34】実施例8の入射角度0°における積層型位相板の位相差特性を示すグラフ図。
【図35】実施例8の入射角度0°における積層型位相板の透過率特性を示すグラフ図。
【図36】実施例8の入射角度20°における積層型位相板の位相差特性を示すグラフ図。
【図37】実施例9の積層型位相板を用いた反射型液晶ディスプレイの断面図。
【図38】実施例10の反射型液晶ディスプレイを用いた液晶プロジェクタの構成図。
【図39】従来の1次元微細周期構造を示す図。
【図40】従来の1次元微細周期構造を示す図。
【図41】従来の水晶板における位相差特性を示すグラフ図。
【符号の説明】
1 基板
2 第1の格子
3 第2の格子
4 第3の格子
5 基板
6 第1格子
7 第2格子
8 第3格子
21 第1の基板
22 第1格子
23 第2の基板
24 第2の格子
Claims (8)
- 基板と、複数の前記基板上に積層された使用光の波長より短い周期の周期構造体とを有し、使用光の第1の偏光成分を有する第1偏光に対する各周期構造体の有効屈折率の差が互いに0.2以下であることを特徴とする位相板。
- 前記複数の周期構造体は、前記第1の偏光成分と直交する第2の偏光成分を有する第2偏光に対する有効屈折率が基板に近づくにつれて高くなることを特徴とする請求項1記載の位相板。
- 前記使用光の波長は400nmから700nmまでの波長領域であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相板。
- 前記周期構造体は、前記基板上に設置され、第1方向に関して前記使用光の波長より短い周期の周期構造を有する第1構造体と、前記基板上に設置され、前記第1方向と直交する第2方向に関して使用光の波長より短い周期の周期構造を有する第2構造体とを有することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の位相板。
- 前記基板上に設置され、第3方向に関して使用光の波長より短い周期の周期構造を有する第3構造体を有し、前記基板側から順に、前記第1構造体、前記第2構造体、前記第3構造体が積層されており、前記第1方向と前記第3方向とが互いに直交で、前記第2方向と前記第3方向とが互いに平行であることを特徴とする請求項4記載の位相板。
- 前記周期構造体の材料として、屈折率および分散の異なる2種類以上の材料を用いていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の位相板。
- 無偏光を直線偏光に変換する偏光ビームスプリッタと、請求項1乃至5いずれか1項に記載の位相板と、反射部材とを有し、前記偏光ビームスプリッタを透過あるいは反射した直線偏光の一方は前記位相板に入射して偏光方向が90°回転し、前記偏光ビームスプリッタを透過あるいは反射した直線偏光の一方は反射部材によって他方と同一方向に射出することを特徴とする光学変調素子。
- 偏光板と、請求項1乃至5いずれか1項に記載の位相板と、液晶とを備えることを特徴とする画像表示装置。
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