JP2011081154A - 光学素子および光学装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】反射ミラーと波長板機能を統合した小型で安価な光学素子を提供すること。
【解決手段】ピッチが、入射する光の波長以下の、前記光の波長に対して導電性を有する櫛状構造部と、前記光を反射するミラー構造部を有し、前記櫛状金属構造部と前記光のミラー構造部との距離が、コヒーレンス長以下であり、前記光の第1の偏光方向の成分とそれに直交する第2の偏光方向の成分に対して、反射光の位相差が生じることを特徴とする光学素子。
【選択図】図1
【解決手段】ピッチが、入射する光の波長以下の、前記光の波長に対して導電性を有する櫛状構造部と、前記光を反射するミラー構造部を有し、前記櫛状金属構造部と前記光のミラー構造部との距離が、コヒーレンス長以下であり、前記光の第1の偏光方向の成分とそれに直交する第2の偏光方向の成分に対して、反射光の位相差が生じることを特徴とする光学素子。
【選択図】図1
Description
本発明は、サブ波長の金属構造を備え、複屈折を示す反射型の光学素子、およびそれを用いた光学装置に関する。
光学装置は広く一般に普及しており、例えば、光情報通信装置、ディスプレイ、光ピックアップ、光センサ等には、光を制御する光学素子が多く用いられている。そして、これらの装置の高機能化に伴い、光学素子においても高機能化、高付加価値化、低コスト化が求められている。
こうした光学装置の一例として、「特許文献1」では光情報通信の受信装置として位相変調方式の復調時に発生するPDFS(Polarization Dependent Frequency Shift)による信号品質の劣化を位相補償素子で低減する復調器技術が開示されている。「特許文献2」では波長よりも小さな金属構造によってプロジェクタ(ディスプレイ)用の光源の光利用効率を向上する技術が開示されている。「特許文献3」ではホモダイン方式を用いて、参照光と信号光を干渉させることでS/N比を向上する光ピックアップの技術が開示されている。これらの光学装置は、反射ミラー、光の偏光状態に応じて光路を切り替えるビームスプリッタ、光の偏光状態を変換する波長板等を複数組み合わせて所望の機能を実現している。
光の偏光状態の差異を利用したビームスプリッタとしては、光学多層膜を利用した偏光ビームスプリッタ、波長より小さな間隔の金属線の櫛状格子構造をもつワイヤグリッド等が知られている。波長板としては、水晶や方解石に代表される光学異方性結晶を用いたものや、「非特許文献1」や「特許文献4」に開示されているような、波長よりも小さい間隔の誘電体の櫛状格子構造によるものがある。「非特許文献2」では、波長よりも小さな主に金属で構成される構造によって、人工的に屈折率を制御したメタマテリアルや負の屈折に関する技術が解説されている。また、「特許文献5」には、主にディスプレイ向けに波長板機能をもたせた高分子フィルムに関する技術が開示されている。また、「特許文献6」には高分子フィルムを用いた位相差板に関する技術が開示されている。
Applied Optics、41、3558(2002)
Science、305、 788 (2004)
「特許文献1」から「特許文献3」では反射ミラー、偏光状態に応じて光路を切り替える偏光ビームスプリッタ機能を有する光学素子、波長板機能を有する光学素子等を複数組み合わせて、各々の光学装置としての機能を実現している。ここで例えば、反射ミラーと波長板機能を統合した小型で安価な新規光学素子が実現されれば、これらの光学装置の小型化・低コスト化が図れることは言うまでもない。
上に述べた光学素子の中で、最も高価なものは波長板である。従来の波長板は複屈折性を有する光学異方性結晶を所定の厚さに加工したものを用いていた。光学異方性結晶では、特定の偏光(常光)とそれに垂直な偏光(異常光)とで異なる屈折率を有し、典型的な例として、方解石では波長633nmにおいて屈折率差Δnは0.17である。これに対して、「非特許文献1」および「特許文献4」では、半導体プロセスを用いてガラス等の誘電体材料に微細加工を施すことにより、高価な光学異方性結晶を用いずに波長板(「特許文献4」では偏光分離素子と記載)を実現している。こうした誘電体の微細構造のピッチは回折による入射光の分岐を避けるために、波長よりも小さい必要がある。また、屈折率差Δnが0.2程度であるため、櫛状構造のアスペクト比は、7以上が必要と言われる。櫛状構造のアスペクト比が1以下ならば、大規模な製造装置を必要とする半導体プロセスを用いずに、CDやDVD等で用いられる射出成形プロセスによって安価に製造することが可能となるが、「非特許文献1」および「特許文献4」に開示されている技術だけでは、これを実現することができなかった。これらに比較して、直交する偏光間の屈折率差Δnが大きいとされる液晶材料では0.2〜0.3程度である。
一方、「特許文献5」および「特許文献6」に記載される高分子材料を用いた波長板は、大面積の部材を安価に提供可能であることから、主にディスプレイ用途に適する。しかしながら、これらは高分子材料を用いるが故に、性能や対環境性では無機材料を用いた素子には及ばず、「特許文献1」や「特許文献3」に記載される光情報通信装置や光ピックアップの用途には対応が困難であった。
以上の従来の光学素子の課題に鑑みて、本発明の目的は、反射ミラーや波長板機能等を統合した小型で安価な新規光学素子を提供することである。
本発明の課題を解決するためには、直交する偏光間の屈折率差Δnを従来よりも大幅に増大させた新規な光学材料を提供することが前提となる。こうした光学材料は自然界には存在しないが、本発明ではメタマテリアルの概念に基づいて、金属の櫛状構造とミラーを近接して配置した構造(以下、メタルグルーブと呼ぶ)により、人工的に創生した屈折率差Δnが5以上になることを実験とシミュレーションによって示す。この結果に基づいて、光学素子の機能・形状や、これらを用いた光学装置の構成を具体的に示してゆく。
以下、本発明では紙面内にx軸とz軸をとる座標系に統一して説明を行う。光の偏光方向はTE偏光とTM偏光に統一する。このとき、TE偏光とはx方向に磁場の振動成分を持つ光、TM偏光とはx方向に電場の振動成分を持つ光である。マクスウェル方程式の数値的解法としてはFDTD(Finite Differential Time Domain)法を用いる。金属や半導体材料の屈折率としては、特に断わらない限りPalikのハンドブック(Palik E.D. (ed.) (1991) Handbook of Optical Constants of Solids II. Academic Press、 New York.)を参照する。また、マクスウェル方程式、金属光学、プラズモニクス、アモルファス材料の光・電気物性、および個々の光学装置の動作原理当に関する詳細な説明は本発明の範囲を超えるため割愛させて頂く。
先ず、「非特許文献1」および「特許文献4」に開示されている誘電体の櫛上構造によって得られる屈折率差について、その起源をシミュレーション結果を用いて説明する。図2はSiO2(シリカガラス)を用いた櫛上構造の光学異方性に関する計算結果である。ここでは、入射光の波長を700nm、櫛のピッチを200nm、櫛の幅を100nm、櫛の高さを4000nmとし、z方向上側の空気領域から光が入射した場合について計算した。SiO2の屈折率は1.47とした。x方向の周期境界条件によって、櫛構造の1周期だけの計算すれば、無限に広がった構造体と平面波の相互作用を計算することができる。図では、電場振幅の大きさの絶対値を濃淡で表しており、隣接する明るい縞の間隔が1/2波長に対応する。入射光が櫛状構造の下端に到達したときに、TM偏光とTE偏光の位相差が調度1/2波長だけずれており、この素子が1/2波長板として機能することが判る。また、TE偏光の場合の方が電場強度の縞の数が1つ多いことからTE偏光の屈折率が大きく、屈折率差Δnは電場強度の縞の数の比率から0.0875(1/15)であることが判る。両者の差異は櫛の側面における境界条件の差異、すなわち電束密度Dと電場強度Eの連続条件の差異によってもたらされる。TM偏光の場合に櫛の内部(SiO2)と外部(空気)とで縞の明るさが異なるのは、電束密度D=εEx(εは誘電率、Exはx方向の電場成分)が一定であるという境界条件を反映している。一方、TE偏光の場合に櫛の内部と外部で電場強度が一様であるのは、櫛の側壁での電場強度Ey(Eyは紙面に垂直な方向の電場成分)が一定であるという境界条件を反映している。光のエネルギー(光子密度)はεE2/2であるため、TM偏光の場合の方が、屈折率の大きな櫛の内部に光子が多く存在していることが判る。こうした光子密度分布の差異が屈折率差Δnの起源であることが判る。従って、櫛状構造を形成する誘電体物質の屈折率と周辺(空気)の屈折率差の増大に従って、得られるΔnも大きくなる。屈折率の大きな誘電体にはSiNやダイヤモンド等々があるが、上限が約2.5であるから、大幅なΔnの増加は期待できない。また、屈折率の大きな誘電体を用いると、空気との界面での反射による損失も無視できなくなる。
次に、ワイヤグリッドの動作原理について説明する。図3に摸式的に示すようにワイヤグリッドは、波長より小さな周期をもつ櫛状構造と考えることができる。図3(a)に示すように、TM偏光に対しては、電場の振動方向に応じて金属内の自由電子が櫛の片側に集まり分極が生じるだけなので、光は櫛状構造を透過することができる。一方、図3(b)に示すように、TE偏光に対しては、金属内の自由電子は櫛の側壁による制限を受けずに振動するため、連続した金属膜と同様に光は反射される。光が金属内に進入できる厚さ(Skin Depth)よりも櫛の高さが高い場合、ワイヤグリッドはTM偏光を透過し、TE偏光を反射する分離性能(消光比)の高い偏光分離機能を有する素子となる。TM偏光における金属内の自由電子の振る舞いは広義にはプラズモンと等価であり、周辺の誘電体との整合条件(誘電率の大きさが同じで符号が逆)が整えば、光はわずかな減衰を伴いつつ、非常に長い距離(最大で数mm程度)を伝搬光することができる。また、「非特許文献2」にも解説されているように、このときに生じる分極の大きさは非常に大きいため、この空間の分極率χは誘電体のそれに比較して遥かに大きくなる。すなわち、金属の微細構造によって、人工的に大きな屈折率を得ることができる。
図4はワイヤグリッドのシミュレーション結果の一例である。ここでは、入射光の波長を700nm、金属材料をAg、ワイヤのピッチを200nm、ワイヤの幅を100nm、ワイヤの高さを100nmとした。図に見られるように、ワイヤグリッドはTM偏光のみを透過する優れた偏光フィルター機能を有することが判る。
以上のように、誘電体の櫛状構造から得られる屈折率差Δnを大きくすることが困難なこと、ワイヤグリッドは巨大屈折率を内在し、偏光フィルター機能を提供するが、波長板としての機能を持たないことが判った。
ここで、ワイヤグリッドのもつ巨大屈折率を直交する偏光間の屈折率差Δnとして利用できれば、優れた波長板を創生することができるはずである。図5はその素子(メタルグルーブ)の基本的な構造を示す摸式図である。メタルグルーブはワイヤグリッドと金属ミラーを一体化したものである。図において、TE偏光はメタルグルーブの表面の金属の櫛状構造の表面で反射され、TM偏光は櫛状構造を透過した後にミラー部でまで到達した後に反射される。両者はメタルグルーブを反射した後に干渉して、入射光とは異なる偏光状態に変換される。TM偏光は、金属櫛構造の巨大屈折率空間を往復するので、大きな位相差を得ることができる。すなわち、メタルグルーブは低アスペクト比で良好な性能の反射型の波長板の機能を有することができる。本発明では以下、説明の簡略化のために金属の櫛状構造の断面形状は矩形に限定して説明を進めるが、上の説明のように、金属に代表される良導体がワイヤ状であれば同様の効果を得られる。従って、断面形状は矩形に限らず台形や三角形等でもよい。また、櫛状構造の凸部分は、図5の例ではy軸方向に延伸して設けられているが、3次元的に剣山状にしても良い。また、本発明の光学素子の大きさは、回折や散乱の影響を小さくして所望の反射光を得るためにx軸方向、y軸方向共に、媒質中の光の波長の少なくとも数倍以上あればよい。素子の大きさと回折、散乱の大きさの関係については、マクスウェル方程式を解いて得られているが、具体的な内容は割愛させて頂く。結果は上のように光の波動性に沿った常識的なものとなった。これらの構造を含めて、本願では、櫛状構造と呼ぶ。また、使用する光(電磁波、電波も可)の波長に対して十分な導電性を有していれば、櫛状構造の材質は金属に限らず、金属・有機物のコンポジット材料、グラファイト、カーボンナノチューブ等を用いることができる。
次に、メタルグルーブのシミュレーションと試作・実験結果について説明する。
図6はメタルグルーブの特性を定めるパラメータをまとめた断面図である。図に示すように、メタルグルーブは基板材料と金属材料で基本的に構成され、櫛状構造部のピッチp、幅w、高さh、及びミラー部の厚さdが主な構造パラメータである。
図7はシミュレーション結果の一例である。ここでは、基板材料をSiO2、金属材料をAg、ピッチp=200nm、幅w=100nm、高さh=100nm、ミラー部の厚さd=300nmとし、入射光の波長を633nmとした。櫛状構造のアスペクト比(h/w)は1である。図に見られるように、TM偏光とTE偏光では、入射光と反射光が干渉した電場強度の縞の間隔の約1/2だけずれており、これが1/4波長板としての機能を有することが判る。以下、本発明においては、特に断わらない限り基板材料をSiO2としたシミュレーション結果を示す。
図8はメタルグルーブの波長依存性を示すシミュレーション結果の一例である。ここでは、金属材料をAg、ピッチp=200nm、幅w=80nm、高さh=40nm、ミラー部の厚さd=300nmとした。櫛状構造のアスペクト比(h/w)は0.5である。またメタルグルーブの方位はx-y平面内で45度回転した配置とし、TE偏光の入射光に対して、反射光に含まれる各偏光成分の強度を示した。図において、TM偏光成分の強度が最大の波長(以下ピーク波長)において、TE偏光成分の強度が十分に小さければ、メタルグルーブが良好な1/2波長板として機能することが示される。なお、図中、TEを実線、TMを点線で示す。以下、本発明においては、特に断わらない限りメタルグルーブの方位はx-y平面内で45度回転した配置とし、TE偏光を入射した場合をシミュレーションおよび実験の標準条件とする。図8(a)に見られるように、ここに示したパラメータのメタルグルーブが波長約580nmにおいて、良好な1/2波長板として機能することが判る。比較のために、光学異方性結晶(誘電体櫛状構造の場合も同じ)により作製した1/2波長板の場合の計算結果を図8(b)に示す。ここでは、光学異方性結晶の分散は十分に小さいとした。両者を比較すれば差異が明らかなように、メタルグルーブでは波長板としての機能する波長範囲が狭くすることができる。光学異方性結晶では原理的にピーク波長の整数倍の波長でも波長板として機能してしまうことが避けられない。複数の波長の光から特定の波長に対して選択的に偏光状態を操作したい場合、例えば、CD/DVD/BDに対応する光ピックアップにおける部品点数の削減用途などの場合、従来の波長板に比較して、メタルグルーブは優れた特性をもつ。これは、金属材料の複素屈折率の虚数部が特に波長に対して大きく変化する、すなわち波長分散が大きいことによってもたらされる効果である。こうした金属の複素屈折率、もしくは複素誘電率はDrudeモデルに代表されるような、金属の屈折率を原子核に弱く束縛された自由電子の運動として近似するモデルによって説明されている。金属はそれぞれ色が異なるように、加視光領域における分散特性は金属材料ごとに異なっており、これを利用することで、メタルグルーブでは、波長依存性が異なる様々な設計が可能である。具体的な例については実施例に示す。
ここで、FDTDシミュレーションの制約について付記しておく。FDTDシミュレーションでは使用メモリの制約等により基板の表面での反射を扱うことができないため、4%程度、実測に比較して光強度が大きくなることが避けられない。
ピーク波長の設計方法の一例を図9に示す。これは、櫛状構造の高さhとピーク波長の関係に着目したシミュレーション結果である。ここでは、金属材料をAg、ピッチp=200nm、幅w=80nm、ミラー部の厚さd=300nmとし、高さh=20、60、100nmの3つの場合について計算した。図に見られるように、櫛状構造の高さhを大きくするほどピーク波長が大きくなることが判る。また、TM偏光に変換される光の割合の最大値と変換効率と呼ぶことにすると、変換効率は高さh=20nmの場合に約60%、高さh=60、100nmではほぼ100%となる。従来の1/2波長板では変換効率が100%に固定されるのに対して、メタルグルーブでは、アスペクト比(h/w)によって変換効率を可変であることが特長の1つである。この特長を活用した光学素子の実施例については後述する。メタルグルーブのアスペクト比の下限について説明する。メタルグルーブでは図9(a)に示した条件、h/w=20nm/80nm=0.25付近で変換効率の大きな変化が得られ、アスペクト比がゼロでは機能しない。従って、メタルグルーブが光学素子として有効に機能するアスペクト比の下限は概ね0.1程度である。
次に、メタルグルーブの試作と評価の結果について示す。図10は試作した素子を評価するための実験装置の構成を示す摸式図である。前述の標準条件での測定を行うため、分光光度計(日立製、U4100)を用いた。素子サイズが4mm x 3mmであることから、分光光度計に測定領域2mmφ、5°正反射測定治具を使用し、ランバート社製Gran-Taylarプリズムを2個取り付け、それぞれを検光子、および偏光子とした。
図11は試作素子の評価結果を示す。ここでは、電子線描画装置を用いてガラス基板上に作製したピッチp=200nmの素子パターンを作製し、インプリント法とスパッタリング法を用いて櫛状構造の高さhの異なるメタルグルーブを試作した。図中にはガラス基板の電子顕微鏡写真を示した。金属材料にはAgPdCu合金を選択した。図に見られるように、シミュレーション結果と同様に、hが60nm、100nm、180nmと増加するに従って、ピーク波長が長波長側にシフトしてゆくことが確認できた。また、ピーク波長における光強度の最大値は何れも80%以上という良好な結果が得られた。
図12は試作素子の評価結果とシミュレーションの結果を比較したものである。メタルグルーブの性能制御パラメータの1つである櫛状構造の高さhとピーク波長の関係は、実験とシミュレーションとで、良好な一致が見られることが判る。この結果から、メタルグルーブによって得られる直行する偏光間の屈折率差Δnは約6であり、従来のものに比較して20倍程度大きな値であることが判った。
ここでは、メタルグルーブの構成例として、ワイヤグリッドと金属ミラーを一体化した構成について述べた。しかしながら、これらは必ずしも一体化されている必要はなく、使用する光のコヒーレンス長さ(波長スペクトルの広がりの逆数と等価)以内であれば、分離してもよい。もし、両者の距離が光のコヒーレンス長さ以上に離れている場合、TE偏光成分とTM偏光成分が干渉せず、結果としてメタルグルーブが波長板として、偏光状態の操作を行えなくなってしまうからである。一般に、水銀ランプや冷陰極管、太陽光のような無偏光の光源の場合のコヒーレンス長さは数波長程度、光ピックアップに用いられるような半導体レーザの場合で数10波長程度、通信用レーザやガスレーザの場合は100波長以上である。従って、ワイヤグリッド素子とミラーを厚さ1mm程度のガラス基板の両面にそれぞれ形成した素子では、水銀ランプや光ピックアップ用半導体レーザに対しては干渉性の観点から波長板としては機能しない。また、こうした素子ではガラス基板の厚さの精度と屈折率の温度変化等の影響を考えた場合、安定性と信頼性の観点から本発明に劣るものとなってしまう。以上のように、本発明は従来技術の単純な組み合わせでは実現し得ない進歩性を備えている。
以上に述べたように、本発明のメタルグルーブによって、反射ミラーと波長板の機能を複合し、アスペクト比が小さく加工性優れた新規光学素子を提供できた。以下、本発明では、メタルグルーブを応用して、光(電磁波、電波)の導波、変調、もしくは検出の何れかを行う機能を有する光学素子、および光学装置に関する技術内容を開示する。
本発明よれば、少なくとも反射ミラーと波長板の機能を複合し、構造で光学特性を設定可能で、加工性が良好で、低コスト化が可能な新規光学素子が提供できる。本素子を用いた光学装置については実施例で述べる。
以下、図を用いて本発明の実施形態を説明する。
<作成方法>
図13にメタルグルーブも最も安価な製造方法を示す。前述のように、CDやDVDに適用される射出成形法によって、所定の凹凸パターンをもつ透明なプラスチック基板ができることは周知のことである。メタルグルーブではアスペクトが小さいため、こうした製造方法を利用することができる。CDやDVDでは情報ピットや案内溝が同心円上に形成されるが、メタルグルーブでは基本的に直線状の溝パターンがあればよい。このプラスチック基板上にスパッタリング法で金属層を形成するが、図13(a)から図13(c)に示すように、製膜する金属層の膜厚が厚くなると表面の凹凸が次第に平滑化されてゆく。このとき、プラスチック基板と金属層の密着性の向上のために、図に示すような接着層を間に形成してもよい。接着層の材料としてはMo、Cr、Ta等の金属およびその酸化物等が有効である。これらの材料を用いる場合、接着層の膜厚は0.5から2nm程度が標準的な値である。図13(c)に示した形状は、上下と反対にすれば図5に示した素子構造と同じものである。実際には、用途に応じて、高性能が要求される場合には、プラスチック基板の複屈折率を低減するため、前述のようにリソグラフィープロセスを応用してガラス基板上に作製することも、UV硬化樹脂を用いたナノインプリント法などを使い分けることがよい。また、金属材料としては、前述のAg、Ag合金の他にも、Au、Cu、Pt、Fe、Cr、Mo、Wなどの金属やそれらの合金等を用いることができる。また、ガラスやプラスチックなどの透明な基板を用いずに、Si基板上にメタルグルーブを形成することもできる。この場合は、予め厚く成膜した金属をエッチングして櫛状構造を残すことにことが工程数が少ない方法の1つである。
図13にメタルグルーブも最も安価な製造方法を示す。前述のように、CDやDVDに適用される射出成形法によって、所定の凹凸パターンをもつ透明なプラスチック基板ができることは周知のことである。メタルグルーブではアスペクトが小さいため、こうした製造方法を利用することができる。CDやDVDでは情報ピットや案内溝が同心円上に形成されるが、メタルグルーブでは基本的に直線状の溝パターンがあればよい。このプラスチック基板上にスパッタリング法で金属層を形成するが、図13(a)から図13(c)に示すように、製膜する金属層の膜厚が厚くなると表面の凹凸が次第に平滑化されてゆく。このとき、プラスチック基板と金属層の密着性の向上のために、図に示すような接着層を間に形成してもよい。接着層の材料としてはMo、Cr、Ta等の金属およびその酸化物等が有効である。これらの材料を用いる場合、接着層の膜厚は0.5から2nm程度が標準的な値である。図13(c)に示した形状は、上下と反対にすれば図5に示した素子構造と同じものである。実際には、用途に応じて、高性能が要求される場合には、プラスチック基板の複屈折率を低減するため、前述のようにリソグラフィープロセスを応用してガラス基板上に作製することも、UV硬化樹脂を用いたナノインプリント法などを使い分けることがよい。また、金属材料としては、前述のAg、Ag合金の他にも、Au、Cu、Pt、Fe、Cr、Mo、Wなどの金属やそれらの合金等を用いることができる。また、ガラスやプラスチックなどの透明な基板を用いずに、Si基板上にメタルグルーブを形成することもできる。この場合は、予め厚く成膜した金属をエッチングして櫛状構造を残すことにことが工程数が少ない方法の1つである。
<光学素子>
図1はメタルグルーブの別の構成を示す摸式図である。これは、櫛状構造のワイヤグリッドとミラーの間に誘電体を有する構造であって、メタルグルーブの最も一般的な構造である。ここで、ワイヤグリッド部とミラー1部の間の層間誘電体の厚さをsとする。図14は層間誘電体の厚さsとメタルグルーブの波長依存性の関係を示すシミュレーション結果である。ここでは、金属材料をAg、層間誘電体材料をSiO2、櫛状構造のピッチp=200nm、幅w=80nm、高さh=80nm、ミラー部の厚さd=300nmとし、層間誘電体の厚さs=20、50、100nmの3つの場合について計算した。図に見られるように、層間誘電体の厚さsを変化させることによっても、ピーク波長を調整可能であることが判る。これは、誘電体を厚くするほどTM偏光の光路長を増大できるからである。前述の説明では、櫛状構造の高さ、すなわちアスペクト比によってピーク波長を変化させた。一方、櫛状構造の高さを変化させると、TE偏光の反射率や消去比、およびジュール熱による損失も同時に変化してしまうが、ワイヤグリッド部とミラー部を一体化できるので、低コストで素子を作製できる。一方、ここに示した方法は、光学異方性結晶の厚さによってピーク波長を変更するのと同様な方法である。構造は複雑になるが、より緻密に、線形にピーク波長の調整ができるので、高い性能が要求される用途に適する調整方法と素子構造である。なお、ここでは、層間誘電体材料としてSiO2を用いる例を示したが、これは使用する光(電磁波)の波長に対して必要十分な透過率が得られれば、誘電体に限らず半導体や樹脂材料等を用いることができる。例えば、赤外光に対しては結晶Siは十分な透過性を有するし、ミリ波帯の光を使用するのであれば、ポリイミド樹脂、発泡スチロール、ゴムなどを使うことも可能である。
図1はメタルグルーブの別の構成を示す摸式図である。これは、櫛状構造のワイヤグリッドとミラーの間に誘電体を有する構造であって、メタルグルーブの最も一般的な構造である。ここで、ワイヤグリッド部とミラー1部の間の層間誘電体の厚さをsとする。図14は層間誘電体の厚さsとメタルグルーブの波長依存性の関係を示すシミュレーション結果である。ここでは、金属材料をAg、層間誘電体材料をSiO2、櫛状構造のピッチp=200nm、幅w=80nm、高さh=80nm、ミラー部の厚さd=300nmとし、層間誘電体の厚さs=20、50、100nmの3つの場合について計算した。図に見られるように、層間誘電体の厚さsを変化させることによっても、ピーク波長を調整可能であることが判る。これは、誘電体を厚くするほどTM偏光の光路長を増大できるからである。前述の説明では、櫛状構造の高さ、すなわちアスペクト比によってピーク波長を変化させた。一方、櫛状構造の高さを変化させると、TE偏光の反射率や消去比、およびジュール熱による損失も同時に変化してしまうが、ワイヤグリッド部とミラー部を一体化できるので、低コストで素子を作製できる。一方、ここに示した方法は、光学異方性結晶の厚さによってピーク波長を変更するのと同様な方法である。構造は複雑になるが、より緻密に、線形にピーク波長の調整ができるので、高い性能が要求される用途に適する調整方法と素子構造である。なお、ここでは、層間誘電体材料としてSiO2を用いる例を示したが、これは使用する光(電磁波)の波長に対して必要十分な透過率が得られれば、誘電体に限らず半導体や樹脂材料等を用いることができる。例えば、赤外光に対しては結晶Siは十分な透過性を有するし、ミリ波帯の光を使用するのであれば、ポリイミド樹脂、発泡スチロール、ゴムなどを使うことも可能である。
図15は層間誘電体の厚さs=150nmの場合のシミュレーション結果である。図に見られるように、概ねR、G、Bに相当する波長に高次の干渉ピークが存在することが判る。これは、sの変化が、従来の素子の厚さの変化と同様な作用であるため、高次の干渉ピークが現れたのである。こうした素子を用いれば、ディスプレイ用途等、複数の波長でメタルグルーブを動作させることができる。
次に、金属材料を変更した場合の効果について述べる。図16は図5の一体型の素子構造の場合に、金属材料をAgとAlで比較した場合のシミュレーション結果である。ここでは、櫛状構造のピッチp=200nm、幅w=60nm、高さh=80nm、ミラー部の厚さd=300nmとした。図16(a)に見られるように、金属材料がAgの場合には、波長500から700nmの領域でTM光の強度が大きな領域がある。一方、図16(b)に見られるように、金属材料がAlの場合には、波長350から500nmの領域でTM光の強度が大きな領域がある。前述のように、金属材料の複素屈折率の波長依存性に応じて、形状が同じでも、異なる波長依存性を得ることができることが判る。これは、適当な合金材料の組成を変化させる等によって、同じ金型を用いて波長依存性の異なる素子を作製できることを示す。また、一様なパターンの素子であっても、場所によって製膜する金属材料の種類を変更することにより、所望の波長依存性が得られることを示すものでもある。
図17は金属材料としてAlを用いた場合のシミュレーション結果を示す。ここでは、櫛状構造のピッチp=200nmとし、幅w=80、60、40nmの場合について、それぞれ高さh=60、80、120nmとした。図に見られるように、幅wを小さくし、同時に高さhを大きくすると、良好な1/2波長板性能を得られる波長範囲が広がることが判る。特に、図17(c)の場合では、可視光のほぼ全領域に亘って、1/2波長板性能を得られる。前述の例では、高次の干渉によって、複数の波長にピークをもつ素子を実現できることを示したが、この例では、ブロードな波長特性を得る素子を実現できる。これらも用途に応じて適宜選択するとよい。
なお、図1の例では、ミラー部すべてを金属で形成したが、反射面のみを金属とし、その他の部分を他の材料で構成しても良い。
<光学装置>
以下、本発明の光学素子を適用した光学装置について、図面を用いて説明する。
以下、本発明の光学素子を適用した光学装置について、図面を用いて説明する。
図18は本発明の光学素子を用いた光源光学系の構成を示す摸式図である。これはメタルグルーブを応用して高効率に光を導波する光学装置に一例である。図中、光源10から出射した無偏光の光線は、入射窓から導光板110に入射する。導光板110の光入射側には、本発明のメタルグルーブが形成されており、光出射側には、TM偏光を透過し、TE偏光を反射するワイヤグリッド等の偏光フィルター120が形成される。こうした構成において、光源から出射した光のうち、TM偏光成分は透過し、TE偏光成分は偏光フィルター120で反射され、メタルグルーブ100により反射されると同時にTM偏光に変換され、偏光フィルターを透過して出射する。こうした構成によって、図示していない液晶素子を用いたプロジェクタやディスプレイ光学系での光利用効率が向上する。この理由は、よく知られているように、液晶素子が特定の方向の偏光のみに対して強度変調機能を有するからである。ここで、光源としては、LED、冷陰極管、高圧水銀ランプ等の無偏光光源を用いる。また、導波板120の両面に射出成型によって、所定のパターンを作成し、金属薄膜をスパッタリング法等により形成することで、光学系を一体形成が可能である。偏光フィルターとしてワイヤグリッドを用いる場合には、前述と同様な方法でワイヤグリッドとミラーを形成した後、CMP法等による研磨によって、ミラー部を除去すればよい。
図19は本発明の光学素子を用いた光源光学系の別の実施例である。この例では光源がメタルグルーブを含む素子の側面から入射する場合に対応し、携帯電話用等の小型液晶ディスプレイの照明光学系への応用を想定したものである。この場合、図中の上方へ均一な強度の光を取り出すことが必要となる。これを実現するため、本実施例ではメタルグルーブ100をエリア1からエリア3のように分割し、それぞれピッチ、幅、高さの異なる櫛状構造を形成した。例えば図9に示したように、メタルグルーブでは櫛状構造のパラメータを変化させることによって、ピーク波長や変換効率を設定することが可能である。また、図14から図17に示したように、櫛状構造のパラメータや金属材料を選択することによって、ピーク波長や波長板として機能する波長範囲を設計することも可能である。光源として、白色LED等を用いる場合や、RGB独立のLEDを用いる場合等、光源の種類や要求性に応じて、こうした領域分割が有効な手段の1つとなる。領域分割を行っても、基板のパターンが変化するだけであるので、低コストに製造できるというメタルグルーブのメリットは失われない。
図20は本発明の光学素子を用いたホモダイン検出系を有する光ピックアップの構成を示す摸式図である。「特許文献3」に記載されるホモダイン検出系を有する光ピックアップでは、光ディスク媒体から反射された信号光と参照光を干渉させることによって、信号振幅を増幅し再生信号の品質を向上する。図において動作原理を簡単に説明する。半導体レーザ301から出射した光は、1/2波長板321を透過することによって、偏光方向が45度回転させられる。偏光の回転した光は偏光ビームスプリッタ341によって直交する2つの直線偏光に分離され、一方の偏光の光(再生光)は反射されて1/4波長板322を透過することによって円偏光に変換された後、対物レンズ311で集光され光ディスク4に照射される。スピンドルモータ77によって回転させられている光ディスク4からの反射光(信号光)は、対物レンズ311で再び平行光に戻され、1/4波長板322で偏光方向が元の光と直交する直線偏光に変換される。このため、信号光は偏光ビームスプリッタ341を透過し、ビームスプリッタ342の方向に向かう。最初に偏光ビームスプリッタ341を透過した参照光と呼ぶ成分(参照光)は本発明のメタルグルーブ100で偏光状態が直交する偏光に変換されて反射され、偏光ビームスプリッタ341で反射され、信号光と合成されてビームスプリッタ342の方向に向かう。このとき、信号光と参照光は、互いに偏光方向が直交した状態で合成されている。
合成光の一方はハーフミラーであるビームスプリッタ342を透過し、1/2波長板324によって、偏光方向を45度回転させられた後、偏光ビームスプリッタ343によって直交する直線偏光に分離され、検出器361(PD1)と光検出器362(PD2)によって検出される。同様にして、合成光のもう一方は、ハーフミラーであるビームスプリッタ342で反射され、1/4波長板325によって信号光と参照光の間にπ/2の位相差を与えられた後、の1/2波長板326によって、偏光方向を45度回転させられ、ビームスプリッタ344によって直交する直線偏光に分離され、検出器363(PD3)と光検出器364(PD4)によって検出される。PD1からPD4の4つの光検出器によって位相ダイバーシティ検出を行うことによって、光路差の変動の影響を相殺して、良好な再生信号を得ることができる。ここで、「特許文献3」ではメタルグルーブ素子の代わりに1/4波長板とミラーが実装される。本発明のメタルグルーブを用いれば、部品点数を削減し、光ピックアップの小型・低コスト化を図ることが可能になる。この例に限らず、一般に1/4波長板とミラーの組み合わせによって、反射光の偏光方向を90度回転するユニットを備えた光学系、もしくは1/2波長板を備えた光学系に対して、これらを本発明のメタルグルーブで置き換えることによって、同様に部品点数の削減や低コスト化を図ることが可能である。
図21は、本発明の光学素子を用いた光通信向け検出器モデュールの光学系の構成を示している。これは、差動位相偏移変調信号の復調器の構成である。光ファイバ801から送られてきた差動位相偏移変調された信号光はコリメータ802によって平行光となり、ハーフビームスプリッタ402に入射し、第一の分岐光403と第二の分岐光404に強度比1対1で分離される。第一の分岐光403はメタルグルーブ素子101に垂直に近い角度で入射することにより、反射光の偏光方向が90度回転して再びビームスプリッタ402に入射する。その結果、第一の分岐光403の偏光成分のうちTE偏光成分は再びハーフビームスプリッタ402に入射する時点でTM偏光に変換され、同様にTM偏光成分はTE偏光成分に変換される。同様にして第二の分岐光404はメタルグルーブ素子102に垂直に近い角度で入射することにより、反射光の偏光方向が90度回転して再びビームスプリッタ402に入射する。第一の分岐光403と第二の分岐光404は、ハーフビームスプリッタ402に再び入射する際に合波され、第一の干渉光409と第二の干渉光410が生成される。ここで第一の分岐光403と第二の分岐光404の光路長の差が、被変調光の1ビット分に相当するようにメタルグルーブ素子101、102を配置しておく。例えば変調周波数が40Gb/sの場合、光路長の差は約7.5mmとなる。このため、第一の干渉光409と第二の干渉光410は、被測定光の隣接ビット間の位相偏移量が0かπかによって、建設的干渉もしくは破壊的干渉の状態になり、結果的に位相変調信号が光強度信号に変換される。これらの干渉光は集光レンズ803、804によって平衡型光検出器805の二つの受光部にそれぞれ集光される。並行型光検出器805はこれらの干渉光の強度差に相当する電流信号を出力し、この出力はトランスインピーダンスアンプ806によって電圧信号に変換され、最終的な出力807を得る。こうした構成において、第一の分岐光403と第二の分岐光404が、ハーフビームスプリッタ402で分岐、合波される時点で生ずる相対的な位相差PDFSが、本発明のメタルグルーブ素子の作用によって、偏光成分が入れ替わることによって互いに相殺し合い、結果的にPDFSの影響を受けないため、信号光の偏光状態状態によらない情報の復調が可能となる。
<能動型光学素子>
本発明の光学素子では、金属を用いた櫛状構造とミラーを備えることができる。これらの間に電圧を印加し、両者の間に印加電圧に応じて光学特性の変化する材料を配置することによって、電圧制御によって特性を能動的に変えることができる光学素子を実現することができる。印加電圧、もしくは印加電場強度に応じて特性の変化する光学材料として、例えばアモルファス・カルコゲナイド薄膜がある。光ディスクの記録材料として用いられるGe−Sb−Te等のアモルファス薄膜は、レーザ光の照射条件に応じて、アモルファス状態と結晶状態との間で可逆的に相変化する。一方、こうしたアモルファス薄膜は、印加される電場強度が小さい場合には、高抵抗を示すが、印加される電場強度が0.01V/nmのオーダになると抵抗率が小さくなりはじめ、0.1V/nm程度で結晶状態とほぼ同じ抵抗率を示す。このときの抵抗率の変化は100万倍程度である。図22は、種々のカルコゲナイド薄膜の製膜したての状態(アモルファス)と約300℃で30分アニールした状態(結晶)での抵抗率の変化を測定した結果を示している。大きな抵抗率の変化を示すものが見られる。Ge1Sb2Te4およびInSb薄膜において、抵抗率の変化が小さいのは製膜条件やアニール条件が適正でなかったものと考えられる。電圧印加によって、抵抗率がアモルファス状態から結晶状態まで変化するということ、および複素屈折率の虚数部(消衰係数)が抵抗率と光の振動数によって表されること、を合わせればこれらの材料は電圧印加によって、屈折率も変化するはずである。ここでは電圧を印加させながら薄膜材料の屈折率の変化を測定することができなかったが、アモルファス状態と結晶状態での屈折率は、分光光度計やエリプソを用いて測定することができる。ここでは、アモルファス薄膜に電圧を印加することによって、屈折率が結晶状態と同じになると仮定して、シミュレーションを行う。
本発明の光学素子では、金属を用いた櫛状構造とミラーを備えることができる。これらの間に電圧を印加し、両者の間に印加電圧に応じて光学特性の変化する材料を配置することによって、電圧制御によって特性を能動的に変えることができる光学素子を実現することができる。印加電圧、もしくは印加電場強度に応じて特性の変化する光学材料として、例えばアモルファス・カルコゲナイド薄膜がある。光ディスクの記録材料として用いられるGe−Sb−Te等のアモルファス薄膜は、レーザ光の照射条件に応じて、アモルファス状態と結晶状態との間で可逆的に相変化する。一方、こうしたアモルファス薄膜は、印加される電場強度が小さい場合には、高抵抗を示すが、印加される電場強度が0.01V/nmのオーダになると抵抗率が小さくなりはじめ、0.1V/nm程度で結晶状態とほぼ同じ抵抗率を示す。このときの抵抗率の変化は100万倍程度である。図22は、種々のカルコゲナイド薄膜の製膜したての状態(アモルファス)と約300℃で30分アニールした状態(結晶)での抵抗率の変化を測定した結果を示している。大きな抵抗率の変化を示すものが見られる。Ge1Sb2Te4およびInSb薄膜において、抵抗率の変化が小さいのは製膜条件やアニール条件が適正でなかったものと考えられる。電圧印加によって、抵抗率がアモルファス状態から結晶状態まで変化するということ、および複素屈折率の虚数部(消衰係数)が抵抗率と光の振動数によって表されること、を合わせればこれらの材料は電圧印加によって、屈折率も変化するはずである。ここでは電圧を印加させながら薄膜材料の屈折率の変化を測定することができなかったが、アモルファス状態と結晶状態での屈折率は、分光光度計やエリプソを用いて測定することができる。ここでは、アモルファス薄膜に電圧を印加することによって、屈折率が結晶状態と同じになると仮定して、シミュレーションを行う。
図23は本発明の能動型光学素子の構成を示す実施例である。この例では、メタルグルーブの下部に、アモルファス薄膜/誘電体/金属カソードを構成している。こうした構成によって、メタルグルーブと金属カソードによってエタロン構造を構成し、アモルファス材料の屈折率変化によって、大きな反射率や位相の変化を得ることができる。例えば、金属材料をAl、アモルファス材料としてBi(4at%)-Ge2Sb2Te5、誘電体材料としてSiO2を選択し、ピッチp=200nm、幅w=40nm、高さh=120nm、ミラー部の厚さd=20nm、アモルファス層の厚さd1=15nm、誘電体層の厚さd2=120nmとした場合、波長405nmのTM偏光に対して、電圧印加の前後で反射率が2%から45%に変化することがシミュレーションの結果から分かった。
図24は本発明の能動型光学素子の構成を示す別の実施例である。この例では、メタルグルーブの櫛状構造の間にアモルファス材料を配置し、隣接する櫛状構造の間に電圧を印加できる構成である。この場合、櫛状構造の側壁に沿って発生する強いエバネッセント場を利用することによって、光学的に透明に近いアモルファス材料に対しても、大きな相互作用を得ることができる。この場合、図25に示すように櫛状構造を形成すれば、メタルグルーブとしての機能と電極としての機能を共存した光学素子を構成できる。本構成では、電圧を印加した場合にアモルファス材料に直接電流が流れる構成となっている。これによって、消費電力は増加するが、ジュール発熱による温度変化と電場強度変化を併用して大きな屈折率差を得ることができる。消費電力を小さくするためには、MOSトランジスタのゲート絶縁膜と同様にSiO2等の誘電体絶縁材料で櫛状構造を覆い、アモルファス材料に流れる電流を小さくすることで実現できる。
ここに示した能動型光学素子では、電源の他、電圧制御スイッチやクロック源等を必要とするため、Si基板上に半導体プロセスを利用してこれらの回路要素とメタルグルーブ素子をチップ上に一体形成することが、製造方法として適している。
また、カルコゲナイド・アモルファス薄膜を使用する場合について説明したが、アモルファス材料として、アモルファス半導体を用いることもできる。アモルファス・シリコンは結晶シリコンと異なる屈折率を有することが知られており、400から450nmの波長帯で特に大きな屈折率変化を示すことから、青色光源を用いる場合に優れた材料である。同様に、電圧の印加によって屈折率が変化する材料であれば、本発明の能動型光学素子に用いることができる。こうした材料として、無機材料を用いれば、液晶材料に比較して応答速度の速い光スイッチや位相変調器を実現することができる。また、チタン酸バリウムのようにキュリー点付近の温度変化によって大きな誘電率変化(屈折率変化)が得られる材料を用い、電極間に発熱源となるヒータ機構を設ければ、温度制御によって、光の位相や強度を制御することも可能である。
本発明の能動型光学素子の用途としては、(1)ホログラム記録の光学系における空間位相変調器の置き換え、(2)前述のホモダイン方式を用いた光ピックアップや光通信用検出モデュールにおける2つの光の干渉距離の調整器、(3)光通信の送信機における位相変調器の置き換え、(4)多層光ディスクに対応した光ピックアップにおける相関クロストークの削減用素子、(5)レーザプロジェクタにおけるスペックルパターンの抑圧用素子、等として利用することができる。(1)から(3)は容易に理解可能であろう。(4)、(5)については、光源からの出射光に、検出系の帯域を超えた周波数(数10MHzから数GHz)で高周波位相変調を施すことによって、複数の光束間の干渉を平均化することにより実現される。
<位相制御素子>
ここでは、メタルグルーブによって得られる光の位相差を利用する光学素子の実施例を示す。
ここでは、メタルグルーブによって得られる光の位相差を利用する光学素子の実施例を示す。
図26はメタルグルーブによって得られる光の位相差に関するシミュレーション結果である。ここでは、図5に示す構造について、基板材料をSiO2、金属材料をAl、ピッチpと幅wの比w/p=0.4、高さh=300nmとして、ピッチpを変化させたときの光の位相を計算した。光源の波長は780nmである。図に見られるように、ピッチを変化させることによって、反射光の位相を制御できることが判る。ピッチ約520nm以上の領域では、1次回折光が発生する条件となり、ピッチ約400から500nmの範囲にピッチに対する位相の変化率が大きい領域があることが判る。例えばTM偏光の場合、ピッチ400nm以下の領域で0.3λから0.4λの位相の制御が可能である。
図27は、メタルグルーブによって得られる位相差を応用した3波長互換光ピックアップの構成を示す実施例である。図において、BD(Blu−ray Disc)用レーザ301(λ=405nm)、DVD用レーザ302(λ=660nm)、CD用レーザ303(λ=780nm)から出射したレーザ光は、波長選択ビームスプリッタ346,347によって同一光路を進行し、メタルグルーブ100で反射して、対物レンズ311によって光ディスク4に集光される。ここで、1つ対物レンズで3つの異なる波長の光をそれぞれ対応するディスクに集光する場合、球面収差の残留が問題になることは周知のことである。このとき、BDの波長とDVDの波長はおおよそ1.5倍異なるので、これを利用した波長分離型の回折格子によって球面収差補正をする技術についてもよく知れらている。ところが、BDの波長とCDの波長はほぼ2倍の関係にあるため、波長分離型の回折格子が有効に作用しないという問題がある。一般には、記録密度の高いBDに合わせた光学設計が行われるため、CDについては光利用効率の低下や球面収差の残留が技術課題となる。一方、メタルグルーブでは、図9等に示したように動作波長の選択と図27に示した位相差の制御が、櫛状構造の材質と形状パラメータによって制御可能である。図中では、メタルグルーブの中心部分を拡大して図示したが、これは輪帯状にピッチのことなるメタルグルーブを形成していることを示す。こうした構造のメタルグルーブ素子によって生ずる光学位相差を利用して、CDレーザ光に残留する球面収差を補正することができる。前述の波長選択性によって、BD,DVDではメタルグルーブを反射板として機能させることが可能である。こうした構成によって、3波長互換光ピックアップの性能を向上することが可能である。
ここに示した光学素子は、一種の回折格子とメタルグルーブを組み合わせたものと考えることができる。光ピックアップに利用される回折格子の格子ピッチは一般的10μm以上であるから、回折格子の凸部をメタルグルーブで形成し、偏光依存性能、波長選択性能、位相制御性能を向上したハイブリッドな回折格子を提供することも可能である。
上記は、主に可視光から近赤外光の対応素子として説明したが、光の一種である電波でも適用可能であるので、引き続き説明する。図28は本発明の位相制御素子を応用したミリ波用マイクロストリップアンテナの構成を示す実施例である。マイクロストリップアンテナ(microstrip antenna)はアンテナの一種であり、パッチアンテナとも呼ばれる。帯域が狭く、広い指向性を持つとい特徴があり、アンテナのエレメントを金属のエッチング加工で安価に作製できる。マイクロストリップアンテナは共振周波数における波長によって大きさが決まるため、通常は極超短波(UHF)あるいはマイクロ波、ミリ波の周波数で用いられ、航空機や宇宙船の外側、あるいは自動車内に取り付けられた無線通信機器、車載用ミリ波レーダ等に用いられる。図28(a)に従来のマイクロストリップアンテナの構成を摸式的に示す。この場合、アンテナから出力される電波(=光)は、対称性によってアンテナ面に対して上下方向に分布する。一方、図28(b)に示すように、アンテナの下部にメタルグルーブを配置すると、下方向きに出射された電波がメタルグルーブによって反射され、上方に出射される電波と干渉加算されて、上方に2倍の出力として取り出すことができる。これによってアンテナの指向性と出力を改善することができる。この特性は、車載用のミリ波アンテナ等で有効である。図29はメタルグルーブによるアンテナの出力の向上を示すシミュレーション結果である。ここでは図28(b)に示した構成において、波長4mm(77GH)、櫛状構造の幅0.05mm、ピッチ0.5mmとして、高さhと出力される電波の強度の関係を計算した。金属材料は一般の計算手法に従って、完全導体として扱った。図にみられるように、メタルグルーブの櫛状構造の高さを約1mmとすれば、感度が約2倍に向上することが判る。同時に、出力する偏波の向き(=電場の振動方向)と垂直な偏波については、図5に示した原理によって、図29における高さゼロの条件となり、反射波との干渉によって電波が打ち消される。これによって得られる効果は、(1)アンテナ上方向への利得が2倍、(2)直交する偏波をほぼゼロに抑圧、である。これらの効果を活用すれば、車載用ミリ波レーザの出力向上と高S/N化を図ることができる。これは、送受信アンテナ、どちらにでも用いることができる。
ここに述べたアンテナの構成は、ミリ波だけに限らずマイクロ波でも同様にして用いることができる。ミリ波やマイクロ波に対応するメタルグルーブの製造方法としては、プレス加工、研削加工、エッチング、めっき等が好ましい。
本発明により、光通信向け光学装置、光記録向け光学装置、ディスプレイ装置、無線通信向け装置、等を小型・低コストに構成することができる。
100、101、102:メタルグルーブ素子、
10:光源、
110:導光板、
120:偏光フィルタ
130:入射窓。
10:光源、
110:導光板、
120:偏光フィルタ
130:入射窓。
Claims (9)
- ピッチが、入射する光の波長以下の、前記光の波長に対して導電性を有する櫛状構造部と、
前記光を反射するミラー構造部を有し、
前記櫛状金属構造部と前記光のミラー構造部との距離が、コヒーレンス長以下であり、前記光の第1の偏光方向の成分とそれに直交する第2の偏光方向の成分に対して、反射光の位相差が生じることを特徴とする光学素子。 - 前記櫛状構造部と前記ミラー構造部との間に、光路長調整層を有することを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- 前記櫛状構造部と前記ミラー構造部とは、一体的に形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- 前記光学素子は、高次の干渉ピークが生じることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- 前記櫛状構造部は、金属からなることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- 前記櫛状構造部の凸部は、y軸方向に延伸して形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- さらに、印加される電圧に応じて屈折率が変化する材料からなる部分が設けられていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
- ピッチが、入射する光の波長以下の、前記光の波長に対して導電性を有する櫛状金属構造部と、
前記光を反射するミラー構造部を有し、
前記櫛状構造部と前記光のミラー構造部との距離が、コヒーレンス長以下であり、前記光の第1の偏光方向の成分とそれに直交する第2の偏光方向の成分に対して、反射光の位相差が生じることを特徴とする光学素子を搭載し、
少なくとも光の導波、変調、もしくは検出の何れかを行う機能を有する光学装置。 - ピッチが、入射する電波の波長以下の、前記電波の波長に対して導電性を有する櫛状構造部と、
前記電波を反射するミラー構造部を有し、
前記櫛状構造部と前記電波のミラー構造部との距離が、コヒーレンス長以下であり、前記電波の第1の偏光方向の成分とそれに直交する第2の偏光方向の成分に対して、反射光の位相差が生じることを特徴とする光学素子。
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