以下、本発明の窓部材を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の窓部材は、多官能(メタ)アクリレートを含有するハードコート層形成用組成物の硬化物で構成されたハードコート層と、透光性を有する第一の基材と、透光性を有する第二の基材と、を備える窓部材であって、前記ハードコート層形成用組成物の硬化物で構成されたハードコート層が最表層であり、下記要件Aを満足することを特徴とする。
要件A:当該積層体に対して前記ハードコート層側から、切りくず/潤滑油混合物を衝突させる傷加速試験において、前記傷加速試験前のヘイズと前記傷加速試験後のヘイズとの大きさの差をヘイズ増加量としたとき、該ヘイズ増加量が5以下となる。
かかる構成によれば、窓部材は、透明性と耐擦傷性に優れたものとなる。
このような本発明の窓部材は、例えば、航空機、自動車、オートバイ、鉄道車両等の車両の車体、エレベーターの外壁、ロボットの外装、建設機械の外装、工作機械等の工業機械の外装、農業機械の外装、建物の外壁、等の窓部に用いることができる。
以下に、本発明の窓部材について説明するが、以下では工作機械の外壁に設けられ、工作機械の内部を視認する機能を有する工作機用窓について代表的に説明する。
まず、本発明の窓部材で構成された工作機用窓を説明するのに先立って、この工作機用窓を備える工作機械について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の窓部材で構成された工作機用窓を備える窓ユニット装着された工作機械の一例を示す斜視図、図2は、図1中のA−A線断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1および図2中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。また、図2中の右側を「内側」、左側を「外側」と言う。また、図2中では、第1の工作機用窓および第2の工作機用窓に関して、それぞれ、その厚さ方向を強調して描いている。
《工作機械》
図1に示す工作機械は、数値制御(NC)による機械加工、すなわちNC加工で機械加工を自動的に行うことができ、そして、その機械加工に応じて、工具と(母材)とを自動的に交換可能なマシニングセンタ10である。このマシニングセンタ10は、加工対象物に対して実際に機械加工を行う構造体101と、構造体101全体を覆う外装102と、構造体101の作動を操作、制御する操作パネル103とを有している。
図2に示すように、構造体101は、本実施形態では、旋削、すなわち、ターニング(外丸削り)を行う旋盤を一例として挙げている。旋盤である構造体101は、加工対象物である円柱体20を把持してその軸回りに回転する回転機構部(図示せず)と、バイト104とを有している。なお、マシニングセンタ10であるため、構造体101は、旋盤としての機能を有するのに限定されず、その他、例えば、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、歯切り盤、研削盤としての機能も有している。
外装102は、金属板で構成され、マシニングセンタ10の骨格を構成するフレーム(図示せず)に例えばボルトを介して固定されている。これにより、構造体101で機械加工が行なわれる加工領域S1と、マシニングセンタ10を操作する操作者が立ち入り可能な操作領域S2とを確実に仕切ることができる。よって、操作者に対する安全性を確保することができる。
操作パネル103は、各種の機械加工を施すためのプログラムが予め記憶された制御部105と、プログラムを呼び出す等の操作を行う液晶パネル106や操作ボタン107を有している。
ところで、図2に示すように、旋削を行っている最中には、バイト104が例えば金属疲労によって寿命に達して破断した破片104’や、加工時に生じる円柱体20からの多数の切りくず201、加工を円滑に行うための潤滑油30が液滴や霧状(オイルミスト)となったもの等が飛翔物40として加工領域S1内を飛散する(飛翔する)ことがある。この場合、飛翔物40は、その飛散の程度によっては外装102に内側から衝突して、それ以上の飛散が確実に防止される。これにより、飛翔物40が操作領域S2にまで飛散して侵入するのが防止される。よって、操作者は、飛翔物40で怪我を負ったり、汚れてしまったりするのが防止される。
なお、飛翔物40としては、破片104’、切りくず201、潤滑油30の他に、バイト104を固定するボルト等の固定部材(治具)等も含まれることがある。
加工される母材の材質としては、例えば、(1)鉄、鋳鉄、鋼(炭素鋼及びステンレス鋼等)、及び鉄合金、(2)インコネル、チタン、及びチタン合金、並びに(3)アルミニウム、マグネシウム、亜鉛,銅等の非鉄金属並びにそれらの合金が挙げられる。
アルミ合金としては、例えば、A1050、A3600、A5052、A5056、A6061、A6063が挙げられる。
切りくず201の材質は加工される母材と同様のものが挙げられる。
潤滑油30としては、例えば、切削油、研削油、鋳造油、鍛造油、圧延油、プレス油、及び引き抜き油が挙げられる。
図1、および2に示すように、マシニングセンタ10は、外装102に装着され、その状態で当該外装102の一部を構成する窓ユニット(工作機械用窓)1を有している。窓ユニット1は、マシニングセンタ10の内部、すなわち、加工領域S1を視認したり、操作領域S2にある例えば蛍光灯からの光を加工領域S1に採り込んで視認性を向上させたりするのに用いられる。このように窓ユニット1は、視認用窓としての機能と、採光用窓としての機能とを有している。
図2に示すように、窓ユニット1は、第1の工作機用窓2aと、第2の工作機用窓2bと、第1のパッキン3aと、第2のパッキン3bと、枠体(窓枠)4とを備えている。以下、各部の構成について説明する。
第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは、空気層5(中間層5)を介して互いに対向しており、第1の工作機用窓2aが内側、第2の工作機用窓2bが外側となるように配置されている。そして、この配置状態で各工作機用窓2a、2bが枠体4に一括して支持されている。
第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは、いずれも透明性を有する透明基板である。なお、「透明」には、無色透明と有色透明とが含まれ、マシニングセンタ10では、無色透明が好ましい。
第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは、本実施形態では同様の構成である。第1、第2の工作機用窓2a、2bは、本発明の窓部材で構成されている。
第1の工作機用窓2aは、その平面視で長方形をなし、ハードコート層21aと第一の基材22aと第二の基材23aとを備える積層体である。その順序は加工領域S1側から、ハードコート層21a、第一の基材22a、第二の基材23aとなっており、第二の基材23aは、空気層5(中間層5)側に位置している。これにより、第1の工作機用窓2aは、ハードコート層21aおよび第一の基材22aが第二の基材23aよりも加工領域S1に臨むように配置された状態となる。このような配置により、飛翔物40から第二の基材23aをハードコート層21aおよび第一の基材22aで保護することができる。また、第一の基材22aは、ハードコート層21aを支持する機能を有している。
同様に、第2の工作機用窓2bは、その平面視で長方形をなし、ハードコート層21bと第一の基材22bと第二の基材23bとを備える積層体である。その順序は操作領域S2側から、ハードコート層21b、第一の基材22b、第二の基材23bとなっており、第二の基材23bは、空気層5(中間層5)側に位置している。これにより、第2の工作機用窓2bは、ハードコート層21bおよび第一の基材22bが第二の基材23bよりも操作領域S2に臨むように配置された状態となっている。このような配置により、例えば
操作領域S2にいる操作者が構造体101の調整のために六角レンチやドライバ等の工具を把持していた場合、誤って当該工具を第2の工作機用窓2bにぶつけてしまったとしても、ハードコート層21bおよび第一の基材22bで第二の基材23bを保護することができる。
また、第2の工作機用窓2bが、第1の工作機用窓2aよりも外側に配置されていることにより、例えば万が一にも飛翔物40である破片104’が第1の工作機用窓2aに衝突して、第1の工作機用窓2aが破損したとしても、その破片等の操作領域S2への侵入を第2の工作機用窓2bで阻止することができる。このようにマシニングセンタ10は、フェールセーフな構造となっている。フェールセーフな構造とは、装置・システムにおいて、誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御する構造のことである。
また、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは、基材21同士が互いに空気層5(中間層5)に臨む、すなわち、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは、互いに反転した状態となっている。これにより、窓ユニット1をマシニングセンタ10の外装102に取り付ける組立作業をしようとした場合、窓ユニット1の表裏を問わずに、その組立作業を行うことができる。このように窓ユニット1は、組立時の姿勢や方向を考えなければないという煩わしさを低減した構造となっている。
また、前述したように、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとは同じ構成のものである、これにより、透明基板として部品を共通化することができ、よって、窓ユニット1の製造コストを低減することができる。
なお、ハードコート層21a、21bの平均厚さt1は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上80μm以下であることがより好ましい。ハードコート層21a、21bの平均厚さt1を前記範囲内とすることにより、工作機用窓は、優れた耐擦傷性を発揮することができる。
なお、第一の基材22a、22bの平均厚さt2は、50μm以上500μm以下であることが好ましく、80μm以上400μm以下であることがより好ましい。第一の基材22a、22bの平均厚さt2を前記範囲内とすることにより、工作機用窓は、優れた耐擦傷性を発揮することができる。
なお、第二の基材23a、23bの平均厚さt3は、1mm以上50mm以下であることが好ましく、3mm以上40mm以下であることがより好ましい。第二の基材23a、22bの平均厚さt3を前記範囲内とすることにより、工作機用窓は、十分な剛性を有するようになるので、優れた耐衝撃性を発揮して、飛翔物40が衝突して工作機用窓が破損するのを好適に防止することができる。
第1の工作機用窓2a、第2の工作機用窓2bの総厚さttotalは、ハードコート層2
1a、21bの平均厚さt1と第一の基材22a、22bの平均厚さt2と第二の基材23a、23bの平均厚さt3との合計である。
なお、第1、第2の工作機用窓2a、2bを構成するハードコート層21a、21b、第一の基材22a、22b、および第二の基材23a、23bの構成材料等については後に詳述する。
前述したように、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとの間には、空気層5(中間層5)が介在している。破片104’が第1の工作機用窓2aに衝突した際に、第
1の工作機用窓2aが空気層5(中間層5)側に、すなわち、衝突方向に撓むことができる。そして、この撓みによって衝撃が吸収される。このように空気層5(中間層5)は、衝撃吸収層として機能する。
また、空気層5(中間層5)の平均厚さt4は、第1の工作機用窓2aの総厚さttotalと同じかまたはそれよりも薄いのが好ましい。これにより、平均厚さt4が過剰になる
のが抑制され、よって、窓ユニット1の薄型化に寄与する。また、平均厚さt4が総厚ttotalを超えたとしても、空気層5(中間層5)での衝撃吸収性の向上は望めない。
枠体4は、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとを一括支持する部材である。これにより、窓ユニット1は、予め第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bと枠体4とが組み立てられた図2に示す組立状態となり、よって、この組立状態のまま外装102に容易に取り付けることができる。
なお、枠体4の構成材料としては、特に限定されず、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等の各種金属材料や、各種樹脂材料を用いることができる。
枠体4は、第1の工作機用窓2a(第2の工作機用窓2b)の縁部に沿うような、すなわち、平面視で四角形の枠状をなし、その四隅にそれぞれ貫通孔41が形成されている。マシニングセンタ10では、外装102の窓ユニット1が設置される部分が開口しており、その周辺に4本のスタッドボルト102aが支持、固定されている。そして、枠体4の各貫通孔41にそれぞれスタッドボルト102aを挿通させて、当該スタッドボルト102aにナット102bを螺合させることができる。これにより、窓ユニット1が外装102に装着されることとなる。
また、枠体4の内周部には、その周方向に沿って第1の凹部(第1の溝)421と第2の凹部(第2の溝)422とが形成されている。第1の凹部421には、第1の工作機用窓2aの縁部が嵌め込まれており、第2の凹部422には、第2の工作機用窓2bの縁部が嵌め込まれている。これにより、第1の工作機用窓2aおよび第2の工作機用窓2bが枠体4に確実に支持される。
第1の凹部421と第2の凹部422との間の凸部は、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとの間に介挿されるスペーサ43となる。枠体4が前述した構成材料で構成されている場合、スペーサ43も実質的に硬質な部分となる。そして、この硬質のスペーサ43により、第1の工作機用窓2aと第2の工作機用窓2bとの離間距離を一定に規制することができ、よって、空気層5(中間層5)が確実に確保される。
また、第1の凹部421には、第1の工作機用窓2aとともに第1のパッキン3aが挿入されている。第2の凹部422にも、第2の工作機用窓2bとともに第2のパッキン3bが挿入されている。第1のパッキン3a、第2のパッキン3bは、それぞれ、弾性を有する長尺な帯体で構成されている。
第1のパッキン3aは、第1の工作機用窓2aに対して加工領域S1側に配置され、第1の工作機用窓2aと枠体4との間で圧縮された状態となっている。これにより、空気層5(中間層5)を加工領域S1側から気密的に封止することができる。一方、第2のパッキン3bは、第2の工作機用窓2bに対して操作領域S2側に配置され、第2の工作機用窓2bと枠体4との間で圧縮された状態となっている。これにより、空気層5(中間層5)を操作領域S2側から気密的に封止することができる。
このように空気層5(中間層5)が気密的に封止されていることにより、例えば、塵や
埃、水分等(以下「塵」を代表的に扱う)のが空気層5(中間層5)内に侵入するのを防止することができる。仮に空気層5(中間層5)に塵が一旦侵入してしまうと、この塵によって第1の工作機用窓2aや第2の工作機用窓2bが曇ってしまい、その曇りを除去するのは困難となる場合がある。しかしながら、前述したように塵の侵入が防止されていることにより、このような不具合の発生を防止することができる。
また、気密的封止により、空気層5(中間層5)内の圧力を大気圧と同じかまたはそれよりも高く設定することもできる。これにより、空気層5(中間層5)内が減圧状態となっている場合に比べて、空気層5(中間層5)での衝撃吸収性の向上を図ることができる。
空気層5(中間層5)内の圧力としては、特に限定されず、例えば、1〜10気圧であるのが好ましく、5〜10気圧であるのがより好ましい。
また、空気層5(中間層5)内には、例えば窒素等のような不活性ガスも充填されていてもよい。この場合、第1の工作機用窓2a、第2の工作機用窓2bの各第二の基材23a、23bの構成材料にもよるが、例えば、当該第二の基材23a、22bの空気層5(中間層5)側からの経時的な劣化を防止または抑制することができる。
第1のパッキン3a、第2のパッキン3bの構成材料としては、特に限定されず、例えば、スチレン−ブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。
以上のような構成のマシニングセンタ10の窓ユニット1が備える第1、第2の工作機用窓2a、2bが、本発明の窓部材で構成されている。
以下、本発明の窓部材で構成された第1、第2の工作機用窓2a、2bについて詳述する。
《第1の工作機用窓2aおよび第2の工作機用窓2b》
この工作機用窓2a、2bは、前述したように本発明の窓部材で構成されており、
多官能(メタ)アクリレートを含有するハードコート層形成用組成物の硬化物で構成されたハードコート層と、透光性を有する第一の基材と、透光性を有する第二の基材と、を備え、前記ハードコート層形成用組成物の硬化物で構成されたハードコート層が最表層であり、当該積層体に対して前記ハードコート層側から、切りくず/潤滑油混合物を衝突させる傷加速試験において、前記傷加速試験前のヘイズと前記傷加速試験後のヘイズとの大きさの差をヘイズ増加量としたとき、該ヘイズ増加量が5以下のものである。
以下、本発明の窓部材で構成された工作機用窓2a、2bが備えるハードコート層21a、21bと第一の基材22a、22bと第二の基材23a、23bとについて順次説明する。
<第一の基材22および第二の基材23>
第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bは、透光性を有し、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性の向上に寄与している。また、第一の基材22a、22bは、ハードコート層21a、21bを支持する機能を有している。
第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bの構成材料としては、透光性を有する基材であれば特に限定されず、例えば、各種樹脂材料、ガラス等の各種無機材料等を用いることができる。これらの中でも、第一の基材22a、22bおよび第二の基
材23a、23bの構成材料としては、樹脂材料であるのが好ましい。これにより、第1、第2の工作機用窓2a、2bの飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性をより向上させることができる。
各種樹脂材料としては、透光性を有するものであればいかなるものであってもよいが、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルサルフォン(PES)、塩化ビニル樹脂、およびポリプロピレン(PP)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂を用いることにより、透明性に優れるとともに、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性に優れた第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bを得ることができる。したがって、このような第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bを用いれば、視認用窓としての機能および採光用窓としての機能を顕著に発揮することができるとともに、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性に特に優れた第1、第2の工作機用窓2a、2bを得ることができる。
また、ポリカーボネート樹系脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールと、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートとがカーボネート結合されている芳香族系ポリカーボネート樹脂を用いることができる。この芳香族系ポリカーボネート樹脂は、一般に、界面重縮合や、エステル交換反応などで合成される。
ビスフェノールとしては、ビスフェノールAや、下記式(1)に示すビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
(式中、Xは、炭素数1〜18のアルキル基、芳香族基、および環状脂肪族基から選ばれるものであり、Ra、Rbは、炭素数1〜12のアルキル基であり、m、nはそれぞれ0〜4である。また、pは1以上の整数である。)
式(1)に示すビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’−(ペンタン−2,2−ジイル)ジフェノール、4,4’−(ペンタン−3,3−ジイル)ジフェノール、4,4’−(ブタン−2,2−ジイル)ジフェノール、1,1’−(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2−シクロヘキシル−1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3−ビスシクロヘキシル−1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼ
ン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン等が挙げられる。
また、本明細書中では、上記で例示したポリカーボネート系樹脂等を含むポリマーアロイや変性ポリカーボネート樹脂もポリカーボネート系樹脂として取り扱うこととする。こ
のような樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)からなるポリマーアロイ、ポリカーボネート樹脂およびポリスチレン樹脂からなるポリマーアロイ、アクリル変性ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
上述したようなポリカーボネート系樹脂の中でも、ビスフェノール骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート樹脂、アクリル変性ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、アクリル変性ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。これにより、透明性にさらに優れ、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性にさらに優れた第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bを得ることができる。
また、アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを不飽和結合含有モノマーとして用い、当該不飽和結合含有モノマーを、ラジカル重合反応、カチオン重合反応、アニオン重合反応などの方法によって作製することができる。前記アクリル系樹脂の共重合体としては、ランダム共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられ、ランダム共重合体が好ましい。
前記不飽和結合含有モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つ以外を含むものでもよい。前記アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどが挙げられる。また、前記メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。
アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル以外の前記不飽和結合含有モノマーとしては、反応性不飽和結合を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、無水マレイミドなどが挙げられる。これらのなかで、ポリプロピレンおよび無水マレイミドが好ましい。これにより、透明性にさらに優れ、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性にさらに優れた第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bを得ることができる。
また、第一の基材22a、22bおよび第二の基材23a、23bの構成材料には、前述したような材料(各種樹脂材料や各種無機材料等)以外に、必要に応じて、例えば、可塑剤、酸化防止剤、フィラー等を含んでいてもよい。
また、第一の基材22a、22bには、ハードコート層21a、21bとの密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理等の表面の酸化処理が施されていてもよい。
<ハードコート層21a、21b>
ハードコート層21a、21bは、工作機用窓2a、2bの、飛翔物40の衝突に対する耐衝撃性の向上に寄与している。
このようなハードコート層21a、21bは、多官能(メタ)アクリレートを含有するハードコート層形成用組成物の硬化物で構成されている。また、ハードコート層21a、21bは、多官能(メタ)アクリレートに加え、シロキサン変性(メタ)アクリレートと
、フィラーとを含むことが好ましい。
以下、ハードコート層形成用組成物を構成する各材料について詳細に説明する。
[多官能(メタ)アクリレート]
多官能(メタ)アクリレートは、ハードコート層21a、21bの強度を高め、ハードコート層21a、21bの飛翔物40の衝突に対する耐久性向上に寄与している。
特に、多官能(メタ)アクリレートは、(A)3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより、ハードコート層21a、21bの表面硬度をさらに高めることができ、よって、飛翔物に40に対する耐衝撃性に特に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。
以下、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートについて順次説明する。
3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(A)多官能(メタ)アクリレート(以下、単に「(A)多官能(メタ)アクリレート」ということもある)とは、1分子中に、重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が3個以上含まれている(メタ)アクリレートを意味する。
なお、本明細書では、アクリロイル基およびメタクリロイル基を総称して(メタ)アクリロイル基という。
(A)多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を3個以上有しているため、硬化後の硬度が比較的高くなる。そのため、(A)多官能(メタ)アクリレートを含むことにより、飛翔物に40に対する耐衝撃性に特に優れた工作機用窓2a、2bをより確実に得ることができる。また、ハードコート層形成用組成物の硬化物を得る際、(A)多官能(メタ)アクリレートは、(A)多官能(メタ)アクリレート同士が架橋され、三次元架橋構造を形成する。このように、(A)多官能(メタ)アクリレートが三次元架橋構造を形成することで、潤滑油の液滴や霧状(オイルミスト)等の飛翔物40に対する耐油性に優れたハードコート層21a、21bを得ることができる。そのため、このようなハードコート層21a、21bを用いることで、潤滑油等の飛翔物40に対する耐油性に特に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。
また、(A)多官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が3個以上含まれている(メタ)アクリレートであればよく、モノマー、オリゴマー全般を示し、その分子量および分子構造を特に限定するものではない。すなわち、多官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が3個以上含まれている(メタ)アクリレートモノマーである多官能(メタ)アクリレートモノマーや、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が3個以上含まれている(メタ)アクリレートオリゴマーである多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを含む。
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
また、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとの反応生成物である。
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドランダム共重合で、数平均分子量が600未満のものが望ましい。600以上では、硬化物の柔軟すぎてハードコート性能が得られない可能性があるからである。なお、ポリエステルポリオールは、例えば、ジオールとジカルボン酸もしくはジカルボン酸クロライドとを重縮合反応させたり、ジオールまたはジカルボン酸をエステル化して、エステル交換反応させたりすることにより得ることができる。ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など、ジオールとしてはエチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールなどが用いられる。
ポリカーボネートジオールとしては、1、4−ブタンジオール、1、6−へキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−エチル−1、3−ヘキサンジオール、1、5−ペンタンジオール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、1、4−シクロヘキサンジオール、ポリオキシエチレングリコールなどが用いられ、1種でも2種以上を併用しても良い。
また、ジイソシアネートとしては、直鎖式または環式の脂肪族ジイソシアネートが用いられる。芳香族ジイソシアネートももちろん使用可能であり、より容易に硬さや耐擦傷性といった優れたハードコート性を得ることができる半面、ハードコートの骨格を形成する主成分で多官能オリゴマーにこれら芳香族系の成分を用いた場合、耐光性が低下し、光への暴露により黄変しやすいため、実用面において透明ハードコートとしての機能を損なうからである。直鎖式または環式の脂肪族ジイソシアネートの代表的なものとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートが挙げられる。
水酸基を有するアクリレートモノマーの例として、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレートが挙げられる。
また、多官能エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラックエポキシ樹脂のオキシラン環と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により得ることができる。
また、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる、両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。また、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、前述した中でも、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを用いるのが好ましい。多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの硬化物は、比較的高い硬度を有するとともに、イソシアネート化合物と水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとが反応することにより形成された骨格を備えているため、適度な柔軟性を有している。このため、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを用いることにより、より優れた硬度と、より優れた靱性とを有するハードコート層21a、21bを得ることができ、よって、飛翔物40に対する耐衝撃性により優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。
また、多官能(メタ)アクリレートモノマーは、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数が、4以上であることが好ましく、4以上13以下であることがより好ましく、5以上8以下であるのがさらに好ましい。(メタ)アクリロイル基の数が前記数値範囲内の多官能(メタ)アクリレートモノマーは、硬化性(硬化速度)に特に優れており、その硬化物は、硬度が比較的高い。そのため、工作機用窓2a、2bは、飛翔物40の衝突に対して、特に優れた耐衝撃性を発揮することができる。
また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数が、6以上であることが好ましく、8以上15以下であることがより好ましく、9以上13以下であるのがさらに好ましい。(メタ)アクリロイル基の数が前記数値範囲内の多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、硬化後には、特に表面硬度が高く、適度な柔軟性を有するものとなる。そのため、(メタ)アクリロイル基の数が前記数値範囲内の多官能(メタ)アクリレートオリゴマーを用いることにより、より優れた硬度と、より優れた靱性とを有するハードコート層21a、21bを得ることができる。
また、多官能(メタ)アクリレートとしては、さらに、2官能アクリレートを含むことが好ましい。
2個の(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリレート(以下、単に「2官能(メタ)アクリレート」ということもある)とは、1分子中に、重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が2個含まれている(メタ)アクリレートを意味する。
2官能(メタ)アクリレートは、多官能(メタ)クリレートと比較して低粘度であるため、ハードコート層形成用組成物の希釈剤として寄与する。このため、2官能(メタ)アクリレートを含むことにより、ハードコート層形成用組成物を低粘度化することができ、ハードコート層形成用組成物の取扱性を向上させることができる。
また、2官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が2個含まれている(メタ)アクリレートであればよく、モノマー、オリゴマー全般を示し、その分子量および分子構造を特に限定するものではない。すなわち、2官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が2個含まれている(メタ)アクリレートモノマーである2官能(メタ)アクリレートモノマーや、1分子中に重合反応に寄与する(メタ)アクリロイル基が2個含まれている(メ
タ)アクリレートオリゴマーである2官能(メタ)アクリレートオリゴマーを含む。
2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、その主骨格が鎖状である鎖式構造の2官能(メタ)アクリレートモノマーや、その主骨格が環状である環式構造の2官能(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
鎖式構造の2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
環式構造の2官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等の脂環式アクリレート;エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジアクリレート等のビスフェノール型アクリレート等の芳香環式アクリレートの等が挙げられる。
また、2官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、2官能ウレタン(メタ)アクリレート、2官能エポキシ(メタ)アクリレート、2官能ポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2官能(メタ)アクリレートとしては、上述したような2官能(メタ)アクリレートの中でも特に、ビスフェノール型(メタ)アクリレートであるのがより好ましく、ビスフェノールA型(メタ)アクリレートであるのがさらに好ましい。ビスフェノール型(メタ)アクリレートを用いることで、第一の基材22a、22bを構成する材料にビスフェノール型ポリカーボネート樹脂を用いた場合、第一の基材22a、22bを構成する材料とハードコート層形成用組成物とは共に、ビスフェノール骨格を有することとなる。このため、第一の基材22a、22bを構成する材料にビスフェノール型ポリカーボネート樹脂を用い、ハードコート層21a、21bを構成する材料(ハードコート層形成用組成物)にビスフェノール型(メタ)アクリレートを用いることで、第一の基材22a、22bを構成する材料とハードコート層形成用組成物との親和性と特に優れたものとすることができる。これにより、第一の基材22a、22bとハードコート層21a、21bとの密着性を向上させることができる。そのため、工作機用窓2a、2bの飛翔物40に対する耐衝撃性や耐擦傷性等の耐久性をより向上させることができる。
また、シロキサン変性(メタ)アクリレートや、フィラーを含み、多官能(メタ)アクリレートとして(A)多官能(メタ)アクリレートを含む場合、前記多官能(メタ)アクリレートと、前記シロキサン変性(メタ)アクリレートと、前記フィラーの合計100重量部に対する(A)多官能(メタ)アクリレートの含有率は、特に限定されないが、20重量部以上80重量部以下であるのが好ましく、30重量部以上70重量部以下であるのがより好ましい。(A)多官能(メタ)アクリレートの含有率が、前記下限値未満であると前記下限値未満であると、ハードコート層形成用組成物を構成する材料の組み合わせ等によっては、ハードコート層21a、21bの硬度が若干低くなる可能性がある。また、(A)多官能(メタ)アクリレートの含有率が、前記上限値を超えると、ハードコート層形成用組成物を構成する材料の組み合わせ等によっては、ハードコート層21a、21bの靱性が若干低下する可能性がある。
また、シロキサン変性(メタ)アクリレートや、フィラーを含み、多官能(メタ)アクリレートとして2官能(メタ)アクリレートを含む場合、前記多官能(メタ)アクリレートと、前記シロキサン変性(メタ)アクリレートと、前記フィラーの合計100重量部に対する2官能(メタ)アクリレートの含有率は、特に限定されないが、8重量部以上40
重量部以下であるのが好ましく、10重量部以上35重量部以下であるのがより好ましい。2官能(メタ)アクリレートの含有率が、前記下限値未満であると、ハードコート層形成用組成物を構成する材料の組み合わせや、第一の基材22a、22bを構成する材料の種類等によっては、第一の基材22a、22bとハードコート層21a、21bとの密着性が若干低下する可能性がある。また、2官能(メタ)アクリレートの含有率が、前記上限値を超えると、2官能(メタ)アクリレート以外のハードコート層形成用組成物を構成する材料の含有率が減少し、ハードコート層21a、21bの硬度が低くなるおそれがある。
このような多官能(メタ)アクリレートを含有するハードコート層形成用組成物は、さらにシロキサン変性(メタ)アクリレートや、フィラーを含んでいることが好ましい。これにより、工作機用窓2a、2bは、飛翔物40の衝突に対して、特に優れた耐衝撃性を発揮することができる。
以下、シロキサン変性(メタ)アクリレート、フィラーについて詳述する。
[シロキサン変性(メタ)アクリレート]
シロキサン変性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系化合物と、シロキサン結合(−Si−O―Si−)を有する化合物とが結合したものである。
このような構成のシロキサン変性(メタ)アクリレートを含むことにより、ハードコート層21a、21bの表面硬度をさらに高くすることができる。よって、シロキサン変性(メタ)アクリレートを含むハードコート層21a、21bを備えることで、切りくず201に対する耐擦傷性に特に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。また、シロキサン変性(メタ)アクリレートは、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を有することで、優れた撥油性を発揮する。このため、シロキサン変性(メタ)アクリレートを含むハードコート層形成用組成物から得られる硬化物、すなわち、ハードコート層21a、21bは、潤滑油の液滴や霧状(オイルミスト)等の飛翔物40に対する耐油性に優れたものとなる。そのため、このようなハードコート層21a、21bを用いることで、飛翔物40に対する耐油性に特に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができ、よって、潤滑油による工作機用窓2a、2bの視認性の低下を特に効果的に抑制することができる。
シロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する化合物は、具体的には、下記式(2)および式(3)で表されるシロキサン結合を有する構造単位のうちの少なくとも一方の構造単位を有するものが挙げられる。これにより、潤滑油の液滴や霧状(オイルミスト)等の飛翔物40に対する耐油性に特に優れたハードコート層21a、21bとなる。
(式(2)中、X1は、それぞれ独立して炭化水素基または水酸基を示す。)
(式(3)中、X2、X3は、それぞれ独立して炭化水素基または水酸基を示す。)
前記炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基等のアリール基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等が挙げられる。
シロキサン結合(−Si−O―Si−)を有する化合物としては、具体的には、ポリオルガノシロキサンや、シルセスキオキサンが挙げられ、中でもシルセスキオキサンが好ましい。シルセスキオキサンの硬化物は、比較的高い硬度を有するとともに、適度な柔軟性を有する。そのため、シルセスキオキサンを用いることで、飛翔物40に対する耐衝撃性や耐擦傷性に優れるとともに、靱性により優れたハードコート層21a、21bを得ることができる。よって、飛翔物40に対する耐衝撃性等の耐久性に特に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。
また、シルセスキオキサンとしては、ランダム構造、籠型構造、ラダー構造(はしご型構造)等、いかなる構造であってもよいが、特にラダー構造であるのが好ましい。これにより、飛翔物40に対する耐衝撃性や耐擦傷性に特に優れたハードコート層21a、21bを得ることができる。
また、前述したように、シロキサン変性(メタ)アクリレートは、シロキサン結合を有する化合物に、(メタ)アクリル系化合物が結合したものである。シロキサン変性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系化合物を有しているため、前述した(A)多官能アクリレートや2官能アクリレートとの親和性に優れている。そのため、シロキサン変性(メタ)アクリレートが均一に混ざった状態のハードコート層21a、21bを得ることができ、よって、均質で、かつ、表面硬度や靱性に特に優れたハードコート層21a、21bを得ることができる。
また、(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、下記式(4)や式(5)で表される構造を有するものが挙げられ、中でも特に、式(4)および式(5)で表される双方の構造を有するものが好ましい。式(4)および式(5)で表される双方の構造としては、例えば、下記式(6)で表される構造が挙げられる。上記構造を有するシロキサン変性(メタ)アクリレートを用いることにより、ハードコート層21a、21b全体の表面硬度および靱性を特に優れたものとすることができる。そのため、飛翔物40が衝突することによる割れや欠け等の発生をより的確に防ぐことができる。
(式(4)中、nは、1以上の整数を示し、R1は、独立して炭化水素基、有機基、または水素を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素を示す。)
(式(5)中、mは、1以上の整数を示し、R2は、独立して炭化水素基、有機基、または水素を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素を示す。)
(式(6)中、m、nは、1以上の整数を示し、R1、R2、R3は、それぞれ独立して炭化水素基、有機基、または水素を示し、R0は、独立して炭化水素基または水素を示す。)
また、(メタ)アクリル系化合物は、(メタ)アクリル系化合物の重合度については特に限定されず、(メタ)アクリル系化合物は、モノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマー等いずれのものあってもよいが、重合度(例えば、式(6)中のm、nの合計)が100以上200以下のものであるのが好ましい。これにより、シロキサン変性(メタ)アクリレートが均一に混ざった状態のハードコート層21a、21bをより容易かつ確実に得ることができ、均質で、かつ、より表面硬度に優れたハードコート層21a、21bを得ることができる。そのため、このようなハードコート層21a、21bを用いることで、工作機用窓2a、2bは、飛翔物40に対する特に優れた耐衝撃性や耐擦傷性を発揮することができる。
以上のような構成を有するシロキサン変性(メタ)アクリレートとしては、上記のような理由から、例えば、下記式(7)、式(8)で表される化合物が好ましく用いられる。
(式(7)中、Meは、メチル基を示し、m、n、pは、それぞれ1以上の整数を示す。)
(式(8)中、Meは、メチル基を示し、m、n、pは、それぞれ1以上の整数を示し、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立して炭化水素基、有機基、または水素を示す。)
また、シロキサン変性(メタ)アクリレートや、フィラーを含む場合、前記多官能(メタ)アクリレートと、前記シロキサン変性(メタ)アクリレートと、前記フィラーの合計100重量部に対するシロキサン変性(メタ)アクリレートの含有率[重量部]は、特に限定されないが、5重量部以上35重量部以下であるのが好ましく、8重量部以上20重量部以下であるのがより好ましい。シロキサン変性(メタ)アクリレートの含有率が、前記下限値未満であると、ハードコート層形成用組成物を構成する材料の組み合わせ等によっては、潤滑油の液滴や霧状(オイルミスト)等の飛翔物40に対する耐油性が若干低下する可能性がある。また、シロキサン変性(メタ)アクリレートの含有率が、前記上限値を超えると、シロキサン変性(メタ)アクリレート以外のハードコート層形成用組成物を
構成する材料の含有率が減少し、ハードコート層21a、21bの硬度が若干低下するおそれがある。
[フィラー]
フィラーは、ハードコート層21a、21bの表面硬度のさらなる向上に寄与している。そのため、フィラーを含むことでハードコート層形成用組成物を用いて得られたハードコート層21a、21bは、切りくず201に対する耐衝撃性や耐擦傷性に特に優れたものとなる。
フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、湿式、乾式等の非結晶シリカや結晶シリカ等のシリカ、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、ガラス、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属酸化物等の無機フィラー、木粉、パルプ、および熱硬化性樹脂硬化物等の有機フィラー等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、無機フィラーであることが好ましい。無機フィラーは、一般的に有機フィラーに比べて硬く、破損しにくい。したがって、ハードコート層形成用組成物に無機フィラーを含むことで、ハードコート層21a、21bの硬度をより高くすることができる。その結果、工作機用窓2a、2bの、飛翔物40に対する耐衝撃性をより高めることができ、飛翔物40が衝突することに破損をより効果的に抑制または防止することができる。
また、フィラーとしては、無機フィラーの中でも特にシリカであることが好ましい。これにより、得られるハードコート層21a、21bの硬度をさらに高くすることができ、飛翔物40が衝突することに起因する微細な傷の発生を特に有効に防ぐことができる。
また、フィラーとしてシリカを用い、前記シロキサン変性(メタ)アクリレートとして、シロキサン変性(メタ)アクリレート構成するアクリル系化合物の重合度が100以上200以下のものを用いた場合、これらの親和性を特に高くすることができる。そのため、ハードコート層形成用組成物中におけるシリカの分散性を高めることができ、よって、シリカが均一に混ざった状態のハードコート層21a、21bを得ることができる。その結果、ハードコート層21a、21b全体の、表面硬度をさらに高くすることができる。また、シリカと、アクリル系化合物の重合度が100以上200以下のシロキサン変性(メタ)アクリレートとを含むハードコート層21a、21bを用いることで、工作機用窓2a、2bの、飛翔物40に対する耐衝撃性をさらに高めることができる。
また、フィラーの形状としては、繊維状、破砕状、粒子状等が挙げられるが、中でも特に、粒子状であるのが好ましく用いることができる。
フィラーの形状が粒子状である場合、フィラーの平均粒径は、特に限定されないが、0.001μm以上5μm以下であるのが好ましく、0.005μm以上1μm以下であるのがより好ましい。これにより、平滑性に特に優れ、硬度が特に高いハードコート層21a、21bを形成することができる。
なお、前記フィラーの平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布計(HORIBA製「LA−500」)により測定することができる。
また、フィラーは、粒子状をなし、その粒子表面に(メタ)アクリロイル基を有する化合物が導入されているものであるのが好ましい。フィラーの表面に(メタ)アクリロイル基を有する化合物を導入することにより、フィラーと、多官能アクリレートと、シロキサン変性アクリレートとは、全て(メタ)アクリロイル基を有していることとなる。このため、各材料(多官能アクリレート、シロキサン変性アクリレート、およびフィラー)の親
和性を特に優れたものとすることができる。各材料の親和性が優れることで、各材料が均一に混ざった状態のハードコート層21a、21bを得ることができる。また、フィラーの表面に(メタ)アクリロイル基を有する化合物を導入することにより、フィラー、多官能アクリレート、およびシロキサン変性アクリレートを化学的に結合させることができる。このようなことから、均質で、かつ、硬度が特に高いハードコート層21a、21bを得ることができ、よって、ハードコート層21a、21b全体の、飛翔物40に対する耐衝撃性、耐擦傷性をより優れたものとすることができる。よって、飛翔物40の衝突に耐久性に優れた工作機用窓2a、2bを得ることができる。
(メタ)アクリロイル基を有する化合物をフィラーの表面に導入する方法としては、シラン系カップリング剤を用いた方法が特に好ましく用いられる。これにより、フィラーの表面に(メタ)アクリロイル基をより容易に導入することができる。
また、シロキサン変性(メタ)アクリレートや、フィラーを含む場合、前記多官能(メタ)アクリレートと、前記シロキサン変性(メタ)アクリレートと、前記フィラーの合計100重量部に対するフィラーの含有率は、特に限定されないが、15重量部以上48重量部以下であるのが好ましく、20重量部以上35重量部以下であるのがより好ましい。フィラーの含有率が前記下限値未満であると、ハードコート層形成用組成物を構成する材料の組み合わせ等によっては、ハードコート層21a、21b全体の硬度が若干低下するおそれがある。また、フィラーの含有率が前記上限値を超えると、フィラー以外のハードコート層形成用組成物を構成する材料の含有率が減少し、ハードコート層21a、21bの撥油性が若干低下する可能性がある。
[その他の材料]
ハードコート層形成用組成物は、上述した材料(多官能(メタ)アクリレート、シロキサン変性(メタ)アクリレート、およびフィラー)以外のその他の材料を含んでいてもよい。
その他の材料としては、例えば、上述した多官能(メタ)アクリレート、およびシロキサン変性(メタ)アクリレート以外の樹脂材料(例えば、単官能(メタ)アクリレート等)、重合開始剤、増感剤、可塑剤、安定剤、界面活性剤、酸化防止剤、還元防止剤、帯電防止剤、表面調整剤、および溶剤等が挙げられる。
光重合開始剤は、ハードコート層形成用組成物が紫外線によって硬化する際の重合開始剤としての機能を有しており、公知のものを単独もしくは組み合わせで使用することができ、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインまたはベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸などの芳香族ケトン類、ベンジルなどのアルファ−ジカルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン−1などのアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノンなどのアントラキノン類、2、4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどのフォスヒンオキサイド類、1−フェニル−1、2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどのアルファ−アシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安
息香酸イソアミルなどのアミン類などを使用することができる。
溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、2−ぺンタノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤などが挙げられる。これらは単独または混合して使用することができる。
表面調整剤は、塗膜の基材への濡れ性や均一性、表面の平滑性および硬化した塗膜の表面スリップ性の向上を目的として添加されるものであり、例えばフッ素系、変性シリコーン系、アクリル系の調整剤を使用することができる。中でも、フッ素系および変性シリコーン系のうちの少なくとも一方を含むものが好ましい。これらは、ポリエーテル変性体、アルキル変性体、ポリエステル変性体から構成されているものが好ましく、特にポリエーテル系から構成されているものが好ましい。
以上説明したようなハードコート層形成用組成物は、多官能(メタ)アクリレートとして(A)多官能(メタ)アクリレートおよび(B)2官能(メタ)アクリレートの双方を含むことが好ましく、(A)多官能(メタ)アクリレートとして(メタ)アクリロイル基を4以上有する(メタ)アクリレートモノマーと(メタ)アクリロイル基を6以上有する(メタ)アクリレートオリゴマーとを含み、(B)2官能(メタ)アクリレートとしてビスフェノール型(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに、ハードコート層形成用組成物は、このような多官能(メタ)アクリレートに加えて、フィラーを含むことが好ましい。これにより、工作機用窓2a、2bは、飛翔物40に対する特に優れた耐衝撃性、耐擦傷性を発揮することができる。
なお、以上説明したようなハードコート層形成用組成物は、室温で液状、固形状のいずれの形態であってもよい。
以上のような構成の窓部材は、傷加速試験前のヘイズと傷加速試験後のヘイズとの大きさの差をヘイズ増加量としたとき、ヘイズ増加量が5.0以下であればよいが、前記ヘイズ増加量が4.0以下であるのが好ましい。
ここで、加工時に生じる加工対象物からの切りくず201が、工作機用窓に衝突し、この衝突が長期にわたって繰り返されることで発生する多数個の微細な傷によりハードコート層22の透明性が低下するという問題があった。
また、このような切りくず201が長期にわたってハードコート層に衝突することと近い状態を、傷加速試験において切りくず/潤滑油混合物をハードコート層に衝突させることによって近似的に作り出すことが可能となった。
このようなことから、前記ヘイズ増加量が、前記範囲内のものであれば、円柱体20(加工対象物)が切削されることで生じる切りくず201の衝突により破損(微細な割れや欠け)が衝突した場合であっても、工作機用窓の2a、2bに、微細に傷等が生じるのをより効果的に防ぐことができる。その結果、微細な傷による工作機用窓2a、2bの視認性の低下をより確実に防ぐことができる。
ここで、ヘイズ増加量とは、傷加速試験後のヘイズHz1と、傷加速試験前のヘイズ(初期ヘイズ)Hz0とを測定し、これらの大きさの差、すなわちHz1−Hz0を算出す
ることにより求めることができる。より具体的には、ヘイズ増加量ΔHzとは、以下のようにして算出される値である。なお、ヘイズとは、透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表すものである。
まず、用意した工作機用窓2aを長さ60mm、幅60mmの大きさに切り出し、この切り出したサンプルについて、ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電飾工業社製)により、拡散透過率Tdと、全光線透過率Ttとを求め、下記式(9)により、ヘイズT(傷加速試験前のヘイズHz0)[%]を算出する。
T[%]=Td/Tt×100 ・・・・・(9)
次いで、傷加速試験を以下のように行う。工作機用窓2aのハードコート層21a側に切りくず/潤滑油混合物が衝突するように、この切り出したサンプルを傷加速試験装置のサンプルホルダーに固定する。
次いで、切りくずとしてアルミ合金:A6061の切りくずを用意した。潤滑油としてBPジャパン社製 Castrol Hysol MB−50を用意した。アルミ合金:A6061の切りくず(70.0質量部)、Castrol Hysol MB−50(500.0質量部)をそれぞれ秤量し、これらを混合して、混合物を得た。次いで、サンプルホルダーに固定した工作機用窓2aに、圧縮空気を用いて切りくず/潤滑油混合物を衝突させる。切りくず/潤滑油混合物を衝突させる条件としては、衝突速度が25mm/secであり、距離が工作機用窓2a表面の中央部に対して10cmであり、繰り返し回数は30回である。
次に、傷加速試験後の工作機用窓2aについて、前述したヘイズを算出する方法と同様にしてヘイズT(傷加速試験後のヘイズHz1)[%]を算出する。
そして、傷加速試験後のヘイズHz1と傷加速試験前のヘイズHz0との差(Hz1−Hz0)を算出することにより、ヘイズ増加量ΔHzが算出される。
また、初期ヘイズHz0は、5.0%以下であることが好ましく、0.1%以上4.0%以下であることがより好ましい。初期ヘイズHz0が前記数値範囲内の工作機用窓2a、2bは、十分な透明性を有し、視認用窓としての機能と、採光用窓としての機能とに特に優れている。また、このよう工作機用窓2a、2bは、比較的容易に製造することができ、生産性にも優れている。
また、ヘイズ増加量ΔHzは、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。ヘイズ増加量ΔHzが前記範囲内であれば、切りくず201の衝突による微細な傷が特に生じ難く、より長期にわたって特に優れた透明性を発揮することができる。
また、以上のような各材料を含むハードコート層形成用組成物を用いてハードコート層21a、21bは形成されている。
具体的には、ハードコート層21a、21bは、当該ハードコート層21a、21bとなるワニス状のハードコート層形成用組成物を第一の基材22a、22bの面211a、211b上に塗布して、この塗布されたものに紫外線を照射することに硬化することにより得られる。
ハードコート層形成用組成物を塗布する方法としては、特に制限されないが、例えばロールコート法、フローコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、ディップコート
法、ダイコート法などの公知の方法を用いることができる。
その後、塗布されたハードコート層形成用組成物を硬化する工程を有することにより、ハードコート層形成用組成物の硬化物であるハードコート層21a、21bを形成する。
例えば、ハードコート層形成用組成物を第一の基材22a、22bの面211a、211b上に塗布し、希釈溶剤を含む場合には、雰囲気の温度を上げて十分に希釈溶剤を乾燥して塗膜を形成した後、紫外線照射して塗膜を硬化させることで、ハードコート層21a、21bを形成させることができる。紫外線照射は、例えば、一般の有電極型や無電極型の高圧水銀灯やメタルハライドランプなどが使用可能である。また、100KeV程度の低電圧の電子線照射装置も使用可能である。電子線を硬化手段とする場合は、後述する光重合開始剤は不要となる。
以上、本発明の窓部材について説明した。
なお、本発明の窓部材を設ける箇所は、前記例示のものに限定されないが、上述した本発明の窓部材は、飛翔物の衝突に対する耐久性に優れているため、特に、飛翔物が飛散しやすい箇所に用いられることで、飛翔物が衝突することに起因する破損を抑制または防止するという効果を特に顕著に発揮することができる。例えば、自動車や鉄道車両の車体、建設機械や工業機械の外装、土工機械、農業機械、林業機械および輸送機械が、特に飛翔物が飛散しやすい箇所に該当するといえる。
また、本発明の窓部材を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、窓部材を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明の窓部材は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
また、窓ユニットは、前記各実施形態では第1の工作機用窓と第2の工作機用窓とを有する構成であるが、これに限定されず、例えば、さらに第3の工作機用窓を有する構成であってもよい。また、第2の工作機用窓を備えておらず、第1の工作機用窓のみを有する構成であってもよい。
また、窓ユニットは、前記各実施形態では空気層を有するものであったが、空気層は省略されていてよい。
また、窓ユニットは、枠体や各パッキンが省略され、第1の工作機用窓および第2の工作機用窓が直接的にマシニングセンタの外装に装着されてもよい。
また、工作機用窓(第1の工作機用窓および第2の工作機用窓)は、それぞれ、基材とハードコート層との間に中間層が介在していてもよい。中間層としては、例えば、基材とハードコート層との親和性が比較的低い場合に、基材にハードコート層を接合する接合層とすることができる。
また、前述した実施形態では、微細な傷を発生させる要因として、加工時に生じる切りくずを代表的に挙げて説明したが、本発明によれば、微細な傷を発生させる要因は、切りくずに限定されず、切りくず以外の微小な飛翔物等であってもよい。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
1.基材の作製
第一の基材としてポリカーボネート1:ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンKH−3520UR」、三菱エンジニアリングプラスチック社製)を準備した。
第二の基材としてポリカーボネート3:ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンE−2000」、三菱エンジニアリングプラスチック社製)を準備した。
マルチマニホールドダイに、押出機(A)と、押出機(B)を接続し、押出機(A)より、第一の基材としてポリカーボネート1:ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンKH−3520UR」、三菱エンジニアリングプラスチック社製)を押出し、押出機(B)より、第二の基材としてポリカーボネート3:ポリカーボネート樹脂(商品名「ユーピロンE−2000」、三菱エンジニアリングプラスチック社製)を押出することで第一の基材と第二の基材との積層体を得た。第一の基材厚みは200μm、第二の基材厚みは15mmであった。
2.ハードコート層形成用組成物の作製
まず、ハードコート層形成用組成物を作製するにあたり、フィラーとしてのアクリロイル基が導入されているシリカ粒子Aを作製した。
具体的には、シリカ粒子B(トクヤマ社製、商品名「CP−102」、平均粒径0.020μm)を、プロピレングリコールモノメチルエーテル中に分散させ、この分散液をミキサーにて撹拌・混合させた。その後、この分散液を攪拌しながら、シランカップリング剤3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−5103」)を添加した。これにより、アクリロイル基が導入されているシリカ粒子Aを得た。
次に、ハードコート層形成用組成物を、以下のようにして作製した。
多官能(メタ)アクリレートとして10官能ウレタンアクリレート(新中村化学工業社製、商品名「U−10HA」)、および6官能アクリレート(新中村化学工業社製、商品名「A−DPH」)と、2官能(メタ)アクリレートとして2官能ビスフェノールA型アクリレート(新中村化学工業社製、商品名「A−BPE−4」)と、シロキサン変性(メタ)アクリレートとしてシリコン変性(メタ)アクリル樹脂(トクシキ社製、商品名「SQ200」)と、フィラーとして上記作製したアクリロイル基が導入されているシリカ粒子Aと、を配合し、上記10官能ウレタンアクリレートと、6官能アクリレートと、2官能ビスフェノールA型アクリレートと、シロキサン変性(メタ)アクリレートと、シリカ粒子Aの合計濃度が、30質量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈した。
ここへ、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」、BASF社製)と、表面調整剤として変性シリコーン(商品名「グラノール450」、共栄社化学社製)と、を添加し、ハードコート層形成用組成物を調整した。
なお、ハードコート層形成用組成物中における各材料は、表1に示す含有率となるように配合した。
このように、作製されたハードコート層形成用組成物は十分に攪拌混合した後、密閉容器に保存した。
3.工作機用窓の製造
次に、基材の作製で得られた第一の基材と第二の基材との積層体の第一の基材側の面上に、金属製のバーコーターを用いてウェット膜厚が55μmになるように、ハードコート層形成用組成物を塗布した。ハードコート層形成用組成物が塗布された第一の基材と第二の基材との積層体を、60℃の熱風循環型オーブンに入れ、10分間乾燥した後、無電極UVランプ(Hバルブ)(ヘレウス・ノーブルライト・フュージョン・ユーブイ社製)を用い、照射距離50mm、コンベア搬送速度3m/minの条件で、乾燥したハードコート層形成用組成物の塗膜に紫外線を照射し、前記塗膜を硬化させ、ドライ膜厚10μmのハードコート層を備える工作機用窓(ハードコート層を備える基材)を得た。
(実施例2〜9、比較例1〜3)
ハードコート層形成用組成物を構成する材料の種類や含有量を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてハードコート層形成用組成物を作製した。また、ハードコート層の膜厚、第一の基材および第二の基材の種類や厚さを表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして工作機用窓を得た。なお、比較例1ではハードコート層形成用組成物を塗布せず、ハードコート層を備えない工作機用窓を用意した。
表1に、各実施例および各比較例のハードコート層の構成を示した。
なお、表1中、
多官能(メタ)アクリレートとして10官能ウレタンアクリレート(商品名「U−10HA」、新中村化学工業社製)を「10官能ウレタンアクリレート」、
多官能(メタ)アクリレートとして6官能アクリレート(商品名「A−DPH」、新中村化学工業社製)を「6官能アクリレート」、
2官能(メタ)アクリレートとして2官能ビスフェノールA型アクリレート(商品名「A−BPE−4」、新中村化学工業社製)を「2官能ビスフェノールA型アクリレート」、
2官能(メタ)アクリレートとして2官能鎖式アクリレート(商品名「A−NOD−N」、新中村化学工業社製)を「2官能鎖式アクリレート」、
シロキサン変性(メタ)アクリレートとしてシリコン変性(メタ)アクリル樹脂(商品名「SQ200」、トクシキ社製)を「シロキサン変性(メタ)アクリレート」、
フィラーとしてシリカ粒子B(平均粒径0.020μm、商品名「CP−102」、トクヤマ社製)を「シリカ粒子B」、
フィラーとして、上記作製したアクリロイル基が導入されているシリカ粒子Aを「アクリロイル基が導入されているシリカ粒子A」、
重合開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」、BASF社製)を「重合開始剤」、
表面調整剤として変性シリコーン(商品名「グラノール450」、共栄社化学社製)を「表面調整剤」、
アクリル変性ポリカーボネート樹脂(商品名「PCX−6611」、住化スタイロン社製)を「ポリカーボネート2」、
メタクリル樹脂(商品名「スミペックスEX」、住友化学社製)を「アクリル1」、
メタクリル樹脂(商品名「アクリペットIRG」、三菱レイヨン社製)を「アクリル2」
で示した。
なお、各実施例および各比較例のハードコート層の膜厚は、非接触膜厚測定装置MCS500(カール・ツァイス社製)により測定した。
3.評価
以下の評価を行うにあたり、各実施例および各比較例にて得られた基材、工作機用窓か
ら、中央平面部付近から任意の大きさに切り出したサンプルを用いて、以下の評価を行った。
<1>鉛筆硬度評価
各実施例および比較例のハードコート層形成用組成物を塗布する前のハードコート層を備えない基材とハードコート層形成用組成物を塗布・乾燥・硬化させた後のハードコート層を備える工作機用窓について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、JIS−K5400に記載の鉛筆法による引っかき硬度を測定した。
<2>透光性評価
<2−1>初期ヘイズHz0の評価
各実施例および比較例の工作機用窓について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電飾工業社製)により、拡散透過率Tdと、全光線透過率Ttとを求め、下記式(9)によりヘイズT(%)を算出した。この結果を表1に示した。なお、ヘイズとは、透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表すものである。5%以下であれば透明性は良好であるとした。
T[%]=Td/Tt×100 ・・・・・(9)
<2−2>傷加速試験後のヘイズHz1およびヘイズ増加量ΔHzの評価
各実施例および比較例の工作機用窓について、まず、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、それぞれ、傷加速試験を行い、傷加速試験後のヘイズを前記<2−1>と同様の方法にて算出し、傷加速試験後のサンプルのヘイズHz1を求めた。
なお、傷加速試験は以下のように行った。まず、ハードコート層21側に切りくず/潤滑油混合物が衝突するように、サンプルホルダーに切り出したサンプルを固定した。次いで、切りくずとしてアルミ合金:A6061の切りくずを用意した。潤滑油としてBPジャパン社製 Castrol Hysol MB−50を用意した。アルミ合金:A6061の切りくず(70.0質量部)、Castrol Hysol MB−50(500.0質量部)をそれぞれ秤量し、これらを混合して混合物を得た。次いで、サンプルホルダーに固定した切り出したサンプルに、圧縮空気を用いて切りくず/潤滑油混合物を衝突させた。切りくず/潤滑油混合物を衝突させる条件としては、衝突速度が25mm/secであり、距離がハードコート層表面の中央部に対して10cmであり、繰り返し回数は30回とした。
次に、求めたヘイズHz1と、前記<1−1>で求めた初期ヘイズHz0との差(Hz1−Hz0)を算出することにより、ヘイズ増加量ΔHzを求めた。
各実施例および比較例の工作機用窓について、求めたヘイズHz1と、ヘイズ増加量ΔHzとを表1に示した。
また、ヘイズ増加量ΔHzが、4.0以下のものを特に良好、4.0を超え5.0以下のものを良好、5.0を超えるものを不合格とした。
<3>耐油性評価
各実施例および比較例の工作機用窓について、切り出したサンプル(60mm×60mm)を用いて、潤滑油(商品名「ユシローケンシンセティック#660」、ユシロ化学工業社製)の中に、40℃で14日間浸漬した。その後、サンプルを取り出し、付着した潤滑油をウエスで拭き取りサンプルの状態を観察し、以下の評価基準に従い評価した。
○:表層の外観に変化は見られなかった。
×:表層の外観に変化が見られた。
以上のようにして得られた各実施例および比較例の工作機用窓における評価結果を、それぞれ、下記の表1に示す。
表1に示したように、各実施例の工作機用窓は、透光性、耐擦傷性、耐油性に優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。