以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、MEMSスイッチ100の概略構成を示す図である。
MEMSスイッチ100は、所謂高周波スイッチ(RFスイッチ)の1つであり、圧電又は静電アクチュエータによって機械的にスイッチングを行う装置である。
図1に示すように、MEMSスイッチ100は、第1駆動部SP1と、第1信号線14と、接触端子15と、第1グランド(第1GND)16と、第2駆動部SP2と、第2信号線24と、第2グランド(第2GND)26と、を含んで構成される。第1駆動部SP1は、第1駆動素子11(圧電駆動素子)と、第1駆動回路12と、第1ビーム13(梁)とを含んで構成される。また、第2駆動部SP2は、第2駆動素子21と、第2駆動回路22と、第2ビーム23(梁)とを含んで構成される。また、MEMSスイッチ100を構成する上述の要素は、例えば筐体等の固定部材PKによって覆われた状態とされる。なお、上述のグランド(第1及び第2GND)は、必要に応じて、各種の信号が伝達する導体の近傍に設けることができる。
第1信号線14及び第2信号線24はそれぞれCu等の導体から構成される。また、接触端子15は、例えばAu等の導体から構成される。MEMSスイッチ100では、外部からの入力信号を第1信号線14及び第2信号線24を介して導き、第2信号線24から出力信号として外部へ出力する。第1信号線14と第2信号線24との間は、接触端子15により接続及び切断が切り換えられる。
接触端子15が、第1信号線14に固定されている場合は、接触端子15が第2信号線24に対して接触することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続(ON)され、接触端子15が第2信号線24から離間することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に切断(OFF)される。接触端子15は、第1信号線14ではなく、第2信号線24に固定することもできる。
接触端子15が、第1信号線14及び第2信号線24の双方から離間している構造の場合、接触端子15の移動によって、接触端子15が第1信号線14及び第2信号線24の双方に対して接触することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続(ON)され、接触端子15が第1信号線14及び第2信号線24から離間することで、第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に切断(OFF)される。
接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えは、第1信号線14、接触端子15及び第2信号線24のうちの一部の物理的な移動によって行われる。第1駆動部SP1は、第1駆動素子11によって、第1ビーム13を変形させ、第1信号線14に接触端子15が固定されている場合には、これら双方を移動させ、第1信号線14に接触端子15が固定されていな場合には、接触端子15を移動させる機能を有している。
第2駆動部SP2は、第2駆動素子21によって、第2ビーム23を変形させることができるので、第2ビーム23に固定された第2信号線24は、必要に応じて、接触端子15の方向へ移動したり、離間することができる。なお、第2ビーム23を変形する必要が無い場合には、第2駆動素子21には第2駆動回路22から駆動信号は与えられず、第2ビーム23の変形が不要である場合は、第2駆動回路22は無くてもよい。
第1駆動部SP1では、制御回路CONTからの信号に基づいて第1駆動回路12からの電圧印加により、第1駆動素子11が変形する。第1ビーム13(可撓性部材)は、可撓性を有する部材により構成され第1駆動素子11の変形に伴って変形する。
同様に、第2駆動部SP2では、制御回路CONTからの信号に基づいて第2駆動回路22からの電圧印加により、第2駆動素子21が変形する。第2ビーム23は、可撓性を有する部材により構成され第2駆動素子21の変形に伴って変形する。
図2は、圧電駆動素子の構成について説明する概略断面図である。
以下では、XYZ三次元直交座標系を設定する。図1に示した第1ビーム13の厚み方向をZ軸方向とし、長手方向をX軸方向として、Z軸及びX軸の双方に垂直な幅方向をY軸方向とする。
図2に示すように、第1駆動部SP1の第1駆動素子11は、Pt等の下部電極層11a、圧電体材料層11b、及びPtなどの上部電極層11cをZ方向に積層配置した構成を有する。この第1駆動素子11の下部電極層11aと上部電極層11cとの間に所定の電圧を印加することにより、圧電体材料層11bの厚さが増加し、面内寸法が減少する(面内方向では縮む)。圧電体の分極と、同一の方向に正の直流電圧を印加すると圧電素子は伸び、逆に負の直流電圧をかけると縮む。したがって、電圧の向き制御することで、圧電素子の面内方向の伸縮を制御することができる。
第1駆動素子11が、圧電素子である場合の材料について、補足説明する。
圧電体の材料としては、電気機械結合係数が大きく、伝搬損失およびパワーフロー角が小さく、遅延時間温度係数が小さい材料が好ましい。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)などが好適である。各層の形成には、従来公知の成膜方法を適宜用いることができ、例えば、蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長(CVD)法、プラズマアシスト気相成膜(PCVD)法、めっき等を用いることができる。その他、圧電体の材料としては、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)、窒化アルミ(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、ビスマス鉄酸化物(例えば、BiFeO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等を用いることができる。
第1駆動素子11の寸法について説明する。
第1駆動素子11のX軸方向の寸法は200μm(50〜500μm)、Y軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Z軸方向の寸法は2μm(0.3〜3μm)である。なお、括弧内は、好適範囲を示している。この場合、第1駆動素子11の形態的なバランスが、小型化された圧電型MEMSスイッチに要求される駆動素子の微小変位(サブミクロンから数ミクロン)を制御しやすいものとなるという効果がある。
第2駆動部SP2の第2駆動素子21についても、第1駆動素子11と同様に、下部電極層21a、圧電体材料層21b、及び上部電極層21cを含んで構成される。また、第2駆動素子21の構造、材料及び作用効果は、第1駆動素子11の場合と同一である。さらに、第2駆動素子21のXY平面内の形状は、第2ビーム23のXY平面内の形状と同一であり、これらが固着しているため、第2駆動素子21の変形の通りに、第2ビーム23は変形する。
図3は、第1ビーム13及び第2ビーム23の周辺構造を説明する概略構造図である。
本実施形態に係るMEMSスイッチ100では、第1ビーム13及び第2ビーム23はそれぞれX軸方向に延びる平板状の可撓性部材であり、長手方向がX軸方向に沿って整列し、同一のXY平面内に配置されている。第1ビーム13の−X方向の一端側及び第2ビーム23の+X方向の一端側がそれぞれ固定部材PKに対して固定されていて、第1ビーム13及び第2ビーム23において、互いに対向する先端部分は、自由端とされている。すなわち、第1ビーム13及び第2ビーム23は所謂片持ち梁構造を有する。
第1ビーム13には第1信号線14が取り付けられていると共に、第2ビーム23には第2信号線24が取り付けられている。第1信号線14及び第2信号線24は、それぞれ第1ビーム13及び第2ビーム23の延在方向(X軸方向)に沿って配置されている。また、第1ビーム13における自由端側の端部には接触端子15が取り付けられる。接触端子15は、第1信号線14と接続している。接触端子15は、第1ビーム13から接続する本体部15a(接触端子本体)と、本体部15aから突出する接点部15bとを含んで構成される。接点部15bは、本体部15aにおいて、第2信号線24と対向する位置に設けられる。接触端子15は導体により構成されて、第1駆動素子11及び第2駆動素子21が駆動していない状態では、本体部15aにおいて第1信号線14に対して接続する側の端部とは逆側の端部に設けられ、第2信号線24側へ突出する接点部15bが第2信号線24に対して離間した状態に配置される。なお、接触端子15の接点部15bは、接触端子15の本体部15aと同一の材料であってもよいし、本体部15aとは別の材料であってもよい。
第1駆動素子11は、第1ビーム13と固着しているため、第1駆動素子11の変形の通りに、第1ビーム13は変形する。また、第2駆動素子21は、第2ビーム23と固着しているため、第2駆動素子21の変形の通りに、第2ビーム23は変形する。
第1駆動素子11に対して電圧を印加することによって、第1駆動素子11が電圧に連動して変形すると、第1ビーム13が変形し、接点部15bが、例えば、下方へ移動する。同様に、必要に応じて、第2駆動素子21に対して、電圧を印加することによって、第2駆動素子21が電圧に連動して変形すると、第2ビーム23が変形する。第1ビーム13の変形および/または第2駆動素子21による第2ビーム23の変形により、接点部15bが第2ビーム上の第2信号線24と接触する。これにより、接触端子15を介して第1信号線14と第2信号線24との間が電気的に接続される。なお、第1駆動素子11と第2駆動素子21に逆方向の駆動電圧を印加すれば、互いに逆方向に湾曲して移動するため、個々の素子においては、接触に必要なストロークを小さくすることもできる。
なお、接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えができる構成であれば、第1駆動部SP1及び第2駆動部SP2の構成は特に限定されない。例えば、第1駆動部SP1及び第2駆動部SP2の一方は駆動回路を備えず、駆動素子の圧電駆動によってビームが移動しない(すなわち、固定部材PKに対して固定される)構成であってもよい。この場合であっても、一方側のビームの変形によって、第1信号線14、第2信号線24、及び接触端子15の位置関係を変更することによって、接触端子15による第1信号線14と第2信号線24との間の接続及び切断の切り替えを実現することができる。
第1ビーム13及び第2ビーム23の材料について、補足説明する。
第1ビーム13及び第2ビーム23の材料は特に限定はされないが、歪応力曲線において線形性を示す材料、すなわち弾性を有する材料が好ましい。例えば、Fe−Ni−Cr合金、Cu−Sn−P合金などの金属間化合物や、単結晶Si等を適宜用いることができる。なかでも単結晶Siは、歪応力曲線において広い線形領域を有するため、特に好適に用いることができる。第1ビーム13及び第2ビーム23の材質は、上述のように、可撓性を有する材料から適宜選択することができるが、上述の材料の他に、SiNx(窒化シリコン)、Al2O3(アルミナ)、TiNx(窒化チタン)、SiO2(酸化ケイ素)、AlN(窒化アルミ)、多結晶Si、アモルファスシリコン、ダイアモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等を用いることができる。
第1ビーム13及び第2ビーム23の寸法について説明する。
第1ビーム13のX軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Y軸方向の寸法は250μm(50〜500μm)、Z軸方向の寸法は3μm(0.5〜5μm)である。なお、括弧内は、好適範囲を示している。この場合、第1ビーム13の形態的なバランスが、小型化された圧電型MEMSスイッチに要求されるビームの微小変位(サブミクロンから数ミクロン)を制御しやすいものとなるという効果がある。また、第1ビーム13のXY平面内の形状は、偏向可能な可動領域(固定部材PKに固定された部分よりも先端側の領域)に関しては、概ね長方形であるが、この可動領域の形状としては、例えば、半円形、フォーク状形状、三角形が考えられる。
なお、上記のMEMSスイッチ100は、例えば、図4に示す電子機器に適用することができる。
図4は、本実施形態に係るMEMSスイッチが適用される電子機器の一例の概略構成図である。
図4に示す電子機器200は、無線通信を行う電子機器であり、ハウジングHに収容された複数のMEMSスイッチ100と、複数のMEMSスイッチ100に対してそれぞれ直列に接続されたフィルタ102と、アンテナ103と、スイッチ104と、処理回路105と、入力装置106と、ディスプレイ107と、制御回路CONTと、を含んで構成される。
アンテナ103からは、変調された高周波信号(RF信号)が入力される。電子機器200では、制御回路CONTからの制御によって複数のMEMSスイッチ100におけるON/OFFが切り替えられる。例えば、アンテナに含まれる複数の周波数帯域の信号から、単一の周波数帯域の信号を選択することができる。アンテナ103により受信された入力信号は、必要に応じて、アンプで増幅された後、ON状態が選択されたMEMSスイッチ100、及び、当該MEMSスイッチ100に接続されたフィルタ102を通り、場合によりスイッチ104を経て処理回路105に入力し、処理回路105において入力信号に係る処理が行われる。それぞれのフィルタ102は、通過帯域の異なる周波数フィルタであり、選択された周波数の信号が、処理回路105に入力されることとなる。
処理回路105は、変調されていた入力信号を復調し、復調された信号から、音声、文字又は画像情報を抽出し、制御回路CONTは、処理回路105から得られた文字又は画像情報をディスプレイ107上に表示することができる。なお、アンテナ103への入力信号は、映像信号又は音声信号とすることもできる。
本実施形態に係るMEMSスイッチ100は、上述したように、第1駆動素子11及び第2駆動素子21の圧電駆動により、接点部15bと第2信号線24との接触及び離間が繰り返されることにより、第2信号線24と接触端子15との接続及び切断が繰り返される。
上記MEMSスイッチを用いた電子機器は、MEMSスイッチ100と、アンテナ103と、アンテナ103にMEMSスイッチ100を介して接続された周波数フィルタ102とを備えている。この電子機器は、MEMSスイッチ100が機械的な耐性に優れ寿命が長くなるという効果がある。また、複数のMEMSスイッチ100を備えることで信号の分離が容易になるという利点がある。なお、アンテナ103は、MEMSスイッチ100への信号入力を行う信号入力素子であり、周波数フィルタ102はMEMSスイッチ100からの出力信号を処理する信号処理素子である。信号入力素子としては、例えば、実験システムにおける信号発生器を適用することもできるし、信号処理素子としては、周波数逓倍器やAD変換器などを適用することも可能である。
上述のMEMSスイッチにおいて、ビームが容易に変形し、スイッチングをスムーズに行うことができるためには、ビームを薄層化する必要がある。薄層化処理には、バックグラインド処理(裏面研削処理)が挙げられるが、かかる処理には、グラインド(研削)の他、ポリッシュ(研磨)やエッチングなどの方法が考えられる。
ところが、ビームに薄層化処理を施した場合、処理された表面には、マイクロクラックが生じることが多い。これらのクラックはMEMSスイッチにおける可動部の寿命を低下させる原因となる。
図5は、第1実施形態のMEMSスイッチ100の縦断面構成を示す図である。
このMEMSスイッチは、XZ平面内において湾曲する第1可動部10を備えている。第2可動部20は、必要に応じて、XZ平面内において湾曲させることができる。
第1可動部10は、層状のビーム(可撓性部材)13と、ビーム13を変形させる駆動素子11(圧電駆動素子)と、ビーム13の変形に伴って第1信号線14と第2信号24との間の接続を行う接触端子15とを備えている。
第1信号線14は、ビーム13上の適当な位置に設けることができるが、本例では、第1金属膜18の上に形成してあり、図示の如く接触している。もちろん、第1信号線14を、上部電極層11c上に設けて接触させたり、これと共通にすることも可能である。
なお、電極、金属膜、信号線など、金属同士が接触する場合には、電気的に接続がされる。
第2可動部20は、層状のビーム(可撓性部材)23と、ビーム23をそれぞれ変形させる駆動素子21(圧電駆動素子)を備えている。
第2信号線24は、ビーム23上の適当な位置に設けることができるが、本例では、第2金属膜28の上に形成してあり、図示の如く接触している。もちろん、第2信号線24を、上部電極層21c上に設けたり、これと共通にすることも可能である。
第1ビーム13の一方面上には、第1表面絶縁層17を介して、第1金属膜18が固着しており、第1ビーム13の他方面上には裏面絶縁層17Bを介して、第2金属膜18Bが固着しており、第1金属膜18及び第2金属膜18Bは、第1ビーム13を挟んで対向している。第1金属膜18上には、第2表面絶縁層19を介して、駆動素子11が固着して固定されている。
第2ビーム23の一方面上には、第2表面絶縁層27を介して、第1金属膜28が固着しており、第2ビーム23の他方面上には裏面絶縁層27Bを介して、第2金属膜28Bが固着しており、第1金属膜28及び第2金属膜28Bは、第2ビーム23を挟んで対向している。第2金属膜28上には、第2表面絶縁層29を介して、駆動素子11が固着して固定されている。
ここで、層状のビーム13,23を薄層化処理すると、表面にマイクロクラックCが発生する。本例ではビームの裏面(−Z方向に露出するXY面)に処理を施したものとする。ビーム13,23においては、それぞれの両面に第1金属膜及び第2金属膜が固着している。一方の金属膜(第2金属膜18B,28B)が、薄層化処理された裏面に固着する場合、当該金属膜が、ビーム13,23の伸縮に伴う面内応力を低減し、クラックCの成長を抑制し、したがって、ビーム13,23の劣化を抑制することができる。
また、第1ビーム13の方の第1金属膜18は、第1絶縁層17を介して、ビーム13の一方面上に固着しており、第2金属膜18Bは、裏面の第2絶縁層17Bを介して、ビーム13の他方面上に固着している。同様に、第2ビーム23の方の第1金属膜28は、第1絶縁層27を介して、ビーム23の一方面上に固着しており、第2金属膜28Bは、裏面の第2絶縁層27Bを介して、ビーム23の他方面上に固着している。
一般に、絶縁層は、金属層よりも、接着強度が高く、また、マイクロクラック内に入り込みやすく、金属層は、絶縁層よりも線膨張係数が小さい。これにより、クラックの成長を抑制し、したがって、可撓性部材の劣化を抑制することができる。
マイクロクラックに接着する絶縁層17B,27Bの線膨張係数は0.1以上20以下であることが好ましい。また、これらの絶縁層に接触する第2金属層18B、28Bの線膨張係数は0.1以上20以下であることが好ましい。
第1金属膜18,28の線膨張係数α1、第2金属膜18B、28Bの線膨張係数α2、ビーム13の線膨張係数α3は、以下の関係式を満たすことを特徴とする。
0.1×α3≦α1≦10×α3
0.1×α3≦α2≦10×α3
この場合、線膨張係数α3に対して、線膨張係数α1と線膨張係数α2が近いため、熱変化に伴って、大きくクラックが増大しない。
それぞれのビームにおいて、第1金属膜18,28と第2金属膜18B,28Bは、同一金属材料からなることが好ましい。同一材料からなる場合には、線膨張係数がほぼ等しくなる。このため、それぞれのビーム13,23と第1金属膜18,28との間、およびビーム13,23と第2金属膜18B,28Bとの間に生ずるひずみを、等しく抑制することができる。これにより、マイクロクラックにかかるストレスをさらに軽減させることができ、ビーム13,23の劣化をさらに抑制することができる。
第1可動部10において、積層された各層は、全て固着している。したがって、駆動素子11がXZ平面内において湾曲すると、これに固着したビーム13も湾曲し、その先端部に設けられた接触端子15は、Z軸方向に沿って移動する。ビーム13の基端部は、固定部材PKに固定されている。
第2可動部20において、積層された各層は、全て固着している。したがって、駆動素子21がXZ平面内において湾曲すると、これに固着したビーム23も湾曲可能である。ビーム23の基端部は、固定部材PKに固定されている。固定部材PKは、本例ではパッケージであり、第1可動部10及び第2可動部20を収容しており、内部は気密に保持されている。パッケージ内部には、希ガスなどの気体を封入してあるが、必要に応じて、これを減圧し、真空空間としてもよい。
図6は、第2実施形態のMEMSスイッチ100の縦断面構成を示す図である。
このMEMSスイッチ100は、図5のものと比較して、一方のビーム23を省略し、また、接触端子15をビーム13の先端に固定して、接触端子15が、第1信号線14と第2信号線24の双方に接触するように、第1信号線14と第2信号線24をパッケージの内壁面上に設けた点であり、その他の構成と作用効果は、図5のMEMSスイッチと同一である。
接触端子15は、駆動素子11の駆動によって、XZ平面内において、Z軸方向に沿って移動する。接触端子15の形状としては、様々なものが考えられ、層状の形状であってもよく、接触端子15を上部電極層11c上に設けたり、第1金属膜18の上に設けたり、或いは、上部電極層11cと共通にしてもよい。接触端子15が、第1信号線14及び第2信号線24の双方に接触すると、これらの信号線が電気的に接続される。
図7は、第3実施形態のMEMSスイッチ100の縦断面構成を示す図である。
このMEMSスイッチ100は、図6のものと比較して、第1金属膜18の一部の表面を露出させ、この露出面上に、第1信号線14を配置し、信号線14上に接触端子15を固定し、これらを電気的に接続したものであり、その他の構成と作用効果は、図6のMEMSスイッチと同一である。 接触端子15は、駆動素子11の駆動によって、XZ平面内において、Z軸方向に沿って移動する。接触端子15の形状としては、様々なものが考えられ、層状の形状であってもよく、接触端子15を上部電極層11c上に設けたり、或いは、上部電極層11cと共通にしてもよい。接触端子15が、第2信号線24に接触すると、これらの第1信号線14と第2信号線24が電気的に接続される。
また、接触端子15は、第1信号線14上に設けられているが、第1信号線14は、別経路で接触端子15に電気的に接続することもでき、接触端子15は、第1金属膜18上に直接形成したり、第1表面絶縁層17上に直接形成したり、ビーム(ビーム本体)13上に直接形成することとしてもよい。また、接触端子15は、第1信号線14上でなく第2信号線24上に形成してもよい。
図8は、第4実施形態のMEMSスイッチ100の縦断面構成を示す図である。
このMEMSスイッチ100は、図7のものと比較して、ビーム13上に直接、接触端子15を配置し、接触端子15に対向する位置に第2信号線24を設けたものである。その他の構成と作用効果は、図7のMEMSスイッチと同一である。
なお、接触端子15は、その右に示されている積層構造体(第1表面絶縁層17、第2金属膜18、第2表面絶縁層19、下部電極層11a、圧電体材料層11b、上部電極層11c)に置換し、この上部電極層15cに相当する電極層を、接触端子15として機能させることもできる。
図9は第4実施形態のMEMSスイッチにおいて、接触端子15を積層構造体に置換した場合のMEMSスイッチの図であり、すなわち、接触端子15を上部電極層と同一構造にした場合を示している。また、図10は図9のMEMSスイッチの平面図であり(パッケージは省略)、A−A線の断面が図9に相当する。
すなわち、図8において、接触端子15に代えて、ビーム13上に、第1表面絶縁層17、第1金属膜18、第2表面絶縁層19、下部電極層11a、圧電体材料層11b、上部電極層11cと同一の構造を順次積層したものを接触端子構造体とし、この接触端子構造体における上部電極層が、接触端子15に相当する。この接触端子構造体と、駆動素子11とは、物理的及び電気的に分離しているが、これらを共通とする構造体とすることもできる。
なお、上述のMEMSスイッチにおいて、第2表面絶縁層19を省略して、下部電極層11aと第1金属膜18と共通とすることもできる。
第1表面絶縁層17及び第2表面絶縁層19の材料としては、それぞれ、Y、Zr、Si、などの元素を含む酸化膜を用いることができる。
下部電極層11a、上部電極層11c、第1金属膜18および第2金属膜18Bは、金属材料、例えばCu、Mo、Al、Ni、Ti、Pt、W、Cr、Ta、Ru、Sr、Ir、またはこれらのうちの二種類以上を含む合金が好適である。これら材料は、圧電体材料層11bに適度な配向性を生じさせる機能を有する観点からも、下部電極層11aの材料として好ましい。
圧電体材料層11bは、駆動回路から下部電極層11aおよび上部電極層11cに印加される信号により収縮し、これによりビーム本体が湾曲する。ビームが湾曲する際に接触端子15が、これと対向する位置にある第2信号線24(対向電極)と接触する。この接触により、接触端子15に第1信号線を介して接続された信号回路と、第2信号線24とが、電気的に接続される。
以下、本実施形態のビーム振動体素子の製造工程を説明する。
まずビーム13の元になる部材を用意する。上述のようにビーム13の材料は特に限定はされないが、本実施形態では単結晶Siを用いた工程を例示する。本実施形態のビーム13の表面に、第1表面絶縁層17、第1金属膜18を形成する。さらに第2表面絶縁層19、下部電極層11a、圧電体材料層11b、および上部電極層11cを順次形成し、駆動素子11をビームに固着・固定する。成膜方法の選択は自由であり、蒸着法、スパッタリング法、気相成長法(CVD)、プラズマアシスト気相成長法(PCVD)、めっき等を用いることができる。
次に、圧電素子からなる駆動素子11をパターニングして、必要な形状にする。パターニングは、反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチング法、好適なエッチング液を用いたウェットエッチング法、あるいはイオンミリング法、等により行うことができる。
なお、上述のビーム13(23)は、XZ平面内における偏向運動の最適化の観点から、裏面を加工して、厚みの調整を行う。この調整は、上述した駆動素子11の形成前に行ってもよく、駆動素子11の形成後に行ってもよい。ここで、「裏面」とは、駆動素子11の形成面とは反対の面を意味する。厚みの調整は、エッチング加工によってもよいし、研削により行ってもよい。例えば、駆動素子11の形成後の裏面に対してバックグラインドを行ってもよい。
厚み調整の後、ビーム13の裏面に、裏面絶縁層17B、第2金属膜18Bを含む積層体を順次形成する。裏面絶縁層17Bには、Y、Zr、Si、などの元素を含む酸化膜を好適に用いることができる。第2金属膜18Bの材料としては、導電性である材料Cu、Mo、Al、Ni、Ti、Pt、W、Cr、Ta、Ru、Sr、Irまたはこれら材料の元素を2種類以上含む合金が好適に用いることができる。
なお、第2金属膜18Bには、上述したスティッキング防止の観点から、凹凸パターンのパターンニングを行うのが好ましい。パターンニングの形態は、V形状の溝型パターンニングが好ましい。V形状は、第2金属膜18にハーフエッチング等の後加工を施してもよく、第2金属膜18Bをレジストマスク等でパターン成膜する方法であってもよい。これにより、ビーム13のスティッキングを効果的に低減できる。
また、信号回路に接続される第1信号線と接触端子15とを接続するため、図示しない端子を更に形成してもよい。同じく、駆動素子11の上部電極層11cと下部電極層11aについても、駆動回路に接続するための端子を設けてもよい。このような端子は、駆動素子11や第1又は第2金属膜の形成とは別の工程で設けてもよい。あるいは、駆動素子11や第1又は第2金属膜の一部をパターニングによって残し端子として使用するものであってもよい。
上記の手順で完成した可動部10をパッケージ(固定部材PK)内に封止する。封止は、(1)ビーム13の駆動のためのクリアランスを考慮した空間を設けること、(2)特性劣化を及ぼす外部湿度等の浸入を抑制すること、(3)接触端子15の接する対抗電極部位が設けられている構造であること、少なくとも以上の3点に留意し、自由に設計することができる。例えば、樹脂、ガラス、セラミック、Si単結晶等に配線を形成した部材によって、ビームを挟み込む方法を例示することができる。固定部材PKは、対向する凹部を有する第1部材PK(1)と第2部材PK(2)からなる筐体パッケージである。
図10におけるビーム13は、これを含む基板13Kの一部であり、基板13Kの2点鎖線Pの外側領域(周辺領域)は、第1部材PK(1)と第2部材PK(2)によって挟まれている。
配線が不要で、ビームの駆動クリアランスを考慮する必要のない部位については、流動性のある充填剤を用いて封止を行ってもよい。封止の後、外部端子の開孔を設けて動作を確認する。以上の手順により、ビームを用いたRF−MEMSスイッチは完成する。
なお、第2信号線24は、第2部材PK(1)に設けられた貫通孔を介して、バンプ又は電極パッドB1に電気的に接続されている。駆動素子11の上部電極層11cは、第2部材PK(1)に設けられた貫通孔を介して、バンプ又は電極パッドB2に電気的に接続されている。下部電極層11aは、第2部材PK(1)に設けられた貫通孔を介して、バンプ又は電極パッドB3に電気的に接続されている。
電極パッドB1は、図10におけるOUTの位置にあり、INの位置にも電極パッドが存在し、この電極パッドは第1信号線14を介して、接触端子15に接続されている。第1信号線14の縦断面構造は、駆動素子11を含む上述の積層構造体と同一である。INの電極位置から入力された信号は、接触端子15を介して、OUTの電極の位置から出力される。
上部電極層11cは、駆動素子11を含む上述の積層構造体と同一構造の配線Wの上部電極層相当の配線を介して、電極パッドB2に接続され、下部電極層11aは、駆動素子11を含む上述の積層構造体と同一構造の配線Wの下部電極層相当の配線を介して、別の電極パッドB3に接続されて、これらの電極パッドは第1駆動回路12に接続される。
ビーム13を含む基板13Kは、中央部に大きな貫通孔からなる開口HLを有する外周領域と、外周領域の内側から開口HL内に延びたビーム13とを備えており、ビーム13は開口HL内において可動することができる。
図11は、MEMSスイッチの裏面の構成を示す平面図である。
上述の第1金属膜及び前記第2金属膜の少なくともいずれか一方が、気体又は真空空間への露出表面を有し、この露出表面が、ビーム13の変形に伴って、パッケージの内壁面に接する場合には、この露出表面は、内壁面への固着を抑制するための所定の凹凸パターンPTNを備えている。
図11においては、PTNの形状は方形であり、第2金属膜18Bに形成されている場合を示している。第2金属膜18Bの露出表面の平坦性が高い場合には、これに対向する壁面に対して、原子レベルで固着(スティッキング:張り付き)する可能性があるが、所定のパターンを形成しておけば、壁面への固着を抑制することができる。
スティッキングにともなう可撓性部材の湾曲により、可撓性部材にはストレスがかかりクラックが進行するおそれがある。所定のパターンとして、可撓性部材の表面が露出している場合に、その露出表面に凹凸を形成すると、スティッキングは防止できる。しかし、その加工により、可撓性部材にストレスがかかり、却ってクラックが進行する可能性がある。また、可撓性部材に対向するPKの表面に、スティッキング防止のための凹凸を作りこむこともできるが、微小なスペースの中に凹凸を形成することは容易ではない。この構成によれば、第1金属膜又は第2金属膜に、凹凸をパターニングすることで、ビームにストレスを生じさせることなく、凹凸をパターニングできる。このため、上記クラックの成長抑制効果を損なうことなくスティッキングを防止し、当該効果を更に高めることができる。
さらに、ビーム13の変形による変位時において、凹凸パターンPTNによるエアダンピング効果が生じ、筐体または対向電極との衝突が滑らかになる。そのためクラックの進行をさらに抑制することができる。凹凸パターンの基準面からの深さ又は高さは、10nm以上1μm以下であり、この場合には、十分に張り付きを防止することができる。
図12は、第5実施形態のMEMSスイッチの縦断面構成を示す図である。
本例は、駆動素子11を静電容量を利用した静電容量駆動素子から構成したものである。図6において、第1金属膜18より上に位置する第2表面絶縁層19、下部電極層11a、圧電体材料層11bを省略し、上部電極層11cを固定部材PKの内壁面上に固定したものである。この構成の場合、上部電極層11cと第1金属膜18との間に電圧を印加すると、駆動素子11が静電タイプ物として機能し、これらの間の距離が縮小し、接触端子15がZ軸方向に沿って移動する。なお、静電タイプの駆動素子11は、上述のいずれの実施形態にも適用することができる。
以下、実施例と比較例とを通じて本発明の効果を確認する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。実施例の構造としては、図8の構造において、第2表面絶縁層を省略して、第1金属膜と下部電極層とを共通としたものを採用した。
(実施例1)
最初に、基板としてSi単結晶基板を用意した。基板表面には、以下の手順で上部積層体を形成した。まず基板表面に第1表面絶縁層として、Y酸化物層と、Zr酸化物層とをこの順でスパッタリング法により設けた。第1表面絶縁層の全膜厚は70nmとした。次に、下部電極層を兼ねる第1金属膜としてPt層をZr酸化物層の表面に膜厚300nmスパッタリング法で形成した。続いて、下部電極層表面に圧電体材料層として膜厚2μmのPZT層をスパッタリング法で形成した。圧電体材料層の表面に上部電極層として膜厚400nmのPt層をスパッタリング法で形成した。以上の手順により、上部積層体を得た。次に、上部積層体上にフォトマスクを形成した後、ドライエッチングを行い、圧電駆動部を形成した。フォトマスクを除去した後、ビーム本体の先端に当たる位置に接触端子を形成した。接触端子から圧電駆動部の横を迂回する回路パターンを併せて設け、信号取出しの回路を形成した。
ここまでの工程で得られた試料を反転させ、裏面から研磨によって薄層化した。薄層化された裏面に裏面絶縁層としてAl2O3をスパッタ法で成膜した。続いてAl2O3上に100nm厚のCu層を設け、先端の露出したCuと接続した。裏面に設けたCu層には、張り付き防止のための、直径50nm、厚み200nmの突起を設けるパターンニングを行い、凹凸パターンを形成した。
この凹凸パターンは、裏面強化部の面であって、反対側の面の接点部に対応する位置に設けた。最後に表面の上部電極層と下部電極層を駆動回路に接続し、接触端子からの配線を信号回路に接続し、RF−MEMSスイッチを完成させた。
このようにして、100個製造したRF−MEMSスイッチに対して10万回のスイッチング動作を行って、信号回路に入力される信号(電圧)の変動を観察したところ、信号が当初電圧の1/2以下に低下し、スイッチとして機能しなくなったのは3個のみであった。したがって97個のRF−MEMSスイッチが本発明の目的通りの効果を得ていることが分かった。
(実施例2)
裏面のCu層に対するパターニングを行わなかった以外は、実施例1と同様の手順で100個のRF−MEMSスイッチを作製し、実施例1と同様の評価を行った。信号が当初電圧の1/2以下に低下しスイッチとして機能しなくなったのは11個であった。したがって89個のRF−MEMSスイッチが本発明の目的通りの効果を得ていることが分かった。
(実施例3)
裏面のCu層に替えPt層(線膨張係数=8.8)を形成した以外は、実施例2と同様の手順で作製し、実施例1と同様の評価を行った。信号が当初電圧の1/2以下に低下しスイッチとして機能しなくなったのは18個であった。したがって82個のRF−MEMSスイッチが本発明の目的通りの効果を得ていることが分かった。
(実施例4)
裏面のCu層に替えSn層を形成した以外は、実施例2と同様の手順で作成し、実施例1と同様の評価を行った。信号が当初電圧の1/2以下に低下しスイッチとして機能しなくなったのは23個であった。したがって77個のRF−MEMSスイッチが本発明の目的通りの効果を得ていることが分かった。
(比較例)
裏面にCu層を設けなかった以外は実施例1と同様の手順で作成し、実施例1と同様の評価を行った。その結果、わずか17個のRF−MEMSスイッチしか正常な動作を継続することが出来なかった。
以上、本発明者らは、実施例と比較例とを通じて、実施形態のRF−MEMSスイッチは、従来の技術に比べて劣化が抑制できることを確認した。なお、上述の実施形態において、第1ビーム13の構造及び作用効果は第2ビーム23にも適用できる。