JP6600575B2 - 赤色発光を示すハロ燐酸塩蛍光体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
Sb3+及びMn2+を添加したハロ燐酸塩蛍光体は、一般的に、紫外光励起により、Sb3+からMn2+へのエネルギー移動を利用して、波長400nm〜700nmのブロードな発光を示す。
また、Eu2+及びMn2+を添加したアパタイト構造を持つハロ燐酸塩蛍光体は、紫外光励起により、Eu2+からMn2+へのエネルギー移動を利用して、400nm〜700nm付近の波長での発光が可能である。
また、従来のハロ燐酸塩蛍光体は、紫外線励起により発光する、又は、紫外領域に最適励起波長が存在するものであるため、紫外線LED(UV-LED)との組み合わせとして有用であるものの、可視光励起により発光するものはなく、青色LEDを励起光の光源として利用することができなかった。
そのため、ハロ燐酸塩蛍光体と励起光源としての青色LEDとを組み合わせる技術について、製品等における実用化には至っていない。
1.(M1-α-β-γ Euα Aβ Bγ)5 (PO4)3 Xの一般式にて表わされるアパタイト構造を有することを特徴とするハロ燐酸塩蛍光体。
(式中、α、β及びγは、0<α<0.08, 0<β<0.06, 0<γ<0.08であり、Mは、Sr, Ca, Mg及びBaからなる群より選択され、少なくともSrを含む1種または2種以上のアルカリ土類金属であり、Aは、Sc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群より選択される1種または2種以上の希土類元素であり、Bは、Li及びNaからなる群より選択され、少なくともLiを含む1種または2種のアルカリ金属であり、Xは、F及びClからなる群より選択され少なくともFを含む1種または2種のハロゲンであり、Xの一部が欠損しているかまたは酸素もしくは硫黄に置換されうる。)
mol%で、
Sr: 30%〜60%
Ca: 0%〜25%
Ba: 0%〜5.0%
Mg: 0%〜2.5%
(ただし、Mを、Sr, Ca, Mg及びBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属とした場合にM:55%〜60%である。)
Eu: 0.1%〜3.6%
A: 0.1%〜1.5%
(ただし、AはSc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群より選択される1種または2種以上の希土類元素である。)
Li: 2.5%〜4.5%
Na: 0%〜2.0%
(ただし、BはLi及びNaからなる群より選択され、少なくともLiを含む1種または2種のアルカリ金属とした場合にB=2.5%〜4.5%である。)及び
P: 34%〜38%
を含有する、H及びCを除いたカチオン元素と、
mol%で、
Cl: 0%〜3.0%
F: 3.0%〜9.8%
(ただし、Xを、F及びClからなる群より選択される1種または2種のハロゲンとした場合に、X=3.0%〜9.8%である。)及び
O: 90.2%〜97.0%を含有する、N及びSを除いたアニオン元素と、
を有する出発原料を用いることを特徴とする、ハロ燐酸塩蛍光体の製造方法。
mol%で、
Sr: 30%〜60%
Ca: 0%〜25%
Ba: 0%〜5.0%
Mg: 0%〜2.5%
(ただし、M: 55%〜60%)
Eu: 0.1%〜3.6%
A: 0%〜5.0%
Li: 2.5%〜4.5%
Na: 0%〜2.0%
(ただし、B=2.5%〜4.5%)及び
P: 34%〜38%
を含有するH, Cを除くカチオン元素と、
mol%で、
Cl: 0%〜3.0%
F: 3.0%〜9.8%
(ただし、X=3.0%〜9.8%)及び
O: 90.2%〜97.0%を含有するN, Sを除くアニオン元素と
を有する出発原料を用いる。
なお本明細書において、「カチオン元素」及び「アニオン元素」の各成分の含有率については、ハロ燐酸塩蛍光体の出発原料の構成成分を、カチオン元素成分とアニオン元素成分とに分けて、全カチオン元素のうち、H及びCを除いたものの合計を100mol%とした場合、及び、アニオン元素成分のうち、N及びSを除いたものの合計を100mol%とした場合、における各成分の含有率を、カチオン元素又はアニオン元素に対するモル比に基づいて表記している。
<アルカリ土類金属M:55%〜60%>
Mは、Sr, Ca, Mg及びBaからなる群より選択され、少なくともSrを含む1種または2種以上のアルカリ土類金属であり、本発明のハロ燐酸塩蛍光体の母体を構成する重要な成分である。
出発原料のカチオン元素におけるMの含有率が、55%未満となると単一のアパタイト相を得ることが出来ず、60%を超えるとアルカリ土類金属酸化物が副相に生じるため、効率的に赤色蛍光を取り出せなくなる。そのため前記Mの含有率を55〜60%とし、好ましくは57%〜59.5%とする。
Srは、本発明のハロ燐酸塩蛍光体の一般式(M1-α-β-γ Euα Aβ Bγ)5 (PO4)3 XにおけるカチオンサイトMの全部または一部を占める成分であり、アパタイト構造を構成するための有用成分である。
ただし、出発原料におけるカチオン元素におけるSrの含有率が30%未満では、赤色発光がほぼ消失し、60%を超えると副相が生じ、赤色蛍光を効率的に取りだせなくなるため、その含有率を30%〜60%とした。出発原料におけるカチオン元素のSrの含有率は、好ましくは、32%〜50%、より好ましくは33〜40%である。
本発明のハロ燐酸塩蛍光体のようなアルカリ土類金属を含むアパタイト構造を持つ結晶において、Srイオン(Sr2+)のイオン半径は、発光中心として添加するEu2+のイオン半径と等しいので、置換が可能となる。
Srは、フッ化ストロンチウム(SrF2)または炭酸ストロンチウム(SrCO3)等を用いて原料中に含有させることができる。
Caは、カチオンサイトMの一部を占める任意成分であり、Eu2+の発光波長を長波長側へ移動することができる有用成分である。
Caは、Eu2+との置換が可能であり、Ca置換量の増加により、Eu2+の発光波長は長波長側へ移動する。
なお出発原料において、カチオン元素におけるCaの含有率が、25%を超えると赤色蛍光が消失し、青色蛍光のみが発現することとなるため、Caを含有する場合にはカチオン元素におけるCaの含有率は25%以下、好ましくは15%〜25%、より好ましくは22%〜25%である。
Caは、フッ化カルシウム(CaF2)または炭酸カルシウム(CaCO3)等を用いて原料中に含有させることができる。
Mgは、カチオンサイトMの一部を占める任意成分であり、少量を添加することにより、赤色発光を増大させる効果がある有用成分である。
出発原料において、カチオン元素におけるMgの含有率が、2.5%を超えると発光の減衰及び結晶化度の低下を招くため、Mgを含有する場合にはカチオン元素におけるMgの含有率は2.5%以下とする必要があり、好ましくは0.2%〜0.8 %である。
Mgは、酸化マグネシウム(MgO)、フッ化マグネシウム(MgF2)または炭酸マグネシウム(MgCO3)等を用いて出発原料中に含有させることができる。
Baは、カチオンサイトMの一部を占める任意成分であり、少量の添加により、青色発光を増大させる効果がある有用成分である。
出発原料において、カチオン元素におけるBaの含有率は、5.0%を超えると赤色発光が消失するため、Baを含有する場合には、カチオン元素におけるBaの含有率を5.0%以下とする必要があり、好ましくは1.5%〜2.5%とする。
Baは、フッ化バリウム(BaF2)または炭酸バリウム(BaCO3)等を用いて原料中に含有させることができる。
Euは、本発明のハロ燐酸塩蛍光体においてブロードな励起・発光スペクトルを得るために重要な元素であり、発光中心となる元素である。本発明のハロ燐酸塩蛍光体においてブロードな励起・発光スペクトルを得るためには、Euのイオン価数を二価(Eu2+)に制御する必要がある。そのため、本実施形態の製造方法では、還元雰囲気の下で焼成を行うことが好ましい。通常の大気雰囲気での焼成ではEu3+が生成する場合があるためである。
ただし、本発明のハロ燐酸塩蛍光体の式中のαが0.08以上となる割合でEuを含有すると、赤色発光が生じなくなるため、0<α<0.08とした。
また出発原料において、カチオン元素におけるEuの含有率が、0.1%未満となると十分な赤色発光が得られず、3.6%を超えると赤色発光が消失する。そのため、カチオン元素におけるEuの含有率を、0.1%〜3.6%とし、好ましくは0.1%〜3.2%、より好ましくは0.3%〜2%である。
Aは、Sc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群より選択される1種または2種以上の希土類元素である。
これらの希土類元素Aは、本発明のハロ燐酸塩蛍光体において青色発光の強度、赤色発光の強度及び残光を制御する場合に重要な任意成分である。本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、希土類元素Aの種類により赤色及び青色発光の発光強度が変化する。そのため、含有する希土類元素Aの元素の種類を変更することにより、所望の赤色及び青色発光の強度比を得ることが可能となる。
ただし、本発明のハロ燐酸塩蛍光体では、式中のβが0.06以上となる割合で希土類元素Aを含有すると、副相が生じ、均一に発光を示すアパタイト相を得ることが出来なくなるため、0≦β<0.06とした。
また出発原料において、カチオン元素におけるAの含有率は、5.0%を超えると、アパタイト結晶の単一相を合成できなくなる。そのため、Aを含有する場合のカチオン元素におけるAの含有率は5.0%以下、好ましくは0.1%〜1.5%、より好ましくは0.3%〜1.0%とする。
希土類元素Aは、酸化物またはフッ化物等を用いて出発原料中に含有させることができる。
Bは、Li及びNaからなる群より選択され少なくともLiを含む1種または2種のアルカリ金属であり、本発明のハロ燐酸塩蛍光体をアパタイト構造へと変化させ、かつ反応を促進させる重要な成分である。
ただし、本発明のハロ燐酸塩蛍光体の式中のγが0.08以上となる割合でアルカリ金属Bを含有すると、アパタイト構造が析出しないため、本発明のハロ燐酸塩蛍光体の式中のγは、0<γ<0.08とした。
また出発原料において、カチオン元素におけるアルカリ金属Bの含有率は、2.5%未満となると焼成が効率的に進まなくなり、4.5%を超えるとアパタイト相とは異なる結晶を析出させるため、その含有率を2.5%〜4.5%とした。出発原料におけるカチオン元素の組成におけるアルカリ金属Bの含有率は、好ましくは3.0%〜4.0%である。
Liは、本発明のハロ燐酸塩蛍光体をアパタイト構造へと変化させ、かつ反応を促進させる重要な成分である。Liは例えば、出発原料に用いるLiFに由来するものであり、焼成時に助剤として作用する。LiFを用いることで、アパタイト構造の結晶の合成をより効率的に行える。なお、助剤として作用するものとしては他に、LiCl2及びLi2Sを出発原料に用いることができる。
出発原料において、カチオン元素におけるLiの含有率は、4.5%を超えるとアパタイトとは異なる結晶を析出させ、また2.5%を下回るとアパタイト構造の単一相を構成することが出来ないため、その含有率を2.5%〜4.5%とした。出発原料におけるカチオン元素のLiの含有率は、好ましくは3.5%〜4.0%とする。
Naは、本発明のハロ燐酸塩蛍光体をアパタイト構造へと変化させ、かつ青色発光を増大させる成分である。
また出発原料において、カチオン元素におけるNaの含有率が、2.0%を超えると赤色発光が消失するため、好ましくは0.5%〜1.0%である。
ハロ燐酸塩蛍光体のアパタイト構造の結晶内ではPO4 3-のユニットで存在する。Pは出発原料のメタリン酸塩に由来する。
また出発原料において、カチオン元素の組成におけるPの含有率が、38%を超える、または、34%に満たないと副相が析出する可能性がある。そのため出発原料において、カチオン元素におけるPの含有率は、34%〜38%の必要があり、好ましくは35%〜37%である。
<O:90.2%〜97.0%>
ハロ燐酸塩蛍光体のアパタイト構造の結晶内ではPO4 3-のユニットで存在する。Oは出発原料のメタリン酸塩に由来する。
出発原料において、アニオン元素の組成におけるOの含有率が、97.0%を超えると、過剰の酸素が供給されて、Fが配位されて存在すべき場所にO2−が入る可能性がある。またOの含有率が、90.2%未満となると、青色発光が増大し、赤色発光が消失する可能性がある。
そのため、出発原料において、アニオン元素におけるOの含有率は、90.2%〜97.0%とする必要があり、好ましくは92%〜94%の範囲である。
XはF, Clからなる群より選択され少なくともFを含む1種または2種のハロゲンであり、本発明のハロ燐酸塩蛍光体のアニオン部分を構成するための重要な成分である。
しかしながら、出発原料において、アニオン元素におけるXの含有率が、3.0%未満となると青色、赤色発光共に得られなくなり、9.8%を超えると赤色発光が消失するためアニオン元素におけるXの含有率は3.0%〜9.8%とする。アニオン元素におけるXの好ましい含有率は5.0%〜7.0%である。また、Xは一部が欠損しているか酸素または硫黄に置換されうる。
Fは出発原料中のアルカリ土類金属フッ化物に由来する。Fは本発明のハロ燐酸塩蛍光体のアニオン部分を構成するとともに焼成を促進するために重要な成分である。
出発原料において、アニオン元素におけるFの含有率が、9.8%を超える、または、3.0%未満となると、赤色発光は発現しない。そのため、出発原料において、アニオン元素におけるFの含有率は、3.0%〜9.8%とする。出発原料において、アニオン元素におけるFの含有率は、好ましくは4%〜7.5%、より好ましくは5%〜7%の範囲である。
Clは出発原料中のアルカリ土類金属フッ化物に由来する。ハロ燐酸塩蛍光体において、ClはFと同様な挙動を見せる。また、一部がCl2ガスとして揮発する際には、還元作用を与える。また、Cl添加により青色発光強度が増大する。
出発原料において、アニオン元素におけるClの含有率が、3.0%を超えると、青色発光強度が大きくなりすぎる。そのため、出発原料において、アニオン元素におけるClの含有率は0%〜3.0%であり、好ましくは0%〜0.5%の範囲である。
ここで、出発原料における酸素に対するハロゲンの割合は、3.1%〜9.8%であることが好ましい。3.1%未満となると、アパタイトの単相を得ることが出来なくなってしまう場合がある。また、9.8%より大きくなると、赤色発光を得られない場合があるからである。
すなわち、各成分の出発原料としてそれぞれに相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化物などを所定の割合で秤量し、十分混合したものをハロ燐酸塩蛍光体原料とする。ただし、上述したように、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫化物等を用いる場合にも、これらに含まれる特定のカチオン及びアニオン元素(H,C,N及びS)を除いた状態を100mol%として、カチオン及びアニオン元素の含有率は考える。
この出発原料としては、上述したカチオン元素とアニオン元素とを含む出発原料を使用しうる。本発明のハロ燐酸塩蛍光体の製造方法における出発原料を使用することにより、上述した本発明のハロ燐酸塩蛍光体を得ることができる。
なお、上述のように、アパタイト結晶の合成をより効率的に行うために、燃焼時の助剤として作用するLiFを出発原料に含むことが好ましい。
またこの方法は、固相反応でハロ燐酸塩蛍光体を合成しているため、溶液を使用した合成よりも簡便でかつ収率が良いという利点がある。固相反応での合成としては、原料の合計が10gになるように計算された粉末、及び外割りで0.1gのフッ化リチウムを乳鉢に入れ、エタノールと共に湿式混合を行った後、80 ℃の乾燥機内で8時間放置した。その後、乾燥した粉末をアルミナ等のるつぼに入れ、窒素ないしはアルゴンと水素の混合ガスをフローし、炉内を還元雰囲気にして焼成及び焼結を行った。
本発明のハロ燐酸塩蛍光体及び本発明のハロ燐酸塩蛍光体の製造方法によって得られたハロ燐酸塩蛍光体については、白色LED、可視光LEDと組み合わせた発光デバイス、可視光励起可能な蛍光塗料、一般照明用蛍光体、ディスプレイ用蛍光体等の多くの用途で用いることができる。
本発明のハロ燐酸塩蛍光体を用いることで、可視光励起において赤色発光することができるため、従来技術に比べて、良好な赤色発光が実現された製品が製造可能となる。
また、上述した用途の中でも、本発明のハロ燐酸塩蛍光体による効果を最も享受できる点からは、照明装置に用いることが好ましい。なお、ハロ燐酸塩蛍光体の照明装置への適用方法については、特に限定はされず、公知の技術と同様に適用することができる。
表1に示す重量の酸化物、炭酸塩、フッ化リチウムを含むフッ化物等を秤量し、表2に示すカチオン元素の組成及びアニオン元素の組成を含有する出発原料を作製した。作製した原料をエタノール等の有機溶媒を用いて十分に湿式混合し、乾燥させた。乾燥後、粉末をグラッシーカーボン坩堝またはアルミナ坩堝に入れ、雰囲気制御できる電気炉を用いて、800 ℃〜 1100℃で2時間焼成後、焼成物を粉砕してペレット成型後、800 ℃〜1100℃で5時間焼結を行った。この時、炉内には、アルゴンまたは窒素ガスからなる不活性ガス、及び、水素ガスの混合ガス(5%H2)を流し、還元雰囲気にした。
焼成後、還元雰囲気のまま室温に下がるまで放置し、赤色または青色で発光を示す実施例1〜4のハロ燐酸塩蛍光体を得た。
また、実施例1の組成のうち、表3に示すように出発原料中の各成分の配合割合を変えることで、表4に示すカチオン元素の組成及びアニオン元素の組成を含有する出発原料からEuの含有率を変更した実施例5〜7のハロ燐酸塩蛍光体を、実施例1と同様の手順にて得た。
さらに、表5に示すように出発原料中の各成分の配合割合を変えて実施例8〜21のハロ燐酸塩蛍光体を、実施例1と同様の手順にて得た。なお実施例13のハロ燐酸塩蛍光体は、表3の「Eu単独」に示す含有率で、希土類元素Aを含まないものである。
表6に示すように出発原料中の各成分の配合割合を変えて比較例1〜5のハロ燐酸塩蛍光体を、実施例1と同様の手順にて得た。なお比較例1は、一般式中のαがα>0.08のハロ燐酸塩蛍光体であり、比較例2は、Liを含まないハロ燐酸塩蛍光体であり、比較例3は、一般式中のβがβ>0.06のハロ燐酸塩蛍光体であり、比較例4は、一般式中のγがγ>0.08のハロ燐酸塩蛍光体であり、比較例5は、一般式中のαがα=0のハロ燐酸塩蛍光体である。
各実施例及び比較例のハロ燐酸塩蛍光体について、以下の評価を行った。なお、各実施例及び比較例の励起・発光スペクトル、発光強度、赤色蛍光の蛍光寿命の測定は、日立製作所製の蛍光分光光度計F4500で、365nm、450nm、520nmの励起光を用いて行った。また、表5の実施例13のハロ燐酸塩蛍光体の青色発光の蛍光寿命の測定は、浜松ホトニクス社製の小型蛍光寿命測定装置C11367-04で405nmの励起光を用いて行った。
さらに、X線回折パターンについての測定は、リガク社製のX線回折装置UltimaIV(リガク)を用いて、CuのKα線(λ=1.5418Å、40kV-50mA)をX線源として行った。
図1の測定結果から、本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、赤色発光について650nmの波長をモニターした際の励起スペクトルは、400nm〜600nm付近に広くピークを示すことが確認された。
図2は、波長450nmの励起光で励起した時の実施例1、比較例1、比較例3、比較例4及び比較例5の発光スペクトルを示している。図2から明らかなように、比較例1、比較例3、比較例4及び比較例5では、赤色発光は確認されなかった。
図4は、波長365nmの励起光で励起した時の実施例1、比較例1、比較例3、比較例4及び比較例5の発光スペクトルを示している。図4から明らかなように、比較例1及び比較例4では、実施例1に比べて強度は弱いものの、青色発光が確認された。比較例5では青色発光は確認されなかった。
図5の結果から、Fの割合が大きくなるに連れて、青色発光に対する赤色発光の強度比が小さくなり、赤色発光の存在割合が減少する傾向が見られた。このことから、ハロ燐酸塩蛍光体中のFの割合によって大きく発光特性が変化することが確認された。
図6の結果から、実施例1〜4のハロ燐酸塩蛍光体のX線回折パターンは、参照データのX線回折パターンとほぼ同様であることから、本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、アパタイト構造を有していることが確認された。
図7は、比較例1、比較例3及び比較例5のハロ燐酸塩蛍光体及び参照データのX線回折パターンである。
図7の結果が示すように、Euを過剰に含む比較例1(α>0.08)では、アパタイトの単相は得られなかった。また、Dy及びYbを過剰に含む比較例3(β>0.06)ではアパタイト相の他にYb(PO4)相が析出していた。比較例5(α=0)は、アパタイトの単相であった。
図8は、実施例1、比較例2、比較例4のハロ燐酸塩蛍光体及び参照データのX線回折パターンである。
図8の結果が示すように、NaFを1wt%添加して合成した比較例2は、析出した結晶はアパタイトの単一相ではなく、Ca9Li(PO4)7に類似した結晶が析出していた。一方、LiFを1.5wt%添加し、Liがγ>0.08の状態にある比較例4では、アパタイト相のピーク及びCa9Li(PO4)7相のピークが観測でき、混合している状態であると考えられる。
図9の結果から、希土類元素Aを添加していない実施例13〜Luを添加した実施例21のハロ燐酸塩蛍光体では、La〜Smまでを添加した実施例8〜12のハロ燐酸塩蛍光体と比べて、赤色発光の割合が2〜6倍程度上昇することが確認された。これらの結果から、本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、希土類元素Aの有無及びその種類により、赤色発光を制御可能であることが確認された。
図10の結果から、11、12、18及び20のハロ燐酸塩蛍光体のX線回折パターンは、参照データのX線回折パターンとほぼ同様であることから、希土類元素Aを添加した本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、アパタイト構造を有していることが確認された。
また図12は、実施例13の蛍光体について、励起光を365nm、450nm及び520nmと変化させた時の650nmの蛍光減衰曲線を示すグラフであり、365nm、450nm及び520nmの波長の励起光を照射し、遮断後、102msecの時点において100分の1以上の蛍光強度を示し、τ1/100はそれぞれ780ms、464ms、530msであった。
図11及び図12の結果から、青色蛍光寿命と比べると、赤色蛍光寿命は大幅に長いことが確認された。
図13及び図14の結果から、τ1/100に注目すると、450nm及び520nmの励起において、実施例15、20及び21のうち最も赤色蛍光寿命が長いものは実施例15のサンプル(Eu,Tb)であり、その寿命τ1/100は、それぞれ940 ms(Ex=450 nm)、1068 ms(Ex=520 nm)であった。これに対し、実施例13のサンプル(Euのみ)では464 ms(Ex=450 nm),530 ms(Ex=520 nm)であり、実施例13に比べて実施例15のハロ燐酸塩蛍光体の赤色蛍光寿命が長いことを確認した。
このことから、本発明のハロ燐酸塩蛍光体は、含有する希土類元素の種類を変えることにより、赤色光を放射する時間を制御可能であることが確認された。
Claims (6)
- (M1-α-β-γ Euα Aβ Bγ)5 (PO4)3 Xの一般式にて表わされるアパタイト構造を有することを特徴とするハロ燐酸塩蛍光体。
(式中、α、β及びγは、0<α<0.08, 0<β<0.06, 0<γ<0.08であり、Mは、Sr, Ca, Mg及びBaからなる群より選択され、少なくともSrを含む1種または2種以上のアルカリ土類金属であり、Aは、Sc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群より選択される1種または2種以上の希土類元素であり、Bは、Li及びNaからなる群より選択され、少なくともLiを含む1種または2種のアルカリ金属であり、Xは、F及びClからなる群より選択され少なくともFを含む1種または2種のハロゲンであり、Xの一部が欠損しているかまたは酸素もしくは硫黄に置換されうる。) - 前記ハロ燐酸塩蛍光体は、ハロ燐酸塩蛍光体中の酸素及びハロゲンの含有比率を変えることにより、赤色発光及び青色発光の強度比が制御される、請求項1に記載のハロ燐酸塩蛍光体。
- 前記ハロ燐酸塩蛍光体は、350nm〜550nmの波長の励起光を照射され、遮断後、102msec時点において、遮断時の蛍光強度の100分の1以上の蛍光強度を示す特性を有する、請求項1または2に記載のハロ燐酸塩蛍光体。
- 前記ハロ燐酸塩蛍光体は、前記希土類元素の種類を変えることにより、赤色光の放射時間が制御される、請求項3に記載のハロ燐酸塩蛍光体。
- アパタイト構造を有するハロ燐酸塩蛍光体の製造方法であって、
mol%で、
Sr: 30%〜60%
Ca: 0%〜25%
Ba: 0%〜5.0%
Mg: 0%〜2.5%
(ただし、Mを、Sr, Ca, Mg及びBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属とした場合にM:55%〜60%である。)
Eu: 0.1%〜3.6%
A: 0.1%〜1.5%
(ただし、AはSc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群より選択される1種または2種以上の希土類元素である。)
Li: 2.5%〜4.5%
Na: 0%〜2.0%
(ただし、BはLi及びNaからなる群より選択され、少なくともLiを含む1種または2種のアルカリ金属とした場合にB=2.5%〜4.5%である。)及び
P: 34%〜38%
を含有する、H及びCを除いたカチオン元素と、
mol%で、
Cl: 0%〜3.0%
F: 3.0%〜9.8%
(ただし、Xを、F及びClからなる群より選択される1種または2種のハロゲンとした場合に、X=3.0%〜9.8%である。)及び
O: 90.2%〜97.0%を含有する、N及びSを除いたアニオン元素と、
を有する出発原料を用いることを特徴とする、ハロ燐酸塩蛍光体の製造方法。 - 前記出発原料は、フッ化リチウムを含むことを特徴とする、請求項5に記載のハロ燐酸塩蛍光体の製造方法。
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