JP6572703B2 - ポリアリーレンスルフィドフィルム、及びそれを用いた金属・樹脂・フィルムの何れか1種以上との複合体からなる電池用部材、自動車用部材、電気・電子用部材 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィドフィルム、及びそれを用いた金属・樹脂・フィルムの何れか1種以上との複合体からなる電池用部材、自動車用部材、電気・電子用部材 Download PDF

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Description

本発明は、ポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
ポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの性質を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品などに好適に使用されている。
近年、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略称することがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィドは、その電気絶縁性や低吸湿性の高さを活かし、電気絶縁材料への適用が進められている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィドフィルムは、一般に金属や他樹脂との接着性、密着性が低く、また、接着剤との反応性が乏しいという欠点を有している。
特開昭62−257941号公報 特開昭63−33427号公報 特開2014−1363号公報
これらを改善したものとして、例えば、ポリアリーレンスルフィドの融点を制御する手法として、p−フェニレンスルフィドを主成分としてp-フェニレンエーテルやp−フェニレンサルホンを共重合する手法が提案されている(特許文献1、2)が、上記原料を製膜したフィルムは結晶化度が高く、熱融着加工時に接着性が発現しにくいといった問題があった。
また、p−アリーレンスルフィド単位にm−アリーレンスルフィド単位を共重合することで低融点化し低温加工性を付与する技術が開示されているが(特許文献3)、結晶性が低いことから、延伸時に配向がつきにくく生産安定性が低いといった問題があった。
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、平面性に優れ、金属および/または樹脂成形体との接着性と、フィルムとしての生産性を両立したポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することにある。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、融点が230〜270℃であって、フィルムの一方向とそれに直行する方向の強度および伸度の平均値をそれぞれ強度E(MPa)、伸度S(%)とした場合、その比E/Sが1.5MPa/%以上であるポリアリーレンスルフィドフィルムである。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、平面性に優れ、金属および樹脂成形体との接着性に優れることから、金属および樹脂成形体とのヒートシール材として、自動車用部材、電池用部材、電気・電子材料の各種部品に好適に用いることができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムはポリアリーレンスルフィド樹脂を主成分とする。ここで主成分とは、ポリアリーレンスルフィドフィルムを構成する原料の80質量%以上を占めることをいう。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂とは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するコポリマーである。Arとしては下記の式(1)〜式(11)などであらわされる単位などがあげられる。
Figure 0006572703
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムに用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の繰り返し単位としては、上記の式(1)で表されるp−アリーレンスルフィド単位が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンなどが挙げられ、特に好ましいp−アリーレンスルフィド単位としては、フィルム物性と経済性の観点から、p−フェニレンスルフィド単位が好ましく例示される。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの主成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を100質量%とした際に、その90〜99.5質量%が、より好ましく93〜99質量%が、主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を全繰り返し単位の75〜95モル%で構成されていることが好ましく、より好ましくは、85〜92モル%以下である。かかる主成分が75モル%未満では、耐熱性、耐薬品性が低下する場合があり、95モル%を超えると後述する共重合単位の含有量が少なくなり、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点を十分低下させることができず、金属および/または樹脂成形体との低温での加工性が低下する場合がある。
Figure 0006572703
また、繰り返し単位の5〜25モル%、好ましくは8〜15モル%の範囲で共重合単位と共重合することにより、後述する範囲の融点を有するポリアリーレンスルフィド樹脂を得ることが可能となる。かかる共重合単位が5モル%未満では、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点を後述する範囲とすることができず、低温加工での接着性が低下する場合がある。また、共重合単位が25モル%を超えると、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶性が著しく低下し延伸性が低下する場合がある。
好ましい共重合単位は、
Figure 0006572703
Figure 0006572703
Figure 0006572703
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
Figure 0006572703
Figure 0006572703
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、特に好ましい共重合単位は、m−フェニレンスルフィド単位である。
共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムに用いるポリアリーレンスルフィド樹脂にはp−フェニレンスルフィド単位からなる繰り返し単位が98モル%以上で構成されているポリフェニレンスルフィドが0.5〜10質量%含まれていることが好ましく、1〜7質量%含まれていることがより好ましい。上記の繰り返し単位比率で構成されたポリフェニレンスルフィドは融点が275℃以上であり、m−フェニレンスルフィドを上述の範囲で共重合させたポリアリーレンスルフィドと混合することで融点差から局所的に分子運動しにくい部分ができるため、結節点として作用しフィルムとした際の延伸配向性が改善し、平面性、製膜安定性を向上させることができる。p−フェニレンスルフィド単位からなる繰り返し単位が98モル以上で構成されているポリフェニレンスルフィドの含有量が0.5質量%未満であると、結節点が形成されにくいため、配向しにくく平面性や製膜安定性が低下する場合がある。また10質量%より多いと、ポリアリーレンスルフィド樹脂としての熱特性が変化するため融点が上昇して接着性が低下する場合や延伸斑が生じ平面性が悪化する場合がある。p−フェニレンスルフィド単位からなる繰り返し単位が98モル以上で構成されているポリフェニレンスルフィドの含有の有無は樹脂の融点および機械特性を評価することで確認できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの融点は230〜270℃以下である。ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点を上記の範囲とすることで、金属や樹脂成形体と低温での接着性を発現することができる。融点が270℃より高いと金属および樹脂成形体との接着性が低下する場合がある。また230℃より低いと、ポリアリーレンスルフィドフィルムとしての耐熱性が低下する場合や延伸性が低下し製膜安定性が低下する場合がある。ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を前述する組成にて重合することで制御できる。ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点はより好ましくは230℃以上260℃以下である。ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点は、後述する手法を用いて測定できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤やブロッキング防止剤などの各種添加剤を含有させてもよい。
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、融点+50℃、剪断速度200(1/sec)の条件で測定したときに、500〜10,000ポイズの範囲であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000ポイズで、さらに好ましくは1,000〜4,000ポイズの範囲である。上記の粘度とすることで、製膜安定性を確保することができ、金属や樹脂との接着の際の表面転写によりアンカー効果を向上させることで接着性を高めることができる。ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度が500ポイズ未満であるとポリアリーレンスルフィド樹脂溶融時の粘度が低すぎ、口金から吐出した樹脂を安定してキャスティングできず、シートの厚み斑、幅変動を引き起こす場合がある。10,000ポイズより大きいと、溶融樹脂の流動性を十分確保できず金属との接着性を十分高められない場合や、製膜工程の溶融押出で安定してTダイから吐出することが困難となる場合がある。樹脂組成物の粘度を上記の範囲にするには、ポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量を後述する範囲に制御することで達成できる。溶融粘度は後述する手法にて評価できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量は重量平均分子量で40,000以上であることが好ましく、40,000〜80,000であることがより好ましく、45,000〜75,000であることがさらに好ましい。分子量を上記の範囲とすることで粘度を上述の範囲に制御することができ、分子鎖の絡み合いが増えることから延伸性や優れた機械特性が発現する。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムのフィルムの一方向とそれに直行する方向の破断強度の平均値E(MPa)は50〜300MPaであることが好ましく、100〜300MPaがより好ましく、100〜250MPaであることがさらに好ましい。また、フィルムの一方向とそれに直行する方向の破断伸度の平均値S(%)は、50〜200%であることが好ましく、70〜180%がより好ましい。破断強度Eおよび破断伸度Sを上記の範囲とすることで、フィルムを任意の形状に加工しやすくなり、成形性を向上させることができる。ポリアリーレンスルフィドフィルムの破断強度Eおよび破断伸度Sを上記の範囲にするには、後述する製膜条件にて製膜することで達成できる。ポリアリーレンスルフィドフィルムの破断伸度および破断強度は後述する手法にて評価できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは破断強度の平均値E(MPa)、破断伸度S(%)の比E/Sが1.5MPa/%以上である。E/Sはフィルムの配向性を現す指標である。E/Sを上記の範囲にすることで、フィルムの製膜時にポリアリーレンスルフィドの分子鎖の配向性が十分に高めることができ、さらに配向斑なく均一に延伸されている状態となる。上述の効果により、延伸斑や延伸時のフィルム破断を抑制でき、製膜安定性・平面性を向上することができる。E/Sが1.5MPa/%未満であると、フィルムの配向が不十分であり、延伸時に延伸斑がおき延伸時に破れが生じ製膜安定性が低下する場合やフィルムの平面性が低下する場合がある。E/Sは好ましくは2.0MPa/%以上、さらに好ましくは2.0〜4.0MPa/%以下である。E/Sはフィルムの後述する破断強度Eおよび破断伸度Sを測定することで算出できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの結晶化度は30%以下であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましく、20〜30%であることがさらに好ましい。
本発明においてフィルムの結晶化度とは、ポリアリーレンスルフィドフィルム示唆走査線熱量計を用いて測定した結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量(ΔHm)と結晶生成に伴う発熱ピーク熱量(ΔHcc)を下記式に挿入して算出された値をさす。
結晶化度(%)=(結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量ΔHm−結晶生成に伴う発熱ピーク熱量ΔHc)/完全結晶ポリアリーレンスルフィドの融解熱量ΔHm*1×100
*1:ポリアリーレンスルフィドがPPSの場合のΔHmの文献値=146.44J/g(Maemura E.,Cakmak M.,White J.L.,Polym.Eng.Sci,29,140(1989).)を用いる。
結晶化度を上記の範囲とすることでフィルムの接着性と平面性を両立することができる。結晶化度が30%を上回ると接着性が低下する場合がある。フィルムの結晶化度は前述する処方の原料を後述する手法にて延伸することで達成できる。また、フィルムの結晶化度は後述する手法にて評価することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは未延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムの何れでもよく、生産性の観点からは二軸延伸フィルムが好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みは特に制限はないが、製膜性の観点から5〜300μmが好ましく、25〜200μmがより好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で充填材を配合して使用することも可能である。かかる充填材の具体例としては酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物などが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、樹脂組成物にポリアリーレンスルフィド樹脂としてp−フェニレンスルフィドとm−フェニレンスルフィドを共重合させた共重合フェニレンスルフィド樹脂(以下共重合PPS樹脂と省略する場合がある)を用いた場合を例にとって説明するが、本発明は、この例に限定されるものではない。
硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンおよびm−ジクロロベンゼンを本発明でいう比率で配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で重合助剤の存在下、高温高圧下で反応させる。必要によって、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることもできる。重合度調整剤として、苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し、200〜290℃の温度で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを30〜100℃の高温水で洗浄した後、酢酸水溶液や酢酸塩水溶液(たとえば酢酸ナトリウムや酢酸カルシウム)にて、2回以上、より好ましくは3回以上洗浄処理したのち、30〜80℃のイオン交換水にて洗浄、乾燥して共重合PPSの粒状ポリマーを得る。
ポリアリーレンスルフィド樹脂として上記で得られた共重合PPSの粒状ポリマーを、ベント付き押出機に投入してストランド状に溶融押出し、温度25℃の水で冷却した後、カッティングしてチップを作製する。このチップを、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が300℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給し、フィルターに通過させた後、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
次いで、二軸延伸する場合は、上記で得られた未延伸フィルムを、共重合PPS樹脂のガラス転移点以上冷結晶化温度以下の範囲で、逐次二軸延伸機または同時二軸延伸機により二軸延伸した後、150〜250℃の範囲の温度で1段もしくは多段熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を例示する。未延伸フィルムを{Tg(共重合PPSのガラス転移温度)−10℃)}〜Tgの範囲で予熱した後、延伸時に十分に配向させ、製膜安定性・平面性を向上させる観点から延伸温度は、Tg〜(Tg+15)℃、好ましくは(Tg)〜(Tg+10)℃の範囲で加熱ロールで加熱しながら長手方向(MD方向)延伸を行う。このとき、予熱の温度は延伸温度以下であることが好ましく、縦延伸温度より2℃以上低いことがより好ましい。上記の予熱温度とすることで、予熱の際に過度の加熱を防ぐことができ、続く縦延伸の際に延伸応力を均一に伝播することができるため、縦延伸時の配向均一性が向上し、続く工程で2軸延伸フィルムとした際に平面性を向上することができる。MD方向への延伸倍率は3.5〜5.0倍、より好ましくは3.5〜4.5倍、1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸時に十分に配向させ、製膜安定性・平面性を向上させる観点から延伸温度はTg〜(Tg+15)℃が好ましく、より好ましくは(Tg)〜(Tg+10)℃の範囲で3.5〜5.0倍、好ましくは3.5〜4.5倍に延伸することが好ましい。
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する操作(熱固定処理)を行う。熱固定処理の温度は熱処理ゾーンの始終で同一温度で加熱処理を行うか、1段熱固定または熱処理ゾーンの前半と後半で異なる温度で加熱処理を行う多段熱固定の何れかで処理を行う。熱固定温度は170℃〜ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点−10℃であり、好ましくは180℃〜ポリアリーレンスルフィドフィルムの融点−10℃である。上記の温度とすることで熱寸法安定性と平面性を良化することが可能となる。熱固定温度がポリアリーレンスルフィドフィルムの融点−10℃を超えるとポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するPPS樹脂の融解温度に近づくため、製膜の際にフィルムの両端を固定するクリップに融着し、延伸装置からフィルムを採取することが困難となる場合がある。また熱固定温度が170℃を下回ると、熱固定処理時にフィルムの結晶化が進まずフィルムの平面性が悪化する場合がある。熱固定処理後は、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、二軸配向フィルムを得る。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、金属および樹脂成形体とのヒートシール性に優れる。ヒートシールが可能な金属または樹脂の種類は特に限定されないが、金属としては銅、アルミ、SUSなどの板あるいは箔、鋼板、珪素鋼板、鉄板等、が挙げられるが、樹脂成形体に用いる樹脂としてはポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、液晶樹脂などの押出成形品または射出成形品が挙げられるがこれに限定されるものではない。
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムと金属および/または樹脂成形体とをヒートシールする方法としては、熱融着(熱圧着)、レーザー溶着、超音波溶着、振動溶着、誘導溶着、高周波溶着 スピン溶着などが挙げられるが、方法は特に限定されない。本発明のポリアリーレンスルフィドシートは、上記金属とのシール材として好適に用いることが可能であり、例えば、コネクタ、プリント基板、封止成形品などの電子・電気用シール材、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車などに使用される駆動モータ用絶縁材用シール材、電池用シール材、金属腐食予防用の内張り材として有用である。
[特性の測定方法]
(1)溶融粘度
東洋精機社製キャピログラフC1(ダイス長10mm、ダイス穴直径1mm)を用い、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点+50℃の条件で測定を行い、剪断速度200/sでの溶融粘度を測定した。
(2)熱特性
JIS K7121−1987に従って示差走査熱量計として、セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、フィルムの任意の箇所から切り出した試料5mgをアルミニウム製受皿上、室温から350℃まで昇温速度20℃/分で昇温する(1st Run)。同試料を取り出し急冷したのち、室温から350℃まで昇温速度20℃/分で昇温する(2nd Run)。
樹脂の熱特性については2nd RunのDSCチャートで確認される中間点温度をガラス転移温度(Tg)および融解の吸熱ピークのピーク温度を融点(Tm)とする。
またフィルムの熱特性については1st RunのDSCチャートで確認される吸熱ピークを結晶化ピークとし、下記式を用いて結晶化度を算出する。
結晶化度(%)=(結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量ΔHm−結晶生成に伴う発熱ピーク熱量ΔHc)/完全結晶ポリアリーレンスルフィドの融解熱量ΔHm*1×100
*1:ポリアリーレンスルフィドがPPSの場合のΔHmの文献値=146.44J/g(Maemura E.,Cakmak M.,White J.L.,Polym.Eng.Sci,29,140(1989).)を用いる。
(3)破断強度E、破断伸度Sおよびその比E/S
ASTM−D882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、シートあるいはフィルムのMD方向およびTD方向について、それぞれn=10測定し、下記式で平均値をとった。
破断強度E(MPa)=((MD方向に10回測定した平均値)+(TD方向に10回測定した平均値))/2
破断伸度S(%)=((MD方向に10回測定した平均値)+(TD方向に10回測定した平均値))/2
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:23℃、65%RH。
また、破断強度E(MPa)、破断伸度S(%)の比E/S(MPa/%)上記値より算出できる。
(4)接着性
1.金属との接着性
横30mm×縦150mmサイズのアルミニウム板(厚さ:0.7mm)2枚を、縦方向の先端から15mmの部分で90℃に折り曲げた。また、PPSフィルムを横30mm×縦15mmサイズにサンプリングし、前記アルミニウム板の折り曲げ部分に縦横が合わさるように重ね合わせ2枚のアルミ板にはさんだ。PPSフィルムをはさんだ部分のみをプレス機にて250℃で5秒間予熱した後、1MPaの押圧の下で3分間加熱・加圧して、フィルムとアルミニウム板との積層体を作製した。作製した積層体のフィルムと貼り合わせをしていない金属板の端部を、各々引張試験機のチャックに挟み、チャック間距離10mm、引張速度20mm/分で引張試験を行い、最大接着強度を求め、n=5の平均値を下記基準で評価した。
AA:接着強度が250N/30mm以上
A:接着強度が200N/30mm以上、250N/30mm未満
B:接着強度が100N/30mm以上、200N/30mm未満
C:接着強度が100N/30mm未満。
2.樹脂成形体との接着性
140℃で3時間静置乾燥したPPS樹脂(A310M、東レ(株)製)を、射出成形機を用いて射出温度330℃、金型温度140℃、射出圧力40MPaで射出し、横10mm×縦130mm、厚み4mmの樹脂成形体を作製した。また、PPSフィルムを横10mm×縦130mmサイズにサンプリングし、両サンプルの先端部分10mm×15mmのみをプレス機にて250℃で5秒間予熱した後、1MPaの押圧の下で3分間加熱・加圧して、フィルムと樹脂成形体との積層体を作製した。フィルムと貼り合わせをしていない樹脂成形体の端部およびフィルムの端部それぞれを引張試験機のチャックに挟み、チャック間距離10mm、引張速度20mm/分で引張試験を行い、最大接着強度を求め、n=5の平均値を下記基準で評価した。
AA:接着強度が120N/10mm以上
A:接着強度が80N/10mm以上、120N/10mm未満
B:接着強度が30N/10mm以上、80N/10mm未満
C:接着強度が30N/10mm未満。
(5)生産性
1.製膜安定性
実施例および比較例に記載の製膜を10時間連続して行い、フィルム破れ(縦延伸時の破断および横延伸、熱固定処理時のいずれも含む)の発生回数を以下の基準で判定をした。

A:破れ発生なし(製膜安定性良好)
B:破れの発生頻度が1〜2回(製膜安定性にやや劣る)
C:破れの発生頻度が3回以上(製膜安定性に難あり)
2.平面性
フィルムを任意の箇所から100cm角に切り出し、平坦なSUS板の上に静置したのち、4辺のうち向かい合う2辺のみテープで固定する。SUS板の表面を0°、SUS板表面に対する法線を90°とした場合に、0°からフィルムを観察し、SUS板表面とSUS板表面から最も浮いているフィルムの点との距離dを測定した。測定はn=10で行い、その平均値を下記基準にて評価した。
AA:dが1mm未満
A:dが1〜3mm
B:dが3〜5mm
C:dが5mmより大きい
(参考例1)PPS樹脂1の製造方法
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして90モルのp−ジクロロベンゼン、副成分モノマとして10モルのm−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマーを90℃の蒸留水により2回洗浄した後、酢酸ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、蒸留水により1回洗浄し、減圧下120℃の温度にて乾燥して融点が255℃のPPS樹脂1を得た。PPS樹脂1の305℃で測定した溶融粘度は2900ポイズであった。
(参考例2)PPS樹脂2の製造方法
主成分モノマとして93モルのp−ジクロロベンゼン、副成分モノマとして7モルのm−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加した以外は参考例1と同様にして、融点が260℃のPPS樹脂2を得た。PPS樹脂2の310℃で測定した溶融粘度は2900ポイズであった。
(参考例3)PPS樹脂3の製造方法
主成分モノマとして95モルのp−ジクロロベンゼン、副成分モノマとして5モルのm−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加した以外は参考例1と同様にして、融点が265℃のPPS樹脂2を得た。PPS樹脂3の315℃で測定した溶融粘度は2900ポイズであった。
(参考例4)PPS樹脂4の製造方法
主成分モノマとして85モルのp−ジクロロベンゼン、副成分モノマとして15モルのm−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加した以外は参考例1と同様にして、融点が240℃のPPS樹脂4を得た。PPS樹脂4の290℃で測定した溶融粘度は2900ポイズであった。
(参考例5)PPS樹脂5の製造方法
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして100モルのp−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマーを90℃の蒸留水により2回洗浄した後、酢酸水溶液で3回洗浄した後、蒸留水により1回洗浄し、減圧下120℃の温度にて乾燥して融点が280℃のPPS樹脂5を得た。PPS樹脂5の330℃で測定した溶融粘度は2000ポイズであった。
(参考例6)PPS樹脂6の製造方法
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして100モルのp−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマーを90℃の蒸留水により2回洗浄した後、酢酸ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、蒸留水により1回洗浄し、減圧下120℃の温度にて乾燥して融点が280℃のPPS樹脂6を得た。PPS樹脂6の330℃で測定した溶融粘度は3300ポイズであった。
(参考例7)PPS樹脂7の製造方法
主成分モノマとして80モルのp−ジクロロベンゼン、副成分モノマとして20モルのm−ジクロロベンゼンを5リットルのNMPとともに添加した以外は参考例1と同様にして、融点が220℃のPPS樹脂7を得た。PPS樹脂3の270℃で測定した溶融粘度は2400ポイズであった。
(実施例1〜4)
参考例1〜4で作製したPPS樹脂を300℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製した。得られたチップを、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が300℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給して押出し、溶融した樹脂を温度300℃に過熱した16μmカットフィルターで濾過した後、温度300℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、厚み1100μmの未延伸フィルムを得た。次いで、得られた未延伸フィルムを、表面温度80℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度85℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に85℃の温度で3.8倍に延伸し、続いて230℃で熱処理を行った。引き続き、230℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横手方向(TD方向)に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(実施例5〜8)
参考例1および5のPPS樹脂1および5を表1の処方で配合し、チップを作製した。作製したチップを用いて実施例1と同様にして製膜し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(実施例9)
参考例1および6のPPS樹脂1および6を表1の処方で配合し、チップを作製した。作製したチップを用いて実施例1と同様にして製膜し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(実施例10)
参考例1で作製したPPS樹脂1を実施例1と同様にして未延伸フィルムを得た。次いで、得られた未延伸フィルムを、表面温度85℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度85℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に85℃の温度で3.8倍に延伸し、続いて230℃で熱処理を行った。引き続き、230℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横手方向(TD方向)に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(比較例1)
参考例6のPPS樹脂6を320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製した。得られたチップを、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給して押出し、溶融した樹脂を温度320℃に過熱した16μmカットフィルターで濾過した後、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、厚み1100μmの未延伸フィルムを得た。次いで、得られた未延伸フィルムを、表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.8倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に100℃で3.8倍に延伸し、続いて230℃で熱処理を行った。引き続き、230℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横手方向(TD方向)に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(比較例2)
参考例1のPPS樹脂1を用いて実施例1と同様に溶融押出し未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、比較例1と同様にして延伸し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(比較例3)
参考例1のPPS樹脂1を用いて実施例1と同様に溶融押出し未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを表面温度90℃に加熱された複数の加熱ロールで予熱した後、表面温度100℃に加熱された加熱ロールと、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向(MD方向)に3.0倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と垂直方向(TD方向)に100℃で3.0倍に延伸し、続いて230℃で熱処理を行った。引き続き、230℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横手方向(TD方向)に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み100μmの二軸延伸フィルムを得た。
(比較例4)
参考例7で作製したPPS樹脂7を280℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機用いて実施例1と同様にチップを作製した。作製したチップを用いて実施例1と同様にして製膜したところ、縦延伸時にフィルムが破断し、二軸延伸フィルムを得ることができなかった。
Figure 0006572703
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、金属および/または樹脂成形体との接着性に優れることから、各種部品のヒートシール材として好適に用いることができる。

Claims (7)

  1. 融点が230〜270℃であって、フィルムの一方向とそれに直行する方向の破断強度および破断伸度の平均値をそれぞれ破断強度E(MPa)、破断伸度S(%)とした場合、その比E/Sが1.5MPa/%以上であるポリアリーレンスルフィドフィルム。
  2. E/Sが2.0MPa/%以上である請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
  3. 厚みが5〜300μmである、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
  4. 結晶化度が30%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
  5. 請求項1〜4の何れかのフィルムと、金属・樹脂・フィルムの何れか1種以上との複合体からなる電池用部材。
  6. 請求項1〜4の何れかのフィルムと、金属・樹脂・フィルムの何れか1種以上との複合体からなる、自動車用部材。
  7. 請求項1〜4の何れかのフィルムと、金属・樹脂・フィルムの何れか1種以上との複合体からなる、電気・電子用部材。
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