以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書において、上下(高さ)、前後(奥行き)、左右(幅)の各方向は着座者を基準に定め、互いに直交する奥行き方向(Y軸)、幅方向(X軸)並びに高さ方向(Z軸)の3軸方向は各身体支持構造物の身体支持面をXY平面とすることを基準に定め、奥行き方向は椅子の前後方向と一致するものとして定義される。
図1〜図4に、本発明にかかるキャスター付き作業用椅子の一実施形態として手術中に執刀医が座る手術用椅子に適用した一例を示す。この手術用椅子は、メッシュ張地1によって執刀医(着座者)の身体を支持する身体支持面を形成する座部2及び腰部サポート部3を備えるキャスター付き回転椅子である。本実施形態において、座部2及び腰部サポート部3は、身体支持面を構成する部材たるメッシュ張地1によって一体的に連続的に形成されている。尚、脚部の支柱に内臓される昇降装置(ガスシリンダ)は、底部に備える環状操作板6を足で踏みつけることで、ガスシリンダのバルブを操作して座部2及び腰部サポート部3を任意に昇降させ得るように設けられている。
座部2は、臀部と膝の裏側近くまでの大腿部を支えるに十分な奥行き寸法を有する従来の一般的な座と比べて奥行き方向長さが短く、骨盤を立てて座の奥深くに着座したときに臀部と臀溝附近の大腿部の一部を支える長さでかつ仙骨座りしたときに大腿部の支えを失うあるいは不十分となる長さとされている。換言すれば、着座者が腰部サポート部3に腰部を当てて骨盤を立てるように座の奥深くに着座したときに、骨盤近傍の大腿部を座面で支えて膝裏寄りの大腿部の前方部分が自由に動けるようにサポートできる長さとされている。一般に、椅子推奨寸法(一般社団法人人間生活工学研究センター発行「日本人の人体寸法 データブック2004−2006)によれば、座面の奥行寸法は、360mm〜460mmの範囲が好ましいものであり、その中でも410mm前後がより好ましいものであるとされている。しかし、本実施形態の椅子によれば、座部2の奥行寸法を敢えて短く設定することにより、適正な姿勢に導き易い座面を実現できることを知見したものであり、かかる知見に基づいて本発明は成されたものである。つまり、本実施形態の座部2は、前述の椅子推奨寸法よりも短い座面奥行寸法(背もたれ点から前端までの長さ)としたものであり、例えば、座面奥行寸法は150mm〜350mmの範囲であり、好ましくは250mm〜350mmの範囲にすることであり、より好ましく300mm程度とするものである。このように、敢えて座面の奥行寸法を短くすることにより、仙骨座りではなく骨盤を立てて座の奥深くに着座した方が着座姿勢が正される為、長時間の着座によっても疲れにくい。特に、手術等長時間の着座姿勢を採る作業においては、疲労を軽減する椅子は必要である。日本人は、欧米人に比べて骨盤が倒れ重心が前にあることから、お尻全体で浅くことかけてしまう傾向にあり、背当てを使用した椅子では体幹が後方に傾斜する傾向にある。このため、意識して骨盤を立てるように座らなければ、つい骨盤が倒れて腰椎が湾曲し、脊椎も湾曲して頭部も前傾した状態となり易いので、いつの間にか姿勢が崩れて所謂仙骨座りとなっていることがある。この仙骨座りは、骨盤が後傾し、脊椎が湾曲して円背となり、結果として頭部が前傾して筋肉に大きな負担をかけるため、筋肉の疲労が溜まり、疲労を感じることから長時間座っていられない原因となる。そこで、仙骨座りの姿勢を採る事ができず、姿勢を正した状態でなければ適切に着座ができない椅子の奥行寸法をあえて設定した椅子である。もっとも、上述の仙骨座りを防いで骨盤を立て座骨結節で座る姿勢に導き易い特異な座面形状の座部2は、キャスターを備えないその他の椅子やその他の固定的な椅子においても有用である。
ここで、座部2の身体支持面(所謂座面)は、全面あるいは一部において滑り難い構造とされることが好ましい。そして、座面の一部は、着座者の臀部周辺(座面後部)でも着座者の大腿部周辺(座面の前方)でも構わない。さらに、腰部のみでの滑り止めの構造でも良い。座面に滑り止め機能を備えて滑り難い構造とすれば、座るときに骨盤を立てるように姿勢良く着座すれば、座骨結節が前方へ滑って骨盤が後傾することがない。したがって、骨盤全体を座面と腰部サポート面とでしっかりサポートし、座骨結節が前ずれしないように立体的に支持することができることから、背骨の上に頭部が乗る姿勢を保つことができ、疲労が溜まらず、長時間座って作業しても疲れにくい。しかも、常に意識して骨盤を立てるように座らなくとも、いつの間にか姿勢が崩れて所謂仙骨座りとなることがない。つまり、座面の奥行が短い椅子であっても着座者が滑りにくい構造を備えていれば、前滑りを起こすことがないので、骨盤を立てて座骨結節で座った姿勢を保持できる。尚、本明細書において、滑らない構造とは、形状的な配慮によって、あるいは張地自体に滑らない素材を用いることによって(これには通常素材の張地やシェルの上に摩擦係数の高いものを配する場合も含む。)、若しくは伸びる張地と伸びない張地の組み合わせの他、突起物による滑り止め、ゴムなど摩擦係数の高いものによる滑り止め等を含めたものである。
例えば、本実施形態における座面(座の身体支持面)は、図1及び図2に示すように、側方視において、着座者の骨盤から大腿への移行部分であって水平方向の臀部のひだの形態の比較的丸い境界線(臀溝と呼ばれる)付近に頂点7を有し、該頂点7から座面後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する主に臀部を支える領域(以下、後部領域と呼ぶ)9と、頂点7よりも前方で前下がりに傾斜または湾曲する臀溝附近の大腿部の一部を支える領域(以下、前部領域と呼ぶ)8とを備える波形に形成するので、臀溝附近の大腿部の裏を圧迫しないように支持しながら後部領域9では前滑りを妨げる機能を奏するようにしている。即ち、本実施形態の座部2は、全体に上向きに凸に湾曲した、奥行き長さLを臀部と臀溝附近の大腿部の一部を支える短い長さの座とし、後部領域9を腰部サポート部3の直前の領域に限定し大腿部の支持は座骨に連結されている付近に限るようにしているので、着座者は必然的に座るときに骨盤を立てるように姿勢良く着座することとなる。しかも、後傾する後部領域9では前滑りを妨げる機能を有するので、座骨結節が前方へ滑って骨盤が後傾することがない。つまり、いつの間にか姿勢が崩れて所謂仙骨座りとなることがない。したがって、骨盤全体を座面と腰部サポート面とでしっかりサポートし、座骨結節が前ずれしないように立体的に支持することができる。尚、頂点7の位置は、背もたれ点の位置(垂線上の位置)から約200mmに設定されている。本実施形態の場合では、座面奥行寸法は背もたれ点から約300mmの長さであるため、約3分の2の位置に頂点7が存在する。ちなみに、座位基準点は、背もたれ点の位置(垂線上の位置)から約100mmの位置にあり、頂点7と背もたれ点のほぼ中間点に位置する。そのため、座位基準点は、メッシュ張地1が一番伸びやすい位置にあるといえる。ここで、座位基準点とは、椅子の座面の高さを決める基準となる点であり、左右の座骨結節部(骨盤の下方に突き出た部分で、座位で体重を支えるところ)の中央の点である。そして、一般に床面から座位基準点までの垂直距離を座面高とする。本実施形態の椅子の座位基準点は背もたれ点から例えば100〜150mmの範囲に設定され、座面高さは、通常位置が床面から400mmの高さであり、上方に向かって150mmの範囲で調整が可能とされていることが好ましい。
また、本実施形態では、頂点7よりも後方の後部領域9の座面に前後方向に展開する襞10を形成するように張ることによって、さらに効果的に座面に滑り止め機能と座骨結節を立体的に保持する機能を与えるようにしている。例えば、図2、図5、図13及び図10に示すように、メッシュ張地1の両側縁を支えるサブフレーム12の張地掛け面(上面)18に波形の凹凸19を形成することにより、これら両フレーム12間に張られるメッシュ張地1に張地掛け面18の波形の凹凸19に沿った前後方向に波形の凹凸からなる襞10を形成する(波形張りと呼ぶ)ようにしている。メッシュ張地1に襞10が設けられたところでは、横(幅)方向の張りは同じであるが、奥行き(前後)方向には襞10が展開して伸びるため、平坦な座面部分と比べて前後方向の伸び量が大きくなる。したがって、同じ体重が襞10を有する座面部分と無襞座面部分とに同時にかかると、襞10を有する座面部分の方がより沈み込むこととなる。つまり、座骨を支持して積極的に沈み込み易い後部領域9を腰部サポート部3の直前に設けて骨盤を立てて座らせることを誘導するようにしている。同時に座部後方に比べて比較的伸び量が小さい座面前方の前部領域8が歯止めとなって臀部の前滑りを防ぐことができる。このため、座骨結節を立体的にホールドすると共に前ずれを防ぐことができ、所謂仙骨座りとなることを防いで、長時間座っていても適正な姿勢に導くことがし易いものとなる。さらに、座面部分がメッシュ張地1で構成されているので、座としての通気性が確保され、座っている状態での蒸れが無くなる。このため、長時間の手術にも耐えうる座り心地が得られる。着座者である執刀医の座面と接触する部分全面で体重を分散させて支持するため座面の硬さを感じず長時間の着座でも痛くないし、高い通気性が得られることから、座り心地の良い快適な身体支持面を実現できる。
座部2の後端には少なくとも腰部を支える腰部サポート部3を備える。本実施形態では、腰部サポート部3は、腰部サポートフレーム23と、該腰部サポートフレーム23の前面側を覆うように張り渡されるメッシュ張地1とで構成され、腰部サポートフレーム23の外側面に形成された張地取付け用溝21にメッシュ張地1の周縁に縫い付けた係止部材24ともどもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌め込むことでテンションを与えながら固定するように設けられている。この腰部サポート部3は、座の幅よりも狭く形成され、着座者・執刀医の滅菌領域である肘を後ろに動かしたときに当たらない大きさに設けられていることが好ましい。この場合、執刀医の肘・滅菌域が触れて滅菌状態が喪失されることがない。具体的には、例えば、腰部サポート部3の幅は350mm以内であることが好ましい。
また、腰部サポート部3の腰部支持高さ(座面から背もたれ点までの高さ)は、200mm上方に設定されることが好ましく、さらに、腰部サポート高さ(座面から腰部サポート部3上端までの高さ)は、背もたれ点を支持できさえすれば良く、その高さ寸法にあまり拘らない。したがって、本実施形態の場合には、座面より300mmの高さに設定されているが、場合によってはもう少し高くあるいは低く設定しても問題ない。腰部サポート部3は骨盤をサポートするため、骨盤の後傾、腰椎の後弯を防いで、臀部を支える部分の沈み込みによる前ずれ防止と相俟って仙骨座りを防ぐことができる。腰部を支えない座では姿勢が定まり難いため、腰椎の湾曲のばらつきが大きいものとなるが、腰部を支えることで骨盤の後方の位置が規制されると共に座面の奥行きが短いために浅く腰かけられないので座骨を立てて座らざるを得ないこととなる。したがって、姿勢良く座ることができ、疲れにくいものとなる。尚、腰部サポート部3は、図2及び図10に示すように、高さ方向における中央部分が最も前方へ突出するような湾曲面を形成し、骨盤座りをした執刀医の骨盤と腰椎とを保持する曲面を構成する。この場合、腰部サポート部3はY軸方向において前方へ僅かに湾曲し、X軸方向においては直線的に成形されている。
腰部サポート部3の上部には、腰部サポート部3との間に手が入る空間50を形成して取っ手(把手)としても機能させる拡張フレーム部36が必要に応じて備えられる。本実施形態の場合、拡張フレーム部36は、腰部サポート部3の腰部サポートフレーム23(左右のフレーム23a)と一体成形されることによって、要部サポート部3のメッシュ張地1が張られた部分(腰部サポート面)よりも上に囲われた空間50を伴う、身体支持構造物としての剛性を有する強固な取っ手を構成する。この拡張フレーム部36は、場合によっては独立した取っ手部品をビス止めなどで腰部サポートフレーム23に取り付けるようにしても良い。また、この拡張フレーム部36は、腰部サポート部3の上端附近に迫り出した壁や設備などと当接する際の衝撃を緩和させるため、場合によってはナイロン(ポリアミド合成繊維)やポリプロピレン(PP)、エラストマー樹脂等の弾力性に富むプラスチック素材又はゴムで形成することにより衝撃緩衝機能を与えるようにしても良い。いずれにしても、材質上の衝撃緩衝機能の有無に関係なく、拡張フレーム部36の存在は、腰部サポート部3よりも上に位置する設備や機器、壁あるいは人等から着座者を保護するものとして機能することとなる。
他方、座部2の周囲には、少なくとも座部2よりも外側へ突出し、取っ手としても機能する衝撃緩衝部材が備えられている。例えば、本実施形態では、衝撃緩衝部材は、座のフレーム先端よりも前方あるいはフレーム後端より後方へ突出していることが必要であり、図1及び図2などに示すように、座部2の前方へ突出する衝撃緩衝部材(以下、前方衝撃緩衝部材と呼ぶ)34と、後方へ突出する衝撃緩衝部材(以下、後方衝撃緩衝部材と呼ぶ)35とが備えられている。ここで、衝撃緩衝部材は、着座者が着座状態で足を動かすことが多い作業用椅子においては、大腿部の後側がフレーム先端に当たっても衝撃を緩和して痛みを感じることを少なくするため、少なくとも座部2の前方に配置される(前方衝撃緩衝部材34)ることが好ましく、より好ましくは前方と後方(前方衝撃緩衝部材34と後方衝撃緩衝部材35)にそれぞれ配置することであり、あるいは図示していないが場合によっては後方衝撃緩衝部材35に代えて若しくはそれに加えて側方へ突出する衝撃緩衝部材(以下、側方衝撃緩衝部材と呼ぶ)を備えるようにしても良い。
この衝撃緩衝部材34,35は、椅子本体・フレーム構造が周囲の設備や装置並びに人とぶつかる前に衝突することにより、双方に加わる衝突のダメージなどを緩和させることを目的としているので、椅子本体特に座部2よりも外側に大きく突出していることが好ましいが、その反面、狭い環境下で使用するのに適した必要最小限の大きさの座としたい要望並びに周囲の設備や装置並びに人との無用の緩衝を回避する観点からはその突出量を少なくすることが好ましい。即ち、十分な衝撃緩和機能を発揮し得る必要最小限の突出量とすることが好ましい。特に、本実施形態の作業用椅子は、座部2の奥行寸法を敢えて短く設定することにより、適正な姿勢に導き易い座面を実現しようとするものであることから、その形状的特徴を損なわないようにするため、座の前方側に設置される衝撃緩衝部材34は、着座者の脚部と干渉せずに、可能な限り張地の前端縁から突出させることが望ましい。そこで、本実施形態の前方衝撃緩衝部材34は、図2、図7(A)及び図8に示すように、フレーム構造への両端の取り付け箇所から離れ中程に向かう過程で急激に垂れ下がった弓形、即ち上から見て弓形を成す共に側方から見て中央部が垂れ下がった形状に形成され、座面の前端縁よりも前に大きく突出させていながらも着座者の脚部と干渉しないように配慮されている。同時に、前方衝撃緩衝部材34は、中程が最も座部2から離れて大きな空間42を形成するようにして握り易い取っ手形状とされている。他方、後方衝撃緩衝部材35は、座部2の背後に配置され着座者の脚部と干渉することはないので、ほぼ水平に後方へ向けて突出する弓形に形成されているが、この形状に特に限定されるものではない。後方衝撃緩衝部材35は、腰部サポートフレーム23の支桿23cの周りを包囲し且つ腰部サポート部3の上端と同じ位置あるいはそれよりも僅かに後方へ突出することが好ましく、本実施形態の場合には、上から見た正射影において拡張フレーム部36よりも僅かに後方衝撃緩衝部材35が後方へはみ出る形状とされている。
前方衝撃緩衝部材34及び後方衝撃緩衝部材35は、メッシュ張地1を支持するサブフレーム12に締結用ビス39などを用いて着脱可能に固定されている。例えば、前方及び後方の各衝撃緩衝部材34,35の両端部分には、図5及び図7に示すように、サブフレーム12の前端及び後端から各々前後方向に突出する突片37を嵌合させて収納する凹部38が設けられている。サブフレーム12の突片37には、一部六角形を成す孔40が開けられ、該孔40にナット(図示省略)が嵌合されて回転不能に収容されている。このサブフレーム12の突片37と衝撃緩衝部材34,35の端部の凹部38とを嵌合(印籠継ぎ)させ、側面の孔41からビス39をねじ込んで突片37のナットと締結することで、衝撃緩衝部材34,35とサブフレーム12の突片37とが固定されている。勿論、突片37と凹部38との関係は逆であっても良く、衝撃緩衝部材34,35側に突片37を備える一方、サブフレーム12側に凹部38を形成するようにしても良い。また、場合によっては、ビス39と図示していないナットによる締結に限られず、圧入によって両者を固定するようにしても良い。例えば、サブフレーム12の前後端あるいは衝撃緩衝部材34,35の端部のいずれか一方に凹部38を形成すると共に、他方に前述の凹部38よりも僅かに大きく締め代を持たせる関係となる突片37を設け、該突片37を凹部38に圧入することにより固定させるようにしても良い。更には、図示していないが、サブフレーム12の端部あるいは衝撃緩衝部材34,35の端部のいずれか一方に爪を有する突片を形成すると共に、衝撃緩衝部材34,35の端部あるいはサブフレーム12の端部のいずれか他方に前述の突片を嵌合させ尚且つ爪を引っ掛ける孔若しくは凹みを備え、突片を孔に挿入して爪を引っ掛けることにより固定させるようにしても良い。尚、本実施形態では、前後の衝撃緩衝部材34,35はサブフレーム12の前端及び後端にそれぞれ取り付けられているが、これに特に限られず、必要に応じてベースフレーム11に直接取り付けるようにしても良い。
衝撃緩衝部材34,35は、座の端部の一角を構成する左右のサブフレーム12の端部から前方あるいは後方へ突き出させることが好ましい。即ち、座が旋回するときには、角の部分が最大半径部分となるので、その部分が衝撃緩衝部材34,35で直接保護されていることが望ましい。特に、前方衝撃緩衝部材34の場合、サブフレーム12の前端から直接に前方へ向けて突出させられていることが好ましく、この場合には大腿部の後側がサブフレーム12の先端に当たっても、衝撃緩衝部材34が在ることで痛みを感じることが少ないという効果がある。このことは、座の前後長が短く、左右にフレームのある、足を動かすことが多い作業用椅子において特に有用である。
本実施形態における衝撃緩衝部材34,35は、ナイロン(ポリアミド合成繊維)やポリプロピレン(PP)、エラストマー樹脂等の弾力性に富むプラスチック素材又はゴムあるいはガラス繊維入り樹脂や金属などの十分な機械的剛性を備える素材で成形された例えば弓形の部材であり、その両端を座部2のメッシュ張地1を支持する剛性の高いフレーム構造に着脱可能に取り付けられている。ここで、衝撃緩衝部材の椅子本体への固定方式は、上述のねじ式に限られず、その他の締結手法を採用しても良いし、固定方法は全ての箇所で同じにしても良いし、又は取り付け箇所を間違えないように寸法や形状を取り付け箇所毎に変更しても良い。さらには、衝撃緩衝部材はフレーム上の全ての箇所に取り付けられるようにしても良い。尚、ガラス繊維入り樹脂や金属などの十分な機械的剛性を備える素材で衝撃緩衝部材34,35が形成される場合には、例えばウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー及び軟質塩化ビニルなどの柔軟性を有する樹脂あるいはそれらの発泡プラスチックなどの衝撃吸収材料(図示省略)で覆うことで衝撃緩和機能を備えることが好ましい。衝撃吸収材料としては、必ずしも上述の素材等に限定されるものではなく、衝撃を吸収可能な各種弾性体などを各種用いることができる。例えば、軟質ウレタンフォームの一種で、弾性を抑えて粘性を向上させた低反発弾性フォームの使用が好ましい。低反発弾性フォームは、ヒステリシスロス率(JIS K 6400−2)の大きい衝撃吸収性フォームとしての特性も有している。気泡が連通し、圧縮した後に外力を取り除いた際に、ゆっくりと元に戻る性質があり、一般フォームと比較して、反発弾性率が15%程度以下(JIS K 6400−3)と非常に小さい特徴を有している。また、場合によっては、局部的に機械的剛性に劣る箇所やばね構造領域を採用するなど、構造的に衝撃を緩和するようにしても良い。また、ガラス繊維入り樹脂や金属などの十分な機械的剛性を備える素材で衝撃緩衝部材34,35を成形する場合においても、それが曲面を成していれば、周辺の機器類や人、あるいは着座者に損傷を与えることがないので、必ずしも衝撃吸収材料で覆わなければならないということはない。
また、衝撃緩衝部材34,35は、図示していないが、場合によってはサブフレーム12と一体成形するようにしても良い。この場合、サブフレーム12にはメッシュ張地1を支持する構造物としての剛性を必要とされることから、例えばガラス繊維入り樹脂や金属などの剛性を備える材質で構成されることから、これを芯材として上述の衝撃吸収材料で覆うこと、例えば発泡ウレタンなどの鞘部材を被せたり、二色成形や発泡性樹脂を塗布して発泡させるなどによって、衝撃緩衝性を確保することができる。即ち、衝撃緩衝部材は、それ自体が弾力性に富む材質で全体が形成される必要はなく、場合によってはフレームと一体あるいは後付け(接合のみならず、接着されるなどの分離不能に連結する場合が含まれる)された剛性材の外側に発泡性の被覆例えばウレタンフォームの鞘のようなものを被せたり、あるいは表面にそのような発泡層を形成することもある。また、上述した別部品として、ガラス繊維入り樹脂や金属などの十分な機械的剛性を備える素材で衝撃緩衝部材34,35を成形する場合と同様に、それが曲面を成していれば、周辺の機器類や人、あるいは着座者に損傷を与えることがないので、必ずしも衝撃吸収材料で覆わなければならないということはない。
また、後方衝撃緩衝部材35は、腰部サポート部3の下方で腰部サポート部3よりも先に周囲の設備や人等に当たるように僅かに突出していることが好ましい。例えば、手術用いすの場合、執刀医は肘が背もたれにあたるのを嫌がる。肘は患者の上を通過したりするので、滅菌状態を保持することが必要だからである。そこで、椅子の腰部サポート部3には、滅菌布を被せて背を覆うことが望まれるが、一般的な矩形の滅菌布を用いる場合にはその端末処理が必要となる。即ち、布の端末を邪魔にならないように束ねて椅子に固定する必要がある。そこで、滅菌布を後方衝撃緩衝部材35の空間・開口部42を利用して纏めて保持することが可能となる。
また、衝撃緩衝部材34,35は、少なくとも椅子側構造部材例えば座部2のフレーム12よりも外側に突出していれば足りるが、十分な衝撃緩衝性を確保し尚且つ取っ手として機能させたり、上述の滅菌布を纏めるクリップ等として機能させるためには、衝撃緩衝部材34,35と椅子本体側部材との間に空間(開口のみならず切れ込み等も含むものであり、以下、単に空間と呼ぶ)42を形成することが好ましい。具体的には、衝撃緩衝部材34,35の場合、座部2の前端縁あるいは座部2と腰部サポート部3との境界附近のメッシュ張地1との間に少なくとも手が入る空間42が形成され、衝撃緩衝部材34,35が取っ手として利用できるように設けられている。衝撃緩衝部材34,35は、必ずしも椅子本体側との間に隙間42を空けなくとも緩衝機能を発揮することはできるが、空間42を設ける方が衝撃緩衝部材34,35そのものの変形を容易にして衝撃緩衝機能を増大させる上に、取っ手としての利用も可能とするので好ましい。また、本実施形態の場合、衝撃緩衝部材34,35はアーチ状を成し、1つの空間・開口部42を形成するようにしているが、場合によっては途中に支柱などを設けて複数の開口部や切れ込みを形成するようにしても良い。即ち、図示するようなアーチ状の衝撃緩衝部材でなくとも、部分的に取っ手となる空間42を少なくとも1つ以上備える衝撃緩衝部材にしても良い。
以上のように構成されたフレーム(サブフレーム12及びベースフレーム11)へのメッシュ張地1の取り付けは、例えば、メッシュ張地1の縁を係止部材24ともども折り返してサブフレーム12の外側面に形成された張地取付け用溝21に嵌め込んだ状態(図4拡大図部分参照)で左右のサブフレーム12を互いに逆方向に機械的に引っ張りながらベースフレーム11の溝部45にサブフレーム12の脚48を嵌め込んで、係止爪43,44にサブフレーム12側の凹部46や脚48を引っ掛けてからねじ止めすることによって行われる(図8参照)。ねじ(図示省略)は、ばか孔47を通してベースフレーム11側の爪43のねじ孔49にねじ込まれて、サブフレーム12とベースフレーム11とをメッシュ張地1にテンションをかけた状態で固定する。この張り構造の場合、メッシュ張地1を引っ張った状態でベースフレーム11にサブフレーム12を嵌め込む必要があるので、専用治具などを必要とするが、それを用いることによって容易に初期状態のテンションを付与することができる。その後、サブフレーム12の前後端の突片37に前方衝撃緩衝部材34及び後方衝撃緩衝部材35の各々の凹部38部分をそれぞれ嵌め込んでビス39で固定する。
上述のメッシュ張地1のフレームへの張り込みは、別途設備や治具を用いて行っているが、これに特に限られるものではなく、例えば椅子本体のフレーム側にテンション付与構造を備えることによって、椅子のユーザーによって簡単にメッシュ張地の取り替えが必要に応じて行えるようにしても良い。例えば、身体支持面を構成する部材1としてメッシュ張地を用いる本実施形態では、図9〜図13に示すように、フレーム構造の幅方向への拡張によってメッシュ張地1にテンションをかけると同時に椅子本体に取り付ける構造としても良い。尚、サブフレーム12の前後端には前方衝撃緩衝部材34及び後方衝撃緩衝部材35を嵌め込んで固定するための突片37が備えられている。
具体的には、メッシュ張り込み構造は、脚柱5のガススプリング(図示省略)に支持されるベースフレーム(固定フレーム)11と、メッシュ張地1の縁を折り返して係止部材24と共に嵌入する溝21を側面に有する左右一対のサブフレーム(可動フレーム)12と、ベースフレーム11に対してサブフレーム12をメッシュ張地1の張り方向へ移動可能に支持し且つ連結させる締結手段13とを備え、メッシュ張地1の縁を係止部材24ごと折り返してサブフレーム12の溝21に嵌入することによってメッシュ張地1を左右のサブフレーム12間に着脱自在に取り付けるようにしている。このメッシュ張り込み構造は、サブフレーム12をベースフレーム11に対し連結したときに、左右のサブフレーム12の間隔が拡張してサブフレーム12の側面の溝21に嵌め込まれたメッシュ張地1にテンションがかかってメッシュ張地1が溝から抜け外れないように固定し、所望の弾力を発揮する身体支持面を構成するように設けられたものである。尚、係止部材24は、メッシュ張地1の縁部に取り付けられ、フレームの外側の張地取付用溝21に嵌め込まれたときにメッシュ張地1の張力によって張地取付用溝21に引っかかって抜け止めとして機能することによって張地を腰部サポートフレーム23に固定させるものである。係止部材24としては、ある程度の硬さがあって尚且つ曲がる可塑性を有する素材であれば使用可能であるが、なかでも一般に市販されており比較的安価に入手し易く使いやすい樹脂コード、例えばポリプロピレンなどによって形成された樹脂製コードを用いることが好ましい。また、場合によっては、係止部材24を用いずに、メッシュ張地1の縁を折り返しただけのものを張地取付用溝21に嵌め込んで固定することもある。
ここで、サブフレーム12は、メッシュ張地1の縁を嵌め込む溝を有する張地掛け部14と、この張地掛け部14を支えてボックス状のベースフレーム11に水平移動可能に搭載される支持アーム部15とで構成され、張地掛け部14をベースフレーム11の外に張り出すように配置した状態で座の幅方向に摺動可能に支持される。支持アーム部15の基端部には、ベースフレーム11の上面と摺接するスライダ部16と、ベースフレーム11の上面に開口されたガイド用孔20に挿入されるナット部17とを備え、スライダ部16の裏面に突する2箇所のナット部17をベースフレーム11の上面に開口された2カ所のガイド用孔20内に挿入し、ベースフレーム11の側壁の貫通孔22を貫通する締結用ねじ13とそれぞれ螺合させるようにしてベースフレーム11に連結される。ベースフレーム11のガイド用孔20は、サブフレームのスライダ部16のナット部17を挿入しナット部17の回転規制を図ると共に移動範囲を規制するものであり、このガイド用孔20の長さの範囲でサブフレームは移動可能となる。したがって、締結用ねじ13を締め付けると、ベースフレーム11の摺動用孔内に挿入したサブフレームのスライダ部16の裏面に突出させたナット部17を相対的に回転させて、ベースフレーム11の側壁に向けて移動させる(引き寄せる)。そして、締結用ねじ13とナット部17とでベースフレーム11の側壁を挟持することでサブフレーム12とベースフレーム11との締結を完了すると同時にメッシュ張地1のテンション付与も完了させるようにしている。即ち、締結用ねじ13をねじ送り機構の送りねじとして利用しながら、ベースフレーム11とサブフレーム12とを連結するようにしている。このとき、サブフレーム12は、座の幅方向の内側から外側へ締結用ねじ13で引き付けられるため、左右のサブフレーム12の張地掛け部14の間隔は拡張される方向に変位する。したがって、両サブフレーム12の溝21に両縁が嵌め込まれたメッシュ張地1は、幅方向外側に引っ張られてテンションがかけられることとなる。
左右のサブフレーム12は互いに独立し、それぞれのスライダ部16がベースフレーム11上に摺動可能に搭載されている。そして、サブフレーム12の前縁部分には、メッシュ張地1を支持するためのフレーム構造は設けられていない。つまり、メッシュ張地1の前縁には補強部材がなく、メッシュ張地1の前縁は弛緩しあるいは伸縮可能な状態にある。この場合、メッシュ張地1の前縁において大腿部が圧迫感を受けることが少ない。したがって、メッシュ張地1の前縁によって大腿部裏側が圧迫されることに起因する、脚の痺れがさらに起こり難く、足の動きも自由となる。尚、本実施形態ではサブフレーム12の正面側の端面にもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入する溝を設けて、正面側にもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入することで、メッシュ張地1のずり上がりを阻止するストッパ機能を与えるようにしている。
上述のメッシュ張り構造によれば、サブフレーム12の溝21にメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入した状態で締結用ねじ13を回してサブフレーム12を張り方向に移動させるだけの簡単な作業でメッシュ張地1にテンションをかけてサブフレーム12に取り付けることができる。他方、締結用ねじ13を弛めれば、サブフレーム12が移動すると共にメッシュ張地1にかかるテンションが解除されるため、メッシュ張地1の縁はサブフレーム12の溝21から簡単に離脱させ得るので、メッシュ張地1をサブフレーム12から容易に取り外せる。つまり、メッシュ張り込み設備やヒートセット設備などの大型の工場設備を用いずに、病院内などの現場において完全に人手だけでメッシュの張り込み、取り外しを完了させ得る。しかも、メッシュ張地1にテンションを付与するための力は締結用ねじ13の回転によって得られるので、女性などの比較的非力な人でも簡単に張ることができる。したがって、簡単にメッシュ張地1(座部2並びに腰部サポート部3の身体支持面を構成する部材)の張り替えが可能となり、患者の血液などの体液が付着しても、取り外して洗濯、滅菌処理などが行えるので衛生的であると共に、手術毎にあるいは必要に応じてメッシュ張地1の張り替えをユーザの手によって行うこともできる。依って、医療用の椅子として求められる衛生面の維持を簡易に実現することができる。
また、メッシュ張り構造は上述の実施形態に特に限られるものでは無く、例えば図11〜図13に示すように、サブフレーム12をベースフレーム11の内側に配置し、外側に配置されたベースフレーム11にメッシュ張地1の張り方向に配置された締結用ねじ13を使って引き付けることにより、メッシュ張地1に張りを与えると同時にメッシュ張地1の縁をベースフレーム11との間で挟持するようにしても良い。この場合には、メッシュ張地1に体重がかかったときに、係止部材(図示省略)を縫い付けたメッシュ張地1の縁が溝21に引っ掛かって固定されると同時にサブフレーム12とベースフレーム11との間で引っ張り方向と直交する方向の全域において挟持されるので、メッシュ張地1の支持がより堅固なものとなる。ここで、サブフレーム12は、図10に示す実施形態のサブフレーム12の張地掛け部14と基本的に同じ形態を成す。即ち、サブフレーム12は、着座者の臀溝付近に頂点7を有し、該頂点7から座面後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する後部領域9と、頂点7よりも前方で前下がりに傾斜または湾曲する前部領域8とを備える、上向きに凸に湾曲したメッシュ張地掛け面18を有し、外側の側面にはメッシュ張地1の縁と係止部材とを折り返して嵌め込む溝21を有する。また、サブフレーム12の張地掛け面(上面)18の頂点7から後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する部分には波形の凹凸19を形成することにより、これら両フレーム間に張られるメッシュ張地1の後部領域9に張地掛け面18の波形の凹凸19に沿った襞10を形成するようにしている。また、ベースフレーム11は、サブフレーム12と側面視の輪郭形状はほぼ同じ(波形の凹凸は有していない)で、弓形の支持アーム26によって下方から受け支えられ、腰部サポートフレーム23と溶接などで一体化されてから脚柱5のガススプリングに連結されている。尚、図中の符号27は、ガススプリングに嵌合させるブッシュを溶接付けした受け部である。また、符号28はベースフレーム11に開けられたねじ孔、25はサブフレーム12の貫通孔である。また、サブフレーム12の前後端には前方衝撃緩衝部材34及び後方衝撃緩衝部材35を嵌め込んで固定するための突片37が備えられている。
他方、腰部サポートフレーム23は、図10あるいは図12に示すように、腰部形状に沿って前後方向に湾曲した左右両側の縦辺部23aと、これらを連結する上下に配置される横辺部23bとで構成される概略矩形状の環状を成し、脚柱に支持されているベースフレーム11に支桿23cを介して取り付けられている。そして、腰部サポートフレーム23の左右両側の縦辺部23aには、腰部サポート面に沿って腰部サポート面と平行に開放された外向きの溝、即ち張地5の縁部を嵌め込み固定するための張地取付用溝21がほぼ全長に亘って設けられている。この張地取付用溝21には、人手によって付与できる程度の張力がかけられた状態の張地5の縁が係止部材と共に折り返されて嵌め込まれることによって、腰部サポートフレーム23の前面側の曲線形状に沿ってメッシュ張地1が張設される。
ここで、各フレーム11,12,23を構成する部材は、特定の素材に限定されるものではなく合成樹脂でもアルミニウムやステンレススチールなどの金属でも構成可能であるが、好ましくポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂などの熱可塑性合成樹脂あるいは熱硬化性合成樹脂によって、それ自体でメッシュ張地12の張力を保持できる剛性を有しているものとして上述の形状に成形されている。例えば、ガラス繊維入り樹脂として必要な剛性を確保するようにしている。
また、座面は、図1、図11に示すように、同じ幅で構成するようにしても良いが、後方から前方に向かって(後方に比べて前方が)幅広な形状とすることもある。例えば、図14に示すように、座面のトップから前下がりに湾曲している骨盤近傍の主に前部領域8が前方に向かうに従って幅広に形成される。この場合には、骨盤近傍の大腿部が圧迫されずに軽く支持されるので、足下でのペダル操作等を行う際の脚の動きが容易であると共に疲れ難くなる。例えば、図14に示す実施形態の座部2においては、後端幅430mmに対して前端幅が450mmに設定されている。この場合には、骨盤近傍での大腿部の支持領域が広がることで足下での作業例えばペダル操作などを行い易い。
本実施形態の場合、腰部サポート部3と座部2とは1枚のメッシュ張地1で身体支持面が連続的に形成されている。このため、座面にかかる力(体重)が腰部サポート面が着座者の腰部をサポートする力としても作用するため、立った骨盤を立体的に保持する良好なホールド感が得られる。勿論、座部2と腰部サポート部3とを分断されたメッシュ張地1で不連続に形成しても良いが、この場合には、座面を構成するメッシュ張地1の上端を何らかの手段で前後方向に移動しないように図示しないフレームなどで固定しておけば、腰部サポート部3と座部2とを一体に成形する場合と同様のホールド感が得られる。ここで、座部2と腰部サポート部3とは1枚のメッシュ張地1で連続的な一つの身体支持面を形成しているが、場合によっては複数のメッシュ張地1あるいは樹脂シェルを縫合、または接合することによって一体化した場合も含まれる。
尚、本明細書において、メッシュ張地1と称するものは、椅子の座部2あるいは腰部サポート部3などの身体支持構造物として必要とされる強度、弾力性を発揮させる張力を生じる柔軟性を有するエラストマー素材によって構成される全てのメッシュ状の張地あるいは構造的に弾力性等を発揮させるものを含むものであり、例えば織物、編物、織物あるいは編物から成るメッシュ、不織布等のいずれの形態をとるものであっても使用可能であるが、好ましくはポリエステル糸やナイロン糸などの熱可塑性樹脂繊維による織物あるいは編物、さらには織物あるいは編物から成るメッシュ(本明細書ではこれらを総称して単にメッシュと呼ぶ)を用いることである。メッシュ張地1によって構成された身体支持面特に座面によれば、着座者である執刀医の座面と接触する部分全面で体重を分散させて支持するため座面の硬さを感じないし、高い通気性が得られることから、手術などの長時間の座り作業における着座者の疲労を軽減する椅子を提供することができる。
上述の実施形態の場合、メッシュ張地1を張るフレームの一部の形状、即ち後部領域9のメッシュ張地1に波形の凹凸からなる襞10を設けることによって、後部領域9の身体支持面のメッシュ張地1の前後方向の伸び量を増やして、沈み込み易い状況を作っているが、これに特に限られるものではない。例えば、座面前方の前部領域8と後方の後部領域9とで編み方を変えることによって後部領域9の伸びを前部領域8の伸びよりも大きくしたり、エラストマー糸の配置や挿入本数などを変更してテンションを帯状に部分的に変更したり、伸びるメッシュ張地と伸びないメッシュ張地とを組み合わせたり、あるいはメッシュ張地1の織り込み密度あるいは編み込み密度を敢えて均一にせずに、メッシュの目の粗い低密度部と、メッシュの目の細かい高密度部とを有するものを用いることにより、前部領域8に比べて後部領域9の伸び量が大きくなるように構成するようにしても良い。
例えば、図16に示すメッシュ張地1は、編成の途中の任意の位置及び領域に該当する部分では、織り方あるいは編み方を変更することによりメッシュの編み組織あるいは織り組織を部分的あるいは一定区間で変更することにより、伸縮のし難い前部領域(低伸縮領域)8とこれよりも伸縮のし易い後部領域(高伸縮領域)9との少なくとも2つの領域を形成し、かつ両領域9,8の境界33を非直線的に形成するようにしている。例えば編み物として製作する場合には、ニットループを形成する編緯糸29と、ニットループを形成することなく編み込まれて編緯糸のニットループに係止される挿入糸(テンションを強くするために編み込まれる補強糸)30との少なくとも2種類の糸によって丸編みによって編成されている。具体的には、例えば、本実施形態におけるメッシュ張地1は、横方向(X軸方向)に、モノフィラメントから成るエラストマ性ポリエステル糸(以下、単にエラストマー糸とも呼ぶ)28がニットループを形成することなく編み込まれる挿入糸として横方向に配置され、該挿入糸28に絡むようにポリエステル糸を撚り合わせて成る複数本のストランド(以下、単にポリエステル糸とも呼ぶ)から成る編緯糸29が編まれてニットループを構成し、弾性緯編地が編成される。この弾性緯編地は、加熱処理により横方向即ち挿入糸の方向により強い張力を付与するように設けられる。尚、挿入糸(エラストマー糸)30の使用はメッシュ張地1全体のテンションを高めるために好ましいが、必ずしも編み込まなくとも良く、編緯糸29だけで身体支持構造物として必要とされる強度、弾力性を発揮させる張力を生じる柔軟性を発揮させられる場合には弾性緯編地だけで構成されることもある。因みに、編物の場合は、挿入糸・エラストマー糸30は横あるいは縦のいずれか一方にしか入れられないが、その種類は何種類でも必要に応じて入れることができる。
ここで、編み組織(編み方)を途中で変化させることにより前部領域8は後部領域9に比べて密度をアップさせる手法としては、例えば、メッシュ張地1は丸編み(緯編み)であり、後部領域9は天竺編みで、前部領域8はタック編みに切り替えて編成し、両領域の境界33においては一コース(編地を形成する方向:よこ方向)のループの途中で部分的にあるいは全域で編み方を切り替え、ウェール方向(ループを連綴させる方向:たて方向)に切り替える箇所を段階的にずらすことで非直線状に形成することができる。つまり、横方向へ一段(1コース)編む間に編み方を切り替え、切り替える箇所をコース毎に段階的にずらすことで編み組織(編み方)を変化させることにより、非直線状の境界を形成している。図17の拡大図に明らかなように、後部領域9では編緯糸29がエラストマー糸挿入糸30に絡むように単純に横に走っているが、前部領域8では斜め方向に走る糸が多くなって編緯糸29の量も増えている。したがって、前部領域8では透け難くなり、相対的に後部領域9よりも濃く見える。また、後部領域9については、編緯糸29が移動しやすく伸縮しやすいのに対して、前部領域8については斜め方向に走る糸が邪魔をして伸縮しにくい構造となっている。また、前部領域8と後部領域9とを区分けする境界33も、編み組織(編み方)の切り替える箇所が段階的にずらされることで非直線状に形成されている。尚、メッシュ張地1は熱収縮性の経糸と緯糸で織られた織物(以下、弾性織地と呼ぶ)で構成しても良い。
ここで、伸び易さ即ち張りの強さが異なる複数の領域の間の境界33に関して、非直線状とは、本明細書においては、左右幅方向の並びに上下方向あるいは前後方向に直線的に形成されないという程度のことを意味する用語として使われており、主に曲線を指すものであるが、場合によっては細かく方向が変化する直線の集合から成る線や多角形状などの閉領域を含むものである。また、メッシュ張地1の伸縮のし易さあるいはし難さと、メッシュ張地1の編み込み密度あるいはエラストマー糸の数とは比例するものではない。「高密度・低密度」、「メッシュ張地自体の硬さ・柔らかさ」、「挿入糸の多さ・少なさ」はメッシュ張地の伸縮性とは必ずしも一致しない。換言すると、低伸縮領域であっても、低密度や張地自体が柔らかい場合もある。
このメッシュ張地1の場合にも、前部領域8よりも後部領域9の方が伸縮し易く沈み込むこととなる。このため、座骨結節をホールドして、前ずれを防ぐことができる。また、伸縮のし難い前部領域8と伸縮のし易い後部領域9との境界33を非直線的に形成することにより、着座者が受けるサポート力の変化を段階的なものとできるので、段差感を緩和させることができる。したがって、境界での段差(弾性支持力の差)が局部的でかつ強い当たりとなって着座者の身体に作用することを低減させることができ、圧迫感や違和感を与えることが少なく、メッシュ張地1の臀部を支える後部領域9が沈み込み易くなるようにできる。即ち、着座者をしっかりと支持したい領域と柔らかく支持したい領域と間のサポートの強弱を維持しつつ、両領域の境界での段差を感じ難くして着座時の当たりの違和感を少なくし、座り心地の良い椅子とすることができる。また、メッシュ張地1は編み方あるいは織り方を途中で部分的に変更して編み組織あるいは織り組織そのものを変更することにより、伸縮のし難い領域とこれよりも伸縮のし易い領域との少なくとも2つの領域を形成しているので、滑り止め効果を発揮する。即ち、編み組織あるいは織り組織を部分的に変化させることで感触が変化するので、滑り止め効果が得られる。これによっても、メッシュ張地1上での臀部及びまたは臀部附近の大腿部の前滑りを防いで、仙骨座りを未然に防ぎ、安定した着座姿勢を保たせることができる。
また、1枚のメッシュ張地1において伸縮し難い部分と伸縮し易い部分とを形成することは、エラストマー糸・挿入糸の配置密度を身体支持構造物の部位に応じて異ならせることによっても実現できる。つまり、伸縮性に富むメッシュ生地に挿入するエラストマー糸の配置密度を高くした部位の反発力を増すことができ、逆に配置密度を低くした部位の反発力を減らして撓み易くすることができる。これによって、後部領域9を主に大腿部を支える領域よりも伸縮し易く沈み込むものとすることができる。これにより、座骨結節をホールドして、前ずれを防ぐことができる。
また、本実施形態では、熱収縮性の弾性糸を使用してメッシュ張地を編むあるいは織るようにしているが、これに特に限られるものではなく、非弾性糸によってメッシュ張地を編むあるいは織るようにしても良い。この場合においても、挿入糸としてエラストマー糸が使用されていれば、メッシュ張地全体としての弾力性を発揮させることができる。
ここで、座部2と腰部サポート部3とは1枚のメッシュ張地1(あるいは合成樹脂製シェル)によってあるいは縫合や接合によって、連続的な一つの身体支持面を形成していることが好ましい。この場合には、腰部サポート部3のメッシュ張地1も後部領域9の座面にかかる張力を負担するため、臀部支持面と腰部サポート面とが連係して骨盤全体を包み込むようにホールドするため、良好なホールド感が与えられると共に安定姿勢が保たれる。
また、身体支持面を構成する部材は、必ずしもメッシュ張地1に限られない。通気性を有するものであれば、例えば、図15に示すようなプラスチック成形品である樹脂製シェル31で構成するようにしても良い。この場合においても、座部2と腰部サポート部3とを互いに独立した別部材として構成しても良いが、一体的に連続形成することが好ましい。この場合には、座面にかかる力(体重)が腰部サポート面にも影響を与えて着座者の腰部をサポートする力として作用するため、立った骨盤を立体的に保持する良好なホールド感が得られる。また、樹脂製シェル31で構成される座部2及び腰部サポート部3は、例えば、その裏面の前端縁付近と後端縁付近とに椅子本体側の左右のフレーム(図示省略)に跨るように配置される前後の取付け用プレート(図示省略)などを備えてビスなどで止めつけられることによって簡単に着脱可能に組み立てられる。
樹脂製シェル31によって構成される座部2は少なくとも着座者の身体が触れる部分には孔32が分散配置されることにより、通気性と、全体として座として要求される弾力性と構造的強度を併せ持つ構造と、部分的な座面の沈み込みが確保される。ここで、孔32は、前部領域8と後部領域9とでその配置数、あるいは孔径若しくはピッチ(密度)を異ならせることで後部領域9の伸び量を大きくすることによって、前部領域8よりも後部領域9の方が沈み込み易くすることができる。同時に、前部領域8は張りがあるため、これが歯止めとなって着座者の前滑りを防ぐことができる。即ち、着座者の座骨結節をホールドして前ずれを防ぐことができるため、所謂仙骨座りとなることを防いで、より疲労が少なく、長時間座っていても適正な姿勢に導くことがし易いものとなる。具体的には、後部領域9の孔の数を前部領域8の孔の数よりも多くして伸縮量を高め(撓み易くし)、座位基準点付近が頂点7よりも前方の前部領域8よりも沈み込み易くすることが好ましい。孔は、均等に分散させても良いが、局部的に集中させたりしても良い。また、孔の数だけでなく、その配置密度や孔径などを変化させることによっても、座位基準点付近が頂点7よりも前方の前部領域8よりも沈み込み易くすることができる。勿論、メッシュ張地1による身体支持面の場合と同様に、さらにシェル素材そのものを摩擦係数の高い滑らない素材としたり、通常使用される素材のシェルの上に摩擦係数の高い材料例えばゴムなど摩擦係数の高いものを部分的にあるいは全面的に被覆させたり、突起物による滑り止めを形成したりして、滑らない構造とすることは前滑りを防ぐ上で好ましい。そして、滑らない構造は座面全面でも、座面の一部でも構わない。そして、前述の座面の一部は、座者の臀部周辺(座面後部)でも座者の大腿部周辺(座面の前方)でも構わない。さらに、腰部のみでの滑り止めの構造でも良い。つまり、座面の奥行が短い椅子であっても着座者が滑りにくい構造を備えていれば、前ずれを防いで所謂仙骨座りとなるのを防ぎ、骨盤を立てた正しい姿勢を保持できる。また、上述のように、身体支持面を構成する部材(座部2及び要部サポート部3)が合成樹脂製シェルによって構成される場合においても、通気性が確保されるため、蒸れが少なくなるし、患者の血液などの体液が付着しても、プラスチック成形品であるため簡単に拭い取り去り、かつアルコール消毒などが実施できるので、衛生的である。
以上のように構成された手術用椅子によれば、正しい姿勢が保たれあるいは正しい姿勢に導かれるので、手術などの長時間の座り作業における着座者の疲労を軽減することができる。即ち、座面の奥行きが短いので、踏ん反り返った姿勢では座れない。結果的に、骨盤が立つことで、脊椎も湾曲せずに直立した状態に保たれ、頭部も前傾せずに真っ直ぐに脊椎の上にあるので、姿勢良く座ることができ、長時間座っていても疲れにくい。つまり、座るときに骨盤を立てるように姿勢良く着座せざるを得ないので、頭部重量が一直線上に脊椎の上に載った適正な姿勢に導くことがし易いので、疲労も少なくなる。しかも、座面が弾力性と通気性を有するので、長時間座っていてもお尻が痛く成り難いし、蒸れ難い。したがって、数時間から20数時間にも及ぶ顕微鏡手術などでの使用に適する。
また、座面の奥行きが短かく、臀溝附近の大腿部の一部を支えて膝側寄りの大腿部が支えられないことから、長時間座っていても、脚が痺れることがないし、足が自由となるので、ペダル操作がし易いものとなる。手術中の顕微鏡などの機器の操作例えば顕微鏡の焦点合わせやスイッチ操作、昇降操作などは全てペダル操作によって足で行われることから、これら操作が正確かつ楽にできる。
さらに、座の端部の一角を構成する左右のフレーム12の前端よりも前方に突出する衝撃緩衝部材34が座面回転時に最も回転半径が大きな部位となることで、座の回転時に最もぶつかりやすい箇所となる。即ち、前方衝撃緩衝部材34が剛性の高い構造用フレームに先立って周囲の設備や装置、人等とぶつかるので、衝撃を緩和することができる。このことは、椅子を水平移動(前方へ水平移動)させる場合においても同様であり、まず、前方衝撃緩衝部材34が先立って周囲の設備や装置、人等とぶつかるので、衝撃を緩和することができる。依って、椅子の周囲の設備や機器、壁、人等に衝突しても双方に与える影響を少なくすることができる。勿論、この衝撃緩和機能は、座の前方に配置される前方衝撃緩衝部材34に限らず、後方衝撃緩衝部材35あるいは図示していない側方衝撃緩衝部材においても同様に発揮される。
また、本実施形態にかかる手術用椅子は、左右のサブフレーム12でメッシュ張地1を張架する構造であるため、メッシュ張地1の前端縁には支えとなるフレームを有していない。このため、椅子を持ち上げる際にメッシュ張地1の前縁部分を持ち上げようとすると、メッシュ張地1が延びて支持が不安定となる。しかしながら、前方衝撃緩衝部材34を取っ手として持ち上げれば、椅子の支持が安定する。しかも、着座状態のままあるいは椅子だけを左右へ移動させたり持ち運びする際の運搬においても効果的である。さらに、後方衝撃緩衝部材35を備える場合には、前方衝撃緩衝部材34と後方衝撃緩衝部材35の双方を両手で持ち上げることで椅子を容易に持ち運ぶことができる。勿論、前方衝撃緩衝部材34と拡張フレーム部36を有する場合にも、これらを両手で持ち上げることで椅子を容易に持ち運ぶことができる。
また、座部2と衝撃緩衝部材34,35との間に空間42を形成する場合、前後左右方向からの衝撃に対する緩衝や、あるいは前後左右方向への椅子の周辺の設備・装置や人などへの衝突時の衝撃緩和に効果的である。
また、座の後方に突出する衝撃緩衝部材35は、後方へあるいは後方から加わる衝撃に対する衝撃緩和機能や取っ手機能だけでなく、滅菌布を束ねて保持するものとしても利用できる。例えば、腰部サポート部3を覆うように懸けられた滅菌布の端末を束ねてから後方衝撃緩衝部材35の空洞42に押し込むことにより、簡易に椅子に固定することができる。このため、一般的な矩形の滅菌布を用いて腰部サポート部3を簡単に覆うことが可能となる。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では、手術中に執刀医が座る手術用椅子に適用した一例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものでは無く、椅子の周囲の設備や機器、壁、人等に衝突するなどの問題は他の作業空間、特に狭い作業空間で起こりうる問題なので、手術室内で執刀医以外の医師あるいは医療従事者が座る椅子としては勿論、あるいはその他の狭い空間内での作業において作業員が座る椅子として、さらには椅子を含めてその周辺の設備・装置や人の移動が多い作業場、研究所、工場などにおいて作業員等が座る作業用椅子あるいは看護用椅子等の作業用椅子全般に適用して好適なものである。
また、上述の実施形態において、衝撃緩衝部材34,35は、座部2との間に手が差し込める空間42を形成して取っ手としても機能させるようにしているが、これに特に限定されるものではなく、図示していないが、例えば窪み(非貫通孔)や段差あるいは手が差し込めないほどのスリットなどを設けることにより、指先などを引っ掛けて取っ手としての機能を満足させるようにしても良い。
また、本発明において、上述の実施形態で主に説明された手術用椅子における座面形状や奥行き寸法、背の高さなどについての制約は必ずしも受けるものではない。作業用椅子としての座の形状や奥行き寸法、要部サポートの幅、高さなどについては様々な作業形態においてそれぞれ必要に応じて定められるものであり、その場合においても少なくとも前方衝撃緩衝部材34あるいは後方衝撃緩衝部材35などを備えることの利点を損なうものではない。さらには、上述のような座構造に限られず、ウレタンフォームや木質座板などで座を構成する場合においても、あるいは円弧状の座面であっても、衝撃緩衝部材を前方に突出させて設けることは好ましい。
また、座部2の周りに配置される衝撃緩衝部材としては、図示していないが、場合によっては座部2の側方に突出させる側方衝撃緩衝部材を備えることで、衝撃緩和機能を全方位に拡げるようにしても良い。この場合においても、左右側方向からの衝撃に対する緩衝や、あるいは左右方向への椅子の周辺の設備・装置や人などへの衝突時の衝撃緩和に効果的であると同時に、側方に配置される衝撃緩衝部材を取っ手として活用して着座状態のまま左右へ移動させたり、あるいは側方に配置される衝撃緩衝部材を持って左右へ移動させたり持ち上げて運搬するのに効果的である。勿論、側方に配置される衝撃緩衝部材は、左右のフレームに固定されるだけでなく、脚支柱に固定されるフレームあるいは脚支柱など直に固定されるようにしても良い。また、側方に配置される衝撃緩衝部材は、座面に対し常に同じ高さ位置になるように設けることが好ましい。
更に、座部2の周りに配置される衝撃緩衝部材は、前方衝撃緩衝部材34、後方衝撃緩衝部材35あるいは側方衝撃緩衝部材としてそれぞれ独立して設けられるばかりで無く、それらが1つの部材として相互に連結されたもの、例えば環状の衝撃緩衝部材として座の周りの全周に亘って構成されても良い。この環状の衝撃緩衝部材の場合にも、サイドフレームあるいはベースフレームなどの座フレームあるいは脚柱に対して空間をあけるように配置して取り付けられるようにしても良い。また、例えば、側方衝撃緩衝部材の端部を座部の前方側に回り込むように延長させることにより、あるいは座部の後方側に回り込むように延長させることにより、側方衝撃緩衝部材の一部を前方衝撃緩衝部材あるいは後方衝撃緩衝部材としても機能させるようにしても良いし、逆に前方衝撃緩衝部材あるいは後方衝撃緩衝部材の両端部を側方に回り込むように延長させることにより、前方衝撃緩衝部材あるいは後方衝撃緩衝部材の一部を側方衝撃緩衝部材として機能させるようにしても良い。即ち、本明細書において、少なくとも座部の前端縁よりも前方に突出し取っ手としても機能する衝撃緩衝部材を備えるとは、座部の前方に突出する衝撃緩衝部材が存在するということを意味し、座フレーム特に左右のサブフレームの前端に両端が取り付けられてそこから前方に突出する衝撃緩衝部材に限定されるということを意味しているものではない。
さらに、上述の実施形態においては、前方及び後方の衝撃緩衝部材34,35はボルトで左右のフレームに固定されることによって、着脱自在に取り付けられている。したがって、衝撃緩衝部材34,35を取り外した後に、その取り付け部位・構造を利用して衝撃緩和以外の別の機能の部材を取り付け、他の機能を追加することができる。例えば、 などを取り付けるようにしても良い。
また、上述の実施形態において、メッシュ張地1は、フレーム構造の幅方向への拡張によってテンションをかけると同時にメインフレームに取り付ける構造としているが、これに特に限られるものではなく、エラストマー素材によって構成されるメッシュ張地1を予め一定のテンションをかけた状態でフレームに固定・一体化した身体支持構造物(特開平11−290153号、特開2001−78852号公報参照)で作製された座部2及び腰部サポート部3の一体構造物あるいは互いに独立した座部2と腰部サポート部3をベースフレーム11に着脱可能に装着するようにしても良い。つまり、本明細書において、少なくとも着座部を構成する身体支持面を構成する部材1が着脱自在であるということは、図示するフレーム間隔の拡張機構によるメッシュ張地1の張り構造に限らないという意味である。この場合においても、メッシュ張地1は製造段階でフレームと一体化されているので、椅子本体側のフレームに対し着脱可能にメッシュ張地1の囲りのフレームを連結する取付け構造を椅子本体側に採用することにより、身体支持面を構成する部材即ちメッシュ張地1をフレーム毎取り替えることができる。しかして、医療用の椅子として求められる清潔性を実現することができる。
また、上述の実施形態においては、身体支持面を構成する座部及び腰部サポート部3の双方を通気性を有する構造とした例について説明したが、これに特に限られるものではなく、少なくとも座において通気性を有する構造とすれば着座者の臀部や大腿部における蒸れに対しては十分な効果が得られる。