以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書において、上下(高さ)、前後(奥行き)、左右(幅)の各方向は着座者を基準に定め、互いに直交する奥行き方向(Y軸)、幅方向(X軸)並びに高さ方向(Z軸)の3軸方向は各身体支持構造物の身体支持面をXY平面とすることを基準に定め、奥行き方向は椅子の前後方向と一致するものとして定義される。
図1に、本発明にかかる椅子のメッシュ張り込み構造の一実施形態として手術中に執刀医が座る手術用椅子に適用した一例を示す。この手術用椅子は、メッシュ張地1によって執刀医(着座者)の身体を支持する身体支持面を形成する座部2及び腰部サポート部3を備える回転椅子である。本実施形態において、座部2及び腰部サポート部3は、身体支持面を構成する部材たるメッシュ張地1によって一体的に連続的に形成されている。尚、脚部の支柱に内蔵される昇降装置(ガスシリンダ)は、底部に備える環状操作板6を足で踏みつけることで、ガスシリンダのバルブを操作して座部2及び腰部サポート部3を任意に昇降させ得るように設けられている。なお、本発明にかかるメッシュ張り構造は、身体支持面を構成する適度な弾力性と張力とを発揮し得る張地をフレームに取り付けるためのものであり、椅子の座や背等の身体支持構造物の全般に適用できるものであるが、本実施形態では特に椅子の座部への張地の取り付けに適用した場合を例に挙げて説明するものとする。
座部2は、臀部と膝の裏側近くまでの大腿部を支えるに十分な奥行き寸法を有する従来の一般的な座と比べて奥行き方向長さが短く、骨盤を立てて座の奥深くに着座したときに臀部と臀溝附近の大腿部の一部を支える長さでかつ仙骨座りしたときに大腿部の支えを失うあるいは不十分となる長さとされている。換言すれば、着座者が腰部サポート部3に腰部を当てて骨盤を立てるように座の奥深くに着座したときに、骨盤近傍の大腿部を座面で支えて膝裏寄りの大腿部の前方部分が自由に動けるようにサポートできる長さとされている。一般に、椅子推奨寸法(一般社団法人人間生活工学研究センター発行「日本人の人体寸法 データブック2004−2006)によれば、座面の奥行寸法は、360mm〜460mmの範囲が好ましいものであり、その中でも410mm前後がより好ましいものであるとされている。しかし、本実施形態の椅子によれば、座部2の奥行寸法を敢えて短く設定することにより、適正な姿勢に導き易い座面を実現できることを知見したものであり、かかる知見に基づいて本発明は成されたものである。つまり、本実施形態の座部2は、前述の椅子推奨寸法よりも短い座面奥行寸法(背もたれ点から前端までの長さ)としたものであり、例えば、座面奥行寸法は150mm〜350mmの範囲であり、好ましくは250mm〜350mmの範囲にすることであり、より好ましく300mm程度とするものである。このように、敢えて座面の奥行寸法を短くすることにより、仙骨座りではなく骨盤を立てて座の奥深くに着座した方が着座姿勢が正される為、長時間の着座によっても疲れにくい。特に、手術等長時間の着座姿勢を採る作業においては、疲労を軽減する椅子は必要である。そこで、仙骨座りの姿勢を採る事ができず、姿勢を正した状態でなければ適切に着座ができない椅子の奥行寸法をあえて設定した椅子である。
ここで、座部2の身体支持面(所謂座面)は、全面あるいは一部において滑り難い構造とされることが好ましい。そして、座面の一部は、着座者の臀部周辺(座面後部)でも着座者の大腿部周辺(座面の前方)でも構わない。さらに、腰部のみでの滑り止めの構造でも良い。つまり、座面の奥行が短い椅子であっても着座者が滑りにくい構造を備えていれば、前滑りを起こすことがないので、骨盤を立てて座骨結節で座った姿勢を保持できる。尚、本明細書において、滑らない構造とは、形状的な配慮によって、あるいは張地自体に滑らない素材を用いることによって(これには通常素材の張地やシェルの上に摩擦係数の高いものを配する場合も含む。)、若しくは伸びる張地と伸びない張地の組み合わせの他、突起物による滑り止め、ゴムなど摩擦係数の高いものによる滑り止め等を含めたものである。
例えば、本実施形態における座面(座の身体支持面)は、図1及び図2に示すように、側方視において、着座者の骨盤から大腿への移行部分であって水平方向の臀部のひだの形態の比較的丸い境界線(臀溝と呼ばれる)付近に頂点7を有し、該頂点7から座面後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する主に臀部を支える領域(以下、後部領域と呼ぶ)9と、頂点7よりも前方で前下がりに傾斜または湾曲する臀溝附近の大腿部の一部を支える領域(以下、前部領域と呼ぶ)8とを備え、臀溝附近の大腿部の裏を圧迫しないように支持しながら後部領域9では前滑りを妨げる機能を奏するようにしている。即ち、本実施形態の座部2は、全体に上向きに凸に湾曲した、奥行き長さLを臀部と臀溝附近の大腿部の一部を支える短い長さの座とし、後部領域9を腰部サポート部3の直前の領域に限定し大腿部の支持は座骨に連結されている付近に限るようにしているので、着座者は必然的に座るときに骨盤を立てるように姿勢良く着座することとなる。しかも、後傾する後部領域9では前滑りを妨げる機能を有するので、座骨結節が前方へ滑って骨盤が後傾することがない。つまり、いつの間にか姿勢が崩れて所謂仙骨座りとなることがない。したがって、骨盤全体を座面と腰部サポート面とでしっかりサポートし、座骨結節が前ずれしないように立体的に支持することができる。尚、頂点7の位置は、背もたれ点の位置(垂線上の位置)から約200mmに設定されている。本実施形態の場合では、座面奥行寸法は背もたれ点から約300mmの長さであるため、約3分の2の位置に頂点7が存在する。ちなみに、座位基準点は、背もたれ点の位置(垂線上の位置)から約100mmの位置にあり、頂点7と背もたれ点のほぼ中間点に位置する。そのため、座位基準点は、メッシュ張地1が一番伸びやすい位置にあるといえる。ここで、座位基準点とは、椅子の座面の高さを決める基準となる点であり、左右の座骨結節部(骨盤の下方に突き出た部分で、座位で体重を支えるところ)の中央の点である。そして、一般に床面から座位基準点までの垂直距離を座面高とする。本実施形態の椅子の座位基準点は背もたれ点から例えば100〜150mmの範囲に設定され、座面高さは、通常位置が床面から400mmの高さであり、上方に向かって150mmの範囲で調整が可能とされていることが好ましい。
また、本実施形態では、頂点7よりも後方の後部領域9の座面に前後方向に展開する襞10を形成するように張ることによって、さらに効果的に座面に滑り止め機能と座骨結節を立体的に保持する機能を与えるようにしている。例えば、図2及び図5に示すように、メッシュ張地1の両側縁を支えるサブフレーム12の張地掛け面(上面)18に波形の凹凸19を形成することにより、これら両フレーム12間に張られるメッシュ張地1に張地掛け面18の波形の凹凸19に沿った前後方向に波形の凹凸からなる襞10を形成する(波形張りと呼ぶ)ようにしている。メッシュ張地1に襞10が設けられたところでは、横(幅)方向の張りは同じであるが、奥行き(前後)方向には襞10が展開して伸びるため、平坦な座面部分と比べて前後方向の伸び量が大きくなる。したがって、同じ体重が襞10を有する座面部分と無襞座面部分とに同時にかかると、襞10を有する座面部分の方がより沈み込むこととなる。つまり、座骨を支持して積極的に沈み込み易い後部領域9を腰部サポート部3の直前に設けて骨盤を立てて座らせることを誘導するようにしている。同時に座部後方に比べて比較的伸び量が小さい座面前方の前部領域8が歯止めとなって臀部の前滑りを防ぐことができる。このため、座骨結節を立体的にホールドすると共に前ずれを防ぐことができ、所謂仙骨座りとなることを防いで、長時間座っていても適正な姿勢に導くことがし易いものとなる。
座部2の後端には少なくとも腰部を支える腰部サポート部3を備える。本実施形態では、腰部サポート部3は、腰部サポートフレーム23と、該腰部サポートフレーム23の前面側を覆うように張り渡されるメッシュ張地1とで構成され、腰部サポートフレーム23の外側面に形成された張地取付用溝21にメッシュ張地1の周縁に縫い付けた係止部材24ともどもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌め込むことでテンションを与えながら固定するように設けられている。この腰部サポート部3は、座の幅よりも狭く形成され、着座者・執刀医の滅菌領域である肘を後ろに動かしたときに当たらない大きさに設けられている。例えば、腰部サポート部3の幅は350mm以内であることが好ましい。また、腰部サポート部3の腰部支持高さ(座面から背もたれ点までの高さ)は、200mm上方に設定されることが好ましく、さらに、腰部サポート高さ(座面から腰部サポート部3上端までの高さ)は、背もたれ点を支持できさえすれば良く、その高さ寸法にあまり拘らない。したがって、本実施形態の場合には、座面より300mmの高さに設定されているが、場合によってはもう少し高くあるいは低く設定しても問題ない。尚、腰部サポート部3は、図2及び図5に示すように、高さ方向における中央部分が最も前方へ突出するような湾曲面を形成し、骨盤座りをした執刀医の骨盤と腰椎とを保持する曲面を構成する。この場合、腰部サポート部3はY軸方向において前方へ僅かに湾曲し、X軸方向においては直線的に成形されている。
座部2並びに腰部サポート部3の身体支持面を構成する部材1は、椅子本体に対して着脱自在に設けられ、必要に応じて取り替え可能な構造とされている。例えば、身体支持面を構成する部材1としてメッシュ張地を用いる本実施形態では、フレーム構造の幅方向への拡張によってメッシュ張地1にテンションをかけると同時に椅子本体に取り付けるメッシュ張り込み構造としている。
即ち、本実施形態の椅子のメッシュ張り込み構造は、メッシュ張地1を固定する少なくとも一対の相対向するサブフレーム12と、ベースフレーム11に対してサブフレーム12をメッシュ張地1の張り方向へ移動可能にしてメッシュ張地1にテンションを付与した状態でベースフレーム11に固定する拡張機構とを備え、サブフレーム12がベースフレーム11に対し固定されたときに、サブフレーム12の間隔が拡張してメッシュ張地1に身体支持面として必要なテンションが付与されるものである。つまり、メッシュ張地1を張るサブフレーム12は、相対向する2辺を構成するものであり、互いに分離された独立した部品から成り、拡張機構を介して脚側固定部材であるベースフレームに装着されるようにしている。
具体的には、メッシュ張り込み構造は、図3〜図5に示すように、脚柱5のガススプリング(図示省略)に支持されるベースフレーム(固定フレーム)11と、メッシュ張地1の縁を折り返して係止部材24と共に嵌入する張地取付用溝21を側面に有する左右一対のサブフレーム(可動フレーム)12と、ベースフレーム11に対してサブフレーム12をメッシュ張地1の張り方向へ移動可能に支持し且つ連結させる拡張機構とを備え、メッシュ張地1の縁を係止部材24ごと折り返してサブフレーム12の張地取付用溝21に嵌入することによってメッシュ張地1を左右のサブフレーム12間に着脱自在に取り付けるようにしている。このメッシュ張り込み構造は、サブフレーム12をベースフレーム11に対し連結したときに、左右のサブフレーム12の間隔が拡張してサブフレーム12の側面の張地取付用溝21に嵌め込まれたメッシュ張地1にテンションがかかってメッシュ張地1が溝から抜け外れないように固定し、所望の弾力を発揮する身体支持面を構成するように設けられたものである。尚、係止部材24は、メッシュ張地1の縁部に取り付けられ、フレームの外側の張地取付用溝21に嵌め込まれたときにメッシュ張地1の張力によって張地取付用溝21に引っかかって抜け止めとして機能することによって張地を腰部サポートフレーム23に固定させるものである。係止部材24としては、ある程度の硬さがあって尚且つ曲がる可塑性を有する素材であれば使用可能であるが、なかでも一般に市販されており比較的安価に入手し易く使いやすい樹脂コード、例えばポリプロピレンなどによって形成された樹脂製コードを用いることが好ましい。また、場合によっては、係止部材24を用いずに、メッシュ張地1の縁を折り返しただけのものを張地取付用溝21に嵌め込んで固定することもある。
ここで、サブフレーム12は、メッシュ張地1の縁を嵌め込む張地取付用溝21を有する張地掛け部14と、この張地掛け部14を支えてボックス状のベースフレーム11に水平移動可能に搭載される支持アーム部15とで構成され、張地掛け部14をベースフレーム11の外に張り出すように配置した状態で座の幅方向に摺動可能に支持される。支持アーム部15の基端部には、ベースフレーム11の上面と摺接するスライダ部16と、ベースフレーム11の上面に開口されたガイド用孔20に挿入されるナット部17とを備え、スライダ部16の裏面に突出する2箇所のナット部17をベースフレーム11の上面に開口された2カ所のガイド用孔20内に挿入し、ベースフレーム11の側壁の貫通孔22を貫通する締結用ねじ13とそれぞれ螺合させるようにしてベースフレーム11に連結される。ベースフレーム11のガイド用孔20は、サブフレームのスライダ部16のナット部17を挿入しナット部17の回転規制を図ると共に移動範囲を規制するものであり、このガイド用孔20の長さの範囲でサブフレームは移動可能となる。したがって、締結用ねじ13を締め付けると、ベースフレーム11の摺動用孔内に挿入したサブフレームのスライダ部16の裏面に突出させたナット部17を相対的に回転させて、ベースフレーム11の側壁に向けて移動させる(引き寄せる)。そして、締結用ねじ13とナット部17とでベースフレーム11の側壁を挟持することでサブフレーム12とベースフレーム11との締結を完了すると同時にメッシュ張地1のテンション付与も完了させるようにしている。即ち、締結用ねじ13とナット部17とで構成されるねじ送り機構を拡張機構として利用しながら、ベースフレーム11とサブフレーム12とを連結するようにしている。このとき、サブフレーム12は、座の幅方向の内側から外側へ締結用ねじ13で引き付けられるため、左右のサブフレーム12の張地掛け部14の間隔は拡張される方向に変位する。したがって、両サブフレーム12の張地取付用溝21に両縁が嵌め込まれたメッシュ張地1は、幅方向外側に引っ張られてテンションがかけられることとなる。
左右のサブフレーム12は互いに独立し、それぞれのスライダ部16がベースフレーム11上に摺動可能に搭載されている。そして、サブフレーム12の前縁部分には、メッシュ張地1を支持するためのフレーム構造は設けられていない。つまり、メッシュ張地1の前縁には補強部材がなく、メッシュ張地1の前縁は弛緩しあるいは伸縮可能な状態にある。この場合、メッシュ張地1の前縁において大腿部が圧迫感を受けることが少ない。したがって、メッシュ張地1の前縁によって大腿部裏側が圧迫されることに起因する、脚の痺れがさらに起こり難く、足の動きも自由となる。尚、本実施形態ではサブフレーム12の正面側の端面にもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入する溝を設けて、正面側にもメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入することで、メッシュ張地1のずり上がりを阻止するストッパ機能を与えるようにしている。
上述のメッシュ張り構造によれば、サブフレーム12の溝21にメッシュ張地1の縁を折り返して嵌入した状態で締結用ねじ13を回してサブフレーム12を張り方向に移動させるだけの簡単な作業でメッシュ張地1にテンションをかけてサブフレーム12に取り付けることができる。他方、締結用ねじ13を弛めれば、サブフレーム12が移動すると共にメッシュ張地1にかかるテンションが解除されるため、メッシュ張地1の縁はサブフレーム12の張地取付用溝21から簡単に離脱させ得るので、メッシュ張地1をサブフレーム12から容易に取り外せる。つまり、メッシュ張り込み設備やヒートセット設備などの大型の工場設備を用いずに、病院内などの現場において完全に人手だけでメッシュの張り込み、取り外しを完了させ得る。しかも、メッシュ張地1にテンションを付与するための力は締結用ねじ13の回転によって得られるので、女性などの比較的非力な人でも簡単に張ることができる。したがって、簡単にメッシュ張地1(座部2並びに腰部サポート部3の身体支持面を構成する部材)の張り替えが可能となり、患者の血液などの体液が付着しても、取り外して洗濯、滅菌処理などが行えるので衛生的であると共に、手術毎にあるいは必要に応じてメッシュ張地1の張り替えをユーザの手によって行うこともできる。依って、医療用の椅子として求められる衛生面の維持を簡易に実現することができる。
また、メッシュ張り構造は上述の実施形態に特に限られるものでは無く、例えば図6〜図8に示すように、サブフレーム12をベースフレーム11の内側に配置し、外側に配置されたベースフレーム11にメッシュ張地1の張り方向に配置された締結用ねじ13を使って引き付けることにより、メッシュ張地1に張りを与えると同時にメッシュ張地1の縁をベースフレーム11との間で挟持するようにしても良い。この場合には、メッシュ張地1に体重がかかったときに、係止部材(図示省略)を縫い付けたメッシュ張地1の縁が溝21に引っ掛かって固定されると同時にサブフレーム12とベースフレーム11との間で引っ張り方向と直交する方向の全域において挟持されるので、メッシュ張地1の支持がより堅固なものとなる。ここで、サブフレーム12は、図5に示す実施形態のサブフレーム12の張地掛け部14と基本的に同じ形態を成す。即ち、サブフレーム12は、着座者の臀溝付近に頂点7を有し、該頂点7から座面後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する後部領域9と、頂点7よりも前方で前下がりに傾斜または湾曲する前部領域8とを備える、上向きに凸に湾曲したメッシュ張地掛け面18を有し、外側の側面にはメッシュ張地1の縁と係止部材とを折り返して嵌め込む溝21を有する。また、サブフレーム12の張地掛け面(上面)18の頂点7から後方に向けて僅かに後下がりに傾斜する部分には波形の凹凸19を形成することにより、これら両フレーム間に張られるメッシュ張地1の後部領域9に張地掛け面18の波形の凹凸19に沿った襞10を形成するようにしている。また、ベースフレーム11は、サブフレーム12と側面視の輪郭形状はほぼ同じ(波形の凹凸は有していない)で、弓形の支持アーム26によって下方から受け支えられ、腰部サポートフレーム23と溶接などで一体化されてから脚柱5のガススプリングに連結されている。尚、図中の符号27は、ガススプリングに嵌合させるブッシュを溶接付けした受け部である。また、符号28はベースフレーム11に開けられたねじ孔、25はサブフレーム12の貫通孔である。
他方、腰部サポートフレーム23は、図5あるいは図7に示すように、腰部形状に沿って前後方向に湾曲した左右両側の縦辺部23aと、これらを連結する上下に配置される横辺部23bとで構成される概略矩形状の環状を成し、脚柱に支持されているベースフレーム11に支桿23cを介して取り付けられている。そして、腰部サポートフレーム23の左右両側の縦辺部23aには、腰部サポート面に沿って腰部サポート面と平行に開放された外向きの溝、即ち張地5の縁部を嵌め込み固定するための張地取付用溝21がほぼ全長に亘って設けられている。この張地取付用溝21には、人手によって付与できる程度の張力がかけられた状態の張地5の縁が係止部材と共に折り返されて嵌め込まれる(図3参照)ことによって、腰部サポートフレーム23の前面側の曲線形状に沿ってメッシュ張地1が張設される。
ここで、各フレーム11,12,23を構成する部材は、特定の素材に限定されるものではなく合成樹脂でもアルミニウムやステンレススチールなどの金属でも構成可能であるが、好ましくポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂などの熱可塑性合成樹脂あるいは熱硬化性合成樹脂によって、それ自体でメッシュ張地12の張力を保持できる剛性を有しているものとして上述の形状に成形されている。
本実施形態の場合、腰部サポート部3と座部2とは1枚のメッシュ張地1で身体支持面が連続的に形成されている。この場合には、腰部サポート部3のメッシュ張地1も後部領域9の座面にかかる張力を負担するため、座面にかかる力(体重)が腰部サポート面が着座者の腰部をサポートする力としても作用し、臀部支持面と腰部サポート面とが連係して骨盤全体を包み込むようにホールドして、立った骨盤を立体的に保持する良好なホールド感が得られると共に安定姿勢が保たれる。勿論、座部2と腰部サポート部3とを分断されたメッシュ張地1で不連続に形成しても良いが、この場合には、座面を構成するメッシュ張地1の上端を何らかの手段で前後方向に移動しないように図示しないフレームなどで固定しておけば、腰部サポート部3と座部2とを一体に成形する場合と同様のホールド感が得られる。尚、座部2と腰部サポート部3とは1枚のメッシュ張地1で連続的な一つの身体支持面を形成しているが、場合によっては複数のメッシュ張地1を縫合することによって一体化した場合も含まれる。
尚、本明細書において、メッシュ張地1と称するものは、椅子の座部2あるいは腰部サポート部3などの身体支持構造物として必要とされる強度、弾力性を発揮させる張力を生じる柔軟性を有するエラストマー素材によって構成される全てのメッシュ状の張地あるいは構造的に弾力性等を発揮させるものを含むものであり、例えば織物、編物、織物あるいは編物から成るメッシュ、不織布、フィルム等のいずれの形態をとるものであっても使用可能であるが、好ましくはポリエステル糸やナイロン糸などの熱可塑性樹脂繊維による織物あるいは編物、さらには織物あるいは編物から成るメッシュ(本明細書ではこれらを総称して単にメッシュと呼ぶ)を用いることである。メッシュ張地1によって構成された身体支持面特に座面によれば、着座者である執刀医の座面と接触する部分全面で体重を分散させて支持するため座面の硬さを感じないし、高い通気性が得られることから、手術などの長時間の座り作業における着座者の疲労を軽減する椅子を提供することができる。また、場合によっては、メッシュ張地1として例えばポリ塩化ビニリデン製のフィルムを使用することもできる。
また、ベースフレームに対してメッシュ張地の張り方向に拡張可能に支持されるサブフレームによって張り込まれるメッシュ張地1は、上述の実施形態のような全面において均一な編みあるいは織りによって構成されるものに特に限られない。例えば、前部領域8と後部領域9とで編み方を変えることによって後部領域9の伸びを前部領域8の伸びよりも大きくしたり、エラストマー糸の配置や挿入本数などを変更してテンションを帯状に部分的に変更したり、伸びるメッシュ張地と伸びないメッシュ張地とを組み合わせたり、あるいはメッシュ張地1の織り込み密度あるいは編み込み密度を敢えて均一にせずに、メッシュの目の粗い低密度部と、メッシュの目の細かい高密度部とを有するものを用いることにより、前部領域8に比べて後部領域9の伸び量が大きくなるように構成するようにしても良い。このメッシュ張地1の場合にも、前部領域8よりも後部領域9の方が伸縮し易く沈み込むこととなるため、座骨結節をホールドして、前ずれを防ぐことができる。
ここで、編み組織(編み方)を途中で変化させることにより前部領域8を後部領域9に比べて密度をアップさせる手法としては、例えば、メッシュ張地1が丸編み(緯編み)である場合には、後部領域9を天竺編みで、前部領域8をタック編みに切り替えて編成し、両領域の境界においては一コース(編地を形成する方向:よこ方向)のループの途中で部分的にあるいは全域で編み方を切り替え、ウェール方向(ループを連綴させる方向:たて方向)に切り替える箇所を段階的にずらすことで非直線状に形成することができる。つまり、横方向へ一段(1コース)編む間に編み方を切り替え、切り替える箇所をコース毎に段階的にずらすことで編み組織(編み方)を変化させることにより、非直線状の境界を形成している。
また、本実施形態では、熱収縮性の弾性糸を使用してメッシュ張地を編むあるいは織るようにしているが、これに特に限られるものではなく、非弾性糸によってメッシュ張地を編むあるいは織るようにしても良い。この場合においても、挿入糸としてエラストマー糸が使用されていれば、メッシュ張地全体としての弾力性を発揮させることができる。尚、エラストマー糸としては、ベース織地を構成する熱収縮性を有する弾性糸即ち地糸よりも熱収縮率が高い素材、例えばポリエステル系、ウレタン系、ナイロン系、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系などの熱可塑性エラストマー材料が使用可能であり、中でもポリエステル系やウレタン系の熱可塑性エラストマーの使用が好ましい。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態の場合、締結用ねじ13とナット部17をねじ送り機構として利用することによって、ベースフレーム11に対してサブフレーム12をメッシュ張地1の張り方向へ平行移動させることで少なくとも相対向するサブフレーム12の間の間隔を拡張する拡張機構を構成するようにしているが、これに特に限られるものでなく、カム機構やねじ式ジャッキ(パンタグラフジャッキ)機構などを拡張機構として用いても良い。
例えば、図9に示すように、ベースフレーム11に対してメッシュ張地(図示省略)の張り方向へ移動可能に支持されている左右のサブフレーム12間に拡張位置と縮小位置との2位置を有するカムディスク30を回転可能に配置し、レバー31などで回転操作可能としても良い。ここで、サブフレーム12とベースフレーム11との間にはガイドロッド33を貫通させ、サブフレーム12をガイドロッド33に沿ってメッシュ張地の張り方向に摺動可能に支持する一方、サブフレーム12間に互いに引き寄せる引っ張りばね37を設けてサブフレーム12間を縮める方向に常時付勢することが好ましい。この拡張機構によれば、カムディスク30の拡張位置(相対向する2位置間が広い方)では、引っ張りばね37の力に抗してカムディスク30により外側へ押し出されてサブフレーム12の間隔が拡張される。したがって、ベースフレーム11の側壁面にサブフレーム12のスライダ部34が押し当てられて両フレーム11,12が固定されると共に、メッシュ張地が張り込まれる。また、カムディスク30の縮小位置(相対向する2位置間が狭い方)では、引っ張りばね37の力でサブフレーム12の間隔が縮められてベースフレーム11の側面からサブフレーム12が乖離してベースフレーム11から離される。依って、メッシュ張地が緩み、サブフレーム12の張地取付用溝(図示省略)からメッシュ張地の縁が取り外せるので、メッシュ張地の取り外し、取り替えが容易に行える。尚、引っ張りばね37は相対向するサブフレーム12間の間隔を狭める方向への移動を補助するものとして機能するものであり、必ずしも備えなくとも良く、人手によって移動させるようにしても良い。尚、図中の符号32はローラ、35はローラ32を受け止める受圧板、36はローラを嵌入させ位置決めするための切り欠きである。
上述のメッシュ張り構造によれば、サブフレーム12の張地取付用溝にメッシュ張地の縁を折り返して嵌入した状態でカムディスク30を拡張位置に回すだけの簡単な作業でメッシュ張地にテンションをかけてサブフレーム12に取り付けることができる。他方、カムディスク30を縮小位置に戻せば、メッシュ張地にかかるテンションが解除され弛むので、メッシュ張地の縁はサブフレーム12の張地取付用溝から簡単に離脱させ得るので、メッシュ張地をサブフレーム12から容易に取り外せる。
また、ねじ式ジャッキ(パンタグラフジャッキ)機構を用いて、フレーム構造の拡張機構を構成しても良い。例えば、図10に示すように、ベースフレーム11に対してメッシュ張地1の張り方向へ移動可能に支持されている左右のサブフレーム12間に前後方向に送りねじ41が配置されたパンタグラフジャッキ40を配置して、パンタグラフ形のリンク機構(以下、単にパンタグラフと呼ぶ)42の両端の滑節部分43をサブフレーム12にそれぞれ連結し、ねじ41の回転によってパンタグラフ42を縮めたり拡げたりすることでサブフレーム12間を拡張ないし縮小するように構成しても良い。このパンタグラフ式拡張機構40によれば、サブフレーム12の張地取付用溝(図示省略)にメッシュ張地の縁を折り返して嵌入した状態でねじ41を回してサブフレーム12を張り方向に移動させるだけの簡単な作業でメッシュ張地にテンションをかけてサブフレーム12に取り付けることができる。他方、パンタグラフ42を縮めれば、サブフレーム12が内側に引っ張られて移動すると共にメッシュ張地にかかるテンションが解除されるため、メッシュ張地の縁がサブフレーム12の張地取付用溝から簡単に離脱させ得る状態となるので、メッシュ張地をサブフレーム12から容易に取り外せる。このパンタグラフ式拡張機構40の場合にも、サブフレーム12とベースフレーム11との間にガイドロッド45を貫通させ、サブフレーム12をガイドロッド45に沿ってメッシュ張地の張り方向に摺動可能に支持させることがスムーズな摺動動作を確保する上で好ましい。尚、図中の符号44はハンドル、47は滑節部分43を固定する受圧板、46はサブフレームに備えられたスライダ部であり、ガイドロッド45に沿って移動する摺動するものである。
さらに、上述の実施形態では、サブフレームをベースフレームの外側あるいは内側に並べて配置し、ベースフレームに対して平行移動可能に支持すると共に、メッシュ張地の張り方向へサブフレームを移動させることによってメッシュ張地にテンションをかけると同時にサブフレームに固定する拡張機構としているが、これに特に限られるものではない。例えば、図11に示すように、ベースフレーム51の枢軸53を中心に(即ちベースフレームを軸として)サブフレーム52をメッシュ張地1の張り方向へデットポイントを乗り超えた位置まで回動させることによって、サブフレーム52をベースフレーム51に対し固定すると共に、サブフレーム52の実質的間隔(左右のサブフレーム52の張地取付用溝21の間の間隔)を拡張させてメッシュ張地1に身体支持面として必要なテンションが付与される拡張機構50を用いるようにしても良い。つまり、サブフレーム52をベースフレーム51に対して偏心回転させることでフレーム構造を拡張し、メッシュ張地にテンションをかけて張り込む回転式拡張機構50を構成することも可能である。図11の実施形態の場合、サブフレーム52が略半円形の形状を成し、ベースフレーム51の枢軸53から離れた位置に張地取付用溝21を備えて、当該サブフレーム52の枢軸53を中心とする回動でメッシュ張地1を巻きこむようにしながら、ベースフレーム51の外側へ拡張するように構成されている。即ち、張地取付用溝21を中心に見れば、枢軸53が偏心した位置に存在するために、サブフレーム52が揺動するレバーを兼ねているが、場合によっては図5に示す実施形態の張地掛け部14のような形態のサブフレームを独立したレバー(図示省略)で支承し、レバーの回転中心軸をベースフレームに回転自在に軸承させる軸受け部とで回転式拡張機構50を構成するようにしても良い。この場合、軸受け部にレバーの回転中心軸を軸承させてレバーをベースフレームの外側へ揺動させてデットポイントを超えさせた位置でサブフレームがベースフレームに対し固定され、サブフレームの間隔が拡張してメッシュ張地に身体支持面として必要なテンションが付与される。
以上のことから、本発明のメッシュ張り構造において、拡張機構については特定の構造等に限られず、ベースフレームに対してサブフレームをメッシュ張地の張り方向へ移動可能にしてメッシュ張地にテンションを付与した状態でベースフレームに固定し得るものであれば足り、サブフレームがベースフレームに対し固定されたときに、サブフレームの間隔が拡張してメッシュ張地に身体支持面として必要なテンションが付与される機構の全てを含むものであることは明らかである。
また、上述の実施形態においては、メッシュ張地1をサブフレーム12に対して分離可能な独立した構造とした例を挙げて主に説明しているが、これに特に限られるものではない。メッシュ張地1をサブフレーム12に予め固定・一体化したものとし、サブフレーム12ごとベースフレーム11に取り付けることによって、メッシュ張地の取り外しと取り付け、並びにテンションをかける構造としても良い。例えば、図示していないが、図5に示す実施形態を例に挙げれば、張地掛け部14を支持アーム部15から分離可能な構成とする一方、支持アーム部15とその基端部のスライダ部16、ナット部17及びベースフレーム11の側壁の貫通孔22を貫通する締結用ねじ13とによって構成される拡張機構(支持アーム部15の先端)に張地掛け部14をビス止めなどで脱着自在に装着するようにしても良い。例えば、支持アーム15の先端に張地掛け部14を受け支えるL形の受け座を設けて、ビス止めすれば簡単に取り付けられる。この場合の張地掛け部14は、張地取付用溝21を備えず、インサート成形や二色成形などでメッシュ張地1の縁と一体化されたものとなるので、実質的なサブフレーム12として機能するものであり、張地掛け部14(サブフレーム12)ごと身体支持面を構成するメッシュ張地1を取り替えることができる。しかも、メッシュ張地1は、製造段階時にテンションを必要としないので、大型のメッシュ張り込み設備やヒートセット設備などを必要とせず、サブフレーム12と一体化されるので、見栄え良く確実に固定できる。
また、上述の実施形態では主に幅方向の一軸方向の拡張について例を挙げてフレーム構造の拡張機構について説明したが、これに特に限られるものでは無く、前後方向あるいは上下方向の一軸方向への拡張は勿論のこと、互いに交わる二軸方向例えば前後左右あるいは上下左右の双方向にメッシュ張地を張ることも可能である。さらに、上述の実施形態では、身体支持構造物として主に座として構成したものを例に挙げて本発明を説明したが、これに特に限定されるものではなく、背やヘッドレスト、肘掛けなどにも適用可能であることは言うまでも無い。例えば、背に適用する場合においても、脚部に支えられるベースフレーム(この場合には背支桿となる)と、メッシュ張地を固定する少なくとも一対の相対向するサブフレームと、背支桿・ベースフレームに対してサブフレームをメッシュ張地の張り方向へ移動可能にしてメッシュ張地にテンションを付与した状態でベースフレームに固定する拡張機構とを備えれば、サブフレームがベースフレームに対し固定されたときに、サブフレームの間隔が拡張してメッシュ張地に身体支持面・背もたれ面として必要なテンションが付与される。勿論、本発明にかかる椅子のメッシュ張り構造は、作業用椅子に限られず、事務用椅子、一般用椅子、看護用椅子等の椅子全般であることは勿論である。さらに、本発明にかかる椅子は、身体支持構造物1は、そのままで椅子の座や背凭れ等として使用することができるが、場合によってはその上から表皮部材を取り付けたり、クッション材などを併用するようにしても良い。
上述の実施形態では、メッシュ張地とフレームの溝とは、メッシュ張地の縁を折り返した状態で嵌め込むことで固定するようにしているが、これに特に限られるものではなく、抜け止め(爪や、突起など)を備えればメッシュ張地の縁は必ず折り返して溝に嵌め込まなとも抜け出ることはなく、溝と、該溝に嵌め込まれる縁部材とが直交状態にして嵌め込むだけでも良い。