JP6476989B2 - 圧粉磁心の製造方法 - Google Patents
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(1)本発明の圧粉磁心の製造方法は、純鉄またはFeを90質量%以上含む鉄合金からなる軟磁性粒子の表面が、Mn、Zn、Ni、CuまたはMgの一種以上である金属元素(M)の酸化物粒子と酸化鉄粒子とにより被覆された被覆粒子からなる磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた成形体を370〜600℃で加熱する熱処理工程とを備え、該軟磁性粒子間にスピネル型フェライト(MFe2O4)が生成された圧粉磁心が得られることを特徴とする。
本発明は上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた圧粉磁心としても把握できる。さらにいえば、本発明は、成形工程に供される被覆粒子からなる磁心用粉末としても把握することができる。
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
(1)軟磁性粒子(軟磁性粉末)
軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、特性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。軟磁性粉末として純鉄粉を用いると、高い飽和磁束密度が得られ、圧粉磁心の磁気的特性を向上させ得る。この観点から、軟磁性粉末として鉄合金粉を用いる場合も、そのFe含有量が大きいほど好ましい。例えば、全体を100質量%としたときに、Feが90質量%以上さらには95質量%以上である鉄合金粉を用いるとよい。鉄合金を構成する合金元素として、例えばSiやAlがある。これらの合金元素を1〜3質量%程度含むことにより、圧粉磁心の比抵抗をさらに向上させ得る。なお、本発明に係る軟磁性粉末は、組成または形態(粒径、形状)の異なる二種以上の粉末を混合した混合粉末でもよい。
酸化鉄は種々あるが、本発明に係る酸化鉄は主にFe2O3 さらにいえば、α−Fe2O3(ヘマタイト)であると好ましい。熱処理工程によりS型フェライトが形成される限り、本発明に係る酸化鉄にはFeO(ウスタイト)、Fe3O4 (マグネタイト)等が少量含まれていてもよい。
本発明に係る酸化物粒子は、Mn、Zn、Ni、CuおよびMgからなる特定金属群から選択された一種以上の金属元素(M)の酸化物からなる。Mは、Feと共にS型フェライトを構成する金属元素である。Mは一種でも二種以上でもよく、本発明に係る酸化物は複合酸化物(例えばMnxZn1−xO、0<x<1)でもよい。また、Mの価数は2(例えばMnO)でも、3(例えばMn2O3)でも、4(例えばMnO2)でもよい。さらに、酸化物は一種に限らず二種以上でもよい。つまり本発明に係る酸化鉄粒子は、複数種の酸化物粒子を混合したもの(例えば、ZnOとMnO2またはMn2O3)でもよい。
(1)造粒工程
軟磁性粒子の表面を酸化物粒子と酸化鉄粒子で被覆した被覆粒子(被覆型複合粒子)の造粒方法またはその被覆粒子からなる磁心用粉末の調製方法は種々考えられる。例えば、磁心用粉末は、軟磁性粒子からなる軟磁性粉末と酸化物粒子からなる酸化物粉末と酸化鉄粒子からなる酸化鉄粉末とを衝突エネルギー1〜5J/s・gを満たす強エネルギー下で撹拌混合する造粒工程を経て得られると好適である。このように強い(機械的)エネルギーが付与された被覆粒子は表面活性が高く、さらにはメカノケミカル的な反応も生じ易くなる。このため本発明に係る造粒工程を経て得られた磁心用粉末を用いると、一般的なフェライト生成温度(900℃以上)よりも大幅に低い温度で加熱(焼鈍等)しても、軟磁性粒子の表面にS型フェライト層を安定的に生成され易くなる。
本発明に係るS型フェライト(MFe2O4)は、基本的に軟磁性粒子の表面に付着した酸化物粒子と酸化鉄粒子により生成される。このため酸化物粒子(粉末)と酸化鉄粒子(粉末)は、金属元素(M)と鉄(Fe)の原子比が1:2となる付近(例えば、原子比でM/Fe=0.35〜0.65)で配合されると好ましい。
本発明に係る成形工程は、通常、所望形状のキャビティを有する成形型に充填した磁心用粉末を加圧成形することによりなされる。成形圧力は適宜調整され得るが、高圧成形するほど高密度で高磁束密度の圧粉磁心が得られる。このような高圧成形方法として、金型潤滑温間高圧成形法を用いると好適である。金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した成形型へ磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と成形型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸被膜が生成される成形温度および成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。なお「温間」とは、表面被膜(または絶縁被膜)への影響や高級脂肪酸系潤滑剤の変質などを考慮して、例えば、成形温度を70℃〜200℃さらには100〜180℃とするとよい。金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多数の公報に詳細が記載されている。
本発明に係る熱処理工程は、成形工程で得られた成形体を加熱してなされる。この熱処理工程により、軟磁性粒子をコーティングしている酸化物粒子と酸化鉄粒子が反応して、軟磁性粒子の表面または軟磁性粒子間にS型フェライトが生成される。なお、このフェライト生成反応には、Feを主成分とする軟磁性粒子が触媒的に作用していると考えられる。
軟磁性粒子の表面または粒界に生成されるS型フェライトは、MがMnとZnであるMnZnフェライト、またはMがMnとNiであるNiMnフェライトからなると、圧粉磁心の高比抵抗と高磁束密度の両立を図れて好ましい。さらにMは、Mn(任意でZn、Ni)に加えて、Mgを含むと好ましい。このようなフェライト層は、非常に薄くても優れた絶縁性を発揮し、熱処理前後における絶縁性の変化が少ない。
(1)磁気的特性
本発明に係る圧粉磁心は、飽和磁束密度が高く、例えば、10kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B10k)が1.6T以上、1.7T以上さらには1.8T以上にもなり得る。また、その透磁率は、例えば、600以上さらには700以上にもなり得る。さらに、その比抵抗値は、例えば、50μΩm以上さらには100μΩm以上にもなり得る。なお、軟磁性粒子の真密度(ρ0)に対する圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ0)は、例えば95%以上さらに98%以上であると、圧粉磁心の磁気的特性が向上して好ましい。
本発明に係る圧粉磁心は、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等の電磁機器に利用され得る。特に電動機または発電機の電機子(回転子または固定子)を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心、具体的には、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータ用鉄心として好適である。なお、いずれの電磁機器中で使用されるにしても、本発明に係る圧粉磁心は100〜30000Hzさらには200〜20000Hz程度の交番磁界中で使用されると好ましい。
(1)原料粉末
軟磁性粉末として、純鉄からなるガス水アトマイズ粉(単に「Fe粉末」という。)を用意した。用いた各粉末の粒度は、上限値〜下限値→粒度の順で記載すると、212〜106μm→159μmである。なお、この粒度は、前述した通り、電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)により分級(篩い分け)したときに用いたメッシュサイズの上限値と下限値の中央値である。この軟磁性粉末に30μm未満の軟磁性粒子が含まれていないことは、SEMより確認している。
軟磁性粉末、酸化鉄粉末および酸化物粉末を次の2通りの割合で配合した。なお、各粉末の割合は、配合粉末全体を100質量%として示した。
(試料1)Fe2O3粉末:0.8質量%、MnO2粉末:0.2質量%、ZnO粉末:0.1質量%、Fe粉末:残部
(試料2)Fe2O3粉末:1.6質量%、Mn2O3粉末:0.35質量%、ZnO粉末:0.2質量%、Fe粉末:残部
各配合粉末を遊星ボールミル(伊藤製作所社製 LP−4)で撹拌混合した。この処理は次の条件下で行った。SKD製250ccボットの中にZrO2ボール(粒径:3mm):800g、軟磁性粉末:100g、酸化鉄粉末および酸化物粉末の所定量を投入した。回転速度:500rpm、加工時間:0.5hとして、常温、大気中で処理した。このとき付与されるエネルギーの指標値は3J/s・gである。こうして試料1および試料2に係る磁心用粉末をそれぞれ調製した。
(1)成形工程
各磁心用粉末を用いて、金型潤滑温間高圧成形法により、リング状(外径:φ39mm×φ30mm×厚さ5mm)の成形体を得た。この際、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。具体的には次のようにして成形した。
得られた各成形体を加熱炉に入れて、酸素濃度0.1%の不活性ガス(Ar)雰囲気中で1時間加熱した。このときの加熱温度は400℃とした。なお、この雰囲気中の酸素濃度を、0%、0.01%または20%とした酸素含有雰囲気中でも、別途、各成形体を加熱した。こうして、熱処理後の各種の成形体(圧粉磁心)を得た。なお、ここで示した酸素濃度「%」は、常温、1気圧状態で酸素濃度計で測定して求めた。
(1)比抵抗および磁束密度
熱処理前後の各成形体について、それぞれの比抵抗(ρ)と磁束密度B10kを求めた。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した電気抵抗と、各試料を実際に採寸して求めた体積とから算出した。
熱処理前後の各成形体をそれぞれ切断し、Fe粒子の粒界をX線回折(XRD)により分析した。XRDは、X線回折装置(D8 ADVANCE:ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて、管球:Fe−Kα、 2θ:30〜50deg、測定条件:0.021deg/step、9step/secとして行った。
(1)磁束密度と比抵抗
試料1に係る熱処理前の成形体は、ρ=150μΩm、B10k=1.55T であった。この成形体を、酸素を0.1%含む不活性ガス中で熱処理したところ、ρ=90μΩm、B10k=1.7Tとなった。このことから、上述した製造方法を実施することにより、比抵抗の低減を抑制しつつ(耐熱性を確保しつつ)、磁束密度の向上を図れることがわかった。
酸素濃度が異なる種々の雰囲気で熱処理工程を行った種々の成形体(試料1)の粒界をXRDで観察した。その結果、酸素濃度が0.1%である不活性ガス(Ar)中で熱処理した圧粉磁心の粒界は、ほぼS型フェライトのみとなっていた(図1参照)。
試料1に係る造粒工程を、遊星ボールミルに替えて、一般的なボールミル(アサヒ理化製作所社製 AV−1)を用いて行った。このときの処理条件は、回転速度150rpmであり、付与されるエネルギーの指標値は0.1J/s・gである。
試料1に係るFe粉末をZrO2ボール(粒径:3mm)に替えて、上述した造粒工程、成形工程および熱処理工程をそれぞれ行った。熱処理前後の成形体についてXRDにより解析した結果を図3に示した。図3からわかるように、基粒子がZrO2であると、Fe粒子の場合と同様に処理しても、粒子表面にフェライトが生成されないことがわかった。
Claims (6)
- 純鉄またはFeを90質量%以上含む鉄合金からなる軟磁性粒子の表面が、Mn、Zn、Ni、CuまたはMgの一種以上である金属元素(M)の酸化物粒子と酸化鉄粒子とにより被覆された被覆粒子からなる磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、
該成形工程後に得られた成形体を370〜700℃で加熱する熱処理工程とを備え、
該軟磁性粒子間にスピネル型フェライト(MFe2O4)が生成された圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。 - 前記磁心用粉末は、前記軟磁性粒子からなる軟磁性粉末と前記酸化物粒子からなる酸化物粉末と前記酸化鉄粒子からなる酸化鉄粉末とを衝突エネルギー1〜5J/s・gを満たす強エネルギー下で撹拌混合する造粒工程を経て得られる請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
- 前記磁心用粉末は、全体を100質量%として、
前記酸化物粒子:0.04〜0.8質量%、
前記酸化鉄粒子:0.2〜4.0質量%、
前記軟磁性粒子:残部である請求項1または2に記載の圧粉磁心の製造方法。 - 前記軟磁性粒子の粒度:50〜500μmであり、
前記酸化物粒子の粒度:5μm以下であり、
前記酸化鉄粒子の粒度:5μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。 - 前記熱処理工程は、酸素濃度が10%以下である不活性ガス雰囲気でなされる請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
- 前記酸化物粒子は、MnO、MnO2またはMn2O3粒子を含み、
前記不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は0.1%以下である請求項5に記載の圧粉磁心の製造方法。
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