以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
まず、図1を用いて、実施形態に係る全輪駆動車の駆動力配分制御装置1の構成について説明する。図1は、全輪駆動車の駆動力配分制御装置1が搭載されたAWD(All Wheel Drive:全輪駆動)車4のパワートレイン及び駆動力伝達系の構成を示すブロック図である。本実施形態に係るAWD車4は、無段変速機(CVT)30を搭載した、アイドリングストップ機能を有するパートタイム式AWD車である。特に、AWD車4は、FF(Front engine Front drive)ベースのパートタイム式AWD車である。
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ81により検出される。さらに、スロットルバルブには、該スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ82が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
上述したエアフローメータ81、スロットル開度センサ82に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ83、及びエンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ84等の各種センサも接続されている。ここで、アクセルペダルセンサ83は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、車両挙動の安定性を示す指標値(詳細は後述する)として用いられるアクセルペダル開度を検出するアクセルペダル開度検出手段に相当する。また、水温センサ84は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、指標値として用いられるエンジン20の冷却水温度を検出する水温検出手段に相当する。
エンジン20の出力軸(クランク軸)21には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ22、及び前後進切換機構31を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力する無段変速機30(特許請求の範囲に記載の自動変速機に相当)が接続されている。
トルクコンバータ22は、主として、ポンプインペラ23、タービンライナ24、及びステータ25から構成されている。出力軸21に接続されたポンプインペラ23がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ23に対向して配置されたタービンライナ24がオイルを介してエンジン20の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ25は、タービンライナ24からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ23に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
また、トルクコンバータ22は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ26を有している。トルクコンバータ22は、非ロックアップ状態のときはエンジン20の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップ時はエンジン20の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。
前後進切替機構31は、駆動輪の正転と逆転(AWD車4の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構31は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列(図示省略)、前進クラッチ及び後進ブレーキを備えている。前後進切替機構31では、前進クラッチ、及び後進ブレーキそれぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
無段変速機30は、前後進切替機構31を介してトルクコンバータ22のタービン軸(出力軸)と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
ここでプライマリプーリ34(可動プーリ34b)には油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動プーリ35b)には油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
無段変速機30のセカンダリ軸37は、一対のギヤ(リダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤ)からなるリダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39につながれており、無段変速機30で変換された駆動力は、リダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39に伝達される。カウンタ軸39は、一対のギヤ(カウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤ)からなるカウンタギヤ40を介して、フロントドライブシャフト43につながれている。カウンタ軸39に伝達された駆動力は、カウンタギヤ40、及び、フロントドライブシャフト43を介してフロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)44に伝達される。フロントデフ44は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ44からの駆動力は、左前輪ドライブシャフト45Lを介して左前輪10FLに伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフト45Rを介して右前輪10FRに伝達される。
一方、上述したカウンタ軸39上のカウンタギヤ40(カウンタドライブギヤ)の後段には、リヤディファレンシャル47に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチ41が介装されている。トランスファクラッチ41は、4輪の駆動状態(例えば前輪10FL,10FRのスリップ状態等)やエンジントルクなどに応じて締結力(すなわち後輪(従駆動輪)10RL,10RRへのトルク分配率)が制御される。よって、カウンタ軸39に伝達された駆動力は、トランスファクラッチ41の締結力に応じて分配され、後輪10RL,10RR側にも伝達される。
より具体的には、カウンタ軸39の後端は、一対のギヤ(トランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤ)からなるトランスファギヤ42を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。よって、カウンタ軸39に伝達され、トランスファクラッチ41によって調節(分配)された駆動力は、トランスファギヤ42(トランスファドリブンギヤ)から、プロペラシャフト46を介してリヤディファレンシャル47に伝達される。
リヤディファレンシャル47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。リヤディファレンシャル47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
上述したようにパワートレインの駆動力伝達系が構成されることにより、例えば、セレクトレバーがDレンジに操作された場合には、エンジン駆動力が無段変速機30のプライマリ軸32に入力される。無段変速機30により変換された駆動力は、セカンダリ軸37から出力され、リダクションギヤ38、カウンタ軸39、カウンタギヤ40を介してフロントドライブシャフト43に伝達される。そして、フロントディファレンシャル44によって駆動力が左右に分配され、左右の前輪10FL,10FRに伝達される。したがって、左右の前輪10FL,10FRは、AWD車4が走行状態にあるときには、常に駆動される。
一方、カウンタ軸39に伝達された駆動力の一部は、トランスファクラッチ41、及びトランスファギヤ42を介してプロペラシャフト46に伝達される。ここで、トランスファクラッチ41に所定のクラッチトルクが付与されると、そのクラッチトルクに応じて分配された駆動力がプロペラシャフト46に出力される。そして、リヤディファレンシャル47を介して駆動力が後輪10RL,10RRにも伝達される。これにより、AWD車4では、FFベースのパートタイム式AWD車としての機能が発揮される。
各車輪10FR〜10RR(以下、すべての車輪10FR〜19RRを総称して車輪10ということもある)それぞれには、車輪10FR〜10RRを制動するブレーキ11FR〜11RR(以下、すべてのブレーキ11FR〜11RRを総称してブレーキ11ということもある)が取り付けられている。また、各車輪10FR〜10RRそれぞれには、車輪回転速度を検出する車輪速センサ12FR〜12RR(以下、すべての車輪速センサ12FR〜12RRを総称して車輪速センサ12ということもある)が取り付けられている。
本実施形態では、ブレーキ11として、ディスクブレーキを採用した。ブレーキ11は、AWD車4の車輪10に取り付けられたブレーキディスクと、ブレーキパッド及びホイールシリンダを内蔵したブレーキキャリパを有して構成されている。ブレーキ時(制動時)には、油圧によりブレーキパッドがブレーキディスクに押圧され、摩擦力によってブレーキディスクと連結されている車輪10が制動される。なお、本実施形態で用いられているブレーキ10は、ディスクブレーキであるが、摩擦材をドラムの内周面に押し付けて制動するドラムブレーキ等を用いてもよい。
車輪速度センサ12は、車輪10とともに回転するロータ(ギヤロータ、又は磁気ロータ)による磁界の変化を検出する非接触型センサであり、例えば、ロータ回転をホール素子やMR素子で検出する半導体方式が好適に用いられる。車輪速度センサ12は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、指標値として用いられる車速を検出する車速検出手段に相当する。
また、このAWD車4には、急制動や滑りやすい路面で制動した場合に生じる車輪ロックを防止し、各車輪のスリップ率を適正に保つことで、制動時の方向安定性と操舵性を確保するとともに、最適な制動力を得るアンチロックブレーキシステム(ABS)50が搭載されている。なお、詳細は後述する。
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、機械式オイルポンプ61又は電動オイルポンプ62から吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。同様に、バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブを用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、機械式オイルポンプ61又は電動オイルポンプ62から吐出された油圧を調整して、トランスファクラッチ41に各クラッチを締結/解放するための油圧を供給する。
無段変速機30の変速制御は、トランスミッション制御装置(以下「TCU」ともいう)70によって実行される。すなわち、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30の変速比を変更する。同様に、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節して、後輪10RL,10RRへ伝達される駆動力の分配比率を調節する。
ここで、機械式オイルポンプ61は、オイルパンに貯留されているオイル(ATF)をストレーナを介して吸い上げ、昇圧し、バルブボディ60へ供給する。なお、機械式オイルポンプ61としては、例えば、同軸式の内接ギヤ・トロコイドタイプや、チェーン駆動式のベーンタイプのものなどが好適に用いられる。
また、無段変速機30には、アイドリングストップ中に油圧を供給するために、電動オイルポンプ62を備えている。電動オイルポンプ62は、電動モータにより駆動され、オイルを昇圧して吐出する。電動オイルポンプ62は、後述するTCU70によって駆動が制御される。
上述したように、無段変速機30の変速制御及びトランスファクラッチ41の締結・解放制御(駆動力配分制御)などはTCU70によって実行される。ここで、TCU70には、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン20を総合的に制御するECU80、及び、ABSコントロールユニット(以下「ABSCU」という)51等と相互に通信可能に接続されている。
TCU70、ECU80、及びABSCU51は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。
ECU80では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びにスロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を総合的に制御する。
また、ECU80は、燃費を低減するとともに、排出されるエミッションを低減するために、所定のアイドリングストップ条件が満足された場合にエンジン10を自動的に停止する。その後、所定のアイドリングストップ解除条件が満足されたときに、ECU80はエンジン10を再始動する。
より詳細には、ECU80は、例えば、ブレーキペダルが踏まれていること、及び/又は、シフトポジションがD(ドライブ)レンジ又はN(ニュートラル)レンジであること等が成立した場合に、エンジン10に対する燃料噴射及び点火を停止することにより、エンジン10を停止しアイドリングストップを実行する。一方、ECU80は、例えば、ブレーキペダルの踏み込みが解除されたとき、及び/又は、シフトポジションがP(パーキング)レンジ又はR(リバース)レンジに入れられたときに、エンジン10を再始動する。また、ECU80は、上述した運転者の操作(再始動要求)以外の要因に基づいてもエンジン10を再始動する。すなわち、例えば、バッテリ電圧が低下してきてアイドリングストップを継続すると再始動できなくなる可能性がある場合や、エンジンを停止していることにより、エアコンの暖房性能・冷房性能が落ちてきて、車室内が寒くなってきた場合又は暑くなってきた場合に、ECU80はエンジン10を再始動する。
また、ECU80は、CAN100を介して、エンジン水温(冷却水温度)、アクセルペダル開度、エンジン回転数、エンジン軸トルク等の各種情報、及び、アイドリングストップが実行中か否かを示すアイドリングストップ情報をTCU70に送信する。なお、アイドリングストップ中か否かは、TCU70側で判断する構成としてもよい。
ABSCU51には、4つの車輪速センサ11FL〜11RR、操舵角センサ16、前後加速度(前後G)センサ55、横加速度(横G)センサ56、及びブレーキスイッチ57などが接続されている。車輪速センサ11FL〜11RRは、上述したように、車輪10FL〜10RRの中心に取り付けられた歯車の回転を磁気ピックアップ等によって検出することにより、車輪10FL〜10RRの回転状態を検出する。前後加速度センサ55は、AWD車4に作用する前後方向の加速度(以下、単に「加速度」ともいう)を検出し、横加速度センサ83は、AWD車4に作用する横方向の加速度を検出する。また、操舵角センサ16は、ピニオンシャフトの回転角を検出することにより、操舵輪である前輪10FL,10FRの操舵角(すなわちステアリングホイールの操舵角)を検出する。操舵角センサ16は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、指標値として用いられるステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角検出手段に相当する。
ABSECU51は、各車輪10FL〜10RRに設けた車輪速度センサ11FL〜11RRの回転情報を基に各車輪11FL〜11RRのスリップ状態を推定し、マスタバック(マスタシリンダ)53とホイールシリンダ間に設けられたABSユニット(ABSアククエータ)52を駆動させ、制動時の各輪ブレーキ油圧(ホイールシリンダ油圧)を独立に(ロックを防止するように)制御する。ここで、ABSユニット52は、ABSECU51からの制御指令により制動時(ブレーキ時)のホイールシリンダ油圧を調節する。
なお、ABSCU51は、滑りやすい路面や過大な駆動力によって生ずる駆動輪の空転を抑えて、発進時や加速時の車両安定性と加速性を確保するトラクションコントロール機能(TCS機能)を兼ね備えている。そのため、ABSユニット52には、各輪独立に自動加圧できる機能が付加されている。
ABSECU51は、検出した各車輪10の車輪速、操舵角、前後加速度、横加速度、ABS制御・TCS制御が実行中であるか否かを示す情報(ABSフラグ・TCSフラグ)、及び制動情報(ブレーキング情報)等を、CAN100を介してTCU70に送信する。
TCU70には、無段変速機30の油温を検出する油温センサ91、セカンダリ軸(出力軸)37の回転数を検出する出力軸回転センサ92、シフトレバーの選択位置を検出するレンジスイッチ93、及び外気温度を検出する外気温センサ94等が接続されている。ここで、油温センサ91は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、指標値として用いられる無段変速機30の油温を検出する油温検出手段に相当する。また、外気温センサ94は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有し、指標値として用いられる外気温を検出する外気温検出手段に相当する。
また、上述したように、TCU70は、CAN100を介して、ABSCU51から、各車輪10の車輪速、操舵角、前後加速度、横加速度、ABS制御・TCS制御が実行中であるか否かを示す情報(ABSフラグ・TCSフラグ)、及び制動情報(ブレーキング情報)等を受信するとともに、ECU80から、エンジン水温(冷却水温度)、アクセルペダル開度、アイドリングストップ情報、エンジン回転数、及びエンジン軸トルク(出力トルク)等の情報を受信する。
TCU70は、変速マップに従い、AWD車4の運転状態(例えばアクセルペダル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、変速マップはTCU70内のROMに格納されている。また、TCU70は、ECU80から受信したアイドリングストップ情報に基づいて、アイドリングストップ時に電動オイルポンプ62を駆動する。
また、TCU70は、上述した各種センサ等から取得した各種情報に基づいて、トランスファクラッチ制御(駆動力配分制御)を実行する。特に、TCU70は、無段変速機30側の要求油圧を満足させつつ、かつ、燃費の悪化を抑制しつつ、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化するようにトランスファクラッチ41を制御する機能を有している。そのため、TCU70は、路面勾配取得部71、路面摩擦係数取得部72、計時部73、及びトランスファクラッチ制御部74を機能的に有している。TCU70では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、路面勾配取得部71、路面摩擦係数取得部72、計時部73、及びトランスファクラッチ制御部74の各機能が実現される。
路面勾配取得部71は、車両挙動の安定性を示す指標値として用いられる路面勾配を取得する。すなわち、路面勾配取得部71は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有する路面勾配取得手段に相当する。より具体的には、路面勾配取得部71は、例えば、次式(1)(2)で示されるように、AWD車4の加速度に0点学習値が加算された補正後加速度センサ値と、車速の微分値との差に基づいて、路面勾配を検出する。
路面勾配値=補正後加速度センサ値−車速の微分値 ・・・(1)
ただし、補正後加速度センサ値は次式(2)により算出される。
補正後加速度センサ値=加速度センサ値+0点学習値 ・・・(2)
ここで、上記車速は、出力軸回転センサ92により検出された無段変速機30の出力軸の回転数(又は、すべての車輪速の平均値)に基づき、取得することができる。
なお、路面勾配取得部71は、エンジン20の出力トルクから求められる駆動力と、車速の微分値から求められるAWD車4の加速度と、予め設定されている車両重量とに基づいて、路面勾配を推定するとともに、推定された路面勾配が略ゼロの(所定勾配以下の)平坦路を略一定速度で走行しているときに、前後加速度センサ55のゼロ点を学習する。そして、上式(2)で示されたように、前後加速度センサ55の出力値を学習したゼロ点で補正(加算)する。
ところで、路面勾配の推定は旋回で生じたスリップアングルによりGセンサと車速の微分値にズレが生じるため、路面勾配取得部71は、舵角センサ値(操舵角)、又は横加速度センサ値(横G)に基づいて、AWD車4が旋回中であるか否かを判定し、AWD車4が旋回しているときには、路面勾配の検出を停止する。また、路面勾配の推定は、車輪10がスリップしていると演算を誤るおそれがあるため、路面勾配取得部71は、4輪車輪速の偏差が所定値以上ある場合、もしくはTCS(トラクションコントロール)が作動している場合には、車輪10がスリップしていると判断し、路面勾配の検出を停止する。同様に、路面勾配取得部71は、エンジン20の出力トルクから求められる駆動力に対し、車速の微分値から求められるAWD車4の加速度が所定値以上に大きい場合には、車輪10がスリップしていると判断し、路面勾配の検出を停止する。なお、路面勾配取得部71により取得された路面勾配は、トランスファクラッチ制御部74に出力される。
路面摩擦係数取得部72は、車両挙動の安定性を示す指標値として用いられる路面摩擦係数μを取得する。すなわち、路面摩擦係数取得部72は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有する路面摩擦係数取得手段に相当する。より具体的には、路面摩擦係数取得部72は、例えば、路面摩擦係数μを、ABS作動時の減速度に基づいて判定(取得)することができる。すなわち、路面摩擦係数取得部72は、ABS作動時の前後Gに応じて、低い減速度でABSが作動した場合には低μ路であると判定し、高い減速度でABSが作動したときには高μ路であると判定することができる。ただし、この場合、例えばマンホール等で一瞬ABSが作動するような状況における誤判定を防止するため、車輪速比からディレイを設定し、そのディレイ中は路面摩擦係数μを判定しないことが好ましい。
また、路面摩擦係数取得部72では、車輪速から推定した横G(横G推定値)はタイヤスリップすると低下することを利用し、横Gセンサ値と横G推定値との差分を見て、横G推定値が低下したときの横G絶対値から、路面摩擦係数μを推定することもできる。さらに、路面摩擦係数取得部72では、パワーステアリングのラック反力に基づいて、路面摩擦係数μを推定することもできる。なお、路面摩擦係数取得部72により取得された路面摩擦係数μは、トランスファクラッチ制御部74に出力される。
計時部73は、運転者の操作に起因する再始動要求が出力されてからの経過時間を計時する。すなわち、計時部73は、特許請求の範囲に記載の取得手段が有する計時手段に相当する。なお、計時部73により計時された再始動要求が出力されてからの経過時間は、トランスファクラッチ制御部74に出力される。
トランスファクラッチ制御部74は、AWD車4の運転状態(例えば、4輪の駆動状態やエンジントルク等)及び車両挙動の安定性を示す指標値に基づいて、トランスファクラッチ41の締結力(すなわち後輪10RL,10RRへの駆動力分配率)をリアルタイムに制御する。すなわち、トランスファクラッチ制御部74は、特許請求の範囲に記載のトランスファクラッチ制御手段として機能する。
特に、トランスファクラッチ制御部74は、取得された指標値に基づいて、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41を締結状態にする(すなわち全輪駆動状態を保持する)。一方、トランスファクラッチ制御部74は、取得された指標値に基づいて、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性がないと判断される場合には、トランスファクラッチ41を解放し2輪駆動(FF)状態にする。以下、より具体的に説明する。なお、本実施形態では、車両挙動の安定性を示す指標値として、上述した、水温センサ84、油温センサ91、外気温センサ94、車速センサ12、操舵角センサ16、路面勾配取得部71、路面摩擦係数取得部72、及び計時部73(取得手段)により取得された、エンジン始動時水温・油温、外気温、路面摩擦係数μ、路面勾配、車速、操舵角等を用いた。
トランスファクラッチ制御部74は、運転者の操作によるエンジン始動時(すなわち、アイドリングストップからの再始動でないエンジン始動時)の冷却水温度が、所定の冷却水温度(例えば0℃〜−5℃程度)以下であり、かつ、外気温が第1の所定の外気温(例えば−5℃程度)以下の場合、すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態(全輪駆動状態)とする。
同様に、トランスファクラッチ制御部74は、運転者の始動操作によるエンジン始動時(すなわち、アイドリングストップからの再始動でないエンジン始動時)の無段変速機30の油温が、所定の油温(例えば0℃〜―5℃程度)以下であり、かつ、外気温が第1の所定の外気温(例えば−5℃程度)以下の場合、すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、外気温が第2の所定の外気温(例えば−10℃〜−20℃程度、第2の所定の外気温<第1の所定の外気温)以下の場合、すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、路面勾配の絶対値が所定の路面勾配(例えば±5%程度)以上であり、かつ、路面摩擦係数が第1の所定の路面摩擦係数(例えば0.2〜0.3程度)以下の場合、すなわち、路面勾配が大きく、前後の軸重配分が変化することにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、路面摩擦係数が第2の所定の路面摩擦係数(例えば、0.1以下、氷上を想定)以下の場合、すなわち、路面摩擦係数が小さく、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、車速が第1の所定の車速(例えば十数km/h)以上の場合、すなわち、車速が出ていてタイヤ力が小さくなる(∵静摩擦係数>動摩擦係数)ことにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、操舵角が所定の操舵角(例えば90度)以上であり、かつ、車速が第2の所定の車速(<第1の所定の車速)以上の場合、すなわち、舵角がきられ、タイヤ力が前後方向だけでなく横方向にも使われることにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧を保持(すなわち締結状態を保持)し、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41を締結状態とする。
また、トランスファクラッチ制御部74は、アイドリングストップからの再始動要求が、運転者の操作に起因する再始動要求以外の再始動要求(すなわち、運転者の意図しない再始動要求)であり、かつ、車速が第3の所定の車速(<第1の所定の車速)以上の場合に、トランスファクラッチ41を締結状態とする。
さらに、トランスファクラッチ制御部74は、運転者の操作に起因する再始動要求が出力されてからの経過時間が所定の時間(例えば数秒程度)以内であり、かつ、アクセルペダル開度が所定の開度(例えば全開に近い開度)以上の場合、すなわち、再始動要求直後に強い加速要求があり、2輪駆動状態ではホイルスピンが生じ得るような場合には、トランスファクラッチ41を締結状態とする。
ここで、トランスファクラッチ制御部74は、トランスファクラッチ41を締結状態にする際(すなわち締結条件が成立しているとき)に、路面勾配が所定の勾配(例えば±10%程度)以下の場合、又は、路面摩擦係数が所定の路面摩擦係数(例えば0.2程度)以上の場合、すなわち、後輪10RL,10RRへの駆動力配分が少なくても車両挙動に問題が生じない(車両挙動が不安定にならない)と判断される場合には、路面勾配及び路面摩擦係数に基づいて、トランスファクラッチ41の締結圧を調節する。一方、トランスファクラッチ制御部74は、トランスファクラッチ41を締結状態にする際(すなわち締結条件が成立しているとき)に、路面勾配が所定の勾配(例えば±10%程度)よりも大きく、かつ、路面摩擦係数が所定の路面摩擦係数(例えば0.2程度)未満の場合には、トランスファクラッチ41を直結(駆動力配分50%)する。
より詳細には、TCU70のROM等には、路面摩擦係数μと路面勾配(%)と後輪配分率(%)との関係を定めたマップ(後輪配分率ベースマップ)が記憶されており、路面摩擦係数μと路面勾配とに基づいてこの後輪配分率ベースマップが検索されることにより後輪配分率が取得される。
ここで、後輪配分率ベースマップの一例を図5に示す。図5において、横軸(行)は路面勾配(%)であり、縦軸(列)は路面摩擦係数μである。後輪配分率ベースマップでは、路面勾配と路面摩擦係数μとの組み合わせ(格子点)毎に後輪配分率(%)が与えられている。図5に示されるように、後輪配分率ベースマップは、路面摩擦係数が小さくなるほど後輪配分率が大きくなり、路面勾配の絶対値が大きくなるほど後輪配分率が大きくなるように設定されている。
なお、取得された後輪配分率は、車速に応じて補正される。ここで、TCU70のROM等には、車速(km/h)と配分率車速補正係数との関係を定めたマップ(配分率車速補正係数テーブル)が記憶されており、車速に基づいてこの配分率車速補正係数テーブルが検索されることにより配分率車速補正係数が取得される。
ここで、配分率車速補正係数テーブルの一例を図6に示す。配分率車速補正係数テーブルでは、車速(格子点)毎に配分率車速補正係数が与えられている。図6に示されるように、配分率車速補正係数テーブルは、車速が高くなるほど配分率車速補正係数が大きくなるように設定されている。
トランスファクラッチ制御部74は、取得した後輪配分率に配分率車速補正係数を乗算して補正後の後輪配分率を取得し、この補正後の後輪配分率に基づいて、トランスファクラッチ41の締結圧(すなわち後輪配分率)を調節する。
次に、図2〜図4を併せて参照しつつ、全輪駆動車の駆動力配分制御装置1の動作について説明する。図2は、全輪駆動車の駆動力配分制御装置1によるトランスファクラッチ制御(アイドリングストップ中)の処理手順を示すフローチャートである。図3は、全輪駆動車の駆動力配分制御装置1によるトランスファクラッチ制御(アイドリングストップからの再始動要求時)の処理手順を示すフローチャートである。図4は、全輪駆動車の駆動力配分制御装置1によるトランスファクラッチ制御(締結圧調節制御)の処理手順を示すフローチャートである。まず、図2を参照しつつ、アイドリングストップ中のトランスファクラッチ制御について説明する。本処理は、アイドリングストップ中に、TCU70において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
ステップS100では、運転者の始動操作によるエンジン始動時(アイドリングストップからの再始動でないエンジン始動時)の冷却水温度が、所定の冷却水温度(例えば0℃〜―5℃程度)以下であるか否か(すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、冷却水温度が所定の冷却水温度以下の場合にはステップS104に処理が移行する。一方、冷却水温度が所定の冷却水温度よりも高いときには、ステップS102に処理が移行する。
ステップS102では、運転者の始動操作によるエンジン始動時(アイドリングストップからの再始動でないエンジン始動時)の無段変速機30の油温が、所定の油温(例えば0℃〜―5℃程度)以下であるか否か(すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、油温が所定の油温以下の場合にはステップS104に処理が移行する。一方、油温が所定の油温よりも高いときには、ステップS106に処理が移行する。
ステップS104では、外気温が第1の所定の外気温(例えば−5℃程度)以下であるか否か(すなわち、例えば、運転者の始動操作によるエンジン始動時には路面凍結(低μ路状態)の可能性がある状況であったが、その後、時間の経過や車両の走行(場所の移動)に伴い、外気温が上昇して、路面凍結の可能性がなくなったか否か)についての判断が行われる。ここで、外気温が第1の所定の外気温以下の場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、外気温が第1の所定の外気温よりも高いときには、ステップS106に処理が移行する。
ステップS106では、外気温が第2の所定の外気温(例えば、−10℃〜−20℃程度)以下であるか否か(すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、外気温が第2の所定の外気温以下の場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、外気温が第2の所定の外気温よりも高いときには、ステップS108に処理が移行する。
ステップS108では、路面勾配が所定の路面勾配(例えば+5%程度)以上であるか否か(すなわち、登坂路において、路面勾配が大きく、前後の軸重配分が変化することにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、路面勾配が所定の路面勾配以上である場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、路面勾配が所定の路面勾配未満のときには、ステップS112に処理が移行する。
ステップS110では、路面勾配が、所定の路面勾配(例えば−5%程度)以下であるか否か(すなわち、降坂路において、路面勾配が大きく、前後の軸重配分が変化することにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、路面勾配が所定の路面勾配以下である場合には、ステップS114に処理が移行する。一方、路面勾配が所定の路面勾配よりも小さいとき(すなわち、−5%<路面勾配<+5%のとき)には、ステップS112に処理が移行する。
ステップS112では、路面摩擦係数が第1の所定の路面摩擦係数(例えば0.2〜0.3程度)以下であるか否か(すなわち、例えば、路面勾配は大きいが、路面摩擦係数が大きく、車両挙動に問題が生じない状況か否か)についての判断が行われる。ここで、路面摩擦係数が第1の所定の路面摩擦係数以下の場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、路面摩擦係数が第1の所定の路面摩擦係数よりも大きいときには、ステップS114に処理が移行する。
ステップS114では、路面摩擦係数が第2の所定の路面摩擦係数(例えば、0.1以下、氷上を想定)以下であるか否か(すなわち、路面摩擦係数が小さく、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、路面摩擦係数が第2の所定の路面摩擦係数以下の場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、路面摩擦係数が第2の所定の路面摩擦係数よりも大きいときには、ステップS116に処理が移行する。
ステップS116では、車速が第1の所定の車速(例えば十数km/h)以上であるか否か(すなわち、車速が出ていてタイヤ力が小さくなる(∵静摩擦係数>動摩擦係数)ことにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、車速が第1の所定の車速以上である場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、車速が第1の所定の車速未満のときには、ステップS118に処理が移行する。
ステップS118では、操舵角が所定の操舵角(例えば90度)以上でるか否か(すなわち、舵角がきられ、タイヤ力が前後方向だけでなく横方向にも使われることにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があるか否か)についての判断が行われる。ここで、操舵角が所定の操舵角である場合には、ステップS120に処理が移行する。一方、操舵角が所定の操舵角未満であるときには、ステップS124に処理が移行する。
ステップS120では、車速が第2の所定の車速(<第1の所定の車速)以上であるか否か(すなわち、例えば、舵角はきられているが、車速が低く、車両挙動に問題が生じないか否か)についての判断が行われる。ここで、車速が第2の所定の車速以上である場合には、ステップS122において、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が保持(すなわち締結状態が保持)され、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、車速が第2の所定の車速未満のときには、ステップS124に処理が移行する。
一方、ステップS124では、アイドリングストップ中にトランスファクラッチ41の油圧が抜かれ、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が解放状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。
次に、図3を参照しつつ、アイドリングストップからの再始動要求時におけるトランスファクラッチ制御について説明する。本処理は、アイドリングストップからの再始動要求時に、TCU70において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
ステップS200では、アイドリングストップからの再始動要求が、運転者の操作に起因する再始動要求以外の再始動要求(すなわち、運転者の意図しない再始動要求)であるか否かについての判断が行われる。ここで、再始動要求が運転者の操作に起因する再始動要求以外の再始動要求である場合には、ステップS202に処理が移行する。一方、再始動要求が運転者の操作に起因する再始動要求であるときには、ステップS204に処理が移行する。
ステップS202では、車速が第3の所定の車速(<第1の所定の車速)以上であるか否か(すなわち、車速が出ているときに、運転者の意図しない再始動が行われるか否か)についての判断が行われる。ここで、車速が第3の所定の車速以上の場合には、ステップS208において、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、車速が第3の所定の車速未満のときには、ステップS204に処理が移行する。
一方、ステップS204では、再始動要求からの経過時間が所定の時間(例えば数秒程度)以内であるか否かについての判断が行われる。ここで、再始動要求からの経過時間が所定の時間以内である場合には、ステップS206に処理が移行する。一方、再始動要求からの経過時間が所定の時間よりも経過しているときには、ステップS210に処理が移行する。
ステップS206では、アクセルペダル開度が所定の開度(例えば全開に近い開度)以上であるか否か(すなわち、再始動要求直後に強い加速要求があり、2輪駆動状態ではホイルスピンが生じ得るような状況であるか否か)についての判断が行われる。ここで、アクセルペダル開度が所定の開度以上である場合には、ステップS208において、トランスファクラッチ41が締結状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。一方、アクセルペダル開度が所定の開度未満のときには、ステップS210に処理が移行する。
ステップS210では、トランスファクラッチ41の油圧が抜かれ、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が解放状態とされる。その後、本処理から一旦抜ける。
続いて、図4を参照しつつ、トランスファクラッチ41の締結圧調節制御について説明する。本処理は、アイドリングストップ中及び再始動要求時に、TCU70において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
ステップS300では、トランスファクラッチ41の締結条件が成立しているか否かについての判断が行われる。ここで、トランスファクラッチ41の締結条件が成立していない場合(トランスファクラッチ41が解放される場合)には、そのまま、本処理から一旦抜ける。一方、トランスファクラッチ41の締結条件が成立しているときには、ステップS302に処理が移行する。
ステップS302では、路面勾配の絶対値が所定の勾配(例えば±10%程度)以下であるか否か(すなわち、例えば、路面勾配が小さく、後輪10RL,10RRへの駆動力配分が少なくても車両挙動に問題が生じない(車両挙動が不安定にならない)か否か)についての判断が行われる。ここで、路面勾配の絶対値が所定の勾配以下の場合には、ステップS306に処理が移行する。一方、路面勾配の絶対値が所定の勾配よりも大きいときには、ステップS304に処理が移行する。
ステップS304では、路面摩擦係数が所定の路面摩擦係数(例えば0.2程度)以上であるか否か(すなわち、例えば、路面摩擦係数が比較的大きく、後輪10RL,10RRへの駆動力配分が少なくても車両挙動に問題が生じない(車両挙動が不安定にならない)か否か)についての判断が行われる。ここで、路面摩擦係数が所定の路面摩擦係数以上である場合には、ステップS306に処理が移行する。一方、路面摩擦係数が所定の路面摩擦係数未満のときには、ステップS308に処理が移行する。
ステップS306では、路面勾配及び路面摩擦係数に基づいて、トランスファクラッチ41の締結圧が調節される。なお、路面勾配及び路面摩擦係数に基づくトランスファクラッチ41の締結圧の調節方法については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。その後、本処理から一旦抜ける。
一方、ステップS308では、トランスファクラッチ41が直結(駆動力配分50%)される。その後、本処理から一旦抜ける。
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、車両挙動の安定性を示す指標値が取得され、該指標値に基づいて、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる(すなわち全輪駆動状態が保持される)。そのため、車両挙動が不安定にならないと判断される状況では、トランスファクラッチ41を解放し、2輪駆動状態とすることができる。その結果、無段変速機30側の要求油圧を満足させつつ、かつ、燃費の悪化を抑制しつつ、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、運転者の始動操作によるエンジン始動時(すなわち、アイドリングストップからの自動的な再始動でないエンジン始動時)のエンジン冷却水温度が所定の冷却水温度以下の場合、又は、無段変速機30の油温が所定の油温以下の場合、すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、例えば、路面凍結の可能性があるような状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
その際に、本実施形態によれば、上記エンジン始動時の冷却水温度又は油温が所定温度以下であり、かつ、外気温が第1の所定の外気温以下の場合に限り、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態にされる。よって、例えば、運転者の始動操作によるエンジン始動時には路面凍結(低μ路状態)の可能性がある状況であったが、その後、時間の経過や車両の走行(場所の移動)に伴い、外気温が上昇して、路面凍結の可能性がなくなったと判断される状況(低μ路状態から抜け、車両挙動が不安定にならないと判断される状況)では、トランスファクラッチ41を解放し、2輪駆動状態とすることができる。その結果、再始動時の車両挙動の安定化を図りつつ、燃費の悪化を適切に抑制することが可能となる。
本実施形態によれば、外気温が第2の所定の外気温以下の場合、すなわち、例えば路面凍結(低μ路状態)の可能性があり、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、例えば、路面凍結の可能性があるような状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、路面勾配の絶対値が所定の路面勾配以上の場合、すなわち、路面勾配が大きく、前後の軸重配分が変化することにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、例えば、路面勾配が大きく、前後の軸重配分が変化するような状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、路面勾配の絶対値が所定の路面勾配以上であり、かつ路面摩擦係数が第1の所定の路面摩擦係数以下の場合に、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結状態にされる。よって、例えば、路面勾配は大きいが、路面摩擦係数が大きく、車両挙動に問題が生じないと判断される状況(高μ路で、車両挙動が不安定にならないと判断される状況)では、トランスファクラッチ41を解放し、2輪駆動状態とすることができる。その結果、再始動時の車両挙動の安定化を図りつつ、燃費の悪化を適切に抑制することが可能となる。
本実施形態によれば、路面摩擦係数が第2の所定の路面摩擦係数以下の場合、すなわち、路面摩擦係数が小さく、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、例えば氷上などの路面摩擦係数が小さい状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、車速が第1の所定の車速以上の場合、すなわち、車速が出ていてタイヤ力が小さくなる(∵静摩擦係数>動摩擦係数)ことにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、車速が出ていてタイヤ力が小さくなるような状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、操舵角が所定の操舵角以上の場合、すなわち、舵角がきられ、タイヤ力が前後方向だけでなく横方向にも使われることにより、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動が不安定になる可能性があると判断される場合には、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、舵角がきられているような状況において、アイドリングストップからの再始動時に車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、操舵角が所定の操舵角以上であり、かつ車速が第2の所定の車速以上の場合に、アイドリングストップからの再始動時にトランスファクラッチ41が締結される。よって、例えば、舵角はきられているが、車速が低く、車両挙動に問題が生じないと判断される状況(車両挙動が不安定にならないと判断される状況)では、トランスファクラッチ41を解放し、2輪駆動状態とすることができる。その結果、再始動時の車両挙動の安定化を図りつつ、燃費の悪化を適切に抑制することが可能となる。
本実施形態によれば、アイドリングストップからの再始動要求が、運転者の操作に起因する再始動要求以外の再始動要求(すなわち、運転者の意図しない再始動要求)であり、かつ、車速が第3の所定の車速以上の場合に、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、車速が出ているときに、運転者の意図しない再始動が行われるような状況において、車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、運転者の操作に起因する再始動要求が出力されてからの経過時間が所定の時間以内であり、かつアクセルペダル開度が所定の開度以上の場合に、トランスファクラッチ41が締結状態にされる。そのため、再始動要求直後に強い加速要求があり、2輪駆動状態ではホイルスピンが生じ得るような状況において、発進性を向上し、車両挙動をより安定化することが可能となる。
本実施形態によれば、トランスファクラッチ41が締結される際に、路面勾配及び路面摩擦係数に基づいて、トランスファクラッチ41の締結圧が調節される。すなわち、例えば、路面勾配が小さく、後輪10RL,10RRへの駆動力配分が少なくても車両挙動に問題が生じないと判断される状況や、路面摩擦係数が比較的大きく、後輪10RL,10RRへの駆動力配分が少なくても車両挙動に問題が生じないと判断される状況(すなわち、車両挙動が不安定にならないと判断される状況)では、後輪10RL,10RRへの駆動力配分を小さくすることができる。その結果、例えば、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節するソレノイドバルブへの供給電力を低減することができるため、再始動時の車両挙動の安定化を図りつつ、燃費の悪化をより適切に抑制することが可能となる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機等にも適用することができる。また、無段変速機に代えて、有段自動変速機(AT)にも適用することができる。
また、車両挙動の安定性を示す指標値としては、上記実施形態に挙げたものに限られることなく、他のパラメータを適宜用いることができる。
また、上述した駆動力伝達系の構成(例えばギヤや軸等の配置等)は一例であり、上記実施形態には限られない。また、上記実施形態では、トランスファクラッチ41として油圧式のものを用いたが、電磁ソレノイド式のクラッチを用いてもよい。なお、電動オイルポンプ62は必ずしも必要ではない。
また、上記実施形態では、トランスファクラッチ41の制御をTCU70によって行ったが、TCU70から独立した専用のAWDコントローラによって制御する構成としてもよい。さらに、システム構成は、上記実施形態(すなわち、各ECUをCAN100で接続した構成)には限られない。