JP6471295B2 - 炭素繊維前駆体繊維の製造方法と、炭素繊維の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法と、炭素繊維の製造方法に関する。
炭素繊維は、機械的特性に優れ、複合材料用補強材として幅広く用途展開されている。炭素繊維は、炭素繊維となる前駆体繊維を耐炎化処理(耐炎化工程)して耐炎化繊維とした後、この耐炎化繊維を炭素化処理(炭素化工程)することにより製造されており、これまで様々な原料を用いて炭素繊維を製造する検討が行なわれてきた。
特に、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維は、生産性や炭素繊維の物性・品質に優れていることから、今日に至るまで工業化が積極的に推進されてきたが、次のような課題が残されている。
(i)炭素化収率が十分に高いとは言えない。
(ii)前駆体繊維を大量に仕込んで耐炎化工程に供すると、耐炎化反応が急激な発熱を伴うため、前駆体繊維の束内部に蓄熱して発火する場合がある。
(iii)耐炎化反応開始温度が高温であるため、耐炎化処理に大量の熱エネルギーを必要とする。
以上から、PAN系炭素繊維の生産効率は必ずしも十分とは言えず、コストを重視する産業用途分野では多角化が十分に実現できていない。
上記の課題を解決する技術として、例えば特許文献1には、PAN系炭素繊維の前駆体繊維として用いられるPAN系重合体のニトリル基の環化縮合反応を促進するために、PAN系重合体の分子構造に、カルボキシ基のような官能基を導入する技術が開示されている。また、特許文献2には、2−ヒドロキシルエチル基のような前駆体繊維への酸素拡散性を促進する官能基をPAN系重合体の分子構造に導入する技術が開示されている。
これらの技術は耐炎化工程や炭素化工程の生産性向上に一定の効果を有するが、炭素繊維の物性や品質を維持するには、PAN系重合体の分子構造に導入できる官能基の量には限界があった。
本発明者は、PAN系炭素繊維の前駆体繊維の耐炎化処理や炭素化処理は、ニトリル基(−C≡N)の環化反応(グラファイト構造の形成)を元にしているため、上述した官能基などの第二成分を添加して耐炎化効率を向上する手法は限界があると考えた。そこで、グラファイト構造の形成機能を持つ官能基としてエチニル基(−C≡CH)に着目して、炭素繊維を製造する方法検討を開始した。
ポリビニルアセチレン系重合体を原料として炭素繊維を得る可能性については、これまで幾つかの報告がされている。例えば非特許文献1、2には、エチニル基を側鎖に有するビニルアセチレンの単独重合体を用いて溶融紡糸法でフィラメントを作製し、窒素中で900℃まで加熱した場合の炭素化収率が報告されている。また、特許文献3、4には、エチニル基の水素部分を有機ケイ素基で置換したビニルアセチレン単独重合体を用いて溶融紡糸法でファイバを作製し、得られたファイバを加熱処理して難燃性の炭化ケイ素繊維を得る技術が報告されている。
特開2002−145939号公報 特開2011−46942号公報 特開2005−213473号公報 特開2005−232605号公報
A. MAVINKURVE, et al., Carbon, Vol.33, No.6, p757-761, 1995. A. MAVINKURVE, et al., Eur. Polym. J., Vol.33, No.5, p719-723, 1997.
非特許文献1、2によれば、ビニルアセチレンの単独重合体の炭素化収率(38%)は、PAN単独重合体の炭素化収率(26%)より向上するとしている。
しかしながら、エチニル基は加熱下で分子間架橋構造を形成する特徴があるため、溶融紡糸法で連続的に安定して前駆体繊維を得ることが困難であった。
一方、特許文献3、4によれば、エチニル基の水素部分を有機ケイ素基で保護することにより、溶融紡糸法で連続安定に難燃繊維を得ることができるとしている。
しかしながら、この難燃繊維は、1000℃以上で炭素化処理すると有機ケイ素基が脱離するため、炭素化収率が著しく低下しやすかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、耐炎化反応時の発熱量が少なく、耐炎化反応開始温度が低く、かつ炭素化収率が高い炭素繊維前駆体繊維、該炭素繊維前駆体繊維を連続的に安定して製造できる方法、および低コストで炭素繊維を製造できる方法の提供を課題とする。
本発明は以下の態様を有する。
[1] 下記一般式(1)で表される構造単位(A)を1.0〜99.0モル%、および下記一般式(2)で表される構造単位(B)を1.0〜99.0モル%含むポリビニルアセチレン系重合体からなる、炭素繊維前駆体繊維。
Figure 0006471295
式(1)中、R、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、Rは水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれる。
Figure 0006471295
式(2)中、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、R、Rは独立して、ハロゲン原子、芳香族炭化水素基、アセチレン基を含まない脂肪族炭化水素基、ニトリル基、アセチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルエステル基、スルホン基、スルホン基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれ、RとRは飽和炭化水素基、エステル基、エーテル基、ケトン基を介して結合してもよい。
[2] 前記構造単位(A)が下記一般式(3)で表される構造単位である、[1]に記載の炭素繊維前駆体繊維。
Figure 0006471295
[3] 下記一般式(1)で表される構造単位(A)を含むポリビニルアセチレン系重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解して重合体溶液を調製する調製工程と、該重合体溶液から湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により前駆体繊維を得る紡糸工程とを含む、炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
Figure 0006471295
式(1)中、R、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、Rは水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれる。
[4] 前記ポリビニルアセチレン系重合体が下記一般式(2)で表される構造単位(B)をさらに含む、[3]に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
Figure 0006471295
式(2)中、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、R、Rは独立して、ハロゲン原子、芳香族炭化水素基、アセチレン基を含まない脂肪族炭化水素基、ニトリル基、アセチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルエステル基、スルホン基、スルホン基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれ、RとRは飽和炭化水素基、エステル基、エーテル基、ケトン基を介して結合してもよい。
[5] 前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、スルホランからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[3]または[4]に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
[6] 前記重合体溶液が、該重合体溶液中に含まれるポリビニルアセチレン系重合体100質量部に対して、一価のアルカリ金属塩を0.1〜10質量部含有する、[3]〜[5]のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
[7] 湿式紡糸法および乾湿式紡糸法で用いる凝固浴溶液が、該凝固浴溶液100質量%中、二価のアルカリ金属塩を1〜30質量%含有する、[3]〜[6]のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
[8] [1]または[2]に記載の炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気下、200〜400℃で耐炎化処理する耐炎化工程を含む、炭素繊維の製造方法。
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、耐炎化反応時の発熱量が少なく、耐炎化反応開始温度が低く、かつ炭素化収率が高い。
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法によれば、耐炎化反応時の発熱量が少なく、耐炎化反応開始温度が低く、かつ炭素化収率が高い炭素繊維前駆体繊維を連続的に安定して製造できる。
本発明の炭素繊維の製造方法によれば、低コストで炭素繊維を製造できる。
実施例1で得られたポリビニルアセチレン系重合体と、比較例1で用いたポリアクリロニトリル重合体の発熱曲線を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。
[炭素繊維前駆体繊維の製造方法]
本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、以下に説明するポリビニルアセチレン系重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解して重合体溶液を調製する調製工程と、該重合体溶液から湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により前駆体繊維を得る紡糸工程とを含む。
<ポリビニルアセチレン系重合体>
ポリビニルアセチレン系重合体は、以下に説明する構造単位(A)を含む。また、後述する構造単位(B)を含むことが好ましい。
(構造単位(A))
構造単位(A)は、下記一般式(1)で表される、アセチレン基を側鎖に有する構造単位である。
ここで、「アセチレン基」とは、アルキン、アルカジイン、アルカトリイン等の炭素−炭素三重結合を1つ以上持つ官能基(下記一般式(1)中の−C≡C−に相当)のことである。
Figure 0006471295
式(1)中、R、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、Rは水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれる。
なお、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基は、アルキル基等の置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
炭素繊維前駆体繊維が、構造単位(A)を含むポリビニルアセチレン系重合体からなることにより、耐炎化処理によりラダー構造が形成される際に、以下の3つの特長を発現する。
ここで、「ラダー構造が形成される」とは、先ず2つ以上の構造単位(A)の間で、局所的な共役構造をもつ縮合系六員環構造(初期耐炎化構造)が形成された後に、水素脱離反応や側鎖脱離反応が起こり、より大きな共役構造をもつ縮合系芳香族環構造(耐炎化構造)が形成される反応のことである。
第一の特長:
第一の特長は、上述した初期耐炎化構造の形成開始温度の低温化に関する。
ポリビニルアセチレン系重合体のアセチレン基は、PAN系重合体が有するシアノ基より約100℃低い温度において、初期耐炎化構造の形成を開始する。すなわち、ポリビニルアセチレン系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維は、耐炎化反応開始温度が低い。これにより、従来のPAN系炭素繊維で課題であった、耐炎化処理に大量の熱エネルギーを必要とする問題が解決される。
第二の特長:
第二の特長は、耐炎化処理中に生じる環化反応の発熱量の低減に関する。
本発明者の検討によれば、ポリビニルアセチレン系重合体のアセチレン基が環化縮合反応する際の発熱量は、PAN系重合体のシアノ基の同発熱量より低い特長があることが分かった。すなわち、ポリビニルアセチレン系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維は、耐炎化反応時の発熱量が少ない。これにより、従来のPAN系炭素繊維で課題であった、耐炎化処理中に急激に発熱するという問題が解決される。その結果、耐炎化処理の生産性が向上する。
第三の特長:
第三の特長は、炭素化収率に関する。
ポリビニルアセチレン系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維は、PAN系重合体からなる前駆体繊維より耐炎化処理と炭素化処理の後の炭素化収率が高い。これは炭素化処理中に、PAN系重合体ではニトリル基(−C≡N)で窒素脱離反応が起こるのに対して、アセチレン基(−C≡C−)では脱離反応を伴わず、効率良く炭素化が進むためであると考えられる。これにより、従来のPAN系炭素繊維の製造においてコストアップの原因となっていた炭素化収率の低下の問題が解決される。
ポリビニルアセチレン系重合体の構造中で、構造単位(A)が連なる場合、200〜400℃の環境下では隣接した側鎖の間で、局所的にラダー構造が形成される。
構造単位(A)において、上記一般式(1)中のR、R、R、Rの各部位には、耐炎化および炭素化効率の向上、あるいはポリビニルアセチレン系重合体を湿式紡糸法や乾湿式紡糸法で紡糸する際の紡糸性の向上を目的として、特定の官能基を導入できる。
、R、Rの少なくとも1つがハロゲン原子やヒドロキシ基のような電子性供与基であれば、耐炎化反応時のポリビニルアセチレン系重合体の主鎖の熱分解を抑制できる。
が芳香族炭化水素基や脂肪族炭化水素基(特に不飽和炭化水素基)であれば、耐炎化反応時の重合体側鎖の間で架橋構造が形成され、炭素収率が向上すると共に、耐炎化構造の形成が促進される。
がカルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基のような極性官能基、または脂肪族炭化水素基(不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基)であれば、紡糸原液を調製する際に、ポリビニルアセチレン系重合体の溶媒への溶解性が良好となり、さらに湿式紡糸法や乾湿式紡糸法でポリビニルアセチレン系重合体を紡糸する際の凝固性や紡糸安定性が高まる。
これら官能基の持つ効果は、特定の1つの機能に限定されるものではない。
構造単位(A)は、例えば下記一般式(4)で表されるビニルアセチレン化合物(a)をビニル重合することにより形成される構造単位である。
Figure 0006471295
式(4)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、R10は水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン基、アミノ基からなる群より選ばれる。
なお、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基は、アルキル基等の置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
ビニルアセチレン化合物(a)としては、以下に示す化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「CH=CH−C≡C−H」、「CH=CH−C≡C−C≡C−H」等で表されるエチニル基を末端にもつ化合物(例えば1―ブテン−3−インなど)。
「CH=CH−C≡C−Si(CH)3−n」、「CH=CH−C≡C−Si(CHCH)3−n」、「CH=CH−C≡C−Si(CHCHCH)3−n」等で表される化合物(ただし、nは0〜3の整数である。)(例えば4−アルキルシリル−1−ブテン−3−インなど)。
「CH=CH−C≡C−φ」、「CH=CH−C≡C−φ−OCH」、「CH=CH−C≡C−φ―Cl」、「CH=CH−C≡C−φ−CH」、「CH=CH−C≡C−φ−Si(CH)3−n」、「CH=CH−C≡C−φ−COOH」等で表される化合物(ただし、「φ」は置換基(アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキル基、シリル基、カルボキシ基など)を有していてもよいフェニル基であり、該置換基の位置はオルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよい。また、nは0〜3の整数である。)(例えば4−フェニル−1−ブテン−3−インなど)。
「CH=CH−C≡C−nBu」、「CH=CH−C≡C−tBu」等で表される化合物(例えば4−アルキル−1−ブテン−3−インなど)。
「CH=C(Cl)−C≡C−H」、「CH=C(Cl)−C≡C−Si(CH)3−n」等で表される化合物(ただし、nは0〜3の整数である。)(例えば2−クロロ−1−ブテン−3−インなど)。
「CH=C(OH)−C≡C−H」、「CH=C(OH)−C≡C−Si(CH)3−n」等で表される化合物(ただし、nは0〜3の整数である。)(例えば2−ヒドロキシ−1−ブテン−3−インなど)。
「CH=C(CH)−C≡C−H」、「CH=C(CH)−C≡C−Si(CH)3−n」等で表される化合物(ただし、nは0〜3の整数である。)(例えば2−メチル−1−ブテン−3−インなど)。
これらビニルアセチレン化合物(a)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、シリル基を含むビニルアセチレン化合物(a)を用いる場合には、ビニル重合した後、シリル基を除去する。シリル基を除去する方法としては、公知の脱保護反応を採用できる。
構造単位(A)のアセチレン基の特長を効率よく発現するには、構造単位(A)が下記一般式(3)で表される、エチニル基(−C≡CH)を側鎖に有する構造単位であることが好ましい。エチニル基は、上述した共役系六員環構造(初期耐炎化構造)と縮合系芳香族環構造(耐炎化構造)の反応性を高め、また炭素化収率を高める点で好適である。また、下記一般式(3)で表される構造単位は、上記一般式(1)中のR、R、Rもそれぞれ水素原子である。構造単位(A)中のR、R、R、Rの全てが水素原子である場合、炭素繊維前駆体繊維を炭素化した時に炭素化収率がより高まり、炭素繊維の製造コストを低減できることから好ましい。
Figure 0006471295
(構造単位(B))
構造単位(B)は、下記一般式(2)で表される構造単位である。
Figure 0006471295
式(2)中、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、R、Rは独立して、ハロゲン原子、芳香族炭化水素基、アセチレン基を含まない脂肪族炭化水素基、ニトリル基、アセチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルエステル基、スルホン基、スルホン基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれ、RとRは飽和炭化水素基、エステル基、エーテル基、ケトン基を介して結合してもよい。
なお、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基は、アルキル基等の置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。ただし、脂肪族炭化水素基の場合は、アセチレン基を置換基として有するものを除く。
構造単位(B)において、上記一般式(2)中のR、R、R、Rの各部位には、耐炎化および炭素化効率の向上、あるいはポリビニルアセチレン系重合体を湿式紡糸法や乾湿式紡糸法で紡糸する際の紡糸性の向上を目的として、特定の官能基を導入できる。
、R、R、Rの少なくとも1つがハロゲン原子やヒドロキシ基のような電子性供与基であれば、耐炎化反応時のポリビニルアセチレン系重合体の主鎖の熱分解を抑制できる。
、Rの少なくとも1つがニトリル基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基(特に不飽和炭化水素基)であれば、耐炎化反応時の重合体側鎖の間で架橋構造が形成され、炭素収率が向上すると共に、耐炎化構造の形成が促進される。
、Rの少なくとも1つがカルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基、アセチル基、アルキルエステル基のような極性官能基、または脂肪族炭化水素基(不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基)であれば、紡糸原液を調製する際に、ポリビニルアセチレン系重合体の溶媒への溶解性が良好となり、さらに湿式紡糸法や乾湿式紡糸法でポリビニルアセチレン系重合体を紡糸する際の凝固性や紡糸安定性が高まる。
これら官能基の持つ効果は、特定の1つの機能に限定されるものではない。
また、構造単位(B)が、炭素不飽和結合をもつ官能基を側鎖に有する構造単位である場合、該構造単位(B)と上述した構造単位(A)とが連なると、200〜400℃の環境下では隣接した側鎖の間で、局所的にラダー構造が形成される。
ここで、「炭素不飽和結合をもつ官能基」とは、例えばニトリル基(−C≡N)、アセチレン基を含まない脂肪族炭化水素基のうちの炭素−炭素二重結合を持つ非環式または環式のオレフィン基(例えばアルケン、アルカジエン、アルカトリエン、ジエン、ヘテロジエン、ポリエン、アルケニル、シクロアルケンなどの構造単位)や芳香族炭化水素基のことをいうが、これらに限定されるものではない。
また、ここでの「ラダー構造が形成される」とは、構造単位(A)のアセチレン基と構造単位(B)の炭素不飽和結合を有する官能基との間で、局所的な共役構造をもつ縮合系六員環構造(初期耐炎化構造)が形成された後に、水素脱離や側鎖脱離が起こり、より大きな共役構造をもつ縮合系芳香族環構造(耐炎化構造)が形成される反応のことをいう。
構造単位(B)は、例えばエチレン性不飽和化合物をビニル重合することにより形成される構造単位である。
エチレン性不飽和化合物とは、具体的にはアクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類及びそれらの塩類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アリルスルホン酸等の酸類及びそれらの塩類;4−ビニルベンゼンスルホン酸等の酸類及びそれらの塩類;(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類などが挙げられる。
これらエチレン性不飽和化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とはメタクリレートとアクリレートの総称である。
これらの中でも、アクリロニトリルは、湿式紡糸法や乾湿式紡糸法でポリビニルアセチレン系重合体を紡糸する際の紡糸性を高め、さらに耐炎化工程で耐炎化構造の形成が速やかに、かつ構造欠陥なく進むために、機械的強度に優れた炭素繊維が得られやすくなる点で好適である。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、側鎖中に分岐が少ないことによる製糸時の延伸性向上などの観点から、ポリビニルアセチレン系重合体の構成成分として好適である。
アリルスルホン酸等の酸類及びそれらの塩類、4−ビニルベンゼンスルホン酸等の酸類及びそれらの塩類は、十分な親水性を有している。そのため、湿式紡糸法や乾湿式紡糸法でポリビニルアセチレン系重合体を紡糸する工程において、凝固時の繊維内部への水の拡散速度が緩やかに進行し、緻密な又は均質な前駆体繊維が得られる点で好適である。
(メタ)アクリル酸、イタコン酸は、側鎖のカルボキシ基が耐炎化反応を促進するため、耐炎化工程および炭素化工程の生産性と、炭素化収率を向上できる点で好適である。
(他の構造単位)
本発明の炭素繊維前駆体繊維を構成するポリビニルアセチレン系重合体は、構造単位(A)、構造単位(B)以外の他の構造単位を含んでいてもよい。
他の構造単位の由来となるモノマーとしては、例えば上述したビニルアセチレン化合物(a)とエチレン性不飽和化合物と共重合可能なビニル系モノマーが好ましい。具体的には、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;マレイン酸イミド、フェニルマレイミドなどが挙げられる。
これらビニル系モノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(ポリビニルアセチレン系重合体の組成)
ポリビニルアセチレン系重合体は、構造単位(A)のみから構成される単独重合体であってもよいし、構造単位(A)と構造単位(B)と必要に応じて他の構造単位とで構成される共重合体であってもよい。
ポリビニルアセチレン系重合体が共重合体である場合、該ポリビニルアセチレン系重合体を構成する全単位(100モル%)のうち、構造単位(A)を1.0〜99.0モル%、構造単位(B)を1.0〜99.0モル%含むことが好ましい。
構造単位(A)の含有率の下限は1.0モル%以上である。1.0モル%以上であれば、耐炎化処理の発熱量の低減や、炭素化収率の向上に十分な効果が得られる。構造単位(A)の含有率は、10モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。
構造単位(B)の含有率の下限は1.0モル%以上である。1.0モル%以上であれば、紡糸原液の調製の際に用いる溶媒に対するポリビニルアセチレン系重合体の溶解性が向上する。その結果、炭素繊維前駆体繊維の紡糸安定性がより高まる、耐炎化処理時に生じる発熱の量がより低減する、炭素化処理時の炭素化収率がより向上する、炭素繊維の強度や弾性率を制御することが可能となる、などの効果が得られる。上述した効果を十分に発現させるためには、構造単位(B)の含有率は10モル%以上がより好ましく、30モル%以上がさらに好ましい。
一方、構造単位(B)の含有率の上限は99.0モル%以下である。99.0モル%以下であれば、構造単位(A)の割合を十分に確保できるため、耐炎化反応を促進する効果が得られやすくなる。構造単位(B)の含有率は、90モル%以下が好ましく、70モル%以下がさらに好ましい。
また、他の構造単位の含有率は、構造単位(A)と構造単位(B)の含有率を考慮して、5.0モル%以下が好ましい。
(ポリビニルアセチレン系重合体の重合方法)
ポリビニルアセチレン系重合体は、例えば上述したビニルアセチレン化合物(a)と、必要に応じてエチレン性不飽和化合物と、ビニル系モノマーとをビニル重合することで得られる。ビニル重合は、操作が容易である点から好適である。
ビニル重合の方法は特に限定されず、ラジカル重合やアニオン重合など公知の方法の何れをも採用することができるが、ラジカル重合の方が、重合操作が容易であるために好ましい。
ラジカル重合の場合、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など、いずれの重合法を採用してもよい。懸濁重合や乳化重合は、重合度の高い重合体を比較的容易に得ることができるため好ましい。
ラジカル重合に用いる重合開始剤や触媒としては特に限定されず、例えばアゾ系化合物、有機過酸化物、または過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのアンモニウム塩等のレドックス触媒などが挙げられる。
ラジカル乳化重合の場合、乳化剤および分散剤の少なくとも一方が必要となる。この場合の乳化剤や分散剤は特に限定されるものではなく、各種アニオン型、ノニオン型、カチオン型を使用できる。特に、アニオン型のラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、重合性や分散性に優れるだけではなく、安価で入手が容易なため乳化剤や分散剤として適している。
溶液重合の場合に用いる有機溶媒は特に限定されない。具体的には、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフランなどから、原料の化合物と生成する重合体の溶解性、重合方法を考慮して選べばよい。また、必要に応じて2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
ラジカル重合に用いる連鎖移動剤は特に限定されるものではなく、公知の連鎖移動剤を使用できるが、例えばn−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類;ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類;ヨードホルムなどが挙げられる。
ラジカル重合に用いる重合停止剤(重合禁止剤)は特に限定されるものでなく、例えば、2,6−ターシャリーブチル−4−メチルフェノール、フェノチアジン、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ヒドロキノン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンなどが使用できる。
ラジカル重合時の重合温度は特に限定されるものではないが、重合反応を円滑に行うために、重合温度を40〜80℃とすることが好ましい。重合温度が40℃未満では、重合速度が遅くなり生産性が低くなる可能性がある。重合温度が80℃よりも高いと、ゲル化する場合があり好ましくない。
一方、アニオン重合に用いる重合開始剤や触媒としては特に限定されず、例えばナトリウムナフタレン、アルキルナトリウム、アルキルリチウム、アルキルマグシウムなどが挙げられる。
アニオン重合でポリビニルアセチレン系重合体中に構造単位(B)を導入する場合は、構造単位(A)と構造単位(B)の共重合性を考慮して、重合開始剤や触媒を選定する必要がある。
(ポリビニルアセチレン系重合体の物性)
ポリビニルアセチレン系重合体の粘度数(ηsp/C)は、紡糸延伸性を容易に確保できる点で、0.5〜5.0dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜3.0dl/gである。ηsp/Cが0.5dl/g以上であれば、安定に紡糸を続けるための適度な曳糸性を容易に確保することができ、凝固浴での引き取りが困難になることを容易に防ぐことができる。一方、ηsp/Cが5.0dl/g以下であれば、紡糸原液の粘度を紡糸最適範囲に保つために、紡糸原液中の共重合体濃度を高く保持することができる。その結果、炭素繊維性能(CF性能)の保持に必要な緻密性が容易に保持できると共に、紡糸工程の生産性が低下することを容易に防ぐことができる。
ポリビニルアセチレン系重合体の質量平均分子量は、5万〜70万であることが好ましく、10万〜50万であることがより好ましい。
一般にポリビニル系重合体を繊維に賦型する際に用いる紡糸原液は、安定に紡糸を続けるために最適な曳糸性を有することが求められる。曳糸性は、用いる重合体の分子量と、紡糸原液の重合体濃度に関連があり、一般に重合体の分子量が低くなると紡糸原液中の重合体濃度を高くすることが求められる。
ポリビニルアセチレン系重合体の質量平均分子量が5万以上であれば、十分に高い重合体濃度まで曳糸性を維持することが可能となる。一方、質量平均分子量が70万以下であれば、十分に共重合体濃度を下げる必要なく、曳糸性を維持することできる。紡糸原液の重合体濃度を維持できれば、CF性能の保持に必要な緻密性を保持でき、紡糸工程の生産性を保持できる。
なお、ポリビニルアセチレン系重合体の質量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定し、ポリスチレン換算分子量から得られた値である。
<調製工程>
調製工程は、上述したポリビニルアセチレン系重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解して重合体溶液を調製する工程である。すなわち、本発明に用いる紡糸原液は、ポリビニルアセチレン系重合体と溶剤とを含む重合体溶液である。
調製工程に用いるポリビニルアセチレン系重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位(A)を含むものである。ポリビニルアセチレン系重合体は、構造単位(A)のみから構成される単独重合体であってもよいし、必要に応じて、上記一般式(2)で表される構造単位(B)や、他の構造単位を含む共重合体であってもよい。ポリビニルアセチレン系重合体が共重合体である場合、該ポリビニルアセチレン系重合体を構成する全単位(100モル%)のうち、構造単位(A)の含有率は1.0〜99.0モル%が好ましく、構造単位(B)の含有率は1.0〜99.0モル%が好ましい。また、他の構造単位を含む場合は、その含有率は5.0モル%以下が好ましい。
また、上述した構造単位(A)のアセチレン基の特長を効率よく発現するには、構造単位(A)が、上記一般式(3)で表される構造単位であることが好ましい。
調製工程に用いる溶媒としては、非プロトン性極性溶媒を用いる。非プロトン性極性溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、スルホランなどが挙げられる。これら非プロトン性極性溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上述した非プロトン性極性溶媒は、ポリビニルアセチレン系重合体の溶解性に優れる。その中でも特に、凝固糸および湿熱延伸糸の緻密性が高いという点で、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが好ましい。
この重合体溶液を用いて、安定して紡糸を行ない、さらに緻密で均質な凝固糸を得るためには、紡糸原液が適正な重合体濃度とすることが重要である。
紡糸原液中のポリビニルアセチレン系重合体の濃度は、3〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%であり、さらに好ましくは15〜20質量%である。ポリビニルアセチレン系重合体の濃度が3質量%以上であれば、紡糸原液が十分な曳糸性を有するため安定して紡糸を行なうことができ、その結果、緻密で均質な凝固糸を得ることができる。一方、ポリビニルアセチレン系重合体の濃度が40質量%以下であれば、ポリビニルアセチレン系重合体を溶媒に短時間で均一に溶解することができ、また紡糸原液を長時間放置しても急激な粘度上昇が起きにくい。
重合体溶液には、一価のアルカリ金属塩を含有させることができる。一価のアルカリ金属塩を含有させることで、重合体溶液の粘度を適度に下げ、紡糸時の曳糸性を調節することができる。
一価のアルカリ金属塩の添加量は、ポリビニルアセチレン系重合体100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましく、1〜3質量部がさらに好ましい。一価のアルカリ金属塩の添加量が0.1質量部以上であれば重合体溶液の粘度を適度に下げることができ、10質量部以下であれば炭素繊維の物性が影響されにくい。
一価のアルカリ金属塩としては、具体的には塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。これら一価のアルカリ金属塩は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、少ない添加量で粘度を効果的に下げることができる点で、塩化リチウムが好適である。
<紡糸工程>
紡糸工程は、調製工程で調製した重合体溶液から、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により前駆体繊維を得る工程である。
本発明者は、上述したポリビニルアセチレン系重合体の繊維化の検討を行う中で、同重合体が非プロトン性極性溶媒(良溶媒)に溶解することに着目した。そして、重合体溶液を紡糸原液として、ある特定の溶媒(貧溶媒)に吐出すると凝固作用により繊維状物を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明では、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法を用いて、重合体溶液から前駆体繊維を得る。湿式紡糸法および乾湿式紡糸法は低温で行われるため、従来の溶融紡糸法で問題となっていたポリビニルアセチレン系重合体の熱変性を回避できる。加えて、生産性の観点や、得られる前駆体繊維の繊維構造の緻密性と均質性が優れため、炭素繊維の強度発現性の観点から好ましい。
ここで、「湿式紡糸法」とは、所定の孔径を有する口金から紡糸原液を凝固浴溶液に吐出して凝固糸(前駆体繊維)を得る方法のことである。一方、「乾湿式紡糸法」とは、所定の孔径を有する口金から紡糸原液を一旦空気中に吐出した後、凝固浴溶液中に導入して凝固糸を得る方法のことである。
本発明に用いる凝固浴溶液としては、水(水道水、純水、イオン交換水など)が好ましい。
なお、得られる前駆体繊維の繊維構造の緻密性あるいは均質性が不十分な場合、焼成時に欠陥点となり、炭素繊維の性能を損なうことがある。緻密で均質な前駆体繊維を得るには、凝固糸の性状が極めて重要である。
そこで、凝固糸の繊維1mm当たりのマクロボイドの数が1個未満となるように、紡糸するのが好ましい。繊維1mm当たりのマクロボイドの数が1個未満であれば、緻密で均質な前駆体繊維が得られやすくなる。
ここで、「マクロボイド」とは、最大径が0.1〜数μmの大きさを有する球形、紡錘形、円筒形などの形状の空隙を総称したものである。
凝固浴溶液には、二価のアルカリ金属塩を含有させることができる。二価のアルカリ金属塩を含有させることで、凝固浴溶液の凝固性が高まり、紡糸性が向上するとともに、繊維1mm当たりのマクロボイドの数が1個未満の凝固糸が得られやすくなる。
二価のアルカリ金属塩の添加量は、凝固浴溶液100質量%中、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、10〜15質量%がさらに好ましい。二価のアルカリ金属塩の添加量が1質量%以上であれば凝固性の向上に十分な効果が得られ、30質量%以下であれば炭素繊維の物性が影響されにくい。
二価のアルカリ金属塩としては、具体的には塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。これら二価のアルカリ金属塩は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、少ない添加量で凝固性を効果的に高めることができる点で、塩化カルシウムが好適である。
また、凝固浴溶液には、必要に応じて重合体溶液に用いた非プロトン性極性溶媒を含有させることもできる。
凝固浴溶液100質量%中の非プロトン性極性溶媒の濃度は5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜20質量%がさらに好ましい。非プロトン性極性溶媒の濃度が5質量%以上であれば、凝固速度が上昇することを容易に防ぎ、凝固糸が急激に収縮したり、糸緻密性が低下したりすることを容易に防ぐことができる。一方、非プロトン性極性溶媒の濃度が40質量%以下であれば、凝固速度が低下することを容易に防ぎ、得られる前駆体繊維の単糸間の接着を抑制できる。
凝固浴溶液の温度は20〜45℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。凝固浴溶液の温度が20℃以上であれば、凝固張力が上昇することを容易に防ぎ、凝固浴溶液中での単糸切れの発生を抑制できる。一方、凝固浴溶液の温度が45℃以下であれば、前駆体繊維を焼成して得られる炭素繊維のストランド強度が低下することを防止できる。
<炭素繊維前駆体繊維>
このようにして得られる炭素繊維前駆体繊維は、上記一般式(1)で表される構造単位(A)を少なくとも含むポリビニルアセチレン系重合体からなる。炭素繊維前駆体繊維は、構造単位(A)および上記一般式(2)で表される構造単位(B)を含むポリビニルアセチレン系重合体からなることが好ましく、特に、構造単位(A)を1.0〜99.0モル%、および構造単位(B)を1.0〜99.0モル%含むポリビニルアセチレン系重合体からなることが好ましい。また、構造単位(A)のアセチレン基の特長を効率よく発現するには、構造単位(A)が、上記一般式(3)で表される構造単位であることが好ましい。
<作用効果>
以上説明した本発明の炭素繊維前駆体繊維は、上述した特定のポリビニルアセチレン系重合体からなるものであり、耐炎化反応時の発熱量が少なく、耐炎化反応開始温度が低く、かつ炭素化収率が高い。
また、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法によれば、ポリビニルアセチレン系重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解させ、湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により紡糸するので、耐炎化反応時の発熱量が少なく、耐炎化反応開始温度が低く、かつ炭素化収率が高い炭素繊維前駆体繊維を連続的に安定して製造できる。
従って、本発明の炭素繊維前駆体繊維を用いれば、低温かつ少ない熱供給量で、安定して耐炎化繊維を製造でき、しかも、炭素化工程においても炭素化収率が高い。よって、炭素繊維を製造する際のコストを削減できる。
[炭素繊維の製造方法]
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
本発明の炭素繊維の製造方法は、上述した炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気下、200〜400℃で耐炎化処理する耐炎化工程を含む。なお、炭素繊維前駆体繊維を製造する工程(前駆体製造工程)は、上述した本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造方法と同じであるため、説明を省略する。
ここで、「酸化性雰囲気」とは、空気、酸素、二酸化窒素などの公知の酸化性物質を含む雰囲気のことである。中でも、経済性の面から空気雰囲気が好ましい。
耐炎化処理の温度が200℃未満であると、耐炎化反応の進行速度が遅くなり、短時間での耐炎化処理が難しくなるため、製造コストの削減が困難となる。また、炭素繊維前駆体繊維中の構造単位(A)のアセチレン基の一部が熱分解する。その結果、耐炎化構造が十分に形成されず、耐炎化反応が促進されにくくなる。一方、耐炎化処理の温度が400℃を超えると、炭素繊維前駆体繊維を構成するポリビニルアセチレン系重合体が熱分解しやすくなる。耐炎化処理の温度は、230〜280℃が好ましく、245〜265℃がより好ましい。
炭素繊維は、耐炎化工程で得られた耐炎化繊維を不活性雰囲気下、800〜2000℃で炭素化処理する炭素化工程を経て得られる。
ここで、「不活性雰囲気」とは、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの公知の不活性物質を含む雰囲気のことである。中でも、経済性の面から窒素雰囲気が好ましい。窒素純度としては、99%以上が好ましい。
炭素化工程で得られた炭素化繊維は、そのまま炭素繊維として用いることができる。また、必要に応じて公知の方法により炭素化繊維を黒鉛化したもの(黒鉛繊維)を炭素繊維として用いてもよい。例えば炭素化繊維を不活性雰囲気中、最高温度が2000℃を超えて3000℃以下で緊張下に加熱することにより黒鉛化された炭素繊維が得られる。
<作用効果>
以上説明したように、本発明の炭素繊維の製造方法によれば、上述した本発明の炭素繊維前駆体繊維を用いるので、低コストで炭素繊維を製造できる。
<用途>
本発明により得られる炭素繊維は、防炎材料、断熱材料等に好適である。また該浄水、空気浄化、ガス吸着、水処理、脱色、タバコフィルター、クリーンルーム用フィルター等の用途や、二次電池用、電解コンデンサー用、電気二重層キャパシタ用等の電極材料にも有用である。
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例における各測定・評価方法は以下の通りである。
[測定・評価]
<重合体の組成測定>
H−NMR測定装置(日本電子株式会社製、「JEOL Lambda 500型」)を用いて、重合体の組成を以下の手順で実施した。
濃度が約5質量%になるように、重合体をジメチルスルホキシド−d溶媒に溶解させ、積算回数64回、測定温度80℃の条件で測定を行った。ケミカルシフトの積分比から各単量体単位(構造単位)の比率(モル%)を求めた。
<粘度数の測定>
オストワルド粘度計を用いて、重合体の粘度数(ηsp/C:Viscosity Number)の測定を以下の手順で実施した。
重合体0.5gを100mLのジメチルスルホキシド中に分散させ、60℃で40分間撹拌溶解して重合体溶液を得た。この重合体溶液の粘度ηと溶媒(ジメチルスルホキシド)の粘度ηを、オストワルド粘度計を用いて温度30℃で測定し、下記式(I)より粘度数(ηsp/C)を求めた。
粘度数(dl/g)=((η−η)/η)/0.5 ・・・(I)
<最大発熱量および最大発熱温度の測定>
示差走査型熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、「DSC220」)を用いて、DSC測定を以下の手順で実施した。
炭素繊維前駆体繊維2mg±0.5mgをサンプル容器に入れ、30℃で30分間保持した。次いで、30℃から400℃まで昇温速度10℃/分で昇温した。DSC測定においては、若干の誘導期間の後、発熱が始まり、発熱量がピークに達した後発熱量が減衰してゆく。発熱ピークが頂点に達した時の温度を最大発熱温度とした。発熱ピークの頂点の発熱量を測定に用いた炭素繊維前駆体繊維の質量重さで割った値を最大発熱量とした。
<炭素化収率の測定>
炭素繊維前駆体繊維の質量、および炭素繊維前駆体繊維から得られた炭素繊維の質量を測定し、下記式(II)より炭素化収率を求めた。
炭素化収率(%)=(炭素繊維の質量/炭素繊維前駆体繊維の質量)×100 ・・・(II)
<紡糸性の評価>
重合体を所定の溶媒に、濃度が10質量%となるように溶解して重合体溶液を調製した。得られた重合体溶液を30℃に温度調節し、30℃に温調した凝固浴溶液中に、0.1mmの孔径を有する口金から1.0m/分の速度で吐出した。これにより賦形された凝固糸を駆動ローラーにて1.5m/分の速度で30分間巻き取った。この時間中に凝固浴溶液中で糸切れした回数を数え、以下の評価基準より紡糸性を評価した。
◎:糸切れ回数が5回以下である。
○:糸切れ回数が6回以上10回以下である。
△:糸切れ回数が11回以上であるが、凝固糸を巻き取ることはできた。
×:凝固糸を巻き取ること困難である。
[実施例1]
ビニルアセチレン化合物(a)として4−トリメチルシリル−1−ブテン−3イン(別名:トリメチルシリルビニルアセチレン:TMSVA)を用いて重合を行い、まずポリトリメチルシリルビニルアセチレン重合体(pTMSVA)を得た後、トリメチルシリル基を除去して、ポリビニルアセチレン系重合体(pVA)を得た。
得られた重合体を溶媒に溶解して重合体溶液を調製した後、湿式紡糸法により炭素繊維前駆体繊維を得た。
次いで、この炭素繊維前駆体繊維に耐炎化処理と炭素化処理を施して炭素繊維を得た。
以下、各工程について詳細に説明する。
<トリメチルシリルビニルアセチレンの重合>
窒素置換した容量300mLの丸底フラスコに、純水とラウリル硫酸ナトリウムと過硫酸カリウム(KPS)を入れて溶解した。引き続き、TMSVAを67g仕込んで乳化させ、窒素流下でマグネチックスターラーにて撹拌しながら50℃で12時間から16時間以上反応させた。TMSVAに対するKPSの濃度は0.5mol%とした。
重合終了後、乳化反応液をメタノール中に投入して、沈殿物(トリメチルシリルビニルアセチレンの重合体)を得た。この重合体を濾過して取り出した後、固形分濃度が10質量%になるようにトルエンに溶解した。この重合体のトルエン溶液を、再度メタノール中に投入して、沈殿物(重合体)を得た。この操作を3回繰り返して得られた重合体を30℃で24時間減圧乾燥させ、pTMSVAを47.6g得た。収率(重合率)は71%であった。
得られたpTMSVAは、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルムに可溶性であった。
<ポリビニルアセチレン系重合体の製造(トリメチルシリル基の除去)>
冷却管を取り付けた容量1000mLの丸底フラスコに、10gのpTMSVAと200mLのTHFを加え溶解した。そこに、予めメタノール66.7mLと純粋33.3mLの混合溶液に水酸化カリウム66.7gを溶解させて調製した水酸化カリウム溶液を添加して、窒素流下、マグネッチクスターラーで撹拌しながら、60℃に加熱して12時間から16時間反応させた。
反応終了後、エバポレーターを用いて30℃(−0.09MPa)で溶媒を留去した後、析出した沈殿物を濾過して取り出した。得られた沈殿物をアセトンに適当な濃度になるように溶解した後、水/メタノール混合溶液(質量比:4/1)に滴下して沈殿物を得た。得られた沈殿物を水/メタノール混合溶液(質量比:4/1)で数回洗浄して、最後に30℃で24時間減圧乾燥させ、ポリビニルアセチレン系重合体(pVA)を5.1g得た。
得られたpVAは、ビニルアセチレン単位(上記一般式(3)で表される構造単位(A)に相当)100モル%からなる単独重合体であり、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N―メチルピロリドンに可溶性であった。また、得られたpVAについて粘度数(ηsp/C)を測定したところ、2.10dl/gであった。
得られたpVAの重合率、組成、粘度数を表1に示す。
また、得られたpVAについて、上述した最大発熱量および最大発熱温度の測定方法と同様にしてDSC測定を行った。発熱曲線を図1に示す。
<炭素繊維前駆体繊維の製造>
先に得られたpVAを濃度10質量%になるようにDMSOに溶解し、重合体溶液を調製した。この重合体溶液を紡糸溶液として用い、純水を凝固浴として用い、上述した紡糸性の評価方法に従い凝固糸を得た。なお、30分間の糸切れ回数は20回以上であったが、凝固糸を巻き取ることはできた。
得られた凝固糸を回収した後に水洗、乾燥して炭素繊維前駆体繊維を得た。
示差走査型熱量測定装置を用いて測定した炭素繊維前駆体繊維の最大発熱量は7.0mW/mg、最大発熱温度は225℃であった。
紡糸性の評価結果と、最大発熱量および最大発熱温度の測定結果を表1に示す。
<炭素繊維の製造>
得られた炭素繊維前駆体繊維を空気中において250℃で60分間加熱し、耐炎化処理した。次いで、窒素雰囲気に切り替え、昇温速度10℃/分で1400℃まで昇温加熱して炭素化処理した後、室温まで冷却して炭素繊維を得た。
炭素化収率を測定したところ、60%であった。結果を表1に示す。
[実施例2〜9]
トリメチルシリルビニルアセチレンの重合における仕込み組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造した。
得られた炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維等について、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
なお、表1に示す仕込み組成について、例えば実施例2の場合、「TMSVA:AN=80:20」とは、TMSVAとアクリロニトリル(AN)との比率(モル%)がTMSVA:AN=80:20となるように、TMSVAとANの混合物を67g仕込んだことを意味する。
また、表1に示す重合体の組成について、例えば実施例2の場合、「VA単位/AN単位=90/10」とは、ビニルアセチレン単位(上記一般式(3)で表される構造単位(A)に相当)を90モル%と、アクリロニトリル単位(構造単位(B)に相当)を10モル%とからなる共重合体を意味する。
表1〜4中の他の実施例についても同様である。
[比較例1]
pVAの代わりに、アクリロニトリルを単独で重合して得られたポリアクリロニトリル重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造した。
得られた炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維等について、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
また、ポリアクリロニトリル単独重合体について、上述した最大発熱量および最大発熱温度の測定方法と同様にしてDSC測定を行った。発熱曲線を図1に示す。
[比較例2]
底部に直径0.5mmの穴を1つ空けた内径10mmの真鍮製ノズル付の筒に、実施例1で得られたpVA(VA単位=100モル%)5gを充填した。容器上部から窒素を流しながら、ノズルの内温を150℃まで加熱した後、30分間保持してpVAを溶融した。その後、筒の上部からピストンでpVAを押し出して溶融紡糸を試みた。
しかし、pVAがゲル化していたため、ノズル孔から安定に吐出できず、炭素繊維前駆体繊維は得られなかった。筒内部から取り出したpVAは、DMSOに不溶であった。これは、pVAがゲル化したためと考えられる。
[比較例3]
実施例4で得られたpVA(VA単位/AN単位=35/65)を用いた以外は、比較例2と同様にして溶融紡糸を試みた。
しかし、pVAがゲル化していたため、ノズル孔から安定に吐出できず、炭素繊維前駆体繊維は得られなかった。筒内部から取り出したpVAは、DMSOに不溶であった。これは、pVAがゲル化したためと考えられる。
[実施例10〜15]
実施例1で得られたpVA(VA単位=100モル%)を用い、重合体溶液に用いた溶媒の種類と、凝固浴溶液の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造し、紡糸性を評価し、炭素化収率を測定した。結果を表2に示す。また、実施例1の結果も表2に示す。
なお、表2に示す重合体溶液の溶媒について、例えば実施例10、12の場合、「DMSO+LiCl(1.0部)」とは、重合体溶液中の重合体100質量部に対して1.0質量部に相当する塩化リチウム(LiCl)がDMSOに含まれていることを意味する。
また、表2に示す凝固浴溶液について、例えば実施例11、12の場合、「HO+CaCl(20%)」とは、純水100質量%中、20質量%の塩化カルシウム(CaCl)を含有することを意味する。
表2、3中の他の実施例についても同様である。
[実施例16〜20]
実施例3で得られたpVA(VA単位/AN単位=45/55)を用い、重合体溶液に用いた溶媒の種類と、凝固浴溶液の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造し、紡糸性を評価し、炭素化収率を測定した。結果を表2に示す。また、実施例3の結果も表2に示す。
[実施例21〜31]
実施例7で得られたpVA(VA単位/SAS単位=94/6)を用い、重合体溶液に用いた溶媒の種類と、凝固浴溶液の組成を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造し、紡糸性を評価した。また、実施例24、30、31については、炭素化収率を測定した。これらの結果を表3に示す。また、実施例7の結果も表3に示す。
[実施例32〜37]
実施例7で得られたpVA(VA単位/SAS単位=94/6)を用い、耐炎化処理温度を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造し、炭素化収率を測定した。結果を表4に示す。また、実施例7の結果も表4に示す。
なお、実施例32は耐炎化処理を行わなかった。
[実施例38〜43]
実施例4で得られたpVA(VA単位/AN単位=35/65)を用い、耐炎化処理の温度を表4に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造し、炭素化収率を測定した。結果を表4に示す。また、実施例4の結果も表4に示す。
なお、実施例38は耐炎化処理を行わなかった。
[実施例44]
TMSVAの代わりに、2−クロロ−4−トリメチルシリル−1−ブテン−3イン(別名:α−クロロ−トリメチルシリルビニルアセチレン:Cl−TMSVA)を用いた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維を製造した。
得られた炭素繊維前駆体繊維および炭素繊維等について、各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
Figure 0006471295
Figure 0006471295
Figure 0006471295
Figure 0006471295
なお、表1〜4中の略号は以下の通りである。
・TMSVA:4−トリメチルシリル−1−ブテン−3イン(別名:トリメチルシリルビニルアセチレン)
・VA:1−ブテン−3イン(ビニルアセチレン)
・AN:アクリロニトリル
・MAA:メタクリル酸
・VAc:酢酸ビニル
・SAS:アリルスルホン酸ナトリウム
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・ITA:イタコン酸
・Cl−TMSVA:2−クロロ−4−トリメチルシリル−1−ブテン−3イン(別名:α−クロロ−トリメチルシリルビニルアセチレン)
・Cl−VA:2−クロロ−1−ブテン−3イン(2−クロロ−ビニルアセチレン)
・DMSO:ジメチルスルホキシド
・LiCl:塩化リチウム
・CaCl:塩化カルシウム
・NMP:N−メチルピロリドン
・DMF:ジメチルホルムアミド
・DMAc:ジメチルアセトアミド
表1から明らかなように、ポリビニルアセチレン系重合体から得られた炭素繊維前駆体繊維(実施例1〜9、44)は、ポリアクリロニトリル重合体から得られた炭素繊維前駆体繊維(比較例1)と比較して、炭素化収率が高かった。また、耐炎化反応時の最大発熱量の減少と、最大発熱温度の低下が見られた。
特に、ビニル基のα位を塩素化したポリビニルアセチレンの単独重合体から得られた炭素繊維前駆体繊維(実施例44)は、実施例1の炭素繊維前駆体繊維と比較して炭素化収率が高かった。また、耐炎化反応時のさらなる最大発熱量の減少と、最大発熱温度のさらなる低下が見られた。
表2から明らかなように、重合体溶液に用いた溶媒として、DMSO以外の非プロトン性極性溶媒を用いた場合でも、凝固糸の取得が可能であった(実施例13〜15、16、17)。さらに重合体溶液に一価のアルカリ金属塩(塩化リチウム)を含有させた場合(実施例10、12、18、20)、凝固浴溶液に二価のアルカリ金属塩(塩化カルシウム)を含有させた場合(実施例11、12、19、20)には、湿式紡糸法における紡糸性の向上が見られた。しかも、炭素化収率への影響は殆ど見られなかった。
表3から明らかなように、重合体溶液中の一価のアルカリ金属塩(塩化リチウム)の含有量の範囲、および凝固浴溶液中の二価のアルカリ金属塩(塩化カルシウム)を含有量の範囲には、最適な範囲があることが明らかになった。
表4から明らかなように、耐炎化処理の温度範囲には、最適な範囲があることが明らかになった。
本発明は、従来のPAN系炭素繊維よりも耐炎化反応開始温度が低く、急激な発熱反応を抑制することができ、かつ熱分解開始温度が従来のPAN系共重合体より高いポリビニルアセチレン系重合体を炭素繊維前駆体繊維の紡糸原料として用いることにより、耐炎化工程の高速化と低温化が可能となり、続く炭素化工程でも品位の良い炭素繊維を製造することができ、有用である。

Claims (4)

  1. 下記一般式(1)で表される構造単位(A)を含むポリビニルアセチレン系重合体を非プロトン性極性溶媒に溶解して重合体溶液を調製する調製工程と、該重合体溶液から湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により前駆体繊維を得る紡糸工程とを含み、
    湿式紡糸法および乾湿式紡糸法で用いる凝固浴溶液が、該凝固浴溶液100質量%中、二価のアルカリ金属塩を1〜30質量%含有する、炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
    Figure 0006471295
    式(1)中、R、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、Rは水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホン酸基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれる。
  2. 前記ポリビニルアセチレン系重合体が下記一般式(2)で表される構造単位(B)をさらに含む、請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
    Figure 0006471295
    式(2)中、R、Rは独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メチル基からなる群より選ばれ、R、Rは独立して、ハロゲン原子、芳香族炭化水素基、アセチレン基を含まない脂肪族炭化水素基、ニトリル基、アセチル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルエステル基、スルホン基、スルホン基の金属塩、アミノ基からなる群より選ばれ、RとRは飽和炭化水素基、エステル基、エーテル基、ケトン基を介して結合してもよい。
  3. 前記非プロトン性極性溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、スルホランからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法により製造した炭素繊維前駆体繊維を酸化性雰囲気下、200〜400℃で耐炎化処理する耐炎化工程を含む、炭素繊維の製造方法。
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