以下、本発明の実施の形態の車両制御装置およびそれを備えた車両並びに車両制御方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
図1は、本発明の実施の形態の車両制御装置を含む車両の機能ブロック図である。本実施形態の車両制御装置は、変速機構の変速処理の際にクラッチが切断され、変速機構側に内燃機関からのトルクが一時的に伝達されない場合に、モータジェネレータからトルクを供給して出力トルクを補う。そのとき、変速する旨の決定後、速やかに変速処理が完了したような印象を運転者等に与えやすいように、モータジェネレータのモータトルクを変化させる。具体的には、変速機構のギア対が他のギア対に変更されることが決定された場合、変速処理によってトルク非伝達状態に切り換わるべきギア対がトルク非伝達状態となった後であって、変速処理によってトルク伝達状態に切り換わるべきギア対がトルク伝達状態となる前に、出力シャフトにおける出力トルクを強制的かつ急激に変化させるようなモータトルクを発生するようにモータジェネレータを制御するものである。
図1に示すハイブリッド車両(以下単に「車両」という。)100は、エンジン(EnG)102、クラッチ104、自動変速機(変速機構)106、モータジェネレータ(MG)108、インバータ110、バッテリ112、差動装置(デフ)114、制御部116、記憶部118、切換機構120等で構成されている。なお、図1では、本実施形態と関連しない構成については省略している。
内燃機関の一種であるエンジン102は、例えばガソリンエンジン等で、制御部116の制御によりエンジン回転数やエンジントルクが制御される。クラッチ104は、エンジン102の出力シャフトと自動変速機106の入力シャフトとの間に配置される。クラッチ104の制御状態には、エンジン102側から供給される動力(トルク)を伝達するトルク伝達状態と、伝達しないトルク非伝達状態とがある。トルク伝達状態は、およびトルク伝達状態とトルク非伝達状態の中間の状態で滑りながら接触して一部のトルクを伝達する滑り状態を含む。クラッチ104の制御状態は走行状態に応じて制御部116によって制御されるようにしてもよい。
自動変速機106は、変速クラッチとして、後述するいわゆるドグクラッチを含むドグトランスミッションとすることができるが、別の実施形態では、変速クラッチとしてシンクロメッシュを備えるトランスミッションでもよい。自動変速機106の出力シャフト側には、モータジェネレータ108が接続されている。図1の構成では、自動変速機106に対するモータジェネレータ108の接続状態を切り換える切換機構120が設けられている。
切換機構120に含まれるMGクラッチ120aによってモータジェネレータ108を自動変速機106の出力シャフト側に直結させることができる。MGクラッチ120aは、モータジェネレータ108と自動変速機106の出力シャフトとの間に配置される。また、切換機構120に含まれるMGクラッチ120bによってモータジェネレータ108を自動変速機106の入力シャフト側に直結させることができる。MGクラッチ120bは、モータジェネレータ108と自動変速機106の入力シャフトとの間に配置される。切換機構120は、MGクラッチ120aおよびMGクラッチ120bのいずれか一方を接続する状態と、MGクラッチ120a、120bのいずれも切断して、モータジェネレータ108を自動変速機106から分離させる状態、つまりドライブトレインからモータジェネレータ108を分離させる状態とを選択できる。
MGクラッチ120aが接続状態となり、モータジェネレータ108が自動変速機106の出力シャフト側と直結される場合は、インバータ110を介してバッテリ112からの電力供給を受けてモータとして機能するモータジェネレータ108の出力トルクを差動装置114側に提供可能である。したがって、エンジン102からの駆動力の供給を受けない場合、モータジェネレータ108のみを駆動源とするEV走行が可能となる。また、エンジン102からの駆動力の供給を受ける場合は、エンジン102の駆動力をアシストするアシスト走行が可能になる。また、車両100の制動時にはモータジェネレータ108を発電機として機能させて、インバータ110を介してバッテリ112を充電させることが可能である。
MGクラッチ120bが接続状態となり、モータジェネレータ108が自動変速機106の入力シャフト側と直結される場合は、インバータ110を介してバッテリ112からの電力供給を受けてモータとして機能するモータジェネレータ108の出力トルクを自動変速機106に提供可能である。したがって、エンジン102の駆動力をアシストするアシスト走行が可能になる。また、後述するが、自動変速機106内部の接続状態によりエンジン102からの駆動力を受け取る状態と受け取らない状態の切り換えが可能である。
MGクラッチ120bを接続した状態で、自動変速機106がエンジン102からの駆動力を受け取る状態に制御されると、エンジン102の駆動力により車両100を走行させ、それととともに、モータジェネレータ108を発電機として機能させて、バッテリ112を走行中に充電することができる。また、MGクラッチ120bを接続した状態で、自動変速機106がエンジン102からの駆動力を受け取らない状態にすると、エンジン102からの駆動力によりモータジェネレータ108を発電機として機能させることができる。その結果、車両100の停止中にバッテリ112を充電することができる。なお、切換機構120によりモータジェネレータ108を自動変速機106側から分離すればエンジン102のみのエンジン走行が可能になる。MGクラッチ120a、120bは、図1においては自動変速機106とは別構成で示すが、自動変速機106の中にドグクラッチ等で設けてもよい。
差動装置114は、車両100が旋回する際に、内側と外側の車輪122に生じる速度差(回転数の差)を吸収しつつ動力源(エンジン102またはモータジェネレータ108あるいはその両方)からのトルクを各車輪122に振り分けて伝える。
本実施形態の場合、制御部116は、運転者の走行操作に基づく走行要求または車両100の走行状態にしたがって、エンジン102、クラッチ104、自動変速機106、インバータ110、バッテリ112、切換機構120等を連携制御して、最適な走行を実現するようにすることができる。なお、図1の構成の場合、制御部116は各機器を統合制御する統合制御部として示しているが、制御対象ごとに個別の制御部を備え、各制御部が連携制御されるようにしてもよい。また、いくつかの機能をまとめて制御するようにしてもよい。記憶部118は制御部116が取得する各種情報を記憶する。また、記憶した情報を制御部116に提供して各機器を制御したり、各機器のフィードバック制御に反映させる。なお、制御部116は、取得した各種情報に基づき、情報を加工して新たな情報を作成したり、既存の情報を更新したりして記憶部118に記憶させてもよい。
図2は、本発明の実施形態における車両制御装置を含む車両のドライブトレインを中心とする駆動系の模式図である。図2に示す構成例の場合、自動変速機106の入力シャフト12には、例えば乾式のクラッチ104を介してエンジン102の動力と、モータジェネレータ108の動力が供給できるように構成されている。つまり、本実施形態の自動変速機106はハイブリッド車両に搭載されている。
本実施形態の自動変速機106は、変速クラッチとして、シンクロメッシュ機構を持たず、代わりに「ドグクラッチ」と呼ばれる噛み合わせ機構を有し、複数のギアが常時噛み合い状態にある変速機である。このようにドグクラッチを含む自動変速装置を「ドグミッション」と称する場合もある。図2はドグミッションの一例を示す。本実施形態の自動変速機106は、1本の入力シャフト12と、2本の出力シャフト20a、20bを含む例を示している。
出力シャフト20aは、第1速用従動ギア22、第5速用従動ギア24、第2速用従動ギア26、第4速用従動ギア28を回転自在にその軸上に支持している。出力シャフト20aは、第1速用従動ギア22を出力シャフト20aに固定してトルクを伝達できる伝達状態(トルク伝達状態)と、固定を解放してトルクを伝達できない非伝達状態(トルク非伝達状態)とを切り換える第1ドグ30を有する。同様に、出力シャフト20aは、第5速用従動ギア24を出力シャフト20aに固定するトルク伝達状態と、固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換える第5ドグ32を有する。そして、出力シャフト20aは、第1ドグ30と第5ドグ32のいずれかをトルク伝達状態にするあるいはいずれもトルク非伝達状態にする切換動作を行う第1ドグクラッチ34を備える。
同様に、出力シャフト20aは、第2ドグ36と第4ドグ38を有する。第2ドグ36は、第2速用従動ギア26を出力シャフト20aに固定するトルク伝達状態と、固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換える。第4ドグ38は、第4速用従動ギア28を出力シャフト20aに固定するトルク伝達状態と、固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換える。そして、出力シャフト20aは、第2ドグ36と第4ドグ38のいずれかをトルク伝達状態にするあるいはいずれもトルク非伝達状態にする切換動作を行う第2ドグクラッチ40を備える。
出力シャフト20bは、第3速用従動ギア42、後進用従動ギア44を回転自在にその軸上に支持している。出力シャフト20bは、第3速用従動ギア42を出力シャフト20bに固定するトルク伝達状態と、固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換える第3ドグ46を有する。同様に、後進用従動ギア44を出力シャフト20bに固定するトルク伝達状態と、固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換える後進用ドグ48を有する。そして、出力シャフト20bは、第3ドグ46と後進用ドグ48のいずれかをトルク伝達状態にするまたはいずれもトルク非伝達状態にする切換動作を行う第3ドグクラッチ50を備える。
入力シャフト12は、第2速用駆動ギア52、第4速用駆動ギア54、第1速/後進用駆動ギア56、第3速/第5速用駆動ギア58を備える。本実施形態の構成の場合、第1逮/後進用駆動ギア56および第3速/第5速用駆動ギア58は入力シャフト12に固定されている。一方、第2速用駆動ギア52および第4速用駆動ギア54は入力シャフト12に回転自在に支持されている。なお、本実施形態の構成では、第2速用駆動ギア52および第4速用駆動ギア54は、モータジェネレータ108の動力伝達を第4速用駆動ギア54で受けて、両方が回転できるように一体化されており、入力シャフト12に対して一体的に回転できるように構成されている。
その一方で、入力シャフト12は、第2速用駆動ギア52を当該入力シャフト12に固定するトルク伝達状態と固定を解放するトルク非伝達状態とを切り換えるAドグ60を備え、その切換動作を行う第4ドグクラッチ62を備える。したがって、第4ドグクラッチ62によって、Aドグ60が第2速用駆動ギア52と噛み合った場合には、第2速用駆動ギア52および第4速用駆動ギア54の両方が入力シャフト12に固定されることになる。したがって、第4ドグクラッチ62によりAドグ60がトルク非伝達状態、第1ドグクラッチ34が中立状態、第2ドグクラッチ40により第4ドグ38または第2ドグ36がトルク伝達状態の場合、モータジェネレータ108は、出力シャフト20aと直結されて、図1におけるMGクラッチ120aが接続された状態が形成できる。一方、第4ドグクラッチ62によりAドグ60をトルク伝達状態にすれば、図1におけるMGクラッチ120bが接続された状態が形成できる。
図2の自動変速機106の場合、第1速用従動ギア22と第1速/後進用駆動ギア56とで第1ギア対64を構成し、第2速用従動ギア26と第2速用駆動ギア52とで第2ギア対66を構成し、第3速用従動ギア42と第3速/第5速用駆動ギア58とで第3ギア対68を構成している。また、第4速用従動ギア28と第4速用駆動ギア54とで第4ギア対70を構成し、第5速用従動ギア24と第3速/第5速用駆動ギア58とで第5ギア対72を構成している。なお、後進用従動ギア44は、第1速用従動ギア22を介して第1速/後進用駆動ギア56と対を成し後進ギア対74を構成している。
このように、第1ドグクラッチ34、第2ドグクラッチ40、第3ドグクラッチ50、第4ドグクラッチ62は、第1ギア対64、第2ギア対66、第3ギア対68、第4ギア対70、第5ギア対72、後進ギア対74を介して第1シャフト(例えば入力シャフト12)と第2シャフト(例えば出力シャフト20aまたは出力シャフト20b)との間でギア対ごとに定められたギア比に従うトルク伝達状態と、トルク非伝達状態とを切り換える切換機構として機能する。
例えば、第1ドグクラッチ34により第1ドグ30を第1速用従動ギア22に噛み合わせることにより回転自在であった第1速用従動ギア22が出力シャフト20aに固定される。第1速/後進用駆動ギア56は、入力シャフト12に固定されているので、第1ギア対64は、入力シャフト12と出力シャフト20aとの間で所定のギア比にしたがうトルク伝達状態になる。一方、第1ドグクラッチ34により第1ドグ30と第1速用従動ギア22の噛み合いが解除されると第1速用従動ギア22は出力シャフト20aに対して回転自在となる。したがって、入力シャフト12に固定された第1速/後進用駆動ギア56によって、第1速用従動ギア22が回転しても、出力シャフト20aの軸上で空転するのみで、第1ギア対64は、入力シャフト12と出力シャフト20aとの間でトルク非伝達状態になる。
自動変速機106の出力シャフト20a、20bには、それぞれ出力ギア76a、76bが固定され、差動装置114のリングギア80と噛み合い、出力シャフト20a、20bのトルクをリングギア80に伝達している。
モータジェネレータ108の出力シャフト82に固定された出力ギア84は、アイドルギア86を介して第4速用駆動ギア54と噛み合っている。したがって、モータジェネレータ108は、第4速用駆動ギア54および第2速用駆動ギア52を同時に回転させることができる。なお、図2において、アイドルギア86は回転センサ88を備え、モータジェネレータ108の実回転数の検出を行い、モータジェネレータ108の制御に利用している。また、入力シャフト12にはクラッチ104のクラッチカバーを押すコンセントリック・スレーブ・シリンダ(CSC) 90が備えられている。
前述したように、自動変速機106は制御部116によって制御することができる。この場合、制御部116は、第1ドグクラッチ34、第2ドグクラッチ40、第3ドグクラッチ50、及び第4ドグクラッチ62の制御を行うギア制御部として機能し、トルク伝達状態とトルク非伝達状態の切り換えを行う。
上述のように、自動変速機106は、駆動源としてエンジン102とモータジェネレータ108を利用したハイブリッド車両に適用される。そして、制御部116によるエンジン102、モータジェネレータ108の駆動制御および各ドグの切換制御により走行状態に適した変速状態を実現する。例えば、第1ドグクラッチ34、第2ドグクラッチ40のいずれかにより第1速用従動ギア22、第5速用従動ギア24、第2速用従動ギア26、第4速用従動ギア28のいずれかを出力シャフト20aに固定する。あるいは、第3ドグクラッチ50により第3速用従動ギア42、後進用従動ギア44のいずれかを出力シャフト20bに固定する。その結果、エンジン102とモータジェネレータ108の少なくとも一方の駆動力を用いた制御を実現する。
本実施形態における車両100を走行させる場合、エンジン102のみを駆動源とする駆動態様と、モータジェネレータ108のみを駆動源とする駆動態様の他、エンジン102とモータジェネレータ108の両方を駆動源として用いる協調制御態様を選択できる.以下、協調制御時のギア接続の一例を説明する。
例えば、第1ギア対64を用いてエンジン102の駆動力を伝達し、第2ギア対66を用いてモータジェネレータ108の駆動力を伝達する場合、つまり、モータジェネレータ108によるアシストを伴い、エンジン102により第1速走行を行う場合の動力伝達例を説明する。
この場合、エンジン102およびモータジェネレータ108を駆動状態とし、クラッチ104を接続状態にする。ドグについては、第1ドグクラッチ34によって第1ドグ30をトルク伝達状態に切り換え、第2ドグクラッチ40によって第2ドグ36をトルク伝達状態に切り換える。その結果、エンジン102のトルクは、クラッチ104を介して入力シャフト12に伝達され、当該入力シャフト12に固定された第1速/後進用駆動ギア56を回転させる。そして、第1速/後進用駆動ギア56は、第1ドグ30によって出力シャフト20aに固定された第1速用従動ギア22を回転させてエンジン102のトルクを第1ギア対64で定められるギア比にしたがって出力シャフト20aに伝達する。
一方、Aドグ60をトルク非伝達状態にすることで、モータジェネレータ108のトルクは、自由回転する第4速用駆動ギア54に所定のギア比にしたがって伝達され、さらに一体化された第2速用駆動ギア52を回転させる。そして、第2速用駆動ギア52は、第2速用従動ギア26を回転させる。第2速用従動ギア26は、第2ドグ36によって出力シャフト20aに固定されているので、モータジェネレータ108のトルクは、第2ギア対66などを経由するギアのギア比にしたがって出力シャフト20aに伝達される。
したがって、出力シャフト20aには、エンジン102のトルクとモータジェネレータ108のトルクの両方が伝達され、出力ギア76aを回転させる。出力ギア76aに伝達されたトルクは、リングギア80を介して差動装置114側、すなわち駆動輪側に伝達され車両の走行を可能にする。他のギア対を用いて車両を走行させる場合のトルク伝達についても同様である。
なお、ドグクラッチの制御により停車時にエンジン102の駆動力を用いて発電を行い、モータジェネレータ108等を駆動するバッテリ112を充電することができる。例えば、第1ドグクラッチ34、第2ドグクラッチ40、第3ドグクラッチ50をニュートラルの状態にして、第4ドグクラッチ62により第2速用駆動ギア52および第4速用駆動ギア54を入力シャフト12に固定する。そして、クラッチ104を接続状態にする。その結果、エンジン102のトルクにより入力シャフト12が回転し、それに伴い第4速用駆動ギア54が回転する。第4速用駆動ギア54には、アイドルギア86を介してモータジェネレータ108の出力シャフト82が噛み合っているので、エンジン102によりモータジェネレータ108の出力シャフト82が回転させられて発電機として機能する。つまり停車時に発電を行う状態となる。
また、ドグクラッチの制御により停止中のエンジン102をモータジェネレータ108で始動することができる。例えば、エンジン102の停止時に、第4ドグクラッチ62により第2速用駆動ギア52および第4速用駆動ギア54を入力シャフト12に固定する。一方、第1ドグクラッチ34、第2ドグクラッチ40、第3ドグクラッチ50は、ニュートラルの状態にすると共にクラッチ104を接続状態にする。この状態で、モータジェネレータ108を駆動すれば、停止状態の第4速用駆動ギア54を回転させることができる。つまり、停止状態の入力シャフト12を回転させて、クラッチ104を介してエンジン102のクランクシャフトを回転させて、エンジン102を始動することができる。その結果、エンジン102のためのスタータ装置を省略することができて、構成の簡略およびコストダウンに寄与することができる。
なお、協調制御により後進走行させる場合は、例えば、エンジン102のトルクが入力シャフト12、第1速/後進用駆動ギア56と第1速用従動ギア22からなる第1ギア対64を介し、さらに第1速用従動ギア22と後進用従動ギア44からなる後進ギア対74に伝達されるようにする。その結果、後進用ドグ48によって出力ギア76bに固定された後進用従動ギア44は、入力シャフト12の回転方向とは逆方向に回転し、車両を後進させる。このとき、Aドグ60をトルク伝達状態に切り換えることにより、エンジン102のトルクが第4速用駆動ギア54に伝達され、モータジェネレータ108の出力シャフト82を回転させる。つまり、後進制御中に発電またはアシストすることができる。
図3は、本発明の実施の形態における変速クラッチの構成を示す分解斜視図である。変速クラッチの構成はいずれも同じであるので、図3には第1ドグクラッチ34と第1ドグ30とを含む変速クラッチを示して以下詳細に説明する。
第1ドグクラッチ34は、クラッチハブ341とスリーブ342とからなる。また、第1ドグ30は、第1速用従動ギア22と一体的に形成されており、第1速用従動ギア22の第1ドグクラッチ34側に形成されている。クラッチハブ341は、第1ドグ30に隣接してスプライン嵌合等で入力シャフト12に固定されており、入力シャフト12と一体的に回転する。
スリーブ342の内周には、半径方向高さが異なる高歯342a1および低歯342b1を含むスプライン342aが形成されている。クラッチハブ341の外周面には、スリーブ342の内周面に形成されているスプライン342aに入力シャフト12の軸線方向に摺動可能に係合するスプライン341aが形成されている。スプライン341aにおいて、複数(例えば2つ)の溝341a1が残りの溝より深く形成されている。複数の溝341a1は、スリーブ342の複数の高歯342a1に対応するものである。
図3に示すように、第1ドグ30は、リング状のクラッチリング30a1と、クラッチリング30a1の外周において180度隔てて配置された2枚の前歯30b1と、クラッチリング30a1の外周において2枚の前歯30b1の間に5枚ずつ等角度間隔で配置された後歯30c1とを備えている。前歯30b1および後歯30c1は、クラッチリング30a1の外周に一定幅のクラッチ歯溝30d1を空けて形成されている。
クラッチリング30a1は、外径がスリーブ342に形成されているスプライン342aの高歯342a1の内径より小さくなるように形成されている。前歯30b1は、外径がスプライン342aの高歯342a1の内径より大きく、スプライン342aの低歯342b1の内径より小さくなるように形成されている。後歯30c1は、スプライン342aのスプライン歯溝342c1と噛合可能に形成されている。すなわち、前歯30b1は、低歯342b1とは噛み合わず、高歯342a1と噛み合い可能に形成されている。後歯30c1は、高歯342a1および低歯342b1と噛み合い可能に形成されている。
前歯30b1は、高歯342a1と同数枚(本例では、2枚)形成されている。スリーブ342の回転速度と第1ドグ30(および第1速用従動ギア22)の回転速度に大きな差が生じていても、2枚の高歯342a1が2枚の前歯30b1間に容易に入り込めるように、前歯30b1は少歯とされている。そして、前歯30b1は、高歯342a1と対応する位置でクラッチリング30a1の前端面30a2から第1ドグ30の後端位置(第1速用従動ギア22の側面)まで延在して形成されている。後歯30c1は、クラッチリング30a1の前端面30a2から第1所定量d1後退した位置から第1ドグ30の後端位置(第1速用従動ギア22の側面)まで延在して形成されている。
前歯30b1の高歯342a1と対向する前端部には、中央部から第1ドグ30の後端位置側に向かって傾斜する傾斜面30b2が円周方向両側に形成されている。後歯30c1には、高歯342a1および低歯342b1と当接可能な接触面30c2が形成されている。前歯30b1の傾斜面30b2が前歯30b1の側面30b3と交差する位置は、後歯30c1の接触面30c2よりクラッチリング30a1の前端面30a2側となるように、前歯30b1の傾斜面30b2は形成されている。なお、前歯30b1の前端部の先端、すなわち両傾斜面30b2の交差部は、一般的な丸み面取り(R形状)に形成されている。
以上のように、本実施の形態の変速クラッチは、自動変速機の入力軸および出力軸の一方に回転連結され軸線回りに回転可能に軸承された回転軸と、前記回転軸に回転可能に支承され前記入力軸および出力軸の他方に回転連結されたドグと、前記回転軸に前記クラッチリングと隣接して固定されたハブと、前記ハブと前記軸線方向に移動可能に嵌合されたスリーブと、前記スリーブを前記軸線方向に移動させる軸動装置と、を備え、前記ドグは従動ギアの前記スリーブ側に突出して設けられ前記スリーブの軸動に応じて前記スリーブに形成されたスプラインと係脱可能に噛合し、前記スプラインは、複数の高歯が残りの低歯より歯丈が高く形成され、前記ドグは、外径が前記高歯の内径より大きく前記低歯の内径より小さく前記高歯と同数枚の前歯が、前記高歯と対応する位置で前記ドグの前端面から前記ドグの後端位置まで延在して形成されるとともに、前記スプラインの歯溝と噛合可能な後歯が、前記ドグの前端面から所定量後退した位置から前記ドグの後端位置まで延在して形成されている。
図4は、本発明の実施の形態におけるスリーブを軸線方向に沿って往復動させる軸動機構を説明する図である。軸動機構343は、フォーク343a、フォークシャフト343bおよび駆動装置(アクチュエータ)343cを含んで構成されている。フォーク343aの先端部は、スリーブ342の外周溝342bの外周形状にあわせて形成されている。フォーク343aの基端部は、フォークシャフト343bに固定されている。フォークシャフト343bは、自動変速機106のケーシングに軸線方向に沿って摺動自在に支承されている。フォークシャフト343bの一端部は、駆動装置343cを貫通して配設されている。
駆動装置343cは、リニアモータを駆動源とするリニア駆動装置であり、リニアモータとしては、特開2008−259413号公報に記載されているものを採用すればよい。すなわち、リニア駆動装置343cは、複数のコイルが軸線方向に沿って並設されて円筒状のコアが形成され、その貫通穴を貫通しているフォークシャフト343bに複数のN極磁石とS極磁石を交互に並設することで構成されている。各コイルへの通電を制御することで、フォークシャフト343bを往復動させることも、任意の位置に位置決め固定させることも可能である。
軸動機構343は、スリーブ342を第1ドグ30(または第2ドグ32)に押圧させている際に、第1ドグ30(または第2ドグ32)から反力が加わった場合に、スリーブ342がその反力によって移動することを許容するように構成されている。なお、本実施形態では、駆動装置343cとしてリニア駆動装置を採用したが、スリーブ342を第1ドグ30(または第2ドグ32)に押圧させている際に、第1ドグ30(または第2ドグ32)から反力が加わった場合に、スリーブ342がその反力によって移動することを許容するように構成されているものであれば、他の駆動装置であるソレノイド式駆動装置や油圧式駆動装置でもよい。
次に、第1ドグ30と第1ドグクラッチ34との噛合動作について、図5を参照して説明する。図5(a)に示すように、噛合前においては、スリーブ342は、第1ドグ30から離間している。そして、スリーブ342が、軸動機構343により軸線方向に沿って第1ドグ30側に移動されると、図5(b)に示すように、高歯342a1の前端面342a2が、前歯30b1の前端部の頂部(両傾斜面30b2の交差部)と当接する。このとき、低歯342b1は、何にも当接していない。さらに、スリーブ342が、軸動機構343により軸線方向に沿って移動されると、図5(c)に示すように、高歯342a1の前端面342a2および低歯342b1の前端面342b2が、後歯30c1の接触面30c2と当接する(半噛合状態)。
さらに、スリーブ342が、軸動機構343により軸線方向に沿って移動されると、作動状態は2通りに分かれる。第1の作動状態では、高歯342a1の前端面342a2(面取り部)および低歯342b1の前端面342b2(面取り部)が、後歯30c1の側方傾斜面23c4と当接する。前歯30b1および後歯30c1は、クラッチリング30a1の外周に一定幅のクラッチ歯溝30d1を空けて形成されているので、高歯342a1および低歯342b1は、短時間で最寄りのクラッチ歯溝30d1に飛び込むことができる。さらに、スリーブ342が、軸動機構343により軸線方向に沿って移動されると、図5(d)に示すように、高歯342a1および低歯342b1は、後歯30c1と完全に噛み合い、スリーブ342と第1ドグ30とは同期回転し、噛合動作が完了する。
第2の作動状態は、高歯342a1および低歯342b1が、最寄りのクラッチ歯溝30d1に飛び込むことができないときであり、この場合は、まず、高歯342a1の側面26a3が、前歯30b1の側面30b3と当接する。このとき、低歯342b1は、何にも当接していない。さらに、スリーブ342が、軸動機構343により軸線方向に沿って移動されると、図5(d)に示すように、高歯342a1および低歯342b1は、後歯30c1と完全に噛み合い、スリーブ342と第1ドグ30とは同期回転し、噛合動作が完了する。
上述にように構成される車両100の自動変速機106においてギア対が他のギア対に変更されることが決定された場合の制御について、図6A、図6B、および図7を用いて説明する。
前述したように、車両には、その仕様や走行目的、運転者の嗜好等によって様々な要望がなされる。その一例として、スポーツ仕様の車両や操作レスポンスを重視したスポーツモードを選択可能な車両の場合、運転者の要求に対して車両が敏感に反応していると運転者に感じさせたいという要望がある。例えば、運転者がアクセル操作等により車両挙動の変化を要求した場合、一例として変速による高速走行への移行を要求した場合に、その変速処理が迅速に行われ、その実行を運転者が体感できることが望ましい。
しかし、自動変速機106はあるギア対から他のギア対に変更する場合、前述したようにドグクラッチの接離操作を伴うとともに、その接離操作は、クラッチ104を切断し自動変速機106をエンジン102から分離した状態で行う必要があった。運転者が体感しやすい車両挙動の変化の1つとして変速による「G(加速度)変化」があるが、一般的に「G変化」は、変速処理の完了後に、クラッチ104が再接続され自動変速機106とエンジン102が接続されることにより発生する。つまり、運転者がアクセル操作等により実質的な変速要求を行ってから「G変化」に基づき車両の挙動変化(変速処理の実行)を認識するまでにタイムラグが存在する。その結果、応答性がよいというイメージが与えにくかった。
なお、ギア対の切り換えに先立ちドグを抜く処理が必要になりエンジントルクを低下させる必要がある。このエンジントルクの低下で「G変化」を発生させることが考えられる。しかし、一般的に、エンジントルクを急激に変化させることは困難である。例えばエンジントルクを低下させる場合は、立ち下がり勾配を経た後に目標トルクに到達する。この立ち下がり勾配があるためエンジントルクの変化は「なまり」状態となり、顕著な「G変化」の発生が困難であった。
発明者らは種々の試験、検討を行った結果、変速が決定された場合に速やかに顕著な「G変化」を発生させることができれば、運転者の操作に対して車両が敏感に反応して挙動変化が生じた(変速処理が実行された)と運転者にイメージさせ易くなるという結論に至った。
そこで、本実施形態では、ギア対が変更されることが決定された場合、応答性のよいモータジェネレータ108のモータトルクの変化を用いて、強制的かつ急激に出力トルク(エンジントルクとモータトルクの合計)を変化させる。つまり、実際にギア対の変更が完了して「G変化」が発生するより前の段階で擬似的に顕著な「G変化」(擬似的な変速)を発生させて、運転者に車両の挙動変化(変速の完了)を変速感を疑似的または意図的に体感させている。なお、以下に示す例では、現在のギア段に対して高速側のギア段に変更すること要求された場合(アップ変速であり、変速後の出力トルク(合計トルク)が低下する場合)、特に、第1速から第2速へのギア段の変更が要求された場合を一例として説明する。
なお、以下では、第1速の走行時には、第2ドグクラッチ40により第2ドグ36がトルク伝達状態とされているが、モータジェネレータ108は回転していない状態になっている。この場合、モータジェネレータ108が回転することで、第4速用駆動ギア54、第2速用駆動ギア52、および第2速用従動ギア26を介してMGトルクが出力シャフト20aに伝達されることになる。この状態で第1速段を第2速段にシフトする場合には、第1ドグクラッチ34を第1ドグ30から抜いて、その後に第4ドグクラッチ62をAドグ60に入れることで、エンジントルクが入力シャフト12から第4ドグクラッチ62、Aドグ60、第2速用駆動ギア52、第2速用従動ギア26、第2ドグ36、第2ドグクラッチ40を介して、出力シャフト20aに伝達される。
図6Aおよび図6Bは、本実施の形態の変速制御処理を説明するフローチャートである。図7は、図6Aおよび図6Bのフローチャートで変速制御処理を実行した場合のタイムチャートの一例である。制御部116は、例えば車両100のイグニッションスイッチがオンの場合、所定の制御周期で図6Aおよび図6Bのフローチャートの処理を繰り返す。制御部116は、制御タイミングになると、各センサを介して車両100の現在の加速度、アクセル開度、エンジントルク、MGトルク等の車両の走行状態を示す情報を取得する。そして、制御部116は、記憶部118等に保持された変速マップを参照し、現在の車両状態および運転者の走査状態に基づいて、変速要求がなされたか否か、即ち要求ギア段が実ギア段と異なるか否かを判断し(ステップS61)、変速要求があるまでこの判断を繰り返す。
図7のタイムチャートにおける時刻T1において変速要求があった場合には(ステップS61にてYES)、制御部116は、クラッチ104を接続状態から滑り状態を経て非接続状態にするクラッチ断処理を行う。すなわち、制御部116は、要求クラッチトルクを要求クラッチトルク前回値から第1のレートで減少させる(ステップS62)。また、これに伴って、制御部116は、要求エンジントルクを要求エンジントルク前回値から第2のレートで減少させる(ステップS62)。この制御により、図7のタイムチャートに示すように、時刻T1から時刻T2にかけてクラッチトルクおよび実エンジントルクが一定の割合で減少する。なお、第1のレートおよび第2のレートは、要求クラッチトルクが常に要求エンジントルクより大きくなるように設定される。
このように実エンジントルクが減少するときに、制御部116は、実エンジントルクの低下に対応させて、モータジェネレータ108を制御することでMGトルクを上昇させて、実エンジントルクの低下分をMGトルクで補い、合計トルクを略一定に保つ。すなわち、制御部116は、要求MGトルクを前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクから実エンジントルクを差し引いた値(前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクと実エンジントルクとの差分)とする(ステップS62)。なお、このとき、軸動機構のアクチュエータ343cに対する要求電流は、まだ0とされている(ステップS62)。
制御部116は、ステップS62の制御を行いつつ、実クラッチトルクが第1の閾値以下になったか否かを判断し(ステップS63)、実クラッチトルクが第1の閾値以下となるまでステップS62の制御を継続する。ここで、本実施の形態では第1の閾値は0とする。すなわち、ステップS63では、制御部116は、クラッチ104が完全に非接続状態となったか否かを判断する。
時刻T2において、実クラッチトルクが第1の閾値以下になると(ステップS63でYES)、制御部116は、要求クラッチトルクを第1の閾値とし(すなわち、クラッチ104を非接続状態に維持し)、要求エンジントルクを第2の閾値とする(ステップS64)。ここで、第2の閾値は、回転数のフィードバック制御によって計算される値であり、本実施の形態のように変速段が上がるアップ変速の場合には、実エンジントルクが負トルクとなる最小値とされる。これによって、図7に示すように、実エンジントルクは負トルクとなる。このように、要求エンジントルクを減少させることで、図7に示すように、エンジン回転数は徐々に減少していく。なお、ダウン変速の場合には、第2の閾値は一定値ではなく可変値となる。
そして、制御部116は、要求MGトルクを前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクからクラッチトルクを差し引いた値とするが(ステップS64)、このときすでにクラッチ104は非接続状態となっているので、実際には前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクをすべてMGトルクで賄って前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクを保つように、要求MGトルクは前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとされる。
さらに、ステップS63でクラッチ104が非接続状態になったことが確認されると、制御部116は、軸動機構のアクチュエータ343cに対する要求電流を第3の閾値とし、その後は図7の時刻T2から時刻T3までの期間に示しているように、制御する(ステップS64)。具体的には、制御部116は、アクチュエータ343cに対して、スリーブ342を第1ドグ30から抜く方向の電流を与え、その後、スリーブ342が動き始めると、スリーブ342を第1ドグ30から抜く力を弱くしていき、さらには逆方向(スリーブ342を第1ドグ30に入れる方向)の電流を与えた後に0に戻す。アクチュエータ343cへのこのような要求電流によって、図7に示すように、スリーブ342はLow(第1ドグ30に噛み合っている状態)からニュートラル位置まで移動する。
制御部116は、スリーブポジションがニュートラル位置になったか否かを判断し(ステップS65)、スリーブポジションがニュートラル位置になるまでステップS64の制御を行う。上述のように、要求エンジントルクを減少させることでエンジン回転数は減少するが、自動変速機106の入力シャフト12の回転数はそれによって減少することはなく、自動変速機106の入力シャフト12の回転数とエンジン回転数との間に差が生じることになる。
そこで、制御部116は、時刻T3にスリーブポジションがニュートラル位置になると(ステップS65でYES)、要求クラッチトルクを第4の閾値まで若干上昇させる(ステップS66)。これにより、エンジン回転数が自動変速機106の入力シャフト102に伝達され、自動変速機106の入力シャフト12の回転数がエンジン回転数(第2速相当の低い回転数)に近づくように減少していく。第4の閾値は、自動変速機106の入力シャフト102の回転数をエンジン回転数に同期させることが可能な程度に設定され、このときクラッチ104は、滑り状態とされる。
また、制御部116は、スリーブポジションがニュートラル位置になった後にも引き続き要求エンジントルクは第2の閾値とし、要求MGトルクは前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとする(ステップS66)。また、制御部116は、スリーブポジションがニュートラル位置になると、スリーブ342をニュートラル位置で保持すべく、アクチュエータ343cへの要求電流を0にする(ステップS66)。
制御部116は、ステップS66の制御を行いつつ、実クラッチトルクが第4の閾値以上になったか否か、即ち実クラッチトルクが要求クラッチトルク(目標値)に達したか否かを判断する(ステップS67)。制御部116は、実クラッチトルクが第4の閾値以上になるまでステップS66の制御を継続し、時刻T4に実クラッチトルクが第4の閾値以上になると(ステップS67にてYES)、実入力シャフト回転数が第5の閾値以下になったか否かを判断する(ステップS68)。
制御部116は、実入力シャフト回転数が減少していき、時刻T5に第5の閾値以下になると(ステップS68にてYES)、再び要求クラッチトルクを第1の閾値(すなわち0)とする(ステップS69)。このとき、要求エンジントルクは引き続き第2の閾値とし、MGトルクも引き続き前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとし、アクチュエータ343cへの要求電力も0を維持する(ステップS69)。
制御部116は、実クラッチトルクが第1の閾値(目標値)以下になったか否か、すなわちクラッチ104が非接続状態となったか否かを判断する(ステップS70)。時刻T6にクラッチ104が完全に非接続状態になると(ステップS70にてYES)、制御部116は、要求クラッチトルクを第1の閾値とし、要求エンジントルクを第2の閾値とし、要求MGトルクを前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとしたまま、自動変速機106にて第2速段を構成すべく第4ドグクラッチ62のスリーブを駆動するためのアクチュエータへの要求電流を第6の閾値とする(ステップS71)。以下では、第4ドグクラッチ62およびAドグ60についても、図3〜図5で説明した第1ドグクラッチ34および第1ドグ30の各要素と同じ符号を用いて、それらの各要素を説明する。
制御部116は、タイマのカウントアップを行い(ステップS72)、スリーブポジションが閾値Aより大きくなったか否かを判断する(ステップS73)。ここで、閾値Aは、スリーブ342が図5(c)の位置にある状態、すなわち、スリーブ342の高歯342a1の前端面342a2および低歯342b1の前端面342b2が、クラッチ後歯30c1の接触面30c2と当接している状態に対応している。そして、スリーブポジションが閾値Aより大きくなったということは、スリーブ342が図5(c)の位置から図5(d)の位置に向けて移動し、これによりスリーブ342とAドグ60とが噛み合うことを意味する。
スリーブポジションが閾値Aを超えていない場合(閾値Aで停止している場合も含む)には(ステップS73でNO)、制御部116は、タイマ値が第7の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS74)。スリーブポジションが閾値Aを超えるか、またはタイマ値が第7の閾値以上となるまで、ステップS72〜ステップS74を繰り返す。
図7のタイムチャートの例では、スリーブポジションが閾値Aで停止して、時刻T7にタイマ値が第7の閾値になっている(ステップS74にてYES)。なお、スリーブポジションが閾値Aで停止している状況とは、スリーブ342とAドグ60との回転が同期しており、スリーブ342の高歯342a1の前端面342a2および低歯342b1の前端面342b2が、Aドグ60の後歯30c1の接触面30c2と当接したまま、スリーブ342とAドグ60とが連れ回って、スリーブ342の高歯342a1や低歯342b1がAドグ60のクラッチ歯溝30d1に飛び込めない状況である。
この場合には、制御部116は、まず、要求クラッチトルク、要求エンジントルク、要求MGトルクをそのまま維持して、アクチュエータ343cの要求電流を第8の閾値とする(ステップS75)。この第8の閾値は、第6の閾値より小さい値であり、スリーブ342がニュートラル位置に戻らない程度にスリーブ342がAドグ60に向かう推力を弱めるが、依然としてAドグ60に向かう推力を維持した値である。このようにアクチュエータ343cの要求電流を下げてスリーブ342がAドグ60に向かう推力を弱めることで、スリーブ342の高歯342a1の前端面342a2および低歯342b1の前端面342b2と、Aドグ60の後歯30c1の接触面30c2との間の静摩擦力を弱めることで、スリーブ342とAドグ60との同期がずれて、スリーブ342の高歯342a1や低歯342b1がAドグ60のクラッチ歯溝30d1に入ることが期待できる。
制御部116は、アクチュエータ343cの要求電力を第8の閾値とした後に、ステップS72で経時を開始したタイマ値が第9の閾値以上となったか否かを判断する。タイマ値が第9の閾値以上となるまでは、ステップS72に戻ってタイマをカウントアップさせるとともに(ステップS72)、スリーブポジションが閾値Aを超えたか否か、即ちアクチュエータ343cの要求電力を第8の閾値に弱めたことで、スリーブ342がAドグ60に入ったか否かを判断する(ステップS73)。
スリーブ342がAドグ60に入った場合(ステップS73にてYES)、またはアクチュエータ343cへの要求電流を第8の閾値に下げてもスリーブ342がAドグ60に入らずにタイマ値が第9の閾値以上になった場合には(ステップS76にてYES)、制御部116は、要求クラッチトルクおよび要求エンジントルクを維持したまま、要求MGトルクを今回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとし、アクチュエータ343cへの要求電流はもとの第6の閾値に戻す(引き上げる)(ステップS77)。
図7のタイムチャートの例では、スリーブ342が閾値Aで停滞して、時刻T8にタイマ値が第9の閾値以上になったことにより(ステップS76にてYES)、要求MGトルクが今回要求ギア段相当のドライバ要求トルクとされ(ステップS77)、これによってMGトルクが急激に第2速段相当のトルクにまで落ちている。このとき、クラッチトルクは0であるので、合計トルクはすなわちMGトルクであり、MGトルクが急減するということで合計トルクが急減する。この合計トルクの急減により、運転者は、あたかも一瞬で変速が完了したかのように感じることができ、敏感な変速(挙動変化)を運転者に体感させることができる。
また、合計トルクが急減することで、図7に示すように、自動変速機106の出力シャフト20aの回転数が減少する。そうすると、Aドグ60の回転数がスリーブ342の回転数に対して減少し、両者の同期がずれてスリーブ342がAドグ60に入ることが期待できる。制御部116は、スリーブポジションがハイ(High)位置になったか否か、即ちスリーブ342がAドグ60に完全に入ったか否かを判断する(ステップS78)。スリーブポジションがハイ位置になると(ステップS78でYES)、クラッチ係合制御を行う(ステップS79)。図7の例では、時刻T9にスリーブポジションがハイ位置に達してクラッチ係合制御が開始されている。
クラッチ係合制御では、図7に示すように、アクチュエータ343cへの要求電流は0とされる。また、クラッチトルクおよび実エンジントルクが徐々に上昇し、それに伴って、合計トルクが第2速段相当のドライバ要求トルクを維持するように、MGトルクが減少する。
一方、スリーブポジションがハイ位置になっていない場合には(ステップS78にてNO)、タイマ値が第10の閾値以上となったか否かを判断して(ステップS80)、第10の閾値に達していない場合には(ステップS80でNO)、タイマをカウントアップして(ステップS81)、ステップS77に戻る。スリーブポジションがハイ位置にならないままタイマ値が第10の閾値以上になったら(ステップS80にてYES)、タイマをリセットして(ステップS82)、ステップS70に戻り、続くステップS71で要求MGトルクを前回要求ギア段相当のドライバ要求トルクに戻す。
以上のように、本実施の形態では、変速に際して自動変速機106におけるギアの切り換えの際に、自動変速機106の出力シャフト20aに直接モータジェネレータ108のトルクを出力するとともに、モータジェネレータ108のトルクを切換後のギア段相当のトルクに急減させるので、運転者に短時間で変速が完了したかのような感覚を与えることができる。
また、自動変速機106が、変速クラッチとして、高歯と低歯とからなるスリーブと、前歯と後歯とからなるドグとが噛み合う2段構成のドグクラッチを含み、ギアの切換えの際にドグと噛合することになるスリーブとが接触しているが噛合していない半噛合状態(図5(c))で、モータジェネレータ108によって出力シャフト20aに与えるトルクを急減させるので、スリーブとドグとが同期して回転して噛合できない場合に、スリーブとドグとの回転位相をずらすことができ、スリーブとドグとを噛合させることができる。
さらに、ギアの切換えの際にドグと噛合することになるスリーブとが接触しているが噛合していない半噛合状態(図5(c))で、スリーブのドグに向かう推力を弱めるので、スリーブとドグとの回転位相を容易にずらすことができる。
また、ギアの切換えに際してモータジェネレータ108が出力トルクを担っており、かつ、自動変速機106が入力シャフト12の回転を出力シャフト20aおよび20bに伝達しない状態で、クラッチ104を制御して自動変速機106の入力シャフト12とエンジン102の出力シャフトとを接続するので、自動変速機106の入力シャフト12の回転が、低下していくエンジン102の回転数に近づき、または同期され、その後に噛合するスリーブとドグとの回転数差を小さくして、容易にそれらの噛合を実現できる。
なお、上記の実施の形態では、第1速から第2速へのアップ変速を例に本発明の実施の形態を説明したが、ダウン変速の場合には上記の逆の制御を行うことができる。即ち、ギアの切換の際に出力シャフト20aに直接モータジェネレータ108のトルクを出力するとともに、モータジェネレータ108のトルクを切換後のギア段相当のトルクに急増させることで、運転者に、あたかも一瞬で変速が完了したかのような感覚を与えることができる。