以下、本発明を具体化したデュアルクラッチ式自動変速機の第1の実施形態について、図1〜図9を参照し説明する。図1は、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。図1に示す車両はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、原動機の一例でありガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン4、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1、差動装置14(ディファレンシャル)、駆動軸15a、15b、駆動輪16a、16b(前輪)および図示しない従動輪(後輪)を備えている。なお、図1は車両の上面図であり、図1の上方が車両の前方に相当する。
図2に示すようにデュアルクラッチ式自動変速機1は、複数のギヤ段が形成され収納されるミッションケース11、およびデュアルクラッチ40(本発明のデュアルクラッチに該当する)を収納するクラッチハウジング12を有している。ミッションケース11およびクラッチハウジング12によってケース10を形成している。
また、デュアルクラッチ式自動変速機1は、ミッションケース11に収容される複数のギヤ段の切替え(変速シフト)、およびデュアルクラッチ40が有する第1クラッチディスク41(本発明の第1クラッチを構成する)および第2クラッチディスク42(本発明の第2クラッチを構成する)の切替えを制御する本発明に係る変速制御装置を有している。変速制御装置はECU2(Engine Control Unit)とTCU3(Transmission Control Unit)とによって構成されている。
図1に示すように、ECU2にはエンジン4の駆動軸4b近傍に設けられたエンジン4の出力軸回転数センサ4a、エンジン4が有するスロットルボデーのスロットルバルブを開閉させるモータ、スロットルボデーのスロットルバルブ開度を検出するスロットル開度センサ、燃料噴射をおこなうインジェクタ(いずれも図略)、およびアクセルペダルPに設けられたアクセル開度センサ27等が接続されている。これによって各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。例えば、取得したTCU3からのデータを含んだ以上の情報に基づきモータを駆動させスロットルボデーのスロットル開度を制御する、或いは、インジェクタの燃料噴射量を制御する等してエンジン4の駆動軸4bの回転数であるエンジン回転数Neを制御する。
図1に示すように、TCU3には、後述するデュアルクラッチ40の切替え制御を行なう第1、第2クラッチアクチュエータ17、18が有する各直流電動モータ19a、19b、各直流電動モータ19a、19bが出力するストロークを検出するストロークセンサ17a、18a、車速を検出する車速センサ23a、23b、および第1および第2入力軸回転数センサ24a、24bが接続されている。またTCU3には、後述する第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ作動させるフォーク駆動機構130の各モータ131、およびストロークを検出するシフトストロークセンサ136〜139が接続されている(図3参照)。これによってTCU3は各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。TCU3はECU2と接続されCAN通信によってECU2と相互に情報を交換しながらデュアルクラッチ式自動変速機1の変速制御を適切に行なう。
図2に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機1は、前進7速のデュアルクラッチ式自動変速機であり、ケース10内の軸線方向に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32を備えている。またケース10内には、デュアルクラッチ40、各ギヤ段の駆動ギヤ51〜57、最終減速駆動ギヤ58、68、各ギヤ段の従動ギヤ61〜67、後進ギヤ70、およびリングギヤ80を備えている。以降、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32と同一軸方向を入力軸方向と称す。
第1入力軸21は、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。第1入力軸21の外周面には、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第1入力軸21には、複数の奇数段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51および3速駆動ギヤ53が直接形成されている。また複数の奇数段駆動ギヤである5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57は、第1入力軸21の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入され固定されている。また、第1入力軸21の端部の外周面には、第1クラッチディスク41の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第1クラッチディスク41の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第1入力軸21上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
第2入力軸22は、中空軸状に形成されており、第1入力軸21の1部の外周に複数の軸受を介して回転可能に支承され、且つ、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同心に相対回転可能に配置されている。また、第2入力軸22の外周面には、第1入力軸21と同様に、軸受けを支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第2入力軸22には、複数の偶数段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4速駆動ギヤ54および6速駆動ギヤ56が形成されている。また、第2入力軸22の端部の外周面には、第2クラッチディスク42の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第2クラッチディスク42の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第2入力軸22上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
第1副軸31は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第1副軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。さらに、第1副軸31には、1速従動ギヤ61、および3速従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、および後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
第1副軸31の外歯スプラインには、後述する第1シフトクラッチ101(本発明の第1シフト機構に該当する)、および第3シフトクラッチ103(本発明の第2シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ58は、図1に示す差動装置14(ディファレンシャル)のリングギヤ80に噛合している。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される1速従動ギヤ61は第1入力軸21に形成された1速駆動ギヤ51と噛合し、1速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そして要求ギヤ段GdとしてTCU3によって1速従動ギヤ61が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が1速従動ギヤ61側に移動して1速従動ギヤ61と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより1速従動ギヤ61と第1副軸31とが一体的に回転する状態となる(この状態を1速ギヤ段が成立した状態という。なお、以降2速〜7速および後進の変速段においても同様である)。このとき、第1シフトクラッチ101の作動の状態は第1シフトクラッチ101用のシフトストロークセンサ136によって監視され第1シフトクラッチ101が現状どのような状態であるかTCU3によって把握されている。以降、第2シフトクラッチ102〜第4シフトクラッチ104も同様である。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される3速従動ギヤ63は、第1入力軸21に形成された3速駆動ギヤ53と噛合し、3速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって3速従動ギヤ63が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が3速従動ギヤ63側に移動して3速従動ギヤ63と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより3速従動ギヤ63と第1副軸31とが一体的に回転する状態(3速ギヤ段成立状態)となる。
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される4速従動ギヤ64は、第2入力軸22に形成された4速駆動ギヤ54と噛合し、4速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって4速従動ギヤ64が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が4速従動ギヤ64側に移動して4速従動ギヤ64と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより4速従動ギヤ64と第1副軸31とが一体的に回転する状態(4速ギヤ段成立状態)となる。
さらに、TCU3によって第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される後進ギヤ70が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が後進ギヤ70側に移動して後進ギヤ70と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより後進ギヤ70と第1副軸31とが一体的に回転する状態(後進ギヤ段成立状態)となる。なお、後進ギヤ70は、第2副軸32に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62と一体的に形成された小径ギヤ62aに常に噛合している。
第2副軸32は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に軸承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第2副軸32の外周面には、第1副軸31と同様に、最終減速駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第2副軸32の外歯スプラインには、第2シフトクラッチ102(本発明の第2シフト機構に該当する)、および第4シフトクラッチ104(本発明の第1シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ68は、差動装置14のリングギヤ80に噛合している。リングギヤ80は、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ68に噛合されることで、第1副軸31および第2副軸32に常時回転連結される。このリングギヤ80は、ケース10に軸支される出力軸(図略)および差動装置14を介して駆動軸15a、15bおよび駆動輪16a、16bに回転連結されている。さらに、第2副軸32には、上記の2速従動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、および7速従動ギヤ67、を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62は第2入力軸22に形成された2速駆動ギヤ52と噛合し、2速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって2速従動ギヤ62が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が2速従動ギヤ62側に移動して2速従動ギヤ62と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより2速従動ギヤ62と第2副軸32とが一体的に回転する状態(2速ギヤ段成立状態)となる。
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される5速従動ギヤ65は、第1入力軸21に形成された5速駆動ギヤ55と噛合し、5速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって5速従動ギヤ65が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が5速従動ギヤ65側に移動して5速従動ギヤ65と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより5速従動ギヤ65と第2副軸32とが一体的に回転する状態(5速ギヤ段成立状態)となる。
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される6速従動ギヤ66は、第2入力軸22に形成された6速駆動ギヤ56と噛合し、6速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって6速従動ギヤ66が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が6速従動ギヤ66側に移動して6速従動ギヤ66と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより6速従動ギヤ66と第2副軸32とが一体的に回転する状態(6速ギヤ段成立状態)となる。
さらに、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される7速従動ギヤ67は、第1入力軸21に形成される7速駆動ギヤ57と噛合し、7速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって7速従動ギヤ67が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が7速従動ギヤ67側に移動して7速従動ギヤ67と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより7速従動ギヤ67と第2副軸32とが一体的に回転する状態(7速ギヤ段成立状態)となる。
次にデュアルクラッチ40について図1、図2に基づいて説明する。なお、図1、図2のデュアルクラッチ40を比較すると構成が異なる様に見えるが、図2のデュアルクラッチ40は図1のデュアルクラッチ40に対してより簡易的に描いたものであって、図1、図2のデュアルクラッチ40は同じものである。
デュアルクラッチ40は、第1入力軸21および第2入力軸22に対して同心に設けられている。デュアルクラッチ40は、図2の右側においてクラッチハウジング12に収容され、図1、図2に示すように、第1、第2クラッチディスク41、42、センタプレート43、第1、第2プレッシャプレート44、45、および第1、第2ダイアフラムスプリング46、47(図1参照)を有している。このとき第1クラッチディスク41、センタプレート43、第1プレッシャプレート44および第1ダイアフラムスプリング46によって本発明の第1クラッチを構成している。また第2クラッチディスク42、センタプレート43、および第2プレッシャプレート45および第2ダイアフラムスプリング47によって本発明の第2クラッチを構成している。
第1クラッチディスク41はエンジン4の回転駆動トルクTer(本発明の回転駆動力に該当する)を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク42はエンジン4の回転駆動トルクTerを2入力軸22に伝達する。第1クラッチディスク41は、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク42は、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
センタプレート43は図1、図2に示すように、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42との間にその面が第1、第2クラッチディスク41、42の面と平行に対向して配置されている。センタプレート43は第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられエンジン4の駆動軸4bに連結されて一体回転する。
第1および第2プレッシャプレート44、45は図1、図2に示すように、センタプレート43との間でそれぞれ第1、および第2クラッチディスク41、42を挟持し第1、および第2クラッチディスク41、42と圧着可能に配置されている。
図1に示す第1、第2ダイアフラムスプリング46、47は、円板状に形成されている。第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43を中心として、入力軸方向に第1プレッシャプレート44と反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング46の外径部と第1プレッシャプレート44とは円筒状の連結部44aによって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部に支持されている。このような状態において第1ダイアフラムスプリング46の外径部がエンジン4方向に付勢するばね力によって連結部44aをエンジン4側に付勢すると第1プレッシャプレート44が第1クラッチディスク41から離間する。
また第1ダイアフラムスプリング46の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると第1ダイアフラムスプリング46の外径部のエンジン4方向へのばね力は減衰する。そして、それとともにセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング46の外径部はエンジン4とは反対方向に移動する。これらによって第1プレッシャプレート44は第1クラッチディスク41方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第1クラッチディスク41を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第1入力軸21に伝達される。なお、上記において第1ダイアフラムスプリング46の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L1によって制御するが詳細については後述する。
また第2ダイアフラムスプリング47は第2プレッシャプレート45の変速機側で、且つセンタプレート43の腕部43aのエンジン4側に配置され第2プレッシャプレート45と対向している。第2ダイアフラムスプリング47の外径部は、外径部のばね力がセンタプレート43から延在している腕部43aを変速機側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時において第2プレッシャプレート45は第2クラッチディスク42に圧着されないようになっている。そして第2ダイアフラムスプリング47の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると腕部43aに接触する第2ダイアフラムスプリング47の外径部を支点として押圧部近傍がエンジン4方向へ移動する。これによって第2プレッシャプレート45がダイアフラムスプリング47に押され第2クラッチディスク42方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第2クラッチディスク42を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第2入力軸22に伝達される。なお、第1ダイアフラムスプリング46と同様に第2ダイアフラムスプリング47の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L2によって制御する。
上述した第1ダイアフラムスプリング46、および第2ダイアフラムスプリング47の内径部の押圧は、図1に示す第1、および第2クラッチアクチェータ17、18(本発明のクラッチアクチェータに該当する)によって制御する。第1、および第2クラッチアクチェータ17、18は、それぞれ直流電動モータ19a、19bと、直流電動モータ19a、19bの作動によってボールねじ構造により直線運動するロッド25a、25bと、ロッド25a、25bの直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング46、47の各内径部にリンク機構によって伝達する伝達部26a、26bと、ロッド25a、25bの直線運動のアクチュエータ作動量L1、L2を検出するストロークセンサ17a、18aと、を有している。そして、ストロークセンサ17a、18aにより検出されたロッド25a、25bのアクチュエータ作動量L1、L2に関する情報はTCU3に送信される。
デュアルクラッチ40がこのように構成されるので、TCU3から第1または第2クラッチアクチュエータ17、18に変速指令が送出されると、TCU3は第1または第2クラッチアクチュエータ17、18を所定のアクチュエータ作動量L1、L2だけ変速機側に向かって作動させ、エンジン4から入力軸に伝達されるクラッチトルクTcを制御する。これによりTCU3は第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21、および第2入力軸22のうちのエンジン4から切り離される入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行なう。
また同時にTCU3は、第1クラッチを構成する第1クラッチディスク41および第2クラッチを構成する第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちのエンジン4に接続される入力軸に対応するクラッチのクラッチディスクを、クラッチトルクTcが、エンジン4の出力駆動トルクTe(本発明の出力駆動力に該当する)とエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetに基づいて演算される目標クラッチトルクTcaになるよう制御する(詳細については後述する)。そして、エンジン4の回転数Neが、接続される入力軸の回転数Ni1またはNi2と同期すると接続させる係合制御を行なう。具体的には直流電動モータ19a、または19bを作動させ、ロッド25a、または25bの作動が第1または第2ダイアフラムスプリング46、47の内径部をエンジン4側に向かって押圧するよう制御する。
次に、第1〜第4シフトクラッチ101〜104について図2、図3に基づいて説明する。図2、図3に示す各フォーク72a、72b、72c、72dは、第1〜第4シフトクラッチ101〜104が有するスリーブ202の外周部に係合してスリーブ202を入力軸方向にスライドさせる部材である。各フォーク72a〜72dは、それぞれのフォーク駆動機構130によって駆動される。
フォーク駆動機構130は、第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ駆動するために本実施形態においては4つ設けられている。それぞれのフォーク駆動機構130は、図3に示すように、回転軸にウォームギヤ132が形成されたモータ131、ウォームギヤ132に噛合するウォームホイール133、ウォームホイール133に同心に一体的に形成されたピニオンギヤ134、ピニオンギヤ134に噛合するラック軸135を備えている。このラック軸135には、各フォーク72a〜72dがそれぞれ一体に設けられている。つまり、それぞれのフォーク駆動機構130のモータ131を回転することで、そのモータ131に連結されているフォーク72a〜72dが第1副軸31または第2副軸32の軸方向にスライドする。
また、図3に示すようにフォーク72a〜72dが軸方向にスライドして移動するストローク量を検出するためのシフトストロークセンサ136〜139がピニオンギヤ134の回転軸近傍にそれぞれ設けられている。シフトストロークセンサ136〜139はTCU3に接続されTCU3の演算部にてウォームホイール133の回転数がストローク量に変換される。なお、シフトストロークセンサ136〜139はモータ131の回転軸近傍にそれぞれ設けてもよい。
第1シフトクラッチ101は、第1副軸31の軸方向において1速従動ギヤ61と3速従動ギヤ63との間に配置されている。第2シフトクラッチ102は、第2副軸32の軸方向において2速従動ギヤ62と6速従動ギヤ66との間に配置されている。また第3シフトクラッチ103は、第1副軸31の軸方向において4速従動ギヤ64と後進ギヤ70との間に配置されている。さらに第4シフトクラッチ104は、第2副軸32の軸方向において5速従動ギヤ65と7速従動ギヤ67との間に配置されている。
図2に示すように第1シフトクラッチ101は、クラッチハブ201と、1速係合部材205と、3速係合部材205と、シンクロナイザリング203と、スリーブ202とを有している。クラッチハブ201は第1副軸31にスプライン固定されている。1速係合部材205は1速従動ギヤ61に圧入固定され、3速係合部材205は3速従動ギヤ63に圧入固定されている。シンクロナイザリング203は、クラッチハブ201と左右の各係合部材205、205との間にそれぞれ介在されている。スリーブ202はクラッチハブ201の外周に軸線方向移動自在にスプライン係合されている。そして第1シフトクラッチ101は各従動ギヤ61、63を交互に第1入力軸21に離脱可能に接続する周知のシンクロメッシュ機構である。
第1シフトクラッチ101のスリーブ202は、中立位置では係合部材205、205の何れにも係合されていない。しかしフォーク駆動機構130の作動によってラック軸135が入力軸方向に駆動され、ラック軸135に固定されスリーブ202の外周の環状溝に係合されたフォーク72aによりスリーブ202が1速従動ギヤ61側にシフトされれば、スリーブ202の内歯(図略)は1速従動ギヤ61側のシンクロナイザリング203にスプライン係合する。そしてシンクロナイザリング203を1速従動ギヤ61に押しつけながら第1副軸31と1速従動ギヤ61の回転を同期させる。次にスリーブ202の内歯が1速係合部材205の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸31と1速従動ギヤ61を一体的に連結して1速ギヤ段を成立させる。またフォーク駆動機構130によりフォーク72aがスリーブ202を3速従動ギヤ63側にシフトさせれば、同様にして第1副軸31と3速従動ギヤ63の回転を同期させた後にこの両者を一体的に連結して3速ギヤ段を成立させる。
第2〜第4シフトクラッチ102〜104は、第1シフトクラッチ101と実質的に同一構造で取り付け位置が異なるのみである。第2シフトクラッチ102は2速従動ギヤ62および6速従動ギヤ66を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし2速ギヤ段および6速ギヤ段を成立させる。また第3シフトクラッチ103は4速従動ギヤ64および後進ギヤ70を第1副軸31に選択的に連結して相対回転不能とし4速ギヤ段および後進ギヤ段を成立させる。さらに第4シフトクラッチ104は5速従動ギヤ65および7速従動ギヤ67を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし5速ギヤ段および7速ギヤ段を成立させる。
ECU2は、図1に示すように、アクセル踏込量検出部2aと、原動機回転数検出部2bとを有している。
アクセル踏込量検出部2aは、アクセル開度センサ27を含み運転者が踏込んだアクセルの踏込およびアクセル踏込量Lacを検出する。具体的にはアクセル開度センサ27から取得したアクセル開度を踏込量として検出する。
原動機回転数検出部2bは、エンジン4の駆動軸4b近傍に設けられた出力軸回転数センサ4aを含み、出力軸回転数センサ4aによってエンジン回転数Neを検出する。
TCU3は前述の通り第1〜第4シフトクラッチ101〜104を作動させるフォーク駆動機構130を制御するシフトクラッチ制御部(図略)を有している。また、TCU3は、変速制御部3aを有し、要求ギヤ段Gdへの変速指令が送出されると、変速制御部3aによって第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち係合されている実ギヤ段Gpが成立している一方のクラッチディスクを切離制御し、要求ギヤ段Gdが成立した他方のクラッチディスクを係合制御する。なお、ここで要求ギヤ段Gdとは、運転者のアクセル操作状態、車両の走行状態および変速線等に基づきTCU3が要求する現在ギヤ段Gpの次に選択すべき変速ギヤ段のことをいう。実際には要求ギヤ段Gdの演算は事前に準備されTCU3のROMに記憶される変速線に基づいて行なわれる。
例えば図5に示す変速線は、代表として例えばアップシフト側である4速段から5速段への変速線Aおよび5速段から6速段への変速線Bと、ダウンシフト側である6速段から5速段への変速線Dおよび5速段から4速段への変速線Cとを示している。変速線は車両の変速時に利用されるマップデータであり、予め選択したギヤ段選択パラメータ(本実施形態においては車速Vとアクセルペダル開度)を各軸にとり、一のギヤ段から他のギヤ段への変速の要否を判断するための基準線である。
なお、図5に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機1においては、アップシフト側の変速線A、Bの若干手前に破線で示したプレ変速線a、bを有している。プレ変速線a、bとは所定のアクセル開度(アクセル踏込量Lac)と車速Vとの関係が高変速段側に向かっている途中、プレ変速線a、bを越えた場合に、フォーク駆動機構130によって、越えた各プレ変速線に対応するギヤ段(要求ギヤ段Gd)へのシフトが開始されるための変速線である。また同様に減速時におけるダウンシフト側の変速線C、Dの若干手前には破線で示したプレ変速線c、dを有している。これによりアクセルペダルPをOFFにしたり緩めたりして車速Vが減速する場合や、図5中の一点鎖線に示すようにアクセルペダルPを踏込みアクセル開度と車速Vとの関係がプレ変速線c、dを低変速段側に向かって越えると、プレ変速線c、dに対応するギヤ段(要求ギヤ段Gd)へのシフトがフォーク駆動機構130によって開始される。
そして、4速ギヤ段から5速ギヤ段のように変速比が小さい変速段に向かってシフトするアップ変速の変速指令が送出された場合には、次のような変速制御を行なう。変速制御部3a(本発明に係る変速制御装置を構成する)は、先ず、第2クラッチアクチュエータ18を作動させ4速駆動ギヤ64が固定された第2入力軸22に連結される第2クラッチディスク42を所定のクラッチトルクTcによって制御しながら切離する切離制御を行なう。
また同時に変速制御部3aは、第1クラッチアクチュエータ17を作動させ成立された5速駆動ギヤ55が固定された第1入力軸21に連結される第1クラッチディスク41を予め設定される目標クラッチトルクTcaによって制御し、エンジン回転数Neと第1入力軸回転数Ni1とを同期させながら接続する係合制御を行なう。このときエンジン回転数Neは原動機回転数検出部2bによって検出され、第1入力軸回転数Ni1は入力軸回転数回転数センサ24aによって検出される。そして、変速制御部3aは、エンジン回転数Neが第1入力軸回転数Ni1と同期すると、第1クラッチアクチュエータ17のクラッチアクチュエータ作動量L1を最大量作動させ第1クラッチディスク41を完全に接続する。
ここで、上記のようなアップシフト変速において、変速前後における車速Vが一定であると仮定すると、変速ギヤ段の変速比は小さくなっている。このため第2入力軸回転数Ni2よりも第1入力軸回転数Ni1の方が低く、これによってエンジン回転数Neは変速前後で低下することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、変速制御部3aは、上記のように、第1クラッチディスク41を完全に接続する前に、エンジン回転数Neを減速させて第1入力軸回転数Ni1と同期させる同期制御を行ない変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
また、例えば5速ギヤ段→4速ギヤ段等のダウンシフト変速においては変速前後における車速Vが一定であると仮定すると、変速ギヤ段の変速比は大きくなっている。このため第1入力軸回転数Ni1よりも第2入力軸回転数Ni2の方が高く、これによってエンジン回転数Neは変速前後で上昇することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、変速制御部3aは、第2クラッチディスク42を完全に接続する前に、エンジン回転数Neを増速させて第2入力軸回転数Ni2に同期させる同期制御を行ない変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
TCU3は、図1に示すように、上述した変速制御部3a、要求ギヤ段判定部3b、入力軸同軸判定部3c、予測車両加速度演算部3d、および変速方法判定部3eを有している。
変速制御部3aは、前述のとおり変速指令が送出されると、第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちのエンジン4から切り離される入力軸に対応するクラッチディスクを所定のクラッチトルクTcで制御しながら切離する切離制御を行なう。また、同時に第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちのエンジン4に接続される入力軸に対応するクラッチディスクを、クラッチトルクTcが、目標クラッチトルクTcaとなるよう制御しながらエンジン回転数Neを接続される入力軸の入力軸回転数Niと同期させ係合させる係合制御を行なう。
目標クラッチトルクTcaは下記[数1]により演算する。この目標クラッチトルクTcaは、低速ギヤ段側のクラッチを切離制御し、高速ギヤ段側のクラッチに対して係合制御する場合、または、シフトダウンに際して高速ギヤ段側のクラッチを切離制御し、低速ギヤ段側のクラッチに対してこのトルクで制御する場合に、変速ショックを抑制した変速が可能となる基準の伝達トルクである。そして目標クラッチトルクTcaは、所定の実ギヤ段Gpから所定の要求ギヤ段Gd(例えば6速ギヤ段→5速ギヤ段や6速ギヤ段→4速ギヤ段)へ変速する場合毎に事前に実験等によって適切な値が設定され、図略のROMに記憶されている。
[数1]
Tca=Te−Ie・ΔNet
Tca :目標クラッチトルク
Te :エンジンの現出力トルク
Ie :イナーシャ
ΔNet:目標回転数変速度
そのため、先ず、エンジン2のイナーシャIe(慣性モーメントまたは慣性能率ともいう)にエンジン4の目標回転数変速度ΔNet(本発明の目標回転数変速度に該当する)を乗算して高速ギヤ段側クラッチまたは低速ギヤ段側クラッチの目標慣性トルクIe・ΔNetを算出する。この「目標慣性トルクIe・ΔNet」とは、エンジン回転数Neを好適に変化(減速又は加速)させるために第1、第2クラッチディスク41、42からエンジン4の駆動軸4bに伝達されるべき減速トルク又は加速トルクに相当する。なお、上記においてエンジン回転数Neを減速させるときには目標慣性トルクIe・ΔNetは負の値をとり、加速させるときには正の値をとるものとする。
目標回転数変速度ΔNetは、アップ変速制御(アップシフト)またはダウン変速制御(ダウンシフト)において、エンジン回転数Neの変速度の目標値として予め定められている値である。つまり、目標回転数変速度ΔNetは、アップ変速制御またはダウン変速制御においてエンジン回転数Neの変速度が目標回転数変速度ΔNetとなるように制御すれば、変速ショックを抑制しつつ、変速を早期に完了することができる。
そして、エンジン4の現在の現出力トルクTeから目標慣性トルクIe・ΔNetを減算して目標クラッチトルクTcaを算出する。このエンジン4の「現在の現出力トルクTe」は、例えば、原動機回転数検出部2bによって検出されるエンジン回転数Neやアクセル踏込量検出部2aによって検出されるアクセルペダルPのアクセル踏込量Lac(アクセル開度)などの検出値に基づいて算出することができる。
目標クラッチトルクTcaを得るための第1、第2クラッチアクチュエータ17、18のクラッチアクチュエータ作動量L1、L2は変速制御部3aが有する演算部(図略)によって演算される。クラッチアクチュエータ作動量LとクラッチトルクTcとの対応関係は事前に取得されて例えばROMに記憶されている(図4参照)。そこで図略の演算部では目標クラッチトルクTcaに対応する第1、第2クラッチアクチュエータ17、18のクラッチアクチュエータ作動量L1、L2を図4の表から求める。
要求ギヤ段判定部3bは、TCU3から送出された要求ギヤ段Gdが、第1クラッチディスク41(第1クラッチ)および第2クラッチディスク42(第2クラッチ)のうち、現在係合されているクラッチディスクに対応する入力軸で実際に成立している実ギヤ段Gpと一致するかを判定する。つまり、要求ギヤ段Gdは、まだ実ギヤ段Gpとして成立しておらず、これから要求ギヤ段Gdに向かって変速制御が行なわれることを確認する。
入力軸同軸判定部3cは、要求ギヤ段判定部3bによって要求ギヤ段Gdが実ギヤ段Gpと一致していないと判定された場合に、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとにそれぞれ対応する入力軸が同一であるかを判定する。このとき、入力軸が同一であれば実ギヤ段Gpに対して要求ギヤ段Gdが低速側に2段乖離していることを示している。このような状態において、実ギヤ段Gp(例えば6速)を、要求ギヤ段Gd(例えば4速)に向って変速するときには、通常、図7に示すように、まず実ギヤ段Gpに対応する第2クラッチの第2クラッチディスク42を切離制御する。また同時に、実ギヤ段Gpと要求ギヤ段Gdとの間の変速ギヤ段である中継ギヤ段Gm(例えば5速)に対応する第1クラッチの第1クラッチディスク41を係合制御する。また、第2クラッチディスク42が完全に切離された状態においては、要求ギヤ段Gd(例えば4速)が第3シフトクラッチ103(第2シフト機構)の作動によって第1副軸31に係合され、第2入力軸22との間で要求ギヤ段Gdを成立させる。そして次に中継ギヤ段Gm(例えば5速)に対応する第1クラッチの第1クラッチディスク41を切離制御しながら、要求ギヤ段Gd(例えば4速)に対応する、第2クラッチの第2クラッチディスク42を係合制御する。これによって要求ギヤ段Gdへの変速が完了する。
予測車両加速度演算部3dは、入力軸同軸判定部3cによってそれぞれ対応する入力軸が同一であると判定された場合に、検出されたアクセル踏込量Lacおよび要求ギヤ段Gdの変速比に基づいて変速後の要求ギヤ段Gdにおける車両の加速度である要求ギヤ段予測車両加速度Gdaを演算する。つまり、運転者が踏込んだアクセルペダルPのアクセル踏込量Lacに基づき、運転者が要求するエンジン4のエンジン回転数Neを演算し、該エンジン回転数Neから車速Vを予測演算する。このとき予測される車速Vは要求ギヤ段Gdの変速比に基づいて演算される。そして事前に準備された車速Vと車両加速度との対応を示す図6に示すマップから運転者が要求する要求ギヤ段予測車両加速度Gdaを演算する。
また、同様に、検出されたアクセル踏込量Lac、中継ギヤ段Gmの変速比、および中継ギヤ段Gmに対応するクラッチが係合制御される目標クラッチトルクTcaの大きさに基づいて車両の中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを演算する。詳細にはアクセル踏込量Lacに応じて変更される目標クラッチトルクTcaに基づく目標回転変速度ΔNetによって中継ギヤ段Gmが係合制御されている間のエンジン回転数Neの平均値Neavを演算する。そしてエンジン回転数Neの平均値Neavと中継ギヤ段Gmの変速比とから中継ギヤ段Gmが係合制御されている間の車速Vを予測演算し、図6に示すマップから中継ギヤ段における車両の加速度である中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを演算する。
なお、要求ギヤ段予測車両加速度Gda、および中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを予測する方法は上記に示した方法に限らない。例えば要求ギヤ段予測車両加速度Gdaについては、アクセル踏込量Lacに基づいて目標とするエンジン出力トルクTeを演算する。そしてエンジン出力トルクTeを所定の変速比を有する要求ギヤ段Gdを介して駆動輪16a、16bに出力したときの駆動力から車両加速度を求めてもよい。また、中継ギヤ段予測車両加速度Gmaについては、アクセル踏込量Lacに応じて制御される目標クラッチトルクTcaが所定の変速比を有する中継ギヤ段Gmを介して駆動輪16a、16bに伝達されるので、該伝達された駆動力から車両加速度を求めてもよい。
変速方法判定部3eは、演算された要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対する中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの比(Gma/Gda)を演算する。そして実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速を、比(Gma/Gda)の大きさが所定の閾値Gxを超えた場合には中継ギヤ段Gmを介して行なうよう判定する。つまり、比(Gma/Gda)が閾値Gxを越えた場合には、中継ギヤ段Gmでの係合制御中に走行する車両の中継ギヤ段予測車両加速度Gmaが要求ギヤ段Gdで走行する車両の要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに近いことを示している。よってこのまま中継ギヤ段Gmを介して変速を行なっても、大きなトルク低下は発生せず運転者がもたつき感を感じる虞はない。なお、所定の閾値Gxはどのように設定してもよいが、事前に実施する実験によって設定すればよい。また、中継ギヤ段Gmを介して行なう変速は、通常行なわれる変速方法である。つまり実ギヤ段Gpと中継ギヤ段Gm、中継ギヤ段Gmと要求ギヤ段Gdとはそれぞれ異なる入力軸で成立しているため、第1クラッチおよび第2クラッチを例えば第1クラッチ→第2クラッチ→第1クラッチというように順次つなぎ替えて変速していくものである。
また、比(Gma/Gda)の大きさが所定の閾値Gxより小さい場合には、中継ギヤ段Gmを介さずに変速制御を行なうよう判定する。中継ギヤ段Gmを介さずに行なう具体的な制御方法としては、所謂、シングル変速が挙げられる(図8参照)。シングル変速は、まず実ギヤ段Gp(例えば6速ギヤ段)に対応する第2クラッチを切離した後に実ギヤ段Gpを解除する。その後、実ギヤ段Gpと同一の入力軸(例えば第2入力軸22)に対応する要求ギヤ段Gdを第2入力軸22で成立させたのちに入力軸回転数Ni2とエンジン回転数Neとを対応するクラッチ(第2クラッチ)を係合制御することによって同期させ係合させる。このとき、エンジン回転数Neを様々な方法によって回転数制御して回転数を増加させ、要求ギヤ段Gdが成立されたことにより回転数が増加した入力軸(第2入力軸22)の入力軸回転数Ni2とエンジン回転数Neとを短時間で同期可能とする。エンジン回転数Neを増加制御する具体的な方法としては、スロットルボデーが制御するエンジン4への供給空気量を増加するとともに、インジェクタの燃料噴射量を増加させて対応する。このとき、エンジン回転数Neは原動機回転数検出部2bによって監視され、入力軸回転数Niは第1および第2入力軸回転数センサ24a、24bによって監視されながら制御される。ただし、エンジン回転数Neを増加させる制御はどのようなものでもよい。
なお、上記において入力軸同軸判定部3cに替えて要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの乖離(差)が2段(例えば6速と4速、または5速と3速等)であることを確認するようにしてもよい。これによっても、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとにそれぞれ対応する入力軸が同一であることが確認できる。
また、別の実施例として入力軸同軸判定部3cを設けない態様としてもよい。このときには、要求ギヤ段判定部3bによって要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとが一致したと判定された場合に、予測車両加速度演算部3dによって要求ギヤ段予測車両加速度Gda、および中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを演算するものである。ただし、この場合、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの乖離段数は不明である。このように要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの乖離段数が不明な状態で制御を続行した場合においては、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの差が1段しかない場合も存在する。そのときには中継ギヤ段Gmが存在しないため中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの演算ができない。そこで中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの演算の実施不能が判明した時点で制御を中止するものとする。そして次回以降の制御において中継ギヤ段Gmを有した場合にのみ実施が可能となる予測車両加速度演算部3dでの演算が完了すると変速方法判定部3e以降の制御を行なう。
次に、走行中の車両における第1の実施形態のデュアルクラッチ式自動変速機1が備える変速制御装置の変速制御方法および作用について図7、図8のタイムチャートおよび図9のフローチャートに基づいて説明する。
なお、本実施形態においては、例えば、車両は加速走行中であり第2クラッチディスク42(第2クラッチ)が係合状態であって第2入力軸22とエンジン4とが接続されているものとする。このとき、車両は第2入力軸22で成立している6速ギヤ段によって走行している。よって6速ギヤ段が実ギヤ段Gpである。そして、運転者が加速を欲してアクセルペダルPを所定のアクセル踏込量Lac踏込み、これによってアクセル開度が図5の1点鎖線に示すように5速ギヤ段、および4速ギヤ段のダウンシフト変速線D、Cを通過することによって実ギヤ段Gpから低速側に2段乖離する4速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)への変速要求がTCU3から送出されたものとして説明する。
また、本実施形態における実ギヤ段Gpと要求ギヤ段Gdとが2段乖離している例えば6速ギヤ段→4速ギヤ段へのデュアルクラッチ40の通常の変速状態は図7のトルク欄に示すようになっている。具体的には6速ギヤ段(実ギヤ段Gp)の切離制御が開始された後、4速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)に移行するまでの間には第1入力軸21で成立する5速ギヤ段(中継ギヤ段Gm)を経由している。そして4速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)に移行するまでの間の所定の位置までは、予め設定される目標クラッチトルクTcaによってデュアルクラッチ40が制御されている。そしてこのように制御される目標クラッチトルクTcaによって第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42は所謂、半クラッチ状態が維持されている。これによって所定の回転数変速度ΔNetでエンジン回転数Neが吹き上がり増加する。そしてこのようにして増加したエンジン回転数Neが、4速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)にダウンシフトしたことによって増加した第2入力軸22の入力軸回転数Niとやがて同期し変速が完了する。このような変速を通常の変速制御方法として以下説明する。
図9のフローチャートに示すように、ステップS10(要求ギヤ段判定ステップ)ではダウンシフトの変速指令の有無が確認される。本実施形態においてはダウンシフトの変速指令が有るのでステップS12に移動し、変速指令が無ければダウンシフトの変速指令が送出されるまで、ステップS10が繰り返し処理される。
ステップS12(要求ギヤ段判定ステップ)では、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとが一致しているか否かが判定される。本実施形態においては4速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)と6速ギヤ段(実ギヤ段Gp)は一致していないのでステップS14に移動する。もし一致していれば既に要求ギヤ段Gdへの変速が完了しているので、ステップS10に戻る。
ステップS14(入力軸同軸判定ステップ)では、要求ギヤ段判定ステップによって要求ギヤ段Gdが実ギヤ段Gpと一致していないと判定された場合に、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとにそれぞれ対応する入力軸が同一であるかを判定する。本実施形態においては、それぞれに対応する入力軸は共に第2入力軸22であり同一であるので、ステップS18に移動する。もし一致していなければ、要求ギヤ段Gdに対応する入力軸が実ギヤ段Gpに対応する入力軸と異なっていることを示しており、これは通常のデュアルクラッチの変速であるので、ステップS18で通常の変速制御を行ないプログラムを終了する。
なお、前述したようにステップS14では入力軸同軸判定ステップに替えて、例えば要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの乖離が2段あることを確認してもよい。そして該乖離が2段であればステップS20に移動し、乖離が2段でなく1段であればステップS18で通常の変速制御を行なってプログラムを終了すればよい。
さらに、別の実施例として前述において説明したようにステップS14を廃止してもよい。このときの制御については前述の通りであり、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの差が1段しかない場合には中継ギヤ段Gmは存在しない。このため下記ステップS16において中継ギヤ段予測車両加速度Gmanの演算を中止し、その後、ステップS18で通常の変速制御を行ない、プログラムを終了すればよい。なお、このとき要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの段数の差は確認されていないが、例えば要求ギヤ段Gdとの差が1段であるはずの中継ギヤ段Gmが要求ギヤ段Gdと一致したときに中継ギヤ段Gmは存在しないと判断して演算を中止すればよい。また、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとの乖離が2段であって中継ギヤ段Gmを有している場合には、ステップS16において要求ギヤ段予測車両加速度Gdaおよび中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの演算が実施可能となる。このため要求ギヤ段予測車両加速度Gdaおよび中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの演算後、下記ステップS20に移動してプログラムを継続する。このような方法によっても相応の効果は得られる。
ステップS16(予測車両加速度演算ステップ)では、要求ギヤ段予測車両加速度Gda、および中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを前述した演算方法に基づき演算する(図7の車両加速度欄参照)。
ステップS20(変速方法判定ステップ)では、要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対する中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの比(Gma/Gda)を演算する。そして比(Gma/Gda)の大きさが所定の閾値Gxを超えると判定した場合には、ステップS22に移動し、所定の閾値Gxより小さいと判定した場合には、ステップS24に移動する。
ステップS22では、実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速を中継ギヤ段Gmを介して行なう。即ち、上記で説明した実ギヤ段Gpと要求ギヤ段Gdとが2段乖離している場合に通常行なわれる制御によって変速制御する。比(Gma/Gda)が閾値GXを越えた場合には、中継ギヤ段Gmでの車両の中継ギヤ段予測車両加速度Gmaが要求ギヤ段Gdでの車両の要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに近いことを示しており、よってこのまま中継ギヤ段Gmを介して変速を行なっても、大きなトルク低下は発生せず運転者がもたつき感を感じる虞はない。
ステップS24では、中継ギヤ段Gmを介さずに、上述したシングル変速によって変速制御を行なう(図8参照)。これにより短時間で要求ギヤ段Gdへの切替えを完了し要求ギヤ段予測車両加速度Gdaを得ることができるのに加え、車両加速度が小さいと判断された中継ギヤ段Gmを介さず変速できるので、運転者が加速に対してもたつき感を感じる虞がない。
なお、本実施形態においては、変速方法判定部3eにおいて、要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対する中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの比(Gma/Gda)に基づき、シングル変速と通常の中継ギヤ段Gmを介した制御とを選択した。しかし、この態様に限らず、中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの絶対値によってシングル変速と通常の中継ギヤ段Gmを介した制御との選択を判定してもよい。つまり、中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの絶対値が所定の閾値より大きい時には通常の中継ギヤ段Gmを介した制御を実施し、絶対値が所定の閾値より小さい時には中継ギヤ段Gmを介さないシングル変速を実施すればよい。ただしこのとき、車速および変速ギヤ段によって中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの絶対値の大きさが異なる。このため車速および変速ギヤ段に応じてそれぞれ所定の閾値を設ければよい。これによっても同様の効果が得られる。
上述の説明から明らかな様に、本実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機1においては、ダウンシフトの要求ギヤ段Gdによって変速指令が送出された場合において、要求ギヤ段判定部3bが係合状態のクラッチに対応する入力軸で成立している実ギヤ段Gpは要求ギヤ段Gdとは一致しないと判定し、入力軸同軸判定部3cが要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとにそれぞれ対応する入力軸は同一であると判定すると予測車両加速度演算部3dが、要求ギヤ段Gdの要求ギヤ段予測車両加速度Gdaおよび中継ギヤ段Gmの中継ギヤ段予測車両加速度Gmaを演算する。このように入力軸同軸判定部3cによって、要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとが2段乖離し中継ギヤ段Gmを有していることが判定された後に、予測車両加速度演算部3dによって要求ギヤ段予測車両加速度Gdaおよび中継ギヤ段予測車両加速度Gmaが演算されるのでムダがなく効率的である。
要求ギヤ段予測車両加速度Gdaは検出されたアクセル踏込量Lacおよび要求ギヤ段Gdの変速比に基づいて演算される。また中継ギヤ段予測車両加速度Gmaは、検出されたアクセル踏込量Lac、中継ギヤ段Gmの変速比、および中継ギヤ段Gmが係合制御される目標クラッチトルクTcaの大きさに基づいて演算される。そして変速方法判定部3eが、演算された要求ギヤ段予測車両加速度Gdaと中継ギヤ段予測車両加速度Gmaとの関係に応じて、実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速において中継ギヤ段Gmを介するか否かを判定する。このように中継ギヤ段Gmの予測車両加速度Gmaを実際に演算して中継ギヤ段Gmの影響を判断するので精度良くトルクのもたつき感が発生する場合を排除できる。
また本実施形態においては、変速方法判定部3eは、要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対する中継ギヤ段予測車両加速度Gmaの比(Gma/Gda)を演算する。そして比(Gma/Gda)の大きさが所定の閾値Gxを超えた場合には実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速を、中継ギヤ段Gmを介して行なうよう判定する。つまり中継ギヤ段予測車両加速度Gmaが要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対して一定以上の割合を有しているときには、中継ギヤ段Gmを介して変速を継続しても運転者が加速に対してもたつき感を感じる虞がない。これにより2段乖離した実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速において通常の制御である中継ギヤ段Gmを介在させた制御とする。
また比の大きさが所定の閾値Gxより小さい場合には中継ギヤ段予測車両加速度Gmaが要求ギヤ段予測車両加速度Gdaに対して一定以上の割合を有していない。このため中継ギヤ段Gmを介した変速とするとトルク低下によって運転者が加速に対してもたつき感を感じる虞がある。そこで中継ギヤ段Gmを介在させない上述のシングル変速によって2段乖離した実ギヤ段Gpから要求ギヤ段Gdへの変速を実施する。これにより短時間で要求ギヤ段Gdへの切替えを完了し要求ギヤ段予測車両加速度Gdaを得ることができるのに加え、車両加速度が小さいと判断された中継ギヤ段Gmを介さず変速できるので、運転者が加速に対してもたつき感を感じる虞がない。
また、本実施形態においては、第1入力軸21に、奇数段の駆動ギヤで51、53、55および57を固定して設け、第2入力軸22に、偶数段の駆動ギヤ52、54、および56を固定して設けた。そして第1副軸31および第2副軸32に、第1入力軸21の奇数段駆動ギヤと噛合して奇数変速段を成立させる従動ギヤ61、63、65、67と、第2入力軸22の偶数段駆動ギヤと噛合して偶数変速段を成立させる従動ギヤ62、64、66とを遊転可能に設けた。しかし、この形態に限らず第1入力軸21および第2入力軸22に、それぞれ駆動ギヤ51、53、55、57と駆動ギヤ52、54、56とを遊転可能に設けてもよい。そしてこのときには第1副軸31、および第2副軸32に1速〜7速従動ギヤ61〜67を固定して設ければよい。
また、特開2011−144872公報の図1に開示されるデュアルクラッチ式自動変速機のように7速駆動ギヤ26aのみを第1入力軸15に遊転可能に設け、7速駆動ギヤ26aに噛合する7速従動ギア26bを第2副軸18に固定して設けてもよい。さらに公報の図1に示すように切替えクラッチ30Dが紙面右方に移動することによって第1入力軸15と出力軸19とを直結するよう構成してもよい。このようなデュアルクラッチ式自動変速機においても同様の効果が得られる。
また、本実施形態に係るデュアルクラッチ40を構成する第1、第2クラッチディスク41、42、センタプレート43、および第1、第2プレッシャプレート44、45の各配置については、本実施形態において説明した態様に限らず、どのように配置して構成してもよい。
また、本実施形態においては、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機として前進7速の変速段を有するデュアルクラッチ式自動変速機にて説明した。しかし、この態様に限らずデュアルクラッチ式自動変速機は7速を越える前進変速段、または6速以下の前進変速段を有するものでもよい。これによっても同様の効果が得られる。
また、本実施形態においては、フォークシャフト135を4本設け、それぞれのフォークシャフト135に対して設けたフォーク72a〜72dを各々作動させて各ギヤ段の切り替えを行なった。しかしこれに限らずセレクト用モータを設け、セレクト用モータの駆動によりフォークシャフトを選択し、選択したフォークシャフトをシフト用モータによってスライドさせて各ギヤ段の切り替えを行なってもよい。
さらに、デュアルクラッチ式自動変速機を、自動車に適用するのではなく、自動二輪車等の他の自動変速機に適用してもよい。