JP6460315B2 - インクジェット抜蝕方法およびインクジェット捺染システム - Google Patents

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Description

本発明は、インクジェット抜蝕方法およびインクジェット捺染システムに関する。
従来から、繊維を加工する技術として、生地(布帛)を構成する繊維の一部を破壊溶脱して部分的に透かし模様を作ったり、穴をあけたりする抜蝕加工が知られている。このような抜蝕加工は、インクジェット方式を利用して行うことが可能であり、記録ヘッドのノズルから抜蝕剤を含有する抜蝕インクを吐出して、布帛に付着させることで実施できる。
抜蝕加工と類似する技術として、インクジェット方式を利用した捺染の技術が実用化されている。ここで、インクジェット方式を利用した捺染において、色の濃淡を変化させることで多彩な表現を行えるようにする技術が、たとえば特許文献1〜3に紹介されている。
特許文献1および特許文献2には、抜染によって色の濃淡を変化させる技術が開示されている。また、特許文献3には、インクの量によって色の濃淡を変化させる技術が開示されている。
特開昭63−066386号公報 特開昭63−072585号公報 特開2005−246905号公報
上記の特許文献1〜3に開示されている捺染の技術を、抜蝕加工にも応用できると便利である。しかしながら、抜蝕加工では、生地の厚みを変化させて濃淡を表現しなければならないという点が抜染加工と異なっているため、捺染の技術をそのまま流用することは現実的ではない。
例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている技術を抜蝕加工に流用した場合、厚物生地に対しては複数回の印字が必要であり、時間がかかるだけでなく、画像がズレやすく、抜蝕加工をすることは非常に困難である。
本発明は、次のうち少なくとも一部の課題を解決するものである。すなわち、さまざまな生地(布帛)に対して、抜蝕のグラデーションを表現すること、あるいは、抜蝕により繊維を除去する位置のずれを低減し、精度の高い抜蝕加工を行うことである。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係るインクジェット抜蝕方法の一態様は、
抜蝕剤を含有する第1抜蝕インクと、
前記抜蝕剤を含有し、該抜蝕剤の濃度が前記第1抜蝕インクよりも低い第2抜蝕インク
と、を含むインクセットを用いて、布帛を抜蝕する抜蝕工程を有し、
前記第1抜蝕インクは、記録ヘッドに設けられた複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出される。
適用例1のインクジェット抜蝕方法によれば、さまざまな布帛に対して、抜蝕のグラデーション(階調)を表現することができる。また、抜蝕により繊維を除去する位置のずれを低減し精度の高い抜蝕加工を行うことができる。
本発明における「抜蝕」とは、抜蝕剤を用いて繊維を破壊溶脱することを意味する。狭義の抜蝕加工は、単一繊維からなる布帛の一部を溶脱破壊して穴をあける加工を意味する場合があるが、本発明は、このような狭義の抜蝕加工に限らない。本発明は、交織された複数の種類の繊維からなる布帛において、選択された一部の種類の繊維のみを溶脱破壊して生地に透かし模様を付けるオパール加工を含むものとする。
[適用例2]
適用例1において、
前記第1抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度が、前記第2抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度の4倍以上であることができる。
適用例2のインクジェット抜蝕方法によれば、抜蝕のグラデーションを一層良好に表現することができる。
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
さらに、前記インクセットは、前記抜蝕剤の濃度が前記第2抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度よりも低い第3抜蝕インクを含んでもよい。
適用例3のインクジェット抜蝕方法によれば、抜蝕のグラデーションを一層精細に表現することができる。
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか1例において、
前記第1抜蝕インクは、記録ヘッドに設けられた複数のノズル列のうち、3以上のノズル列から吐出されてもよい。
適用例4のインクジェット抜蝕方法によれば、抜蝕のグラデーションの幅を一層広げることができたり、繊維密度が高い布帛や、厚みのある布帛に対する抜蝕を十分に行うことができたりする。
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか1例において、
前記抜蝕剤が、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウムおよび硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1種であることができる。
適用例5に記載の抜蝕方法によれば、水中で酸性を示す抜蝕剤により溶脱しやすい繊維を含む布帛に対して、抜蝕性が優れたものとなる。
[適用例6]
適用例5において、
前記抜蝕剤は、硫酸アルミニウムであってもよい。
適用例6に記載の抜蝕方法によれば、抜蝕性が良好で、かつ、記録ヘッドのノズルプレートの腐食を抑える効果が高く、優れた抜蝕性と抜蝕加工の安定性とを両立させることができる。
[適用例7]
適用例5または適用例6において、
前記布帛がセルロース系繊維を含むことができる。
適用例7に記載の抜蝕方法によれば、セルロース系繊維を良好に抜蝕することができる。
[適用例8]
適用例1ないし適用例4のいずれか1例において、
前記抜蝕剤が、アルカリ金属の水酸化物およびグアニジン弱酸塩の少なくとも一方であることができる。
適用例8に記載の抜蝕方法によれば、水中で塩基性を示す抜蝕剤により溶脱しやすい繊維を含む布帛に対して、抜蝕性が優れたものとなる。
[適用例9]
適用例8において、
前記布帛が、ポリアミド系繊維およびポリエステル系繊維の少なくとも一方を含むことができる。
適用例9に記載の抜蝕方法によれば、ポリアミドおよびポリエステル系繊維を良好に抜蝕することができる。
[適用例10]
適用例1ないし適用例9のいずれか1例において、
前記第1抜蝕インクに含まれる前記抜蝕剤の含有量が、10質量%以上であることができる。
適用例10に記載の抜蝕方法によれば、抜蝕のグラデーションの幅を一層広げることができたり、繊維密度が高い布帛や、厚みのある布帛に対する抜蝕を十分に行うことができたりする。
[適用例11]
適用例1ないし適用例10のいずれか1例において、
前記抜蝕剤を含有するインクは、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、前記ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する前記記録ヘッドから吐出されてもよい。
適用例11に記載の抜蝕方法によれば、記録ヘッドのノズルプレートの耐蝕性が高く、長期間安定して抜蝕加工を行うことができる。
[適用例12]
本発明に係るインクジェット捺染システムの一態様は、
布帛に対してインクを吐出可能な複数のノズル列を備えた記録ヘッドと、
抜蝕剤を含有する第1抜蝕インクと、前記抜蝕剤を含有し、その濃度が前記第1抜蝕イ
ンクよりも低い第2抜蝕インクと、を含むインクセットと、を有し、
前記第1抜蝕インクは、前記複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出可能に供給される。
適用例12のインクジェット捺染システムによれば、さまざまな布帛に対して抜蝕のグラデーションを表現することができる。また、抜蝕により繊維を除去する位置のずれを低減し精度の高い抜蝕加工を行うことができる。
[適用例13]
適用例12において、
前記第1抜蝕インク及び前記第2抜蝕インクは、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、前記ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する前記記録ヘッドから吐出されてもよい。
適用例13に記載のインクジェット捺染システムによれば、記録ヘッドのノズルプレートの耐蝕性が高く、長期間安定して抜蝕加工を行うことができる。
[適用例14]
適用例12または適用例13において、
前記抜蝕剤は、硫酸アルミニウムであってもよい。
適用例14に記載のインクジェット捺染システムによれば、良好な抜蝕性と、抜蝕加工の長期間にわたる安定性とを両立させることができる。
本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染システムを模式的に示す図。 本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染システムにおける記録ヘッドのノズル面を模式的に示す図。 本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの一例を模式的に示す断面図。 ノズルプレート表面におけるフッ素樹脂膜の結合の概念図。 実施例に係る評価パターンを模式的に示す説明図。
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
1.インクジェット抜蝕方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、抜蝕剤を含有する第1抜蝕インクと、前記抜蝕剤を含有し、該抜蝕剤の濃度が前記第1抜蝕インクよりも低い第2抜蝕インクと、を含むインクセットを用いて、布帛を抜蝕する抜蝕工程を有し、前記第1抜蝕インクは、記録ヘッドに設けられた複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出されることを特徴とする。
以下、本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法について、これに用いるインクセット、布帛、工程の順に説明する。
1.1.インクセット
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、第1抜蝕インクおよび第2抜蝕インクを
含むインクセットを用いて行われる。本実施形態に係るインクセットのより好ましい態様としては、第1抜蝕インクおよび第2抜蝕インクに加えて、第3抜蝕インクを含むものである。以下、各抜蝕インクに含まれる成分および含まれ得る成分について説明する。なお、インクは、通常インクカートリッジやインクタンクから供給される。本実施形態において、第1抜蝕インク、第2抜蝕インク、第3抜蝕インクは、それぞれ1つずつのインクカートリッジやインクタンクに収容されていなくても良い。たとえば、第1抜蝕インクを2つ以上のインクカートリッジやインクタンクに収容しても構わない。第2抜蝕インク、および第3抜蝕インクについても同様である。
1.1.1.第1抜蝕インク
本実施形態に係るインクセットは、第1抜蝕インクを含む。
<抜蝕剤>
第1抜蝕インクは、抜蝕剤を含有する。抜蝕剤は、布帛を構成する繊維を破壊溶脱(抜蝕)するという機能を備える。抜蝕剤には、抜蝕したい繊維の種類に応じて、水中で酸あるいは塩基の性質を示すものを適宜選択して用いることができる。
水中で酸性を示す抜蝕剤(以下、単に「酸性の抜蝕剤」ともいう。)としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ならびにこれらの塩が挙げられ、セルロース系繊維の抜蝕に優れているという点から、硫酸および硫酸塩(例えば、硫酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸錫など)を用いることが好ましく、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウムおよび硫酸アンモニウムを用いることがより好ましい。これらの酸性の抜蝕剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
水中で塩基性を示す抜蝕剤(以下、単に「塩基性の抜蝕剤」ともいう。)としては、グアニジンおよびこれの塩、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)の水酸化物、アルカリ土類金属(カルシウム、バリウム等)の水酸化物などが挙げられ、ポリアミド繊維やポリエステル繊維の抜蝕に優れているという点から、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)、グアニジン弱酸塩(例えば、グアニジン炭酸塩、グアニジン酢酸塩など)を用いることが好ましい。これらの塩基性の抜蝕剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
第1抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度は、後述する第2抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度よりも高い必要があるが、第2抜蝕インクにおける抜蝕剤の含有量の4倍以上であることが好ましく、4倍以上10倍以下であることがより好ましい。これにより、抜蝕のグラデーション(階調)を一層良好に表現できる。
第1抜蝕インクにおける抜蝕剤の含有量は、第1抜蝕インクの全質量(100質量%)に対して、10質量%以上であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。抜蝕剤の含有量が10質量%以上であることで、繊維を溶脱する能力が一層向上する。また、抜蝕剤の含有量が40質量%以下であることで、第1抜蝕インクの粘度をインクジェット方式に適した範囲にすることが容易になり、記録ヘッドの吐出安定性を良好にすることができる。さらに、併用する溶剤や界面活性剤との共存が容易となる。
<水>
第1抜蝕インクは、水を含有する。水は、第1抜蝕インクの主となる液媒体である。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。水の含有量は、第1抜蝕インクの全質
量に対して、例えば40質量%以上とすることができる。
<有機溶剤>
第1抜蝕インクは、保湿性を向上できたり、布帛に対する浸透性を向上できたりするという観点から、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、1,2−アルカンジオール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、ピロリドン誘導体等が挙げられる。
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。1,2−アルカンジオール類は、布帛に対するインクの濡れ性を高めて均一に濡らす作用に優れている。1,2−アルカンジオール類を含有する場合の含有量は、第1抜蝕インクの全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
多価アルコール類(上記の1,2−アルカンジオール類を除く)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール類は、インクの布帛に対する濡れ性を高めたり、ノズルの保湿性を高めたりする等の機能を備える。多価アルコール類を含有する場合の含有量は、第1抜蝕インクの全質量に対して、1質量%以上20質量%以下とすることができる。
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘキシルエーテル、エチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノイソオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソオクチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルペンチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−メチルペンチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。グリコールエーテル類は、インクの布帛に対する濡れ性などを制御することできる。グリコールエーテル類を含有する場合の含有量は、第1抜蝕インクの全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
ピロリドン誘導体としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリド
ン、5−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。ピロリドン誘導体は、他の溶剤の溶解性やインクの保湿性を高めるという機能を備える。ピロリドン誘導体を含有する場合の含有量は、第1抜蝕インクの全質量に対して、1質量%以上20質量%以下とすることができる。
<界面活性剤>
第1抜蝕インクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、インクの表面張力を低下させ布帛との濡れ性を調整する機能を備える。界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、およびフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、AirProductsandChemicals.Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、PD−005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ペレックスSS−H、SS−L、ラテムルWX、E−150、ネオペレックスGS、G−15、G−25、G−35(以上全て商品名、花王株式会社製)等が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、BYK社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
界面活性剤を含有する場合の含有量は、第1抜蝕インクの全質量に対して、0.05質量%以上1.5質量%以下とすることができる。
<その他の成分>
第1抜蝕インクは、必要に応じて、尿素類、糖類、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤等の各種の添加剤を含有してもよい。
1.1.2.第2抜蝕インク
本実施形態に係るインクセットは、第2抜蝕インクを含む。第2抜蝕インクは、後述する記録ヘッドの有する複数のノズル列のうち、1つのノズル列に供給されてもよいし、2以上のノズル列に供給されてもよい。
第2抜蝕インクに含まれる成分および含まれる得る成分の具体例、含有量の範囲、機能および効果については、抜蝕剤の濃度が異なる以外は第1抜蝕インクと同様であるので、その説明を省略する。
第2抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度(含有量)は、第1抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度よりも低い必要があり、具体的には、第2抜蝕インクの全質量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。これにより、抜蝕のグラデーションを一層良好に表現できる。
1.1.3.第3抜蝕インク
本実施形態に係るインクセットは、第3抜蝕インクを含むことが好ましい。第3抜蝕インクは、後述する記録ヘッドの有する複数のノズル列のうち、1つのノズル列に供給されてもよいし、2以上のノズル列に供給されてもよい。
第3抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度(含有量)は、第1抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度よりも低く、さらに、第2抜蝕剤における抜蝕剤の濃度よりも低い。これにより、抜蝕によるグラデーションをより精細に表現することができる。
第3抜蝕インクに含まれる成分および含まれる得る成分の具体例、含有量の範囲、機能および効果については、抜蝕剤の濃度が異なる以外は第1抜蝕インクと同様であるので、その説明を省略する。
第3抜蝕インクにおける抜蝕剤の濃度(含有量)は、第2抜蝕剤における抜蝕剤の濃度よりも低く、具体的には、0.5質量%以上5質量%以下、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。これにより、抜蝕のグラデーションを一層精細に表現できる。
1.1.4.その他のインク
本実施形態に係るインクセットは、上述した抜蝕インク以外のインクを含んでいてもよい。このようなインクとしては、布帛を捺染するために使用される通常のカラーインク(例えば、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクなど)が挙げられる。
カラーインクは、染料を含有し、上記の抜蝕剤を含有しない以外は、上述した各抜蝕インクと同様の成分を含有することができるので、共通して使用できる成分に関する説明については省略する。
染料は、例えば、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット捺染に使用する各種染料を使用することができる。
1.1.5.インクの調製方法
本実施形態に係るインクセットに含まれる各インクは、前述した成分を任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
1.1.6.インクの物性
本実施形態に係るインクセットに含まれる各インクは、インクジェット用のインクとし
ての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/mであることが好ましく、23mN/m以上38mN/m以下であることがより好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
また、同様の観点から、各インクの20℃における粘度は、1.5mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
1.2.布帛
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、布帛に適用される。本実施形態に係る布帛には、特定の抜蝕剤により溶脱しやすい繊維のみからなる布帛や、特定の抜蝕剤に溶脱しやすい繊維と溶脱しにくい繊維とを含む布帛を用いる。
上述した酸性の抜蝕剤に溶脱しやすい繊維の具体例としては、セルロース繊維(例えば、綿、麻、レーヨン等)などが挙げられる。一方、酸性の抜蝕剤により溶脱しにくい繊維の具体例としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ウール、絹などが挙げられる。
上述した塩基性の抜蝕剤に溶脱しやすい繊維の具体例としては、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)や、ポリアミド繊維(ε−カプロラクタム重合体、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮合体、絹、羊毛、ナイロン等)などが挙げられる。一方、塩基性の抜蝕剤に溶脱しにくい繊維の具体例としては、セルロース繊維などが挙げられる。
本実施形態に係る布帛には、羊毛、絹、ポリオレフィン、アセテート、トリアセテート、ポリウレタン、ポリ乳酸などの繊維が含まれていてもよい。
本実施形態に係る布帛が2種以上の繊維を含む場合には、これらの繊維は、交撚や混紡されたものであってもよい。布帛としては、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。布帛の厚みや繊維密度等は、特に限定されるものではない。
1.3.工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、上述したインクセットを用いて布帛を抜蝕する工程を含む。以下、本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法に含まれる工程および含まれ得る工程について説明する。
1.3.1.前処理工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、抜蝕工程に先立って布帛に前処理剤を付与する前処理工程を有していてもよい。前処理工程では、にじみの低減や布帛へのインクの浸透促進を目的として、水溶性高分子(糊剤)を含む前処理剤を付与することができる。
水溶性高分子のうち、天然水溶性高分子としては、例えば、トウモロコシ、小麦等のデンプン類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、アラビアゴムなどの多糖類、ゼラチン、カゼイン、ケラチン等の蛋白質物質などが挙げられる。また、合成水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコー
ル、ポリビニルピロリドン、アクリル酸系ポリマーなどが挙げられる。
前処理剤は、水、カチオン性物質(例えば、水溶性金属塩、ポリカチオン化合物)、表面張力調整剤(界面活性剤)などを含有してもよい。
前処理剤の付与は、例えば、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等のいずれの方法も使用できる。
なお、本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、前処理工程を行なわない場合には、上述した前処理剤が予め付与された布帛を用いて行ってもよい。
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、布帛に付与した前処理剤を乾燥させる前処理剤乾燥工程を有していてもよい。前処理剤乾燥工程は、例えば、布帛に熱を加える手段、風を吹きつける手段、さらにそれらを組み合わせる手段等を用いて行うことができる。具体的には、強制空気加熱、輻射加熱、電導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥等が好ましく用いられる。
1.3.2.抜蝕工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、上述したインクセットを用いて布帛を抜蝕する抜蝕工程を有する。具体的には、抜蝕工程は、上述した抜蝕インクを記録ヘッドのノズル列から吐出させて、布帛の所望の位置に抜蝕インクの液滴を付着させる工程である。
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法の抜蝕工程では、インクジェット記録方式を用いることで、布帛の所望の位置に抜蝕インクを付着できる。これにより、繊維を除去(溶脱)する位置のずれが低減され、精度の高い抜蝕加工を行うことができる。
また、抜蝕剤の濃度の異なる抜蝕インクを複数備えていることから、抜蝕のグラデーションを表現することができる。
ここで、抜蝕工程では、第1抜蝕インクを2列以上のノズル列から吐出可能とする必要があるが、第1抜蝕インクを3列以上のノズル列から吐出可能とすることが好ましい。これにより、繊維の溶脱を十分に行うことができるので、抜蝕のグラデーションの幅を一層広げることができたり、繊維密度が高い布帛や厚みのある布帛に対する抜蝕を十分に行うことができたりする。さらには、布帛の広い範囲にわたって抜蝕インクを付着させることができるので、さまざまな布帛に対して抜蝕のグラデーションを表現できる。
インクジェット記録方式としては、いずれの方式でもよく、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、オンデンマンド方式(ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式)などが挙げられる。これらのインクジェット記録方式の中でも、ピエゾ式のインクジェット記録装置を用いる方式が特に好ましい。
ノズル列から吐出される抜蝕インクの液滴1滴あたりの量は、1ng以上40ng以下であることが好ましく、5ng以上30ng以下であることがより好ましい。液滴1滴あたりの量が上記範囲内であることで、布帛に付着した際の液滴の面積が適切な範囲になるので、抜蝕したい領域をきれいに抜蝕することができる。
1.3.3.捺染工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、カラーインクを用いて布帛を捺染する捺染工程を有していてもよい。捺染工程では、カラーインクの液滴を記録ヘッドのノズル列
(ノズル開口部)から吐出させて布帛に付着させることで、布帛の所望の位置に存在する繊維の少なくとも一部を染色する。これにより、布帛の所定の位置に画像を形成することができる。
捺染工程は、上述した抜蝕工程の前、上述した抜蝕工程と同時、あるいは抜蝕工程の後、のいずれのタイミングでも実施することができる。
カラーインクの液滴は、抜蝕された領域(抜蝕工程前に行う場合には抜蝕が予定されている領域)、あるいは抜蝕されない領域(非抜蝕領域)のいずれの位置に付着させてもよい。
捺染工程におけるインクジェット記録方式は、上述した抜蝕工程で説明した方式と同様であるので、その説明を省略する。
1.3.4.湿熱工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、湿熱処理工程を有していることが好ましい。湿熱処理工程は、布帛に付着させた抜蝕インクに対して湿熱処理を行う工程である。これにより、抜蝕インクを付着した箇所に存在する少なくとも一部の繊維の溶脱が進行して、繊維の灰化が生じる。湿熱処理は、抜蝕工程後に行われる。一般的には、抜蝕工程後、湿熱処理を行う前に、簡易乾燥工程が設けられることが多い。
湿熱処理工程は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、HT法(高温スチーミング法)、HP法(高圧スチーミング法)等が挙げられる。
湿熱処理工程の温度や時間は、溶脱の進行および布帛のダメージの低減を両立可能な範囲に設定される。湿熱処理工程の温度や時間は、繊維の種類、抜蝕剤の種類、抜蝕剤の添加量等によって変動する。
1.3.5.その他の工程
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、湿熱工程の後に、布帛を洗浄する洗浄工程を有していてもよい。これにより、溶脱した繊維や未染着の染料を効果的に除去することができる。洗浄工程では、水を用いて行ってもよいし(以下、「水洗処理」ともいう。)、水および界面活性剤(熱石鹸等)を含有する水溶液を用いて行ってよいし(以下、「ソーピング処理」ともいう。)、両処理を併用してもよい。
また、洗浄工程は、溶脱した繊維を一層効果的に除去することを目的として、ウォータージェット処理を備えていてもよい。ウォータージェット処理は、水圧で強制的に溶脱した繊維を除去するものであって、公知の方法で実施できる。
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法では、洗浄工程の後に、布帛を乾燥させる布帛乾燥工程を有していてもよい。布帛乾燥工程は、上述した前処理剤乾燥工程で例示した手段を用いて行うことができるので、その説明を省略する。
本実施形態に係るインクジェット抜蝕方法は、括りインク付与工程を有していてもよい。括りインク付与工程とは、括りバインダーを含有する括りインクを付与する工程であり、抜蝕工程の後に行われる。これにより、抜蝕した箇所の繊維のほつれを抑制することができる。
括りバインダーとしては、従来公知の成分を用いることができる。括りインクの付与は、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等のいずれの方法も使用で
きる。
2.インクジェット捺染システム
本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染システムは、布帛に対してインクを吐出可能な複数のノズル列を備えた記録ヘッドと、上述したインクセットと、を有し、前記第1抜蝕インクは、前記複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出可能に供給されることを特徴とする。
本実施形態に係るインクジェット捺染システムは、上述したインクジェット抜蝕方法を実施するものである。以下、本実施形態に係るインクジェット捺染システムの一例について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係るインクジェット捺染システムは、以下の態様に限定されるものではない。
図1は、本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000を模式的に表す図である。インクジェット捺染システム1000は、布帛を搬送する搬送装置10と、前処理剤を布帛の表面に付与する前処理装置20と、抜蝕インクおよびカラーインクを吐出するインク吐出装置30と、画像を湿熱処理する湿熱処理装置40と、を有する。図1では、前処理、インクの吐出(抜蝕処理や捺染処理)、湿熱処理を、すべて1台の製造装置で実施するような形態で、インクジェット捺染システム1000を表しているが、これらの処理のうち一部を、異なる製造装置で実施するようにしても良い。たとえば、インクジェット捺染システム1000は、前処理装置20とインク吐出装置30とを備えた第1の製造装置と、湿熱処理装置40を備えた第2の製造装置とを備えることができる。また、前処理、インクの吐出(抜蝕処理や捺染処理)、湿熱処理を、それぞれ独立した異なる製造装置で実施するようにしても良い。たとえば、インクジェット捺染システム1000は、前処理装置20を備えた第1の製造装置と、インク吐出装置30を備えた第2の製造装置と、湿熱処理装置40を備えた第3の製造装置と、を備えることができる。
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000は、当該インクジェット捺染システム1000全体の動作を制御する制御装置(図示せず)を有している。制御装置は、インクジェット捺染システム1000の任意の位置に設けられ、例えばPCやタッチパネル等の入力装置から入力された情報に基づいて、各装置の動作を制御する。
2.1.搬送装置
搬送装置10は、ローラー11によって構成されることができる。搬送装置10は、複数のローラー11を有してもよい。搬送装置10は、図示の例では、布帛1の搬送される方向(図中矢印で示した。以下、「布帛搬送方向」ともいう。)において、前処理装置20より上流側に設けられているが、これに限定されず、布帛1が搬送できる限り、設けられる位置や個数は任意である。
さらに、搬送装置10は、各種のプラテンなどを備えてもよい。図1の例では、搬送装置10は、ローラー11に加えて、布帛1においてインクを付着させる面と反対側の面から布帛1を支持するプラテン12を備えている。
2.2.前処理装置
前処理装置20は、上述した前処理剤を布帛の表面に付与する。前処理装置20は、上述した前処理工程を実施する手段である。図1の例では、前処理装置20は、布帛搬送方向において、インク吐出装置30の上流側に設けられている。
前処理剤を布帛の表面に付与する方法としては、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等のいずれの方法も使用できるが、図1の例では、処理剤をロール
コーターで塗布する方法(コーティング法)を示すものである。
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000は、布帛に付与した前処理剤を乾燥させる前処理剤乾燥装置(図示せず)を備えていてもよい。前処理剤乾燥装置は、前処理装置20の下流側であって、インク吐出装置30の上流側に設けることができる。このような乾燥装置の具体例は、上述した前処理剤乾燥工程で述べた通りであるので、その説明を省略する。
本実施形態に係るインクジェット記録装置1000は、前処理を行わない場合、あるいは、前処理を施した布帛を用いる場合には、前処理装置20および前処理剤乾燥装置を備えていなくてもよい。
2.3.インク吐出装置
インク吐出装置30は、上述したインクセットを用いて、布帛の抜蝕や布帛の捺染を行う。インク吐出装置30は、上述した抜蝕工程および捺染工程を実施する手段である。図1の例では、インク吐出装置30は、布帛搬送方向において、前処理装置20の下流側に設けられている。
インク吐出装置30は、各インク(抜蝕インクやカラーインク)を吐出する複数のノズル列が設けられた記録ヘッド31を備える。図1の記録ヘッド31は、いわゆるシリアルヘッドであり、布帛を平面視した際の布帛搬送方向と交差する方向に往復移動しながらノズル列からインクを吐出して、布帛1の所望の位置にインクを付着させる。
図2は、記録ヘッド31のノズル面32を示す概略図である。図2に示すように、記録ヘッド31は、ノズル面32を備える。インクの吐出面でもあるノズル面32は、布帛1と対向する位置に配置されている。ノズル面32には、複数のノズル列33が配列されている。複数のノズル列33は、ノズル列毎に、インクを吐出するためのノズル開口部34を複数有する。
複数のノズル列33は、ノズル列毎に上述した各インクが吐出可能に供給される。図2の例では、ノズル列33A〜33Hが設けられており、各ノズル列が布帛搬送方向に沿って配列されている。具体的には、第1抜蝕インクを吐出可能なノズル列33Aおよび33B、第2抜蝕インクを吐出可能なノズル列33C、第3抜蝕インクを吐出可能なノズル列33D、イエローインクを吐出可能なノズル列33E、マゼンタインクを吐出可能なノズル列33F、シアンインクを吐出可能なノズル列33G、ブラックインクを吐出可能なノズル列33H、というように配列されている。なお、各インクを吐出するノズル列の配列の順序は、これに限定されるものではなく適宜選択することができる。
図2の例ではノズル列が8列の場合を示したが、少なくとも第1抜蝕インクを吐出できるノズル列を2つと、第2抜蝕インクを吐出できるノズル列を1つと、を備えていれば、ノズル列の数は特に限定されるものではない。
図2の例では、ノズル列33A〜33Hは、それぞれ、ノズル面32において布帛搬送方向に延びるように形成されているが、これに限定されず、ノズル面32内で布帛搬送方向に交差する方向に角度を与えられて配置されていてもよい。
ノズル開口部34は、所定のパターンで複数配列されることにより、各ノズル列を形成する。本実施形態では、ノズル開口部34は、ノズル面32における布帛搬送方向に複数並べられて配置されているが、これに限定されず、所望のパターンで配置することができる。なお、各ノズル列を構成するノズル開口部34の数は、特に限定されるものではい。
上述のようにシリアルヘッドタイプのプリンター(記録装置)を中心に説明したが、この態様に限定されない。具体的には、記録ヘッドが固定化され布帛搬送方向に順に配列されているラインヘッドタイプのプリンター、特開2002−225255号公報に記載されたようなX方向、Y方向(主走査方向、副走査方向)に移動する移動装置が設けられたヘッド(キャリッジ)を備えるラテラルタイプのプリンターであっても良い。例えば、surepressL−4033A(セイコーエプソン株式会社製)は、ラテラルタイプのプリンターである。
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000では、インクジェット記録方式を用いて、布帛の所望の位置に抜蝕インクを付着できる。これにより、繊維を除去(溶脱)する位置のずれが低減され、精度の高い抜蝕加工を行うことができる。
また、抜蝕剤の濃度の異なる抜蝕インクを複数備えていることから、抜蝕のグラデーションを表現することができる。ここで、本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000によれば、第1抜蝕インクを2列以上のノズル列から吐出可能である。これにより、繊維の溶脱を十分に行うことができるので、抜蝕のグラデーションの幅を一層広げることができたり、繊維密度が高い布帛、厚みのある布帛に対する抜蝕を十分に行うことができたりする。さらには、布帛の広い範囲にわたって抜蝕インクを付着させることができるので、さまざまな布帛に対して抜蝕のグラデーションを表現できる。
インクジェット記録方式の具体例は、上述の抜蝕工程で述べた通りであるので、その説明を省略する。
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000では、抜蝕インクとカラーインクを同一の記録ヘッド31を用いて吐出する場合を示したがこれに限定されず、抜蝕インクを吐出する記録ヘッドと、カラーインクを吐出する記録ヘッドと、を別々に備えるものであってもよい。
記録ヘッド31は、ノズル列33が形成されたノズル面32を有するノズルプレートを含んでいる。図3は、記録ヘッドの一例を模式的に示す断面図である。図3に示した記録ヘッド31は、ノズルプレート110、圧力室基板112、振動板114、圧電素子116等の主要部材から構成されている。ノズルプレート110上には、圧力室基板112が設けられており、圧力室基板112によって仕切られることで圧力室118が形成される。圧力室基板112上には、可撓性を有する振動板114が設けられており、振動板114が撓むことで圧力室118の内部圧を瞬間的に高めることができるようになっている。振動板114上には、圧力室118に対応する位置に圧電素子116が設けられている。圧電素子116は、カバー120で全体を覆われている。
圧力室基板112には、上述のインクをヘッド内部へ導入する図示しないインク導入口が設けられている。このインク導入口は、図示しないインク溜まりと接続しており、このインク溜まりにおいてインクを溜めることができるように形成されている。また、インク溜まりは流路122を介して圧力室118と連通しており、圧力室118のインク吐出側はノズルプレート110に設けられたインク吐出口124(ノズル開口部34)と接続している。ノズルプレート110の材質は、特に制限されず、ステンレス鋼(例えばSUS等)、ポリイミド等を用いることができる。
また、ノズルプレート110は、表面の少なくとも一部にフッ素を有してもよい。さらに、ノズルプレート110は、表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有してもよい。図3に示す例では、ノズルプレート110の表面およびインク吐出口124の内部表
面に、プラズマ重合膜126およびフッ素樹脂膜128が形成されている。なお「ノズルプレート表面」とは、ノズルプレートの少なくとも一部の面の性質を変化させるために物理的または化学的に処理された膜を含む。
ノズルプレート110の材質がステンレス鋼の場合には、ノズルプレート110の表面およびインク吐出口124の内部表面にシリコーン材料をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜126を形成することができる。プラズマ重合膜126の原料としては、シリコーン油、ジメチルポリシロキサン等のアルコキシシランが挙げられる。具体的な商品としては、TSF451(ジーイー東芝シリコーン株式会社製)、SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)等が挙げられる。
また、プラズマ重合膜126の表面には撥液性を有するフッ素樹脂膜128を形成することができる。このようなフッ素樹脂膜128は、フッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。フッ素を含む長鎖高分子鎖としては、分子量が1000以上の、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロポリエーテル鎖等が挙げられる。この長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランとしては、例えば前記例示した長鎖高分子鎖を有するシランカップリング剤等が挙げられる。このシランカップリング剤としては、例えばヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン等が挙げられ、市販品としてはオプツールDSX(商品名、ダイキン工業株式会社製)、KY−130(商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。なお、ノズルプレート110の材質がポリイミドの場合には、プラズマ重合膜126を形成せずにノズルプレート110上に直接フッ素樹脂膜128を形成してもよい。
図4は、プラズマ重合膜126の表面に形成されたフッ素樹脂膜128の概念図である。ノズルプレート110をフッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシラン溶液に浸漬させると、ノズルプレート110上のプラズマ重合膜126の表面にフッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランの重合したフッ素樹脂膜128が形成される。このフッ素樹脂膜128のケイ素原子は、酸素原子を介してプラズマ重合膜126と結合(いわゆるシロキサン結合)する。そのため、フッ素を含む長鎖高分子鎖128aは、表面側に位置することになる。このとき、フッ素樹脂膜128の状態は、ケイ素原子が三次元的に結合し、フッ素を含む長鎖高分子鎖同士が複雑に絡み合った状態となっている。このため、フッ素樹脂膜128は高密度な状態となり、フッ素樹脂膜128にインクが浸透しにくくなる。このような記録ヘッド31は、単分子膜のフッ素樹脂膜128を有しているため、ノズルプレート110の最表面から1μm未満の領域にはシロキサン結合を有していることになる。
一方、ノズルプレート110の表面にニッケルイオンとフッ素樹脂との共析メッキ膜を形成することで、ノズルプレート110表面の少なくとも一部にフッ素を有するようにしてもよい。このような共析メッキ膜を形成する方法は、電解法あるいは無電解法により形成することができ、特に限定されないが、例えばニッケルイオンと撥液性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し液を攪拌しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキする方法が好ましい。この共析メッキに使用する撥液性高分子樹脂材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリパーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジパーフルオロアルキルフマレート等の樹脂を、単独あるいは混合して用いることが好ましい。また共析メッキに用いる金属材料は、ニッケルに限定されず、例えば銅、銀、錫、亜鉛等を適宜選択できる。共析メッキに用いる金属材料は、ニッケル、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−ホウ素合金等の表面硬度が大きく対摩耗性に優れる材料がより好ましい。
なお、上述のプラズマ重合膜126およびフッ素樹脂膜128が形成されたノズルプレ
ート110は、後に説明するように、酸性の抜蝕剤を含有するインクおよび塩基性の抜蝕剤を含有するインクのいずれに対してもきわめても良好な耐腐食性を有する。
また、ノズルプレートの腐食しやすさの指標の一つとして、抜蝕インクの水素イオン濃度(pH)が考えられる。すなわち、酸性のインクであればpHの値が小さいほど、ノズルプレートの腐食が生じやすく、アルカリ性のインクであればpHの値が大きいほど、ノズルプレートの腐食が生じやすいと一般的には考えられよう。しかし、ノズルプレートの表面に、プラズマ重合膜126およびフッ素樹脂膜128を形成した場合には、耐腐食性が、インクのpHの値と、必ずしも相関しないことが分かってきた。このことは、後述の実施例により立証される。
2.4.湿熱処理装置
湿熱処理装置40は、布帛を湿熱処理する。湿熱処理装置40は、上述した湿熱処理工程を実施する手段である。図1の例では、湿熱処理装置40は、布帛搬送方向においてインク吐出装置30の下流側に設けられている。湿熱処理には、従来公知の方法を用いることができ、例えば、HT法(高温スチーミング法)、HP法(高圧スチーミング法)等が挙げられる。なお、先に説明したとおり、一般的には、抜蝕工程後、湿熱処理を行う前に、簡易乾燥工程が設けられることが多い。そこで、本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000は、簡易乾燥工程を実施するための手段として、インク吐出装置30と、湿熱処理装置40との間に、簡易乾燥装置を備えていても良い。
2.5.その他の装置
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000は、さらに、布帛を洗浄する洗浄装置(図示せず)を有していてもよい。洗浄装置は、上述した洗浄工程を実施する手段である。洗浄装置としては、公知の装置を使用することができる。洗浄装置は、例えば、上記の湿熱処理装置40の布帛搬送方向の下流側に設けることができる。
本実施形態に係るインクジェット捺染システム1000は、さらに、布帛を乾燥させる布帛乾燥装置(図示せず)を有していてもよい。布帛乾燥装置としては、上記の前処理剤乾燥装置で挙げた乾燥装置と同様のものを用いることができる。布帛乾燥装置は、例えば、湿熱処理装置40の下流側(洗浄装置による布帛の洗浄を行う場合には、洗浄装置の下流側)に設けることができる。
本実施形態に係るインクジェット捺染システムは、さらに、括りインク付与装置を有していてもよい。括りインク付与装置は、上述した括りインク付与工程を実施する装置であり、例えば、インク吐出装置30の下流側に設けることができる。括りインクの付与装置には、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等のいずれの方法も採用できる。
3.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
3.1.抜蝕インクの調製
表1の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合および攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、抜蝕インクA1、B1、C1、A2、B2、C2を得た。なお、表1中の数値は、質量%を示し、イオン交換水は抜蝕インクの全質量が100質量%となるように添加した。
抜蝕インクA1及びA2が第1の抜蝕インクであり、抜蝕インクB1及びB2が第2の
抜蝕インクであり、抜蝕インクC1及びC2が第3の抜蝕インクに相当する。
なお、表1に示す成分のうち、商品名で記載した成分は次の通りである。
・オルフィンE1010(商品名、日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・プロキセルXL2(商品名、アビシア社製、防腐剤)
3.2.評価試験
以下の評価試験には、次のように調整したインクジェットプリンターを用いて行った。まず、表1に示す各抜蝕インクをインクジェットプリンターPM−G800(商品名、セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのインク室にそれぞれ充填した。そして、表2および表3の組み合わせとした抜蝕インクのインクセットを、上記プリンターに装着して、表2および表3に示すノズル列に対応するように各インクを供給した。
3.2.1.布帛
酸性の抜蝕剤(硫酸アルミニウム14−18水和物)を含有する抜蝕インクに対して、布帛Xおよび布帛Yを用いた。塩基性の抜蝕剤(炭酸グアニジン)を含有する抜蝕インクに対して、布帛Zおよび布帛Xを用いた。
・布帛X(商品名「E/C混オパールIII」、田中直染料店製、薄手の生地、素材:綿
50%、ポリエステル50%)
・布帛Y(商品名「E/C麻混オパール」、田中直染料店製、厚手の生地、素材:麻、ポリエステル、綿;混率不明)
・布帛Z(商品名「麻混No.0801」、蝶理株式会社製、素材:ポリエステル22%、レーヨン56%、麻22%)
3.2.2.評価用のパターン
評価用のパターンとして、布帛X、Y、Zに、それぞれ図5に示すようなパターンで抜蝕を実施した。評価用のパターンは、布帛X、Y、Zの面内に、抜蝕を行う領域(抜蝕領域)Sを有している。抜蝕領域Sは、抜蝕が行われない領域(非抜蝕領域)Fによって囲まれている。抜蝕領域Sは、除去されるべき繊維の除去率が異なる4つの領域に分かれている。以下、抜蝕によって除去されるべき繊維を「抜蝕対象繊維」といい、抜蝕対象繊維の除去率を「繊維除去率」と称する。また、抜蝕によって除去されない繊維を「抜蝕対象外繊維」という。抜蝕領域Sは、繊維除去率が100%である第1領域S1と、繊維除去率が75%である第2領域S2と、繊維除去率が50%である第3領域S3と、繊維除去率が25%である第4領域S4と、に分かれている。
抜蝕対象繊維は、抜蝕インクが酸性の抜蝕剤を含有する場合には、綿であり、抜蝕インクが塩基性の抜蝕剤を含有する場合には、ポリエステルである。表2のインクセットは、酸性の抜蝕剤を含有するので、綿が抜蝕対象繊維となる。表3のインクセットは、塩基性の抜蝕剤を含有するので、ポリエステルが抜蝕対象繊維となる。
3.2.3.評価サンプルの作成
まず、上記の評価用パターンが形成されるように、上記のプリンターから抜蝕インクを吐出させて、布帛に抜蝕インクを付着させた(抜蝕工程)。抜蝕工程では、画像解像度を縦720dpi×横720dpi、Duty100%の条件で行った。
その後、170℃で10分間スチーミングを行った後(湿熱処理工程)、界面活性剤(商品名「ラッコールSTA」、明成化学工業株式会社製)を0.2質量%含む水溶液を用いて90℃で10分間洗浄して(洗浄工程)、60℃で30分間乾燥させて、評価サンプルを得た。
3.2.4.凹凸階調性
評価サンプルの領域S1〜S4をそのまま目視にて観察した。また、評価サンプルの拡大写真を作成し、領域S1〜S4をこの拡大写真にて観察した。拡大写真は、布帛X、Y、Zを構成する繊維のうち、抜蝕対象外繊維が構成する格子間の距離が1〜3mm程度と
なるような倍率、つまり、抜蝕対象外繊維の格子が十分に把握できるような倍率で作成した。
評価基準は、次の通りである。
◎:目視による観察で、第1領域S1、第2領域S2、第3領域S3、第4領域S4の抜蝕によるグラデーション(生地の厚みや濃淡の違い)が明確である。かつ、隣り合う領域間の境界、すなわち、第1領域S1と領域S2との境界、領域S2と領域S3との境界、領域S3と領域S4との境界が明確である。
○:目視による観察で、第1領域S1、第2領域S2、第3領域S3、第4領域S4の抜蝕によるグラデーションが認識できる。ただし、隣り合う領域間の境界がやや不明確である。
△:目視による観察で、第1領域S1、第2領域S2、第3領域S3、第4領域S4の生地の厚みやの濃淡の差が曖昧である。隣り合う領域間の境界も不明確である。拡大写真で確認した場合、各領域S1〜S4の一部において、他の領域との生地の厚みや濃淡の違いが一応認められる。
×:抜蝕によるグラデーションがまったく認識できない。隣り合う領域間の境界もまったく認識できない。拡大写真で確認しても、各領域S1〜S4間における生地の厚みや濃淡の違いが認められない。
3.2.5.抜蝕対象繊維の全除去
評価サンプルの第1領域S1をそのまま目視にて観察した。また、第1領域を拡大写真にて確認した。拡大写真の倍率については、上記の凹凸諧調性で説明したとおりである。なお、先に説明したとおり、抜蝕対象繊維とは、抜蝕インクが酸性の抜蝕剤を含有する場合には、綿であり、抜蝕インクが塩基性の抜蝕剤を含有する場合には、ポリエステルである。表2のインクセットは、酸性の抜蝕剤を含有するので、綿が抜蝕対象繊維となる。表3のインクセットは、塩基性の抜蝕剤を含有するので、ポリエステルが抜蝕対象繊維となる。
評価基準は次のとおりである。
◎:目視でも、拡大写真でも、抜蝕対象繊維がほとんど認識できない。
○:拡大写真による観察で、抜蝕対象繊維の一部の残存が認められるが、目視による観察では認識できない。
△:目視による観察で、抜蝕対象繊維の一部の残存が認められる。
×:目視による観察で、抜蝕対象繊維の殆どの残存が認められる。
3.2.6.境界領域のキレ
評価サンプルの第1領域S1と非抜蝕領域Fとの境界をそのまま目視にて確認した。また、この境界を拡大写真にて観察した。拡大写真の倍率については、上記の凹凸諧調性で説明したとおりである。
評価基準は、次の通りである。
◎:目視でも、拡大写真でも、第1領域S1と非抜蝕領域Fとの境界が明確である。拡大写真による観察で、非抜蝕領域Fの抜蝕対象繊維の端部がこの境界部分できれいに切断されていることが確認できる。
○:目視による観察では、第1領域S1と非抜蝕領域Fとの境界が明確である。拡大写真による観察では、非抜蝕領域Fの抜蝕対象繊維の端部の切断がやや不十分であり、非抜蝕領域Fから抜蝕対象繊維の切れ端が第1領域S1内に入り込んでいる箇所が認められる。
△:目視による観察で、非抜蝕領域Fから抜蝕対象繊維の切れ端が第1領域S1内に入り込んでいる様子が認められ、第1領域S1と非抜蝕領域Fとの境界がやや曖昧である。
×:目視による観察で、非抜蝕領域Fから抜蝕対象繊維の切れ端が大きく第1領域S1内に入り込んでいる様子が認められ、第1領域S1と非抜蝕領域Fとの境界が非常に曖昧である。
3.3.評価結果
以上の評価試験の結果を表2及び表3に示す。
表2および表3の評価結果の通り、実施例に係るインクセットを用いると、階調性に優
れた抜蝕加工を行うことができ、対象繊維を広範囲にわたって十分に除去できることが示された。また、抜蝕領域と非抜蝕領域との境界部分のキレも良好であり、きれいな抜蝕が行えることが示された。
比較例1および比較例5の抜蝕剤の濃度の高い抜蝕インクは、1列のノズル列のみから吐出される。そのため、凹凸階調の表現や対象繊維の除去が不十分であった。
比較例2および比較例6では、抜蝕剤濃度の高い抜蝕インクのみを用いたため、抜蝕による凹凸階調の表現が不十分であった。
比較例3および比較例7では、中程度の抜蝕剤濃度の抜蝕インクのみを用いたため、抜蝕による対象繊維の除去や境界部分のキレが不十分であった。
比較例4および比較例8では、抜蝕剤濃度の高い抜蝕インクが1列のノズル列のみから吐出されるものであったため、凹凸階調の表現や境界部分のキレが不十分であった。
3.4.ノズルプレートの耐腐食性の評価
3.4.1.抜蝕インクの調製
表4の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合および攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、抜蝕インクA3、A4を得た。なお、表4中の数値は、質量%を示し、イオン交換水は抜蝕インクの全質量が100質量%となるように添加した。なお、抜蝕インクA3及びA4は第1の抜蝕インクに相当する。また、抜蝕インクA1は、上述の表1と同様である。表4に示す成分のうち、重硫酸(硫酸水素ナトリウム)は、試薬として市販されているものを購入して使用した。また、表4に示すその他の成分は、上述の表1と同様である。
表4中、各インクのpHを測定した結果は、以下のとおりである。抜蝕インクA1(硫酸アルミニウム):pH=3.5、抜蝕インクA3(重硫酸(硫酸水素ナトリウム)):pH=1.0、抜蝕インクA4(硫酸アンモニウム):pH=5.0。
3.4.2.ノズルプレートの作製
表面に撥液膜を形成したノズルプレートとして、表面に共析メッキを施したノズルプレート、および、表面にプラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜を形成したノズルプレートの2種類をそれぞれ複数枚準備した。
共析メッキが施されたノズルプレートは、SUS316製のノズルプレートを、メッキ液(硫酸ニッケル:240g/L、塩化ニッケル:45g/L、ホウ酸:35g/L、PTFE:50g/L)に浸漬し、pH=4.0〜4.5、メッキ温度60℃、陰極電流密度を3A/dmの条件で、緩やかに撹拌しながら共析メッキしたものを用いた。
一方、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートは、SUS316製のノズルプレートに、ジメチルポリシロキサン(SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製))をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜を成膜し、さらにヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン(オプツールDSX(商標、ダイキン工業社製))の単分子膜を成膜したものを用いた。より具体的には、以下のように形成した。
プラズマ重合チャンバーに成膜前のノズルプレートを導入し、40℃に保持し、チャンバーにアルゴンガスを供給して、7Paに保持した。100Wの高周波電力を印加して、アルゴンプラズマを生成させ、ジメチルポリシロキサンをチャンバーに導入して、重合反応を生じさせてノズルプレート表面にプラズマ重合膜を成膜した。次にプラズマ重合膜を窒素雰囲気中200℃でアニールした。次に、プラズマ重合膜の表面をアルゴンプラズマに1分曝した。その後、プラズマ重合膜を大気に曝し、プラズマ重合膜の表面を終端する酸素原子に水素原子を結合させてOH基化させた。あらかじめ、ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランを溶媒(製品名HFE−7200(住友スリーエム社製)を用いた)と混合して、例えば0.1wt%の濃度の溶液を作成し、プラズマ重合膜が成膜されたノズルプレートを、300℃に加熱して当該溶液に浸漬して、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートとした。
3.4.3.評価試験
<評価1>
それぞれ20gの抜蝕インクA1、A3、A4を個々のテフロン(登録商標)容器に測り取り、共析メッキを施したノズルプレートと、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートとを個々に浸漬させ、蓋をして密閉した。この容器を常温環境下、1、3、5、7日間放置し、その後ノズルプレートを取り出し、撥液膜の状況を目視で観察した結果、及び、抜蝕インクをはじく時間を、初期の状態において抜蝕インクをはじく時間と比較した結果を表5に示す。なお、撥液性が悪くなると、抜蝕インクをはじきにくくなるため、撥インク時間は増大することになる。
評価基準は、下記の通りである。
◎:初期状態(インク浸漬前)と同等で、変化なし。撥インク時間増大せず
○:撥液膜に外観上の変化は無いが、撥インク時間増大
△:撥液膜に外観上の変化が有り、撥インク時間増大
×:撥液膜が剥離し、SUSプレートが露出しており、撥インクしない
<評価2>
それぞれ20gの抜蝕インクA1、A3、A4を、個々のテフロン(登録商標)容器に測り取り、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートを個々に浸漬させ、蓋をして密閉した。この容器を60℃で、1、3、7、14日間放置し、撥液膜の状況を目視で観察した結果を表6に示す。表6の評価基準は、表5と同様である。なお、評価2は、上記評価1の加速試験に相当する。
3.4.4.評価結果
表5をみると、共析メッキを施したノズルプレートでは、抜蝕インクA3(重硫酸)に浸漬した場合に、1日で外観上の変化が認められた。一方、抜蝕インクA1(硫酸アルミニウム)および抜蝕インクA4(硫酸アンモニウム)では、それぞれ3日および5日で外観上の変化が認められた。したがって、ノズルプレートに共析メッキを施した場合には、抜蝕インクの種類によって、表面の外観が変化する日数が異なり、使用可能な期間が異なることが予想される。また、ノズルプレートに共析メッキを施した場合には、抜蝕インクのpHが大きいほど、表面の外観が変化するまでの日数が長く、共析メッキの劣化は、抜蝕インクのpHに対して一次関数的な相関を有することが分かった。
一方、表5においては、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレー
トは、いずれの抜蝕インクに対しても、7日間外観上の変化が認められず、非常に良好な耐腐食性を示すことが判明した。
他方、表6をみると、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートは、いずれの抜蝕インクに対しても、7日間以上外観上の変化が認められず、抜蝕インクA4(硫酸アンモニウム)に浸漬して14日で外観上の変化が認められた。したがって、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートは、いずれの抜蝕インクに対しても、非常に良好な耐腐食性を示すことが確認できた。特に抜蝕インクA1(硫酸アルミニウム)に浸漬した場合には、14日以上、浸漬前の状態を維持することができ、非常に良好な耐腐食性を呈することが判明した。
また、表6の結果から、ノズルプレートにプラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜を形成した場合には、抜蝕インクの種類による劣化の順序が、抜蝕インクのpHと単純には相関していないことが分かった。すなわち、よりpHの値の大きい抜蝕インクA4(硫酸アンモニウム)に浸漬したほうが、よりpHの値の小さい抜蝕インクA3(重硫酸)や抜蝕インクA1(硫酸アルミニウム)に浸漬するよりも劣化が早期に生じることが分かった。したがって、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜の劣化は、抜蝕インクの種類に対して、複雑な相関を有することが分かった。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
1…布帛、10…搬送装置、11…ローラー、12…プラテン、20…前処理装置、30…インク吐出装置、31…記録ヘッド、32…ノズル面、33…複数のノズル列、34…ノズル開口部、40…湿熱処理装置、110…ノズルプレート、112…圧力室基板、114…振動板、116…圧電素子、118…圧力室、120…カバー、122…流路、124…吐出口、126…プラズマ重合膜、128…フッ素樹脂膜、128a…フッ素を含む長鎖高分子鎖、1000…インクジェット捺染システム

Claims (14)

  1. 抜蝕剤を含有する第1抜蝕インクと、
    前記抜蝕剤を含有し、該抜蝕剤の濃度が前記第1抜蝕インクよりも低い第2抜蝕インクと、を含むインクセットを用いて、布帛を抜蝕する抜蝕工程を有し、
    前記第1抜蝕インクは、記録ヘッドに設けられた複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出される、インクジェット抜蝕方法。
  2. 請求項1において、
    前記第1抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度が、前記第2抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度の4倍以上である、インクジェット抜蝕方法。
  3. 請求項1または請求項2において、
    さらに、前記インクセットは、前記抜蝕剤の濃度が前記第2抜蝕インクにおける前記抜蝕剤の濃度よりも低い第3抜蝕インクを含む、インクジェット抜蝕方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
    前記第1抜蝕インクは、記録ヘッドに設けられた複数のノズル列のうち、3以上のノズル列から吐出される、インクジェット抜蝕方法。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
    前記抜蝕剤が、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウムおよび硫酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である、インクジェット抜蝕方法。
  6. 請求項5において、
    前記抜蝕剤は、硫酸アルミニウムである、インクジェット抜蝕方法。
  7. 請求項5または請求項6において、
    前記布帛がセルロース系繊維を含む、インクジェット抜蝕方法。
  8. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
    前記抜蝕剤が、アルカリ金属の水酸化物およびグアニジン弱酸塩の少なくとも一方である、インクジェット抜蝕方法。
  9. 請求項8において、
    前記布帛が、ポリアミド系繊維およびポリエステル系繊維の少なくとも一方を含む、インクジェット抜蝕方法。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、
    前記第1抜蝕インクに含まれる前記抜蝕剤の含有量が、10質量%以上である、インクジェット抜蝕方法。
  11. 請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、
    前記抜蝕剤を含有するインクは、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、前記ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する前記記録ヘッドから吐出される、インクジェット抜蝕方法。
  12. 布帛に対してインクを吐出可能な複数のノズル列を備えた記録ヘッドと、
    抜蝕剤を含有する第1抜蝕インクと、該抜蝕剤を含有し、その濃度が前記第1抜蝕インクよりも低い第2抜蝕インクと、を含むインクセットと、を有し、
    前記第1抜蝕インクは、前記複数のノズル列のうち、2以上のノズル列から吐出可能に供給される、インクジェット捺染システム。
  13. 請求項12において、
    前記第1抜蝕インク及び前記第2抜蝕インクは、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、前記ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する前記記録ヘッドから吐出される、インクジェット捺染システム。
  14. 請求項12または請求項13において、
    前記抜蝕剤は、硫酸アルミニウムである、インクジェット捺染システム。
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