JP6457257B2 - フライス工具、及びこれを用いた加工方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高い表面精度を備えた加工面を得ることができるフライス工具、及びこれを用いた加工方法に関する。
表面粗さなどの表面精度について、被削材の加工面を高精度に仕上げることができる加工法として、従来、一般的には研削加工が知られているが、近年では、加工時間の短縮化を目的として、フライス工具を用いた加工、即ち、フライス加工によって研削加工と同等の表面精度を得るべく、鋭意研究がなされている。
そして、被削材が鋳鉄である場合、通常のフライス加工では、加工面に露出した黒鉛が切削加工時に脱落して、黒鉛が存在していたところに凹みを生じ、この凹みにより、表面粗さに関して、所望の精度を得ることができないという課題が指摘されている。
そこで、このような問題を解決すべく、従来、被削材が球状黒鉛鋳鉄の場合の加工法ではあるが、表面粗さを高精度に仕上げることができるフライス加工法として、下記特許文献1(特開2007−319990号公報)に開示された加工方法が提案されている。
この加工方法は、主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具を球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行う切削加工方法であって、工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度(切削速度)を600m/min以上として、球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を周囲の基地組織で被覆するというものである。この加工方法によれば、切削速度を600m/min以上とすることで、球状黒鉛鋳鉄の基地組織の表層に塑性流動が起こり、黒鉛が基地組織の塑性流動層によって被覆されるため、僅かに表面の粗さは残るものの極端に低い凹み部分が局所的に発生するということがなく、研削加工で得られる研磨面と同等の加工面を得ることができるとのことである。
特開2007−319990号公報
ところが、上記従来の加工方法では、切削速度を600m/min以上(好ましくは800〜3000m/min)という極めて高い切削速度に設定しているため、工具の寿命が極めて短く、また欠損の危険性が高いという問題があった。高硬度の工具として知られるCBN(立方晶窒化ホウ素)を用いた工具でも、球状黒鉛鋳鉄を被削材とした場合に、その推奨される一般的な切削速度は500m/min以下である。また、フライス工具の場合、断続加工になるため、切削速度が高い場合には、工具が欠損しやすい傾向にある。
斯くして、上記従来の加工方法では、工具寿命が短く、このため工具コストに応じて加工コストが上昇し、また、工具が欠損すると、被削材が不良品になるという問題があった。
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、工具に過大な負荷をかけることなく、研削加工と同等の高精度な加工面精度を得ることができるフライス工具、及びこれを用いた加工方法の提供を、その目的とする。
上記課題を解決するための本発明は、概略形状が円筒状又は円盤状をした工具本体と、少なくとも、該工具本体の一方端部の外周部に、周方向に予め定められた間隔で設けられた複数の刃部とから構成されるフライス工具であって、
少なくとも一つの前記刃部は、被削材を切削する作用を成す主切れ刃及び副切れ刃を有し、該主切れ刃は、前記副切れ刃より半径方向外側に位置し、前記副切れ刃は、前記工具本体の中心軸と直交する平面に対する切れ刃角が、半径方向外側に向けた仰角となる角度を有するフライス工具、並びにこのフライス工具を用いて被削材を平面加工する加工方法に係る。
上記のように、本発明に係るフライス工具では、その刃部が、被削材を切削する作用を成す主切れ刃及び副切れ刃を有し、主切れ刃は、副切れ刃より半径方向外側に位置する。したがって、フライス工具を回転させるとともに、当該フライス工具の位置を、被削材に対して切り込みが与えられた位置に設定して、フライス工具と被削材とを、その工具本体の中心軸と直交する送り方向に相対移動させると、一つの刃部に設定される送り量に相当する被削材の部分が、前記主切れ刃及び副切れ刃によって加工される。
そして、主切れ刃は、主に、送り方向に沿った、送り量に相当する厚み分を切削し、副切れ刃は、その切れ刃角が半径方向外側に向けた仰角となる角度に設定されているので、加工平面に僅かに設定される、送り量と自身の切れ刃角に応じた領域を切削する。その際、副切れ刃の取り代が極僅かであるので、この副切れ刃によって切削される被削材の加工面は、従来のように、フライス工具の切削速度を通常以上に高めるまでもなく、その表層部分に塑性流動を生じ、仮に、加工面上に凹み部分がある場合には、その凹み部分が前記塑性流動によって埋められ、平坦化される。
したがって、本発明に係るフライス工具を用いて被削材を平面加工する場合には、鋳鉄のように、黒鉛の脱落によって加工面に凹みが生じ易い被削材でも、研削加工と同等の表面精度を有する加工面を得ることができ、研削加工に比べて、効率良く、所望の表面精度を有する加工面を得ることができる。
また、従来のように高い切削速度に設定する必要はなく、通常の切削速度で高精度な表面精度を得ることができるので、フライス工具の刃部に過大な負荷をかける必要が無く、工具の短寿命化を避けることができるとともに、加工コストの上昇を回避することができる。また、工具が欠損するリスクも従来に比べて低いので、工具の欠損によって、被削材が不良品になるという問題も回避することができる。
尚、塑性流動によって良好な表面精度を得るには、前記副切れ刃の前記切れ刃角を、0.025度以上0.11度以下の範囲内とするのが好ましく、前記副切れ刃の長さを2mm以上4mm以下の範囲内とするのが好ましい。
副切れ刃の切れ刃角が0.025度より小さい場合には、副切れ刃による切削領域があまりにも小さすぎるため、良好な塑性流動が得られず、また、副切れ刃の切れ刃角が0.11度より大きい場合には、逆に、副切れ刃による切削領域が大きくなりすぎて良好な塑性流動が得られず、いずれの場合も、良好な加工面精度が得られ難いからである。尚、副切れ刃の切れ刃角が0.11度より大きい場合には、切削抵抗が大きくなって、却って加工面が荒れるという一面もある。
また、副切れ刃の長さが2mmよりも短いと良好な塑性流動が得られず、4mmより長いと、切削抵抗が大きくなって、却って加工面が荒れるからである。
また、本発明は、概略形状が円筒状又は円盤状をした工具本体と、少なくとも、該工具本体の一方端部の外周部に、周方向に予め定められた間隔で設けられた複数の刃部とから構成されるフライス工具であって、
少なくとも一つの前記刃部は、被削材を切削する作用を成す主切れ刃及び副切れ刃を有し、該主切れ刃は、前記副切れ刃より半径方向外側に位置し、前記副切れ刃は、前記工具本体の中心軸と直交する平面に対する切れ刃角が、半径方向外側に向けた仰角となる角度を有するフライス工具を用いて、前記被削材を平面加工する方法であって、
前記フライス工具を、その中心軸が前記被削材に対する送り方向に対して前傾するとともに、前記少なくとも一つの刃部の前記副切れ刃と送り平面との切削作用時に成す角度が、半径方向外側に向けた仰角となる角度を維持するように傾斜させて、前記被削材を平面加工するようにした加工方法に係る。
この加工方法によれば、加工時に、少なくとも一つの刃部の副切れ刃と送り平面との切削作用時に成す角度が、半径方向外側に向けた仰角となる角度に維持されるので、上述したように、副切れ刃によって切削される被削材の加工面は、従来のように、フライス工具の切削速度を通常以上に高めるまでもなく、その表層部分に塑性流動を生じ、仮に、加工面上に凹み部分がある場合には、その凹み部分が前記塑性流動によって埋められ、平坦化される。斯くして、鋳鉄のように、黒鉛の脱落によって加工面に凹みが生じ易い被削材でも、研削加工と同等の表面精度を有する加工面を得ることができ、研削加工に比べて、効率良く、所望の表面精度を有する加工面を得ることができる。
また、従来のように高い切削速度に設定する必要はなく、通常の切削速度で高精度な表面精度を得ることができるので、フライス工具の刃部に過大な負荷をかける必要が無く、工具の短寿命化を避けることができるとともに、加工コストの上昇を回避することができる。また、工具が欠損するリスクも従来に比べて低いので、工具の欠損によって、被削材が不良品になるという問題も回避することができる。
尚、この加工方法においても、塑性流動によって良好な表面精度を得るには、フライス工具は、その少なくとも一つの刃部の副切れ刃と送り平面との切削作用時に成す角度が、0.025度以上0.11度以下の範囲内となるように設定されるのが好ましい。
尚、本発明に係るフライス工具は上記特徴を備えていればよく、具現化される具体的な態様としては、例えば、正面フライス工具、サイドカッター、エンドミルなどが含まれる。
以上のように、本発明によれば、切削時において、副切れ刃は、その切れ刃角が半径方向外側に向けた仰角となる角度に設定されるので、副切れ刃によって切削される被削材の加工面は、従来のように、フライス工具の切削速度を通常以上に高めるまでもなく、その表層部分に塑性流動を生じ、鋳鉄のように、黒鉛の脱落によって加工面に凹みが生じ易い被削材でも、研削加工と同等の表面精度を有する加工面を得ることができ、研削加工に比べて、効率良く、所望の表面精度を有する加工面を得ることができる。
また、従来のように高い切削速度に設定する必要はなく、通常の切削速度で高精度な表面精度を得ることができるので、フライス工具の刃部に過大な負荷をかける必要が無く、工具の短寿命化を避けることができるとともに、加工コストの上昇を回避することができる。また、工具が欠損するリスクも従来に比べて低いので、工具の欠損によって、被削材が不良品になるという問題も回避することができる。
本発明の一実施形態に係る正面フライス工具を一部断面で示した正面図である。 図1におけるA部を拡大して示した拡大図である。 本実施形態に係る正面フライス工具を用いた平面加工の作用を説明するための説明図である。 実験例に係るベッド摺動面の写真である。 実験例に係るベッド摺動面の顕微鏡写真である。 実験例に係るベッド摺動面の表面粗さの測定結果を示したグラフである。 比較例に係る正面フライス工具の態様を説明するための説明図である。 比較例に係るベッド摺動面の写真である。 比較例に係るベッド摺動面の顕微鏡写真である。 比較例に係るベッド摺動面の表面粗さの測定結果を示したグラフである。 本発明の他の実施形態に係る特殊フライス工具を示した斜視図である。 図11に示した他の実施形態に係る特殊フライス工具の正断面図である。 (a)は図12におけるD部を矢示E方向から視た拡大図であり、(b)は図12におけるG部を矢示H方向から視た拡大図である。 本発明の更に他の実施形態に係る加工法を説明するための説明図である。
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る正面フライス工具を一部断面で示した正面図、図2は、図1におけるA部を拡大して示した拡大図である。
図1に示すように、本例の正面フライス工具1は、概略形状が円筒状(若しくは円盤状)をした工具本体2と、この工具本体2の下端外周部に、周方向に等間隔で設けられた複数(本例では4つ)の刃部10とから構成される。
前記工具本体2は、その中心部に、上端面に開口する取付穴3を備えており、この取付穴3に図示しない適宜工具ホルダの軸部が挿入されて、当該工具ホルダに保持される。尚、符号4は、前記工具ホルダに設けられたキーと係合するキー溝である。また、工具本体2の下面には、凹形状をした逃げ部5が形成されている。
前記刃部10は、矩形をした所謂インサートであり、取付金具6,7によって前記工具本体2に固定される。この刃部10は、外周部に切れ刃を有し、4つのコーナ部がそれぞれ下端に位置したとき、図2に示すように、径方向外側の長辺部が主切れ刃11として機能し、コーナー部を構成する短辺が副切れ刃12として機能する。
前記主切れ刃11は、加工平面Csに対する角度である切れ刃角θaを有し、副切れ刃12も同様に、加工平面Csに対する角度である切れ刃角θbを有する。そして、本例では、副切れ刃12の切れ刃角θbを、半径方向外側に向けた仰角となる角度に設定しており、当該切れ刃角θbは、0.025度以上0.11度以下の範囲であるのが好ましい。また、副切れ刃12の長さLは、2mm以上4mm以下の範囲であるのが好ましい。尚、前記主切れ刃11の切れ刃角θaは、特に限定されるものではないが、前記副切れ刃12の切れ刃角θbの条件が確保されることや、インサートの形状、必要な切り込み深さなどの諸条件によって決定され、本例では約45度に設定されている。
また、刃部10は、工具本体2に固定された状態で、図1に示すように、その回転方向に向いた面(正面)が回転方向に対して後傾し、垂直面に対してすくい角θcが設定されている。また、刃部10の側面は、前記正面に対する角度が鋭角になっており、加工面(加工平面Csを含む)に対して逃げ角θdが設定されている。
以上の構成を備えた本例の正面フライス工具1によれば、以下のようにして、被削材が平面加工される。尚、正面フライス工具1は、適宜立形のマシニングセンタの主軸に装着され、テーブル上に被削材であるワークが固定されているものとする。
まず、正面フライス工具1を切削作用方向に回転させるとともに、当該正面フライス工具1を、ワークに対して、正面フライス工具1の副切れ刃12の下端位置とワーク上面との距離が所定の切り込み深さとなり、且つ当該正面フライス工具1とワークとが干渉しない位置に位置決めし、ついで、正面フライス工具1とワークとを、正面フライス工具1の中心軸と直交する所定の送り方向(例えば、矢示F方向)に相対的に移動させて、当該ワークを平面加工する。
上述したように、本例の正面フライス工具1は、その刃部10が、ワークを切削する作用を成す主切れ刃11及び副切れ刃12を有し、主切れ刃11は、副切れ刃12より半径方向外側に位置している。したがって、正面フライス工具1とワークとを、前記送り方向に相対移動させると、一つの刃部10に設定される送り量に相当するワークの部分が、主切れ刃11及び副切れ刃12によって加工される。この様子を図3に示す。図3において、符号Wはワークである。また、実線で示した刃部10はワークWを現在加工している刃部であり、2点鎖線で示した刃部10’はワークWを次に加工する刃部である。
図3に示すように、主切れ刃11は、主に、切り込み深さCdと、前記送り方向に沿った、1刃当たりの送り量に相当する厚みTaとで確定される領域を切削する。一方、副切れ刃12は、その切れ刃角θbが半径方向外側に向けた仰角となる角度に設定されているので、加工平面Csに僅かに設定される、送り量と自身の切れ刃角θbに応じた領域(実線で示す副切れ刃12、2点鎖線で示す副切れ刃12’、及び平行な2本の破線で囲まれる領域Tb)を切削する。
その際、副切れ刃12’が切削する領域Tbは極僅かであるので、副切れ刃12’によって切削されるワークWの加工平面Csは、従来のように、正面フライス工具の切削速度を通常以上に高めるまでもなく、その表層部分に塑性流動を生じ、仮に、加工平面Cs上に凹み部分がある場合には、その凹み部分が前記塑性流動によって埋められ、平坦化される。
したがって、本例の正面フライス工具1を用いて被削材を平面加工する場合には、鋳鉄のように、黒鉛の脱落によって加工面に凹みが生じ易い被削材でも、研削加工と同等の表面精度を有する加工面を得ることができ、研削加工に比べて、効率良く、所望の表面精度を有する加工面を得ることができる。
また、従来のように高い切削速度に設定する必要はなく、通常の切削速度で高精度な表面精度を得ることができるので、正面フライス工具1の刃部10に過大な負荷をかける必要が無く、工具の短寿命化を避けることができるとともに、加工コストの上昇を回避することができる。また、工具が欠損するリスクも従来に比べて低いので、工具の欠損によって、被削材が不良品になるという問題も回避することができる。
尚、塑性流動によって良好な表面精度を得るには、上述したように、前記副切れ刃12の前記切れ刃角θbを、0.025度以上0.11度以下の範囲内とするのが好ましく、前記副切れ刃12の長さを2mm以上4mm以下の範囲内とするのが好ましい。
副切れ刃12の切れ刃角θbが0.025度より小さい場合には、副切れ刃12による切削領域Tbがあまりにも小さすぎるため、良好な塑性流動が得られず、一方、副切れ刃12の切れ刃角θbが0.11度より大きい場合には、逆に、副切れ刃12による切削領域Tbが大きくなりすぎて良好な塑性流動が得られず、いずれの場合も、良好な加工面精度が得られ難いからである。尚、副切れ刃12の切れ刃角θbが0.11度より大きい場合には、切削抵抗が大きくなって、却って加工面が荒れるという一面もある。
また、副切れ刃12の長さLが2mmよりも短いと良好な塑性流動が得られず、4mmより長いと、切削抵抗が大きくなって、却って加工面が荒れるからである。
次に、本例の正面フライス工具を用いた平面加工の実験例と、その比較例について説明する。尚、この実験例及び比較例では、加工のための工作機械として立形マシニングセンタを用い、被削材を工作機械用のベッドとして、その摺動面を加工した。尚、ベッドはねずみ鋳鉄(FC300)で、加工面である摺動面には焼き入れが施され、その硬度は、Hs60〜75である。
1.実験例
実験例の正面フライス工具は、3つの刃部(インサート)10を有し、各刃部10をCBNのインサートとした。また、すくい角θcを10度、逃げ角θdを5度、主切れ刃11の切れ刃角θaを45度、副切れ刃12の切れ刃角θbを0.03度、副切れ刃12の長さLを4mmとした。また、切削速度は400〜500m/min、切り込み深さは0.02mm、1刃当たりの送り量は0.05mm/刃とした。
2.比較例
比較例の正面フライス工具は、図7に示すように、すくい角θcを8度、逃げ角θdを7度、副切れ刃12の切れ刃角θbを0度とした他は、上記実験例と同じ諸元とした。切削速度、切り込み深さ、及び1刃当たりの送り量についても、実験例と同じとした。
実験例によるベッド摺動面の写真を図4に示し、その顕微鏡写真を図5に示し、当該摺動面を表面粗さ計で測定した結果を図6に示す。また、比較例によるベッド摺動面の写真を図8に示し、その顕微鏡写真を図9に示し、当該摺動面を表面粗さ計で測定した結果を図10に示す。
実験例によるベッド摺動面は、図4から分かるように極めて滑らかであり、また、図5に示すように、表面には、黒鉛の脱落による凹部が殆ど存在していない。したがって、図6に示すように、その表面粗さは、Ra0.2〜0.3と極めて高精度であり、表面のうねりも観察されない。
一方、比較例によるベッド摺動面は、図8から分かるように、白斑模様が目立ち、表面がざらついている。これは、図9に示すように、表面の黒鉛が脱落して凹部が無数に存在していることによるものであり(図9において、暗い島状の部分が凹部である。)、図10に示すように、その表面粗さは、Ra0.7以上と精度が低く、局所的に黒鉛の脱落による深い凹部が認められ、表面のうねりも観察される。
尚、実験例で凹部が見られないのは、主切れ刃11の切削作用により黒鉛が脱落して生じた凹部が、副切れ刃12の切削作用に伴う加工面表層の塑性流動により、周辺金属が埋め込まれたことによるものと思われる。つまり、表面の滑らかさに最も影響するのは副切れ刃の角度であると言える。
以上、本発明の具体的な一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例のものに限られるものではない。
例えば、上例では、本発明に係るフライス工具を、正面フライス工具として具現化したが、これに限られるものではなく、サイドカッターやエンドミルなどとして具現化することができ、更には、図11〜図13に示すような特殊なフライス工具として具現化することもできる。この特殊フライス工具20は、図11及び図12に示すように、小径の軸部22及び大径の円盤部23からなる工具本体21と、円盤部23の下端外周部に、周方向に等間隔で設けられた複数(本例では3つ)の刃部24、並びに当該円盤部23の上端外周部に、周方向に等間隔で設けられた複数(本例では3つ)の刃部28とから構成される。尚、この特殊フライス工具20では、矢示B方向に回転した状態で、前記刃部24によってワークの表面を加工することができ、矢示C方向に回転した状態で、前記刃部28によってワークの裏面を加工することができる。
図13(a)は、図12におけるD部を矢示E方向から視た拡大図であるが、同図13(a)に示すように、前記刃部24は主切れ刃25,副切れ刃26を有する。また、図(b)は図12におけるG部を矢示H方向から視た拡大図であるが、この図13(b)に示すように、前記刃部28は主切れ刃29,副切れ刃30を有する。尚、符号27及び31は、それぞれ逃げ部である。
前記主切れ刃25,29の切れ刃角θaはそれぞれ略45度であり、副切れ刃26,30の切れ刃角θb(加工平面Csに対する角度)は、半径方向外側に向けた仰角となる角度で、0.025度以上0.11度以下の範囲内となるように設定されている。
この特殊フライス工具20によっても、副切れ刃26,30の切れ刃角θbが0.025度以上0.11度以下の範囲内に設定されるので、上述した正面フライス工具1と同様の効果が奏される。
尚、前記刃部24,28の個数は各3個に限定されるものではなく、複数個であれば、幾つであっても良い。
また、上例では、正面フライス工具1を、その中心軸と加工面とが直交する姿勢にして平面加工を行うようにしたが、これに限られるものではなく、正面フライス工具1の中心軸を、送り方向に前傾させた状態で加工するようにしても良い。この場合、刃部10の副切れ刃12と送り平面(加工平面Csに同じ)との成す角度が、半径方向外側に向けた仰角となる角度に維持されるようにする。
即ち、送り平面(加工平面Cs)の法線と正面フライス工具1の中心軸がなす角度をθeとすると、副切れ刃12と送り平面(加工平面Cs)の成す角度θfは、次式となり、
θf=θb−θe
このθfが正の値をとるように、即ち、θf>0となるように、副切れ刃12の切れ刃角θbと、傾斜角θeの値を設定する。
尚、この場合も、角度θfは0.025度以上0.11度以下の範囲内であるのが好ましいので、副切れ刃12の切れ刃角θbと、傾斜角θeの値は、以下の関係を満足するように設定されるのが好ましい。
0.025<θf=θb−θe<0.11
このような加工法によっても、上例と同様の効果が奏される。
また、上記の正面フライス工具1及び特殊フライス工具20において、その刃部10,24,28は、その全てが上記構成の副切れ刃12,26,30を備えている必要はなく、少なくとも一つの刃部10,24,28が、上記構成の副切れ刃12,26,30を備えていれば良い。
1 正面フライス工具
2 工具本体
10 刃部
11 主切れ刃
12 副切れ刃
Cs 加工平面
θa (主切れ刃の)切れ刃角
θb (副切れ刃の)切れ刃角
θc すくい角
θd 逃げ角

Claims (3)

  1. 概略形状が円筒状又は円盤状をした工具本体と、少なくとも、該工具本体の一方端部の外周部に、周方向に予め定められた間隔で設けられた複数の刃部とから構成されるフライス工具であって、
    少なくとも一つの前記刃部は、被削材を切削する作用を成す主切れ刃及び副切れ刃を有し、該主切れ刃は、前記副切れ刃より半径方向外側に位置し、前記副切れ刃は、前記工具本体の中心軸と直交する平面に対する切れ刃角が、半径方向外側に向けた仰角となる角度を有し、
    前記副切れ刃は、その長さが2mm以上4mm以下の範囲内にあり、且つ前記切れ刃角は0.025度以上0.11度以下の範囲内にあり、
    更に、前記副切れ刃に接続する半径方向内側の部位は前記被削材と接しないように半径方向内側に向けた仰角となる角度を有していることを特徴とするフライス工具。
  2. 前記請求項1記載のフライス工具を用いて、被削材を平面加工するようにしたことを特徴とするフライス工具を用いた加工方法。
  3. 記フライス工具を、その中心軸が前記被削材に対する送り方向に対して前傾するとともに、前記少なくとも一つの刃部の前記副切れ刃と送り平面との切削作用時に成す角度が、半径方向外側に向けた仰角となる角度を維持し、且つ該副切れ刃と送り平面との切削作用時に成す角度が、0.025度以上0.11度以下の範囲内の角度となるように傾斜させて、前記被削材を平面加工するようにしたことを特徴とする請求項2記載のフライス工具を用いた加工方法。
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