JP6433527B2 - 消散性フラックスおよびそれを用いた保護素子の製造方法 - Google Patents

消散性フラックスおよびそれを用いた保護素子の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、消散性フラックスおよびそれを用いた保護素子の製造方法に関する。
近年、モバイル機器など小型電子機器の急速な普及に伴い、搭載する電源の保護回路に実装される保護素子も小型薄型のものが使用されている。例えば、二次電池パックの保護回路には、表面実装形態の保護素子が好適に利用される。これらの保護素子には、被保護機器の過電流により生ずる過大発熱や過電圧などの異常状態を検知し、または周囲温度の異常過熱に感応して、所定条件でヒューズを作動させ電気回路を遮断する非復帰型保護素子がある。該保護素子は、機器の安全を図るために、保護回路が機器に生ずる異常を検知すると信号電流により抵抗素子を発熱させ、その発熱で可融性の合金材からなるヒューズエレメントを溶断させて回路を遮断するか、あるいは過電流によってヒューズエレメントを溶断させて回路を遮断できる。例えば、特許文献1および特許文献2に記載されるように、異常時に発熱する抵抗素子をセラミックス基板などの絶縁基板上に設けた保護素子がある。
これら保護素子は、製品出荷後、顧客におけるリフロー実装などの二次はんだ付けで溶断してしまわないように、ヒューズエレメントに高温はんだ材などの溶融温度の高い可溶合金が用いられている。しかし、このヒューズエレメント自体も保護素子の製造工程でリフローはんだ付けにより絶縁基板のパターン電極と接合して組み立てられている。このため、従来は保護素子を製造するリフロー工程においてもヒューズエレメントが、溶融しないように、専らヒューズエレメントの固相温度以下のリフロー温度で、ヒューズエレメントより低い溶融温度のソルダペーストを用いてヒューズエレメントとパターン電極を接合する必要があった。ソルダペーストを使用しない場合も、特許文献2のように、ヒューズエレメント本体の高温はんだ製高融点ベース材に低融点はんだ層を積層して、この低融点はんだ層を溶融してパターン電極と接合していた。従って、従来の保護素子は、ヒューズエレメントと絶縁基板のパターン電極の間に低融点はんだ層を介して接合されていた。
特開平07−153367号公報 特開2013−239405号公報
ところが、特に極小型の保護素子の場合において、ヒューズエレメントの高温はんだ材をパターン電極に接合するため使われる低融点はんだ材の影響が無視できなく成ってきた。ヒューズエレメント中に低融点成分が増えると溶断温度の変動が大きくなり、動作精度に悪影響を及ぼすので保護素子にとって好ましくない。さらに、従来のリフロー接合では、ロジン等の固形成分を含有する有機フラックスを用いるため、軽薄短小化で、より軽量となったヒューズエレメントと絶縁基板のパターン電極との接合界面にフラックス成分が排出されずに残りやすく、これがボイドの原因となり内部抵抗や接合強度にばらつきが生じることがあった。また、フラックス残渣を有するためリフロー工程の後処理に洗浄工程が必須となるなど欠点があった。ヒューズエレメントの接合に用いられていた従来の液状フラックスは、低残渣となるように溶剤比を調整してロジン等の固形成分を低減しても微量残留し、パターン電極の周囲を汚染する。さらに、従来フラックスは、難揮発性の有機酸や高沸点アミン類などの活性剤成分を含有するため、これをパターン電極や絶縁基板に付着したまま放置すると、Ag焼結体のパターン電極間にイオンマイグレーションが発生し絶縁不良の原因となる。
本発明は、上述の問題点を解消するために提案されたものであり、電気・電子回路の保護素子において、所定のヒューズエレメントを用いて、このヒューズエレメントとパターン電極との接合界面に低融点金属を有さないことを特徴とする保護素子を提供すること、およびその製造方法であって、溶断温度や動作精度に悪影響を及ぼす低融点合金層をヒューズエレメントに形成することなく、かつボイドの原因となるフラックス残渣を残さず洗浄工程を必要としない保護素子の製造方法、ならびに保護素子用消散性フラックスを提供することを目的とする。
本発明によると、絶縁基板と、該絶縁基板に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続した所定のヒューズエレメントを備え、ヒューズエレメントは、可溶性の高融点金属材からなり、パターン電極との接合界面に高融点金属材の溶融温度未満の溶融温度を有する低融点金属材およびこの低融点金属材に由来する低融点合金層を有さないことを特徴とする保護素子が提供される。このヒューズエレメントの高融点金属材と所定のパターン電極とは、間に別の金属材料を介さず直接相互拡散して接合される。従って、ヒューズエレメントとパターン電極の接合界面に、溶断温度や動作精度に悪影響を及ぼす低融点金属材や低融点合金層が介在しないので、保護素子の溶断温度や動作精度および内部抵抗値を安定化し、接合不良を低減して、保護素子が所望温度以下で誤動作するのを防止する。ヒューズエレメントは、特に固相線温度と液相線温度との温度差が5℃以上100℃未満の可溶性の合金材を用いるのが好ましい。本発明に係る保護素子は、必要に応じてヒューズエレメントを加熱し強制的に溶断できるように絶縁基板に抵抗発熱素子を設けてもよい。
本発明の別の観点によると、絶縁基板と、該絶縁基板に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続したヒューズエレメントとを備えた保護素子の製造方法において、ヒューズエレメントとパターン電極との電気接続は、絶縁基板を用意する準備工程、消散性フラックスを絶縁基板またはヒューズエレメントに塗布する接合フラックス塗布工程、ヒューズエレメントを絶縁基板の所定のパターン電極上に搭載するマウント工程、ヒューズエレメントを搭載した絶縁基板を還元性ガス雰囲気下に調整した還元性リフロー炉に通炉してヒューズエレメントとパターン電極とを接合するリフロー工程からなることを特徴とする保護素子の製造方法が提供される。
本発明に係る消散性フラックスは、接合が完了するまでヒューズエレメントの周囲を液相で覆い、高温で活性化した還元性ガス成分を溶解濃縮して適度な還元性を発揮する。この消散性フラックスは、接合が終わるとリフロー工程で完全に蒸発するためフラックス残渣が残らず、洗浄工程が不要となる利点がある。また、活性剤成分を残さないので金属材を腐食する心配もない。リフロー工程は、高温の還元性ガス雰囲気で、接合部周辺の実効温度がヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように炉温を調整する。リフロー工程の実効温度がヒューズエレメントに用いる高融点金属材の固相温度以下であると、ヒューズエレメントが全く溶融しないため、接合が上手く行かず接合強度や電気抵抗値などが悪くなる。また、実効温度がヒューズエレメントの液相温度を越えたときには、ヒューズエレメントが完全に溶融状態となり、その表面張力により球状化してしまいヒューズエレメントの形状を保持できなくなるので、保護素子を組み立てることができない。また、還元性ガスの温度が300℃未満のときは還元性ガスの還元活性が比較的低く、還元性ガスの温度は300℃以上であることが好ましい。従って、特に好ましくは、少なくともリフロー工程におけるピーク温度は、雰囲気温度を還元性ガスが充分に活性化する300℃以上とし、かつ該還元性ガス雰囲気で加熱される接合部周辺の実効温度がヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように搬送速度や搬送個数、搬送治具等を調整するとよい。消散性フラックスを用いずに還元性ガスのみで接合を試みた場合は、ヒューズエレメント表面に存在する金属酸化物固体内への還元性ガスの拡散や還元生成物の排出などの物質移動が気相反応のため遅く、反応速度が極めて緩慢であり、接合完了まで長時間を要して実用的ではない。
本発明に係る保護素子は、ヒューズエレメントの高融点金属材と所定のパターン電極とは、間に別の金属材料を介さず直接相互拡散して接合される。ヒューズエレメントとパターン電極との接合界面に、溶断温度や動作精度に悪影響を及ぼす低融点金属材や低融点合金層が介在しないので、保護素子の溶断温度や動作精度および内部抵抗値を安定化し、接合不良を低減して、保護素子が所望温度以下で誤動作するのを防止する
本発明に係る保護素子の製造方法は、消散性フラックスによって作業温度で活性化した還元性ガスを溶解濃縮するとともに、消散性フラックスがヒューズエレメント表面の酸化物を溶解除去する媒質として働き、ヒューズエレメントとパターン電極の物質移動を円滑にして拡散接合反応を著しく促進する。この消散性フラックスは、活性媒質として一定時間働いた後はリフロー炉中で完全に蒸発して残渣を残さないため、洗浄工程を省略することができる。フラックスが消散した後は、還元性ガス雰囲気により保護素子の金属材料を高温酸化から保護することができる。
本発明に係る保護素子10であり、(a)は(b)のd−d線に沿って蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。 本発明に係る保護素子20であり、(a)は(b)のd−d線に沿って蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。 本発明に係る保護素子30であり、(a)は(b)のd−d線に沿って蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。 本発明に係る保護素子の製造工程のフロー図を示す。
本発明に係る保護素子10は、図1に示すように、絶縁基板11と、絶縁基板11の表面に設けた複数のパターン電極12と、このパターン電極12に電気接続した少なくとも1つのヒューズエレメント13と、このヒューズエレメント13の表面に塗布した動作フラックスと、動作フラックスとヒューズエレメント13の上部を覆った蓋体14とを備え、ヒューズエレメント13は、固相線温度250℃以上、液相線温度400℃未満の高融点金属材を使用して、これより溶融温度の低い他の金属材、例えば、低融点はんだ材などを介さずにヒューズエレメント13とパターン電極12とを直接接合したことを特徴とする。ヒューズエレメント13に用いる高融点金属材は、特に限定されないが94.5Pb−5.5Ag(固相線304℃、液相線365℃)、95Pb−5Sn(固相線300℃、液相線314℃)、90Pb−8Sn−2Ag(固相線290℃、液相線320℃)、86Pb−14Sn(固相線255℃、液相線289℃)、85.5Pb−14.5Sn(固相線251℃、液相線288℃)などの高温はんだ材が好適に利用できる。この保護素子の絶縁基板11は、耐熱性の絶縁基板、例えば、ガラスエポキシ基板、BT(Bismaleimide Triazine)基板、テフロン(登録商標)基板、セラミックス基板、ガラス基板などからなり、絶縁基板11の片面に必要に応じて抵抗発熱素子を設けてもよい。該抵抗発熱素子は必要に応じて絶縁コーティングを施す。なお、抵抗発熱素子を設けない場合は、図2または図3のヒューズエレメント23、33に接続されるパターン電極22、32のうち中央の電極を省略してもよい。動作フラックスは、ヒューズエレメント13を絶縁基板11に接合した後、この上に塗布される固形状または半固形ペースト状のコーティングフラックスで、保護素子のヒューズ動作を保証するために適用される。従って、接合用の消散性フラックスとは別種のものである。蓋体14は、絶縁基板11およびヒューズエレメント13の上部を覆って所望のキャビティ空間を確保できればよく、形状、材質を制限するものではない。例えば、蓋体14には、ドーム状樹脂フイルム材、プラスチック材、セラミックス材などが好適に利用できる。本発明の保護素子において、絶縁基板上下面のパターン電極を電気接続する配線手段は、一例として絶縁基板を貫通した導体スルーホールや、導体スルーホールを半分にブレイクして端面に形成したハーフ・スルーホール、または平面電極パターンによる表面配線が利用できる。
本発明に係る保護素子の製造方法は、図4の製造工程フローに示すように、絶縁基板と、該絶縁基板に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続した高融点金属材のヒューズエレメントとを備えた保護素子の製造方法において、ヒューズエレメントのパターン電極への電気接続は、絶縁基板を用意する基板準備工程41、消散性フラックスを絶縁基板またはヒューズエレメントに塗布するフラックス塗布工程42と、ヒューズエレメントを絶縁基板の所定のパターン電極上に搭載する合金マウント工程43、ヒューズエレメントを搭載した絶縁基板を、還元性ガス雰囲気または還元性ガスと不活性ガスとの混合雰囲気に調整した還元性リフロー炉に通炉してヒューズエレメントとパターン電極とを接合するリフロー工程44からなることを特徴とする保護素子の製造方法が提供される。リフロー工程44の後、絶縁基板に搭載されたヒューズエレメントに動作フラックスを塗布する動作フラックス塗布工程45、動作フラックス被膜とヒューズエレメントを被覆するキャップを絶縁基板に被せるキャップ搭載工程46、このキャップと絶縁基板とを接着するため硬化性樹脂を塗布する樹脂塗布工程47、塗布した硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程48などを経て、本発明の保護素子は製造される。
例えば、アルミナ製の絶縁基板と、該絶縁基板に設けた複数のAg、Ag−Pt合金などのパターン電極と、このパターン電極に電気接続した高融点金属材のヒューズエレメントとを備えた保護素子の製造方法であって、ヒューズエレメントのパターン電極への電気接続は、絶縁基板を用意する基板準備工程41、本発明の消散性フラックスを絶縁基板またはヒューズエレメントに塗布するフラックス塗布工程42と、ヒューズエレメントを絶縁基板の所定のパターン電極上に搭載する合金マウント工程43、ヒューズエレメントを搭載した絶縁基板を、水素ガス濃度を74%以上に調整した水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスとの混合ガスからなる還元性ガス雰囲気で、実効温度(接合部周辺温度)がヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように温度調整した還元性リフロー炉に通炉してヒューズエレメントとパターン電極とを接合するリフロー工程44からなり、リフロー工程44の後、絶縁基板に搭載されたヒューズエレメントに動作フラックスを塗布する動作フラックス塗布工程45、動作フラックス塗布膜とヒューズエレメントを被覆するキャップを絶縁基板に被せるキャップ搭載工程46、このキャップと絶縁基板とを接着するため光硬化性樹脂を塗布する樹脂塗布工程47、塗布した樹脂に紫外線を照射してUV硬化させる樹脂硬化工程48を経て保護素子は製造される。なお、樹脂塗布工程47に適用される樹脂は、接着性を有する硬化性樹脂であればよく、例えば、光硬化性樹脂に替えてエポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂等に代替できる。熱硬化性樹脂は、樹脂硬化工程48で常温または加熱して硬化させる。樹脂硬化温度の上限はヒューズエレメントを含む構成部材に悪影響を及ぼさない温度に設定する。
本発明に係る保護素子の製造に用いる還元性ガスは水素ガスからなり、不活性ガスは窒素ガスまたは希ガスからなる。還元性リフロー炉は、還元性ガス雰囲気で接合部周辺の実効温度がヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように炉温調整される。特に好ましくは、炉の還元性ガス雰囲気温度、例えば、還元性ガスの循風温度(少なくともリフローのピーク温度)を、還元性ガスが充分に活性化する300℃以上とするのがよい。消散性フラックスは、該作業温度で活性化した還元性ガスを溶解濃縮するとともに、ヒューズエレメント表面の酸化物も溶解除去する媒質として働き、ヒューズエレメントとパターン電極の物質移動を円滑にして拡散接合反応を著しく促進する。同時に消散性フラックスは、フラックス液体が接合部位を濡らし覆っている間、周囲から水素結合の開離にともなう蒸発熱を吸収してヒューズエレメントが過熱されないようにする。この消散性フラックスは、活性媒質として一定時間働いた後はリフロー炉中で完全に蒸発して残渣を残さないため、洗浄工程を省略することができる。フラックスが消散した後は、還元性ガス雰囲気により保護素子の金属材料を高温酸化から保護する。
本発明に係る保護素子の製造に用いる消散性フラックスは、炭素数2以上のポリオール(多価アルコールともいう)または少なくとも水酸基を2個以上残したポリオールの部分アルコールエーテル誘導体、部分カルボン酸エステル誘導体、部分フェニルエーテル誘導体を有効成分とする。これら有効成分は、沸点が140〜240℃のものが好適である。例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール類、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、グリセリン、ペンタエリスリトールまたはそのモノないしジアルコールエーテル類、トリメチロールプロパン、ジメチルペンタンジオール類などが好適である。これに蒸発調整や希釈などの目的で増量剤を必要に応じて添加してもよい。この増量剤は、沸点が240℃以下のモノないしポリアルキレングリコールのアルキルエーテルまたはモノないしポリアルキレングリコールのフェニルエーテルまたはモノないしポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルまたは高級アルコールまたはテルペン系アルコール類およびその誘導体を利用できる。増量剤の添加量は0〜80質量%の添加量が好ましい。この消散性フラックスを使用しないで、高温還元性ガスのみを用いて接合を試みた場合は、ヒューズエレメントやパターン電極のバルク表面に存在する酸化物層を気相の接触還元のみで除去して行くので、接合時間が数時間から数十時間を要し、極めて効率が悪く工業的な利用が難しい。
本発明の消散性フラックスは、高温の水素リフロー条件下で活性水素と反応して適度な還元性を発揮する。詳細な活性化の機構は未だ不明であるが、高温でプロトンとヒドリドと平衡状態になった水素ガスのプロトンが、有効成分のポリオール類および増量剤のアルコール性水酸基と反応して還元性のアルキルオキソニウムイオンになり、残った還元性のヒドリドもポリオール媒質中に溶解して濃縮され、ヒューズエレメントの表面に存在する金属酸化物を触媒的に反応除去するためと考えられる。ポリオール(多価アルコール)類は金属表面に吸着した水分子や雰囲気中の水蒸気を水素結合クラスター中に溶解吸収して取り除くため、水素リフローで有害とされる水分を除去する乾燥剤としても機能する。この消散性フラックスは、実効温度がヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように調整したリフロー炉で、高融点金属材からなるヒューズエレメントを完全に溶融させることなく、活性水素ガス成分を消散性フラックスのポリオール液相中に効率よく濃縮してヒューズエレメントとパターン電極の表面にある酸化被膜を触媒的に還元させて取り除くことができ、しかも本発明の消散性フラックスは、リフロー工程44で完全に蒸発するためフラックス残渣が生じず洗浄の必要がない。還元性ガス雰囲気で加熱される接合部周辺の実効温度が、ヒューズエレメントに用いる高融点金属材(例えば、Pb85質量%、残部Sn合金などのPbを85質量%以上含有した高温はんだ材等)の固相温度以下であると、ヒューズエレメントが全く溶融しないため、接合が上手く行かず接合強度や電気抵抗値などが悪くなる。実効温度がヒューズエレメントを構成する高融点金属材の液相温度を越えたときには、ヒューズエレメントが完全に溶融状態となり、その表面張力により球状化してしまいヒューズエレメントの形状を保持できなくなるので、保護素子を組み立てることができない。また、リフロー・ピーク温度が300℃未満のときは、水素ガスの活性化が不充分であるため、消散性フラックス成分と活性水素との反応成分が充分に生成しないので、接合させる金属材料の酸化被膜に対する還元作用が緩慢となる。一方、高温の活性水素単体にも還元性が有るが、消散性フラックスを使わずに水素ガスのみで固相の金属酸化物と反応させた場合は、媒体となるフラックス液体が介在しないため、オキソニウムイオンのようにキレート配位によって金属酸化物を素早く媒質のポリオール中に溶解除去することができず、ガス単体に触媒的な効果もないので接合速度が極めて緩慢となる。
本発明の消散性フラックスは、有効成分である高沸点ポリオールのみで構成されるが、これに必要に応じてエチレングリコールモノフェニルエーテルなどのアルキレングリコールハーフエステル類やα−ターピネオールなどのテルペン系アルコールを含めた広義の高級アルコール類を増量剤としてさらに添加してもよい。増量剤の多価アルコールアルキル誘導体や高級アルコール類は、高沸点ポリオール分子間の水素結合クラスターを適度に切断するので、消散性フラックスの蒸発乾燥を促進し、フラックス液相の滞留時間を調整し作業性を向上させる働きをする。
本発明に係る実施例1の保護素子10は、図1に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板11と、絶縁基板11の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極12と、絶縁基板11の上面のパターン電極12に電気接続したヒューズエレメント13と、図示しないがヒューズエレメント13の表面に塗布した動作フラックスと、ヒューズエレメント13の上部を覆って絶縁基板11に固着した液晶ポリマー製の蓋体14とを備え、ヒューズエレメント13は、86Pb−14Sn(固相線255℃、液相線289℃)の高温はんだからなり、これより溶融温度が低い他のはんだ材を介さずに、所定のパターン電極12と直接接合した。
本発明に係る実施例2の保護素子20は、図2に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板21と、この絶縁基板21の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極22と、パターン電極22と電気接続され絶縁基板21の下面に設けた抵抗発熱素子25と、絶縁基板21の上面のパターン電極22に電気接続したヒューズエレメント23と、ヒューズエレメント23の表面に塗布した動作フラックス(図示せず)と、ヒューズエレメント23の上部を覆って絶縁基板21に固着した液晶ポリマー製の蓋体24とを備え、ヒューズエレメント23は、85.5Pb−14.5Sn(固相線251℃、液相線288℃)の高温はんだからなり、これより溶融温度が低い他のはんだ材を介さずに、所定のパターン電極22と直接接合した。パターン電極22は、基板上下面のパターン電極22を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール26を有する。特に図示しないが、抵抗発熱素子25の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。
本発明に係る実施例3の保護素子30は、保護素子20を変形したものである。図3に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板31と、絶縁基板31の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極32と、パターン電極32と電気接続され絶縁基板31の上面に設けた抵抗発熱素子35と、抵抗発熱素子35に当接して絶縁基板31の上面のパターン電極32に電気接続したヒューズエレメント33と、ヒューズエレメント33の表面に塗布した動作フラックス(図示せず)と、ヒューズエレメント33の上部を覆って絶縁基板31に固着した液晶ポリマー製の蓋体34とを備え、ヒューズエレメント33は、95Pb−5Sn(固相線300℃、液相線314℃)の高温はんだからなり、これより溶融温度が低い他のはんだ材を介さずに、所定のパターン電極32と直接接合した。パターン電極32は、基板上下面のパターン電極32を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール36を有する。特に図示しないが、抵抗発熱素子35の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。
実施例1ないし実施例3の保護素子は、図4のフロー図に示す本発明の保護素子の製造方法によって組み立てられる。すなわち、複数のAgパターン電極に適宜発熱抵抗素子を設けた絶縁基板を用意する基板準備工程41、トリメチロールプロパン80質量%、残部が2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールからなる消散性フラックス1を絶縁基板に塗布するフラックス塗布工程42と、ヒューズエレメントを絶縁基板の所定のパターン電極上に搭載する合金マウント工程43、ヒューズエレメントを搭載した絶縁基板を、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス雰囲気下で水素ガス濃度75%に調整した全長4mの還元性リフロー炉を用いて、炉温310℃の第1予熱ゾーン、炉温315℃の第2予熱ゾーン、炉温395℃の本加熱ゾーン、温度295℃の冷却ゾーンを45分間かけ通炉させてヒューズエレメントとパターン電極とを接合するリフロー工程44からなる。リフロー工程44の後、絶縁基板に搭載されたヒューズエレメントに動作フラックスを塗布する動作フラックス塗布工程45、動作フラックス塗布膜とヒューズエレメントを被覆するキャップを絶縁基板に被せるキャップ搭載工程46、このキャップと絶縁基板とを接着するため光硬化性樹脂を塗布する樹脂塗布工程47、塗布した樹脂に紫外線を照射してUV硬化させる樹脂硬化工程48を経て保護素子は製造される。
比較例1は、消散性フラックスを用いずに他の条件を実施例1と同一にした保護素子の作製を試みた。すなわち、比較例1は、実施例1と同一の還元性ガス雰囲気下で同一作業温度に調整した同じリフロー炉を通炉させ、消散性フラックスを用いずに還元性ガス雰囲気のみで絶縁基板11のパターン電極12とヒューズエレメント13との接合を試みたものである。
比較例2は、従来の活性化フラックスの一例として、溶剤のエチレングリコールモノブチルエーテル85質量%、活性剤のトリエタノールアミン13質量%、残部が活性剤のジグリコール酸からなるはんだ付け用活性化フラックスを用いて、実施例1とリフロー条件を同一にして保護素子の作製を試みた。すなわち、比較例2は、従来の活性化フラックスを用いて、実施例1と同一の還元性ガス雰囲気下で同一作業温度に調整した同じリフロー炉を通炉させ、絶縁基板11のパターン電極12とヒューズエレメント13との接合を試みたものである。
実施例1ないし実施例3の保護素子と比較例1および比較例2の保護素子を各10個作製し、内部抵抗値、ヒューズエレメントの寸法安定性を比較した結果を表1に示す。
Figure 0006433527
実施例1から実施例3の内部抵抗値(ヒューズ抵抗値)は、ヒューズエレメント材の過剰溶融に伴う萎縮や変形を最小限に抑えて、ヒューズエレメントを溶断させることもなく寸法が一定に保持されるので電気抵抗値のバラツキを小さくでき、かつ接合部位の電気抵抗も低く極めて良好な接合状態であることを示している。一方、消散性フラックスを用いない比較例1では、ヒューズエレメント材の萎縮や溶断は見られなかったものの接合性が悪く、ヒューズエレメントとパターン電極との合金化が不充分な所謂いも付け接合となり電気抵抗値が高くなる。また、従来の活性化フラックスを用いて作成した比較例2は、フラックスの活性力が過剰となり、ヒューズエレメントが溶断したり、あるいは溶融に伴う合金寸法の萎縮や変形が著しく、内部抵抗値のバラツキが非常に大きくなる。
本発明に適用可能な消散性フラックスには、上述の消散性フラックス1の他、次に例示する消散性フラックス2ないし消散性フラックス5などの組成物も好適に利用できる。すなわち、消散性フラックス2は、エチレングリコール50質量%、残部が2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールからなる。消散性フラックス3は、グリセリン65質量%、残部が2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールからなる。消散性フラックス4は、トリメチロールプロパン35質量%、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール10質量%、残部が増量剤のα−テルピネオールからなる。消散性フラックス5は、グリセリン40質量%、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール15質量%、残部が増量剤のジエチレングリコールモノフェニルエーテルからなる。
本発明は電池パックなど2次電池の保護装置や電源回路の保護装置に適用できる。本発明の還元性ガスは、水素ガスに替えて極微量の蟻酸蒸気を用いても同様の効果が期待できる。
10、20、30・・・保護素子、
11、21、31・・・絶縁基板、
12、22、32・・・パターン電極、
13、23、33・・・ヒューズエレメント、
14、24、34・・・蓋体、
25、35・・・抵抗発熱素子、
16、26、36・・・ハーフ・スルーホール、
41・・・基板準備工程、
42・・・フラックス塗布工程、
43・・・合金マウント工程、
44・・・リフロー工程、
45・・・動作フラックス塗布工程、
46・・・キャップ搭載工程、
47・・・樹脂塗布工程、
48・・・樹脂硬化工程。

Claims (1)

  1. 絶縁基板と、前記絶縁基板に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続したPbを85質量%以上含有した高温はんだ材のヒューズエレメントとを備えた保護素子の製造方法において、前記ヒューズエレメントの前記パターン電極への電気接続は、前記絶縁基板を用意する基板準備工程、沸点が140〜240℃のエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール類、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体またはそのモノないしジアルコールエーテル類の群から選択された有効成分と、必要に応じて前記有効成分に、沸点が240℃以下のモノないしポリアルキレングリコールのアルキルエーテルまたはモノないしポリアルキレングリコールのフェニルエーテルまたはモノないしポリアルキレングリコールのカルボン酸エステル類の群から選択された増量剤をさらに添加してなる消散性フラックスを前記絶縁基板または前記ヒューズエレメントに塗布するフラックス塗布工程と、前記ヒューズエレメントを前記絶縁基板の所定の前記パターン電極上に搭載する合金マウント工程、前記ヒューズエレメントを搭載した前記絶縁基板を、水素ガスからなる還元性ガス雰囲気または前記還元性ガスと窒素ガスまたは希ガスからなる不活性ガスとの混合雰囲気に調整し、さらに実効温度をヒューズエレメントの固相温度以上、液相温度以下となるように調整した還元性リフロー炉に通炉して前記ヒューズエレメントと前記パターン電極とを接合するリフロー工程からなることを特徴とする保護素子の製造方法。
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