JP6427915B2 - ホイップドコンパウンドクリーム - Google Patents

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Description

本発明は、乳脂肪を含有する起泡性のコンパウンドクリームの製造に用いられる水中油型乳化油脂組成物及びそれを用いて製造される起泡性コンパウンドクリーム、更には該起泡性コンパウンドクリームをホイップしたホイップドコンパウンドクリームに関する。
生クリームの美味しさと生クリーム同等以上の物性を有するクリームとして、生クリーム等の乳脂を主原料とするクリームに合成クリームをブレンドした所謂コンパウンドクリームが知られている。例えば、油脂、乳蛋白質及び水を含む水中油型乳化物であって、(乳蛋白質/乳脂肪(重量比))の値が1未満の水中油型乳化物(P)と、油脂、乳蛋白質及び水を含む水中油型乳化物であって、(乳蛋白質/乳脂肪(重量比))の値が1以上の水中油型乳化物(Q)とを混合する起泡性水中油型乳化物の製造法が開示されている(特許文献1参照。)。一般に、コンパウンドクリームには、原液安定性を高く維持したり、UHT殺菌時に焦げを発生しにくくするために合成乳化剤やリン酸Na,ポリリン酸Na,クエン酸Naのような溶融塩が使用される。しかし、合成乳化剤を含む系では耐熱保型性が大幅に落ちてしまう。さらに、合成乳化剤の含量が多いと風味も悪くなるが、前記特許文献1に開示されている起泡性水中油型乳化物の実施例ではショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルなどの合成乳化剤が0.4重量%と比較的多く配合されている。また、溶融塩を含む系では、風味が悪くなるうえに、溶融塩はCaの摂取を阻害するため健康上好ましくない。
さらに近年は、低カロリー化や口当たりのライト化も望まれているが、そのために混合する生クリーム量、即ち乳脂の量を減らすと、耐熱保型性や耐離水性が低下する。これまで、コンパウンドクリームではないが、重合リン酸塩を用いずに、乳蛋白質の20〜60%がアルブミン態蛋白質であり、且つ該アルブミン態蛋白質の変性度が50%以下であり、生乳、脱脂乳、牛乳等と、レシチン及び合成乳化剤を含み、油分が10〜40%の起泡性水中油滴型乳化脂組成物(特許文献2)が開示されている。しかし、実施例ではレシチン含量が0.05〜0.105%と少なく、合成乳化剤含量が0.20〜0.21%と多いため、もし生クリームとブレンドしたとしても、ホイップした際の耐熱保型性、耐離水性が不充分と思われる。
特開2013−141423号公報 特開平7-194330号公報
本発明の目的は、合成乳化剤や溶融塩の含量が少なく、また、油脂含量が少ないにも関わらず、ホイップ後に優れた耐熱保型性、耐離水性、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を有する起泡性コンパウンドクリーム、および優れた耐熱保型性、耐離水性、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を有するホイップドコンパウンドクリームを提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、植物脂を油相の主原料とする水中油型乳化油脂組成物であって、合成乳化剤の含有量が少なく且つ溶融塩を含有しなくても、特定量の生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳又は全脂濃縮乳を含有し、さらに特定量の油脂及び無脂乳固形分、前記油脂及び無脂乳固形分の合計量に応じた特定量のレシチンを含有する水中油型乳化油脂組成物は、油脂総量が特定の範囲になるように特定の比率で生クリームと混合して起泡性コンパウンドクリームとすることで、該起泡性コンパウンドクリームからホイップして得られたホイップドコンパウンドクリームは、優れた耐熱保型性、耐離水性、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第一は、起泡性コンパウンドクリームの製造に用いられる水中油型乳化
油脂組成物であって、溶融塩は実質的に含まず、植物脂を油相中の油脂の主原料とし、水
中油型乳化油脂組成物全体中、合成乳化剤を0.13重量%未満しか含有せず、生乳、牛
乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳からなる群より選ばれる少なくとも1種を10〜7
0重量%含有してなり、油脂含量(X)、無脂乳固形分含量(Y)及びレシチン含量(Z
)が下記の通りであり、前記レシチンが大豆レシチンであることを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物に関する。
油脂含量(X)は20〜40重量%、無脂乳固形分含量(Y)は5〜25重量%であり
、且つ水中油型乳化油脂組成物全体中、前記油脂含量(X)と前記無脂乳固形分含量(Y
)の合計量は25〜50重量%であり、
レシチン含量(Z)は、油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計が35〜50
重量%の場合は0.12〜0.30重量%であり、
油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計が25重量%以上且つ35重量%未満
の場合は下記(式1)を満たす(単位は重量%)。
[−0.008×(X+Y)+0.4]≦(Z)≦0.30 (式1)
本発明の第二は、溶融塩は実質的に含まず、合成乳化剤含量が0.12重量%未満の起泡性コンパウンドクリームであって、上記記載の水中油型乳化油脂組成物と、乳脂を油相の主原料とする起泡性水中油型乳化油脂組成物との混合物からなり、水中油型乳化油脂組成物/起泡性水中油型乳化油脂組成物(重量比)が10/90〜90/10であり、且つ起泡性コンパウンドクリーム全体中、油脂総量が30〜46重量%であることを特徴とする起泡性コンパウンドクリームに関する。好ましい実施態様は、起泡性コンパウンドクリーム全体中、油脂総量が30〜38重量%である上記記載の起泡性コンパウンドクリームに関する。より好ましくは、起泡性水中油型乳化油脂組成物が生クリームである上記記載の起泡性コンパウンドクリームに関する。本発明の第三は、上記記載の起泡性コンパウンドクリームをホイップしてなるホイップドコンパウンドクリームに関する。
本発明に従えば、合成乳化剤や溶融塩の含量が少なく、また、油脂含量が少ないにも関わらず、ホイップ後に優れた耐熱保型性、耐離水性、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を有する起泡性コンパウンドクリーム、および優れた耐熱保型性、耐離水性、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を有するホイップドコンパウンドクリームを提供することができる。
実施例の水中油型乳化油脂組成物における油脂含量(X)及び無脂乳固形分含量(Y)の合計量とレシチン含量(Z)との関係を示すグラフである。 比較例の水中油型乳化油脂組成物における油脂含量(X)及び無脂乳固形分含量(Y)の合計量とレシチン含量(Z)との関係を示すグラフである。
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、乳脂を油相の主原料とする起泡性水中油型乳化油脂組成物と混合して本発明の起泡性コンパウンドクリームを製造するのに用いられる。この水中油型乳化油脂組成物は、溶融塩を実質的に含まず、植物脂を油相の主原料とし、合成乳化剤を特定量以下しか含有せず、生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、且つレシチン含量と、油脂及び無脂乳固形分の合計含量とが特定の関係になるよう含有することを特徴とする。
本発明の水中油型乳化油脂組成物において、溶融塩は、風味に悪影響を及ぼす場合があることや、健康上好ましくないため、その含量は、少なければ少ないほど良く、全く含有しないことが好ましい。但し、本発明の効果を損なわない範囲、即ち水中油型乳化油脂組成物全体中0.01重量%以下程度であれば、溶融塩を含んでいても良い。前記溶融塩としては、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム等が挙げられる。更に、コハク酸、乳酸、炭酸、酢酸等の有機酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物において、合成乳化剤を含むと、風味に悪影響を及ぼす場合や、該組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性を悪化させる場合があるため、その含有量は少なければ少ないほど良く、0.13重量%未満であることが好ましく、0.08重量%未満がより好ましく、全く含有しないことがさらに好ましい。前記合成乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。合成乳化剤を含有させる場合は、該組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性を悪化させにくいことから、HLBが8.5未満であることが好ましく、HLBが0〜5であることがより好ましい。
本発明の水中油型乳化油脂組成物の油相中の油脂は、植物脂を主原料としており、植物脂の含有量は油相中の油脂全体中80〜100重量%が好ましく、より好ましくは90〜100重量%である。また前記水中油型乳化油脂組成物の油相中の油脂は、上昇融点が27〜32℃であることが好ましい。上昇融点が27℃より低いと、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性が悪くなる場合がある。上昇融点が32℃より高いと前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの口溶けが重くなりフレッシュ感が弱くなる場合がある。
前記植物脂としては、ナタネ油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等が挙げられ、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。その中でも、原液安定性の観点からは、ラウリン系油脂が好ましく、例えばパーム核油、硬化パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム核ステアリンが挙げられる。前記ラウリン系油脂含量は、水中油型乳化油脂組成物の油相中の油脂全体中60重量%以上が好ましく、75重量%以上がより好ましい。
前記水中油型乳化油脂組成物の油相中には、植物脂以外に、後述する生乳、牛乳などに含まれる乳脂肪の一部が移行してくるほか、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂や、それらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものを含んでも良い。但し、それらの含有量は、水中油型乳化油脂組成物の油相中の油脂全体中20重量%以下が好ましい。
そして、本発明の水中油型乳化油脂組成物全体中の油脂含量(X)は、20〜40重量%が好ましく、25〜38重量%がより好ましく、30〜35重量%がさらに好ましい。20重量%より少ないと、該水中油型乳化油脂組成物を用い作製するホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性が悪くなる場合がある。また40重量%より多いと水中油型乳化油脂組成物の原液安定性が悪くなる場合がある。
前記水中油型乳化油脂組成物において、水中油型乳化油脂組成物全体中、生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳からなる群より選ばれる少なくとも1種を10〜70重量%含有することが好ましい。10重量%より少ないと、水中油型乳化油脂組成物の原液安定性が悪くなる場合があり、70重量%より多いと、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの耐離水性が悪くなる場合がある。
生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳の水分含量は、前記水中油型乳化油脂組成物の原液安定性を高くするため、60〜95重量%が好ましい。中でも、水中油型乳化油脂組成物の原液安定性が高く、UHT殺菌時の焦げも生じにくいことから、生乳牛乳全脂濃縮乳の還元乳が好ましく、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームにおいて濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感が感じられやすいため、生乳が最も好ましい。
本発明の水中油型乳化油脂組成物における無脂乳固形分としては、カゼイン、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、乳糖、トータルミルクプロテイン、生乳、牛乳、全脂濃縮乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、ホエー、生クリーム、加糖練乳、無糖練乳、バター、チーズ等を用いてもよく、さらに、UF膜やイオン交換樹脂処理等により蛋白質を分離、分画したものや、カゼインナトリウムやカゼインカリウムのような乳蛋白質の塩類が挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
前記無脂乳固形分の含有量(Y)は、水中油型乳化油脂組成物全体中5〜25重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。5重量%より少ないと、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの乳のコクやフレッシュ感が弱くなる場合がある。また25重量%より多いと、前記水中油型乳化油脂組成物のUHT殺菌時に焦げが発生してしまい製造できない場合がある。
そして、前記水中油型乳化油脂組成物において、水中油型乳化油脂組成物全体中、前記油脂(X)と前記無脂乳固形分(Y)の合計量は25〜50重量%であることが好ましい。合計量(X+Y)が25重量%より少ないと、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて製造するホイップドコンパウンドクリームの耐離水性が悪くなる場合がある。50重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物を製造する時のUHT殺菌時に焦げが発生してしまい製造できない場合がある。
本発明の水中油型乳化油脂組成物におけるレシチンとは、大豆レシチン、卵黄レシチン、及びこれらの分画レシチン、高純度精製レシチン、更には酵素分解したリゾレシチンといった改質レシチンなどが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。前記水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性を向上させる効果が高いため、中でも大豆レシチンが好ましい。
前記レシチンの含有量(Z)は、油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計量に応じて決まる。即ち、油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計量が35〜50重量%の場合、水中油型乳化油脂組成物全体中0.12〜0.30重量%であることが好ましく、油脂量(X)と無脂乳固形分量(Y)の合計量が25重量%以上且つ35重量%未満の場合、下記(式1)を満たすことが好ましい(単位は重量%)。
[−0.008×(X+Y)+0.4]≦(Z)≦0.30 (式1)
レシチン含量(Z)が上記の範囲より少ないと、前記水中油型乳化油脂組成物を用いて製造するホイップドコンパウンドクリームの耐離水性が悪くなる場合がある。レシチン含量(Z)が上記の範囲より多いと前記水中油型乳化油脂組成物を用いて製造するホイップドコンパウンドクリームの風味が悪くなる場合がある。
なお、前記水中油型乳化油脂組成物の油滴径は、原液安定性を向上させるために、メジアン径が0.8〜4.0μmであることが好ましく、1.2〜3.0μmがより好ましく、1.5〜2.2μmがさらに好ましい。メジアン径が0.8μmより小さいと水中油型乳化油脂組成物が増粘したり原液安定性が悪くなったりして製造できない場合がある。メジアン径が4.0μmより大きいとクリーミングが起こりやすく、長期保存安定性を確保できない場合がある。
本発明でいう油滴のメジアン径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(株式会社掘場製作所)で測定した、体積基準での積算分布曲線の50%に相当する粒子径である。
前記水中油型乳化油脂組成物には、さらに多糖類、安定剤、糖類、着色料や香料を添加しても良いが、乳脂を油相の主原料とする起泡性水中油型乳化油脂組成物本来の乳のコクやフレッシュ感を損なわないためには、添加しない方が好ましい。
前記多糖類や安定剤としては、例えば、ジェランガム、グアガム、キサンタンガム、寒天、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、結晶セルロース、微結晶セルロース、澱粉、デキストリン等を挙げることができる。
前記糖類としては、例えば、ブドウ糖、砂糖、果糖、異性化糖、液糖、澱粉糖化物又は糖アルコール等を挙げることができる。
前記着色料や香料は、食品用であれば特に限定はなく、必要に応じて適宜使用することができる。
本発明の起泡性コンパウンドクリームは、溶融塩は実質的に含まず、合成乳化剤を特定量以下しか含有せず、前記水中油型乳化油脂組成物と、乳脂を油相の主原料とする起泡性水中油型乳化油脂組成物とを、油脂総量が特定の範囲になるように特定の比率で含有する。そして、該起泡性コンパウンドクリームをホイップすることでホイップドコンパウンドクリームが得られる。
本発明の起泡性コンパウンドクリームにおいては、前記水中油型乳化油脂組成物/前記起泡性水中油型乳化油脂組成物を10/90〜90/10(重量比)で含有することが好ましく、20/80〜70/30(重量比)がより好ましい。10/90〜90/10(重量比)以外の範囲の場合、前記起泡性コンパウンドクリームをホイップすることで得られるホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性や耐離水性が悪くなる場合がある。
前記起泡性水中油型乳化油脂組成物は、合成乳化剤及び溶融塩を含有せずに、乳脂を油相の主原料としており、乳脂の含有量は起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中30〜50重量%が好ましく、35〜47重量%がより好ましい。30重量%より少ないと、ホイップドコンパウンドクリームの耐離水性が悪化する場合がある。また、50重量%より多いと、ホイップドコンパウンドクリームにおいてフレッシュ感が感じ難くなる場合がある。
前記起泡性水中油型乳化油脂組成物としては、例えば生クリームや、乳脂を含有するバター、凍結クリーム、クリームチーズなどの乳原料を油相及び/又は水相に用いて乳化した物などが挙げられる。前記起泡性水中油型乳化油脂組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームにおいて、濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感が感じられやすいため、必ず生クリームを含むことが好ましい。
なお、前記起泡性水中油型乳化油脂組成物の油滴径は、該組成物を用いて作製するホイップドコンパウンドクリームの濃厚な乳のコク味及びフレッシュ感を向上させるために、メジアン径が0.8〜4.0μmであることが好ましく、1.5〜3.8μmがより好ましく、2.1〜3.6μmがさらに好ましい。メジアン径が0.8μmより小さいと起泡性水中油型乳化油脂組成物が増粘したり原液安定性が悪くなったりして製造できない場合がある。メジアン径が4.0μmより大きいとクリーミングが起こりやすく、長期保存安定性を確保できない場合がある。
本発明において水中油型乳化油脂組成物及び起泡性水中油型乳化油脂組成物の油滴径(メジアン径)を所望の範囲とするためには、前記乳化油脂組成物製造時の微細化において、高周速の回転式乳化機(周速が30m/秒より速い回転能力を有する乳化機)を使用すれば容易に調整でき、高周速の回転式乳化機としては、例えばフィルミックス(プライミクス(株))、キャビトロン(キャビトロン社)、インライン型高せん断分散装置(IKA社)、ハイシェアミキサー(CHARLES ROSS&SON社)、クレアミックス(エム・テクニック(株))などが例示できる。
前記起泡性コンパウンドクリーム全体中の油脂総量は、30〜46重量%であることが好ましく、カロリーオフの観点から30〜38重量%であることがより好ましく、30〜35重量%であることがさらに好ましい。30重量%より少ないと、ホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性や耐離水性が悪化する場合がある。また46重量%より多いと、ホイップドコンパウンドクリームにおいてフレッシュ感が感じ難くなる場合がある。
本発明の起泡性コンパウンドクリームの製造方法を以下に例示する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、50〜70℃に加温融解した油脂に、油溶性乳化剤、香料等の油溶性原料を混合して油相部を調製する。また、50〜70℃の温水に生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳、水溶性乳化剤、無脂乳固形分、香料などの水系原料を攪拌溶解してなる水相部を調製する。そして、前記油相部を前記水相部に添加し、予備乳化する。その後、微細化、均質化、予備加熱、殺菌、1次冷却、均質化、2次冷却、3次冷却、エージングなどの通常行われる各処理を行うことにより、本発明の水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
一方、起泡性水中油型乳化油脂組成物は、生クリームをそのまま使用するか、生クリームに加えてバター、凍結クリーム、クリームチーズなどの乳原料を用いる場合は、50〜70℃に温調した生クリームに前記乳原料を添加し、予備乳化する。その後、微細化、均質化、予備加熱、殺菌、1次冷却、均質化、2次冷却、3次冷却、エージングなどの通常行われる各処理を行うことにより、本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。なお、前記乳原料を用いる場合、生クリーム/乳原料(重量比)が1以上であることが好ましい。1未満であると、起泡性が無い場合がある。
そして、前記水中油型乳化油脂組成物と起泡性水中油型乳化油脂組成物を混合することで本発明の起泡性コンパウンドクリームを得ることができ、この起泡性コンパウンドクリームをオープン式ホイッパーや密閉式連続ホイップマシンを用いて、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップすることで、本発明のホイップドコンパウンドクリームを得ることができる。
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<油脂の上昇融点の測定>
実施例及び比較例で用いた油脂について、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.2−90 融点(上昇融点)」に記載の方法に基づき測定した。
<油滴径の測定>
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社掘場製作所製「LA−920」)を用いて水中油型乳化油脂組成物を測定し、体積基準での積算分布曲線の50%に相当する粒子径、即ちメジアン径を算出し、測定対象の水中油型乳化油脂組成物の油滴径とした。
<ホイップ直前の粘度の測定>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物についてB型粘度計(TOKIMEC INC.製)を用いて測定し、その測定値(単位:mPa・s)をホイップ直前の粘度とした。
<原液安定性の評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を5℃で90日間保管後、クリーミングの有無を目視にて確認し、その結果を原液安定性の評価値とした。その際の評価基準は以下の通りである。
◎:クリーミングが全く無い。
○:クリーミングがほとんど無い。
△:クリーミングが明らかに確認される。
×:クリーミングが顕著に多い。
<UHT殺菌時の焦げの評価>
実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物を100L/Hの流速で50kgUHT殺菌処理(スチームインジェクション:142℃で4秒間ホールド)した際の殺菌前後のホールド圧の差分を確認し、その結果をUHT殺菌時の焦げの評価値とした。その際の評価基準は以下の通りである。
◎:0.02MPa未満。
○:0.02MPa以上、0.04MPa未満。
△:0.04MPa以上、0.06MPa未満。
×:0.06MPa以上。
<ホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性の評価>
ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50型(5コート)」)に、実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物と起泡性水中油型乳化油脂組成物を合わせて1000g及びグラニュー糖80gの割合で混合し、2速撹拌条件(285rpm)で、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、ホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームを絞り袋に詰め、出口が星型の口金(切り込みの個数8個)で透明なポリカップ容器に高さ6cm程度、底辺の直径7cm程度で、できるだけ空洞ができないように渦を巻きながら三角錐状に40g絞り、高さを測定した後、15℃で24時間保持した時の高さを測定し、初期の高さが何%残っているかを耐熱保型性の評価値とした。70%以上は商品性があり、70%未満は商品性がないので、下記判定基準に従い評価した。なお、ここでトッピングするのに適度な硬さとは、ホイップ直後のサンプルを容器に入れた後、クリープメーター(「RE2−33005S」、株式会社山電製)を用いて直径16mmの円柱状のプランジャーにて、速度5mm/sの速さで1cm貫入時の最大荷重が0.25〜0.35Nになる硬さのことである。
◎:90%〜100%。
○:80%以上、90%未満。
△:70%以上、80%未満。
×:70%未満。
<ホイップドコンパウンドクリームの耐離水性の評価>
ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50型(5コート)」)に、実施例及び比較例で得られた水中油型乳化油脂組成物と起泡性水中油型乳化油脂組成物を合わせて1000g及びグラニュー糖80gの割合で混合し、2速撹拌条件(285rpm)で、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、ホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームを絞り袋に詰め、出口が星型の口金(切り込みの個数8個)で透明なポリカップ容器に高さ6cm程度、底辺の直径7cm程度で、できるだけ空洞ができないように渦を巻きながら三角錐状に40g絞り、15℃で24時間保持した時の離水量(g)を測定し、初期の絞り量から何%離水したかを耐離水性の評価値とした。3.0%未満は商品性に優れ、3.0%以上は商品性が乏しいので、下記判定基準に従い評価した。
◎:1.0%未満
○:1.0%以上、3.0%未満
△:3.0%以上、5.0%未満
×:5.0%以上
<ホイップドコンパウンドクリームの乳のコク味の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドコンパウンドクリームを熟練したパネラー8名に食べてもらって官能評価を行い、それを平均して乳のコク味の評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
◎:乳のコクが強く感じられる。
○:乳のコクが感じられる。
△:乳のコクがやや弱い。
×:乳のコクが弱い。
<ホイップドコンパウンドクリームのフレッシュ感の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドコンパウンドクリームを熟練したパネラー8名に食べてもらって官能評価を行い、それを平均してフレッシュ感の評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
◎:生クリームのフレッシュ感が強く感じられる。
○:生クリームのフレッシュ感が感じられる。
△:生クリームのフレッシュ感がやや弱い。
×:生クリームのフレッシュ感が弱い。
(製造例1)パーム核オレインとパーム油のランダムエステル交換油の作製
パーム核オレイン油55重量部とパーム油45重量部を、ナトリウムメチラートを用いた化学触媒法によりランダムエステル交換した後、精製し、上昇融点29℃のランダムエステル交換油1を得た。
(実施例1)水中油型乳化油脂組成物1の作製
パーム核油(融点27℃)20重量部と、パーム核硬化油(融点36℃)4重量部と、ランダムエステル交換油1(融点29℃)6.0重量部に大豆レシチン0.20重量部、ヘキサグリセリンヘキサステアレート(HLB4.0)0.05重量部を添加し、65℃で溶解して油相部とした。一方、生乳(無脂乳固形分8.6重量%、水分87.7重量%)25.0重量部と脱脂粉乳(無脂乳固形分95.2重量%、水分4.1重量%)6重量部を、表1の配合と最終的に同じになるようにスチームインジェクション(蒸気加熱工程)での水分増加量を考慮した量の60℃の温水に溶解して水相部を作製した。
前記油相部を、前記水相部に添加して20分間予備乳化した後、高周速回転式乳化機(エム・テクニック(株)製「クレアミックス」)を用いて周速31.4m/sの回転速度で微細化した後、高圧ホモジナイザーを用いて1段目2MPa/2段目1MPaの圧力で処理した後に、プレート式加熱機を用いて90℃まで予備加熱した後、UHT殺菌機(スチームインジェクション)を用いて142℃で4秒間殺菌処理し、蒸発冷却せずにその後プレート式冷却機を用いて60℃まで冷却し、再び高圧ホモジナイザーを用いて1段目15MPa/2段目5MPaの圧力で処理し、その後、プレート式冷却機で5℃まで冷却したものを容器に充填し、水中油型乳化油脂組成物1を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物1の油滴径、粘度、原液安定性、UHT殺菌処理時の焦げについて表1にまとめた。
(実施例2〜16)水中油型乳化油脂組成物2〜16の作製
水相部および油相部の配合を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物2〜16を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物2〜16の油滴径、粘度、原液安定性、UHT殺菌処理時の焦げについて表1にまとめた。
また、実施例1〜16の水中油型乳化油脂組成物における油脂含量(X)及び無脂乳固形分含量(Y)の合計量とレシチン含量(Z)との関係を図1に示す。
Figure 0006427915
(実施例17)ホイップドコンパウンドクリームの作製
実施例1で得られ、5℃に維持されていた水中油型乳化油脂組成物1:300g、起泡性水中油型乳化油脂組成物である生クリーム(乳脂肪分45重量%):700g及びグラニュー糖:80gを混合し、起泡性コンパウンドクリームを得た。ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50型(5コート)」)を用いて、トッピングするのに適度な硬さに到達するまで2速撹拌条件(285rpm)で前記起泡性コンパウンドクリームをホイップし、ホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性、乳のコク味、フレッシュ感を評価し、その結果を表2−1にまとめた。
(実施例18〜32)ホイップドコンパウンドクリームの作製
実施例17において、水中油型乳化油脂組成物1を、実施例2〜16で得られた水中油型乳化油脂組成物2〜16に代えた以外は実施例17と同様にしてホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性、乳のコク味、フレッシュ感を評価し、その結果を表2−1にまとめた。
(実施例33〜39)ホイップドコンパウンドクリームの作製
実施例17において、水中油型乳化油脂組成物と生クリームを表2−2に示すとおりに変更した以外は実施例17と同様にしてホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性、乳のコク味、フレッシュ感を評価し、その結果を表2−2にまとめた。
Figure 0006427915
Figure 0006427915
(比較例1〜15)水中油型乳化油脂組成物17〜31の作製
水相部および油相部の配合を表3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物17〜31を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物17〜31の油滴径、粘度、原液安定性、UHT殺菌処理時の焦げについて表3にまとめた。
また、比較例1〜15の水中油型乳化油脂組成物における油脂含量(X)及び無脂乳固形分含量(Y)の合計量とレシチン含量(Z)との関係を図2に示す。
Figure 0006427915
(比較例16〜26)ホイップドコンパウンドクリームの作製
実施例17において、水中油型乳化油脂組成物1を、比較例1〜3、6〜12、14で得られた水中油型乳化油脂組成物17〜19、22〜28、30に代えた以外は実施例17と同様にしてホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性、乳のコク味、フレッシュ感を評価し、その結果を表4−1にまとめた。なお、比較例4、5、13及び15で得られた水中油型乳化油脂組成物20、21、29及び31については、UHT殺菌時に焦げが発生したため、ホイップドコンパウンドクリームでの評価は行わなかった。
(比較例27〜30)ホイップドコンパウンドクリームの作製
実施例17において、水中油型乳化油脂組成物と生クリームを表4−2に示すとおりに変更した以外は実施例17と同様にしてホイップドコンパウンドクリームを得た。得られたホイップドコンパウンドクリームの耐熱保型性、耐離水性、乳のコク味、フレッシュ感を評価し、その結果を表4−2にまとめた。
Figure 0006427915
Figure 0006427915
以上の結果より、水中油型乳化油脂組成物に生乳を使用せずに無脂乳固形分含量が少ないと、原液安定性が悪くなった。また、水中油型乳化油脂組成物の油脂含量(X)+無脂乳固形分含量(Y)の合計量が多すぎる場合や、水中油型乳化油脂組成物にレシチンと生乳を併用しなかった場合は、UHT殺菌時に焦げが発生しやすいものとなった。また、水中油型乳化油脂組成物のレシチン含量が少なかったり、合成乳化剤含量が多かったり、油脂含量(X)+無脂乳固形分含量(Y)の合計量が少なかったり、生乳の含量が多すぎるとホイップドコンパウンドクリームの耐離水性が悪化することがわかった。また、水中油型乳化油脂組成物の生乳の含量が少なすぎたり、レシチン含量が多すぎたりするとホイップドコンパウンドクリームの風味が悪化することがわかった。

Claims (5)

  1. 起泡性コンパウンドクリームの製造に用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、
    溶融塩は実質的に含まず、植物脂を油相中の油脂の主原料とし、水中油型乳化油脂組成物全体中、合成乳化剤を0.13重量%未満しか含有せず、生乳、牛乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳からなる群より選ばれる少なくとも1種を10〜70重量%含有してなり、油脂含量(X)、無脂乳固形分含量(Y)及びレシチン含量(Z)が下記の通りであり、前記レシチンが大豆レシチンであることを特徴とする、水中油型乳化油脂組成物。
    油脂含量(X)は20〜40重量%、無脂乳固形分含量(Y)は5〜25重量%であり、且つ水中油型乳化油脂組成物全体中、前記油脂含量(X)と前記無脂乳固形分含量(Y)の合計は25〜50重量%であり、
    レシチン含量(Z)は、油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計が35〜50重量%の場合は0.12〜0.30重量%であり、
    油脂含量(X)と無脂乳固形分含量(Y)の合計が25重量%以上且つ35重量%未満の場合は下記(式1)を満たす(単位は重量%)。
    [−0.008×(X+Y)+0.4]≦(Z)≦0.30 (式1)
  2. 溶融塩は実質的に含まず、合成乳化剤含量が0.12重量%未満の起泡性コンパウンドクリームであって、
    請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物と、乳脂を油相の主原料とする起泡性水中油型乳化油脂組成物との混合物からなり、水中油型乳化油脂組成物/起泡性水中油型乳化油脂組成物(重量比)が10/90〜90/10であり、且つ起泡性コンパウンドクリーム全体中、油脂総量が30〜46重量%であることを特徴とする起泡性コンパウンドクリーム。
  3. 起泡性コンパウンドクリーム全体中、油脂総量が30〜38重量%である請求項2に記載の起泡性コンパウンドクリーム。
  4. 起泡性水中油型乳化油脂組成物が生クリームである請求項2又は3に記載の起泡性コンパウンドクリーム。
  5. 請求項2〜4の何れか一項に記載の起泡性コンパウンドクリームをホイップしてなるホイップドコンパウンドクリーム。
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