高線量の放射性廃棄物及び固化材であるガラス原料の混合物を充填した固化容器を断熱部材で取り囲み、または、固化容器内を真空にするなどにより、その混合物を充填した固化容器を断熱状態にし、固化容器内に充填されたガラス原料を、放射性廃棄物に含まれる放射性核種の崩壊熱を利用して溶融することによって、固化容器内のガラス原料の加熱ムラがなくなって、溶融したガラス原料による均一な放射性廃棄物の固化体を作製することができる。すなわち、高線量の放射性廃棄物からは多くの放射線のエネルギーが放出されており、その放射線を放射性廃棄物自身及び固化材であるガラス原料が吸収した場合には、放射線のエネルギーから変換された熱エネルギーが放射性廃棄物及びガラス原料に蓄熱される。これにより、固化容器内のガラス原料の温度を、固化容器内の位置に関係なく、ガラス原料の溶融に必要な温度まで上昇させることができる。
このように、放射性廃棄物及びガラス原料の混合物を充填した固化容器を断熱部材で取り囲むことによって、放射性廃棄物の崩壊熱の、固化容器から外側への放出が抑制され、放射性廃棄物及びガラス原料の混合物が充填された固化容器の横断面において中心部と周辺部における温度差を低減することができ、さらに、その横断面における平均温度を高めることができる。
しかしながら、放射性物質を含むガラス固化体の作成に要する時間を、さらに、短縮することが望まれる。放射性廃棄物及びガラス原料を充填した固化容器を断熱部材で取り囲むことによって、この固化容器の横断面において中心部と周辺部における温度差を低減することができるが、固化容器の横断面の中央部には上記の崩壊熱がこもってその横断面の周辺部よりも温度が高くなる。このため、発明者らは、固化容器の横断面の中央部に存在する熱をその横断面の周辺部に早く伝えることによって固化容器の横断面の周辺部の温度上昇を早め、その周辺部に存在するガラス原料の溶融をそれだけ早めることができ、結果的に、放射性廃棄物を含むガラス固化体の生成に要する時間をさらに短縮できると考えた。そこで、発明者らは、熱伝導率が良好なグラファイト、例えば、線状のグラファイトが、放射性廃棄物及びガラス原料と共に充填された固化容器を、断熱材で構成した断熱容器内に収納するケース1、及び放射性廃棄物及びガラス原料を充填してグラファイトを充填しない固化容器を、前述の断熱容器内に収納するケース2について、実験を行った。この結果、発明者らは、固化容器の横断面の周辺部における温度がケース2に比べてケース1でより早く上昇し、固化容器の横断面における中心部と周辺部の温度差も、ケース2によりもケース1でさらに低減できることを実験的に確認した。これは、ケース1では、固化容器の横断面の中央部に存在する熱がグラファイトによりその横断面の周辺部に早く伝えられたことを示している。放射性廃棄物を含むガラス固化体の作製に要する時間も、ケース2よりもケース1で短縮することができた。
上記の検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kg、及び高熱伝導材料である線状のグラファイト20kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1に示す手順に沿って説明する。
放射性廃棄物、ガラス原料及びグラファイトを固化容器に充填する(ステップ1)。金属製(またはセラミック製)の空の固化容器(第1容器)10を、放射性廃棄物が蓄えられた廃棄物タンク1及びガラス原料タンク3の下方に配置する。まず、廃棄物タンク1内のCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物13を、廃棄物タンク1に接続された廃棄物供給管2に設けられた開閉弁7を開くことにより、廃棄物供給管2を通して固化容器1内に100kg供給する。本実施例では、固化容器10内に充填する放射性廃棄物は、例えば、上記のCs−137を吸着しているゼオライトである。さらに、ガラス原料タンク3内のガラス原料14であるソーダ石灰ガラスを、ガラス原料タンク3に接続されたガラス原料供給管4に設けられた開閉弁8を開くことにより、ガラス原料供給管4を通して固化容器10内に100kg供給する。
その後、放射性廃棄物13及びガラス原料14のソーダ石灰ガラスが充填された固化容器10を、グラファイトが充填されたグラファイトタンク5の真下まで移動させる。撹拌機11を駆動して固化容器10内の放射性廃棄物13及びガラス原料14(ソーダ石灰ガラス)を撹拌して混合しながら、グラファイトタンク5内の線状のグラファイトを固化容器10内に供給する。グラファイトの固化容器10内への供給は、グラファイトタンク5に接続されたグラファイト供給管6に設けられた開閉弁9を開き、グラファイト供給管6を通して行われる。20kgのグラファイトが固化容器10内に供給される。固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトが撹拌機11によって混合される。これにより、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトの混合物15が、220kg、固化容器10内に存在することになる。このため、固化容器10の容積は、220kgの混合物15が収納できる大きさを有する。
放射性廃棄物が充填された固化容器の断熱化処理を行い、ガラス原料を溶融する(ステップS2)。混合された放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイト(混合物15)が充填された固化容器10は、上端が開放された状態で、断熱容器(第2容器)12内に収納される。断熱容器12は上端部に着脱可能な蓋12Aを有しており、固化容器10を断熱容器12内に収納するときには、この蓋12Aが取り外されて固化容器10が上方に向かって開放されている。この状態で、固化容器10を上方より断熱容器12内に入れる。その後、蓋12Aを断熱容器12の上端部に取り付け、固化容器10を収納している断熱容器12を密封する。断熱容器12及び蓋12Aは、断熱材である、例えば、グラスウールを有している。密封された断熱容器12内にはこの断熱容器12によって断熱された断熱領域が形成され、放射性廃棄物13及びガラス原料14を充填した固化容器10はこの断熱領域に配置される。
断熱容器12は、金属製の外側容器(図示せず)及び外側容器内に配置された内側容器(図示せず)の二重構造になっており、グラスウールを、外側容器と内側容器の間の環状の領域及び外側容器の底部と内側容器の底部の間に充填して構成される。外側容器と内側容器の間の環状の領域の上端は、外側容器及び内側容器のそれぞれの上端に取り付けられたリング状の封鎖板によって封鎖されている。蓋12Aは、グラスウールを金属製の中空の筺体(図示せず)内に充填して構成される。
その後、密封された固化容器7内に収納された固化容器10の断熱化処理が実施される。断熱化処理は、固化容器10の熱が外部に逃げることを抑制する処理を意味する。断熱化処理されている固化容器10内において、内部に充填された放射性廃棄物13に含まれる放射性核種であるCs−137から放出される放射線に基づいて熱(崩壊熱)が発生する。この崩壊熱は、蓋12Aで密封された断熱容器12によって外部に放熱されることが抑制され、蓋12Aで密封された断熱容器12の内部、すなわち、蓋12Aで密封された断熱容器12に蓄積される。この崩壊熱はグラファイトにより効率的にガラス原料14に伝えられ、固化容器10内のガラス原料14が加熱されて溶融する。
放射性廃棄物13、ガラス原料14グラファイトが充填された固化容器10は断熱容器12及び蓋12Aによって囲まれているため、その崩壊熱によって加熱される、断熱容器12内の固化容器10に収納された放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度は、固化容器10内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。特に、固化容器10が断熱容器12内に配置されているため、崩壊熱によって加熱された放射性廃棄物13及びガラス原料14等が存在する固化容器10の横断面の温度が上昇し、その横断面における中央部と周辺部の温度差は、固化容器10が断熱容器12で囲まれていない場合に比べて低減される。しかしながら、その横断面の中央部では、熱がこもるため、その横断面の周辺部よりも温度が高くなる。本実施例では、固化容器10内にグラファイトが充填されるため、固化容器10の横断面の中央部の熱が固化容器10内に存在する幾つかのグラファイト片を介してその横断面の周辺部に存在するガラス原料14に伝えられる。このため、固化容器10の横断面の周辺部の温度が、グラファイト片が存在しない場合に比べてより早く上昇し、そして、固化容器10の横断面において中央部と周辺部の温度差がさらに小さくなる。この結果、固化容器10の横断面の周辺部に存在するガラス原料14であるソーダ石灰ガラスの溶融が早くなる。
例えば、放射性廃棄物13に含まれている放射性核種であるCs−137は1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、放射性廃棄物13、ガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14及びグラファイトに吸収され、熱エネルギー(崩壊熱)に変化する。固化容器10内に充填した放射性廃棄物13は1016BqのCs−137を含んでいるため、それぞれのCs−137から放出される放射線が、すべて、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合には、1.15MeV×1016Bq=1.15E22eV/s、すなわち、1840J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)13、ガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14及びグラファイトの混合物15の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度は1時間で約66℃上昇する。この温度上昇により、ガラス原料14であるソーダ石灰ガラスが、溶融して放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に流入する。放射性廃棄物13に液体が含まれている場合には、この液体は、上記した熱により加熱されて蒸気になる。
ガラス固化体を作製する(ステップS3)。断熱容器12及び蓋12Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器10の内部、特に、固化容器10の横断面における周辺部の温度上昇速度は、66℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料14が全て溶融する。この結果、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、断熱容器12から蓋12Aを取り外すことによって、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例では、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトが充填された固化容器10が、蓋12Aで密封された断熱容器12で取り囲まれているため、放射性廃棄物13に含まれる放射性核種が崩壊して放出される放射線が断熱容器12内の断熱領域に配置された固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収されて生じる熱エネルギー(崩壊熱)によって、ガラス原料14及びグラファイトが加熱される。さらに、固化体10の横断面の中央部の熱が、それぞれの線状のグラファイト片を通ってその横断面の周辺部に存在するガラス原料14により効率的に伝えられる。このため、断熱領域に存在する放射性廃棄物13及びガラス原料14に加熱ムラがさらに生じにくくなり、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトは固化容器10の横断面においてより均一な温度になる。このため、固化容器10の高温での腐食及び放射性物質4の揮発が抑えられ、しかも、放射性廃棄物13の均一なガラス固化体16が得られる。このガラス固化体16は安定である。
本実施例では、固化容器10内のグラファイトの作用により固化体10の横断面の中央部からその横断面周辺部への熱の移動が効率良くおこなわれ、温度が低くなりやすい周辺部に存在するガラス原料14をより早く溶融させることができる。この結果、ガラス固化体16の作製に要する時間をさらに短縮することができる。
本実施例では、固化容器10内の放射性廃棄物13に含まれる放射性核種の崩壊によって生じる放射線の吸収により生じる熱エネルギーがグラファイトによって効率的に伝えられ、特に、固化容器10の横断面において中央部から周辺部に伝えられ、固化容器10内の放射性廃棄物13及びガラス原料14が効率良く加熱される。このため、本実施例では、特開2011−46996号公報に記載された放射性廃棄物のガラス固化のように、ガラス原料14を溶融する溶融設備が不要になる。すなわち、簡素なシステムで、放射性廃棄物13をガラス原料14により固化することができる。
本実施例では、放射性廃棄物13としてCs−137を吸着したゼオライトを固化容器10内に充填してガラス原料14により固化した。本実施例では、放射性廃棄物13としてクリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸化合物を固化容器10内に充填し、ガラス原料14を溶融させて固化してしてもよい。
また、ガラス原料14としては、ソーダ石灰ガラス以外に、ケイ酸塩ガラス及びホウケイ酸ガラスいずれかを用いてもよい。さらに、ガラス原料14として、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス及びホウケイ酸ガラスよりも軟化点が低い鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスの内の一種を用いてもよい。鉛ガラス、リン酸塩ガラス及びバナジウム系ガラスのうちの一種を用いることによって、より低温域でのガラス固化が可能となり、固化容器10内に充填される放射性廃棄物13に含まれる放射性核種(例えば、セシウム−137)の崩壊により生じる発熱量が低い条件、及び高い断熱状態が確保できない条件においても、固化容器10内で放射性物質4をガラス固化できるようになるとともに、放射性物質4の揮発をより低く抑えることが可能となる。
本実施例における断熱化処理に用いられる断熱容器12及び蓋12Aに用いられるグラスウールを、繊維系の断熱材であるセルロースファイバー、炭化コルク、ウレタンフォーム、フェノールフォーム及びポリスチレンフォーム、及び多孔質系断熱材であるケイ酸カルシウムボードのいずれかに変えてもよい。このような断熱材は、後述の実施例2及び4において、断熱容器12及び蓋12Aに用いてもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図2を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてSr−90を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Sr−90を吸着しているチタン酸塩化合物を主成分とする放射性核種の使用済吸着材(以下、チタン酸塩化合物の吸着剤という))100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約800℃のホウケイ酸ガラス100kg、及び線状のグラファイト20Kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体16が作製される。
ステップS1では、廃棄物タンク1内に蓄えられたSr−90を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物13、及びガラス原料タンク4内に蓄えられたガラス原料14であるホウケイ酸ガラスを、それぞれ100kg、固化容器10内に供給した。本実施例において、固化容器10内に供給される放射性廃棄物13は、Sr−90を吸着した、チタン酸塩化合物の吸着剤である。放射性廃棄物13及びガラス原料14が充填された固化容器10を、グラファイトタンク5の真下まで移動させる。固化容器10内で、放射性廃棄物13及びガラス原料(ホウケイ酸ガラス)14を攪拌機11で撹拌して混合しながら、グラファイトタンク5内のグラファイトをこの固化容器10内に供給する。攪拌機11により、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料(ホウケイ酸ガラス)14及びグラファイトが撹拌されて混合される。
放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトを固化容器10内に充填した後、ステップS2の工程が実施される。すなわち、実施例1と同様に、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトを収納した固化容器10が断熱容器12内に収納され、蓋12Aが取り付けられて断熱容器12が密封される。蓋12A及び断熱容器12で取り囲まれた固化容器10内に存在する放射性廃棄物13に含まれるSr−90の崩壊によって生じる放射線は、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋12A及び断熱容器12によって囲まれている放射性廃棄物13及びガラス原料14が加熱されて温度が上昇する。特に、その熱エネルギーがグラファイトにより効率的にガラス原料14に伝えられるため、固化容器10内のガラス原料14が効率良く溶融される。断熱容器12及び蓋12Aによって囲まれた固化容器10内の放射性廃棄物13及びガラス原料14のそれぞれの温度は、固化容器10内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。密封された断熱容器12内には前述の断熱領域が形成され、本実施例においても、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトを充填した固化容器10はこの断熱領域に配置される。
固化容器10が断熱容器12内に配置され、固化容器10内にグラファイトが存在するため、断熱容器12の作用によって固化容器10の横断面において周辺部の温度が高くなり、さらに、グラファイトの作用によってその横断面の中央部にこもる熱がその横断面の周辺部に伝わりやすくなるため、その周辺部の温度が高くなる。この結果、その横断面の中央部と周辺部の温度差がさらに小さくなり、その周辺部に存在するガラス原料14の溶融が早くなる。
例えば、Sr−90は1壊変当たりに約2.8MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物13は1016BqのSr−90を含んでいるため、それぞれのSr−90から放出される放射線が、すべて、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合には、2.8MeV×1016Bq=2.8E22eV/s、すなわち、4520J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Sr−90を吸着しているチタン酸塩化合物の吸着剤)13及びガラス原料(ホウケイ酸ガラス)14の混合物15の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度は1時間で約160℃上昇する。この温度上昇により、ガラス原料14であるホウケイ酸ガラスが、溶融して放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に流入する。
ステップS3では、ガラス固化体16が作製される。すなわち、断熱容器12及び蓋12Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器10の内部の温度上昇速度は、160℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料14が全て溶融する。この結果、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ホウケイ酸ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
ガラス原料14として、ホウケイ酸ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料14により固化する放射性廃棄物13は、チタン酸塩化合物の吸着剤以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、または不溶性フェロシアン化物であってもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図3を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1015Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着している不溶性フェロシアン化物を主成分とする放射性核種の使用済吸着材(以下、不溶性フェロシアン化物の吸着剤という))100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約300℃のバナジウム系ガラス100kg、及び線状のグラファイト20kgを固化容器にそれぞれ充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体16が作製される。ただし、本実施例におけるステップS2の断熱化処理では、実施例1及び2のステップS2で用いられた断熱容器12の替りに、減圧容器(第2容器)17が用いられる。
本実施例では、廃棄物タンク1からの放射性廃棄物13である不溶性フェロシアン化物の吸着剤100kg、及びガラス原料タンク4からのガラス原料14であるバナジウム系ガラス100kgがステップS1においてそれぞれ充填された固化容器(第1容器)3が、ステップS2において、減圧容器17内に収納される。減圧容器17は、蓋17Aを取り付けて密封される。
減圧容器17に接続された排気管19が減圧ポンプ18に接続される。さらに、排気管20が減圧ポンプ18に接続されている。ステップS2において、密封された減圧容器17内が、以下のように、減圧される。
蓋17Aを減圧容器17に取り付けて減圧容器17を密封した後、排気管19に設けられた開閉弁(図示せず)を開いて減圧ポンプ18を駆動し、固化容器10を収納している密封された減圧容器17内のガスを排気管19及び20を通して外部に排気する。減圧容器17内のガスの外部への排気は、密封された減圧容器17内の圧力が大気圧の1/10の圧力まで低下されるまで行われる。この減圧容器17内の圧力が大気圧の1/10の圧力になったとき、減圧ポンプ18が停止され、排気管19に設けられた開閉弁が閉じられる。放射性廃棄物(例えば、不溶性フェロシアン化物の吸着剤)13、ガラス原料(バナジウム系ガラス)14及びグラファイトを充填した固化容器10を取り囲む密封された減圧容器17内の圧力を、大気圧の1/10の圧力まで減圧することにより、断熱性は約10倍に向上する。
密封された減圧容器17内を減圧することによって、減圧容器17内に減圧された断熱領域が形成される。放射性廃棄物13ガラス原料14及びグラファイトを充填した固化容器10は、密封された減圧容器17内の断熱領域に配置される。
上記した減圧によって固化容器10を断熱することによって、固化容器10内に存在する放射性廃棄物13に含まれるCs−137の崩壊によって生じる放射線は、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋17A及び減圧容器17によって囲まれて減圧領域(断熱領域)内に存在する放射性廃棄物13、ガラス原料14グラファイトが加熱され、さらに、グラファイトにより熱がガラス原料14に効率良く伝えられるため、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度が上昇し、固化容器10の横断面の中央部から周辺部への熱の伝導がグラファイトにより効率良く行われる。このため、固化容器10の横断面において中央部と周辺部の温度差がより小さくなり、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトの温度は、固化容器10内の位置によってより不均一になりにくく、ほぼ一様になる。
例えば、Cs−137は、実施例1で述べたように、1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物13は1015BqのCs−137を含んでいるため、それぞれのCs−137から放出される放射線が、すべて、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合には、1.15MeV×1015Bq=1.15E21eV/s、すなわち、184J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Cs−137を吸着している不溶性フェロシアン化物の吸着剤)13、ガラス原料(バナジウム系ガラス)14及びグラファイトの混合物15の比熱が0.5J/(g・K)の場合、放射性廃棄物13及びガラス原料14のそれぞれの温度は1時間で約6.6℃上昇する。
ステップS3では、ガラス固化体16が作製される。すなわち、断熱容器12及び蓋12Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器10の内部の温度上昇速度は、6.6℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料14が全て溶融する。この結果、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(バナジウム系ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。特に、本実施例では、密封された減圧容器17内の断熱領域に存在する放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに加熱ムラがさらに生じにくくなり、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14はより均一な温度になる。さらに、本実施例では、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトが存在する固化容器10を密封された減圧容器17内に収納して減圧容器17内を減圧するため、減圧の度合いを調節することにより、任意の断熱効果を得ることができる。
ガラス原料14として、バナジウム系ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料14により固化する放射性廃棄物13は、不溶性フェロシアン化物の吸着剤以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、またはチタン酸塩化合物であってもよい。
本発明の他の好適な実施例である実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1及び図4を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCo−60を1015Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Co−60を含んでいる鉄酸化物を主成分とする固体状の廃棄物(以下、鉄酸化物という))100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kg、及び線状のグラファイト20kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体16が作製される。ただし、本実施例におけるステップS2の断熱化処理では、実施例1及び2のステップS2で用いられた断熱容器12の替りに、給気ポンプが設けられた給気配管、及び廃棄配管が接続された密封される断熱容器12が用いられる。
本実施例では、廃棄物タンク1からの放射性廃棄物13である鉄酸化物100kg、ガラス原料タンク4からのガラス原料14であるソーダ石灰ガラス100kg、及びグラファイトタンク5からのグラファイト20kgのそれぞれが、ステップS1において、実施例1における放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトと同様に、固化容器10に充填される。放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトは、固化容器10内で、攪拌機11により混合される。
その後、放射性廃棄物13、ガラス原料14(ソーダ石灰ガラス)及びグラファイトが充填された固化容器10に対してステップS2の断熱化処理が実施される。放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトが充填された固化容器10が、ステップS2において、断熱容器12内に収納される。固化容器10の収納後に、断熱容器12は蓋12Aを取り付けて密封される。給気ポンプ16及び開閉弁(図示せず)が設けられた給気配管17、及び開閉弁(図示せず)が設けられた排気配管18が、それぞれ、断熱容器12に接続されている。温度計19が断熱容器12に設置される。
密封された断熱容器12によって取り囲まれた固化容器10内に存在する放射性廃棄物13に含まれるCo−60の崩壊によって生じる放射線は、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収されて熱エネルギーに変わる。この熱エネルギーにより、蓋12A及び断熱容器12によって囲まれている放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトが加熱されて温度が上昇する。さらに、グラファイトにより熱がガラス原料14に効率良く伝えられるため、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度が上昇し、固化容器10の横断面の中央部から周辺部への熱の伝導がグラファイトにより効率良く行われる。このため、固化容器10の横断面において中央部と周辺部の温度差がより小さくなり、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14の温度は、固化容器10内の位置によってより不均一になりにくく、ほぼ一様になる。
例えば、Co−60は1壊変当たりに約2.5MeVのエネルギーの放射線を放出する。この放射線が、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合、熱エネルギーに変化する。その放射性廃棄物13は1015BqのCo−60を含んでいるため、それぞれのCo−60から放出される放射線が、すべて、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトに吸収された場合には、2.5MeV×1015Bq=2.5E22eV/s、すなわち、4000J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。放射性廃棄物(Co−60を含んでいる鉄酸化物)13、ガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14及びグラファイトの混合物15の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度は1時間で約144℃上昇する。
ステップS3では、ガラス固化体16が作製される。すなわち、断熱容器12及び蓋12Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器10の内部の温度上昇速度は、144℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料14が全て溶融する。このとき、温度計19により、断熱容器12内の固化容器10の温度を測定する。固化容器10の温度がガラス原料(ソーダ石灰ガラス)6の溶融に適した温度である800℃に上昇したとき、それ以上、固化容器10の温度が上昇しないように、給気配管17に設けた開閉弁及び排気配管18に設けた開閉弁を開いて給気ポンプ16を駆動し、外部のガス(空気)を、給気配管17を通して断熱容器12内に供給し、固化容器10の温度を適切な温度に維持する。断熱容器12内に供給された空気は排気配管18を通して断熱容器12の外部に排出される。固化容器10の温度に基づいた断熱容器12内への空気の供給量は、給気ポンプ16の回転速度を制御することにより調節することができる。
この結果、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、断熱容器12内の固化容器10の測定された温度に基づいて断熱容器12内に供給するガス(例えば、空気)の供給量を調節するため、放射性核種(例えば、Co−60)の崩壊によって熱により固化容器10内の放射性廃棄物13及びガラス原料14のそれぞれの温度が、ガラス固化に必要な温度以上に上昇することを防ぐことができる。このため、放射性廃棄物13に含まれる放射性核種の蒸発を抑制することができる。
また、溶融したガラス原料14の固化時においても、固化容器10の測定された温度に基づいて断熱容器12内へのガスの供給量を調節することができるので、ガラス固化時の温度を測定し、ガスの給気量を制御することで、ガラス原料14の冷却速度を調節することができる。このため、熱歪みによるガラス固化体16の割れを抑制することができる。
ガラス原料14として、ソーダ石灰ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料14により固化する放射性廃棄物13は、鉄酸化物以外に、ゼオライト、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸塩化合物であってもよい。
本発明の好適な一実施例である実施例5の放射性廃棄物の固化処理方法を、図5を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス300kg、及びグラファイト20kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体16が作製される。ただし、本実施例におけるステップS1では放射性廃棄物13及びガラス原料14が固化容器10内に同時に供給され、ステップS2の断熱化処理では、実施例3と同様に減圧容器17が用いられる。
本実施例では、ステップS1において、廃棄物タンク1からのCs−137を1016Bq含む高線量の、100kgの放射性廃棄物13、ガラス原料タンク4からの300kgのガラス原料14、及びグラファイトタンク5からの20kgのグラファイトのそれぞれが、実施例1と同様に、固化容器10内に供給される。放射性廃棄物13はゼオライトを主成分とする、Cs−137を吸着した使用済吸着材であり、ガラス原料14はソーダガラスである。放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトは固化容器10内で攪拌機11により混合される。混合された放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトは、便宜的に、混合物15と称する。本実施例で用いる固化容器10の容積は、100kgの放射性廃棄物13、300kgのガラス原料14及び20kgのグラファイトを収納できる大きさである。
混合充填物15を充填した固化容器10は、実施例3と同様に、ステップS2において、減圧容器17内に収納される。温度計19が減圧容器17に取り付けられている。減圧容器17は蓋17Aが取り付けられて密封される。その後、実施例3と同様に、減圧ポンプ18を駆動し、密封された減圧容器17内の圧力を、大気圧の1/10の圧力まで低下させる。
蓋17A及び減圧容器17によって囲まれて減圧された雰囲気内に、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトを充填した固化容器10を配置した状態で、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれが、放射性廃棄物13に含まれるCs−137の崩壊で発生する放射線により生じる熱エネルギーによって加熱される。外部と断熱状態にある固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度が上昇する。さらに、グラファイトにより熱がガラス原料14に効率良く伝えられるため、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度が上昇し、固化容器10の横断面の中央部から周辺部への熱の伝導がグラファイトにより効率良く行われる。このため、固化容器10の横断面において中央部と周辺部の温度差がより小さくなり、固化容器10内の放射性廃棄物13、ガラス原料14の温度は、固化容器10内の位置によってより不均一になりにくく、ほぼ一様になる。
この状態が保持されることにより、固化容器10内のガラス原料14が溶融し、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に浸透する。温度計19によって測定された固化容器10の温度がガラス原料14の溶融に適した温度まで上昇したとき、固化容器10の温度、すなわち、ガラス原料14の温度が溶融に適した温度より高くならないように、減圧ポンプ18により減圧容器17内への給排気を行うことにより、減圧容器17内の圧力を制御する。この結果、ガラス原料14の温度が適切な温度に維持される。
例えば、Cs−137は、前述したように、1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線を放出する。このため、1016BqのCs−137が放射性廃棄物13に含まれる場合、1840J/sの発熱速度発熱速度の熱エネルギーが得られる。そして、放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)13、ガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14及びグラファイトの混合物15の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトのそれぞれの温度は1時間で約33℃上昇する。
ステップS3では、ガラス固化体16が作製される。すなわち、時間の経過とともに昇温は継続され、ガラス原料14が全て溶融する。この結果、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は実施例3で生じる各効果を得ることができる。また、本実施例は、ガラス固化時において測定された固化容器10の温度に基づいて、減圧容器17内の減圧状態を制御するため、ガラス固化温度を任意に制御することができる。また、ガラス溶融後の冷却温度を制御することで熱歪みによるガラス固化体の割れを抑制することができる。
本発明の好適な一実施例である実施例6の放射性廃棄物の固化処理方法を、図6を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg、ガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kg、及びグラファイト20kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例も、実施例1と同様に、ステップS1,S2及びS3の各工程によりガラス固化体16が作製される。ただし、ステップ1における放射性廃棄物13、ガラス原料14及びグラファイトの固化容器10内への充填の仕方が実施例1と異なっている。
ステップS1では、まず、廃棄物タンク1内のCs−137を1016Bq含む100kgの高線量の放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)13を、開閉弁7を開くことにより、廃棄物供給管2を通して混合タンク25内に供給する。さらに、ガラス原料タンク3内のガラス原料14である100kgのソーダ石灰ガラスを、開閉弁8を開くことにより、ガラス原料供給管4を通して混合タンク25内に供給する。放射性廃棄物13及びガラス原料14を、それぞれ所定量、混合タンク25内に供給した後、開閉弁7,8を閉じる。混合タンク25内で、撹拌機(図示せず)を用いて放射性廃棄物13及びガラス原料14を混合する。
空の固化容器10を、混合タンク25及びグラファイトタンク5の真下付近まで移動する。混合タンク25内の放射性廃棄物13及びガラス原料14の混合物15を、開閉弁27を開くことにより、供給管26を通して固化容器10内に供給する。混合物15が所定量固化容器10内に供給された後、開閉弁27を閉じて固化容器10内への混合物15の供給を停止する。この混合物15の固化容器10内への供給により、固化容器10の底面上に所定高さの混合物15の層が形成される。その後、開閉弁9を開いてグラファイトタンク5内の線状のグラファイトを所定量だけグラファイト供給管6を通して固化容器10内の混合物15の層の上に供給される。このグラファイトの供給により、固化容器10内の混合物15の層の上に所定厚みのグラファイト層28が形成される。所定厚みのグラファイト層28を混合物15の層上に形成するためには、グラファイト供給管6の開閉弁9の下方を耐放射線性の物質で構成した可撓性のホースで構成することが望ましい。このホースの下端部を固化容器10の上端部において固化容器10内で旋回させることにより、グラファイトを混合物15の層上に一様な厚みになるように供給することができる。所定厚みのグラファイト層28が混合物15の層上に形成されたとき、開閉弁9を閉じてグラファイトの固化容器10内への供給を停止する。その後、開閉弁27の開閉及び開閉弁9の開閉を繰り返して、混合物15の層及びグラファイト層28を、固化容器10内で固化容器10の軸方向において交互に形成する。
固化容器10内での混合物15の層の形成は、混合タンク25内に存在する、100kgの放射性廃棄物13及び100kgのガラス原料14の混合物15が固化容器10への供給によりなくなったときに終了する。また、固化容器10内でのグラファイト層28の形成は、グラファイトタンク5内に存在する20kgのグラファイトが固化容器10への供給によりなくなったときに終了する。グラファイトは、予めグラファイトタンク5内に20kg充填しておくとよい。
固化容器10内に所定量の混合物及び所定量のグラファイトが供給されて混合物15の層及びグラファイト層28の形成が終了した後、この固化容器10に対して実施例1のステップS2及びS3の各工程が実施される。すなわち、本実施例のステップS2では、混合物15の層及びグラファイト層28が固化容器10の軸方向において内部に交互に形成された固化容器10を、断熱容器12内に収納してこの断熱容器12を蓋12Aで密封して、実施例1のステップS2と同様に、ステップS2における固化容器10の断熱化処理が行われ、固化容器10内のガラス原料14(ソーダ石灰ガラス)が溶融される。ステップS2において、固化容器10の横断面において中央部から周辺部への熱の移動は、グラファイト層28を通して行われる。このため、固化容器10の横断面の周辺部に存在するガラス原料14であるソーダ石灰ガラスの溶融が早くなる。
本実施例のステップS3では、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13及びグラファイト等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13及びグラファイトが溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13及びグラファイトを含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、断熱容器12から蓋12Aを取り外すことによって、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の好適な一実施例である実施例7の放射性廃棄物の固化処理方法を、図7及び8を用いて説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、高線量の放射性廃棄物としてCs−137を1016Bq含む高線量の放射性廃棄物(例えば、Cs−137を吸着しているゼオライト)100kg及びガラス原料であるガラス軟化点が約700℃のソーダ石灰ガラス100kgをそれぞれ固化容器に充填して、ガラス固化体を作製した。本実施例では、グラファイトが固化容器内に充填されない。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、以下に説明する。
本実施例に用いられる固化容器10は、内部に、固化容器10の中心から固化容器10の半径方向において放射状に伸びる複数の金属板29を配置している(図8参照)。それぞれの金属板29の一端は固化容器10の内面に接触している。これらの金属板29は、例えば、鉄製である。金属板29は、銅またはアルミニウムで作製してもよい。金属板29は、固化容器10の軸方向において固化容器10内の底面から固化容器の上端付近まで伸びている。固化容器10内には、金属板29で仕切られた複数の廃棄物充填領域30が形成されている。本実施例では、6つの廃棄物充填領域30が固化容器10内に形成されている。金属板29のかわりに、鉄、銅またはアルミニウムで作成された金網を用いてもよい。金属板29及び金網は、熱伝導部材である。
ステップS1では、実施例6と同様に、まず、廃棄物タンク1内のCs−137を1016Bq含む100kgの高線量の放射性廃棄物(Cs−137を吸着しているゼオライト)13、及びガラス原料タンク3内のガラス原料14である100kgのソーダ石灰ガラスを混合タンク25内に供給し、これらを、混合タンク25内で撹拌機(図示せず)を用いて混合する。
内部の金属板29が設置された空の固化容器10を、混合タンク25真下まで移動する。混合タンク25内の放射性廃棄物13及びガラス原料14の混合物15を、開閉弁27を開くことにより、供給管26を通して固化容器10内の一つの廃棄物充填領域30に供給する。200kgの混合物15の1/6がその廃棄物充填領域30に供給されたとき、開閉弁27を閉じてこの廃棄物充填領域30への混合物15の供給を停止する。供給管26の下端が他の廃棄物充填領域30の真上になるように、固化容器10を回転させる。供給管26の下端が他の廃棄物充填領域30の真上に達したとき、固化容器10の回転を停止して開閉弁27を開き、混合タンク25内の放射性廃棄物13及びガラス原料14の混合物15を、供給管26を通して固化容器10内の他の廃棄物充填領域30に供給する。200kgの混合物15の1/6が他の廃棄物充填領域30に供給されたとき、開閉弁27を閉じて他の廃棄物充填領域30への混合物15の供給を停止する。このように、固化容器10を回転させながら、固化容器10内の残りの各廃棄物充填領域30に、それぞれ、200kgの混合物15の1/6を供給する。全ての廃棄物充填領域30への混合物15の供給が終了したとき、本実施例におけるステップS1の工程が終了する。
ステップS1の工程の終了後、実施例1と同様にステップS2及びS3の各工程が実施される。ステップS2においては、放射性廃棄物13及びガラス原料14の混合物15が充てんされた固化容器10に対して断熱化処理が行われ、固化容器10内のガラス原料14(ソーダ石灰ガラス)が溶融される。固化容器10の横断面において中央部から周辺部への熱の移動は、金属板29を通して行われる。このため、固化容器10の横断面の周辺部に存在するガラス原料14であるソーダ石灰ガラスの溶融が早くなる。
本実施例のステップS3では、ガラス原料14の溶融物が、放射性廃棄物13等の間に形成された隙間に充填され、時間の経過と共に放射性廃棄物13が溶融されたガラス原料14が凝固し、凝固されたガラス原料(ソーダ石灰ガラス)14により一体化された放射性廃棄物13を含むガラス固化物31が固化容器10内に形成される。その後、断熱容器12から蓋12Aを取り外すことによって、ガラス固化物31が内部に形成された固化容器10が断熱容器12内から取り出され、ガラス固化物31を内部に有する固化容器10が、この上端部に蓋(図示せず)を取り付けることによって密封され、ガラス固化体16が作製される。このガラス固化体16は、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に保管される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、固化容器10内にグラファイトを供給しないため、グラファイトの供給に必要な設備(例えば、実施例1に示すグラファイトタンク5及び開閉弁9が設けられたグラファイト供給管6等)が不要であり、放射性廃棄物の固化処理方法に用いられる固化処理設備がコンパクトになる。また、固化容器10へのグラファイトの供給が不要になるため、ガラス固化体16の作製に要する時間がさらに短縮される。
実施例5ないし7のそれぞれにおいて、ガラス原料14として、ソーダ石灰ガラス以外に実施例1で述べたガラスのうちの一種を用いてもよい。本実施例において、ガラス原料14により固化する放射性廃棄物13は、ゼオライト以外に、クリノプチロライト、モルデナイト、チャバサイト、不溶性フェロシアン化物またはチタン酸塩化合物であってもよい。