発明者らは、再処理施設において使用済核燃料の再処理で発生する。U−238及びPu−239等の長半減期核種及びCs−137等の短半減期核種を含む放射性廃液(例えば、U−238及びPu−239等)の処理に際し、長半減期核種を含まず、短半減期核種を含む放射性廃棄物を低融点ガラスで固化する方法について検討した。ここで、長半減期核種とは、U−235,U−238,Pu−239,Pu−242,Am−241,Np−236及びCu−246等の半減期が40年以上の放射性核種である。また、短半減期核種とは、Cs−137及びSr−90等の半減期が40年未満の放射性核種である。
前述の長半減期核種及び短半減期核種を含む放射性廃液である汚染水は、原子炉の炉心溶融により発生した溶融核燃料の冷却によっても発生する可能性がある。
発明者らは、長半減期核種(例えば、U−238及びPu−239等)及び短半減期核種(Cs−137及びSr−90等)を含む放射性廃棄物である放射性廃液の処理について検討を行った。原子力施設で発生する放射性廃棄物は、高線量の放射性核種として、Cs−137などの約30年の短半減期の放射性核種からU−238などの約45億年の長半減期の放射性核種を含んでおり、低融点ガラス(軟化点が800℃以下)により長半減期核種と短半減期核種を一緒に固化すると、低融点ガラスでは、数万年及び数億年に亘って低融点ガラス固化体の性能を維持できない可能性がある。
このような課題を改善するための方策を、発明者らは検討した。この結果、放射性廃液に含まれる長半減期核種を除去し、その後、放射性廃液に含まれる短半減期核種を吸着剤に吸着させて除去し、短半減期核種を吸着した吸着剤をガラス固化することによって長期間に亘って埋設処分する放射性廃棄物の量を低減できることを、発明者らが新たに見出した。なお、長半減期核種の除去、及び吸着剤を用いた、短半減期核種の除去は、短半減期核種を吸着した吸着剤の、低融点ガラス(軟化点が800℃以下)による固化処理の前処理である。また、予め長半減期核種を除去することによって、低融点ガラスを用いて短半減期核種を吸着した吸着剤を固化することができ、前述の課題を改善することができ、簡素な設備により放射性廃棄物をガラス固化することができる。
以上の検討結果を反映した本発明の放射性廃棄物の固化処理方法の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法を、図1ないし図4を用いて以下に説明する。
例えば、万が一、電源喪失による原子力プラントの過酷事故が発生し、原子炉内の炉心の溶融が生じて燃料デブリが原子炉圧力容器の底部または原子炉格納容器の底部に落下する可能性が有る。原子炉圧力容器底部に存在する燃料デブリまたは原子炉格納容器底部に存在する燃料デブリを冷却するために、冷却水がその燃料デブリに散布される。燃料デブリの冷却のために散布されたその冷却水は、原子炉建屋内で底部に蓄えられる。
原子炉建屋内で底部に蓄えられた冷却水が、半減期が40年未満の短半減期核種であるCs−137(半減期:30.1年)を含んでいることを想定する。この短半減期核種を含む冷却水を、汚染水という。
過酷事故が発生した原子力プラントの廃炉作業を行うために、燃料デブリの原子炉格納容器外への取り出しが行われる。この燃料デブリの取り出しにより、原子炉建屋内の汚染水にU−238(半減期:約44億6800万年)などの長半減期核種が含まれる可能性がある。燃料デブリの取り出し作業において、この汚染水に、半減期が40年以上の長半減期核種であるU−238が含まれることを想定する。
実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法を、原子炉建屋内の放射性廃液である汚染水放射性廃液である汚染水を対象にして説明する。
まず、図1に基づいて本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法の概要について説明する。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法は、図1に示すように、放射性廃液(汚染水)からの長半減期核種の分離(ステップS1)、吸着剤による短半減期核種の吸着(ステップS2)及び短半減期核種を吸着した吸着剤のガラス固化(ステップS3)の各工程を含んでいる。
放射性廃液から長半減期核種を分離する(ステップS1)。原子炉建屋内に存在する放射性廃液である、長半減期核種(例えば、U−238)及び短半減期核種(例えば、Cs−137)を含む汚染水から長半減期核種を分離する、すなわち、除去する。
短半減期核種を吸着剤に吸着させて除去する(ステップS2)。長半減期核種が除去された汚染水を吸着剤に接触させることにより、汚染水に含まれる短半減期核種を吸着剤に吸着させる。汚染水に含まれる短半減期核種が吸着剤によって除去される。
吸着剤をガラス固化する(ステップS3)。短半減期核種を吸着した吸着剤をガラス原料、具体的には、低融点ガラス原料(軟化点が800℃以下)と共に固化容器内に充填する。短半減期核種から放出される放射線により発生する熱を利用して低融点ガラス原料を溶融させ、低融点ガラスの溶融物が固化容器内の、短半減期核種を吸着した吸着剤の間の隙間に流入する。固化容器内でこの低融点ガラスの溶融物が固化することにより、ガラス固化体が作製される。
上記した本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を、図2、図3及び図4を用いて以下に具体的に説明する。
放射性廃液から長半減期核種を分離する(ステップS1)。放射性廃液である汚染水からの長半減期核種の分離は、汚染水からの長半減期核種の除去である。長半減期核種であるU−238を含む汚染水を対象にしたステップS1の工程は、図2に示すように、ステップS1A及びS1Bの各工程を含んでいる。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法に用いられる放射性廃棄物固化処理装置は、ステップS1A,S1B及び後述のステップS2の各工程の実施に用いられる長半減期核種除去装置及び短半減期核種吸着装置を有しており、図3を用いて説明する。
長半減期核種除去装置は、酸供給装置3、放射性廃液容器8、アルカリ供給装置9、アノード電極11、カソード電極12及び可変抵抗器23を有する。酸供給装置3が、弁36を設けた酸供給配管4によって放射性廃液容器8に連絡される。また、アルカリ供給装置9が、弁38を設けたアルカリ供給配管10によって放射性廃液容器8に連絡される。弁7が設けられた放射線廃液供給管5が放射性廃液容器8に接続される。pH計37が放射性廃液容器8に設置される。アノード電極11及びカソード電極12が、放射性廃液容器8内に配置される。アノード電極11が配線14Aによって電源12に接続され、カソード電極12が配線14Bによって電源12に接続される。開閉スイッチ13及び可変抵抗器23が配線14Aに接続される。
短半減期核種吸着装置は、吸着剤(例えば、ゼオライト)20を内部に充填する固化容器19を有する。放射性廃液容器8の底部に接続された配管16が、上方より固化容器19内に挿入されて固化容器19に連絡される。ポンプ18及び弁17が配管16に設けられる。弁22が設けられた廃液排出管21が、固化容器19の底部に取り外し可能に接続される。廃液排出管21の一端部に取り付けられたフランジ(図示せず)が、固化容器19の底部の外面に設けられてそのフランジと対向する接続部材にねじにより取り付けられる。この接続部材には、固化容器19内に連絡されて廃液排出管21に連絡される貫通孔(廃液排出口)が形成される。固化容器19内の吸着剤20の排出を防ぐ金網(図示せず)が、この貫通孔を覆って固化容器19内の底面に取り付けられる。
放射性廃液に酸を注入し、放射性廃液に含まれる長半減期核種をイオン化させる(ステップS1A)。原子炉建屋内の放射性廃液である汚染水2が、弁7を開いて放射線廃液供給管5を通して放射性廃液容器8内に所定量供給される。このとき、ポンプ18が停止されており、弁17が閉じている。放射性廃液容器8に供給される汚染水2は、長半減期核種であるU−238及び短半減期核種であるCs−137を含む。放射性廃液容器8への汚染水2の供給が停止された後、弁36を開き、酸水溶液、例えば、硫酸水溶液を、酸供給装置3から酸供給配管4を通して放射性廃液容器8内の汚染水2に注入する(図3の(A)参照)。酸としては、硫酸の代わりに塩酸を用いてもよい。硫酸水溶液が注入される放射性廃液容器8内の汚染水2のpHは、pH計37で測定される。硫酸水溶液の注入は、汚染水2に含まれる長半減期核種であるU−238をイオン化するためである。U−238をイオン化するためには、pHを調節すると共に、放射性廃液容器8内の汚染水2の電位Ehを調節する必要がある。この電位Ehの調節は、開閉スイッチ13を閉じ、可変抵抗器23を操作してアノード電極11とカソード電極12の間に印加する電圧を調節し、カソード電極12の表面の電位Ehを調節することによって行われる。U−238は、図5に示すように、電位Ehが、例えば、0.0Vvs.SHEで領域2(pH1.5以下)においてイオン化されてU4+になる。領域2は、長半減期核種であるU−238がイオン化する領域である。カソード電極12の表面の電位Ehを0.0Vvs.SHEに調節した状態で、pH計37で測定された、汚染水2のpHが、例えば、1.0になるまで、放射性廃液容器8内の汚染水2に酸供給装置3から硫酸水溶液が注入される。カソード電極12の表面の電位Ehを0.0Vvs.SHEになっているとき、放射性廃液容器8内の汚染水2の電位Ehも0.0Vvs.SHEになっている。pH計37で測定されたpHが1.0になったとき、弁36が閉じられ、酸供給装置3から放射性廃液容器8への硫酸水溶液の供給が停止される。汚染水2に含まれたU−238、すなわち、UO2は、硫酸水溶液の注入により(1)式の反応を生じ、U4+を生成する。
UO2+4H+ → U4++2H2O …(1)
このため、放射性廃液容器8内の汚染水2は、U−238から生成されたU4+を含んでいる。
放射性廃液にアルカリを注入し、そして、放射性廃液内の長半減期核種を分離する(ステップS1B)。カソード電極12の表面の電位Ehを前述の0.0Vvs.SHEに保持して、弁38を開き、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を、アルカリ供給装置9からアルカリ供給配管10を通して放射性廃液容器8内の汚染水2に注入する(図3の(A)参照)。アルカリとしては、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを用いてもよい。水酸化ナトリウム水溶液が注入される放射性廃液容器8内の汚染水2のpHは、pH計37Bで測定される。アルカリ水溶液、具体的には、水酸化ナトリウム水溶液の、放射性廃液容器8内の汚染水2への注入により、この汚染水2のpHが増加する。汚染水2のpHが、汚染水2の電位Ehが0Vvs.SHEであるときにU−238がUO2として析出するpHである1.5以上、例えば、5.0になるまで放射性廃液容器8内の汚染水2に水酸化ナトリウム水溶液が注入される。pH計37Aで測定されたpHが5.0になったとき、弁38が閉じられ、アルカリ供給装置9から放射性廃液容器8への水酸化ナトリウム水溶液の供給が停止される。
カソード電極12の表面の電位Ehが0.0Vvs.SHEに保持されて汚染水2のpHが5.0であるため、汚染水2に含まれるU−238が、(2)式の反応により、析出物質15であるUO2としてカソード電極12の表面に析出する(図3の(B)参照)。これは、カソード電極12の表面において、図5に示される領域1の条件が満たされるからである。領域1は、U−238が析出する領域である。
U4++2H2O → UO2+4H+ …(2)
なお、ステップS1A(長半減期核種のイオン化)及びステップS1B(長半減期核種の分離)の各工程において、アノード電極11とカソード電極12の間における電圧の印加は、カソード電極12の表面における電位が細い破線で示された水の安定化領域の下限と細い破線で示された水の安定化領域の上限の間に存在する水の安定化領域(図5参照)の電位となるように、行われる。特に、ステップS1A(長半減期核種のイオン化)においてU−238をイオン化する場合には、汚染水のpHはU−238がイオン化する図5に示された領域2のpHの下限とpHの上限の範囲内のpHに、及びカソード電極12の表面の電位は、その領域2の電位の下限と電位の上限の範囲内の電位(水の安定化領域内の電位)に調節すればよい。また、ステップS1B(長半減期核種の分離)においてU−238を分離する場合には、汚染水のpHはU−238が析出する図5に示された領域1のpHの下限とpHの上限の範囲内のpHに、及びカソード電極12の表面の電位は、U−238が析出する図5に示された領域1の電位の下限と電位の上限の範囲内の電位に調節すればよい。
UO2がカソード電極12の表面に析出するとき、汚染水2に含まれるCs−137は、図6に示すように、水の安定化領域においては汚染水のpHにかかわらずイオン状態にあり、カソード電極12の表面に析出しない。
カソード電極12の表面に析出した析出物質15(UO2)が所定の厚みになったとき、開閉スイッチ13を開いて配線14Bをカソード電極12から外した後に、析出物質15が付着したカソード電極12が、放射性廃液容器8から外部に取り出される。その後、新しいカソード電極12が、放射性廃液容器8内に挿入されて放射性廃液容器8内の汚染水2に浸漬される。新しいカソード電極12に配線14Bが接続され、開閉スイッチ13が閉じられる。放射性廃液容器8内の汚染水2に含まれるU−238が、析出物質15であるUO2として新しいカソード電極12の表面に析出する。放射性廃液容器8内の汚染水2に浸漬されたカソード電極12の交換は、汚染水2に含まれるU−238が、所定濃度以下に低減されるまで、好ましくは、なくなるまで継続して行われる。上記したように、汚染水2に含まれるU−238は、電析によってカソード電極12の表面に析出させることができ、汚染水2から分離される。
なお、放射性廃液容器8から取り出されてUO2が付着されたカソード電極12は、高レベル廃棄物であり、所定の保管場所における所定期間の保管、または低融点ガラスではない高い軟化点を有するガラスを用いた従来のガラス固化が実施される(ステップS5)。
放射性廃液容器8に供給される汚染水2がウラン同位体であるU−235等を含んでいる場合には、このウラン同位体は、ステップS1Aにおいてイオン化されてU4+になり、ステップS1Bにおいて、U−238と同様に、カソード電極12の表面に析出物質15であるUO2として析出する。
短半減期核種を吸着剤に吸着させる(ステップS2)。長半減期核種(U−238)が分離された、放射性廃液容器8内の汚染水2は、弁17を開いてポンプ18を駆動することにより、吸着剤(例えば、ゼオライト)20が充填された固化容器19に供給される。セシウムを吸着する吸着剤20として、ゼオライトの代わりにカリックスを用いてもよい。このとき、弁22が開いている。例えば、100kgの吸着剤20が固化容器19内に充填されている。固化容器19に供給された汚染水2は、固化容器19内に充填された吸着剤20の層を通過する際に、吸着剤20と接触する。このとき、汚染水2に含まれる短半減期核種であるCs−137が、吸着剤20に吸着され、汚染水2から除去される(図3の(C)参照)。その吸着剤20の層を通過した汚染水2は、廃液として、放射性廃液容器8から廃液排出管21に排出される。この廃液は、長半減期核種及び短半減期核種が分離されて放射能レベルが低減されており、廃液排出管21を通して貯蔵タンク(図示せず)に導かれて貯蔵される(ステップS4)。放射性廃液容器8から排出されたその廃液は、トリチウム(半減期:12.32年)を含んでいるため、その貯蔵タンク内で所定期間貯蔵される。
固化容器19内の吸着剤20の、Cs−137を吸着する性能が低下したとき、この固化容器19が、所定量の新しい吸着剤20を充填した新しい固化容器19と交換される。吸着剤20の吸着性能の低下は、固化容器19の外側に設置した放射線検出器(図示せず)により測定した線量率に基づいて判定される。Cs−137の吸着性能が低下した吸着剤20を有する固化容器19を新しい固化容器19と交換するとき、ポンプ18を停止して弁17を閉じ、放射性廃液容器8から固化容器19への汚染水2の供給を停止する。吸着性能が低下した吸着剤20を有する固化容器19内への汚染水2の供給が停止された後も、この固化容器19内の吸着剤20により浄化された汚染水2である廃水が廃液排出管21に排出される。廃水が、全て、固化容器19から排出された後、廃液排出管21の一端部に取り付けられたフランジが固化容器19の底部の外面から取り外される。このフランジが取り外されたたとき、封鎖板がその固化容器19の底部の外面に取り付けられて、その固化容器19の底部に形成された廃液排出口が塞がれる(図3の(D)参照)。
上記の新しい固化容器19の底部に廃液排出管21の一端部に取り付けられたフランジが取り付けられ、廃液排出管21がその新しい固化容器19に連絡される。配管16もこの固化容器19に連絡される。そして、弁17が開いてポンプ18が駆動され、放射性廃液容器8内のCs−137を含む汚染水2がその新しい固化容器19内に供給される。このCs−137は固化容器19内の吸着剤20に吸着されて除去される。放射性廃液容器8内の、長半減期核種が除去された汚染水2がなくなるまで、固化容器19の交換が必要回数行われる。
放射性廃液容器8内の汚染水2が全て排出された後、弁17が閉じられて弁7が開けられる。新たな汚染水2が放射性廃液容器8内に供給される。そして、ステップS1A,S1及びBS2の各工程が実施される。
吸着剤のガラス固化体を作製する(ステップS3)。廃液排出管21が取り外されて封鎖板が底部に取り付けられた固化容器19内の、短半減期核種を吸着して吸着性能が低下した吸着剤20が、低融点ガラスにより固化される。なお、短半減期核種を吸着している吸着剤20は放射性廃棄物である。そのようなガラス固化体の作製を、図4を用いて説明する。ステップS3の工程では、放射性廃棄物である吸着剤が充填された固化容器19内への低融点ガラスのガラス原料の供給、及び固化容器19の断熱化処理によるガラス原料の溶融が行われる。
ステップS2でCs−137を吸着した100kgの吸着剤20が充填され、内部の廃水が排出された固化容器19が、ガラス原料タンク29の真下まで移動される。ガラス原料タンク29内のガラス原料32であるソーダ石灰ガラス(軟化点:約700℃)を、ガラス原料タンク29に接続されたガラス原料供給管30を通して固化容器(第1容器)19内に100kg供給する。このソーダ石灰ガラスの固化容器19内への供給は、ガラス原料供給管30に設けられた弁31を開くことにより行われる。低融点ガラス(軟化点が800℃以下)のガラス原料32として、ソーダ石灰ガラスの代わりに、ホウケイ酸ガラス(軟化点:約800℃)、バナジウム系ガラス(軟化点:約300℃)、リン酸ガラス(軟化点:330℃)及びケイ酸チタニウムガラス(軟化点:530℃)のいずれか一種を用いてもよい。
次に、固化容器19の断熱化処理によるガラス原料32であるソーダ石灰ガラスの溶融について説明する。
放射性廃棄物である、Cs−137を吸着した吸着剤20、及びガラス原料32を充填した固化容器19は、上端が開放された状態で、断熱容器(第2容器)34内に収納される。断熱容器34は上端部に着脱可能な蓋34Aを有しており、固化容器19を断熱容器34内に収納するときには、この蓋34Aが取り外されて断熱容器34が上方に向かって開放されている。この状態で、固化容器19を上方より断熱容器34内に入れる。その後、蓋34Aを断熱容器34の上端部に取り付け、固化容器19を収納している断熱容器34を密封する。断熱容器34及び蓋34Aは、断熱材である、例えば、グラスウールを有している。密封された断熱容器34内にはこの断熱容器34及び蓋34Aによって断熱された断熱領域が形成され、吸着剤20及びガラス原料32を充填した固化容器19はこの断熱領域に配置される。
断熱容器34は、金属製の外側容器(図示せず)及び外側容器内に配置された内側容器(図示せず)の二重構造になっており、グラスウールを、外側容器と内側容器の間の環状の領域及び外側容器の底部と内側容器の底部の間に充填して構成される。外側容器と内側容器の間の環状の領域の上端は、外側容器及び内側容器のそれぞれの上端に取り付けられたリング状の封鎖板によって封鎖されている。蓋34Aは、グラスウールを金属製の中空の筺体(図示せず)内に充填して構成される。
本実施例における断熱化処理に用いられる断熱容器34及び蓋34Aに用いられるグラスウールを、繊維系の断熱材であるセルロースファイバー、炭化コルク、ウレタンフォーム、フェノールフォーム及びポリスチレンフォーム、及び多孔質系断熱材であるケイ酸カルシウムボードのいずれかに変えてもよい。
その後、密封された断熱容器34内に収納された固化容器19の断熱化処理が実施される。断熱化処理は、固化容器19の熱が外部に逃げることを抑制する処理を意味する。断熱化処理されている固化容器19内において、内部に充填された吸着剤20に吸着されたCs−137から放出される放射線に基づいて熱(崩壊熱)が発生する。この崩壊熱は、蓋34Aで密封された断熱容器34によって外部に放熱されることが抑制され、蓋34Aで密封された断熱容器34内に蓄積される。この崩壊熱により、固化容器19内のガラス原料32(ソーダ石灰ガラス)が加熱されて溶融する。
固化容器19が断熱容器34及び蓋34Aによって取り囲まれているため、固化容器19、及び固化容器19内の吸着剤20及びガラス原料32が、その崩壊熱によって加熱される。この固化容器19内の加熱された吸着剤20及びガラス原料32のそれぞれの温度は、固化容器19内の位置によって不均一にならなくほぼ一様になる。
例えば、放射性廃棄物である吸着剤20に吸着されている、放射性核種であるCs−137は1壊変当たりに約1.15MeVのエネルギーの放射線(ガンマ線)を放出する。この放射線が、固化容器19内の吸着剤20及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)32に吸収され、熱エネルギー(崩壊熱)に変化する。固化容器19内に充填された吸着剤20は1016BqのCs−137を含んでいるため、それぞれのCs−137から放出される放射線が、すべて、固化容器19内の吸着剤20及びガラス原料32に吸収された場合には、1.15MeV×1016Bq=1.15E22eV/s、すなわち、1840J/sの発熱速度の熱エネルギーが得られる。吸着剤(Cs−137を吸着しているゼオライト)20及びガラス原料(ソーダ石灰ガラス)32の混合物の比熱が0.5J/(g・K)であるとき、吸着剤20及びガラス原料32のそれぞれの温度は1時間で約66℃上昇する。この温度上昇により、ガラス原料32であるソーダ石灰ガラスが、溶融して吸着剤20の間の隙間に流入する。好ましくは、吸着剤20が充填された固化容器19内にガラス原料32を充填した後、吸着剤20及びガラス原料32を撹拌機により混合すると良い。
断熱容器34及び蓋34Aを通して外部にいくらかの熱が逃げるため、実際の固化容器19の内部の温度上昇速度は、66℃/hよりも低下する。しかしながら、時間の経過と共に昇温は継続され、ガラス原料32が全て溶融する。この結果、ガラス原料32であるソーダ石灰ガラスの溶融物が、吸着剤20の間の隙間に充填される。吸着剤20が溶融されたガラス原料32により一体化されたガラス固化物33が固化容器19内に存在するガラス固化体35が作製される。ガラス固化体35が作製された後、蓋34Aを取り外すことによって、このガラス固化体35が、断熱容器34から取り出されて蓋(図示せず)を取り付けて密封され、廃棄体として所定の保管場所(図示せず)に一時的に保管される。
低融点ガラスであるソーダ石灰ガラスの固化により作製されたガラス固化体35は、この線量が一般廃棄物の線量(約1012Bq)に低下するまで、その保管場所に保管される。Cs−137を吸着した吸着剤を含むガラス固化体35は、一般廃棄物の線量に低減されるまで、図7に示すように、約300年間を要する。ガラス固化体35は、約300年間の間、上記の保管場所に保管される。
本実施例では、吸着剤20及びガラス原料32が充填された固化容器19が、蓋34Aで密封された断熱容器34で取り囲まれているため、吸着剤20に吸着された放射性核種(Cs−137)が崩壊して放出される放射線が断熱容器34内の断熱領域に配置された吸着剤20及びガラス原料32に吸収されて生じる熱エネルギー(崩壊熱)によって、吸着剤20及びガラス原料32が加熱される。このため、断熱領域に存在する吸着剤20及びガラス原料32に加熱ムラが生じなく、固化容器19内の吸着剤20及びガラス原料32はより均一な温度になる。このため、固化容器19の高温での腐食が抑えられ、しかも、放射性廃棄物である吸着剤20の均一なガラス固化体35が得られる。このガラス固化体35は安定である。
固化容器19内の吸着剤20に吸着された放射性核種(Cs−137)の崩壊によって生じる放射線の吸収により生じる熱エネルギーによって吸着剤20及びガラス原料32が加熱されるため、本実施例では、特開2011−46996号公報に記載された放射性廃棄物のガラス固化のように、ガラス原料32を溶融する溶融設備が不要になる。すなわち、簡素なシステムで、放射性廃棄物である吸着剤20をガラス原料32により固化することができる。
本実施例では、長半減期核種が除去された汚染水2を放射性廃液容器8から固化容器19に供給するため、長半減期核種が固化容器19内の吸着剤20に吸着されることはなく、短半減期核種が吸着剤20に吸着される。このように、長半減期核種を汚染水2から除去することにより、この吸着剤20をソーダ石灰ガラスで固化して作製されたガラス固化体35には長半減期核種が含まれないので、低融点ガラスを用いて作製されたガラス固化体35の保管期間を、例えば、約300年に著しく短縮することができる。さらに、本実施例によれば、保管期間経過後においてそのガラス固化体35を一般廃棄物として処分することができる。本実施例で作製されたガラス固化体35によれば、ガラス固化体35の放射能レベルを一般廃棄物として処分可能な放射能レベルに低下させるまでに要する、このガラス固化体35に対する保管期間が、長半減期核種を含むガラス固化体の埋設期間よりも著しく短縮させることができる。
本実施例によれば、ガラス固化体35が長半減期核種を含まないので、低融点ガラスであるソーダ石灰ガラスを含むガラス固化体35の健全性をその保管期間に亘って維持することができる。このため、その保管期間(約300年)において、ガラス固化体35に含まれる放射性核種、具体的には、短半減期核種(例えば、Cs−137)の外部への放出を避けることができる。すなわち、本実施例によれば、低融点ガラスを用いてガラス固化体35を作製することができ、一般廃棄物として処分できるようになるまで低融点ガラスを用いて作製されたガラス固化体35を健全な状態で保管することができる。
本実施例では、短半減期核種を吸着した吸着剤20、及び低融点ガラスを含むガラス固化体35を作製するので、1万年以上に亘って地中深く埋設処分が必要となる、長半減期核種を含むガラス固化体の量が低減される。
放射性廃液容器8に供給された汚染水2に含まれる長半減期核種であるU−238が安定な酸化物として存在している可能性がある。このため、本実施例では、汚染水2のpHを低下させて汚染水2に含まれる長半減期核種をイオン化させているので、分離したい長半減期核種を完全にイオン化させることができ、その後の汚染水2のpHの増加により、カソード電極12の表面に長半減期核種(例えば、U−238)を確実に析出させることができ、汚染水2から長半減期核種を分離することができる。
本実施例では、長半減期核種が除去された汚染水2を、吸着剤20が充填された固化容器19に供給され、固化容器19内で汚染水2に含まれる短半減期核種(例えば、Cs−137)を吸着剤20に吸着させるので、実施例2のように、短半減期核種を吸着した吸着剤20を廃棄物タンク25内に移送し、さらに、廃棄物タンク25から固化容器28内に充填するという操作が不要になり、ガラス固化体35の作製が容易になる。
本実施例では、長半減期核種のイオン化(ステップS1A)及び長半減期核種の分離(ステップS1B)の各工程においてカソード電極12の表面における電位が、水の安定化領域内の電位に調節されるため、水素の発生を抑制することができ、且つ汚染水2のpHが変化する可能性もなく、長半減期核種の汚染水2からの分離を容易に行うことができる。カソード電極12の表面における電位が水の安定化領域下限の電位よりも低い場合には、汚染水2から水素が発生し、カソード電極12の表面における電位が水の安定化領域上限の電位よりも高い場合には、酸素の還元反応が生じて汚染水2中にOH-が生成され、汚染水2のpHが変化する可能性がある。本実施例では、カソード電極12の表面における電位が水の安定化領域内の電位に調節されるため、それらの問題が生じない。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃棄物の固化処理方法を、図8及び図9を用いて以下に説明する。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法も、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法と同様に、図2に示されるステップS1A,S1B,S2,S3,S4及びS5の各工程が実施される。しかしながら、本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法は、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法と、ステップS3の低融点ガラスを用いたガラス固化体35の作成方法が異なっている。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法に用いられる放射性廃棄物固化処理装置(図8参照)は、実施例1で用いられる放射性廃棄物固化処理装置と短半減期核種吸着装置が異なっている。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法に用いられる放射性廃棄物固化処理装置の長半減期核種除去装置は、図8に示すように、実施例1で用いられる放射性廃棄物固化処理装置のそれと同じ構成を有する。
本実施例で用いられる短半減期核種吸着装置は、図8に示すように、実施例1で用いられる短半減期核種吸着装置において固化容器19を核種吸着槽24に替えた構成を有する。核種吸着槽24の容積は固化容器19の容積よりも大きく、核種吸着槽24内に充填された吸着剤20は固化容器19内に充填されたその量よりも多い。ポンプ18及び弁17が設けられた配管16が、放射性廃液容器8の底部に接続され、上方より核種吸着槽24内に挿入されて核種吸着槽24に連絡される。弁22が設けられた廃液排出管21が、核種吸着槽24の底部に接続される。
本実施例において、放射性廃液容器8に供給される汚染水2は、長半減期核種であるU−238及び短半減期核種であるCs−137をそれぞれ含んでいる。本実施例でも、実施例1と同様に、放射性廃液容器8を含む長半減期核種除去装置を用いてステップS1A(長半減期核種のイオン化)及びステップS1B(長半減期核種の分離)の各工程が実施される。ステップS1Bの実施によりUO2が付着したカソード電極12は、放射性廃液容器8から取り出され、高レベル廃棄物であるこのカソード電極12は、従来のガラス固化等が実施される(ステップS5)。
ステップS2において、長半減期核種(U−238)が分離された、放射性廃液容器8内の汚染水2は、配管16を通して、吸着剤(例えば、ゼオライト)20が充填された核種吸着槽24に供給される。このとき、廃液排出管21の弁22は開いている。核種吸着槽24内の吸着剤20の層内を流れる汚染水2はその層内の吸着剤20に接触し、汚染水2に含まれる短半減期核種(Cs−137)が吸着剤20に吸着されて除去される。短半減期核種が除去されて核種吸着槽24から排出された廃液は、廃液排出管21を通して貯蔵タンク(図示せず)に導かれて貯蔵される(ステップS4)。核種吸着槽24内の吸着剤20の、Cs−137を吸着する性能が低下したとき、ポンプ18が停止されて弁17が閉じられ、放射性廃液容器8から核種吸着槽24への汚染水2の供給が停止される。核種吸着槽24から廃液排出管21への排水の排出が完全に終了した後、弁22が閉じられる。
吸着剤のガラス固化体を作製する(ステップS3)。核種吸着槽24への汚染水2の供給が停止され、核種吸着槽24から廃液排出管21への排水の排出が終了した後、短半減期核種を吸着した吸着剤20が、核種吸着槽24から取り出され、廃棄物タンク25(図9参照)内に移送される。廃棄物タンク25内に移送された吸着剤20、及び低融点ガラスであるソーダ石灰ガラスを用いてガラス固化体35が作製される。
このガラス固化体35の作製を、図9を用いて具体的に説明する。空の固化容器28を、放射性廃棄物である、Cs−137を吸着した吸着剤20が蓄えられた廃棄物タンク25の下方に配置する。廃棄物タンク25内のCs−137を1016Bq含む高線量の吸着剤20を、仕切弁27を開いて廃棄物供給管26を通して固化容器28内に100kg供給する。その後、実施例1と同様に、吸着剤20が充填された固化容器28に、ガラス原料タンク29からガラス原料32であるソーダ石灰ガラスを100kg供給する。吸着剤20及びガラス原料32を充填した固化容器28は断熱容器34内に収納され、断熱容器34は蓋34Aで密封される。断熱容器34内で固化容器28の断熱化処理が実施され、吸着剤20に吸着されたCs−137から放出された放射線に基づいて発生する熱(崩壊熱)により、固化容器28内のガラス原料32(ソーダ石灰ガラス)が溶融される。溶融したガラス原料32が吸着剤20の間の隙間に充填され、そのガラス原料32の固化によりガラス固化体35が作製される。
本実施例は、汚染水2に含まれる短半減期核種(例えば、Cs−137)を固化容器19内で吸着剤20に吸着させることによって得られる効果を除いて、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃棄物の固化処理方法を、図10を用いて以下に説明する。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法は、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法においてステップS1BをステップS1B’に替えた固化処理方法である。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法で実施されるステップS1A,S2,S3,S4及びS5の各工程が実施される。本実施例で実施されるステップS1の工程は、ステップS1A及びS1B’の各工程を含んでいる。なお、本実施例では、実施例1で用いられる図3に示す長半減期核種除去装置及び短半減期核種吸着装置を有する放射性廃棄物固化処理装置が用いられる。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法で実施される、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法と異なるステップS1B’について詳細に説明する。
ステップS1A(長半減期核種のイオン化)において、カソード電極12の表面の電位Ehを0.0Vvs.SHEに調節し、硫酸水溶液の注入により放射性廃液容器8内の汚染水2のpHを1.0に調節する。汚染水2に含まれるU−238がイオン化されてU4+になる。
電位制御により、放射性廃液内の長半減期核種を分離する(ステップS1B’)。汚染水2のpHを1.0に保持し、可変抵抗器23の操作によりアノード電極11とカソード電極12の間に印加される電圧を制御し、カソード電極12の表面の電位Ehを、pH1.0における水の安定化領域内の電位である、例えば、0.5Vvs.SHEに調節する。この0.5Vvs.SHEは、pH1.0における、領域2の上限の電位である約0.15Vvs.SHEよりも高い電位である。この結果、汚染水2に含まれるU4+がUO2[2+]になり、カソード電極12の表面にUO2として析出する。カソード電極12の表面に析出した析出物質15(UO2)が所定の厚みになったとき、このカソード電極12が、前述したように、新しいカソード電極12に取り換えられ、汚染水2からのUの分離が継続される。なお、ステップS1B’の工程では、実施例1のステップS1Bの工程のように、放射性廃液容器8内の汚染水2へのアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)の注入が行われない。
汚染水2からのUの分離が終了した後、実施例1と同様に、固化容器19内の吸着剤20への短半減期核種(Cs−137)の吸着(ステップS2)、及び吸着剤のガラス固化体の作製(ステップS3)の各工程が実施される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、カソード電極12の表面への長半減期核種の析出を、汚染水2のpHの増加ではなく、カソード電極12の表面の電位の増加によって行っているため、カソード電極12の表面への長半減期核種の析出を実施例1よりも短時間に行うことができる。すなわち、汚染水2からの長半減期核種の除去に要する時間を短縮することができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法を、図11を用いて以下に説明する。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法は、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法においてステップS1AをステップS1A’に替え、さらに、ステップS1Cの工程を追加した固化処理方法である。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、実施例1の放射性廃棄物の固化処理方法で実施されるステップS1B,S2,S3,S4及びS5の各工程も実施される。本実施例で実施されるステップS1の工程は、ステップS1A’,S1B及びS1Cの各工程を含んでいる。なお、本実施例では、実施例1で用いられる図3に示す長半減期核種除去装置及び短半減期核種吸着装置を有する放射性廃棄物固化処理装置が用いられる。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法を具体的に説明する。
放射性廃液に酸を注入し、放射性廃液に含まれる長半減期核種をイオン化させる(ステップS1A’)。放射線廃液供給管5を通して放射性廃液容器8に供給される汚染水2が長半減期核種、例えば、U−238及びPu−239(半減期:約24000年)を含むため、本実施例では、U−238及びPu−239のそれぞれがイオン化される。
図5に示すUの電位−pH図は電位が0.0Vvs.SHEであればpH1.5以下でU−238がイオン化されてU4+になることを示しており、図12に示すPuの電位−pH図は電位が0.0Vvs.SHEであればpH5.0以下でPu−239がイオン化されてPu3+になることを示している。このため、U−238及びPu−239の両方をイオン化するためには、電位が0.0Vvs.SHEであるとき、汚染水のpHを1.5以下にすればよい。
アノード電極11とカソード電極12の間に印加する電圧を調節し、カソード電極12の表面の電位を0.0Vvs.SHEに調節する。そして、硫酸水溶液を酸供給装置3から放射性廃液容器8内の、U−238及びPu−239を含む汚染水2に注入し、汚染水2のpHを、1.5以下、例えば、1.0にする。この結果、U−238及びPu−239のそれぞれがイオン化され、汚染水2中においてU−238がU4+になり、Pu−239がPu3+になる。pH1.5以下のpHは、長半減核種であるU−238及びPu−239のそれぞれがイオン化される第1のpHである。
その後、実施例1と同様に、ステップS1Bの工程が実施され、長半減期核種であるU−238が汚染水2から分離される。ステップS1Bでは、U−238をカソード電極12の表面に析出させるために、カソード電極12の表面の電位を0.0Vvs.SHEに調節し、汚染水2のpHを、U−238がUO2として析出してPu−239が析出しないpHの範囲、すなわち、1.5を超えて5.0以下の範囲内のpH、例えば、3.0に調節する。このpH3.0は、汚染水2のpH3.0の調節は、アルカリ供給装置9から放射性廃液容器8内の汚染水2に注入する水酸化ナトリウ水溶液の注入量を制御することによって行われ、汚染水2のpHが3.0になったとき、汚染水2への水酸化ナトリウ水溶液の注入を停止する。この結果、UO2が汚染水2に浸漬されているカソード電極12の表面に析出し、汚染水2からU−238が分離される。このとき、Puはカソード電極12の表面に析出しない。カソード電極12を交換しながら、カソード電極12の表面へのUO2の析出、すなわち、U−238の分離を継続して実施する。
ところで、汚染水2に含まれる一種類の長半減期核種(例えば、U−238)が析出して汚染水2に含まれる他の種類の長半減期核種(例えば、Pu−239)が析出しないpHの範囲、すなわち、1.5を超えて5.0以下の範囲内のpHは、前者の長半減期核種(U−238)が析出するときの汚染水2のpH(第2のpH)及び後者の長半減期核種(Pu−239)が析出するときの汚染水2のpH(第2のpH)のうち最も低い第2のpHである。本実施例では、U−238の分離が、汚染水2のpHを第2のpHのうち最も低い第2のpHである、例えば、3.0にして電位が0.0Vvs.SHEであるカソード電極12の表面にUO2を析出させることにより行われる。
放射性廃液にアルカリを注入し、そして、放射性廃液内の他の長半減期核種を分離する(ステップS1C)。カソード電極12の表面へのUO2の析出が終了した後、新しいカソード電極12を放射性廃液容器8内の汚染水2に浸漬させる。可変抵抗器23の操作によりこのカソード電極12の表面の電位を0.0Vvs.SHEに保持した状態で、放射性廃液容器8内の汚染水2への水酸化ナトリウ水溶液の注入を開始し、汚染水2のpHを、Pu−239がPuO2として析出させる5.0よりも大きい、例えば、7.0まで上昇させる。汚染水2のpHが7.0になったとき、汚染水2への水酸化ナトリウ水溶液の注入を停止する。汚染水2に含まれるPu−239は、PuO2になってカソード電極12の表面に析出する。このようにして、汚染水2からPu−239が分離される。汚染水2に含まれるPu−239がなくなるまで、カソード電極12を交換しながら、カソード電極12の表面へのPuO2の析出、すなわち、Pu−239の分離を継続して実施する。
汚染水に含まれる二種類の長半減期核種(U−238及びPu−239)のそれぞれが析出するpHの範囲、すなわち、5.0よりも大きい範囲内のpHは、汚染水に含まれる複数種類の長半減期核種のうちの一つの長半減期核種(U−238)が析出するときの汚染水2のpH(第2のpH)及び複数種類の長半減期核種のうちの他の長半減期核種(Pu−239)が析出するときの汚染水2のpH(第2のpH)のうち二番目に低い第2のpHである。本実施例では、Pu−239を含むPuO2の分離が、汚染水2のpHを二番目に低い第2のpHである、例えば、7.0にして電位が0.0Vvs.SHEであるカソード電極12の表面にPuO2を析出させることにより行われる。
ステップS1B及びS1Cの各工程で発生したUO2が表面に付着したカソード電極12及びPuO2が表面に付着したカソード電極12のそれぞれは、高レベル廃棄物であり、所定の保管場所における所定期間の保管、または低融点ガラスではない高い軟化点を有するガラスを用いた従来のガラス固化が実施される(ステップS5)。
ステップS1Cの工程が終了した後、実施例1と同様に、ステップS2,S3及びS4の各工程が実施される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、汚染水2に複数種類の長半減期核種が含まれている場合でも、これらの長半減期核種を汚染水2から容易に分離することができ、短半減期核種を吸着した吸着剤20を含むガラス固化体35を容易に作製することができる。本実施例は、長半減期核種であるウラン及びプルトニウムを別々に汚染水2から分離しているので、分離したウラン及びプルトニウムのそれぞれを、カソード電極12の表面に付着させた状態で高レベル廃棄物として埋設処分するのではなく、核燃料物質として燃焼度0Gwd/tの燃料集合体を製造するために再利用することができる。
なお、分離したウラン及びプルトニウムのそれぞれを、カソード電極12の表面に付着させた状態で高レベル廃棄物として埋設処分する場合には、本実施例のようにステップS1B及びS1Cの各工程を実施するのではなく1つに合わせ、例えば、ステップS1Bの工程において、ウラン及びプルトニウムのそれぞれを一つのカソード電極12の表面に析出させてもよい。すなわち、ステップS1A’の工程が終了してU−238及びPu−239のそれぞれがイオン化されてU4+及びPu3+として含まれている汚染水2のpHを、カソード電極12の表面の電位が0.0Vvs.SHEに保持されている状態で、水酸化ナトリウム水溶液の注入によって、例えば7.0まで増加させる。汚染水2のpHが7.0のとき、一つのカソード電極12の表面には、UO2及びPuO2の両方の物質が析出物質15として析出される。UO2及びPuO2の両方の物質が析出物質15としてカソード電極12の表面に析出されるので、実施例4の図11に示される、放射性廃棄物の固化処理方法の手順を簡素化することができる。この例では、UO2及びPuO2の両者のカソード電極12の表面への析出を、前述の第2のpHのうち最も高い第2のpHである、例えば、7.0にすることによって行っている。
本実施例は、核燃料再処理施設において核燃料の再処理により発生する廃液(ウラン及びプルトニウムを含む)の固化処理に対して適用することができる。
原子炉圧力容器底部に存在する燃料デブリまたは原子炉格納容器底部に存在する燃料デブリの取り出し作業が実施中において、燃料デブリに含まれる、ウラン及びプルトニウム以外のマイナーアクチニド(ネプチニウム、アメリシウム及びキュリウム)もウラン及びプルトニウムも汚染水2中に放出される可能性がある。ウラン、プルトニウム、ネプチニウム、アメリシウム及びキュリウムを含む汚染水2を対象にした、本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法の適用について説明する。
ステップS1A’では、電位Ehを0.0vs.SHEにしてウラン、プルトニウム、ネプチニウム、アメリシウム及びキュリウムを含む汚染水2のpHを硫酸水溶液の注入により1.0にする。このとき、汚染水2中において、ウラン、プルトニウム、ネプチニウム、アメリシウム及びキュリウムのそれぞれがイオン化される。ウランがU4+に、プルトニウムがPu3+に、ネプチニウムがNp3+に、アメリシウムがAm3+に、さらにキュリウムがCm3+になる。その後、ステップS1Bにおいて汚染水2のpHが3.0に上昇されると、カソード電極12の表面にUO2及びNpO2がそれぞれ析出する。ステップS1Cの実施により、汚染水2のpHが7.0に上昇されると、交換されたカソード電極12の表面にPuO2が析出する。汚染水2のpHが12.0に上昇されると、再度交換されたカソード電極12の表面にAm(OH)3及びCm(OH)3がそれぞれ析出する。このようにして、ウラン、プルトニウム、ネプチニウム、アメリシウム及びキュリウムのそれぞれが分離される。そして、汚染水2からステップS2及びS3の各工程が実施される。
本発明の他の好適な実施例である実施例5の放射性廃棄物の固化処理方法を、図13を用いて以下に説明する。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法は、実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法においてステップS1Bを実施例3で実施されるステップS1B’に替え、さらに、ステップSC1をステップS1C’に替えた固化処理方法である。本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法では、実施例4の放射性廃棄物の固化処理方法で実施されるステップS1A’,S2,S3,S4及びS5の各工程が実施される。本実施例で実施されるステップS1の工程は、ステップS1A’,S1B’及びS1C’の各工程を含んでいる。本実施例で実施されるステップS1の工程は、実施例3で実施されるステップS1の工程の概念をウラン及びプルトニウムを含む汚染水2に適用したものである。なお、本実施例では、実施例1で用いられる図3に示す長半減期核種除去装置及び短半減期核種吸着装置を有する放射性廃棄物固化処理装置が用いられる。
本実施例の放射性廃棄物の固化処理方法のステップS1A’では、実施例4と同様に、汚染水2に含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれが、イオン化されてU4+及びPu3+になる。その後、ステップS1B’の工程では、汚染水2のpHを1.0に保持して、カソード電極12の表面の電位Ehを0.5Vvs.SHEに増加する。実施例3と同様に、汚染水2に含まれるU4+がUO2[2+]になり、カソード電極12の表面にUO2として析出する。必要に応じてカソード電極12を交換しながら、カソード電極12の表面にUO2を析出させる。汚染水2からウランが分離される。
汚染水2に含まれる一種類の長半減期核種(例えば、U−238)が析出して汚染水2に含まれる他の種類の長半減期核種(例えば、Pu−239)が析出しないカソード電極12の電位の範囲、すなわち、汚染水2のpHが1.0であるときの0.15Vvs.SHEを超えて0.95Vvs.SHE以下の範囲内のその電位は、前者の長半減期核種(U−238)が析出するときのカソード電極12の第2電位及び後者の長半減期核種(Pu−239)が析出するときのカソード電極12の第2電位のうち最も低い第2電位である。本実施例では、U−238の分離が、カソード電極12の実際の電位である第1電位を、上記の第2電位のうち最も低い第2電位である、例えば、0.5Vvs.SHEにしてカソード電極12の表面にUO2を析出させることにより行われる。
次に、電位制御により、放射性廃液内の他の長半減期核種を分離する(ステップS1C’)。汚染水2のpHをステップS1A’及びS1B’の各工程と同様に、1.0に保持し、可変抵抗器23の操作によりアノード電極11とカソード電極12の間に印加される電圧を制御し、カソード電極12の表面の電位Ehを、pH1.0における水の安定化領域内の電位である、例えば、1.0Vvs.SHEに調節する。この1.0Vvs.SHEは、pH1.0における、図2に示される領域2の上限の電位である約0.9Vvs.SHEよりも高い電位である。この結果、汚染水2に含まれるPu3+がPuO2[2+]になり、カソード電極12の表面にPuO2として析出する。カソード電極12の表面に析出した析出物質15(PuO2)が所定の厚みになったとき、このカソード電極12が、前述したように、新しいカソード電極12に取り換えられ、汚染水2からのPuの分離が継続される。なお、ステップS1C’の工程では、ステップS1B’の工程のように、放射性廃液容器8内の汚染水2へのアルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)の注入によるpHの上昇が行われない。このように、汚染水2からPuが分離される。
汚染水に含まれる二種類の長半減期核種(U−238及びPu−239)のそれぞれが析出するカソード電極12の電位の範囲、すなわち、汚染水2のpHが1.0であるときの0.95Vvs.SHEを超えて1.16Vvs.SHE以下の範囲内のその電位は、前者の長半減期核種(U−238)が析出するときのカソード電極12の第2電位及び後者の長半減期核種(Pu−239)が析出するときのカソード電極12の第2電位のうち二番目に低い第2電位である。本実施例では、Pu−239の分離が、カソード電極12の実際の電位である第1電位を、上記の第2電位のうち二番目に低い第2電位である、例えば、0.5Vvs.SHEにしてカソード電極12の表面にPuO2を析出させることにより行われる。本実施例におけるカソード電極12の表面の電位は、水の安定化領域下限の電位と水の安定化領域上限の電位の範囲内の電位に調節される。
汚染水2からのU及びPuのそれぞれの分離が終了した後、実施例4と同様に、固化容器19内の吸着剤20への短半減期核種(Cs−137)の吸着(ステップS2)、及び吸着剤のガラス固化体の作製(ステップS3)の各工程が実施される。
本実施例は実施例4で生じる各効果を得ることができる。
本実施例において、ステップS1B’の工程で、汚染水2のpHを1.0に保持し、カソード電極12の表面の電位を1.0Vvs.SHEに調節してもよい。この結果、UO2及びPuO2のそれぞれが一つのカソード電極12の表面に析出する。UO2及びPuO2の両方の物質が析出物質15としてカソード電極12の表面に析出されるので、実施例5の図13に示される、放射性廃棄物の固化処理方法の手順を簡素化することができる。この例では、UO2及びPuO2の両者のカソード電極12の表面への析出を、前述の第2電位のうち最も高い第2電位である、例えば、1.0Vvs.SHEにすることによって行っている。
実施例2で行われる、核種吸着槽24内に充填された吸着剤20によるCs−137の吸着及び図9に示される低融点ガラスを用いたガラス固化体35の作製は、前述の実施例3ないし5に適用してもよい。
汚染水2がSr−90(半減期:28.90年)を含んでいる場合には、Srを吸着する吸着剤20として二酸化マンガンを使用する。また、汚染水2がCs−137及びSr−90を含んでいるときには、吸着剤20としてCs−137及びSr−90を吸着するチタンケイ酸塩化合物、例えば、結晶化シリコチタネート(CST)を使用する。吸着剤20として二酸化マンガンを使用する場合には、ステップS2において、汚染水2に含まれる短半減期核種であるSr−90を吸着により除去することができる。また、吸着剤20としてチタンケイ酸塩化合物を使用する場合には、ステップS2において、汚染水2に含まれる短半減期核種であるCs−137及びSr−90のそれぞれを吸着により除去することができる。