JP6422351B2 - 導電性熱剥離固定材、及び導電性熱剥離固定材を用いた部品の加工方法 - Google Patents

導電性熱剥離固定材、及び導電性熱剥離固定材を用いた部品の加工方法 Download PDF

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Description

本発明は、ワイヤ放電加工機による部品加工に際して用いられる導電性熱剥離固定材、及びこの導電性熱剥離固定材を用いた部品の加工方法に関するものである。
従来より、ワイヤ放電加工機を用いた部品加工においては、金属工作物であるワークから所望形状の部品の切り出しが行われているが、通常の方法でワークから部品を切り出す際には、支持部がなくなるため、加工ズレが発生し、部品の切り出し後に研磨等の作業により、斯かる加工ズレを修正する作業が必要となる。
このため、例えば、導電性のシアノアクリレート系接着剤を塗布した金属板をワークと加工部品の表面に接着させることで、加工ズレの発生を防止した技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
特開2001−30223号公報
上記特許文献1に記載の導電性のシアノアクリレート系接着剤を用いる方法は、加工時のズレの防止に有効であるが、粉末状の金属を含む接着剤が硬化するまで導電性が得られないため、加工が可能になるまでに時間を要する。
また、加工後に部品を金属板から除去する際に、有機溶剤に浸漬させて、接着剤を除去する必要がある。このため、部品に塗布される接着剤の面積が大きな場合には、有機溶剤の浸入に掛かる時間が長くなり、接着剤の除去に多くの時間を要するため、効率が悪い。さらには、有機溶剤を使用するため、作業環境への影響も課題となる。
従って、本発明の目的は、ワークと加工部品の上下表面に貼付けた後即時に部品加工に使用可能であり且つ部品加工後は有機溶剤を用いずに加熱水系での剥離が可能な導電性熱剥離固定材を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明に係る導電性熱剥離固定材は、導電性基材の表面にポリイオンコンプレックス樹脂層及び導電性熱膨張性粘着層がこの順番に設けられたものである。
また、本発明は、上記の導電性熱剥離固定材を、加工部品をワークに仮固定して加工する際に、前記ワークと前記加工部品の上下表面に張付けてワイヤ放電加工を行う部品の加工方法を提供するものである。
本発明に係る導電性熱剥離固定材によれば、例えば、ワイヤ放電加工機を用いて部品をワークに仮固定して加工する際に、ワークと加工部品の表面に貼付けた後即時に導電性を有しワイヤ放電加工が可能であり、加工後は、有機溶剤を用いずに、通常行われる温水での加熱処理により導電性熱剥離固定材を容易に剥離することができる。しかも、熱ダレにより加熱剥離力が不十分になった場合でも、上記加熱水処理後に通常行われる防錆処理や除錆処理により導電性熱剥離固定材を容易に剥離することができる。
本発明に係る導電性熱剥離固定材の実施の形態1を示す断面図である。 本発明に係る導電性熱剥離固定材の実施の形態1の変形例を示す断面図である。 本発明に係る導電性熱剥離固定材を、仮固定したワーク及び加工部品の表面に貼り付けた状態を示した平面図である。 図3を線A−Aで切ったときの断面図である。 本発明に係る導電性熱剥離固定材を用いたワイヤ放電加工機を示した概略図である。
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明するとともに、実施例及び比較例についても説明する。なお、本発明は、これらの実施の形態及び実施例には何ら限定されない。
実施の形態1.<導電性熱剥離固定材>
図1に示す本発明に係る導電性熱剥離固定材の実施の形態1による導電性熱剥離固定材10は、導電性基材1の表面に下にポリイオンコンプレックス樹脂層2と粘着剤層3が設けられ、粘着剤層3の裏面には、熱膨張性マイクロカプセル4が塗布された導電性粘着剤層6を有する金属箔5が貼り付けられた構造を有する。
なお、粘着剤層3と金属箔5は必須ではなく、これらが無くても、ワークと加工部品表面に貼付けた後即時に導電性を有しワイヤ放電加工が可能であり、加工後は、有機溶剤を用いずに、通常行われる温水での加熱処理により導電性熱剥離固定材を容易に剥離することができる。ただし、粘着剤層3があると位置ずれがより強力に防げるとともに、金属箔5があると、導電性熱剥離固定材の導電性がより向上し、放電短絡状態を回避することができる。
また、図1に示した導電性熱剥離固定材10は絶縁性の粘着剤層3を用いているが、この代わりに、図2の変形例に示すように、導電性の粘着剤層31を用いてもよい。
図3及び図4は、上記の導電性熱剥離固定材10,11を、図5に示すワイヤ放電加工機による部品加工時に適応させるときのワーク99に貼り付けた状態をそれぞれ平面図及び断面図で示したものである。
この状態は、ワイヤ放電加工工程でワイヤギャップ98がワーク99に形成されて行くことにより部品100が切り出されるが、その途中で、ワイヤギャップ98が未完結のとき、この残った部分により部品100がワーク99に支持されている仮固定状態である。導電性熱剥離固定材10,11は、熱膨張性マイクロカプセル4をワーク99及び部品100の上下両方の表面にそれぞれ張付けられる。
ワイヤ放電加工機は、後述するように、図5に示す送出部101から巻取部102に張られた放電ワイヤ103によってワーク99と導電性熱剥離固定材10,11とを加工するものである。
導電性熱剥離固定材10,11は、ワイヤ放電加工機による部品加工の際に、ワーク99と加工部品100との間で接続部が残っている状態(仮固定状態)で、ワーク99及び加工部品100の表面と底面それぞれに、切断加工面にはみ出ないようにワーク99と加工部品100が1つの導電性熱剥離固定材10,11で担持されるように固定されている。
なお、説明に不要な部分は省略し、また、説明を容易にするために拡大または、縮小して図示した部分がある。
ここで、本実施の形態における導電性熱剥離固定材10,11の各構成要素について説明する。
(基材1)
基材1は、ワイヤ放電加工による切出し部品の荷重による変形を生じさせない剛性を有していることが重要である。基材1としては、銅、アルミ、銅合金、タングステン、ニッケルなどの金属板や、メッキ等により導電性を付与した剛体であってもよい。
基材1の表面は、表面に形成されるポリイオンコンプレックス樹脂層2との密着性を向上させるため、オゾン暴露、プラズマ処理、シランカップリング剤、自己組織化単分子膜形成などの化学的処理または、物理的処理を施すことができる。
基材1の厚さは、ワーク99から切り出す加工部品100の荷重を支持できる範囲で、特に制限されず適宜に決定できるが、ノズルとワークからの距離が離れるほどワイヤ放電加工の精度が低下するため5mm以下の厚みにすることが好ましい。
(ポリイオンコンプレックス樹脂層2)
ポリイオンコンプレックス樹脂層2を基材1と粘着剤層3との間に設けることで、加工後に、酸性または塩基性の液体に浸漬することによって、基材1と粘着剤層3とを剥離させることが出来る。
ポリイオンコンプレックス樹脂は、ポリカチオン性樹脂とポリアニオン性樹脂が互いのイオン成分と反応して、イオン架橋が進行し、難水溶性または不溶化されたものである。このポリイオンコンプレックス樹脂は、酸性または塩基性の液体によってイオン架橋が可逆的に解離し、溶解させることができる。なお、ワイヤ放電加工の際には、加工液に絶縁性が必要となるため、イオン交換樹脂により処理された中性のイオン交換水が用いられており、加工中にイオン架橋が解離することはない。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2は、公知のポリカチオン及びポリアニオンから適宜選択することができる。例えば、ポリカチオンとしては、分子内に4級アミンを有するポリアリルアミン塩酸塩、カチオン化セルロースなどが挙げられる。また、ポリアニオンとしては、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸共重合体などが挙げられる。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2は、例えば、ポリカチオン及びポリアニオンそれぞれの極性溶媒溶液に基材を交互に浸漬、乾燥、洗浄工程を繰り返すことで形成される。例えば、ポリカチオンの水溶液中に、基材を浸漬させた後、塗膜を自然乾燥させる。その後、ポリアニオンの水溶液中にポリカチオン膜を形成させた基材を浸漬させた後、自然乾燥を行ない、イオン交換水により洗浄を行うことで、ポリイオンコンプレックス樹脂層2を形成することが出来る。
このときの溶液の濃度は、溶媒の量に対して、0.001質量%以上1重量%以下であることが好ましい。溶液の濃度が、0.001質量%より少ない場合には、ポリイオンコンプレックスを形成する対となる樹脂と接触した場合に、沈殿が発生し易く、溶液濃度が不安定になるため好ましくない。溶液の濃度が、1重量%を超えても良いが、ポリイオンコンプレックスの形成は、イオン対を形成するポリマーとの間で生じるため、溶液の濃度を増大させても、ポリイオンコンプレックス樹脂層の厚みが増大することはない。
また、樹脂の種類にもよるが、溶液の濃度が1重量%を超えると粘度が高くなり、浸漬塗布時に形成される膜厚が分厚くなるため、好ましくない。このため、溶液の濃度が、0.001質量%以上1重量%以下の場合には、適度な膜厚が形成されるとともに、ポリイオンコンプレックス形成による樹脂の沈殿が生じた場合にも、安定して製膜を行うことが出来る。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2の形成に用いられるポリカチオン及びポリアニオンの高分子鎖中におけるカチオン性モノマー及びアニオン性モノマーのモル%は、5モル%以上であることが好ましい。高分子鎖中におけるカチオン性モノマー及びアニオン性モノマーのモル%が、5モル%よりも小さい場合には、水への不溶性を付与するために十分な架橋率が得ることができず、ワイヤ放電加工機の加工液への浸漬中に、ポリイオンコンプレックス樹脂層2の溶解または膨潤が進行し、基材1の剥離または膨潤に伴う変形による位置ずれが生じ、加工精度が低下するため、好ましくない。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2に用いられる、ポリカチオン及びポリアニオンを溶解するための極性溶媒は、公知の溶媒から適宜選択することができる。例えば、イオン交換水、蒸留水、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの純溶媒や必要に応じて、相溶性を有する範囲で混合溶媒を用いてもよい。
(粘着剤層3)
本実施の形態による粘着剤層3には、ワイヤ放電加工によるワークの切断時に発生する固定材への応力によるずり変形を抑制するために、PETや金属箔などの基材を有する両面テープを用いることが好ましい。このとき、不織布基材や基材レスなどの両面テープを用いた場合には、変形が生じやすく、加工精度が低下するため、好ましくない。
粘着剤層3の厚みとしては、厚みが増大するにつれて、ずり変形による加工精度の低下が生じるため、接着剤層3の厚みは、0.5mm以下かつ、基材を除いた接着剤のみの厚みは、0.2mm以下にすることが好ましい。
また、図2の変形例のように、粘着剤層3の代りに導電性粘着剤層31を用いた場合には、絶縁体層であった粘着剤層3が導電体層となることで、ワイヤ放電加工の電極(ワイヤ)との間でのアーク放電の発生が抑制され、加工性が向上する。導電性粘着剤層31の形成方法としては、金属箔の上下面に導電性粘着剤が塗布された導電性金属箔両面テープを用いることができる。
(導電性熱膨張性粘着層6,4)
図1及び図2で示される熱膨張性マイクロカプセル4と導電性粘着剤層6により形成される導電性熱膨張性粘着層は、少なくとも、粘着性を付与するための粘着剤と、熱膨張性を付与するための熱膨張性マイクロカプセルを含んでいる。そのため、導電性熱剥離固定材を、例えば、金属ワーク等の被着体に貼付けて加工した後、熱膨張性粘着層を加熱して、熱膨張性マイクロカプセル4等の発泡剤を膨張処理させることにより、熱膨張性粘着層が膨張し、この膨張により、熱膨張性粘着層と被着体(ワーク)との接触面積が減少し、導電性熱膨張性粘着層による接着力が減少して、導電性熱剥離固定材10,11を容易に被着体から剥離させることが出来るようになる。
熱膨張性マイクロカプセル4としては、公知の熱膨張性マイクロカプセルから適宜選択することが出来る。例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの加熱により容易に気化して膨張する物質を、弾性を有する殻内に内包させたマイクロカプセルなどが挙げられる。前記殻は、熱可塑性樹脂により形成される場合が多い。前記殻を形成する物質として、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデンなどが、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張開始温度に応じて適宜選択される。
なお、熱膨張性マイクロカプセル4としては、商品名「マツモトマイクロスフェア」(松本油脂製薬(株)製)、商品名「クレハマイクロスフェア」(クレハ(株)製)、商品名「アドバンセル」(積水化学工業(株)製)などの市販品がある。
また、熱膨張性マイクロカプセル4は、ワイヤ放電加工時に抵抗体として作用するため、金属蒸着や無電解めっきなどの方法により、表面に導電性を付与してもよい。
加熱処理により、熱膨張性粘着層の接着力を効率よく低下させるため、体積膨張率が3倍以上となるまで体積膨張可能な強度を有することが好ましい。
加熱処理温度は、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張温度に応じて、適宜選択することができるが、温度が高過ぎる場合には、ワーク99に用いる材料の熱膨張による変形が発生するため、100℃以下が好ましく、保存安定性や加工時の発熱による体積膨張の発生の可能性があるため、60℃以上であることが好ましい。
熱膨張性マイクロカプセル4の粒径(平均粒子系)としては、熱膨張性粘着層の厚みなどに応じて適宜選択することができる。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径が、熱膨張性粘着層の厚みよりも大きな場合には、粘着剤がワーク表面へ達することができず、十分な接着力を得ることができない。
熱膨張性マイクロカプセル4の塗布量としては、0.0005グラム/平方センチメートル以上、0.05グラム/平方センチメートル以下であることが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの塗布量が0.0005グラム/平方センチメートルよりも少ない場合には、加熱時の剥離力が十分に達成されない。また、熱膨張性マイクロカプセルの塗布量が0.05グラム/平方センチメートルよりも多い場合には、ワイヤ放電加工における表面抵抗値が大きくなり、加工時の発熱抵抗によって、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張が生じるため好ましくない。
(金属箔5)
金属箔5は、ワイヤ放電加工時のワーク99と加工部品100との導電性を確保するために用いられる。金属箔5としては、導電性を有している材料から適宜することが出来る。例えば、銅箔またはアルミ箔が入手性、汎用性の点から好ましい。
金属箔の厚みとしては、特に制限されず適宜に決定できるが、作業性から0.001mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
また、金属箔5は、予め、どちらか一方の面に導電性粘着剤が塗布された導電性金属箔テープ又は導電性金属箔両面テープを用いても良い。
金属箔5または、導電性金属箔テープの金属箔表面は、基材1上に形成される各種粘着層などとの密着性を向上させるために、研磨による物理的処理を施しても良い。
導電性金属箔テープまたは、導電性金属箔両面テープにおいて用いられる粘着剤としては、加熱時に熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を可及的に拘束しない非熱硬化性樹脂から成る粘着剤に導電性フィラーが分散されたものが好ましい。このような粘着剤としては、例えばゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、スチレン−ブタジエン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などの公知の粘着剤を用いることができる。また、導電性フィラーとしては、カーボンブラック、金属微粉末、金属酸化物、金属繊維などの導電体や、メッキ等により金属表面処理されたガラス及び樹脂粉末を用いることができる。
実施の形態2.<ワイヤ放電による部品加工方法及びワイヤ放電加工機>
図5には、ワイヤ放電加工機を用いた加工プロセスの一例が示されており、放電ワイヤを用いる放電加工方法としては、特に制限なく、公知の手法または汎用的に入手可能なワイヤ放電加工装置を用いて、適宜加工を行うことができる。放電ワイヤ103としては、黄銅線や被覆線等の汎用に入手可能なワイヤを用いることができる。
放電ワイヤ103は、通常、ワイヤ自動供給装置により、放電ワイヤ103を送り出す送出部101と、送出部101から送り出された放電ワイヤ103を巻取部102との間で、緩みのない状態で常に保持されている。ワイヤ自動供給装置においては、送出部101と巻取部102とが、放電ワイヤ103の送出方向に対して直交する方向(図5の矢印方向)に同時に移動可能に設計されている。
一般的に、送出部101は巻取部102の真上に配置されている。送出部101と巻取部102とが同時に移動可能な方向(図5の矢印方向)が、ワイヤ放電加工による加工プロセス方向となる。また、放電加工プロセスは、水または油などの絶縁性の液体中で行われるが、このプロセスの間、送出部101及び巻取部102からは、放電ワイヤ103に沿って、前記絶縁性の液体が噴射される。
(ワーク99の加工条件)
ワーク99の加工条件は、必要な加工粗さに応じて、ワイヤ放電加工機の加工電圧を50V以上300V以下の範囲で適宜選択することができる。このとき、加工電圧が低いほど、加工粗さが小さくなり、加工精度が向上する。ただし、加工電圧が50V未満の場合には、ワークの加工は可能であるが、放電が安定して生じ難くなり、加工性が低下するため好ましくない。また、加工電圧が300Vよりも大きな場合には、加工粗さが増すため好ましくない。
(ワーク99の加工プロセス)
放電ワイヤ103とワーク99との間には電圧が掛けられており(図示せず)、放電が起こる。この放電は、放電ワイヤ103とワーク99の最短距離を通るアーク放電となり、アーク放電の発生に伴う熱エネルギーは放電ワイヤ103とワーク99を溶解すると同時にその周辺の水も急激に熱せられて気化し、瞬時に膨張するために局所的に爆発が起こり、この爆発によって溶解した部分は吹き飛ばされる。そして、爆発が生じた空間には周囲から水が流れ込み、溶解した部分は微粉となって水中に除去される。また、放電ワイヤ103とワーク99も水により冷却され、くぼみ(ワイヤギャプ98)が形成される。このような現象が連続して起こることによって、ワイヤの移動方向に沿ってワークが切断加工される。
(加熱方法)
導電性熱剥離固定材10,11をワーク99より剥離する際の加熱処理は、ワーク99の熱容量が大きく、熱風乾燥機、エアードライヤーなどを用いた場合には、熱膨張性マイクロカプセル4の熱膨張開始温度に達することが困難なため、温水に浸漬させ、加熱することが好ましい。ただし、温水による加熱では、熱膨張性粘着層に用いられている粘着剤が熱の影響により変形し、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張だけでは、十分な剥離力が得られないことがあるため、基材1を除去した後に、荷重を掛けて、切出し部品をワーク99から除去する必要がある。
(固定材−基材除去方法)
加熱剥離処理後に、固定材10,11の基材1からの除去を行うには、水系の除錆剤や防錆剤などの酸性または塩基性の液体に浸漬を行うことで、ポリイオンコンプレックス樹脂層のポリカチオン樹脂とポリアニオン樹脂への解離が進行し、固定材と粘着剤層を剥離することが出来る。
(ワーク99)
ワイヤ放電加工に用いられるワーク99としては、導電性を有している材料から適宜選択することが出来る。例えば、鋼材、超硬合金、非鉄合金、ダイヤ焼結材などが挙げられる。
以下に、上記本発明の各実施の形態を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
[実施例1]
基材1として、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ソーダ(商品名「3−MPSソーダ」、旭化学工業(株)製)の1mMエタノール溶液に12時間浸漬させ表面処理を行った厚み1mmの銅板を用いて、ポリカチオンとしてポリアリルアミン塩酸塩(商品名「PAS−H−5L」、ニットーボーメディカル(株)製)の0.1重量%水溶液に浸漬乾燥させた後、ポリアニオンとしてポリスチレンスルホン酸ソーダ(商品名「PS−100」、東ソー有機化学(株)製)の0.1重量%水溶液に浸漬乾燥させた後、イオン交換水にて洗浄を行いポリイオンコンプレックス樹脂層の形成を行った。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2が形成された銅板の表面に、粘着剤層3として、両面テープ(商品名「VR−5300H」、日東電工社製)を貼付けた。次いで、その粘着面に金属箔層5及び導電性粘着剤層6として、導電性金属箔テープ(商品名「CU−35C」、3M社製)を貼付け、導電性金属箔テープの粘着面に熱膨張性マイクロカプセル4(商品名「F−30」、松本油脂製薬(株)製)を0.001グラム/平方センチメートルの塗布量で塗布し、導電性熱剥離固定材を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機(商品名「PA05S」、三菱電機(株)製)を用いて、図3及び図4に示すように、加工中の部品の上下面に導電性熱剥離固定材10,11を貼付け、ワイヤ放電加工(加工条件:加工電圧60V、加工速度1mm/分)を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材10,11が被着体から剥離すること無く加工することができた。
次いで、加工後のワーク99及び部品100を、80℃に加熱した温水中に1分間浸漬させ、剥離を行った。この時、加工部品の上下面が接着していた箇所では、剥離が確認できたが、ワーク表面での剥離は確認できなかった。
次いで、温水加熱後のワーク及び部品を、除錆剤(商品名「KC−12」、日本メカケミカル(株)製)に浸漬させ、30秒間超音波洗浄を行った。この時、導電性熱剥離固定材10,11に用いた基材1が剥離し、導電性熱剥離固定材表面より加工部品を押すことで加工部品を剥離することが出来た。
[実施例2]
基材1として、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ソーダ(商品名「3−MPSソーダ」、旭化学工業(株)製)の1mMエタノール溶液に12時間浸漬させ表面処理を行った厚み1mmの銅板を用いて、ポリカチオンとしてポリアリルアミン塩酸塩(商品名「PAS−H−5L」、ニットーボーメディカル(株)製)の0.1重量%水溶液に浸漬乾燥させた後、ポリアニオンとしてポリスチレンスルホン酸ソーダ(商品名「PS−100」、東ソー有機化学(株)製)の0.1重量%水溶液に浸漬乾燥させた後、イオン交換水にて洗浄を行いポリイオンコンプレックス樹脂層2の形成を行った。
ポリイオンコンプレックス樹脂層2が形成された銅板の表面に、粘着剤層3、金属箔層5及び導電性粘着剤層6として、導電性金属箔両面テープ(商品名「AL−25DC」、3M社製)を貼付け、導電性金属箔両面テープの粘着面に熱膨張性マイクロカプセル(商品名「F−30」、松本油脂製薬(株)製)を0.001グラム/平方センチメートルの塗布量で塗布し、導電性熱剥離固定材10,11を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機を用いて、加工中のワーク99及び部品100の上下面(図4参照)に導電性熱剥離固定材10,11を貼付け、実施例1と同様の加工条件にて、ワイヤ放電加工を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材10,11が被着体から剥離すること無く加工することができた。
次いで、加工後のワーク99及び部品100を、80℃に加熱した温水中に1分間浸漬させ、剥離を行った。この時、加工部品の上下面が接着していた箇所では、剥離が確認できたが、ワーク表面での剥離は確認できなかった。
次いで、温水加熱後のワーク及び部品を、除錆剤(商品名「KC−12」、日本メカケミカル(株)製)に浸漬させ、30秒間超音波洗浄を行った。この時、導電性熱剥離固定材に用いた基材が剥離し、導電性熱剥離固定材表面より加工部品を押すことで加工部品を剥離することが出来た。
[実施例3]
ポリイオンコンプレックス樹脂層の形成に用いるポリカチオンとして、塩化O−〔2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル〕ヒドロキシエチルセルロース(商品名「カチナールHC−200」、東邦化学工業(株)製)の0.1重量%水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、導電性熱剥離固定材10,11を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機を用いて、加工中の部品の上下面に導電性熱剥離固定材10,11を貼付け、実施例1と同様の加工条件にて、ワイヤ放電加工を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材10,11が被着体から剥離すること無く加工することができた。
次いで、加工後のワーク99及び部品100を、80℃に加熱した温水中に1分間浸漬させ、剥離を行った。この時、加工部品100の上下面が接着していた箇所では、剥離が確認できたが、ワーク表面での剥離は確認できなかった。
次いで、温水加熱後のワーク99及び部品100を、除錆剤(商品名「KC−12」、日本メカケミカル(株)製)に浸漬させ、30秒間超音波洗浄を行った。この時、導電性熱剥離固定材10,11に用いた基材1が剥離し、導電性熱剥離固定材表面より加工部品を押すことで加工部品を剥離することが出来た。
(比較例1)
ポリカチオンを用いなかったこと、イオン交換水による洗浄を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性熱剥離固定材を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機を用いて、加工中(仮固定中)のワーク及び部品の上下表面に導電性熱剥離固定材を貼付け、実施例1と同様の加工条件にて、ワイヤ放電加工を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材より基材が剥離し、加工中の部品の位置ずれが生じ、短絡により、加工することが出来なかった。
(比較例2)
ポリアニオンを用いなかったこと、イオン交換水による洗浄を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性熱剥離固定材を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機を用いて、加工中のワーク及び部品の上下表面に導電性熱剥離固定材を貼付け、実施例1と同様の加工条件にて、ワイヤ放電加工を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材より、基材が剥離し、加工中の部品の位置ずれが生じ、短絡により、加工することが出来なかった。
(比較例3)
熱膨張性マイクロカプセル4を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性熱剥離固定材を得た。
次いで、市販のワイヤ放電加工機を用いて、加工中の部品の上下面に導電性熱剥離固定材を貼付け、実施例1と同様の加工条件にて、ワイヤ放電加工を実施した。この時、加工途中に導電性熱剥離固定材が被着体から剥離すること無く加工することができた。
次いで、加工後のワーク及び部品を、80℃に加熱した温水中に1分間浸漬させ、剥離を行った。この時、導電性熱剥離固定材の被着体からの剥離は、確認できなかった。
次いで、温水加熱後のワーク及び部品を、除錆剤(商品名「KC−12」、日本メカケミカル(株)製)に浸漬させ、30秒間超音波洗浄を行った。この時、導電性熱剥離固定材に用いた基材が剥離したが、導電性熱剥離固定材表面より加工部品を押しても、加工部品を剥離することは出来なかった。
このように、本発明の導電性熱剥離固定材を用いると、加工時には十分な接着力で被着体を保持することができ、しかも、加熱処理後、水系の除錆剤による洗浄により、基材を剥離することで、被着体を容易に剥離することができることが確認できた。
10,11 導電性熱剥離固定材、1 基材、2 ポリイオンコンプレックス樹脂層、3 粘着剤層、31 導電性粘着剤層、4 熱膨張性マイクロカプセル、5 金属箔、6 導電性粘着剤層、98 ワイヤギャップ、99 ワーク、100 加工部品、101 送出部、102 巻取部、103 放電ワイヤ。

Claims (7)

  1. 導電性基材の表面にポリイオンコンプレックス樹脂層及び導電性熱膨張性粘着層がこの順番に設けられた
    導電性熱剥離固定材。
  2. 前記ポリイオンコンプレックス樹脂層と前記導電性熱膨張性粘着層との間に粘着剤層及び金属箔が設けられている
    請求項1に記載の導電性熱剥離固定材。
  3. 前記導電性熱膨張性粘着層が、ワイヤ放電加工において、加工部品をワークに仮固定して加工する際に、前記ワークと前記加工部品の上下表面にそれぞれ張付けられるものである
    請求項1又は2に記載の導電性熱剥離固定材。
  4. 前記導電性熱膨張性粘着層が、前記ポリイオンコンプレックス樹脂層側の導電性粘着剤層と、前記ワーク側の熱膨張性マイクロカプセルとで構成されている
    請求項3に記載の導電性熱剥離固定材。
  5. 前記粘着剤層が、絶縁性粘着剤層又は導電性粘着剤層である
    請求項2に記載の導電性熱剥離固定材。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の導電性熱剥離固定材を、加工部品をワークに仮固定して加工する際に、前記ワークと前記加工部品の上下表面に張付けてワイヤ放電加工を行う
    導電性熱剥離固定材を用いた部品の加工方法。
  7. 加工後、前記ワーク及び加工部品を温水中に浸漬し、その後、防錆剤又は除錆剤に浸漬させる
    請求項6に記載の導電性熱剥離固定材を用いた部品の加工方法。
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